本発明のゴルフボールは、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤、および(d)硬化剤内包マイクロカプセルを含有するゴム組成物から形成された球形体であって、表面硬度と中心硬度との硬度差が、JIS−C硬度で26以上であり、表面硬度と表面から10mmの地点の硬度との硬度差が、JIS−C硬度で15以上である球形体をゴルフボールの構成要素として有することを特徴とする。
まず、本発明で使用する(d)硬化剤内包マイクロカプセルについて説明する。(d)前記硬化剤内包マイクロカプセルは、芯材である硬化剤が膜材によって内包されたマイクロカプセルである。球形体成形時において、(d)硬化剤内包カプセルが放出した硬化剤が、主に球形体表面部において基材ゴムの硬化反応に関与するが、球形体中心部では、基材ゴムの硬化反応には関与しない理由は、以下の様に考えられる。図1には、170℃×25分の成形条件で球形体を成形したときの成形時間と球形体内部の温度変化を示した。球形体中心温度は、成形開始から約12分で急激に上昇し、金型温度(170℃)を超えて、約215℃のピークに到達した後、徐々に低下した。球形体中心温度の急激な温度上昇は、基材ゴムと共架橋剤との硬化反応の発熱によるものであり、この反応熱が球形体中心部に溜まったためである。この温度変化から、球形体中心部における基材ゴムの硬化反応は、球形体中心温度がピーク温度に到達したときに、ほぼ完了していると考えられる。一方、球形体表面部では、温度が徐々に上昇して、金型温度(170℃)でほぼ一定になった。球形体表面部では、基材ゴムの硬化反応が緩やかに進行しているものと考えられる。
例えば、球形体に硬化剤を放出する温度が170℃の硬化剤内包マイクロカプセルを配合した場合、球形体中心部においては、図1において、球形体中心温度が約170℃のときに、硬化剤内包マイクロカプセルが硬化剤を放出する。しかし、球形体中心部における基材ゴムの硬化反応は、球形体中心温度が170℃に達してからピーク温度に到達するまでの極めて短い時間(わずか1〜2分程度)で完了するため、マイクロカプセルから硬化剤の放出が十分に行われない。そのため、マイクロカプセルに内包された硬化剤は、基材ゴムの硬化反応に、ほとんど関与できないものと考えられる。一方、球形体表面部では、硬化剤内包マイクロカプセルが硬化剤を放出する温度である170℃に達してからも、緩やかに(約13分間程度)基材ゴムの硬化反応が進行していると考えられ、マイクロカプセルから硬化剤が放出される時間が十分あり、基材ゴムの硬化反応に関与することができると考えられる。
本発明で使用する(d)硬化剤内包マイクロカプセルは、加熱により硬化剤を放出するものであることが好ましく、球形体成形温度以下の温度で硬化剤を放出するものであることがより好ましい。球形体成形温度で、硬化剤の放出を制御することができるからである。球形体成形温度は、特に限定されないが、通常、球形体成形時には、球形体表面部は約170℃で前後であるから、硬化剤内包カプセルは、170℃以下の温度で硬化剤を放出するものであることが好ましい。また、硬化剤内包マイクロカプセルは、80℃以下の温度では、硬化剤を放出しないことが好ましい。80℃以下の温度で、硬化剤が放出されると、例えば、ゴム組成物を混練する際に硬化剤が放出されてしまうおそれがある。硬化剤内包カプセルが硬化剤を放出する温度は、例えば、マイクロカプセルの膜材の軟化点により制御することができる。マイクロカプセルの膜材の軟化点は、165℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、85℃以上が好ましい。
なお、マイクロカプセルの膜材の軟化点は、分析装置TMAを使用して測定を行う。具体的な軟化点の測定方法は、板状の膜材サンプルに対して荷重をかけた測定針を載置し、5℃/minなどの所定の昇温速度にて昇温させ、何℃にて測定針がサンプル内に侵入するかを測定する。
(d)前記硬化剤内包マイクロカプセルが含有する硬化剤としては、基材ゴムを硬化するものであれば、特に限定されないが、重合性不飽和結合を少なくとも3個以上有する多官能化合物が好ましい。重合性不飽和結合を少なくとも3個以上有する多官能化合物を用いることによって、基材ゴムを効率的に架橋できるからである。重合性不飽和結合を少なくとも3個以上有する多官能化合物としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニル化合物、または、ポリアリル化合物を挙げることができる。また、重合性不飽和結合を少なくとも3個以上有する多官能化合物は、炭素数が3〜8個の(b)共架橋剤と区別する観点から、炭素数が9以上の多官能化合物であることが好ましい。
前記ポリ(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリロイル基を少なくとも3個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO(ポリエチレンオキサイド)付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO(ポリプロピレンオキサイド)付加トリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどを挙げることができる。前記ポリ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリレートとは、メタクリレートおよび/またはアクリレートを意味し、(メタ)アクリロイル基とは、メタクリロイル基(CH2=C(CH3)−CO−)および/またはアクリロイル基(CH2=C−CO−)を意味する。
