以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る表面プラズモン共鳴蛍光分析装置(以下、単に「分析装置」とも称する。)は、プリズムに全反射条件で入射した励起光の反射界面からしみ出すエバネッセント波(増強電場)を利用して被検出物質(以下、単に「検体」とも称する。)に標識された(付された)蛍光物質を励起させ、これにより生じた蛍光の光量を検出することによって検体の検出を行う装置である。
分析装置は、図1に示されるように、分析チップ50を保持するチップ保持部12と、チップ保持部12に保持された状態の分析チップ50に励起光を出射する励起光射出部20と、分析チップ50で生じた光の強度を測定する光測定部40と、これらチップ保持部12、励起光射出部20、及び光測定部40等の分析装置10の各構成要素の制御を行うと共に各種演算処理を行う制御処理部14(制御部)と、演算結果等の各種情報を表示する表示部16とを備える。また、分析装置10は、患者からの血液等の前処理を行う前処理部(図示省略)も備える。この前処理部は、試薬チップ(図略)を受け入れ、この試薬チップに注入されている血液等の前処理(血球分離や希釈、混合等)を行って試料液を生成し、この試料液を分析チップ50に注入する部位である。試薬チップには、複数の収納部が設けられ、各収納部には血液等の他に、試薬、希釈液、洗浄液等が個別に封入されている。
分析チップ50は、図2にも示されるように、プリズム51と、プリズム51の表面に形成される金属膜55と、金属膜55上を当該金属膜55に接しつつ検体を含む試料液や洗浄液等が流れる流路58を形成する流路部材57とを備える。本実施形態の分析チップ50は、検体の検出(分析)毎に交換される。
プリズム51は、励起光射出部20からの励起光αを内部に入射させる入射面52と、この内部に入射した励起光αが反射される金属膜55が形成される成膜面(所定の面)53と、金属膜55で反射された励起光αがプリズム51の外部に射出される射出面54とをその表面に含み、透明なガラス又は樹脂により形成されている。射出面54は、励起光αが金属膜55(詳細には、金属膜55と成膜面53との界面)で反射した後に最初に当る面であり、金属膜55で反射した励起光αのS波成分の光がプリズム51の内部で留まらないように、入射面52と同様に、光学面に形成される。本実施形態のプリズム51は、複屈折特性を有する。具体的に、プリズム51は、屈折率が1.4〜1.6程度の透明な樹脂(誘電体)により形成される。尚、プリズム51は、ガラスにより形成されてもよい。また、プリズム51は、入射面52と成膜面53と射出面54とをその表面に含み、入射面52から内部に入射した励起光αが成膜面53上の金属膜55で全反射され、この励起光α(詳細には、励起光αのS波成分)が内部で乱反射して留まらずに射出面54から外部に射出されるような形状であればよい。
金属膜55は、プリズム51の成膜面53上に成膜(形成)された金属製の薄膜であり、本実施形態では、金により形成されている。この金属膜55は、全反射条件でプリズム51内に入射した励起光αが金属膜55と成膜面53との界面で全反射することにより生じるエバネッセント波(増強電場)を増幅するための部材である。即ち、成膜面53上に金属膜55を設けてこの金属膜55に表面プラズモン共鳴を生じさせることにより、金属膜55のない面(成膜面53)で励起光αを全反射させてエバネッセント波を生じさせる場合に比べ、形成されるエバネッセント波を増幅させる(即ち、金属膜55の表面55a近傍に増強電場を形成する)ことができる。
尚、金属膜55の素材は、金に限定されず、表面プラズモン共鳴を生じさせる金属であればよく、例えば、銀、銅、アルミ等(合金を含む)であってもよい。
また、金属膜55の表面(プリズム51と反対側の面)55aには、特定の抗原を捕捉するための捕捉体56が固定されている。この捕捉体56は、表面処理によって金属膜55の表面55aに固定される。
流路部材57は、プリズム51の成膜面53上に設けられ、この成膜面53と共に試料液が流れる流路58を形成する。この流路部材57は、透明な樹脂により形成され、接着剤、レーザ溶着や超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着等によりプリズム51に接合されている。流路58は、金属膜55と試料液とが接する領域が光測定部40の測定領域よりも広くなるような形状を有する。
このように構成される分析チップ50は、分析装置10の前処理部に設置されると、この前処理部において前処理が終わった試料液が流路58内に注入(供給)される。そして、試料液が注入された分析チップ50は、金属膜55上に固定された捕捉体56と検体(特定の抗原)との反応が終了するとチップ保持部12まで搬送され、このチップ保持部12に所定の姿勢で保持される。
チップ保持部12は、検体の検出のときに分析チップ50を保持する。具体的に、このチップ保持部12は、励起光射出部20から射出された励起光αが全反射条件で入射面52からプリズム51の内部に入射してこの入射した励起光αが金属膜55で反射されるような姿勢で分析チップ50を着脱可能に保持する。本実施形態のチップ保持部12は、流路部材57の下側にプリズム51が位置する姿勢で分析チップ50を保持する。
尚、分析装置10には、射出面54から射出された光の影響が光測定部40に及ばないように、チップ保持部12が保持した状態の分析チップ50の射出面54近傍に光吸収体(図示省略)が配置されている。
励起光射出部20は、チップ保持部12で保持された状態の分析チップ50に含まれるプリズム51の金属膜55で反射されるように当該プリズム51内に励起光αを入射させる。具体的に、励起光射出部20は、直線偏光された励起光を射出する光源部21と、光源部21から出射された励起光αをプリズム51の入射面52まで案内する励起光学系30と、を有する。
光源部21は、励起光源22を含む光源ユニット部23と、励起光源22から射出された励起光αを整波する第1整波部24と、を有する。本実施形態の光源部21は、下方に向けて励起光αを射出し、励起光源22として、レーザーダイオードが用いられる。
光源ユニット部23は、励起光源22と、この励起光源22の温度調整(温調)を行う温調回路25とを有する。この光源ユニット部23は、励起光源22が射出した励起光αの平行化(コメリート)を行うと共に、プリズム51の金属膜55に励起光αが短軸側から入射するように励起光源22の姿勢を調整・保持する。これは、励起光源(レーザーダイオード)22から射出される励起光αが、コメリート化しても形状が扁平であり且つ偏光方向が概ね一方向に偏っているため、励起光源22の姿勢を調整・保持することによって、励起光αが成膜面53に対して全反射条件(成膜面53に対して浅い角度)で入射したときに、励起光αの成膜面53における照射領域の輪郭形状が凡そ円形に為るようにするためである(図3参照)。
温調回路25は、励起光源(レーザーダイオード)22の温調を行うための回帰回路である。具体的に、励起光源22が温度によって射出する光の波長と射出エネルギーとが変動するため、温調回路25は、コリメート後に励起光αの光線から分岐させた光線光量をフォトダイオード等(図示省略)により監視し、射出される励起光αの波長及び光量が一定となるように励起光源22の温度を調整する。
第1整波部24は、複数のフィルターによって光源ユニット部23から射出された励起光αを整波して偏光方向が一意な励起波長にする。具体的に、第1整波部24は、第1バンドパスフィルター(以下、単に「第1BPF」と称する。)26と、直線偏光フィルター(以下、単に「LPF」と称する。)27と、第1NDフィルター(以下、単に「第1NDF」と称する。)28とを有する。第1BPF26は、励起光源22からの射出光が若干の波長分布幅を有しているため、これを中心波長のみの挟帯域にろ波する。また、LPF27は、励起光源22からの射出光が若干の異位相差成分を有しているため、これを純粋な直線偏光にろ波する。また、第1NDF28は、いわゆる減光フィルターであり、励起光源22から射出された光を減光して、光源部21から射出される励起光αの光量を調整する。尚、励起光源22から射出される射出光の強度によっては、第1整波部24に第1NDF28が設けられなくてもよい。
