本発明は、クラッチカバー組立体、特に、エンジンのフライホイールにクラッチディスク組立体の摩擦部材を押し付け及び押し付け解除するためのクラッチカバー組立体に関する。
クラッチカバー組立体は、一般に、エンジンのフライホイールに装着され、エンジンの駆動力をトランスミッション側に伝達するために用いられている。このようなクラッチカバー組立体は、主に、クラッチカバー、プレッシャプレート及びダイヤフラムスプリングを備えている。クラッチカバーはフライホイールに固定される。プレッシャプレートは、ダイヤフラムスプリングによってフライホイール側に押圧され、クラッチディスク組立体の摩擦部材をフライホイールとの間に挟持する。ダイヤフラムスプリングは、プレッシャプレートを押圧する機能とともに、プレッシャプレートへの押圧を解除するためのレバー機能も有している。
ここで、ダイヤフラムスプリングの荷重特性に起因して、クラッチディスク組立体の摩擦部材の摩耗が進むと摩擦部材への押付荷重が大きくなる。このため、摩擦部材が摩耗すると、レリーズ操作をするために大きな荷重が必要となり、クラッチペダル踏力が大きくなってしまう。
そこで、例えば特許文献1に示されるように、摩擦部材が摩耗した場合でも、ダイヤフラムスプリングの姿勢を初期状態に戻すことによって、押付荷重が大きくなるのを抑えるようにした摩耗補償機構が提供されている。この摩耗補償機構は、主に、プレッシャプレートとダイヤフラムスプリングとの間に配置されたファルクラムリングと、ファルクラムリングをプレッシャプレートから離れる方向に付勢する付勢機構と、摩擦部材の摩耗量を検出する摩耗量検出機構と、を有している。ここでは、ダイヤフラムスプリングはファルクラムリングを介してプレッシャプレートを押圧可能になっており、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリングをプレッシャプレートから離れる側に移動させることにより、ダイヤフラムスプリングが初期のセット姿勢に維持される。
また、振動による摩耗量検出機構の作動の不安定さを改善するために、特許文献2に示される摩耗補償機構も提供されている。ここでは、振動を吸収するためのコーンスプリングを摩耗量検出機構に設け、摩耗補償のための作動の安定化を図るようにしている。
特開平10−227317号公報
特開2003−28193号公報
以上のような摩耗補償機構においては、摩耗量を精度良く検出することが重要である。特許文献1及び2では、ブシュ及びこのブシュを貫通するボルトによって摩耗量検出機構が構成されており、摩耗に応じて生じる両者の隙間によって摩耗量が検出されるようになっている。しかし、以上のような従来の構成では、エンジン振動等に伴う各部の振動によって摩耗量を示す隙間が変化するおそれがあり、安定して正確な摩耗補償を行うことは困難である。
本発明の課題は、正確な摩耗補償を行うことができるようにすることにある。
請求項1に係るクラッチカバー組立体は、エンジンのフライホイールにクラッチディスク組立体の摩擦部材を押し付け及び押し付け解除するためのものである。
このクラッチカバー組立体は、フライホイールに固定されるクラッチカバーと、プレッシャプレートと、ファルクラムリングと、リング移動規制機構とを、備えている。プレッシャプレートは、フライホイールに摩擦部材を押圧するためのであり、クラッチカバーに相対回転不能に連結される。ファルクラムリングは、プレッシャプレートに配置され、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレートから離れる方向へ移動する。リング移動規制機構は、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えたときに、プレッシャプレートから離れる方向へのファルクラムリングの移動を、規制する。
このクラッチカバー組立体では、プレッシャプレートが、摩擦部材をフライホイールに押圧すると、プレッシャプレートが、摩擦部材を介して、フライホイールとともに回転する。このようにプレッシャプレートが回転している時に、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えていれば、リング移動規制機構によって、プレッシャプレートから離れる方向へのファルクラムリングの移動が、規制される。ここでは、摩擦部材の摩耗量に応じた、プレッシャプレートから離れる方向へのファルクラムリングの移動が、規制される。
このように、本発明では、リング移動規制機構によって、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を超えると、ファルクラムリングの移動が規制されるので、この状態でクラッチカバー組立体に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けづらくなる。すなわち、本発明では、リング移動規制機構によって振動の影響を排除することができるので、正確な摩耗補償を行うことができる。
請求項2に係るクラッチカバー組立体では、請求項1に記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、ファルクラムリングに係合する係合部材と、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において係合部材に係合し、この係合部材を介してファルクラムリングの移動を規制する規制部材とを、有している。
このクラッチカバー組立体では、規制部材が、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において係合部材に係合し、この係合部材を介してファルクラムリングの移動を規制するので、この状態で振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けづらくなる。言い換えると、規制部材と係合部材との係合が解除されたときに、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリングを移動することができるので、摩耗補償をより確実に行うことができる。
請求項3に係るクラッチカバー組立体では、請求項2に記載のクラッチカバー組立体において、ファルクラムリングが、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレートに対して相対回転させられることによって、プレッシャプレートから離れる方向に移動する。係合部材は、ファルクラムリングの回転方向に移動可能にプレッシャプレートに装着される。規制部材は、プレッシャプレートに揺動自在に装着され、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において揺動し係合部材に係合することによって、係合部材の移動が規制される。
このクラッチカバー組立体では、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において、規制部材が揺動し係合部材に係合している場合、係合部材の移動は、規制部材によって規制される。このため、ファルクラムリングの移動も、係合部材を介して規制部材によって規制される。一方で、係合部材に対する規制部材の係合が解除された場合、係合部材がファルクラムリングの回転方向に移動する。すると、ファルクラムリングは、プレッシャプレートに対して相対回転可能になり、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレートから離れる方向に移動する。
このように、本発明では、遠心力によって規制部材が揺動し係合部材に係合している時には、ファルクラムリングの移動を規制することができ、係合部材に対する規制部材の係合が解除された時には、ファルクラムリングを、プレッシャプレートから離れる方向に移動させることができる。すなわち、本発明では、振動の影響が大きい時には、ファルクラムリングの移動を規制することができ、振動の影響が小さい時には、ファルクラムリングを移動させることによって、摩耗補償を安全且つ正確に行うことができる。
請求項4に係るクラッチカバー組立体では、請求項3に記載のクラッチカバー組立体において、規制部材が、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数より大きくなったときに、規制部材が遠心力によって揺動をするように重さが調整された調整部材を、有している。
このクラッチカバー組立体では、規制部材に調整部材が設けられており、この調整部材によって、規制部材が遠心力によって揺動するタイミングが、調整される。ここでは、プレッシャプレートの回転数が、所定の回転数より大きくなったときに、規制部材が遠心力によって揺動する。これにより、振動の影響が大きい回転数の時には、ファルクラムリングの移動を規制することができ、振動の影響が小さい回転数の時には、ファルクラムリングを移動させることができる。例えば、プレッシャプレートの回転数が、アイドリング回転数より大きくなったときに、規制部材を係合部材に係合させることができる。また、プレッシャプレートの回転数が、アイドリング回転数以下になったときに、規制部材と係合部材との係合を解除することができる。これにより、実用的な摩耗補償を行うことができる。
請求項5に係るクラッチカバー組立体では、請求項3又は4に記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、プレッシャプレートに装着され、規制部材を係合部材から離れる方向に付勢する第1付勢部材を、さらに有している。
このクラッチカバー組立体では、リング移動規制機構において、プレッシャプレートに装着された第1付勢部材が、規制部材を係合部材から離れる方向に付勢しているので、規制部材と係合部材との係合を、確実に解除することができる。これにより、ファルクラムリングを確実に移動させることができるので、摩耗補償をより安全且つより正確に行うことができる。
請求項6に係るクラッチカバー組立体では、請求項3から5のいずれかに記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、係合部材をファルクラムリングの回転方向に付勢する第2付勢部材を、さらに有している。
このクラッチカバー組立体では、リング移動規制機構において、第2付勢部材が、係合部材をファルクラムリングの回転方向に付勢しているので、規制部材と係合部材との係合が解除されたときに、係合部材を速やかにファルクラムリングの回転方向に移動させることができる。また、この状態で、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリングを係合部材の移動方向に回転させることによって、ファルクラムリングを、プレッシャプレートから離れる方向に確実に移動させることができる。このように、摩擦部材の摩耗に対して、ファルクラムリングをスムーズに追従させることができる。
請求項7に係るクラッチカバー組立体では、請求項2から6のいずれかに記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、係合部材に対する規制部材の係合を解除する解除部材と、解除部材を係合部材から離れる方向に付勢する第3付勢部材とを、さらに有している。解除部材は、規制部材に当接し、第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に付勢され、係合部材に対する規制部材の係合を解除する。
このクラッチカバー組立体では、解除部材が規制部材に当接した状態で、解除部材を第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に付勢することによって、係合部材に対する規制部材の係合が解除される。これにより、ファルクラムリングを確実に移動させることができるので、摩耗補償をより安全且つより正確に行うことができる。
請求項8に係るクラッチカバー組立体では、請求項7に記載のクラッチカバー組立体において、プレッシャプレートに、段差部が形成されている。規制部材には、段差部に係合して規制部材が係合部材に係合した姿勢を保持する姿勢保持部が、形成されている。解除部材は、規制部材とプレッシャプレートとの間において、プレッシャプレートに揺動自在に装着されている。解除部材は、第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に揺動させられ、プレッシャプレートの段差部と規制部材の姿勢保持部との係合を解除する。
このクラッチカバー組立体では、規制部材の姿勢保持部がプレッシャプレートの段差部に係合している時には、規制部材が係合部材に係合した姿勢が保持される。また、解除部材が、第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に揺動した時には、規制部材と係合部材との係合が解除される。これにより、振動の影響が大きい時には、規制部材が係合部材に係合した姿勢を保持することによって、ファルクラムリングの移動を規制し、振動の影響が小さい時には、規制部材と係合部材との係合を解除することによって、摩耗補償をより安全且つ正確に行うことができる。
請求項9に係るクラッチカバー組立体は、請求項1から8のいずれかに記載のクラッチカバー組立体において、押圧部材と、摩耗量検出機構と、摩耗追従機構とを、さらに備えている。押圧部材は、プレッシャプレートをフライホイール側に押圧するためのものであり、クラッチカバーに支持される。摩耗量検出機構は、フライホイールに摩擦部材が押し付けられた状態において、摩擦部材の摩耗量を検出するためのものである。摩耗追従機構は、ファルクラムリングを有している。この摩耗追従機構は、フライホイールと摩擦部材との押し付けが解除された状態において、摩擦部材の摩耗量に応じてファルクラムリングをプレッシャプレートから離れる方向へ移動させることによって、押圧部材を初期姿勢側に移動する。
このクラッチカバー組立体では、フライホイールに摩擦部材が押し付けられた状態で、摩擦部材の摩耗量が検出される。ここで、リング移動規制機構において、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えて、ファルクラムリングの移動が規制されている場合、プレッシャプレートの回転時に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けにくい。
また、ファルクラムリングの移動の規制が解除され、且つフライホイールと摩擦部材との押し付けが解除された状態では、ファルクラムリングが、摩擦部材の摩耗量に応じてプレッシャプレートから離れる方向へ移動させられる。すなわち、振動の影響が小さい状態で、ファルクラムリングは、プレッシャプレートから離れる方向へ移動させられる。このため、摩耗補償をより確実に行うことができる。
請求項10に係るクラッチカバー組立体では、請求項9に記載のクラッチカバー組立体において、摩耗追従機構が、摺動部と第4付勢部材とを、さらに有している。摺動部は、プレッシャプレートおよびファルクラムリングに形成され、互いに当接して摺動する部分である。第4付勢部材は、ファルクラムリングを円周方向に付勢してファルクラムリングをプレッシャプレートに対して相対回転させる。摺動部は、円周方向に沿って傾斜する傾斜面からなっている。第4付勢部材は、ファルクラムリングを、摩擦部材の摩耗量に応じて回転させることによって、ファルクラムリングを、プレッシャプレートから離れる方向に移動させる。
