JP2012087377A - スピーカーボイスコイル用巻線及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高導電性を有しつつ、耐屈曲性に優れており、音質の向上とコスト低減に優れたスピーカーボイスコイルよう巻線を実現する。
【解決手段】Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された元素と、2mass ppmを超える量の酸素とを含む軟質希薄銅合金材料の銅合金線を用いたスピーカーボイスコイ用巻線であって、前記銅合金線は、内部の結晶粒より表層の結晶粒の方が小さい粒度分布を有する再結晶組織を有し、表面から50μm深さまでの平均結晶粒サイズが20μm以下である表層を有する構成とする。
【選択図】図11

Description

本発明は、スピーカーボイスコイル用巻線及びその製造方法に関する。
近年の科学技術においては、あらゆる部分に電気が用いられており、それらを伝達するためにケーブルやリード線などの導線が用いられている。そして、その導線に用いられている素材としては、銅、銀などの導電率の高い金属が用いられ、とりわけ、コスト面などを考慮し、銅線が極めて多く用いられている。
銅と一括りにする中にも、その分子の配列などに応じて、大きく分けて、硬質銅と軟質銅とに分けられる。そして、利用目的に応じて所望の性質を有する種類の銅が用いられている。
電子部品用リード線には、硬質銅線が多く用いられ、例えば、医療機器、産業用ロボット、ノート型パソコンなどの電子機器などに用いられるケーブルは、過酷な曲げ、ねじれ、引張りなどが組み合わさった外力が繰り返し負荷される環境下で使用されているため、硬直な硬質銅線は不的確であり、軟質銅線が用いられている。
このような用途に使用される導線には、導電性が良好(高導電率)で、かつ、屈曲特性が良好であるという相反する特性が求められるが、今日までに、高導電性および耐屈曲性を維持する銅材料の開発が進められている(特許文献1、特許文献2参照)。
例えば、特許文献1には、引張強さ、伸び及び導電率が良好な耐屈曲ケーブル用導体に関する発明であり、特に純度99.99wt%以上の無酸素銅に、純度99.99wt%以上のインジウムを0.05〜0.70mass%、純度99.9wt%以上のPを0.0001〜0.003mass%の濃度範囲で含有させてなる銅合金を線材に形成した耐屈曲ケーブル用導体が記載されている。
また、特許文献2には、インジウムが0.1〜1.0wt%、硼素が0.01〜0.1wt%、残部が銅である耐屈曲性銅合金線が記載されている。
特開2002−363668号公報 特開平9−256084号公報
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、あくまでも硬質銅線に関する発明であり、耐屈曲性に関する具体的な評価はされておらず、より耐屈曲性にすぐれる軟質銅線についての検討は何等なされていない。また、添加元素の量が多いため、導電性が低下してしまう。軟質銅線に関しては、まだまだ十分に検討がなされたとはいえない。
また、特許文献2に記載された発明は、軟質銅線に関する発明であるが、特許文献1に係る発明と同様に、添加元素の添加量が多いため、導電性が低下してしまう。
一方で、原料となる銅材料として無酸素銅(OFC)などの高導電性銅材を選択することで高い導電性を確保することが考えられる。
しかしながら、この無酸素銅(OFC)を原料とし、導電性を維持すべく他の元素を添加せずに使用した場合には、銅荒引線の加工度をあげて伸線することにより無酸素銅線内部の結晶組織を細かくすることによって耐屈曲性を向上させるとする考え方も有効かもしれないが、この場合には、伸線加工による加工硬化により硬質線材としての用途には適しているが、軟質線材への適用ができないという問題がある。
ところで、スピーカー用ボイスコイルは、磁界中に配置して電気信号に従った電流を流すことによって動力を発生させてコーン紙を振動させることにより音波を発生させるムービングコイルであり、その物性は、スピーカーから発生する音の特性に大きな影響を与える。
スピーカー用ボイスコイルは、錦糸線と称する屈曲性に優れたリード線をボイスコイル用銅線の両末端にはんだ接合し、補強を目的としてボビン上に接着剤を使用して貼り付ける構成としている。
この錦糸線は、ボイスコイルのコイル線とスピーカー外部接続端子とを電気的に接続する導電体として、繊維に銅線箔を巻きつけてなる導電線として採用されており、振動による疲労断線対策として用いられている。
ボイスコイル用線材は、導体としてTPC(タフピッチ銅)を使用することが一般的であるが、音質、出力音圧レベルの向上を目的としCA(銅クラッドアルミニウム)、OFC(無酸素銅)なども使用されている。更に、音質向上を目的として6N-OFC(純度99.9999%のOFC)の使用も検討されているものの、6N-OFCは他の導体材料に比べ非常に高価であることから一般的ではない。
この錦糸線は、ケプラーなどの耐熱繊維に銅箔を巻きこれを撚ることにより作られており、あたかも紐の如くに柔らかい素材からなるものである。
一般に、銅線は純度が高いほどコストが高くなる。一般に、TPCの純度は99〜99.9%、OFCの純度は99.9〜99.99%であり、純度が高いOFCほどコストは高い。更に、純度が99.9999%の6N-OFCは、一般のOFCよりもコストが高い。
このため、6N-OFCを導体としたボイスコイルは、一般的に使用されることはなく、もっぱら音質にこだわるオーディオマニア向けのスピーカーに採用されている。
