以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、インクジェットインクを吸収するインク吸収部材を有し、該インク吸収部材が有機溶剤を含有するクリーニング液を保持しているワイプユニットにより、ヘッドのノズル面を拭き取るワイピング機構を備えたインクジェットプリンタを用い、記録媒体上に、少なくとも水、色材、バインダー樹脂及び水溶性有機溶剤を含有し、該水溶性有機溶剤が前記一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類であるインクジェットインクを吐出して、画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法により、インクジェット記録ヘッドからのインクジェットインクの出射安定性に優れ、コート紙等の表面が樹脂成分で被覆されている記録媒体、あるいは全て樹脂成分で構成されている記録媒体のように、インク吸収性に乏しく、表面エネルギーが低い記録媒体に対しても、画像耐久性や光沢に優れ、かつはじきの発生がない高品位な画像が得られるインクジェット記録方法を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
本発明でいう表面が樹脂成分で被覆されている記録媒体とは、具体的にはポリスチレンやABS(アクロルニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体)などの樹脂版や塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルム、あるいはこれらプラスチックフィルムを紙などの基材表面に張り付けたものなどを指し、記録する表面に水が浸透しにくい媒体である。
すなわち、本発明者らは、水系のインクジェットインクを用いたインクジェット記録方法について、長時間にわたり安定して吐出ができ、特にサイン用途などの表面が樹脂成分で形成された記録媒体やコート紙にも画像耐久性や光沢が良好で、はじきのない高品位な画像が得られるインクジェット記録方法について検討を重ねた。
上記のような表面が樹脂成分で形成されている記録媒体やコート紙は、吸水性に乏しく、また記録媒体の表面エネルギーが低いため、水系のインクジェットインクで印字してもインクの吸収が起こらず、インクをはじいて画像が乱れ、記録媒体へのインクの定着性も低いため、画像耐久性に乏しいものとなる。また、上記課題を解決するために、インクジェットインクに樹脂成分や界面活性剤等の添加剤を多く添加した場合には、印字中にノズル面に付着したインクジェットインクが乾燥固着し、ノズル目詰まりやノズル曲がり等の吐出不良の原因になっていた。
インクジェット記録方法における上記課題に対して、本発明においては、インクジェットインクを吸収するインク吸収部材を有し、該インク吸収部材が有機溶剤を含有するクリーニング液を保持しているワイプユニットにより、インクジェット記録ヘッドのノズル面を拭き取る機構を備えたインクジェットプリンタに、水、色材、バインダー樹脂及び水溶性有機溶剤として前記一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有する水系のインクジェットインクを装填して画像印字することにより、ノズル面に付着したインクが乾燥した場合にも、容易にふき取ることができ、その結果、優れた出射安定性を実現することができると共に、記録媒体上でのインクのはじきや画像耐久性を向上させることができることを見出したものである。
《インクジェットインク》
本発明に係るインクジェットインクは、前記一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類(以下、本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類ともいう)を含有することを特徴とするが、本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類は、様々な溶剤とよく混ざること、幅広い極性の範囲の物質を溶解すること等の特性を備え、かつ表面張力が低い水溶性有機溶剤である。
本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有するインクジェットインクを用いて画像形成する際、ノズル面に付着したインクジェットインクを、クリーニング液を保持したインク吸収部材による拭き取りにより、優れた出射安定性を実現することができた理由としては、以下のように推測している。
すなわち、本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有した水系インクがノズル面に付着した後、水が蒸発して乾燥する過程で、本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類は表面張力が低いため、乾燥が進行している形成画像表面に均一に配向して存在しやすくなり、加えて、様々な樹脂や界面活性剤などに対する溶解性も高いため、インクの乾燥が進行しても、拭き取りづらくなる程度までインクの粘度が上昇するのを抑制する効果があると考えている。このため、有機溶剤を含有するクリーニング液を保持しているインク吸収部材で定期的な拭き取り方式のメンテナンス機構を有するインクジェットプリンタを用いることにより、連続的に画像印字を行う場合であっても、長期間にわたり安定した出射性能を維持することができる。
また、本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類は、低表面張力能を備えた有機溶剤として機能するため、インクジェットインクの表面張力を低下させ、プリント時のはじきや斑、白ぬけ等の画像故障に対する防止効果を発現する。さらに、本発明に係る一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、記録媒体を構成する樹脂成分に対する溶解能力が高く、着弾したインク液滴が樹脂成分を含む記録媒体内部に浸透するようになるため、記録媒体の樹脂成分を、本発明に係るβ−アルコキシプロピオンアミド類が溶解あるいは膨潤しているところに、色材や他のインク溶剤が記録媒体中に入り込んで記録媒体と一体化するため、形成した画像の接着性が高まり、画像耐久性が向上することになる。
〔一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類〕
はじめに、本発明に係るインクジェットインク(以下、単にインクともいう)が含有する前記一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類について説明する。
前記一般式(1)において、R1は炭素数が1から6の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、R2及びR3は、各々水素原子、または炭素数が1から4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、R2とR3は同一であっても異なっていてもよい。
R1、R2、R3として、上記で規定する基を選択することにより、β−アルコキシプロピオンアミド類の樹脂成分の溶解、浸透能力を維持しつつ、かつ水との相溶性を高めることができる。
R1として好ましくは、メチル基、エチル基、n−ブチル基であり、好ましいR2およびR3としては、メチル基、エチル基である。
本発明に係るインクにおいて、一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類のインク全質量に対する添加量としては、画像の耐擦性と画質のバランスの観点から、0.1質量%以上、35質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上、15質量%以下であることより好ましい。
以下に、一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類の具体例を示すが、本発明はこれら例示する化合物に限定されるものではない。
1)3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
2)3−エトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
3)3−プロピルオキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
4)3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
5)3−ペンチルオキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
6)3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