このクラッチカバー組立体では、ファルクラムリングは、摩擦部材の摩耗量に応じて、第4付勢部材によって、プレッシャプレートに対して相対回転させられる。ファルクラムリングとプレッシャプレートとは、傾斜面からなる摺動部で当接しているので、ファルクラムリングがプレッシャプレートに対して回転させられると、ファルクラムリングはプレッシャプレートから離れる側に移動する。これにより、摩擦部材が摩耗しても、ファルクラムリングが押圧部材を支持する位置は初期の姿勢と変化しない。このため、押圧荷重特性、ひいてはレリーズ荷重特性を、初期状態のまま維持することができる。
本発明では、リング移動規制機構によって、プレッシャプレートの回転時のファルクラムリングの移動が、規制されているので、プレッシャプレートの回転時に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けづらくなる。すなわち、本発明では、リング移動規制機構によって振動の影響を排除することができるので、正確な摩耗補償を行うことができる。
本発明の第1実施形態によるクラッチカバー組立体の正面図。
前記クラッチカバー組立体の分解斜視図。
プレッシャプレートとファルクラムリングの一部拡大図。
ダイヤフラムスプリングの支持構造を示す部分断面斜視図。
摩耗量検出機構の拡大斜視図。
摩耗量検出機構の構成を示す図。
リング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
リング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
摩耗量検出機構、リング移動規制機構、及び摩耗追従機構の動作を説明するための図。
摩耗量検出機構、リング移動規制機構、及び摩耗追従機構の動作を説明するための図。
本発明の第2実施形態によるリング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
本発明の第2実施形態によるリング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
<第1実施形態>
[全体構成]
図1に本発明の第1実施形態によるクラッチカバー組立体1の正面図を示す。また、図2にクラッチカバー組立体1の一部を省略した外観斜視図を示す。このクラッチカバー組立体1は、クラッチオン(動力伝達)時には、エンジンのフライホイールに対してクラッチディスク組立体の摩擦部材を押し付け、またクラッチオフ(動力伝達遮断)時にはその押し付けを解除するための装置である。なお、ここでは、フライホイール及びクラッチディスク組立体は省略している。
クラッチカバー組立体1は、主に、クラッチカバー2と、プレッシャプレート3と、複数のファルクラムリング4と、ダイヤフラムスプリング5と、摩耗量検出機構6と、複数のファルクラムリング4を含む摩耗追従機構7と、から構成されている。
[クラッチカバー]
クラッチカバー2は、概ね皿形状のプレート部材であり、外周部が例えばボルトによりフライホイールに固定される。クラッチカバー2は、環状のクラッチカバー本体2aと、外周側の円板状部2bと、内周側の平坦部2cと、を有している。円板状部2bは、クラッチカバー本体2aの外周側に形成され、フライホイールの外周部に固定される。平坦部2cは、クラッチカバー本体2aの内周部から半径方向内側へ延びる平坦な部分である。この平坦部2cには、軸方向に貫通する複数の孔2dが形成されている。
[プレッシャプレート]
プレッシャプレート3は、環状の部材であって、クラッチカバー2のクラッチカバー本体2a内部に配置されている。プレッシャプレート3のフライホイール側(図2において裏側)の面には、クラッチディスク組立体の摩擦部材と摺接する摩擦面(図示しない)が形成されている。また、プレッシャプレート3は、複数のストラッププレート80(図2を参照、図2では1つのみ図示)によって、クラッチカバー2に連結されており、クラッチカバー2に対して、軸方向には移動可能であり、円周方向には相対回転不能である。なお、クラッチ連結状態では、ストラッププレートは軸方向にたわんでおり、このストラッププレートのたわみ(復元力)によって、プレッシャプレート3はフライホイールから離れる側に付勢されている。
また、プレッシャプレート3のトランスミッション側(図2において表側)の面には、図3に示すように、外周側において、円周方向の複数の箇所に、摺動部10が形成されている。詳細には、各摺動部10は、後述する段差部25の底部25aから軸方向外方に突出して形成されている。各摺動部10は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより高くなるように傾斜する傾斜面10aを有している。また、図4に示すように、プレッシャプレート3のトランスミッション側の面には、外周側において、段差部25が、円周方向に形成されている。また、プレッシャプレート3のトランスミッション側の面には、外周側において、円周方向の複数の箇所において、ガイド部26が形成されている(図2を参照)。ガイド部26は、段差部25の壁部25bに対向するように、プレッシャプレート3に形成されている。
さらに、プレッシャプレート3には、図5に示すように、複数のレール部たとえば2組のレール部27が、設けられている。各組のレール部27は、互いに対向して形成された2つの突出部27a,27bを、有している。2つの突出部27a,27bそれぞれは、互いに所定の間隔を隔てた位置において、プレッシャプレート3に設けられている。これら2つの突出部27a,27bの間に、後述するくさび部材15が配置される。
[ファルクラムリング]
複数のファルクラムリング4は、それぞれ円弧状の部材、すなわち、環状の部材を円周方向に分割して形成された部材である。複数のファルクラムリング4は、図3及び図4に示すように、軸方向の第1端側4a(フライホイール側)が、プレッシャプレート3の段差部25の底部25aに配置されている。より具体的には、複数のファルクラムリング4は、プレッシャプレート3の段差部25の壁部25bと、ガイド部26との間において、段差部25の底部25aに配置されている。
また、ファルクラムリング4の第1端4aには、図3から明らかなように、円周方向の複数個所において摺動部11が形成されている。摺動部11は、傾斜面11aを、有している。傾斜面11aは、プレッシャプレート3の段差部25の底部25aに形成された摺動部10の傾斜面10aに当接し、且つ第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより低くなるように傾斜している。また、ファルクラムリング4には、図5に示すように、後述するくさび部材15が係合する係合凹部4cが、形成されている。詳細には、係合凹部4cは、ファルクラムリング4の第1端4aにおいて、半径方向に溝状に切り欠かれた部分である。係合凹部4cは、円周方向に幅W1を有している。
ここでは、複数のファルクラムリング4(円弧状の部材)を連ねることによって、環状の部材を形成しているが、1つの環状の部材を、ファルクラムリングとして用いるようにしても良い。
[ダイヤフラムスプリング]
ダイヤフラムスプリング5は、図1及び図4に示しすように、プレッシャプレート3とクラッチカバー2との間に配置された円板状部材である。このダイヤフラムスプリング5は、環状弾性部5aと、環状弾性部5aの内周部から径方向内側に延びる複数のレバー部5bとから構成されている。環状弾性部5aの外周端はファルクラムリング4の第2端4bに支持されている。また、ダイヤフラムスプリング5のレバー部5b間には、スリットが形成されており、スリットの外周部には小判状の孔5cが形成されている。
なお、ダイヤフラムスプリング5のレバー部5bの先端にはプッシュタイプのレリーズ装置(図示せず)が当接している。このレリーズ装置は、ダイヤフラムスプリング5のレバー部5bの先端を軸方向へ移動させ、ダイヤフラムスプリング5によるプレッシャプレート3への付勢力を解除するための装置である。
また、ダイヤフラムスプリング5は、図4に示すように、支持部材12によってクラッチカバー2に支持されている。支持部材12は、クラッチカバー2の平坦部2cのトランスミッション側の面に配置されるリング状のプレート部材である。この支持部材12の内周部には、径方向内側に延びる複数の支持用突起12aが形成されている。複数の支持用突起12aは、プレッシャプレート3側に折り曲げられ、この折り曲げ部がクラッチカバー2の平坦部2cに形成された複数の貫通孔2dに挿通されている。また、貫通孔2dに挿通された折り曲げ部は、さらにダイヤフラムスプリング5の小判状の孔5cに挿通されている。そして、支持用突起12aの先端は外周側に折り曲げられて、ダイヤフラムスプリング5を、クラッチカバー2に対して支持している。
[摩耗量検出機構]
摩耗量検出機構6は、図2、図5−図6、及び図9−図10に示すように、ファルクラムリング4の外周部に配置されている。摩耗量検出機構6は、クラッチディスク組立体を構成する摩擦部材の摩耗量を検出する機構である。摩耗量検知機構6は、ロールピン14と、対向部材16と、くさび部材15と、第1コイルスプリング17と、を有している。
ロールピン14は、フライホイールに当接する部材である。ロールピン14は、図6に示すように、プレッシャプレート3に形成された装着孔に、摺動自在に装着されている。ロールピン14の第1端14aは、フライホイールに当接し(図6を参照)、ロールピン14の第2端14bは、対向部材16に圧入して装着される(図5を参照)。ロールピン14は、第1端14aをフライホイールに当接させることによって、対向部材16とフライホイールとの間の距離を常に一定に保っている。なお、フライホイール面は、図6では三角記号(▼記号)で示している。
対向部材16は、図5および図6に示すように、ロールピン14を装着するための装着部19と、摩擦部材の摩耗量を検出するときの基準となりくさび部材15の摺動部21(後述する)に当接して摺動する対向部材用の摺動部20とを、有している。装着部19たとえばボス部には、ロールピン14の第2端14bが圧入され装着される。また、ロールピン14の第2端14bがボス部19に装着され、ロールピン14の第1端14aがフライホイールに当接した状態において、摺動部20は、プレッシャプレート3に対向して配置される。このようにして、対向部材16の位置が、フライホイールに当接するロールピン14によって、常に一定に保たれている。この摺動部20は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより高くなるように傾斜する傾斜面20aを、有している。
くさび部材15は、対向部材16とプレッシャプレート3との間に嵌り込む部材であり(図6を参照)、摩擦部材の摩耗量に応じて第1円周方向(図3および図5のR1方向)に移動する。詳細には、くさび部材15は、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレート3とともに対向部材16から離れる方向に移動しながら、第1コイルスプリング17によって第1円周方向に移動する。そして、くさび部材15は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌り込み、第1円周方向への移動を停止する。
くさび部材15は、図5及び図6に示すように、本体部15aと、本体部15aと一体に形成されファルクラムリングに係合する係合部15bとを、有している。本体部15aは、棒状に形成された部分であり、プレッシャプレート3に形成された2つのレール部27に配置される。詳細には、本体部15aは、2つの突出部27a,27bの間において、円周方向に移動自在に配置される。本体部15aには、対向部材16の摺動部20に当接して摺動する摺動部21が、形成されている。このくさび部材用の摺動部21は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより低くなるように傾斜する傾斜面21aを、有している。
ここで、対向部材16及びくさび部材15それぞれに形成された傾斜面20a,21aの傾斜角度が、プレッシャプレート及びファルクラムリング4それぞれに形成された傾斜面10a,11aの傾斜角度より小さくなるように、対向部材16の傾斜面20a及びくさび部材15の傾斜面21aは形成されている。言い換えると、プレッシャプレート及びファルクラムリング4それぞれに形成された傾斜面10a,11aの傾斜角度が、対向部材16及びくさび部材15それぞれに形成された傾斜面20a,21aの傾斜角度より大きくなるように、プレッシャプレートの傾斜面10a及びファルクラムリング4の傾斜面11aは形成されている。
なお、プレッシャプレート及びファルクラムリング4それぞれの傾斜面10a,11aの傾斜角度は、たとえば、6.0度未満に設定されることが望ましい。ここでは、これら傾斜面10a,11aの傾斜角度は、たとえば、5.6度に設定されている。また、対向部材16及びくさび部材15それぞれの傾斜面20a,21aの傾斜角度は、たとえば、5.6度未満に設定されることが望ましい。ここでは、これら傾斜面20a,21aの傾斜角度は、たとえば、5.5度に設定されている。
係合部15bは、図5及び図6に示すように、本体部15aの長手方向に交差する方向に突出して一体に形成されている。係合部15bは、L字状に形成されており、先端部がファルクラムリング4の係合凹部4cに係合する。詳細には、係合部15bの先端部は、ファルクラムリング4の係合凹部4cに挿入され、本体部15aがレール部27に装着される。係合部15bの先端部は、円周方向に幅W2を有している。図9及び図10に示すように、係合部15bの先端部の幅W2は、係合凹部4cの幅W1より小さい。また、後述するように、係合部材の突出部91dも、係合凹部4cに挿入されている。この突出部91dは、円周方向に幅W3を有している。これにより、係合部15bすなわちくさび部材15は、(W1−W2−W3)の範囲で円周方向に移動可能である。たとえば、ここでは、(W1−W2−W3)が、所定の値たとえば2.0mmとなるように、係合凹部4c及び係合部15bは形成されている。
第1コイルスプリング17は、くさび部材15を第1円周方向に付勢する部材である。言い換えると、第1コイルスプリング17は、第2円周方向(R1方向とは反対の方向)へのくさび部材15の移動を規制する部材である。第1コイルスプリング17は、図5に示すように、一端がくさび部材15の係合部15bに装着され、他端がファルクラムリング4に装着されている。この第1コイルスプリング17は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に配置されたくさび部材15を、第1円周方向(図5のR1方向)に付勢している。これにより、くさび部材15は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌め込まれた状態で維持されている。そして、摩擦部材が摩耗したときには、摩擦部材の摩耗量に応じて、第1コイルスプリング17が、くさび部材15を第1円周方向に移動させ、くさび部材15をプレッシャプレート3と対向部材16との間に食い込ませる。
[摩耗追従機構]
摩耗追従機構7は、摩擦部材の摩耗量、すなわちくさび部材15の移動量に追従させて、ダイヤフラムスプリング5の姿勢を初期の姿勢に保つための機構である。この摩耗追従機構7は、複数のファルクラムリング4に加えて、前述のプレッシャプレート3及びファルクラムリング4のそれぞれに形成された摺動部10,11と、第2コイルスプリング28(図2を参照)と、を有している。
複数のファルクラムリング4は、プレッシャプレート3の段差部25の壁部25bと、ガイド部26との間において、プレッシャプレート3に対して相対回転可能に配置されている。また、複数のファルクラムリング4は、ダイヤフラムスプリング5によってプレッシャプレート3側に押圧されている。また、図6及び図10の状態においては、複数のファルクラムリング4それぞれの摺動部11の傾斜面11aが、プレッシャプレート3の摺動部10の傾斜面10aに当接しており、複数のファルクラムリング4は、くさび部材15の移動量分だけ、第1円周方向(図5のR1方向)に移動可能である。なお、ここでは、くさび部材15の移動量の最大値が、(W1−W2−W3)となっている。
