エキシマレーザ装置の高出力化を実現するためには、たとえば発振周波数が一定の場合、1パルスあたりの出力エネルギーを上げればよい。しかしながら、1パルスあたりの出力エネルギーを高くすると、以下に述べるような問題が発生する。
一般に、共振器は、レーザ光を出射する出力側ミラーと、高反射率を持ったリア側ミラーから構成される。出力側ミラーには、片面に数10%の反射率のPR膜(部分反射ミラーコーティング)、もう片方の面にAR膜(反射防止コーティング)が付いている。シングルレーザチャンバのリア側ミラーには、HR膜(全反射ミラーコーティング)が付いており、また、増幅段レーザのリア側ミラーには、90%程度の高反射率のPR膜が付いている。増幅段レーザから出力されるレーザ光は、出力側ミラーに到達したレーザ光の一部のみが出力されるため、共振器内部のレーザエネルギーは、外部に出力されるエネルギーよりも数倍高くなる。
たとえばMOPOシステムの場合、発振段レーザから出力されるレーザビームのエネルギー密度は数(mJ/cm2)であるが、増幅段レーザでは、レーザエネルギーが増幅されるので、共振器内部では数10(mJ/cm2)以上の高エネルギー密度のレーザビームとなる。その結果、高エネルギー密度のレーザビームが増幅段レーザのチャンバのウィンドウを透過するため、ウィンドウの表面および内部におけるレーザ光の吸収量が大きくなりウィンドウは発熱する。この発熱によってウィンドウに熱応力が生じると、たとえばCaF2で形成したウィンドウが劣化してしまう。ウィンドウの劣化が一定以上進むと、光学素子としてウィンドウを使用できなくなり、その時点でウィンドウの寿命が尽きる。
図2は、MOPOレーザシステムにおける出力エネルギーと光学素子の寿命の関係を示す実験結果である。実験では発振周波数を4kHzとしている。
図1において、従来条件の1パルスあたりの出力エネルギーが12(mJ)の場合、ウィンドウに照射される平均エネルギー密度は33.8(mJ/cm2)であり、ピークエネルギー密度は91.4(mJ/cm2)である。また、ウィンドウは14(Bpls)発振まで寿命がある。レーザビーム幅は0.33(cm)である。
これに対して、新規条件の1パルスあたりの出力エネルギーが15(mJ)の場合、ウィンドウに照射される平均エネルギー密度は42.3(mJ/cm2)であり、ピークエネルギー密度は114.2(mJ/cm2)である。また、ウィンドウは1(Bpls)発振で寿命となる。レーザビーム幅は0.33(cm)である。
また、出力側ミラーにおいても、従来条件では24.1(Bpls)発振以上寿命があるのに対し、新規条件では1(Bpls)発振で寿命となってしまう。
上記比較によれば、出力されるレーザビームの幅が一定の場合、出力エネルギーを従来に対して約25%増加させると、たとえばウィンドウの寿命は従来の寿命の14分の1に低下してしまう。この理由としては、出力されるレーザビームの幅が一定であるため、出力エネルギーが増加するとともに、ウィンドウに照射されるピークエネルギー密度あるいは平均エネルギー密度が増加し、ある閾値を越えた時点でウィンドウの劣化が急激に進み、ウィンドウ寿命が急激に低下したことが考えられる。
以上のように、MOPOレーザシステムの増幅段レーザにおいて、出力エネルギーが増加し、共振器内のピークエネルギー密度あるいは平均エネルギー密度が所定の閾値を越えると、増幅段レーザチャンバに設けたウィンドウの寿命あるいは出力側ミラーの寿命は急激に低下する。なお、このことは、原理上、エキシマレーザ装置がシングルレーザチャンバで構成されたレーザ発振器あるいはレーザ増幅器であっても同じである。
そこで、ピークエネルギー密度を減らすために、放電電極幅を拡大して、光学素子への照射ビームの断面積を大きくすることが考えられる。
図3は放電電極幅を拡大した場合を説明する概念図である。
図3において、対向して配置された放電電極24、25の従来の放電電極幅T0に対して、拡大した放電電極の放電電極幅T1は大きくなっている。放電電極24、25の間は放電領域であり、この空間でレーザビームが増幅される。発振時には、放電電極24,25間に、図の左側(上流側)から右側方向(下流側)に高速レーザガス3が流される。以下において、放電電極間を単にゲイン領域という。
しかしながら放電電極幅を拡大すると以下のような問題が発生する。
単に放電電極幅を拡大して高繰り返し発振動作した場合、先の発振でゲイン領域に発生した放電生成物の移動が十分になされないうちに次ぎの発振動作が行われるので、放電電極24、25の下流側でアーク放電4が発生し、出力エネルギーの安定性が悪くなる。
そこでアーク放電を防止するために、レーザチャンバに内蔵したファンの回転数Nを上げて、ゲイン領域のレーザガス流速を上げることが考えられる。
しかしながら、アーク放電を防止するために、レーザガス流速を放電電極幅Tに比例させた場合、ファンの回転数Nとレーザガス流速は比例するので、ファンの回転数Nと放電電極幅Tは比例する。すなわち、N∝Tである。
ところで一般的に、ファンの消費電流Iはファンの回転数Nの3乗に比例するので、ファンの消費電流は放電電極幅Tの3乗に比例する。すなわち、I∝T3である。ファンの消費電流は放電電極幅の3乗に比例して急激に増加してしまう。現在、ファンの消費電流は上限値に近く、これ以上消費電流を増加させることは困難である。よって、放電電極幅を拡大させてファンの回転数を増加させることは回避したい。
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、1パルスあたりの出力エネルギーを従来以上に増加させたとしても、レーザチャンバに設けられた光学素子の劣化を抑制することができるエキシマレーザ装置を提供することを目的としている。
以上のような目的を達成するために、
第1発明は、所望するレーザ出力以上の範囲内で、レーザチャンバに設けられた光学素子に照射するレーザビームのエネルギー密度を低下させるように、レーザビームの幅を広げるレーザビーム幅拡大手段を有することを特徴とする。
第1発明について、図4(b)、図5および図6を用いて説明する。
図4(b)に示すように、共振器光軸30に対して、放電電極の軸32を傾けることにより、従来の構成に対してゲイン領域幅W1を拡大させることができ、したがって、レーザビーム幅を拡大させることができる。
一方、放電電極の軸32の傾き角度θが増加するに従い、レーザビームはゲイン領域内を長く通過することができなくなる。傾き角度θがあまり大きくなると、共振器内を反射往復するレーザビームはゲイン領域で有効に増幅されないことが予想される。
実験によれば、ゲインG0および注入光量が高ければ、傾き角度が図5に示す対角線角度θ1になるまでは、出力エネルギーをほぼ一定に保つことができるが、傾き角度がθ1を越えると出力エネルギーは急激に減少してしまう。
すなわち図6に示すように、傾き角度θが増加するにともないレーザビーム幅Bも単調に増加する。一方、出力エネルギーPは、ゲインG0および注入光量が高ければ、対角線角度θ1まではほぼ一定であるが、対角線角度θ1を越えると、出力エネルギーPは急激に減少する。
そこで、第1発明では、図6の知見に基づき、所望するレーザ出力以上の範囲内で、レーザチャンバに設けられた光学素子に照射するレーザビームのエネルギー密度を低下させるように、共振器光軸30に対する放電電極の軸32の傾き角度θを設定し、レーザビーム幅を拡大させている。たとえば出力エネルギー一定の条件でレーザビーム幅を最大に拡大するには、放電電極の軸32の傾き角度をθ1に設定する。