7)3−メトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
8)3−メトキシ−N,N−ジプロピルプロピオンアミド
9)3−メトキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド
10)3−エトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
11)3−エトキシ−N,N−ジプロピルプロピオンアミド
12)3−エトキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド
13)3−プロピルオキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
14)3−プロピルオキシ−N,N−ジプロピルプロピオンアミド
15)3−プロピルオキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド
16)3−ブトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
17)3−ブトキシ−N,N−ジプロピルプロピオンアミド
18)3−ブトキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド
19)3−ペンチルオキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
20)3−ペンチルオキシ−N,N−ジプロピルプロピオンアミド
21)3−ヘキシルオキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
これら一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類の具体的な製造方法は、例えば、特開2009−185079号公報やWO2008−102615号明細書などに記載されており、またエクアミドという商品名で出光興産株式会社から販売されている。
本発明に係る一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、幅広い極性の範囲の物質を溶解、混和する特性を備えており、インクが乾燥する過程でインク中の添加物が析出するのを防ぐ効果を有している。更に、一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、低表面張力の有機溶剤としての機能を有し、インクの表面張力を低下させ、プリント時のはじき、斑や白ぬけの発生を防止する効果がある。また、これらの性質から、ノズル面でインクの水分が蒸発したときに、インクに溶解していた添加物の析出を抑制し、色材やその他の固形分に対しより表面に配向して均一に存在するため、ノズル面へのインク固形物の固着を抑制する効果がある。
さらに、上述したとおり、本発明に係る一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、記録媒体を構成する樹脂成分に対する溶解能力が高く、着弾したインク液滴が樹脂成分を含む記録媒体内部に浸透するようになるため、プリント後の乾燥が速まり、また、記録媒体の樹脂成分に対する高い溶解性あるいは膨潤能に起因して、形成した画像の画像耐久性を向上させることができる。
更に、インクの記録媒体中への浸透に伴いインク液滴の乾燥が速まることにより、インクが記録媒体表面で留まることによって生じる液寄りといったインクジェット方式により生じる画質低下も改善されることが分かった。本発明でいう液寄りとは、着弾したインクドットの記録媒体中への吸収や乾燥が遅くなる、あるいは妨げられる様な状態では、未乾燥の状態で長く記録媒体上に存在すると、印字された隣接するドット同士が接触して合一を起こす現象で、隣接するインク液滴同士がつながることにより、ドット形状の変化(真円状から不定形への変化)と、つながった液滴内部や高濃度部の印字率の高い部分において液が表面張力により寄ってくることによる濃度ムラの発生の二つの段階を経て、最終的には画像品質を著しく劣化させる場合がある。このような液寄り現象は、特に、インク液滴をハジキやすい記録媒体やインク吸収性に乏しい記録媒体、すなわち、表面エネルギーが低い記録媒体や表面が非吸収性の樹脂製で構成されている記録媒体に印字するときに顕著に発現するが、本発明に係る一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有するインクを適用することにより、上記の液寄りを効果的に防止することができる。
〔β−アルコキシプロピオンアミド類以外の水溶性有機溶剤〕
次に、本発明に適用可能なβ−アルコキシプロピオンアミド類以外の水溶性有機溶剤について説明する。
本発明に係るインクには、必要に応じて低表面張力能を有する水溶性有機溶剤をさらに添加することもできる。低表面張力能を有する水溶性有機溶剤を添加することにより、本発明に係る一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類の前述の効果を補助し、種々の疎水性樹脂からなる記録媒体や、印刷本紙など、インク吸収速度が遅い紙支持体に対しても、インク混じりをより一層抑えることにより、高画質な印字画像を得ることができる。
特に、本発明に係るインクにおいては、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類を添加することが好ましく、具体的には下記の低表面張力能を有する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
また、1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール等が挙げられる。
また、記録媒体として塩化ビニル等の樹脂性材料を使用する場合、樹脂を溶解、軟化あるいは膨潤しうる溶剤を添加することも、画像の接着性、耐擦性がより向上する観点から好ましい。
このような溶剤としては、窒素、もしくはイオウ原子を含む環状溶剤、環状エステル溶剤、乳酸エステル、アルキレングリコールジエーテル、アルキレングリコールモノエーテルモノエステル及びジメチルスルフォキシドが挙げられる。
好ましい環状溶剤の具体例としては、環状アミド化合物、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、メチルカプロラクタム、2−アザシクロオクタノン等が挙げられ、イオウ原子を含有する環状溶剤の好ましい具体例としては、環状の5〜7員環が好ましく、例えば、スルフォラン等が挙げられる。
環状エステル溶剤の好ましい具体例としては、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンが、乳酸エステルとしては、例えば、乳酸ブチル、乳酸エチルなどが挙げられる。
アルキレングリコールジエーテルの好ましい具体例としては、ジエチレングリコールジエチルエーテル等があり、アルキレングリコールモノエーテルモノエステルの好ましい具体例としては、ジエチレングリコールモノエチルモノアセテートが挙げられる。
その他に、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、1,2−以外のブチレングリコール、1,2−以外のヘキサンジオール、1,2−以外のペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)等が挙げられる。
〔バインダー樹脂〕
本発明に係るインクは、水、色材、及び水溶性有機溶剤として一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類と共に、バインダー樹脂を含有することを特徴とする。
本発明に係るインクにおいて、バインダー樹脂を適用することによる主な効果は、画像耐久性、画像光沢及び画質の向上である。
本発明に適用するバインダー樹脂は、塩化ビニルなどの非インク吸収性記録媒体構成材料、印刷用コート紙等との接着性を有し、かつ形成した画像の耐擦性を向上させる機能を有している。
また、本発明のインクジェット記録方法で形成する画像に対し、バインダー樹脂に要求される特性としては、光沢を高め、光学濃度も高い画像を形成させる機能が求められ、このためバインダー樹脂自体が塗膜中で高い透明性を示し、色材、例えば、顔料あるいは顔料分散樹脂との相溶性を備えていることも必要である。