前記ポリビニル化合物としては、ビニル基(CH2=CH−)を少なくとも3個以上有する化合物であれば特に限定されず、トリビニルベンゼン、トリビニルナフタレン、トリビニルアントラセン、トリビニルシクロヘキサンなどを挙げることができる。ポリアリル化合物としては、アリル基(CH2=CH−CH2−)を少なくとも3個以上有する化合物であれば特に限定されず、トリアリルトリカルバリラート、トリアリルアコニタート、トリアリルシトラート、トリアリルホスファート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミンなどを挙げることができる。前記ポリビニル化合物としては、トリビニリシクロヘキサンが好ましく、前記ポリアリル化合物としては、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
重合性不飽和結合を少なくとも3個以上有する多官能化合物は、単独で、または、2種以上を混合して使用しても良い。
前記硬化剤内包マイクロカプセルが含有する硬化剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、3.0質量部以上が好ましく、4.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましく、20質量部以下が好ましい。硬化剤の含有量が上記範囲にない場合には、所望のコア硬度分布を得ることが難しくなる。
硬化剤内包マイクロカプセルの膜材は、特に限定されず、熱可塑性樹脂、メラミン−ホルムアヒド樹脂、メラミン樹脂、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、ブテン樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、AS樹脂などを使用することができる。
本発明で使用する硬化剤内包マイクロカプセルは、膜材としてゼラチンを含有することが好ましい。膜材がゼラチンを含有することにより、球形体内部で硬化剤を放出するタイミングの制御が容易になる。すなわち、球形体中心部において、硬化剤内包マイクロカプセルが硬化剤を放出したときには、基材ゴムの硬化反応がほぼ完了しており、放出された硬化剤は、基材ゴムの硬化反応にほとんど関与しない。一方、球形体表面部では、基材ゴムの硬化反応が緩やかに進行しているので、放出された硬化剤が基材ゴムの硬化反応に関与することができる。その結果、球形体の架橋密度は、球形体中心部で低く、球形体表面部で高くなり、球形体表面部の硬度が高くなる。
前記ゼラチンは、コラーゲンを親物質とする動物性タンパク質であり、公知のものを使用することができる。前記ゼラチンとしては、例えば、牛骨、牛皮、および、豚皮などに含まれる難燃性のコラーゲンを酸やアルカリで処理し、熱変性して可溶化したコラーゲン(ペプチド鎖)を用いることができる。ゼラチンは、コラーゲンから抽出する際の処理方法の違いにより、酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンに大別されるが、本発明ではいずれを用いても良い。
硬化剤内包マイクロカプセルの製法としては、一般に知られるマイクロカプセル化する方法が採択される。例えば、相分離法(高分子溶液からその高分子に富んだ相が分離する現象、即ちコアセルベーションを利用したカプセル化方法)、液中乾燥法(芯物質が乳化又は分散されている壁膜物質溶液を、水又は油の媒体中に分散し、然る後、攪拌下、加熱又は減圧によって、壁膜物質が溶解している溶剤を除去して、カプセル膜を形成させる方法)、気中懸濁法(芯物質−粉末−を気流によって流動化し懸濁させて、懸濁粒子表面に膜材を溶解させた溶液を噴霧する。懸濁化空気を加熱して溶媒を蒸発させてカプセル膜を形成させる方法)及び噴霧乾燥法(膜材を溶解させた溶液に芯物質を懸濁させて、その溶液を噴霧、微粒子化して瞬間的に乾燥させて、カプセル化膜を形成させる方法)などが好適である。
本発明で使用する硬化剤内包マイクロカプセルの製法としては、膜材としてゼラチンを用いたコアセルベーションを利用したカプセル化方法を採用することが好ましい。コアセルベーションは、二つの型に分けられる。一つは単純コアセルベーションであり、他は複合コアセルベーションである。単純コアセルベーションは、例えば、等電点にあるゼラチン水溶液に、エタノールあるいは硫酸ナトリウムを添加すると、ゼラチンの溶解度が減少し、ランダムコイル状のゼラチン分子が水溶液中から相分離を起こしてコアセルベートをつくる。このゼラチン溶液に、芯材である硬化剤を分散しておき、この系にエタノールあるいは硫酸ナトリウムを添加してコアセルベーションをおこさせ、温度を下げれば、硬化剤のまわりにゼラチン膜が付着したマイクロカプセルを作ることができる。
複合コアセルベーションは、例えば、以下のような処理によってマイクロカプセルを製造する。
(1)膜材であるゼラチン(ポリカチオン)を含む水溶液に、芯材である硬化剤を分散させ、水溶液中に分散したO/Wエマルジョンとする。
(2)エマルジョンにポリアニオンを添加して混合し、酸を添加してpHを3〜5程度に調整する。これによりコアセルベーションが生じ、コアセルベート皮膜が形成される。
(3)温度を低温にしてコアセルベート滴の皮膜をゲル化させ、さらに硬化剤を添加して皮膜を硬化(架橋および/または変性)させる。
