本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記カバーは、樹脂成分として、(a)エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物からなり、フローテスターによる溶融粘度(190℃)が500Pa・s〜100000Pa・sの高溶融粘度アイオノマー樹脂(以下、単に「(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂」ということがある)と、(b)エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物であって、ブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(190℃)が1Pa・s〜10Pa・sかつメルトフローレイト(190℃×2.16kg)が100g/10min〜2000g/10minである低溶融粘度アイオノマー樹脂(以下、単に「(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂」ということがある)とを、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂/(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂=55質量%〜99質量%/45質量%〜1質量%の割合で含有し、前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂および/または(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のカルボキシル基を中和する金属イオンの少なくとも一種は、二価の金属イオンであって、樹脂成分100g中の前記二価金属イオンの含有量が、0.020mol以上であるカバー用組成物から形成されていることを特徴とする。
まず、カバー用組成物が含有する「(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂」について説明する。
前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂は、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物からなる。
前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などが挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステルなどが用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。
前記エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体や、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価のアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられるが、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオンが好ましく、亜鉛がより好ましい。二価の金属イオンを採用することによって、得られるゴルフボールの耐久性および低温耐久性が向上するからである。
これらの中でも、本発明で使用する(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物からなるものを使用することが好ましい。
さらに、本発明で使用する(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂としては、(a−1)エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を一価の金属イオンで中和したもの、または、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を一価の金属イオンで中和したもの;と、(a−2)エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を二価の金属イオンで中和したもの、または、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を二価の金属イオンで中和したもの;とを混合してなるアイオノマー樹脂を使用することが好ましい態様である。
上述のようなアイオノマー樹脂の混合物を使用することによって、カバー用組成物の反発弾性率が高くなる。なお、上記において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、または、メタクリル酸を示す。前記一価の金属イオンとしては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが好ましく、前記二価の金属イオンとしては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが好ましい。またこの場合、(a−1)と(a−2)との配合割合は、(a−1)/(a−2)=20質量%〜80質量%/80質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは25質量%〜77質量%/75質量%〜23質量%、さらに好ましくは30質量%〜75質量%/70質量%〜25質量%である。
前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂中のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
また、前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、10モル%以上が好ましく、より好ましくは15モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、より好ましくは85モル%以下である。中和度を10モル%以上とすることにより、得られるゴルフボールの反発性と耐久性が良好になり、90モル%以下とすることによりカバー用組成物の流動性が良好になる(成形性が良い)。なお、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
高溶融粘度アイオノマー樹脂の中和度(モル%)=100×高溶融粘度アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシル基のモル数/高溶融粘度アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の総モル数