これらの機能を満たす好ましいバインダー樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の水溶性樹脂や水系分散型ポリマー微粒子が挙げられる。アクリル系樹脂としては、例えば、ポリアクリル共重合樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、アクリロニトリル−アクリル共重合樹脂、シリコン変性アクリル樹脂などが挙げられ、ウレタン系樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂やウレタン−アクリル共重合樹脂等が挙げられ、スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂やスチレン−ブタジエン共重合樹脂等が挙げられ、ポリビニル系樹脂としては、例えば、酢酸ビニル−アクリル共重合樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合樹脂等が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等が挙げられ、ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂やアクリル−ポリエステルエマルジョン等が挙げられるが、これらに限定されることなく、従来公知の他の樹脂も使用することができる。
上記に示したバインダー樹脂の中でも、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂は、インクに添加したときに、特に記録媒体への密着性と耐久性に優れる観点から好ましい。その中でも特に、アクリル系の共重合樹脂は、形成した画像の光沢性に優れ、また、周知のごとく、非常に多種類のモノマーから自由に選択、設計することができ、重合しやすく、また低コストで製造できる点で、本発明により適している。先に述べたように、インクに添加する際に求められる多数の要求に答えるには、設計自由度の大きいアクリル系の共重合樹脂が適している。
これらの樹脂は、公知の重合方法により作製しても、市販されているものを使用しても構わない。市販されているものとしては、アクリル系樹脂としては、例えば、ジョンクリルシリーズ(BASF社製)、ボンコートシリーズ(DIC社製)、ニューコートSFKシリーズ(新中村化学工業社製)等が、ウレタン系樹脂としては、例えば、スーパーフレックスシリーズ(第一工業製薬社製)、パーマリンシリーズ(三洋化成工業社製)等が、ポリビニル系樹脂としては、例えば、ビニブランシリーズ(日信化学工業社製)、スミカフレックスシリーズ、スミエリートシリーズ(以上、住化ケムテックス社製)等が、ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、AQUACE507、840、515、552(以上、ビッグケミー・ジャパン社製)、ポリエステル系樹脂としては、例えば、ファインテックスES−860、ES−650(以上、DIC社製)等が挙げられる。
本発明に適用するバインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、0℃以上、120℃以下が好ましい。Tgが0℃以上であれば耐擦性が十分であり、またブロッキングの発生も抑制することができる。Tgが120℃以下であれば、所望の耐擦性を得ることができる。これは、乾燥後の皮膜が硬くなりすぎて脆くなるのを防止することができると考えている。
また、本発明に係るインクにおいて、水系分散型ポリマー微粒子を添加する場合は、平均粒子径としては500nm程度以下が好ましく、長期の貯蔵における分散安定性の点で、10〜300nmであることがより好ましい。
バインダー樹脂は、色材(例えば、顔料等)を分散する前に添加されてもよいし、分散した後で添加されても良いが、分散した後で添加することが好ましい。
バインダー樹脂は、インク中に、1質量%〜15質量%の範囲で添加することが好ましい。更に好ましくは、3質量%〜10質量%の範囲である。
バインダー樹脂に含まれる酸成分の全部あるいは一部を塩基で中和して用いることができる。中和塩基としては、アルカリ金属含有塩基(例えば、NaOH、KOH等)、アミン類(例えば、アルカノールアミン、アルキルアミン等)、アンモニア等を用いることができる。
中和塩基の添加量としては、バインダー樹脂に含まれる酸モノマーの量にもよるが、少なすぎるとバインダー樹脂の中和による効果が得られず、多すぎると画像の耐水性や変色、臭気などの課題があるため、バインダー樹脂全質量の0.2質量%以上、2.0質量%以下含有することが好ましい。
(色材)
本発明に係るインクは、水、バインダー樹脂及び水溶性有機溶剤として一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類と共に、色材を含有することを特徴とする。
本発明に係るインクに適用可能な色材としては、酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料や、各種顔料、着色ポリマー/ワックスを含む分散染料、油溶性染料等が挙げられるが、特に、画像耐久性の観点から顔料を用いることが好ましい。
本発明に適用可能な顔料としては、従来公知の有機顔料及び無機顔料が使用できる。例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料や、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラックや酸化チタン等の無機顔料が挙げられる。
好ましい具体的な有機顔料を、以下に例示する。
マゼンタまたはレッドおよびバイオレット用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド8、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド17、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド23、C.I.ピグメントレッド41、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド114、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド148、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド150、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントレッド238、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントレッド258、C.I.ピグメントレッド282、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23等が挙げられる。
オレンジまたはイエローおよびブラウン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー43、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー81、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー153、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー175、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー194、C.I.ピグメントイエロー199、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントブラウン22等が挙げられる。
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:5、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー29、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
ブラック用の顔料としては、カーボンブラックの他に、例えば、C.I.ピグメントブラック5、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
ホワイト用の顔料としては、酸化チタンの他に、例えば、C.I.ピグメントホワイト6等が挙げられる。
上記の顔料は、水系のインクジェットインク中で安定な分散状態を保つために、各種の加工が施され、顔料分散体が調製される。
この顔料分散体は、水系分散媒中で安定に分散状態が維持されているものであればよく、例えば、高分子の分散樹脂により分散した顔料分散体、水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料粒子、顔料表面を修飾し分散樹脂を用いなくても分散可能な自己分散顔料等から選択することができる。
高分子の分散樹脂により分散した顔料分散体を用いる場合、樹脂としては水溶性樹脂を用いることができる。水溶性樹脂として好ましく用いられるのは、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等のような水溶性樹脂を挙げることができる。また、これらの水溶性樹脂に、更にポリエチレンオキサイド基やポリプロピレンオキサイド基及びカチオン性基などが導入されているものも好ましく用いられる。また、顔料の分散用樹脂として、前記共重合樹脂を用いても良い。
