JP2012167333A - 缶ボディ用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

缶ボディ用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【目的】薄肉化した場合でも、高強度が得られ、高成形性および所定の缶体強度をそなえた缶ボディ用アルミニウム合金板を提供する。
【構成】Mn:1.1〜1.3%、Mg:1.0〜1.5%、Cu:0.15〜0.3%、Fe:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.3%を含有し、(Mn%/Fe%):3.0〜4.0、(Mg%/Mn%)>1.0、(Mn%+Mg%+Cu%):2.6〜3.1の関係を満足し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる板厚が0.23〜0.27mmの冷間圧延板であり、該冷間圧延板について、45°方向の耳率が2.5〜3.5%、(45°方向の耳率)>(0−180°方向の耳率)の関係を有し、205℃で10分間の空焼きを行った後の耐力が280〜320MPa、該空焼き前後の引張強さおよび耐力の差がいずれも15MPa以上であることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、缶ボディ用アルミニウム合金板、詳しくは、薄肉とした場合でも高強度が得られ、絞り加工またはDI加工(絞り、しごき加工)により缶ボディに成形し塗装焼付けあるいは熱処理した場合においても缶体強度を高く保持できる缶ボディ用アルミニウム合金板、およびその製造方法に関する。
アルミニウム合金板からなる飲料缶の缶ボディは、板材に塗油を施し、カップ成形、DI加工、トリミング、洗浄、乾燥、塗装、焼付け、ネッキングおよびフランジ加工の工程を経て製造される。缶体重量の軽減は、輸送コスト低減のみならず、環境保全のためにも有効であり、そのためには素材の薄肉化が必要である。しかしながら単純に薄肉化した場合、缶体強度が低下するため、缶体の座屈や、缶体の運搬、取扱い過程で、とくに薄肉の缶壁部が突起物に押し当てられると、缶壁部に凹みが生じ、あるいは突起物の先端が缶壁部を突き刺し、貫通して、内容物が漏洩するという問題が生じる。
上記の問題を解決するためには、素材である缶ボディ用アルミニウム合金板を従来の厚さ0.3mmからさらに薄肉にするとともに、高強度化することが必要であり、絞り加工またはDI加工(絞り、しごき加工)により缶ボディに成形し、塗装焼付けあるいは熱処理した場合においても缶体強度を高く保持できるようにする必要がある。
従来、缶ボディ用アルミニウム合金としては、Al−Mn系アルミニウム合金に、主要合金成分としてMgを添加し強度を向上させたアルミニウム合金が提案されている。Mgの添加は、耐圧強度の必要な5182合金に代表される缶エンド材と、成形性が要求される缶ボディ材を、とくにリサイクルの観点から同じ成分で得ようとする材質統合化の流れにも対応し得るものであり、種々のMg含有量を有する缶ボディ用アルミニウム合金が提案されている(特許文献1〜10参照)。
しかしながら、上記のアルミニウム合金は、Mg含有量が1%程度の従来の缶ボディ用アルミニウム合金であるJIS3004合金(Al−1.0〜1.5%Mn−0.8〜1.3%Mg)、3104合金(Al−0.8〜1.4%Mn−0.8〜1.3%Mg)あるいはAA3204合金(Al−0.8〜1.5%Mn−0.8〜1.5%Mg)に比べて、強度の向上は得られるが、薄肉化したときのDI成形および絞り加工時の成形性と缶体強度の両立に関しては、満足すべきものは得られていない。
また、缶体の流通過程において、缶胴部に異物が接触したり衝突したり、あるいは缶胴部間に異物が挟まったりすることに起因して、缶壁にピンホールと呼ばれる微小な孔状の欠陥が生じ、内容物が漏れるという問題もあり、この問題を解消するものとして、ピンホール性に優れた缶用アルミニウム合金板が提案されており(特許文献11参照)、また、缶壁のピンホール評価として用いられる突き刺し強度を高めたアルミニウム合金板も提案されているが(特許文献12参照)、これらのアルミニウム合金板も缶体の素材として必ずしも十分なものではない。
