図1は、本発明の一の実施の形態に係る描画装置1を示す平面図である。描画装置1は、光を照射して対象物を加熱することにより、対象物上にパターンの描画を行う円筒外面型CTP(Computer to Plate)出力装置である。描画装置1は、図示省略のモータにより図1中のX方向に平行な回転軸J1を中心に回転する円筒状のドラム部11を有し、ドラム部11の外周面上には描画対象物である感光材料9が捲回されている。すなわち、ドラム部11は、対象物を保持する保持部である。
ドラム部11の(−Y)側には、感光材料9に光を照射するヘッド部12が設けられる。ヘッド部12は、ヘッド部本体120、光源部121および円筒カム機構125を備える。ヘッド部本体120の内部には両側テレセントリックズームレンズ2(以下、単に「ズームレンズ2」という。)が設けられ、円筒カム機構125によりズームレンズ2が駆動される。光源部121は、波長808nmの光(近赤外領域の光)を出射するレーザ光源126、レーザ光源126からの光を線状光(すなわち、光束断面が線状の光)にして、一次元の空間光変調デバイス128へと導く光源光学系127、および、光源光学系127からの線状光を変調する空間光変調デバイス128を備える。空間光変調デバイス128により変調された光は、ズームレンズ2により感光材料9へと導かれる。描画装置1では、レーザ光源126および光源光学系127が、空間光変調デバイス128に向けて線状光を出射する光出射部となっている。レーザ光源126から出射される光の波長は808nmには限定されず、780nm〜850nmの範囲で主に用いられる。なお、図1では、レーザ光源126、光源光学系127および空間光変調デバイス128の形状および配置を模式的に描いており、実際の構造および配置とは異なる。
ヘッド部12は、ボールねじを有するヘッド部移動機構13により図1中のX方向に移動し、描画装置1は、いわゆる、外面円筒走査型となっている。描画装置1では、ヘッド部移動機構13が、ヘッド部12からの光の感光材料9上における照射位置を移動する照射位置移動機構となっている。
図2は、空間光変調デバイス128を拡大して示す図である。空間光変調デバイス128は、光出射部(すなわち、レーザ光源126および光源光学系127)からの線状光を空間変調する回折格子型のデバイスである。空間光変調デバイス128は半導体装置製造技術を利用して製造され、格子の深さを変更することができる回折格子となっている。空間光変調デバイス128には複数の可動リボン129aおよび固定リボン129bが交互に平行に配列形成され、複数の可動リボン129aは背後の基準面に対して個別に昇降移動可能とされ、複数の固定リボン129bは基準面に対して固定される。回折格子型の光変調素子としては、例えば、GLV(Grating Light Valve:グレーチング・ライト・バルブ)(シリコン・ライト・マシーンズ(サニーベール、カリフォルニア)の登録商標)が知られている。
図3.Aおよび図3.Bは、可動リボン129aおよび固定リボン129bに対して垂直な面における空間光変調デバイス128の断面を示す図である。図3.Aに示すように可動リボン129aおよび固定リボン129bが基準面129cに対して同じ高さに位置する(すなわち、可動リボン129aが撓まない)場合には、空間光変調デバイス128の表面は面一となり、入射光L1の反射光が0次光L2として導出される。一方、図3.Bに示すように可動リボン129aが固定リボン129bよりも基準面129c側に撓む場合には、可動リボン129aが回折格子の溝の底面となり、1次回折光L3(さらには、高次回折光)が空間光変調デバイス128から導出され、0次光L2は消滅する。このように、空間光変調デバイス128は回折格子を利用した光変調を行う。
光出射部からの線状光は、空間光変調デバイス128のライン状に配列された複数の可動リボン129aおよび固定リボン129b上に照射される。空間光変調デバイス128では、隣接する各1本の可動リボン129aおよび固定リボン129bを1つのリボン対とすると、各リボン対が、描画されるパターンの1つの画素に対応する。空間光変調デバイス128では、図示省略の制御部からの信号に基づいてパターンの各画素に対応するリボン対の可動リボン129aがそれぞれ制御され、各画素に対応するリボン対が0次光(正反射光)を出射する状態と、非0次回折光(主として1次回折光((+1)次回折光および(−1)次回折光))を出射する状態との間で遷移可能とされる。空間光変調デバイス128から出射される0次光はズームレンズ2へと導かれ、1次回折光はズームレンズ2とは異なる方向へと導かれる。なお、迷光となることを防止するために、1次回折光は後述する絞り34(図4参照)により遮光される。
