JP2012032278A - ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼa1測定による全身性エリテマトーデスの検査方法および検査薬 - Google Patents

ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼa1測定による全身性エリテマトーデスの検査方法および検査薬 Download PDF

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Abstract

【課題】全身性エリテマトーデス(SLE)の病態を反映する新たなマーカーを提供し、それを用いたSLEの検査方法および検査薬を提供すること。
【解決手段】SLEの病態を反映する新たなマーカーとしてヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1(PS−PLA1)を選定した。PS−PLA1は簡便、短時間、かつ信頼性の高い定量測定方法が確立されているため、SLE検査を小規模医療施設においても簡便、低コスト、定量的に、かつ施設間差なく実施することができる。
【選択図】図1

Description

本発明はヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1濃度の測定による全身性エリテマトーデスの検査方法および検査薬に関する。
全身性エリテマトーデス(全身性紅斑性狼瘡)(以下、SLE)は、全身の臓器に原因不明の炎症が起こる自己免疫疾患の一種であり、膠原病の1つとして分類されている。
SLEは、以下の:
(1)顔面紅斑、
(2)円板状皮疹、
(3)光線過敏症、
(4)口腔内潰瘍、
(5)関節炎(2関節以上で非破壊性)、
(6)漿膜炎(胸膜炎または心膜炎)、
(7)腎病変(0.5g/日以上の持続的蛋白尿か細胞性円柱の出現)、
(8)神経学的病変(痙攣発作あるいは精神障害)、
(9)血液学的異常(溶血性貧血、白血球減少、リンパ球減少または血小板減少)、
(10)免疫学的異常(抗2本鎖DNA抗体陽性、抗Sm抗体陽性又は抗リン脂質抗体陽性、抗カルジオリピン抗体陽性、ループスアンチコアグラント、梅毒反応偽陽性)、
(11)抗核抗体陽性、
の11項目のうち4項目以上を満たす場合に、SLEと診断される。
SLEの病態を把握するため、従来から疾患活動性の指標であるBILAGやSLEDAIが用いられている。BILAGは一般全身症状、粘膜皮膚症状、神経系症状、筋骨格系症状、心血管系および呼吸器系症状、血管炎、腎症などのそれぞれ細分化された症状、並びに血液検査の結果をスコアリングし、BILAG総スコアで病態を診断する方法である。例えば一般全身性症状としては、発熱、体重減少、リンパ節腫脹/脾腫、リンパ節腫脹、易疲労/全身倦怠/脱力、食欲低下/嘔気/嘔吐などに細分化され、それら各診断を総合し病態をカテゴリー分類する(非特許文献1および2)。SLEDAIも同様に、痙攣、精神症状、器質的脳障害、視力障害、脳神経障害、ループス頭痛、脳血管障害、血管炎、関節炎、筋炎、尿円柱、血尿、蛋白尿、膿尿、新たな皮疹、脱毛、粘膜潰瘍、胸膜炎、心膜炎、低補体血症、抗DNA抗体上昇、発熱、血小板減少、白血球減少、の診断項目に加重をかけスコアリングし病態把握を行う(非特許文献3)。
以上に示すように、従来SLEの病態把握は非常に多くの診断項目が必要であり、かつ定性的な診断項目も多く含まれるため、SLEの病態を把握できる簡便なマーカーが期待されていた。
特開2008−203041号公報
Q.J.Med.,69,927−937,1988 Ann.Rheum.Dis.,555,756−760,1996 Arthritis Rheum.,35(6),630−640,1992 J.Biol.Chem.,272,2192−2198,1997
前述したように、全身性エリテマトーデス(SLE)患者においてはその発症する病態は多様であり、従来の病態把握方法では定性的な診断基準を含んでいることから、更なる独立した診断マーカーが必要とされていた。そこで、本願発明の課題はSLEの病態を反映する新たなマーカーを提供し、それを用いたSLEの検査方法および検査薬を提供することにある。
前記課題を鑑み発明者が鋭意検討した結果、ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1(以下、PS−PLA1)の生体内濃度が全身性エリテマトーデス(以下、SLE)患者において濃度の上昇が認められることから、PS−PLA1濃度がSLEの病態把握に有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
詳しくは、本願は下記の発明を包含する:
(1)ヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定することによる全身性エリテマトーデスの検査方法。
(2)ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定し、その値が健常者測定値から算出したカットオフ値に対し高値を示した場合に全身性エリテマトーデスを罹患する、とすることを特徴とする、(1)に記載の検査方法。
