しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示される技術では、多板クラッチの断続や、ロータ及びアーマチュアの吸着のために、大きなサイズの電磁石や電磁コイルが必要となるので、動力伝達装置のサイズや重量が大きくなるという問題点があった。
また、電動機の動力を伝達するときは電磁石の励磁や電磁コイルの通電が必要なため、消費電力や発熱が大きくなるという問題点があった。
また、電動機の動力を伝達するときに電磁石の励磁や電磁コイルの通電が遅れると、内輪および外輪へのスプラグの係合が遅れ、動力が伝達されるまでの応答遅れが生じるという問題点があった。さらに応答遅れが生じると、動力の伝達が遮断された状態から動力が伝達されるまでの間に内輪または外輪が空転するので、内輪および外輪へスプラグが係合する動力伝達時に衝撃が生じるという問題点があった。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、消費電力や発熱を抑えると共に動力伝達時の応答遅れや衝撃を防止できる小型軽量の動力伝達装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段および発明の効果
この目的を達成するために、請求項1記載の動力伝達装置によれば、電動機の駆動力により回転される内輪または外輪の外周面または内周面に係合面が接して配設される第1スプラグにより、車両の前進方向に内輪または外輪が回転されると、外周面または内周面と係合面との接点に発生する摩擦力により第1スプラグが傾動され、第1スプラグの係合面が内輪の外周面および外輪の内周面に係合される。これにより内輪と外輪との一定回転方向への相対回転が規制され、電動機の駆動力が伝達される。
このように、電動機の駆動力により車両の前進方向に内輪または外輪が回転されると、電磁石の励磁や電磁コイルに通電をしなくても、第1スプラグが内輪および外輪に係合し電動機の動力が伝達される。その結果、電磁石や電磁コイルが不要となるので、動力伝達装置を小型軽量化できる効果がある。
また、電動機の動力を伝達するときに電磁石の励磁や電磁コイルの通電が不要なため、消費電力や発熱を抑制できる効果がある。
また、電動機の駆動力により車両の前進方向に内輪または外輪が回転されると、第1スプラグが内輪および外輪に係合し動力が伝達されるので、動力が伝達されるまでに応答遅れが生じることを防止できる効果がある。さらに応答遅れを防止できるので、動力の伝達が遮断された状態から動力が伝達されるまでの間に内輪または外輪が空転することもなく、動力伝達時の衝撃を防止できる効果がある。
請求項2記載の動力伝達装置によれば、電動機の駆動力により回転される内輪または外輪の外周面または内周面に係合面が接して配設される第2スプラグにより、車両の後進方向に内輪または外輪が回転されると、外周面または内周面と係合面との接点に発生する摩擦力により第2スプラグが傾動され、第2スプラグの係合面が内輪の外周面および外輪の内周面に係合される。これにより内輪と外輪との一定回転方向への相対回転が規制され、電動機の駆動力が伝達される。その結果、請求項1の効果に加え、車両の後進方向に内輪または外輪を回転できる効果がある。
また、電動機の駆動力により車両の後進方向に内輪または外輪が回転されると、電磁石の励磁や電磁コイルに通電をしなくても、第2スプラグが内輪および外輪に係合し電動機の動力が伝達される。電磁石や電磁コイルが不要なため、動力伝達装置を小型軽量化できる効果がある。
また、電動機の動力を伝達するときに電磁石の励磁や電磁コイルの通電が不要なため、消費電力や発熱を抑制できる効果がある。
また、電動機の駆動力により車両の後進方向に内輪または外輪が回転されると、第2スプラグが内輪および外輪に係合し動力が伝達されるので、動力が伝達されるまでに応答遅れが生じることを防止できる効果がある。さらに応答遅れを防止できるので、動力の伝達が遮断された状態から動力が伝達されるまでの間に内輪または外輪が空転することもなく、動力伝達時の衝撃を防止できる効果がある。
請求項3記載の動力伝達装置によれば、第2スプラグは、第1スプラグに並設されると共に外周面および内周面の円周方向へ傾動可能に保持器に第1スプラグと共に保持されているので、保持器により第1スプラグ及び第2スプラグが一括して保持される。これにより請求項2の効果に加え、第2スプラグを保持する部品(保持器)を別途設ける必要がないため、部品点数を増加させることなく装置構成を簡素化できる効果がある。
請求項4記載の動力伝達装置によれば、第1スプラグ又は第2スプラグの少なくとも一方は、内輪の外周面および外輪の内周面と係合面との係合が解除されると、内輪の外周面または外輪の内周面と係合面とが非接触に保持される。その結果、内輪の外周面または外輪の内周面を第1スプラグ又は第2スプラグの係合面が摺動することが防止される。これにより請求項2又は3の効果に加え、第1スプラグ又は第2スプラグの係合面に生ずる引き摺りトルクを抑制できる効果がある。また、外周面や内周面を第1スプラグ又は第2スプラグの係合面が摺動することが防止されるので、磨耗や発熱等が生じることを抑制できる効果がある。
請求項5記載の動力伝達装置によれば、第1スプラグ及び第2スプラグは、第1スプラグ又は第2スプラグの一方の係合面と内輪の外周面および外輪の内周面とが係合されると、第1スプラグ又は第2スプラグの他方の係合面と内輪の外周面または外輪の内周面の少なくとも一方とが非接触に保持される。そのため第1スプラグ又は第2スプラグの一方が内輪および外輪に係合されているときに、第1スプラグ又は第2スプラグの他方が意図せずに内輪および外輪に係合することを防止できる。これにより請求項2から4のいずれかの効果に加え、第1スプラグ及び第2スプラグの両方が内輪および外輪に係合する二重ロック(二重噛み合い)を確実に防止できる効果がある。