第2発明は、第1発明において、前記エキシマレーザ装置はシングルチャンバであることを特徴とする。
第2発明を図4(b)を用いて説明する。
図4(b)において、エキシマレーザ装置はシングルチャンバ構成であり、単一のレーザチャンバ23内の放電によりレーザが発振および増幅される。なお、共振器光軸30を構成する光学系は図の左側および右側に配置されている。
シングルチャンバのエキシマレーザ装置においても、共振器光軸30に対して放電電極の軸32を傾けることにより、ゲイン領域幅W1を拡大することができる。その場合、図6の知見に基づき傾き角度θを設定し、レーザビーム幅を拡大する。
第3発明は、第1発明において、発振段レーザおよび増幅段レーザからなる2ステージレーザ装置の前記増幅段レーザに用いられていることを特徴とする。
第3発明を図4(b)および図1を用いて説明する。
図4(b)に示すレーザチャンバ23は図1の増幅段レーザのレーザチャンバ23であり、発振段レーザ10で生成されたシード光がレーザチャンバ23側に注入され、増幅段レーザ20でシード光のエネルギーが増幅される。
この場合においても、共振器光軸30に対して放電電極の軸32を傾けることにより、ゲイン領域幅W1を拡大することができる。その場合、図6の知見に基づき傾き角度θを設定し、レーザビーム幅を拡大する。
第4発明は、第2発明または第3発明において、
前記エキシマレーザ装置は、共に平面型のリア側ミラーと出力側ミラーで構成される共振器と、前記共振器中に配置されたレーザチャンバと、前記レーザチャンバ内に互いに対向する1対の放電電極とを備え、
前記レーザビーム幅拡大手段は、前記共振器の前記リア側ミラーと前記出力側ミラーが互いに平行になるように配置して形成した共振器の軸と前記放電電極の軸のうち長手方向に平行する軸を、前記放電電極の電極幅方向に平行となる平面内で傾けることを特徴とする
第4発明について、図12(b)を用いて説明する。
第4発明では、図12(b)に示すように、チャンバ中心光軸31を、共振器光軸30に対して傾き角度θで傾斜させている。
図12(b)によれば、共振器光軸30に対してチャンバ中心光軸31を傾けたので、それと同時に放電電極24、25のゲイン領域も傾くため、共振器光軸30方向から見たゲイン領域幅W1は、放電電極の長さをLとして、近似的にW1=W0+Lsinθとなり、図の上下方向にLsinθ拡大する。
ゲイン領域幅がLsinθ拡大するため、これに伴い共振器内で発振(増幅)されるレーザビーム幅も図の上下方向に拡大される。
第5発明は、第3発明において、
前記エキシマレーザ装置は、共に平面型のリア側ミラーと出力側ミラーで構成される共振器と、前記共振器中に配置されたレーザチャンバと、前記レーザチャンバ内に互いに対向する1対の放電電極とを備え、
前記レーザビーム幅拡大手段は、前記共振器の前記リア側ミラーと前記出力側ミラーが互いに平行になるように配置して形成した共振器光軸に対して、前記発振段レーザで生成したシード光を、前記放電電極の電極幅方向に平行となる平面内で、前記増幅段レーザチャンバに傾けて注入することを特徴とする。
第5発明を図を用いて説明する。
図14によれば、シード光が共振器光軸30対して傾き角度θで注入され、出力側ミラー22に到達する。リア側ミラー21と出力側ミラー22との距離をMとすると、注入されたシード光は、リア側ミラー21から出力側ミラー22に到達する間に、紙面内縦方にMtanθシフトされる。出力側ミラー22で反射角度θで反射されたレーザビームは、リア側ミラー21に到達する。リア側ミラー21に到達する間に、さらに紙面内縦方にMtanθシフトされる。次に、リア側ミラー21により反射角度θで反射されたレーザビームは、出力側ミラー22に到達する。
以下同様に、一定の反射角度θで共振器内の反射が繰り返えされるとともに、レーザビームは反射する毎に紙面内縦方にMtanθシフトされる。すなわち、レーザビーム幅は紙面内縦方向に拡大される。
第6発明は、第5発明において、前記レーザビーム幅拡大手段は、前記注入したシード光を、前記放電電極間のゲイン領域の略全領域を通過させる手段をさらに含むことを特徴とする。
第6発明では、図23(b)に示すように、注入されるシード光が部分領域Gbを通過できるように、破線で示すシード光の位置から、図の下方にGmだけシフトさせて、実線で示すシード光の位置まで移動させる。
具体的には、注入光軸35を図の下方にGmだけシフトするために、レーザ光案内ミラー34のシード光の光軸の反射位置を、位置K0から位置K1に変更する。反射位置をK0からK1に変更したことにより、シード光の注入光軸35は図の下方にGmだけ移動させられる。
第7発明は、第3発明において、
前記レーザビーム幅拡大手段は、前記発振段レーザで生成したシード光を、前記放電電極の軸のうち長手方向に平行する軸に対して、前記放電電極の幅方向に平行する平面内で、前記増幅段レーザチャンバに傾けて注入する手段と、
前記注入したシード光を、前記放電電極間のゲイン領域の略全領域を通過させる手段と、
前記リア側ミラーと出力側ミラーのうち一方のミラーを前記放電電極の長手方向に平行する軸に対して直交させて配置するとともに、他方のミラーで反射されたレーザ光が、前記ゲイン領域を通過するように、他方のミラーを配置する手段と
を含むことを特徴とする。
第8発明は、第7発明において、他方のミラーを配置する手段は、前記放電電極の光軸と前記放電電極の電極幅方向のいずれにも直交する方向を軸として、前記一方のミラーに対して、他方のミラーを傾斜させる手段であることを特徴とする。
第7発明および第8発明を図24を用いて説明する。
図24に示すように、リア側ミラー21は、放電電極の軸32に直交するように配置される。一方、出力側ミラー22は、放電電極24、25と平行する軸を中心として傾き角度θ2で傾斜させ、出力側ミラー22に到達したレーザ光を反射させている。
第9発明は、第3発明において、
前記レーザビーム幅拡大手段は、前記リア側ミラーと出力側ミラーの一方のミラーを前記放電電極の長手方向の軸に対して直交させて配置するとともに、
他方のミラーで反射されたレーザ光が、前記放電電極間のゲイン領域から遠ざかるように、他方のミラーを配置する手段であることを特徴とする。
第10発明は、第9発明において、他方のミラーを配置する手段は、前記放電電極の長手方向の軸と前記放電電極の電極幅方向の軸のいずれにも直交する軸を回転中心として、前記一方のミラーに対して、他方のミラーを傾斜させる手段であることを特徴とする。
第9発明および第10発明を図27を用いて説明する。
図27に示すように、実施例6では、リア側ミラー21を、放電電極の軸32に直交するように配置する。そして、リア側ミラー21に対して、出力側ミラー22を、放電電極24、25の放電方向を軸として傾き角度θで傾斜させ、出力側ミラー22に到達したレーザ光を反射させる。
第11発明は、第3発明において、前記レーザビーム幅拡大手段は、前記発振段レーザで生成したシード光を、前記放電電極の電極幅方向に広がるように、前期増幅段レーザのレーザチャンバに注入する手段であることを特徴とする。
第11発明では、図29に示すように、図示しない発振段レーザで生成されたシード光を、紙面内の縦方向に広がるように共振器に注入している。
