JP2012092405A - レーザー溶接用銅板材 - Google Patents

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Abstract

【課題】レーザー溶接を容易に行うことが可能で、しかも、溶接部位に合金成分が混入することがなく、また、レーザーによって貫通孔が形成されてしまったり、剥離を生じたりすることもないレーザー溶接用銅板材を提供する。
【解決手段】銅材料或いは銅合金材料でなる銅系基板1と、前記銅系基板1の表面に形成された酸化銅皮膜2と、前記酸化銅皮膜2を介して前記銅系基板1の最表面に形成されたカーボン皮膜3よりなる。また、酸化銅皮膜2の膜厚は10nm〜10μm、カーボン皮膜3の膜厚は20nm〜50μmで、カーボン皮膜3はカーボン成分を95原子%以上含有する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、電気端子、電気接点や通電用バスパー等の導電材料などに用いられ、特にレーザー溶接を容易に実施することができるレーザー溶接用銅板材に関するものである。
銅材料や銅合金材料(以下、銅系材料という。)は導電性に優れる金属材料であり、電気端子、電気接点や通電用バスパー等として広く用いられている。これら銅系材料でなる銅板材は、他の導電材料と接合して用いられるため、接合性が良いことが重要な要件となってくる。この銅板材と接合される導電材料としては、同じ銅系材料の他、アルミニウム、鉄、或いはこれらを基板としてその表面にNiやSnのメッキを施した金属材料が用いられることが多い。銅板材とこれら導電材料との接合には、かしめや半田付けといった方法が多く採用されているが、その他に、抵抗溶接、アークスポット溶接、或いはレーザー溶接といった溶接も採用されることが多い。
近年、接点の小型化が進み、それに伴い小さな接合部位を高速に作製する必要性がでてきており、前記した接合方法の中でも、特に小さな接合点の形成に優れるレーザー溶接が、銅板材とこれら導電材料との接合に採用されることが多くなってきている。このレーザー溶接には、例えば、COレーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザーを用いた溶接があり、これらの中でも、特に小型で高出力が出せるYAGレーザーやファイバーレーザーが小型溶接に採用されることが多く、様々なアルミ材料の溶接、鉄材料の溶接ではこのレーザー溶接が広く適用されるようになってきている。
しかし、銅系材料は、レーザー溶接に用いられる波長領域での反射率が高く、レーザーの吸収が少ないために、アルミや鉄といった他の金属材料と比較してレーザー溶接を行うことは難しいという特性がある。そのため、これまでは銅系材料の溶接に、容易にレーザー溶接を採用することはできなという問題があった。
具体的には、YAGレーザーの波長は1064nm、ファイバーレーザーの波長は1075nm、LD(レーザーダイオード)レーザーの波長は700〜1500nmであるが、各種金属材料の900〜1100nmでのレーザーの光吸収率は、鉄が35%、ニッケルが30%、アルミが28%前後、スズが45%程度であるのに対し、銅は僅か10%以下である。
従って、銅系材料をレーザー溶接する場合、レーザーの殆どが銅系材料の表面で反射され、エネルギーが十分に吸収されないため、銅系材料が溶けにくいという現象が生じる。このような溶けにくい材料をレーザー溶接するためには、一般に大きなレーザーエネルギーが必要になる。
また、レーザー溶接では、レーザー照射で金属材料の表面が溶融するとその表面付近にキーホールと呼ばれる溶融穴が形成される。表面付近に一旦キーホールが形成されると、レーザーはこのキーホール内部で複数回反射を繰り返し、レーザーの吸収が増加して金属材料は溶融しやすくなり、深い溶け込みが可能となる。銅系材料の場合、表面反射率が高いためにレーザーによって、なかなか表面が溶融しないが、それでも非常に大きなエネルギーを投入すればその表面付近にキーホールが形成され溶融が進む。
