しかしながら、このようにして作製される従来のGaN基板には、次のような課題が存在している。すなわち、基板の表面が汚染されている状態で、基板上にGaNホモエピタキシャル層が正常に成長しない部分があるという問題があった。これを図13を参照しつつ説明すると、GaN単結晶製の基板40上にGaNホモエピタキシャル層42を成長させてGaN基板44を作製する場合、基板40の表面40aのうち一部領域40bでは、GaNホモエピタキシャル層42が正常に成長せず、その部分には窪みが生じる。それにより、このGaN基板44の表面の平坦性が著しく損なわれてしまう。発明者らは、このような事態が生じる原因の一つとして、上述した基板40の作製時に、基板表面40aに付着した汚染物質がGaNホモエピタキシャル層42を成長させる工程まで基板40に残留したためであると考えた。
また、発明者らは、原因の他の一つとして、基板40を製作する際に形成される欠陥集中領域表面の結晶品質が充分でないためであることを見出した。これを図14(a)〜図14(d)を参照しつつ説明する。図14(a)に示すように、GaN単結晶製の基板40は、周囲の低欠陥領域よりも欠陥密度が高く厚さ方向に延びる複数の欠陥集中領域40cを含んでいることが多い。この基板40の表面40a上にGaNホモエピタキシャル層42を成長させると、図14(b)に示すように、GaNホモエピタキシャル層42は主に欠陥集中領域40c表面以外の部分に成長する。そして、図14(c)に示すように、欠陥集中領域40c上のGaNホモエピタキシャル層42の成長が不完全となる結果、図14(d)に示すように、欠陥集中領域40c上のGaNホモエピタキシャル層42表面に窪み(ピット42a)が形成される。従って、GaN基板44の表面の平坦性が著しく損なわれてしまう。発明者らは、鋭意研究の末に、上述した事態を回避可能な技術を見出した。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、表面の平坦化が図られたGaN基板及びその製造方法、並びに窒化物半導体素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係るGaN基板は、周囲の低欠陥領域より欠陥密度が高く主面において点状に分布する欠陥集中領域を有し、GaNからなる基板と、基板の主面上にエピタキシャル成長された、AlxGa1−xN(0<x≦1)からなる中間層と、中間層上にエピタキシャル成長された、GaNからなる上層とを備えることを特徴とする。または、本発明に係るGaN基板は、GaN単結晶からなる基板と、基板上にエピタキシャル成長された、AlxGa1−xN(0<x≦1)からなる中間層と、中間層上にエピタキシャル成長された、GaNからなる上層とを備えることを特徴とする。
上記GaN基板においては、基板と上層との間に中間層が介在している。この中間層はAlGaNからなり、このAlGaNは、汚染物質が付着している領域や欠陥集中領域を含む基板表面の全域に成長することが発明者らにより見出された。そのため、中間層は基板上に正常に成長しており、その成長面(すなわち、上面)は平坦である。このように中間層の成長面が平坦であるため、中間層上にエピタキシャル成長された上層の成長面も平坦となっている。
また、上記GaN基板においては、基板の主面における欠陥集中領域の密度が100[個/cm2]以上であってもよい。このように欠陥集中領域の密度が比較的高い場合においても、上記GaN基板によれば、中間層及び上層の成長面を平坦にすることができる。
また、中間層は、ドーパントが添加されてn型またはp型の伝導性を有することが好ましい。この場合、中間層の比抵抗が低減するため、GaN基板を用いて発光ダイオード(LED)やヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)等の縦型のデバイスを作製した場合に、それらのデバイス特性が向上する。
また、中間層は、AlxGa1−xNとは組成の異なるAlyGa1−yN(0≦y≦1、y≠x)からなる第2の中間層を備えた超格子構造であることが好ましい。この場合、超格子構造によってGaN基板内における貫通転位の伝播が阻止されるため、良好な結晶性を有するGaN基板となる。
また、GaN基板は、中間層の間に挟まれるInzGa1−zN(0<z≦1)エピタキシャル層をさらに備えることが好ましい。この場合、中間層の間に挟まれたInzGa1−zN(0<z≦1)エピタキシャル層によりGaN基板のさらなる平坦化が図られる。
また、中間層は、厚さ(−5x+1.2)μm未満のAlxGa1−xN(0<x<0.24)からなることが好ましい。中間層がこのような厚さに形成されることによって、中間層における亀裂等の欠陥の発生を抑えることができる。
本発明に係るGaN基板の製造方法は、周囲の低欠陥領域より欠陥密度が高く主面において点状に分布する欠陥集中領域を有し、GaNからなる基板の主面上に、AlxGa1−xN(0<x≦1)からなる中間層をエピタキシャル成長させる中間層形成ステップと、中間層上に、GaNからなる上層をエピタキシャル成長させる上層形成ステップとを有することを特徴とする。または、本発明に係るGaN基板の製造方法は、GaN単結晶からなる基板上に、AlxGa1−xN(0<x≦1)からなる中間層をエピタキシャル成長させる中間層形成ステップと、中間層上に、GaNからなる上層をエピタキシャル成長させる上層形成ステップとを有することを特徴とする。
上記GaN基板の製造方法においては、GaNからなる上層を基板上に積層することに先立ち、AlGaNからなる中間層を基板上に積層する。中間層を構成するAlGaNは、汚染物質が付着している領域や欠陥集中領域を含む基板表面の全域に成長することが発明者らにより見出された。そのため、基板上へ積層された中間層の成長面(すなわち、上面)は平坦となる。このような成長面が平坦な中間層上にエピタキシャル成長される上層の成長面も平坦となる。
また、GaN基板の製造方法においては、基板の主面における欠陥集中領域の密度が100[個/cm2]以上であってもよい。このように欠陥集中領域の密度が比較的高い場合においても、上記GaN基板の製造方法によれば、中間層及び上層の成長面を平坦にすることができる。
また、中間層形成ステップの際にドーパントを添加して、中間層をn型またはp型にすることが好ましい。この場合、中間層の比抵抗が低減するため、GaN基板を用いて発光ダイオード(LED)やヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)等の縦型のデバイスを作製した場合に、それらのデバイス特性が向上する。
