<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態における印刷装置の構成を示す斜視図である。印刷装置1000は、インクカートリッジが装着されるカートリッジ装着部1100と、回動自在なカバー1200と、操作部1300とを有する。この印刷装置1000は、ポスターなどの大判の用紙(A2〜A0サイズ等)に印刷を行う大型のインクジェットプリンター(Large Format Ink Jet Printer)である。カートリッジ装着部1100を「カートリッジホルダー」又は単に「ホルダー」とも呼ぶ。図1に示す例では、カートリッジ装着部1100には、4つのインクカートリッジ(「液体供給ユニット」又は単に「カートリッジ」とも呼ぶ)のそれぞれが独立に装着可能であり、例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4種類のインクカートリッジが装着される。なお、カートリッジ装着部1100に装着されるインクカートリッジとしては、これら以外の任意の複数種類のインクカートリッジを採用可能である。また、図1には、説明の便宜上、互いに直交するXYZ軸が描かれている。+X方向は、インクカートリッジ100がカートリッジ装着部1100に挿入される方向(以下、「挿入方向」又は「装着方向」と呼ぶ)である。なお、以降の図におけるXYZ軸についても同様とする。
カートリッジ装着部1100には、カバー1200が開閉可能に取り付けられている。なお、カバー1200は省略可能である。操作部1300は、ユーザーが各種の指示や設定を行うための入力装置であり、ユーザーに各種の通知を行うための表示部を備えている。また、印刷装置1000は、印刷ヘッドや、印刷ヘッドの走査を行うための主走査送り機構及び副走査送り機構、印刷ヘッドを駆動してインクを吐出させるヘッド駆動機構等を有しているが、ここでは図示を省略する。この印刷装置1000のように、ユーザーにより交換されるカートリッジが、印刷ヘッドのキャリッジ以外の場所に設けられたカートリッジ装着部に装着される印刷装置のタイプを、「オフキャリッジタイプ」と呼ぶ。
図2は、インクカートリッジ100の外観を示す斜視図である。このカートリッジ100は、扁平な略直方体の外観形状を有しており、3方向の寸法L1,L2,L3のうちで、長さL1(挿入方向のサイズ)が最も大きく、幅L2が最も小さく、高さL3が長さL1と幅L2の中間となっている。なお、印刷装置のタイプによっては、長さL1が高さL3よりも小さいカートリッジも存在する。
カートリッジ100は、先端面(第1の面)Sfと、後端面(第2の面)Srと、天井面(第3の面)Stと、底面(第4の面)Sbと、2つの側面(第5及び第6の面)Sc,Sdとを備えている。先端面Sfは、挿入方向Xの先頭に位置する面である。先端面Sfと後端面Srは、6つの面のうちで最も小さく、互いに対向している。先端面Sfと後端面Srのそれぞれは、天井面Stと底面Sbと2つの側面Sc,Sdとに交わっている。カートリッジ100がカートリッジ装着部1100に装着された状態では、天井面Stが鉛直方向の上端に位置し、底面Sbが鉛直方向の下端に位置する。2つの側面Sc,Sdは、6つの面の中で最も大きな面であり、互いに対向している。カートリッジ100の内部には、可撓性材料で形成されたインク収容室120(「インク収容袋」とも呼ぶ)が設けられている。インク収容室120は、可撓性材料で形成されているので、インクが消費されてゆくにつれて次第に収縮し、主に厚み(Y方向の幅)が小さくなる。
先端面Sfは、2つの位置決め穴131,132と、インク供給口110とを有している。2つの位置決め穴131,132は、カートリッジ装着部1100内におけるカートリッジの収容位置を定めるために用いられる。インク供給口110は、カートリッジ装着部1100のインク供給管と接続されて、カートリッジ100内のインクを印刷装置1000に供給する。天井面Stには、回路基板200が装着されている。図2の例では、回路基板200は、天井面Stの先端(挿入方向Xの最も先端側の端部)に装着されている。但し、回路基板200は、天井面Stの先端近傍の他の位置に装着しても良く、更に、天井面St以外の位置に装着しても良い。回路基板200には、インクに関する情報を格納するための不揮発性の記憶素子が設けられている。なお、回路基板200を単に「基板」とも呼ぶ。底面Sbは、カートリッジ100を収容位置に固定するために用いられる固定溝140を有している。側面Sdと先端面Sfが交わる位置には、凹凸嵌合部134が配置されている。この凹凸嵌合部134は、カートリッジ装着部1100の凹凸嵌合部と共に、カートリッジの誤装着を防止するために用いられる。
このカートリッジ100は、大型インクジェットプリンター用のカートリッジであり、個人向けの小型インクジェットプリンター用のカートリッジに比べて、カートリッジ寸法が大きく、また、収容されているインク量も多い。例えば、カートリッジの長さL1は、大型インクジェットプリンター用のカートリッジでは100mm以上であるのに対して、小型インクジェットプリンター用のカートリッジでは70mm以下である。また、未使用時のインク量は、大型インクジェットプリンター用のカートリッジでは17ml以上(典型的には100ml以上)であるのに対して、小型インクジェットプリンター用のカートリッジでは15ml以下である。また、多くの場合に、大型インクジェットプリンター用のカートリッジは、先端面(挿入方向の先頭の面)においてカートリッジ装着部と機械的に連結されるのに対して、小型インクジェットプリンター用のカートリッジでは底面においてカートリッジ装着部と機械的に連結される。大型インクジェットプリンター用のカートリッジでは、このような寸法、重量、又は、カートリッジ装着部との連結位置に関する特徴点に起因して、小型インクジェットプリンター用のカートリッジに比べて回路基板200の端子における接触不良が発生し易い傾向にある。この点については更に後述する。
ところで、従来は、カートリッジに設けられている多数の端子のうちの1つ又は2つの端子を用いて装着状態の検出が行われるのが普通であった。しかし、カートリッジが正しく装着されていることが検出された場合にも、装着検出に使用されていない他の端子については、印刷装置の端子との接触が不十分な場合がある。特に、記憶装置用の端子の接触が不十分な場合には、記憶装置からのデータの読み出し時や記憶装置へのデータの書き込み時にエラーが発生するという問題が生じる。
このような端子の接触不良の問題は、ポスターなどの大判の用紙(A2〜A0サイズ等)に印刷を行う大型インクジェットプリンター用のインクカートリッジにおいて特に重要である。すなわち、大型インクジェットプリンターでは、インクカートリッジの寸法が小型インクジェットプリンターに比べて大きく、また、カートリッジに収容しているインク重量も多い。このような寸法及び重量の違いから、大型インクジェットプリンターでは、小型インクジェットプリンターに比べてインクカートリッジが傾き易い傾向にある。また、大型インクジェットプリンターでは、インクカートリッジとカートリッジホルダー(「カートリッジ装着部」とも呼ぶ)との連結位置がインクカートリッジの側面に設けられていることが多く、一方、小型インクジェットプリンターではインクカートリッジの底面に連結位置が設けられていることが多い。このような連結位置の相違点からも、大型インクジェットプリンターは、小型インクジェットプリンターに比べてインクカートリッジが傾き易い傾向にあることが判明した。このように、大型インクジェットプリンターでは、種々の構成に起因して、小型インクジェットプリンターに比べてインクカートリッジが傾き易く、この結果、基板の端子における接触不良が発生し易い傾向にある。
図3A〜図3Cは、カートリッジ装着部1100の構成を示す図である。図3Aは、カートリッジ装着部1100を斜め後方から見た斜視図であり、図3Bは、カートリッジ装着部1100の内部を、その正面(カートリッジを挿入する口)から見た図である。図3Cは、カートリッジ装着部1100の内部を断面から見た図である。なお、図3A〜図3Cでは、図示の便宜上、一部の壁部材などを省略している。カートリッジ装着部1100は、カートリッジを収容するための4つの収容スロットSL1〜SL4を備えている。図3Bに示すように、カートリッジ装着部1100の内部には、1スロット毎に、インク供給管1180と、一対の位置決めピン1110,1120と、凹凸嵌合部1140と、接点機構1400とが設けられている。図3Cに示すように、インク供給管1180と、一対の位置決めピン1110,1120と、凹凸嵌合部1140とは、カートリッジ装着部の奥壁部材1160に固定されている。インク供給管1180と、位置決めピン1110,1120と、凹凸嵌合部1140とは、スライダー部材1150に設けられた貫通孔1181,1111,1121,1141に挿入され、カートリッジの挿入方向とは逆向きに突出して配置されている。図3Aは、奥壁部材1160をはずして、スライダー部材1150を裏側からみた図である。図3Aでは、位置決めピン1110,1120を省略して図示している。図3Aに示すように、スライダー部材1150の裏側には、一対の位置決めピン1110,1120に対応した一対の付勢バネ1112,1122が設けられている。図3Cに示すように、一対の付勢バネ1112,1122は、スライダー部材1150と奥壁部材1160に固定して配置されている。