また、スピーカーボイスコイル用巻線には、タフピッチ銅、無酸素銅(OFC)、6NのOFCなどが使用されるが、一般に、結晶粒界の数が少ないほど、また結晶粒の平均長さが長い(結晶粒の数が少ない)ほど、伝送ロスが少ないので、音質の劣化が少ないといわれており、音質の向上の面からは、軟質銅の状態で結晶粒界の数が少なく、結晶粒の数が少ない導体が求められている。
また、6N-OFCはTPC、OFCよりも導体抵抗が少なく、導電率が良いが、屈曲性が良くない。ボイスコイルは、それ自体が振動することによって電気信号を音に変換する役目を持つことから、稀ではあるものの、リード線をはんだ接合したコイル端末近傍に断線が発生することがあり、6N-OFCでは屈曲性が他の銅導体に比べ劣ることから断線率のアップが懸念される。
このため、純度が6N-OFC相当で6N-OFCに近似した音質とコストが6N-OFCより大幅に安価で、屈曲性のある導体素材が望まれていた。
本発明の目的は、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた実用的な希薄銅合金材料を開発してスピーカー用ボイスコイルを実現することにある。具体的には、OFC並みの高導電性を有しつつ、耐屈曲性に優れており、音質の向上とコスト低減を実現することができるスピーカーボイスコイル用巻線及びその製造方法を実現することにある。
請求項1に係る発明は、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された元素と、2mass ppmを超える量の酸素とを含む軟質希薄銅合金材料の銅合金線を用いたスピーカーボイスコイ用巻線において、前記銅合金線は、内部の結晶粒より表層の結晶粒の方が小さい粒度分布を有する再結晶組織を有し、表面から50μm深さまでの平均結晶粒サイズが20μm以下である表層を有することを特徴とする。
請求項2に係る発明は、前記銅合金線は、3〜12mass ppmの硫黄と、2〜30mass ppmの酸素と、4〜25mass ppmのTiを含む軟質希薄銅合金材料を加工し、焼鈍したものである。
請求項3に係る発明は、前記軟質希薄銅合金材料の軟化温度は、φ2.6mmサイズで130℃〜148℃であることを特徴とするものである。
請求項4に係る発明は、前記銅合金線は、その導電率が102%IACS以上であることを特徴とするものである。
請求項5に係る発明は、SCR連続鋳造圧延により、Tiを含む軟質希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の鋳造温度で溶湯とし、この鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して伸線加工し、伸線材に塗料を塗布・焼付けることによりスピーカー用ボイスコイルの銅合金線を製造することを特徴とするものである。
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、前記軟質希薄銅合金材料は、3〜12mass ppmの硫黄と、2〜30mass ppmの酸素と、4〜25mass ppmのTiを含むものであることを特徴とするものである。
本発明によれば、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れたボイスコイルに好適な実用的な希薄銅合金材料を提供できるという優れた効果を発揮することができる。
そして、本発明のスピーカーボイスコイル用巻線は、OFC並みの高導電性を有しつつ、耐屈曲性に優れており、スピーカーの音質を向上することができる。
素材におけるTiS粒子のSEM像を示す図である。 図1に示す素材の分析結果を示す図である。 素材におけるTiO2粒子のSEM像を示す図である。 図3に示す素材の分析結果を示す図である。 本発明における素材のTi−O−S粒子のSEM像を示す図である。 図5に示す素材の分析結果を示す図である。 屈曲疲労試験の概略を示す図である。 400℃で1時間の焼鈍処理を施した後の無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定したグラフである。 600℃で1時間の焼鈍処理を施した後の無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定したグラフである。 比較材14の試料の幅方向の断面組織の写真を示す図である。 実施材8の幅方向の断面組織の写真を示す図である。 試料の表層における平均結晶粒サイズの測定方法について説明するための図面である。 実施材8に係るTiを添加したLOC材の断面を示す図である。 比較材14に係るOFC材の断面を示す図である。
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
先ずは、導電率101.5%IACS(万国標準軟銅(International Anneld Copper Standard)、抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%とした導電率)を満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を得ることである。また、副次的には、SCR連続鋳造設備を用い、表面傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能であり、ワイヤロッドに対する加工度90%(例えばφ8mm→φ2.6mm)での軟化温度が148℃以下の材料の開発にある。
高純度銅(6N、純度99.9999%)に関しては、加工度90%での軟化温度は130℃である。したがって安定生産が可能な130℃以上で148℃以下の軟化温度で軟質材の導電率が101.5%IACS以上である軟質銅を安定して製造できる軟質希薄銅合金材料としての素材とその製造条件を求めることを検討した。
ここで、酸素濃度1〜2mass ppmの高純度銅(4N)を用い、実験室にて小型連続鋳造機(小型連鋳機)を用いて、溶湯にチタンを数mass ppm添加した溶湯から製造したφ8mmのワイヤロッドをφ2.6mm(加工度90%)にして軟化温度を測ると160〜168℃であり、これ以上低い軟化温度にはならない。また、導電率は、101.7%IACS程度である。よって、酸素濃度を低くして、Tiを添加しても、軟化温度を下げることができず、また高純度銅(6N)の導電率102.8%IACSよりも悪くなることがわかった。
この原因は、溶湯の製造中に不可避的不純物として、硫黄を数mass ppm以上含み、この硫黄とチタンとでTiS等の硫化物が十分形成されないために、軟化温度が下がらないものと推測される。
そこで、この実施の形態では、軟化温度を下げることと、導電率を向上させるために、2つの方策を検討し、2つの効果を合わせることで目標を達成した。
(a)素材の酸素濃度を2mass ppmを超える量に増やしてチタンを添加する。これにより、先ず溶銅中ではTiSとチタン酸化物(TiO)やTi−O−S粒子が形成されると考えられる(図1、図3のSEM像と図2、図4の分析結果参照)。なお、図2、図4、図6において、PtおよびPdは観察のための蒸着元素である。
(b)次に、熱間圧延温度を、通常の銅の製造条件(最初の圧延ロールでの温度950〜最終の圧延ロールでの温度600℃)よりも低く設定(最初の圧延ロールでの温度880〜最終の圧延ロールでの温度550℃)することで、銅中に転位を導入し、Sが析出し易いようにする。これによって転位上へのSの析出又はチタンの酸化物(TiO)を核としてSを析出させ、その一例として溶銅と同様Ti−O−S粒子等を形成させる(図5のSEM像と、図6の分析結果参照)。
図1〜6は、表1の実施例1の上から三段目に示す酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度をもつφ8mmの銅線(ワイヤロッド)の横断面をSEM観察及びEDX分析にて評価したものである。観察条件は、加速電圧15keV、エミッション電流10μAとした。
(a)と(b)により、銅中の硫黄が晶出と析出を行い、冷間伸線加工後に軟化温度と導電率を満足する銅ワイヤロッドを製作することができる。
次に、この実施の形態では、SCR連続鋳造設備で製造条件の制限として(1)〜(4)を制限した。
(1)組成について
Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された元素と2mass ppmを超える量の酸素とを含む。添加元素として、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択されたものを選んだ理由は、これらの元素は他の元素と結合しやすい活性元素であり、Sと結合しやすいためSをトラップすることができ、銅母材(マトリクス)を高純度化することができるためである。添加元素は1種以上含まれていてもよい。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素および不純物を合金に含有させることもできる。
また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2を超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量およびSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2を超え400mass ppmを含むことができる。
導電率が101.5%IACS以上の軟質銅材を得る場合は、不可避的不純物を含む純銅に3〜12mass ppmの硫黄と、2を超え30mass ppm以下の酸素と、4〜25mass ppmのTiを含む軟質希薄銅合金材料でワイヤロッドとするのがよい。
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に、硫黄は銅中に取り込まれてしまうため、硫黄を3mass ppm以下とするのは難しい。汎用電解銅の硫黄濃度上限は12mass ppmである。
制御する酸素は、上述したように、少ないと軟化温度が下がり難いので2mass ppmを超える量とする。また、酸素が多すぎると、熱間圧延工程で表面傷が出やすくなるので30mass ppm以下とする。
(2)分散している物質について
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。
硫黄及びチタンは、TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sの形で化合物または凝集物を形成し、残りのTiとSが固溶体の形で存在している。TiOのサイズが200nm以下、TiOは1000nm以下、TiSは200nm以下、Ti−O−Sは300nm以下で結晶粒内に分布している軟質希薄銅合金材料とする。
但し、鋳造時の溶銅の保持時間や冷却状況により、形成される粒子サイズが変わるので鋳造条件の設定も必要である。
(3)鋳造条件について
SCR連続鋳造圧延により、鋳塊ロッドの加工度が90%(30mm)〜99.8%(5mm)でワイヤロッドを造る、一例として、加工度99.3%でφ8mmワイヤロッドを造る方法を用いる。
(a)溶解炉内での溶銅温度は、1100℃以上1320℃以下とする。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生するとともに粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下とする。1100℃以上としたのは、銅が固まりやすく製造が安定しないためであるが、溶銅温度は、できるだけ低い温度が望ましい。
(b)熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上とする。
通常の純銅製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出と熱間圧延中の硫黄の析出が本実施の形態の課題であるので、その駆動力である固溶限をより小さくするためには、鋳造温度と熱間圧延温度を(a)、(b)とするのがよい。
通常の熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が950℃以下、最終圧延ロールでの温度が600℃以上であるが、固溶限をより小さくするためには、本実施の形態では、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上に設定する。
最終圧延ロールでの温度を550℃以上にする理由は、この温度以下ではワイヤロッドの傷が多いので製品にならないためである。熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上で、できるだけ低い方が望ましい。こうすることで、軟化温度(φ8〜φ2.6に加工後)が限りなくCu(6N、軟化温度130℃)に近くなる。
(c)直径φ8mmサイズのワイヤロッドの導電率が102%IACS以上であり、冷間圧延後のφ2.6mmの軟化温度が130℃〜148℃である軟質希薄銅合金線または板状材料を得ることができる。
導電率は、無酸素銅のレベルで101.7%IACS程度であり、タフピッチ銅が101.2%IACS程度であり、高純度銅(6N)で102.8%IACSであるため、本実施の形態のスピーカーケーブル用の導体(銅合金線)としては、できるだけ高純度銅(6N)に近い導電率であることが望ましく、101.5%IACS以上必要であり、軟化温度はその工業的価値から見て148℃以下である。Tiを添加しない場合は、160〜165℃である。高純度銅(6N)の軟化温度は127〜130℃であったので、得られたデータから限界値を130℃とする。このわずかな違いは、高純度銅(6N)にない不可避的不純物にある。
銅は、シャフト炉で溶解の後、還元状態の樋になるように制御した。すなわち、還元ガス(CO)雰囲気の下で、希薄合金の構成元素の硫黄濃度、Ti濃度、酸素濃度を制御して鋳造し、圧延するワイヤロッドを安定して製造する方法がよい。銅酸化物の混入や粒子サイズが大きいので品質を低下させる。
ここで、添加物としてTiを選択した理由は次の通りである。
(a)Tiは溶融銅の中で硫黄と結合し化合物を造りやすい。
(b)Zrなど他の添加金属に比べて加工でき扱いやすい。
(c)Nbなどに比べて安価である。
(d)酸化物を核として析出しやすい。
以上により、本実施の形態の軟質希薄銅合金材料は、溶融半田めっき材(線、板、箔)、エナメル線、軟質純銅、高導電率銅、やわらかい銅線として使用することができ、生産性が高く、焼鈍時のエネルギーを低減でき、導電率、軟化温度、表面品質に優れた実用的な軟質希薄銅合金材料を得ることが可能となる。
また、本実施の形態の軟質希薄銅合金線を複数本撚り合わせた軟質希薄銅合金撚線として使用することも可能である。
また、上述の実施の形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製し、熱間圧延にて軟質材を作製する例で説明したが、双ロール式連続鋳造圧延法またはプロペルチ式連続鋳造圧延法により製造するようにしても良い。
表1は実験条件と結果に関するものである。
Figure 2012087377
先ず、実験材として、表1に示した酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度で、φ8mmの銅線(ワイヤロッド):加工度99.3%をそれぞれ作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鋳造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの間に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作成した。この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作成したものである。その実験材を冷間伸線して、φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度と導電率を測定し、また、φ8mmの銅線における分散粒子サイズを評価した。
酸素濃度は、酸素分析器(レコ(Leco;商標)酸素分析器)で測定した。硫黄、Tiの各濃度はICP発光分光分析器で分析した結果である。
φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度の測定は、400℃以下で各温度1時間の保持後、水中急冷し、引張試験を実施してその結果から求めた。室温での引張試験の結果と400℃で1時間のオイルバス熱処理した軟質銅線の引張試験の結果を用いて求め、この2つの引張試験の引張強さを足して2で割った値を示す強度に対応する温度を半軟化温度と定義し求めた。
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。すなわち、直径500nm以下の分散粒子が90%以上である場合を合格とした。
ここに「サイズ」とは化合物のサイズであり、化合物の形状の長径と短径のうちの長径のサイズを意味する。また、「粒子」とは前記TiO、TiO、TiS、Ti−O−Sのことを示す。また、「90%」とは、全体の粒子数に対しての該当粒子数の割合を示すものである。
表1において、比較材1は、実験室でAr雰囲気において直径φ8mmの銅線を試作した結果であり、Tiを、0〜18mass ppm添加したものである。
このTi添加で、Ti添加量ゼロの半軟化温度215℃に対して、13mass ppmの添加で160℃まで低下して最小となり、15,18mass ppmの添加で高くなっており、要望の軟化温度148℃以下にはならなかった。また、導電率101.5%以上を満足していないため総合評価は×(不合格)であった。
そこで、次にSCR連続鋳造圧延法にて、酸素濃度を7〜8mass ppmに調整してφ8mm銅線(ワイヤロッド)の試作を行った。
比較材2は、SCR連続鋳造圧延法で試作した中でTi濃度の少ないもの(0,2mass ppm)であり、導電率は101.5%IACS以上であるが、半軟化温度が164,157℃であり、要求の148℃以下を満足しないので、総合評価で×となった。
実施材1については、酸素濃度と硫黄が、ほぼ一定(7〜8mass ppm、5mass ppm)、Ti濃度の異なる(4〜25mass ppm)試作材の結果である。
このTi濃度4〜25mass ppmの範囲では、軟化温度148℃以下であり、導電率も102%IACS以上であり、分散粒子サイズも500μm以下の粒子が90%以上であり良好である。そしてワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能として満足している(総合評価○)。
ここで、導電率101.5%IACS以上を満たすものは、Ti濃度が4〜25mass ppmのときである。Ti濃度が13mass ppmのとき導電率が最大値である102.4%IACSを示し、この濃度の周辺では、導電率は、僅かに低い値であった。これは、Tiが13mass ppmのときに、銅中の硫黄分を化合物として捕捉することで、高純度銅(6N)に近い導電率を示したためである。
よって、酸素濃度を高くし、Tiを添加することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。
比較材3は、Ti濃度が25mass ppmを超える試作材である。この比較材3は、半軟化温度は要望を満足しているが、導電率が102%IACSを下回っているために、総合評価は×であった。
比較材4は、Ti濃度を60mass ppmと高くした試作材である。この比較材3は、導電率は要望を満足しているが、半軟化温度は148℃以上であり、製品性能を満足していない。更に、ワイヤロッドの表面傷も多い結果であり、製品にすることは難しかった。よって、Tiの添加量は60mass ppm未満がよい。
次に、実施材2については、硫黄濃度を5mass ppmとし、Ti濃度を13〜10mass ppmとし、酸素濃度を変えて酸素濃度の影響を検討した試作材である。
酸素濃度に関しては、2を超え30mass ppm以下まで、大きく濃度が異なる試作材とした。但し、酸素が2mass ppm未満は、生産が難しく安定した製造が困難であることから、総合評価は△(合否の間)とした。また、酸素濃度を30mass ppmと高くしても半軟化温度と導電率の双方を満足することがわかった。
また、比較材5に示すように、酸素が40mass ppm の場合には、ワイヤロッド表面の傷が多く、製品にならない状況であった。
よって、酸素濃度が2を超え30mass ppm以下の範囲とすることで、半軟化温度、導電率101.5%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足させることができ、また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能を満足させることができる。
次に、実施材3は、それぞれ酸素濃度とTi濃度とを比較的同じ近い濃度とし、硫黄濃度を4〜20mass ppmと変えた試作材の例である。この実施材3においては、硫黄が2mass ppmより少ない試作材は、その原料面から実現できなかったが、Tiと硫黄の濃度を制御することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。
比較材6の硫黄濃度が18mass ppmで、Ti濃度が13mass ppmの場合には、半軟化温度が162℃で高く、必要特性を満足できなかった。また、特にワイヤロッドの表面品質が悪いので、製品化は難しい。
以上より、硫黄濃度が2〜12mass ppmの場合には、半軟化温度、導電率101.5%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足しており、ワイヤロッドの表面もきれいですべての製品性能を満足することがわかった。
また、比較材7としてCu(6N)を用いた検討結果を示したが、半軟化温度127〜130℃であり、導電率も102.8%IACSであり、分散粒子サイズも、500μm以下の粒子はまったく認められなかった。
Figure 2012087377
表2は、製造条件としての溶融銅の温度と圧延温度を示したものである。
比較材8は、溶銅温度が高めの1330〜1350℃で且つ圧延温度が950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。
この比較材8は、半軟化温度と導電率は満足するものの、分散粒子のサイズに関しては、1000nm程度のものもあり500nm以上の粒子も10%を超えていた。よってこれは不合格(×)とした。
実施材4は、溶銅温度が1200〜1320℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この実施材4については、ワイヤ表面品質、分散粒子サイズも良好で、総合評価は○であった。
比較材9は、溶銅温度が1100℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材8は、溶銅温度が低いため、ワイヤロッドの表面傷が多く製品には適さなかった。これは、溶銅温度が低いため、圧延時に傷が発生しやすいためである。
比較材10は、溶銅温度が1300℃で且つ圧延温度が高めの950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材9は、熱間圧延温度が高いため、ワイヤロッドの表面品質が良いが、分散粒子サイズも大きなものがあり、総合評価は×となった。
比較材11は、溶銅温度が1350℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材10は、溶銅温度が高いため、分散粒子サイズが大きなものがあり、総合評価は×となった。
[軟質希薄銅合金線の軟質特性]
表3は、無酸素銅線を用いた比較材12と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材5とを試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したもののビッカース硬さ(Hv)を検証した表である。
実施材5は、表1の実施材1に記載した合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材12と実施材5とのビッカース硬さ(Hv)は同等レベルとなり、焼鈍温度が600℃でも同等のビッカース硬さ(Hv)を示している。このことから、本実施例の軟質希薄銅合金線は十分な軟質特性を有するとともに、無酸素銅線と比較しても、特に焼鈍温度が400℃を超える領域においては優れた軟質特性を備えていることがわかる。
Figure 2012087377
[軟質希薄銅合金線の耐力、屈曲寿命及び導電率についての検討]
表4は、無酸素銅線を用いた比較材12と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材6を試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したものの0.2%耐力値の推移を検証した表である。実施材6は、表1の実施材1に記載した合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。
この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材13と実施材6の0.2%耐力値が同等レベルであり、焼鈍温度600℃では実施材6も比較材13もほぼ同等の0.2%耐力値となっていることがわかる。
Figure 2012087377
次に、本実施例における軟質希薄銅合金線は、屈曲寿命の高さが要求されるが、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定した結果を図8に表す。ここでは、試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材14は比較材12と同様の成分組成であり、実施材7も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。
ここに、屈曲寿命の測定方法は、屈曲疲労試験によって行った。屈曲疲労試験は、荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。
図7は、屈曲疲労試験形態を示している。試料(線材)は、(A)に示すように、その一端を屈曲ヘッドのクランプで支持して曲げ治具(図中リングと記載)の間に垂下するようにセットし、他端に取り付けた錘により荷重を負荷したままの状態として、(B)に示すように屈曲ヘッドを90度回転することにより線材に曲げ治具に沿った曲げを与える。この操作で、曲げ治具に接している線材表面には圧縮ひずみが負荷され、これに対応して反対側の表面には引張ひずみが負荷される。その後、屈曲ヘッドを(A)の状態に戻す。次に、(C)に示すように、(B)に示した向きと反対方向に屈曲ヘッドを90度回転させて線材に曲げを与える。この場合も、曲げ治具に接している線材表面には圧縮ひずみが負荷され、これに対応して反対側の表面には引張ひずみが負荷される。そして、(C)から最初の状態(A)に戻す。この屈曲疲労1サイクル(A)(B)(A)(C)(A)に要する時間は4秒である。表面曲げ歪は以下の式により求めることができる。
表面曲げ歪(%)=r/(R+r)×100(%)
ここで、R:素線曲げ半径(30mm)、r:素線半径 である。
図8の実験データによると、本実施例における実施材7は比較材13に比して高い屈曲寿命を示した。
また、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定した結果を図9に表す。ここでは、試料として、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材14は比較材11と同様の成分組成であり、実施材8も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。屈曲寿命の測定方法は、図8の測定方法と同様の条件で行った。この場合も、本実施例における実施材8は比較材14に比して高い屈曲寿命を示した。この結果は、いずれの焼鈍条件下においても実施材7、8の方が比較材13、14に比して0.2%耐力値が大きい値を示していたことに起因するものであると理解される。
[軟質希薄銅合金線の結晶構造についての検討]
また、図10は、実施材8の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものであり、図11は、比較材14の幅方向の断面組織の写真を表したものである。図10は、比較材14の結晶構造を示し、図11は実施材8の結晶構造を示している。
これをみると、比較材14の結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、実施材8の結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
発明者等は、比較材14には形成されていない、表層に現れた微細結晶粒層が実施材8の屈曲特性の向上に寄与しているものと考えている。
このことは、通常であれば、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行えば、比較材14のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されるものであると理解されるが、本実施例の場合には、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行っても、なお、その表層には微細結晶粒層が残存していることから、軟質銅材でありながら、屈曲特性の良好な軟質希薄銅合金材料が得られたものであると考えられる。
そして、図10及び図11に示す結晶構造の断面写真をもとに、実施材8および比較材14の試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。
ここに、表層における平均結晶粒サイズの測定方法は、図12に示すように、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでのところの長さ1mmの線上の範囲での結晶粒サイズを測定した夫々の実測値を平均した値を表層における平均結晶粒サイズとした。
測定の結果、比較材14の表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施材8の表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが細かいことによって、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制され、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる(結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が変わるため、進展が抑制される)。このことが、上述のとおり、比較材と実施材との屈曲特性の面で大きな相違を生じたものと考えられる。
また、2.6mm径である実施材6、比較例12の表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
測定の結果、比較材12の表層における平均結晶粒サイズは100μmであったのに対し、実施材6の表層における平均結晶粒サイズは20μmであった。
本発明の効果を奏するものとして、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては20μm以下のものが好ましく、製造上の限界値から5μm以上のものが想定される。
[本発明のスピーカー用ボイスコイルへの適用について]
本発明のスピーカー用ボイスコイルは、芯材と、この芯材を被覆する被覆層と、必要に応じてその外周に設けられる絶縁層よりなる。ここで芯材は、実施材1の上から3番目の素材を使用し、溶銅温度1320℃で且つ圧延温度が880℃〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを作成し、更に、これを伸線加工してφ2.6mmの素材を得、このφ2.6mmの素材を更にφ0.26mmに伸線加工したものである(実施材8と同様の線材を得た)。
前記芯材は、その上に、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などを主成分とするエナメル線用絶縁塗料をボイスコイルの発熱温度を勘案して選択して塗付焼き付けし被覆層(絶縁層)とする。
更に、必要に応じて、この上層に、例えば、ポリブチラール樹脂、アルコール可溶共重合ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を主体とした自己融着塗料を塗布焼付けして融着層を施した熱可塑性自己融着線、又は、絶縁層にアルコール可溶共重合ポリアミドに硬化剤としてエポキシ樹脂、MDI系安定化イソシアネート樹脂、マレイミド樹脂などを添加した熱硬化性自己融着塗料を塗付焼付けして半硬化(Bステージ)状態にした融着層を施した熱硬化性自己融着線を用いることができる。
ここに、熱可塑性自己融着線、熱硬化性自己融着線の用途区分はボイスコイルの発熱温度を勘案して選択される。
絶縁層がポリウレタン樹脂の場合には、熱可塑性自己融着層を施して汎用ボイスコイルに使用し、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂を絶縁層とするものには熱硬化性自己融着層を施して耐熱性ボイスコイルとして使用する。
上記ボイスコイルは、クラフト紙、アルミ箔、ポリミドフィルムなどに上記した融着層材料と近似又は同一の塗料を塗付乾燥させてボビン状とした所謂紙管に、エチルアルコールなどの低級アルコールの入った槽を通過させた自己融着線を整列に巻線することにより、アルコールにより溶融した融着層同士が融着して線間及び線とボビンを接着するようにして構成する。これを、自然乾燥又は熱風により乾燥する。熱硬化性自己融着線を使用したボイスコイルは、180℃-30分以上のアフタキュアによる架橋反応にて耐熱性(軟化温度)を向上させている。
また、本発明のスピーカー用ボイスコイルを高出力領域で使用する場合には、高い耐熱性が要求される。高耐熱性ボイスコイルには、絶縁層としてポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などの高耐熱性絶縁塗料を使用し、融着層には熱硬化性融着塗料を使用する。
高耐熱性絶縁塗料を用いた場合は、これらの焼き付け温度が高いことから、焼付け段階で完全に焼鈍することが可能であり、従来からの焼鈍は線癖をとる程度の低温焼鈍で充分あることから、焼鈍工程でのエネルギー低減が可能である。
上記の形態において、銅素線として、上記実施例8に記載したものと同じものを使用したことにより、以下のような効果が認められる。
導体を、表面から50μm深さまでの平均結晶粒サイズが20μm以下である表層を備えた軟質希薄銅合金線を用いることで、6N相当の導電率をもち、6Nより優れた屈曲性をもち、6Nよりコストを掛けずにスピーカーボイスコイル用巻線を供給することができる。すなわち、この導体は400℃×1hrの熱処理後においても、表面の結晶粒径は小さいままで、内部の結晶は2次再結晶化している特徴を有するので、軟銅線でありながら、2次再結晶化した結晶を内部に持ち、かつ屈曲性に優れている。
図13は実施材8に係るTiを添加したLOC材の断面を示し、図14は比較材14に係るOFC材の断面を示す。図14を参照すると、比較材14の中にも、結晶粒が大きい箇所を確認できるが、これらの結晶粒組織は単結晶組織ではなく、結晶物内部には図中、黒色で示される筋状結晶組織(双晶組織)が点在することがわかる。そこで、実施材8と比較材14との単位面積当たりの双晶の数を比較した結果、比較材14が27.6個/100μm四方であったのに対し、実施材8は12.4個/100μm四方であった。これより、実施材8の内部の結晶粒は再結晶により大きいものになっていると共に双晶組織の数も比較材14に比べて少なくなっていることから、実施例に係る導体はOFC材に比較して結晶粒界の数が少ないといえる。また、実施材8と比較材14の内部結晶サイズを測定した。測定方法は切片法である。実施材8の内部結晶サイズは、30μmであるのに対し、比較例の内部結晶サイズは、24μmであり、実施材8の内部結晶サイズの方が、比較材の内部結晶サイズよりもより大きい結晶組織からなっていることがわかる。
これらのことから、実施材8は比較材14に比して、結晶粒界の数が少なく、内部結晶サイズが大きい結晶組織からなっており、音質の向上の面においてより優れた導体を用いているといえる。
導体の素材を各実施材とすることで、6N-OFC相当の導電率をもち、6N-OFCより優れた屈曲性をもち、6N-OFCより安価なコストで6N-OFCに近似した音質を発現するボイスコイル用自己融着線を供給することができる。
これにより、コストが高いために6N-OFC導体のボイスコイルを採用しにくかったオーディオマニア、音楽業界に6N-OFC相当の音質と導電率をもち、6N-OFCより安価で屈曲性がよく断線率も大幅に改善したボイスコイルとスピーカーを供給することができる。
又、一般的に用いられているTPCに比べて導電率が高いことから、同一コイル抵抗とした場合は、コイル重量の軽量化が可能であり、この軽量化により、線材の使用量の低減及び軽量化による出力音圧レベルの向上を図ることが可能である。

Claims (6)

  1. Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された元素と、2mass ppmを超える量の酸素とを含む軟質希薄銅合金材料の銅合金線を用いたスピーカーボイスコイ用巻線において、
    前記銅合金線は、内部の結晶粒より表層の結晶粒の方が小さい粒度分布を有する再結晶組織を有し、表面から50μm深さまでの平均結晶粒サイズが20μm以下である表層を有することを特徴とするスピーカーボイスコイル用巻線。
  2. 前記銅合金線は、3〜12mass ppmの硫黄と、2〜30mass ppmの酸素と、4〜25mass ppmのTiを含む軟質希薄銅合金材料を加工し、焼鈍したものであることを特徴とする請求項1に記載のスピーカーボイスコイル用巻線。
  3. 前記軟質希薄銅合金材料の軟化温度は、φ2.6mmサイズで130℃〜148℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスピーカーボイスコイル用巻線。
  4. 前記銅合金線は、その導電率が102%IACS以上であることを特徴とする請求項1乃至3の1項に記載のスピーカーボイスコイル用巻線。
  5. SCR連続鋳造圧延により、Tiを含む軟質希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の鋳造温度で溶湯とし、この鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して伸線加工し、伸線材に塗料を塗布・焼付けることによりスピーカー用ボイスコイルの銅合金線を製造することを特徴とするスピーカーボイスコイル用巻線の製造方法。
  6. 前記軟質希薄銅合金材料は、3〜12mass ppmの硫黄と、2〜30mass ppmの酸素と、4〜25mass ppmのTiを含むものであることを特徴とする請求項5に記載のスピーカーボイスコイル用巻線の製造方法。
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