空間光変調デバイス128からの0次光は、ズームレンズ2(図1参照)を介して感光材料9へと導かれ、感光材料9上においてX方向に並ぶ複数の照射位置のそれぞれに変調された光が照射される。すなわち、空間光変調デバイス128の各画素に対応するリボン対は0次光を出射する状態がON状態であり、1次回折光を出射する状態がOFF状態とされる。本実施の形態では、1024チャンネルのリボン対により描画が行われる。
空間光変調デバイス128では、図3.Aに示すように、可動リボン129aと固定リボン129bとの基準面129cからの高さを等しくすることにより、0次光が信号光として得られるが、可動リボン129aの高さを固定リボン129bの高さよりも僅かに低くすることにより信号光の光量を低下させることができ、この性質を利用して空間光変調デバイス128からの光量の調整を行うことができる。
図4は、ズームレンズ2の構成を示す図である。ズームレンズ2は、物体側(符号91を付す。)、すなわち、光源部121側から前側レンズ群21、中間レンズ群22および後側レンズ群23を備える。前側レンズ群21および後側レンズ群23はヘッド部本体120(図1参照)内に固定されており、中間レンズ群22のレンズは光軸2aに沿って移動可能とされる。前側レンズ群21、中間レンズ群22および後側レンズ群23の各レンズはガラスにより形成される。ズームレンズ2では、前側レンズ群21の物体側、中間レンズ群22と後側レンズ群23との間、および、後側レンズ群23の像側に保護ガラス331,332,333が配置される。また、保護ガラス332と後側レンズ群23との間に絞り34が配置される。なお、以下の説明における「レンズ」は、特に限定がある場合を除いて置き換え可能な範囲内で複数のレンズから構成されるレンズ群の場合を含む。
前側レンズ群21は、両凸レンズ301および両凹レンズ302を備える。中間レンズ群22は、物体側に凸となる負メニスカスレンズ303、両凹レンズ304、像側(符号92を付す。)、すなわち、感光材料9側に凸となる正メニスカスレンズ305、両凸レンズ306、像側に凸となる負メニスカスレンズ307、物体側に凸となる正メニスカスレンズ308、および、物体側に凸となる負メニスカスレンズ309を備える。両凸レンズ306と負メニスカスレンズ307とは、貼り合わされて接合レンズを形成している。後側レンズ群23は、物体側に凸となる正メニスカスレンズ310、両凹レンズ311、両凸レンズ312、像側に凸となる正メニスカスレンズ313、両凸レンズ314および像側に凸となる負メニスカスレンズ315を備える。両凹レンズ311と両凸レンズ312、および、両凸レンズ314と負メニスカスレンズ315とはそれぞれ貼り合わされて接合レンズを形成している。
両凸レンズ301、両凹レンズ302および正メニスカスレンズ313は、株式会社オハラ製の硝材名S−TIH6のガラス(以下、単に「S−TIH6」という。他の硝材についても同様。)により形成される。負メニスカスレンズ303および両凹レンズ304はそれぞれ、S−TIH53およびS−TIH4により形成される。正メニスカスレンズ305、両凸レンズ306、正メニスカスレンズ308および正メニスカスレンズ310は、S−LAM3により形成される。負メニスカスレンズ307および負メニスカスレンズ309はそれぞれ、S−TIH10およびS−FPL51により形成される。両凹レンズ311および両凸レンズ314はS−FTM16により形成され、両凸レンズ312および負メニスカスレンズ315はそれぞれ、S−PHM52およびS−TIH23により形成される。ズームレンズ2のレンズは、上述の硝材以外に、S−BAL3、S−FSL5およびS−LAL12等により形成されてもよい。
表1は、ズームレンズ2のレンズに利用される硝材の性質を示す表である。また、表2は、後述の描画装置(以下、「比較例の描画装置」という。)のズームレンズに利用される硝材の性質を示す表である。なお、比較例の描画装置のズームレンズに利用される硝材であっても、表1に含まれている硝材については表2には示していない。