前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂のフローテスターによる溶融粘度(190℃)は、500Pa・s以上、好ましくは1000Pa・s以上、より好ましくは1500Pa・s以上であり、100000Pa・s以下、好ましくは95000Pa・s以下、より好ましくは92000Pa・s以下である。溶融粘度を500Pa・s以上とすることにより、得られるゴルフボールの耐久性が向上し、100000Pa・s以下とすることにより、カバー用組成物の成形性が良好になる。
前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)など)」、「HPF 1000(Mg)、HPF 2000(Mg)」が挙げられる。
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
次に、本発明で使用する「(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂」について説明する。
(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂は、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物である。炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、「(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂」を構成するものとして例示したものと同一のもの使用することができる。
エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体、または、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が有するカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価のアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。これらの中でも、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオンで中和されていることが好ましい。
前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(190℃)は、1Pa・s以上が好ましく、2Pa・s以上がより好ましく、3Pa・s以上がさらに好ましく、10Pa・s以下が好ましく、9Pa・s以下がより好ましく、8Pa・s以下がさらに好ましい。前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂の溶融粘度(190℃)を、1Pa・s以上とすることによって、(a)成分との相溶性が高くなり、得られるゴルフボールの耐久性が向上し、10Pa・s以下とすることによって、カバー用組成物の流動性の改善効果が大きくなるからである。
前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃×2.16kg)は、100g/10min以上が好ましく、150g/10min以上がより好ましく、200g/10min以上が更に好ましく、2000g/10min以下が好ましく、1900g/10min以下がより好ましく、1800g/10min以下が更に好ましい。前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のメルトフローレイトを、100g/10min以上とすることによって、カバー用組成物の流動性の改善効果が大きくなり、2000g/10min以下とすることによって、(a)成分との相溶性が高くなり得られるゴルフボールの耐久性が向上するからである。
前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂中のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以下である。
前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂が含有するカルボキシル基の中和度は、10モル%以上が好ましく、より好ましくは15モル%以上であり、更に好ましくは20モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。
なお、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
低溶融粘度アイオノマー樹脂の中和度(モル%)=100×(低溶融粘度アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシル基のモル数)/低溶融粘度アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の総モル数)
前記(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂の具体例としては、ハネウェル社製の「Aclyn(登録商標)201(Ca)」、「Aclyn246(Mg)」、及び、「Aclyn295(Zn)」などを挙げることができる。
本発明で用いるカバー用組成物中の(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂と(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂との配合割合は、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂/(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂=55質量%〜99質量%/45質量%〜1質量%である。上記範囲とすることによって、カバー用組成物の流動性が向上して、薄カバー化が可能になる。その結果、得られるゴルフボールの反発性や耐久性なども向上する。(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂/(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂=58質量%〜90質量%/42質量%〜10質量%が好ましく、より好ましくは60質量%〜85質量%/40質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。
また、本発明で用いるカバー用組成物は、前記(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂および/または(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のカルボキシル基を中和する金属イオンの少なくとも一種は、二価の金属イオンであり、樹脂成分100g中の前記二価金属イオンの含有量が、0.020mol以上である。