特開昭58−224145号公報 特開昭61−261466号公報 特開昭57−120648号公報 特開平5−112854号公報 特開平3−207840号公報 特開平4−362151号公報 特開2000−309838公報 特開2000−309839号公報 特開2001−3130号公報 特開2001−32032号公報 特開2007−197817号公報 特開2006−77296号公報
本発明は、3000系(Al−Mn系)アルミニウム合金をベースとする缶ボディ用アルミニウム合金板において、上記従来の難点を解消するためになされたものであり、その目的は、0.23〜0.27mmの薄肉とした場合でも、高強度が得られ、高成形性および所定の缶体強度をそなえた缶ボディ用アルミニウム合金板、およびその製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するための請求項1による缶ボディ用アルミニウム合金板は、Mn:1.1〜1.3%、Mg:1.0〜1.5%、Cu:0.15〜0.3%、Fe:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.3%を含有し、(Mn%/Fe%):3.0〜4.0、(Mg%/Mn%)>1.0、(Mn%+Mg%+Cu%):2.6〜3.1の関係を満足し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる板厚が0.23〜0.27mmの冷間圧延板であり、該冷間圧延板について、45°方向の耳率が2.5〜3.5%、(45°方向の耳率)>(0−180°方向の耳率)の関係を有し、205℃で10分間の空焼きを行った後の耐力が280〜320MPa、該空焼き前後の引張強さおよび耐力の差がいずれも15MPa以上であることを特徴とする。なお、以下の説明において、合金成分値はすべて質量%で示す。
請求項2による缶ボディ用アルミニウム合金板は、請求項1において、前記冷間圧延板を缶ボディに成形する前に樹脂層が被覆されてなることを特徴とする。
請求項3による缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項1記載の缶ボディ用アルミニウム合金板を製造する方法であって、請求項1記載の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を、均質化処理後、熱間粗圧延と熱間仕上げ圧延からなる熱間圧延を行い、該熱間粗圧延は熱間粗圧延スタンドにおいて、開始温度を500〜540℃、終了温度を430〜480℃として、板厚15〜30mmまで圧延し、熱間粗圧延終了後の圧延材を熱間仕上げ圧延スタンドに移行して、終了温度を310〜350℃とする熱間仕上げ圧延を行い、その後、冷間圧延を行って板厚0.23〜0.27mmとすることを特徴とする。
請求項4による缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項3において、前記冷間圧延に先立ち中間焼鈍を行うことを特徴とする。
本発明によれば、板厚を0.23〜0.27mmに薄肉化した場合でも高強度が得られ、絞り加工またはDI加工により缶ボディに成形し塗装焼付けあるいは熱処理した場合においても、缶体強度を高く保持できる缶ボディ用アルミニウム合金板およびその製造方法が提供される。
実施例において、ボトムしわ最大高さを測定するために用いられる缶状体の底部を示す図で、詳しくは、アルミニウム合金板のDI加工の途中の再絞り加工工程で得られた缶状体の底部を示す図である。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板における合金成分の意義および限定理由は以下のとおりである。