表1および表2では、各硝材について、波長808nmの光に対する透過率、屈折率および屈折率温度係数を示す。透過率は、厚さ25mmあたりの硝材の内部透過率である。屈折率温度係数は、温度が1℃だけ変化した際の屈折率の変化量であり、光の波長が長くなるほど小さくなる。表1に示す硝材は、屈折率温度係数が小さく、表2に示す硝材は、屈折率温度係数が大きい。
図5.Aおよび図5.Bは、縦方向(短手方向)の幅が1mm、横方向(長手方向)の幅が10mmであり、ほぼ平行に進行する線状の40Wのレーザ光をレンズに照射した場合の経過時間と結像位置(すなわち、合焦位置)の変動量との関係を示す図である。図5.Aは、レンズを表2に示すS−LAH53により形成した場合の結像位置の変動量の測定値を示し、図5.Bは、レンズを表1に示すS−FPL51により形成した場合の結像位置の変動量の測定値を示す。どちらのレンズも厚さ50mmの平凸レンズであり、レンズに向けて出射されるレーザ光は、波長808nmの線状光である。波長808nmの光に対するS−LAH53の屈折率温度係数は6.2であり、S−FPL51の屈折率温度係数は−6.3である。図5.Aおよび図5.Bでは、結像位置の変動量は、結像位置が物体側に移動する場合を正としている。
レンズに光が照射されると、レンズ上の光が照射される部位の温度が上昇して当該部位が膨張し、レンズ表面にレンズ効果が加わり、レンズの焦点距離は小さくなる。レンズを形成する硝材の屈折率温度係数が正である場合、温度上昇に伴い屈折率分布が形成され、その分布がGRIN(Gradient Index)レンズと同様に機能するため、レンズの焦点距離はさらに小さくなる。図5.Aに示すS−LAH53にて形成されたレンズの場合、結像位置(すなわち、焦点の位置)は、物体側に約30μm移動する。
レンズを形成する硝材の屈折率温度係数が負である場合、レンズに光が照射されることにより、レンズ上の光が照射される部位の温度が上昇して当該部位が膨張する。一方、温度上昇に伴って屈折率は減少するため、周縁部よりも中心部において小さくなるような屈折率分布が形成される。これにより、負のパワーを有するレンズ効果が生じ、焦点距離が増大する方向に作用する。熱によるレンズの部分的膨張による焦点距離の減少よりも屈折率分布による焦点距離の増大の方が大きい場合は、レンズの焦点距離は大きくなる。レンズの部分的膨張による焦点距離の減少と屈折率分布による焦点距離の増大が相殺される場合は、レンズの焦点距離は変化しない。また、レンズの部分的膨張による焦点距離の減少の一部が、屈折率分布による焦点距離の増大により打ち消される場合は、比較的小さな焦点距離の減少が生じる。いずれの場合であっても、レンズの温度上昇により、屈折率温度係数が負の硝材にて形成されたレンズの焦点位置は、屈折率温度係数が正の硝材にて形成されたレンズの焦点位置よりも像側に位置することとなる。図5.Bに示すS−FPL51にて形成されたレンズの場合、平行光が入射した場合の結像位置(すなわち、焦点の位置)は、像側に約50μm移動する。
ところで、図5.Aに示す実験において、1分経過後の光照射中心部分の温度上昇をサーモグラフィで測定したところ、2℃であった。この温度変化に基づいて当該レンズの結像位置の変動量を、レンズの表面形状の変化による部分と屈折率分布による部分とに分けて計算を行ったところ、表面形状の変化による結像位置の変動量は7μmであり、屈折率分布による結像位置の変動量は21μmであることが判った。したがって、当該レンズでは、屈折率分布が、レンズの表面形状の変化よりも結像位置の変動に3倍影響を与えているといえる。
表2より、S−LAH53の屈折率温度係数は、6.2×10−6であり、厚さ25mmでの透過率は99.5%であることから、実験に用いた厚さ50mmのレンズの透過率は99.0%(吸収率1.0%)である。吸収率と温度上昇による膨張とは関連することから、描画装置に用いられるレンズでは、一般的に、吸収率が1.0%の場合に、レンズの表面形状の変化の影響を屈折率温度係数に置き換えると、6.2×10−6の3分の1である2.1×10−6になるといえる。したがって、仮に、図5.Aと同様の実験を屈折率温度計数が−2.1×10−6の硝材に対して行った場合、レンズの表面形状の変化の影響と屈折率分布の影響とが相殺され、結像位置の変動は起こらないことになる。