このように、銅系材料をレーザー溶接する場合、その表面のレーザー吸収が極端に小さいため、非常に大きなエネルギーのレーザーを照射する必要があるが、大きなエネルギーを投入し、一旦銅系材料の表面付近にキーホールが形成されると、キーホール内部のレーザーの吸収が増加して一気に溶融が進むことになる。
すなわち、銅系材料にレーザー照射を行う場合、レーザーのパワーが小さい場合は、反射率が高いために表面を溶融することができないが、その表面を溶融することができる程度の非常に大きなパワーを投入した場合は、表面溶融に続いてキーホール内部の溶融が急激に進行してしまい、特にその銅系材料が銅板材である場合はレーザーが銅板材を貫通することになってしまう。
銅板材に貫通孔を設けることが目的であるレーザー加工の場合は、レーザーが貫通することは特に問題となることはないが、レーザー溶接の場合は、レーザーが完全に材料を貫通してしまうことは必ずしも望ましいことでない。また、銅板材の途中で溶融を止めたい場合があるが、そのような場合もその制御は極めて難しい。
例えば、二枚の銅板材を重ね合わせてレーザー溶接を行う場合、レーザー照射面でない下側の銅板材(レーザー照射面でない側の銅板材は必ずしも下側に位置するとは限らないが、本明細書では便宜上、下側と表現する。)の板厚が厚い場合には、大きな問題になることは少ないが、下側の銅板材の板厚が薄い場合には、レーザーが貫通しやすくなり、その結果、材料に貫通孔が開いてしまうことで様々な不都合を生じることがある。このように、銅系材料は表面反射率が高いために、比較的低パワーでのレーザー溶接が難しく、また、それでもレーザー溶接を行うために高いパワーを投入した場合は、レーザーが重ね合わせた銅板材を貫通してしまうという問題があった。
また、レーザーの照射面側に板厚が厚い銅板材を用いる場合は、高いレーザー溶接パワーが必要になるが、下側の銅板材は少なくとも同程度の板厚となる場合が多い。このような場合は、非常に大きなパワーを投入することが必要になるため、レーザーが下側の銅板材も貫通してしまう可能性が非常に高くなる。そのため、板厚が厚い銅板材をレーザー溶接する場合には、銅板材の表面の反射率制御を行う必要性が出てくる。
更に、大電流用途向けの溶接の場合は、溶接部位に大きな電流が流れ込むこととなるため、溶接部位の電気抵抗の増加が極めて大きな問題となる。
レーザー溶接用の銅板材には、以上のような種々の問題を発生することなく容易にレーザー溶接できるような銅板材が望まれる。
銅板材のレーザー溶接性を改善するためには、レーザー加工面にめっきなどの表面処理を施せば良く、銅板材表面の反射率を低減させてレーザー吸収率を向上させることが可能になる。実際に、自動車用の端子接続においては、めっき銅を用いたYAGレーザー溶接が多用されている。
レーザー溶接性に優れた銅系材料に関する提案例としては、特許文献1記載の、表面にSnめっき層を形成した銅または銅合金部材がある。また、特許文献2や特許文献3では、表面にNiめっき層を形成することで銅系材料のレーザー溶接性を改善する技術が提案されている。
しかしながら、このような特許文献1〜3に記載の技術を、板厚が比較的厚い銅板材の溶接、大電流用途での銅板材の溶接に適用した場合、溶接部位にSnやNiなどの金属成分が混入して合金化することで、電気抵抗を増加させてしまう。
特開平8−218137号公報 特開平7−214369号公報 特開2009−291838号公報
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、レーザー溶接を容易に行うことが可能で、しかも、溶接部位に合金成分が混入することがなく、また、レーザーによって貫通孔が形成されてしまったり、剥離を生じたりすることもないレーザー溶接用銅板材を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、銅材料或いは銅合金材料でなる銅系基板と、前記銅系基板の表面に形成された酸化銅皮膜と、前記酸化銅皮膜を介して前記銅系基板の最表面に形成されたカーボン皮膜よりなることを特徴とするレーザー溶接用銅板材である。
請求項2記載の発明は、前記酸化銅皮膜の膜厚が、10nm〜10μmであることを特徴とする請求項1記載のレーザー溶接用銅板材である。