Mnは、成形される缶ボディの強度を付加的に向上させ、さらに、Al−Mn−Fe−(Si)系金属間化合物を分散させて、しごき加工時の金型への焼付きを防止し、しごき加工性を向上させるよう機能する。好ましい含有量は1.1〜1.3%の範囲であり、1.1%未満では強度向上効果が得られず、1.3%を超えると、Fe量にもよるが、Al(Mn、Fe)の粗大な晶出物が発生し、しごき加工時に破胴が生じ易くなる。また樹脂被覆板の場合は、上記の粗大な晶出物により樹脂が損傷して缶体の耐腐食性悪化、フランジ加工性や巻き締め時の割れなどが発生し易くなる。さらに、Al−Mn−Si系金属間化合物が大きくなり量も増加するため、突き刺し試験時の亀裂の伝播経路となり望ましくない。このAl−Mn−Si系金属間化合物は2μm以下が好ましい。
Mgは、成形される缶ボディの強度を高めるよう機能する。好ましい含有量は1.0〜1.5%の範囲であり、1.0%未満では強度向上効果が得られず、1.5%を超えると、耳率の制御が困難となり、また均質化処理時にMgの酸化が促進され、板面品質が低下する。
Cuは、Mgと共に、固溶したり、Al-Mg-Cu系化合物を形成して、成形される缶ボディの強度を付加的に向上させ、また塗装焼き付けなどの加熱による軟化を抑制するよう機能する。好ましい含有量は0.15〜0.3%の範囲であり、0.15%未満では強度向上効果が得られず、0.3%を超えて含有すると加工硬化が大きく成りすぎて成形性が低下し、また耐食性が低下する等の弊害が生じる。
Feは、不純物として不可避的に含有されるものであり、好ましい含有量は0.1〜0.4%の範囲である。0.1%未満では、材料の製造において99.9%以上の純度の地金の使用が多くなり、再生材を多く使用する缶ボディ材としてはリサイクルの観点から好ましくない。本発明においては、Mnにより強度を付与するため、Feが0.4%を超えると、粗大なAl(Mn、Fe)化合物や、均質化処理で変態して生成するAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物が大きくなり量も増加するため、成形性や突き刺し強度の低下を招く。このAl−Mn−Fe−(Si)系金属間化合物は小さい方が好ましい。
Siは、不純物として不可避的に含まれるものであり、好ましい含有量は0.1〜0.3%の範囲である。0.1%未満では、材料の製造において99.9%以上の純度の地金の使用が多くなり、再生材を多く使用する缶ボディ材としてはリサイクルの観点から好ましくない。0.3%を超えると、Al-Mn-Si系金属間化合物や粗大なMgSi金属間化合物が生成し、強度向上の妨げとなる。また、突き刺し試験時の割れの伝播経路と成り、突き刺し強度向上の妨げとなる。
Mn含有量とFe含有量との比(Mn%/Fe%)は、Al−Mn−Fe系化合物の生成に影響し、空焼き後の耐力、45°方向の耳と0−180°方向の耳のバランス、缶体に成形した後の耐圧、突き刺し強度およびフランジ成形性に影響を与える。本発明において、(Mn%/Fe%)の好ましい範囲は3.0〜4.0である。
(Mn%/Fe%)が3.0未満では、空焼き後の耐力が280MPaを下回る傾向にあり、0−180°耳が45°耳より大きくなり、カッピングの際のカップ端部のしわを誘発し、DI成形時に缶壁が割れ易くなり、また、フランジ成形時にフランジ部が割れ易くなる。また、缶体の耐圧が600kPaを下回り、突き刺し強度も40N未満になる傾向にある。(Mn%/Fe%)が4.0を超えると、空焼き後の耐力が320MPaを超える傾向にあり、延性不足により、ネック成形性が低下し、また、フランジ成形時にフランジ部が割れ易くなる。
Mg含有量とMn含有量の比(Mg%/Mn%)は、空焼き前後の強度差に影響する。本発明において、(Mg%/Mn%)の好ましい範囲は1.0を超える範囲である。(Mg%/Mn%)の値が1.0を超えると、Mg添加による均一変形性能向上によりボトムしわの発生を抑制し、また、DI成形性を向上させる効果がある。また、Mgによる加工硬化能の向上により元板強度が増加し、その後の空焼きでの回復量が多くなるため、空焼き前後の引張強さ及び耐力の差が15MPa以上となる傾向にあり、絞り加工時のしわ低減、およびフランジ成形性を向上させる効果がある。(Mg%/Mn%)が1.0以下では、ボトムしわが発生し易く、さらに空焼き前後の引張強さ及び耐力の差は15MPa未満となる傾向にあるため、DI成形時に缶胴が割れ易くなり、フランジ成形時にフランジ部が割れ易くなる。