顔料の分散方法としては、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各種分散装置を用いることができる。
顔料分散体の粗粒分を除去する目的で、遠心分離装置を使用すること、あるいはフィルターを使用して分級する方法も好ましく用いられる。
また、顔料として水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料を用いても良い。本発明でいう水不溶性樹脂とは、弱酸性ないし弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂であり、好ましくは、pH4〜10の水溶液に対する溶解度が2.0質量%以下の樹脂である。水不溶性樹脂として好ましくは、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル系、酢酸ビニル−アクリル系、酢酸ビニル−塩化ビニル系、ポリウレタン系、シリコン−アクリル系、アクリルシリコン系、ポリエステル系、エポキシ系の各樹脂を挙げることができる。
上記分散樹脂、水不溶性樹脂の分子量として好ましくは、平均分子量で、3000から500000のものであり、更に好ましくは、7000〜200000のものである。
上記分散樹脂、水不溶性樹脂のTg(ガラス転移温度)としては、好ましくは−30℃〜100℃程度のものであり、更に好ましくは−10℃〜80℃程度のものである。
顔料分散体を調製する際に、顔料と顔料を分散する樹脂との質量比率は、好ましくは顔料/樹脂比で100/150以上、100/30以下の範囲で選択することができる。特に、画像耐久性と射出安定性やインク保存性が良好な範囲としては、顔料/樹脂比で100/100以上、100/40以下の範囲である。
水不溶性樹脂で被覆された顔料粒子の平均粒子径は、80〜300nmの範囲であることが、インク保存安定性、発色性の観点から好ましい。
顔料を水不溶性樹脂で被覆する方法としては、公知の各種方法を適用することができるが、好ましくは、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基化合物にて水不溶性樹脂中の酸性基を部分的、もしくは完全に中和した後、顔料およびイオン交換水を添加して分散し、ついで有機溶剤を除去し、必要に応じて加水して調製する方法が好ましい。または、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法も好ましい。
また、自己分散顔料としては、表面処理済みの市販品を用いることもでき、好ましい自己分散顔料として、例えば、CABO−JET200、CABO−JET300(キャボット社製)、ボンジェットCW1(オリエント化学工業(株)社製)等を挙げることができる。
〔界面活性剤〕
次に、本発明に係るインクに適用可能な界面活性剤について説明する。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、本発明の目的効果を損なうことのないものであれば、特に制限なく用いることができるが、静的な表面張力の低下能が高いフッ素系またはシリコン系界面活性剤を含有することが、インク吸収性の低い記録媒体における画質向上の観点から特に好ましい。
また、動的表面張力の低下能が高い、ジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン性活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤、ソルビタン誘導体などのノニオン性界面活性剤も好ましく用いることができる。また、フッ素系界面活性剤またはシリコン系活性剤と、上記の動的表面張力の低下能が高い界面活性剤とを併用して用いることも好ましい。
本発明に係るインクに適用可能なシリコン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル変性したものが好ましく、例えば、信越化学工業株式会社製のKF−351A、KF−642やビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK347、BYK348などが挙げられる。
また、本発明に係るインクに適用可能なフッ素系界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素原子の代わりに、その一部または全部をフッ素原子で置換したものである。この中でも、分子内にパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤が好ましい。例えば、DIC社製のメガファック(Megafac)F、旭硝子社製のサーフロン(Surflon)、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社製のゾニール(Zonyl)、株式会社ネオス製のフタージェントシリーズなどが挙げられる。
また、フッ素系界面活性剤は、アニオン性、ノニオン性、両性などがあるがいずれも好ましく用いることができる。アニオン型のフッ素系界面活性剤としては、ネオス製のフタージェント100、同150を挙げることができ、ノニオン性のフッ素系界面活性剤としては、例えば、DIC社製のメガファックスF470、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができる。また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
界面活性剤の添加量としては、インク全質量に対して0.01質量%以上、2質量%未満が好ましい。
〔その他のインク添加剤〕
本発明に係るインクには、上記説明した以外にも、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤等、を適宜選択して用いることができる。
例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号の各公報等に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号の各公報等に記載の退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号の各公報等に記載される蛍光増白剤等を挙げることができる。
インクの防腐剤・防黴剤としては、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK、バイエル社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL、アビシア社製)等が挙げられる。
《クリーニング液》
次いで、本発明に係るワイプユニットのインク吸収部材に供給する有機溶剤を含有するクリーニング液について説明する。
本発明のインクジェット記録方法では、インクジェットヘッドのノズル面を拭くワイプユニットのインク吸収部材に、有機溶剤を含有するクリーニング液を供給する機能を備えていることを特徴の一つとする。
本発明に係るクリーニング液には、ノズル面に付着したインクの乾燥物を溶解、再分散、及び軟化させることで確実にふき取る機能を備えていることが求められる。従って、クリーニング液は、種々の溶剤や水、及び塩基性化合物等を含有していることが好ましいが、これらに限定されるものではない。特に、表面張力が低い溶剤を含有していると、乾燥したインクに浸透しやすいため効果的である。また、塩基性化合物を含有することは、インク中に含まれる酸性分含有樹脂等の再溶解もしくは再分散を促進するため好ましい。
表面張力の低い溶剤としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、1,2−アルカンジオール類等が挙げられる。
塩基性化合物とは、該塩基性化合物を0.1mol/Lの濃度で水に溶かした時、pHが7.0より大きくなる物質をいう。pH測定方法としては、例えば、東亜電波工業株式会社のデジタルpHメーターHM−30S等を用い、25℃におけるpH値を測定する。
塩基性化合物としては、無機化合物で構成されたものでも有機化合物で構成されたものでも良いが、有機化合物で構成されたものを用いることがより好ましい。無機化合物で構成される塩基性化合物としては、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、炭酸水素カリウムや炭酸水素ナトリウムなどの重炭酸塩を用いることができる。有機化合物で構成される塩基性化合物としては、アルカノールアミン類、アルキルアミン類を用いることができる。中でも、アンモニア、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N−ジブチルアミノエタノール、N−メチル−ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、N,N−ジエチルアミノエタノールを好ましく用いることができる。