請求項3記載の発明は、前記カーボン皮膜の膜厚が、20nm〜50μmであることを特徴とする請求項1または2記載のレーザー溶接用銅板材である。
請求項4記載の発明は、前記カーボン皮膜が、カーボン成分を95原子%以上含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザー溶接用銅板材である。
本発明のレーザー溶接用銅板材によると、銅板材であるにかかわらずレーザー溶接を容易に行うことが可能で、しかも、溶接部位に合金成分が混入することがなく、また、レーザーによって貫通孔が形成されてしまったり、剥離を生じたりすることもないという作用効果を奏する。
本発明の一実施形態のレーザー溶接用銅板材を示す断面図である。
本発明者らは、レーザー溶接が容易にできるレーザー溶接用銅板材を得るために、鋭意、実験、研究を進めた。
まず、銅板材のレーザー溶接性を改善するためには、レーザー加工面にめっきなどの表面処理を施せば良いということに着目し、実験、研究を進めることとした。レーザー溶接性に優れた銅系材料としては、特許文献1〜3に記載されたような、表面にSnやNiなどのめっき層を施した銅板材が既に公知であるが、このように表面に金属めっき層を形成した場合、溶接部位にめっき金属成分が混入して合金化することで、電気抵抗を増加させてしまう。
そのため、銅板材に合金化する金属成分を有することのない表面処理を施すことを検討した。そこで、本発明者らは表面処理を施すための材料としてカーボン系の材料に着目した。カーボン系材料は銅板材表面の反射率を下げることができ、しかも、カーボンは銅系材料と合金化することもないという特長がある。しかし、一方でこのカーボン系材料は銅系材料との密着性が悪いために、剥離が生じやすいという問題がある。
そこで、本発明者らは、銅系材料およびカーボン系材料に対して密着性に優れ、銅系材料とも合金化することのない層を介することで、これらの問題を解消できることができることを知見し、本発明の完成に至った。
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
本発明のレーザー溶接用銅板材は、例えば、図1に示すように、銅材料或いは銅合金材料でなる銅系基板1と、その銅系基板1の表面に形成された酸化銅皮膜2と、その酸化銅皮膜2を介して銅系基板1の最表面に形成されたカーボン皮膜3より構成される。以下、酸化銅皮膜2とカーボン皮膜3が、銅系基板1の片面に形成された実施形態に基づいて説明するが、酸化銅皮膜2とカーボン皮膜3が銅系基板1の両面に形成されていても良いことは勿論である。
本発明のレーザー溶接用銅板材に用いられる銅系基板1は、銅材料或いは銅合金材料でなる。レーザー溶接用銅板材に銅合金材料を用いる場合は、含有される合金元素は銅合金材料を電子材料や電気回路材料に用いることができれば特に限定されず、例えば、Zn、Al、Fe、Mn、Snなどを挙げることができる。尚、これら合金元素は、銅合金材料に単独で含有されても良いし、2種類以上が含有されていても良い。
また、銅合金材料の場合、これら合金元素の含有率は、レーザー溶接後に得られる接合体に要求される機械特性や耐熱性、加工性等に応じて適宜調整され、特に限定されることはないが、例えば、Znの場合は50質量%以下、Alの場合は13質量%以下、Feの場合は7質量%以下、Mnの場合は3質量%以下、Snの場合は10質量%以下含有されることが好ましい。
また、本発明のレーザー溶接用銅板材に用いられる銅系基板1の板厚は、特に限定されることはないが、実質的には0.05〜20.0mmである。板厚が0.05mmより薄いと、銅系基板1が薄くなりすぎて箔の状態となって自立せず、何らかの基材に銅板材を貼り付けて用いることになってしまう。その場合、用いる基材によって溶接状態が著しく変わってしまい、場合によれば溶接を行えなくなる。一方、板厚が20.0mmを超えると、溶接を実施するのに非常に高いエネルギーが必要になり、レーザー溶接機によれば高いエネルギーを出力できず溶接自体が不可能になる。
この銅系基板1の表面に酸化銅皮膜2が形成されるが、この酸化銅皮膜2は、下地となる銅系基板1の表面側にカーボン皮膜3を形成させるための接着剤のような働きをなし、銅系基板1とカーボン皮膜3との密着性を向上させる。