第2コイルスプリング28は、ファルクラムリング4を第1円周方向に付勢する部材である。言い換えると、第2コイルスプリング28は、第2円周方向(R1方向とは反対の方向)へのファルクラムリング4の移動を規制する部材である。この第2コイルスプリング28は、プレッシャプレートに対して、ファルクラムリング4を第1円周方向に相対回転させる。第2コイルスプリング28は、図2に示すように、ファルクラムリング4の内周部に沿うように、ファルクラムリング4とプレッシャプレート3とに装着されている。詳細には、第2コイルスプリング28は、一端がファルクラムリング4に装着されており、他端がプレッシャプレート3に装着されている。
以上のような構成では、摩擦部材の摩耗量に応じてくさび部材15が円周方向(R1方向)に移動した場合、このくさび部材15の移動量だけ、後述する係合部材は、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能であり、ファルクラムリング4は、回転移動可能である。ここで、ファルクラムリング4がプレッシャプレート3に対して回転すると、両部材4,3は摺動部10,11の傾斜面によって互いに当接しているので、ファルクラムリング4は、軸方向にプレッシャプレート3から離れる側に、移動する。
[リング移動規制機構]
リング移動規制機構9は、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を、規制する機構である。詳細には、リング移動規制機構9は、プレッシャプレート3に対するファルクラムリング4の相対回転を規制することによって、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を規制する。
リング移動規制機構9は、図7及び図8に示すように、ファルクラムリング4に係合する係合部材91と、プレッシャプレート3の回転時に係合部材91に係合し、係合部材91を介してファルクラムリング4の移動を規制する規制部材92と、第3コイルスプリング91f(第2付勢部材)と、第4コイルスプリング92e(第1付勢部材)とを、有している。
係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。係合部材91は、本体部91aと、プレッシャプレート3に装着するための長孔部91bと、凹凸部91cと、ファルクラムリング4の係合凹部4cに係合する突出部91dと、ファルクラムリング4に連結するための連結部91eとを、有している。
本体部91aは、一方向に長いプレート状の部分である。本体部91aの長軸方向は、ファルクラムリング4の円周方向に対応している。長孔部91bは、本体部91aの面中央において、長軸方向に形成されている。凹凸部91cは、本体部91aの長辺側面において、長軸方向に形成されている。凹凸部91cは、本体部91aをプレッシャプレート3に装着した状態で、本体部91aの内周側の側面に、形成されている。突出部91dは、凹凸部91cが形成された長辺側面とは反対側の長辺側面において、本体部91aの一端から外方に突出して形成されている。連結部91eは、本体部91aの一端に一体に形成されている。
ここでは、軸部より大径の頭部を有するピン部材91gを長孔部91bに挿入し、このピン部材91gの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、係合部材91が、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。また、連結部91eと、ファルクラムリング4に装着されたピン部材91gとを、第3コイルスプリング91fによって連結することによって、係合部材91は、ファルクラムリング4に連結され、第1円周方向に付勢される。さらに、係合部材91の突出部91dは、くさび部材15の係合部15bと、第2円周方向の係合凹部4cの壁面との間に配置される。
規制部材92は、プレッシャプレート3に揺動自在に装着される。規制部材92は、プレッシャプレートの回転時に遠心力によって揺動し、係合部材91に係合することによって、係合部材91の移動を規制する。規制部材92は、本体部92aと、本体部92aが揺動するタイミングを調節するための調整部材92bと、凹凸部92cと、プレッシャプレート3に装着するための連結部92dとを、有している。本体部92aは、一方向に長いプレート状の部分である。本体部92aの一端には、貫通孔が形成されている。調整部材92bは、重りであり、本体部92aの他端側に装着されている。凹凸部92cは、本体部92aの長辺側面において、長軸方向に形成されている。凹凸部92cは、本体部92aをプレッシャプレート3に装着した状態で、本体部92aの外周側の側面に、形成されている。連結部92dは、本体部92aの他端に一体に形成されている。
ここでは、本体部92aの一端に形成された貫通孔にピン部材92fを挿入し、このピン部材92fの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、規制部材92がプレッシャプレート3に対して揺動自在に装着される。また、連結部92dと、プレッシャプレート3に装着されたピン部材92fとを、第4コイルスプリング92eによって連結することによって、規制部材92は、この第4コイルスプリング92eによって、係合部材91から離れる方向に付勢される。
このような構成を有するリング移動規制機構9では、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数より大きくなったときに、規制部材92が遠心力によって係合部材91の方向に揺動し、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合い係合する。すると、係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。このようにして、係合部材91の移動が、規制部材92によって規制される。
なお、上記の所定の回転数は、アイドリング回転数に設定される。ここでは、プレッシャプレート3の回転数が、アイドリング回転数、例えば400rpmより大きくなった場合に、規制部材92が揺動するように、調整部材92bの重さが設定されている。
[摩耗量検出動作]
クラッチオン(連結)状態では、ダイヤフラムスプリング5の押圧荷重は、ファルクラムリング4を介してプレッシャプレート3に作用し、これによりクラッチディスク組立体の摩擦部材はプレッシャプレート3とフライホイールとの間に挟持されている。このとき、図7に示すように、くさび部材15は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌め込まれている。
摩擦部材が摩耗すると、摩擦部材の厚みが薄くなるので、プレッシャプレート3はフライホイール側(図9及び図10において下側)に移動することになる。また、くさび部材15は、プレッシャプレート3に支持されているので、プレッシャプレート3の移動に伴って、プレッシャプレート3とともにフライホイール側に移動することになる。すると、くさび部材15とプレッシャプレート3との間に、摩擦部材の摩耗量に相当する隙間W0(図9を参照)が、発生する。すると、くさび部材15は、第1コイルスプリング17の付勢力によって、この隙間W0を埋める方向、すなわち図9のR1方向に移動する。
このように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15は、R1方向に移動し、図10に示すように、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌め込まれる。すなわち、くさび部材15は、摩擦部材の摩耗によって、対向部材16との係合がいったん解除されるが、第1コイルスプリング17の付勢力によって移動し、再び対向部材16と係合する。これにより、摩擦部材が摩耗したとしても、プレッシャプレート3と対向部材16との間隔は、くさび部材15の移動によって、常に一定に保たれる。
なお、ここでは、説明を容易にするために、摩擦部材の摩耗量W0に応じて、くさび部材が移動する場合の例が示されている。しかしながら、これは、くさび部材15が段階的に移動することを意味するものではなく、本実施形態では、摩擦部材の摩耗に追従して、くさび部材15が連続的に移動する。
[リング移動規制機構の動作及び摩耗追従動作]
クラッチオフ状態、例えばプレッシャプレート3が回転していない状態では、図7に示すように、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態では、係合部材91は、第3コイルスプリング91fによってR1方向に付勢されているので、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接している。また、ファルクラムリング4も、第2コイルスプリング28によってR1方向に付勢されているので、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接している。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下である場合、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15すなわち係合部15bが、第1コイルスプリング17の付勢力によって、R1方向に移動させられる(詳細については、上記の[摩耗量検出動作]を参照)。すると、このくさび部材15すなわち係合部15bの移動に追随して、係合部材91すなわち突出部91dは、第3コイルスプリング91fの付勢力によって、R1方向に移動させられる。また、ファルクラムリング4は、第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。すると、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。この状態は、図9において、隙間W0がゼロである状態に相当する。
ここで、ファルクラムリング4とプレッシャプレート3とは、互いの摺動部10,11(傾斜面)が当接している。このため、上記ようにファルクラムリング4が回転すると、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3から離れる方向に移動する。すなわち、摩擦部材の摩耗量分だけ、ファルクラムリング4はトランスミッション側に移動する。この移動によって、ファルクラムリング4は、摩擦部材が摩耗する前の初期位置に戻ることになる。なお、ここでは、摩耗量検出動作および摩耗追従動作が、同時に行われている。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい場合、図8に示すように、規制部材92が遠心力によって半径方向に揺動し、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合う。すると、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。ここで、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接しているので、係合部材91がファルクラムリング4の回転方向に移動不能になると、ファルクラムリング4も、回転方向へ移動不能になる。このようにして、ファルクラムリング4の移動は、係合部材91を介して、規制部材92によって規制される。
この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15が、第1コイルスプリング17の付勢力によって、R1方向に移動させられる(詳細については、上記の[摩耗量検出動作]を参照)。このように、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい状態では、図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15がR1方向に移動するが、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3に対して相対回転不能である。なお、この状態では、摩耗量検出動作は行われているが、摩耗追従動作は、リング移動規制機構9によって規制されている。
ここで、クラッチのレリーズ操作がなされて、クラッチオフ状態になると、ダイヤフラムスプリング5によるファルクラムリング4への押圧が解除される。そして、プレッシャプレート3の回転数が低下し、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下になると、規制部材92が、第4コイルスプリング92eの付勢力によって、係合部材91から離れる方向に付勢され、揺動する。これにより、図7に示すように、係合部材91と規制部材92との係合が、解除される。すると、係合部材91は、第3コイルスプリング91fの付勢力によって、R1方向に移動させられる。また、ファルクラムリング4は、第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。すると、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。図9が、この状態に対応している。このようにファルクラムリング4を回転させることによって、上述しように、ファルクラムリング4が、プレッシャプレート3から離れる方向に移動する。このようにして、リング移動規制機構9においてファルクラムリング4の移動が解除され、摩耗追従動作が行われる。
[特徴]
(1)本リング移動規制機構9では、規制部材92が、プレッシャプレート3の回転によって遠心力によって揺動し、係合部材91に係合する。これにより、規制部材92は、係合部材91を介してファルクラムリング4の移動を規制するので、プレッシャプレート3の回転時に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリング4は受けづらくなる。言い換えると、規制部材92と係合部材91との係合が解除されたときに、摩擦部材の摩耗量に応じたファルクラムリングの移動を、行うことができるので、摩耗補償をより確実に行うことができる。
(2)本リング移動規制機構9では、第3コイルスプリング91fが、係合部材91をファルクラムリング4の回転方向に付勢しているので、規制部材92と係合部材91との係合が解除されたときに、係合部材91を速やかにファルクラムリング4の回転方向に移動させることができる。また、この状態で、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリング4を、第2コイルスプリング28によって、係合部材91の移動方向に回転させることによって、ファルクラムリング4を、プレッシャプレート3から離れる方向に確実に移動させることができる。
(3)本リング移動規制機構9では、プレッシャプレート3に装着された第4コイルスプリング92eが、規制部材92を係合部材91から離れる方向に付勢しているので、規制部材92と係合部材91との係合を、確実に解除することができる。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態によるクラッチカバー組立体1の基本構成は、第1実施形態と同様であり、主に、リング移動規制機構109の構成が、第1実施形態とは異なる。このため、ここでは、第1実施形態と同じ構成については、詳細な説明を省略している。図11及び図12は、第2実施形態によるリング移動規制機構109の構成及び動作を説明するための図である。図11は、リング移動規制機構109が機能していない場合の例であり、図12は、リング移動規制機構109が機能した場合の例である。また、図11及び図12では、第1実施形態と同じ部材については、同じ符号を付している。なお、第1実施形態と同じ構成及び動作の説明では、第1実施形態の図面を用いて説明する場合がある。
