JP2007162774A - 密封軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】高速回転下で使用されても、軸受外部への潤滑剤の漏出を抑制できる密封軸受を提供する。
【解決手段】内輪1のシールド5との対向面1bの表面粗さ(Ra)を0.10μm以上1.0μm以下とするとともに、この対向面1bに、潤滑剤Jに対する接触角が50°以上となるような撥油膜6を形成する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、密封軸受に関する。
ハードディスクドライブ(HDD)等の駆動装置や、自動車や、各種動力装置の回転軸を支持するための転がり軸受としては、軸受内部に潤滑剤を封入するために、密封装置を備えた密封軸受を用いることが知られている。
密封軸受では、軸受内部に封入する潤滑剤が密封装置と軌道輪との間から軸受外部に漏出すると、軸受外部では漏出した潤滑剤により発塵量が増大するとともに、軸受内部では潤滑不足によりトルクが増大するという問題がある。
そこで、特許文献1及び特許文献2では、密封軸受を構成する部材において、潤滑剤が漏出し易い部分に撥油性を持たせて、潤滑剤をはじくことにより、軸受外部への潤滑剤の漏出を抑制する技術が提案されている。
特許文献1では、密封軸受において、シールドの外輪内周面に固定される側の端部に弾性部材を設け、シールドの内輪外周面に対向配置される側の端面と、この端面に対向配置される内輪外周面とのうち少なくとも一方に、撥油膜を形成して、撥油性を持たせることが提案されている。
特許文献2では、密封軸受において、軸受内部を形成する構成部材の表面(例えば、シールドの内周面、内輪の外周面、外輪の内周面)のうち少なくともいずれかに、撥油性を持たせることが提案されている。
特開平11−62998号公報 特開2003ー254342号公報
近年、装置の更なる高性能化を図るために、回転軸を支持するための転がり軸受には発塵量及びトルクの更なる低減が要求されてきている。
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の密封軸受において、撥油膜により撥油性を持たせた場合には、高速回転下で使用されると撥油膜が剥離し易く、撥油性を維持することが難しくなるため、軸受外部への潤滑剤の漏出を抑制できず、上述した要求に対応できない場合がある。
そこで、本発明は、高速回転下で使用されても、軸受外部への潤滑剤の漏出を抑制できる密封軸受を提供することを課題としている。
このような課題を解決するために、本発明は、互いに対向配置される軌道面を有する一対の軌道輪と、この一対の軌道輪の間に転動自在に配置され、前記軌道面に対する転動面を有する複数の転動体と、前記一対の軌道輪の間に配置され、前記一対の軌道輪のうち一方に固定され、他方に隙間を介して対向配置される密封装置と、を備え、前記軌道輪及び前記密封装置により形成される軸受内部に潤滑剤が封入される密封軸受において、前記密封装置の前記軌道輪との対向面と、前記軌道輪の前記密封装置との対向面のうち少なくとも一方は、表面粗さ(Ra)が0.10μm以上1.0μm以下となっているとともに、この対向面には、前記潤滑剤に対する接触角が50°以上となるような撥油膜が形成されていることを特徴とする密封軸受を提供する。
本発明の密封軸受によれば、密封装置(例えば、シールド又は非接触シール)の軌道輪との対向面と、軌道輪の密封装置との対向面のうち少なくとも一方において、表面粗さ(Ra)を0.10μm以上1.0μm以下とし、この対向面に、潤滑剤(例えば、潤滑油やグリース)に対する接触角が50°以上となるような撥油膜を形成したことにより、対向面の表面粗さをなす凹部に撥油膜が密着して形成される。よって、高速回転下で使用されても、撥油膜が剥離し難くなり、撥油性が維持されるため、軸受外部への潤滑剤の漏出が抑制されて、発塵量及びトルクをともに低減できる。
ここで、撥油膜を密着して形成し、高速回転下における発塵量やトルクの低減を図るために、撥油膜が形成される前の対向面の表面粗さ(Ra)を0.10μm以上1.0μm以下とする。
また、潤滑剤の漏出抑制効果を十分に得るために、潤滑剤に対する接触角が50°以上となるような撥油膜を形成する。一方、潤滑剤に対する接触角は、180°に近づく程、油をはじく能力(撥油性)が向上するため、出来るだけ大きくすることが好ましいが、撥油膜の形成に要するコストを考慮して、潤滑剤に対する接触角が160°以下となるような撥油膜を形成することが好ましい。さらに好ましくは、撥油膜の潤滑剤に対する接触角を、90°よりも大きく、160°以下とする。
