JP2012135884A - 複合成形品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】
PPS樹脂とインサート金属と直接的に接した面での高い接合強度を有し、且つインサート金属や中空複合体に内包される精密部品に対しても熱や衝撃による損傷を与えることなく複合化することを課題とする。
【解決手段】
(A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(B)エポキシ樹脂1〜10重量部、(C)単繊維径10μm以上のガラス繊維5〜100重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を金属インサートした射出成形品にレーザー光を照射し、他の成形品とレーザー溶着する複合成形品の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂とインサート金属の直接的に接した面での高い接合強度を有し、かつインサート金属や中空複合体に内包される精密部品に対しても熱や衝撃による損傷を与えることなく複合化できる複合成形品の製造方法を提供する。
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下PPS樹脂と略す)は、機械物性に優れ、また耐熱性、耐薬品性が良好であることから電気電子部品、自動車用部品、建材部品、機械部品等に広く利用されている。中でもガラス繊維強化PPS樹脂は高い耐熱性、耐油性、強靭性、耐薬品性に優れた特徴を有することから自動車のエンジン周辺部品やモーター周辺部品に使用されている。特に近年では、電気自動車やハイブリット自動車に使用される電気・電子部品の筐体、ガスケット、絶縁体などの素材としても多く使用されている。こうした部品は、様々な目的に応じて金属がインサートされ、更に他の部品と複合化される。部品同士を複合化する手段は様々であるが、熱可塑性樹脂部品同士の複合化では、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着、スピン溶着、レーザー溶着などの溶着工法が用いられる。金属端子などをインサートしたスイッチ類などの成形品が比較的小型のものは超音波溶着で溶着されることが多いものの、振動によって接点不良が起こるなどの問題があることから熱や衝撃による損傷が起こらないレーザー溶着化が進みつつある。しかし、PPS樹脂は、高い結晶性を有するためレーザー光線の透過性が悪く、通常のガラス繊維や無機フィラーで強化したPPSでは肉厚が1mm未満の成形品でしかレーザー溶着することができない。PPS樹脂自体が高い性能を有していても、肉厚が1mm未満でしか部品設計できないことはレーザー溶着を採用する上で大きな障害となる。そこで、こうした問題を解消するためレーザー透過性の優れたPPS樹脂組成物について当社より提案している。(特許文献1)しかし、このPPS樹脂組成物はレーザー透過性は優れるものの、インサート金属/PPS界面の接合性が十分ではないことから、長期間製品を使用した場合、金属とPPS樹脂界面が剥離し接点不良を起こす可能性がある。金属と樹脂の接合強度を高める方法については種々提案されている。例えば、インサート金属表面をケミカルエッチングすることにより金属/樹脂界面の気密性をもたせた金属インサート樹脂複合成形品についても提案されている。(特許文献2)しかし、他部品との複合化する手段については何ら提案されておらず、また特許文献2の実施例に例示されているPPS樹脂組成物では、レーザー光線の透過性能が十分ではなくレーザー溶着による複合化が困難である。そのため、振動溶着や熱板溶着などで複合化することとなり、インサート金属が熱や振動により損傷を受け部品性能を十分発揮できない。また、金属/PPS樹脂界面の接合強度を上げる手段として、トリアジン化合物による金属表面処理なども提案されている。(特許文献3)この方法では、金属表面に多官能性トリアジンチオール誘導体被膜を形成し、当該官能基と樹脂末端基の化学反応による結合で接合するため物理的な接合と比較して強固な接合が得られるものの、樹脂の末端基の種類や末端基量によって接合強度が変動するという問題がある。また、PPS樹脂と金属を接合する手段には、エポキシ系接着剤を介して接着する方法が知られている。例えば、エポキシ系接着剤とPPS樹脂を接合させる手段として当社よりエポキシ樹脂を添加する手段について提案している。(特許文献4)エポキシ樹脂のもつ官能基とエポキシ系接着剤とを反応させることにより強固な接合強度が得られるものの、エポキシ樹脂を多量に添加するとエポキシ系接着剤との接合強度は高くなるものの、PPS樹脂が白濁してしまいレーザー溶着性を阻害する。
このように、上記した従来技術だけでは金属インサート成形品をインサート金属や付随する精密部品に損傷与えることなく複合化するために有効な総合的な手段としては提案されていない。
特開2005−15792号公報 特許第3467471号公報 特開2001−1445号公報 特開2009−179757号公報
本発明は、PPS樹脂とインサート金属と直接的に接した面での高い接合強度を有し、且つインサート金属や中空複合体に内包される精密部品に対しても熱や衝撃による損傷を与えることなく複合化することを課題とする。