この酸化銅皮膜2は密着性を向上させる役割で用いられるので、膜厚はなるべく薄い方が良いが、極端に薄いと密着性を向上させる作用を発現できなくなる。膜厚を10nm以上とすれば、確実に密着性を向上させる作用を発現できる。一方、酸化銅皮膜2の膜厚が厚すぎると、酸化銅皮膜2自体が壊れて剥離することになる。特に酸化銅皮膜2の膜厚が10μmを超えると酸化銅皮膜2自体が銅系基板1の表面から剥離する可能性が高くなるので好ましくはない。従って、酸化銅皮膜2の好ましい膜厚は10nm〜10μmである。より好ましい膜厚は20nm〜1μmである。
この酸化銅皮膜2は、銅系基板1を大気中で熱処理をすることで簡便に形成することができる。具体的には、150℃以上の大気加熱処理を施すことで銅系基板1の表面に容易に酸化銅皮膜2を形成することができる。
この酸化銅皮膜2の表面、すなわち、酸化銅皮膜2を介して銅系基板1の最表面にはカーボン皮膜3が形成されるが、このカーボン皮膜3が銅板材表面の反射率を低下させ、銅板材の低パワーでのレーザー溶接を可能にさせる。
このカーボン皮膜3の好ましい膜厚は20nm〜50μmである。カーボン皮膜3の膜厚が20nm未満であると、銅板材表面の反射率の低下が十分でなくなる。一方、カーボン皮膜3の膜厚が50μmを超えると、カーボン皮膜3が下地の酸化銅皮膜2の表面から剥離しやすくなる。反射率低下の観点からは20nm以上で効果が現れ始め、50nm以上であればその効果の発現度合いには変わりはない。従って、剥離しにくいという観点からはなるべく薄い方が望ましい。一方で薄い膜を制御良く形成するのは困難であるという問題がある。従って、これら反射率、剥離性、成膜容易性という観点を総合すると、カーボン皮膜3の膜厚は50nm〜1μmとすることがより好ましい。
銅板材最表面にこのカーボン皮膜3を形成することで、その主成分の炭素材料(カーボン成分)はレーザー溶接時に銅材料と合金化しなくなるため、接合部の電気抵抗が増加する現象を最小限に抑えることができる。
尚、このカーボン皮膜3の形成に用いる炭素材料は、どのような材料であっても基本的には反射率の低下に寄与できるため特に限定する必要はないが、代表的な炭素材料として、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、或いはコークス、更には天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト等を例示することができる。これら炭素材料は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
このカーボン皮膜3は、前記炭素材料を95原子%以上含有することが好ましく、炭素材料を95原子%以上含有することで反射率を確実に低下させることができる。また、この炭素材料の含有率は出来る限り高いことが好ましく、より好ましくは96原子%以上、更に好ましくは97原子%以上である。
尚、カーボン皮膜3を構成する残量元素は、シリコン、マグネシウム、鉄、カルシウム、アルミニウム等である。水素、リチウム、ホウ素、窒素、酸素等の軽元素も微量に含有するが、定量的な分析が難しいため、本発明では炭素残量の含有率を求める際の計算対象からは除外する。
カーボン皮膜3を形成する方法は特に限定する必要はないが、例えば、前記炭素材料とバインダー成分とを混練した後、溶媒を添加してペースト化し、このペーストを銅板材の最表面に塗布した後、溶媒を除去する方法を例示することができる。
カーボン皮膜3を形成する際に用いる前記溶媒としては、炭素材料やバインダー成分を変質させるおそれがなく、且つ、加熱により除去が容易に行える溶媒であれば特に限定する必要はない。例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、セルソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルアセテート、エチルアセテートを挙げることができるが、エチルアルコールを用いることが好ましい。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