請求項6記載の動力伝達装置によれば、第1スプラグの係合面と内輪の外周面または外輪の内周面との接点に摩擦力が生じることにより、第1スプラグは内輪または外輪と共に回転する。そうすると第1スプラグを保持する保持器も内輪または外輪と共に回転し、それに伴い、保持器から延設される延設部に回転抵抗を与える回転抵抗付与手段により、保持器に回転抵抗が生じる。その回転抵抗により保持器は第1スプラグを傾動させ、内輪の外周面および外輪の内周面と第1スプラグとを係合し易くする。
以上のように回転抵抗付与手段により保持器に回転抵抗を生じさせることができるので、請求項1から5のいずれかの効果に加え、煩雑な制御をすることなく、内輪および外輪に第1スプラグを係合し易くし、応答遅れが生じることを抑制できる効果がある。
請求項7記載の動力伝達装置によれば、電動機により駆動される内輪の外周面または外輪の内周面に係合面が接するように第1スプラグに付勢力を付与する付勢部材を備えているので、付勢部材の付勢力により外周面または内周面と係合面との接点に発生する摩擦力を大きくすることができる。その結果、電動機の駆動力による内輪または外輪の回転に伴い第1スプラグを確実に傾動させることができ、請求項1から6のいずれかの効果に加え、内輪および外輪に第1スプラグを確実に係合させ動力を伝達できる効果がある。
請求項8記載の動力伝達装置によれば、内輪または外輪の一方は、左右に分離されると共に補助駆動輪を軸支する左右の車軸の各々と一体に形成され、内輪または外輪の他方は、電動機の駆動力により回転されると共に左右に分離された内輪または外輪に跨設されつつ一体に形成されている。これにより電動機の駆動力により内輪または外輪の他方が回転されると、左右に分離された内輪または外輪にそれぞれ配設される第1スプラグが内輪および外輪に係合する。その結果、電動機の駆動力が内輪または外輪の一方に伝達され、左右の補助駆動輪が駆動される。このように内輪または外輪の他方は左右に分離された内輪または外輪に跨設されつつ一体に形成されているので、左右の補助駆動輪をリジッドにできる。その結果、請求項1から7のいずれかの効果に加え、悪路や雪道、凍結路などにおいて補助駆動輪の片方が空転した場合でも、補助駆動輪の他方に駆動力を伝達でき、車両のスムーズな発進や走行を可能にできる効果がある。
また、電動機の非駆動時には、電動機の駆動力が伝達される内輪または外輪の他方の回転数が、車軸の回転数より小さくなる。そのため、左右に分離された内輪または外輪にそれぞれ配設される第1スプラグと内輪および外輪との係合が解除される。その結果、左右の補助駆動輪をそれぞれ独立して回転可能にできる。駆動力を左右の補助駆動輪に配分するデファレンシャル装置を動力伝達経路に配設しなくて良いので、フリクションを小さくすることができ、エネルギー損失を抑制できる効果がある。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1から図4を参照して、本発明の第1実施の形態における動力伝達装置1の構成について説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における動力伝達装置1が搭載される車両100の模式図である。なお、図1の矢印L−R,F−Bは、車両1の左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
車両100は、図1に示すように、車両100の前方側(矢印F方向側)に位置する前輪101(左右の前輪101L,101R)と、車両100の後方側(矢印B方向側)に位置する後輪102(左右の後輪102L,102R)とを備えている。本実施の形態では、車両100は、主駆動輪としての前輪101側に内燃機関からなる主駆動装置103と、主駆動装置103の駆動力を所定の変速比で出力する変速機104とを備えている。主駆動装置103の駆動力は左右の車軸105L,105Rを介して前輪101(主駆動輪)に伝達され前輪101が駆動される。
また車両100は、補助駆動輪としての後輪102側に電動機106と、電動機106の駆動力を減速して出力する減速機107と、減速機107により減速された電動機106の駆動力を左右の車軸108L,108Rを介して後輪102(補助駆動輪)に伝達する動力伝達装置1とが搭載されている。
以上のように構成される車両100は、通常は主駆動装置103により主駆動輪(前輪101)を駆動して走行する(2輪駆動)。発進時などの必要なときに主駆動装置103に加え電動機106を駆動させることで、主駆動輪(前輪101)及び補助駆動輪(後輪102)を駆動して走行できる(4輪駆動)。これにより車両100は、悪路、積雪路、凍結路などにおいてもスムーズな発進や走行が可能となる。
次いで、図2から図4を参照して、動力伝達装置1の詳細構成について説明する。図2は動力伝達装置1の模式図である。また、図3は第1スプラグ5の近傍で軸心Oと垂直方向に切断した動力伝達装置1の断面図であり、図4は第2スプラグ6の近傍で軸心Oと垂直方向に切断した動力伝達装置1の断面図である。なお、図2は動力伝達装置1を中心とする電動機106側の動力伝達経路を図示し、理解を容易にするために、サスペンション等として機能する構成については図示を省略している。
図2に示すように、動力伝達装置1は、内輪2と、その内輪2の外周を囲む外輪3と、その外輪3及び内輪2の動力の伝達を切換える第1スプラグ5及び第2スプラグ6とを主に備えて構成されている。
内輪2は、電動機106からの駆動力を左右の後輪102L,102Rに伝達するための機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、断面円形状の外周面2aを備え、軸心O回りに回転可能に構成されている。なお本実施の形態では、図2に示すように、内輪2は左右に分離されると共に、左右の車軸108L,108Rの各々と一体に形成されている。
外輪3は、内輪2と共に電動機106の駆動力を左右の後輪102L,102Rに伝達するための機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、内輪2の外周面2aに対向する断面円形状の内周面3aを備え、内輪2と同様に軸心O回りに回転可能に構成されている。本実施の形態における外輪3は略円環状に形成されると共に、左右に分離された内輪2,2に跨設されつつ一体に形成されている。また、外輪3は、軸心O回りに回転するピニオン4が外周に延設されている。ピニオン4は減速機107の回転が伝達されるピニオン109と噛み合い、電動機106の駆動力を外輪3に伝達する。これにより、外輪3は電動機106の駆動力により回転される。
