JP2012167809A - 転がり軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】潤滑剤の漏出が生じにくい転がり軸受を提供する。
【解決手段】PA66板10に、テトラエトキシシランと水とエタノールと平均一次粒径が30nmのシリカ粒子とを含有し、塩酸によりpHを3.0に調整された溶液Aを塗布した後、溶液B(pH12の水酸化ナトリウム水溶液)をさらに塗布した。すると、PA66板10の表面には、表面が凹凸状をなす金属酸化物層20が形成された。次に、このPA66板10を、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシランと水とエタノールとを含有し、塩酸によりpHを3.0に調整された溶液Cに浸漬した。30分間浸漬したらPA66板10を引き上げて、溶液B中に30分間浸漬した。すると、金属酸化物層20の上に撥水撥油層30が形成されたPA66板10が得られた。
【選択図】図2

Description

本発明は、撥水撥油処理が施された転がり軸受に関する。
転がり軸受においては、その用途によっては低トルク,低騒音が求められる場合がある。そのような場合には、軌道輪と滑り接触しない非接触形の密封装置(シール,シールド等)を使用したり、潤滑剤としてグリースを使用せず潤滑油を使用することにより、低トルク化,低騒音化が図られる。
ところが、非接触形の密封装置を使用した場合は、軌道輪と密封装置との間に隙間があるため、そこから潤滑剤が漏出しやすいという問題があった。特に、潤滑剤として潤滑油を使用した場合には、粘性が低いため漏出が生じやすい。
特許文献1等には、前記隙間を挟んで対向する軌道輪及び密封装置の対向部分に、潤滑剤を弾く撥油膜を形成した転がり軸受が開示されている。このような転がり軸受においては、撥油膜により潤滑剤が弾かれるため、前記隙間からの潤滑剤の漏出が生じにくい。
また、接触形の密封装置を使用した場合でも、転がり軸受の温度が上昇して内圧が上昇すると、密封装置と軌道輪との接触部分から潤滑剤が漏出するおそれがある。よって、転がり軸受の内部と外部とを連通する貫通孔からなるブリーザー構造を密封装置に設けて、温度上昇による内圧の上昇を抑制していた。
特開2006−226459号公報 特開平2−78069号公報 特開平5−34319号公報 特開平6−66321号公報 特開平8−210368号公報 特開平9−166148号公報 特開平11−62972号公報 特開平11−62998号公報 特開平11−257363号公報 特開2002−221229号公報 特開2003−254324号公報 特開2007−10114号公報 特開2007−57030号公報 特開2007−162774号公報 特開2007−333054号公報 特開2007−255492号公報 特開2008−256197号公報 特開2008−223868号公報 特開2009−115238号公報 特開2009−121531号公報 特開2009−12532号公報 特開2009−174685号公報
しかしながら、特許文献1等に開示の転がり軸受は、潤滑油の封入量が、オイルプレーティング潤滑において使用される程度の少量である場合は、前記隙間からの潤滑油の漏出は生じにくいが、それよりも潤滑油の封入量が多い場合、高速回転で使用される場合、高温下で使用される場合などにおいては、潤滑油の漏出を十分に防止できないおそれがあった。
また、接触形の密封装置を使用した場合にブリーザー構造を設けても、潤滑剤の封入量が多い場合、高速回転で使用される場合、高温下で使用される場合などにおいては、潤滑剤の漏出を十分に防止できないおそれがあった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、潤滑剤の漏出が生じにくい転がり軸受を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の第一の態様に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪とのうち一方の軌道輪に取り付けられ他方の軌道輪に隙間を空けて対向する金属製の密封装置と、を備える転がり軸受において、前記密封装置のうち前記一方の軌道輪に取り付けられる取付部と、前記密封装置のうち前記他方の軌道輪に対向する対向部分との少なくとも一方に、親水性を有する母材の表面に撥水性及び撥油性を付与する表面処理が施されており、この表面処理は、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属と炭素数が1個以上6個以下のアルコキシ基とアルキル基若しくはハロゲン基とを備える金属アルコキシド又は前記金属のハロゲン化合物と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ,チタニア,及びアルミナのうち少なくとも1種の金属酸化物粒子と、を含有し且つpHが6以下であり前記金属酸化物粒子の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である第一の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第二の溶液をさらに接触させることにより、前記母材の表面に前記金属の酸化物からなる金属酸化物層を形成した後に、前記母材の表面に形成された前記金属酸化物層に、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えるカップリング剤と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、を含有し且つpHが6以下である第三の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第四の溶液をさらに接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油処理であることを特徴とする。
上記のような本発明の第一の態様に係る転がり軸受においては、前記表面処理は、水と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることが好ましい。また、前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間内に、前記両軌道面と前記転動体の転動面との間の潤滑を行う潤滑剤が配されており、前記表面処理は、前記潤滑剤と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることが好ましい。
さらに、前記隙間を、Y1≦18451/Xなる式を満足するように設定してもよい。ただし、式中のY1は前記隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、軸受使用時に変化する量(単位はPa)、又は、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に前記潤滑剤を配した際に変化する量(単位はPa)である。
さらに、前記密封装置の取付部は、前記一方の軌道輪が有する凹部にカシメにより取り付けられており、前記密封装置の取付部の一部分と前記凹部の内面との間にカシメ部隙間が形成されていて、このカシメ部隙間を、Y2≦18451/Xなる式を満足するように設定してもよい。ただし、式中のY2は前記カシメ部隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、軸受使用時に変化する量(単位はPa)、又は、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に前記潤滑剤を配した際に変化する量(単位はPa)である。
また、本発明の第二の態様に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪とのうち一方の軌道輪に取り付けられ他方の軌道輪に滑り接触又は隙間を空けて対向する密封装置と、を備え、軸受内外を連通する貫通孔からなるブリーザー構造が前記密封装置に形成された転がり軸受において、前記密封装置のうち前記一方の軌道輪に取り付けられる取付部と、前記密封装置のうち前記他方の軌道輪に滑り接触又は隙間を空けて対向するシール部と、前記貫通孔の内面とのうち少なくとも一つに、親水性を有する母材の表面に撥水性及び撥油性を付与する表面処理が施されており、この表面処理は、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属と炭素数が1個以上6個以下のアルコキシ基とアルキル基若しくはハロゲン基とを備える金属アルコキシド又は前記金属のハロゲン化合物と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ,チタニア,及びアルミナのうち少なくとも1種の金属酸化物粒子と、を含有し且つpHが6以下であり前記金属酸化物粒子の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である第一の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第二の溶液をさらに接触させることにより、前記母材の表面に前記金属の酸化物からなる金属酸化物層を形成した後に、前記母材の表面に形成された前記金属酸化物層に、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えるカップリング剤と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、を含有し且つpHが6以下である第三の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第四の溶液をさらに接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油処理であることを特徴とする。
前記密封装置が高分子材料製である場合は、前記密封装置のうち前記一方の軌道輪に取り付けられる取付部と、前記密封装置のうち前記他方の軌道輪に滑り接触又は隙間を空けて対向するシール部と、前記貫通孔の内面とのうち少なくとも一つに、親水性を付与する親水化処理が施されることで親水性を有する状態とされた母材の表面に、前記表面処理がさらに施されているものとする。
上記のような本発明の第二の態様に係る転がり軸受においては、前記表面処理は、水と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることが好ましい。また、前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間内に、前記両軌道面と前記転動体の転動面との間の潤滑を行う潤滑剤が配されており、前記表面処理は、前記潤滑剤と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることが好ましい。
さらに、前記貫通孔の径を、Z≦18451/Xなる式を満足するように設定してもよい。ただし、式中のZは前記貫通孔の径(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、軸受使用時に変化する量(単位はPa)、又は、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に前記潤滑剤を配した際に変化する量(単位はPa)である。
さらに、前記貫通孔が、前記内圧の変化量がゼロとなるように形成されていることが好ましい。
本発明の転がり軸受は、潤滑剤の漏出が生じにくい。