また、炭素材料を95原子%以上含有するカーボン皮膜3を形成するためには、乾燥時に蒸発しやすいバインダーを用いることが必要であり、これに適したバインダーとして、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリプレングリコール、ポリエチレングリコールを例示することができる。また、乾燥防止剤として、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテートを用いれば良い。
このように、本発明のレーザー溶接用銅板材は、銅材料或いは銅合金材料でなる銅系基板1と、その銅系基板1の表面に形成された酸化銅皮膜2と、その酸化銅皮膜2を介して銅系基板1の最表面に形成されたカーボン皮膜3より構成される。よって、表面処理が施されていない未処理の銅板材と比較して低いレーザー出力で、且つ、制御性良くレーザー溶接することが可能になる。また、酸化銅皮膜2により、カーボン皮膜3の銅系基板1への密着性が向上し、加工中の膜剥がれを防止することができる。
また、本発明のレーザー溶接用銅板材を表面未処理の銅板材と重ねてレーザー溶接を実施する際には、レーザー照射によりレーザー照射面が溶融し始めるエネルギー(溶接開始時レーザー出力)と、レーザー照射による溶融が接合体の裏面(レーザー照射面と逆側の面)に達するのに要するエネルギー(溶融貫通時レーザー出力)との差が大きくなるため、レーザーによる溶融を接合体の内部で止め、レーザーによって貫通孔が形成されることのないレーザー照射要件を設定することが容易になる。
そこで、板厚0.5mmの銅系基板1の表面側に、適正な膜厚の酸化銅皮膜2とカーボン皮膜3を順次形成してなる本発明のレーザー溶接用銅板材を、銅系基板1の表面が露出している側の未処理面が接合面となるようにして2枚重ね合わせ、レーザー溶接を実施した。カーボン皮膜3側から、ファイバーレーザーをスポット径:0.1mmφ、速度:2000mm/minで照射した際の、レーザー照射面が溶融し始めるのに要するレーザーのエネルギー(溶接開始時レーザー出力)と、レーザー照射による溶融が接合体の裏面に到達するのに要するエネルギー(溶融貫通時レーザー出力)との差を測定したところ200W以上であった。
このように、レーザー出力差が200W以上であると、レーザーによる銅材料の溶融を接合体の内部で止め、レーザーによって貫通孔が形成されることのないレーザー照射要件を設定することが容易になる。尚、このレーザー出力差は300W以上であることが好ましく、400W以上であることがより好ましく、500W以上であることが更に好ましい。尚、このレーザー出力差の上限については制限することはないが、実際は600W程度である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
(発明例1)
板厚0.5mmの純銅でなる銅系基板の表面に、150℃30分の大気熱処理を施して酸化銅皮膜を形成した後、その酸化銅皮膜の表面にカーボン皮膜をコーティングして、レーザー溶接用銅板材とした。酸化銅皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ20nmであった。
また、カーボン皮膜は、市販のカーボン粉末(和光純薬:カーボンブラック)10gに、テルピネオール20g、エチルセルロース2gと、少量のエタノールを混合してペーストを作製し、スクリーン印刷法で前記酸化銅皮膜の表面に一層印刷した後、120℃で乾燥させ、更に、窒素雰囲気中350℃で焼成することで形成した。カーボン皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ520nmであった。
また、カーボン皮膜中の不純物の含有量を、EDS(エネルギー分散式X線マイクロアナリシス)分析で調べたところ1.0原子%以下であり、このカーボン皮膜中のカーボン成分は99原子%以上であった。