インク供給管1180は、カートリッジ100のインク供給口110(図2(B))に挿入されて、インクを印刷装置1000内部の印刷ヘッドに供給するために用いられる。位置決めピン1110,1120は、カートリッジ100がカートリッジ装着部1100に挿入される際に、カートリッジ100に設けられた位置決め穴131,132に挿入されて、カートリッジ100の収容位置を定めるために用いられる。凹凸嵌合部1140は、カートリッジ100の凹凸嵌合部134の形状に対応する形状を有しており、各収容スロットSL1〜SL4毎に異なる形状を有している。これにより、各収容スロットSL1〜SL4には、予め決定された一種類のインクを収容するカートリッジのみが収容可能となり、他の色のカートリッジは収容できないこととなる。
各収容スロットの奥の壁面に配置されたスライダー部材1150は、カートリッジの挿入方向(X方向)及び排出方向(−X方向)にスライド可能に構成されている。各収容スロットに設けられた一対の付勢バネ1112,1122(図3A)は、スライダー部材1150を排出方向に付勢している。カートリッジ100は、収容スロットに挿入される際に、スライダー部材1150とともに一対の付勢バネ1112,1122を挿入方向に押してゆき、付勢バネ1112,1122の付勢力に抗しつつ押し込まれる。従って、カートリッジ100は、カートリッジ装着部1100に収容された状態において、一対の付勢バネ1112,1122によって排出方向に付勢される。また、この収容状態では、各収容スロットSL1〜SL4の底部に設けられた固定部材1130(図3B)が、カートリッジ100の底面Sbに設けられた固定溝140(図2(B))に係合する。この固定部材1130と固定溝140の係合により、付勢バネ1112,1122の付勢力によってカートリッジ100がカートリッジ装着部1100から排出されてしまうことが防止される。
カートリッジ100を排出する場合には、ユーザーによりカートリッジ100が一旦挿入方向に押し込まれると、これに応じて固定部材1130と固定溝140との間の係合が外れる。この結果、カートリッジ100は、一対の付勢バネ1112,1122の付勢力により排出方向に押し出される。従って、ユーザーはカートリッジ100をカートリッジ装着部1100から容易に取り出すことができる。
接点機構1400(図3B、図3C)は、カートリッジ100がカートリッジ装着部1100に挿入された場合に、回路基板200の各端子と接触して導通する複数の装置側端子を有する。印刷装置1000の制御回路は、この接点機構1400を介して、回路基板200との間で信号の送受信を行う。接点機構1400については、詳細を後述する。
図4(A)は、カートリッジ100に装着される回路基板200の表面FSの構成を示している。図4(B)は、回路基板200の裏面BSの構成を示している。図4(C)は、回路基板200を側面から見た図を示している。この回路基板200は、カートリッジ100に固定されて装着されるものである。回路基板200の表面FSは、カートリッジ100に回路基板200が装着されたときに外側に露出している面であり、且つ、印刷装置1000に設けられた接点機構1400(図3B)の複数の装置側端子と対向する側の面である。回路基板200の裏面BSは、カートリッジ100に回路基板200が装着されたときに、カートリッジ100側を向く面である。回路基板200の絶縁基材190の上端(以下、図中の上端を示す)部には、ボス溝H2が形成され、絶縁基材190の下端(以下、図中の下端を示す)部には、ボス穴H1が形成されている。
回路基板200の表面FSには9つの端子210〜290からなる端子群が設けられている。これらの端子210〜290は、接点機構1400の複数の装置側端子とそれぞれが接触する電極端子(「接触端子」とも呼ぶ)として使用される。端子210〜290は、挿入方向となるX方向と略垂直な列を2列形成するように配置されている。2つの列のうち、挿入方向の手前側の列(上側に位置する列)を上側列R1(第1列)と呼び、挿入方向の先端側の列(下側に位置する列)を下側列R2(第2列)と呼ぶ。
端子210〜290は、それぞれの中央部に、接点機構1400の複数の装置側端子のうちの対応する端子と接触する接触部cpを含んでいる。上側列R1を形成する端子210〜240の各接触部cpと、下側列R2を形成する端子250〜290の各接触部cpは、互い違いに配置され、いわゆる千鳥状の配置を構成している。また、回路基板200の表面FSの下端付近には、下端の外形に沿ってU字型のメタル層204が形成されている。このメタル層204は、端子250〜290と同じ製造工程を経て形成されるものである。
図4(B),(C)に示すように、回路基板200の裏面BSには、樹脂RC10に覆われた記憶装置203が設けられている。記憶装置203は、カートリッジ100のインクに関する情報(例えばインク残量等)を格納するために使用される。また、回路基板200の裏面BSには、2つの端子250b,290bが形成されている。
本実施形態において、上側列R1を形成する端子210〜240と、下側列R2を形成する端子250〜290とは、それぞれ以下の機能(用途)を有する。
<上側列R1>
(1)過電圧検出端子210(リーク検出/装着検出兼用)
(2)クロック端子220
(3)リセット端子230
(4)過電圧検出端子240(リーク検出/装着検出兼用)
<下側列R2>
(5)センサー端子250(装着検出兼用)
(6)電源端子260
(7)接地端子270
(8)データ端子280
(9)センサー端子290(装着検出兼用)
上側列R1の両端にある過電圧検出端子210,240とその接触部cpは、過電圧の検出(後述)と、端子間のリーク検出(後述)と、装着検出(接触検出)とに使用される。また、下側列R2のセンサー端子250,290とその接触部cpは、カートリッジ100に設けられたセンサーを使用したインク残量の検出と、装着検出(接触検出)の両方に使用される。他の5つの、クロック端子220、リセット端子230、電源端子260、接地端子270、データ端子280は、記憶装置203用の端子であり、「メモリー端子」とも呼ぶ。なお、これらの複数のメモリー端子にどのような機能(用途)を割り当てるかは任意である。また、メモリー端子は第1の端子、過電圧検出端子210,240とセンサー端子250,290とは第2の端子に相当する。
図5(A)は、回路基板200の表面FSに形成された導体パターンの一例を示している。ここでは、図4(A)に示した9つの端子210〜290の図に加えて、導体で形成された各配線CPT及び配線CPTaと、7つのスルーホールTH220,TH230,TH250,TH260,TH270,TH280,TH290とが形成されている。これらのスルーホールは、各配線CPTにより、いずれかの端子と接続されている。各スルーホールに付された符号の末尾の3桁の数字は、各スルーホールに接続されている端子を表している。例えば、図5(A)の左上に存在するスルーホールTH220は、クロック端子220と接続されている。また、過電圧検出端子210と過電圧検出端子240とは、配線CPTaによって短絡接続されている。
各スルーホールは、絶縁基材190を貫通して、表面FSと裏面BSとを電気的に接続している。また、裏面BSにも配線が形成されており、表面FSの各メモリー端子は、表面FSの配線と裏面BSの配線とを介して記憶装置203と接続されている。表面FSの端子250,290と裏面BSの端子250b,290bとは、それぞれが導通している。
端子210〜290と配線CPT及び配線CPTaは、同じ製造工程を経て同時に形成される端子と配線パターンである。
また、接地端子270から挿入方向Xの逆向き(−X方向)に延びている配線CPTには、ベタパターンであるGNDベタ205が配置されている。GNDベタパターンは、配線CPTと同時に形成される配線の一部であるが、接地端子から−X方向に延びる配線CPTよりもY方向の長さが大きいパターンとなっている。図5(B)は、GNDベタ205の拡大図である。このGNDベタ205の配線パターンを配置することにより、電気的にインピーダンスを下げてノイズの影響を低減させることができ、安定した信頼性の高い信号伝送が可能になる。更に、GNDベタ205では、ベタの配線を中抜き形状の識別205c(図5(B)の例では「ABCDE」の文字列)が形成されている。GNDベタ205に識別205cを形成することにより、GNDベタ205を本来のノイズ低減の目的以外にも有効利用することができる。例えば、ロゴを表示することにより、メーカー名や製品名等を明示することができる。また、識別205cを中抜き形状にすることにより、GNDベタ205に対して容易にエッチングを行い識別205cを形成することができる。つまり、識別を配線自身のパターンで形成する場合に比べ、識別をベタ中抜きとすることで、配線を過剰にエッチングしても、識別205cを残すことができる。
図5(C)は、図5(A)の導体パターンの上にレジスト被膜RCが形成された状態を示している。端子210〜290は、印刷装置1000に設けられた装置側端子とそれぞれ接触する電極端子として使用されるので、レジスト被膜RCで覆われない状態に維持されている。図5(C)の状態では、レジスト被膜RCの下端が櫛歯状に形成されており、その櫛歯と端子210〜240が1つずつ交互に配置されている。一方、端子210〜290からの各配線が形成されない領域であり端子210〜290を含む領域については、レジスト開口部NRCとして示されている。このレジスト開口部NRCは、レジスト被膜RCが形成されないで、端子210〜290と絶縁基材190とが、そのまま外側に露出している領域である。また、レジスト開口部NRCは、回路基板200の表面FSにおいて、挿入方向Xの先端側の下側列R2を形成する各端子250〜290から、更に先端側の図中下端までの領域を含んでいる。