前記二価の金属イオンとしては、例えば、Ca,Mg,および、Znを挙げることができ、これらの中でもZnが好ましい。二価の金属イオンとして、Znを使用することにより、耐久性、特に低温耐久性が向上する。
前記カルボキシル基を中和する二価の金属イオンの含有量は、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂のカルボキシル基を中和する二価の金属イオンと(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のカルボキシル基を中和する二価の金属イオンの総量であり、後述する方法により下記式で求めることができる。
前記カバー用組成物を構成する樹脂成分100g中の二価金属イオンの含有量は、0.020mol以上であり、好ましくは0.025mol以上、より好ましくは0.030mol以上、更に好ましくは0.035mol以上である。樹脂成分100g中の二価金属イオンの含有量が0.020mol以上であれば、得られるゴルフボールの耐久性、特に低温耐久性が向上する。一方、樹脂成分100g中の二価金属イオンの量は、0.16mol以下が好ましく、より好ましくは0.15mol以下、さらに好ましくは0.12mol以下である。樹脂成分100g中の二価金属イオンの量が多くなりすぎると、カバー用組成物の流動性が低下するおそれがあるからである。
本発明では、ゴルフボールのカバー用組成物の樹脂成分が、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂と(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂のみからなることが好ましい態様であるが、前記カバー用組成物が、樹脂成分として(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂と(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂に加えて、さらに(c)フローテスターによる溶融粘度(190℃)が5Pa・s〜3000Pa・sである非イオン性の熱可塑性樹脂(以下、単に「(c)非イオン性熱可塑性樹脂」ということがある)を含有することもより好ましい態様である。ここで、非イオン性とは、酸性分(好ましくはカルボキシル基)が中和されたイオン中心を有さないことを意味する。
この場合、樹脂成分中の各成分の含有割合が、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂:55質量%〜70質量%、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂:5質量%〜20質量%、および、(c)非イオン性熱可塑性樹脂:10質量%〜40質量%であることが好ましく、(a)高溶融粘度アイオノマー樹脂:52質量%〜68質量%、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂:6質量%〜18質量%、および、(c)非イオン性熱可塑性樹脂:11質量%〜35質量%であることがより好ましい。
本発明のゴルフボールのカバー用組成物が含有し得る(c)非イオン性熱可塑性樹脂としては、例えば、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(PEBAX)(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミド系エラストマー;三井デュポンポリケミカル社製の「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、「ニュクレルN1050H」、「ニュクレルN2050H」、「ニュクレルN1110H」、「ニュクレルN0200H」)」で市販されているエチレン−メタクリル酸共重合体、または、「PRIMACOR(登録商標)5990I」で市販されているエチレン−アクリル酸共重合体;東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー;三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレン系エラストマーまたは商品名「プリマロイ(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステル系エラストマー;BASFポリウレタンエラストマーズ社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランET880」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどを挙げることができる。
前記(c)非イオン性熱可塑性樹脂のフローテスターによる溶融粘度(190℃)は、5Pa・s以上、好ましくは10Pa・s以上、より好ましくは15Pa・s以上であり、3000Pa・s以下、好ましくは2800Pa・s以下、より好ましくは2500Pa・s以下である。前記(c)非イオン性の熱可塑性樹脂の溶融粘度(190℃)が5Pa・s以上であれば、得られるゴルフボールの耐久性が向上し、3000Pa・s以下であれば、カバー用組成物の成形性が良くなるからである。
本発明において、カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(酸化チタン)の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であることが望ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、中間層またはカバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られる中間層またはカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
本発明において、カバー用組成物のメルトフローレイト(190℃×2.16kg)は、10g/10min以上が好ましく、15g/10min以上がより好ましく、20g/10min以上が更に好ましく、100g/10min以下が好ましく、95g/10min以下がより好ましく、90g/10min以下が更に好ましい。カバー用組成物のメルトフローレイトを、10g/10min以上とすることによって、成形性が高くなるからである。
前記カバー用組成物の曲げ剛性率は、100MPa以上が好ましく、より好ましくは110MPa以上、さらに好ましくは120MPa以上であり、450MPa以下が好ましく、より好ましくは420MPa以下、さらに好ましくは400MPa以下である。前記カバー用組成物の曲げ剛性率を、100MPa以上とすることにより、得られるゴルフボールが外剛内柔構造になり、飛距離が大きくなる。また、450MPa以下とすることにより、カバーが適度に柔らかくなって得られるゴルフボールの打球感が良好となる。