本発明に係る転がり軸受の第一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 表面処理により形成された金属酸化物層及び撥水撥油層を説明する概念図である。 潤滑油の漏洩試験の結果を示すグラフである。 本発明に係る転がり軸受の第二実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 潤滑油の漏洩試験の結果を示すグラフである。 加速試験による接触角の変化を示すグラフである。
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明に係る転がり軸受の第一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。また、図2は、本実施形態に係る撥水撥油処理方法による表面処理が施されて表面に形成された金属酸化物層及び撥水撥油層を説明する概念図である。
図1の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、内輪1の軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に転動体3を保持する保持器4と、非接触形の密封装置5,5と、を備えている。そして、内輪1と外輪2と密封装置5,5とで囲まれた軸受内部空間内には、両軌道面1a,2aと転動体3の転動面3aとの間の潤滑を行う潤滑剤L(例えば潤滑油,グリース)が配されている。
内輪1,外輪2,及び転動体3は、転がり軸受の軌道輪や転動体の素材として一般的に採用される鉄鋼材料(例えばステンレス鋼,軸受鋼)で構成されている。また、密封装置5は、鋼等の金属材料で構成されており、例としては鋼板製のシールドがあげられる。さらに、保持器4は、転がり軸受の保持器の素材として一般的に採用される樹脂材料(例えばポリアミド,ポリフェニレンスルフィド)又は金属材料(例えば鋼,黄銅,アルミニウム合金)で構成されている。なお、保持器4は、備えていなくてもよい。
この密封装置5は略環状の部材であり、その外端部5aが外輪2の内周面の軸方向両端部に取り付けられている。図1においては、外輪2の内周面の軸方向両端部に形成された溝2b(凹部)に、密封装置5の外端部5aが加締められて嵌入されている。そして、密封装置5の内端部5bが内輪1の外周面に隙間C(ラビリンス隙間)を空けて対向している。なお、外輪2が本発明の構成要件である「一方の軌道輪(密封装置が取り付けられた軌道輪)」に相当し、内輪1が本発明の構成要件である「他方の軌道輪(密封装置が隙間を空けて対向する軌道輪)」に相当する。もちろん、密封装置5の内端部5bが内輪1に取り付けられ、外端部5aが外輪2の内周面に隙間Cを空けて対向している構成としても差し支えない。また、密封装置5は、外輪2の内周面の軸方向片側端部のみに取り付けられていてもよい。
この密封装置5のうち内輪1に対向する対向部分5b(内端部5b)と、内輪1の外周面のうち密封装置5の内端部5bに対向する対向面1b(密封装置5の対向部分5bと隙間Cを介して対向してラビリンスを形成する部分である)と、密封装置5が取り付けられている外輪2の溝2bの内面と、溝2bに嵌入されている密封装置5の外端部5a(本発明の構成要件である取付部に相当する)とには、下記のような表面処理が施されて優れた撥水性及び撥油性が付与されている。
ここで、前記表面処理について、図2を参照しながら説明する。本実施形態の表面処理は、密封装置5,内輪1,外輪2等の金属製部材10の表面に優れた撥水性及び撥油性を付与する撥水撥油処理方法であって、下記のような2つの工程からなる。まず、第一工程は、2種の溶液を順次接触させることにより、金属製部材10の表面に金属酸化物層20を形成する工程である。
すなわち、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属と炭素数が1個以上6個以下のアルコキシ基とを備える金属アルコキシドと、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下の金属酸化物粒子と、を含有し且つpHが6以下である第一の溶液を金属製部材10に接触させて、第一の溶液の溶質及び固形分を金属製部材10の表面に付着させる。そして、そこにpHが11以上13以下である第二の溶液をさらに接触させると、反応が生じて、前記金属の酸化物(すなわち、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属の酸化物)からなる金属酸化物層20が金属製部材10の表面に形成する。
次に、第二工程は、金属製部材10の表面に形成された金属酸化物層20に2種の溶液を順次接触させることにより、金属酸化物層20の上に撥水撥油層30を形成する工程である。
すなわち、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えるカップリング剤と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、を含有し且つpHが6以下である第三の溶液を、金属酸化物層20に接触させた上、pHが11以上13以下である第四の溶液をさらに接触させると、金属酸化物層20とカップリング剤との反応が生じて、金属酸化物層20の上に撥水撥油層30が形成する。
第一工程において、第一の溶液のpHを6以下とすることにより、金属アルコキシドの加水分解が促進される。また、第二の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、金属アルコキシドの前記加水分解により生じた水酸基(OH基)と、金属製部材10の表面に存在する水酸基(OH基)との脱水縮合反応が促進される。その結果、金属酸化物層20は、金属製部材10の表面に対して化学的に強固に結合された状態で形成される。
さらに、第一工程においては、金属酸化物層20が金属製部材10の表面に形成する際に、第一の溶液に含有されている金属酸化物粒子が金属製部材10の表面に結合するため、高密度な金属酸化物層20が形成される。また、金属酸化物粒子に起因して、金属酸化物層20の表面が凹凸状となるため、金属酸化物層20の表面積率(表面が平滑面である場合の表面積に対する比率)が大きくなる。そうすると、第二工程で積層される撥水撥油層30の表面積率も大きくなるとともに、高密度な撥水撥油層30が形成されることとなるので、撥水撥油層30の撥水性及び撥油性が高まるとともに、撥水撥油層30が金属酸化物層20に強固に結合する。なお、このような効果を得るためには、前記表面積率は1.1以上であることが好ましい。
金属アルコキシドの種類は、アルコキシ基の炭素数が1個以上6個以下のものであれば特に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラプロポキシシラン,テトラブトキシシラン,テトラメトキシチタネート,テトラエトキシチタネート,テトラプロポキシチタネート,テトラブトキシチタネート,トリメトキシアルミネート,トリエトキシアルミネート,トリプロポキシアルミネートがあげられる。
また、金属アルコキシドは、上記のようなアルコキシ基のみを備えるものに限らず、アルコキシ基とアルキル基又はハロゲン基とを備えるものを用いてもよい。例えば、上記の各種金属アルコキシドが備える複数のアルコキシ基のうち1〜3個(金属がアルミニウムの場合は1〜2個)が、炭素数が1個以上6個以下のアルキル基(例えばメチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基)やハロゲン基(例えばフッ素,塩素,臭素,ヨウ素)に置き換わったものを用いてもよい。
具体的には、モノメチルトリメトキシ金属化合物,モノメチルトリエトキシ金属化合物,モノエチルトリメトキシ金属化合物,モノエチルトリエトキシ金属化合物等のモノアルキルトリアルコキシ金属化合物があげられる。また、ジメチルジメトキシ金属化合物,ジメチルジエトキシ金属化合物,ジエチルジメトキシ金属化合物,ジエチルジエトキシ金属化合物等のジアルキルジアルコキシ金属化合物があげられる。さらに、トリメチルメトキシ金属化合物,トリメチルエトキシ金属化合物,トリエチルメトキシ金属化合物,トリエチルエトキシ金属化合物等のトリアルキルアルコキシ金属化合物があげられる。さらに、モノハロトリアルコキシ金属化合物,ジハロジアルコキシ金属化合物,トリハロモノアルコキシ金属化合物があげられる。
さらに、金属アルコキシドの代わりに金属のハロゲン化合物を用いることも可能である。すなわち、シリコン,チタン,アルミニウムのフッ化物,塩化物,臭化物,ヨウ化物である。具体例としては、テトラクロロシランがあげられる。
これらの金属アルコキシドや金属のハロゲン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
さらに、第一の溶液には、炭素数が1個以上6個以下の低級アルコールを使用するが、低級アルコールを含有することにより金属アルコキシドの溶解性が高められ、安定した溶液が得られる。低級アルコールの例としては、メタノール,エタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,ブタノール,ヘキサノール,シクロヘキサノールがあげられるが、エタノールがより好ましい。
さらに、金属酸化物粒子の種類は特に限定されるものではなく、シリカ,チタニア,アルミナの他、マグネシア,酸化カルシウム,酸化亜鉛等の微粒子を使用することができる。ただし、金属酸化物粒子の金属種は、金属アルコキシドや金属のハロゲン化合物が備える金属の種類と同一であることが好ましい。すなわち、金属酸化物粒子としては、シリカ,チタニア,アルミナが好ましい。
金属酸化物粒子の平均粒径(平均一次粒径)は、1nm以上200nm以下である必要がある。1nm未満であると、前述の表面積率を大きくする効果が小さくなり、200nm超過であると、金属酸化物粒子が金属製部材10の表面から脱落しやすくなる。このような不都合がより生じにくくするためには、金属酸化物粒子の平均粒径は2nm以上100nm以下であることが好ましく、2nm以上80nm以下であることがより好ましく、10nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。
また、第一の溶液中の金属酸化物粒子の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、高密度な金属酸化物層20が形成されにくくなり、5質量%超過であると、金属製部材10の表面に金属酸化物粒子が過度に重なった状態で堆積することとなり、それに伴って金属酸化物粒子が金属製部材10の表面から脱落しやすくなる。
金属酸化物粒子の形状は特に限定されるものではなく、球形,矩形,扁平形,繊維状,ウィスカー状等のものを問題なく使用することができる。例えば、繊維状のものであれば、繊維長が1nm以上200nm以下のものを使用するとよい。また、異なる形状の複数種の金属酸化物粒子を混合して用いることもできる。さらに、金属酸化物粒子は多孔質であってもよい。
第一の溶液の組成の一例を示すと、1質量%以上10質量%以下の金属アルコキシドと、1質量%以上20質量%以下の水と、30質量%以上95質量%以下のアルコールと、0.1質量%以上5質量%以下の金属酸化物粒子とを混合し、塩酸等の酸によりpHを6以下に調整したものがあげられる。この場合は、酸以外の成分を予め混合し、金属酸化物粒子が均一になるように数十分間〜数時間撹拌した後に、最後に酸を用いてpHの調整を行うことが好ましい。