なお、U字型のメタル層204は、回路基板200のプレス加工において、回路基板200の外形型抜きの品質を向上させるために設けたものである。具体的には、レジスト開口部NRCの部分は、絶縁基材190がむき出しになっており、開口部NRC以外の部分よりも厚さが薄くなっている。このため、回路基板200の外形型抜きを行うと、開口部NRCの部分に対して金型が密着しなくなり、例えば、外形がきれいに切れずにけばが出たり切断面がざらついたりする。これに対して、メタル層204によって適度な厚さを保持することにより、開口部NRCの部分に対して金型を密着させて、けばや切断面のざらつきを防止する効果がある。
図6(A)は、印刷装置1000のカートリッジ装着部1100に設けられた接点機構1400(図3B)をZ方向に沿って(−Zから+Zに向かって)見る背面図であり、図6(B)は、接点機構1400を−Y方向に沿って(+Yから−Yに向かって)見る側面図である。接点機構1400は、9つの接触部材510〜590を含んでおり、第1スリット501と第2スリット502とがY方向に沿って(−Yから+Yに向かって)交互に並んで形成されている。第2スリット502は、第1スリット501に対して、−X方向にシフトしている。これらのスリット501,502には、回路基板200の端子210〜290(図4(A))に対応するように、接触部材510〜590が、はめ込まれている。接触部材510〜590は、それぞれ、導電性と弾性とを有している。
図6(B)に示すように、接触部材510〜590の一端は−Z方向に突出している。この突出した一端は、回路基板200に向かって付勢されており、回路基板200の端子210〜290のうちの対応する端子と接触する。図6(A)には、接触部材510〜590における、端子210〜290と接触する部分510c〜590cが示されている。これらの接触部510c〜590cは、印刷装置1000と、回路基板200の端子210〜290とを、電気的に接続するための装置側端子として機能する。以下、これらの接触部510c〜590cを、装置側端子510c〜590cとも呼ぶ。
一方、図6(B)に示すように、接触部材510〜590の他端は、+Z方向に突出している。この突出した他端は、カートリッジ装着部1100の基板に向かって付勢されており、当該基板に設けられた端子1510〜1590のうちの対応する端子と接触する。図示は省略するが、これらの端子1510〜1590も、図4(A)に示す端子210〜290と同様の位置関係で配置されている。また、これらの端子1510〜1590は、接点機構1400と対向する面に、形成されている。
図7は、インクカートリッジ100(図2)の装着時における、接点機構1400の接触部材510〜590と、回路基板200の端子210〜290との接触動作を示す説明図である。図7(A)〜図7(E)には、−Y方向に沿って(+Yから−Yに向かって)見た接点機構1400と回路基板200とが示されている。インクカートリッジ100の装着時には、回路基板200が挿入方向Xに移動する。それに伴って回路基板200と接点機構1400との位置関係が、図7(A)〜図7(E)の順番に、変化する。
まず、図7(A)の状態を経て、図7(B)に示すように、回路基板200の下端LE(+X方向の端)は、接触部材550〜590に対して−X方向にシフトして配置された4つの接触部材510〜540に、接触する。そして、回路基板200が+X方向に移動することにより、接触部材510〜540が、+Z方向に押される。接触部材510〜540は弾性を有しており、接触部510c〜540cは、−Z方向に付勢されている。従って、接触部材510〜540(接触部510c〜540c)が回路基板200の表面FSと接した状態で、回路基板200は+X方向に移動する。このとき、接触部材510〜540(接触部510c〜540c)は、回路基板200の表面FSのレジスト開口部NRC上を摺動する。
次に、図7(C)に示すように、回路基板200の下端LEは、+X方向にシフトして配置された5つの接触部材550〜590に、接触する。これらの接触部材550〜590も弾性を有しており、接触部550c〜590cは、−Z方向に付勢されている。従って、接触部材550〜590(接触部550c〜590c)が回路基板200の表面FSと接した状態で、回路基板200は+X方向に移動する。このとき、接触部材550〜590(接触部550c〜590c)は、回路基板200の表面FSのレジスト開口部NRC上を摺動する。
図7(D)は、図7(C)の状態から、更に、回路基板200が+X方向に移動した状態を示しており、接触部材510〜540のそれぞれの間を端子250〜290が移動している状態である。このとき、接触部材510〜540(接触部510c〜540c)は、回路基板200の表面FSのレジスト開口部NRC上を摺動している。
最後に、図7(E)に示すように、インクカートリッジ100の装着が完了する。この状態では、接触部材510〜590(接触部510c〜590c)のそれぞれが、回路基板200の対応する端子210〜290と接触している。
上記したように、インクカートリッジ100の挿入時には、回路基板200が、接点機構1400の接触部材510〜590と接した状態で移動する。このとき、接触部材510〜590は、回路基板200のレジスト開口部NRC上を摺動することになるが、レジスト開口部NRCには配線やレジスト被膜RCが形成されていないことから、摺動することによってレジスト被膜RCが掻き取られることがない。これにより、レジスト被膜の塵埃が接触部材510〜590に付着することに起因する、接触部材510〜590と回路基板200の端子210〜290との接触不良を抑制することができる。
図8(A)は、カートリッジ装着部1100内にカートリッジ100が適正に装着された状態を示している。この状態では、カートリッジ100は傾いておらず、その上面や底面がカートリッジ装着部1100の上端部材や下端部材と平行な状態にある。カートリッジ装着部1100のインク供給管1180は、カートリッジ100のインク供給口110に連結され、カートリッジ装着部1100の位置決めピン1110,1120は、カートリッジ100の位置決め穴131,132に挿入される。更に、カートリッジ装着部1100の底部に設けられた固定部材1130は、カートリッジ100の底面に設けられた固定溝140に係合する。そして、カートリッジの先端面Sfが、カートリッジ装着部1100の一対の付勢バネ1112,1122によって排出方向に付勢されている。カートリッジ100が適正に装着された状態では、カートリッジ装着部1100の接点機構1400と、カートリッジ100の回路基板200の端子210〜290(図4(A))とが互いに良好な接触状態で接触する。
ところで、カートリッジ装着部1100は、カートリッジ100の装着を容易にするために、その内部に多少の遊びがある。このため、カートリッジ100は、図8(A)に示すような傾いていない正立した適正な状態で収納されるとは限らず、カートリッジの幅方向(Y方向)に平行な軸を中心として傾く場合がある。具体的には、図8(B)に示すようにカートリッジの後端がやや下がった状態に傾斜したり、逆に、図8(C)に示すようにカートリッジの後端がやや上がった状態に傾斜したりする場合が生じる。特に、インクが消費されてゆき、インク界面LLが低下してくると、収容されているインク重量の変化に応じた重心の変化や、付勢バネ1112,1122による付勢力とインク重量を含むカートリッジ重量とのバランスが変化する。そして、この重量バランスの変化に応じてカートリッジが傾きやすくなる傾向がある。カートリッジが傾くと、カートリッジの回路基板200に設けられた複数の端子の中のいくつかの端子に接触不良が発生する可能性がある。特に、図8(B),(C)の状態では、回路基板200(図4(A))の上側列R1の端子群210〜240と、下側列R2の端子群250〜290のうちの一方の1つ以上の端子に接触不良が発生する可能性がある。
また、カートリッジが傾く際には、図8(B),(C)とは垂直な方向の傾き(挿入方向Xに平行な軸を中心とした傾き)も併せて発生する場合がある。このときには、回路基板200も、その挿入方向Xに平行な軸を中心として左右に傾き、回路基板200の左側にある端子群210,220,250,260と、右側にある端子230,240,280,290群と、のうちの一方の1つ以上の端子に接触不良が発生する可能性がある。
このような接触不良が発生すると、カートリッジの記憶装置203と印刷装置1000との間の信号の送受信を正常に行うことができないという不具合が生じる。また、インク滴やほこりなどの異物が回路基板200の端子付近に付着すると、端子同士に意図しない短絡やリークが発生する場合もある。以下で説明する各種の実施形態における装着状態の検出処理では、このようなカートリッジの傾きに起因する接触不良を検出したり、異物に起因する意図しない短絡やリークを検出したりするために実行される。
ところで、大型のインクジェットプリンター用のカートリッジは、個人向けの小型のインクジェットプリンター用のカートリッジと比較して、以下のような特徴点を有している。
(1)カートリッジ寸法が大きい(長さL1が100mm以上)。
(2)収容されているインク量が多い(17ml以上であり、典型的には100mL以上である)。
(3)先端面(挿入方向の先頭の面)においてカートリッジ装着部と機械的に連結される。
(4)インク収容室内の空間が区切られておらず、単一のインク収容室(インク収容袋)を構成している。
大型インクジェットプリンターの種類によっては、これらの特徴点(1)〜(4)のうちのいくつかを有さないカートリッジも利用されるが、これらのうちの少なくとも1つの特徴点を有するものが普通である。