また、前記カバー用組成物の反発弾性率は、40%以上が好ましく、より好ましくは41%以上、さらに好ましくは42%以上である。前記カバー用組成物の反発弾性率を、40%以上とすることにより、得られるゴルフボールの飛距離が大きくなる。ここで、カバー用組成物の曲げ剛性率および反発弾性率とは、カバー用組成物をシート状に成形して測定した曲げ剛性率および反発弾性率であり、後述する測定方法により測定する。
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で40以上が好ましく、より好ましくは45以上であり、さらに好ましくは50以上であり、70以下が好ましく、より好ましくは68以下、さらに好ましくは65以下である。カバー用組成物のスラブ硬度を40以上とすることによって、得られるカバーの剛性が高まり、反発性(飛距離)により優れるゴルフボールが得られる。一方、スラブ硬度を70以下とすることによって、耐久性が一層向上する。ここで、カバーのスラブ硬度とは、カバー用組成物をシート状に成形して測定した硬度であり、後述する測定方法により測定する。
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成
物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバー用組成物をコア上に射出成形してカバーを成形する場合、カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、加熱溶融されたカバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、980KPa〜1,500KPaの圧力で型締めした金型内に、150℃〜230℃に加熱溶融したカバー用組成物を0.1秒〜1秒で注入し、15秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。上記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
なお、前記成形温度とは、型締めから型開きの間に、下型の凹部の表面が到達する最高温度を意味する。またカバー材料の流動開始温度は、島津製作所の「フローテスター CFT−500」を用いて、ペレット状のカバー材料を、プランジャー面積:1cm2、DIE LENGTH:1mm、DIE DIA:1mm、 荷重:588.399N、開始温度:30℃、昇温速度:3℃/分の条件で測定することができる。
カバーを被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。また、カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
また、本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有する塗装ゴルフボールであってもよい。
塗膜(ペイント層)を構成する樹脂成分は、特に限定されず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂などを使用できるが、後述する2液硬化型ポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。2液硬化型ポリウレタン樹脂を使用すると、耐久性に一層優れた塗膜が得られるからである。
前記2液硬化型ポリウレタン樹脂は、主剤と硬化剤とを反応し硬化させてなるポリウレタン樹脂であり、例えば、ポリオール成分を含有する主剤をポリイソシアネート化合物及びその誘導体で硬化させたものが挙げられる。前記ポリオール成分を含有する主剤には、ウレタンポリオールが含まれることが好ましい。ウレタンポリオールは、ポリイソシアネート化合物とポリオールとの反応により合成される。
前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが5μm以上、より好ましくは7μm以上、25μm以下、より好ましくは18μm以下であることが望ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
本発明において、ゴルフボールのカバーの厚みは、3mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。カバーの厚みを3mm以下とすることによって、反発性や打球感が良好になるからである。前記カバーの厚みは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。0.1mm未満では、カバーの成形が困難になるおそれがあるからである。また、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合もある。
次に、本発明のゴルフボールのコアの好ましい態様について説明する。本発明のゴルフボールのコアの構造としては、例えば、単層のコア、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコア、センターと前記センターを被覆する複数片もしくは複数層の中間層とからなるコアなどを挙げることができる。また、コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。一方、センターの形状としては、球状が一般的であるが、球状センターの表面を分割するように突条が設けられていても良く、例えば、球状センターの表面を均等に分割するように突条が設けられていても良い。前記突条を設ける態様としては、例えば、球状センターの表面にセンターと一体的に突条を設ける態様、あるいは、球状センターの表面に突条の中間層を設ける態様などを挙げることができる。
前記突条は、例えば、球状センターを地球とみなした場合に、赤道と球状センター表面を均等に分割する任意の子午線とに沿って設けられることが好ましい。例えば、球状センター表面を8分割する場合には、赤道と、任意の子午線(経度0度)、および、斯かる経度0度の子午線を基準として、東経90度、西経90度、東経(西経)180度の子午線に沿って設けるようにすれば良い。突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の中間層によって充填するようにして、コアの形状を球形とするようにすることが好ましい。前記突条の断面形状は、特に限定されることなく、例えば、円弧状、あるいは、略円弧状(例えば、互いに交差あるいは直交する部分において切欠部を設けた形状)などを挙げることができる。