次に、屈折率分布による結像位置の変動量とレンズの表面形状の変化による結像位置の変動量とが像側における光軸に対するレーザ光の最大出射角の2乗に反比例することについて説明する。なお、レーザは、有限の大きさを保った状態で伝播することができるため、以下、光学系のNA(開口数)に準じて、レーザ光の広がりをNAを用いて表現する。すなわち、レーザ光と光軸とのなす角度の最大値をθ、屈折率をnとして、NA=nsinθと表す。
図5.Cは、単レンズにレーザ光を通過させた場合における屈折率分布による結像位置の変動を説明するための図である。紙面に垂直な方向が線状光の長手方向に対応し、紙面の上下方向が線状光の短手方向(高さ方向)に対応する。図5.Cでは、屈折率温度係数が正である硝材で形成された平凸レンズ51が凸部を右側に向けて配置され、高さ2hの線状光52が左から入射する。
通常、線状光52の高さ方向の光強度分布は中心部が高く、上下に離れるほど低くなるため、温度分布も同様の分布となる。その結果、図5.C中に符号53を付すように、光軸51aに近いほど高くなる屈折率分布が形成される。屈折率が高いほど光の進行速度は遅くなるため、平面波がレンズ51中を進むと中心部が周縁部に比べて遅れて進み、レンズ51から出射する直前には、符号521を付す破線にて示すように、右側に曲率中心が位置するような波面(収束波面)となる。これにより、屈折率が一定である場合の集光位置541(結像位置に対応する。)よりもレンズ51側に集光位置542が位置する。位置541と位置542との差Δnが、屈折率分布による結像位置の変動量である。
ここで、光がレンズから出射する前後の振る舞いは、近軸光線追跡にて数1により表される。S1,S2は、それぞれ物体側、像側にて光線が光軸と交わる位置とレンズ出射面との間の距離であり、S1は左方向、S2は右方向を正とする。nは屈折率であり、fはレンズの焦点距離である。
屈折率分布が存在しない場合、レンズ面には平行光が入射するため、S1=∞、S2=f、となる。一方、屈折率分布が生じた場合、出射直前の波面のビーム中心と(高さhの)上端との間に、光軸方向にδnの差が生じるものとする。これを半径Rの球面波または円筒波とみなすと、数2が成り立ち、R≫δnより、Rは数3にて表される。
また、数1においてS1は−Rとなることから、S2は数4にて示すものとなる。その結果、変動量Δn(=S2−f)は、数5にて示される。
数5に数3を代入してδn 2の項を無視すると、Δnは数6となる。
NAは、数7で示されることから、数6は数8となる。
したがって、屈折率分布による結像位置の変動量Δnは、NAの2乗に反比例する。なお、変動量Δnは、屈折率n、および、波面の変化量(これは、屈折率分布に対応する。)に対しては比例する。
図5.Dは、レーザ光の照射によって生じるレンズの表面形状の変化による結像位置の変動を説明するための図である。
図5.Dに示す距離dは、レンズ面とレーザ光の上端との交点と、形状が変化する前のレンズ面と光軸51aとの交点544との光軸方向の距離である。レンズの表面形状が変化する前の焦点距離fは、交点544と集光位置541(結像位置に対応する。)との光軸方向の距離である。光軸51a上の光が距離dだけ進む間に、上端の光は距離ndだけ進む。したがって、数9が成り立ち、数10が導かれる。
一方、レンズ面の半径をrとすると、数11が成り立つ。r≫dと仮定すると、数12が導かれる。
数10のd2の項を無視して数12を代入すると、平凸レンズの焦点距離の公式である数13が得られる。
次に、レンズ51の表面形状が光軸51aの方向にδtだけ膨張し、集光位置が符号541を付す位置から符号543を付す位置にΔtだけ移動した場合、数9と同様に、レンズ51の中央から位置543までの距離をSとして数14が成り立つ。そして、(d+δt)2の項を無視すると、数15が導かれる。
数15に数12を代入し、δt≪1よる近似を利用しつつ数13を代入すると数16が導かれる。
したがって、Δt(=S−f)は、数16および数7から、NAを用いて数17に示すものとなる。
数17により、レンズの表面形状の変化による結像位置の変動量Δtも、NAに2乗に反比例することが判る。
屈折率分布による結像位置の変動量Δnおよびレンズの表面形状の変化による結像位置の変動量Δtが、像側のNAの2乗に反比例するという結論は、以下に説明するように、図5.A(S−LAH53)および図5.B(S−FPL51)に示す実験結果とも整合する。