励起光学系30は、光源部21からチップ保持部12に保持された状態の分析チップ50のプリズム51まで励起光αを案内する。この励起光学系30は、励起光αの偏光方向を変更する偏光方向調整部31と、励起光αのビームの輪郭形状等を調整する整形光学系32と、励起光αのプリズム51内への入射経路を変更して金属膜55における励起光αの反射位置や金属膜55に対する励起光αの入射角θを変更する入射経路調整部35と、を有する。
偏光方向調整部31は、1/2波長板33と、この1/2波長板33を回転させる回転駆動部34と、を有する。
1/2波長板33は、励起光学系30の光路上に配置され、励起光αの偏光方向を連続的に回転させる偏光回転子として用いられる。回転駆動部34は、1/2波長板33を回転させることにより、金属膜55に対する励起光αの偏光方向を回転させる。本実施形態の回転駆動部34は、ステップモーターを有し、制御処理部14からの指示信号に基づいてステップモーターにより1/2波長板33を回転させる。このように1/2波長板33を回転させると、第1整波部24において直線偏光された励起光αの偏光方向が回転し、これにより、金属膜55に入射する励起光αにおけるP波成分の量とS波成分の量とが変化する。即ち、回転駆動部34が1/2波長板33を回転させることにより、金属膜55においてエバネッセント波が最大限しみ出す条件(即ち、金属膜55の表面55a近傍に形成される増強電場の電場増強度が最大となる条件)から全くしみ出さない条件(即ち、金属膜55の表面55a近傍に増強電場が全く形成されない条件)まで偏光方向を自在に変化させることが可能となる。
整形光学系32は、金属膜55における励起光αの照射領域の輪郭が所定の直径を有する円形になるように、スリットやズーム機能等によって励起光αのビームサイズやビームの輪郭形状を調整する。尚、本実施形態の金属膜55における励起光αの照射領域は、光測定部40における測定領域よりも小さくなるように調整される(図10(B)参照)。これにより、金属膜55における励起光αの照射領域が僅かにずれても、表面プラズモン共鳴やこれに基づく増強電場に起因する光を光測定部40が測定することができる。
入射経路調整部35は、光源部21からの励起光αを反射する反射部材36と、この反射部材36を駆動する反射部材駆動部(駆動部)37とを有する。
反射部材36は、励起光αを反射する反射面36aを有する。本実施形態では、反射部材36として反射鏡が用いられる。この反射部材36は、反射面36aに入射する前の励起光αと当該反射面36aで反射された後の励起光αとにおいて位相のずれや減光等が生じない誘電体多層膜、即ち、励起光波長においてP波成分とS波成分とのいずれとも波長依存性をなくした誘電体多層膜が反射面36a上に成膜されている。これにより、当該分析装置10における検体の検出精度及び感度が向上する。
また、反射部材36の裏面36bには、励起光αを反射することなく吸収する無反射光吸収物質(例えば、吸収型NDフィルム、植毛布等)が貼り付けられている。
反射部材駆動部37は、ステージ37aと、このステージ37aに設けられ、反射部材36を支持すると共に回転駆動する回転駆動機構(図示省略)と、ステージ37aを往復駆動する往復駆動機構(図示省略)とを有する。
回転駆動機構は、反射部材36を回転させる(図1の矢印β参照)ことにより反射面36aの向きを変える。具体的に、回転駆動機構は、反射部材36に入射する励起光αの光路と反射部材36で反射後の励起光αの光路とを含む面(図1の紙面)と直交する姿勢の反射面36aがこの直交姿勢を維持しつつ前記光路を含む面に沿って回転するように、制御処理部14の指示信号に基づいて反射部材36を回転させる。この回転駆動機構は、回転モーターを有し、この回転モーターによって直接又は間接的に反射部材36を回転駆動して反射面36aの向きを変える。また、回転駆動機構は、制御処理部14からの指示信号に基づいて、光源部21からの励起光αが反射部材36の裏面36bに入射するまで反射部材36を回転させることもある。本実施形態では、重心が回転中心近くを通るように反射部材36が回転駆動機構に取り付けられ、回転モーターのトルクは、十分に設定されている。本実施形態の回転モーターは、高分解能のステップモーターであり、制御処理部14からの指示信号によって、所定の間隔で反射部材36を回転させることができる。前記所定の間隔は、反射面36aの向きの調整における分解能に関係し、本機の性能によって適宜に設定される。
往復駆動機構は、ステージ37a、即ち、反射部材36を光源部21からの励起光αの光軸に沿って直線的に移動させる(図1における矢印γ参照)。本実施形態の往復駆動機構は、光源部21からの励起光αの光軸方向、即ち、上下方向にステージ37aを往復駆動させる。具体的に、往復駆動機構では、制御処理部14からの指示信号によりステップモーターが制御され、このステップモーターにより駆動されるねじ送り機構によって回転駆動機構及び反射部材36が搭載されたステージ37aが上下方向に往復移動する。即ち、往復駆動機構は、制御処理部14の指示信号に従い、光源部21からの励起光αの光軸に対する反射面36aの向きを一定に保ったまま反射部材36を光源部21からの励起光αの光軸上の所定位置に高精度に移動させる。
光測定部40は、受光部41と、分析チップ50から受光部41まで光を案内する測定光学系42と、測定光学系42において案内される光を整波する第2整波部43と、を有し、分析チップ50の金属膜55及びこれと隣接する領域で生じる光(以下、単に「金属膜55で生じる光」とも称する。)の強度を測定する。
受光部41は、光を受光してその強度(光量)に応じた強度信号を出力する。本実施形態では、検体に標識された蛍光物質を励起させることによって生じる蛍光等の微弱な光を検出するため、受光部41として感度とS/N比の高い光電子倍増管(Photomultiplier Tube:PMT)が用いられる。尚、受光部41は、PMTに限定されず、冷却CCD型イメージセンサ等であってもよい。
測定光学系42は、図4にも示されるように、迷光の影響を受け難い共役光学系であり、集光レンズ44と結像レンズ45とを有する。本実施形態の測定光学系42は、群間、即ち、集光レンズ44と結像レンズ45との間を進行する光が平行光若しくは略平行光となる2群共役光学系である。
第2整波部43は、測定光学系42において案内される光から励起光成分(例えば、プラズモン散乱光やラマン散乱光、拡散光等)を除去し、測定光学系42において案内される光の光量を調整する。この第2整波部43は、第2バンドパスフィルター(第1の光フィルター)46と、第2NDフィルター(第2の光フィルター)47と、各フィルター46,47の位置の切り換えを行う位置切換部48と、を有する。
第2バンドパスフィルター(以下、単に「第2BPF」と称する。)46は、励起光αの波長(励起波長)の光を遮る。これにより、第2BPF46は、受光部41に蛍光(検体に標識された蛍光物質が増強電場により励起して生じた光)以外の波長の光(例えば、励起光射出部20からの漏れ光やプラズモン散乱光、拡散光等)が入射することを防ぐことができる。即ち、第2BPF46は、受光部41に入射する光からノイズ成分を除去し、これにより受光部41における微弱な蛍光の検出精度及び感度の向上を図ることができる。
第2NDフィルター47(以下、単に「第2NDF」と称する。)は、いわゆる減光フィルターであり、入射した光を減衰させて出射する。この第2NDF47は、測定光学系42において案内されるプラズモン散乱光や拡散光等を減光して、微弱な光(本実施形態では蛍光)を検出するための受光部(本実施形態ではPMT)41でプラズモン散乱光等を測定することを可能とする。即ち、検体の検出のときに測定する励起蛍光の光量に比べて、増強電場が最大となる励起光αの入射角θ1を求めるために測定する光の光量が非常に大きいため、共通の受光部41を用いる場合には、第2NDF47により増強電場が最大になる励起光αの入射角θ1を求めるために測定する光を減光することにより、受光部41が損傷するのを防ぐことができる。
