JP5810682B2 - 転がり軸受の軌道輪の製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献23の方法は、被成膜部材を、水と少なくとも1種のアルコキシ金属塩とを必須成分とする第一の溶液に接触させた後、pH11〜13のアルカリ性溶液である第二の溶液と接触させることにより、前記被成膜部材の表面に金属酸化物層を形成する第1の工程と、前記第1の工程の後に、前記被成膜部材を、フッ素含有有機化合物を含む溶液である第三の溶液と接触させた後、pH9〜14のアルカリ性溶液である第四の溶液と接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する第2の工程と、を含む撥水撥油膜の形成方法である。
また、特許文献24には、転がり軸受の内輪および外輪のシールを取り付けるシール溝に、処理液(前記第一〜第四溶液)を塗布する方法で撥水撥油膜を形成することが記載されている。
しかし、軌道輪の密封装置との対向面を処理液と接触させる複数の処理液接触工程を経て撥水撥油膜を形成する方法では、前記複数の処理液接触工程として前記対向面のみに処理液を塗布する工程を採用すると、塗布量の制御が難しく、均一な撥水撥油膜を形成することが難しい。すなわち、軌道輪の密封装置との対向面を処理液と接触させる複数の処理液接触工程を経て撥水撥油膜を形成する方法として、量産性に優れた方法が求められている。
この発明の課題は、軌道輪の密封装置との対向面のみに撥水撥油膜を形成できる量産性に優れた方法を提供することである。
(1) 前記軌道輪を、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であり、シリカ、チタニア、またはアルミナからなる金属酸化物微粒子と、を必須成分とし、前記金属酸化物微粒子の含有率は0.1重量%以上5.0重量%以下であり、pHが6以下である第一の溶液に浸漬した後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二の溶液に浸漬することにより、前記軌道輪の表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程。
金属酸化物微粒子の平均一次粒径は、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下である。また、平均一次粒径が異なる金属酸化物微粒子を混合して使用することも可能である。平均一次粒径が1nm未満では、表面積率の増大効果が少なく、200nmを超えると、被成膜部材表面から脱落しやすくなる。
前記第二の溶液および第四の溶液は、特に、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等も使用できる。また、各種のpH緩衝剤を併用してもよい。
図1の転がり軸受は、内輪(軌道輪)1、外輪(軌道輪)2、複数個のボール(転動体)3、保持器4、および2枚のシールド(非接触型の密封装置)5からなる深溝玉軸受である。
内輪1の外周面の軸方向中央に軌道面1aが形成され、内輪1の外周面の軸方向両端部に、シールド5の内縁部5bと対向させる溝1bが形成されている。外輪2の内周面の軸方向中央に軌道面2aが形成され、外輪2の内周面の軸方向両端部に、シールド5の外縁部5aを嵌入する溝2bが形成されている。シールド5の外縁部5aが外輪2の溝2bに加締めにより嵌入され、シールド5の内縁部5bが内輪1の対向面1bと隙間Cを空けて対向している。
先ず、高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製の素材を内輪1および外輪2の形状に加工した後、熱処理を施して硬さをHRC60に調整した。次に、以下に示す方法で、内輪1および外輪2の全表面に撥水撥油膜を形成する撥水撥油膜形成工程を行った後、研削工程を行った。
溶液A〜Cを処理液として用意する。溶液Aは、前記構成(1) と(2) を有する好適な撥水撥油膜形成工程の第一の溶液に相当し、テトラエトキシシラン6.1質量%、水6.1質量%、エタノール87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ粒子0.8質量%を含有し、塩酸によりpHを3.0に調整されたものである。なお、溶液Aは、まずエタノールにシリカ粒子を加えて防爆型ホモジナイザーで撹拌した後に、テトラエトキシシランと水と塩酸を加えることにより調製した。
次に、内輪1および外輪2を約25℃の溶液C(調製後30分経過したもの)に30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、内輪1および外輪2を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B(第四の溶液)に30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Bを攪拌した。30分間の浸漬後、内輪1および外輪2を引き上げてエタノールで洗浄した後、160℃のクリーンオーブン中で30分間乾燥を行った。そして、冷却後に、エタノール中で超音波洗浄を行った。この段階で、内輪1および外輪2の全表面には、前述のシリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成されている。
内輪1については、シールド5との対向面1b以外の部分、すなわち、軌道面1a、外周面の軌道面1aと対向面1b以外の部分1cと、軸方向両端面1dと、内周面1eを研削した。外輪2については、シールド5を取り付ける溝2b以外の部分、すなわち、軌道面2a、内周面の軌道面2aと対向面2b以外の部分2cと、軸方向両端面2dと、外周面2eを研削した。
これにより、内輪1のシールド5との対向面1bと、外輪2のシールド5を取り付ける溝2bにのみ、撥水撥油膜が形成された状態となる。