すなわち、撥油膜が形成される前の対向面の表面粗さ(Ra)を上記範囲にすると、対向面にほど良く撥油膜が保持吸着されるため、潤滑剤に対する接触角が50°以上160°以下となるような撥油膜を容易に形成できる。
本発明の密封軸受は、例えば、HDD等の各種駆動装置や、自動車等のトランスミッションや、風力発電機等の各種動力装置の回転軸を支持する密封軸受として好適に用いることができる。
また、本発明において表面粗さ(Ra)を調節する方法としては、例えば、略球状をなすショット材(例えば、(直径2.5μm以上60μm以下の鋼球)を所定の噴射圧力(例えば、0.2MPa以上1.0MPa以下)で噴射(ショットピーニング)する方法が挙げられる。
さらに、本発明において撥油膜を形成する方法としては、例えば、撥油剤を含有する溶液中に密封装置や軌道輪を所定時間浸漬させた後に引きあげて、それらに付着した溶液を乾燥させる方法や、密封装置や軌道輪の対向面に撥油剤を含有する溶液をスプレー噴射により付着させて、それらに付着した溶液を乾燥させる方法や、密封装置や軌道輪の対向面にテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂をスパッタリングする方法が挙げられる。なお、撥油剤を含有する溶液を用いる場合には、例えば、溶液中の撥油剤の含有率や、乾燥前の付着量や、乾燥条件等を変えることにより、潤滑剤に対する接触角を調節することもできる。
撥油剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤、フッ素系シランカップリング剤、フッ素系ポリマー等のフッ素系処理剤が挙げられる。なお、潤滑剤が、潤滑油(例えば、鉱油、又は、エステル油等の合成油)である場合には、撥油剤としてフッ素系界面活性剤を用いることが好ましい。
さらに、本発明における密封装置では、軌道輪に固定される端部に弾性部材(例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、4,6ナイロンや6,6ナイロン等のポリアミド樹脂のうち一種又は二種以上を組み合わせたもの)を形成することが好ましい。これにより、密封装置を軌道輪に密着して固定することができる。
本発明の密封軸受によれば、密封装置の軌道輪との対向面と、軌道輪の密封装置との対向面のうち少なくとも一方において、表面粗さ(Ra)を0.10μm以上1.0μm以下とし、この対向面に、潤滑剤に対する接触角が50°以上となるような撥油膜を形成すことにより、高速回転下で使用されても、撥油膜が剥離し難く、撥油性が維持されるため、軸受外部への潤滑剤の漏出が抑制されて、発塵量及びトルクを低減できる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態では、密封軸受として、図1に示す呼び番号695ZZのシールド付き玉軸受(内径:5mm,外径:13mm,幅:4mm)を作製した。
この玉軸受は、互いに対向配置される軌道面1a,2aを有する内輪1及び外輪2(軌道輪)と、軌道面1a,2aに対する転動面を有する玉3(転動体)と、保持器4と、シールド(密封装置)5とからなる。そして、軌道輪1,2及びシールド5により形成される空間(軸受内部)には潤滑剤Jが封入されている。
シールド5は、その一端部5aが外輪2の内周面に設けられた凹部2aにかしめにより固定され、その他端部5bが内輪1の軸方向両端部の外周面(以下、「シールド5との対向面」と称す。)1bに隙間を介して対向配置されている。
内輪1は、以下に示す手順で二種類作製した。
まず、高炭素クロム軸受鋼二種(SUJ2)からなる素材を所定形状に加工した後熱処理を施し、次に、シールド5との対向面1bにショットピーニング処理を施した後撥油膜6を形成したNo.1〜No.5の内輪1を作製した。
同様に、SUJ2からなる素材を所定形状に加工した後熱処理を施し、次に、シールド5との対向面1bに直接撥油膜6を形成したNo.6,No.7の内輪1を作製した。
なお、ショットピーニング処理は、直径13〜48μmの鋼球を噴射圧0.4〜0.8MPaで噴射することで行い、処理部分の表面粗さ(Ra)を0.10〜1.00μmとした。
また、撥油膜は、以下に示す手順で形成した。No.1〜No.6においては、同一条件、すなわち、撥油剤として、フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルとエチルアクリレートとの共重合体,日本メクトロン株式会社製,ノックスガードST−430)を含有した溶液を用いて、対向面1bにスプレー噴射により付着させた後、60℃で加熱して付着させた溶液を気化させることで形成した。また、No.7においては、上述したNo.1〜No.6と同様の処理を複数回行うことで、潤滑剤Jに対する接触角θが90°となるように形成した。
