JP2012097337A - アルミニウム合金板 - Google Patents

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Abstract

【課題】室温での時効硬化による曲げ性の低下などの新たな問題が生じることなしに、SSマークの発生が少なく、プレス成形性に優れたAl−Mg系合金板を提供する。
【解決手段】特定のCuおよび/またはZnを含む組成からなるAl−Mg系アルミニウム合金板製造の際に、Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を上工程において充分に図り、下工程の調質条件もZnとCuとのクラスタを組織中に最大限形成させる条件として、SSマーク性に優れたアルミニウム合金板とする。
【選択図】なし

Description

本発明は成形性に優れたAl−Mg系アルミニウム合金板に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金板とは、冷間圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施されたアルミニウム合金板を言う。また、以下、アルミニウムをAlとも言う。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車等の車両の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車パネル、特にフード、ドア、ルーフなどの大型ボディパネル(アウタパネル、インナパネル)の材料として、鋼板等の鉄鋼材料にかえてアルミニウム合金材料の適用が検討されている。
Al−Mg系のJIS5052合金やJIS5182合金等の5000系アルミニウム合金板(以下、Al−Mg系合金板とも言う)は、延性および強度に優れることから、従来から、これら大型ボディパネル用のプレス成形素材として使用されている。
しかし、特許文献1などに開示される通り、これらAl−Mg系合金板について引張試験を行なえば、応力−歪曲線上の降伏点付近で降伏伸びが生じる場合があり、また降伏点を越えた比較的高い歪量(例えば引張伸び2%以上)で応力−歪曲線に鋸歯状もしくは階段状のセレーション(振動)が生じる場合がある。これらの応力−歪曲線上の現象は、実際のプレス成形において、いわゆるストレッチャーストレイン(以下SSマークとも記す)の発生を招き、成形品である大型ボディパネル、特に外観が重要なアウタパネルにとって、商品価値を損なう大きな問題となる。
このSSマークは、公知のように、歪量の比較的低い部位で発生する火炎状の如き不規則な帯状模様のいわゆるランダムマークと、歪量の比較的高い部位で引張方向に対し、約50°をなすように発生する平行な帯状模様のパラレルバンドとに分けられる。前者のランダムマークは降伏点伸びに起因し、また後者のパラレルバンドは段落0004で記載した応力−歪曲線上のセレーション(振動)に起因することが知られている。
従来から、これらSSマークを解消する方法が種々提案されている。例えば、主な手法としては、Al−Mg系合金板の結晶粒をある程度粗大に調整する方法が知られている。ただ、このような結晶粒の調整方法は、SSマークのうちでも、段落0004で記載したパラレルバンドの発生防止には有効ではない。また、結晶粒が粗大になり過ぎれば、プレス成形において表面に肌荒れが発生するなど、却って別の問題が生じる。
また、別のSSマークの解消方法として、Al−Mg系合金板のO材(軟質材)もしくはT4処理材などの調質材に、大型ボディパネルへのプレス成形前に、予めスキンパス加工あるいはレベリング加工等の加工(予加工)を加えて、若干の歪み(予歪み)を与えておくことも知られている。ただ、このような予加工法でも、加工度が高くなりすぎた場合には、段落0004で記載した応力−歪曲線上のセレーション(振動)が生じやすくなり、実際のプレス成形時においても、幅の広い明瞭なパラレルバンドの発生につながりやすい。このため、予加工の加工度には大きな制約があり、加工度を小さくした場合には安定してランダムマークの発生を防止することができなくなる。したがって、この予加工法では、パラレルバンドの発生防止と、ランダムマーク発生防止との最適加工度が相反するために、これら両者を同時に防止することができない。
これに対して、前記した特許文献1では、ランダムマークの発生とともに、広幅のパラレルバンドの発生も抑制した、SSマークの発生が少ないAl−Mg系合金板の製法が提案されている。具体的には、Al−Mg系合金の圧延板に、急速冷却を伴なう特定条件での溶体化・焼入れ処理を施し、その後特定条件での予加工としての冷間加工を行ない、さらに特定条件での最終焼鈍を施す。そして、平均結晶粒径が55μm以下でかつ150μm以上の粗大結晶粒が実質的に存在しない最終板を得るものである。
ここで、Al−Mg系合金板の分野において、必ずしもSSマークの発生抑制には直接言及してはいないが、合金板の熱的変化を示差熱分析(DSC)により測定して得られた、室温からの加熱曲線の吸熱ピークの位置や、その高さを、その板のプレス成形性向上の指標とすることも公知である。