本発明は、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.(A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(B)エポキシ樹脂1〜10重量部、(C)単繊維径10μm以上のガラス繊維5〜100重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を金属インサートした射出成形品にレーザー光を照射し、他の成形品とレーザー溶着する複合成形品の製造方法。
2.(B)エポキシ樹脂がエポキシ当量100〜4000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする1.記載の複合成形品の製造方法。
3.前記熱可塑性樹脂組成物が、(A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、さらに(D)酸化防止剤を0.01〜3重量部配合してなる組成物である1.または2.記載の複合成形品の製造方法。
4.前記熱可塑性樹脂組成物が、(A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、さらに(E)シラン化合物を0.01〜5重量部配合してなる組成物である1.〜3.のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
5.金属インサートする金属の種類が、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデンおよびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1.〜4.のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
6.金属インサートする金属が、予め下記一般式に示すトリアジン系化合物にて表面処理されていることを特徴とする1.〜5.のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
Figure 2012135884
(但し、式中のRは、−OR、−OOR、−SR、−NR(R);R、R2はH、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基、アミド基、アミノ基、フェニル基、シクロアルキル基、アルキル基、あるいはアルケニル基であり、MはH、もしくはアルカリ金属または1/2(アルカリ土類金属)である)
7.レーザー溶着する際に、レーザー光を照射する部位の成形品の厚みが3mm以下であることを特徴とする1.〜6.のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
8.複合成形品が中空であることを特徴とする1.〜7.のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
本発明によれば、金属とPPS樹脂組成物とを強固に接合してなる金属インサート成形品を、金属や中空複合体に内包される精密部品に対して振動や熱による損傷を与えることなく複合化することができ、気密性と耐圧性に優れた複合成形品を得ることができる。
レーザー溶着強度測定試験片と測定機器の構成を模式的に示した図である。 金属インサートし、且つレーザー溶着した耐圧性評価用の試験片と測定方法を模式的に示した図である。 溶着強度試験片を模式的に示した図である。 溶着強度評価方法を模式的に示した図である。 透過側試験片模式的に示した図である。 耐圧性試験片(複合体)を模式的に示した図である。 耐圧試験方法を模式的に示した図である。
以下、本発明について詳しく述べる。
(1)PPS樹脂
本発明の複合成形品の製造方法に使用する熱可塑性樹脂組成物には、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)が含まれる。本発明で用いる(A)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
Figure 2012135884
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
Figure 2012135884
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
本発明で用いられる(A)PPS樹脂はレーザー溶着性の観点から降温結晶化温度は205℃以下、好ましくは200℃、より好ましくは195℃以下である。ここで、PPS樹脂の降温結晶化温度は、PPS樹脂を約10mg秤量し、示差走査熱量計を用いて、速度20℃/minで昇温し、340℃で5分間保持した後、速度20℃/minで降温させたときの結晶化のピーク温度を測定し、降温結晶化温度とする。
一方で、耐熱性の観点からは降温結晶化温度が170℃以上であることが望ましい。降温結晶化温度が上記範囲のPPS樹脂を得るためには、分子量の大きいもの(メルトフローレート(MFR)が低い)が好ましい。PPS樹脂のMFRは500g/10min以下、好ましくは350g/10min以下、より好ましくは200g/10minであることが望ましい。尚、MFRの測定は東洋精機社製メルトインデクサーを用いて、130℃で3時間熱風乾燥して付着水分を除去したPPS樹脂5gを秤量し、315.5℃で5分間滞留させた後、5000gの荷重で測定して得られる値である。