第1スプラグ5は、内輪2と外輪3との相対回転を規制するための機能を担う部材であり、内輪2の外周面2a及び外輪の内周面3aにそれぞれ接する係合面5a,5b(図3参照)を備えている。第1スプラグ5は、左右に分離された内輪2の各々の外周面2a及び外輪3の内周面3aの対向間において円周方向に等間隔で複数配設されている。第1スプラグ5は、内輪2及び外輪3の一方向への相対回転により、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合面5a,5bが係合可能に構成されている。
第2スプラグ6は、第1スプラグ5と共に、内輪2と外輪3との相対回転を規制するための機能を担う部材であり、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aにそれぞれ接する係合面6a,6b(図4参照)を備えている。第2スプラグ6は、左右に分離された内輪2の各々の外周面2a及び外輪3の内周面3aの対向間において、第1スプラグ5に並設されると共に、円周方向に等間隔で複数配設されている。第2スプラグ6は、第1スプラグ5とは異なる方向への内輪2及び外輪3の相対回転により、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合面6a,6bが係合可能に構成されている。
保持器7は、ポケット7a,7b(図3及び図4参照)が軸心O方向に並設されると共に、ポケット7a,7bが円周方向に複数貫通形成された円筒状の部材である。ポケット7a(図3参照)は第1スプラグ5が挿入される部位であり、ポケット7b(図4参照)は第2スプラグ6が挿入される部位である。ポケット7a,7bに第1スプラグ5及び第2スプラグ6が挿入されることにより、保持器7は、第1スプラグ6及び第2スプラグ7の内輪2側(電動機106による駆動側の外輪3に対する被駆動側)の部位を外周面2a及び内周面3aの円周方向に傾動可能に保持する。保持器7により第1スプラグ5及び第2スプラグ6が一括して保持されるので、第1スプラグ5及び第2スプラグ6を保持する部品(保持器)を別々に設けることを不要にできる。これにより部品点数が増加することを防止して、動力伝達装置1の装置構成を簡素化できる。
第1スプラグ5は、外輪3の内周面3aに係合面5bが接するように保持器7により保持されている。その結果、電動機106(図2参照)の駆動力により、外輪3が、内輪2との相対回転で内輪2からみて図3時計回りに回転されると、外輪3の内周面3aと係合面5bとの接点に発生する摩擦力により第1スプラグ5がロック方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aに係合面5a,5bが係合する。
これにより内輪2と外輪3との相対回転が規制され、応答遅れが生じることなく電動機106の駆動力が伝達される。内輪2及び外輪3の図3時計回りの回転方向と車両100(図1参照)の前進方向とが一致するように第1スプラグ5の向きを設定することで、第1スプラグ5により後輪102(補助駆動輪)に前進方向の駆動力を伝達することができる。
また、第1スプラグ5の係合面5a,5bと外周面2a及び内周面3aとが係合し外輪3から内輪2に動力が伝達される状態において、電動機106の回転駆動を停止すると、内輪2は、外輪3との相対回転で外輪3からみて図3時計回りに回転される。そうすると、外周面2a及び内周面3aと係合面5a,5bとの接点に発生する摩擦力により第1スプラグ5がフリー方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aと係合面5a,5bの係合が解除される。
これにより内輪2と外輪3とが相対回転し、応答遅れが生じることなく内輪2から外輪3への動力の伝達が遮断される。その結果、後輪102の連れ回りによる電動機106の回転が防止され電動機106が保護されると共に、電動機106の起電力から回路素子等が保護される。
また、第2スプラグ6は、外輪3の内周面3aに係合面6bが接するように保持器7により保持されている。その結果、電動機106の駆動力により、外輪3が、内輪2との相対回転で内輪2からみて図4反時計回りに回転されると、外輪3の内周面3aと係合面6bとの接点に発生する摩擦力により第2スプラグ6がロック方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aに係合面6a,6bが係合する。
これにより内輪2と外輪3との相対回転が規制され、電動機106の駆動力が伝達される。内輪2及び外輪3の図4反時計回りの回転方向と車両100(図1参照)の後進方向とが一致するように第2スプラグ6の向きを設定することで、第2スプラグ6により後輪102(補助駆動輪)に後進方向の駆動力を伝達することができる。
また、第2スプラグ6の係合面6a,6bと外周面2a及び内周面3aとが係合し外輪3から内輪2に動力が伝達される状態において、電動機106の回転駆動を停止すると、内輪2は、外輪3との相対回転で外輪3からみて図4反時計回りに回転される。そうすると、外周面2a及び内周面3aと係合面6a,6bとの接点に発生する摩擦力により第2スプラグ6がフリー方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aと係合面6a,6bの係合が解除される。
これにより内輪2と外輪3とが相対回転し、内輪2から外輪3への動力の伝達が遮断される。その結果、車両100の後進のときも、後輪102の連れ回りによる電動機106の回転が防止され電動機106が保護されると共に、電動機106の起電力から回路素子等が保護される。
延設部8は、保持器7の左右の端部から軸心O方向と交差する方向に延設される円盤状の部材である。延設部8は軸心O方向と交差する方向に延設されているので、延設部を軸心O方向に円筒状に延設する場合と比較して、保持器7及び延設部8の軸心O方向の寸法を短縮でき、動力伝達装置1の小型化を図ることができる。
回転抵抗付与手段9は、回転する保持器7に延設部8を介して回転抵抗を生じさせる手段である。本実施の形態では、回転抵抗付与手段9は、動力伝達装置1のケース1aに一端が固着される弾性部材9aと、その弾性部材9aの他端に固着され弾性部材9aの付勢力により延設部8の側面に圧接される制動パッド9bとを備えて構成されている。延設部8は、制動パッド9bが押し付けられ、制動パッド9bとケース1bとの間に挟み込まれる。これにより延設部8とケース1bとの間に摩擦力が発生し、延設部8は回転されると、その回転方向と反対方向の回転抵抗を受ける。
付勢部材10a,10b(図3及び図4参照)は、第1スプラグ5及び第2スプラグ6にそれぞれ付勢力を付与する部材である。付勢部材10a,10bは、電動機106により駆動される外輪3の内周面3aに係合面5b,6bが接するような向きに第1スプラグ5及び第2スプラグ6に付勢力を付勢する。本実施の形態では、付勢部材10a,10bは、内輪2の外周面2aと外輪3の内周面3aとの対向間に配設され、第1スプラグ5及び第2スプラグ6の所定部を外輪3側に押圧するガータスプリングにより構成されている。
付勢部材10a,10bの付勢力により外輪3の内周面3aと係合面5b,6bとの接点に発生する摩擦力を大きくすることができる。これにより電動機106(図2参照)の駆動力による外輪3の回転に伴い、第1スプラグ5及び第2スプラグ6を、係合面5a,5b,6a,6bが外周面3a及び内周面2aに係合するように確実に傾動させることができる。その結果、電動機106の駆動力による外輪3の回転に伴い、内輪2及び外輪3に第1スプラグ5及び第2スプラグ6が係合する確実性を向上できる。
次いで、図5及び図6を参照して、動力伝達装置1の動作について説明する。なお、図5及び図6では、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、内輪2及び外輪3の回転方向および回転速度を矢印Tの向き及び長さで示している。また、回転抵抗付与手段9により保持器7に生じる回転抵抗(力)の向きを矢印Fで示している。なお、第1スプラグ5及び第2スプラグ6は、付勢部材10a,10bにより内輪2から外輪3の方向へ向かう付勢力が付与されている。
まず図5を参照して、車両100(図1参照)が前進方向に発進し低速走行を開始してから中高速走行をするまでの動力伝達装置1の動作について説明する。図5(a)は車両100が低速で前進するときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図5(b)は車両100が中高速で前進するときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。
車両100(図1参照)を停止させた状態から、車両100の前進方向に内燃機関103及び電動機106が駆動されると、電動機106の駆動力によりピニオン4及び外輪3に回転が伝達される。外輪3の回転方向は矢印T方向(図5時計回り)である。これは第1スプラグ5にとってロック方向の回転方向である。第1スプラグ5の係合面5bは外輪3の内周面3aに接触しているので、第1スプラグ5の係合面5bと外輪3の内周面3aとの接点に摩擦力が生じる。また、保持器7は、電動機106の回転に対し、延設部8を介して回転抵抗(図5(a)F方向の力)を受ける。これらの力により第1スプラグ5はロック方向に傾動する。第1スプラグ5は、付勢部材10aにより内輪2から外輪3の方向へ向かう付勢力が付与されているので、第1スプラグ5の係合面5bと外輪3の内周面3aとの接点に生じる摩擦力を大きくすることができ、第1スプラグ5のロック方向への傾動が助長される。
第1スプラグ5がロック方向へ傾動されることにより第1スプラグ5の係合面5a,5bは内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合する。その結果、外輪3から内輪2に回転が伝達され、左右の車軸108L,108R(図2参照)を介して前進方向に左右の後輪102L,102Rが駆動される。
一方、外輪3の矢印T方向(図5時計回り)の回転は、第2スプラグ6にとってフリー方向の回転である。そのため第2スプラグ6の係合面6bが外輪3の内周面3aに接触していても、第2スプラグ6の係合面6bは外輪3の内周面3aを滑り、係合できない。
また上述のように第1スプラグ5により保持器7に回転抵抗(矢印F方向の力)が生ずる。第1スプラグ5及び第2スプラグ6は保持器7により一括して保持されているので、保持器7に生じた回転抵抗は第2スプラグ6にも作用する。第2スプラグ6は保持器7により内輪2側が保持されているので、回転抵抗の生じた保持器7により第2スプラグ6のフリー方向への傾動が助長され、第2スプラグ6は係合面6aが内輪2の外周面2aと非接触に保持される。
これにより内輪2の外周面2aを第2スプラグ6の係合面6aが摺動することが防止される。その結果、第2スプラグ6の係合面6aに生ずる引き摺りトルクを抑制できる。また、内輪2の外周面2aを第2スプラグ6の係合面6aが摺動することが防止されるので、磨耗や発熱等が生じることを抑制できる。
また、第1スプラグ5が内輪2及び外輪3に係合されるときに第2スプラグ6の係合面6a,6bと内輪2の外周面2aとが非接触に保持されるので、第1スプラグ5が内輪2及び外輪3に係合されているときに第2スプラグ6が意図せずに内輪2及び外輪3に係合することを防止できる。これにより第1スプラグ5及び第2スプラグ6の両方が同時に内輪2及び外輪3に係合する二重ロック(二重噛み合い)を確実に防止できる。
また図2に示すように、内輪2は左右に分離されると共に後輪102L,102R(補助駆動輪)を軸支する左右の車軸108L,108Rの各々と一体に形成され、電動機106の駆動力により回転される外輪3は、左右に分離された内輪2,2に跨設されつつ一体に形成されている。これにより電動機106の駆動力により外輪3が回転されると、左右に分離された内輪2にそれぞれ配設される第1スプラグ5が内輪2及び外輪3に係合する。その結果、電動機106の駆動力が内輪2に伝達され、左右の後輪102L,102Rが駆動される。このように外輪3は左右に分離された内輪2,2に跨設されつつ一体に形成されているので、左右の後輪102L,102Rをリジッドにできる。その結果、悪路や雪道、凍結路などにおいて後輪102L,102Rの片方が空転した場合でも、後輪102L,102Rの他方に駆動力を伝達でき、前輪101及び後輪102の4輪駆動により車両100のスムーズな発進や走行が可能となる。
車両100(図1参照)は発進後、車両100の速度が時速5〜45km程度になると、制御装置(図示せず)により電動機106が停止される。電動機106が停止した後も内燃機関103は継続して駆動される。電動機106が停止すると、図5(b)に示すように、ピニオン4から外輪3への動力の入力はない一方、回転している後輪102から車軸108L,108Rを介して内輪2へ動力が入力される。内輪2の回転方向は、図5(a)と同様に図5時計回り(矢印T方向)である。これは外輪3との相対回転で外輪3側から見て、第1スプラグ5ではフリー方向の回転方向である。その結果、第1スプラグ5の係合面5aは内輪2の外周面2aを滑り、第1スプラグ5の係合が解除される。
一方、第2スプラグ6では、内輪2の回転方向(矢印T方向)は、外輪3との相対回転で外輪3からみてロック方向である。しかし、保持器7により内輪2の外周面2aと第2スプラグ6の係合面6aとは非接触に保持されているので、第2スプラグ6は内輪2及び外輪3に係合されない。
以上のことから電動機106の非駆動時には応答遅れが生じることなく内輪2と外輪3とが相対回転し、内輪2から外輪3への動力の伝達が遮断される。その結果、後輪102の連れ回りによる電動機106の回転が防止され電動機106が保護されると共に、電動機106の起電力から回路素子等が保護される。
また、電動機106の非駆動時には左右に分離された内輪2にそれぞれ配設される第1スプラグ5と内輪2及び外輪3との係合が解除されるので、左右の後輪102L,102R(補助駆動輪)をそれぞれ独立して回転可能にできる。駆動力を左右の後輪102L,102Rに配分するデファレンシャル装置を車両100の動力伝達経路に配設しないので、フリクションを小さくすることができ、エネルギー損失を抑制できる。
次に図6を参照して、車両100(図1参照)が後進方向に発進し低速走行を開始してから中高速走行をするまでの動力伝達装置1の動作について説明する。図6(a)は車両100が低速で後進するときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(b)は車両100が中高速で後進するときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。
車両100が後進するときは、前輪101側に配設される変速機104は後進段に切り替えられ、電動機106は前進方向とは逆方向に回転駆動される。車両100を停止させた状態から、車両100が後進する方向に電動機106が駆動されると、電動機106の駆動力によりピニオン4及び外輪3に回転が伝達される。外輪3の回転方向は矢印T方向(図6反時計回り)である。これは第2スプラグ6にとってロック方向の回転方向である。第2スプラグ6の係合面6bは外輪3の内周面3aに接触しているので、第2スプラグ6の係合面6bと外輪3の内周面3aとの接点に摩擦力が生じる。また、保持器7は、電動機106の回転に対し、延設部8を介して回転抵抗(図6(a)F方向の力)を受ける。これらの力により第2スプラグ6はロック方向に傾動される。第2スプラグ6は、付勢部材10bにより内輪2から外輪3の方向へ向かう付勢力が付与されているので、第2スプラグ6の係合面6bと外輪3の内周面3aとの接点に生じる摩擦力を大きくすることができ、第2スプラグ6のロック方向への傾動が助長される。
第2スプラグ6がロック方向へ傾動されることにより第2スプラグ6の係合面6aは内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合する。その結果、外輪3から内輪2に回転が伝達され、車軸108L,108Rを介して後進方向に後輪102が駆動される。
一方、外輪3の矢印T方向(図6反時計回り)の回転は、第1スプラグ5にとってフリー方向の回転である。そのため第1スプラグ5の係合面5bが外輪3の内周面3aに接触していても、第1スプラグ5の係合面5bは外輪3の内周面3aを滑り、係合できない。
また上述の第2スプラグ6により保持器7に回転抵抗(矢印F方向の力)が生ずる。第1スプラグ5及び第2スプラグ6は保持器7により一括して保持されているので、保持器7の回転抵抗は第1スプラグ5にも作用する。第1スプラグ5は保持器7により内輪2側が保持されているので、保持器7により第1スプラグ5のフリー方向への傾動が助長され、第1スプラグ5は係合面5aが内輪2の外周面2aと非接触に保持される。
これにより内輪2の外周面2aを第1スプラグ5の係合面5aが摺動することが防止される。その結果、第1スプラグ5の係合面5aに生ずる引き摺りトルクを抑制できる。また、内輪2の外周面2aを第1スプラグ5の係合面5aが摺動することが防止されるので、磨耗や発熱等が生じることを抑制できる。
また、第2スプラグ6が内輪2及び外輪3に係合されるときに第1スプラグ5の係合面5aと内輪2の外周面2aとが非接触に保持されるので、第2スプラグ6が内輪2及び外輪3に係合されているときに第1スプラグ5が意図せずに内輪2及び外輪3に係合することを防止できる。これにより第1スプラグ5及び第2スプラグ6の両方が同時に内輪2及び外輪3に係合する二重ロック(二重噛み合い)を確実に防止できる。
また図2に示すように、第2スプラグ6は左右に分離された内輪2,2にそれぞれ配設されており、外輪3は左右に分離された内輪2,2に跨設されつつ一体に形成されているので、左右の後輪102L,102Rをリジッドにできる。その結果、悪路や雪道、凍結路などにおいて後輪102L,102Rの片方が空転した場合でも、後輪102L,102Rの他方に駆動力を伝達でき、前輪101及び後輪102の4輪駆動により車両100のスムーズな発進や走行が可能となる。
車両100(図1参照)は発進後、車両100の速度が時速5〜45km程度になると、制御装置(図示せず)により電動機106が停止される。電動機106が停止した後も内燃機関103は継続して駆動される。電動機106が停止すると、図6(b)に示すように、ピニオン4から外輪3への動力の入力はない一方、回転している後輪102から車軸108L,108Rを介して内輪2へ動力が入力される。内輪2の回転方向は、図6(a)と同様に図6反時計回り(矢印T方向)である。これは外輪3との相対回転で外輪3側から見て、第2スプラグ6ではフリー方向の回転方向である。その結果、第2スプラグ6の係合面6aは内輪2の外周面2aを滑り、第2スプラグ6の係合が解除される。
一方、第1スプラグ5では、内輪2の回転方向(矢印T方向)は、外輪3との相対回転で外輪3からみてロック方向である。しかし、保持器7により内輪2の外周面2aと第1スプラグ5の係合面5aとは非接触に保持されているので、第1スプラグ5は内輪2及び外輪3に係合されない。
以上のことから電動機106の非駆動時には応答遅れが生じることなく内輪2と外輪3とが相対回転し、内輪2から外輪3への動力の伝達が遮断される。その結果、後輪102の連れ回りによる電動機106の回転が防止され電動機106が保護されると共に、電動機106の起電力から回路素子等が保護される。
また、電動機106の非駆動時には左右に分離された内輪2,2にそれぞれ配設される第2スプラグ6と内輪2及び外輪3との係合が解除されるので、左右の後輪102L,102Rをそれぞれ独立して回転可能にできる。駆動力を左右の後輪102L,102Rに配分するデファレンシャル装置を車両100の動力伝達経路に配設しないので、フリクションを小さくすることができ、エネルギー損失を抑制できる。
以上のように構成される第1実施の形態における動力伝達装置1によれば、電動機106の駆動力により車両100の前進方向に外輪3が回転されると、電磁石の励磁や電磁コイルに通電をしなくても、第1スプラグ5が内輪2及び外輪3に係合し電動機106の動力が伝達される。その結果、電磁石や電磁コイルが不要となるので、動力伝達装置1を小型軽量化できる。また、電動機106の動力を伝達するときに電磁石の励磁や電磁コイルの通電が不要なため、消費電力や発熱を抑制できる。
また、電動機106の駆動力により車両100の前進方向に外輪3が回転されると、第1スプラグ5が内輪2及び外輪3に係合し動力が伝達されるので、動力が伝達されるまでに応答遅れが生じることを防止できる。応答遅れを防止できるので、動力の伝達が遮断された状態から動力が伝達されるまでの間に内輪2又は外輪3が空転することもなく、動力伝達時の衝撃を防止できる。
また、車両100の後進方向に外輪3が回転されると第2スプラグ6が傾動され、第2スプラグ6の係合面6a,6bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合される。これにより内輪2と外輪3との一定回転方向への相対回転が規制され、電動機106の駆動力が伝達される。これにより車両100の後進方向に内輪2を回転させ、後輪102に動力を伝達できる。
その結果、第1スプラグ5の場合と同様に電磁石や電磁コイルを省略できるので、動力伝達装置1を小型軽量化できると共に消費電力や発熱を抑制できる。また電動機106の駆動力により車両100の後進方向に外輪3が回転されると、第2スプラグ6が内輪2及び外輪3に係合し動力が伝達されるので、動力が伝達されるまでに応答遅れが生じることを防止できる。応答遅れを防止できるので、動力の伝達が遮断された状態から動力が伝達されるまでの間に内輪2又は外輪3が空転することもなく、動力伝達時の衝撃を防止できる。
また、第1スプラグ5及び第2スプラグ6は付勢部材10a,10bにより内輪2から外輪3の方向へ向かう付勢力が付与されているので、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の一方が内輪2及び外輪3に係合している状態では、内輪2及び外輪3の回転速度が小さいときであっても、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の他方が内輪2及び外輪3に係合することを防止できる。これにより、第1スプラグ5及び第2スプラグ6の両方が同時に内輪2及び外輪3に係合する二重ロック(二重噛み合い)を防止できる。
次に図7から図10を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、駆動力を左右の後輪102L,102Rに配分するデファレンシャル装置を省略する場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、デファレンシャル装置201を後輪102(補助駆動輪)の動力伝達経路に配設する場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
まず、図7を参照して動力伝達装置11が搭載される車両200について説明する。図7は、第2実施の形態における動力伝達装置11が搭載される車両200の模式図である。車両200は、補助駆動輪としての後輪102側に電動機106と、電動機106の駆動力を減速して出力する減速機107と、減速機107により減速された電動機106の駆動力をデファレンシャル装置201に伝達する動力伝達装置11とが搭載されている。デファレンシャル装置201に伝達された駆動力は左右の車軸202L,202Rに配分され、左右の後輪102L,102Rが駆動される。