これら第2BPF46と第2NDF47とは、光軸に対して略垂直な同一平面(詳しくは、測定光学系42を進む光の光軸と略直交する平面)に沿って並ぶように共通の保持フレーム49に保持されている。
位置切換部48は、第2BPF46及び第2NDF47の位置をフィルタリング位置と退避位置との間で切り換える。尚、フィルタリング位置とは、測定光学系42における光路上の位置である。具体的に、フィルタリング位置は、集光レンズ44と結像レンズ45との間において、各フィルター46,47がこれらレンズ44,45間の平行光若しくは略平行光の光軸と直交し且つ当該平行光若しくは略平行光を横断する位置である。これにより、分析装置10では、検体を精度よく検出することができる。これは、第2BPF46又第2NDF47がレンズ44,45間を進行する平行光等の光軸に対して傾斜していると、第2BPF46又は第2NDF47を通過した光の光軸がシフトするため、光測定部40における測定精度が低下する。一方、退避位置とは、測定光学系42における光路から外れた位置である。
位置切換部48は、第2BPF46がフィルタリング位置のときに第2NDF47が退避位置となり(図4参照)、第2BPF46が退避位置のときに第2NDF47がフィルタリング位置となるように、各フィルター46,47の位置をそれぞれ切り換える。本実施形態の位置切換部48は、第2BPF46と第2NDF47とが並んでいる平面に沿って保持フレーム49を往復移動させる(図4の矢印δ参照)ことにより、各フィルター46,47の位置の切り換えを行う。これにより、1つの駆動源によって、二つのフィルター46,47の位置の切り換えを同時に行うことができる。
この位置切換部48は、制御処理部14からの指示信号に従って各フィルター46,47の位置の切り換えを行う。
尚、本実施形態の第2整波部43には、第2BPF46と第2NDF47とが設けられているが、測定される光の強度が受光部41の許容量を超えなければ、第2NDF47がなくてもよい。また、測定する光によって受光部を切り換える、即ち、蛍光を受光するための受光部41と、蛍光よりも光量の大きな光を受光するための受光部とを切り換える場合にも、第2NDF47がなくてもよい。
また、本実施形態では、保持フレーム49を位置切換部48により往復移動させることによって、各フィルター46,47の位置の切り換えを行っているが、これに限定されない。例えば、第2BPF46と第2NDF47とが同一平面上に並ぶようにこれら各フィルター46,47を円板状の保持フレームが保持し、位置切換部がこの第2BPF46と第2NDF47との中間位置を回転中心にして円板状の保持フレームを回転させることにより、各フィルター46,47の位置の切り換えを行ってもよい。また、位置切換部が2つの駆動源を有し、第2BPF46の位置の切り換えと第2NDF47の位置の切り換えと別々の駆動源により行ってもよい。
制御処理部14は、当該分析装置10を構成する各構成要素の制御を行う。例えば、当該分析装置10が検体を分析するときに、制御処理部14が、光源部21、偏光方向調整部31、入射経路調整部35、及び光測定部40等を制御し、これにより、当該分析装置10では、共鳴角走査工程、最適位置走査工程、複屈折測定工程、励起蛍光測定工程等が行われる。
本実施形態の制御処理部14は、例えば、図5に示されるように、ズレ角導出部141、補正値導出部142、補正部143等を備える。
ズレ角導出部141は、金属膜55に対するP波方向と複屈折特性を有するプリズム51の光学主軸とのなす角であるズレ角(長軸回転角)θiを求める。具体的に、ズレ角導出部141は、光源部21が励起光αを射出した状態で回転駆動部34によって1/2波長板33を回転させつつ光測定部40によって金属膜55及びこれと隣接する領域で生じる光を測定することにより得られる最大光量と最小光量とからズレ角θiを求める。
補正値導出部142は、ズレ角導出部141で求められたズレ角θiから補正値(補正係数)Kを求める。この補正値Kは、光測定部40により測定した光の光量を補正するために用いられる。具体的に、この補正値Kは、光測定部40で測定された蛍光の光量を当該補正値Kによって補正することで、プリズム51内に入射した励起光αが複屈折しない状態(即ち、複屈折による位相回転が生じていない状態)で金属膜55に入射したときに光測定部40により測定される蛍光の光量(複屈折に基づく誤差が抑えられた蛍光の光量)が得られる。
補正部143は、補正値導出部142により求められた補正値Kによって光測定部40により測定された蛍光の光量を補正する。具体的に、補正部143は、当該分析装置10において検体を分析するときに、光測定部40(詳しくは、受光部41)から送られてきた出力信号に基づいて演算し、この光測定部40により測定された蛍光に関する分析を行う。例えば、補正部143は、光測定部40により検出した単位面積あたりの蛍光の数のカウントや時間の経過に伴う蛍光の増加量の算出等を行う。そして、補正部143は、蛍光の数のカウント結果や蛍光の増加量の算出結果を補正値Kによって補正する。
制御処理部14での演算結果は、この制御処理部14に接続される表示部16に出力される。尚、制御処理部14による具体的な制御や演算についての詳細は後述する。
表示部16は、制御処理部14からの出力信号に基づき、演算結果を表示する。表示部16は、液晶ディスプレイ等のように演算結果等を画面に表示するものでもよく、プリンター等のように演算結果等をプリントアウトするものであってもよい。また、これらを組み合わせたものでもよい。
このように構成される分析装置10における検体の分析について、図6乃至図10も参照しつつ以下に説明する。尚、制御処理部14による分析装置10の各構成要素の制御、及び制御処理部14で行われる演算等についての詳細も併せて説明する。
図6は、当該分析装置10において検体を分析するときの基本シーケンスを示すフローチャートであり、図7は、共鳴角走査シーケンスを示すフローチャートであり、図8は、最適位置走査シーケンスを示すフローチャートであり、図9は、複屈折測定シーケンスを示すフローチャートであり、図10は、励起蛍光測定シーケンスを示すフローチャートである。
<前処理工程>
患者から血液等が採取され、この採取された血液等が試薬チップに注入される。この血液等が注入された試薬チップが分析装置10の前処理部にセットされる。制御処理部14は、前処理部により、このセットされた試薬チップの血液等の前処理(血球分離や希釈、混合等)を行い試料液を生成する。この状態で、分析チップ50が前処理部に設置されると、制御処理部14は、前処理部により、前処理の終わった試料液を分析チップ50の流路58内に注入し、金属膜55の表面に固定された捕捉体56に検体(特定の抗原)を捕捉させる(即ち、捕捉体56と検体とを反応させる)。本実施形態では、蛍光物質(本実施形態では、蛍光色素)が標識された検体を捕捉体56に捕捉させているが、これに限定されず、捕捉体56に検体を捕捉させた後に分析チップ50に蛍光物質を注入し、捕捉体56に捕捉された状態の検体に対して蛍光物質を標識してもよい。
このように反応が行われた分析チップ50は、チップ保持部12まで搬送され、チップ保持部12に保持される(ステップS1)。
<励起光源22の温調>
一方、励起光源(本実施形態では、レーザーダイオード)22は、波長変動の少ない安定的な波長の出力光を出力させるために、温調回路25によって常に温調されて定温に維持される。これは、波長がずれると表面プラズモン共鳴条件やエバネッセント波(増強電場)のしみ出し量が変化するため、血液中のタンパク質等を定量する装置においては必須である。維持温度になるまでに時間がかかるため、通常、分析装置10の電源投入時から励起光源22は、温調回路25によって常に温度維持される。
<共鳴角走査工程>