また、中間層形成ステップに割り込んで、中間層の間に挟まれる、AlxGa1−xNとは組成の異なるAlyGa1−yN(0≦y≦1、y≠x)からなる第2の中間層を形成する第2の中間層形成ステップをさらに備え、中間層と第2の中間層とによって超格子構造を形成することが好ましい。この場合、形成された超格子構造によってGaN基板内における貫通転位の伝播が阻止されるため、良好な結晶性を有するGaN基板が作製される。
また、中間層形成ステップに割り込んで、中間層の間に挟まれるようにInzGa1−zN(0<z≦1)エピタキシャル層を形成するInGaNエピタキシャル層形成ステップをさらに備えることが好ましい。この場合、中間層の間に挟まれるInzGa1−zN(0<z≦1)エピタキシャル層によりGaN基板のさらなる平坦化が図られる。
また、GaN基板の製造方法においては、中間層形成ステップの際に、AlxGa1−xN(0<x<0.24)からなる中間層を厚さ(−5x+1.2)μm未満に成長させることが好ましい。中間層がこのような厚さに形成されることによって、中間層における亀裂等の欠陥の発生を抑えることができる。
また、GaN基板の製造方法においては、中間層及び上層を80kPa以上の圧力下で成長させることが好ましい。AlGaNは汚染物質が付着している領域や欠陥集中領域表面を含む基板表面の全域に成長するので、80kPa以上といった比較的高い圧力下で中間層を成長させても、中間層の成長面(すなわち、上面)を平坦にできる。従って、比較的高い圧力下で中間層及び上層を成長させることにより、結晶性の良い中間層及び上層が得られる。
本発明に係る窒化物半導体素子は、周囲の低欠陥領域より欠陥密度が高く主面において点状に分布する欠陥集中領域を有し、GaNからなる基板と、基板の主面上にエピタキシャル成長された、AlxGa1−xN(0<x≦1)からなる中間層と、中間層上に設けられたn型窒化物半導体領域及びp型窒化物半導体領域とを備えることを特徴とする。
上記窒化物半導体素子においては、基板上に中間層が設けられている。発明者らは、AlGaNが、汚染物質が付着している領域や欠陥集中領域を含む基板表面の全域に成長可能であることを見出した。中間層は基板上にエピタキシャル成長されたAlGaN層を含むので、中間層は基板上に正常に成長しており、その成長面(すなわち、上面)は平坦となる。このように中間層の成長面が平坦であるため、中間層上に形成されるn型窒化物半導体領域及びp型窒化物半導体領域の界面の平坦性が向上し、当該窒化物半導体素子のデバイス特性(例えば発光量など)が向上する。
また、上記窒化物半導体素子においては、基板の主面における欠陥集中領域の密度が100[個/cm2]以上であってもよい。このように欠陥集中領域の密度が比較的高い場合においても、上記窒化物半導体によれば、中間層、n型窒化物半導体領域、及びp型窒化物半導体領域の成長面を平坦にすることができる。
また、上記窒化物半導体素子において、n型窒化物半導体領域またはp型窒化物半導体領域は、中間層上にエピタキシャル成長されたGaNからなる上層を含むことが好ましい。この場合、基板表面に加工などによる微小な凹凸が存在し、中間層の表面にこの凹凸が現れているような場合であっても、中間層上に上層をエピタキシャル成長させることによって成長面を平坦にできる。従って、上層を除くn型窒化物半導体領域及びp型窒化物半導体領域の結晶性が向上するので、デバイス特性がさらに向上する。
また、上記窒化物半導体素子は、n型窒化物半導体領域とp型窒化物半導体領域との間に発光層をさらに備え、n型窒化物半導体領域及びp型窒化物半導体領域のそれぞれがクラッド層を含むことが好ましい。この場合、成長面が平坦な基板上に積層されたn型及びp型のクラッド層、並びに発光層の界面の平坦性が向上するので、素子の発光特性が向上する。
また、上記窒化物半導体においては、発光層における発光領域が、少なくとも一部の欠陥集中領域上にわたっていることが好ましい。上記窒化物半導体によれば、欠陥集中領域の位置に関係なく発光層の界面を平坦にできるので、発光領域が欠陥集中領域上にわたっている場合でも、発光領域における結晶性をより良くすることができる。
また、上記窒化物半導体素子において、中間層は、ドーパントが添加されてn型またはp型の伝導性を有することが好ましい。この場合、中間層の比抵抗が低減するため、当該窒化物半導体素子のデバイス特性がさらに向上する。
また、上記窒化物半導体素子において、中間層は、AlxGa1−xN層と、AlxGa1−xN層とは組成の異なるAlyGa1−yN(0≦y≦1、y≠x)層とが交互に積層された超格子構造を有することが好ましい。この場合、超格子構造によって中間層における貫通転位の伝播が阻止されるため、良好な結晶性を有するn型窒化物半導体領域及びp型窒化物半導体領域が形成される。
また、窒化物半導体素子は、中間層の間に挟まれるInzGa1−zN(0<z≦1)エピタキシャル層をさらに備えることが好ましい。この場合、中間層の間に挟まれたInzGa1−zN(0<z≦1)エピタキシャル層により、中間層のさらなる平坦化が図られる。
また、上記窒化物半導体素子において、中間層は、厚さ(−5x+1.2)μm未満のAlxGa1−xN(0<x<0.24)からなることが好ましい。中間層がこのような厚さに形成されることによって、中間層における亀裂等の欠陥の発生を抑えることができる。
本発明に係る窒化物半導体素子の製造方法は、周囲の低欠陥領域より欠陥密度が高く主面において点状に分布する欠陥集中領域を有し、GaNからなる基板の主面上に、AlxGa1−xN(0<x≦1)からなる中間層をエピタキシャル成長させる中間層形成ステップと、中間層上に、n型窒化物半導体領域及びp型窒化物半導体領域を形成する半導体領域形成ステップとを有し、中間層、n型窒化物半導体領域、及びp型窒化物半導体領域のそれぞれを80kPa以上の圧力下で成長させることを特徴とする。
上記窒化物半導体素子の製造方法においては、AlGaN層を含む中間層を基板上に積層する。AlGaNは、汚染物質が付着している領域や欠陥集中領域を含む基板表面の全域に成長するので、80kPa以上といった比較的高い圧力下で中間層を成長させても、中間層の成長面(すなわち、上面)を平坦にできる。従って、このような比較的高い圧力下で各層を成長させることにより、結晶性の良い中間層、n型窒化物半導体領域、及びp型窒化物半導体領域が得られ、窒化物半導体素子のデバイス特性が向上する。
