本願発明者は、先の出願(特願2010−187096号)で、高品質のレーザ加工が可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する以下の提案を行った。
図1(A)は、先の出願の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。
レーザ発振器40、たとえばCO2レーザ発振器が、制御装置47からトリガパルス(トリガ信号)を受けて、パルスレーザビーム50を出射する。パルスレーザビーム50は、透光領域と遮光領域とを備えるマスク41の透光領域を通過することにより断面形状を整形され、AOD42に入射する。
AOD42は、音響光学効果を利用した光偏向器であり、制御装置47から送信される制御信号を受けて、入射するパルスレーザビーム50の進行方向を変化させて出射することができる。AOD42を出射するパルスレーザビームの出射方向(偏向角)は、AOD42に印加する制御信号の周波数によって変化させることが可能である。制御装置47は、周波数の相互に異なる制御信号をAOD42に印加して、パルスレーザビーム50の各レーザパルスから、偏向角の相対的に小さい光路Aを進行するレーザパルス(パルスレーザビーム50a)と、偏向角の相対的に大きい光路Bを進行するレーザパルス(パルスレーザビーム50b)とを時間的に分割生成する。
制御装置47からAOD42に制御信号が印加されない期間にAOD42に入射したパルスレーザビーム50は直進して、ダンパ43に入射し吸収される。
AOD42により偏向され、光路Aを進行するパルスレーザビーム50aは、ガルバノスキャナ44a、fθレンズ45aを経由して、ステージ46a上に載置された加工対象物であるプリント基板60aに入射する。
ガルバノスキャナ44aは2枚の揺動鏡(ガルバノミラー)を含み、入射したレーザビームを2次元方向に走査して出射する走査装置である。fθレンズ45aは、パルスレーザビーム50aを集光し、マスク41の位置におけるビーム断面(透光領域の形状)をプリント基板60a上に結像させる。ステージ46aは、プリント基板60aを移動可能に保持する、たとえばXYステージである。プリント基板60aに入射したパルスレーザビーム50aにより、プリント基板60aの穴開け加工が行われる。
同様に、AOD42により偏向され、光路Bを進行するパルスレーザビーム50bは、ガルバノスキャナ44b、fθレンズ45bを経由して、ステージ46b上に移動可能に保持された加工対象物であるプリント基板60bに入射し、プリント基板60bの穴開け加工が行われる。ガルバノスキャナ44a、44bの動作は、制御装置47により制御される。
図1(B)は、プリント基板60a、60bを示す概略的な断面図である。プリント基板60a、60bは、銅層61a、61b、ガラスクロスの入ったエポキシ樹脂で形成される樹脂層62a、62b、銅層63a、63bがこの順に積層される積層構造を有する。パルスレーザビーム50a、50bは、銅層63a、63bの表面からプリント基板60a、60bに入射し、銅層63a、63b及び樹脂層62a、62bを貫通し、銅層61a、61bに至る貫通孔が形成される。
パルスレーザビーム50a、50bの照射は、たとえばサイクル法で行われる。ある被加工位置にレーザパルスを1ショット入射させた後、ガルバノスキャナ44a、44bを駆動して、レーザビームの入射位置の位置決めを行い、次のレーザパルスを、位置決めされた入射位置(被加工位置)に入射させる。たとえば3〜5ショットのレーザパルスを同一の被加工位置に入射させることで貫通孔が形成される。穴開け加工はこのようにプリント基板60a、60b上に画定された複数の被加工位置にレーザパルスを順番に照射して行われる。
プリント基板60a、60bは、たとえば被加工位置が等しく配置された同種のプリント基板である。ガルバノスキャナ44a、44bは、同様の動作を行うように制御され、プリント基板60a、60bには、対応する被加工位置に、同時に同様の穴開け加工が施される。
制御装置47は、レーザ発振器40にトリガパルスを送信し、レーザ発振器40からのパルスレーザビーム50の出射を制御する。また、AOD42を制御して、パルスレーザビーム50の各レーザパルスから、光路Aを進行するレーザパルスと、光路Bを進行するレーザパルスとを生成する。この際、AOD42に印加する制御信号の周波数及び印加時間により、光路A、Bへの振り分けの選択、及び振り分けられるレーザパルスのパルス幅を、それぞれ制御することができる。更に、制御装置47は、プリント基板60a、60bの被加工位置に貫通孔が形成されるように、ガルバノスキャナ44a、44bの位置決め動作の制御を行う。また、ステージ46a、46bによるプリント基板60a、60bの移動を制御する。
制御措置47は、記憶装置、たとえばメモリを備える。記憶装置には、たとえば加工に必要な情報が記憶されている。制御は、たとえば記憶装置に記憶されている内容に基いて行われる。