第二の溶液は、pHの条件が満たされていれば特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩を含有する水溶液が好ましい。例えば、炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩,炭酸水素塩の水溶液や、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液が好適であり、水酸化ナトリウム水溶液が特に好適である。なお、各種のpH緩衝剤を併用してもよい。
次に、第二工程において、第三の溶液のpHを6以下とすることにより、カップリング剤の加水分解が促進される。また、第四の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、カップリング剤の前記加水分解により生じた水酸基(OH基)と、金属酸化物層20の表面に存在する水酸基(OH基)との脱水縮合反応が促進される。その結果、撥水撥油層30は、金属酸化物層20の表面に対して化学的に強固に結合された状態で形成される。
カップリング剤の種類は、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えているならば特に限定されるものではないが、これらの金属とフッ素化炭化水素基とを備えているカップリング剤が好ましく、フッ素系シランカップリング剤がより好ましい。
フッ素系シランカップリング剤の具体例としては、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロトリクロロシラン、3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロドデシルトリエトキシシラン、3−トリフルオロアセトキシプロピルトリメトキシシランがあげられる。
ただし、カップリング剤が備える金属の種類は、第一の溶液に含有される金属アルコキシドや金属のハロゲン化合物が備える金属の種類、又は、金属酸化物粒子の金属種と同一であることが好ましい。
さらに、第三の溶液には、炭素数が1個以上6個以下の低級アルコールを使用するが、低級アルコールを含有することによりカップリング剤の溶解性が高められ、安定した溶液が得られる。低級アルコールの例としては、メタノール,エタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,ブタノール,ヘキサノール,シクロヘキサノールがあげられるが、エタノールがより好ましい。
さらに、第四の溶液は、pHの条件が満たされていれば特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩を含有する水溶液が好ましい。例えば、炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩,炭酸水素塩の水溶液や、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液が好適であり、水酸化ナトリウム水溶液が特に好適である。なお、各種のpH緩衝剤を併用してもよい。
このような表面処理が施された本実施形態の深溝玉軸受は、内輪1と密封装置5との間に隙間Cがあるものの、この隙間Cの周辺部分(内端部5b及び対向面1b)に前記表面処理が施されて撥水性及び撥油性が付与されているため、潤滑剤Lが弾かれて、隙間Cからの潤滑剤Lの漏出が生じにくい。また、密封装置5と外輪2との固定部分(外端部5aの一部分と溝2bの内面との間に形成されたカシメ部隙間)からも潤滑剤Lの漏出が生じる場合があるが、外端部5aと溝2bにも前記表面処理が施されて撥水性及び撥油性が付与されているため、潤滑剤Lが弾かれて、前記固定部分からの潤滑剤Lの漏出が生じにくい。
カシメ部隙間の例としては、以下のようなものがある。密封装置5の外端部5aは、外輪2の内周面に形成された溝2b(凹部)に加締められて嵌入されている。密封装置5の外端部5aは、図1から分かるように、円板の外縁部を径方向内方側に折り返して形成された断面略U字状の折り返し部となっているが、この折り返し部は、略環状の密封装置5の周方向全体には形成されておらず、間隔を開けて不連続的に形成されている。よって、隣接する折り返し部の間においては、外端部5aと溝2bの内面との間に隙間(カシメ部隙間)が形成されることとなる。
そして、前記表面処理により付与される撥水性及び撥油性は大変優れているので、潤滑剤Lが、粘性の高いグリースである場合のみならず、粘性の低い潤滑油である場合も、漏出が生じにくい。しかも、潤滑油の軸受内部空間内への封入量が多い場合(オイルプレーティング潤滑において使用される程度の封入量よりも多い場合)、軸受が高速回転で使用される場合、軸受が高温下で使用される場合、軸受の温度が変化する場合(例えば温度が上昇する場合)など、潤滑剤Lの漏出が極めて生じやすい条件であっても、潤滑剤Lの漏出を十分に防止することが可能である。
なお、密封装置5の対向部分5b及び外端部5aの一方又は両方に前記表面処理を施せば、潤滑剤Lの漏出を防止することが可能であるが、さらに内輪1の対向面1b及び外輪2の溝2bの内面にも前記表面処理を施すと、潤滑剤Lの漏出をより十分に防止することが可能となる。
また、対向面1b及び内端部5bに前記表面処理が施してあれば、密封装置5と内輪1との間の隙間Cからの潤滑剤Lの漏出を十分に抑制することができるが、内輪1の外周面のうちラビリンスを形成する部分(対向面1b)のみに前記表面処理を施すよりも、ラビリンスを形成する部分よりも広い範囲の面(軸方向に広い範囲の面)に前記表面処理を施した方が、隙間Cからの潤滑剤Lの漏出をより抑制することができる。
さらに、潤滑剤Lの漏出を十分に防止するためには、前記表面処理が施された表面と潤滑剤Lとの接触角が大きいことが好ましい。特に潤滑油を軸受内部空間内に密封するためには、前記接触角が110°以上となるように、前記表面処理を施すことが好ましい。なお、前記表面処理が施された表面と水との接触角が110°以上となるように、前記表面処理を施せば、軸受内部空間内への水の侵入を抑制することができる。
さらに、隙間Cが大きいと、前記表面処理を施しても、潤滑剤Lの漏出を防止する効果が低下するおそれがある。特に潤滑油を軸受内部空間内に密封するためには、隙間Cは340μm以下とすることが好ましい。あるいは、隙間Cを、Y1≦18451/Xなる式を満足するように設定してもよい。ただし、式中のY1は隙間Cの大きさ(単位はμm)であり、Xは内輪1と外輪2と密封装置5,5とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、深溝玉軸受の使用時に温度上昇等により変化する量(単位はPa)、又は、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に潤滑剤Lを封入した際に変化する量(単位はPa)である。前記式を満足するように隙間Cを設定すれば、軸受内部空間の内圧が変化した際に隙間Cから潤滑剤が漏出することが抑制される。
また、前記カシメ部隙間が大きいと、前記表面処理を施しても、潤滑剤Lの漏出を防止する効果が低下するおそれがある。特に潤滑油を軸受内部空間内に密封するためには、前記カシメ部隙間を、Y2≦18451/Xなる式を満足するように設定することが好ましい。ただし、式中のY2は前記カシメ部隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは内輪1と外輪2と密封装置5,5とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、深溝玉軸受の使用時に温度上昇等により変化する量(単位はPa)、又は、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に潤滑剤Lを封入した際に変化する量(単位はPa)である。前記式を満足するように前記カシメ部隙間の大きさを設定すれば、軸受内部空間の内圧が変化した際に前記カシメ部隙間から潤滑剤が漏出することが抑制される。
さらに、密封装置5が非接触形であるため深溝玉軸受は低トルク,低騒音であり、潤滑剤Lを粘性の低い潤滑油とすれば、深溝玉軸受はさらに低トルク,低騒音となる。そして、潤滑剤Lの漏出が生じにくいため、深溝玉軸受は潤滑性に優れ長寿命である。さらに、前記表面処理が施された表面は、油を弾く撥油性とともに水を弾く撥水性も有しているので、隙間Cから軸受内部空間内への水の侵入も抑制される。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、密封装置5は金属材料で構成されていたが、ゴム,プラスチック等の高分子材料で構成されていてもよい。この場合には、前記表面処理の第一工程の前に、高分子材料製の密封装置5の表面に親水性を付与する親水化処理(第二実施形態で後述する)を施すことが好ましい。
また、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は深溝玉軸受以外の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
〔第1実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。呼び番号6203の深溝玉軸受用のシールド鋼板に、4種の表面処理を施して、水又は潤滑油との接触角を測定した。
まず、第一〜第四の溶液に相当する溶液A〜Dについて説明する。第一の溶液に相当する溶液Aは、テトラエトキシシラン6.1質量%、水6.1質量%、エタノール87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ粒子0.8質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。なお、溶液Aは、まずエタノールにシリカ粒子を加えて防爆型ホモジナイザーで撹拌した後に、テトラエトキシシランと水と塩酸を加えることにより調製した。
次に、このシールド鋼板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたシールド鋼板が得られた。
また、第二及び第四の溶液に相当する溶液Bは、pH12の水酸化ナトリウム水溶液である。さらに、第三の溶液に相当する溶液Cは、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。
さらに、溶液D(金属酸化物粒子を含有しておらず、第一の溶液の対照例に相当する)は、テトラエトキシシラン6.1質量%、水6.1質量%、エタノール87.8質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。
これらの溶液を用いて種々の表面処理を行い、3種のシールド鋼板(サンプルNo.1〜3)を得た。なお、サンプルNo.4のシールド鋼板は、撥水撥油処理を施していないものである。
まず、サンプルNo.1の表面処理について説明する。シールド鋼板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、約25℃に保持したシールド鋼板に、約25℃の溶液Aを塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発したら、速やかに約25℃の溶液Bをさらに塗布した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、シールド鋼板をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたシールド鋼板の表面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このシールド鋼板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたシールド鋼板が得られた。