また、上記窒化物半導体素子の製造方法においては、基板の主面における欠陥集中領域の密度が100[個/cm2]以上であってもよい。このように欠陥集中領域の密度が比較的高い場合においても、上記窒化物半導体素子の製造方法によれば、中間層、n型窒化物半導体領域、及びp型窒化物半導体領域の成長面を平坦にすることができる。
また、上記窒化物半導体素子の製造方法においては、中間層形成ステップの際に、AlxGa1−xN(0<x<0.24)からなる中間層を厚さ(−5x+1.2)μm未満に成長させることが好ましい。中間層がこのような厚さに形成されることによって、中間層における亀裂等の欠陥の発生を抑えることができる。
本発明によれば、表面の平坦化が図られたGaN基板及びその製造方法、並びに窒化物半導体素子及びその製造方法が提供される。
以下、添付図面を参照しながら、本発明によるGaN基板及びその製造方法、並びに窒化物半導体素子及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るGaN基板の作製に用いる気相成長装置を示した図である。この気相成長装置10は、気体流路が水平方向に形成された石英製のフローチャネル12を有する、いわゆる横型のMOCVD装置である。GaN基板の作製に用いる基板14は、ヒータ16を有するサセプタ18上のトレイ20内に設置され、サセプタ18は基板14を回転自在に支持する。
フローチャネル12は、上流フローチャネル12A、中間フローチャネル12B及び下流フローチャネル12Cから構成されている。そして、GaN結晶の製造に必要なガスは、上流フローチャネル12Aの3層ノズル22から導入され、中間フローチャネル12B内の基板14の直前で混合される。基板14上の反応で発生した残余ガスは、下流フローチャネル12Cから排気される。
なお、ノズル22から基板14上に、III族原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)やトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)を含むガスが、V族原料ガスとしてNH3を含むガスが適宜供給され、また、n型ドーピングガスとしてはモノシラン(SiH4)を含むガスが供給され、p型ドーピングガスとしてはシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を含むガスが供給される。キャリアガスとしては、水素ガス(H2ガス)や窒素ガス(N2ガス)、H2ガスとN2ガスとの混合ガス等が用いられる。ノズル22とこのノズル22に各III族原料ガスを供給する複数のラインとの間には切替弁(図示せず)が配置されており、この切替弁の制御により、III族原料ガスの各流量が調整される。具体的には、切替弁は、ラインから送られてきたIII族原料ガスを、適宜、ノズル22に送るメインラインと排気用のダミーラインとに振り分けて、各III族原料ガスの遮断や流量安定化を図る。
次に、本実施形態で用いられる基板14について説明する。図2(a)は、基板14の一部を示す平面図である。また、図2(b)は、図2(a)に示した基板14のI−I断面を示す断面図である。この基板14は、GaAs基板上に開口窓を複数有するマスク層を形成し、その開口窓内からGaNをラテラル成長させるという公知技術により生成されたものである。また、ラテラル成長の後、GaAs基板は王水中でエッチング除去され、さらに、基板14の表裏面14a,14bには機械研磨が施されている。
また、基板14は、厚さ方向に延びる複数の欠陥集中領域14cを有している。この欠陥集中領域14cは、周囲の低欠陥領域14dよりも欠陥密度が例えば10倍以上高く、基板14の主面14aにおいて点状に分布している。欠陥集中領域14cは、GaNをラテラル成長させる際に、GaN表面に例えば複数のファセットからなる凹部(ピット)が形成されることによりGaN内部の転位などの欠陥が集まって形成された部分である。本実施形態では、欠陥集中領域14cは、基板14において不規則(ランダム)に配置されていてもよい。基板14の主面14aにおける欠陥集中領域14cの密度は、例えば100[個/cm2]以上1×105[個/cm2]以下である。また、基板14の主面14aの面積に占める欠陥集中領域14cの表面積の割合は、例えば1パーセント以下である。欠陥集中領域14cにおける転位密度は例えば3×107cm−2以下であり、低欠陥領域14dにおける転位密度は例えば5×106cm−2以下である。
次に、本実施形態に係るGaN基板を作製する手順について、図3を参照しつつ説明する。図3(a)〜(c)は、GaN基板を作製する手順を示した図である。
まず、フローチャネル12内のサセプタ18上のトレイ20に、GaN単結晶からなるウェハ状の基板14を、上面(主面)14aが(0001)面となるように設置する(図3(a)参照)。この基板14上へのエピタキシャル成長に先立ち、ノズル22からNH3ガスを含む混合ガスを導入して、フローチャネル12内をNH3ガスを含む混合ガス雰囲気にする。そして、ヒータ16によってサセプタ18及び基板12を1100℃程度まで加熱して、基板14の主面14aの清浄化処理(サーマルクリーニング)をおこなう。具体的には、NH3を5slm、H2を6slmの条件で流した。このように適当な条件でサーマルクリーニングをおこなうことで、基板表面(主面)14aの汚染物質が取り除かれると共に、基板表面14aの平面度が向上する。
次に、基板14の温度(基板温度)を1100℃に、中間フローチャネル内の圧力を80kPa以上にそれぞれ保持した状態で、III族原料ガス、V族原料ガス及びドーピングガスを上述のキャリアガスと共に、ノズル22から基板14上に供給する。より具体的には、TMGを24.42μmol/min、TMAを2.02μmol/minの条件で23分間供給し、NH3を6slm、H2を8slmの条件で流す。それにより、基板14上には膜厚が200nmのAlxGa1−xN(x=0.08)からなる中間層24が成長する(中間層形成ステップ、図3(b)参照)。なお、Alの組成比xは、0<x≦1の範囲内であればよい。また、中間層24の厚さは、中間層の成長条件を変化させて10nm以上500nm以下の厚さから適宜選択できるが、これより厚いと亀裂等の欠陥が発生する可能性が高くなる。本発明者らは、後述する実施例において示すように、Alの組成比が0<x<0.24の範囲内である場合において中間層24の厚さが(−5x+1.2)μm未満であれば、亀裂等の欠陥が抑えられることを見出した。