図2は、プリント基板へのレーザビームの照射に先立って行う準備工程(先の出願における準備工程)を示すフローチャートである。
レーザビームの照射に先立ち、まずステップS101において、加工対象物の被加工位置(プリント基板の加工穴の配置)に基き、ガルバノスキャナの移動ルート(ガルバノミラーの向きを変化させる経路)を最適化し、穴の加工順序を決定するとともに、加工順序に従った穴間隔を把握する。ガルバノスキャナの移動ルートの最適化は、たとえばガルバノスキャナの移動時間(ガルバノミラーの向きを変化させる時間)が最短となるように行う。
ステップS101の枠内に、穴加工順序(穴番号)と穴間隔との関係の一例を示した。本図において、横軸は穴加工順序(穴番号)を表し、縦軸は1つ前に加工される穴との間隔を単位「mm」で表す。本図から、加工対象物となるプリント基板は、加工順序に従って見たとき、穴(被加工位置)の間隔が0.8mm弱〜1.7mm弱の範囲で分布するプリント基板であることがわかる。
ステップS102においては、穴加工順序とレーザ発振周波数とを関連づける。この作業に当たっては、あらかじめステップS201で、ガルバノスキャナの移動速度から、穴間隔とレーザの発振周波数との関係を求め、把握しておく。
ステップS201の枠内に、穴間隔と、当該穴間隔で穴を開ける際に照射すべきレーザパルスの発振周波数との関係の一例を示した。本図において、横軸は穴間隔を単位「mm」で表し、縦軸はレーザ発振周波数を単位「Hz」で表す。本図には、穴間隔が大きくなるにつれて、レーザの発振周波数が小さくなる両者の関係が示されている。なお、穴間隔とレーザの発振周波数との関係は、ガルバノスキャナの移動距離(ガルバノミラーの向きの変化量)とレーザの発振周波数との関係に対応する。
穴加工順序とレーザ発振周波数との関連づけは、ステップS101で決定された穴加工順序及び把握された穴間隔と、ステップS201で求められた穴間隔とレーザの発振周波数との関係に基いて行う。
ステップS102の枠内に、穴加工順序とレーザ発振周波数との関係の一例を示した。本図において、横軸は穴加工順序(穴番号)を表し、縦軸はレーザ発振周波数を単位「Hz」で表す。本図を参照することにより、たとえば加工順序がn番目の穴を加工する際に照射すべきレーザパルスの発振周波数を定めることができる。
ステップS103において、穴加工順序と加工パルス幅とを関連づける。この作業に当たっては、あらかじめステップS202で、プリント基板に照射されるレーザパルスのパルスエネルギ(1ショットのレーザパルスによって、プリント基板に投入されるエネルギ)が一定となる、レーザの発振周波数と加工レーザパルスのパルス幅(加工パルス幅)との関係を求め、把握しておく。プリント基板に照射する加工レーザパルスのパルスエネルギの一定値は、たとえば形成する穴の径や開口率等、要求される穴品質から決定される。
ステップS202の枠内に、プリント基板に照射される加工レーザパルスのパルスエネルギを一定にする、レーザの発振周波数と加工レーザパルスのパルス幅との関係の一例を示した。本図において、横軸はレーザの発振周波数を単位「Hz」で表し、縦軸は加工レーザパルスのパルス幅を単位「μs」で表す。本図に示すように、プリント基板に照射する加工レーザパルスのパルスエネルギを一定にするためには、レーザの発振周波数が大きくなった場合、加工レーザパルスのパルス幅も大きくする必要がある。
穴加工順序と加工パルス幅との関連づけは、ステップS102で求められた、穴加工順序とレーザ発振周波数との関係、及び、ステップS202で求められたレーザ発振周波数と加工パルス幅との関係に基いて行う。
ステップS103の枠内に、穴加工順序と加工パルス幅との関係の一例を示した。本図において、横軸は穴加工順序(穴番号)を表し、縦軸は加工パルス幅を単位「μs」で表す。本図を参照することにより、たとえば加工順序がn番目の穴を加工する際、プリント基板に照射すべき加工レーザパルスのパルス幅が決定される。
本図に示す穴加工順序と加工パルス幅との関係(加工順序がn番目の穴を加工する際、プリント基板に照射すべき加工レーザパルスのパルス幅)は、たとえば制御装置内の記憶装置に記憶され、AODに対する制御信号の印加時間の制御に利用される。
ステップS101の枠内に示したグラフと、ステップS103の枠内に示したグラフとを比較すると、穴間隔が大きい場合には加工パルス幅を短く、穴間隔が小さい場合には加工パルス幅を長くすればよい(直前に加工した穴との間隔が大きいほど加工パルス幅を短くすればよい)ことがわかる。