(3)ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定し、全身性エリテマトーデス罹患患者の疾患活動期を判断することを特徴とする、(1)に記載の検査方法。
(4)上記測定が、ヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の濃度又は活性を測定することによる(1)から(3)のいずれかに記載の検査方法。
(5)少なくとも一つの既存の全身性エリテマトーデス検査方法と(1)から(4)のいずれかに記載の検査方法とを組み合わせた全身性エリテマトーデスの検査方法。
(6)既存の全身性エリテマトーデス検査方法が顔面紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔内潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎病変などの身体的病変検査である(5)に記載の検査方法。
(7)既存の全身性エリテマトーデス検査方法が痙攣発作、精神障害などの神経学的病変検査である(5)に記載の検査方法。
(8)既存の全身性エリテマトーデス検査方法が溶血性貧血検査、白血球検査、リンパ球検査、血小板検査などの血液学的検査である(5)に記載の検査方法。
(9)既存の全身性エリテマトーデス検査方法が抗2本鎖DNA抗体検査,抗Sm抗体検査、抗リン脂質抗体検査、抗核抗体検査などの免疫学的検査である(5)に記載の検査方法。
(10)ヒト検体が、全血、血球、血清もしくは血漿などのヒト血液成分またはヒト細胞もしくはヒト組織の抽出液である(1)から(9)のいずれかに記載の検査方法。
(11)ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の測定が抗体を用いた免疫化学的方法により行なわれる(1)から(10)のいずれかに記載の検査方法。
(12)全身性エリテマトーデスの治療効果を検査する(1)から(11)のいずれかに記載の検査方法。
(13)(1)から(12)のいずれかに記載の検査方法を利用した全身性エリテマトーデスの検査薬。
本発明によれば、ヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1(PS−PLA1)を測定することにより全身性エリテマトーデス(SLE)の検査およびSLE検査の補助を可能とし、さらにSLEの病態把握をすることが可能である。PS−PLA1を測定する際、特許文献1に記載の方法を原理とする免疫学的定量試薬を用いて測定を実施することにより、短時間でPS−PLA1を定量可能である。そのため、本発明により、小規模医療施設においても簡便かつ低コストでSLE検査が可能な検査薬を提供することが可能である。
また、少なくとも一つの既存のSLE検査(例えば、身体的病変検査、神経学的病変検査、血液学的検査、免疫学的検査)とPS−PLA1測定とを組み合わせることにより、既存のSLE検査およびPS−PLA1を単独マーカーとしたSLE検査と比較し、より高い診断精度でSLE検査やその治療効果を判定することが可能となる。
既存のSLE検査は全て自己免疫疾患による免疫応答の結果発症する自己抗体、またはそれを原因とする全身症状である。一方、PS−PLA1は脂質代謝酵素であり既存のSLE検査項目とは異なる機序により濃度変動が誘導されることより、単独での検査のみならず既存SLE検査との組み合わせることによる検査の意義は大きい。
SLE患者はその疾患活動期を長期間にわたり定期的にモニター検査することが必要であるが、BILAGやSLEDAIなどの指標は複数検査項目の診断の総合点として疾患活動期を判定すること、その個々の診断項目には定性的な判定項目も含まれるため専門医が必要であり、診断の施設間差は否定できない。一方、PS−PLA1は単一の非侵襲的定量的検査項目であるため、疾患活動期の診断が容易であり施設間差を考慮する必要はない利点がある。
健常者および全身性エリテマトーデス(SLE)患者血清中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1(PS−PLA1)濃度分布を示す。 健常者およびSLE患者血清中のPS−PLA1測定値を用いた診断効率指標であるROC曲線を示す。 健常者、SLE患者、関節リウマチ(RA)患者および全身性硬化症(SSc)患者血清中のPS−PLA1濃度分布を示す。 発熱、関節痛、皮膚症状、漿膜炎、腎症、中枢神経ループスの有無によりグループ分けした際のPS−PLA1濃度分布を示す。 PS−PLA1濃度とリンパ球数、白血球数、CRP値、GOT値、C1q結合性免疫複合体値の相関性を示す。 SLE患者血清中のPS−PLA1濃度とBILAGの相関性(A)、ならびにSLEDAIとの相関性(B)を示す。 治療前後におけるSLE患者血清中のPS−PLA1濃度変化を示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