例えば、特許文献2では、Al−Mg系合金板の示差熱分析(DSC)により得られた、室温からの加熱曲線の特定位置の吸熱ピーク高さによって、プレス成形性向上の指標とすることが提案されている。この示差熱分析(DSC)は、特性に影響するクラスタ(金属間化合物)が、TEMなどのミクロ組織観察では判別や識別ができず、直接存在を裏付けることができない場合に、クラスタの有無などの組織的な違いを、前記加熱曲線の特定位置の吸熱ピーク位置や高さによって、間接的に裏付けたり、指標とするために、アルミニウム合金板の分野で汎用されている。
この特許文献2では、双ロール式連続鋳造によって製造された、8質量%を超える高MgのAl−Mg系合金板において、室温からの加熱曲線の50〜100℃の間の吸熱ピーク高さを50.0μW以上として、プレス成形性を向上させている。この吸熱ピーク高さは、Al−Mg系合金板組織中のβ相と称せられるAl−Mg系金属間化合物の存在形態(固溶、析出状態の安定性)を示していることを根拠としている。
しかし、最近の大型ボディパネル、特に外観が重要なアウタパネルでは、表面性状の要求レベルが更に厳しくなってきており、これら特許文献1あるいは特許文献2でも、このような要求に対しては、SSマーク発生の抑制策が不十分である。例えば、特許文献1では、階段状のセレーションを軽微にできるだけであり(特許文献1の実施例の階段状セレーション評価の説明に記載)、そのためSSマークの一つであるパラレルバンドは完全には抑制できない。
これに対して、特許文献3では、この点を改良し、ランダムマークの発生とともに、パラレルバンドの発生を同時に抑制でき、SSマークを抑制した、自動車パネルへのプレス成形などの成形性に優れたAl−Mg系アルミニウム合金板が提案されている。同文献では、Al−Mg系アルミニウム合金板に対して、特にZnを0.1〜4.0%含有させて、セレーション発生の臨界歪み量(限界歪み量)をより高くする。すなわち、AlとMgとによって形成されるクラスタ(超微細金属間化合物)の形成量を、Zn等の第3元素の含有や添加によって、Zn等も含むクラスタとして増大させ、これらクラスタによる限界ひずみ量増大効果をより一層高めるものである。そして、これによって、セレーションを抑制し、これに起因するパラレルバンドを抑制して、SSマークの発生を抑制するものである。
このZn等も含むクラスタが、ナノレベル以下の大きさで、10万倍程度のFE−TEMなどのミクロ組織観察では判別や識別できず、直接存在を裏付けることができない。このため、この特許文献3でも、前記特許文献2同様、クラスタの有無などの組織的な違いを、熱的変化を示差熱分析(DSC)により測定した、前記加熱曲線の特定位置の吸熱ピーク位置や高さによって、組織的な違いの指標としている。具体的には、Zn等も含むAl−Mgクラスタが、前記DSC加熱曲線の100〜150℃の間の吸熱ピークの要因であると推測し、この吸熱ピーク高さを200.0μW(マイクロワット)以上としている。
特開平7−224364号公報 特開2006−249480号公報 特開2010−77506号公報
しかし、これらSSマークの発生抑制効果がある元素としてZnあるいはCuを含有させる、従来のSSマーク発生抑制技術には、その効果の点で、なお改善の余地がある。このような課題に鑑み、本発明の目的は、SSマーク発生を抑制でき、自動車パネルへのプレス成形性を向上させた、Al−Mg系アルミニウム合金板を提供することである。
この目的を達成するために、本発明のアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:3.0〜7.0%を含むとともに、Zn:1.0〜4.0%および/またはCu:1.0%〜3.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、この板組織におけるAlマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率が、エネルギー分散型X線分光器を備えた倍率800倍の走査型電子顕微鏡による観察結果で、1.5%以下(0%を含む)であることとする。
本発明では、SSマークの発生抑制効果がある元素として、Zn、Cuのいずれか1種または2種を含有させる。本発明者らは、含有させたZn、Cuにつき、そのSSマークの発生抑制効果発揮のメカニズムを検討した。その結果、成形品の表面性状(SSマーク)に影響している、素材板の組織因子として、アルミマトリックス中に形成される微細な、ZnあるいはCuの微細なクラスタが影響していることを知見した。
ちなみに、この微細クラスタの存在は、実際に直接確認できるわけではない。例えば、Cuを含有し、しかも、Cuのクラスタを生成させることができる特定条件の調質(後述する)を施したAl−Mg系アルミニウム合金板を、10万倍のFE−TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて組織観察しても、前記Znを含むクラスタと同様に、このCuのクラスタの存在を知見できなかった。
言い換えると、これらのZnあるいはCuの微細なクラスタは、前記特許文献2、3のAl−Mg系金属間化合物などと同じく、ナノレベル以下の微小な大きさであると推考される。したがって、通常の組織観察方法であるSEMやTEMの分析方法では、このような微細クラスタを特定することはできない。