このように、GaN単結晶からなる基板14上にはAlGaNからなる中間層24が成長し、その成長は欠陥集中領域14c(図2参照)の表面を含む基板表面14aの全域でおこる。一方、この基板14上にGaNからなる層を直接成長させた場合、欠陥集中領域14c表面など基板表面14aの一部領域では、正常なエピタキシャル成長がおこらずに窪みが生じ(図13、図14参照)、GaN基板の表面の平坦性が著しく損なわれてしまう。
発明者らは、このような事態が生じる原因は、基板14の作製時に、基板表面14aに汚染物質が付着しているため、或いは、欠陥集中領域14c表面の結晶品質が充分でないためであると考え、鋭意研究の末に、基板14上にAlGaNからなる層(中間層24)を積層することが有効であることを見出した。すなわち、中間層24は、汚染物質が付着している基板表面領域や、欠陥集中領域14cの表面領域を含む全域に成長すると共に、その表面24aは平坦となり、良好なモフォロジーを有する。なお、中間層24にはその形成の過程で炭素が含有されてしまうが、その炭素濃度は低く、およそ1×1018cm−3以下となっている。
基板14上に中間層24を形成した後は、基板温度を1150℃まで昇温し、GaNで構成される上層26を80kPa以上の圧力下でエピタキシャル成長させて(上層形成ステップ)、GaNエピタキシャルウェハであるGaN基板28の作製が完了する(図3(c)参照)。なお、上述したとおり、中間層24の表面24aは平坦となっているため、中間層24上に結晶性良くエピタキシャル成長される上層26の表面26a(すなわち、GaN基板28の表面)も平坦となっている。
GaN基板28を用いて発光デバイスを作製する場合には、さらに、基板14の下面(裏面)14b及び上層26の上面26aに電極30を形成する。
以上説明したように、GaN基板28においては、基板14と上層26との間に中間層24が介在している。この中間層24はAlxGa1−xN(0<x≦1、本実施形態ではx=0.08)からなり、このAlGaNは汚染物質が付着している領域及び欠陥集中領域14c表面を含む基板表面14aの全域にエピタキシャル成長する。そのため、中間層24は基板14上に正常に成長し、その成長面24aは平坦である。このように中間層24の成長面24aが平坦であるため、中間層24上にエピタキシャル成長される上層26の成長面26aも平坦となる。
なお、中間層24に伝導性を与えて中間層24の比抵抗の低減を図る場合には、中間層24の形成過程の際に、H2で10ppmに希釈したSiH4をドーパントとして2.5sccmの条件で流すことで、キャリア濃度が5×1018cm−3であるn型中間層を求めることができる。また、中間層24の形成過程の際に、Cp2Mgをドーパントとして0.0539μmol/minの条件で供給することで、キャリア濃度が5×1017cm−3のp型中間層を形成することができる。この場合、p型キャリア濃度を高めるため、中間層24に別途活性化処理を施す必要がある。GaN基板28が、比抵抗の低減が図られたこのような中間層24を有すると、このGaN基板28を用いてLEDやHBT等の縦型のデバイスを作製した場合において、それらのデバイス特性が向上する。
また、中間層24及び上層26は、本実施形態のように80kPa以上の圧力下で成長されることが好ましい。AlGaNは汚染物質が付着している領域を含む基板14の表面14aの全域に成長可能なので、80kPa以上といった比較的高い圧力下で中間層24を成長させても、中間層24の成長面24aを平坦にできる。従って、このような比較的高い圧力下で中間層24及び上層26を成長させることにより、結晶性の良い中間層24及び上層26を得ることができる。
また、前述したように、基板14の主面14aにおける欠陥集中領域14cの密度は100[個/cm2]以上であってもよい。このように欠陥集中領域14cの密度が比較的高い場合においても、本実施形態のGaN基板28及びその製造方法によれば、中間層24及び上層26の成長面を平坦にすることができる。
次に、上述したGaN基板とは異なる態様のGaN基板及びその製造方法について、図4を参照しつつ説明する。図4(a)〜(e)は、GaN基板を作製する手順を示した図である。
まず、上述したGaN基板28の製造方法と同様の方法により、基板14上に中間層24を積層する。すなわち、装置10のトレイ20に、上面(主面)14aが(0001)面となるように基板14を設置して、清浄化処理を施した後(図4(a)参照)、上述した条件と同様又は同等の所定の条件で、TMG及びTMAを供給すると共に、NH3及びH2を流す。これにより、基板14上には膜厚が数nm程度のAlxGa1−xN(x=0.16)からなる中間層24Aを成長させる(図4(b)参照)。
次に、ノズル22の上流にある切替弁を操作して、他の条件を変えず、基板14上へのTMAの供給だけを遮断する。これにより、中間層24Aの上にGaN(すなわち、AlyGa1−yN(y=0))からなる、膜厚が数nm程度のエピタキシャル薄膜(第2の中間層)32を積層する(図4(c)参照)。そして、このような切替弁の操作により、エピタキシャル薄膜32上に、中間層24A及びエピタキシャル薄膜32を交互に積層して5層の超格子構造を形成する(図4(d)参照)。最後に、最上の中間層24A上に、上層26をエピタキシャル成長することにより、上述したGaN基板28とは異なる態様のGaN基板28Aの作製が完了する(図4(e)参照)。
中間層24Aの間に、中間層24Aの組成と異なる組成のAlyGa1−yN(0≦y≦1)からなるエピタキシャル薄膜32を備え、中間層24Aとエピタキシャル薄膜32とで超格子構造(歪超格子構造)が形成されたこのGaN基板28Aにおいては、超格子構造によって基板14からの貫通転位の伝播が阻止される。それにより、このGaN基板28A内の転位密度が低減し、GaN基板28Aの結晶性が向上するため、高品質のデバイス作製に利用することができる。なお、エピタキシャル薄膜32の材質は、GaNに限らず、中間層24Aの組成と異なるAlyGa1−yN(0≦y≦1)の組成を適宜選択できる。また、中間層24Aとエピタキシャル薄膜32とで構成される超格子構造は、5層に限らず、適宜層数を増減してもよい。
次に、上述したGaN基板とは異なる態様のGaN基板及びその製造方法について、図5を参照しつつ説明する。図5(a)〜(e)は、GaN基板を作製する手順を示した図である。