分析チップ50がチップ保持部12に保持されると、制御処理部14は、当該分析チップ50における最適な表面プラズモン共鳴条件の走査(共鳴角走査)を行う。そして、この走査の結果に基づき、制御処理部14は、金属膜55で生じる増強電場の電場強度が最も大きくなる入射角である励起入射角θ1で励起光αが金属膜55に入射するように、反射部材36の位置決め(第1の位置決め)を行う(ステップS2)。
具体的には、制御処理部14が反射部材駆動部37によって反射部材36を駆動することにより、分析チップ50に含まれるプリズム51の金属膜55への励起光αの入射条件(励起入射角θ1)の走査を行う。詳しくは、分析チップ50に含まれるプリズム51の材質、形状、流路充填液(試料液)屈折率等により、当該プリズム51の金属膜55において表面プラズモン共鳴に基づく増強電場(エバネッセント波)の強度が最も大きくなる励起光の入射角θ1は決まっている。しかし、捕捉体56に捕捉された検体の分子量やこの分子を構成する物質、プリズム51側の製造誤差等により、励起光入射条件(励起入射角θ1)のゆらぎが発生する。このため、設計に基づく励起入射角θ1aを中心にして±10°未満の入射角度となるように励起光αが金属膜55に入射され、このときに金属膜55で生じる光の強度に基づいて当該分析チップ50における励起入射角θ1が求められる。
より詳しくは、先ず、制御処理部14が第2整波部43の位置切換部48により第2BPF46を退避位置に移動させると共に第2NDF47をフィルタリング位置に移動させる(ステップS21)。このとき、偏光方向調整部31の1/2波長板33は、励起光射出部20から励起光αが射出されたときに、金属膜55へ入射する励起光αにおいてP波成分が最も多くなるように設計的に求められた状態(初期状態)となっている。
制御処理部14は、反射部材駆動部37の回転駆動機構と往復駆動機構とにより、反射部材36を最大離反位置に移動させる(ステップS22)。この最大離反位置とは、励起光射出部20から励起光αが射出されたときに、励起光αが金属膜55の特定の位置(光測定部40の測定領域内)で反射された状態で、且つ、金属膜55の表面55a近傍領域にエバネッセント波がしみ出さない入射角θとなる反射部材36の位置及び反射面36aの向きである。
この状態で、制御処理部14は、光測定部40により金属膜55で生じた光の強度を測定し、その結果を、光測定部40(詳しくは受光部41)からの出力信号によって取得する。この反射部材36が最大離反位置のときに光測定部40が測定する光は、プリズム51における表面拡散光(又は表面散乱光)SKである。
制御処理部14は、励起光αの金属膜55に対する入射角θと光測定部40により測定した光の強度とを関連付けて記憶する(ステップS23)。このとき、第2BPF46が退避位置であるため、受光部41が受光する光には、励起光αの励起波長と同じ波長の光が含まれる。この励起波長と同じ波長の光は、具体的には、金属膜55で生じたプラズモン散乱光やラマン散乱光、拡散光等である。これら励起波長と同じ波長の光は、金属膜55で生じた表面プラズモン共鳴により増強されるため、検体に標識された蛍光物質が励起して発した励起蛍光に比べて光量が十分に大きい。そこで、制御処理部14が位置切換部48により第2BPF46を測定光学系42の光路上から退避させることで、受光部41が励起波長の光を受光することができ、これにより、金属膜55で生じる光の強度を精度よく測定することができる。
尚、本実施形態では、光量の小さな励起蛍光を測定する受光部41によって、励起蛍光よりも光量が非常に大きな表面プラズモン散乱光や拡散光等を測定するため、第2BPF46を退避位置に退避させると共に第2NDF47をフィルタリング位置に移動させることにより、同一の受光部(本実施形態ではPMT)41により、両光(散乱光等と励起蛍光)の強度を測定することができる。
制御処理部14は、光源部21から励起光αを射出させた状態で、入射経路調整部35により金属膜55上の照射位置をずらさないように回転駆動機構により反射面36aの向きを回転させる(ステップS24)と共に往復駆動機構により反射部材36の位置を移動させる(ステップS25)。具体的には、制御処理部14は、反射部材36の位置と、その位置において反射面36aで反射された励起光αがプリズム51内に入射して金属膜55の特定の位置に到達する反射面36aの向きと、を対応づけてテーブルとして予め記憶している。そして、制御処理部14は、このテーブルに基づいて回転駆動機構と往復移動機構とを制御して反射部材36を移動させる。これにより、反射部材36の位置の変更と反射面36aの向きの調整とを機構的に互いにリンクしていない往復駆動機構と回転駆動機構とによって行っても、金属膜55における励起光αの照射位置を変えることなく金属膜55に対する入射角θだけを変更することができる。
尚、このステップS24とステップS25とは、いずれか一方のステップを先に行った後に他方のステップを行ってもよく、また、両ステップを同時に行ってもよい。このとき、光測定部40が金属膜55で生じた光の強度を測定してその測定結果を制御処理部14に出力し、制御処理部14が入射角θと関連付けてこの測定結果を記憶する(ステップS26)。
これが繰り返され、制御処理部14は、金属膜55における照射位置がずれないようにして入射角θを変更しつつ光測定部40により光の強度を測定し、その測定結果を記憶する(ステップS27)。
制御処理部14は、所定の走査領域(例えば、設計に基づく励起入射角θ1aを中心にして±10°未満の入射角θ)での光測定部40による光の強度を測定すると、光源部21からの励起光αの射出を止める。そして、制御処理部14が、記憶した光量の最大値と最小値とを選出し、これらを記憶する(ステップS28)と共に、最大光量が得られたときの反射部材36の位置と反射面36aの向きとなるように反射部材駆動部37によって反射部材36を駆動する(ステップS29)。
<最適位置走査工程>
反射部材36の第1の位置決めが終わると、制御処理部14は、金属膜55への励起光αの照射位置(入射位置)が光測定部40の測定領域の中心部となるように、反射部材36の位置決め(第2の位置決め)を行う(ステップS3)。
詳しくは、先ず、制御処理部14は、反射部材駆動部37の往復駆動機構によって反射部材36を上端位置に移動させる(ステップS31)。この上端位置とは、励起光αが金属膜55に入射したときに、その入射位置が光測定部40の測定領域よりも外側となる位置である(図11(A)の位置A参照)。制御処理部14は、反射部材36がこの位置のときに光源部21により励起光αを射出させ、このときに金属膜55で生じる光の強度を光測定部40により測定し、その測定結果を記憶する(ステップS32)。制御処理部14は、反射部材36が下端位置か否かを判断する(ステップS33)。この下端位置についての詳細は後述する。制御処理部14は、反射部材36が下端位置でないと判断すると、往復駆動機構によって反射部材36を所定量下方に移動させる(ステップS34)。このとき、制御処理部14は、回転駆動機構により反射部材36を回転させることなく、往復駆動機構のみによって反射部材36を移動させる。即ち、制御処理部14は、光源部21からの励起光αに対する反射面36aの向きを変えることなく、反射部材36の位置のみを移動させる。反射部材36が移動後、制御処理部14は、光源部21から励起光を射出させ、このときに金属膜55で生じる光の強度を光測定部40により測定し、その測定結果を記憶する(ステップS32)。そして、制御処理部14は、反射部材36が下端位置か否かを判断する(ステップS33)。制御処理部14は、反射部材36が下端位置に移動するまで、このステップS32〜ステップS34を順に繰り返す。