硬化剤をゼラチン水溶液に分散させる際には、ホモディスパー、超音波照射装置、連続乳化装置などの分散装置を用いることが好ましい。エマルジョンに添加するポリアニオンとしては、例えば、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル・無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらの中でも、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを用いることが好ましい。ポリアニオンを混合した後、エマルジョンのpHは酸性、例えばpH=3〜5、好ましくは4〜5に調整される。このときに用いられる酸は、芯物質や皮膜材料の性質を損なわないもの、また硬化反応を阻害しないものを選択することが好ましい。一般には酢酸、クエン酸、コハク酸、シュウ酸、乳酸、サリチル酸等の有機酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が用いられる。コアセルベート皮膜が形成されたエマルジョンを、皮膜のゲル化を行うために引き続き冷却する。通常はエマルジョンを5℃〜25℃、好ましくは5℃〜10℃に冷却して皮膜をゲル化させる。ゲル化した皮膜を硬化させるために、続いてエマルジョンに硬化剤を混合する。
コアセルベートした皮膜を硬化させるための硬化剤としては、特に限定されないが、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドなどのアルデヒド類、カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物、オキサゾリン基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物などを用いることができる。
前記カルボジイミド基を有する化合物としては、例えば、日清紡績社製のカルボジライトV−02、カルボジライトV−02−L2、カルボジライトV−04、カルボジライトV−06、カルボジライトE−02、カルボジライトE−02、カルボジライトV−01、カルボジライトV−03、カルボジライトV−05、カルボジライトV−07、カルボジライトV−09などを挙げることができる。
前記オキサゾリン基を有する化合物としては、例えば、日本触媒社製のエポクロスWS−500、エポクロスK−1010E、エポクロスK−1020E、エポクロスK−1030E、エポクロスK−2010E、エポクロスK−2020E、エポクロスK−2030E、エポクロスRPS−1005、エポクロスRAS−1005などを挙げることができる。
前記エポキシ基含有化合物としては、例えば、ナガセケムテックス社製のデナコールEX−611、デナコールEX−612、デナコールEX−614、デナコールEX−614B、デナコールEX−512、デナコールEX−521、デナコールEX−421、デナコールEX−313、デナコールEX−314、デナコールEX−321、デナコールEX−810、デナコールEX−811、デナコールEX−850、デナコールEX−851、デナコールEX−821、デナコールEX−830、デナコールEX−832、デナコールEX−841、デナコールEX−861、デナコールEX−911、デナコールEX−941、デナコールEX−920、デナコールEX−145、デナコールEX−171などを挙げることができる。
本発明で用いられる硬化剤内包マイクロカプセルの数平均粒子径は、特に限定されないが、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。数平均粒子径が100μm以下の硬化剤内包マイクロカプセルは、ゴム組成物の混練時の圧力に耐えることができ、混練時にマイクロカプセルが壊れず、硬化剤が放出されにくい。また、硬化剤内包マイクロカプセルの数平均粒子径は、5μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。数平均粒子径が5μm以上であれば、基材ゴムへのマイクロカプセルの分散性が良好になる。硬化剤内包マイクロカプセルの平均粒子径は、マイクロカプセルを作製後、150μmのふるいで処理したふるい下を光学電子顕微鏡で観察する。数平均粒子径は、目視により、粒子径が1μm以下のものを排除して、粒子径が1μmよりも大きい粒子100個の粒子径を測定して、数平均することにより算出する。
次に、本発明で使用する(a)基材ゴムについて説明する。(a)基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に、反発に有利なシス−1,4−結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。
前記ハイシスポリブタジエンは、1,2−ビニル結合の含有量が2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると反発性が低下する場合がある。
前記ハイシスポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものが好適であり、特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジム化合物を用いたネオジム系触媒の使用が、1,4−シス結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましい。
前記ハイシスポリブタジエンは、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上であり、140以下が好ましく、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。なお、本発明でいうムーニー粘度(ML1+4(100℃))とは、JIS K6300に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間4分間、100℃の条件下にて測定した値である。