PS−PLA1は1997年に同定されたリパーゼファミリーに属する酵素であり(非特許文献4)、極性頭部にセリン残基を有したセリンリン脂質であるホスファチジルセリンやリゾホスファチジルセリンを特異的基質としてsn−1位のアシル基を加水分解する酵素である。本酵素は活性化血小板やマクロファージより主に産生される事が知られているが、その機能は未だ明らかになっていない。しかし、本酵素の活性から予測される機能として生体内からのホスファチジルセリンの消去、2−アシル−1−リゾホスファチジルセリンの産生により何らかの生体機能の調節に関与していることが予想される。ホスファチジルセリンは血液凝固の際、血小板細胞表面に露出することにより血液凝固の場を提供していることが知られており、ホスファチジルセリンを加水分解し消去することにより血液凝固の阻害制御を行なっていることや、アポトーシス細胞表面にもホスファチジルセリンが露出することから死細胞処理の制御に関与していることも示唆される。また、リゾホスファチジルセリン産生活性から想定される機能として、肥満細胞活性化による炎症反応への関与、神経細胞活性化への関与などが示唆されている。
PS−PLA1はこれまで定量測定系がなかったため、PS−PLA1と様々な疾病との関連の解析はなされていなかったが、2006年、発明者によりPS−PLA1の定量測定方法が確立された(特許文献1)。特許文献1に記載の定量測定方法は血清などのヒト検体中のPS−PLA1濃度を前処理を必要とすることなく簡便、短時間、かつ信頼性高く定量可能な測定方法である。そこで特許文献1に記載の測定方法を用いて鋭意検討を重ねた結果、血液中のPS−PLA1濃度がSLE患者にて高値を示すこと、さらにSLEの病態に比例して上昇することを見出した。また、PS−PLA2は単独マーカーとして従来のSLE病態把握法であるBILAG(非特許文献1および2)やSLEDAI(非特許文献3)と正の相関性を示すことが見いだされた。以上より、PS−PLA1がSLEの病態を反映するマーカーとなりうることを見いだされた。
なお、PS−PLA1の血液中での濃度上昇の機序は明らかでないが、少なくとも炎症性疾患に起因した病態や自己免疫疾患に起因した病態とは異なる機序でPS−PLA1の濃度上昇が認められていることが予想される。
本発明に係る検査方法は、ヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定し、その値が健常者測定値からなる正常値範囲より算出したカットオフ値以上の値を示した場合に全身性エリテマトーデスを罹患する、とする。また、全身性エリテマトーデス罹患者の疾患活動期をモニターするのにも使用でき、ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1濃度が正常値範囲に低下した場合、非活動期と判断する。健常者血清としては医師によりエリテマトーデス、並びにエリテマトーデスに関与する病態、例えば顔面紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔内潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎病変などを患っていないと診断された者(以下、単に「健常者」と称す)の血清を使用した。このような正常値範囲は、当業者であれば健常者及びエリテマトーデス患者におけるホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の濃度の分布を参照して任意に決定することができる。正常範囲の決定法は、例えば(健常者血清中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1濃度測定値の中央値+3×標準偏差)を上限カットオフ値に設定することや、健常者測定値の95パーセンタイル値上限をカットオフ値に設定することや、健常者測定値並びに全身性エリテマトーデス罹患者群を用いたROC曲線を用いた統計的解析によりカットオフ値の設定が可能である。
PS−PLA1は既存SLE診断マーカーとは独立した機序により変動する因子である。そのため、PS−PLA1を単独マーカーとしてSLEを検査してもよいし、既存のSLE検査方法や検査基準とを組み合わせてSLEを検査してもよい。特に後者の検査方法はさらに高精度にSLEの検査および病態把握が可能であるため好ましい。既存のSLE検査方法としては、
(A)顔面紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔内潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎病変などの身体的病変検査、
(B)痙攣発作、精神障害などの神経学的病変検査、
(C)溶血性貧血検査、白血球検査、リンパ球検査、血小板検査などの血液学的検査、
(D)抗2本鎖DNA抗体検査、抗Sm抗体検査、抗リン脂質抗体検査、抗核抗体検査などの免疫学的検査、
が例示でき、これらの検査の中から少なくとも一つを選択すればよい。