制御処理部14は、光測定部40により測定した光の強度が記憶した各光量のうちの最大光量から光量が50%減少したか否かにより、反射部材が下端位置に到達したか否かを判断する。詳しくは、最初は、金属膜55において励起光αの照射領域が光測定部40の測定領域の外であるため、光測定部40により測定される光量が小さい。そして、反射部材36が次第に下方に移動して、励起光αの照射領域が光測定部40の測定領域内に入ってくると(図11(A)の位置B参照)、光測定部40により測定される光の光量が次第に大きくなり、更に反射部材36が下方に移動して励起光αの照射領域全体が光測定部40の測定領域内に完全に含まれた状態となったとき(図11(A)の位置C参照)に光測定部40により測定される金属膜55で生じる光の光量が最大となる。そして、更に反射部材36が下方に移動すると、励起光αの照射領域が光測定部40の測定領域における反対側の端部から外側に移動する(図11(A)の位置D参照)ため、光測定部40により測定される光の光量が減少する(即ち、ケラレ(光量落ち)が発生する)。制御処理部14は、これらの光の強度とその強度が測定されたときの反射部材36の上下方向の位置とを関連付けて記憶すると共に、測定される光の強度が最大光量の50%落ちとなったか否かを判断する。そして、制御処理部14は、光測定部40により測定される光の強度が最大強度の50%落ちとなったときに、反射部材36が下端位置に到達したと判断する。
制御処理部14は、反射部材36が下端位置に移動したと判断すると、記憶している光量の各値から最大光量の50%落ちとなっている値を選出する(ステップS35)。このとき、選出される値は、2つある(図11(A)の位置Bと位置D参照)。制御処理部14は、光測定部40により測定される光量が最大光量50%落ちとなったときの反射部材36の位置をそれぞれ選出し、その中心位置(図11(A)の位置Ce参照)を算出し、これを記憶する(ステップS36)。そして、制御処理部14は、往復動駆動機構により反射部材36を移動させて、求めた中心位置Ceに照射領域を移動させる(ステップS37、図11(B)参照)。
これにより、光測定部40により測定される分析チップ50毎の自家蛍光の光量を一定にすることができる。詳しくは、プリズム51内を進行する励起光αにより、プリズム51内部で蛍光が発生する(自家蛍光)。この蛍光は、金属膜55で生じる散乱光等(プラズモン散乱光や拡散光等)に比べて微弱であるが、試料液中の検体の濃度が低い場合にこの検体に標識された蛍光物質が発する励起蛍光と比べると同等レベルとなるため、励起蛍光の測定においてノイズとなる。この自家蛍光は微弱であるため、励起蛍光の測定においてノイズとなり得るのは、金属膜55における励起光αの照射領域近傍の光が殆どである。表面プラズモン共鳴が生じているときに金属膜55で反射される励起光αは殆んどなくなるため、光測定部40の測定領域の入射側(図11(A)における左側)からの自家蛍光が問題となる。この自家蛍光の光量は、光路長に比例するため、光測定部40の測定領域にある入射側の光路長が一定になるように励起光αの照射位置を調整することが必要となる。そこで、上記のようにして、光測定部40の測定領域において励起光αの照射位置が常に中心となるように調整することにより、光測定部40の測定領域における励起光αの入射側の光路長が一定となり、その結果、分析チップ50(プリズム51)毎の自家蛍光の差が抑えられ、検体の分析精度を向上させることができる。
<複屈折測定工程>
次に、励起光αがプリズム51中を進行する際に複屈折が生じるため、制御処理部14は、この複屈折を測定し(ステップS4)、検体に標識された蛍光物質からの励起蛍光の測定の際にこれを考慮することにより、検体の測定精度を向上させる。詳しくは、複屈折は、媒体中を光が透過する際に生じる。光が樹脂等の誘電体を透過する場合に複屈折は大きくなる。この複屈折は、媒体中の密度差等によって生じ、この密度差は媒体の成形時に生じる。そのため、個々のプリズム51によって複屈折の度合いが異なる。複屈折によりプリズム51中を進む励起光αに位相回転が生じ、金属膜55に対してP波だけ入射させたいにも関わらず、この複屈折による位相回転によって励起光αにS波成分が生じる。この複屈折によって生じたS波成分の量に応じて増強電場によって励起された励起蛍光の光量が減少する。そのため、制御処理部14(詳しくは、補正部143)がこの減少分を補正することにより、分析装置10における検体の検出精度及び感度が向上する。
具体的に、制御処理部14(詳しくは、ズレ角導出部141)は、光源部21から励起光αを射出させ、光測定部40により金属膜55で生じた光の強度を測定する。このとき、1/2波長板33は、初期状態である(ステップS41)。そして、制御処理部14(ズレ角導出部141)は、回転駆動部34によって1/2波長板33を回転させつつ、光測定部40により測定した光の強度を1/2波長板33の回転位置(初期状態からの回転角度)と関連付けて記憶する(ステップS42及びステップS43)。制御処理部14(ズレ角導出部141)が1/2波長板33を回転させることにより、金属膜55に入射する励起光αのP波成分とS波成分とが増減し、これに伴って、1/2波長板33を回転させた状態で光測定部40により測定される光の強度が増減する。このとき、励起光αにおいてP波成分が多くなるとこれに伴ってS波成分が少なくなり、P波成分が少なくなるとこれに伴ってS波成分が多くなる。そして、金属膜55に入射する励起光αにおいてP波成分が多くなるほど光測定部40により測定される光の強度が大きくなり、S波成分が多くなるほど光測定部40により測定される光の強度が小さくなる。これは、P波成分は表面プラズモン共鳴に寄与するが、S波成分は表面プラズモン共鳴に寄与しないためである。
制御処理部14(ズレ角導出部141)は、光測定部40により測定される光の光量の最大値DRmaxと最小値DRminが得られるまで、ステップS42及びステップS43を順に繰り返す(ステップS44)。制御処理部14(ズレ角導出部141)は、最大値DRmaxと最小値DRminとが得られると、記憶した光量からこれら最大値DRmaxと最小値DRminとを選出し(ステップS45)、これらの各値を記憶すると共に、これら各値が得られたときの1/2波長板33の回転位置(具体的には、最大値DRmaxが得られたときの第1回転位置と、最小値DRminが得られたときの第2回転位置と)を記憶する。
次に、制御処理部14(ズレ角導出部141)は、記憶した最大値DR
max及び最小値DR
minと、共鳴角走査工程において記憶していた表面拡散光(SK)の強度とから、以下の式(4)により、当該プリズム51での複屈折によるズレ角(長軸回転量)θ
iを求める。そして、制御処理部14(補正値導出部142)は、ズレ角θ
iから式(5)により補正値Kを導出する。制御処理部14は、このように求めたズレ角θ
iと補正値Kとを記憶する(ステップS46)。
そして、制御処理部14は、回転駆動部34により最大値(DRmax)が得られたときの回転位置まで1/2波長板33を回転させる。これにより、P波成分が最も多い状態で(即ち、S波成分が最も少ない状態で)励起光αが金属膜55に入射する。
ここで、上記のズレ角θiと補正値Kとについて説明する。
複屈折特性を有するプリズム51は、光学主軸(遅相軸と進相軸)を有し、この光学主軸と当該プリズム51への入射光(本実施形態における励起光α)の偏光方向との関係よって励起光αの偏光状態を変化させる。例えば、金属膜55に対するP波方向とプリズム51の光学主軸とのなす角(ズレ角)がθiのときに、光学主軸と励起光αの偏光方向とが一致しない場合は、当該プリズム51内を進行して金属膜55に入射する励起光αの偏光状態は、位相回転により楕円偏光となる(図12(A)参照)。そして、光学主軸と励起光αの偏光方向とが同じ場合は、当該プリズム51内を進行して金属膜55に入射する励起光αの偏光方向は光学主軸と同じであり、光測定部40により測定される光の光量が最大となる(図12(B)参照)。一方、光学主軸と励起光αの偏光方向とが90°ズレている場合は、当該プリズム51内を進行して金属膜55に入射する励起光αの偏光方向は光学主軸と直交する方向となり、光測定部40により測定される光の光量が最小となる(図12(C)参照)。
このようにP方向とのズレ角をθ
iとしたときに、最大値(最大光量の値)DR
maxは、元光量比(複屈折がない状態で測定される光量との比)でcos
2θ
i、最小値(最大光量の値)DR
minは、元光量比でsin
2θ
iとなる。この最大値DR
maxと最小値DR
minとが得られれば、θ
iを以下の式(6)により求めることができる。