図の上方に偏向するレーザビームは傾き角度θで出力側ミラー22に到達しその後反射される。一方、図の下方に偏向するレーザビームは傾き角度θで出力側ミラー22に到達しその後反射される。そのため、反射往復を繰り返すレーザビームのレーザビーム幅は次第に図の上下方向に拡大される。
第12発明は、第3発明において、前記増幅段レーザの前記レーザチャンバと前記出力側ミラーとの間にビームエキスパンダを設けたことを特徴とする。
第12発明では、図31に示すように、リア側ミラー21と出力側ミラー22で構成される共振器内にレーザチャンバ23とビームエキスパンダ36が配置されている。
本願第1発明〜第11発明のレーザビーム幅拡大手段によれば、レーザビームのビーム幅を拡大することができる。そのため、1パルスあたりの出力が従来より高いレーザ出力であっても、レーザチャンバに設けられた光学素子に照射されるエネルギー密度を低下させることができるので、ウィンドウの劣化を抑制することができる。
なお、第6発明の場合、シード光がゲイン領域の大部分を通過できるので、ウィンドウの劣化を抑制できるとともに、放電エネルギーを有効活用することができる。
また、第7発明および第8発明の場合、ウィンドウの劣化を抑制することができるとともに、共振器内を反射往復するレーザビームがゲイン領域から外れるのを抑制できるので、放電エネルギーを有効活用することができる。
また、第12発明によれば、ウィンドウの劣化を抑制できるとともに、出力側ミラーの劣化も同時に抑制することができる。
以下、本願発明に係る実施形態を図を参照しながら詳細に説明する。
最初に、本願発明を適用するエキシマレーザ装置の基本構造およびその動作について2ステージレーザシステムを用いて概説する。なお、本願発明は、以下の実施例に述べるように、シングルレーザチャンバのエキシマレーザ装置にも適用できる。
以下の実施例において、紙面内とは、各図において放電電極の電極幅方向に平行となる平面をいう。また、リア側ミラー21と出力側ミラー22が互いに平行に配置される場合は、両ミラー21、22で形成される共振器光軸30を紙面内横方向とし、紙面内で共振器光軸30に直交する方向を縦方向とする。両ミラー21、22が互いに平行でない場合は、放電電極24、25の長手方向に平行する軸(放電電極の軸)32を紙面内横方向とし、紙面内で放電電極の軸32に直交する方向を縦方向とする。なお、本願発明における傾き角度はすべて数(mrad)程度の小さな角度を対象としている。傾き角度はすべて放電電極幅方向に平行となる平面における角度である。
(2ステージレーザシステム)
図1は、本発明に係る2ステージレーザシステムの概念図である。
図1において、2ステージレーザシステム1は、増幅段レーザ20にレーザ共振器を備えたMOPO(Master Oscillator,Power
Oscillator)システムであり、発振段レーザ(MO:Master Oscillator )10と、発振段レーザ10で発振されたシード光を注入して増幅してレーザ光を出力する増幅段レーザ(PO:Power
Oscillator)20とからなる。
増幅段レーザ20は、共に平板型のリア側ミラー21と出力側ミラー22とからなるファブリペローエタロン型共振器を備えており、その間にレーザガスが封止されたレーザチャンバ23が配置されている。
発振段レーザ10と増幅段レーザ20のそれぞれのレーザチャンバ13、23内に設けた放電電極14、15および放電電極24、25のレーザ光軸上には、CaF2等のレーザ発振光に対して透過性がある材料によって形成されたウィンドウ17、17および27、27が、それぞれ互いに平行になるように設けられている。また、ウィンドウ17、17、27、27は、レーザ光に対して反射損失を低減するためにブリュースタ角で配置されている。
発振段レーザ10は、狭帯域化モジュール11内のリア側ミラーと出力側ミラー12とで構成されるレーザ共振器を備えており、その間にレーザガスが封止されたレーザチャンバ13が配置されている。狭帯域化モジュール11内には、たとえばプリズムとグレーティングが設けられ、グレーティングがミラーを兼ねる。
また、発振段レーザ10と増幅段レーザ20との間に、レーザ光案内部18が設けられている。レーザ光案内部18は、発振段レーザ10で生成したシード光を増幅段レーザ20に案内するため複数のレーザ光案内ミラーを備える。
図1において、放電電極14、15および放電電極24、25は、紙面内で手前と奥側に互いに対向して配置してある。これらの1対の放電電極14と15、24と25にそれぞれ図示しない電源から高電圧パルスが印加されることにより、放電電極14、15および放電電極24、25間に放電が発生する。放電が発生すると放電電極14、15および放電電極24、25間のレーザガスは励起される。すなわち、放電電極14、15および放電電極24、25間の空間がゲイン領域である。レーザ光軸は放電電極14、15および放電電極24、25の長手方向に平行しており、レーザ光がゲイン領域を通過する毎にレーザ光のエネルギーは増幅される。
MOPOシステムの場合、発振段レーザ10では、数(mJ/cm2)の平均エネルギー密度のレーザビームであるが、増幅段レーザ20では、数10(mJ/cm2)
の平均エネルギー密度のレーザビームとなる。また、レーザビーム内のエネルギー密度は均一ではなく、一般的にビームの中央部が高く、ビームの裾野が低くなるように分布している。このため、通常、ピークエネルギー密度は平均エネルギー密度の数倍になる。
MOPOシステムがKrFエキシマレーザ装置のときは、発振段レーザ10、増幅段レーザ20のそれぞれのレーザチャンバ13、23は、クリプトン(Kr)ガス、フッ素(F2)ガスと、ヘリウム(He)やネオン(Ne)等からなるバッファガスとからなるレーザガスが封止される。またMOPOシステムがArFエキシマレーザ装置のときには、発振段レーザ10、増幅段レーザ20のそれぞれのレーザチャンバ13、3は、アルゴン(Ar)ガス、フッ素(F2)ガスと、ヘリウム(He)やネオン(Ne)等からなるバッファガスとからなるレーザガスが封止される。
ここでレーザビームおよびゲインに関する用語を説明しておく。
出力側ミラーから出力されるレーザ光のスペクトルには分布があり、中央部にピークエネルギー密度を持ち、中央部から裾野に向かってエネルギー密度が低下する。本願発明でいうレーザビーム幅は、ピークエネルギー密度に対して5%以上のエネルギー密度を有する領域(幅)として定義される。また、平均エネルギー密度はレーザビーム幅内のエネルギー密度分布の平均値として定義される。
また、ゲイン領域を単位距離1(mm)通過する間にどれだけレーザビームが増幅されるかを示す値をG0とする。すなわちG0は単位距離当りのゲイン領域の増幅率である。
図4(a)は、従来のエキシマレーザ装置の構成を説明するための概念図である。図4(b)は、実施例1の構成を説明するための概念図である。なお、説明の都合上、図4(a)、(b)において、図1の増幅段レーザ20と共通する部品番号を用いたが、部品番号は部品が機能上同等であることを意味しているだけで、とくに増幅段レーザ20に限定されるものではなく、シングルチャンバのエキシマレーザ装置に適用してもよい。
図4(a)に示すように、従来構成のエキシマレーザ装置の場合、共振器光軸30とレーザチャンバ内に設けた放電電極24、25の長手方向の軸は平行になっている。したがって、共振器光軸30側からみた紙面内縦方向のゲイン領域幅W0は放電電極の電極幅Tと同じである。すなわち、発振幅はゲイン領域幅W0と同じである。