これらZnあるいはCuの微細なクラスタを組織中に最大限形成させるためには、ZnあるいはCuがMgとの化合物を形成せずに、含有(添加)したZnあるいはCuがMgとの化合物によって消費されないようにすることが特に重要である。このためには、含有(添加)したZnあるいはCuが、Mgとの化合物を一旦形成することは避けがたいにしても、これら化合物の再固溶、すなわち、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶を促進して、最終的に(再度)前記ZnあるいはCuの微細なクラスタとして「析出させる」ことが必要である。
しかしながら、ZnかCuを含有させた従来のAl−Mg系合金板の製造条件は、必ずしも、これら元素のMgとの化合物の再固溶、すなわち、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を充分に図ってはいなかった(固溶促進できる製造条件になっていなかった)。これは、Znを含有した際の微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適製造条件と、Cuを含有した際の微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適製造条件とが、互いに異なることも大きく影響している。
本発明では、Znおよび/またはCu(以下、Zn、Cuのいずれか1種または2種とも言う)を含有させたAl−Mg系合金板の製造条件、特に、均熱や熱延後の荒鈍などの上工程の制御によって、Zn、Cuのうちのいずれを含有させたAl−Mg系合金板であっても、前記未固溶化合物の固溶を促進でき、前記未固溶化合物量を抑制して、最終的にはクラスタを組織中に最大限形成させることができ、SSマークの発生抑制をさらに向上できることを見出した。
本発明は、このように、Znおよび/またはCuを含有させたAl−Mg系合金板のSSマーク性を更に優れたものとすることができる。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
組織:
本発明では、前記した通り、Znおよび/またはCuを含有させたAl−Mg系アルミニウム合金板のCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を図り、ZnあるいはCuの微細なクラスタを組織中に最大限形成させて、SSマーク性を優れたものとする。そして、これら化合物の固溶促進の指標として、このAl−Mg系アルミニウム合金板組織の、エネルギー分散型X線分光器を備えた倍率800倍の走査型電子顕微鏡による観察結果で、Alマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率が1.5%以下であることとする。この1.5%以下とは、これらの化合物の面積を検出できない位に、これらの化合物の再固溶が促進される場合を含むので、請求項の規定では、括弧書きで、0%を含むものとしている。
Al−Mg系アルミニウム合金板のプレス成形の際に生じるSSマーク、特に、応力−歪曲線上のセレーション(振動)に起因するパラレルバンドは、アルミマトリックス中に固溶しているフリーMg原子の転位への固着と離脱の繰り返しによって生じると推定される。これに対して、このAl−Mg系アルミニウム合金板の最終的な特定の調質によって生成する、本発明のZnあるいはCuの微細クラスタが、板の組織中に存在すれば、プレス成形による板の変形の際に、前記フリーMg原子の転位への移動を妨げるために、SSマーク(セレーション)発生が抑制されるものと推測される。
Alマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率が1.5%を超えた場合には、これらのMg化合物の再固溶、すなわち、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進が充分に図れない。この結果、従来のZn、Cuを含有させたAl−Mg系アルミニウム合金板と同じとなり、クラスタを組織中に最大限形成させることができずに、SSマークの発生抑制効果が損なわれる。
ここで、本発明では、Alマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率を規定しているが、これは、本発明が、ZnとCuとを各々単独に含む場合だけでなく、ZnとCuとの両方を含有する場合を含むからである。また、ZnとCuのどちらかを合金元素として積極的に添加しない場合(同時添加しない場合)でも、スクラップなどのアルミ溶解原料から、いずれかが不純物として混入し、結果的に、両方の元素が含まれる場合もあるからである。ZnとCuとの両方を規定する範囲の量だけ含有する場合だけでなく、ZnとCuとのいずれかの元素が下限量未満であっても、Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との両方が生成する可能性はある。したがって、本発明では、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶を促進させ、ZnあるいはCuの微細なクラスタを最大限形成させる立場から、Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率を規定する。