前記ハイシスポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.4以下である。ハイシスポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)が小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下するおそれがある。なお、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC−8120GPC」)により、検知器として示差屈折計を用いて、カラム:GMHHXL(東ソー社製)、カラム温度:40℃、移動相:テトラヒドロフランの条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した値である。
次に、(b)共架橋剤について説明する。(b)共架橋剤は、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有する。(b)共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩が好ましい。本発明で使用するゴム組成物が、共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸のみを含有する場合、ゴム組成物は、(f)金属化合物をさらに含有することが好ましい。ゴム組成物中で炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を金属化合物で中和することにより、共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を使用する場合と実質的に同様の効果が得られるからである。また、共架橋剤として、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とその金属塩とを併用する場合においても(f)金属化合物を用いてもよい。
炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等を挙げることができる。
炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を構成する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。これらの中でも、前記金属イオン成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオンが好ましい。炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二価の金属塩を用いることにより、ゴム分子間に金属架橋が生じやすくなるからである。特に、二価の金属塩としては、得られるゴルフボールの反発性が高くなるということから、アクリル酸亜鉛が好適である。なお、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
(b)共架橋剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましい。(b)共架橋剤の含有量が15質量部未満では、ゴム組成物から形成される球形体を適当な硬さとするために、後述する(c)架橋開始剤の量を増加しなければならず、ゴルフボールの反発性が低下する傾向がある。一方、(b)共架橋剤の含有量が50質量部を超えると、ゴム組成物から形成される球形体が硬くなりすぎて、ゴルフボールの打球感が低下するおそれがある。
(c)架橋開始剤は、(a)基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物は、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
(c)架橋開始剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.5質量部以下である。0.2質量部未満では、ゴム組成物から形成される球形体が柔らかくなりすぎて、ゴルフボールの反発性が低下する傾向があり、5.0質量部を超えると、ゴム組成物から形成される球形体を適切な硬さにするために、前述した(b)共架橋剤の使用量を減少する必要があり、ゴルフボールの反発性が不足したり、耐久性が悪くなるおそれがある。
本発明で使用するゴム組成物は、(e)有機硫黄化合物を含有しても良い。ゴム組成物が(e)有機硫黄化合物を含有することにより、得られる球形体の反発性が高くなる。(e)有機硫黄化合物としては、分子内に硫黄原子を有する有機化合物であれば、特に限定されず、例えば、チオール基(−SH)、または、硫黄数が2〜4のポリスルフィド結合(−S−S−、−S−S−S−、または、−S−S−S−S−)を有する有機化合物、あるいはこれらの金属塩(−SM、−S−M−S−、−S−M−S−S−,−S−S−M−S−S−,−S−M−S−S−S−など、Mは金属原子)を挙げることができる。また、(e)前記有機硫黄化合物は、脂肪族化合物(脂肪族チオール、脂肪族チオカルボン酸、脂肪族ジチオカルボン酸、脂肪族ポリスルフィドなど)、複素環式化合物、脂環式化合物(脂環式チオール、脂環式チオカルボン酸、脂環式ジチオカルボン酸、脂環式ポリスルフィドなど)、および、芳香族化合物のいずれであってもよい。(e)有機硫黄化合物としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類、ポリスルフィド類、チオカルボン類、ジチオカルボン類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、チアゾール類などを挙げることができる。これらのなかでも、(e)有機硫黄化合物としては、チオフェノール類、硫黄数が2〜4のポリスルフィド類、チオナフトール類、チウラム類、または、これらの金属塩が好ましい。