本発明に開示するホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1測定方法は、ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1、抗体との複合体を検出可能な方法であれば検出方法を選ばない。好ましくはイムノアッセイで汎用されている標識抗原と検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の抗ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1抗体に対する競合を利用した競合法、あるいはホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1上の異なるエピトープを認識する2種の抗体を用い、ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法が簡便かつ汎用しやすい。抗体を担体に結合させる場合、担体としてはイムノプレート、ラテックス粒子、磁性微粒子、ニトロセルロース膜、PVDF膜などイムノアッセイで使用されるものであれば特に担体を選ばない。担体を用いる場合、担体に固定化した抗体により捕捉したホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の酵素活性を検出する方法、抗体を固定化したチップに検体を接触させてホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1結合依存的なシグナルを検出する表面プラズモン共鳴などの方法、あるいは抗体を固定化したチップに検体を接触させてホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1結合させた後、抗原抗体結合を乖離させる溶媒にて抗原を遊離させ、遊離した抗原をマススペクトロメーターなどで定量する方法等でホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の測定が可能である。また、蛍光標識した抗体がホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1と結合することによる蛍光偏光を検出するようなホモジニアス測定方法においてもホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の定量は可能である。これら試薬、装置は十分技術確立されている。
前記の測定方法において特異性、感度、汎用性など点からエピトープの異なる2抗体サンドイッチ免疫測定方法が優れている。本測定系構築が可能な抗ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1モノクローナル抗体の組み合わせの選択は、精製した抗体群とその標識抗体群を用い、組換えヒトホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1をサンプルとしてサンドイッチ測定系が構築可能であるかの検証にて行なう。具体的には、精製した未標識の抗ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1モノクローナル抗体をイムノプレートに結合させ、ウシ血清アルブミンなどを含む緩衝液でイムノプレート表面のブロッキング処理を行う。続いて、組換えホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を含む緩衝液をイムノプレートに添加し、固相抗体に捕捉させる。未反応物質を除去するためPBSなどの緩衝液でイムノプレートを洗浄後、標識を施したホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1に対する抗体を反応させ2種類の抗体でのホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1のサンドイッチ複合体を形成させる。未反応物質を除去するためPBSなどの緩衝液でイムノプレートを洗浄後、抗体標識に酵素標識を行った場合は基質の添加を行い、ビオチン標識などさらに反応が必要な場合は酵素標識ストレプトアビジンなどを反応させる。最終的にホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を介して固相表面に結合した酵素を発色、蛍光、化学発光基質等を用い組換えホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の検出を行なう。以上の実験を組換えホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を含まない緩衝液で同様に行いバックグラウンド値として用いる。組換えホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を用いた測定値がバックグラウンド低値でありかつ測定値に対し有意に高い組み合わせをホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1免疫測定系候補とする。
前記の通り選択したホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の2抗体サンドイッチ免疫測定系候補の信頼性を検証するため組換ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1およびヒト血清の希釈系列サンプルを準備し、希釈倍率依存的に反応性が認められるか検証を行い測定法として選択する。特許文献1に記載の手法により得られた2抗体サンドイッチ測定系を用いることにより未知検体の濃度定量が可能である。すなわち、最終的に基質から得られる発色、蛍光、化学発光シグナルの強度はホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を介して固相に結合した酵素量に依存すること、すなわちホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1量に依存することから、既知濃度のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を用いた標準曲線から未知濃度の検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1濃度が定量可能である。
選択した2種の抗体組み合わせを用い、ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1測定試薬の調製を行う。2ステップサンドイッチ測定試薬の場合、2種の抗体の一方をイムノプレート、磁性粒子などB/F分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合いずれでもかまわない。非特異的結合を避けるため担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルクあるいは市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行ない1次試薬とする。2次試薬として標識を施したもう一方の抗体を含む溶液を準備する。抗体標識はペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出可能な物質、ビオチン、アビジンなどの特異的結合パートナーが存在する物質などでの標識が好ましい。また、2次試薬溶液は抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris−HCl緩衝液などが基本となる中性付近の緩衝液が好ましい。実検体の測定は、1次試薬と実検体を一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は4から40℃の温度で5分から3時間の反応が好ましい。未反応物質をB/F分離により除去し、続いて2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させサンドイッチ複合体を形成させる。反応条件に関しては4から40℃の温度で5分から3時間の反応が好ましい。未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を標準とし作成した検量線により、実検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1濃度を定量する。1ステップサンドイッチ測定試薬の場合、2ステップサンドイッチ測定試薬と同様、担体に抗体を結合させブロッキング処理を行ったものを準備する。本抗体固相化担体に標識抗体を含む緩衝液を添加し試薬とする。必要に応じ、試薬を凍結乾燥品とすることも可能である。1ステップ試薬では抗原−抗体の使用量バランスにより抗原あるいは抗体の過不足が生じ測定系構築が困難であることが多い。本発明ではELISA法の場合、担体に結合させる抗体量を96穴イムノプレート1ウェルあたり5から500ng、好ましくは50ng、標識抗体1から100ng、好ましくは50ngを使用することにより良好な結果が得られる。測定に用いるヒト検体は、血清、血漿、尿、精漿、脳脊髄液などがあるが、用いる検体の希釈倍率は無希釈から100希釈での使用が好ましく、特に血清、血漿においては40倍希釈検体を50μLを用いることにより良好な結果が得られる。
以下に本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した血清検体の採取および測定は東京大学医学部附属病院および東京医科大学病院で実施し、研究倫理について東京大学大学院医学研究科倫理委員会および東京医科大学病院での承認のもと実施した。また、ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1(PS−PLA1)濃度の測定は、特許文献1の方法に基づき、自動免疫測定装置AIAシリーズ(東ソー社製)を用い実施した。
実施例1:健常者検体中のPS−PLA1測定
患者検体測定に先立ち、コントロール群として健常者血清中のPS−PLA1濃度を測定した。血液は採血7日前より投薬のない健常な成人ボランティアからインフォームドコンセントを得た後、肘前中静脈より採取し、室温15分放置後、1500×gにて5分間遠心分離することにより血清を取得し測定を実施した。健常者190名(男性113名、女性77名)の血清中のPS−PLA1濃度測定値は33.2±14.5μg/L(算術平均値±標準偏差)であり、中央値29.8μg/L、95パーセンタイルからなる参考基準範囲は16.1μg/Lから67.4μg/Lであった。本測定値から正常値を算出した場合、(中央値+3×標準偏差)では73.1μg/L、健常者測定値の95パーセンタイル値上限では67.4μg/Lである。
実施例2:全身性エリテマトーデス(SLE)患者検体中のPS−PLA1測定