以下に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造のPPSが得られれば下記方法に限定されるものではもちろんない。
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いられるポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3.5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
本発明で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
本発明において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
[分子量調節剤]
本発明においては、生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
本発明においては、重合度調節のために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
[前工程]
本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
本発明においては、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
[回収工程]
本発明で用いる(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。本発明で用いるPPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良い。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2 以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
[後処理工程]
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。本発明において使用するPPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
本発明の熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
また、処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
本発明においては、上記のようにして得られたPPS樹脂を、アルカリ土類金属塩を含む水による洗浄による処理を施しても良い。
PPS樹脂をアルカリ土類金属塩を含む水で洗浄する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。アルカリ土類金属塩の種類としては特に制限は無いが、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物が好ましい例として挙げられ、特に酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩が好ましい。水の温度は、室温〜200℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。上記水中におけるアルカリ土類金属塩の使用量は乾燥PPS樹脂1kgに対し0.1g〜50gであることが好ましく、0.5g〜30gであることがより好ましい。洗浄時間としては0.5時間以上が好ましく、1.0時間以上がより好ましい。また好ましい洗浄浴比(乾燥PPS樹脂単位重量当たりのアルカリ土類金属塩を含む温水使用重量)は洗浄時間、温度にもよるが、乾燥PPS1kg当たり、上記アルカリ土類金属を含む温水を5kg以上用いて洗浄することが好ましく、10kg以上用いて洗浄することがより好ましい。上限としては特に制限はなく、高くてもよいが、使用量と得られる効果の点から100kg以下であることが好ましい。かかる温水洗浄は複数回行っても良い。
本発明において用いる(A)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
しかしながら、高ウェルド強度と優れた溶融流動性を両立する観点からは、架橋構造の導入はあまり好ましくなく、直鎖状PPSであることが好ましい。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
かかる好適なPPS樹脂の製品例としては、東レ株式会社製、M2888、M2588、M2088、T1881、E2280、E2180、E2080、GR01などが挙げられる。
(2)熱可塑性樹脂組成物
本発明においては、インサート金属との接合性をより高めるためにエポキシ樹脂を配合した熱可塑性樹脂組成物を用いる。かかるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールAFエポキシ樹脂、あるいはノボラックフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられるが、なかでもビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、より好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂が金属接合性の観点から望ましい。エポキシ樹脂に含まれるエポキシ当量は、成形加工性、相溶性の観点から100〜4000g/eqが望ましく、2000〜3500g/eqがより金属接合強度の観点から望ましい。