実験に用いられた平凸レンズの形状は同じであり、半径は18mmである。S−LAH53、S−FPL51の屈折率はそれぞれ1.79、1.49であることから、これらのレンズの焦点距離は23mm、36mmである。入射するレーザ光の縦方向のビームサイズは同じであり、像側のNAは焦点距離に反比例する。両硝材の屈折率温度係数は符号が逆であり、絶対値はほぼ等しい。また、サーモグラフィによる温度変化の最大値はS−FPL51で3℃であり、S−LAH53の2℃の1.5倍であった。変動量ΔnがNAの2乗に反比例すること、および、以上の条件から、計算により求められたS−LAH53の変動量Δn=−21μmに基づいて、S−FPL51の変動量Δnは、
21×1.49/1.79×(36.3/22.7)2×1.5=+67μm
と求められる。
また、両実験においてレンズの表面形状の変化が同程度であるとみなすと、変動量ΔtがNAの2乗に反比例することから、計算により求められたS−LAH53の変動量Δt=+7μmおよび数17に基づいて、S−FPL51の変動量Δtは、
−7×(1.49−1)/(1.79−1)×(36.3/22.7)2×1.5=−17μm
と求められる。したがって、S−FPL51のレンズにおける最終的な変動量はこれらの和である50μmと求められ、図5.Bの実験結果と整合する。
図6は、比較例の描画装置のズームレンズ4の構成を示す図である。比較例をの描画装置では、ズームレンズ以外の構成は、図1に示す描画装置1と同様である。ズームレンズ4は、物体側(符号91を付す。)から前側レンズ群41、中間レンズ群42および後側レンズ群43を備える。前側レンズ群41および後側レンズ群43はヘッド部本体内に固定されており、中間レンズ群42のレンズは光軸4aに沿って移動可能とされる。前側レンズ群41、中間レンズ群42および後側レンズ群43の各レンズは、表1および表2に示す硝材のガラスにより形成される。ズームレンズ4では、前側レンズ群41の物体側、中間レンズ群42と後側レンズ群43との間、および、後側レンズ群43の像側に保護ガラス431,432,433が配置される。
前側レンズ群41は、両凸レンズ401および両凹レンズ402を備える。中間レンズ群42は、物体側に凸となる負メニスカスレンズ403、両凹レンズ404、両凸レンズ405、像側(符号92を付す。)に凸となる正メニスカスレンズ406、物体側に凸となる正メニスカスレンズ407、および、平凹レンズ408を備える。両凹レンズ404と両凸レンズ405とは、貼り合わされて接合レンズを形成している。後側レンズ群43は、両凸レンズ409、両凹レンズ410、両凸レンズ411、両凸レンズ412、および、像側に凸となる正メニスカスレンズ413を備える。両凹レンズ410と両凸レンズ411、および、両凸レンズ412と正メニスカスレンズ413とはそれぞれ貼り合わされて接合レンズを形成している。
両凸レンズ401、両凸レンズ405、正メニスカスレンズ406、両凸レンズ409、両凸レンズ411および正メニスカスレンズ413は、S−LAH53により形成される。両凹レンズ402および負メニスカスレンズ403は、S−TIH6により形成される。両凹レンズ404および両凹レンズ410は、S−TIH4により形成される。正メニスカスレンズ407および両凸レンズ412は、S−LAL14により形成される。平凹レンズ408は、S−FSL5により形成される。ズームレンズ4のレンズは、S−BSL7、S−LAH51およびS−LAH58等により形成される場合もある。
図7は、比較例の描画装置において、光源部からの波長808nmの光をズームレンズ4(図6参照)を介して感光材料に照射した場合におけるズームレンズ4による結像位置の変動量を示す図である。光源部では、空間光変調デバイスの1024チャンネルのリボン対が全てON状態であり、ズームレンズ4からの光の感光材料上におけるパワーは約40Wである。
図7では、横軸が線状光の長手方向の各位置を示し、縦軸が光の照射開始から60秒後の結像位置の変動量を示す。横軸の数値は、線状光の各位置に対応する空間光変調デバイスの各チャンネル番号である。結像位置の変動量は、感光材料の表面からズームレンズ4に近づく方向(すなわち、物体側)に変動した場合を正とし、ズームレンズ4から遠ざかる方向に変動した場合を負とする。図7の縦軸および横軸に関する当該説明は、後述する図8においても同様である。