次いで、図8から図10を参照して動力伝達装置11の詳細構成について説明する。図8は動力伝達装置11の模式図である。また、図9は第1スプラグ5の近傍で軸心Oと垂直方向に切断した動力伝達装置11の断面図であり、図10は第2スプラグ6の近傍で軸心Oと垂直方向に切断した動力伝達装置11の断面図である。なお、図8は動力伝達装置11を中心とする電動機106側の動力伝達経路を図示し、理解を容易にするために、サスペンション等として機能する構成については図示を省略している。
図8に示すように、動力伝達装置11は、内輪2と、その内輪2の外周を囲む外輪3と、その外輪3及び内輪2の動力の伝達を切換える第1スプラグ5及び第2スプラグ6とを主に備えて構成されている。内輪2は、減速機107の出力軸203と一体に形成されている。これにより、内輪2は電動機106の駆動力により回転される。外輪3は、内輪2の外周面2aに対向する断面円形状の内周面3aを備えて構成されると共に、軸心O回りに回転するピニオン14が外周に延設されている。ピニオン14はデファレンシャル装置201と一体に形成されるピニオン204と噛み合い、デファレンシャル装置201に駆動力を伝達する。
保持器17は、ポケット17a,17b(図9及び図10参照)が軸心O方向に並設されると共に、ポケット17a,17bが円周方向に複数貫通形成された円筒状の部材であり、一端側に延設部18が延設されている。ポケット17a(図9参照)は第1スプラグ5が挿入される部位であり、ポケット17b(図10参照)は第2スプラグ6が挿入される部位である。ポケット17a,17bに第1スプラグ5及び第2スプラグ6が挿入されることにより、保持器17は、第1スプラグ6及び第2スプラグ7の外輪2側(電動機106による駆動側の内輪2に対する被駆動側)の部位を外周面2a及び内周面3aの円周方向に傾動可能に一括して保持する。
第1スプラグ5は、内輪2の外周面2aに係合面5aが接するように保持器17により保持されている。その結果、電動機106(図8参照)の駆動力により、内輪2が、外輪3との相対回転で外輪3からみて図9反時計回りに回転されると、内輪2の外周面2aと係合面5aとの接点に発生する摩擦力により第1スプラグ5がロック方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aに係合面5a,5bが係合する。これにより内輪2と外輪3との相対回転が規制され、応答遅れが生じることなく電動機106の駆動力が伝達される。
また、第1スプラグ5の係合面5a,5bと外周面2a及び内周面3aとが係合し内輪2から外輪3に動力が伝達される状態において、電動機106の回転駆動を停止すると、外輪3は、内輪2との相対回転で内輪2からみて図9反時計回りに回転される。そうすると、外周面2a及び内周面3aと係合面5a,5bとの接点に発生する摩擦力により第1スプラグ5がフリー方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aと係合面5a,5bの係合が解除される。これにより内輪2と外輪3とが相対回転し、応答遅れが生じることなく内輪2から外輪3への動力の伝達が遮断される。
また、第2スプラグ6は、内輪2の外周面2aに係合面6aが接するように保持器17により保持されている。その結果、電動機106の駆動力により、内輪2が、外輪3との相対回転で外輪3からみて図10時計回りに回転されると、内輪2の外周面2aと係合面6aとの接点に発生する摩擦力により第2スプラグ6がロック方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aに係合面6a,6bが係合する。これにより内輪2と外輪3との相対回転が規制され、電動機106の駆動力が伝達される。
また、第2スプラグ6の係合面6a,6bと外周面2a及び内周面3aとが係合し内輪2から外輪3に動力が伝達される状態において、電動機106の回転駆動を停止すると、外輪3は、内輪2との相対回転で内輪2からみて図10時計回りに回転される。そうすると、外周面2a及び内周面3aと係合面6a,6bとの接点に発生する摩擦力により第2スプラグ6がフリー方向に傾動し、外周面2a及び内周面3aと係合面6a,6bの係合が解除される。これにより内輪2と外輪3とが相対回転し、内輪2から外輪3への動力の伝達が遮断される。
付勢部材20a,20b(図9及び図10参照)は、第1スプラグ5及び第2スプラグ6にそれぞれ付勢力を付与する部材である。付勢部材20a,20bは、電動機106により駆動される内輪2の外周面2aに係合面5a,6aが接するような向きに第1スプラグ5及び第2スプラグ6に付勢力を付勢する。本実施の形態では、付勢部材20a,20bは、内輪2の外周面2aと外輪3の内周面3aとの対向間に配設され、第1スプラグ5及び第2スプラグ6の所定部を内輪2側に押圧するガータスプリングにより構成されている。
付勢部材20a,20bの付勢力により内輪2の外周面2aと係合面5a,6aとの接点に発生する摩擦力を大きくすることができる。これにより電動機106(図8参照)の駆動力による内輪2の回転に伴い、第1スプラグ5及び第2スプラグ6を、係合面5a,5b,6a,6bが外周面3a及び内周面2aに係合するように確実に傾動させることができる。その結果、電動機106の駆動力による内輪2の回転に伴い、内輪2及び外輪3に第1スプラグ5及び第2スプラグ6が係合する確実性を向上できる。
また、動力伝達装置11は、動力伝達装置11のケース11aに弾性部材9aの一端が固着され制動パッド9bを付勢する回転抵抗付与手段9を備えているので、第1実施の形態と同様に、延設部18は制動パッド9bが押し付けられ、延設部18とケース1bとの間に摩擦力が発生する。その結果、第1実施の形態と同様の効果がある。
以上のように構成される第2実施の形態における動力伝達装置11によれば、電動機106の駆動力により車両200の前進方向に内輪2が回転されると、電磁石の励磁や電磁コイルに通電をしなくても、第1スプラグ5が内輪2及び外輪3に係合し電動機106の動力が伝達される。第1実施の形態と同様に電磁石や電磁コイルを省略できるので、動力伝達装置11を小型軽量化できると共に消費電力や発熱を抑制できる。また応答遅れが生じることを防止できるので、動力の伝達が遮断された状態から動力が伝達されるまでの間に内輪2又は外輪3が空転することもなく、動力伝達時の衝撃を防止できる。車両200が後進するときも同様の効果がある。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値や形状は一例であり、他の数値や形状を採用することは当然可能である。