大型インクジェットプリンター用のカートリッジでは、このような寸法、重量、カートリッジ装着部との連結位置、又はインク室構成の特徴点を有するために、小型インクジェットプリンター用のカートリッジに比べてカートリッジが傾き易く、この結果、回路基板200の端子における接触不良が発生し易い傾向にある。従って、特に大型インクジェットプリンター及びそのカートリッジについて、以下で説明するような端子の接触不良、意図しない短絡、リーク等の検出処理を行う意義が大きいものと考えられる。
図9は、カートリッジの回路基板200と印刷装置1000との電気的構成を示すブロック図である。印刷装置1000は、表示パネル430と、電源回路440と、主制御回路400と、サブ制御回路500aとを備えている。表示パネル430は、ユーザーに印刷装置1000の動作状態や、カートリッジの装着状態などの各種の通知を行うための表示部である。表示パネル430は、例えば、図1の操作部1300に設けられる。電源回路440は、第1の電源電圧VDDを生成する第1電源441と、第2の電源電圧VHVを生成する第2電源442とを有している。第1の電源電圧VDDは、ロジック回路に用いられる通常の電源電圧(定格3.3V)である。第2の電源電圧VHVは、印刷ヘッドを駆動してインクを吐出させるために用いられる高い電圧(例えば定格42V)である。これらの電圧VDD、VHVは、サブ制御回路500aに供給され、また、必要に応じて他の回路にも供給される。なお、主制御回路400と、サブ制御回路500aとを含む回路を、「制御回路」と呼ぶことも可能である。
カートリッジの回路基板200(図4(A))に設けられた9つの端子のうち、クロック端子220と、リセット端子230と、電源端子260と、接地端子270と、データ端子280は、記憶装置203に電気的に接続されている。記憶装置203は、アドレス端子を持たず、クロック端子から入力されるクロック信号SCKのパルス数と、データ端子から入力されるコマンドデータとに基づいてアクセスするメモリセルが決定され、クロック信号SCKに同期して、データ端子よりデータを受信し、もしくは、データ端子からデータを送信する不揮発性メモリーである。クロック端子220は、サブ制御回路500aから記憶装置203にクロック信号SCKを供給するために用いられる。電源端子260と接地端子270には、印刷装置1000から記憶装置を駆動するための電源電圧(例えば定格3.3V)と接地電圧(0V)がそれぞれ供給されている。この記憶装置203を駆動するための電源電圧は、第1の電源電圧VDDから直接与えられる電圧か、第1の電源電圧VDDから生成されるもので第1の電源電圧VDDよりも低い電圧でも良い。データ端子280は、サブ制御回路500aと記憶装置203との間で、データ信号SDAをやり取りするために用いられる。リセット端子230は、サブ制御回路500aから記憶装置203にリセット信号RSTを供給するために用いられる。2つの過電圧検出端子210,240は、カートリッジ100の回路基板200(図5(A))内で配線を介して互いに接続されている。なお、図9の例では2つの過電圧検出端子210,240は配線により接続されているが、これらを接続する配線の一部を抵抗に置き換えても良い。なお、2つの端子が配線により接続されている状態を、「短絡接続」又は「導線接続」とも呼ぶ。配線による短絡接続は、意図しない短絡とは異なる状態である。
図9において、装置側端子510〜590と、回路基板200の端子210〜290とを接続する配線経路には、配線名SCK,VDD,SDA,RST,OV1,OV2,DT1,DT2が付されている。これらの配線名のうち、記憶装置用の配線経路のものは、信号名と同じ名称が使用されている。
インクカートリッジ100は、記憶装置203と9つの端子210〜290とを備えた回路基板の他に、インク残量の検出に使用されるセンサー208を備えている。センサー208としては、例えば、ピエゾ素子を使用した周知のインク残量センサーを使用することができる。なお、ピエゾ素子は、電気的には容量素子として機能する。
主制御回路400は、CPU410と、メモリー420とを有している。サブ制御回路500aは、メモリー制御回路501と、センサー関連処理回路503とを有している。センサー関連処理回路503は、カートリッジ装着部1100におけるカートリッジの装着状態の検出と、センサー208を用いたインク残量の検出とを行うための回路である。センサー関連処理回路503は、カートリッジの装着状態の検出を行うために使用されるので、センサー関連処理回路503を「装着検出回路」と呼ぶことも可能である。センサー関連処理回路503は、カートリッジのセンサー208に、記憶装置203に印加又は供給される電源電圧VDDに比べて高い電圧を印加又は供給する高電圧回路である。なお、センサー208に印加する高い電圧としては、印刷ヘッドの駆動に用いる電源電圧VHV(定格42V)そのものを利用するか、もしくは、印刷ヘッドの駆動に用いる電源電圧VHVから生成したやや低い電圧(例えば36V)を利用することが可能である。
図10は、センサー関連処理回路503の内部構成を示す図である。ここでは、4つのカートリッジがカートリッジ装着部に装着された状態が示されており、各カートリッジを区別するために参照符号IC1〜IC4が使用されている。センサー関連処理回路503は、非装着状態検出部670と、過電圧検出部620と、検知パルス発生部650と、センサー処理部660とを有している。センサー処理部660は、接触検出部662と、液量検出部664とを含んでいる。接触検出部662は、カートリッジのセンサー208を用いてセンサー端子250,290の接触状態の検出を行う。液量検出部664は、カートリッジのセンサー208を用いてインク残量の検出を行う。検知パルス発生部650と非装着状態検出部670は、全カートリッジが装着されているか否かの検出(非装着状態の検出処理)と、端子210/250間、及び、端子240/290間のリーク状態の検出と、を行う。過電圧検出部620は、過電圧検出端子210,240に過大な電圧が印加されているか否かの検出を行う。
各カートリッジ内において、第1と第2の過電圧検出端子210,240は配線を介して互いに接続されている。図10の例では、過電圧検出端子210,240は配線により短絡接続されているが、その接続配線の一部を抵抗としても良い。1番目のカートリッジIC1の第1の過電圧検出端子210は、対応する装置側端子510を介してセンサー関連処理回路503内の配線651に接続されており、この配線651は、非装着状態検出部670に接続されている。n番目(n=1〜3)のカートリッジの第2の過電圧検出端子240と、n+1番目のカートリッジの第1の過電圧検出端子210とは、対応する装置側端子540,510を介して互いに接続される。また、4番目のカートリッジIC4の第2の過電圧検出端子240は、対応する装置側端子540を介して検知パルス発生部650に接続される。すべてのカートリッジIC1〜IC4がカートリッジ装着部内に正しく装着されていれば、各カートリッジの過電圧検出端子240,210を順次経由して、検知パルス発生部650と非装着状態検出部670とが互いに接続される。一方、1つでも未装着のカートリッジがある場合や装着不良がある場合には、装置側端子510,540もしくはカートリッジIC1〜IC4の端子210,240のいずれかに未接触や接触不良が生じて、検知パルス発生部650と非装着状態検出部670とが非接続状態となる。従って、非装着状態検出部670は、検知パルス発生部650から送られる検査信号DPinsに対応する応答信号DPresを受信できるか否かに応じて、カートリッジIC1〜IC4の過電圧検出端子210,240のいずれかに未接触や接触不良が存在するか否かを判定することができる。このように、本実施形態では、すべてのカートリッジIC1〜IC4がカートリッジ装着部内に装着されたときには各カートリッジの過電圧検出端子240,210が順次直列に接続されるので、その接続状態を調べることによって、カートリッジIC1〜IC4の過電圧検出端子210,240のいずれかに未接触や接触不良が存在するか否かを判定することができる。このような未接触や接触不良が発生する典型的な場合は、1つ以上のカートリッジが未装着の場合である。従って、非装着状態検出部670は、検査信号DPinsに対応する応答信号DPresを受信できるか否かに応じて、1つ以上のカートリッジが未装着か否かを直ちに判定することが可能である。検査信号DPinsは、第1の電源電圧VDDから供給される電圧をもとに生成すればよい。
4つのカートリッジIC1〜IC4の第1の過電圧検出端子210は、対応する装置側端子510を介して、ダイオード641〜644のアノード端子に接続される。また、4つのカートリッジIC1〜IC4の第2の過電圧検出端子240は、対応する装置側端子540を介して、ダイオード642〜645のアノード端子に接続される。なお、第2のダイオード642のアノード端子は、第1のカートリッジIC1の第2の過電圧検出端子240と、第2のカートリッジIC2の第1の過電圧検出端子210に共通に接続される。ダイオード643,644も同様に、1つのカートリッジの第2の過電圧検出端子240と隣接するカートリッジの第1の過電圧検出端子210に共通に接続される。これらのダイオード641〜645のカソード端子は、過電圧検出部620に並列に接続されている。これらのダイオード641〜645は、過電圧検出端子210,240に異常な高電圧が印加されていないか否かを監視するために使用される。このような異常な電圧値(「過電圧」と呼ぶ)は、各カートリッジの過電圧検出端子210,240のいずれかと、センサー端子250,290のいずれかとの間に意図しない短絡が生じている場合に発生する。例えば、インク滴やゴミなどの異物が回路基板200(図4(A))の表面に付着すると、第1の過電圧検出端子210と第1のセンサー端子250の間、又は、第2の過電圧検出端子240と第2のセンサー端子290の間に意図しない短絡が発生する可能性がある。このような意図しない短絡が発生すると、ダイオード641〜645のいずれかを介して過電圧検出部620に電流が流れるので、過電圧検出部620は、過電圧の発生の有無、及び、意図しない短絡の発生の有無を判定することが可能である。また、一般に、意図しない短絡の原因となる異物は、回路基板200の上方から下方に、且つ、外側から内側に向けて進入しやすい。従って、過電圧検出端子210,240の接触部が回路基板200の上側列R1上に配置される接触部の両端(図4(A))の接触部となるように配置しておけば、過電圧検出端子210,240が、センサー端子250,290の近くに配置されるので、センサー端子250、290に印加される高電圧がメモリー端子220,230,260,270,280に印加される可能性を低減することが可能である。