Mn含有量とMg含有量とCu含有量の総和、(Mn%+Mg%+Cu%)は、空焼き後の耐力あるいは空焼き前後の強度差に影響する。本発明において、(Mn%+Mg%+Cu%)の好ましい範囲は2.6〜3.1であり、(Mn%+Mg%+Cu%)が2.6未満では、空焼き後の耐力が280MPa未満となる傾向にあり、缶体に成形した後の耐圧や突き刺し強度が不足する。3.1を超えると、空焼き後の耐力が320MPa超えとなる傾向にあり、延性不足により、フランジ成形時にフランジ部が割れ易くなる。
本発明のアルミニウム合金板においては、45°方向の耳率が2.5〜3.5%であり、(45°方向の耳率)>(0−180°方向の耳率)の関係を有することが重要である。45°方向の耳率が2.5%未満では、相対的に0−180°の耳率が大きくなり好ましくない。45°方向の耳率が3.5%を超えると、カップ成形やDI加工後に耳高の部分が搬送などで引っ掛かり、また、DI加工後の耳高さのバラツキがその後のトリミングで除去されず、巻き締めに重要なフランジ幅の低下を招く。(45°方向の耳率)≦(0−180°方向の耳率)の関係では、カップ成形時の最終にその2箇所が強く引っ張られるため、耳ちぎれとなり、DI加工時の割れにつながる。45°は4方向あるため、4点で支えられ、耳ちぎれが起こり難い。
また、本発明のアルミニウム合金板においては、205℃で10分間の空焼きを行った後、耐力は280〜320MPaの耐力をそなえていることが望ましく、空焼き前後の引張強さおよび耐力の差がいずれも15MPa以上であることが重要である。本発明によるアルミニウム合金板は、上記のように、空焼き後の耐力が高いことを特徴とするため、ネック成形性やフランジ成形性の保持に注意が必要である。上記空焼き前後の引張強さおよび耐力の差のいずれかが15MPa未満では、缶壁部が回復しないため、ネック成形(絞り成形)時に座屈し易く、また、フランジ割れが生じ易くなる。
缶ボディの成形は、前記のように、絞り加工またはDI加工により底付きの円筒状容器を成形し、開口部をトリミング加工、ネッキング加工、フランジ加工することにより行われる。DI加工は、板を円板に打ち抜く工程、円板をカップに絞り加工する工程、カップを缶状体に再絞り加工する工程、缶状体の側壁をしごき加工する工程を含む。
塗装焼付け工程は、通常、缶ボディ成形のトリミング加工後、200〜220℃の温度で5〜20分程度加熱する条件で行われる。缶ボディ成形前に樹脂被覆をしない従来型のアルミニウム合金板を使用する場合には、内容物および外的要因からの耐食性のために、缶外面を印刷してから缶内面に樹脂塗装する。樹脂被覆を施す場合には、樹脂被覆が両面の時は外面印刷のみ、樹脂被覆が缶内面の片面の時は反対面(缶外面)の印刷が施される。
つぎに、本発明のアルミニウム合金板の製造方法を以下に説明する。
前記の組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造で造塊し、得られた鋳塊を均質化処理後、熱間圧延する。均質化処理は、580〜620℃の温度で2〜10時間行うのが望ましい。熱間圧延は、熱間粗圧延スタンドにおいてリバース圧延する熱間粗圧延と、複数タンデム圧延機で構成される熱間仕上げ圧延スタンドで行われる熱間仕上げ圧延からなる。熱間粗圧延の開始温度は500〜540℃、熱間粗圧延上がり板厚は15〜30mm、熱間粗圧延終了温度は430〜480℃とするのが好ましい。熱間粗圧延終了後の圧延材は、熱間仕上げ圧延スタンドに移行して、終了温度を310〜350℃とする熱間仕上げ圧延を行い、板厚を1.7〜2.5mmとする。その後、板厚0.23〜0.27mまで冷間圧延を行う。必要に応じて、冷間圧延に先立ち中間焼鈍を行ってもよく、冷間圧延の後に最終熱処理を施すこともできる。