次に、サンプルNo.2の表面処理について説明する。シールド鋼板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、このシールド鋼板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、表面に撥水撥油層が形成されたシールド鋼板が得られた。
次に、サンプルNo.3の表面処理について説明する。シールド鋼板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、このシールド鋼板を、大気圧下で約25℃の溶液Dに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Dを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Bを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたシールド鋼板の表面には、シリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このシールド鋼板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらシールド鋼板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたシールド鋼板が得られた。
サンプルNo.1及びNo.3においては、図2に示すように、シリカ被膜(金属酸化物層)がシールド鋼板の表面に対して化学結合された状態で形成され、その上に、フルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜(撥水撥油層)が化学結合された状態で形成されている。そして、サンプルNo.1では、シリカ被膜の表面は凹凸状をなしているが、サンプルNo.3では、シリカ被膜の表面は平坦である。
また、サンプルNo.2においては、シリカ被膜は存在せず、シールド鋼板の表面にフルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜が直接的に化学結合された状態で形成されている。
これらサンプルNo.1〜4のシールド鋼板の表面と水又は潤滑油との接触角を測定した。水は蒸留水であり、潤滑油は100℃における動粘度が31mm2 /sのエステル油である。測定方法は以下の通りである。すなわち、シールド鋼板の表面に水又は潤滑油を滴下して、その液滴とシールド鋼板の表面との接触角を測定した。雰囲気温度は25℃であり、接触角の測定は水又は潤滑油の滴下20秒後に行った。
結果を表1に示す。なお、サンプルNo.1の水の接触角は、水滴が転がってシールド鋼板上に留まらなかったため、測定できなかった。
Figure 2012167809
表1の結果から分かるように、サンプルNo.1は優れた撥水撥油性を有していた。また、サンプルNo.1の撥水撥油層は、表面積率が1.1以上であり、水滴が留まらないほどの優れた撥水性と、接触角が90°以上という優れた撥油性を有していた。
シリカ被膜が形成されていないサンプルNo.2と、金属酸化物粒子を含まないシリカ被膜が形成されているサンプルNo.3は、ほぼ同等の結果であった。この理由は、シールド鋼板には予めシリケート処理が施されているため、大きな差異が生じなかったものと考えられる。
次に、前記のような表面処理を施したシールド鋼板を備える転がり軸受を用意して回転させ、潤滑油の漏洩試験を行った。
実施例の転がり軸受は、呼び番号6203の深溝玉軸受であり、シールド鋼板を取り付けるシール溝の内面には、以下のような表面処理が施してある。なお、この深溝玉軸受の内輪及び外輪は高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製であり、熱処理が施されて硬さがHRC60に調整されている。
内輪及び外輪をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られた内輪及び外輪のシール溝の内面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、この内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして得られた内輪及び外輪と、前述のサンプルNo.1のシールド鋼板と、別途用意した転動体(玉)とを用いて、深溝玉軸受を組み立てた。そして、軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入した。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,防錆剤,及び金属不活性化剤が配合されている。
一方、比較例の転がり軸受は、内輪及び外輪に表面処理を施していない点と、サンプルNo.4のシールド鋼板を用いた点とを除いて、実施例の転がり軸受と同様である。
次に、潤滑油の漏洩試験の方法について説明する。実施例及び比較例の転がり軸受を下記の条件で3時間回転させ、この間に転がり軸受から漏洩した潤滑油の量を逐次測定し、潤滑油の漏洩率(潤滑油の漏洩量/封入量)を算出した。結果を図3のグラフに示す。
回転速度 :5000min-1
アキシアル荷重:19.6N
試験温度 :室温
図3のグラフから分かるように、表面処理が施されていない比較例の転がり軸受は、回転3時間後の潤滑油の漏洩率が約90質量%であった。これに対して表面処理が施された実施例の転がり軸受は、回転3時間後の潤滑油の漏洩率が10質量%未満であった。
〔第二実施形態〕
図4は、本発明に係る転がり軸受の第二実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。また、図2は、本実施形態に係る撥水撥油処理方法による表面処理が施されて表面に形成された金属酸化物層及び撥水撥油層を説明する概念図である。図4においては、図1と同一又は相当する部分には、図1と同一の符号を付してある。なお、第一実施形態とほぼ同様の部分(構成及び効果)については、その説明を省略している場合がある。
図4の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、内輪1の軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に転動体3を保持する保持器4と、非接触形の密封装置5,5と、を備えている。そして、内輪1と外輪2と密封装置5,5とで囲まれた軸受内部空間内には、両軌道面1a,2aと転動体3の転動面3aとの間の潤滑を行う潤滑剤L(例えば潤滑油,グリース)が配されている。なお、密封装置5として、接触形の密封装置を用いてもよい。また、保持器4は、備えていなくてもよい。
これら密封装置5,5の一方には、深溝玉軸受の内部と外部とを連通する貫通孔7からなるブリーザー構造が形成されており、温度上昇等による深溝玉軸受の内圧の上昇が抑制されるようになっている。この貫通孔7の断面形状は特に限定されるものではなく、例としては円形,矩形があげられるが、その径は340μm以下であることが好ましい。340μm超過であると、隙間Cが潤滑剤Lで塞がってしまった場合などに貫通孔7から潤滑剤Lが漏出するおそれがある。
あるいは、貫通孔7の径を、Z≦18451/Xなる式を満足するように設定してもよい。ただし、式中のZは貫通孔7の径(単位はμm)であり、Xは内輪1と外輪2と密封装置5,5とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、深溝玉軸受の使用時に温度上昇等により変化する量(単位はPa)、又は、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に潤滑剤Lを封入した際に変化する量(単位はPa)である。前記式を満足するように貫通孔7の径を設定すれば、軸受内部空間の内圧が変化した際に貫通孔7から潤滑剤が漏出することが抑制される。ただし、貫通孔7の径は、前記内圧の変化量がゼロとなるように設定することがより好ましい。
また、密封装置5における貫通孔7の形成位置は特に限定されるものではないが、深溝玉軸受の内部と外部との間で空気が流通しやすいように、外輪2に近い径方向位置に形成することが好ましい。具体的には、内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の径方向距離の2/3以上5/6以下の範囲の位置に、貫通孔7を形成することが好ましい。なお、貫通孔7は密封装置5に1個形成すればよいが、複数個形成してもよい。また、ブリーザー構造は両方の密封装置5,5に設けてもよい。さらに、転がり軸受を装置や機器に装着する際には、ブリーザー構造が形成された密封装置5を、鉛直方向上方に向けて設置することが好ましい。
内輪1,外輪2,及び転動体3は、転がり軸受の軌道輪や転動体の素材として一般的に採用される鉄鋼材料(例えばステンレス鋼,軸受鋼)で構成されている。また、密封装置5は、ゴム,プラスチック等の高分子材料で構成されており、例としてはゴムシールやプラスチックシールがあげられる。なお、金属製の芯金を有するタイプの高分子材料製密封装置でもよい。さらに、保持器4は、転がり軸受の保持器の素材として一般的に採用される樹脂材料(例えばポリアミド,ポリフェニレンスルフィド)又は金属材料(例えば鋼,黄銅,アルミニウム合金)で構成されている。
この密封装置5は略環状の部材であり、その外端部5aが外輪2の内周面の軸方向両端部に取り付けられている。図4においては、外輪2の内周面の軸方向両端部に形成された溝2b(凹部)に、密封装置5の外端部5aが嵌入されている。そして、密封装置5の内端部5bが内輪1の外周面に隙間C(ラビリンス隙間)を空けて対向している。なお、外輪2が本発明の構成要件である「一方の軌道輪(密封装置が取り付けられた軌道輪)」に相当し、内輪1が本発明の構成要件である「他方の軌道輪(密封装置が隙間を空けて対向する軌道輪)」に相当する。もちろん、密封装置5の内端部5bが内輪1に取り付けられ、外端部5aが外輪2の内周面に隙間Cを空けて対向している構成としても差し支えない。また、密封装置5は、外輪2の内周面の軸方向片側端部のみに取り付けられていてもよい。
この密封装置5のうち内輪1に対向するシール部5b(内端部5b)と、外輪2の溝2bに嵌入されている密封装置5の外端部5a(本発明の構成要件である取付部に相当する)と、貫通孔7の内面とには、下記のような表面処理が施されて優れた撥水性及び撥油性が付与されている。なお、密封装置5が接触形である場合は、内輪1に滑り接触するシール部5b(内端部5b)と、外輪2の溝2bに嵌入されている密封装置5の外端部5aと、貫通孔7の内面とに、下記のような表面処理を施して優れた撥水性及び撥油性を付与すればよい。
ここで、前記表面処理について、図2を参照しながら説明する。本実施形態の表面処理は、密封装置5等の高分子材料製部材10の表面に優れた撥水性及び撥油性を付与する撥水撥油処理方法であって、下記のような3つの工程からなる。
まず、第一工程は、高分子材料製部材10の表面に親水化処理を施して、該表面に親水性を付与する工程である。親水化処理の種類は特に限定されるものではないが、例えば、プラズマ処理,グロー放電,コロナ放電,紫外線照射等により表面に水酸基を形成する処理があげられる。
次に、第二工程は、2種の溶液を順次接触させることにより、親水化処理を施した高分子材料製部材10の表面に金属酸化物層20を形成する工程である。