まず、上述したGaN基板28の製造方法と同様の方法により、基板14上に中間層24を積層する。すなわち、装置10のトレイ20に、上面14aが(0001)面となるように基板14を設置して、清浄化処理を施した後(図5(a)参照)、TMGを24.42μmol/min、TMAを2.02μmol/min、基板温度1100℃及び圧力80kPa以上の条件で11.5分間供給し、NH3を6slm、H2を8slmの条件で流す。それにより、基板14上には膜厚が100nmのAlxGa1−xN(X=0.08)からなる中間層24Bが成長する(図5(b)参照)。
ここで、基板14上へのエピタキシャル成長は、積層される層の材質がAlGaNである場合であっても、種々の要因により、図5(b)に示したように異常成長となってしまう場合がある。そこで、中間層24B上に、TMGを24.42μmol/min、TMIを11.16μmol/min、基板温度830℃及び圧力80kPa以上の条件で5分間供給すると共に、NH3を6slm、H2を8slmの条件で流して、中間層24B上には膜厚が50nmのInzGa1−zN(z=0.10)からなるInGaNエピタキシャル層34を成長させる(図5(c)参照)。このようにすると、基板表面14aの汚染が甚だしく、或いは欠陥集中領域14c(図2参照)表面の結晶品質が著しく低いために、中間層24Bが異常成長して十分な平坦化が図れない場合であっても、その中間層24B上にInGaNからなる層を成長させることにより、成長面34aの平坦化が補完されることを発明者らは新たに見出した。
上面34aが平坦なInGaNエピタキシャル層34を成長させた後は、その上に中間層24Cを中間層24Bと同様の条件で成長させ(図5(d)参照)、上述した上層と同様の条件で上層26をエピタキシャル成長させて、GaN基板28Bの作製が完了する(図5(e)参照)。なお、InGaNエピタキシャル層34上に中間層24Cを積層することで、上層26の形成のために基板温度を上昇した際に、InGaNエピタキシャル層34を構成するInGaNが分解される事態が回避される。
以上で説明したように、中間層24B,24Cの間にInGaNエピタキシャル層34を備えるこのGaN基板28Bにおいては、中間層24Bが異常成長して十分な表面平坦化が図れない場合であっても、GaN基板28Bの上面26aが平坦となる。なお、中間層24B,24CのAl濃度やInGaNエピタキシャル層34のIn濃度を、層形成時に変調させて、上述した超格子構造を形成することも可能である。また、必要に応じて、中間層24B,24CとInGaNエピタキシャル層34との間にGaN薄膜を介在させてもよい。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る窒化物半導体素子及びその製造方法について、図6を参照しつつ説明する。図6は、本実施形態に係る窒化物半導体素子として、発光素子1Aの構成を示す側面断面図である。なお、本実施形態では、発光素子1Aとして青色LEDを例示する。
発光素子1Aは、GaN単結晶からなり、主面46a及び裏面46bを有する導電性の基板46を備える。基板46は、周囲の低欠陥領域14dより欠陥密度が10倍以上高く基板46の主面46aにおいて点状に分布する欠陥集中領域14cを有している。欠陥集中領域14cは、基板14の厚さ方向に延びている。この欠陥集中領域14cは、基板46において不規則に配置されていてもよい。なお、基板46における欠陥集中領域14cの密度、欠陥集中領域14c及び低欠陥領域14dにおける欠陥密度、並びに主面14aの面積に占める欠陥集中領域14cの表面積の割合は、前述した基板14と同様である。また、発光素子1Aは、基板46の主面46a上に順にエピタキシャル成長された中間層48、n型窒化物半導体領域53、発光層52、及びp型窒化物半導体領域55を備える。また、発光素子1Aは、基板46の裏面46b上にカソード電極58Aを、p型窒化物半導体領域55上にアノード電極58Bを、それぞれ備える。
中間層48は、欠陥集中領域14c表面を含む基板46の主面46a(たとえば(0001)面)上にエピタキシャル成長されたAlxGa1−xN(0<x≦1)層を含んで構成される。また、中間層48には、n型のドーパントが添加されている。中間層48の厚さは、本実施形態では50nmである。中間層48の厚さは、中間層48の成長条件を変化させることにより10nm以上500nm以下の厚さから適宜選択できるが、これより厚いと亀裂等の欠陥が発生する可能性が高くなる。後述する実施例において示すように、Alの組成比が0<x<0.24である場合において中間層48の厚さが(−5x+1.2)μm未満であれば、亀裂等の欠陥が好適に抑えられる。また、中間層48にはその形成の過程で炭素が含有されてしまうが、その炭素濃度は発光素子1Aの電気的特性に問題のない程度(1×1018cm−3以下)である。
n型窒化物半導体領域53は、例えばn型バッファ層50といったn型の窒化物半導体を含んで構成されている。n型バッファ層50は、本実施形態における上層である。すなわち、本実施形態においては、基板46、中間層48、及びn型バッファ層50は、第1実施形態のGaN基板28がチップ状に切断されることにより形成されることができる。n型バッファ層50は、中間層48上にGaNがエピタキシャル成長されて成り、例えばSiといったn型ドーパントが添加されてn型の導電性を有している。また、n型バッファ層50は、発光層52よりも屈折率が小さく且つバンドギャップが大きくなるような組成を有しており、発光層52に対して下部クラッドとしての役割を果たす。なお、本実施形態において、n型バッファ層50の厚さは2μmである。
発光層52は、n型窒化物半導体領域53上(本実施形態ではn型バッファ層50上)に形成され、n型窒化物半導体領域53及びp型窒化物半導体領域55から供給されたキャリア(電子及び正孔)が再結合することにより発光領域52aにおいて光を発生する。本実施形態の発光層52は、厚さ15nmの障壁層と厚さ3nmの井戸層とが3周期にわたって交互に積層された多重量子井戸構造となっている。障壁層及び井戸層は、それぞれInGaNからなり、インジウム(In)の組成を適宜選択することによって障壁層のバンドギャップが井戸層のバンドギャップより大きくなるように構成されている。また、発光領域52aは、発光層52において、キャリアが注入される領域に生じる。本実施形態では、発光領域52aは、発光層52の全体に生じる。従って、発光領域52aは、基板46の欠陥集中領域14cのうち、少なくとも一部の欠陥集中領域14c上にわたって形成される。