男性SLE患者9名、女性SLE患者17名、計26名のSLE患者について血清中のPS−PLA1濃度を測定した。26名のPS−PLA1濃度測定値は99.8±71.1μg/L(算術平均値±標準偏差)であり、Mann−Whitneyの有意差検定において健常者測定値に対して有意差p<0.0001を示した(図1)。また診断率をROC曲線による統計学的方法にて評価した結果、ROC曲線のAUC値(area under curve)値は0.868であり、その際の感度は80.8%、特異度は76.8%と非常に良好な診断効率を示した(図2)。
実施例3:関節リウマチ、全身性硬化症患者検体中のPS−PLA1測定
SLEおよび他の膠原病である関節リウマチ(RA)40例と全身性硬化症(SSc)7例について血清中のPS−PLA1濃度を測定した。RAおよびSScのPS−PLA1測定値はそれぞれ38.1±16.5μg/L、40.0±27.6μg/L(算術平均値±標準偏差)であり、Mann−Whitneyの有意差検定において健常者測定値と有意差は認められずPS−PLA1濃度測定によりSLEとRA、SScとの判別が可能である結果であった(図3)。
実施例4:PS−PLA1測定値とSLE疾患マーカーとの相関性
SLE患者血清中のPS−PLA1濃度と発熱、関節痛、皮膚症状、漿膜炎、腎症、中枢神経ループスの有無との関係を解析した。その結果、PS−PLA1濃度はこれら因子の有無で分類した際の各グループ間に有意差は認められず、これら因子に依存しないことが明らかとなった(図4)。また、PS−PLA1濃度とリンパ球数、白血球数、CRP値、GOT値、C1q結合性免疫複合体値との間にも相関性は認められなかった(図5)。以上の結果より、PS−PLA1濃度は既存のSLE診断マーカーとは独立した因子であることが明らかとなった。
実施例5:PS−PLA1測定値とBILAGおよびSLEDAIの相関性
SLE患者血清中のPS−PLA1濃度と各患者のBILAGおよびSLEDAI値との相関性を検証した。PS−PLA1濃度とBILAGの相関係数はr=0.463(図6A)、SLEDAIとの相関係数はr=0.556(図6B)であり、PS−PLA1を測定することによりSLEの病態把握、またはその補助因子となりうることを示している。
実施例6:治療によるSLE患者血清中のPS−PLA1濃度変化
治療前後におけるSLE患者血清中のPS−PLA1濃度変化を検証した。その結果、ほとんどのSLE患者において治療により血清中のPS−PLA1濃度が減少していた(図7)。前記結果は、SLE患者血清中のPS−PLA1濃度変化をモニターすることで、SLE病態および治療効果の把握が可能なことを示している。

Claims (12)

  1. ヒト検体中のホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定することによる全身性エリテマトーデスの検査方法。
  2. ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定し、その値が健常者測定値から算出したカットオフ値に対し高値を示した場合に全身性エリテマトーデスを罹患するとすることを特徴とする、請求項1に記載の検査方法。
  3. ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1を測定し、全身性エリテマトーデス罹患患者の疾患活動期を判断することを特徴とする、請求項1に記載の検査方法。
  4. 少なくとも一つの既存の全身性エリテマトーデス検査方法と請求項1から3のいずれかに記載の検査方法とを組み合わせた全身性エリテマトーデスの検査方法。
  5. 既存の全身性エリテマトーデス検査方法が顔面紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔内潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎病変などの身体的病変検査である請求項4に記載の検査方法。
  6. 既存の全身性エリテマトーデス検査方法が痙攣発作、精神障害などの神経学的病変検査である請求項4に記載の検査方法。
  7. 既存の全身性エリテマトーデス検査方法が溶血性貧血検査、白血球検査、リンパ球検査、血小板検査などの血液学的検査である請求項4に記載の検査方法。
  8. 既存の全身性エリテマトーデス検査方法が抗2本鎖DNA抗体検査,抗Sm抗体検査、抗リン脂質抗体検査、抗核抗体検査などの免疫学的検査である請求項4に記載の検査方法。
  9. ヒト検体が、全血、血球、血清もしくは血漿などのヒト血液成分またはヒト細胞もしくはヒト組織の抽出液である請求項1から8のいずれかに記載の検査方法。
  10. ホスファチジルセリン特異的ホスホリパーゼA1の測定が抗体を用いた免疫化学的方法により行なわれる請求項1から9のいずれかに記載の検査方法。
  11. 全身性エリテマトーデスの治療効果を検査する請求項1から10のいずれかに記載の検査方法。
  12. 請求項1から11のいずれかに記載の検査方法を利用した全身性エリテマトーデスの検査薬。
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