すなわち、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属と炭素数が1個以上6個以下のアルコキシ基とを備える金属アルコキシドと、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下の金属酸化物粒子と、を含有し且つpHが6以下である第一の溶液を高分子材料製部材10に接触させて、第一の溶液の溶質及び固形分を高分子材料製部材10の表面に付着させる。そして、そこにpHが11以上13以下である第二の溶液をさらに接触させると、反応が生じて、前記金属の酸化物(すなわち、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属の酸化物)からなる金属酸化物層20が高分子材料製部材10の表面に形成する。
次に、第三工程は、高分子材料製部材10の表面に形成された金属酸化物層20に2種の溶液を順次接触させることにより、金属酸化物層20の上に撥水撥油層30を形成する工程である。
すなわち、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えるカップリング剤と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、を含有し且つpHが6以下である第三の溶液を、金属酸化物層20に接触させた上、pHが11以上13以下である第四の溶液をさらに接触させると、金属酸化物層20とカップリング剤との反応が生じて、金属酸化物層20の上に撥水撥油層30が形成する。
第二工程において、第一の溶液のpHを6以下とすることにより、金属アルコキシドの加水分解が促進される。また、第二の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、金属アルコキシドの前記加水分解により生じた水酸基(OH基)と、高分子材料製部材10の表面に存在する水酸基(OH基)との脱水縮合反応が促進される。その結果、金属酸化物層20は、高分子材料製部材10の表面に対して化学的に強固に結合された状態で形成される。
さらに、第二工程においては、金属酸化物層20が高分子材料製部材10の表面に形成する際に、第一の溶液に含有されている金属酸化物粒子が高分子材料製部材10の表面に結合するため、高密度な金属酸化物層20が形成される。また、金属酸化物粒子に起因して、金属酸化物層20の表面が凹凸状となるため、金属酸化物層20の表面積率(表面が平滑面である場合の表面積に対する比率)が大きくなる。そうすると、第三工程で積層される撥水撥油層30の表面積率も大きくなるとともに、高密度な撥水撥油層30が形成されることとなるので、撥水撥油層30の撥水性及び撥油性が高まるとともに、撥水撥油層30が金属酸化物層20に強固に結合する。なお、このような効果を得るためには、前記表面積率は1.1以上であることが好ましい。
このような表面処理が施された本実施形態の深溝玉軸受は、内輪1と密封装置5との間に隙間Cがあるものの、この隙間Cの周辺部分(内端部5b)に前記表面処理が施されて撥水性及び撥油性が付与されているため、潤滑剤Lが弾かれて、隙間Cからの潤滑剤Lの漏出が生じにくい。また、密封装置5と外輪2との固定部分(外端部5aと溝2bとの間)からも潤滑剤Lの漏出が生じる場合があるが、外端部5aにも前記表面処理が施されて撥水性及び撥油性が付与されているため、潤滑剤Lが弾かれて、前記固定部分からの潤滑剤Lの漏出が生じにくい。さらに、貫通孔7の内面に前記表面処理が施されて撥水性及び撥油性が付与されているため、潤滑剤Lが弾かれて、貫通孔7からの潤滑剤Lの漏出が生じにくい。
そして、前記表面処理により付与される撥水性及び撥油性は大変優れているので、潤滑剤Lが、粘性の高いグリースである場合のみならず、粘性の低い潤滑油である場合も、漏出が生じにくい。しかも、潤滑油の軸受内部空間内への封入量が多い場合(オイルプレーティング潤滑において使用される程度の封入量よりも多い場合)、軸受が高速回転で使用される場合、軸受が高温下で使用される場合、軸受の温度が変化する場合(例えば温度が上昇する場合)など、潤滑剤Lの漏出が極めて生じやすい条件であっても、潤滑剤Lの漏出を十分に防止することが可能である。
特に、軸受の温度が上昇する場合には、転がり軸受の内圧が上昇して潤滑剤Lが漏出しやすいが、内圧の上昇を抑制するブリーザー構造が設けられているので、潤滑剤Lの漏出を十分に防止することが可能である。
なお、密封装置5のシール部5b及び外端部5aの一方又は両方に前記表面処理を施せば、潤滑剤Lの漏出を防止することが可能であるが、さらに内輪1の対向面1b及び外輪2の溝2bの内面にも撥水性及び撥油性を付与する処理を施すと、潤滑剤Lの漏出をより十分に防止することが可能となる。
また、対向面1b及び内端部5bに撥水撥油処理が施してあれば、密封装置5と内輪1との間の隙間Cからの潤滑剤Lの漏出を十分に抑制することができるが、内輪1の外周面のうちラビリンスを形成する部分(対向面1b)のみに撥水撥油処理を施すよりも、ラビリンスを形成する部分よりも広い範囲の面(軸方向に広い範囲の面)に撥水撥油処理を施した方が、隙間Cからの潤滑剤Lの漏出をより抑制することができる。
さらに、潤滑剤Lの漏出を十分に防止するためには、前記表面処理が施された表面と潤滑剤Lとの接触角が大きいことが好ましい。特に潤滑油を軸受内部空間内に密封するためには、前記接触角が110°以上となるように、前記表面処理を施すことが好ましい。なお、前記表面処理が施された表面と水との接触角が110°以上となるように、前記表面処理を施せば、軸受内部空間内への水の侵入を抑制することができる。
さらに、隙間Cが大きいと、前記表面処理を施しても、潤滑剤Lの漏出を防止する効果が低下するおそれがある。特に潤滑油を軸受内部空間内に密封するためには、隙間Cは340μm以下とすることが好ましい。
さらに、密封装置5が非接触形であるため深溝玉軸受は低トルク,低騒音であり、潤滑剤Lを粘性の低い潤滑油とすれば、深溝玉軸受はさらに低トルク,低騒音となる。そして、潤滑剤Lの漏出が生じにくいため、深溝玉軸受は潤滑性に優れ長寿命である。さらに、前記表面処理が施された表面は、油を弾く撥油性とともに水を弾く撥水性も有しているので、隙間Cから軸受内部空間内への水の侵入も抑制される。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、密封装置5は高分子材料で構成されていたが、鋼等の金属材料で構成されていてもよい。この場合には、前記表面処理の第一工程(親水化処理)を省略することができる。
また、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は深溝玉軸受以外の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
〔第2実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。ポリアミド6,6製の平板(以降はPA66板と記す)とポリアミド4,6製の平板(以降はPA46板と記す)に、種々の表面処理を施して、水又は潤滑油との接触角を測定した。なお、これらの平板の寸法は、縦40mm、横50mm、厚さ1mmであり、表面処理を施す板面の平均表面粗さ(Ra)は0.001μmである。
まず、第一〜第四の溶液に相当する溶液A〜Dについて説明する。第一の溶液に相当する溶液Aは、テトラエトキシシラン6.1質量%、水6.1質量%、エタノール87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ粒子0.8質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。なお、溶液Aは、まずエタノールにシリカ粒子を加えて防爆型ホモジナイザーで撹拌した後に、テトラエトキシシランと水と塩酸を加えることにより調製した。
また、第二及び第四の溶液に相当する溶液Bは、pH12の水酸化ナトリウム水溶液である。さらに、第三の溶液に相当する溶液Cは、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。
さらに、溶液D(金属酸化物粒子を含有しておらず、第一の溶液の対照例に相当する)は、テトラエトキシシラン6.1質量%、水6.1質量%、エタノール87.8質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。
これらの溶液を用いて種々の表面処理を行い、6種のポリアミド製平板(サンプルNo.11〜16)を得た。なお、サンプルNo.17,18のポリアミド製平板は、親水化処理のみを施して撥水撥油処理は施していないものである。
まず、サンプルNo.11の表面処理について説明する。PA66板にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、プラズマ処理を施したPA66板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、約25℃に保持したPA66板に、約25℃の溶液Aを塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発したら、速やかに約25℃の溶液Bをさらに塗布した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、PA66板をエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたPA66板の表面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このPA66板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたPA66板が得られた。
次に、サンプルNo.12の表面処理について説明する。PA46板にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、プラズマ処理を施したPA46板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、約25℃に保持したPA46に、約25℃の溶液Aを塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発したら、速やかに約25℃の溶液Bをさらに塗布した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、PA46板をエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたPA46板の表面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このPA46板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA46板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらPA46板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたPA46板が得られた。
次に、サンプルNo.13の表面処理について説明する。PA66板にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、プラズマ処理を施したPA66板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、PA66板を大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、表面に撥水撥油層が形成されたPA66板が得られた。