[プレッシャプレート]
プレッシャプレート3のトランスミッション側(図2において表側)の面には、図3に示すように、外周側において、円周方向の複数の箇所に、摺動部10が形成されている。詳細には、各摺動部10は、段差部25の底部25aから軸方向外方に突出して形成されている。各摺動部10は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより高くなるように傾斜する傾斜面10aを有している。また、プレッシャプレート3には、図11及び図12に示すように、第1段差部31(段差部)と、第1段差部31より段差の大きい第2段差部32と、凹部33とが、形成されている。第1段差部31の壁面と、第2段差部32の壁面とは、ファルクラムリングの内周面に対向するように、プレッシャプレート3に形成されている。また、第1段差部31の上面は、内周側から外周側に向けてその高さがより高くなるように傾斜して形成されている。凹部33には、後述する解除部材用の調整部材93c(図12を参照)が、配置される。
[リング移動規制機構]
リング移動規制機構109は、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を、規制する機構である。詳細には、リング移動規制機構109は、プレッシャプレート3に対するファルクラムリング4の相対回転を規制することによって、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を規制する。
リング移動規制機構109は、図11及び図12に示すように、ファルクラムリング4に係合する係合部材91と、プレッシャプレート3の回転時に係合部材91に係合し、係合部材91を介してファルクラムリング4の移動を規制する規制部材92と、係合部材91に対する規制部材92の係合を解除する解除部材93とを、有している。また、リング移動規制機構109は、第3コイルスプリング91f(第2付勢部材)と、第4コイルスプリング92e(第1付勢部材)と、第5コイルスプリング93d(第3付勢部材)とを、さらに有している。
係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。係合部材91は、本体部91aと、プレッシャプレート3に装着するための長孔部91bと、凹凸部91cと、ファルクラムリング4の係合凹部4cに係合する突出部91dと、ファルクラムリング4に連結するための連結部91eとを、有している。
ここでは、軸部より大径の頭部を有するピン部材91gを長孔部91bに挿入し、このピン部材91gの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、係合部材91が、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。また、連結部91eと、ファルクラムリング4に装着されたピン部材4dとを、第3コイルスプリング91fによって連結することによって、係合部材91は、ファルクラムリング4に連結され、第1円周方向(図11のR1方向)に付勢される。さらに、係合部材91の突出部91dは、くさび部材15の係合部15bと、第2円周方向(図11のR1方向とは反対の方向、以下ではR2方向と呼ぶ)の係合凹部4cの壁面との間に配置される。
規制部材92は、プレッシャプレート3に揺動自在に装着される。規制部材92は、プレッシャプレートの回転時に遠心力によって揺動し、係合部材91に係合することによって、係合部材91の移動を規制する。規制部材92は、本体部92aと、本体部92aが揺動するタイミングを調節するための調整部材92bと、凹凸部92cと、プレッシャプレート3に装着するための連結部92dと、姿勢保持部92gとを、有している。
姿勢保持部92gは、規制部材92が係合部材91に係合した姿勢を保持するためのものである。姿勢保持部92gは、プレート状の本体部92aから面外に押し出し成形されている。姿勢保持部92gは、規制部材92において、ピン部材92fが装着される側の端部とは反対側の端部側面に形成されている。
姿勢保持部92gは、プレッシャプレート3の第1段差部31に係合する(図12を参照)。具体的には、姿勢保持部92gは、第1段差部31のファルクラムリング4に対向する壁面に係合する。この場合、規制部材92は、係合部材91の移動を規制した状態である。また、姿勢保持部92gは、プレッシャプレート3の第2段差部32にも係合する(図11を参照)。具体的には、姿勢保持部92gは、第2段差部32のファルクラムリング4に対向する壁面に係合する。この場合、規制部材92は、係合部材91の移動を許可した状態である。
調整部材92bは、重りであり、本体部92a装着されている。ここでは、2つの調整部材92bが、本体部92aの中央部に装着されている。
解除部材93は、規制部材92とプレッシャプレート3との間において、プレッシャプレート3に揺動自在に装着される。図12に示すように、規制部材92が係合部材91に係合しているときには、解除部材93は、規制部材92とプレッシャプレート3との間において、規制部材92に当接している。また、解除部材93は、第5コイルスプリング93dによって係合部材91から離れる方向に付勢されており、第5コイルスプリング93dの付勢力によって揺動する。そして、解除部材93は、係合部材91に対する規制部材92の係合を、解除する。詳細には、解除部材93は、プレッシャプレート3の第1段差部31と規制部材92の姿勢保持部92gとの係合を、解除する。解除部材93は、本体部93aと、連結部93bと、本体部93aが揺動するタイミングを調節するための調整部材93cとを、有している。
本体部93aは、一方向に長いプレート状の部分である。本体部93aは、図11に示すように、一端に貫通孔が形成されており、この貫通孔にピン部材93eが挿入される。そして、このピン部材93eの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、解除部材93がプレッシャプレート3に対して揺動自在に装着される。また、図12に示すように、規制部材92が係合部材91に係合しているときには、本体部93aは、姿勢保持部92gのプレッシャプレート側の面に当接している。ここで、プレッシャプレート3の回転数が低下し、第5コイルスプリング93dの付勢力が、調整部材93cによって決定される遠心力より大きくなると、本体部93aが、ファルクラムリング4から離れる方向に揺動し、プレッシャプレート3の第1段差部31と規制部材92の姿勢保持部92gとの係合を解除する。
連結部93bには、図12に示すように、第5コイルスプリング93dの一端が、連結される。ここで、第5コイルスプリング93dの他端は、プレッシャプレート3に連結されている。これにより、解除部材93は、第5コイルスプリング93dによって係合部材91から離れる方向に付勢される。調整部材93cは、解除部材93に作用する遠心力に影響を与える部材である。調整部材93cは、重りであり、本体部93aの他端側に装着されている。この調整部材93cは、本体部93aに装着された状態で、プレッシャプレート3の凹部33の内部に配置される。
このような構成を有するリング移動規制機構109では、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数より大きくなったときに、規制部材92及び解除部材93が遠心力によって係合部材91の方向に揺動する。そして、図12に示すように、規制部材92の姿勢保持部92gが第1段差部31に係合すると、規制部材92が所定の位置に位置決めされる。このとき、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合い係合する。すると、係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。このようにして、係合部材91の移動が、規制部材92によって規制される。また、この状態において、解除部材93は、規制部材92とプレッシャプレート3との間に配置され、解除部材93は、規制部材92の姿勢保持部92gに当接している。
なお、上記の所定の回転数は、アイドリング回転数に設定される。ここでは、プレッシャプレート3の回転数が、アイドリング回転数、例えば400rpmより大きくなった場合に、規制部材92及び解除部材93が揺動するように、調整部材92bの重さ及び調整部材93cの重さが、設定されている。
[リング移動規制機構の動作及び摩耗追従動作]
クラッチオフ状態、例えばプレッシャプレート3が回転していない状態では、図11に示すように、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態では、係合部材91は、第3コイルスプリング91fによってR1方向に付勢されているので、係合部材91の突出部91dは、くさび部材15の係合部15bに当接している。また、ファルクラムリング4も、図2に示す第2コイルスプリング28によってR1方向に付勢されているので、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接している。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下である場合、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15すなわち係合部15b、及び係合部材91すなわち突出部91dが、第1コイルスプリング17の付勢力、及び第3コイルスプリング91fの付勢力によって、R1方向に移動させられる。そして、ファルクラムリング4も、第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。これにより、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。
ここで、ファルクラムリング4が回転すると、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3から離れる方向に移動する。すなわち、摩擦部材の摩耗量分だけ、ファルクラムリング4はトランスミッション側に移動する。この移動によって、ファルクラムリング4は、摩擦部材が摩耗する前の初期位置に戻ることになる。なお、ここでは、摩耗量検出動作および摩耗追従動作が、同時に行われている。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい場合、規制部材92および解除部材93が遠心力によって半径方向に揺動し、図12に示すように、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合う。すると、係合部材91が、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。ここでは、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接しているので、係合部材91がファルクラムリング4の回転方向に移動不能になると、ファルクラムリング4も、回転方向へ移動不能になる。このようにして、ファルクラムリング4の移動は、係合部材91を介して、規制部材92によって規制される。
この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15が、第1コイルスプリング17の付勢力によって、R1方向に移動させられる。このように、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい状態では、摩擦部材の摩耗量に応じてくさび部材15はR1方向に移動するが、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3に対して相対回転不能である。なお、この状態では、摩耗量検出動作は行われているが、摩耗追従動作は、リング移動規制機構109によって規制されている。
ここで、クラッチのレリーズ操作がなされて、クラッチオフ状態になると、ダイヤフラムスプリング5によるファルクラムリング4への押圧が解除される。そして、プレッシャプレート3の回転数が低下し、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下になると、解除部材93が、第5コイルスプリング93dの付勢力によって、係合部材91から離れる方向に付勢され揺動する。すると、規制部材92の姿勢保持部92gが、解除部材93の本体部93aによって押し上げられ、姿勢保持部92gと第1段差部31との係合が、解除される。すると、規制部材92の姿勢保持部92gが、第2段差部32の壁面例えばファルクラムリング4に対向する壁面に当接し、解除部材93の揺動が停止する。また、解除部材93の本体部93aは、規制部材92の姿勢保持部92gを押し上げた後、第1段差部31の壁面例えばファルクラムリング4に対向する壁面に当接し、解除部材93の揺動は停止する。この状態が、係合部材91に対する規制部材92の係合を解除部材93が解除した状態である。
このように、係合部材91と規制部材92との係合が、解除されると、係合部材91及びファルクラムリング4は、第3コイルスプリング91fの付勢力及び第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。すると、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。図11が、この状態に対応している。このようにファルクラムリング4が回転すると、上述しように、ファルクラムリング4が、プレッシャプレート3から離れる方向に移動する。このように、第2実施形態では、リング移動規制機構109においてファルクラムリング4の移動が解除され、摩耗追従動作が行われる。
[特徴]
(1)本リング移動規制機構109では、規制部材92の姿勢保持部92gがプレッシャプレート3の第1段差部31に係合している時には、規制部材92が係合部材91に係合した姿勢が保持される。また、解除部材93が、第5コイルスプリング93dによって係合部材91から離れる方向に揺動した時には、規制部材92と係合部材91との係合が解除される。これにより、振動の影響が大きい時には、規制部材92が係合部材91に係合した姿勢が保持されるので、ファルクラムリング4の移動を規制することができる。また、振動の影響が小さい時には、規制部材92と係合部材91との係合を解除することができ、摩耗追従機構7を動作させることができる。このようにして、摩耗補償をより安全且つ正確に行うことができる。
なお、ここでは、前記第1実施形態と構成が同じ部分については、上記の効果と同様の効果を得ることができる。
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
(a)摩耗追従機構の構成は、ダイヤフラムスプリングの初期姿勢を維持するように作用する構成であればどのような構成でもよく、前記実施形態に限定されない。
1 クラッチカバー組立体
2 クラッチカバー
3 プレッシャプレート
4 ファルクラムリング
5 ダイヤフラムスプリング(押圧部材)
6 摩耗量検出機構
7 摩耗追従機構
9,109 リング移動規制機構
14 ロールピン(当接部材)