本発明のアルミニウム合金板を缶ボディに成形するに先立って樹脂層を被覆する場合は、アルミニウム合金板を、アルカリや酸洗浄などによる脱脂、リン酸クロメート処理あるいはZr、Ti、Mn、V系処理などによる化成処理(下地処理)を施した後、板の両面あるいは片面に、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系の樹脂を被覆する。被覆方法としては、フィルムにした樹脂を熱融着でアルミニウム合金板表面にラミネートする方法、樹脂を溶融させて直接被覆する方法などがある。樹脂の被覆の際には、アルミニウム合金板を200〜300℃に加熱する。これら一連の処理は、切り板で実施しても、コイル材を使用して連続的に実施してもよい。
上記製造条件の設定理由は以下のとおりである。
均質化処理温度が580℃未満、均質化処理時間が2時間未満では、鋳塊の粒界晶出物であるAl(Mn、Fe)やMgSiの溶入化が不足して、微細なAl−Mn−Si系化合物が残存するため、熱間圧延終了時に再結晶不良となり易く、冷間圧延後の45°耳率増加の原因となる。均質化処理温度が620℃を超えると、鋳塊の一部に共晶融解が生じ、板表面の面質が悪化し易くなる。10時間を超えて均質化処理を行っても、それ以上の効果が得られず経済的でないため、均質化処理時間は10時間以下とするのが好ましい。
熱間粗圧延の開始温度が500℃未満では、Al−Mn−Si系化合物の析出が促進されるため、Mn固溶量が減少して目的の強度が得られない。540℃を超えると、強度は得られるが、Mgが多く添加されているために、Mgの酸化が促進され板面品質の低下を招く。熱間粗圧延の終了温度が430℃未満では、熱間仕上げ圧延の終了温度を達成するために圧下率や圧延速度の増加が必要となり、板面品質や板歪みの悪化を招く。また、熱間仕上げ圧延の終了温度が低くなり、再結晶が不十分となる。480℃を超えると、熱間仕上げ圧延において、再結晶の駆動力となる歪みエネルギーを蓄積できないため、熱間仕上げ圧延後に十分な再結晶組織が得られず、製品板での45°方向耳率が増大する。
熱間粗圧延上がり板厚が15mm未満では、熱間仕上げ圧延において、再結晶の駆動力となる歪みエネルギーを蓄積できず、熱間仕上げ圧延後に十分な再結晶組織が得られない。熱間粗圧延上がり板厚が30mmを超えると、熱間仕上げ圧延での圧下率が増加することとなり、板面品質や板歪みの悪化を招く。
熱間仕上げ圧延の終了温度が310℃未満では、熱間仕上げ圧延後に十分な再結晶組織が得られないため、45°方向耳率が増大する。熱間仕上げ圧延の終了温度が350℃を超えると、再結晶が促進され、最終製品板の0−180°方向耳率が増加し、また板面品質が低下し易くなる。
熱間仕上げ圧延後の板厚が1.7mm未満では、冷間圧延率の低下による強度不足を招き、熱間仕上げ圧延後の板厚が2.5mmを超えると、冷間圧延率が増大して、冷間圧延後の45°耳率が大きくなる。
冷間圧延の最終上がり温度は170℃以下とするのが好ましい。本発明のアルミニウム合金板はMg、Mnを添加しているため、冷間圧延中の加工発熱により冷間圧延板の温度が上昇し易く、170℃を超えると、材料組織の部分的な回復が起こり強度が得られなくなる。また、生産性の点から、冷間圧延の最終上がり温度は130℃以上とするのが望ましい。
なお、冷間圧延に先立つ中間焼鈍は、熱間仕上げ圧延の上がり温度が310〜320℃の比較的低温の場合、合金組成によっては部分的に再結晶が不十分となることがある。この場合、冷間圧延後の45°耳が大きくなる傾向があるため、より安定した材料とするために、350〜450℃の温度範囲で、箱形焼鈍炉で1〜10時間加熱あるいは連続焼鈍炉で10分以内加熱してもよい。
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を立証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造により造塊し、得られた鋳塊を、常法に従って均質化処理した後、熱間粗圧延スタンドにおいて、530℃の温度で熱間粗圧延を開始し、460℃の温度で熱間粗圧延を終了し、板厚20mmとした。熱間粗圧延を終了した圧延材は、熱間仕上げ圧延スタンドに移行して、終了温度を320℃とする熱間仕上げ圧延を行い、その後、冷間圧延を行って、厚さ0.23〜0.27mmの冷間圧延板とした。表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