上述のように、ズームレンズ4では、大部分のレンズが屈折率温度係数が大きい硝材により形成されており、ズームレンズ4の各レンズを形成する硝材の屈折率温度係数の平均値(以下、「平均屈折率温度係数」という。)は、3.6×10−6である。平均屈折率温度係数は、ズームレンズ4が有する全てのレンズについて、描画に利用される波長の光(本実施の形態では、波長808nmの光)に対する屈折率温度係数をそれぞれ求め、全レンズの屈折率温度係数の和をズームレンズ4に含まれるレンズの枚数で除算することにより求められる。
ズームレンズ4では、平均屈折率温度係数が大きいため、線状光の中央部において結像位置がズームレンズ4側に約50μm変動し、線状光の両端部において結像位置がズームレンズ4側に約20μm変動する。このように、描画の進行に伴って結像位置が大きく変動すると、描画される画像の品質が低下してしまう。そこで、描画開始からの経過時間等に基づいて描画中に結像位置を調整することが考えられるが、描画される画像の内容等も結像位置の変動に影響するため、結像位置の調整には複雑な制御が必要となる。また、線状光の中央部と両端部とで結像位置の変動量が大きく異なるため、線状光の中央部に合わせて結像位置を調整した場合は、線状光の両端部に対応する描画領域にて画像の品質低下が生じ、線状光の両端部に合わせて結像位置を調整した場合は、線状光の中央部に対応する描画領域にて画像の品質低下が生じてしまう。
なお、線状光の中央部における結像位置の変動量が両端部における結像位置の変動量よりも大きくなる原因は、線状光の中央部における光の硝材内光路長が両端部における光の硝材内光路長よりも長く、かつ、線状光の両端部が通過する部位では温度変化が小さいためと考えられる。具体的には、ズームレンズ4はズームレンズ2と同様に、正のパワーを有する両側テレセントリックズームレンズであるため、線状光の中央部における光は、両端部における光に比べて、ズームレンズ4に入射してから出射されるまでの間に透過する硝材の厚さが厚くなる。さらに、レーザ光のエネルギーは中央部の方が高いため、形成される温度変化も周縁部の方が中央部よりも小さくなる。このため、線状光の中央部における光は、両端部における光に比べて、ズームレンズ4の各レンズの屈折率温度係数の影響を大きく受け、その結果、中央部における結像位置の変動量が大きくなる。
図8は、図7と同様に光源部121からの波長808nmの光をズームレンズ2を介して感光材料9に照射した場合におけるズームレンズ2による結像位置の変動量を示す図である。空間光変調デバイス128の1024チャンネルのリボン対は全てON状態であり、ズームレンズ2からの光の感光材料9上におけるパワーは約40Wである。
本実施の形態に係る描画装置1では、ズームレンズ2(図4参照)の各レンズが屈折率温度係数が小さい硝材により形成されており、ズームレンズ2の各レンズを形成する硝材の平均屈折率温度係数は、−0.6×10−6である。描画装置1のズームレンズ2では、平均屈折率温度係数が小さくかつ負であるため、結像位置の変動量が図8に示すように非常に小さくなり、また、線状光の中央部と両端部とで結像位置の変動量に大きな差は生じない。これは、温度変化によるレンズの表面形状の変化は常に膨張する方向、すなわち、パワーが正になる方向に変化するため、結像位置は物体側へと移動し、一方で、平均屈折率温度係数が負であり、結像位置は像側へと移動してレンズの表面形状の変化による結像位置の変動が抑制されるからである。
描画装置1では、ズームレンズ2の平均屈折率温度係数を、比較例の描画装置のズームレンズ4に比べて大幅に小さくし、かつ、負にすることにより、描画用の線状光の照射により生じるズームレンズ2の部分的な温度上昇による結像位置の変動を抑制することができる。その結果、描画中に結像位置の調整を行うことなく、感光材料9上に描画される画像の品質低下を抑制または防止することができる。また、ズームレンズ2では、結像位置の変動を線状光の全長に亘って抑制することにより、線状光の中央部と両端部とにおける結像位置の変動量の差も小さくなる。したがって、線状光の中央部に対応する描画領域と両端部に対応する描画領域とで、描画される画像の品質差はほとんど生じない、または、生じた場合であっても十分許容範囲に含まれる程度である。なお、仮に、結像位置の調整を行うとしても、線状光の全長に亘って結像位置の変動量が大きく変化しないため、結像位置を容易に調整することができる。
ズームレンズ2の平均屈折率温度係数は、様々な大きさとすることが可能であるが、結像位置の変動を抑制し、画像の品質低下を抑制するという観点からは、画像の描画に利用される波長の光(本実施の形態では、波長808nmの光)に対する平均屈折率温度係数は、0.0×10−6以下であることが好ましい。