図11は、接触検出部662及び液量検出部664と、カートリッジのセンサー208との接続状態を示すブロック図である。センサー208は、切換スイッチ666を介して、接触検出部662と液量検出部664の一方に選択的に接続される。センサー208が接触検出部662に接続された状態では、接触検出部662が、センサー端子250,290とこれらに対応する装置側端子550,590とが良好な接触状態にあるか否かを検出する。一方、センサー208が液量検出部664に接続された状態では、液量検出部664が、カートリッジ内のインク残量が所定量以上あるか否かを検出する。接触検出部662は、比較的低い電源電圧VDD(例えば3.3V)を用いて動作する。一方、液量検出部664は、比較的高い電源電圧HV(例えば36V)を用いて動作する。
なお、接触検出部662と液量検出部664は、個々のカートリッジ毎に個別に設けられていてもよく、あるいは、複数のカートリッジに共通に、1つの接触検出部662と1つの液量検出部664が設けられていても良い。後者の場合には、個々のカートリッジのセンサー端子250,290と、接触検出部662及び液量検出部664との接続状態を切り換えるための切り換えスイッチが更に設けられる。
図12は、カートリッジの装着検出処理(「接触検出処理」とも呼ぶ)に用いられる各種の信号を示すタイミングチャートである。カートリッジの装着検出処理には、第1の装着検出信号SPins,SPresと、第2の装着検出信号DPins,DPresとが使用される。なお、信号名の末尾に「ins」が付された信号SPins,DPinsは、センサー関連処理回路503からカートリッジの回路基板200に出力される信号であり、「装着検査信号」と呼ぶ。また、信号名の末尾に「res」が付された信号SPres、DPresは、カートリッジの回路基板200からセンサー関連処理回路503に入力される信号であり、「装着応答信号」と呼ぶ。
以下に示すように、本実施形態では、以下の3種類の装着状態検出処理が実行される。
(1)第1の装着検出処理:第1の装着検出信号SPins,SPresを用いた個々のカートリッジのセンサー端子250,290の接触状態の検出
(2)第2の装着検出処理:第2の装着検出信号DPins,DPresを用いた1つ以上のカートリッジの非装着状態の検出(全カートリッジの過電圧検出端子210,240の接触状態の検出)
(3)リーク検出処理:第2の装着検出信号DPins,DPresを用いた端子210/250間、及び、端子240/290間のリーク状態の検出
第1と第2の装着検出処理では端子の接触状態が検出されるので、これらの処理を「接触検出処理」と呼ぶことも可能である。また、第1と第2の装着検出信号を「第1の接触検出信号SPins,SPres」、「第2の接触検出信号DPins,DPres」とも呼ぶことも可能である。
第1の装着検出信号SPins,SPresは、接触検出部662が、個々のカートリッジのセンサー端子250,290の接触状態を検出するために使用される。図10に示すように、第1の装着検査信号SPinsは、接触検出部662から一方のセンサー端子290に供給される信号であり、第1の装着応答信号SPresは、他方のセンサー端子250から接触検出部662に戻る信号である。第1の接触検査信号SPinsは、図12の第1の期間P11にハイレベルH1になり、その後の第2の期間P12にローレベルになる信号である。なお、第1の装着検査信号SPinsのハイレベルH1の電圧は、例えば3.0Vに設定されている。端子250,290の両方が正常な接触状態にある場合には、第1の装着応答信号SPresは、第1の装着検査信号SPinsと同じレベル変化を示す。
第2の装着検査信号DPinsは、図10に示すように、検知パルス発生部650から第4のカートリッジIC4の過電圧検出端子240に供給される信号であり、第2の装着応答信号DPresは、第1のカートリッジIC1の過電圧検出端子210から非装着状態検出部670に入力される信号である。図12に示すように、第2の装着検査信号DPinsは、7つの期間P21〜P27に区分される。すなわち、第2の装着検査信号DPinsは、期間P21ではハイインピーダンス状態になり、期間P22,P24,P26ではハイレベルH2になり、他の期間P23,P25,P27ではローレベルになる。第2の装着検査信号DPinsのハイレベルH2の電圧は、2.7Vに設定されており、第1の装着検査信号SPinsのハイレベルH1(3.0V)と異なる電圧レベルに設定されている。なお、第2の装着検査信号DPinsの第1と第2の期間P21,P22は、第1の装着検査信号SPinsの第1の期間P11の一部に相当する。また、第2の装着検査信号DPinsの第4〜第7の期間P24〜P27は、第1の装着検査信号SPinsの第2の期間P12の一部に相当する。全カートリッジの端子210,240が正常な接触状態にある場合には、第2の装着応答信号DPresは、第1の期間P21でローレベルとなり、第2の期間P22以降は第2の装着検査信号DPinsと同じレベルを示す信号となる。なお、第2の装着応答信号DPresが第1の期間P21でローレベルとなる理由は、第1の期間P21の直前の状態において、第2の装着応答信号DPresが(すなわち非装着状態検出部670への入力配線651が)ロ―レベルとなっているからである。
図13(A)は、端子250,290の少なくとも一方の接触が不良である場合の信号波形を示している。この場合には、第1の装着応答信号SPresは、期間P11,P12を通じてローレベルになる。接触検出部662は、期間P11内の予め定められたタイミングt11で装着応答信号SPresのレベルを調べることによって、端子250,290の接触の良否を判定することができる。端子250,290に接触不良のあるカートリッジが検出された場合には、主制御回路400が、表示パネル430に、そのカートリッジの装着状態が不良である旨を示す情報(文字や画像)を表示してユーザーに通知することが好ましい。
図13(B)は、全カートリッジの端子210,240のうちの少なくとも一つの端子が接触不良にある場合の信号波形を示している。この場合には、第2の装着応答信号DPresは、期間P21〜P27を通じてローレベルになる。従って、非装着状態検出部670は、第2の装着検査信号DPinsがハイレベルとなる期間P22,P24,P26の予め設定されたタイミングt22,t24,t25において、第2の装着応答信号DPresのレベルを調べることによって、1つ以上のカートリッジが正常に装着していない状態を検出することが可能である。なお、この判定は、3つのタイミングt22,t24,t25の少なくとも1カ所で行えば十分である。1つ以上のカートリッジが正常に装着されていないと判定された場合には、主制御回路400が、表示パネル430に装着状態が不良である旨を示す情報(文字や画像)を表示してユーザーに通知することが好ましい。
上述した非装着状態の検出処理(第2の装着検出処理)の目的だけであれば、第2の装着検査信号DPinsを、第1の装着検査信号SPinsと類似した単純なパルス信号としても良い。第2の装着検査信号DPinsが図12のような複雑な波形形状を有している理由は、主に、以下で説明するリーク状態の検出(第3の装着状態検出処理)のためである。
図14(A)は、過電圧検出端子240とセンサー端子290の間がリーク状態にある場合の信号波形を示している。ここで、「リーク状態」とは、意図しない短絡と言えるほどの極低抵抗状態では無いが、ある程度以下の抵抗値(例えば10kΩ以下の抵抗値)で接続されている状態を意味している。この場合には、第2の装着応答信号DPresが特有の信号波形を示す。すなわち、第2の装着応答信号DPresは、第1の期間P21でローレベルから第1のハイレベルH1に立ち上がり、第2の期間P22で第2のハイレベルH2に低下する。第1のハイレベルH1は、第1の装着検査信号SPinsのハイレベルH1とほぼ同じ電圧である。このような波形は、以下に説明する等価回路から理解できる。
図15(A)は、回路基板200と、接触検出部662と、検知パルス発生部650と、非装着状態検出部670との接続関係を示している。この状態は、隣接する端子間にリークが無い状態である。図15(B)は、端子240,290の間にリークがある場合の等価回路を示している。ここでは、端子240,290の間のリーク状態が、抵抗RLで模擬されている。センサー208は、容量素子としての機能を有する。図15(B)のセンサー208の容量と、端子240,290間の抵抗RLとを含む回路は、第1の接触検査信号SPinsに対してローパスフィルター回路(積分回路)として機能する。従って、非装着状態検出部670に入力される第2の装着応答信号DPresは、図14(A)に示すように、第1の装着検査信号SPinsのハイレベルH1(約3V)にまで徐々に立ち上がる信号となる。非装着状態検出部670は、期間P21内の1つ以上の(好ましくは複数の)タイミングt21において第2の装着応答信号DPresの電圧レベルを調べることによって、端子240,290の間にリークがあることを識別することができる。あるいは、第2の装着応答信号DPresの第1と第2の期間P21,P22における第2の装着応答信号DPresのハイレベルH1,H2の電圧の差から、端子240/290間がリークしていると判定することも可能である。
なお、図14(A)の第1の期間P21における第2の装着応答信号DPresの変化は、期間P21における第2の装着検査信号DPinsのレベルを、第1のハイレベルH1よりも低いレベルに設定したときにも得られる。従って、例えば、第2の装着検査信号DPinsを期間P21においてローレベルに維持するようにしても、端子240,290の間のリーク状態を検出することが可能である。また、第2の装着検査信号DPinsを期間P21〜P23に渡ってローレベルに維持するようにしても良い。
端子240,290間にリークがある場合には、更に、第1の装着応答信号SPresが特有の変化を示す。すなわち、第1の装着応答信号SPresは、期間P24,P26において、第2の装着検査信号DPinsがハイレベルに立ち上がるのに応じて立ち上がる。従って、これらの期間P24,P26の所定のタイミングt24,t25で第1の装着応答信号SPresを調べることによっても、リークが発生しているか否かを判定することが可能である。
図14(B)は、他の過電圧検出端子210とセンサー端子250がリーク状態にある場合の信号波形を示している。この場合にも、第2の装着応答信号DPresが特有の信号波形を示す。すなわち、第2の装着応答信号DPresは、第1の期間P21において、ローレベルから急激に立ち上がった後にやや緩やかに低下する。このときのピークの電圧レベルは、第2の装着検査信号DPinsのハイレベルH2よりも高く、第1の装着検査信号SPinsのハイレベルH1に近いレベルにまで達する。
図15(C)は、端子210,250の間にリークがある場合の等価回路を示している。ここでは、端子210,250の間のリーク状態が、抵抗RLで模擬されている。センサー208の容量と、端子210,250間の抵抗RLとを含む回路は、第1の装着検査信号SPinsに対するハイパスフィルター回路(微分回路)として機能する。従って、第2の装着応答信号DPresは、図14(B)に示すように、第1の期間P21でピーク形状を示す信号となる。但し、第2の期間P22以降は、第2の装着応答信号DPresは、第2の装着検査信号DPinsの変化と同様の変化を示す。非装着状態検出部670は、期間P21内の任意の1つ又は複数のタイミングt21における第2の装着応答信号DPresの電圧レベルを調べることによって、端子210,250の間にリークがあることを識別することができる。なお、端子240,290間にリークがある場合(図14(A))と、端子210,250の間にリークがある場合(図14(B))では、第1の期間P21の中央から終端までのタイミングにおける信号DPresの電圧レベルと、第2の期間P22における信号DPresの電圧レベルの関係が逆転している。従って、これらの2つのタイミングにおける信号DPresの電圧レベルを比較することによって、端子240,290間と端子210,250の間のいずれにリークがあるかを正確に識別することが可能である。
なお、図14(B)のような第2の装着応答信号DPresの変化は、期間P21において第2の装着検査信号DPinsの出力端子(すなわち、検知パルス発生部650の出力端子)をハイインピーダンス状態に設定したときに得られる。従って、例えば、第2の装着検査信号DPinsを、期間P21ではハイインピーダンス状態に設定すれば、期間P22,P23でローレベルに設定するようにしても、端子210,250の間のリーク状態を検出することが可能である。
端子210,250間にリークがある場合にも、第1の装着応答信号SPresが特有の変化を示す。すなわち、第1の装着応答信号SPresは、期間P24,P26において、第2の装着検査信号DPinsがハイレベルに立ち上がるのに応じて立ち上がる。従って、これらの期間P24,P26の所定のタイミングt24,t25で第1の装着応答信号SPresを調べることによっても、リークが発生しているか否かを判定することが可能である。但し、第1の装着応答信号SPresの変化は、端子240,290間にリークがある場合(図14(A))と、端子210,250間にリークがある場合(図14(B))とでそれほど大きな違いが無い。従って、タイミングt24,t25における第1の装着応答信号SPresの検査では、2組の端子のいずれにリークが発生しているのかを識別することはできない。但し、この識別をする必要が無い場合には、第1の装着応答信号SPresの検査でも十分である。
上述した図12〜図14の説明から理解できるように、2つの装着検査信号SPins,DPinsのうちの少なくとも一方を調べることによって、隣接する端子同士がリーク状態にあるか否かを検出することが可能である。
図16は、図15に示すリーク状態を判定するために使用可能なリーク判定部の構成例を示すブロック図である。リーク判定部は、非装着状態検出部670内に設けることができる。図16(A)のリーク判定部672は、複数のダイオードの直列接続で構成された電圧障壁部674と、電流検出部675とを有している。電圧障壁部674のしきい値電圧Vthは、第1の装着検査信号SPinsのハイレベルH1よりも低く、第2の装着検査信号DPinsのハイレベルH2よりも高い値に設定される。従って、第2の装着応答信号DPresの電圧レベルが第2のハイレベルH2以上になったときに、電圧障壁部674から電流検出部675に電流が流れる。従って、電流検出部675は、図14の期間P21において電圧障壁部674から電流が入力されるか否かに応じて、端子240/290間と,端子210/250間の少なくとも一方でリークが発生しているか否かを検出することができる。但し、この回路では、端子240/290間と,端子210/250間のいずれでリークが発生しているのかを識別することはできない。
図16(B)のリーク判定部672は、AD変換部676と波形分析部677とを有している。この回路では、第2の装着応答信号DPresの変化が、AD変換部676でデジタル化されて波形分析部677に供給される。波形分析部677は、波形の形状を分析することによって、リーク状態を判定することができる。例えば、図14の期間P21における第2の装着応答信号DPresがローパスフィルターを通過した信号(緩やかに上昇する上に凸の信号)である場合には、端子240/290間にリークがあるものと判定できる。一方、第2の装着応答信号DPresがハイパスフィルターを通過した信号(鋭いピークを示す信号)である場合には、端子210/250間にリークがあるものと判定できる。なお、AD変換部676の動作クロック周波数は、このような波形分析のために十分に高い周波数に設定される。波形分析部677は、更に、第2の装着応答信号DPresの変化の時定数を求め、リーク状態における等価回路の抵抗値及び容量値を算出することが可能である。例えば、図15(B),(C)の等価回路では、リークしている端子間の抵抗RLのみが未知であり、他の抵抗の抵抗値や容量素子208の容量値は既知である。従って、第2の装着応答信号DPresの変化の時定数から、リークしている端子間の抵抗RLを算出することが可能である。なお、リーク判定部の構成としては、これら以外の種々の回路構成を採用可能である。
以上の図12〜図16の説明から理解できるように、(i)第2の装着応答信号DPresが第1の装着検査信号SPinsの影響を受けているか否か(図14(A),(B)のDPres)、及び、(ii)第1の装着応答信号SPresが第2の装着検査信号DPinsの影響を受けているか否か(図14(A),(B)のSPres)、のうちの少なくとも一方を調べることによって、端子250/290間又は端子210/240にリークがあるか否かを判定することが可能である。2つの装着検査信号SPins、DPinsとしては、電圧レベルが一定の信号(例えば常にローレベルまたはハイレベルに維持される信号)ではなく、電圧レベルがそれぞれ変化する異なる信号波形を有する信号を使用することが好ましい。なお、図12〜図14の信号波形は簡略化して描かれていることに注意すべきである。
2つの過電圧検出端子210,240のうちの少なくとも一方でリークが検出された場合には、そのリーク発生箇所を印刷装置内の図示しない不揮発性メモリーに記録しておくようにしても良い。こうすれば、印刷装置のメインテナンスの際に、リークが発生しやすい端子位置を調べ、印刷装置内の接点機構1400の端子の接点やバネの調整を行うことによって、リークを発生し難くする対策を施すことが可能である。
図17は、4つのカートリッジIC1〜IC4に対する装着検出処理のタイミングチャートである。ここでは、個々のカートリッジに個別に供給される第1の装着検査信号SPins_1〜SPins_4と、全カートリッジの端子240,210の直列接続に対して供給される第2の装着検査信号DPinsとが示されている。このように、4つのカートリッジに関する装着検査が1カートリッジ毎に順次行われ、また、個々のカートリッジに対しては、第1と第2の装着検査信号SPins,DPinsが同じ期間に供給されて上述した3種類の装着検出処理が実行される。これらの検査において、装着不良(接触不良)やリークが検出された場合には、表示パネル430にその旨を表示することによって、カートリッジの再装着をユーザーに勧告することが好ましい。一方、これらの装着検査の結果、装着不良やリークが検出されなかった場合には、その後に、各カートリッジのインク残量の検出や、記憶装置203からのデータの読み出しなどが行われる。
図18は、液量検出処理のタイミングチャートである。液量検出処理では、液量検査信号DSが一方のセンサー端子290に供給される。この液量検査信号DSは、センサー208を構成する圧電素子の一方の電極に供給される。液量検査信号DSは、液量検出部664(図10)によって生成されるアナログ信号である。この液量検査信号DSの最大電圧は例えば約36Vであり、最小電圧は約4Vである。センサー208の圧電素子はカートリッジ100内のインクの残量に応じて振動し、振動によって発生した逆起電圧が液量応答信号RSとして圧電素子から他方のセンサー端子250を介して液量検出部664に送信される。液量応答信号RSは、圧電素子の振動数に対応する周波数を有する振動成分を含んでいる。液量検出部664は、液量応答信号RSの周波数を測定することによって、インク残量が所定量以上であるか否かを検出することができる。このインク残量検出処理は、上述したリーク検査(リーク検出処理)で使用された第1の装着検査信号DPinsよりも高い電圧レベルを有する高電圧信号DSを、端子250,290を介してセンサー208に供給する高電圧処理である。
このように、インク残量の検出時には、高電圧の液量検査信号DSがセンサー端子250,290に印加される。仮に、センサー端子250,290と過電圧検出端子210,240との間の絶縁が不十分な場合には、端子210,240に異常な高電圧(「過電圧」)が生じる。この場合には、ダイオード641〜645(図10)を介して過電圧検出部620に電流が流れるので、過電圧検出部620は、過電圧の発生の有無を判定することが可能である。過電圧が検出されると、過電圧検出部620から液量検出部664に過電圧の発生を示す信号が供給され、これに応じて液量検出部664が液量検査信号DSの出力を直ちに停止する。これは、過電圧によって生じ得るカートリッジや印刷装置の損傷を防止するためである。すなわち、センサー端子250(又は290)と過電圧検出端子210(又は240)との間の絶縁が不十分な場合には、センサー端子と記憶装置用端子との間の絶縁も不十分になっている恐れがある。このとき、過電圧検出端子210,240に過電圧が発生すると、記憶装置用端子にもその過電圧が印加されて、その記憶装置用端子に接続されている記憶装置や印刷装置の回路に損傷が生じる可能性がある。従って、過電圧が検出されたときに液量検査信号DSの出力を直ちに停止すれば、過電圧によって生じ得るカートリッジや印刷装置の損傷を防止することができる。
なお、図12〜図17で説明したように、インク残量の検出に先立って、複数種類の装着状態検出処理が実行される。このうちのリーク状態検出処理では、図14〜図16で説明したように、端子240/290間、又は、端子210/250間に低抵抗なリーク状態が発生しているか否かが検出される。すなわち、これらのリーク状態の検出処理では、比較的低い電圧レベル(約3V)の装着検査信号SPins,DPinsを用いて、端子240/290間、又は、端子210/250間が、或る抵抗値(例えば10kΩ)以下の低抵抗状態にあるか否か検出することができる。また、これらの端子間にリークが無いと判定された場合には、端子240/290間、又は、端子210/250間の抵抗値は、上記の抵抗値(約10kΩ)以上であることが保証される。従って、このリーク状態の検出処理の後に、より高い電圧レベル(約36V)の信号を用いてインク残量の検出処理を実行しても、過電圧検出端子210,240に懸かる過電圧が極めて大きな値になることが無い。このように、本実施形態では、相対的に低い電圧レベルの信号を用いて端子240/290間、又は、端子210/250間のリーク状態を検査し、その結果、リークが無い場合にのみ、相対的に高い電圧レベルの信号を端子250,290に印加している。従って、リーク状態の検査を行わない場合に比べて、印刷装置やカートリッジに生じうる過電圧のレベルをより低下させることが可能である。
図19(A)は、装着検出処理で使用される信号の第1の変形例を示すタイミングチャートである。図12との違いは、第2の装着検出信号DPins,DPresのハイレベルの値が、第1の装着検出信号SPins,SPresと同じに設定されている点であり、他は図12の信号と同じである。これらの信号を使用しても、図13〜図16で説明した各種の装着状態検出処理をほぼ同様に行うことが可能である。但し、この場合には、図14(A)の第2の期間P22における第2の装着応答信号DPresのレベルは、第1の期間P21におけるレベルH1と同じになるので、第1と第2の期間P21,P22における第2の装着応答信号DPresのレベルの差から、端子240/290間がリークしていると判定することはできない。但し、図14(A)と図14(B)に示したように、第1の期間P21における第2の装着応答信号DPresのレベル変化から、端子240/290間と、端子210/250間のいずれがリークしているかを区別することは依然として可能である。
図19(B)は、本実施形態の装着検出処理で使用される信号の第2の変形例を示すタイミングチャートである。図12との違いは、第2の装着検査信号DPinsが、第2の期間P22と第4の期間P24でローレベルに設定されている点と、これに応じて第2の装着応答信号DPresが期間P21〜P25を通じてローレベルに維持されている点であり、他は図12の信号と同じである。これらの信号を使用しても、図13〜図16で説明した各種の装着検出をほぼ同様に行うことが可能である。この場合には、図13(B)のタイミングt22,t24における判定ができなくなるが、図13と図14で説明した他のタイミングでの判定は依然として可能である。
図12及び図19の各種の信号の例から理解できるように、装着検出信号(接触検出信号)の電圧レベルや波形としては、種々の変形が可能である。但し、端子240/290間及び端子210/250間のリーク状態の検出を行う場合には、第1の装着検出信号SPinsがハイレベルとなる際に、第2の装着検出信号DPins(又はその信号線)をローレベルからハイインピーダンス状態に変更するか、又は、ローレベルに維持することが好ましい。
以上のように、本実施形態において、基板の複数の記憶装置用端子の接触部の周囲の四隅、より具体的には、基板の複数の記憶装置用端子が配置された領域の外側で、且つ、その領域を包含する四角形の領域の四隅に装着検出端子の接触部を設けたので、これらの装着検出端子と対応する装置側端子とが良好な接触状態にあることを確認することによって、記憶装置用端子に関しても良好な接触状態を確保することが可能である。また、本実施形態では、基板の一対の端子250,290に関する第1の装着応答信号SPresと、他の一対の端子210,240に関する第2の装着応答信号DPresとの少なくとも一方を調べることによって、全カートリッジが装着されているか否かの装着検出処理と、端子間にリークがあるか否かのリーク状態検出処理とを同時に実行することができる。更に、本実施形態では、端子250,290に対して相対的に高い電圧(約36V)を印加する高電圧処理に先だって、相対的に低い電圧(約3V)を用いて上記リーク状態の検出処理を行うので、極めて高い過電圧が端子250,290からリークしてカートリッジや印刷装置に損傷を与えることを防止できる。
<第2実施形態>
図20は、本発明の第2実施形態における印刷装置の構成を示す斜視図である。印刷装置2000は、副走査送り機構と、主走査送り機構と、ヘッド駆動機構とを有する。副走査送り機構は、図示しない紙送りモーターと、その紙送りモーターによって駆動される紙送りローラー2010と、を含んでいる。副走査送り機構は、紙送りローラー2010を用いて印刷用紙Pを副走査方向に搬送する。主走査送り機構は、キャリッジモーター2002の動力を用いて、駆動ベルト2001に接続されたキャリッジ2003を主走査方向に往復動させる。キャリッジ2003は、ホルダー2004と印刷ヘッド2005とを含んでいる。ヘッド駆動機構は、印刷ヘッド2005を駆動してインクを吐出する。吐出されたインクによって、印刷用紙Pにドットが形成される。印刷装置2000は、更に、上述した各機構を制御する主制御回路を備えている。主制御回路は、フレキシブルケーブル2037を介してキャリッジ2003と接続されている。
ホルダー2004は、複数のインクカートリッジを装着可能に構成され、印刷ヘッド2005の上に配置されている。印刷装置2000の通常使用時(印刷時)には、ホルダー2004にインクカートリッジが装着されており、印刷装置2000は、インクカートリッジを備えている。図20に示す例では、ホルダー2004には、6つのインクカートリッジが装着可能である。例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタの6種類のインクカートリッジが1つずつ装着される。印刷ヘッド2005の上面には、更に、インクカートリッジから印刷ヘッド2005にインクを供給するためのインク供給針2006が配置されている。図20では、1つのインクカートリッジ100が、ホルダー2004に装着されている。この印刷装置2000のように、ユーザーにより交換されるインクカートリッジが、印刷ヘッドのキャリッジに設けられたホルダーに装着される印刷装置のタイプを、「オンキャリッジタイプ」と呼ぶ。