次に、前記表面処理を行った銅板材と表面未処理の純銅板材を用いてレーザー溶接を実施した。詳しくは、板厚0.5mmの表面未処理の純銅板材の上に、前記表面処理を行った銅板材を重ね合わせて、住友機械エレクトロニクス社製のYbファイバーレーザーを用い、ファイバーレーザーで重ね合わせ溶接を行った。ファイバー径は0.1mmφとし、前進角5度、加工速度2000mm/minとし、また、溶接長を20mmとした。
その結果、レーザーパワーを800W以上にすると、レーザー溶接が可能となり、レーザーパワーを1300W以上にすると、レーザー照射による溶融が接合体の裏面に到達し貫通孔が形成された。すなわち、レーザー照射面が溶融し始めるのに要するレーザーのエネルギー(溶接開始時レーザー出力)と、レーザー照射による溶融が接合体の裏面に到達するのに要するエネルギー(溶融貫通時レーザー出力)との差は、約500Wであった。
次に、銅系基板の表面へのカーボン皮膜の密着性を評価するために、折り曲げ試験を行った。この折り曲げ試験では、半径10mmの当て金を試験片に密着させ、万力によって90度に折り曲げて、4倍の顕微鏡によってカーボン皮膜の剥離の有無を確認した。また、試験片を180度に折り曲げて、同様にカーボン皮膜の剥離の有無を確認した。その結果、90度の折り曲げ、180度の折り曲げともに、カーボン皮膜の剥離は確認できなかった。
(発明例2)
板厚0.5mmの純銅でなる銅系基板の表面に、150℃30分の大気熱処理を施して酸化銅皮膜を形成した後、その酸化銅皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ20nmであった。
引き続き、その酸化銅皮膜の表面にカーボン皮膜をコーティングして、レーザー溶接用銅板材とした。このカーボン皮膜は、市販のカーボン粉末(和光純薬:カーボンブラック)10gに、テルピネオール20g、エチルセルロース0.2gと、エタノール20mlを混合して溶液を作製し、その溶液に酸化銅皮膜を表面に形成した銅系基板を浸漬させ引き上げることによりその酸化銅皮膜の表面にカーボン成分を付着させた後、120℃で乾燥させ、更に、窒素雰囲気中350℃で焼成することで形成した。カーボン皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ520nmであった。
また、カーボン皮膜中の不純物の含有量を、EDS(エネルギー分散式X線マイクロアナリシス)分析で調べたところ1.0原子%以下であり、このカーボン皮膜中のカーボン成分は99原子%以上であった。
次に、前記表面処理を行った銅板材と表面未処理の純銅板材を用いてレーザー溶接を実施した。詳しくは、板厚0.5mmの表面未処理の純銅板材の上に、前記表面処理を行った銅板材を重ね合わせて、住友機械エレクトロニクス社製のYbファイバーレーザーを用い、ファイバーレーザーで重ね合わせ溶接を行った。ファイバー径は0.1mmφとし、前進角5度、加工速度2000mm/minとし、また、溶接長を20mmとした。
その結果、レーザーパワーを900W以上にすると、レーザー溶接が可能となり、レーザーパワーを1300W以上にすると、レーザー照射による溶融が接合体の裏面に到達し貫通孔が形成された。すなわち、レーザー照射面が溶融し始めるのに要するレーザーのエネルギー(溶接開始時レーザー出力)と、レーザー照射による溶融が接合体の裏面に到達するのに要するエネルギー(溶融貫通時レーザー出力)との差は、約400Wであった。
次に、銅系基板の表面へのカーボン皮膜の密着性を評価するために、折り曲げ試験を行った。この折り曲げ試験では、半径10mmの当て金を試験片に密着させ、万力によって90度に折り曲げて、4倍の顕微鏡によってカーボン皮膜の剥離の有無を確認した。また、試験片を180度に折り曲げて、同様にカーボン皮膜の剥離の有無を確認した。その結果、90度の折り曲げ、180度の折り曲げともに、カーボン皮膜の剥離は確認できなかった。
(比較例1)
板厚0.5mmの純銅板の表面を5%希硫酸で洗浄して表面の酸化膜を除去した後、純水洗浄した銅板材を、板厚0.5mmの表面未処理の純銅板材の上に重ね合わせて、住友機械エレクトロニクス社製のYbファイバーレーザーを用い、ファイバーレーザーで重ね合わせ溶接を行った。ファイバー径は0.1mmφとし、前進角5度、加工速度2000mm/minとし、また、溶接長を20mmとした。