また、エポキシ樹脂の配合量はPPS樹脂100重量部に対して1〜10重量部であるが、エポキシ樹脂の配合量が少ないと金属との十分な接合性が得られない一方で、多量に配合するとPPS樹脂が白濁し、レーザー光線の透過を妨げるためレーザー溶着性を低下させる要因となる他、発生ガスによる金型汚染の原因となるため好ましくは2〜8重量部である。
本発明では、耐熱性、機械強度、成形品の反り抑制の観点から熱可塑性樹脂組成物に(C)ガラス繊維を配合することが必須である。かかるガラス繊維は、レーザー光線の透過を阻害しないために単繊維径が10μm以上であり、好ましくは13μm以上、より好ましくは15μm以上の単繊維径のガラス繊維が望ましい。なお、ガラス繊維の単繊維径はガラス繊維一般試験方法の規格(JIS−R3420 7.6)に記載されている単繊維直径に基づく試験方法によって得られた値である。かかるガラス繊維の配合量は、少なすぎると機械強度や反り抑制効果が小さいものの、多量に配合するとレーザー光線の透過を阻害し、且つポリフェニレンスルフィド樹脂比率が少なくなるために実質的な溶着面積の減少になることから、配合量は1〜100重量部、好ましくは10〜50重量部、より好ましくは20〜40重量部が機械強度とレーザー溶着性のバランスの観点から望ましい。
本発明では、成形やアニール処理などによる熱変色がレーザー光線の透過を阻害するため熱可塑性樹脂組成物に、(D)酸化防止剤を添加することが望ましい。かかる酸化防止剤としては、次亜リン酸カルシウム、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジン)イソシアヌレート等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等の硫黄化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物などが例示されるが、中でも次亜リン酸カルシウムが熱変色防止の観点から望ましい。かかる(D)酸化防止剤の配合量は、(A)PPS樹脂100重量部に対し、0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部が望ましい。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物には、(E)シラン化合物を、機械強度、靭性の向上および成形時のバリを抑制する目的で添加することが好ましい。(E)シラン化合物としては、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するシラン化合物である。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。なかでもエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基を有するアルコキシシランが優れたウェルド強度を得る上で特に好適である。
かかる(E)シラン化合物の好適な添加量は、PPS樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部の範囲が選択される。
本発明のPPS樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体などが挙げられる。
本発明のPPS樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280〜380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
このようにして得られる本発明のPPS樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。
(3)金属インサート成形
本発明の複合成形品の製造方法では、前記熱可塑性樹脂組成物を金属インサート成形した射出成形品を用いる。
射出成形品にインサートされる金属の形状は特に制限されるものではないが、他の部品と組み合わせて固定(結合)する金具、位置決めなどのピン、シャフト、電気電子部品の導電端子(ターミナル)などが挙げられる。かかる金属部品の材質としては、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、金、銀、亜鉛、スズおよびこれらを主成分とする合金を用いることができるが、中でも本発明のPPS樹脂組成物との接合性の観点からアルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、およびこれらの合金が特に好ましく用いることができる。