さらに、図1の深溝玉軸受は、一方のシールド5にブリーザー構造が形成されているため、温度上昇等による内圧の上昇が抑制される。
次に、上述の実施形態の方法で撥水撥油膜を形成した内輪1と外輪2、特許文献24に記載された方法で撥水撥油膜を形成した内輪1と外輪2、および撥水撥油膜を形成しない内輪1と外輪2を用いて、それぞれ図1の深溝玉軸受を組み立てて、密封軸受としての性能を調べる試験を行った。
サンプルNo.1の軸受として、上述の実施形態の方法で製造した内輪1および外輪2と、以下の方法で製造したシールド5と、別途用意したボール(転動体)3および保持器4を用いて、図1の構造を有する呼び番号6203の深溝玉軸受を組み立てた。
図1の深溝玉軸受の2枚のシールド5は、冷間圧延鋼板をプレス成形したものであり、一方のシールド5には、軸受内外を連通する直径200μmの貫通孔7が1個、ピンバイスにより形成されている。これにより、一方のシールド5にブリーザー構造が形成されている。この貫通孔7は、内輪1よりも外輪2に近い径方向位置に形成されており、その位置は、内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の径方向距離の5/6の位置である。
先ず、シールド5をメタノール中で超音波洗浄した後、乾燥させた。その直後に、シールド5を約25℃の溶液A(調製後30分経過したもの)に30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Aを攪拌した。30分間の浸漬後、シールド5を引き上げて、溶液Aの揮発成分が蒸発した後、速やかに約25℃の溶液Bに30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Bを攪拌した。これにより、テトラエトキシシランは加水分解を受けてシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合によりシリカとなる。
サンプルNo.2の軸受として、下記の方法で製造した内輪1および外輪2と、上述の方法で製造したシールド5と、別途用意したボール(転動体)3および保持器4を用いて、図1の構造を有する呼び番号6203の深溝玉軸受を組み立てた。
内輪1および外輪2は以下の方法で製造した。
先ず、高炭素クロム鋼第2種(SUJ2)製の素材を内輪1および外輪2の形状に加工した後、熱処理を施して硬さをHRC60に調整した。次に、内輪1および外輪2の全表面に研削工程を行った。次に、以下の方法で撥水撥油膜を形成した。
これにより、内輪1のシールド5との対向面1bと、外輪2のシールド5を取り付ける溝2bにのみ、撥水撥油膜が形成された状態とした。
また、撥水撥油膜を形成しない以外は上記と同じ方法で製造した内輪1および外輪2と、撥水撥油膜を形成しない以外は上記と同じ方法で製造したシールド5と、別途用意したボール(転動体)3および保持器4を用いて、No.3の深溝玉軸受を組み立てた。
No.1〜No.3の深溝玉軸受の軸受内部空間に0.25gのエステル油を封入して、潤滑油の漏洩試験を行った。このエステル油は、100℃における動粘度が31mm2 /sであり、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、防錆剤、および金属不活性化剤が配合されている。
漏洩試験は、No.1〜No.3の深溝玉軸受を、回転速度:5000min-1、アキシアル荷重:19.6N、試験温度:室温の条件で5時間回転させ、この間に転がり軸受から漏洩した潤滑油の量を逐次測定し、潤滑油の漏洩率(潤滑油の漏洩量/封入量)を算出した。その結果を図3のグラフに示す。
1a 軌道面
1b シールドの内縁部と対向させる溝(密封装置との対向面)
1c 内輪外周面の軌道面と対向面以外の部分
1d 内輪の軸方向端面
1e 内輪の内周面
2 外輪(軌道輪)
2a 軌道面
2b シールドの外縁部を嵌入する溝(密封装置との対向面)
2c 外輪内周面の軌道面と溝以外の部分
2d 外輪の軸方向端面
2e 外輪の外周面
3 ボール(転動体)
4 保持器
5 シールド(密封装置)
5a 外縁部
5b 内縁部
7 貫通孔
10 軌道輪
20 金属酸化物層
30 撥水撥油層
C シールドと内輪との隙間
L 潤滑剤
Claims (2)
- 密封装置を備えた転がり軸受を構成する軌道輪の製造方法であって、
軌道輪の全体を処理液に浸漬する複数の処理液接触工程を経て、前記軌道輪の全表面に撥水撥油膜を形成した後に、
前記軌道輪の密封装置との対向面以外の部分を研削することにより、前記対向面にのみ前記撥水撥油膜が形成された状態にすることを特徴とする転がり軸受の軌道輪の製造方法。 - 前記撥水撥油膜形成工程は、
前記軌道輪を、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であり、シリカ、チタニア、またはアルミナからなる金属酸化物微粒子と、を必須成分とし、前記金属酸化物微粒子の含有率は0.1重量%以上5.0重量%以下であり、pHが6以下である第一の溶液に浸漬した後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二の溶液に浸漬することにより、前記軌道輪の表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程と、
前記金属酸化物層形成工程の後に、前記軌道輪を、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である第三の溶液に浸漬した後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第四の溶液に浸漬することにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程と、を有する方法である請求項1記載の転がり軸受の軌道輪の製造方法。
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