これに対して、図4(b)に示すように、実施例1のエキシマレーザ装置の場合、共振器光軸30に対して、放電電極24、25の放電電極の軸32が傾き角度θで傾けられる。
放電電極24、25の長手方向の長さをLとすると、共振器光軸30側からみたゲイン領域幅をW1とすると、近似的にW1=W0+Lsinθで表すことができる。すなわち、従来の構成の場合に対してゲイン領域幅をLsinθだけ拡大させることができる。共振器光軸30側からみたゲイン領域幅を拡大させることができるので、共振器内の発振幅を拡大することができる。
一方、放電電極の軸32の傾き角度θが増加するに従い、レーザビームはゲイン領域内を長く通過することができなくなる。すなわち、傾き角度θがあまり大きくなると、共振器内を反射往復するレーザビームはゲイン領域で有効に増幅されないことが予想される。
実験によれば、ゲインG0および注入光量が高ければ、傾き角度が図5に示す放電電極24、25の対角線角度θ1になるまでは、出力エネルギーをほぼ一定に保つことができるが、傾き角度がθ1を越えると出力エネルギーは急激に減少してしまう。
図6は、傾き角度θとレーザビーム幅Bとレーザ光の出力エネルギーPの関係を示す図である。
横軸は放電電極32の傾き角度θであり、縦軸はレーザビーム幅B(任意)またはレーザ出力P(任意)である。なお、図4(b)の構成から明らかなように、放電電極の軸32の正負の傾き角度θに対して、レーザビーム幅とレーザ出力は対称である。
図6において、レーザビーム幅Bは傾き角度θとともに単調に増加する。一方、レーザ光の出力エネルギーPは、ゲインG0が高く、また、シード光の注入光量が高ければ、傾き角度θがある程度増加しても変化しない。しかしながら、傾き角度θが図5に示す対角線角度θ1を越えると、レーザ光の出力エネルギーが急激に低下している。
このように、放電電極の傾き角度θをあまり大きくすると、所望するレーザ出力が得られないが、傾き角度θが対角線角度θ1より小さければ、レーザ光の出力エネルギーをほぼ一定に保ちながら、レーザビーム幅を拡大させることができる。したがって、共振器内に配置した光学素子へのレーザビームの照射面積を拡大することができる。
以上のように、実施例1では、所望するレーザ光の出力エネルギー以上の範囲内で、レーザチャンバに設けられた光学素子に照射するレーザビームのエネルギー密度を低下させるように、レーザビームの幅を拡大している。これにより、放電電極幅を変更せずに、1パルスあたりの出力エネルギーを従来以上に増加させたとしても、したがってレーザチャンバに設けられた光学素子の劣化を抑制することができる。
(計算によるシミュレーション)
ここまでは、ゲインG0の大きさと注入光量の大きさを考慮しなかった。以下において、さらにゲインG0と注入光量をパラメータとして計算したシミュレーション結果を示す。
図7は、図4(b)に基づいた実施例1のシミュレーション用モデル図である。
図7において、従来の放電電極の軸32は共振器光軸30と平行になっている。共振器光軸30方向からみたゲイン領域の幅W0は放電電極幅Tと同じ大きさである。
これに対して、本実施例では、放電電極の軸32’は共振器光軸30に対して傾き角度θで傾いている。共振器光軸30方向からみたゲイン領域の幅W1は、放電電極の長手方向の長さをLとして、近似的にW1=W0+Lsinθで表せる。共振器光軸30方向からみたゲイン幅はLsinθだけ拡大される。なお、原理上、ゲイン幅はレーザビーム幅より大きい。
図8は、ゲイン長Lgに対するピークエネルギー密度およびレーザビーム幅をシミュレーションするためのモデル図である。横軸がゲイン長Lgである。縦軸がゲイン領域幅Wであり、傾き角度θで決定される。設定したゲイン領域Gに対してピークエネルギー密度Epおよびレーザビーム幅Bをシミュレーションする。
図9は、図7のモデルを用いてゲイン長Lgとレーザ光の出力エネルギーPの関係をシミュレーションした図である。ただしゲインG0を小(相対値)、増幅段レーザへのシード光の注入エネルギーを小(相対値)とした。なお、放電電極幅を3(mm)とした。
図9によれば、ゲイン長Lgが約330(mm)以下では、出力エネルギーPは零である。また、ゲイン長Lgが330(mm)を越えると、出力エネルギーPは単調に増加していく。たとえばゲイン長Lgが700(mm)の場合、出力エネルギーPは約20(mJ)となっている。すなわち、ゲイン長Lgが長いほどレーザ光の出力エネルギーPは高くなる。
図10は、放電電極の傾き角度θとレーザビーム幅Bとの関係を表すシミュレーションである。ただし、図8を考慮して、放電電極の長さLを700(mm)、電極幅Tを3(mm)とした。横軸は放電電極の傾き角度θ(mrad)であり、縦軸はレーザビーム幅B(mm)である。
図10によれば、B1(ゲインG0小、注入エネルギー小の条件)の場合、レーザビーム幅は、放電電極の傾き角度θが大きくなるほど低下している。一方、B4(ゲインG0大、注入エネルギー大の条件)の場合、レーザビーム幅は、放電電極の傾き角度θが大きくなるほど増加している。すなわち、図9によれば、レーザビーム幅を効率的に拡大するには、ゲインG0および注入エネルギーを大きくすればよい。
図11は、傾き角度に対するピークエネルギー密度およびレーザビーム幅の関係を表すシミュレーションである。ここでは最適な条件である図10のB4のパラメータ条件を用いた。横軸は放電電極の傾き角度θ(mrad)であり、縦軸は右側がピークエネルギー密度Ep(任意単位)、左側がレーザビーム幅B(mm)である。なお、放電電極の長さLを700(mm)、放電電極の電極幅Tを3(mm)とした。よって対角線角度θ1は4.3(mrad)である。
図11によれば、レーザビーム幅Bは、傾き角度θが大きくなるにつれて増加し、傾き角度θが0〜5(mrad)の範囲では、レーザビーム幅Bは3(mm)から4(mm)に増加しており、レーザビーム幅Bの拡大率は、(4−3)/(5−0)(mm/mrad)=0.24(mm/mrad)である。一方、ピークエネルギー密度Epは、傾き角度θが4.3(mrad)になるまでは一定である。傾き角度θが4.3(mrad)を越えるとピークエネルギー密度は急激に低下する。すなわち、この傾き角度以上になるとゲイン領域の中心部のゲインは急激に減少する。よって、対角線角度θ1近傍がピークエネルギー密度が低下する傾き角度であることがわかる。
図11によれば、元のレーザビーム幅3(mm)に対して、傾き角度θが4.3(mrad)のときのレーザビーム幅Bは約4(mm)である。すなわち、上記シミュレーションによれば、レーザ出力を減少させない条件で、レーザビーム幅Bを元のレーザビーム幅より約1(mm)拡大できることがわかった。計算上では、レーザビーム幅Bは33%拡大されたことになる。
よって、たとえばレーザ光の出力エネルギーを従来に比べて33%増加しても、ウィンドウに照射されるレーザビーム幅Bを従来に比べて33%拡大できるので、ウィンドウに照射されるレーザ光のエネルギー密度を従来と同程度以下にすることが計算上では可能となる。
以上のように、ゲイン幅を拡大するとレーザビーム幅も拡大することがシミュレーションからも明らかになった。シミュレーションにより傾き角度θの具体的な数値を得ることができるので、実験を行う指針とすることができる。
実施例1では、共振器光軸30を構成する共振器については特に言及しなかった。