本発明に係るクリーニング液には、上記以外の有機溶剤や高分子化合物を含有していてもよい。特に、高沸点有機溶剤や親水性の高分子化合物は、クリーニング液の乾燥を防ぐ効果がある。高沸点有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、2−ピロリジノン等が挙げられる。親水性の高分子化合物としては、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、室温で液状である低分子量のものが好ましい。
また、クリーニング液には界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤などが挙げられる。
クリーニング液は、必要に応じて、その他添加剤、例えば、防黴剤、防錆剤等を添加しても良い。
《記録媒体》
本発明の水系のインクジェットインクを用いたインクジェット記録方法に適用可能な記録媒体としては、普通紙、コート紙、インクジェット専用紙、布帛等のインク吸収能の高い記録媒体の他に、インク吸収能が低いあるいはインク吸収能を有さない非吸収性記録媒体を用いたインクジェット記録方法において、本発明の優れた効果を発揮することができ、特に、記録媒体が、ポリ塩化ビニルである場合により有効である。
これらの非吸収性記録媒体とは、表面が樹脂成分で構成された記録媒体、具体的には、ポリスチレンやアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などの樹脂プレートや塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチックフィルム、あるいはこれらプラスチックフィルムを紙などの基材表面に張り付けたものなどをいい、記録する表面が、水を浸透しにくい記録媒体である。これら表面が樹脂成分で構成された記録媒体やコート紙は、インク吸収性に乏しく、また記録媒体の表面エネルギーが低いため、水系のインクジェットインクで印字してもインクの吸収が起こらず、インクがはじいて画像が乱れ、乾燥性に乏しく、インクの接着性も低いため、画像耐久性に乏しいものであるが、本発明のインクジェットインクを適用することにより、これらの記録媒体であっても、画像均一性、白抜け耐性、光沢及び耐擦性に優れた画像を得ることができる。
〈非吸収性記録媒体〉
本発明に適用可能な非吸収性記録媒体について、更に説明する。
非吸収性記録媒体としては、高分子シート、ボード(軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、アクリル板、ポリオレフィン系など)、合成紙などが挙げられ、特に、ポリ塩化ビニル製の記録媒体に有効である。
ポリ塩化ビニルからなる記録媒体の具体例としては、SOL−371G、SOL−373M、SOL−4701(以上、ビッグテクノス株式会社製)、光沢ポリ塩化ビニル(株式会社システムグラフィ社製)、KSM−VS、KSM−VST、KSM−VT(以上、株式会社きもと製)、J−CAL−HGX、J−CAL−YHG、J−CAL−WWWG(以上、株式会社共ショウ大阪製)、BUS MARK V400 F vinyl、LITEcal V−600F vinyl(以上、Flexcon社製)、FR2(Hanwha社製)LLBAU13713、LLSP20133(以上、桜井株式会社製)、P−370B、P−400M(以上、カンボウプラス株式会社製)、S02P、S12P、S13P、S14P、S22P、S24P、S34P、S27P(以上、Grafityp社製)、P−223RW、P−224RW、P−249ZW、P−284ZC(以上、リンテック株式会社製)、LKG−19、LPA−70、LPE−248、LPM−45、LTG−11、LTG−21(以上、株式会社新星社製)、MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション社製)、ナポレオングロス 光沢ポリ塩化ビニル(株式会社二樹エレクトロニクス社製)、JV−610、Y−114(以上、アイケーシー株式会社製)、NIJ−CAPVC、NIJ−SPVCGT(以上、ニチエ株式会社製)、3101/H12/P4、3104/H12/P4、3104/H12/P4S、9800/H12/P4、3100/H12/R2、3101/H12/R2、3104/H12/R2、1445/H14/P3、1438/One Way Vision(以上、Inetrcoat社製)、JT5129PM、JT5728P、JT5822P、JT5829P、JT5829R、JT5829PM、JT5829RM、JT5929PM(以上、Mactac社製)、MPI1005、MPI1900、MPI2000、MPI2001、MPI2002、MPI3000、MPI3021、MPI3500、MPI3501(以上、Avery社製)、AM−101G、AM−501G(以上、銀一株式会社製)、FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製)、AY−15P、AY−60P、AY−80P、DBSP137GGH、DBSP137GGL(以上、株式会社インサイト社製)、SJT−V200F、SJT−V400F−1(以上、平岡織染株式会社製)、SPS−98、SPSM−98、SPSH−98、SVGL−137、SVGS−137、MD3−200、MD3−301M、MD5−100、MD5−101M、MD5−105(以上、Metamark社製)、640M、641G、641M、3105M、3105SG、3162G、3164G、3164M、3164XG、3164XM、3165G、3165SG、3165M、3169M、3451SG、3551G、3551M、3631、3641M、3651G、3651M、3651SG、3951G、3641M(以上、Orafol社製)、SVTL−HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製)、SP300 GWF、SPCLEARAD vinyl(以上、Catalina社製)、RM−SJR(菱洋商事株式会社製)、Hi Lucky、New Lucky PVC(以上、LG社製)、SIY−110、SIY−310、SIY−320(以上、積水化学工業株式会社製)、PRINT MI Frontlit、PRINT XL Light weight banner(以上、Endutex社製)、RIJET 100、RIJET 145、RIJET165(以上、Ritrama社製)、NM−SG、NM−SM(日栄化工株式会社製)、LTO3GS(株式会社ルキオ社製)、イージープリント80、パフォーマンスプリント80(以上、ジェットグラフ株式会社製)、DSE 550、DSB 550、DSE 800G、DSE 802/137、V250WG、V300WG、V350WG(以上、Hexis社製)、Digital White 6005PE、6010PE(以上、Multifix社製)等が挙げられる。
《インクジェット記録方法》
本発明のインクジェット記録方法においては、記録媒体上に上記説明した少なくとも水、色材、バインダー樹脂及び一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有するインクジェットインクを吐出して、画像形成する際に、使用するインクジェットプリンタが、インクジェットインクを吸収するインク吸収部材を有し、該インク吸収部材が有機溶剤を含有するクリーニング液を保持しているワイプユニットで、ヘッドのノズル面を拭き取るワイピング機構を有することを特徴とする。
以下、本発明に係るインクジェットプリンタ、ワイピング機構及びクリーニング液の供給方法の詳細について説明する。
〔インクジェットプリンタの概要〕
本発明のインクジェット記録方法において、本発明に係るインクを吐出して画像形成を行う際に使用するインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。
〔インクジェットプリンタ、ワイピング機構及びワイプユニット〕
本発明のインクジェット記録方法で用いるインクジェットプリンタは、インクジェットインクを吸収するインク吸収部材を有し、このインク吸収部材に有機溶剤を含有するクリーニング液を供給する機能を備えたワイプユニットを用い、ヘッドのノズル面を拭き取るワイピング機構を有することを特徴とする。
以下、本発明のインクジェット記録方法に適用可能なインクジェットプリンタと、それに装備する本発明に係るワイピング機構及びワイプユニットについて説明するが、ヘッドのノズル面を、有機溶剤を含有するクリーニング液を保持しているインク吸収部材でワイピングし、吐出の安定性を保つことができれば、ここで例示する形態に限定されるものではない。
以下、図を交えて本発明に係るインクジェットプリンタ、ワイピング機構及びワイプユニットについて説明する。