このズレ角θ
iが求まれば、プリズムにおいて複屈折がない場合に光測定部40により測定される光の光量が以下の式(7)及び式(8)から得られる。
これより、
が得られる。
<励起蛍光測定工程>
次に、制御処理部14は、第1及び第2の位置決めが行われた状態の反射部材36に対して光源部21により励起光αを照射する。これにより、励起光αが金属膜55に表面プラズモン共鳴を生じさせ、これに基づく増強電場によって金属膜55の捕捉体56に捕捉された検体に標識された蛍光物質が励起して蛍光(励起蛍光)を発する。そして、制御処理部14は、光測定部40により励起蛍光の測定を行う(ステップS5)。
具体的に、制御処理部14は、位置切換部48により第2BPF46をフィルタリング位置に移動させると共に、第2NDF47を退避位置に退避させる(ステップS51:図1及び図4参照)。そして、制御処理部14は、光源部21から射出される励起光αが反射部材36の裏面36bに設けられた無反射光吸収物質に入射するように、反射部材駆動部37の回転駆動機構により反射部材36を回転させる(ステップS52)。これにより、プリズム51に励起光αが入射していない状態となり、制御処理部14は、この状態で光測定部40により測定を行い、このときの光測定部40からの出力(暗ノイズDN)を記憶する(ステップS53)。制御処理部14は、再び、反射部材36の反射面36aに光源部21からの励起光αが入射するように、反射部材駆動部37の回転駆動機構により反射部材36を回転させる(ステップS54)。このときの反射面36aの向きは、共鳴角走査工程のステップS29において設定された向きである。
制御処理部14は、光源部21から励起光αを射出させ、金属膜55近傍に生じた増強電場に起因する励起蛍光の光量を光測定部40により測定し、これを記憶する(ステップS55)。これにより、制御処理部14は、測定最大光量(第1光量値)Smaxを得る。これは、複屈折測定工程において、励起光αを金属膜55に入射させたときに金属膜55で生じる光の強度が最大値DRmaxとなる第1回転位置に1/2波長板33を回転させているため、金属膜55近傍の増強電場の強度が最も大きくなっているからである。
次に、制御処理部14は、回転駆動部34により、複屈折工程において励起光αを金属膜55に入射させたときに金属膜55で生じる光の強度が最小値DRminとなる第2回転位置に1/2波長板33を回転させる(ステップS56)。そして、制御処理部14は、光測定部40により励起蛍光の光量を測定し、これを記憶する(ステップS57)。これにより、制御処理部14は、測定最小光量(第2光量値)Sminを得る。
制御処理部14(詳しくは、補正部143)は、記憶している測定最大光量Smaxと、測定最小光量Sminと、暗ノイズDNとから、以下の式(9−1)〜式(13−2)に示すようにして、プリズムにおける自家蛍光の光量hを導出する。ここで、Smaxが得られたときの励起蛍光の光量をH1、自家蛍光の光量をh1とし、Sminが得られたときの励起蛍光の光量をH2、自家蛍光の光量をh2とする。
そして、式(10)と式(12)とにより、
が得られる。
そして、制御処理部14(補正部143)は、複屈折測定工程で求めた補正値Kを用いて、
から、励起蛍光の光量Hを導出し、これを記憶する(ステップS58)。
尚、プリズム51が複屈折のない、若しくは微小な材料(樹脂も含む)で形成されている場合であれば、制御処理部14は、以下の近似式(15)により、励起蛍光の光量Hを求める。
さらに、暗ノイズ(DN)が非常に少ない測定系の場合には、制御処理部14は、以下の近似式(16)により、励起蛍光の光量Hを求める。
<記憶・表示工程>
以上のようにして制御処理部14は、複屈折の影響等を取り除いた励起蛍光の光量Hを求めた後、これを検体番号と関連付けて記憶し、その他の記憶を消去する(ステップS6)。また、制御処理部14は、この検体番号と関連付けて記憶した励起蛍光の光量Hに基づく情報を表示部16に出力し、表示部16がこれを表示する。
最後に、制御処理部14は、反射部材36を初期位置に復帰させて(ステップS7)一連の測定を終了する。
本実施形態によれば、光測定部40によって測定された励起蛍光の光量を補正値Kによって補正することにより、プリズム51内で励起光αが複屈折せずに金属膜55に入射(金属膜55で反射)したときに測定される蛍光の光量(複屈折に基づく誤差を抑えた蛍光の光量)が得られる。これにより、検査毎にプリズム51を交換しても、各プリズム51において複屈折による位相回転が生じることなく励起光αが金属膜55に入射した場合に測定される蛍光の光量をそれぞれ得ることができるため、プリズム51毎の複屈折の度合いのばらつきに起因する測定誤差を効果的に抑制することができる。
しかも、1/2波長板33を回転させつつ金属膜55及びその隣接する領域で生じる光の光量を測定するだけで測定値に含まれる誤差を低減させることができるため、従来の分析装置のように反射励起光の光量を測定してその測定結果をフィードバックしながら複数の偏光素子の位置や姿勢をそれぞれ調整する必要がなく、検体の分析時間を短縮することが可能となる。
さらに、本実施形態の分析装置10によれば、励起光αの偏光方向の調整のために1/2波長板33が1つあればよく、複数の偏光素子とこれらの位置と姿勢とをそれぞれ制御する駆動装置を備えた従来の分析装置に比べ、分析装置の構成の簡素化及び小型化を図ることが可能となる。
また、本実施形態によれば、制御処理部14によって自動的に補正値Kの導出と、複屈折に基づく誤差を抑えた蛍光の光量の検出と、検体の分析とが行われる。
尚、分析装置10において、制御処理部14が、表面拡散光量SKを格納可能な記憶部を有し、ズレ角導出部141が、この記憶部に格納された表面拡散光量SKを用いてズレ角θiを求めるように構成すれば、検査毎に表面拡散光量SKの測定を行わなくてもズレ角θiを求めることができ、検体の分析時間を短縮することができる。
また、本実施形態によれば、高感度且つ高精度の検体の検出が可能となる。具体的には、表面プラズモン共鳴によって金属膜55で生じる光の強度を測定することにより、金属膜55の表面55a近傍に形成される増強電場の強度が最大となる金属膜55への励起入射角θ1が精度よく得られる。このとき、金属膜55で生じる光は、プラズモン散乱光や表面拡散光等の励起波長の光であるため、この波長成分を遮る第2BPF46を退避位置にすることで、表面プラズモン共鳴に基づいて金属膜55で生じる光の強度の増減を精度よく測定することができる。しかも、検体の検出時においては、測定光学系42の光路上に第2BPF46を入れることで、光測定部40において測定される光からプラズモン散乱光や表面拡散光等の励起波長の光の成分が除かれ、これにより、検体に標識された蛍起物質が発した励起蛍光を精度よく測定することができる。従って、測定により得られる信号のSN比が高く、高精度且つ高感度な検体の検出が可能となる。
また、本実施形態によれば、測定結果からプリズム51における自家蛍光の影響を取り除くことができ、これにより、広範なダイナミックレンジを確保することができる。
詳しくは、金属膜55に対する励起光αの偏光方向を変えつつ金属膜55生じる光を測定することにより検出された光の強度の増減から、金属膜55で反射されるときの励起光においてS波成分(表面プラズモン共鳴に寄与する成分)が最も多くなるときの1/2波長板33の回転位置と、P波成分(表面プラズモン共鳴に寄与する成分)が最も多くなるときの1/2波長板33の回転位置とをそれぞれ求めることができる。そして、1/2波長板33を調整して励起光αの偏光方向を金属膜55での反射時においてS波成分が最も多くなる状態にして光測定部40で励起蛍光を測定することにより、プリズム51における自家蛍光の光量を求めることができる。これにより、1/2波長板33を調整して励起光αの偏光方向を金属膜55へ入射した時にP波成分が最も多くなる状態にして光測定部40で励起蛍光を測定した結果から自家蛍光の影響を取り除き励起蛍光を抽出することが可能となる。その結果、当該分析装置10によれば、自家蛍光の影響を抑えて励起蛍光を精度よく検出することが可能となり、広範なダイナミックレンジが確保される。