得られた冷間圧延板を試験材として、引張試験を行って冷間圧延板(元板)の引張強さ(σB)、耐力(σ0.2)、伸び(δ)を測定し、また、冷間圧延板について、205℃で10分間の空焼きを行い、空焼き後の引張強さ(σB)、耐力(σ0.2)、伸び(δ)を測定し、空焼き前(元板)と空焼き後の引張強さおよび耐力の差を求めた。さらに、45°方向の耳率、90°方向(0−180°方向)の耳率を測定した。結果を表2に示す。表2において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
また、得られた冷間圧延板を、一部については、下記の方法で、片面(缶外面側)の樹脂被覆を行った後、DI加工により缶ボディに成形した。残りについては、樹脂被覆を行うことなしに、DI加工により缶ボディに成形した。
なお、缶ボディへの成形に際し、缶胴壁厚は、アルミニウムの厚みで0.100mmになるようにし、缶底接地径は48mmとなるよう成形した。樹脂被覆を行ったものについては、樹脂の密着性を増すために200℃で30秒間熱処理し、樹脂被覆を行わなかったものについては、内外面に塗装、焼付けに相当する205℃で10分間の熱処理を施した。
樹脂被覆は、冷間圧延板をアルカリ洗浄後、リン酸クロメート(Cr付着量20mg/m)の化成処理を行い、ついで、15μm厚さのポリエステル系樹脂フィルムを200℃に加熱したヒートロールで板の片面のみに熱融着でラミネートした。さらに、270℃で30秒間保持後、水冷した。
前記冷間圧延板(試験材)を缶ボディに成形し、塗装焼付け相当の前記熱処理を施した後の缶(試験缶)、および予め樹脂被覆をした板から缶ボディを成形し、前記の熱処理を行った缶(試験缶)について、以下の方法により、耐圧、突き刺し強度、ボトムしわ高さを測定し、フランジ成形性を評価した。結果を表3に示す。
耐圧:成形された缶ボディの缶底耐圧を測定し、600kPa以上を合格とする。
突き刺し強度:成形された缶ボディから、缶ボディを構成するアルミニウム合金自体の特性をみるために樹脂皮膜を脱膜し、測定を容易にするために缶ボディ(缶胴)のネック部を切り落とした後、缶胴部を測定装置に取り付け、196kPaの内圧をかけた状態で、直径1mm、先端R0.5mmの針を、50mm/分の速度で、缶壁部に突き刺した時の最大荷重を測定した。n=10とし、その平均値を求めた。単位はNである。40N以上を合格とする。なお、現在市販されているアルミニウム合金缶の缶胴には塗膜などが付けられているから、塗膜などが無い時に比べて、突き刺し強度は平均で10N増加する。
ボトムしわ最大高さ:冷間圧延板(試験材)DI加工工程の途中のカップを缶状体に再絞り加工する工程で得られる缶状体を用い、図1に示すように、チャイム部11のしわ12をMitutoyo製の真円度計(型式EC−1010A)2を用いて測定し、最大しわ高さ測定チャートを得た。このチャートは、点Oを中心とした円座標であり、周方向に角度を、径方向にチャイム部の凹凸をとったものである。得られたチャートにおいて、隣り合う山部と谷部について、(山部の外接円の半径の値)から(谷部の外接円の半径の値)を差し引いた値をしわ高さとし、1つの缶状体1の全周におけるしわ高さの分布のうち最大のものを最大しわ高さHとした。また、5つの缶状体の最大しわ高さHの平均値を算出し、その試験材のボトムしわ最大高さとした。ボトムしわ最大高さ750μm以下を合格とする。
フランジ成形性:冷間圧延板(試験材)から100缶づつ製缶し、204径までネッキングし、さらにフランジ幅2.2mmでフランジ加工を行い、フランジ端部の割れの有無を外観の目視観察により評価した。なお、表3において、全缶(100缶)フランジ割れが生じなかったものを合格(○)、1缶でもフランジ割れが生じたものを不合格(×)とした。
Figure 2012167333
Figure 2012167333