(e)有機硫黄化合物の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下である。0.05質量部未満では、(e)有機硫黄化合物を添加した効果が得られず、ゴルフボールの反発性が向上しないおそれがある。また、5.0質量部を超えると、得られるゴルフボールの圧縮変形量が大きくなって、反発性が低下するおそれがある。
本発明に用いられるゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を含有してもよい。また上述したように、本発明で使用するゴム組成物が、共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸のみを含有する場合、ゴム組成物は、(f)金属化合物をさらに含有することが好ましい。
(f)前記金属化合物としては、ゴム組成物中において(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を中和することができるものであれば、特に限定されない。(f)前記金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。これらの中でも、(f)金属化合物として好ましいのは、二価金属化合物であり、より好ましくは亜鉛化合物である。二価金属化合物は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸と反応して、金属架橋を形成するからである。また、亜鉛化合物を用いることにより、反発性の高いゴルフボールが得られる。これらの(f)金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ゴム組成物に配合される顔料としては、例えば、白色顔料、青色顔料、紫色顔料などを挙げることができる。前記白色顔料としては、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの種類は、特に限定されないが、隠蔽性が良好であるという理由から、ルチル型を用いることが好ましい。また、酸化チタンの含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上であって、8質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。
ゴム組成物が白色顔料と青色顔料とを含有することも好ましい態様である。青色顔料は、白色を鮮やかに見せるために配合され、例えば、群青、コバルト青、フタロシアニンブルーなどを挙げることができる。また、前記紫色顔料としては、例えば、アントラキノンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレットなどを挙げることができる。
前記青色顔料の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、より好ましくは0.05質量部以上であって、0.2質量部以下が好ましく、より好ましくは0.1質量部以下である。0.001質量部未満では、青みが不十分で、黄色味がかった色に見え、0.2質量部を超えると、青くなりすぎて、鮮やかな白色外観ではなくなる。
ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。充填剤の含有量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記老化防止剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
本発明のゴルフボールの構造は、上述した球形体をゴルフボールの構成要素として有するものであれば、特に限定されず、例えば、球形体として単層構造のゴルフボール本体を有するワンピースゴルフボール、球形体として球状コアと、前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有するゴルフボールを挙げることができる。カバーは、少なくとも一層の構造であればよく、単層構造、あるいは、二層以上の多層構造を有していてもよい。球形体として球状コアと、前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有するゴルフボールの具体例としては、球形体として球状コアと、前記球状コアを被覆するように配設された単層のカバーとからなるツーピースゴルフボール;球形体として球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された二層以上のカバーを有するマルチピースゴルフボール(スリーピースゴルフボールを含む);球形体として球状コアと前記球状コアの周囲に設けられた糸ゴム層と、前記糸ゴム層を被覆するように配設されたカバーとを有する糸巻きゴルフボールなどを挙げることができる。上記いずれの構造のゴルフボールにも本発明を好適に利用できる。