本発明のゴルフボールのコアまたはセンターには、従来公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を採用することができ、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤、および、充填剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。0.2質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、3質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、または、これらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは20質量部以上であって、50質量部以下が好ましく、より好ましくは40質量部以下である。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために架橋開始剤の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が50質量部を超えると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下するおそれがある。
コア用ゴム組成物に含有される充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの比重を1.0〜1.5の範囲に調整するための比重調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、より好ましくは3質量部以上であって、50質量部以下が好ましく、より好ましくは35質量部以下である。充填剤の配合量が2質量部未満では、重量調整が難しくなり、50質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤に加えて、さらに、有機硫黄化合物、老化防止剤、しゃく解剤などを適宜配合することができる。
前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類を好適に使用することができる。前記ジフェニルジスルフィド類としては、例えば、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド,ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィドなどのモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィドなどのテトラ置換体;ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドなどのペンタ置換体などが挙げられる。これらのジフェニルジスルフィド類はゴム加硫体の加硫状態に何らかの影響を与えて、反発性を高めることができる。これらの中でも、特に高反発性のゴルフボールが得られるという点から、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドを用いることが好ましい。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
前記老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成形条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱するか、あるいは130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
本発明のゴルフボールのコアの直径は、39.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは39.5mm以上、さらに好ましくは40.8mm以上である。コアの直径が39.0mm未満では、カバーが厚くなり過ぎて反発性が低下するからである。また、コアの直径は、42.2mm以下であることが好ましく、より好ましくは42.0mm以下、さらに好ましくは41.8mm以下である。コアの直径が42.2mmを超えると相対的にカバーが薄くなり過ぎて、カバーによる保護効果が十分に得られないからである。
また、前記コアは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量が2.50mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.60mm以上、さらに好ましくは2.70mm以上であり、3.20mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.10mm以下、さらに好ましくは3.00mm以下である。前記圧縮変形量が2.50mm未満では、コアが硬くなって打球感が低下する傾向があり、一方、3.20mmを超えると、柔らかくなりすぎて打球感が重く感じられる場合がある。
本発明のゴルフボールのコアとして、表面硬度が中心硬度より大きいコアを使用することも好ましい態様である。例えば、多層コア構造とすることによって、容易にコアの表面硬度を中心硬度より大きくすることができる。コアの表面硬度と中心硬度との硬度差は、ショアD硬度で4以上であることが好ましく、さらに好ましくは8以上である。コアの表面硬度を中心硬度より大きくすることによって、打出角が高くなり、スピン量が低くなって、飛距離が向上する。また、コアの表面硬度と中心硬度とのショアD硬度差の上限は、特に限定されないが、24であることが好ましく、より好ましくは20である。硬度差が大きくなりすぎると、耐久性が低下するおそれがあるからである。
さらに、前記コアの中心硬度は、ショアD硬度で30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上であり、さらに好ましくは35以上である。コアの中心硬度がショアD硬度で30未満であると、軟らかくなりすぎて反発性が低下する場合がある。また、コアの中心硬度は、ショアD硬度で50以下であることが好ましく、より好ましくは48以下であり、さらに好ましくは45以下である。前記中心硬度がショアD硬度で50を超えると、硬くなり過ぎて、打球感が低下する傾向があるからである。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
本発明のゴルフボールのコアの表面硬度は、ショアD硬度で45以上であることが好ましく、より好ましくは50以上であり、さらに好ましくは55以上である。前記表面硬度が45より小さいと、軟らかくなり過ぎて、反発性が低下する場合がある。また、コアの表面硬度は、ショアD硬度で65以下であることが好ましく、より好ましくは62以下であり、さらに好ましくは60以下である。前記表面硬度がショアD硬度で65超であると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下する場合があるからである。
前記コアが、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコア、センターと前記センターを被覆する複数片もしくは複数層の中間層とからなるコアなどの場合、前記中間層を構成する材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂;ポリスチレンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、アイオノマー樹脂が好適である。