図1は、本発明に係るワイプユニットを適用したインクジェットプリンタの概略構成を示した斜視図である。
図1において、インクジェットプリンタ1には、記録媒体Pを下方から支持するプラテン2が水平となるように配置されている。このプラテン2の上方には、水平に延在するガイドレール(図示せず)に沿って、記録媒体Pの搬送方向である副走査方向Aに直交する主走査方向Bに複数のヘッド4を走査させるキャリッジ5が設けられている。
このキャリッジ5は、図示しない駆動プーリと遊転プーリとの間に掛け渡されたタイミングベルトに接続されている。そして、駆動プーリは、走査用モータの回転軸に接合されている。このため、キャリッジ5は、走査用モータが駆動すると主走査方向Bに移動する。
複数のヘッド4は、インクジェットプリンタ1で使用される各色のインクをそれぞれ記録媒体Pに向けて吐出するものであり、各ヘッド4の内部には、インクを吐出する複数のノズルが副走査方向Aに沿って列状に設けられており、ヘッド4の記録媒体Pと対向する面は、これらノズルが形成されたノズル面となっている。ノズル面は、インクが付着し難いように、FEP(フッ化エチレンプロピレン樹詣)等のフッ素加工処理もしくはシリコン加工処理を施す等、撥インク処理が施されていることが好ましい。
これらのヘッド4には、本発明に係るインクジェットインクとして、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインクを貯留する複数のインクタンク6が、インクを導くインク流路7を介して接続されている。
更に、図示はしないが、これらのヘッド4には、例えば、それぞれのヘッド4に対応したインク吐出動作をノズルから行わせるための圧電素子等の吐出エネルギー発生手段及びその駆動回路等が一体的に組み込まれている。
また、プラテン2の側方には、ヘッド4のメンテナンスを行うワイプユニット13と吸引ユニット14が設けられている。このワイプユニット13と吸引ユニット14は、それぞれ同期して上下方向及び水平方向に移動することができるようになっている。
また、ワイプユニット13には、詳細は後述するが、上方に向かって凸状に延出するインク吸収部材50(以下、ワイプ布とも称する。)とこれを支持するシート状可撓性部材51が箱形の筐体52内に設けられていて、ワイプユニット13自体を図示しないモータ等の駆動源により上方向に移動させた後、ヘッド4をB方向に移動させれば、このインク吸収部材50とヘッド4のノズル面41とが接触した状態で、インク吸収部材50がヘッド4のノズル面41を摺擦し、ノズル面41全体に付着したインクやクリーニング液等を除去するようになっている。そして、ワイピング動作が終了したならば、ワイプユニット13を下降させ、インク吸収部材50とノズル面41との接触状態を解除する。
また、ヘッド4のノズル内のインクを吸引する吸引ユニット14には、吸引ユニット14の昇降に応じて、ヘッド4のノズル面41に接離されるキャップ15が設けられている。このキャップ15は、ノズル内のインクを吸引する際には吸引ユニット14の上昇に伴ってノズル面41に密着するまで近接されて、ノズル面41に備わる全てのノズルを覆い、吸引が完了すると吸引ユニット14の下降に伴ってノズル面41から離間されるようになっている。そして、キャップ15には、ノズル面41に密着した際に、キャップ15の凹部とノズル面41との間に形成される空間を吸引するためのポンプP1が、廃液流路17を介して接続されている。廃液流路17は、例えば、樹脂製チューブによって形成されている。ポンプP1は廃液流路17を構成する樹脂製チューブをローラーで挟み、このローラーをチューブに沿って移動させることでチューブ内の空気等をチューブの端部から排気する所謂チューブポンプが好適に用いられる。
本発明に係るワイプユニット13について、図3、図4を用いてさらに詳細に説明する。
本発明に係るワイプユニット13は、箱型の筐体を有しており、筐体52の上面中央には、開口部が形成されている。
図3は、ワイプユニットのヘッドへの圧接状態を示す要部斜視図である。
図3に示すように、筐体52の内部であって主走査方向Bの両端には、インク吸収部材50を送り出す送り出し軸54及びインク吸収部材50を巻き取る巻き取り軸55がそれぞれ配設されている。巻き取り軸55の下方には巻き取り軸55を回転駆動させる駆動源としてのモータ(図示せず)が設けられている。
送り出し軸54には、長尺なシート状のインク吸収部材50がロール状に巻回されている。インク吸収部材50は、一定の張力を保った状態で送り出し軸54と巻き取り軸55との間に張設されるとともに一部が開口部から露出するようになっている。図1に示すように、開口部から露出したインク吸収部材50は、ワイピング動作時にヘッド4のノズル面41と対向するようになっている。インク吸収部材50は、巻き取り軸55が回転駆動するに伴って送り出し軸54から送り出され、ノズル面41に接する側とは反対の側からインク吸収部材50を支持するシート状可撓性部材51に案内されて巻き取り軸55に巻き取られるようになっている。
インク吸収部材50は、ワイピング動作を行うことによりインクが付着すると、適宜巻き取り軸55に巻き取られて、開口部から未使用部分が露出するようになっている。インク吸収部材50を巻き取るタイミングは、1つのヘッド4のワイピング動作を行うごとにインク吸収部材50を巻き取り軸55に巻き取るようにしてもよいし、複数のヘッド4のワイピング動作を行うごと、又はすべてのヘッド4についてワイピング動作を終了したときにインク吸収部材50の巻き取りを行うようにしてもよい。このように、インク吸収部材50を巻き取る回数を減らすことにより、インク吸収部材50の消費量を抑えることができる。
また、インク吸収部材50は、筐体52内部から取り外し可能となっており、インク吸収部材50をすべて使い切ったとき(未使用部分がなくなったとき)等には、筐体52内部から取り外して新たなインク吸収部材50に交換可能となっている。
インク吸収部材50は、例えば、布やスポンジを用いることができる。布やスポンジは、その表面に接触するものを吸収しやすく、ヘッド4のノズル面に付着したインクを吸収除去する作用を強くすることができる。
なお、インク吸収部材50は、少なくともインクを吸収する部材であればよく、その材料はここに例示したものに限定されない。
インク吸収部材50の大きさは、特に限定されないが、ノズル面の拭き取り等のメンテナンス動作をむらなく行うために、少なくともメンテナンス動作の対象となるノズル面の全体を覆うことが可能な大きさ、すなわち、ノズル面の幅寸法(副走査方向Aの長さ)よりも大きな幅寸法となるように形成されている。
図3に示すように、筐体52の内部であって、送り出し軸54と巻き取り軸55との間には、送り出し軸54と巻き取り軸55との間に張設されているインク吸収部材50を支持するシート状可撓性部材51がインク吸収部材50の下方においてノズル面に対向するように位置されている。
シート状可撓性部材51の両端部は、シート状可撓性部材51をノズル面41側に凸となるように撓ませた状態で支持する略円筒状の第1支持部材56及び第2支持部材57に取り付けられている。
第1支持部材56及び第2支持部材57は、シート状可撓性部材の凸部の延在方向(副走査方向A)に直交する方向の両端部に配置され、図示しないモータ等の駆動源により、凸部の延在方向(副走査方向A)に沿った軸を中心に回転可能な状態で筐体52に取り付けられている。
図4は、シート状可撓性部材の固定状態を示すものであり、(a)は押圧力が低い状態を、(b)は押圧力が高い状態を示す断面図である。
第1支持部材56及び第2支持部材57は、その外周面の一部の平坦な領域にシート状可撓性部材51の端部を固定する固定部(支持位置)を備えている。固定部には固定用孔が形成されており、図4に示すように、この固定用孔にねじ58、59を挿入してシート状可撓性部材51の端部をねじ止めすることによってシート状可撓性部材51の両端部が第1支持部材56及び第2支持部材57の固定部上に固定されるようになっている。
なお、支持部材の形状、配置、数は特に限定されない。また、シート状可撓性部材51を支持部材に固定する構成等は、ここに例示したものに限定されず、他の構成を適用することも可能である。
シート状可撓性部材51は、ワイピング動作時にノズル面に接する側とは反対の側からインク吸収部材50を押圧してノズル面に接触させるものであり、ワイピング動作の対象となる領域であるヘッド4のノズル面の幅寸法(副走査方向Aの寸法)よりも大きい幅寸法に形成されている。
シート状可撓性部材51のインク吸収部材50との接触面は、曲面に形成されている。シート状可撓性部材51の形状等はノズル面側に凸であれば特に限定されないが、インク吸収部材50との接触面上にほぼ曲面になるように固定されていることが好ましい。
シート状可撓性部材51は、可撓性を有するゴムシート、金属シート又は樹脂シートによって形成することができる。
(クリーニング液のワイプユニットへの供給方法)