図21は、キャリッジ2003の斜視図である。図22は、図21に示すキャリッジ2003の一部の拡大図である。図21では、1つのインクカートリッジ2100がキャリッジ2003に装着されている。図中のX方向は、インクカートリッジ2100の挿入方向を示している。X方向へのインクカートリッジ2100の移動によって、インクカートリッジ2100がキャリッジ2003に装着される。ホルダー2004の底壁2004wb(+X方向の壁)には、インク供給針2006が配置されている。インク供給針2006は、−X方向に向かって、突出している。また、ホルダー2004の前壁2004wf(−Z方向の壁)には、接点機構2400が配置されている。Z方向は、挿入方向Xと垂直な方向を示している。本実施形態では、6つのインク供給針2006と、6つの接点機構2400とが、それぞれ、Y方向に沿って(−Yから+Yに向かって)並んで、配置されている。Y方向は、挿入方向XとZ方向との両方と垂直な方向である。そして、6つのカートリッジは、Y方向に並んで、装着される(図示省略)。
図23は、インクカートリッジ2100の斜視図を示し、図24は、インクカートリッジ2100の正面図を示している。図中のX、Y、Z方向は、インクカートリッジ2100をキャリッジ2003(図21)に装着した状態での方向を示している。インクカートリッジ2100の+X方向の面(X方向と垂直な面。図23(A)中の底壁2101wb)は、キャリッジ2003の底壁2004wbと対向する。インクカートリッジ2100の−Z方向の面(Z方向と垂直な面。図23(A)中の前壁2101wf)は、キャリッジ2003の接点機構2400と対向する。
インクカートリッジ2100は、筐体2101と、センサー2104と、回路基板2200と、を含んでいる。筐体2101の内部には、インクを収容するインク室2120が形成されている。センサー2104は、筐体2101の内部に固定されている。筐体2101は、前壁2101wf(−Z方向の壁)と、底壁2101wb(+X方向の壁)と、後壁2101wbk(+Z方向の壁)を含んでいる。前壁2101wfは、底壁2101wbと交差(本実施形態では、実質的に直交)している。回路基板2200は、前壁2101wfに固定されている。回路基板2200の表面FS(印刷装置2000の接点機構2400(図21)と対向する面)には、9つの端子2210〜2290が形成されている。インク供給口は、底壁の、前壁2101wfとこれに対向する後壁2101wbk(+Z方向の壁)とのうち、より前壁に近い位置に配置されている。
前壁2101wfには、2つの突起P1,P2が形成されている。これらの突起P1,P2は、−Z方向に突出している。回路基板2200の絶縁基材2190には、これらの突起P1,P2をそれぞれ受け入れるボス穴H1とボス溝H2とが、形成されている。突起P1,P2とボス穴H1とボス溝H2とは、回路基板2200をインクカートリッジ2100に装着する際の装着位置ずれを防止するためのもので、位置ずれ防止部となる。ボス穴H1は、回路基板2200の下端(+X方向の端)の中央に形成され、ボス溝H2は、回路基板2200の上端(−X方向の端)の中央に形成されている。回路基板2200が前壁2101wfに装着された状態では、突起P1,P2は、ボス穴H1、ボス溝H2に、それぞれ挿入される。前壁2101wf上における回路基板2200の位置ズレは、ボス穴H1が突起P1と接触し、ボス溝H2が突起P2と接触することによって、制限される。また、回路基板2200が前壁2101wfに装着された後には、これらの突起P1,P2の先端が潰される。すなわち、突起P1,P2の先端に熱をかけこれを潰す、熱かしめにより、突起P1,P2と回路基板2200とを密着させる。これにより、回路基板2200は、前壁2101wfに固定される。
更に、前壁2101wfには、係合突起2101eが設けられている。係合突起2101eとホルダー2004(図21)との係合によって、インクカートリッジ2100がホルダー2004から意図せずに外れることが、防止される。
底壁2101wbには、記録材供給ポートであるインク供給ポート2110が形成されている。インク供給ポート2110は、インク室2120と連通している。インク供給ポート2110とインク室2120との全体を、「インク収容部2130」と呼ぶ。インク供給ポート2110の開口2110opは、フィルム2110fによって、封がされている。これにより、インク供給ポート2110からのインクの漏れを防止できる。インクカートリッジ2100をキャリッジ2003(図21)に装着することにより、封(フィルム2110f)が破られ、インク供給針2006がインク供給ポート2110に挿入される。インク室2120(図23(A))に収容されているインクは、インク供給針2006を介して、印刷装置2000に供給される。なお、図24(B)に示すセンターラインCLは、インク供給ポート2110の中心軸を示している。インクカートリッジ2100がキャリッジ2003に正しく(位置ズレ無く)装着された状態においては、センターラインCLは、インク供給針2006の中心軸と同じである。
本実施形態における回路基板2200の構成及び機能は、図4に示す第1実施形態における回路基板200の構成及び機能と同様である。また、回路基板2200の端子2210〜2290のそれぞれは、回路基板200の端子210〜290に対応する。更に、回路基板2200の表面FSに形成された導体パターン及びレジスト被膜等についても、図5に示す各配線CPT,CPTa、レジスト被膜RC、及びレジスト開口部NRCと同様である。つまり、回路基板2200のレジスト開口部は、レジスト被膜が形成されないで、端子2210〜2290と絶縁基材2190とが、そのまま外側に露出している領域である。
また、ホルダー2004の接点機構2400の構成は、図6に示す第1実施形態における接点機構1400の構成と同様である。更に、ホルダー2004へのインクカートリッジ2100の装着時における接点機構2400と回路基板2200との接触動作についても、図7に示す第1実施形態における接触動作と同様である。
上記したように、インクカートリッジが、キャリッジに設けられたホルダーに装着される「オンキャリッジタイプ」の印刷装置において、インクカートリッジ2100の挿入時には、回路基板2200が、接点機構2400の接触部材と接した状態で移動する。このとき、接触部材は、回路基板2200のレジスト開口部上を摺動することになるが、レジスト開口部には配線やレジスト被膜が形成されていないことから、摺動することによってレジスト被膜が掻き取られることがない。これにより、レジスト被膜の塵埃が接触部材に付着することに起因する、接触部材と回路基板2200の端子2210〜2290との接触不良を抑制することができる。
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
<変形例1>
上述した実施形態における回路基板の端子や接触部の配列は、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態の回路基板では、複数の端子やそれらの接触部が、カートリッジの挿入方向に垂直な方向に沿った互いに平行な2つの列に配置されているが、この代わりに、カートリッジの挿入方向に平行な方向に沿った2つの列に配置されていても良い。また、2列でなく、3列以上に分かれて配置されていても良い。
また、装着検出用の端子の数は任意であり、5つ以上配置しても良い。更に、記憶装置用の複数の端子の種類や配列も、上記以外の種々の変形が可能である。例えば、リセット端子は省略可能である。但し、記憶装置用の複数の接触部は、他の端子(装着検出用の端子)の接触部が、記憶装置用端子の接触部同士の間に入らないような集合した状態で配置されていることが好ましい。
<変形例2>
上記実施形態で記載されている各種の構成要素のうち、特定の目的・作用・効果に関係の無い構成要素は省略可能である。例えば、カートリッジ内の記憶装置203は、カートリッジの個別装着検出に使用されていないので、カートリッジの個別装着検出を主な目的とする場合には省略可能である。また、上述した各種の処理のうち、任意の一部の処理、及び、その処理に関連している構成要素を省略することも可能である。
<変形例3>
上記実施形態では、インクカートリッジに本発明を適用しているが、他の印刷材、例えば、トナーが収容された印刷材収容体(印刷材収容容器)についても同様に本発明を適用可能である。
また、本発明は、インクジェットプリンター及びそのインクカートリッジに限られず、インク以外の他の液体を噴射する任意の液体噴射装置及びその液体収容容器にも適用することができる。例えば、以下のような各種の液体噴射装置及びその液体収容容器に適用可能である。
(1)ファクシミリ装置等の画像記録装置
(2)液晶ディスプレイ等の画像表示装置用のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置
(3)有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイや、面発光ディスプレイ (Field Emission Display、FED)等の電極形成に用いられる電極材噴射装置
(4)バイオチップ製造に用いられる生体有機物を含む液体を噴射する液体噴射装置
(5)精密ピペットとしての試料噴射装置
(6)潤滑油の噴射装置
(7)樹脂液の噴射装置
(8)時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置
(9)光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂液等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置
(10)基板などをエッチングするために酸性又はアルカリ性のエッチング液を噴射する液体噴射装置
(11)他の任意の微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置