次に、サンプルNo.14の表面処理について説明する。PA66板にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、プラズマ処理を施したPA66板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、このPA66板を、大気圧下で約25℃の溶液Dに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Dを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Bを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたPA66板の表面には、シリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このPA66板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたPA66板が得られた。
次に、サンプルNo.15の表面処理について説明する。プラズマ処理を施していないPA66板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、約25℃に保持したPA66板に、約25℃の溶液Aを塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発したら、速やかに約25℃の溶液Bをさらに塗布した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、PA66板をエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたPA66板の表面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このPA66板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらPA66板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたPA66板が得られた。
次に、サンプルNo.16の表面処理について説明する。プラズマ処理を施していないPA46板をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、約25℃に保持したPA46に、約25℃の溶液Aを塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発したら、速やかに約25℃の溶液Bをさらに塗布した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、PA46板をエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたPA46板の表面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このPA46板を、大気圧下で約25℃の溶液Cに30分間浸漬した。浸漬中は、溶液Cを緩やかに撹拌した。30分間浸漬したらPA46板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B中に入れ、大気圧下で30分間浸漬した。30分間浸漬したらPA46板を引き上げて、エタノールで洗浄した。そして、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されたPA46板が得られた。
サンプルNo.11,12及びNo.14〜16においては、図2に示すように、シリカ被膜(金属酸化物層)がポリアミド製平板(PA66板,PA46板)の表面に対して化学結合された状態で形成され、その上に、フルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜(撥水撥油層)が化学結合された状態で形成されている。そして、サンプルNo.11,12,15,16では、シリカ被膜の表面は凹凸状をなしているが、サンプルNo.14では、シリカ被膜の表面は平坦である。
また、サンプルNo.13においては、シリカ被膜は存在せず、PA66板の表面にフルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜が直接的に化学結合された状態で形成されている。
プラズマ処理及び溶液による処理を施したサンプルNo.11〜16のPA66板,PA46板と、プラズマ処理のみを施して溶液による処理は施していないサンプルNo.17,18のPA66板,PA46板とについて、その表面と水又は潤滑油との接触角を測定した。水は蒸留水であり、潤滑油は100℃における動粘度が8mm2 /sのポリα−オレフィン油(PAO)である。測定方法は以下の通りである。すなわち、ポリアミド製平板の表面に水又は潤滑油を滴下して、その液滴とポリアミド製平板の表面との接触角を測定した。雰囲気温度は25℃であり、接触角の測定は水又は潤滑油の滴下20秒後に行った。
結果を表2に示す。なお、サンプルNo.11及びNo.12の水の接触角は、水滴が転がってPA66板,PA46板の上に留まらなかったため、測定できなかった。
Figure 2012167809
表2の結果から分かるように、サンプルNo.11及びNo.12は、シリカ被膜が形成されていないサンプルNo.13と、金属酸化物粒子を含まないシリカ被膜が形成されているサンプルNo.14よりも優れた撥水撥油性を有していた。また、サンプルNo.11及びNo.12の撥水撥油層は、表面積率が1.1以上であり、水滴が留まらないほどの優れた撥水性と、接触角が90°以上という優れた撥油性を有していた。
また、プラズマ処理を施していないサンプルNo.15及びNo.16や、溶液による処理を施していないサンプルNo.17及びNo.18は、サンプルNo.11〜14と比較して、撥水撥油性が低かった。
次に、前記のような表面処理を施した高分子材料製の密封装置を備える転がり軸受を数種用意して回転させ、潤滑油の漏洩試験を行った。
実施例1の転がり軸受は、呼び番号6203の深溝玉軸受であり、2個の密封装置を備えている。この密封装置は、非接触形のポリアミド46製プラスチックシールである(芯金は備えていない)。そして、転がり軸受に取り付けられた2個のプラスチックシールのうち一方は、ブリーザー構造を備えている。すなわち、軸受内外を連通する直径200μmの貫通孔が1個、ピンバイスにより形成されている。この貫通孔は、内輪よりも外輪に近い径方向位置に形成されており、その位置は、内輪の外周面と外輪の内周面との間の径方向距離の5/6の位置である。
また、2個のプラスチックシールのシールリップ部には以下のような表面処理が施してある。まず、プラスチックシールのシールリップ部にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、そのプラスチックシールをメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、シールリップ部に約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたプラスチックシールのシールリップ部には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このプラスチックシールのシールリップ部に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
一方、内輪及び外輪のシール溝の内面には、以下のような表面処理が施してある。なお、この深溝玉軸受の内輪及び外輪は高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製であり、熱処理が施されて硬さがHRC60に調整されている。
内輪及び外輪をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られた内輪及び外輪のシール溝の内面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、この内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして得られた内輪,外輪,及びプラスチックシールと、別途用意した転動体(玉)とを用いて、深溝玉軸受を組み立てた。そして、軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入した。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,防錆剤,及び金属不活性化剤が配合されている。
次に、実施例2の転がり軸受について説明する。実施例2の転がり軸受は、呼び番号6203の深溝玉軸受であり、2個の密封装置を備えている。この密封装置は、非接触形のポリアミド46製プラスチックシールである(芯金は備えていない)。そして、転がり軸受に取り付けられた2個のプラスチックシールのうち一方は、ブリーザー構造を備えている。すなわち、軸受内外を連通する直径300μmの貫通孔が1個、ピンバイスにより形成されている。この貫通孔は、内輪よりも外輪に近い径方向位置に形成されており、その位置は、内輪の外周面と外輪の内周面との間の径方向距離の5/6の位置である。
また、2個のプラスチックシールのシールリップ部には以下のような表面処理が施してある。まず、プラスチックシールのシールリップ部にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、そのプラスチックシールをメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、シールリップ部に約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたプラスチックシールのシールリップ部には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このプラスチックシールのシールリップ部に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
一方、内輪及び外輪のシール溝の内面には、以下のような表面処理が施してある。なお、この深溝玉軸受の内輪及び外輪は高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製であり、熱処理が施されて硬さがHRC60に調整されている。
内輪及び外輪をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られた内輪及び外輪のシール溝の内面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、この内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして得られた内輪,外輪,及びプラスチックシールと、別途用意した転動体(玉)とを用いて、深溝玉軸受を組み立てた。そして、軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入した。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,防錆剤,及び金属不活性化剤が配合されている。
次に、実施例3の転がり軸受について説明する。実施例3の転がり軸受は、呼び番号6203の深溝玉軸受であり、2個の密封装置を備えている。この密封装置は、非接触形のポリアミド46製プラスチックシールである(芯金は備えていない)。そして、転がり軸受に取り付けられた2個のプラスチックシールは、いずれもブリーザー構造を備えている。すなわち、軸受内外を連通する直径300μmの貫通孔が1個、ピンバイスにより形成されている。この貫通孔は、内輪よりも外輪に近い径方向位置に形成されており、その位置は、内輪の外周面と外輪の内周面との間の径方向距離の5/6の位置である。