本発明で使用するゴム組成物は、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤、および、(d)硬化剤内包マイクロカプセルを混合して、混練することにより得られる。混練の方法は、特に限定されず、例えば、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。
ゴム組成物の混練条件は、特に限定されないが、マイクロカプセルが硬化剤を放出しない好ましい条件が好ましい。例えば、圧力は、1GPa以下が好ましい。また、混練温度は、80℃未満が好ましい。
本発明のゴルフボールが有する球形体は、混練後のゴム組成物を金型内で成形することにより得ることができる。球形体は、例えば、130℃〜200℃、圧力2.9MPa〜11.8MPaで10分間〜60分間の条件、あるいは、130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間の2段階で加熱する条件で成形することができる。本発明では、球形体が所望の硬度分布を有するように成形条件を選択することが好ましい。
前記球形体は、表面硬度Hsと中心硬度H0との硬度差が、JIS−C硬度で26以上が好ましく、27以上がより好ましく、28以上がさらに好ましい。表面硬度Hsと中心硬度H0の硬度差が大きいと、高打出角および低スピンの飛距離が大きいゴルフボールが得られる。表面硬度Hsと中心硬度H0との硬度差は、80以下が好ましく、79以下がより好ましく、78以下がさらに好ましい。前記硬度差が、80以下であれば、ゴルフボールの耐久性が保たれるからである。
上述したように、本発明では、硬化剤が、主に球形体の表面部において硬化反応をすることにより、球形体表面部において硬度が高くなる。本発明のゴルフボールの球形体は、表面硬度Hsと表面から10mmの地点の硬度H10との硬度差が、JIS−C硬度で15以上である。表面から10mmの硬度H10は、球形体の任意の半径において、球形体表面から10mmだけ内側に位置する地点の硬度である。球形体の半径は、通常、17.4mm〜21.5mmであり、表面硬度Hsと表面から10mm地点の硬度H10との硬度差は、球形体表面部における硬度の上昇度合を指標する。表面硬度Hsと表面から10mm地点の硬度H10の硬度差が大きいと、ドライバーショットにおいて、高打出角で低スピンの飛距離の大きいゴルフボールとなるからである。また、表面硬度Hsと表面から10mm地点の硬度H10との硬度差は、80以下が好ましく、79以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。前記硬度差が80以下であれば、ゴルフボールの耐久性が保たれるからである。
球形体の中心硬度H0は、JIS−C硬度で、30以上であることが好ましく、より好ましくは40以上、さらに好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上である。球形体の中心硬度H0がJIS−C硬度で30未満であると、軟らかくなりすぎて反発性が低下する場合がある。また、球形体の中心硬度H0は、JIS−C硬度で70以下であることが好ましく、より好ましくは65以下である。前記中心硬度H0がJIS−C硬度で70を超えると、硬くなり過ぎて、打球感が低下する傾向があるからである。
球形体の表面硬度Hsは、JIS−C硬度で、78以上が好ましく、より好ましくは80以上であり、100以下が好ましく、より好ましくは99以下、さらに好ましくは98以下である。前記球形体の表面硬度を、JIS−C硬度で78以上とすることにより、球形体が軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、前記球形体の表面硬度をJIS−C硬度で100以下とすることにより、球形体が硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
球形体表面から10mm地点の硬度H10は、JIS−C硬度で、3以上が好ましく、より好ましくは5以上であり、89以下が好ましく、より好ましくは88以下、さらに好ましくは87以下である。前記硬度H10を、JIS−C硬度で3以上とすることにより、球形体が柔らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性を有する。また、前記硬度H10を、JIS−C硬度で89以下とすることにより、球形体が硬くなり過ぎることがなく、良好な打球感を有する。
本発明のゴルフボールが、球形体として球状コアと、前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーを有するゴルフボールの場合、球状コアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。前記球状コアの直径が34.8mm以上であれば、カバーの厚みが厚くなり過ぎず、反発性がより良好となる。一方、球状コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーが薄くなり過ぎず、カバーの機能がより発揮される。
前記球状コアは、直径34.8mm〜42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、より好ましくは2.8mm以上、6.0mm以下が好ましく、より好ましくは4.5mm以下である。前記圧縮変形量が、2.0mm以上であれば打球感がより良好となり、6.0mm以下であれば、反発性がより良好となる。