前記中間層には、前記樹脂成分に加えてさらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
本発明のゴルフボールの構造は、コアとカバーとを有するものであれば、特に限定されず、単層のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するツーピースゴルフボール、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコアと前記コアを被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール、センターと前記センターを被覆する複数片もしくは複数層の中間層とからなるコアと前記コアを被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボール、あるいは、糸巻きコアとカバーとを有する糸巻きゴルフボールであってもよい。いずれの場合であっても、本発明を好適に適用できるからである。
本発明のゴルフボールが、糸巻きゴルフボールの場合、コアとして糸巻きコアを用いれば良い。斯かる場合、糸巻きコアとしては、例えば、上述したコア用ゴム組成物を硬化させてなるセンターとそのセンターの周囲に糸ゴムを延伸状態で巻き付けることによって形成した糸ゴム層とから成るものを使用すればよい。また、前記センター上に巻き付ける糸ゴムは、糸巻きゴルフボールの糸巻き層に従来から使用されているものと同様のものを使用することができ、例えば、天然ゴムまたは天然ゴムと合成ポリイソプレンに硫黄、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤などを配合したゴム組成物を加硫することによって得られたものを用いてもよい。糸ゴムはセンター上に約10倍に引き伸ばして巻きつけて糸巻きコアを作製する。
本発明のゴルフボールは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.2mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲に含まれる。
(1)コア、ゴルフボール硬度(ショアD硬度)
ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社
製自動ゴム硬度計P1型を用いて、コアまたはゴルフボールの表面部において測定したショアD硬度をコア表面硬度またはゴルフボールのカバー硬度とし、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定したショアD硬度をコア中心硬度とした。
(2)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にゴルフボールまたはコアが縮む量)を測定した。
(3)フローテスターによる溶融粘度(Pa・s)
溶融粘度は、流動特性評価装置(島津製作所製、フローテスターCFT−500D)を用いて、ペレット状の試料について、下記条件で測定した。
測定条件
DIE LENGTH:1mm
DIE DIA:1mm
荷重:294N
温度:190℃
(4)ブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(Pa・s)
ブルックフィールド型粘度計(東京計器社製、BL形粘度計)を用いて、190℃に加温された(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂の溶融粘度を測定した。測定条件は、ローターNo.4を使用し、回転速度は6rpmとした。
(5)二価金属含有量(mol)
カバー用組成物中に含有される二価金属の質量は、ICP発光分析装置(日立製作所製、「P−4010」)を用いて定量した。具体的には、カバー用組成物100mgに濃硫酸6mlを加え、マイクロウェーブ分解装置(マイクロストーン社製、ETHOS)を用いて抽出(酸分解)して得られた溶液に、水を添加して250mlにしたものを、ICP分析の測定試料とした。
得られた測定値から、下記式を用いてカバー用組成物の樹脂成分100g中の二価金属含有量を求めた。
(6)メルトフローレイト(MFR)(g/10min)
MFRは、フローテスター(島津製作所社製、島津フローテスターCFT−100C)を用いて、JIS K7210に準じて測定した。なお、測定は、測定温度190℃、荷重2.16kgの条件で行った。
(7)スラブ硬度(ショアD硬度)
カバー用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
(8)曲げ剛性率(MPa)
カバー用組成物を用いて、熱プレス成形にて厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。曲げ剛性率を、JIS K 7106に準じて測定した。測定は、温度23℃、湿度50%RHで行った。
(9)反発弾性率
カバー用組成物を用いて、熱プレス成形にて厚み約2mmのシートを作製し、当該シートから直径28mmの円形状に打抜いたものを6枚重ねることにより、厚さ約12mm、直径28mmの円柱状試験片を作製した。この試験片についてリュプケ式反発弾性試験(試験温湿度23℃、50RH%)を行った。なお、試験片の作製および試験方法は、JIS K6255に準じて行った。
(10)塗膜密着性(塗膜耐久性)
ツルーテンパー社製スイングロボットにドライバー(1W)を取り付け、ヘッドスピード45m/sでゴルフボールを100回繰返し打撃し、塗膜の剥離程度を観察し、下記基準に基づいて評価した。
◎:塗膜に剥離がなかった。
○:塗膜に1mm2未満の剥離が発生した。
△:塗膜に1〜4mm2未満の剥離が発生した。
×:塗膜に4mm2以上の剥離が発生した。
(11)反発係数
各ゴルフボールに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の上記円筒物およびゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および重量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は各ゴルフボールについて12個ずつ行って、その平均値を各ゴルフボールの反発係数とした。なお、反発係数は、ゴルフボールNo.10の反発係数を100.0として、指数化した値で示した。
(12)耐久性
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットM/Cにメタルヘッド製#W1ドライバーを取り付け、各ゴルフボールをヘッドスピード45m/秒で打撃して衝突板に衝突させた。これを繰り返して、ゴルフボールが壊れるまでの打撃回数を測定した。各ゴルフボールの耐久性は、ゴルフボールNo.10の打撃回数を100として、各ゴルフボールについての打撃回数を指数化した値で示した。指数化された値が大きいほど、ゴルフボールが耐久性に優れていることを示す。