上記各実施の形態では、前輪101を内燃機関103(主駆動装置)で駆動し、後輪102を電動機106で駆動する車両100,200に動力伝達装置1,11が搭載される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、後輪102を内燃機関103(主駆動装置)で駆動し、前輪101を電動機106で駆動する車両に動力伝達装置を搭載することも当然可能である。また、上記各実施の形態では、内燃機関103を主駆動装置とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、電動機を主駆動装置とすることも当然可能である。
上記各実施の形態では、回転抵抗付与手段9として、摩擦力を発生させるため、ケース1a,11aに弾性部材9aの一端を固定し、弾性部材9aの他端に制動パッド9bを設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、延設部8,18を介して保持器7,17に回転抵抗を与える他の形態とすることも当然可能である。他の形態としては、例えば、延設部8,18を皿バネ状に形成し、その延設部8,18をケース1a,11aに固着した制動パッドに接触させるもの、延設部8,18に弾性部材9aの一端を固定すると共に弾性部材9aの他端に制動パッド9bを設け、その制動パッド9bをケース1a,11aに接触させるもの等を挙げることができる。
上記各実施の形態では、付勢部材10a,10b,20a,20bはガータスプリングで構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限るものではなく、リボンスプリング等の他の環状の付勢部材とすることが当然可能である。また、環状に形成される付勢部材に限るものではなく、保持器7,17の各ポケット7a,7b,17a,17bと第1スプラグ5及び第2スプラグ6との間に設けて各スプラグを付勢するコイルばね等を用いることも当然可能である。
上記各実施の形態では、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の一方が内輪2及び外輪3に係合する間、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の他方が内輪2の外周面2a又は外輪3の内周面3aと非接触に保持される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1スプラグ5又は第2スプラグ6の一方が内輪2及び外輪3に係合する間、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の他方が内輪2の外周面2a又は外輪3の内周面3aと接触していても、保持器7,17に作用する回転抵抗により、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の他方と内輪2及び外輪3との係合を阻止できるからである。
上記各実施の形態では説明を省略したが、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の一方が内輪2及び外輪3に係合する間、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の他方が内輪2の外周面2a又は外輪3の内周面3aと非接触に保持されるときに、第1スプラグ5又は第2スプラグ6の他方が互いに当接する構成とすることも可能である。
図11を参照して、保持器7により第2スプラグ26(又は第1スプラグ25)が互いに当接され、内輪2の外周面2aと非接触に保持される第3実施の形態における動力伝達装置21について説明する。図11(a)は第3実施の形態における動力伝達装置21の第2スプラグ26近傍の模式図であり、図11(b)は動力伝達装置21の第1スプラグ25近傍の模式図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図11(a)に示すように動力伝達装置21は、保持器7に作用する回転抵抗(矢印F方向の力)により第2スプラグ26が傾動され、第2スプラグ26の係合面26aと内輪2の外周面2aとが非接触に保持されると、第2スプラグ26が接点Cで互いに当接する。同様に第1スプラグ25においても、図11(b)に示すように、保持器7に作用する回転抵抗(矢印F方向の力)により第1スプラグ25が傾動され、第1スプラグ25の係合面25aと内輪2の外周面2aとが非接触に保持されると、第1スプラグ25が接点Cで互いに当接する。第2スプラグ26(又は第1スプラグ25)が互いに当接すると、それ以上の傾動が阻止され、第2スプラグ26(又は第1スプラグ25)が拘束されると共に、外周面2aと係合面26a(又は25a)との隙間を十分に確保できる。その結果、外周面2aと係合面26a(又は25a)とが接触して、意図せずに第1スプラグ25の係合面25a,25b及び第2スプラグ26の係合面26a,26bが同時に外周面2a及び内周面3aに係合してしまう二重ロック(二重噛み合い)を防止できる。
上記各実施の形態では、第1スプラグ5,25の係合面5a,25a又は第2スプラグ6,26の係合面6a,26aと内輪2の外周面2aとが非接触に保持される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1スプラグ5,25、第2スプラグ6,26の形状等を適宜決定することにより、第1スプラグ5,25の係合面5b,25b又は第2スプラグ6,26の係合面6b,26bと外輪3の内周面3aとが非接触となるように保持することも可能である。