また、金属部品は、接合すべき面が厚い酸化膜、水酸化膜等が形成されていないことがより好ましい。錆以外の汚れ、即ち、金属加工工程で付着した表面の油層、持ち運びで付着した指脂等は以下に述べる脱脂工程で除くことが好ましい。脱脂方法としては、一般的に行われるように加工された合金部品を脱脂処理のための溶剤脱脂処理機に投入して不純物を除去できる。又は油剤の付着が軽度の場合は、常法である市販されている脱脂剤を溶解した水溶液に、数分間浸漬して水洗する脱脂処理を最初に行うことが好ましい。更に、表面を化学的に削り取って清浄な面を出すために、40℃程度で数%濃度の薄い苛性ソーダ水溶液槽を準備して、この苛性ソーダ水溶液槽に合金部品を浸漬することが好ましい。又、別の槽に数%濃度の塩酸水溶液、硝酸水溶液、一水素二弗化アンモニウム水溶液等の酸性水溶液を、40℃程度として用意し、金属の種類によって使用する酸液が異なるが、これらの数種の溶液を用意しておけば異なる合金でも対応できる。苛性ソーダ水溶液に浸漬して水洗した合金形状物は、これら酸液に浸漬し、更に水洗することで脱脂することができる。
本発明では、金属との接合性をより強固にするために脱脂後の金属表面に対して物理的または化学的処理を施して金属表面の粗面化を行うことや、本発明の効果を損なわない範囲でメッキや陽極酸化処理を施してもよい。特に、本発明のPPS樹脂組成物と金属との接合性をより強固にするためには、トリアジン系化合物で表面処理を行い、官能基を付与することでより強固な接合を得ることができる。表面処理の用いるトリアジン系化合物は、下記一般式で示される構造を有する化合物である。
Figure 2012135884
(但し、式中のRは、−OR、−OOR、−SR、−NR(R);R、R2はH、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基、アミド基、アミノ基、フェニル基、シクロアルキル基、アルキル基、あるいはアルケニル基であり、MはH、もしくはアルカリ金属または1/2(アルカリ土類金属)である)
上記トリアジン系化合物の具体例としては、例えば、2,4,6−トリチオール−1,3,5−トリアジン、2−オクチルアミノ−4,6−ジチオール−1,3,5−トリアジン、2−アニリノ−4 ,6−ジチオール−1,3,5−トリアジン、2,4−ジメルカプト−6−ナトリウムメルカプチド−1,3,5−トリアジン、2−メルカプト−4,6−ビスカリウムメルカプチド−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。金属部品への表面処理は、上記トリアジン系化合物の水溶液や有機溶媒の溶液に金属部品を浸漬したり、溶液を金属に塗布したりすることによって行われる。金属部品をトリアジン系化合物の水溶液や有機溶媒の溶液に浸漬する場合において、前記水溶液または溶液の温度や浸漬時間は特に限定されるものではないが、通常、液温を10〜40℃に調整して、浸漬時間を1〜30分、好ましくは5〜10分に設定するのが好適である。前記有機溶媒も特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。トリアジン系化合物による表面処理を行う場合は、予め化学的および/または物理的処理により金属表面を粗面化しておくことが好ましい。かかる金属表面の粗面化処理は、例えば、酸化力の強い過マンガン酸水溶液のようなエッチング溶液によってマイクロエッチングを行う方法、酸化剤によって表面に酸化被膜を形成させるいわゆる黒化処理などが好適である。特に、金属部品として銅を用いる場合には、黒化処理によって生じるピンクリングの問題を避けるべく、キレート作用と空気酸化とを併せてエッチングを行う、いわゆるMECeth Bond法(牧善朗ほか、電子材料、26〜30頁、1995年10月号参照)を採用するのが好ましい。
(4)レーザー溶着
本発明の複合成形品の製造方法では、金属インサートされた射出成形品を他の部品などと複合化する際にインサート金属や付随する精密部品が熱や振動などにより損傷させないためにレーザー溶着法で複合化する。かかるレーザー溶着方法は特に制限されるものではないが、レーザー光として半導体レーザー、Nd:YAGレーザー、COレーザー、He−Cdレーザー、Arイオンレーザー、He−Neレーザーなど挙げられる。レーザーの走査速度や出力は特に制限されるものではなく、成形品の形状などに合わせて最適な条件で溶着すればよいが、出力が高すぎるとPPS樹脂が発泡または分解するため溶着強度が低下する恐れがある。
本発明では、前記熱可塑性樹脂組成物を用いて金属インサートをした成形品の側にレーザー光を照射する。
また、本発明では透過側成形品のレーザー溶着部の厚みが3mm以下とすることで、レーザー光線を十分に透過させ、十分な溶着強度を得ることができるので好ましい。より好ましくはレーザー溶着部の成形品厚さ2mm以下である。
また、金属インサートされた射出成形品と複合化するもう一方の成形品はレーザー光を吸収するカーボン、カーボンナノチューブ、黒鉛などの無機系顔料や特定の波長を吸収するニグロシン等の有機系染料などを含有する熱可塑性樹脂組成物を成形したものであれば特に制限されるものではない。当該熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の具体例としては、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体などとこれらを混合した樹脂組成物などが挙げられるが、透過側材料であるPPS樹脂との溶着性の観点から、PPS樹脂または前記熱可塑性樹脂とPPS樹脂のアロイ材料が好ましい。
(5)複合成形品
かくして得られる複合成形品は、PPS樹脂が元来示す耐熱性、耐薬品性、耐熱水性、機械的特性を維持し、また溶着部も強固なであるため、例えば、電気・電子用途、自動車用途、水廻り用途、一般雑貨用途、建築部材等に有用であり、具体的には、センサー、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モータ、磁器ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モータ部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、バルブ、チーズ、継手、ソケット、水量調節弁、減圧弁、逃がし弁、電磁弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ICレギュレータ、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、湯温センサー、ブレーキパッドウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプ、ウォーターポンプインペラ、ウォーターインレット、ウォーターアウトレット、タービンベイン、ワイパーモータ関連部品、ディストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ECUケース、コンデンサーケース、パワーモジュール部品、ステップモータローター、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、ガソリンタンク、等の自動車・車両関連部品、その他各種用途が例示できる。特にレーザー溶着により熱や衝撃による損傷を防止することができ、且つ得られた複合成形品は気密性と耐圧性を有することから中空形状が好適であり、内部に精密部品を封止する部品などに好適である。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)降温結晶化温度測定
PPS樹脂を約10mg秤量し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用いて、速度20℃/minで昇温し、340℃で5分間保持した後、速度20℃/minで降温させたときの結晶化のピーク温度測定し、降温結晶化温度とした。
(2)レーザー溶着強度
透過側試験片:住友重機械工業社製射出成形機(SE100DU)を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度130℃、射出速度100mm/sec、射出圧力は充填可能な最低射出圧力に5MPa加えた条件にて、図1に示す長さ80mm×幅80mm×厚み3mmの透過側試験片を得た。
吸収側試験片:住友重機械工業社製射出成形機(SE100DU)を用いて、シリンダー温度320℃、射出速度100mm/sec、射出圧力は充填可能な最低射出圧力に5MPa加えた条件にて、図2に示す箱形状の吸収側試験片を得た。尚、吸収側試料には、透過側材料に更にカーボンブラックを0.4部添加した材料を用いた。
耐圧試験片:吸収側試験片上に透過側試験片をオーバーラップさせた状態でレーザー溶着を実施し、図3示す溶着試験片を得た。
測定方法:図4に示す通り溶着試験片に圧力ゲージ付の圧力ポンプを取り付け、17ml/secの流量にて負荷をかけ、成形品が破壊したときの最大圧力を測定した。
(3)耐圧性
透過側試験片:金属片(長さ10mm×幅10mm×厚み1mm)を図5に示す配置にて金型内(金型温度130℃)に固定し、住友重機械工業社製射出成形機(SE100DU)を用いて、シリンダー温度320℃、射出速度100mm/sec、射出圧力は充填可能な最低射出圧力に5MPa加えた条件にて、長さ80mm×幅80mm×厚み1mmの透過側試験片を得た。
吸収側試験片:住友重機械工業社製射出成形機(SE100DU)を用いて、シリンダー温度320℃、射出速度100mm/sec、射出圧力は充填可能な最低射出圧力に5MPa加えた条件にて、図2に示す箱形状の吸収側試験片を得た。尚、吸収側試料には、透過側材料に更にカーボンブラックを0.4部添加した材料を用いた。
測定方法:図7に示すとおり試験片に圧力ゲージ付の耐圧ホースを取り付け、手動ポンプを用いて成形品内の圧力を0.2MPa負荷した状態でバルブを閉じる。前記状態にて23℃水中で保持し、5hr後の圧力変化と空気漏れ箇所の確認を行った。尚、判定基準と表記は以下の通りとした。
(内圧保持性)
○:0.2MPaの圧力を保持
△:0.15MPa以上、0.2MPa未満の圧力を保持
×:圧力負荷時に破壊又は5hr後の内圧保持が0.1MPa未満。
(空気漏れ箇所)
金属接合面:インサート金属と樹脂界面からの空気漏れ
溶着面:レーザー溶着面からの空気漏れ
初期破壊:0.2MPa負荷時に破壊。
[参考例1]PPSの重合
PPS-1の製造方法