ここで、ズームレンズ2に使用されている各レンズの25mmあたりの内部透過率を足し合わせ、レンズの枚数で除算して得られる平均値を平均透過率と呼ぶ。平均透過率は、ズームレンズでの発熱を考慮して99.0%以上であることが好ましい。各レンズの25mmにおける内部透過率も99.0%以上であることがさらに好ましい。ズームレンズ2の平均透過率は99.6%以上である。既述のように、硝材の吸収率が1.0%の場合の表面形状変化に対応する屈折率温度係数は2.1×10−6であることから、平均透過率が99.0%以上であることを前提として、平均屈折率温度係数は−2.1×10−6以上であることが好ましいといえる。これにより、レンズの表面形状変化による結像位置の変動量が、屈折率分布により過度に修正されることが抑制される。
描画装置1では、上述のように、ズームレンズ2の部分的な温度上昇による結像位置の変動を抑制することができるため、ズームレンズ2の構造は、ズームレンズを透過する光の光量が大きく、描画中のズームレンズの温度上昇が顕著な描画装置、すなわち、ズームレンズからの光の感光材料上におけるパワーが25W以上である描画装置に特に適しており、当該パワーが40W以上の描画装置にさらに適している。
図9は、ズームレンズ2に線状光の縦方向のNAが異なるレーザ光を入射させたときの結像位置の時間変化を示す図である。実験では、光源側のNAを制御することにより、像側のNAが0.16と0.22になるように調整した。横方向のNAは同じである。1分経過後の結像位置の変動量を比較すると、NAが大きい場合の変動量が54μmであるのに対して、NAが小さい場合の変動量は96μmとなっている。この実験結果においても、結像位置の変動量がNAの2乗に反比例することが分かる。
以上のことから、NAを大きくすることにより、NAの2乗に反比例して結像位置の変動量を抑制することができる。したがって、屈折率分布によりレンズの表面形状の変化による結像位置の変動が十分に緩和されない場合は、NAを可能な限り大きくすることが好ましい。
CTPの場合、最も使用される2400dpiの解像度では10μmの空間分解能が必要であり、少なくとも0.1のNAが必要となる。線状に多数の光変調素子を有する高出力のサーマルCTPの場合、像側のNAは0.2以上であることが好ましい。光変調素子の配列方向に対応する横方向と、縦方向とはNAを同一にする必要はなく、屈折率分布が生じやすい縦方向のNAを大きくすることにより、効果的に結像位置の変動を抑えることができる。
縦方向のNAを大きくする場合、線状光の長手方向のパワーが無く、短手方向に負のパワーを有し、少なくとも1つのシリンドリカルから構成されるシリンドリカルレンズ群が、図1の空間光変調デバイス128とズームレンズ2との間に挿入される。図10は、このようなシリンドリカルレンズ群の最も好ましい例を示す図である。図10に示すシリンドリカルレンズ群60は、空間光変調デバイス128側からシリンドリカル凹レンズ61およびシリンドリカル凸レンズ62から構成される。シリンドリカルレンズ群60を利用することにより、容易に、縦方向と横方向の物点の位置を維持したまま、ズームレンズ2の像側において、縦方向のみのNAを大きくすることができる。
なお、シリンドリカルレンズ群60を構成するレンズの数は2には限定されず、3以上であってもよい。シリンドリカルレンズ群60の挿入前後において物点が移動しないことにより、ズームレンズ2を含む光学系全体の設計が容易となるが、光学系全体を最初から設計する場合は、シリンドリカルレンズ群60の挿入前後において物点は移動してもよい。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上述のズームレンズ2における複数のレンズの枚数、形状、配列および材質等は、好ましいズームレンズの一例であり、ズームレンズ2の構成は適宜変更されてよい。空間光変調デバイス128はGLV等の回折格子型の光変調素子には限定されず、他の様々な構造のものが利用されてよい。対象物を保持する保持部は、ドラム部11と異なる形状のもの(例えば、平板状の対象物を保持するテーブル)であってもよい。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせられてよい。