JP2012072087A - がんペプチドワクチン療法効果向上剤 - Google Patents

がんペプチドワクチン療法効果向上剤 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができる新たな手法を開発することを課題とする。また、免疫原としてのがんペプチドワクチン中に含まれるアジュバントの量を低減し、副作用をより低く抑えつつ、癌に対して高い有効性を発揮する新たな手法を開発することもまた、課題とする。
【解決手段】そこで、上記の課題を解決するために、担癌マウスを用いたがんペプチドワクチン療法モデルを用いて、シイタケ菌糸体抽出物によるがんペプチドワクチン効果向上作用を調べた。その結果、本発明者は、シイタケ菌糸体抽出物が、がんペプチドワクチンの効果を向上させる作用を有すること、体内に投与するアジュバントの量を低減することにより、ワクチンの副作用が生じることを抑制することができること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
【選択図】なし

Description

本発明は、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができる新たな手法に関する。より具体的には、本発明は、シイタケ菌糸体抽出物を使用することにより、がんペプチドワクチンの効果を向上させることができる、がんペプチドワクチン療法効果向上剤に関する。
シイタケ(英名:Shiitake mushroom、学名:Lentinus edodes)の菌糸体(mycelium)は、食用部分である子実体の前段階であり、この抽出物の乾燥粉末体には、様々な低分子多糖が含まれることが知られている。シイタケ菌糸体抽出物は、通常のキノコ製剤に見られるβ(1→3)グルカン以外にも、特有の多糖体として、α(1→4)-(1→6)グルカンや、β(1→3)-(1→6)グルカン、低分子アラビノキシラン様多糖体なども含まれる天然カクテルであり、30年以上にわたり健康食品として利用されている。
シイタケ菌糸体抽出物については、これまで、抗腫瘍作用、抗ウィルス作用、肝障害抑制作用、抗酸化作用などの薬理作用を有することが報告されてきたほか、近年は樹状細胞の活性化作用(特許文献1)や免疫抑制因子である制御性T細胞(Treg細胞)の阻害作用などの免疫調節作用を有することなどの、新しい知見が報告されている。
しかしながら、これらの知見は、単剤での薬理作用についての知見であり、併用剤または組合せ剤としての薬理作用についての報告は見られない。
がんペプチドワクチン療法は、対象となるがんに特徴的なペプチドを免疫原とする、無細胞性ワクチンの一種であり、副作用の少ない理想的な抗腫瘍治療方法として近年注目を集めている。しかし、免疫原として使用するペプチドの免疫原性が必ずしも強くないこと、そしてペプチドワクチンの有効性が低いこと、等の問題点もまた、指摘されている。これらの問題点に対して、ペプチドワクチンをより効率的に機能させることを目的として、アジュバントを同時に投与することによる補助が必要とされている。
しかしながら、がんペプチドワクチンにアジュバントを包含させる場合、アジュバントによる局所炎症が生じ、その結果アジュバントによる疼痛といった副作用も認められており、これが患者のQOLを低下させることにつながるために、今後改良の余地のある療法であるといえる。したがって、免疫原としてのペプチドとアジュバントとが協調して有効性を発揮する新たな方法の開発が、ワクチン研究における主要な目標の一つとして挙げられている。
また、がんペプチドワクチンを使用した場合に、生体内において担癌免疫抑制状態が誘導されることや、その結果として、がんペプチドワクチン自体の免疫原性が低く抑えられてしまうことなどの様々な要因が原因となり、目的とする抗腫瘍効果が得られにくいことも知られている。そのため、がんペプチドワクチン自体の抗腫瘍効果を向上させるだけでなく、同時に担癌免疫抑制状態を解除することも、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させるために重要であると考えられる。
免疫抑制状態は、免疫抑制性因子である制御性T細胞(Treg細胞)が誘導されることにより生じるものと考えられている。このことから、Treg細胞の機能を阻害することにより、担癌免疫抑制状態を解除することができると予想されている。これまでに、Treg細胞誘導因子であるTGF-βの活性を阻害することによって免疫抑制状態を解除することができる薬剤として、PSK(クレスチン)が使用された事例が存在する。PSKは、シイタケと同じ担子菌類に属するカワラタケの菌子体抽出物であり、組成は殆どがβグルカンであり、β(1→3)-(1→4)-(1→6)構造が存在し、糖数残基ごとに分岐していることが示唆されている。これまで経口摂取による抗腫瘍効果が報告されているほか、癌ワクチンとの併用による効果向上作用が報告されている(非特許文献1、2)。また、ワクチンの作用を高める手段として、ワクチンとβグルカンとの併用も有効なものの一つであることが知られている(特許文献2)。しかし、これらの療法では、臨床上の効果としては不十分と考えられており(非特許文献1)、より有効性の高い癌ワクチンの効果向上作用が求められている。
金沢匡司、森弥生、吉原和恵ら.「高度進行癌症例に対する樹状細胞療法と抗癌剤の併用についての検討」癌と化学療法 Vol.30 No.11 Page. 1655-1660 (2003.10.31) Yamaguchi Y et al.「Enhancing effect of PS-K on IL-2-induced lymphcyte activation: possible involvement of antagonistic action against TGF-beta.」Anticancer Res.2004 Mar-Apr; 24(2B): 639-47.
特開2006-141346 特表2009-528267
本発明は、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができる新たな手法を開発することを課題とする。また、免疫原としてのがんペプチドワクチン中に含まれるアジュバントの量を低減し、副作用をより低く抑えつつ、癌に対して高い有効性を発揮する新たな手法を開発することもまた、課題とする。
そこで、上記の課題を解決するために、担癌マウスを用いたがんペプチドワクチン療法モデルを用いて、シイタケ菌糸体抽出物によるがんペプチドワクチン効果向上作用を調べた。その結果、本発明者は、シイタケ菌糸体抽出物が、がんペプチドワクチンの効果を向上させる作用を有すること、体内に投与するアジュバントの量を低減することにより、ワクチンの副作用が生じることを抑制することができること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明の発明者は、シイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含む、がんペプチドワクチン療法効果向上剤を提供することにより、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができることを新たに明らかにした。また、このがんペプチドワクチン療法効果向上剤を使用することにより、ワクチン中に含まれるアジュバントの量を低減しても高い抗腫瘍効果を維持できることを明らかにした。
本発明は、シイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含む、がんペプチドワクチン療法効果向上剤を提供することにより、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができるという効果を有する。これに加えて、本発明のがんペプチドワクチン療法効果向上剤をがんペプチドワクチンとともに使用することにより、免疫原としてのがんペプチドワクチン中に含まれるアジュバントの量を低減して、副作用をより低く抑えつつ、癌に対しては高い有効性を発揮することができることを新たに明らかにした。
図1は、シイタケ菌糸体抽出物のがんペプチドワクチン療法の効果向上に対する効果を示す図である。 図2は、シイタケ菌糸体抽出物のTreg細胞の増殖または活性に対する抑制効果を示す図である。 図2は、シイタケ菌糸体抽出物のTreg細胞の増殖または活性に対する抑制効果を示す図である。
本発明において使用されるシイタケ菌糸体抽出物の原料となる「シイタケ菌糸体」(Lentinus edodesmycelium)は、特に限定はされないが、例えば、食用にされる子実体の前段階の菌糸の状態のものを使用することができる。シイタケ菌糸体は、培養により生産されたものであっても天然より採取されたものであってもよい。本発明においては、例えば、シイタケ菌(Lentinus edodes)を固体培地で培養して得られる菌糸体を用いることができる。
本発明において用いられる「シイタケ菌糸体抽出物」(本明細書において、L.E.M.とも呼ぶ)は、当該技術分野において公知の方法により調製することができるが、菌糸体を粉砕後に抽出して得られる抽出物を用いることができる。さらに、例えば、菌糸体を含む固体培地を水の存在下に粉砕、分解して得られる抽出物を用いることもできる。抽出物の調製に用いられる溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、ブタノール、イソプロパノールなど、好ましくは水を使用することができる。抽出は溶媒の加熱下(例えば、85〜105℃程度)で行うこともできるが、より低温(例えば、25〜50℃、好ましくは30〜45℃)で超音波処理により行うこともできる。
この「シイタケ菌糸体抽出物」は、限定されるものではないが、例えば以下の方法により得られたものを使用することができる。すなわち、バガス(サトウキビのしぼりかす)と脱脂米糠を基材とする固体培地上にシイタケ菌を接種し、次いで菌糸体を増殖させて得られる菌糸体を含む固体培地を、12メッシュ通過分が30重量%以下となるよう解束し、この解束された固体培地に水を添加し、30〜55℃の温度に保ちながら前記固体培地を粉砕、すりつぶしてバガス繊維の少なくとも70重量%以上が12メッシュ通過分であるようにし、次いで80℃にまで温度を上昇させたのち、得られた懸濁状液をろ過することによってシイタケ菌糸体抽出液を得る。本発明においては、このようにして得られた抽出液をそのままシイタケ菌糸体抽出物として使用してもよいが、これを濃縮・凍結乾燥して粉末として保存し、使用時に種々の形態で使用するのが便宜的である。凍結乾燥して得られる粉末は褐色粉末で、吸湿性があり、特異な味と臭いをもつ。
このようにして得られるシイタケ菌糸体抽出物はフェノール-硫酸法による糖質分析により糖質を15〜50%、好ましくは20〜40%(w/w)、Lowry法によるタンパク質分析によりタンパク質を10〜40%、好ましくは13〜30%(w/w)、没食子酸を標準とするFolin-Denis法によりポリフェノール類を1〜5%、好ましくは2.5〜3.5%(w/w)含む。シイタケ菌糸体抽出物にはそのほかに脂質約0.1%、繊維約0.4%、灰分約20%などを含む。
また、上述のようにして得られるシイタケ菌糸体抽出物の構成糖組成(%)の一例は、以下の通りであったが、この組成は培養条件などによって変動しうる:キシロース:15.2;アラビノース:8.2;マンノース:8.4;グルコース:39.4;ガラクトース:5.4;アミノ糖(グルコサミン):12.0;ウロン酸:11.3。
本発明におけるシイタケ菌糸体抽出物は、シイタケ菌糸体抽出物から得られる分画物であってもよい。当該分画物は、本発明の属する技術分野において通常用いられる分画方法により得られ、分画方法の例には、任意の溶媒を用いての抽出による分画、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムを用いた分画、およびシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどが含まれる。分画方法は1種類の方法であってもよく、または複数の手段の組み合わせであってもよい。上記の分画方法で用いる溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、酢酸、アセトン、およびそれらの混合物を用いることができる。当該分画物は、必要に応じて濃縮および/または凍結乾燥などを行うことにより得られる濃縮液、粘稠物質または固体を可溶性画分として使用することができる。
本発明において使用される「がんペプチドワクチン療法効果向上剤」とは、がんペプチドワクチンを投与することによる癌または悪性腫瘍の治療または予防を目的とした療法において、その効果を向上させる組成物を意味する。がんペプチドワクチン療法においては、がんペプチドワクチンの投与後に、生体内において担癌免疫抑制状態が誘導されることが知られており、この抑制状態を解除することにより、がんペプチドワクチン療法の効果が向上することが予想されていた。本発明の発明者は、上述したシイタケ菌糸体抽出物をがんペプチドワクチンとともに投与することにより、がんペプチドワクチンの投与後に生じる担癌免疫抑制状態を解除することができ、結果的にがんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができることを見出した。
がんペプチドワクチン療法に伴って生じる担癌免疫抑制状態は、免疫抑制性因子である制御性T細胞(Treg細胞)が誘導されることにがその一因となる可能性があると考えられている。したがって、この担癌免疫抑制状態を解除するためには、Treg細胞の誘導を抑制することが重要な要素の一つになるものと予想された。本発明の発明者は、シイタケ菌糸体抽出物を投与した場合に、生体内において、制御性T細胞(Treg細胞)の誘導が抑制されることを見出した。
本発明のがんペプチドワクチン療法効果向上剤と同時に使用する「がんペプチドワクチン」は、生体内において特定の癌または悪性腫瘍に対する免疫作用を生じさせることを目的として投与される、治療対象である癌または腫瘍組織に特異的なペプチドを免疫原として含むワクチンのことをいう。したがって、一般に、ワクチンに含まれるペプチドは、治療の目的となる癌または腫瘍ごとに異なるアミノ酸配列を有することを特徴とする。本発明のがんペプチドワクチン療法効果向上剤は、ワクチン中に含まれるがんペプチドの配列に関わらず、すなわち治療対象の癌や悪性腫瘍の種類に関わらず、ワクチンを用いた療法の効果を向上させる作用を有する。
本発明においては、担癌マウスモデルを用いて、本発明のシイタケ菌糸体抽出物の、がんペプチドワクチン療法の効果向上に対する作用を調べた。具体的には、シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末を、粉末餌に対して、1重量%、2重量%、4重量%、または8重量%で配合し、がんペプチドワクチン療法処理をした担癌マウスに経口自由摂取させた。その結果、シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末を、粉末餌に対して1重量%以上含む全ての混合範囲において、がんペプチドワクチン療法の抗腫瘍効果を向上させる作用があることが明らかとなった。
したがって、このような特徴を有することから、本発明のシイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含むがんペプチドワクチン療法効果向上剤は、がんペプチドワクチンと組み合わせて使用することを特徴とする。本発明において「がんペプチドワクチンと組み合わせて使用する」という場合、がんペプチドワクチンと同一の剤形中で投与すること、がんペプチドワクチンとは別の剤形中で投与すること、またはこれらの組合せのいずれであってもよい。また、本発明のがんペプチドワクチン療法効果向上剤の投与は、単回投与であってもまたは複数回投与であってもよい。
本発明の実施例において、がんペプチドワクチン療法の抗腫瘍効果を向上させるために有効なマウスの1日あたりのシイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末摂取量は、約0.03 g〜0.24 g(すなわち、マウスの平均体重が20 gであることから、1.5 g/マウスkg体重〜12.0 g/マウスkg体重)であることが明らかになった。当該技術分野においては、ある成分がマウスにおいて有効とされる場合、その有効とされる成分のkg体重あたりの量が、体重60 kgのヒト成人男性の1日に摂取する有効投与量に相当することが知られている。したがって、ヒトの成人男性が1日あたりに摂取するシイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末の有効量は、1.5 g以上、好ましくは1.5 g〜12.0 g/日/成人である。
シイタケ菌糸体抽出物は元来食品として使用されてきたものであり、過剰摂取に基づく副作用に対する懸念の少ない比較的安全な物質であるので、必要に応じて高濃度で投与することも可能である。本発明においてシイタケ菌糸体抽出物は、少なくとも1.5 g/日/成人、一般に1.5 g〜12.0 g/日/成人(例えば、1.5 g/日/成人、3.0 g/日/成人、6.0 g/日/成人、12.0 g/日/成人など)の用量で使用することができる。
本発明のがんペプチドワクチン療法効果向上剤を使用することにより、免疫原として投与するがんペプチドの投与量を減少させても、生体内において十分な免疫反応を誘導することができる。その結果として、ワクチン中にがんペプチドとともに包含されるアジュバントの量も減少させることができる。アジュバントの量を減少させることにより、アジュバントにより引き起こされる副作用(例えば、疼痛、発赤、腫脹、発熱、発疹など)も減少させることができる。
本発明は、別の態様において、シイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含む、がんペプチドワクチン療法効果向上剤を含む、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させるための、医薬組成物もまた提供する。本発明の医薬組成物は、がんペプチドワクチンに加えて、有効量のシイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含む、がんペプチドワクチン療法効果向上剤を含むことを特徴とする。
このように、本発明の医薬組成物は、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させ、結果的にそのがんペプチドワクチンの適用対象である癌または悪性腫瘍を治療または予防するために使用することができる。
本発明の医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができ、非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
本発明の医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、例えば、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を含みうる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
本発明の医薬組成物の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができる。具体的には、前述したとおり、少なくとも1.5 g/日/成人、好ましくは1.5 g〜12.0 g/日/成人(例えば、1.5 g/日/成人、3.0 g/日/成人、6.0 g/日/成人、12.0 g/日/成人など)の用量の本発明のシイタケ菌糸体抽出物を投与することができる投与量で使用することができる。
本発明のさらに別の側面によれば、がんペプチドワクチンを投与した個体の血液を、in vitroにおいて、がんペプチドワクチン療法効果向上剤により処理することにより、効果的に養子免疫を成立させる方法もまた、提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記したがんペプチドワクチン療法効果向上剤を含む食品組成物が提供される。本発明の食品組成物は、機能性飲料などの液体飲料を含む。がんペプチドワクチン療法効果向上剤を含む食品組成物は、機能性食品として使用できるほか、医薬部外品、飲食物などの成分、食品添加物などとして使用することができる。このような使用により、がんペプチドワクチン療法効果向上効果を有する飲食物、食品組成物または経口摂取用組成物の日常的および継続的な摂取が可能となり、効果的ながんペプチドワクチン療法効果向上効果による体質改善、癌、悪性腫瘍および感染症などの疾患の治療および発症の予防が可能となる。
本発明のがんペプチドワクチン療法効果向上剤を含む食品組成物、食品または飲料の例としては、特定機能性食品などを含む機能性食品、健康食品、一般食品(ジュース、菓子、加工食品等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが含まれる。本明細書における食品または飲料を含む飲食品(すなわち、食品組成物)は、限定はされないが、鉄およびカルシウムなどの無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖およびキトサンなどの食物繊維、大豆抽出物などのタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖および乳糖などの糖類、シイタケなどの植物抽出物などを含むことができる。
実施例1:シイタケ菌糸体抽出物(L.E.M.)の調製
バガス90重量部、米糠10重量部からなる固体培地に純水を適度に含ませた後に、シイタケ菌糸体を接種し、温度および湿度を調節した培養室内に放置し、菌糸体を増殖させた。菌糸体が固体培地に蔓延した後、バガス基材の繊維素を解束し、12メッシュ通過分が24重量%以下となるようにした。この解束された培地1.0 kgに、純水1.25 Lを加え、80℃・2時間ジャケット・プレヒーター加熱を行い、液循環抽出をした後、100メッシュろ布を用いてろ過した。
ろ過抽出物を減圧濃縮し、濃縮終点をBrix27±2%になるように濃縮した。この濃縮抽出物を、瞬間加熱滅菌機を用いて135℃15秒で滅菌を施した。得られた滅菌抽出物を、滅菌水を用いてBrix25%±2%に調整した後、凍結乾燥を行った。この凍結乾燥粉末を、粉砕収率97±3%を目安にして自由粉砕機(スクリーン1 mm)で粉砕後、42メッシュ通過分をシイタケ菌糸体エキス末として300 gを得た。
実施例2:シイタケ菌糸体抽出物のアジュバント低減効果
本実施例は、シイタケ菌糸体抽出物が、がんペプチドワクチンに含有されるアジュバントの量を減少させることができるか否かを調べることを目的として行った。
(1)動物の飼育方法
本実施例においては、マウスを使用して実験を行った。日本SLC株式会社より購入した、C57BL/6マウス雌6週齢を温度23±2℃、湿度55±15%、明暗サイクル12時間、換気回数12回/時間の条件の下、1週間馴化飼育したのち、7週齢になったマウスを試験に用いた。なお、飲み水は水道水を用い、自由摂取とした。
(2)細胞培養
本実施例においては、癌細胞として、マウスメラノーマ細胞であるB16BL6細胞(RIKEN BIORESOURCE CENTER CELL BANK)を使用した。B16BL6細胞は、RPMI-1640培地(SIGMA)に10%のウシ胎児血清(FBS;Thermo Trace)と1%のペニシリンストレプトマイシン(Wako)を添加した培養液を用い、CO2インキュベーター内で37℃、5%CO2条件下で培養した。培養後、B16BL6はcold PBSを用いて1.5×107個/mlになるように調整した。
(3)B16BL6細胞の移植
生後6週齢で入荷した後1週間馴化飼育した、7週齢の雌のC57BL/6マウスを、1群5匹ずつ体重指標で群わけした後、右足底の皮下に1.5×107個/mlになるように調整したB16BL6細胞懸濁液を50μl(7.5×104個)ずつ移植した。
(4)免疫誘導
初期免疫誘導は、B16BL6細胞の移植翌日(すなわち、day1)、右鼠蹊部皮下にTRP2(チロシナーゼ-関連タンパク質-2)181-188ペプチド(VYDFFVWL(SEQ ID NO: 1)、PH Japan)を含むフロイント完全アジュバント(CFA;SIGMA)を50μl/マウス(低アジュバント群)または100μl/マウス(高アジュバント群)で皮下注射した。追加免疫誘導はCFAで免疫7日後(すなわち、day8)に、右鼠蹊部皮下にTRP2181-188ペプチドを含むフロイント不完全アジュバント(IFA;SIGMA)を50μl/マウス(低アジュバント群)または100μl/マウス(高アジュバント群)で皮下注射した。
(5)被験物質の混餌投与
粉末飼料(CE-2粉末:日本クレア)に対して、実施例1において調製したシイタケ菌糸体抽出物(L.E.M.)を2%添加した飼料(L.E.M. 2%群)またはL.E.M.を添加しない飼料(L.E.M. 0%群)でマウスを飼育した。各群のマウス(n=5)に対して、移植翌日(day1)から20日間、それぞれの飼料を、連続自由摂取させた。
(6)試験期間および薬効評価
試験期間は移植日をday0としてday20までの21日間とした。がんペプチドワクチンおよび/またはシイタケ菌糸体抽出物を投与した結果についての薬効評価は、飼育期間終了時の、高アジュバント群および低アジュバント群のそれぞれについて、L.E.M. 2%群およびL.E.M. 0%群の各群(計4群)における平均腫瘍部重量を測定することにより行った。
(7)結果
結果を以下の表1に示す。
この結果から、マウスの免疫化のために通常使用されているアジュバント量である100μl/マウスでアジュバントを使用するか、半量のアジュバント量である50μl/マウスで使用するかに関わらず、ほぼ同様の治療効果が得られることが示された。以下の実施例においては、この実験結果を踏まえ、以下の実施例3においては、CFAおよびIFAともに、50μl/マウスの量で使用することとした。
実施例3:シイタケ菌糸体抽出物のがんペプチドワクチン療法効果向上効果
本実施例は、がんペプチドワクチンを、種々の濃度のシイタケ菌糸体抽出物と組合せて投与した場合に、がんペプチドワクチン療法の効果向上作用が見られるか否かについて調べることを目的として行った。
(1)動物の飼育方法
本実施例において、動物の飼育は、実施例2の(1)に記載の通り行った。
(2)細胞培養
本実施例において、細胞の培養は、実施例2の(2)に記載の通り行った。
(3)B16BL6細胞の移植
本実施例において、B16BL6細胞の移植は、実施例2の(3)に記載の通り行った。
(4)免疫誘導
免疫誘導は、CFA量およびIFA量を全ての群において50μl/マウスとした点以外は、実施例2の(4)に記載の通り行った。
(5)被験物質の混餌投与
実施例1において調製したシイタケ菌糸体抽出物を、粉末飼料(CE-2粉末:日本クレア)に対して、以下の表2に示す飼料1〜4および比較例1〜3の飼料組成にそれぞれ示す組成で混合した。具体的には、CE-2粉末餌に対してシイタケ菌糸体抽出物を1%、2%、4%および8%添加した飼料を、それぞれ飼料1〜4とし、一方添加物を一切含まない飼料を比較例1、免疫抑制状態を解除する薬剤として公知であるPSK(クレスチン:第一三共)またはβ(1→3)グルカンをそれぞれ2%添加した飼料をそれぞれ比較例2および比較例3とした。各群のマウス(n=5)に対して、移植翌日(day1)から20日間、それぞれの飼料を、連続自由摂取させた。
(6)試験期間および薬効評価
試験期間は移植日をday0としてday20までの21日間とした。がんペプチドワクチンおよび/またはシイタケ菌糸体抽出物を投与した結果についての薬効評価は、飼料1〜4および比較例1〜3の各群における平均腫瘍部重量を測定し、比較例1(L.E.M. 0%群)の平均腫瘍部重量を100%とした場合の割合で以下の式に基づいて算出し、腫瘍の抑制率とした。
(7)結果
結果を以下の表3および図1に示す。
これらの結果から、飼料1〜4のいずれの飼料を摂取したマウスにおいて、いずれも、比較例1と比較して、がんペプチドワクチン療法の抗腫瘍効果向上作用があることが明らかとなった。また、これまで免疫抑制状態を解除する薬剤として公知であるPSK(2%)やβ(1→3)グルカン(2%)を添加した群と比較して、L.E.M.(2%)を添加した飼料2の抗腫瘍効果向上作用が非常に高いこともまた示された。
今回の試験におけるマウスの1日あたりのシイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末摂取量は、約0.03 g(飼料1)〜0.24 g(飼料4)であった。マウスの体重は平均して20 gに調整してあり、マウスが摂取したシイタケ菌糸体抽出物は、それぞれ、飼料1では1.5 g/マウスkg体重、飼料2では3.0 g/マウスkg体重、飼料3では6.0 g/マウスkg体重、そして飼料4では12.0 g/マウスkg体重であった。これはヒト成人男性(60 kg)が1日あたりに摂取する量に換算すると、飼料1では1.5 g、飼料2では3.0 g、飼料3では6.0 g、そして飼料4では12.0 gに相当する。
したがって、本実施例のマウスにおける実験をヒトに外挿してヒトの成人男性が1日で摂取する量に換算すると、シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末を、少なくとも1日あたり1.5 g以上摂取することで、所望の有効性が得られることが予想される。
これらの結果から、本発明のシイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末には、従来の手法(例えば、PSKやβグルカンを使用する手法)と比較して、高度にがんペプチドワクチン療法の抗腫瘍効果を向上させることが明らかになった。
実施例4:シイタケ菌糸体抽出物のTreg細胞活性抑制効果
本実施例においては、シイタケ菌糸体抽出物が、がんペプチドワクチンの投与後に生じる担癌免疫抑制状態をどの様な作用機序により解除しているのかを調べることを目的として、シイタケ菌糸体抽出物のTreg細胞に対する抑制効果を調べた。
(1)動物の飼育方法
本実施例において、動物の飼育は、実施例2の(1)に記載の通り行った。
(2)細胞培養
本実施例において、細胞の培養は、実施例2の(2)に記載の通り行った。
(3)B16BL6細胞の移植
本実施例において、B16BL6細胞の移植は、実施例2の(3)に記載の通り行った。
(4)被験物質の混餌投与
実施例1において調製したシイタケ菌糸体抽出物を、粉末飼料(CE-2粉末:日本クレア)に対して2%添加した飼料を与えた群(「L.E.M. 2.0%」群)、そして添加物を一切含まない飼料を与えた群(「対照」群)とした。B16BL6細胞の移植を行わず、シイタケ菌糸体抽出物も投与も行わない群(「非処置」群)をもう一つの対照として使用した。各群のマウス(n=5)に対して、移植翌日(day1)から20日間、それぞれの飼料を、連続自由摂取させた。
(5)評価項目
本実施例においては、Treg細胞の増殖あるいは活性を調べるため、特定組織中でのTreg細胞の比率、Foxp3の発現、そしてTGF-βの存在量を測定した。
脾臓中のTreg細胞比率の測定、腫瘍流入リンパ節中のTreg細胞比率の測定は、それぞれの組織を採取し、トリプシン処理により細胞をバラバラにした後、Foxp3+CD4+の表現型を有する細胞をTreg細胞としてフローサイトメトリーにより回収することにより行った。
Treg細胞マーカーとして知られるFoxp3の発現量の解析は、切除された腫瘍組織サンプルから作製したcDNAを鋳型として、以下の手順にしたがって、リアルタイムPCR解析を行うことにより行った。
RNeasy Plant Miniキット(Qiagen)を用いて、C57BL6マウスより採取した腫瘍部位から、Total RNAを単離した。そのTotal RNAを用いて、Superscript First-Strand Synthesis System(Invitrogen)とランダムプライマーを用いて、一本鎖cDNAを合成した。その後、Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen)とEXPRESS SYBER GreenER qPCR SupreMixes(Invitrogen)を用いて、一本鎖cDNAを増幅した。リアルタイムPCR解析は、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(ABI)を用いて行った。温度サイクルは、最初の変性段階として、95℃2分を1サイクル行い、その後、95℃15秒と60℃1分のサイクルを40サイクル行った。Foxp3のmRNA量は、細胞内に一定量含まれるとされている、β-アクチンのmRNA量と比較した場合の、Foxp3の相対量として算出した。
Foxp3およびβ-アクチンを増幅するためのプライマーとして、
Foxp3:5'-tgcagggcag ctaggtactt gta-3'(SEQ ID NO: 2)と5'-tctcggagat cccctttgtc t-3'(SEQ ID NO: 3);
β-アクチン:5'-agagggaaat cgtgcgtgac-3'(SEQ ID NO: 4)と5'-caatagtgat gacctggccg t-3'(SEQ ID NO: 5);
をそれぞれ使用した。
そして、Treg細胞の活性と正の相関をしていると考えられているTGF-βの発現量は、TGF-βに対する抗体(eBioscience)を使用したELISA解析により測定した。
(6)結果
結果を図2(a)〜(d)に示す。これらの結果から示されることは、B16BL6細胞を移植したがシイタケ菌糸体抽出物を投与していない「対照」群では、非処置群のマウスの場合と比較して、生体内においてTreg細胞が顕著に増加しており、その細胞数の増加は、血漿内TGF-β量の増加と正の相関を示していた。
これに対して、シイタケ菌糸体抽出物を20日間投与した群(「L.E.M. 2.0%」群)においては、B16BL6細胞を移植したがシイタケ菌糸体抽出物を投与していない「対照」群と比較して、生体内においてTreg細胞が顕著に減少しており、その細胞数の減少は、血漿内TGF-β量の減少と正の相関を示していた。同様の傾向は、腫瘍内細胞におけるFoxp3の発現量においても見られた。
これらの結果から、シイタケ菌糸体抽出物を投与することにより、脾臓、所属リンパ節、のいずれにおいても、Treg細胞は減少し、腫瘍内細胞では、Treg細胞に特有のmRNAの発現量が減少していた。更には、Treg誘導因子の一つであるTGF-β量も減少していた。その結果Treg細胞の誘導が総体的に低下したことが明らかになった。このことから、シイタケ菌糸体抽出物を投与することによる担癌免疫抑制状態の解除が、Treg細胞の細胞数の減少、若しくはTreg細胞の誘導の低下、に基づいて生じていることが示された。
実施例5:錠剤の調製
表4に記載する処方からなる組成物(処方例1〜3)を、慣用法に従って錠剤として調製した。具体的には、各成分を処方に従って配合し、粉砕、造粒、乾燥、整粒および混合を行い、それを定法に従って打錠して250 mgの錠剤に調整した。
実施例6:顆粒剤の調製
表5に記載する処方からなる組成物(処方例4〜6)を、慣用法に従って顆粒剤として調製した。具体的には、各成分を処方に従って配合し、定法に従って、混合、造粒、乾燥および整粒をして2 gの顆粒剤に調整した。
実施例7:茶飲料の調製
表6に記載する処方からなる粉末組成物(処方例7〜10)を調製し、次いで、これを市販の緑茶に溶解し、200 gの茶飲料とした。
本発明において提供されるシイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含む、がんペプチドワクチン療法効果向上剤により、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させることができる。これに加えて、本発明において提供されるがんペプチドワクチン療法効果向上剤をがんペプチドワクチンとともに使用することにより、免疫原としてのがんペプチドワクチン中に含まれるアジュバントの量を低減して、副作用をより低く抑えつつ、癌に対しては高い有効性を発揮することができることを新たに明らかにした。
SEQ ID NO: 1は、TRP2のアミノ酸配列(GenBank Accession No. X63349の配列で規定されるもの)の、アミノ酸番号181番〜188番の8アミノ酸からなるペプチドを示す。
SEQ ID NO: 2およびSEQ ID NO: 3は、マウスFoxp3遺伝子のヌクレオチド配列を増幅するためのプライマーのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO: 4およびSEQ ID NO: 5は、対照であるマウスβ-アクチン遺伝子のヌクレオチド配列を増幅するためのプライマーのヌクレオチド配列である。

Claims (8)

  1. シイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含む、がんペプチドワクチン療法効果向上剤。
  2. がんペプチドワクチンの投与後に生じる担癌免疫抑制状態を解除することにより作用する、請求項1に記載のがんペプチドワクチン療法効果向上剤。
  3. シイタケ菌糸体抽出物が、制御性T細胞(Treg細胞)の活性を抑制する、請求項1または2に記載のがんペプチドワクチン療法効果向上剤。
  4. シイタケ菌糸体抽出物が、バガス(サトウキビのしぼりかす)と脱脂米糠を基材とする固体培地上にシイタケ菌を接種し、次いで菌糸体を増殖させて得られる菌糸体を含む固体培地を、12メッシュ通過分が30重量%以下となるよう解束し、この解束された固体培地に水を添加し、30〜55℃の温度に保ちながら前記固体培地を粉砕、すりつぶしてバガス繊維の少なくとも70重量%以上が12メッシュ通過分であるようにし、次いで80℃にまで温度を上昇させたのち、得られた懸濁状液をろ過することにより製造される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のがんペプチドワクチン療法効果向上剤。
  5. シイタケ菌糸体抽出物のヒトへの投与量が、一日当たり1.5 g以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のがんペプチドワクチン療法効果向上剤。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のがんペプチドワクチン療法効果向上剤を含む、がんペプチドワクチン療法の効果を向上させるための、医薬組成物。
  7. 癌または悪性腫瘍を治療または予防するための、請求項7に記載の医薬組成物。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のがんペプチドワクチン療法効果向上剤を含む、飲食品組成物。
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