穴加工順序と加工パルス幅との関連づけと同時に、穴加工順序とレーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅も関連づけられる。たとえば加工順序がn番目の穴を加工する際に、レーザ発振器から出射すべきレーザパルスのパルス幅を決定することができる。穴加工順序とレーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅との関係(加工順序がn番目の穴を加工する際に、レーザ発振器から出射すべきレーザパルスのパルス幅)は、たとえば制御装置内の記憶装置に記憶され、レーザ発振器に対するトリガパルスのパルス幅の制御に利用される。穴間隔と加工パルス幅との関係と同様に、直前に加工した穴との間隔が大きいほど、レーザ発振器から出射するレーザパルスのパルス幅を短くすればよい。
図3は、先の出願の実施例によるレーザ加工方法を示すタイミングチャートである。先の出願の実施例によるレーザ加工方法は、図1(A)に示すレーザ加工装置を用い、制御装置47による制御のもとで実施される。タイミングチャートの横軸は、すべて時間を表す。「レーザ発振」、「プリント基板60aへの入射ビーム」、「プリント基板60bへの入射ビーム」の段の縦軸は、単位時間当たりのエネルギを表し、「走査装置停止信号」、「偏向器(光路A)制御信号」、「偏向器(光路B)制御信号」の段の縦軸は、信号の有無を表す。
プリント基板60a、60bに対する(m−1)ショットめのレーザパルスがレーザ発振器40から出射された直後から、ガルバノスキャナ44a、44bは、mショットめのレーザパルスを、被加工位置に入射させるように位置決めを行う。位置決めが完了すると、ガルバノスキャナ44a、44bから制御装置47に走査装置停止信号が送信される。
走査装置停止信号を受信した制御装置47は、その直後、レーザ発振器40にトリガパルスを送信し、mショットめのレーザパルスを出射させるとともに、AOD42に周波数が相対的に低い制御信号を印加し(「偏向器(光路A)制御信号」の段参照)、制御信号印加時間中にAOD42に入射したレーザパルスを光路Aに沿って進行するように偏向する。これに続けて、AOD42に周波数が相対的に高い制御信号を印加し(「偏向器(光路B)制御信号」の段参照)、制御信号印加時間中にAOD42に入射したレーザパルスを光路Bに沿って進行するように偏向する。
この結果、AOD42への信号印加時間と等しいパルス幅(tm)のレーザパルスが、光路A、Bに沿って進行し、ガルバノスキャナ44a、44b、fθレンズ45a、45bを経由してプリント基板60a、60bの被加工位置に照射され、各基板60a、60bにおいて穴開け加工が行われる。
ここで、レーザパルスを光路Aに振り分ける制御信号の印加時間と、光路Bに振り分けるそれとは相互に等しく、たとえば図2のステップS103の枠内に示したグラフによって定められる時間である。また、レーザ発振器40から出射されるレーザパルスのパルス幅は、穴加工順序とレーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅との関連づけにより、穴間隔が大きい場合には短く、穴間隔が小さい場合には長く決定されるパルス幅である。レーザ発振器40から出射されるレーザパルスのパルス幅は、制御信号47から送信されるトリガパルスのパルス幅で制御することができる。
レーザ発振器40からのmショットめのレーザパルスの出射が終了し、光路A、Bに振り分けられたレーザパルスがプリント基板60a、60bに照射された直後から、ガルバノスキャナ44a、44bは、(m+1)ショットめのレーザパルスを、被加工位置に入射させるように位置決めを行う。走査装置停止信号が受信された直後、制御装置47は、レーザ発振器40及びAOD42に対して同様の制御を行い、(m+1)ショットめのレーザパルスからパルス幅tm+1のレーザパルスを光路A、Bのそれぞれに切り出して、プリント基板60a、60bの被加工位置に入射させる。加工レーザパルスのパルス幅tmとパルス幅tm+1とは、たとえば相互に等しい。
なお、このとき、レーザ発振器40からのmショットめのレーザパルスのパルス幅及び単位時間当たりのエネルギと、(m+1)ショットめについてのそれらとは互いに等しい。その結果、レーザ発振器40からのmショットめのレーザパルスのパルスエネルギSmと、(m+1)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+1とは相互に等しくなる。また、プリント基板60a、60bに照射されるmショットめの加工レーザパルスの単位時間当たりのエネルギと、(m+1)ショットめについてのそれも互いに等しく、その結果、mショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm、Bmと、(m+1)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+1、Bm+1とは、相互に等しくなる。