実施例2は、図3の2ステージレーザシステム1の増幅段レーザ20を想定している。
実施例2では、リア側ミラー21と出力側ミラー22を互いに平行に配置して形成した共振器光軸に対して、放電電極の長手方向の軸を傾けている。
図12(a)は、従来の増幅段レーザ20の構成を示す図である。図12(b)は、実施例2における増幅段レーザ20の構成を示す図である。また、図12(c)は実施例2の変形例である。
図12(a)、(b)、(c)において、増幅段レーザ20に配置されたリア側ミラー21と出力側ミラー22は互いに平行に配置され、共振器光軸30を形成している。
図12(a)に示すように、共振器内部に配置された放電電極24、25の長手方向に平行な放電電極の軸32は、共振器光軸30と平行している。そのため、従来の増幅段レーザ20の場合、共振器光軸30方向からみて放電電極24、25の放電電極幅Tとゲイン領域幅W0は一致している。
これに対し、図12(b)に示すように、実施例2では、共振器光軸30に対して、放電電極24、25の放電電極の軸32を紙面内で傾き角度θで傾斜させている。このように傾斜させるためには、レーザチャンバ23を紙面内で反時計周りに回転移動させればよい。
図12(b)によれば、共振器光軸30に対してレーザチャンバ23を任意に設定した回転軸を中心にして傾けたので、それと同時に放電電極24、25のゲイン領域も傾くため、共振器光軸30方向から見たゲイン領域幅W1は、放電電極の長さをLとして、近似的にW1=W0+Lsinθとなり、共振器光軸30に直交する紙面内縦方向にLsinθ拡大される。
ゲイン領域幅がLsinθ拡大するため、これに伴い共振器内で発振(増幅)されるレーザビーム幅も共振器光軸30に直交する紙面内縦方向に拡大される。拡大されたレーザビーム幅をB1とする。レーザビーム幅B1は拡大されたゲイン領域幅W1より小さい。すなわち、W1>B1である。
以上のように、実施例2によれば、ゲイン領域幅が拡大するに応じて、レーザビーム幅も拡大するので、レーザチャンバ23に設けたウィンドウ27、27に照射されるレーザビームのエネルギー密度を低下させることができる。
図13は、実施例2における実験結果を示す図である。横軸は傾き角度θ(mrad)であり、縦軸はレーザビーム幅B(mm)である。
図13によれば、レーザビーム幅Bの拡大率は約0.33(mm/mrad)であり、上記シミュレーションの場合の拡大率0.24(mm/mrad)よりやや大きい値となっている。よって実施例2では、レーザビーム幅を1(mm)拡大するには、傾き角度θを約3(mrad)にすればよい。
図12(c)は実施例2の変形例である。
ここでは、図12(b)の場合と異なり、レーザチャンバ23を固定しておき、レーザチャンバ23内の放電電極24、25のみを移動して、共振器光軸30に対して放電電極の軸32を傾き角度θだけ傾けている。
図12(c)から明らかなように、共振器光軸30と放電電極の軸32の位置関係に限れば、図12(b)と全く同じ位置関係である。したがって、その作用およびそれによる効果も図12(b)の場合と同じである。よって、変形例の説明については省略する。
ここまで2ステージレーザシステムの増幅段レーザを用いて実施例2を説明してきたが、実施例2の発明は、シングルレーザチャンバにも適用できる。
なお、図12(b)、(c)では、レーザチャンバあるいは放電電極を、紙面内で反時計周りに回転させたが、レーザチャンバあるいは放電電極を、紙面内で時計周りに回転させてもよいことは明らかである。
以上説明したように、実施例2によれば、2ステージレーザシステムの増幅段あるいはシングルチャンバのエキシマレーザ装置において、所望するレーザ出力以上の範囲内で、ウィンドウに照射するレーザビームのエネルギー密度を低下させるように、レーザビームの幅を設定することができる。
そのため、1パルスあたりの出力エネルギーを従来以上に増加させたとしても、レーザビーム幅を拡大して、光学素子に照射されるレーザビームのエネルギー密度を低下させることができる。
これにより、1パルスあたりの出力エネルギーを従来以上に増加させたとしても、レーザチャンバに設けた光学素子が劣化するのを抑制することができる。
実施例3はシード光を用いるMOPOシステムに適用される。
(実施例3の基本原理とシミュレーション)
以下に実施例3の基本原理とシミュレーション結果を説明する。
図14は、実施例3における共振器内のレーザビームが反射毎にシフトする様子を説明するための概念図である。
増幅段レーザ20に配置されたリア側ミラー21と出力側ミラー22は互いに平行に配置され、共振器光軸30を形成している。放電電極の軸32は共振器光軸30に平行している。
上記構成において、シード光が共振器光軸30に対して傾き角度θで注入され、出力側ミラー22に到達する(1パス目という)。リア側ミラー21と出力側ミラー22との距離をMとすると、注入されたシード光は、リア側ミラー21から出力側ミラー22に到達する間に、図の上方にMtanθシフトされる。出力側ミラー22で反射角度θで反射されたレーザビームは、リア側ミラー21に到達する。リア側ミラー21に到達する間に、さらに図の上方にMtanθシフトされる。次に、リア側ミラー21により反射角度θで反射されたレーザビームは、出力側ミラー22に到達する(2パス目という)。以下同様に、一定の反射角度θで共振器内の反射が繰り返えされるとともに、レーザビームは反射する毎に図の上方にMtanθシフトされる。
図15は、実施例3におけるレーザビームの拡大の様子をさらに説明するための概念図である。
図15において、中央の斜線部は放電電極24、25のゲイン領域Gである。リア側ミラー21から注入されたシード光(レーザビーム)は、共振器光軸30に対する傾き角度θで、ゲイン領域Gの大半を通過し出力側ミラー22に到達する(1パス目)。1パス目のレーザビームは、注入されたレーザビームに対して、図の上方にMtanθシフトされる。
出力側ミラー22に到達したレーザビームの一部は、1パス目の出力エネルギーP1として、出力側ミラー22を通過して矢印方向Eに出射される。1パス目のレーザビームのイメージを領域G1で示す。
出力側ミラー22に到達したレーザビームの大部分は、反射角度θで反射され、再びゲイン領域Gを通過し、増幅されてリア側ミラー21に到達する。リア側ミラー21に到達したレーザビームは、反射角度θで反射され、再びゲイン領域Gを通過し、増幅されて出力側ミラー22に到達する(2パス目)。2パス目のレーザビームは、注入されたレーザビームに対して図の上方に3Mtanθシフトされる。
出力側ミラー22に到達したレーザビームの一部は、2パス目の出力エネルギーP2として、出力側ミラー22を通過して矢印方向Eに出射される。2パス目のレーザビームのイメージを領域G2で示す。
次に、出力側ミラー22に到達したレーザビームの大部分は、反射角度θで反射され、再びゲイン領域Gを通過し、増幅されてリア側ミラー21に到達する。リア側ミラー21に到達したレーザビームは、傾き角度θで反射され、再びゲイン領域Gを通過し、増幅されて出力側ミラー22に到達する(3パス目)。3パス目のレーザビームは、注入されたレーザビームに対して図の上方に5Mtanθシフトされる。
出力側ミラー22に到達したレーザビームの一部は、3パス目の出力エネルギーP3として、出力側ミラー22を通過して矢印方向Eに出射される。3パス目のレーザビームのイメージを領域G3で示す。以下同様のことが繰り返される。
図16は、図15で説明したレーザビームの反射往復の態様を示す図である。
図16において、1パス目のレーザビームはゲイン領域Gで増幅され出力側ミラー22に到達する。すなわち、1パス目のレーザビームはゲイン領域Gを1回通過する。2パス目のレーザビームはゲイン領域Gを3回通過する。3パス目のレーザビームはゲイン領域Gを5回通過する。
図16の下部には、レーザビームがゲイン領域Gを複数回通過したときのレーザビームの増幅率を表すゲインGpを示した。
ゲインGpは、レーザビームがゲイン領域Gを通過する間に増幅される増加率を表すもので、レーザビームがゲイン領域をどのように通過するかで決定される。ゲインGpが大きいほど増幅率が高くなりレーザ光は高出力となる。また、レーザビームがゲイン領域Gから外れる(ゲイン領域Gを通過する経路が短い)ほどゲインGpは小さくなる。そこでシミュレーションでは、ゲインGpが0.35以上になる位置をピークエネルギー密度が5%以上になる位置と仮定した。すなわち、ゲインGpが0.35以上の範囲(幅)がレーザビーム幅に対応する。
図17は、2パス目のレーザビームがゲイン領域から外れる場合のモデル図である。
図17において、レーザチャンバ23に傾き角度θで注入されたシード光は、斜線部のゲイン領域Gを通過して出力側ミラー22に到達し反射される。この間にレーザビームがゲイン領域を通過するゲイン長をLg1とする。反射したレーザビームは、ゲイン領域を通過してリア側ミラー21に到達し反射される。この間にレーザビームがゲイン領域を通過するゲイン長をLg2とする。反射したレーザビームはゲイン領域を通過して出力側ミラー22に到達し反射される。この間にレーザビームがゲイン領域を通過するゲイン長をLg3とする。3パス目以後は、反射されたレーザビームはもはやゲイン領域を通過することがなく、増幅されることはない。ゲイン領域でない空間をレーザビームのロス領域という。ロス領域ではレーザ光のエネルギーはロスするのみである。ゲイン長Lg1、Lg2、Lg3は傾き角度θをパラメータとして決定できる。
ここで、単位長さあたりのエネルギーのロスは一定とした。そのため、1パスにおける吸収長Laは共振器長と同じである。
図18は、代表的なパラメータに基づいてシミュレーションした結果を整理したものである。
図18では、ゲインG0を小、注入エネルギーを中としている。図によれば、1パス目のゲインGpは2.16であり、2パス目のゲインGpは2.71であり、3パス目のゲインGpは3.41となっており、出力ゲインGpは5.79である。入力2(mJ)に対して出力は11.6(mJ)と増加する。
図19は、図17のモデル図を用いて計算した1パス目、2パス目および3パス目のゲインGpを示す図である。横軸はゲイン領域幅方向の位置S(mm)であり、縦軸は各パスのゲインGp(数値)である。
図19に示すように、1パス目および2パス目はゲインが高いが、3パス目はロスが大きいためにゲインは減少している。パスを繰り返す毎にレーザビームがゲイン領域幅の正の方向にシフトしていることがわかる。すなわち、レーザビーム幅は拡大している。
図20は、図17のモデル図におけるすべてのパスのゲインGpを積分した結果である。
図の横軸はゲイン領域幅方向の位置S(mm)であり、縦軸は総ゲインGs(数値)である。なお、シード光の傾き角度を0.6(mrad)とし、放電電極の幅を3(mm)、吸収長を982(mm)、ゲイン長Lgを525(mm)とした。従来のゲイン領域幅を−3〜0(mm)の間としている。
総ゲインGsは出力レーザのスペクトルと同じ形状である。図19によれば、ゲインが0.35以上の範囲は−2.84〜0.81(mm)となる。すなわち、レーザビーム幅は3.65(mm)となり、元のゲイン領域幅3(mm)より0.65(mm)拡大している。
以上、図14〜図20によれば、増幅段レーザ20にシード光を傾けて注入することにより、レーザビームの幅を拡大できることが予想される。シード光の注入角度θは正でも負でも取ることができる。
(実施例3)
図21(a)は従来の増幅段レーザ20の構成である。図21(b)は実施例2の増幅段レーザ20の構成の図である。
図21(a)の場合、増幅段レーザ20に配置されたリア側ミラー21と出力側ミラー22は互いに平行に配置され、共振器光軸30を形成している。
また、図示しない発振段レーザで生成したシード光が、レーザ光案内部18のレーザ光案内ミラー34により案内され、放電電極の軸32と平行するように、増幅段レーザチャンバ23に注入される。すなわちシード光の注入光軸35は共振器光軸30に平行している。
これに対し、実施例4の場合、図21(b)に示すように、増幅段レーザ20の共振器光軸30に対して、シード光の注入光軸35が注入角度θ(>0)を持つように、シード光が注入される。シード光の注入光軸35を傾けるには、レーザ光案内ミラー34を、放電電極24、25の放電方向と平行する軸を中心にして反時計周り(図の矢印方向D)に回転すればよい。
図22は、実施例3における実験結果を示す図である。横軸はシード光の注入角度θであり、縦軸はレーザビーム幅B(mm)である。
図22によれば、注入角度θを負側に変化させたとき、レーザビーム幅の拡大率は約0.67(mm/mrad)となることがわかる。よって、たとえば傾き角度を0.6(mrad)とした場合、レーザビーム幅Wを約0.4(mm)拡大させることができる。
以上のように、実施例3によれば、発振段レーザで生成したシード光を、共振器光軸30に対して角度を有して増幅段レーザ20に注入することにより、レーザビームの幅を拡大することができる。
よって、1パルスあたりの出力エネルギーを従来以上に増加させたとしても、増幅段レーザチャンバのウィンドウに照射されるレーザビームのエネルギー密度を低下することができるので、増幅段レーザチャンバに設けたウィンドウの劣化を抑制することができる。
なお、図21(b)ではレーザ光案内ミラー35を反時計周りに回転させたが、レーザ光案内ミラー35を時計周りに回転させてもよい。
実施例3の場合、出力側ミラー22から出力されるレーザ光は、共振器光軸30に対して傾き角度θだけ傾いているが、エキシマレーザ装置のレーザ光出口に到達する間に傾き角度を補正することができる。
実施例4は、シード光を用いるMOPOシステムに適用される。
図23(a)は実施例3の図21(b)に対応する図である。また、図23(b)は実施例4の増幅段レーザの構成図である。
図23(a)では、レーザ光案内ミラー34を調節して、シード光の注入光軸35を共振器光軸30に対して傾き角度θで傾けている。なお、シード光の注入光軸35がレーザ光案内ミラー34で反射される位置をK0とする。図23(a)の場合、注入されたシード光は1パス目で斜線部のゲイン領域Gの大半を通過するが、ゲイン領域Gのうち1パス目のシード光が通過しない部分領域Gbは、その後反射往復するレーザ光が通過することはなく、部分領域Gbの放電エネルギーをレーザ光の増幅(発振)に役立てることができない。部分領域Gbの紙面内共振器光軸30に直交する縦方向の最大長さをGmとする。
そこで実施例4では、図23(b)に示すように、注入されるシード光が部分領域Gbを通過できるように、破線で示すシード光の位置から、図の下方にGmだけシフトさせて、実線で示すシード光の位置まで移動させる。
具体的には、注入光軸35を図の下方にGmだけシフトするために、レーザ光案内ミラー34のシード光の光軸の反射位置を、位置K0から位置K1に変更する。反射位置をK0からK1に変更したことにより、シード光の注入光軸35は図の下方にGmだけ移動させられる。変更後のシード光の注入光軸を35’とした。
計算によれば、例えばシード光の傾き角度を0.6(mrad)とした場合、Gmは0.43(mm)である。よって、この場合、注入光軸35を図の下方に0.43(mm)移動させればよい。図の下方に0.43(mm)だけ移動するためのレーザ光案内ミラー34の反射位置K1は、実験により適宜求めることができる。
以上のように、実施例4によれば、シード光の注入光軸35を図の下方に所定距離シフトさせることにより、レーザ光をすべてのゲイン領域Gを通過させることができるので、ゲイン領域G全体の放電エネルギーをレーザ光の増幅に使用することができる。
これにより、実施例3の効果が得られるとともに、実施例3に比べて放電エネルギーをより活用できる効果が得られる。
実施例5は、シード光を用いるMOPOシステムに適用される。
実施例4の図23(b)の場合、ゲイン領域G全体が有効活用される。しかしながら、出力側ミラー22に到達したレーザビームは、出力側ミラー22がリア側ミラー21と互いに平行に配置されているため、注入角度θと同じ大きさの反射角度θで反射される。そのため、共振器内で反射往復を繰り返したレーザビームは、次第にゲイン領域Gから外れる方向(図の上方)にシフトする。すなわち、反射回数が大きくなるとレーザビームはゲイン領域Gで有効に増幅されなくなる。
そこで実施例5では、ゲイン領域全体を有効活用できる構成にするとともに、共振器内を反射往復するレーザビームがゲイン領域Gから外れるのを抑制する構成としている。
図24は、実施例5を説明するための概念図である。
図24の場合、図23(b)と同様に、シード光の注入光軸35は、放電電極の軸32に対して傾き角度θになるように配置される。また、ゲイン全体を有効活用できるように注入光軸35の位置が最適化されている。
図23(b)と異なるところは、共振器を構成するリア側ミラー21および出力側ミラー22の配置である。
図24に示すように、リア側ミラー21は、放電電極の軸32に直交するように配置される。一方、出力側ミラー22は、放電電極24、25と平行する軸を中心として傾き角度θ2で傾斜させ、出力側ミラー22に到達したレーザ光を反射させる。このような構成にすることにより、共振器内で反射往復したレーザビームが、図の上部の破線領域で示したレーザビームがシフトした領域に移動するのを抑制することができる。
なお、注入光軸35の傾き角度θが正であれば、出力側ミラー22を反時計周りに回転させる。また、注入光軸35の傾き角度θが負であれば、出力側ミラー22を時計周りに回転させる。
図25は、出力側ミラー22近傍の拡大図である。
出力側ミラー22に入射する放電電極の軸32に対するシード光の注入角度をθ(>0)、出力側ミラー22の傾き角度をθ2(>0)、出力側ミラー22で反射されるレーザビームの放電電極の軸32に対する反射角度をθ3(>0)とすると、θ3=θ−θ2である。すなわち、実施例5では、出力側ミラー22に入射する注入角度θより、反射する反射角度θ3をかならず小さくしている。すなわち実施例4の傾けた場合の反射レーザビームZ1は、傾けない場合の反射レーザビームZ0より、低角度で反射される。したがって、反射後のレーザビームは、図の上方にシフトするシフト量が抑制される。
しかしながら、傾き角度θ2をあまり大きくして傾き角度θ3を小さくしてしまうと、共振器を反射往復して形成されるレーザビーム幅を拡大することができなくなる。よって実験により最適な傾斜角度θ2を求めておく必要がある。
実験によれば、シード光の傾き角度を0.6(mrad)としたとき、出力側ミラー22の傾き角度θ2を0.04(mrad)にするのが最適であることがわかった。
上記設定の場合、出力側ミラー22で反射されるシード光の反射角度は0.56(mrad)となる(ここまでが1パス目)。反射されたレーザ光はリア側ミラー21で入射角度と同じ角度、すなわち0.56(mrad)の反射角度で反射され、再び出力側ミラー22に入射する。傾き角度0.56(mrad)で出力側ミラー22に入射したレーザ光は、出力側ミラー22の傾き角度θ1を差し引いた傾き角度、すなわち傾き角度0.52(mrad)で反射される(2パス目)。以下同様に、出力側ミラー22で反射される毎に、レーザ光の反射角度は0.04(mrad)ずつ減少していく。それに伴い、レーザビームが反射往復する毎に図の上方にシフトするシフト量も減少することになる。
図26は、実施例5における実験結果と図1の従来条件および新規条件の実験結果とを比較した図である。
図1でも説明したように、新規条件の場合、出力エネルギーを15(mJ)としている。そのとき、ウィンドウに照射される平均エネルギー密度は42.3(mJ/cm2)、ピークエネルギー密度は114.2(mJ/cm2)であり、ウィンドウの寿命1(Bpls)発振である。出力されるレーザビーム幅は0.33(cm)である。
これに対して、実施例5を適用した本願発明では、レーザビーム幅を0.42(cm)まで拡大させている。ビーム拡大率は1.27である。そのため、本願発明では、ウィンドウに照射される平均エネルギー密度を33.2(mJ/cm2)、ピークエネルギー密度を89.7(mJ/cm2)とすることができた。これらの値は図1における従来条件の平均エネルギー密度およびピークエネルギー密度と同等である。その結果、ウィンドウの寿命を従来と同じ14(Bpls)までもたせることができた。
なお、図24では出力側ミラー22を傾斜させたが、出力側ミラー22を放電電極の軸32に対して直交させて配置し、リア側ミラー21を傾斜させてもよい。その場合、放電電極の軸32に対して所定の注入角度θで注入されたシード光が、出力側ミラー22で最初に反射されるときの放電電極の軸32に対する反射角度が変わらないことを除けば、その後のレーザビームの反射角度の変化は図23の場合と全く同じである。
以上のように、実施例5によれば、レーザビーム幅を拡大することができるとともに、ゲイン領域でレーザ光を往復させることができるので、ゲイン領域の放電エネルギーを有効活用することができる。
なお、図24では放電電極の軸32を紙面内横方向としたが、変形例として、図24において、さらに放電電極の軸32を紙面内で回転させてもよい。
その場合、出力側ミラー22で反射されたレーザ光がゲイン領域Gから外れないように放電電極の軸32を傾ける。すなわち、放電電極の軸32を時計周りに回転させる。こうすることにより、出力側ミラー22で反射されたレーザ光がゲイン領域から外れるのを抑制することができる。したがって、図23の場合よりさらに放電エネルギーを有効活用することが可能になる。
実施例6は、MOPOシステムおよびシングルエキシマレーザ装置に適用される。
図27は、実施例6を説明するための概念図である。
図27に示すように、実施例6では、リア側ミラー21を、放電電極の軸32に直交するように配置する。そして、リア側ミラー21に対して、出力側ミラー22を、放電電極24、25の放電方向を軸として傾き角度θで傾斜させ、出力側ミラー22に到達したレーザ光を反射させる。
なお、図27では、出力側ミラー22を時計周りに回転させて傾き角度θを持たせているが、本実施例では、出力側ミラー22を反時計周りに回転させ傾き角度θを持たせてもよい。