次に、本発明に係るワイピングユニットへのクリーニング液の供給方法について説明する。
本発明のインクジェット記録方法においては、インクジェットインクを吸収するインク吸収部材を有し、このインク吸収部材が有機溶剤を含有するクリーニング液を保持していることを特徴とする。
図2は、ワイプユニットへのクリーニング液の供給方法を説明するための斜視図である。
図1に示したプラテン2の側方には、クリーニング液を貯留可能なクリーニング液タンク3と、このクリーニング液タンク3とワイプユニットへのクリーニング液供給部分との間を連通する送液路11と、この送液路11の途中に配設されたクリーニング液供給弁(不図示)とが設けられている。
また、クリーニング液タンク3とワイプユニット13の間には、インク吸収部材50にクリーニング液を供給する送液路11と、この送液路11の途中に配設されたクリーニング液供給弁V3が設けられている。
クリーニング液供給弁V3及び空気リーク弁(不図示)は、開閉状態が電気的に制御可能なバルブ、例えば、電磁バルブによって構成される。
送液路11は、クリーニング液供給弁V3の作動によってクリーニング液が流れる通路であり、例えば、樹脂製チューブによって構成されている。
クリーニング液タンク3は、ワイプユニット13の位置(インク吸収部材50の位置)及びキャップ15の位置よりも高い位置に配設されているため、水頭差により容易にインク吸収部材50にクリーニング液を供給することができる。
クリーニング液供給弁V3は送液路11の連通状態を制御する。即ち、クリーニング液供給弁V3の開放状態では、クリーニング液タンク3内とワイプユニット13のインク吸収部材50とは送液路11を通じて連通する。従って、クリーニング液供給弁V3を適宜開放させると、クリーニング液はインク吸収部材50に供給される。一方、クリーニング液供給弁V3の閉状態では、送液路11はクリーニング液供給弁V3の位置で遮断される。このため、クリーニング液タンク3内とインク吸収部材50との間も遮断される。
本発明においては、このクリーニング液タンク3と送液路11とクリーニング液供給弁V3が、クリーニング液供給手段として機能する。
具体的には、図2に示すように、送液路11のインク吸収部材50側の先端には、クリーニング液噴射口53が設けられており、クリーニング液噴射口53近傍の送液路11は、図示しない駆動源により矢印方向(副走査方向A)に往復移動可能に構成される。
インク吸収部材50の上方から退避した領域を退避領域とされ、クリーニング液をインク吸収部材50に供給しないときは、送液路11が退避領域に位置している。
クリーニング液を供給するときは、送液路11が、退避領域から、インク吸収部材50の上方の一端部まで移動した後、クリーニング液供給弁V3を開放にしながら、他端部まで移動することで、ノズル面41に当接するインク吸収部材50の表面に副走査方向A全体に亘って、クリーニング液噴射口53から滴下したクリーニング液を供給する。
〔画像形成:加熱処理〕
本発明のインクジェットインク記録方法は、高品位で画像耐久性が高い画像を形成するため、かつより高速での印字を達成するため、記録媒体の記録面側を加熱して記録することが好ましい。印字の際に、予め記録媒体を加熱しておくことにより、記録媒体へインクを付与した後、インクの乾燥性及び増粘速度を向上させ、にじみを防止することにより、高画質が得られ、加えて、インクジェットインクが含有する本発明に係る一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類が、記録媒体の表面を構成する樹脂成分を溶解あるいは膨潤させ、そこへ色材や他のインク溶剤が入り込んで記録媒体と一体化するため、形成した画像の画像耐久性が得られやすくなる。
加熱温度としては、記録面側の表面温度を35℃以上、90℃以下になるように温調、加熱することが好ましい。記録媒体の記録面を35℃以上、90℃以下に温調することで、高画質と、十分な画像耐久性が得やすいことに加え、乾燥時間を短縮でき、インク出射性に大きな影響を与えることなく安定にプリントすることができる。より好ましくは、記録媒体の記録面温度を40℃以上、60℃以下に加熱することである。
加熱方法としては、記録媒体搬送系またはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録媒体下方より接触式で加熱する方法や、ランプ等の輻射熱を利用し、下方または上方から非接触で加熱方法を選択することができる。
更に必要に応じて、記録媒体上にインクを付与した後、不要な有機溶剤等を除去する目的で、乾燥工程を設けることができる。インクの乾燥手段としては特に制限はないが、例えば、記録媒体の裏面を加熱ローラーあるいはフラットヒータ等に接触させて乾燥させる方法や、印字面にドライヤー等で温風を吹き付ける手段、あるいは減圧処理により揮発成分を除去する方法等を適宜選択あるいは組み合わせて用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
実施例1
《インクの調製》
〔シアン顔料分散体の調製〕
顔料分散剤としてフローレンTG−750W(固形分40%、エボニックデグサ社製)20部を、イオン交換水65部に添加した。この溶液に、シアン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3の15部を添加し、プレミックスした後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料固形分が15%のシアン顔料分散体を得た。
〔インクC−1の調製〕
β−ヒドロキシプロピオンアミド類として3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(以下、A−1と称す)の30部を、イオン交換水30部に加え、ここへバインダー樹脂としてファインテックスES650(固形分30%、DIC社製)16.7部を加えて攪拌し、更にフッ素系界面活性剤としてBYK−340(ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.1部を加え、イオン交換水で全量が80部となるように調整した。ついで、上記調製したシアン顔料分散体の20部をこの溶液を加えて攪拌した後、0.8μmのフィルターによりろ過してシアンインクであるインクC−1を調製した。
〔インクC−2〜C−11の調製〕
上記インクC−1の調製において、一般式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類の種類と添加量、水溶性有機溶剤の種類と添加量、バインダー樹脂の種類を、表1に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、シアンインクであるインクC−2〜C−11を調製した。
なお、表1には、β−アルコキシプロピオンアミド類の種類と添加量(質量部)、水溶性有機溶剤の種類と添加量(質量部)、バインダー樹脂の種類(固形分量)の変更点のみを記載した。また、表1に略称で記載した各添加剤の詳細は、以下の通りである。
(β−アルコキシプロピオンアミド類)
A−1:3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
A−2:3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
A−3:3−エトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド
(水溶性有機溶剤)
1,2HDO:1,2−ヘキサンジオール
DPGME:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
DPGPE:ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル
2PDN:N−メチル−2−ピロリジノン
NMP:N−メチルピロリドン
PG:プロピレングリコール
PGPE:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
TEGBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
(バインダー樹脂)
ES650:ファインテックス ES650(水性ポリエステル樹脂、DIC社製)
SF500M:スーパーフレックス500M(水系ウレタン樹脂、第一工業製薬社製)
V700:ビニブラン700(塩化ビニル系樹脂、日信化学工業社製)
A515:AQUACER515(ポリエチレンワックスエマルジョン、ビックケミー・ジャパン社製)
PDX:ジョンクリルPDX−6102B(水溶性アクリル樹脂、BASFジャパン社製)
JDX:ジョンクリルJDX−6500(水溶性アクリル樹脂、BASFジャパン社製)
J538:ジョンクリル538(高酸価型アクリル樹脂、BASFジャパン社製)
《ノズル面のワイピング機構による吐出安定性の評価》