(13)低温耐久性
各ゴルフボールを10個ずつ、−10℃の温度で1日間保管した後、速やかにエアガンを用いて金属板に45m/秒の速度で衝突させて、ゴルフボールが壊れるまでの繰返し回数を測定し、10個の平均値を算出した。なお、評価結果は実際の衝突回数で示し、50回衝突させてもゴルフボールが壊れなかったものについては「割れなし」と表記した。
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、15分間加熱プレスすることにより直径41.2mmの球状のコアを得た。なお、硫酸バリウムは、得られるゴルフボールの質量が、45.4gとなるように適量加えた。
BR−730:JSR社製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺(登録商標)R」
ジフェニルジスルフィド:住友精化社製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
(2)カバー用組成物の調製
表2に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
(3)ゴルフボール本体の作製
続いて、前記球状コア上にカバー用組成物を射出成型することによりカバーを形成して、ゴルフボールを作製した。成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、厚み10μmのペイント層を形成し、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。クリアーペイントとしては、以下のものを用いた。ゴルフボール特性について評価した結果を併せて表2に示した。
[クリアーペイントの調製]
(1)主剤:ウレタンポリオール
60質量部のPTMG250(BASF社製:ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量250)と54質量部の550U(住化バイエルウレタン製:分子量550の分岐ポリオール)とを溶剤120質量部(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解し、これにジブチル錫ジラウリレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオールを80℃に保持しながら、66質量部のイソホロンジイソシアネートを滴下して、ウレタンポリオール(固形分60質量%、水酸基価75mgKOH/g、重量平均分子量7808)を調製した。
(2)硬化剤:イソホロンジイソシアネート(住化バイエルウレタン)
(3)配合比:硬化剤のNCO/主剤のOH=1.2(mol比)
ハイミラン1555:三井デュポンポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(フローテスターによる溶融粘度(190℃):540Pa・s、メルトフローレイト(190℃×2.16kg):10g/10min)
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(フローテスターによる溶融粘度(190℃):1100Pa・s、メルトフローレイト(190℃×2.16kg):5g/10min)
なお、ハイミラン1555とハイミランAM7329の混合物(質量比1:1)のフローテスターによる溶融粘度(190℃)は850Pa・sである。
AC540:ハネウェル社製、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体(ブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(190℃):0.6Pa・s)
Aclyn201:ハネウェル社製、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体のカルシウム中和物(ブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(190℃):5.5Pa・s、メルトフローレイト(190℃×2.16kg):185g/10min)
Aclyn295:ハネウェル社製、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体の亜鉛中和物(ブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(190℃):4.5Pa・s、メルトフローレイト(190℃×2.16kg):1200g/10min)
ハイワックス100P:三井化学社製、高密度型ポリエチレン系ワックス(ブルックフィールド型粘度計による溶融粘度(190℃):0.02Pa・s)
ベヘニン酸:日油社製、「NAA−222S粉末」
ステアリン酸:日油社製、「粉末ステアリン酸つばき」
ニュクレル1050H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸共重合体(フローテスターによる溶融粘度(190℃):6Pa・s、メルトフローレイト(190℃×2.16kg):500g/10min)
ニュクレル2050H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸共重合体(フローテスターによる溶融粘度(190℃):8Pa・s、メルトフローレイト(190℃×2.16kg):500g/10min)
表2より、本発明の実施例に相当するゴルフボールNo.1〜10のカバー用組成物は、反発性が高いにも拘らず、メルトフローレイトが低く流動性に優れることが分かる。また、成形時には、脂肪酸などの低分子材料がブリードアウトすることがなく、得られるゴルフボールは塗膜密着性に優れていた。また、本発明の実施例に相当するゴルフボールNo.1〜10のカバー用組成物によれば、耐久性、および、低温耐久性に優れるゴルフボールが得られた。
ゴルフボールNo.11,13は、脂肪酸などの低分子材料を用いた場合であるが、ゴルフボール本体表面でブリードアウトが生じて、塗膜密着性が良好でなかった。また、低温耐久性が著しく低下した。ゴルフボールNo.12は、ゴルフボールNo.11と同様のカバー用組成物を用いて厚み0.5mmのカバーを形成した場合であるが、流動性が十分でなく、カバーを成形することができなかった。ゴルフボールNo.14,15は、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂以外の低溶融粘度樹脂を含有する場合であるが、塗膜密着性が低下し、また、低温耐久性も低下した。ゴルフボールNo.16は、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂に相当する成分を含有しない場合であるが、流動性が悪く、カバーを成形することができなかった。ゴルフボールNo.17は、(b)低溶融粘度アイオノマー樹脂に相当する成分の含有率が高すぎる場合であるが、耐久性が著しく低下した。