本発明のゴルフボールのカバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成される。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
前記アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM3711(Mg)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン6320(Mg)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など)」が挙げられる。
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。前記アイオノマー樹脂は、単独で若しくは2種以上を混合して使用しても良い。
本発明のゴルフボールのカバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することも好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
前記カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、所望のゴルフボールの性能に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、飛距離を重視するディスタンス系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で50以上が好ましく、55以上がより好ましく、80以下が好ましく、70以下がより好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットおよびアイアンショットにおいて、高打出角で低スピンのゴルフボールが得られ、飛距離が向上する。また、カバー用組成物のスラブ硬度を80以下とすることにより、耐久性に優れたゴルフボールが得られる。また、コントロール性を重視するスピン系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で、50未満が好ましく、20以上が好ましく、25以上がより好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で50未満であれば、ドライバーショットでは、本発明のコアにより、高飛距離化がはかれるとともに、アプローチショットのスピン量が高くなり、グリーン上で止まりやすいゴルフボールが得られる。また、スラブ硬度を20以上とすることにより、耐擦過傷性が向上する。複数のカバー層の場合は、各層を構成するカバー用組成物のスラブ硬度は、上記範囲内であれば、同一あるいは異なっても良い。
本発明のゴルフボールのカバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する方法を挙げることができる。
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
カバー用組成物を射出成形してカバーを成形する場合、押出して得られたペレット状のカバー用組成物を用いて射出成形しても良いし、あるいは、基材樹脂成分や顔料などのカバー用材料をドライブレンドして直接射出成形してもよい。カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、9MPa〜15MPaの圧力で型締めした金型内に、200℃〜250℃に加熱したカバー用組成物を0.5秒〜5秒で注入し、10秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
前記カバーの厚みは、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。カバーの厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上、特に好ましくは1.0mm以上である。カバーの厚みが0.5mm未満では、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合がある。複数のカバー層の場合は、複数のカバー層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下好ましく、40μm以下より好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
ゴルフボールの表面には、通常、ディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。ディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
本発明のゴルフボールが、直径42.67mm〜42.82mmのワンピースゴルフボールの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)は、2.3mm以上が好ましく、より好ましくは2.4mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上であって、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.8mm以下、さらに好ましくは3.6mm以下である。前記圧縮変形量が、2.3mm以上であればワンピースゴルフボールが硬くなり過ぎず打球感がより良好となり、4.0mm以下であれば、ワンピースゴルフボールが柔らかくなり過ぎず反発性がより良好となる。