Figure 2012167333
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜3はいずれも、強度が高く、適正な耳率をそなえ、試験材1〜3から成形された試験缶1〜3はいずれも、耐圧、突き刺し強度、ボトムしわ最大高さ、フランジ成形性において、良好なものであった。
これに対して、試験材4は、Mn量が少ないため(Mn%+Mg%+Cu%)の値が小さく、空焼き後の耐力が低くなったため、試験材4から成形された試験缶4は耐圧が低く、突き刺し強度も低いものとなった。試験材5は、Mn量およびFe量が多いため、サイズの大きい晶出物が多くなり、試験材5から成形された試験缶5は、突き刺し強度およびフランジ成形性が劣るものとなっている。また、試験材5は(Mn%/Fe%)が低いため、耳率のバランスがわるい。
試験材6は、Mg量が少ないため、(Mn%+Mg%+Cu%)の値が小さく、空焼き後の耐力が低くなり、試験材6から成形された試験缶6は耐圧が低く、突き刺し強度も低いものとなった。試験材7は、Mg量が多いため、(Mn%+Mg%+Cu%)の値が大きく、また(Mn%/Fe%)も高いため、空焼き後の耐力が高すぎて伸びが低く、試験材7から成形された試験缶7はフランジ成形性が劣り、ボトムしわが生じるものとなった。
試験材8は、Cu量が少ないため(Mn%+Mg%+Cu%)の値が小さくなり、またSi量も多いため空焼き後の耐力が低くなり、試験材8から成形された試験缶8は耐圧が低く、突き刺し強度も低いものとなった。試験材9は、Cu量が多いため(Mn%+Mg%+Cu%)の値が大きくなり、空焼き後の耐力が高すぎて、試験材9から成形された試験缶9はフランジ成形性が劣るものとなった。また、試験材9は(Mn%/Fe%)が高いため、耳率のバランスがわるい。
1 DI加工工程の途中の再絞り加工で得られた缶状体
2 真円度計
11 チャイム部
12 しわ

Claims (4)

  1. Mn:1.1〜1.3%(質量%、以下同じ)、Mg:1.0〜1.5%、Cu:0.15〜0.3%、Fe:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.3%を含有し、(Mn%/Fe%):3.0〜4.0、(Mg%/Mn%)>1.0、(Mn%+Mg%+Cu%):2.6〜3.1の関係を満足し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる板厚が0.23〜0.27mmの冷間圧延板であり、該冷間圧延板について、45°方向の耳率が2.5〜3.5%、(45°方向の耳率)>(0−180°方向の耳率)の関係を有し、205℃で10分間の空焼きを行った後の耐力が280〜320MPa、該空焼き前後の引張強さおよび耐力の差がいずれも15MPa以上であることを特徴とする缶ボディ用アルミニウム合金板。
  2. 前記冷間圧延板を缶ボディに成形する前に樹脂層が被覆されてなることを特徴とする請求項1記載の缶ボディ用アルミニウム合金板。
  3. 請求項1記載の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を、均質化処理後、熱間粗圧延と熱間仕上げ圧延からなる熱間圧延を行い、該熱間粗圧延は熱間粗圧延スタンドにおいて、開始温度を500〜540℃、終了温度を430〜480℃として、板厚15〜30mmまで圧延し、熱間粗圧延終了後の圧延材を熱間仕上げ圧延スタンドに移行して、終了温度を310〜350℃とする熱間仕上げ圧延を行い、その後、冷間圧延を行って板厚0.23〜0.27mmとすることを特徴とする請求項1記載の缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
  4. 前記冷間圧延に先立ち中間焼鈍を行うことを特徴とする請求項3記載の缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
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