15 くさび部材
16 対向部材
17 第1コイルスプリング
28 第2コイルスプリング(第4付勢部材)
31 第1段差部
32 第2段差部
91 係合部材
91f 第3コイルスプリング(第2付勢部材)
92 規制部材
92e 第4コイルスプリング(第1付勢部材)
93 解除部材
93d 第5コイルスプリング(第3付勢部材)
本発明は、クラッチカバー組立体、特に、エンジンのフライホイールにクラッチディスク組立体の摩擦部材を押し付け及び押し付け解除するためのクラッチカバー組立体に関する。
クラッチカバー組立体は、一般に、エンジンのフライホイールに装着され、エンジンの駆動力をトランスミッション側に伝達するために用いられている。このようなクラッチカバー組立体は、主に、クラッチカバー、プレッシャプレート及びダイヤフラムスプリングを備えている。クラッチカバーはフライホイールに固定される。プレッシャプレートは、ダイヤフラムスプリングによってフライホイール側に押圧され、クラッチディスク組立体の摩擦部材をフライホイールとの間に挟持する。ダイヤフラムスプリングは、プレッシャプレートを押圧する機能とともに、プレッシャプレートへの押圧を解除するためのレバー機能も有している。
ここで、ダイヤフラムスプリングの荷重特性に起因して、クラッチディスク組立体の摩擦部材の摩耗が進むと摩擦部材への押付荷重が大きくなる。このため、摩擦部材が摩耗すると、レリーズ操作をするために大きな荷重が必要となり、クラッチペダル踏力が大きくなってしまう。
そこで、例えば特許文献1に示されるように、摩擦部材が摩耗した場合でも、ダイヤフラムスプリングの姿勢を初期状態に戻すことによって、押付荷重が大きくなるのを抑えるようにした摩耗補償機構が提供されている。この摩耗補償機構は、主に、プレッシャプレートとダイヤフラムスプリングとの間に配置されたファルクラムリングと、ファルクラムリングをプレッシャプレートから離れる方向に付勢する付勢機構と、摩擦部材の摩耗量を検出する摩耗量検出機構と、を有している。ここでは、ダイヤフラムスプリングはファルクラムリングを介してプレッシャプレートを押圧可能になっており、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリングをプレッシャプレートから離れる側に移動させることにより、ダイヤフラムスプリングが初期のセット姿勢に維持される。
また、振動による摩耗量検出機構の作動の不安定さを改善するために、特許文献2に示される摩耗補償機構も提供されている。ここでは、振動を吸収するためのコーンスプリングを摩耗量検出機構に設け、摩耗補償のための作動の安定化を図るようにしている。
特開平10−227317号公報
特開2003−28193号公報
以上のような摩耗補償機構においては、摩耗量を精度良く検出することが重要である。特許文献1及び2では、ブシュ及びこのブシュを貫通するボルトによって摩耗量検出機構が構成されており、摩耗に応じて生じる両者の隙間によって摩耗量が検出されるようになっている。しかし、以上のような従来の構成では、エンジン振動等に伴う各部の振動によって摩耗量を示す隙間が変化するおそれがあり、安定して正確な摩耗補償を行うことは困難である。
本発明の課題は、正確な摩耗補償を行うことができるようにすることにある。
請求項1に係るクラッチカバー組立体は、エンジンのフライホイールにクラッチディスク組立体の摩擦部材を押し付け及び押し付け解除するためのものである。
このクラッチカバー組立体は、フライホイールに固定されるクラッチカバーと、プレッシャプレートと、ファルクラムリングと、リング移動規制機構とを、備えている。プレッシャプレートは、フライホイールに摩擦部材を押圧するためのであり、クラッチカバーに相対回転不能に連結される。ファルクラムリングは、プレッシャプレートに配置され、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレートから離れる方向へ移動する。リング移動規制機構は、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えたときに、プレッシャプレートから離れる方向へのファルクラムリングの移動を、規制する。
特に本クラッチカバー組立体では、リング移動規制機構が、ファルクラムリングに係合する係合部材と、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において係合部材に係合し、この係合部材を介してファルクラムリングの移動を規制する規制部材とを、有している。
このクラッチカバー組立体では、プレッシャプレートが、摩擦部材をフライホイールに押圧すると、プレッシャプレートが、摩擦部材を介して、フライホイールとともに回転する。このようにプレッシャプレートが回転している時に、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えていれば、リング移動規制機構によって、プレッシャプレートから離れる方向へのファルクラムリングの移動が、規制される。ここでは、摩擦部材の摩耗量に応じた、プレッシャプレートから離れる方向へのファルクラムリングの移動が、規制される。
このように、本発明では、リング移動規制機構によって、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を超えると、ファルクラムリングの移動が規制されるので、この状態でクラッチカバー組立体に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けづらくなる。すなわち、本発明では、リング移動規制機構によって振動の影響を排除することができるので、正確な摩耗補償を行うことができる。
詳細には、本クラッチカバー組立体では、規制部材が、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において係合部材に係合し、この係合部材を介してファルクラムリングの移動を規制するので、この状態で振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けづらくなる。言い換えると、規制部材と係合部材との係合が解除されたときに、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリングを移動することができるので、摩耗補償をより確実に行うことができる。
請求項2に係るクラッチカバー組立体では、請求項1に記載のクラッチカバー組立体において、ファルクラムリングが、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレートに対して相対回転させられることによって、プレッシャプレートから離れる方向に移動する。係合部材は、ファルクラムリングの回転方向に移動可能にプレッシャプレートに装着される。規制部材は、プレッシャプレートに揺動自在に装着され、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において揺動し係合部材に係合することによって、係合部材の移動が規制される。
このクラッチカバー組立体では、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えた状態において、規制部材が揺動し係合部材に係合している場合、係合部材の移動は、規制部材によって規制される。このため、ファルクラムリングの移動も、係合部材を介して規制部材によって規制される。一方で、係合部材に対する規制部材の係合が解除された場合、係合部材がファルクラムリングの回転方向に移動する。すると、ファルクラムリングは、プレッシャプレートに対して相対回転可能になり、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレートから離れる方向に移動する。
このように、本発明では、遠心力によって規制部材が揺動し係合部材に係合している時には、ファルクラムリングの移動を規制することができ、係合部材に対する規制部材の係合が解除された時には、ファルクラムリングを、プレッシャプレートから離れる方向に移動させることができる。すなわち、本発明では、振動の影響が大きい時には、ファルクラムリングの移動を規制することができ、振動の影響が小さい時には、ファルクラムリングを移動させることによって、摩耗補償を安全且つ正確に行うことができる。
請求項3に係るクラッチカバー組立体では、請求項2に記載のクラッチカバー組立体において、規制部材が、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数より大きくなったときに、規制部材が遠心力によって揺動をするように重さが調整された調整部材を、有している。
このクラッチカバー組立体では、規制部材に調整部材が設けられており、この調整部材によって、規制部材が遠心力によって揺動するタイミングが、調整される。ここでは、プレッシャプレートの回転数が、所定の回転数より大きくなったときに、規制部材が遠心力によって揺動する。これにより、振動の影響が大きい回転数の時には、ファルクラムリングの移動を規制することができ、振動の影響が小さい回転数の時には、ファルクラムリングを移動させることができる。例えば、プレッシャプレートの回転数が、アイドリング回転数より大きくなったときに、規制部材を係合部材に係合させることができる。また、プレッシャプレートの回転数が、アイドリング回転数以下になったときに、規制部材と係合部材との係合を解除することができる。これにより、実用的な摩耗補償を行うことができる。
請求項4に係るクラッチカバー組立体では、請求項2又は3に記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、プレッシャプレートに装着され、規制部材を係合部材から離れる方向に付勢する第1付勢部材を、さらに有している。
このクラッチカバー組立体では、リング移動規制機構において、プレッシャプレートに装着された第1付勢部材が、規制部材を係合部材から離れる方向に付勢しているので、規制部材と係合部材との係合を、確実に解除することができる。これにより、ファルクラムリングを確実に移動させることができるので、摩耗補償をより安全且つより正確に行うことができる。
請求項5に係るクラッチカバー組立体では、請求項2から4のいずれかに記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、係合部材をファルクラムリングの回転方向に付勢する第2付勢部材を、さらに有している。
このクラッチカバー組立体では、リング移動規制機構において、第2付勢部材が、係合部材をファルクラムリングの回転方向に付勢しているので、規制部材と係合部材との係合が解除されたときに、係合部材を速やかにファルクラムリングの回転方向に移動させることができる。また、この状態で、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリングを係合部材の移動方向に回転させることによって、ファルクラムリングを、プレッシャプレートから離れる方向に確実に移動させることができる。このように、摩擦部材の摩耗に対して、ファルクラムリングをスムーズに追従させることができる。
請求項6に係るクラッチカバー組立体では、請求項1から5のいずれかに記載のクラッチカバー組立体において、リング移動規制機構が、係合部材に対する規制部材の係合を解除する解除部材と、解除部材を係合部材から離れる方向に付勢する第3付勢部材とを、さらに有している。解除部材は、規制部材に当接し、第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に付勢され、係合部材に対する規制部材の係合を解除する。
このクラッチカバー組立体では、解除部材が規制部材に当接した状態で、解除部材を第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に付勢することによって、係合部材に対する規制部材の係合が解除される。これにより、ファルクラムリングを確実に移動させることができるので、摩耗補償をより安全且つより正確に行うことができる。
請求項7に係るクラッチカバー組立体では、請求項6に記載のクラッチカバー組立体において、プレッシャプレートに、段差部が形成されている。規制部材には、段差部に係合して規制部材が係合部材に係合した姿勢を保持する姿勢保持部が、形成されている。解除部材は、規制部材とプレッシャプレートとの間において、プレッシャプレートに揺動自在に装着されている。解除部材は、第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に揺動させられ、プレッシャプレートの段差部と規制部材の姿勢保持部との係合を解除する。
このクラッチカバー組立体では、規制部材の姿勢保持部がプレッシャプレートの段差部に係合している時には、規制部材が係合部材に係合した姿勢が保持される。また、解除部材が、第3付勢部材によって係合部材から離れる方向に揺動した時には、規制部材と係合部材との係合が解除される。これにより、振動の影響が大きい時には、規制部材が係合部材に係合した姿勢を保持することによって、ファルクラムリングの移動を規制し、振動の影響が小さい時には、規制部材と係合部材との係合を解除することによって、摩耗補償をより安全且つ正確に行うことができる。
請求項8に係るクラッチカバー組立体は、請求項1から7のいずれかに記載のクラッチカバー組立体において、押圧部材と、摩耗量検出機構と、摩耗追従機構とを、さらに備えている。押圧部材は、プレッシャプレートをフライホイール側に押圧するためのものであり、クラッチカバーに支持される。摩耗量検出機構は、フライホイールに摩擦部材が押し付けられた状態において、摩擦部材の摩耗量を検出するためのものである。摩耗追従機構は、ファルクラムリングを有している。この摩耗追従機構は、フライホイールと摩擦部材との押し付けが解除された状態において、摩擦部材の摩耗量に応じてファルクラムリングをプレッシャプレートから離れる方向へ移動させることによって、押圧部材を初期姿勢側に移動する。
このクラッチカバー組立体では、フライホイールに摩擦部材が押し付けられた状態で、摩擦部材の摩耗量が検出される。ここで、リング移動規制機構において、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数を越えて、ファルクラムリングの移動が規制されている場合、プレッシャプレートの回転時に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けにくい。
また、ファルクラムリングの移動の規制が解除され、且つフライホイールと摩擦部材との押し付けが解除された状態では、ファルクラムリングが、摩擦部材の摩耗量に応じてプレッシャプレートから離れる方向へ移動させられる。すなわち、振動の影響が小さい状態で、ファルクラムリングは、プレッシャプレートから離れる方向へ移動させられる。このため、摩耗補償をより確実に行うことができる。
請求項9に係るクラッチカバー組立体では、請求項8に記載のクラッチカバー組立体において、摩耗追従機構が、摺動部と第4付勢部材とを、さらに有している。摺動部は、プレッシャプレートおよびファルクラムリングに形成され、互いに当接して摺動する部分である。第4付勢部材は、ファルクラムリングを円周方向に付勢してファルクラムリングをプレッシャプレートに対して相対回転させる。摺動部は、円周方向に沿って傾斜する傾斜面からなっている。第4付勢部材は、ファルクラムリングを、摩擦部材の摩耗量に応じて回転させることによって、ファルクラムリングを、プレッシャプレートから離れる方向に移動させる。