ノズル口径28μm、駆動周波数10kHz、ノズル数512、最小液適量14pl、ノズル密度180dpiであるピエゾ型ヘッドに、上記調製したシアンインクであるC−1〜C−5をそれぞれ装填した。記録ヘッドの電極に、インク液滴の飛翔速度が6m/secとなるように調整した電圧で、パルス幅5μsecの駆動パルスを印加して、記録ヘッドを3周期(インクチャネル2本おきに)駆動させることにより、塩化ビニル樹脂シートであるIJ180−10(住友スリーエム株式会社製)上に、表2に記載のワイピング操作の有無、ワイピング時にクリーニング液供給の有無を組み合わせた1〜13の水準で、ベタ画像を連続で1時間プリントした。この時の外部環境は25℃、50%RHであった。
吐出安定性の評価は、プリント開始から30分経過した時点で、図1〜図4に記載のワイプユニットを用いて、下記インク吸収体によるヘッドノズル面のワイピング操作を行った水準(操作3:クリーニング液使用水準、操作2:未使用水準)と、行わなかった水準(操作1)の3水準で、連続1時間の吐出を行った後、各ノズルからのノズル曲がりやノズル欠に伴うベタ画像の均一性を目視観察し、下記の基準に従って吐出安定性を評価した。
〔ワイピング操作〕
(操作1:ワイピング操作なし)
(操作2:ワイピング時にクリーニング液未使用)
ヘッドノズル面のワイピング操作は、メンテナンスユニットのポリエチレンテレフタレートフィルムに付勢されたポリエステル布により、5mm/secの速さでピエゾ型ヘッドのノズル面とポリエステル布を摺擦した。
(操作3:ワイピング時にクリーニング液使用)
ヘッドノズル面のワイピング操作は、メンテナンスユニットのポリエチレンテレフタレートフィルムに付勢されたポリエステル布を用い、ポリエステル布に下記クリーニング液を染み込ませて、5mm/secの速さでピエゾ型ヘッドのノズル面とポリエステル布を摺擦した。
〈クリーニング液〉
クリーニング液は、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル5.0部、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール3.0部、及びイオン交換水で全量が100部となるようにして、クリーニング液を調製した。
◎:ベタ画像に、白い筋や濃度ムラは全く認められない
○:ベタ画像に、ほぼ白い筋や濃度ムラは認められない
△:ベタ画像に、わずかに白い筋や濃度ムラが見られる
×:ベタ画像に、明らかな濃度ムラの発生が認められる
以上により得られた結果を、表2に示す。
表2に記載の結果より明らかなように、本発明に係るバインダー樹脂とβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有するインクを用い、インク吸収部材に有機溶剤を含有するクリーニング液を供給しながらワイピング操作を行った水準は、比較例に対し、吐出安定性に優れていることが分かる。
《形成画像の評価》
〔画像の形成〕
上記吐出安定性の評価で用いたのと同様のインクジェットプリンタを用い、ピエゾ型ヘッドに、上記調製したインクC−3、C−4、C−6〜C−11をそれぞれ装填した。また、インクジェットプリンタには、接触式ヒーターを装備し、記録媒体の裏面(ヘッドと対向する面とは反対の面)より任意に加温できるようにした。次いで、記録媒体として、塩化ビニル樹脂シートであるIJ180−10(住友スリーエム社製)を用い、印字解像度720dpi×720dpiで、ベタ画像を25℃、50%RHの環境下で連続1時間プリントした。この時、上記吐出安定性の評価と同様にして、プリント開始から30分経過した時点で、表3に記載の組み合わせで、ワイピング時にクリーニング液未使用の操作2と、上記の操作3と同様にして、ワイピング時にクリーニング液使用してワイピング操作を行った(水準14〜26)。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
上記記録媒体へのプリント中は、記録媒体を裏面から加温して画像記録時の記録媒体の表面温度が50℃になるようにヒーターで制御した。記録媒体の表面温度は、非接触温度計(IT−530N形 堀場製作所社製)を用いて測定した。
〔吐出安定性及び形成画像の評価〕
(吐出安定性の評価)
前記と同様の方法により、インクC−3、C−4、C−6〜C−11について吐出安定性を評価した。
(耐擦性の評価)
上記形成した各ベタ画像について、画像を乾いた木綿(カナキン3号)で500gの加重をかけて擦った後の画像を目視観察し、下記基準に従って耐擦性を評価した。
◎:50回以上擦っても画像は変化しない
○:30〜50回擦った段階で多少の傷が残るが画像濃度には影響しない
△:5〜30回擦った段階で多少画像濃度が低下する
×:4回以下擦る間に、画像濃度が低下する
(光沢の評価)
上記形成した各ベタ画像について、ベタ画像部分の光沢感を目視観察し、下記の基準に従って評価を行った。
◎:印字部と未印字部との光沢差が全くなく、光沢性に優れる
○:印字部と未印字部との光沢差が若干みられるが、画像品質に問題はない
△:印字部と未印字部との光沢差が認識でき、画像品質は許容できない
×:印字部と未印字部との光沢差が大きく、著しい画質低下がみられる。
以上により得られた結果を、表3に示す。
表3に記載の結果より明らかなように、本発明に係るバインダー樹脂とβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有するインクを用い、インク吸収部材に有機溶剤を含有するクリーニング液を供給しながらワイピング操作を行った水準は、比較例に対し、吐出安定性に優れ、かつ形成した画像は、耐擦性及び光沢に優れていることが分かる。
実施例2
《インクの調製》
〔インクC−12〜C−18の調製〕
実施例1に記載のインクC−10(バインダー樹脂:ジョンクリルPDX−6102B、固形分濃度24.5%、BASF社製、固形分量5.0部)の調製において、β−アルコキシプロピオンアミド類の種類と添加量、有機溶剤の種類と添加量、及び界面活性剤の種類と添加量を、表4の記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、C−12〜C−18を調製した。
なお、表4には、β−アルコキシプロピオンアミド類の種類と添加量(質量部)、有機溶剤の種類と添加量(質量部)、及び界面活性剤の種類と添加量(質量部)の変更点のみ記載した。また、表4に略称で記載した界面活性剤の詳細は、以下の通りである。
E1010:オルフィンE1010(アセチレンアルコール系界面活性剤、日信化学社製)
DYN800:BYK−DYNWET800(アルコールアルコキシレート界面活性剤、ビックケミー・ジャパン社製)
BYK−340:BYK−340(フッ素系界面活性剤、ビックケミー・ジャパン社製)
KF−351A:KF−351A(シリコン系界面活性剤、信越化学工業社製)
《画像の形成》
〔白抜け耐性の評価〕
温度25℃、湿度50%RHの環境下で、実施例1と同様に記録ヘッドにインクC−12〜C−18をそれぞれ装填し、同様の駆動条件で、記録媒体として塩化ビニル樹脂シートであるIJ180−10(住友スリーエム株式会社製)を用い、印字解像度720dpi×720dpiで、ベタ画像を連続1時間プリントした。この時、プリントを開始してから30分後に、前記ワイピング時にクリーニング液使用した操作3により、インク吸収体によるヘッドノズル面のワイピングを行った。なお、記録媒体へのプリント中は、記録媒体を裏面から加温して画像記録時の記録媒体の表面温度が50℃になるようにヒーターで制御した。
次いで、得られたベタ画像27〜33について、白く抜けている部分の有無を目視観察し、下記の基準に従ってクリーニング液による効果を検証するための画質評価を行った。
◎:ベタ画像に白く抜けている部分はなく、均一な画像が得られている
○:ベタ画像にごく僅かな白い部分がみられるが、ほぼ均一な画像である
△:ベタ画像の一部で、白くまだら状に抜けている部分が認められる
×:ベタ画像の全体で、かなり白く抜けている部分が多い
〔吐出安定性2の評価)
上記白抜け耐性の評価において、印字環境を温度25℃、湿度25%RHの低湿環境下に変更した以外は同様にして、ベタ画像を出力し、下記の基準に従って、低湿環境下でのクリーニング液による効果を検証するための吐出安定性を評価した。
◎:ベタ画像に、白い筋や濃度ムラは全く認められない
○:ベタ画像に、ほぼ白い筋や濃度ムラは認められない
△:ベタ画像に、わずかに白い筋や濃度ムラが見られる
×:ベタ画像に、明らかな濃度ムラの発生が認められる
以上により得られた結果を、表5に示す。
表5に記載の結果より明らかなように、本発明に係るバインダー樹脂とβ−アルコキシプロピオンアミド類を含有するインクを用い、インク吸収部材に有機溶剤を含有するクリーニング液を供給しながらワイピング操作を行った水準は、比較例に対し、白抜け耐性及び低湿環境下で連続出射した際の吐出安定性に優れており、特に、ワイピング時にクリーニング液を用いた水準は、低湿環境下での出射安定性が更に向上していることが分かる。