p型窒化物半導体領域55は、例えばp型クラッド層54及びp型コンタクト層56といったp型の窒化物半導体を含んで構成されている。p型クラッド層54は、発光層52上にAlGaNがエピタキシャル成長されて成り、例えばMgといったp型ドーパントが添加されてp型の導電性を有している。また、p型クラッド層54は、発光層52よりも屈折率が小さく且つバンドギャップが大きくなるような組成を有しており、発光層52に対して上部クラッドとしての役割を果たす。なお、本実施形態において、p型クラッド層54の厚さは20nmである。
p型コンタクト層56は、p型クラッド層54とアノード電極58Bとを電気的に接続するための層である。p型コンタクト層56は、p型クラッド層54上にGaNがエピタキシャル成長されて成り、例えばMgといったp型ドーパントが添加されてp型の導電性を有している。なお、本実施形態において、p型コンタクト層56の厚さは150nmである。
カソード電極58Aは、導電性材料からなり、基板46との間にオーミック接触が実現されている。また、アノード電極58Bは、発光層52において発生した光を透過する導電性材料からなり、その少なくとも一部とp型窒化物半導体領域55(本実施形態ではp型コンタクト層56)との間にオーミック接触が実現されている。
次に、本実施形態に係る発光素子1Aを作製する手順について、図7を参照しつつ説明する。図7(a)〜(e)は、発光素子1Aを作製する手順を示した図である。
まず、第1実施形態のGaN基板28を作成する。すなわち、図1に示したフローチャネル12内のサセプタ18上のトレイ20に、GaN単結晶からなるウェハ状の基板14を、(0001)面を上向きにして設置する(図7(a)参照)。次に、基板14の主面14aの清浄化処理(サーマルクリーニング)を、上記第1実施形態と同様に行う。
続いて、基板14の温度(基板温度)を1050℃に、中間フローチャネル内の圧力を101kPaにそれぞれ保持した状態で、III族原料ガス、V族原料ガス及びドーピングガスを上述のキャリアガスと共に、ノズル22から基板14上に供給する。具体的には、TMG、TMA、NH3、及びSiH4を基板14上に供給し、基板14の主面14a上にn型のAlGaNからなる中間層24を成長させる(中間層形成ステップ、図7(b)参照)。このとき、中間層24の組成がAlxGa1−xN(0<x<0.24)となるように成長条件を調整することが好ましい。また、このとき、中間層24の厚さが(−5x+1.2)μm未満となるように成長時間を設定することが好ましい。
続いて、基板温度を1050℃に、中間フローチャネル内の圧力を101kPaにそれぞれ保持しながら、TMG、NH3、及びSiH4を中間層24上に供給することにより、n型のGaNからなりn型バッファ層となる上層26を中間層24上にエピタキシャル成長させる(図7(c)参照)。こうして、基板14、中間層24、及び上層26を備えるGaN基板28が作成される。
続いて、基板温度を800℃に下げ、TMG、TMI、及びNH3を上層26上に供給することにより、InGaNからなる発光層66を上層26上にエピタキシャル成長させる。このとき、TMG、TMI、及びNH3の流量などを周期的に変更することにより、障壁層及び井戸層からなる量子井戸構造を形成する。続いて、基板温度を1000℃に上げ、TMG、TMA、NH3、及びCp2Mgを発光層66上に供給することにより、p型のAlGaNからなるp型クラッド層68を発光層66上にエピタキシャル成長させる。続いて、基板温度を1000℃に保持したまま、TMG、NH3、及びCp2Mgをp型クラッド層68上に供給することにより、p型のGaNからなるp型コンタクト層70をp型クラッド層68上にエピタキシャル成長させる(半導体領域形成ステップ、図7(d)参照)。
続いて、発光層66、p型クラッド層68、及びp型コンタクト層70が形成されたGaN基板28をフローチャネル12内から取り出し、GaN基板28の裏面上にカソード電極58Aを、p型コンタクト層70上にアノード電極58Bを、それぞれ蒸着等により形成する。そして、GaN基板28を素子単位にチップ状に分割することにより、基板46、中間層48、n型バッファ層50、発光層52、p型クラッド層54、及びp型コンタクト層56を備える発光素子1Aが完成する(図7(e)参照)。
以上に説明した本実施形態による発光素子1A及びその製造方法が有する効果について説明する。第1実施形態の説明において述べたように、GaN単結晶からなる基板上にGaNからなる層を直接成長させた場合、基板表面の一部領域では、正常なエピタキシャル成長がおこらずに窪みが生じ(図13、図14参照)、中間層の表面の平坦性が著しく損なわれてしまう。これに対して本実施形態の発光素子1A及びその製造方法では、基板14(46)上にAlGaNからなる中間層24(48)を成長させる。AlGaNは、汚染物質が付着している領域或いは欠陥集中領域14cの表面領域を含む基板46表面の全域に成長するので、中間層48の表面48aを平坦に形成することができる。従って、中間層48上に積層される各層の界面(成長面)を平坦にすることができるので、発光素子1Aの発光量といったデバイス特性を向上できる。
また、AlGaNは汚染物質が付着している領域或いは欠陥集中領域14c表面を含む基板14(46)表面の全域に成長するので、中間層24(48)を80kPa以上といった比較的高い圧力下で成長させても、中間層48の表面48aを平坦にできる。従って、中間層48上に積層されるn型バッファ層50、発光層52、p型クラッド層54、及びp型コンタクト層56をこのような比較的高い圧力下で成長させても各層の界面を平坦に形成できるので、これらの層を比較的高い圧力下で成長させることができ、これによって各層の結晶性を向上させることができる。従って、発光素子1Aのデバイス特性が向上する。
また、本実施形態のように、n型窒化物半導体領域53は、中間層48上にエピタキシャル成長されたGaNからなるn型バッファ層50を含むことが好ましい。n型窒化物半導体領域53がn型バッファ層50を含むことにより、例えば基板46の主面46aに加工などによる微小な凹凸が存在し、中間層48の表面48aにこの凹凸が現れているような場合であっても、中間層48上にn型バッファ層50をエピタキシャル成長させることによって成長面(n型バッファ層50の表面)を平坦にできる。従って、n型バッファ層50上にエピタキシャル成長される各層の結晶性が向上するので、発光素子1Aにおける発光量などのデバイス特性がさらに向上する。