また、本実施形態によれば、反射部材36を駆動することによって金属膜55に対する励起光αの入射角θを変えることができるため、入射角θの変更による金属膜55における励起光αの反射位置のずれを抑えることができる。即ち、上記に構成によれば、反射部材36の位置と反射面36aの向きとを変更・調整するだけで金属膜55に対する励起光αの入射角θを変えることができるため、従来のように光源や複数のレンズ等からなる励起光学系全体を動かして入射角θを調整する場合に比べて可動部品の数及び可動部分の重量等が抑えられ、これにより、可動部分における駆動誤差やガタつきを抑制することができる。その結果、励起光αの入射角θを変更することによる金属膜55での励起光αの反射位置のずれを好適に抑制することができる。
しかも、プリズム51内に1つの励起光αを入射させて金属膜55近傍に表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を生じさせるため、従来のように入射角θの異なる複数の励起光α、α、…をプリズム51内に同時に入射させる場合のように自家蛍光の光量が増加することを防ぐことができる。これにより、表面プラズモン共鳴によって金属膜55近傍に生じた光を測定して得られる信号において自家蛍光に起因するSN比の低下を抑えることができる。
また、本実施形態によれば、表面プラズモン共鳴によって増強電場の電場強度が最も大きくなるように、金属膜55に対する励起光αの入射角θが精度よく設定される。具体的には、金属膜55における反射光の角度スペクトルにおける吸収ピークと、増強電場の電場強度のピークとにはズレが生じるが、表面プラズモン共鳴に起因して生じる光(金属膜55で生じる光)の強度ピークは、増強電場の電場強度のピークと一致する。そのため、この金属膜55で生じる光の強度が最大となったときの反射部材36の位置と反射面36aの向きとになるように反射部材36を調整することで、金属膜55に入射する励起光αが増強電場の電場強度が最も大きくなる励起入射角θ1となる。
次に、本発明の第2実施形態について図13及び図5を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
本実施形態の分析装置10Aでは、光測定部40Aの構成及び制御処理部14Aの構成が第1実施形態の分析装置10の光測定部40の構成及び制御処理部14の構成と異なる(図1及び図5参照)。
具体的には、光測定部40Aの第2整波部43Aは、第2BPF46を有する。この第2BRF46は、第1実施形態と異なり、測定光学系42の光路上に固定されている。即ち、本実施形態の第2整波部43Aには、第1実施形態の第2整波部43における第2NDF47と位置切換部48とがない。
また、制御処理部14Aのズレ角導出部141Aは、光測定部40Aによって測定された励起蛍光の光量に基づいてズレ角θiを求める。具体的に、ズレ角導出部141Aは、光源部21が励起光αを射出した状態で回転駆動部34によって1/2波長板33を回転させつつ光測定部40Aによって測定する励起蛍光の光量の最大値(最大蛍光量の値)Smaxと最小値(最小蛍光量の値)Sminとからズレ角θiを求める。
具体的に、ズレ角導出部141Aは、最大値S
maxと最小値S
minとが得られれば、以下の式(17)により、プリズム51での複屈折によるズレ角(長軸回転量)θ
iを求める。
このように構成される分析装置10Aにおける検体の分析について、図6,図8,図9,図14及び図15も参照しつつ以下に説明する。尚、図14は、本実施形態の分析装置10Aにおける共鳴角走査シーケンスを示すフローチャートであり、図15は、本実施形態の分析装置10Aにおける励起蛍光測定シーケンスを示すフローチャートである。
<前処理工程>
第1実施形態と同様に、前処理工程において生成された試料液が分析チップ50に注入され、捕捉程56と検体とが反応する。反応が行われた分析チップ50は、チップ保持部12に搬送され、保持される(ステップS1)。
<励起光源22の温調>
第1実施形態と同様に、波長変動の少ない安定的な波長の出力光を励起光源22に出力させるために励起光源22が温調回路25によって温調され、定温に維持される。
<共鳴角走査工程>
分析チップ50がチップ保持部12に保持されると、制御処理部14Aは、共鳴角走査を行う。そして、制御処理部14Aは、反射部材36の第1の位置決めを行う(ステップS2)。
具体的には、制御処理部14Aが反射部材駆動部37によって反射部材36を駆動することにより、金属膜55への励起光αの入射条件(励起入射角θ1)の走査を行う。
詳しくは、偏光方向調整部31の1/2波長板33は、初期状態となっている。そして、制御処理部14Aは、光源部21から励起光αを射出させた状態で、入射経路調整部35により金属膜55上の照射位置をずらさないように回転駆動機構により反射面36aの向きを回転させる(ステップS24)と共に往復駆動機構により反射部材36の位置を移動させる(ステップS25)。このとき、第1実施形態の分析装置10と異なり測定光学系42の光路上に第2BPF46が固定されているため、この第2BPF46により励起波長の光が遮られて受光部41には励起蛍光のみが到達する。これにより、光測定部40Aが励起蛍光の強度を測定してその測定結果を制御処理部14Aに出力し、制御処理部14Aが入射角θと関連付けてこの測定結果を記憶する(ステップS26A)。
これが繰り返され、制御処理部14Aは、金属膜55における照射位置がずれないようにして入射角θを変更しつつ光測定部40Aにより蛍光の強度を測定し、その測定結果を記憶する(ステップS27)。
制御処理部14Aは、所定の走査領域での光測定部40Aによる蛍光の強度を測定すると、光源部21からの励起光αの射出を止める。そして、制御処理部14Aが、記憶した蛍光量の最大値Smaxと最小値Sminとを選出し、これらを記憶する(ステップS28A)と共に、最大値Smaxが得られたときの反射部材36の位置と反射面36aの向きとなるように反射部材駆動部37によって反射部材36を駆動する(ステップS29)。
<最適位置走査工程>
反射部材36の位置決めが終わると、制御処理部14Aは、第1実施形態と同様にして、金属膜55への励起光αの照射位置(入射位置)が光測定部40Aの測定領域の中心部となるように、反射部材36の第2の位置決めを行う(ステップS3、及びステップS31〜ステップS37)。
<複屈折測定工程>
次に、制御処理部14Aは、第1実施形態同様に、プリズム51における複屈折を測定し(ステップS4)、励起蛍光の測定の際にこれを考慮することにより、検体の測定精度を向上させる。
具体的に、制御処理部14A(詳しくは、ズレ角導出部141A)は、光源部21から励起光αを射出させ、光測定部40Aにより励起蛍光の強度を測定する。このとき、1/2波長板33は、初期状態である(ステップS41)。そして、制御処理部14A(ズレ角導出部141A)は、回転駆動部34によって1/2波長板33を回転させつつ、光測定部40Aにより測定した励起蛍光の強度を1/2波長板33の回転位置と関連付けて記憶する(ステップS42及びステップS43)。
制御処理部14A(ズレ角導出部141A)は、光測定部40Aにより測定される励起蛍光の光量の最大値Smaxと最小値Sminが得られるまで、ステップS42及びステップS43を順に繰り返す(ステップS44)。制御処理部14A(ズレ角導出部141A)は、最大値Smaxと最小値Sminとが得られると、記憶した光量からこれら最大値Smaxと最小値Sminとを選出し(ステップS45)、これらの各値を記憶する。
次に、制御処理部14A(ズレ角導出部141A)は、記憶した最大値Smax及び最小値Sminとから、上記の式(17)により、当該プリズム51での複屈折によるズレ角(長軸回転量)θiを求める。そして、制御処理部14A(補正値導出部142)は、ズレ角θiから第1実施形態と同様の式(5)により補正値Kを導出する。制御処理部14Aは、このように求めたズレ角θiと補正値Kとを記憶する(ステップS46)。