このクラッチカバー組立体では、ファルクラムリングは、摩擦部材の摩耗量に応じて、第4付勢部材によって、プレッシャプレートに対して相対回転させられる。ファルクラムリングとプレッシャプレートとは、傾斜面からなる摺動部で当接しているので、ファルクラムリングがプレッシャプレートに対して回転させられると、ファルクラムリングはプレッシャプレートから離れる側に移動する。これにより、摩擦部材が摩耗しても、ファルクラムリングが押圧部材を支持する位置は初期の姿勢と変化しない。このため、押圧荷重特性、ひいてはレリーズ荷重特性を、初期状態のまま維持することができる。
本発明では、リング移動規制機構によって、プレッシャプレートの回転時のファルクラムリングの移動が、規制されているので、プレッシャプレートの回転時に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリングは受けづらくなる。すなわち、本発明では、リング移動規制機構によって振動の影響を排除することができるので、正確な摩耗補償を行うことができる。
本発明の第1実施形態によるクラッチカバー組立体の正面図。
前記クラッチカバー組立体の分解斜視図。
プレッシャプレートとファルクラムリングの一部拡大図。
ダイヤフラムスプリングの支持構造を示す部分断面斜視図。
摩耗量検出機構の拡大斜視図。
摩耗量検出機構の構成を示す図。
リング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
リング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
摩耗量検出機構、リング移動規制機構、及び摩耗追従機構の動作を説明するための図。
摩耗量検出機構、リング移動規制機構、及び摩耗追従機構の動作を説明するための図。
本発明の第2実施形態によるリング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
本発明の第2実施形態によるリング移動規制機構の構成及び動作を説明するための図。
<第1実施形態>
[全体構成]
図1に本発明の第1実施形態によるクラッチカバー組立体1の正面図を示す。また、図2にクラッチカバー組立体1の一部を省略した外観斜視図を示す。このクラッチカバー組立体1は、クラッチオン(動力伝達)時には、エンジンのフライホイールに対してクラッチディスク組立体の摩擦部材を押し付け、またクラッチオフ(動力伝達遮断)時にはその押し付けを解除するための装置である。なお、ここでは、フライホイール及びクラッチディスク組立体は省略している。
クラッチカバー組立体1は、主に、クラッチカバー2と、プレッシャプレート3と、複数のファルクラムリング4と、ダイヤフラムスプリング5と、摩耗量検出機構6と、複数のファルクラムリング4を含む摩耗追従機構7と、から構成されている。
[クラッチカバー]
クラッチカバー2は、概ね皿形状のプレート部材であり、外周部が例えばボルトによりフライホイールに固定される。クラッチカバー2は、環状のクラッチカバー本体2aと、外周側の円板状部2bと、内周側の平坦部2cと、を有している。円板状部2bは、クラッチカバー本体2aの外周側に形成され、フライホイールの外周部に固定される。平坦部2cは、クラッチカバー本体2aの内周部から半径方向内側へ延びる平坦な部分である。この平坦部2cには、軸方向に貫通する複数の孔2dが形成されている。
[プレッシャプレート]
プレッシャプレート3は、環状の部材であって、クラッチカバー2のクラッチカバー本体2a内部に配置されている。プレッシャプレート3のフライホイール側(図2において裏側)の面には、クラッチディスク組立体の摩擦部材と摺接する摩擦面(図示しない)が形成されている。また、プレッシャプレート3は、複数のストラッププレート80(図2を参照、図2では1つのみ図示)によって、クラッチカバー2に連結されており、クラッチカバー2に対して、軸方向には移動可能であり、円周方向には相対回転不能である。なお、クラッチ連結状態では、ストラッププレートは軸方向にたわんでおり、このストラッププレートのたわみ(復元力)によって、プレッシャプレート3はフライホイールから離れる側に付勢されている。
また、プレッシャプレート3のトランスミッション側(図2において表側)の面には、図3に示すように、外周側において、円周方向の複数の箇所に、摺動部10が形成されている。詳細には、各摺動部10は、後述する段差部25の底部25aから軸方向外方に突出して形成されている。各摺動部10は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより高くなるように傾斜する傾斜面10aを有している。また、図4に示すように、プレッシャプレート3のトランスミッション側の面には、外周側において、段差部25が、円周方向に形成されている。また、プレッシャプレート3のトランスミッション側の面には、外周側において、円周方向の複数の箇所において、ガイド部26が形成されている(図2を参照)。ガイド部26は、段差部25の壁部25bに対向するように、プレッシャプレート3に形成されている。
さらに、プレッシャプレート3には、図5に示すように、複数のレール部たとえば2組のレール部27が、設けられている。各組のレール部27は、互いに対向して形成された2つの突出部27a,27bを、有している。2つの突出部27a,27bそれぞれは、互いに所定の間隔を隔てた位置において、プレッシャプレート3に設けられている。これら2つの突出部27a,27bの間に、後述するくさび部材15が配置される。
[ファルクラムリング]
複数のファルクラムリング4は、それぞれ円弧状の部材、すなわち、環状の部材を円周方向に分割して形成された部材である。複数のファルクラムリング4は、図3及び図4に示すように、軸方向の第1端側4a(フライホイール側)が、プレッシャプレート3の段差部25の底部25aに配置されている。より具体的には、複数のファルクラムリング4は、プレッシャプレート3の段差部25の壁部25bと、ガイド部26との間において、段差部25の底部25aに配置されている。
また、ファルクラムリング4の第1端4aには、図3から明らかなように、円周方向の複数個所において摺動部11が形成されている。摺動部11は、傾斜面11aを、有している。傾斜面11aは、プレッシャプレート3の段差部25の底部25aに形成された摺動部10の傾斜面10aに当接し、且つ第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより低くなるように傾斜している。また、ファルクラムリング4には、図5に示すように、後述するくさび部材15が係合する係合凹部4cが、形成されている。詳細には、係合凹部4cは、ファルクラムリング4の第1端4aにおいて、半径方向に溝状に切り欠かれた部分である。係合凹部4cは、円周方向に幅W1を有している。
ここでは、複数のファルクラムリング4(円弧状の部材)を連ねることによって、環状の部材を形成しているが、1つの環状の部材を、ファルクラムリングとして用いるようにしても良い。
[ダイヤフラムスプリング]
ダイヤフラムスプリング5は、図1及び図4に示しすように、プレッシャプレート3とクラッチカバー2との間に配置された円板状部材である。このダイヤフラムスプリング5は、環状弾性部5aと、環状弾性部5aの内周部から径方向内側に延びる複数のレバー部5bとから構成されている。環状弾性部5aの外周端はファルクラムリング4の第2端4bに支持されている。また、ダイヤフラムスプリング5のレバー部5b間には、スリットが形成されており、スリットの外周部には小判状の孔5cが形成されている。
なお、ダイヤフラムスプリング5のレバー部5bの先端にはプッシュタイプのレリーズ装置(図示せず)が当接している。このレリーズ装置は、ダイヤフラムスプリング5のレバー部5bの先端を軸方向へ移動させ、ダイヤフラムスプリング5によるプレッシャプレート3への付勢力を解除するための装置である。
また、ダイヤフラムスプリング5は、図4に示すように、支持部材12によってクラッチカバー2に支持されている。支持部材12は、クラッチカバー2の平坦部2cのトランスミッション側の面に配置されるリング状のプレート部材である。この支持部材12の内周部には、径方向内側に延びる複数の支持用突起12aが形成されている。複数の支持用突起12aは、プレッシャプレート3側に折り曲げられ、この折り曲げ部がクラッチカバー2の平坦部2cに形成された複数の貫通孔2dに挿通されている。また、貫通孔2dに挿通された折り曲げ部は、さらにダイヤフラムスプリング5の小判状の孔5cに挿通されている。そして、支持用突起12aの先端は外周側に折り曲げられて、ダイヤフラムスプリング5を、クラッチカバー2に対して支持している。
[摩耗量検出機構]
摩耗量検出機構6は、図2、図5−図6、及び図9−図10に示すように、ファルクラムリング4の外周部に配置されている。摩耗量検出機構6は、クラッチディスク組立体を構成する摩擦部材の摩耗量を検出する機構である。摩耗量検知機構6は、ロールピン14と、対向部材16と、くさび部材15と、第1コイルスプリング17と、を有している。
ロールピン14は、フライホイールに当接する部材である。ロールピン14は、図6に示すように、プレッシャプレート3に形成された装着孔に、摺動自在に装着されている。ロールピン14の第1端14aは、フライホイールに当接し(図6を参照)、ロールピン14の第2端14bは、対向部材16に圧入して装着される(図5を参照)。ロールピン14は、第1端14aをフライホイールに当接させることによって、対向部材16とフライホイールとの間の距離を常に一定に保っている。なお、フライホイール面は、図6では三角記号(▼記号)で示している。
対向部材16は、図5および図6に示すように、ロールピン14を装着するための装着部19と、摩擦部材の摩耗量を検出するときの基準となりくさび部材15の摺動部21(後述する)に当接して摺動する対向部材用の摺動部20とを、有している。装着部19たとえばボス部には、ロールピン14の第2端14bが圧入され装着される。また、ロールピン14の第2端14bがボス部19に装着され、ロールピン14の第1端14aがフライホイールに当接した状態において、摺動部20は、プレッシャプレート3に対向して配置される。このようにして、対向部材16の位置が、フライホイールに当接するロールピン14によって、常に一定に保たれている。この摺動部20は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより高くなるように傾斜する傾斜面20aを、有している。
くさび部材15は、対向部材16とプレッシャプレート3との間に嵌り込む部材であり(図6を参照)、摩擦部材の摩耗量に応じて第1円周方向(図3および図5のR1方向)に移動する。詳細には、くさび部材15は、摩擦部材の摩耗量に応じて、プレッシャプレート3とともに対向部材16から離れる方向に移動しながら、第1コイルスプリング17によって第1円周方向に移動する。そして、くさび部材15は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌り込み、第1円周方向への移動を停止する。
くさび部材15は、図5及び図6に示すように、本体部15aと、本体部15aと一体に形成されファルクラムリングに係合する係合部15bとを、有している。本体部15aは、棒状に形成された部分であり、プレッシャプレート3に形成された2つのレール部27に配置される。詳細には、本体部15aは、2つの突出部27a,27bの間において、円周方向に移動自在に配置される。本体部15aには、対向部材16の摺動部20に当接して摺動する摺動部21が、形成されている。このくさび部材用の摺動部21は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより低くなるように傾斜する傾斜面21aを、有している。
ここで、対向部材16及びくさび部材15それぞれに形成された傾斜面20a,21aの傾斜角度が、プレッシャプレート及びファルクラムリング4それぞれに形成された傾斜面10a,11aの傾斜角度より小さくなるように、対向部材16の傾斜面20a及びくさび部材15の傾斜面21aは形成されている。言い換えると、プレッシャプレート及びファルクラムリング4それぞれに形成された傾斜面10a,11aの傾斜角度が、対向部材16及びくさび部材15それぞれに形成された傾斜面20a,21aの傾斜角度より大きくなるように、プレッシャプレートの傾斜面10a及びファルクラムリング4の傾斜面11aは形成されている。
なお、プレッシャプレート及びファルクラムリング4それぞれの傾斜面10a,11aの傾斜角度は、たとえば、6.0度未満に設定されることが望ましい。ここでは、これら傾斜面10a,11aの傾斜角度は、たとえば、5.6度に設定されている。また、対向部材16及びくさび部材15それぞれの傾斜面20a,21aの傾斜角度は、たとえば、5.6度未満に設定されることが望ましい。ここでは、これら傾斜面20a,21aの傾斜角度は、たとえば、5.5度に設定されている。
係合部15bは、図5及び図6に示すように、本体部15aの長手方向に交差する方向に突出して一体に形成されている。係合部15bは、L字状に形成されており、先端部がファルクラムリング4の係合凹部4cに係合する。詳細には、係合部15bの先端部は、ファルクラムリング4の係合凹部4cに挿入され、本体部15aがレール部27に装着される。係合部15bの先端部は、円周方向に幅W2を有している。図9及び図10に示すように、係合部15bの先端部の幅W2は、係合凹部4cの幅W1より小さい。また、後述するように、係合部材の突出部91dも、係合凹部4cに挿入されている。この突出部91dは、円周方向に幅W3を有している。これにより、係合部15bすなわちくさび部材15は、(W1−W2−W3)の範囲で円周方向に移動可能である。たとえば、ここでは、(W1−W2−W3)が、所定の値たとえば2.0mmとなるように、係合凹部4c及び係合部15bは形成されている。
第1コイルスプリング17は、くさび部材15を第1円周方向に付勢する部材である。言い換えると、第1コイルスプリング17は、第2円周方向(R1方向とは反対の方向)へのくさび部材15の移動を規制する部材である。第1コイルスプリング17は、図5に示すように、一端がくさび部材15の係合部15bに装着され、他端がファルクラムリング4に装着されている。この第1コイルスプリング17は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に配置されたくさび部材15を、第1円周方向(図5のR1方向)に付勢している。これにより、くさび部材15は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌め込まれた状態で維持されている。そして、摩擦部材が摩耗したときには、摩擦部材の摩耗量に応じて、第1コイルスプリング17が、くさび部材15を第1円周方向に移動させ、くさび部材15をプレッシャプレート3と対向部材16との間に食い込ませる。
[摩耗追従機構]
摩耗追従機構7は、摩擦部材の摩耗量、すなわちくさび部材15の移動量に追従させて、ダイヤフラムスプリング5の姿勢を初期の姿勢に保つための機構である。この摩耗追従機構7は、複数のファルクラムリング4に加えて、前述のプレッシャプレート3及びファルクラムリング4のそれぞれに形成された摺動部10,11と、第2コイルスプリング28(図2を参照)と、を有している。
複数のファルクラムリング4は、プレッシャプレート3の段差部25の壁部25bと、ガイド部26との間において、プレッシャプレート3に対して相対回転可能に配置されている。また、複数のファルクラムリング4は、ダイヤフラムスプリング5によってプレッシャプレート3側に押圧されている。また、図6及び図10の状態においては、複数のファルクラムリング4それぞれの摺動部11の傾斜面11aが、プレッシャプレート3の摺動部10の傾斜面10aに当接しており、複数のファルクラムリング4は、くさび部材15の移動量分だけ、第1円周方向(図5のR1方向)に移動可能である。なお、ここでは、くさび部材15の移動量の最大値が、(W1−W2−W3)となっている。
第2コイルスプリング28は、ファルクラムリング4を第1円周方向に付勢する部材である。言い換えると、第2コイルスプリング28は、第2円周方向(R1方向とは反対の方向)へのファルクラムリング4の移動を規制する部材である。この第2コイルスプリング28は、プレッシャプレートに対して、ファルクラムリング4を第1円周方向に相対回転させる。第2コイルスプリング28は、図2に示すように、ファルクラムリング4の内周部に沿うように、ファルクラムリング4とプレッシャプレート3とに装着されている。詳細には、第2コイルスプリング28は、一端がファルクラムリング4に装着されており、他端がプレッシャプレート3に装着されている。
以上のような構成では、摩擦部材の摩耗量に応じてくさび部材15が円周方向(R1方向)に移動した場合、このくさび部材15の移動量だけ、後述する係合部材は、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能であり、ファルクラムリング4は、回転移動可能である。ここで、ファルクラムリング4がプレッシャプレート3に対して回転すると、両部材4,3は摺動部10,11の傾斜面によって互いに当接しているので、ファルクラムリング4は、軸方向にプレッシャプレート3から離れる側に、移動する。
[リング移動規制機構]
リング移動規制機構9は、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を、規制する機構である。詳細には、リング移動規制機構9は、プレッシャプレート3に対するファルクラムリング4の相対回転を規制することによって、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を規制する。
リング移動規制機構9は、図7及び図8に示すように、ファルクラムリング4に係合する係合部材91と、プレッシャプレート3の回転時に係合部材91に係合し、係合部材91を介してファルクラムリング4の移動を規制する規制部材92と、第3コイルスプリング91f(第2付勢部材)と、第4コイルスプリング92e(第1付勢部材)とを、有している。
係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。係合部材91は、本体部91aと、プレッシャプレート3に装着するための長孔部91bと、凹凸部91cと、ファルクラムリング4の係合凹部4cに係合する突出部91dと、ファルクラムリング4に連結するための連結部91eとを、有している。
本体部91aは、一方向に長いプレート状の部分である。本体部91aの長軸方向は、ファルクラムリング4の円周方向に対応している。長孔部91bは、本体部91aの面中央において、長軸方向に形成されている。凹凸部91cは、本体部91aの長辺側面において、長軸方向に形成されている。凹凸部91cは、本体部91aをプレッシャプレート3に装着した状態で、本体部91aの内周側の側面に、形成されている。突出部91dは、凹凸部91cが形成された長辺側面とは反対側の長辺側面において、本体部91aの一端から外方に突出して形成されている。連結部91eは、本体部91aの一端に一体に形成されている。
ここでは、軸部より大径の頭部を有するピン部材91gを長孔部91bに挿入し、このピン部材91gの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、係合部材91が、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。また、連結部91eと、ファルクラムリング4に装着されたピン部材91gとを、第3コイルスプリング91fによって連結することによって、係合部材91は、ファルクラムリング4に連結され、第1円周方向に付勢される。さらに、係合部材91の突出部91dは、くさび部材15の係合部15bと、第2円周方向の係合凹部4cの壁面との間に配置される。
規制部材92は、プレッシャプレート3に揺動自在に装着される。規制部材92は、プレッシャプレートの回転時に遠心力によって揺動し、係合部材91に係合することによって、係合部材91の移動を規制する。規制部材92は、本体部92aと、本体部92aが揺動するタイミングを調節するための調整部材92bと、凹凸部92cと、プレッシャプレート3に装着するための連結部92dとを、有している。本体部92aは、一方向に長いプレート状の部分である。本体部92aの一端には、貫通孔が形成されている。調整部材92bは、重りであり、本体部92aの他端側に装着されている。凹凸部92cは、本体部92aの長辺側面において、長軸方向に形成されている。凹凸部92cは、本体部92aをプレッシャプレート3に装着した状態で、本体部92aの外周側の側面に、形成されている。連結部92dは、本体部92aの他端に一体に形成されている。
ここでは、本体部92aの一端に形成された貫通孔にピン部材92fを挿入し、このピン部材92fの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、規制部材92がプレッシャプレート3に対して揺動自在に装着される。また、連結部92dと、プレッシャプレート3に装着されたピン部材92fとを、第4コイルスプリング92eによって連結することによって、規制部材92は、この第4コイルスプリング92eによって、係合部材91から離れる方向に付勢される。
このような構成を有するリング移動規制機構9では、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数より大きくなったときに、規制部材92が遠心力によって係合部材91の方向に揺動し、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合い係合する。すると、係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。このようにして、係合部材91の移動が、規制部材92によって規制される。
なお、上記の所定の回転数は、アイドリング回転数に設定される。ここでは、プレッシャプレート3の回転数が、アイドリング回転数、例えば400rpmより大きくなった場合に、規制部材92が揺動するように、調整部材92bの重さが設定されている。
[摩耗量検出動作]
クラッチオン(連結)状態では、ダイヤフラムスプリング5の押圧荷重は、ファルクラムリング4を介してプレッシャプレート3に作用し、これによりクラッチディスク組立体の摩擦部材はプレッシャプレート3とフライホイールとの間に挟持されている。このとき、図7に示すように、くさび部材15は、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌め込まれている。
摩擦部材が摩耗すると、摩擦部材の厚みが薄くなるので、プレッシャプレート3はフライホイール側(図9及び図10において下側)に移動することになる。また、くさび部材15は、プレッシャプレート3に支持されているので、プレッシャプレート3の移動に伴って、プレッシャプレート3とともにフライホイール側に移動することになる。すると、くさび部材15とプレッシャプレート3との間に、摩擦部材の摩耗量に相当する隙間W0(図9を参照)が、発生する。すると、くさび部材15は、第1コイルスプリング17の付勢力によって、この隙間W0を埋める方向、すなわち図9のR1方向に移動する。
このように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15は、R1方向に移動し、図10に示すように、プレッシャプレート3と対向部材16との間に嵌め込まれる。すなわち、くさび部材15は、摩擦部材の摩耗によって、対向部材16との係合がいったん解除されるが、第1コイルスプリング17の付勢力によって移動し、再び対向部材16と係合する。これにより、摩擦部材が摩耗したとしても、プレッシャプレート3と対向部材16との間隔は、くさび部材15の移動によって、常に一定に保たれる。
なお、ここでは、説明を容易にするために、摩擦部材の摩耗量W0に応じて、くさび部材が移動する場合の例が示されている。しかしながら、これは、くさび部材15が段階的に移動することを意味するものではなく、本実施形態では、摩擦部材の摩耗に追従して、くさび部材15が連続的に移動する。
[リング移動規制機構の動作及び摩耗追従動作]
クラッチオフ状態、例えばプレッシャプレート3が回転していない状態では、図7に示すように、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態では、係合部材91は、第3コイルスプリング91fによってR1方向に付勢されているので、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接している。また、ファルクラムリング4も、第2コイルスプリング28によってR1方向に付勢されているので、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接している。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下である場合、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15すなわち係合部15bが、第1コイルスプリング17の付勢力によって、R1方向に移動させられる(詳細については、上記の[摩耗量検出動作]を参照)。すると、このくさび部材15すなわち係合部15bの移動に追随して、係合部材91すなわち突出部91dは、第3コイルスプリング91fの付勢力によって、R1方向に移動させられる。また、ファルクラムリング4は、第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。すると、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。この状態は、図9において、隙間W0がゼロである状態に相当する。
ここで、ファルクラムリング4とプレッシャプレート3とは、互いの摺動部10,11(傾斜面)が当接している。このため、上記ようにファルクラムリング4が回転すると、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3から離れる方向に移動する。すなわち、摩擦部材の摩耗量分だけ、ファルクラムリング4はトランスミッション側に移動する。この移動によって、ファルクラムリング4は、摩擦部材が摩耗する前の初期位置に戻ることになる。なお、ここでは、摩耗量検出動作および摩耗追従動作が、同時に行われている。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい場合、図8に示すように、規制部材92が遠心力によって半径方向に揺動し、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合う。すると、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。ここで、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接しているので、係合部材91がファルクラムリング4の回転方向に移動不能になると、ファルクラムリング4も、回転方向へ移動不能になる。このようにして、ファルクラムリング4の移動は、係合部材91を介して、規制部材92によって規制される。
この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15が、第1コイルスプリング17の付勢力によって、R1方向に移動させられる(詳細については、上記の[摩耗量検出動作]を参照)。このように、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい状態では、図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15がR1方向に移動するが、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3に対して相対回転不能である。なお、この状態では、摩耗量検出動作は行われているが、摩耗追従動作は、リング移動規制機構9によって規制されている。
ここで、クラッチのレリーズ操作がなされて、クラッチオフ状態になると、ダイヤフラムスプリング5によるファルクラムリング4への押圧が解除される。そして、プレッシャプレート3の回転数が低下し、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下になると、規制部材92が、第4コイルスプリング92eの付勢力によって、係合部材91から離れる方向に付勢され、揺動する。これにより、図7に示すように、係合部材91と規制部材92との係合が、解除される。すると、係合部材91は、第3コイルスプリング91fの付勢力によって、R1方向に移動させられる。また、ファルクラムリング4は、第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。すると、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(第2円周方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。図9が、この状態に対応している。このようにファルクラムリング4を回転させることによって、上述しように、ファルクラムリング4が、プレッシャプレート3から離れる方向に移動する。このようにして、リング移動規制機構9においてファルクラムリング4の移動が解除され、摩耗追従動作が行われる。
[特徴]
(1)本リング移動規制機構9では、規制部材92が、プレッシャプレート3の回転によって遠心力によって揺動し、係合部材91に係合する。これにより、規制部材92は、係合部材91を介してファルクラムリング4の移動を規制するので、プレッシャプレート3の回転時に振動が発生しても、この振動の影響をファルクラムリング4は受けづらくなる。言い換えると、規制部材92と係合部材91との係合が解除されたときに、摩擦部材の摩耗量に応じたファルクラムリングの移動を、行うことができるので、摩耗補償をより確実に行うことができる。
(2)本リング移動規制機構9では、第3コイルスプリング91fが、係合部材91をファルクラムリング4の回転方向に付勢しているので、規制部材92と係合部材91との係合が解除されたときに、係合部材91を速やかにファルクラムリング4の回転方向に移動させることができる。また、この状態で、摩擦部材の摩耗量に応じて、ファルクラムリング4を、第2コイルスプリング28によって、係合部材91の移動方向に回転させることによって、ファルクラムリング4を、プレッシャプレート3から離れる方向に確実に移動させることができる。
(3)本リング移動規制機構9では、プレッシャプレート3に装着された第4コイルスプリング92eが、規制部材92を係合部材91から離れる方向に付勢しているので、規制部材92と係合部材91との係合を、確実に解除することができる。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態によるクラッチカバー組立体1の基本構成は、第1実施形態と同様であり、主に、リング移動規制機構109の構成が、第1実施形態とは異なる。このため、ここでは、第1実施形態と同じ構成については、詳細な説明を省略している。図11及び図12は、第2実施形態によるリング移動規制機構109の構成及び動作を説明するための図である。図11は、リング移動規制機構109が機能していない場合の例であり、図12は、リング移動規制機構109が機能した場合の例である。また、図11及び図12では、第1実施形態と同じ部材については、同じ符号を付している。なお、第1実施形態と同じ構成及び動作の説明では、第1実施形態の図面を用いて説明する場合がある。
[プレッシャプレート]
プレッシャプレート3のトランスミッション側(図2において表側)の面には、図3に示すように、外周側において、円周方向の複数の箇所に、摺動部10が形成されている。詳細には、各摺動部10は、段差部25の底部25aから軸方向外方に突出して形成されている。各摺動部10は、第1円周方向(図3のR1方向)に向かってその高さがより高くなるように傾斜する傾斜面10aを有している。また、プレッシャプレート3には、図11及び図12に示すように、第1段差部31(段差部)と、第1段差部31より段差の大きい第2段差部32と、凹部33とが、形成されている。第1段差部31の壁面と、第2段差部32の壁面とは、ファルクラムリングの内周面に対向するように、プレッシャプレート3に形成されている。また、第1段差部31の上面は、内周側から外周側に向けてその高さがより高くなるように傾斜して形成されている。凹部33には、後述する解除部材用の調整部材93c(図12を参照)が、配置される。
[リング移動規制機構]
リング移動規制機構109は、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を、規制する機構である。詳細には、リング移動規制機構109は、プレッシャプレート3に対するファルクラムリング4の相対回転を規制することによって、プレッシャプレート3から離れる方向へのファルクラムリング4の移動を規制する。
リング移動規制機構109は、図11及び図12に示すように、ファルクラムリング4に係合する係合部材91と、プレッシャプレート3の回転時に係合部材91に係合し、係合部材91を介してファルクラムリング4の移動を規制する規制部材92と、係合部材91に対する規制部材92の係合を解除する解除部材93とを、有している。また、リング移動規制機構109は、第3コイルスプリング91f(第2付勢部材)と、第4コイルスプリング92e(第1付勢部材)と、第5コイルスプリング93d(第3付勢部材)とを、さらに有している。
係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。係合部材91は、本体部91aと、プレッシャプレート3に装着するための長孔部91bと、凹凸部91cと、ファルクラムリング4の係合凹部4cに係合する突出部91dと、ファルクラムリング4に連結するための連結部91eとを、有している。
ここでは、軸部より大径の頭部を有するピン部材91gを長孔部91bに挿入し、このピン部材91gの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、係合部材91が、ファルクラムリング4の回転方向に移動可能にプレッシャプレート3に装着される。また、連結部91eと、ファルクラムリング4に装着されたピン部材4dとを、第3コイルスプリング91fによって連結することによって、係合部材91は、ファルクラムリング4に連結され、第1円周方向(図11のR1方向)に付勢される。さらに、係合部材91の突出部91dは、くさび部材15の係合部15bと、第2円周方向(図11のR1方向とは反対の方向、以下ではR2方向と呼ぶ)の係合凹部4cの壁面との間に配置される。
規制部材92は、プレッシャプレート3に揺動自在に装着される。規制部材92は、プレッシャプレートの回転時に遠心力によって揺動し、係合部材91に係合することによって、係合部材91の移動を規制する。規制部材92は、本体部92aと、本体部92aが揺動するタイミングを調節するための調整部材92bと、凹凸部92cと、プレッシャプレート3に装着するための連結部92dと、姿勢保持部92gとを、有している。
姿勢保持部92gは、規制部材92が係合部材91に係合した姿勢を保持するためのものである。姿勢保持部92gは、プレート状の本体部92aから面外に押し出し成形されている。姿勢保持部92gは、規制部材92において、ピン部材92fが装着される側の端部とは反対側の端部側面に形成されている。
姿勢保持部92gは、プレッシャプレート3の第1段差部31に係合する(図12を参照)。具体的には、姿勢保持部92gは、第1段差部31のファルクラムリング4に対向する壁面に係合する。この場合、規制部材92は、係合部材91の移動を規制した状態である。また、姿勢保持部92gは、プレッシャプレート3の第2段差部32にも係合する(図11を参照)。具体的には、姿勢保持部92gは、第2段差部32のファルクラムリング4に対向する壁面に係合する。この場合、規制部材92は、係合部材91の移動を許可した状態である。
調整部材92bは、重りであり、本体部92a装着されている。ここでは、2つの調整部材92bが、本体部92aの中央部に装着されている。
解除部材93は、規制部材92とプレッシャプレート3との間において、プレッシャプレート3に揺動自在に装着される。図12に示すように、規制部材92が係合部材91に係合しているときには、解除部材93は、規制部材92とプレッシャプレート3との間において、規制部材92に当接している。また、解除部材93は、第5コイルスプリング93dによって係合部材91から離れる方向に付勢されており、第5コイルスプリング93dの付勢力によって揺動する。そして、解除部材93は、係合部材91に対する規制部材92の係合を、解除する。詳細には、解除部材93は、プレッシャプレート3の第1段差部31と規制部材92の姿勢保持部92gとの係合を、解除する。解除部材93は、本体部93aと、連結部93bと、本体部93aが揺動するタイミングを調節するための調整部材93cとを、有している。
本体部93aは、一方向に長いプレート状の部分である。本体部93aは、図11に示すように、一端に貫通孔が形成されており、この貫通孔にピン部材93eが挿入される。そして、このピン部材93eの軸部の先端をプレッシャプレート3に装着することによって、解除部材93がプレッシャプレート3に対して揺動自在に装着される。また、図12に示すように、規制部材92が係合部材91に係合しているときには、本体部93aは、姿勢保持部92gのプレッシャプレート側の面に当接している。ここで、プレッシャプレート3の回転数が低下し、第5コイルスプリング93dの付勢力が、調整部材93cによって決定される遠心力より大きくなると、本体部93aが、ファルクラムリング4から離れる方向に揺動し、プレッシャプレート3の第1段差部31と規制部材92の姿勢保持部92gとの係合を解除する。
連結部93bには、図12に示すように、第5コイルスプリング93dの一端が、連結される。ここで、第5コイルスプリング93dの他端は、プレッシャプレート3に連結されている。これにより、解除部材93は、第5コイルスプリング93dによって係合部材91から離れる方向に付勢される。調整部材93cは、解除部材93に作用する遠心力に影響を与える部材である。調整部材93cは、重りであり、本体部93aの他端側に装着されている。この調整部材93cは、本体部93aに装着された状態で、プレッシャプレート3の凹部33の内部に配置される。
このような構成を有するリング移動規制機構109では、プレッシャプレートの回転数が所定の回転数より大きくなったときに、規制部材92及び解除部材93が遠心力によって係合部材91の方向に揺動する。そして、図12に示すように、規制部材92の姿勢保持部92gが第1段差部31に係合すると、規制部材92が所定の位置に位置決めされる。このとき、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合い係合する。すると、係合部材91は、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。このようにして、係合部材91の移動が、規制部材92によって規制される。また、この状態において、解除部材93は、規制部材92とプレッシャプレート3との間に配置され、解除部材93は、規制部材92の姿勢保持部92gに当接している。
なお、上記の所定の回転数は、アイドリング回転数に設定される。ここでは、プレッシャプレート3の回転数が、アイドリング回転数、例えば400rpmより大きくなった場合に、規制部材92及び解除部材93が揺動するように、調整部材92bの重さ及び調整部材93cの重さが、設定されている。
[リング移動規制機構の動作及び摩耗追従動作]
クラッチオフ状態、例えばプレッシャプレート3が回転していない状態では、図11に示すように、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態では、係合部材91は、第3コイルスプリング91fによってR1方向に付勢されているので、係合部材91の突出部91dは、くさび部材15の係合部15bに当接している。また、ファルクラムリング4も、図2に示す第2コイルスプリング28によってR1方向に付勢されているので、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接している。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下である場合、係合部材91と規制部材92とは、係合が解除されている。この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15すなわち係合部15b、及び係合部材91すなわち突出部91dが、第1コイルスプリング17の付勢力、及び第3コイルスプリング91fの付勢力によって、R1方向に移動させられる。そして、ファルクラムリング4も、第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。これにより、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。
ここで、ファルクラムリング4が回転すると、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3から離れる方向に移動する。すなわち、摩擦部材の摩耗量分だけ、ファルクラムリング4はトランスミッション側に移動する。この移動によって、ファルクラムリング4は、摩擦部材が摩耗する前の初期位置に戻ることになる。なお、ここでは、摩耗量検出動作および摩耗追従動作が、同時に行われている。
クラッチオン状態、例えばプレッシャプレート3が回転している状態において、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい場合、規制部材92および解除部材93が遠心力によって半径方向に揺動し、図12に示すように、規制部材92の凹凸部92cが、係合部材91の凹凸部91cに噛み合う。すると、係合部材91が、ファルクラムリング4の回転方向に移動不能になる。ここでは、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接しているので、係合部材91がファルクラムリング4の回転方向に移動不能になると、ファルクラムリング4も、回転方向へ移動不能になる。このようにして、ファルクラムリング4の移動は、係合部材91を介して、規制部材92によって規制される。
この状態において、摩擦部材が摩耗し摩擦部材の厚みが薄くなると、図9及び図10に示すように、摩擦部材の摩耗量に応じて、くさび部材15が、第1コイルスプリング17の付勢力によって、R1方向に移動させられる。このように、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数より大きい状態では、摩擦部材の摩耗量に応じてくさび部材15はR1方向に移動するが、ファルクラムリング4はプレッシャプレート3に対して相対回転不能である。なお、この状態では、摩耗量検出動作は行われているが、摩耗追従動作は、リング移動規制機構109によって規制されている。
ここで、クラッチのレリーズ操作がなされて、クラッチオフ状態になると、ダイヤフラムスプリング5によるファルクラムリング4への押圧が解除される。そして、プレッシャプレート3の回転数が低下し、プレッシャプレート3の回転数がアイドリング回転数以下になると、解除部材93が、第5コイルスプリング93dの付勢力によって、係合部材91から離れる方向に付勢され揺動する。すると、規制部材92の姿勢保持部92gが、解除部材93の本体部93aによって押し上げられ、姿勢保持部92gと第1段差部31との係合が、解除される。すると、規制部材92の姿勢保持部92gが、第2段差部32の壁面例えばファルクラムリング4に対向する壁面に当接し、解除部材93の揺動が停止する。また、解除部材93の本体部93aは、規制部材92の姿勢保持部92gを押し上げた後、第1段差部31の壁面例えばファルクラムリング4に対向する壁面に当接し、解除部材93の揺動は停止する。この状態が、係合部材91に対する規制部材92の係合を解除部材93が解除した状態である。
このように、係合部材91と規制部材92との係合が、解除されると、係合部材91及びファルクラムリング4は、第3コイルスプリング91fの付勢力及び第2コイルスプリング28の付勢力によって、R1方向に回転させられる。すると、係合部材91の突出部91dが、くさび部材15の係合部15bに当接し、ファルクラムリング4における係合凹部4cの壁面(R2方向の壁面)が、係合部材91の突出部91dに当接する。図11が、この状態に対応している。このようにファルクラムリング4が回転すると、上述しように、ファルクラムリング4が、プレッシャプレート3から離れる方向に移動する。このように、第2実施形態では、リング移動規制機構109においてファルクラムリング4の移動が解除され、摩耗追従動作が行われる。
[特徴]
(1)本リング移動規制機構109では、規制部材92の姿勢保持部92gがプレッシャプレート3の第1段差部31に係合している時には、規制部材92が係合部材91に係合した姿勢が保持される。また、解除部材93が、第5コイルスプリング93dによって係合部材91から離れる方向に揺動した時には、規制部材92と係合部材91との係合が解除される。これにより、振動の影響が大きい時には、規制部材92が係合部材91に係合した姿勢が保持されるので、ファルクラムリング4の移動を規制することができる。また、振動の影響が小さい時には、規制部材92と係合部材91との係合を解除することができ、摩耗追従機構7を動作させることができる。このようにして、摩耗補償をより安全且つ正確に行うことができる。
なお、ここでは、前記第1実施形態と構成が同じ部分については、上記の効果と同様の効果を得ることができる。
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
(a)摩耗追従機構の構成は、ダイヤフラムスプリングの初期姿勢を維持するように作用する構成であればどのような構成でもよく、前記実施形態に限定されない。
1 クラッチカバー組立体
2 クラッチカバー
3 プレッシャプレート
4 ファルクラムリング
5 ダイヤフラムスプリング(押圧部材)
6 摩耗量検出機構
7 摩耗追従機構
9,109 リング移動規制機構
14 ロールピン(当接部材)
15 くさび部材
16 対向部材
17 第1コイルスプリング
28 第2コイルスプリング(第4付勢部材)
31 第1段差部
32 第2段差部
91 係合部材
91f 第3コイルスプリング(第2付勢部材)
92 規制部材
92e 第4コイルスプリング(第1付勢部材)
93 解除部材
93d 第5コイルスプリング(第3付勢部材)