ちなみに、前記特許文献2、3などで言うクラスタと、本発明のクラスタとが、ZnやCuを同様に含む組成の場合に、果たして同じものであるか否かは不明である。ただ、互いの板の製法の違いからすると、組成が異なるクラスタであるということができる。すなわち、これら特許文献2、3では、後述する本発明組織を得るための製法とは、上工程の均質化熱処理温度が500℃未満か、下工程の溶体化および焼入れ処理と付加焼鈍を施した後に、更に板に予歪みを与えてはいない、などが異なる。また、付加焼鈍温度も異なり、Znを含有する特許文献3のAl−Mg系アルミニウム合金板は、本発明のように、100℃以上の温度では付加焼鈍(人工時効処理)を行ってはおらず、選択的に、50〜100℃の低い温度での付加焼鈍を行うのみである。ZnやCuを選択的元素として含有する、特許文献2のAl−Mg系アルミニウム合金板は、本発明のように、溶体化処理(最終焼鈍)後の焼入れ処理時の冷却速度を低温域の緩冷を交えた2段階では制御せずに、500〜300℃の温度範囲を10℃/s以上で急冷するのみである。この冷却速度につき、通常は、生産性を下げないように、100℃以下から室温までを緩冷却にするようなことはしない。したがって、この特許文献2では、100℃以下での冷却速度が明記されてはいないが、通常の5℃/s程度以上の冷却速度であろうと推察される。そして、この特許文献2では、その後、選択的に50〜120℃の温度での付加焼鈍を行うのみである。
化合物の平均面積率の測定:
これらの化合物の平均面積率の測定には、倍率800倍の走査型電子顕微鏡(以下、SEMとも言う)を用いるが、AlマトリックスやAl−Mg化合物などの他の化合物と区別して、Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との識別が可能なエネルギー分散型X線分光器を備えたものとする。このエネルギー分散型X線分光器はEDS(Energy Dispersive Spectrometer)とも略記される。そして、測定対象の板の表面をバフ研磨した後に、このEDSを備えたSEMによって、0.01mm2 相当の視野を、20視野ずつ画像解析して、板表面における前記Alマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率(%)を、これら化合物のAlマトリックスに対する面積占有率(%)として求める。すなわち、視野ごとの面積率を平均化して平均面積率とする。
Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物は、Alマトリックスに対して、灰色あるいは黒色の不定形の第2相分散粒子として観察できるが、これは、他のAl−Mg化合物などの他の化合物も同様で、前記EDSを備えないと、これら化合物同士の識別(区別)ができない。このようなEDSを備えたSEMによる、第2相分散粒子(晶出物、析出物)の面積率や大きさ、個数密度の規定は、アルミニウム合金分野でも、例えば特開2008−127656号公報、特開2006−37129号公報、特開2005−179758号公報、特開2003−166030号公報などで、汎用されている。
化学成分組成:
本発明アルミニウム合金板の化学成分組成は、後述するZnとCuとの関係を除き、基本的に、Al−Mg系合金であるJIS5000系に相当するアルミニウム合金とする。そして、特に自動車パネル用素材板などとして、プレス成形性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性を満足することが好ましい。このため本発明合金板は、5000系アルミニウム合金の中でも、質量%で、Mg:3.0〜7.0%を含むとともに、Zn:1.0〜4.0%および/またはCu:1.0%〜3.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板とする。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
Mg:3.0〜7.0%
Mgは、加工硬化能を高め、自動車パネル用素材板としての必要な強度や耐久性を確保する。また、材料を均一に塑性変形させて破断割れ限界を向上させ、成形性を向上させる。Mgの含有量が3.0%未満では、強度や耐久性が不十分となる。一方、Mgの含有量が7.0%を越えると、板の製造が困難となり、しかもプレス成形時に、却って粒界破壊が発生しやすくなり、プレス成形性が著しく低下する。したがってMgの含有量は3.0〜7.0%、好ましくは4.0〜6.0%の範囲とする。
Zn:1.0〜4.0%:
Znは、前記したZnを主体とする微細なクラスタを形成して、プレス成形の際のSSマークの発生を抑制するものと推測される。Znが1.0%未満と少なすぎる場合は、プレス成形の際のSSマークの発生抑制効果発揮が不十分となる。また、Znを主体とするクラスタの生成量も不足する。一方、Znの含有量が4.0質量%を越えれば、室温での時効硬化が大きくなって、曲げ性やプレス成形性を低下させる。したがって、Znの含有量は1.0〜4.0%、好ましくは1.0〜3.0%の範囲とする。
Cu:1.0〜3.0%:
Cuは、Znと同様、前記したCuを主体とする微細なクラスタを形成して、プレス成形の際のSSマークの発生を抑制するものと推測される。Cuが1.0%未満と少なすぎる場合は、プレス成形の際のSSマークの発生抑制効果発揮が不十分となる。また、Cuを主体とするクラスタの生成量も不足する。一方、Cuの含有量が3.0%を越えれば、粗大な晶出物や析出物の生成量が多くなり、破壊の起点になりやすく、却ってプレス成形性を低下させる。Cuの含有量は1.0〜3.0%、好ましくは1.2〜2.0%の範囲とする。
ZnとCuとの関係:
ZnとCuを含有した際の、微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適製造条件は、前記した通り、互いに異なる。言い換えると、ZnとCuでは、最適製造条件が異なっているため、互いに実質量含有しても、悪影響は出ない。例えば、Znとしての最適量で最適製造条件であればSSマークの抑制効果を発現し、その際に、Cu含有量は不可避不純物レベルでも良いし、3.0%までなら、含まれていてもSSマーク抑制効果に悪影響はない。逆に、Cuとしての最適量で最適製造条件であればSSマークの抑制効果を発現し、その際、Zn含有量は不可避不純物レベルでも良いし、4.0%までなら、含まれていてもSSマーク抑制効果に悪影響はない。
その他の元素:
本発明Al−Mg系アルミニウム合金板は、溶解原料としてのアルミニウム合金スクラップなどから混入される、他の不純物元素を含むことを許容する。具体的には、質量%で、Fe:1.0%以下、好ましくは0.7%以下(0%を含む)、Si:0.5%以下、好ましくは0.4%以下(0%を含む)、Mn:1.0%以下、好ましくは0.7%以下(0%を含む)、Cr:0.3%以下(0%を含む)、Zr:0.3%以下(0%を含む)、V:0.3%以下(0%を含む)、Ti:0.1%以下(0%を含む)、このTiに付随して混入しやすいB(ボロン)をTiの含有量未満の範囲で、各々含有することを許容する。更に、これらは、JISの5000系Al合金の規格に準じると、好ましくは、質量%で、Fe:0.7%以下(0%を含む)、Si:0.4%以下(0%を含む)、Mn:0.7%以下(0%を含む)、Cr:0.3%以下(0%を含む)、Ti:0.1%以下(0%を含む)、B:Tiの含有量未満、の範囲とする。
(製造方法)
本発明の板の製造方法について、以下に具体的に説明する。
通常、5182、5082、5083、5056などの成形用Al−Mg系合金の通常の製造工程による製造方法では、鋳造(DC鋳造法や連続鋳造法)、均質化熱処理、熱間圧延、熱延後で冷延前の中間焼鈍(荒鈍)なしに冷間圧延、この冷延途中において1回または2回以上の中間焼鈍を経て、冷延板の製品板とされる。
ただ、このような通常の製造工程では、Zn、Cuのうちのいずれか1種を含有させたAl−Mg系合金板の場合、特に、上工程において、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を充分に図れていなかった。このため、最終工程における人工時効硬化処理によって、ZnとCuとのクラスタを組織中に最大限形成させることができなかった。
これに対して、本発明では、上工程において、均熱処理(均質化熱処理)温度を高めるとともに、熱延後で冷延前の中間焼鈍(荒鈍)を、好ましくは連続的な熱処理装置によって行い、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を上工程において充分に図る。これによって、最終工程における人工時効硬化処理によって、ZnとCuとのクラスタを組織中に最大限形成させる。
均熱処理:
前記アルミニウム合金組成に溶製後の鋳塊の熱間圧延前の均質化熱処理において、鋳塊の鋳造の際の内部応力を除去し、偏析を軽減して組織の均一化を図るほかに、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を図る。このために、均質化熱処理温度を500℃以上、固相線温度(鋳塊が溶解あるいは溶損する温度)以下の比較的高温とする。処理温度が500 ℃未満では、従来のように、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を図れない。処理時間は、処理温度と鋳塊の大きさなどによって適宜選択されるが、2 〜10時間程度とすることが好ましい。
熱間圧延:
熱間圧延は、均熱処理後のスラブを、温度を一旦下げて再加熱することなく、前記均熱温度範囲で、粗圧延機および仕上げ圧延機により、板厚が1.5〜5.0mmであるアルミニウム合金熱延板とされる。
荒鈍:
本発明では、熱延で析出したCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を上工程において充分に図るために、熱延板を冷延前に荒鈍(中間焼鈍)する。この荒鈍は、バッチ炉ではなく、板の急速加熱と急冷のため、板を連続的に通板しながら熱処理を行う連続焼鈍炉(装置)により行う。この際、処理温度は450℃以上、固相線温度(鋳塊が溶解あるいは溶損する温度)以下の比較的高温とする。処理温度が450 ℃未満では、Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を図れない。この処理温度での保持時間(処理時間)は、処理温度や通板速度にもよるが、数秒から2分程度の間であり、この処理温度から2℃/秒(S)以上の冷却速度で室温まで冷却する。この冷却速度が遅いと、一旦固溶したCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物が再析出する。
冷間圧延:
冷間圧延は1回あるいはそれ以上行われて、板厚が1.5mm以下の所定の最終製品板厚とする。冷間圧延と冷間圧延との間に行う中間焼鈍は、必要により行われるが、行う場合には、これも前記荒鈍と同様に、高温で短時間処理の前記連続焼鈍炉(装置)により行う。バッチ炉では、冷却速度が遅く、焼鈍温度にもよるが、一旦固溶したCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物が再析出する可能性が高い。
調質:
本発明の組織を有する板とするためには、以上のようにして得られた所要の板厚のこれら冷延板に対して、特定条件での溶体化処理と続く2段階冷却という特殊な焼入れ処理および特定条件での付加焼鈍を各々組み合わせた調質を行う。また、SSマークの発生抑制のためには、溶体化・焼入れ処理、付加焼鈍を施した後に、板に予歪を与える冷間加工(予加工)を行なう。
溶体化処理:
先ず、冷延板に対して、急速加熱や急速冷却を伴う溶体化・焼入れ処理を行う。このような溶体化・焼入れ処理を行った材料、いわゆるT4処理材は、比較的緩やかな加熱や冷却を伴うバッチ焼鈍材と比較して、強度と成形性とのバランスに優れる。
ここで、溶体化処理温度の適正値は、具体的な合金組成によって異なるが、450℃以上、570℃以下の範囲内とする必要がある。また、この溶体化処理温度での保持は180秒(3分)以内とする必要がある。溶体化処理温度が450℃未満では、合金元素の固溶が不十分となって強度・延性等が低下する恐れがある。また、未固溶で残存するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進も図れない。一方、溶体化処理温度が570℃を越えれば、結晶粒が過度に粗大化して成形性の低下や成形時の肌荒れの発生が問題となる。また溶体化処理温度での保持時間が180秒を越えれば、結晶粒の過度の粗大化による、成形性の低下や成形時の肌荒れ発生などの問題が生じる。
焼入れ処理:
溶体化処理後の焼入れ処理時の冷却速度は、高温域では急冷、低温域では緩冷の、2段階とする必要がある。先ず、高温域の急冷では、板の温度が溶体化温度から100℃までの間(範囲)の冷却速度は5℃/秒(S)以上とする。この冷却速度が5℃/秒未満では、冷却過程の特に高温域で、粗大な析出物が生成して、クラスタの生成量が少なくなってSSマークの発生を抑制する効果が小さくなる。したがって、この後に、付加焼鈍および予加工を加えて最終板としても、SSマークが発生する恐れがある。
次ぎに、この急冷に続く、板の温度が100℃以下から室温までの低温域の間(範囲)の冷却は緩冷とする必要があり、100℃以下から室温までの冷却速度を1℃/分以下の冷却速度で緩冷却を行う。緩冷とするために、下限値は特に決めないが、生産工程の効率上からは0.01℃/分(m)以上であることが好ましい。
このような焼入れ条件によって、Al−Mg系合金板の組織中に、Cu原子やZn原子を主とする、原子の集合体(クラスタ)が生成すると推考される。したがって、この低温域の冷却を、前記高温領域での急冷速度あるいは前記1℃/分を超える冷却速度とするなど、この焼入れの条件が不適切であれば、後述する付加焼鈍を行っても、SSマークの発生を確実に防止できない。すなわち、この焼入れの条件が不適切であれば、後述する付加焼鈍を行っても、SSマークの発生を確実に防止できる量だけ、Cu原子やZn原子を主とするクラスタが生成させることができていないものと推測される。すなわち、この低温域の冷却が1℃/分を超える冷却速度では、この後に付加焼鈍および予加工を加えて最終板としてもSSマークが発生する恐れがある。
人工時効硬化処理(付加焼鈍):
本発明では、この溶体化・焼入れ処理の後に、前記最終焼鈍よりも低温の人工時効硬化処理を行う。ちなみに、この付加焼鈍は、Znを含有した際の微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適条件と、Cuを含有した際の微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適条件とが、互いに異なる。
Znを含有した際の微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適条件としては、前記溶体化および焼き入れ処理終了後、7日以上経過後に、40℃以上、80℃以下の温度範囲で30分〜240分処理する人工時効硬化処理を行う。Znを含有した場合には、このZnによる室温時効が進みやすい。この温度域より高温側では、クラスタが分解して消滅するか、或いは残存したとしても、さらに成長することでSSマークの抑制には効果がない析出物に変化してしまう。人工時効硬化処理は、好ましくは、40℃以上70℃以下が良い。
Cuを含有した際の微細なクラスタを組織中に最大限形成させる最適条件としては、前記溶体化・焼入れ処理後、50℃以上、200℃以下の温度範囲で0.5〜48時間処理する人工時効硬化処理を行う。Cuの場合には、Znのような室温時効の進行はほとんど無いため。Znの場合のような時間的な制約は無いが、微細なクラスタを組織中に最大限形成させるためには、人工時効硬化処理をより高温で長時間にする必要がある。Znの場合も含めて、処理温度が低すぎる、あるいは保持時間が短すぎると、人工時効硬化処理の効果がなく、この工程で微細なクラスタを組織中に最大限形成させることができない。また、この処理温度が高すぎる、あるいは保持時間が長すぎても、微細なクラスタを組織中に最大限形成させることができず、高温の最終焼鈍を行った際と同様に、比較的粗大な析出物が生成する、あるいは、再結晶が進むという問題が生じる。人工時効硬化処理は、好ましくは、100℃以上170℃以下が良い。
予歪付与:
SSマークのうち、特にランダムマーク解消のために、これら溶体化・焼入れ処理、付加焼鈍を施した後、更に、板に予歪みを与える冷間加工(予加工)を行なう。この予歪付与自体は、SSマークの特にランダムマーク解消のための後工程として公知である。これらは、例えば、スキンパス圧延、冷間圧延もしくはローラーレベラーによる繰返し曲げ加工などにより行なう。
このように耐力値の増加分が特定の範囲内となるように調整して予加工としての冷間加工を行なうことによって、プレス成形時の降伏伸びの発生を確実に抑制して、SSマーク、特にランダムマークの発生を確実に防止することが可能となる。したがって、本発明Al−Mg系アルミニウム合金板では、予め一定の予歪みを与えられた上でプレス成形されることが前提として好ましい。また、このような予歪付与は、前記溶体化・焼入れ処理後の板の、形状制御や残留応力除去にもなる。
予歪の付与量は、耐力値が若干増加するような、従来の一般的なランダムマーク発生防止のために行なわれている予加工と同等で良い。例えば、冷間でのスキンパス圧延、冷間圧延もしくは冷間でのローラーレベラーによる繰返し曲げ加工などでは加工率が1〜5%程度の予歪を付与する。このような予歪(冷間加工)を与えることにより、積極的に材料内に多数の変形帯を導入することができ、降伏伸びの発生を確実に防止し、結晶粒の微細なAl−Mg系合金板でもランダムマークの発生を安定して防止することが可能となる。これ以上の高い加工率では、加工硬化による延性、成形性の低下が懸念され、好ましくない。
本発明では、以上のような溶体化処理条件と、続く2段階冷却という特殊な焼入れ処理条件、および特定条件での付加焼鈍、その後の予歪の付与を各々組み合わせた調質によって、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板を、室温時効することなく、Mgが拡散しにくい板組織とすることができる。これによって、板を製造後、1カ月以上経って、パネルにプレス成形する場合でも、Al−Mg系アルミニウム合金板の限界ひずみ量増大効果を高めて、応力−歪曲線上のセレーションを抑制し、これに起因するパラレルバンドを抑制して、ストレッチャーストレインマークの発生を抑制できる。また、SSマークのうち、前記降伏伸びの発生によるランダムマークの発生も防止できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す発明例、比較例の各組成のAl−Mg系合金板を製造し、表2(表1の続き)に示す条件で調質、製造した後、この調質後の板の組織、機械的な特性を各々測定、評価した。これらの結果を表3(表2の続き)に示す。なお、表1における元素含有量の「−」表記は、その元素の含有量が検出限界以下であることを示す。
熱延板や冷延板の各製造方法(条件)は、各例とも同じ共通条件で行った。即ち、ブックモールド鋳造によって鋳造した50mm厚の鋳塊を、表3に示す条件で均質化熱処理(均熱処理)を行い、その後、その温度にて熱間圧延を開始し、粗圧延機および仕上げ圧延機により、板厚2.5mmの熱延板とした。この熱延板を表3に示す条件で、連続焼鈍炉にて荒鈍後、1.0mmの板厚まで冷間圧延を行った。この冷延途中に、1.35mmの板厚で一旦中間焼鈍を、前記連続焼鈍炉にて、400℃×10s加熱後に水冷する共通する条件で行った。但し、比較例19、20は、熱延開始温度は400℃であり、熱延板の板厚を3.5mmとし、荒鈍を行わずに、この熱延板を1.35mmの板厚まで冷間圧延を行った。そして、硝石炉にて400℃×10sの中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延して1.0mmの冷延板とした。また、比較例21、22は、熱間圧延を均質化処理温度にて開始した以外は、比較例19、20と同じ条件で1.0mmの板厚まで製造した。
これら冷延板を、表3示す通り、各々異なる条件で溶体化処理および焼入れ処理を行った。この溶体化処理および焼入れ処理は、連続焼鈍ライン(CAL)等を用いて連続的に行い、強制空冷やミスト冷却を使い分け、板のライン速度とこれらの風量を各温度域で制御して、焼入れ処理時の冷却速度を制御した。
この溶体化処理および焼入れ処理後に、表2に示す通り、各々異なる条件で人工時効硬化処理(付加焼鈍)を行う調質処理を行った。その後、予歪みを与える冷間加工として、加工率3%のスキンパス圧延(軽圧下)を各例とも共通して行った。但し、比較例19〜22は、予歪みを与える加工率3%のスキンパス圧延を行った後で、人工時効硬化処理(付加焼鈍)を行い、予歪みを与える冷間加工と人工時効硬化処理との順序を変えて行った。
これら調質処理(製造)後の板から試験片(1.0mm厚)を切り出し、室温時効の影響がない(無視できる)、調質処理後24時間以内に、この試験片(調質後の板)の組織、機械的な特性、SSマーク性を各々測定、評価した。これらの結果を表3に示す。
化合物の平均面積率:
前記試験片の表面をバフ研磨した後に、EDS(堀場製作所製 EMAX7021−H)を備えたSEM(日立製 S−3500N)を用いて撮影した800倍の倍率のSEM写真において、0.01mm2 相当の視野を、20視野ずつ画像解析し、板表面における前記Alマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物とを前記EDS分析で識別した上で、これらの合計の平均面積率(%)を、これら化合物のAlマトリックスに対する面積占有率(%)として求めた。すなわち、視野ごとの面積率を平均化して平均面積率とした。
機械的特性:
前記試験片の機械的特性の調査として、上記各試験片の引張試験を行い、引張強さ(MPa)、伸び(%)を各々測定した。試験条件は、圧延方向に対して直角方向のJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、引張試験を行った。引張試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行い、初期クロスヘッド速度は600mm/分とし、ひずみ量10〜15%まで引張試験を行った。
SSマーク発生目視評価:
更に、これら引張試験後の試験片を、プレス成形後の板と見立て、引張試験後の試験片表面のSSマークの発生度合いを、表面の砥石がけを施して鮮明にした上で、目視評価した。SSマークが発生していないものを○、小さなSSマークが発生しているが、前記自動車大型ボディパネルとして何とか使えるものを△、明らかに大きなSSマークが発生しており、前記自動車大型ボディパネルとして使えないものを×として評価した。
SSマーク性の表面凹凸評価:
また、この引張試験後の試験片表面を板幅方向に3次元形状測定器で形状測定し、試験片表面の凹凸の測定を行い、SSマークの発生状態を評価した。測定に際して、試験片表面のスキャン長さは50mm、測定プローブ先端半径は25μm、測定ピッチは25μmとした。得られた表面凹凸の測定データを、高速フーリエ変換法による周波数解析し、板幅方向に連続する波形における、顕著な(明瞭な)ピークが発生している周期(ピーク間隔:mm)の最小値を表面凹凸の周期と定義して求めた。この間隔が長い方が表面凹凸として目立たず、SSマーク性に優れる。一方、この間隔が短い方が表面凹凸として目立ち、SSマーク性に劣る。
表1の通り、発明例1〜8は、CuかZnを含有し、本発明のAl−Mg系アルミニウム合金組成規定を満足する。また、上工程において、均熱処理温度を高めたり、荒鈍を行うなど、Cu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を上工程において充分に図っており、下工程の調質条件も好ましく、ZnとCuとのクラスタを組織中に最大限形成させる条件となっている。これによって、各発明例はSSマーク特性に優れている。すなわち、前記引張試験でもSSマークは発生しておらず、この優れたSSマーク特性を、5000系アルミニウム合金板の有する引張強さや伸びなどの、優れた機械的な特性レベルを落とすこと無しに、達成できている。
一方、比較例9〜14は、表2の通り、製造条件は好ましい範囲ではあるが、合金組成が発明範囲を外れている。この結果、SSマーク特性か機械的特性かが発明例に比して劣る。
比較例9はMg含有量が少なすぎる。
比較例10はMg含有量が多すぎる。
比較例11はCu含有量が少なすぎる。
比較例12はCu含有量が多すぎる。
比較例13はZn含有量が少なすぎる。
比較例14はZn含有量が多すぎる。
比較例15〜18は、表1の通り、発明例3、6と同じ合金組成でありながら、表2の通り、調質条件が好ましい範囲から各々外れている。この結果、比較例15〜18は、SSマーク特性が発明例に比して著しく低い。
比較例15、16は均熱温度が低すぎ、荒鈍も行っていないなど、上工程がCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物の固溶促進を図るものになっていない。
比較例17、18は溶体化処理温度が低すぎる。
一方、比較例19〜22は、表1の通り、本発明範囲内の合金組成でありながら、前記した通り、予歪みを与える冷間加工と人工時効硬化処理との順序が好適な製造条件とは異なり、予歪みを与えるスキンパス圧延を行った後で人工時効硬化処理(付加焼鈍)を行っている。この結果、比較例19〜22は、SSマーク特性が発明例に比して劣る。
以上の実施例から、本発明各要件あるいは好ましい製造条件などの、SSマーク特性や機械的特性などを兼備するための、臨界的な意義が裏付けられる。
Figure 2012097337
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以上説明したように、本発明によれば、SSマーク発生を抑制でき、自動車パネルへのプレス成形性を向上させた、Al−Mg系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、板をプレス成形して使用される、前記した自動車などの多くの用途へのAl−Mg系アルミニウム合金板の適用を広げるものである。

Claims (1)

  1. 質量%で、Mg:3.0〜7.0%を含むとともに、Zn:1.0〜4.0%および/またはCu:1.0%〜3.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、この板組織におけるAlマトリックスに対するCu−Mg系化合物とZn−Mg系化合物との合計の平均面積率が、エネルギー分散型X線分光器を備えた倍率800倍の走査型電子顕微鏡による観察結果で、1.5%以下(0%を含む)であることを特徴とするアルミニウム合金板。
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