その結果、レーザーパワーが1300W以下では、銅板材の表面に疵ひとつ付けることができず、更に、レーザーパワーを1400Wに上げたところ、レーザー照射による溶融が接合体の裏面に到達し貫通孔が形成されてしまった。
(比較例2)
板厚0.5mmの純銅板の表面を5%希硫酸で洗浄して表面の酸化膜を除去した。次に、市販のカーボン粉末(和光純薬:カーボンブラック)10gに、テルピネオール20g、カルボキシルメチルセルロース(CMC)5gと、少量のエタノールを混合してペーストを作製し、スクリーン印刷法で銅系基板(純銅板)の表面に一層印刷した後、120℃で乾燥させ、更に、窒素雰囲気中350℃で焼成することで、カーボン皮膜を形成した。カーボン皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ500nmであった。
また、カーボン皮膜中の不純物の含有量を、EDS(エネルギー分散式X線マイクロアナリシス)分析で調べたところ、CMC由来のNa成分が6.0原子%含まれており、このカーボン皮膜中のカーボン成分は94原子%以下であった。
次に、銅系基板の表面へのカーボン皮膜の密着性を評価するために、折り曲げ試験を行った。この折り曲げ試験で、半径10mmの当て金を試験片に密着させ、万力によって90度に折り曲げて、4倍の顕微鏡によってカーボン皮膜の剥離の有無を確認したところ、折り曲げ部分の約5%で剥離が発生していた。また、試験片を180度に折り曲げて、同様にカーボン皮膜の剥離の有無を確認したところ、折り曲げ部分の約15%で剥離が発生していた。
(比較例3)
板厚0.5mmの純銅でなる銅系基板の表面に、350℃30分の大気熱処理を施して酸化銅皮膜を形成した後、その酸化銅皮膜の表面にカーボン皮膜をコーティングした。酸化銅皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ20μmであった。
また、カーボン皮膜は、市販のカーボン粉末(和光純薬:カーボンブラック)10gに、テルピネオール20g、エチルセルロース2gと、少量のエタノールを混合してペーストを作製し、スクリーン印刷法で前記酸化銅皮膜の表面に一層印刷した後、120℃で乾燥させ、更に、窒素雰囲気中350℃で焼成することで形成した。カーボン皮膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ520nmであった。
また、カーボン皮膜中の不純物の含有量を、EDS(エネルギー分散式X線マイクロアナリシス)分析で調べたところ1.0原子%以下であり、このカーボン皮膜中のカーボン成分は99原子%以上であった。
次に、銅系基板の表面へのカーボン皮膜の密着性を評価するために、折り曲げ試験を行った。この折り曲げ試験で、半径10mmの当て金を試験片に密着させ、万力によって90度に折り曲げて、4倍の顕微鏡によってカーボン皮膜の剥離の有無を確認したところ、折り曲げ部分の約10%で剥離が発生していた。また、試験片を180度に折り曲げて、同様にカーボン皮膜の剥離の有無を確認したところ、折り曲げ部分の約20%で剥離が発生していた。この結果は、酸化銅皮膜の膜厚が厚すぎたため、得られた結果である。
1…銅系基板
2…酸化銅皮膜
3…カーボン皮膜

Claims (4)

  1. 銅材料或いは銅合金材料でなる銅系基板と、前記銅系基板の表面に形成された酸化銅皮膜と、前記酸化銅皮膜を介して前記銅系基板の最表面に形成されたカーボン皮膜よりなることを特徴とするレーザー溶接用銅板材。
  2. 前記酸化銅皮膜の膜厚が、10nm〜10μmであることを特徴とする請求項1記載のレーザー溶接用銅板材。
  3. 前記カーボン皮膜の膜厚が、20nm〜50μmであることを特徴とする請求項1または2記載のレーザー溶接用銅板材。
  4. 前記カーボン皮膜が、カーボン成分を95原子%以上含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザー溶接用銅板材。
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