レーザ発振器40の(m+1)ショットめのレーザパルスから切り出された加工レーザパルスがプリント基板60a、60bに照射された直後から、ガルバノスキャナ44a、44bは、(m+2)ショットめのレーザパルスから切り出される加工レーザパルスを、次の被加工位置に入射させるように位置決めを行う。
ここで、(m+1)ショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+2)ショットめについてのそれとの間隔((m+2)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)は、mショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+1)ショットめについてのそれとの間隔((m+1)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)より大きい。このため、(m+2)ショットめの加工レーザパルスを照射する際の位置決め時間(走査装置移動時間)は、(m+1)ショットめに関するそれより長い。
走査装置停止信号が受信された直後、制御装置47は、レーザ発振器40及びAOD42に対して同様の制御を行い、(m+2)ショットめのレーザパルスからパルス幅tm+2のレーザパルスを光路A、Bのそれぞれに切り出して、プリント基板60a、60bの被加工位置に入射させる。
レーザ発振器40より、(m+1)ショットめのレーザパルスが発振されてから(m+2)ショットめのレーザパルスが発振されるまでの時間は、mショットめのレーザパルスが発振されてから(m+1)ショットめのレーザパルスが発振されるまでの時間よりも長い。レーザ発振器40からの(m+2)ショットめのレーザパルスのパルス幅は、(m+1)ショットめについてのそれよりも短い。単位時間当たりのエネルギに関しては、(m+2)ショットめの方が、(m+1)ショットめよりも大きい。レーザ発振器40からの(m+2)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+2と、(m+1)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+1とは互いに等しい。
また、加工レーザパルスのパルス幅tm+2はパルス幅tm+1より短い。加工レーザパルスの単位時間当たりのエネルギに関しては、(m+2)ショットめの方が、(m+1)ショットめよりも大きい。(m+2)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+2、Bm+2と、(m+1)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+1、Bm+1とは相互に等しい。
レーザ発振器40の(m+2)ショットめのレーザパルスから切り出された加工レーザパルスがプリント基板60a、60bに照射された直後から、ガルバノスキャナ44a、44bは、(m+3)ショットめのレーザパルスから切り出される加工レーザパルスを、次の被加工位置に入射させるように位置決めを行う。
ここで、(m+2)ショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+3)ショットめについてのそれとの間隔((m+3)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)は、mショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+1)ショットめについてのそれとの間隔((m+1)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)より小さい。このため、(m+3)ショットめの加工レーザパルスを照射する際の位置決め時間(走査装置移動時間)は、(m+1)ショットめに関するそれより短い。
走査装置停止信号が受信された直後、制御装置47は、レーザ発振器40及びAOD42に対して同様の制御を行い、(m+3)ショットめのレーザパルスからパルス幅tm+3のレーザパルスを光路A、Bのそれぞれに切り出して、プリント基板60a、60bの被加工位置に入射させる。
レーザ発振器40より、(m+2)ショットめのレーザパルスが発振されてから(m+3)ショットめのレーザパルスが発振されるまでの時間は、mショットめのレーザパルスが発振されてから(m+1)ショットめのレーザパルスが発振されるまでの時間よりも短い。レーザ発振器40からの(m+3)ショットめのレーザパルスのパルス幅は、(m+1)ショットめについてのそれよりも長い。単位時間当たりのエネルギに関しては、(m+3)ショットめの方が、(m+1)ショットめよりも小さい。レーザ発振器40からの(m+3)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+3と、(m+1)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+1とは互いに等しい。
また、加工レーザパルスのパルス幅tm+3はパルス幅tm+1より長い。加工レーザパルスの単位時間当たりのエネルギに関しては、(m+3)ショットめの方が、(m+1)ショットめよりも小さい。(m+3)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+3、Bm+3と、(m+1)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+1、Bm+1とは相互に等しい。
先の出願の実施例によるレーザ加工方法によれば、穴間隔や、それに対応する走査装置移動時間に応じて照射するレーザパルスのパルス幅と発振周波数を変更し、照射されるレーザパルスのパルスエネルギを一定とするので、各穴の加工品質のばらつきの小さい、高品質の加工を実現することができる。ガルバノスキャナの位置決めの終了に同期させてレーザビームを発振させるため、たとえば図8(A)に示した加工方法と同程度の加工速度で加工を行うことが可能である。
なお、仮に(m+4)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)が、(m+1)ショットめについてのそれと等しい場合には、(m+4)ショットめの加工レーザパルスのパルス幅と発振周波数は、(m+1)ショットめと等しくなる。
先の出願の実施例によるレーザ加工方法においては、穴間隔が狭く、レーザ発振器を高い発振周波数で発振させる場合には、加工レーザパルスのパルス幅を大きくする。また穴間隔が広く、レーザ発振器を低い発振周波数で発振させる場合には、加工レーザパルスのパルス幅を小さくする。しかし、加工対象物によっては、投入するレーザビームのエネルギだけでなく、レーザビームを照射する時間(パルス幅)が加工品質に影響する。
そこで本願発明者は、レーザ発振周波数に制限を与え、加工レーザパルスのパルス幅を、加工に適切な範囲内として加工を行うレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法の発明を行った。本願は、先の出願に係る内容を含んで、これに改良を加えるものである。本願発明によれば、先の出願に係る発明よりも、高品質のレーザ加工を行うことが可能である。
たとえば図2のステップS202枠内のグラフには、プリント基板に照射される加工レーザパルスのパルスエネルギを一定にする、レーザの発振周波数と加工レーザパルスのパルス幅として、(500Hz、13.8μs)、(750Hz、14.0μs)、(1000Hz、14.5μs)、(1250Hz、14.8μs)、(1500Hz、15.2μs)、(1750Hz、15.7μs)、(2000Hz、16.0μs)、(2250Hz、16.7μs)、(2500Hz、17.5μs)という組み合わせが示されている。
しかしながら、たとえばガラスクロスの入ったエポキシ樹脂で形成される樹脂層上に形成され、表面が黒化処理された厚さ12μmの銅層に、1ショットのレーザパルスを照射して、銅層を貫通する穴径が80μm〜90μmの穴を開ける加工においては、加工レーザパルスのパルス幅は、14μs〜16μsが適当である。そして、図2のステップS202枠内に示すグラフによれば、この範囲のパルス幅に対応するレーザの発振周波数は、750Hz〜2000Hzである。したがって、レーザ発振周波数を750Hz〜2000Hzに制限することで、たとえば加工品種によって定まる適切な加工パルス幅、一例として14μs〜16μsで加工を行うことができる。
図4及び図5は、実施例によるレーザ加工方法を示すタイミングチャートである。実施例によるレーザ加工方法は、図1(A)に示すレーザ加工装置を用い、制御装置47による制御のもとで実施される。タイミングチャートの縦軸及び横軸はすべて図3におけるそれらと等しい。
図4を参照する。m+3ショットめまでの説明は、先の出願の実施例によるレーザ加工方法と同様である。
レーザ発振器40の(m+3)ショットめのレーザパルスから切り出された加工レーザパルスがプリント基板60a、60bに照射された直後から、ガルバノスキャナ44a、44bは、(m+4)ショットめのレーザパルスから切り出される加工レーザパルスを、次の被加工位置に入射させるように位置決めを行う。
ここで、(m+3)ショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+4)ショットめについてのそれとの間隔((m+4)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)は、(m+2)ショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+3)ショットめについてのそれとの間隔((m+3)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)より小さい。このため、(m+4)ショットめの加工レーザパルスを照射する際の位置決め時間(走査装置移動時間)は、(m+3)ショットめに関するそれより短い。ここで説明の便宜のため、(m+3)ショットめのレーザパルスは2000Hzのレーザ発振周波数で、レーザ発振器40から発振されたものとする。
(m+4)ショットめのレーザパルスから切り出される加工レーザパルスを、被加工位置に入射させる位置決めが完了すると、ガルバノスキャナ44a、44bから制御装置47に走査装置停止信号が送信される。しかし制御装置47が走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40にトリガパルスを送信し、(m+4)ショットめのレーザパルスを出射させた場合、レーザ発振周波数は2000Hzより大きくなる。このため制御装置47は、(m+4)ショットめのレーザパルスが、2000Hzのレーザ発振周波数でレーザ発振器40から発振されるように、レーザパルスの出射時刻を遅延させる。
遅延期間の後、制御装置47は、レーザ発振器40にトリガ信号を送信し、(m+4)ショットめのレーザパルスを、2000Hzのレーザ発振周波数で出射させるとともに、AOD42に対し、周波数が相対的に低い制御信号を印加し、制御信号印加時間中にAOD42に入射したレーザパルスを光路Aに沿って進行するように偏向する。これに続けて、AOD42に周波数が相対的に高い制御信号を印加し、制御信号印加時間中にAOD42に入射したレーザパルスを光路Bに沿って進行するように偏向する。
2000Hzのレーザ発振周波数で発振される(m+3)ショットめのレーザパルスと(m+4)ショットめのレーザパルスのパルス幅、単位時間当たりのエネルギ、及びパルスエネルギSm+3、Sm+4は相互に等しい。また、(m+3)ショットめの加工レーザパルスと、(m+4)ショットめの加工レーザパルスとで、パルス幅tm+3、tm+4、単位時間当たりのエネルギ、及びパルスエネルギAm+3、Bm+3、Am+4、Bm+4とは相互に等しい。なお、パルス幅tm+3、tm+4は、16μsである。
このように、走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させたとすると、レーザ発振周波数が2000Hzより大きくなる場合、すなわちたとえば図2ステップS103枠内のグラフにおいて、加工パルス幅が16μsを超える穴については、レーザ発振器40から、レーザパルスが2000Hzの周波数で発振されるように、出射時刻を遅延させ、AOD42で光路A、Bの双方に、パルス幅16μsの加工レーザパルスを切り出して加工を行う。制御装置47は、受信した走査装置停止信号、及びレーザ発振周波数の制限範囲に基づいて、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させる。
なお、出射時刻の遅延時間をより長くし、750Hz以上2000Hz未満の発振周波数で、レーザパルスを出射することもできる。ただし、レーザの発振周波数を、制限範囲(750Hz〜2000Hz)の上限である2000Hzとすることで、先の出願の実施例によるレーザ加工方法と比較したときの加工速度の低下を小さくすることが可能である。
図4にタイミングチャートを示す加工を行う場合、制御装置47内の記憶装置に記憶させる記憶内容は、たとえば先の出願の実施例と同様でよい。走査装置からの停止信号受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させたとすると、レーザ発振周波数が2000Hzより大きくなる場合には、出射時刻を遅延させ、レーザ発振器40から発振周波数2000Hzでレーザパルスを出射させるとともに、制御装置47は、記憶されている穴加工順序と加工パルス幅との関係(たとえば図2ステップS103枠内のグラフに示される関係)を変更して、光路A、Bにそれぞれ加工パルス幅16μsの加工レーザパルスを切り出す制御を行う。なお、この場合、穴加工順序と関連づけられて記憶されている、レーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅も、発振周波数2000Hzでレーザパルスが出射される場合のパルス幅に変更される。
また、記憶装置に記憶させる内容は、先の出願と異ならせてもよい。たとえば、図2ステップS102の枠内のグラフにおいて、加工順序はそのままに、2000Hzを超えるレーザ発振周波数をすべて2000Hzとしたデータ、図2ステップS103の枠内のグラフにおいて、加工順序はそのままに、16μsを超える加工パルス幅をすべて16μsとしたデータ、及び、先の出願のレーザ加工方法において、2000Hzより大きな発振周波数で、レーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅を、発振周波数2000Hzで出射されるレーザパルスのパルス幅に変更したデータ(穴加工順序と関連づけられた、レーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅のデータ)を準備し、記憶装置に記憶させて、走査停止信号とは無関係に加工の制御を行うことも可能である。
図5を参照する。図4には、走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させたとすると、レーザ発振周波数が2000Hzより大きくなる場合を示したが、図5には、走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させたとすると、レーザ発振周波数が750Hz未満となる場合を示す。なお、m+3ショットめまでの説明は、先の出願の実施例によるレーザ加工方法と同様である。
レーザ発振器40の(m+3)ショットめのレーザパルスから切り出された加工レーザパルスがプリント基板60a、60bに照射された直後から、ガルバノスキャナ44a、44bは、(m+4)ショットめのレーザパルスから切り出される加工レーザパルスを、次の被加工位置に入射させるように位置決めを行う。
ここで、(m+3)ショットめの加工レーザパルスが入射する被加工位置と、(m+4)ショットめについてのそれとの間隔((m+4)ショットめの加工レーザパルスを入射させるに当たっての穴間隔)は、たとえば走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させたとすると、レーザ発振周波数が600Hzとなる穴間隔であるとする。仮に先の出願の実施例によるレーザ加工方法を用いて加工を行った場合、走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させ、約13.9μsのパルス幅の加工レーザパルスを、光路A、Bの双方に切り出すことになる。
光路A、Bのそれぞれに、パルス幅14μs〜16μsの加工レーザパルスを時間的に分割生成して加工を行う本願実施例によるレーザ加工方法においては、走査装置停止信号の受信とともに、レーザ発振器40からレーザパルスを出射させたときに、レーザ発振周波数が750Hz未満となる被加工位置には、レーザ発振器40から、1つまたは複数の捨て打ちパルス(被加工位置に伝搬させないレーザパルス)を出射した後に出射されるレーザパルスを入射させる。
(m+3)ショットめのレーザパルスの出射後、制御信号47からのトリガ信号に応じて、レーザ発振器40から、捨て打ちパルスが、レーザ発振周波数2400Hzで出射される。捨て打ちパルスの出射時において、ガルバノスキャナ44a、44bの少なくとも一方は、移動を行っている。捨て打ちパルスの出射に当たっては、AOD42に対する制御信号の印加は行わない。このため捨て打ちパルスは、AOD42を通過して、ダンパ43に入射し、吸収される。捨て打ちパルスの出射後、レーザ発振器40は、制御装置47の制御により、レーザ発振周波数800Hzで、被加工位置に入射させる(m+4)ショットめのレーザパルスを出射する。1/600Hz=1/2400Hz+1/800Hzの関係が成立するため、レーザ発振周波数が800Hzである(m+4)ショットめのレーザパルスが出射される時刻においては、ガルバノスキャナ44a、44bの位置決めは終了し、制御装置47は走査装置停止信号を受信している。
制御装置47は、レーザ発振器40にトリガ信号を送信し、(m+4)ショットめのレーザパルスを、800Hzのレーザ発振周波数で出射させるとともに、AOD42に対し、周波数が相対的に低い制御信号を印加し、制御信号印加時間中にAOD42に入射したレーザパルスを光路Aに沿って進行するように偏向する。これに続けて、AOD42に周波数が相対的に高い制御信号を印加し、制御信号印加時間中にAOD42に入射したレーザパルスを光路Bに沿って進行するように偏向する。両光路A、Bに切り出されるレーザパルスのパルス幅は、図2のステップS202枠内に示すグラフによれば、14.0μsより大きく、14.5μsより小さい。なお、先の出願の実施例によるレーザ加工方法の場合と同様に、たとえばレーザ発振器40から出射される(m+3)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+3と(m+4)ショットめのレーザパルスのパルスエネルギSm+4とは相互に等しく、また、プリント基板60a、60bに入射する(m+3)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+3、Bm+3と、(m+4)ショットめの加工レーザパルスのパルスエネルギAm+4、Bm+4とは相互に等しい。