また、本実施形態のように、中間層48は、n型の伝導性を有することが好ましい。この場合、中間層48の比抵抗が低減するため、基板46の両側にカソード電極58A及びアノード電極58Bが形成された縦型のデバイスである発光素子1Aにおいて、発光量といったデバイス特性がさらに向上する。なお、本実施形態では中間層48はn型にドープされているが、素子の構造によってはp型にドープされてもよい。
また、基板46の主面46aにおける欠陥集中領域14cの密度は基板14と同様に100[個/cm2]以上であってもよい。このように欠陥集中領域14cの密度が比較的高い場合においても、本実施形態の発光素子1A及びその製造方法によれば、中間層48及び中間層48上に積層される各層の界面を平坦にすることができる。
また、本実施形態では、発光層52における発光領域52aが、少なくとも一部の欠陥集中領域14c上にわたっている。発光素子1Aのような発光素子では、発光層52(のうち、特に発光領域52a)をより結晶性良く成長させることが好ましい。しかし、従来の発光素子では、結晶欠陥領域上の発光層を結晶性良く形成することが困難であったため、高輝度化を妨げる一因となっていた。これに対し、本実施形態の発光素子1Aによれば、基板46の欠陥集中領域14cの配置に関係なく発光層52の界面を平坦にできるので、発光層52の発光領域52aにおける結晶性をより良くすることができる。
なお、注意すべき点は、本実施形態における中間層48がいわゆるクラッド層とは異なる点である。本実施形態の発光素子1AのようなLEDにおいては、発光層付近に光を閉じ込めるためにクラッド層は比較的厚く形成される必要がある。例えば、本実施形態のn型バッファ層50の厚さは2μmとなっている。これに対し、本実施形態の中間層48の厚さは50nmとなっている。中間層48は、このような比較的薄い膜厚であっても上述した効果を好適に奏することができる。
次に、上述した発光素子1Aとは異なる態様の発光素子1Bについて、図8を参照しつつ説明する。図8は、発光素子1Bの構成を示す側面断面図である。なお、発光素子1Bが発光素子1Aと異なる点は、中間層49の構造である。発光素子1Bにおける中間層49以外の構成については、上記発光素子1Aと同様なので詳細な説明を省略する。
発光素子1Bは、基板46の主面46a上に中間層49を備える。中間層49は、交互に積層された第1の層49A及び第2の層49Bを含んでいる。第1の層49Aはn型にドープされたAlxGa1−xN(0<x≦1)からなり、第2の層49Bはn型にドープされたAlyGa1−yN(0≦y≦1、y≠x)からなる。本実施形態では、第1の層49A及び第2の層49Bは、基板46の主面46a上に10周期にわたって交互に積層されて超格子構造(歪超格子構造)を構成している。第1の層49A及び第2の層49Bの厚さは、例えばそれぞれ10nmである。
このような発光素子1Bの製造方法は、以下の点を除いて発光素子1Aと同様である。すなわち、発光素子1Bを製造する際には、中間層49を形成する工程において、第1の層49Aを形成後、例えばノズル22(図1参照)の上流にある切替弁を操作して、TMAの供給を遮断する。これにより、第1の層49Aの上に、GaN(すなわち、AlyGa1−yN(y=0))からなる第2の層49Bが積層される。そして、このような切替弁の操作により、第1の層49A及び第2の層49Bを交互に積層して10層の超格子構造を形成する。
第1の層49A及び第2の層49Bにより超格子構造(歪超格子構造)が形成された中間層49を備える上記発光素子1Bにおいては、超格子構造によって基板46からの貫通転位の伝播が阻止される。それにより、n型窒化物半導体領域53、発光層52、及びp型窒化物半導体領域55の転位密度が低減して結晶性が向上するため、発光輝度が高まるなど、デバイス特性を向上できる。なお、第1の層49Aと第2の層49Bとで構成される超格子構造は、10層に限らず、適宜層数を増減してもよい。
次に、上述した発光素子1A及び1Bとは異なる態様の発光素子1Cについて、図9を参照しつつ説明する。図9は、発光素子1Cの構成を示す側面断面図である。なお、発光素子1Cが発光素子1A及び1Bと異なる点は、中間層51の間にInGaNエピタキシャル層57を備えている点である。発光素子1CにおけるInGaNエピタキシャル層57以外の構成については、上記発光素子1A及び1Bと同様なので詳細な説明を省略する。
発光素子1Cは、基板46の主面46a上に中間層51を備える。中間層51は、第1の層51A及び第2の層51Bを含んで構成されている。そして、発光素子1Cは、中間層51の第1の層51Aと第2の層51Bとに挟まれたInGaNエピタキシャル層57を備える。第1の層51A及び第2の層51Bはそれぞれn型にドープされたAlxGa1−xN(0<x≦1)からなり、InGaNエピタキシャル層57はn型にドープされたInzGa1−zN(0<z≦1)からなる。
このような発光素子1Cの製造方法は、以下の点を除いて発光素子1Aと同様である。すなわち、発光素子1Cを製造する際には、中間層51を形成する工程において、n型のAlGaNからなる第1の層51Aを形成後、TMG、TMI、NH3、及びSiH4を第1の層51A上に供給することにより、n型のInzGa1−zN(0<z≦1)からなるInGaNエピタキシャル層57を成長させる。そして、InGaNエピタキシャル層57上にn型のAlGaNを成長させることにより第2の層51Bを形成する。
基板46上でのエピタキシャル成長は、積層される層の材質がAlGaNであっても、種々の要因により、図9に示した第1の層51Aのように異常成長となってしまう場合がある。そこで、発光素子1Cのように、第1の層51A上にInzGa1−zN(0<z≦1)からなるInGaNエピタキシャル層57を成長させる。このようにすると、基板46の主面46aの汚染が甚だしく、或いは欠陥集中領域14c表面の結晶品質が著しく低いために、中間層51の第1の層51Aが異常成長して十分な平坦化が図れない場合であっても、その第1の層51A上にInGaNからなる層を成長させることにより、成長面57aの平坦化が補完される。
(第1の実施例)
続いて、上記第2実施形態に対する実施例を示す。まず、第1実施例として、青色光を発光する発光素子1Aを作成した。