その後、公知の接触試験機を用いて、同一条件で撥油膜6が形成されたNo.1〜No.6の各内輪1のシールド5との対向面1bに潤滑剤Jを滴下して、潤滑剤Jに対する接触角θを以下に示す条件で測定した。この結果、表面粗さ(Ra)が0.10〜1.00μmとなるようにショットピーニング処理を施したNo.1〜No.5では、潤滑剤Jに対する接触角θが110〜130°であった。一方、ショットピーニング処理を施していないNo.6では、潤滑剤Jに対する接触角θが10°であった。この結果を、表1に併せて示した。
<接触角測定条件>
試験温度:室温(約25.0℃)
潤滑剤:ポリーαーオレフィン油(40℃での動粘度:30.3mm2 /s)
潤滑剤滴下量:3μl
接触角の観察条件:潤滑剤を滴下してから6秒後
次に、このようにして得られた内輪1と、SUJ2製の外輪2及び玉3と、樹脂製の保持器4と、鋼板製のシールド5とを用いて、表1に示すNo.1〜No.7の玉軸受を作製した。そして、各玉軸受の軸受内部に、上述した接触角θの測定時と同様の潤滑剤J(40℃での動粘度が30.3mm2 /sのポリーαーオレフィン油)を注射器を用いて封入した。なお、潤滑剤Jの封入量は、軸受内部の30体積%に相当する量とした。
そして、得られた玉軸受No.1〜No.7を用いて発塵量測定試験を行った。この結果を、表1に併せて示した。
発塵量の測定は、玉軸受No.1〜No.7を密封容器内に配置して、公知のアウトパーティクルカウンタを用いて行った。まず、密封容器内にフィルタで濾過した空気を供給しつつ、玉軸受の外輪2を1時間高速回転(7200min-1)させた。その後、密封容器内の空気を測定部に導入して、この空気にレーザ光を照射させることにより、0.002832 m3 (0.1ft3 )の空気中に存在する粒径0.1μm以上の微粒子の総数を測定し、発塵量とした。
Figure 2007162774
表1に示すように、内輪1のシールド5との対向面1bの表面粗さ(Ra)を0.10μm以上1.0μm以下とし、この対向面1bに潤滑剤Jに対する接触角θが50°以上となるような撥油膜6を形成した玉軸受No.1〜No.5では、玉軸受No.6,No.7と比べて、発塵量が小さくなっていた。また、No.7の結果から、表面粗さ(Ra)が0.10〜1.00μmでないと、潤滑剤Jに対する接触角θが90°であっても、発塵量が多くなっていることが分かる。
以上の結果より、玉軸受を高速回転下で使用しても、撥油膜が剥がれず、撥油性が維持されて、軸受外部への潤滑剤Jの漏出を抑制できていることが分かる。
なお、本実施形態では、内輪1のシールド5との対向面1bのみを本発明の構成(撥油膜6及び表面粗さ)とした場合について説明したが、密封装置の軌道輪との対向面と、軌道輪の密封装置との対向面のうち少なくとも一方を本発明の構成とするのであれば、これに限らない。例えば、密封装置の軌道輪との対向面のみを本発明の構成としてもよいし、密封装置の軌道輪との対向面と、軌道輪の密封装置との対向面の両方を本発明の構成としてもよい。
また、本実施形態では、密封軸受の一例として単列の軌道面を有し、転動体として玉を用いた玉軸受について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、複列の軌道面を有する密封軸受や、転動体としてころを用いた密封軸受に適用してもよい。
本発明に係る密封軸受の一例として玉軸受を示す断面図である。
符号の説明
1 内輪(軌道輪)
1a 軌道面
1b 外周面(シールドとの対向面)
2 外輪(軌道輪)
2a 軌道面
2b 凹部
3 玉(転動体)
4 保持器
5 シールド(密封装置)
6 撥油膜
J 潤滑剤

Claims (1)

  1. 互いに対向配置される軌道面を有する一対の軌道輪と、この一対の軌道輪の間に転動自在に配置され、前記軌道面に対する転動面を有する複数の転動体と、前記一対の軌道輪の間に配置され、前記一対の軌道輪のうち一方に固定され、他方に隙間を介して対向配置される密封装置と、を備え、前記軌道輪及び前記密封装置により形成される軸受内部に潤滑剤が封入される密封軸受において、
    前記密封装置の前記軌道輪との対向面と、前記軌道輪の前記密封装置との対向面のうち少なくとも一方は、表面粗さ(Ra)が0.10μm以上1.0μm以下となっているとともに、この対向面には、前記潤滑剤に対する接触角が50°以上となるような撥油膜が形成されていることを特徴とする密封軸受。
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