また、2個のプラスチックシールのシールリップ部には以下のような表面処理が施してある。まず、プラスチックシールのシールリップ部にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、そのプラスチックシールをメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、シールリップ部に約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたプラスチックシールのシールリップ部には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このプラスチックシールのシールリップ部に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
一方、内輪及び外輪のシール溝の内面には、以下のような表面処理が施してある。なお、この深溝玉軸受の内輪及び外輪は高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製であり、熱処理が施されて硬さがHRC60に調整されている。
内輪及び外輪をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られた内輪及び外輪のシール溝の内面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、この内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして得られた内輪,外輪,及びプラスチックシールと、別途用意した転動体(玉)とを用いて、深溝玉軸受を組み立てた。そして、軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入した。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,防錆剤,及び金属不活性化剤が配合されている。
次に、実施例4の転がり軸受について説明する。実施例4の転がり軸受は、呼び番号6203の深溝玉軸受であり、2個の密封装置を備えている。この密封装置は、非接触形のポリアミド46製プラスチックシールである(芯金は備えていない)。そして、転がり軸受に取り付けられた2個のプラスチックシールのうち一方は、ブリーザー構造を備えている。すなわち、軸受内外を連通する直径30μmの貫通孔が4個、ピンバイスにより形成されている。この貫通孔は、略環状の密封装置に対して同心且つ周方向等配に配されているとともに、内輪よりも外輪に近い径方向位置に形成されており、その位置は、内輪の外周面と外輪の内周面との間の径方向距離の5/6の位置である。
また、2個のプラスチックシールのシールリップ部には以下のような表面処理が施してある。まず、プラスチックシールのシールリップ部にプラズマ処理を施して、その表面に親水性を付与した。そして、そのプラスチックシールをメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、シールリップ部に約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られたプラスチックシールのシールリップ部には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、このプラスチックシールのシールリップ部に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、プラスチックシールをエタノールで洗浄したら、120℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
一方、内輪及び外輪のシール溝の内面には、以下のような表面処理が施してある。なお、この深溝玉軸受の内輪及び外輪は高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製であり、熱処理が施されて硬さがHRC60に調整されている。
内輪及び外輪をメタノール中で超音波洗浄し、乾燥させた。その直後に、内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Aを塗布した後、約25℃の前記溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。すると、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。得られた内輪及び外輪のシール溝の内面には、表面が凹凸状をなすシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されていた。
次に、この内輪及び外輪のシール溝の内面に、約25℃の前記溶液Cを塗布した後、約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。その後、内輪及び外輪をエタノールで洗浄したら、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行い、冷却後エタノール中で超音波洗浄を行った。すると、シリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして得られた内輪,外輪,及びプラスチックシールと、別途用意した転動体(玉)とを用いて、深溝玉軸受を組み立てた。そして、軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入した。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,防錆剤,及び金属不活性化剤が配合されている。
次に、比較例1の転がり軸受は、内輪,外輪,及びプラスチックシールに上記のような表面処理を全く施していない点と、プラスチックシールがブリーザー構造を備えていない点とを除いて、実施例1の転がり軸受と同様である。また、比較例2の転がり軸受は、プラスチックシールがブリーザー構造を備えていない点を除いて、実施例1の転がり軸受と同様である。
次に、潤滑油の漏洩試験の方法について説明する。実施例1〜4及び比較例1,2の転がり軸受を下記の条件で200時間回転させ、この間に転がり軸受から漏洩した潤滑油の量を逐次測定し、潤滑油の漏洩率(潤滑油の漏洩量/封入量)を算出した。結果を図5のグラフに示す。
回転速度 :5000min-1
アキシアル荷重:19.6N
試験温度 :室温
図5のグラフから分かるように、表面処理が施されておらず且つブリーザー構造を備えていない比較例1の転がり軸受は、回転初期において潤滑油の漏洩率が約40質量%であった。また、表面処理は施されているがブリーザー構造を備えていない比較例2の転がり軸受は、比較例1よりも潤滑油の漏洩が抑えられているものの、回転初期において10質量%を超えていた。
これに対して、表面処理が施されており且つブリーザー構造を備えている実施例1〜4の転がり軸受は、回転200時間後の潤滑油の漏洩率が10質量%未満であった。
〔第3実施例〕
この実施例の転がり軸受は、呼び番号6203の深溝玉軸受であり、図4の構造を有する。密封装置5として、対をなす2枚のシールド鋼板(金属製の密封装置)が取り付けられている。2枚のシールド鋼板5は、冷間圧延鋼板(SPCC)をプレス成形したものである。
2枚のシールド鋼板5のうちの一方には、軸受内外を連通する直径200μmの貫通孔7が1個、ピンバイスにより形成されている。これにより、一方のシールド鋼板5にブリーザー構造が形成されている。この貫通孔7は、内輪1よりも外輪2に近い径方向位置に形成されており、その位置は、内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の径方向距離の5/6の位置である。
この深溝玉軸受の内輪1及び外輪2は高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製であり、熱処理が施されて硬さがHRC60に調整され、研削加工が終了した後に、内輪1のシールド鋼板5との対向面1bと、外輪2のシールド鋼板5を取り付ける溝2bに、以下に示す表面処理が施されている。
溶液A〜Cを表面処理に使用する。溶液Aは、この発明の第一の溶液に相当し、テトラエトキシシラン6.1質量%、水6.1質量%、エタノール87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ粒子0.8質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。なお、溶液Aは、まずエタノールにシリカ粒子を加えて防爆型ホモジナイザーで撹拌した後に、テトラエトキシシランと水と塩酸を加えることにより調製した。
溶液Bは、この発明の第二及び第四の溶液に相当し、pH12の水酸化ナトリウム水溶液である。溶液Cは、この発明の第三の溶液に相当し、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。
先ず、内輪1及び外輪2をメタノール中で超音波洗浄した後、乾燥させた。その直後に、内輪1の対向面1bと外輪2の溝2bのみに、約25℃の溶液A(調製後30分経過したもの)を塗布した。溶液Aの揮発成分が蒸発した後、速やかに約25℃の溶液Bを塗布して、30分間放置した。これにより、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。
次に、内輪1及び外輪を2エタノールで洗浄した後、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行った。そして、冷却後に、エタノール中で超音波洗浄を行った。この段階で、内輪1の対向面1bと外輪2の溝2bのみに、表面が凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されている。
次に、内輪1の対向面1bと外輪2の溝2bのみに、約25℃の溶液C(調製後30分経過したもの)を塗布した後、速やかに約25℃の溶液Bをさらに塗布して、30分間放置した。次に、内輪1及び外輪2をエタノールで洗浄した後、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行った。そして、冷却後に、エタノール中で超音波洗浄を行った。この段階で、内輪1の対向面1bと外輪2の溝2bのみに、前述のシリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されている。
2枚のシールド鋼板5に、以下に示す表面処理が施されている。
先ず、シールド鋼板5をメタノール中で超音波洗浄した後、乾燥させた。その直後に、シールド鋼板5を約25℃の溶液A(調製後30分経過したもの)に30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Aを攪拌した。30分間の浸漬後、シールド鋼板5を引き上げて、溶液Aの揮発成分が蒸発した後、速やかに約25℃の溶液Bに30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Bを攪拌した。これにより、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。
次に、シールド鋼板5を引き上げてエタノールで洗浄した後、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行った。そして、冷却後に、エタノール中で超音波洗浄を行った。この段階で、シールド鋼板5の全表面に、表面が凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されている。