<励起蛍光導出工程>
次に、制御処理部14Aは、検体の分析に必要な励起蛍光の光量を導出する(ステップS5A)。
具体的に、制御処理部14Aは、光源部21から射出される励起光αが反射部材36の裏面36bに設けられた無反射光吸収物質に入射するように、反射部材駆動部37の回転駆動機構により反射部材36を回転させる(ステップS52)。これにより、制御処理部14Aは、光測定部40の出力により暗ノイズDNを検出し、これを記憶する(ステップS53)。
制御処理部14(詳しくは、補正部143)は、記憶している最大値Smaxと、予め記憶している所定の基準光量とを比較し(ステップS155)、最大値Smaxが小さければ、表示部16に出力信号を出力して「測定不能」や「十分健康」といった文言等を表示させる(ステップS156)。この基準光量は、試料液中の検体の量に基づいて検体を採取された人が健康か否かを判断するために設定された閾値である。具体的に、最大値Smaxが基準光量より小さければ検体の量が少ないため、検体を採取された人は十分健康であると判断され、大きければ検体の量が多いため、検体を採取された人は病気であると判断され、検体の詳しい分析が行われる。
最大値Smaxが基準光量以上であれば、制御処理部14Aは、記憶している最大値Smaxと、最小値Sminと、上記で求めた暗ノイズDNとから、第1実施形態と同様の上記の式(9−1)〜式(13−2)により、プリズム51における自家蛍光の光量hを導出する。
そして、制御処理部14A(補正部143)は、複屈折測定工程で求めた補正値Kを用いて、上記の式(14)から励起蛍光の光量Hを導出し、これを記憶する(ステップS157)。
<記憶・表示工程>
以上のようにして制御処理部14Aは、複屈折の影響等を取り除いた励起蛍光の光量Hを求めた後、これを検体番号と関連付けて記憶し、その他の記憶を消去する(ステップS6)。また、制御処理部14Aは、この検体番号と関連付けて記憶した励起蛍光の光量Hに基づく情報を表示部16に出力し、表示部16がこれを表示する。
最後に、制御処理部14Aは、反射部材36を初期位置に復帰させて(ステップS7)一連の測定を終了する。
本実施形態の分析装置10Aによれば、光測定部40によって測定された励起蛍光の光量を補正値Kによって補正することにより、複屈折に基づく誤差を抑えた蛍光の光量が得られる。これにより、検査毎にプリズム51を交換しても、各プリズム51において複屈折による位相回転が生じることなく励起光αが金属膜55に入射した場合に測定される蛍光の光量をそれぞれ得ることができるため、プリズム51毎の複屈折の度合いのばらつきに起因する測定誤差を効果的に抑制することができる。尚、当該分析装置10Aでは、光測定部40によって測定される励起蛍光がプリズム内で生じる自家蛍光よりも十分に大きく且つズレ角が十分に大きい場合に上記の効果が好適に得られる。
しかも、本実施形態の光測定部40は、金属膜55及びこれに隣接する領域で生じる光に含まれる蛍光だけを測定できればよく、構成を簡素化できる。詳しくは、金属膜55で生じた表面プラズモン共鳴に起因し、この金属膜55及びこれに隣接する領域で生じる光としては、例えば、プラズモン散乱光やラマン散乱光といった散乱光や、蛍光物質等がエバネッセント波(増強電場)に励起されて発する蛍光等がある。これら散乱光と蛍光とは光量が大きく異なるため、各光を測定するには、各光量に応じた複数の光量測定装置を切り換え可能に配置したり、一つの光量測定装置で測定する場合には第1実施形態のように第2NDF47等を受光部41の前に出し入れ可能にして受光部41に入射する光量を調整できるようにしなければならず、光測定部の構成が非常に複雑になると共に装置の小型化が図れない。しかし、光測定部40が励起蛍光の光量のみを測定する場合には、散乱光と蛍光との両方を測定可能な第1実施形態の光測定部40に比べて、光測定部の構成を簡素化することができる。
尚、本発明の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法は、上記第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
上記第1実施形態及び第2実施形態の分析装置10,10Aでは、検体の検出毎に分析チップ50が交換されるが、これに限定されない。即ち、分析装置10,10Aの一部に分析チップが組み込まれ、一つの分析チップを繰り返し利用して検体の検出を行う分析装置10であってもよい。
上記第1実施形態及び第2実施形態では、共鳴角走査工程において、制御処理部14は、励起入射角θ1を求める際に、金属膜55への励起光αの入射角θを連続的に変えながら金属膜55で生じる光の強度を測定しているが、これに限定されない。
例えば、制御処理部14は、第1の範囲内で入射角θを断続的に(例えば、入射角を1°刻みで)変えながら各入射角θにおける金属膜55で生じる光の強度を測定する第1の走査と、この第1の走査の結果に基づく第2の範囲内で入射角θを第1の走査より小さい間隔で(例えば、入射角を0.1°刻みで)断続的に若しくは連続的に変えつつ金属膜55で生じる光の強度を測定する第2走査とを行うようにしてもよい。即ち、離散ステップによる第1の走査によって第2の走査の範囲を絞り込み、この絞り込んだ範囲内を細かく走査することにより、金属膜55で生じる光が最大光量となる励起入射角θ1を求めてもよい。尚、第2の範囲は第1の範囲に含まれる。
詳しくは、制御処理部14は、例えば、設計に基づく励起入射角θ1aを中心にして±10°未満の入射角θの範囲(第1の範囲)内で1°刻みで入射角θを変更しつつ、各入射角θにおける金属膜55で生じる光の強度を測定し(第1の走査)、その結果を対応する入射角θと関連付けて記憶する。そして、第1の走査において最大強度が得られた入射角θを中心にして±1°以内の入射角θの範囲(第2の範囲)内で0.1°刻み又は連続的に入射角θを変更しつつ金属膜55で生じる光の強度を測定し(第2の走査)、その結果を対応する入射角θと関連付けて記憶する。そして、制御処理部14は、この第2の走査において、最大強度が得られたときの入射角θを励起入射角θ1とする。このようにすれば、第1の範囲全体を細かく走査する場合に比べて、増強電場が最も大きくなる励起入射角θ1を効率よく求めることが可能となる。
尚、共鳴角走査工程において第1の走査と第2の走査とを行う場合であって、チップ保持部12に複数の分析チップ50を順に保持させ、次々に検体の分析を行う分析装置10においては、最初の分析チップ50に対してのみ第1の走査を行い、2つ目以降の分析チップ50に対しては、第2の走査のみを行うようにしてもよい。
詳しくは、制御処理部14は、最初の分析チップ50に対し、上記と同様にして、例えば、設計に基づく励起入射角θ1aを中心にして±10°未満の入射角θの範囲(第1の範囲)内で1°刻みで入射角θを変更しつつ、各入射角θにおける金属膜55で生じる光の強度を測定し(第1の走査)、その結果を対応する入射角θと関連付けて記憶する。そして、第1の走査において最大強度が得られた入射角θを中心にして±3°以内の入射角θの範囲(第2の範囲)内で0.1°刻み又は連続的に入射角θを変更しつつ金属膜55で生じる光の強度を測定し(第2の走査)、その結果を対応する入射角θと関連付けて記憶する。そして、制御処理部14は、この第2の走査において、最大強度が得られたときの入射角θを最初の分析チップ50における励起入射角θ1とする。
次に、2つ目の分析チップ50に対し、制御処理部14は、第1の走査を行うことなく、最初の分析チップ50への第1の走査で得られた第2の走査範囲内で0.1°刻み又は連続的に入射角θを変更しつつ金属膜55で生じる光の強度を測定し(第2の走査)、その結果を対応する入射角θと関連付けて記憶する。そして、制御処理部14は、この第2の走査において、最大強度が得られたときの入射角θを2つ目の分析チップ50における励起入射角θ1とする。このように、2つ目以降の分析チップ50に対しては、最初の分析チップ50によって得られた第2の範囲内での走査(第2の走査)のみを行うことにより、分析時間の短縮を図ることができる。