図5にタイミングチャートを示す例においては、レーザ発振周波数600Hzのレーザパルスの代わりに、レーザ発振周波数2400Hzの捨て打ちパルス、及び、捨て打ちパルスに続けて、被加工位置に入射させるレーザ発振周波数800Hzのレーザパルスを出射した。たとえばレーザ発振周波数1200Hzの捨て打ちパルス、及び、捨て打ちパルスに続けて、被加工位置に入射させるレーザ発振周波数1200Hzのレーザパルスを出射してもよいし、レーザ発振周波数1800Hzの捨て打ちパルス、及び、被加工位置に入射させるレーザ発振周波数900Hzのレーザパルスを出射してもよい。また、レーザ発振周波数2400Hzの捨て打ちパルスを2ショット出射した後に、被加工位置に入射させるレーザ発振周波数1200Hzのレーザパルスを出射することもできる。捨て打ちパルスのレーザ発振周波数は任意である。被加工位置に入射させるレーザパルスは、レーザ発振器40から、750Hz〜2000Hzのレーザ発振周波数で出射する。
図5に示すレーザ加工方法においては、たとえば捨て打ちパルスと、被加工位置に入射させるレーザパルスの双方について、レーザ発振周波数を加工順序と関連づけたデータ、加工順序と加工パルス幅を関連づけたデータ、及び、加工順序とレーザ発振器から出射されるレーザパルスのパルス幅を関連づけたデータを準備し、記憶装置に記憶させて、加工の制御を行う。
図4及び図5にタイミングチャートを示す、実施例によるレーザ加工方法によれば、加工に応じた適切なパルス幅の加工レーザパルスを被加工位置に照射するため、先の出願の実施例によるレーザ加工方法よりも高品質のレーザ加工を実施することが可能である。
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
たとえば、実施例においては、照射されるレーザパルスのパルスエネルギが一定となるように、穴間隔に応じて照射するレーザパルスのパルス幅を変更したが、照射されるレーザパルスのパルスエネルギ(AOD42で偏向されるレーザパルスのパルスエネルギ)が一定値から±5%の範囲内におさまるようにパルス幅を変更しても、同様に、高品質の加工を実現することができる。
また、実施例においては、走査装置としてガルバノスキャナを用い、ガルバノスキャナの動作に同期させて、レーザ発振器からレーザパルスを出射させ、AODで偏向した。プリント基板に照射される加工レーザパルスのパルス幅は、AODへの制御信号の印加時間によって制御した。ガルバノスキャナやAODを使用しない変形例とすることも可能である。
図6は、変形例によるレーザ加工装置を示す概略図である。変形例においては、レーザ発振器40から出射したレーザパルスは、伝搬光学系48によって、XYステージ46上に移動可能に保持された加工対象物である基板60に伝搬される。制御装置47は、レーザ発振器40からのレーザパルスの出射、及びステージ46による基板60の移動を制御する。制御装置47は、レーザ発振器40に与えるトリガパルスのパルス幅で、出射されるレーザパルスのパルス幅を制御することができる。変形例における走査装置は、ステージ46である。ステージ46で基板60を移動させて、レーザパルスの入射位置を移動させるとともに、ステージの移動時間(基板60上の1つの入射位置から次の入射位置に、レーザパルスの入射位置を移動させる移動時間)に応じてレーザパルスのパルス幅を変更し、レーザ加工を行う。
レーザ加工のタイミングチャートの例として、図4の「レーザ発振」の段と、「走査装置停止信号」の段を使用することができる。制御装置47は、ステージ46からの停止信号を受信した直後、レーザ発振器40にトリガパルスを送信する。レーザの発振周波数に設けられた制限を超える周波数となる場合は、遅延時間の後、たとえば制限内の上限周波数でレーザパルスを出射する。トリガパルスのパルス幅は、被加工位置間の間隔(直前のステージ移動時間)に応じた長さである。制御装置47は、レーザ発振器40から出射されるレーザパルスのパルスエネルギSm、Sm+1、Sm+2、Sm+3、Sm+4がすべて等しくなるように、トリガパルスのパルス幅を変更し、レーザパルスのパルス幅を制御する。変形例によっても、高品質のレーザ加工が可能である。
なお、伝搬光学系48が、たとえば制御装置47の制御により、レーザパルスの透過と遮蔽とを切り替えるシャッタを備える場合、図5にタイミングチャートを示す加工に対応する加工が可能である。レーザ発振器40から捨て打ちパルスが出射されるとき、シャッタで捨て打ちパルスを遮蔽し、基板60に伝搬させない。
他にも、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
たとえば、実施例においては、パルスレーザビームの照射をサイクル法で行ったがバースト法で行ってもよい。
また、実施例においては、CO2レーザ発振器を使用したが、たとえばNd:YAGレーザなどの固体レーザやエキシマレーザ等、発振周波数が可変のレーザ発振器を使用することが可能である。