本発明のゴルフボールが、直径40mm〜45mmの球状コアとカバーとを有するゴルフボールの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.4mm以上であり、さらに好ましくは2.5mm以上であり、最も好ましくは2.8mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.8mm以下であり、さらに好ましくは3.6mm以下である。前記圧縮変形量が2.5mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
(1)圧縮変形量(mm)
球形体に初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向に球形体が縮む量)を測定した。
(2)スラブ硬度(ショアD硬度)
カバー用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
(3)球形体硬度分布(JIS−C硬度)
スプリング式硬度計JIS−C型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて、球形体の表面部において測定したJIS−C硬度を球形体表面硬度とした。また、球形体を半球状に切断し、切断面の中心、および、球形体表面から10mmの地点において硬度を測定した。
(4)ドライバー飛距離(yards)およびスピン量(rpm)
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットM/Cに、メタルヘッド製W#1ドライバー(SRIスポーツ社製、XXIO シャフト硬度:R ロフト角:11°)を取り付け、ヘッドスピード40m/秒でゴルフボールを打撃し、打撃直後のゴルフボールのスピン速度、ならびに飛距離(発射始点から静止地点までの距離)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて12回ずつ行って、その平均値をそのゴルフボールの測定値とした。なお、打撃直後のゴルフボールのスピン速度は、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによって測定した。ゴルフボールの飛距離は、ゴルフボールNo.13の飛距離を1.000として、指数化した値で示した。
[マイクロカプセルの作製]
表3〜表5に示した硬化剤と膜材とを用いてマイクロカプセルを作製した。膜材としてゼラチンを用いたマイクロカプセルは、複合コアセルベーションを利用して作製した。膜材の軟化点は、160℃であった。膜材としてポリプロピレン(軟化点160℃)を用いたマイクロカプセルは、液中乾燥法により作製した。
[ゴルフボールの作製]
(1)球状コア(球形体)の作製
表3〜5に示す配合のゴム組成物を混練ロールにより23℃で混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより直径39.6mmの球状コアを得た。なお、ゴルフボールNo.33では、コア表面硬度を高めるために、日新ハイボルテージ(株)製の電子線照射装置EPS−750(加速電圧750kV)を用いて、コア表面に電子線(照射量:50Mrad)を照射した。
ポリブタジエンゴム:JSR社製BR730、ハイシスポリブタジエン(シス−1,4−結合含有量=96質量%、1,2−ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3)
アクリル酸亜鉛:日本蒸留社製「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製「銀嶺R」
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
トリメチロールプロパントリアクリレート:東京化成工業社製
(1,2,4−)トリビニルシクロヘキサン:東京化成工業社製
硫黄:住友精化社製
ゼラチン:昭和高分子社製
ポリプロピレン:昭和高分子社製
(2)カバーの作製
次に、表6に示した配合のカバー用材料を、二軸混練型押出機により押し出して、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35で行った。配合物は、押出機のダイの位置で150〜230℃に加熱された。得られたカバー用組成物を上述のようにして得られた球状コア上に射出成形して、球状コアと前記コアを被覆する多層カバー(内層カバー厚み:1.0mm、外層カバー厚み:0.6mm)を有するゴルフボールを作製した。
ハイミランAM7337:三井デュポンポリケミカル社製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ラバロンT3221C:三菱化学社製の熱可塑性ポリスチレンエラストマー
ニュクレルN1050H:三井デュポンポリケミカル社製のエチレン−メタクリル酸共重合体
ゴルフボールNo.1〜No.12は、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤、および(d)硬化剤内包マイクロカプセルを含有するゴム組成物から形成された球形体であって、表面硬度と中心硬度との差が、JIS−C硬度で26以上であり、表面硬度と表面から10mmでの硬度との差が、JIS−C硬度で15以上である球形体をゴルフボールの構成要素として有する場合である。いずれもドライバーショットのスピン量が低く、飛距離が大きいことが分かる。ゴルフボールNo.13〜No.33は、いずれも球形体が所望の硬度分布を満足せず、ドライバイーショットのスピン量が低くならなかった。