次に、シールド鋼板5を約25℃の溶液C(調製後30分経過したもの)に30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、シールド鋼板5を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B(第四の溶液)に30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Bを攪拌した。30分間の浸漬後、シールド鋼板5を引き上げてエタノールで洗浄した後、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行った。そして、冷却後に、エタノール中で超音波洗浄を行った。この段階で、シールド鋼板5の全表面に、前述のシリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されている。
このようにして得られた内輪1及び外輪2と、シールド鋼板5と、別途用意した玉(転動体)3および保持器4を用いて、深溝玉軸受を組み立てた。そして、軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入した。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,防錆剤,及び金属不活性化剤が配合されている。
また、内輪1および外輪2と同じ材質の試験片と、シールド鋼板5と同じ材質の試験片を用意して、前述のシールド鋼板5に対する方法と同じ表面処理方法で撥水撥油膜を形成し、接触角の測定を行った。両試験片は、寸法が40mm×50mm×厚さ1mmで、接触角測定面(40mm×50mm)の平均表面粗さ(Ra)が0.001μmである。
これらの試験片と軸受を、温度80℃、湿度95%に設定された環境試験機に入れて、日本の平均気候における10年経過に相当する加速試験を行った。加速試験後に軸受からのエステル油の漏洩は認められなかった。
各試験片については、2年に相当する時間が経過する毎に、軸受に封入したエステル油と同じ潤滑油を使用して接触角を測定した。すなわち、雰囲気温度25℃で、試験片の撥水撥油膜が形成された接触角測定面に潤滑油を滴下し、20秒後に、潤滑油の液滴の接触角を測定した。その結果を図6に示す。図6に示すように、日本の平均気候における10年経過に相当する時間の加速試験でも、接触角は110°以上となっており、良好な撥油性能が維持されていることが分かる。
1 内輪
1a 軌道面
1b 対向面
2 外輪
2a 軌道面
2b 溝
3 転動体
5 密封装置(シールド鋼板)
5a 外端部
5b 内端部(対向部分又はシール部)
7 貫通孔
10 金属製部材又は高分子材料製部材
20 金属酸化物層
30 撥水撥油層
C 隙間
L 潤滑剤

Claims (14)

  1. 内輪と、外輪と、前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪とのうち一方の軌道輪に取り付けられ他方の軌道輪に隙間を空けて対向する金属製の密封装置と、を備える転がり軸受において、
    前記密封装置のうち前記一方の軌道輪に取り付けられる取付部と、前記密封装置のうち前記他方の軌道輪に対向する対向部分との少なくとも一方に、親水性を有する母材の表面に撥水性及び撥油性を付与する表面処理が施されており、
    この表面処理は、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属と炭素数が1個以上6個以下のアルコキシ基とアルキル基若しくはハロゲン基とを備える金属アルコキシド又は前記金属のハロゲン化合物と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ,チタニア,及びアルミナのうち少なくとも1種の金属酸化物粒子と、を含有し且つpHが6以下であり前記金属酸化物粒子の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である第一の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第二の溶液をさらに接触させることにより、前記母材の表面に前記金属の酸化物からなる金属酸化物層を形成した後に、前記母材の表面に形成された前記金属酸化物層に、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えるカップリング剤と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、を含有し且つpHが6以下である第三の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第四の溶液をさらに接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油処理であることを特徴とする転がり軸受。
  2. 前記表面処理は、水と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
  3. 前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間内に、前記両軌道面と前記転動体の転動面との間の潤滑を行う潤滑剤が配されており、前記表面処理は、前記潤滑剤と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
  4. 前記隙間がY1≦18451/Xなる式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の転がり軸受。ただし、式中のY1は前記隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が軸受使用時に変化する量(単位はPa)である。
  5. 前記隙間がY1≦18451/Xなる式を満足することを特徴とする請求項3に記載の転がり軸受。ただし、式中のY1は前記隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に前記潤滑剤を配した際に変化する量(単位はPa)である。
  6. 前記密封装置の取付部は、前記一方の軌道輪が有する凹部にカシメにより取り付けられており、前記密封装置の取付部の一部分と前記凹部の内面との間にカシメ部隙間が形成されていて、このカシメ部隙間がY2≦18451/Xなる式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の転がり軸受。ただし、式中のY2は前記カシメ部隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が軸受使用時に変化する量(単位はPa)である。
  7. 前記密封装置の取付部は、前記一方の軌道輪が有する凹部にカシメにより取り付けられており、前記密封装置の取付部の一部分と前記凹部の内面との間にカシメ部隙間が形成されていて、このカシメ部隙間がY2≦18451/Xなる式を満足することを特徴とする請求項3に記載の転がり軸受。ただし、式中のY2は前記カシメ部隙間の大きさ(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に前記潤滑剤を配した際に変化する量(単位はPa)である。
  8. 内輪と、外輪と、前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪とのうち一方の軌道輪に取り付けられ他方の軌道輪に滑り接触又は隙間を空けて対向する密封装置と、を備え、軸受内外を連通する貫通孔からなるブリーザー構造が前記密封装置に形成された転がり軸受において、
    前記密封装置のうち前記一方の軌道輪に取り付けられる取付部と、前記密封装置のうち前記他方の軌道輪に滑り接触又は隙間を空けて対向するシール部と、前記貫通孔の内面とのうち少なくとも一つに、親水性を有する母材の表面に撥水性及び撥油性を付与する表面処理が施されており、
    この表面処理は、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属と炭素数が1個以上6個以下のアルコキシ基とアルキル基若しくはハロゲン基とを備える金属アルコキシド又は前記金属のハロゲン化合物と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ,チタニア,及びアルミナのうち少なくとも1種の金属酸化物粒子と、を含有し且つpHが6以下であり前記金属酸化物粒子の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である第一の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第二の溶液をさらに接触させることにより、前記母材の表面に前記金属の酸化物からなる金属酸化物層を形成した後に、前記母材の表面に形成された前記金属酸化物層に、シリコン,チタン,及びアルミニウムのうち少なくとも1種の金属とフッ素とを備えるカップリング剤と、水と、炭素数が1個以上6個以下のアルコールと、を含有し且つpHが6以下である第三の溶液を接触させた上、pHが11以上13以下である第四の溶液をさらに接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油処理であることを特徴とする転がり軸受。
  9. 前記密封装置は高分子材料製であり、
    前記密封装置のうち前記一方の軌道輪に取り付けられる取付部と、前記密封装置のうち前記他方の軌道輪に滑り接触又は隙間を空けて対向するシール部と、前記貫通孔の内面とのうち少なくとも一つに、親水性を付与する親水化処理が施されることで親水性を有する状態とされた母材の表面に、前記表面処理がさらに施されていることを特徴とする請求項8記載の転がり軸受。
  10. 前記表面処理は、水と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることを特徴とする請求項8または9に記載の転がり軸受。
  11. 前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間内に、前記両軌道面と前記転動体の転動面との間の潤滑を行う潤滑剤が配されており、前記表面処理は、前記潤滑剤と前記母材の表面との接触角が110°以上となるような撥水撥油処理であることを特徴とする請求項8または9に記載の転がり軸受。
  12. 前記貫通孔の径がZ≦18451/Xなる式を満足することを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の転がり軸受。ただし、式中のZは前記貫通孔の径(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が軸受使用時に変化する量(単位はPa)である。
  13. 前記貫通孔の径がZ≦18451/Xなる式を満足することを特徴とする請求項11に記載の転がり軸受。ただし、式中のZは前記貫通孔の径(単位はμm)であり、Xは前記内輪と前記外輪と前記密封装置とで囲まれた軸受内部空間の内圧が、軸受静止状態で前記軸受内部空間内に前記潤滑剤を配した際に変化する量(単位はPa)である。
  14. 前記貫通孔が、前記内圧の変化量がゼロとなるように形成されていることを特徴とする請求項12または13のいずれか1項に記載の転がり軸受。
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