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.787kg(9.6モル)およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5kgを仕込み、窒素を通じながら除々に205℃まで昇温し、水3.6Lを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.712kg(25.25モル)ならびにNMP2.4kgを加えて窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応させた。次に100℃に加熱したNMP10kg中に投入し、約1時間攪拌した後、濾過し、更に80℃の熱水で30分間の洗浄を3回繰り返した。これを濾過し、酢酸カルシウムを10.4g入れた水溶液25L中に投入し、密閉されたオートクレーブ中で192℃で約1時間攪拌した後、濾過し、濾液の水素イオン指数(pH)が7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、降温結晶化温度180℃、MFR100g/10minのPPS−1を得た。
PPS−2の製造方法
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.656kg(8モル)およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5kgを仕込み、窒素を通じながら除々に205℃まで昇温し、水3.6Lを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.756kg(25.55モル)ならびにNMP2.4kgを加えて窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応させた。次に100℃に加熱したNMP10kg中に投入し、約1時間攪拌した後、濾過し、更に80℃の熱水で30分間の洗浄を3回繰り返した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25L中に投入し、約1時間攪拌した後、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、降温結晶化温度215℃、MFR300g/10minのPPS−2を得た。
[参考例2]ガラス繊維
ガラス繊維(GF1):T747N(日本電気ガラス社製)Eガラス、単繊維径17μm
ガラス繊維(GF2):T747H(日本電気ガラス社製)Eガラス、単繊維径10.5μm
ガラス繊維(GF3):ECS03T790DE(日本電気ガラス社製)Eガラス、単繊維径6.5μm。
[参考例3]エポキシ樹脂
エポキシ樹脂(EP1):ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂jER1009(ジャパンエポキシレジン社製)、エポキシ当量約2400〜3300g/eq
エポキシ樹脂(EP2):ビスフェノールF型固形エポキシ樹脂jER4007P(ジャパンエポキシレジン社製)、エポキシ当量約2270g/eq。
[参考例4]酸化防止剤
酸化防止剤:次亜リン酸カルシウム(大道製薬社製)。
[参考例5]シラン化合物
シラン化合物:KBM303(信越化学工業社製)β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン。
[参考例6] 金属の表面処理
表面処理:金属片を75℃に加温した脱脂材「NE−6(日本国東京都、メルテックス株式会社製)」15%水溶液槽内に5分間浸漬した後水洗した。続いて1%濃度の塩酸水溶液の液温を40℃に加温し、ここへ先の金属板を1分間浸漬した後水洗した。次に液温40℃に加温した1%苛性ソーダ水溶液に金属板を1分間浸漬した後水洗した。最後に、液温40℃に加温した1%塩酸水溶液に金属板を1分間浸漬した後、水洗し脱脂処理を行った。次に、トリアジンチオール( 三協化成社製ジスネットF、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン)の1%メタノール溶液に5分間浸漬し、前記金属表面処理を施した後、水洗し、常温で乾燥させた。使用するまでの期間、試験片表面状態が変化しないように窒素置換した容器内で保管した。
[参考例7]レーザー溶着
ライスター社製のMODULAS C(半導体レーザー、波長940nm、焦点距離38mm、焦点径φ0.6mm)を用いて、出力15〜35W範囲、レーザー走査速度1〜50mm/secの範囲で最も良好な溶着強度が得られる条件にてレーザー溶着を実施した。
実施例1〜8、比較例1〜4
参考例1に示したPPS樹脂、参考例3に示したエポキシ樹脂、参考例4に示した酸化防止剤および参考例5に示したシラン化合物をタンブラーミキサーで表1に示す配合比率でブレンドした。また、参考例2に示すガラス繊維はサイドフィーダーを用いて表1に示す比率となるように押出し機に供給した。次に、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー温度はPPS重合体の融解ピーク温度+20℃(230〜300℃ )、スクリュー回転数は200rpmに設定し溶融混練した。得られた溶融混練物は、水冷バスにて冷却したのちストランドカッターにてペレット化した。ついで、130℃の熱風乾燥機に3時間乾燥処理を行いペレット表面に付着している水分を除去した。得られたPPS樹脂組成物を用いて評価を実施した。結果を表1に示す。