図28は、実施例6における共振器内のレーザビームの反射態様を説明するための概念図である。
放電電極の軸32方向に注入されたシード光は、そのまま出力側ミラー22に到達する(1パス目)。出力側ミラー22が傾き角度θで傾斜しているので、傾き角度θの大きさの反射角度θで反射される。リア側ミラー21と出力側ミラー22の距離をMとすると、ここで反射されたレーザビームは、リア側ミラー21に到達するまでに図の上方にMtanθシフトされる。リア側ミラー21で反射されたレーザビームは、さらに図の上方にMtanθシフトされて出力側ミラー22に到達する(2パス目)。出力側ミラー22が傾き角度θで傾斜しているので、反射角度θで入射したレーザビームは、反射角度2θで反射される。反射されたレーザビームは、リア側ミラー21に到達するまでに図の上方にMtan2θシフトされる。リア側ミラー21で反射されたレーザビームは、さらに図の上方にMtan2θシフトされて出力側ミラー22に到達する(3パス目)。以下、出力側ミラー22で反射される毎に、反射角度をθだけ増加させ、同時にシフト量を増加させていく。すなわち、1パス目、2パス目、3パス目等、パスの回数が増加するほどレーザビームは図の上方にシフトされる。すなわち、実施例6においてもレーザビーム幅は図の上方に拡大される。
以上のように、実施例6によれば、出力側ミラー22から出力されるレーザビームの幅を拡大することができる。よって、共振器内のレーザチャンバに設けたウィンドウに照射されるレーザビームのエネルギー密度を低下させることができ、ウィンドウが劣化するのを抑制することができる。
実施例7は、シード光を用いるMOPOシステムに適用される。
図29は、実施例7を説明するための概念図である。
図29に示すように、実施例7の場合、図示しない発振段レーザで生成されたシード光を、図の紙面内上下方向の広がり角度を有して共振器に注入している。広がり角度は、共振器光軸30に平行する光線に対して図の上下方向に偏向する角度であり、図の場合、共振器光軸30に対する図の上下方向の傾き角度θ、θの合計角度2θが広がり角度である。
図29によれば、図の上方に偏向するレーザビームは傾き角度θで出力側ミラー22に到達しその後反射される。一方、図の下方に偏向するレーザビームは傾き角度θで出力側ミラー22に到達しその後反射される。
さて、上記2つのレーザビームのその後の反射形態は、実施例3の、共振器光軸30に対してシード光を傾き角度θでレーザチャンバ23に注入する場合と全く同じである。すなわち、図の上方に偏向したレーザビームは図の上方にレーザビーム幅を拡大する。同様に、図の下方に偏向したレーザビームは図の下方にレーザビーム幅を拡大する。
以上のように、実施例7によれば、共振器内を反射往復するレーザビームの幅を拡大することができる。よって、共振器内のレーザチャンバに設けたウィンドウに照射されるレーザビームのエネルギー密度を低下させることができ、ウィンドウが劣化するのを抑制することができる。
以上の実施例では、共振器を構成するリア側ミラーと出力側ミラーはともに平面型であった。本願発明の場合、共振器を構成するミラーは必ずしも平面型でなくてもよい。
図30(a)〜(d)は、実施例7を説明するための概念図である。
図30(a)は、共焦点型ミラー配置の場合であり、同形の凹面鏡であるリア側ミラー21と出力側ミラー22は、共焦点を持つように互いの凹面が対向するように配置される。
図30(b)は、半共焦点型ミラー配置とした場合であり、凹面鏡である出力側ミラー22は、リア側ミラー21に凹面が対向するように配置され、出力側ミラー22の焦点はリア側ミラー21の面上に設定される。
図30(c)は、半径型ミラー配置の場合である。すなわち、リア側ミラー21と出力側ミラー22は、互いに半径を共有する面が対向するように配置される。当然ながら、各ミラーの焦点は半径中心である。
図30(d)は、リア側ミラー21と出力側ミラー22をともに三角プリズムとした場合である。
以上のような共振器構成を用いても、共振器内でレーザビームを反射往復させることにより、レーザビームの幅を拡大することができる。
なお、実施例8は、MOPOシステムおよびシングルチャンバレーザ装置のいずれにも適用可能である。
さて、レーザビーム幅を拡大する技術と公知技術のビームエキスパンダ(BEX)技術とを組み合わせることにより、出力側ミラー22に照射されるエネルギー密度をさらに低下させることもできる。以下にその実施例を示す。
図31は、実施例9を説明するための概念図である。なお、図ではMOPOシステムの増幅段レーザで説明するが、シングルチャンバにおいても同様に適用できる。
図31において、リア側ミラー21と出力側ミラー22で構成される共振器内にレーザチャンバ23とビームエキスパンダ36が配置されている。共振器内で反射増幅されるレーザビームは、実施例1〜8で説明した技術によりレーザビーム幅を拡大される。
ビームエキスパンダ36は、楔型の透過性のある光学部品37、37がレーザ光軸上に配置されており、レーザ光を拡大することができる。
実施例9によれば、レーザチャンバ23側のウィンドウ27、27に照射されるレーザビームの幅を拡大できるとともに、出力側ミラー22に照射されるレーザビームの幅をビームエキスパンダ36で拡大することができる。
そのため、出力側ミラー22に照射されるレーザ光のエネルギー密度を低下させることができるので、高い出力エネルギーが出力側ミラー22から出力されても、出力側ミラー22の劣化を抑制することができる。
上記MOPOシステムでは、発振段レーザ10で生成したシード光は、すべてリア側ミラー21の裏面から注入していた。この方式を裏面注入方式という。本願発明では、シード光の注入方式を裏面注入方式に限ることなく、他の注入方式を適用することができる。
図32(a)〜(c)は、代表的な注入方式を説明するための概念図である。
図32(a)は、裏面注入方式であり、発振段レーザ10で生成されたシード光は、レーザ光案内ミラー34、34により案内され、リア側ミラー21の裏面(図の左側)から増幅段レーザ20に注入される。
図32(b)は、サイド注入方式であり、発振段レーザ10で生成されたシード光は、レーザ光案内ミラー34、34により案内され、リア側ミラー21を介さずに、直接レーザチャンバ23に注入される。よって、サイド注入方式の場合、リア側ミラー21を全反射タイプにすることができ、共振器内のレーザエネルギーを効率よく増幅することができる。
図32(c)は、前注入方式であり、発振段レーザ10で生成されたシード光は、レーザ光路変換ミラー35、35により出力側ミラー22近傍に案内され、直接レーザチャンバ23に注入される。よって、前注入方式の場合、リア側ミラー21を全反射タイプにすることができ、共振器内のレーザエネルギーを効率よく増幅することができる。
たとえば、サイド注入方式と前注入方式の場合、リア側ミラー21と出力側ミラー22を平行にしておき、シード光を共振器光軸に対してシード光を傾けて注入するのに適している。なお、その場合、両ミラー21、22の反射角度を調整して、共振器内のレーザビームの幅が最適になるようにしてもよい。
なお、以上の実施例においては、放電電極幅を変更せずに、ゲイン領域幅を拡大することによりレーザビーム幅を拡大していた。場合によっては、放電電極幅を拡大してゲイン領域幅を拡大することにより、結果的にレーザビーム幅を拡大するようにしてもよい。