まず、GaN単結晶からなるウェハ状の基板14をサセプタ18上のトレイ20に配置し、フローチャネル12内の圧力(炉内圧力)を101kPaに保ちながらフローチャネル12内にNH3及びH2を導入し、基板14の温度を1050℃に10分間保ち主面60aのクリーニングを行った。次に、基板温度を1050℃に、炉内圧力を101kPaにそれぞれ保持しながら、フローチャネル12内にTMA、TMG、NH3、及びSiH4を導入し、厚さ50nmのn型Al0.07Ga0.93Nからなる中間層24を成長させた。その後、基板温度及び炉内圧力を保持したまま、さらに厚さ2μmのn型GaNからなりn型バッファ層50となる上層26を成長させ、GaN基板28を作成した。
次に、基板温度を800℃まで下げ、厚さ15nmのInGaNからなる障壁層及び厚さ3nmのInGaNからなる井戸層を3周期にわたって交互に成長させ、発光層66を形成した。その後、基板温度を再び1000℃に上げ、フローチャネル12内にTMA、TMG、NH3、及びCp2Mgを導入して、厚さ20nmのp型Al0.12Ga0.88Nからなるp型クラッド層68を成長させた。そして、TMG、NH3、及びCp2Mgを導入して、厚さ50nmのp型GaNからなるp型コンタクト層70を成長させた。
図10は、本実施例によって作成された発光素子1Aのp型コンタクト層70の表面を微分干渉顕微鏡によって撮影した写真である。図10に示すように、p型コンタクト層70の表面は凹凸が少なく平坦な面となっていることがわかる。最上層であるp型コンタクト層70の表面の状態は、その下層であるp型クラッド層68、発光層66、及び上層26の界面(成長面)の状態が反映されたものであるので、図10に示された写真より、p型クラッド層68、発光層66、及び上層26の界面が平坦であることも推測できる。
その後、GaN基板28の裏面にカソード電極58Aを形成し、p型コンタクト層70上にアノード電極58Bを形成した。そして、GaN基板28を素子に分割し、発光素子1Aを完成させた。こうして作成した発光素子1Aに電流を連続して印加したところ、電流値20mAで発光波長450nmとなり、ベアチップ(パッケージングを行う前の素子)の状態で発光量3mWが得られた。
さらに、本発明者らは、本実施例において中間層48の厚さ及びAl組成比を様々に設定して発光素子1Aの作成を試みた。以下の表1は、13通りの厚さ及びAl組成比で作成した中間層48について、亀裂(クラック)の有無を調べた結果を示す表である。表1には、中間層48の膜厚、及びPL波長から導かれるAl組成比xをあわせて示している。
図11は、表1に示した13通りの中間層48について、厚さ及びAl組成比とクラックの有無との相関を示すグラフである。図11を参照すると、直線A(厚さ=−5x+1.2、0<x<0.24)を境にして、中間層48におけるクラックの有無が明確に異なることがわかる。すなわち、Al組成比xが0<x<0.24の範囲内であるときに、中間層48の厚さが(−5x+1.2)μm未満であれば、クラックが発生することなく中間層48が好適に成長することが見出された。
(第2の実施例)
続いて、第2実施例として、青色光を発光する発光素子1Bを作成した。まず、基板14をトレイ20に配置し、第1実施例と同様にして主面14aのクリーニングを行った。次に、基板温度を1050℃に、炉内圧力を101kPaにそれぞれ保持しながら、フローチャネル12内にTMA、TMG、NH3、及びSiH4を導入し、厚さ10nmのn型Al0.14Ga0.86N、厚さ10nmのn型GaNを交互に10周期積層して、中間層を成長させた。その後、第1実施例と同様にしてn型バッファ層、発光層、p型クラッド層、及びp型コンタクト層を成長させた。こうして成長させたp型コンタクト層表面を微分干渉顕微鏡によって観察したところ、第1実施例と同様に該表面が平坦に形成されていた。
その後、基板14の裏面にカソード電極58Aを形成し、p型コンタクト層上にアノード電極58Bを形成した。そして、基板14を素子に分割し、発光素子1Bを完成させた。こうして作成した発光素子1Bに電流を連続して印加したところ、電流値20mAで発光波長450nmとなり、ベアチップの状態で発光量5mWが得られた。
(比較例)
続いて、上記各実施例の効果を検証するための比較例を示す。ここでは、比較例として、中間層を備えない発光素子を作成した。
まず、GaN単結晶からなる基板をサセプタ18上のトレイ20に配置し、第1実施例と同様にして主面のクリーニングを行った。次に、基板温度を1050℃に、炉内圧力を101kPaにそれぞれ保持しながら、フローチャネル12内にTMG、NH3、及びSiH4を導入し、厚さ2μmのn型GaNを成長させた。その後、第1実施例と同様にして、発光層、p型クラッド層、及びp型コンタクト層を順次成長させた。
図12は、本比較例によって作成された発光素子のp型コンタクト層の表面を微分干渉顕微鏡によって撮影した写真である。図12に示すように、本比較例におけるp型コンタクト層の表面は凹凸が多く、平坦性があまり良くなかった。従って、p型クラッド層、発光層、及びn型バッファ層の界面もまた平坦性が良くないと推測できる。
その後、基板の裏面にカソード電極を形成し、p型コンタクト層上にアノード電極を形成した。そして、基板を素子に分割し、発光素子を完成させた。こうして作成した発光素子に電流を連続して印加したところ、電流値20mAで発光波長450nmとなり、ベアチップの状態で発光量1mWしか得られなかった。これにより、上記各実施例では、基板上に中間層を備えることによって、発光素子のデバイス特性が向上していることが証明された。
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、中間層を構成するAlxGa1−xN(0<x≦1)、AlyGa1−yN(0≦y≦1)の組成は、x=0.08やx=0.16、y=0に限らず、適宜増減することが可能である。また、InGaNエピタキシャル層を構成するInzGa1−zNの組成は、z=0.10に限らず、0<z≦1の範囲で適宜増減することが可能である。また、基板の材料としては、上述した単結晶GaNのほか、多結晶GaNを用いても、本発明の効果を好適に得ることができる。
また、上記第2実施形態では中間層上にn型半導体領域が形成され、その上に活性層を挟んでp型半導体領域が形成されているが、中間層上にp型半導体領域が形成され、その上に活性層を挟んでn型半導体領域が形成されても良い。
また、上記第2実施形態では本発明の窒化物半導体素子として発光素子を例示したが、本発明はこれに限らず、III族窒化物からなるn型領域及びp型領域を有するトランジスタ等にも好適に用いられる。