実施例1〜8はいずれも良好なレーザー溶着性と耐圧性を有することがわかる。一方、比較例1はガラス繊維の単繊維径が細いためレーザー光が阻害され十分なレーザー溶着強度が得られなかった。また、比較例2はガラス繊維量が多いためレーザー光の拡散が大きいことに加えて樹脂成分量が少ないため十分なレーザー溶着強度が得られなかった。比較例3は、エポキシ樹脂量が多いためPPS樹脂が白濁し、レーザー光を阻害したため十分な溶着強度が得られなかった。比較例4は、PPS樹脂の降温結晶化温度が高いため結晶形態の影響によりレーザー光が散乱し溶着強度が得られなかった。
Figure 2012135884
実施例9〜14
参考例1に示したPPS樹脂、参考例3に示したエポキシ樹脂、参考例4に示した酸化防止剤および参考例5に示したシラン化合物をタンブラーミキサーで表1に示す配合比率でブレンドした。次に、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー温度はPPS重合体の融解ピーク温度+20℃(230〜300℃ )、スクリュー回転数は200rpmに設定し溶融混練した。また、参考例2に示すガラス繊維はサイドフィーダーを用いて表2に示す比率となるように押出機に供給した。得られた溶融混練物は、水冷バスにて冷却したのちストランドカッターにてペレット化した。ついで、130℃の熱風乾燥機に3時間乾燥処理を行いペレット表面に付着している水分を除去した。得られたPPS樹脂組成物に対して、金属種及び金属表面処理を表2の通りとした。
結果を表2に示す。
実施例9〜14はいずれも良好なレーザー溶着性と耐圧性を有するものの、金属の表面処理をすることにより、より耐圧性が向上した成形品を得ることができた。
Figure 2012135884
本発明を利用すれば、インサート金属とPPS樹脂を強固に射出接合し、且つ得られた金属インサート成形体に対して、熱や振動などによる損傷を与えることなく他の成形体との複合化が可能となる。また、中空複合体の内部に精密部品を組み込む場合においても、精密部品に損傷をあたえることもなく、且つインサトート金属とも強固に接合されていることから、精密部品を封止するための気密性を十分得ることができる。加えて、PPS樹脂の耐熱特性により高温化においても長時間使用することができ、温度上昇に伴う箱内の圧力変動に対しても十分な耐圧性を有した複合成形品を提供することが可能となる。
1 … 耐圧ホース接続孔
2 … レーザー溶着部
3 … レーザー透過側試験片
4 … レーザー吸収側試験片
5 … ポンプ
6 … 圧力ゲージ
7 … 耐圧ホース
8 … レーザー溶着成形体
9 … インサート金属
10 … バルブ
11 … 金属インサート複合体

Claims (8)

  1. (A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(B)エポキシ樹脂1〜10重量部、(C)単繊維径10μm以上のガラス繊維5〜100重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を金属インサートした射出成形品にレーザー光を照射し、他の成形品とレーザー溶着する複合成形品の製造方法。
  2. (B)エポキシ樹脂がエポキシ当量100〜4000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1記載の複合成形品の製造方法。
  3. 前記熱可塑性樹脂組成物が、(A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、さらに(D)酸化防止剤を0.01〜3重量部配合してなる組成物である請求項1または2記載の複合成形品の製造方法。
  4. 前記熱可塑性樹脂組成物が、(A)降温結晶化温度が205℃以下のポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、さらに(E)シラン化合物を0.01〜5重量部配合してなる組成物である請求項1〜3のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
  5. 金属インサートする金属の種類が、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデンおよびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
  6. 金属インサートする金属が、予め下記一般式に示すトリアジン系化合物にて表面処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
    Figure 2012135884
    (但し、式中のRは、−OR、−OOR、−SR、−NR(R);R、R2はH、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基、アミド基、アミノ基、フェニル基、シクロアルキル基、アルキル基、あるいはアルケニル基であり、MはH、もしくはアルカリ金属または1/2(アルカリ土類金属)である)
  7. レーザー溶着する際に、レーザー光を照射する部位の成形品の厚みが3mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
  8. 複合成形品が中空であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の複合成形品の製造方法。
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