JP2012031992A - 転がり軸受および軸受材料 - Google Patents

転がり軸受および軸受材料 Download PDF

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Abstract

【課題】低コストで、耐食性に優れ、しかも高精度で静粛性に優れ、量産に適した転がり軸受を提供する。
【解決手段】転動体3を高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)とし、外輪1、内輪2の少なくとも一方を、組成が重量比で、C:0.6〜0.75%、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11.5〜13.5%、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下、残部がFeおよび不可避的に混入する不純物で、硬度がHRC9〜HRC29で、共晶炭化物の径が20μm以下としたマルテンサイト系ステンレス鋼を加工し、転動溝1a,2aを切削加工した後、焼き入れ熱処理によって硬度をHRC58以上とし、転動溝1a,2aを研磨加工して仕上げたものとする。
【選択図】図1

Description

本発明は、転がり軸受に関するものであり、特にVTR、コンピュータ周辺機器などの精密機器の回転部に用いられる転がり軸受に関するものである。
従来、耐食性や耐磨耗性が要求される転がり軸受用の鋼材には、SUS440C級のマルテンサイト系ステンレス鋼が使用されている。しかし、このステンレス鋼は、鋼材中に溶鋼が凝固する際に共晶反応により生じる共晶炭化物や、溶鋼中の原材料の不純物が化学変化して発生するアルミナ等の非金属介在物が存在し、その影響で表面の硬度が非常に高いことと、鋼材を切削加工する際に共晶炭化物や非金属介在物と鋼材の組織との間に被削性の差が生じるために、高精度な切削加工を施すことができず、特に転がり軸受用としては、内外輪の転動溝を高精度に加工することができないために回転精度を向上させることができず、回転時の振動により発生する騒音も大であって、精密測定機器やコンピュータ周辺機器などの精密機器の回転部の転がり軸受には用いることができなかった。
これに対し、高精度な加工が行えるようにステンレス鋼の組成成分を限定し、硬度を特定し、含有する共晶炭化物の径を制限し、鋼材中の酸素およびチタンの量を制限した転がり軸受用ステンレス鋼(例えば、特許文献1参照。)や、これを使用した転がり軸受(例えば、特許文献2参照。)なども提案されている。
特開平9−137257号公報 特開平9−137258号公報
しかし、これらの提案は、転がり軸受け用のステンレス鋼材、これを使用した転がり軸受としての最近の一層の高精度、高生産性の要求に対しては充分満足できるものではない。特に上記提案によるステンレス鋼は、切削加工前の硬度がHRC58以上と非常に高いため、転動溝の切削は非常にコスト高となり、精度的にも満足なものは得られず、実用的ではない。転がり軸受用材料および転がり軸受としての課題は未だ十分には達成されていない。
本発明はこうした問題に鑑みてなされたものであって、低コストで、耐食性に優れ、しかも高精度で静粛性に優れ、量産に適した転がり軸受を提供することを目的としている。
上記課題を解決するため、発明者らは、鋭意研究を重ね、ステンレス鋼中の組成成分と共晶炭化物の大きさを限定するとともに、転動溝の加工を転動溝の切削加工と転動溝の研削(研磨)加工の2つに分けて、そのステンレス鋼の硬度を、転動溝の切削加工の時点と研削(研磨)加工の時点においてそれぞれ異ならしめることにより加工の容易性と精度の大幅な向上を可能にした。
すなわち、本発明の転がり軸受は、外周に転動溝を有する内輪と内周に転動溝を有する外輪を備え、内輪外周の転動溝と外輪内周の転動溝との間に複数個の転動体が保持されてなる転がり軸受であり、転動体が高炭素クロム軸受鋼で構成され、内輪および前記外輪のうちの少なくとも一方が、組成が重量比で、C:0.6〜0.75%、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11.5〜13.5%、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下、残部がFeおよび不可避的に混入する不純物で、硬度がHRC9〜HRC29で、かつ共晶炭化物の径を20μm以下としたマルテンサイト系ステンレス鋼で構成され、該ステンレス鋼から加工されると共に転動溝が切削加工され、次に焼入れ熱処理が行われて表面硬度がHRC58〜62とされ、その後に、切削加工された転動溝の研磨加工が行われてなることを特徴とする転がり軸受であって、耐食性に優れ、しかも内輪および外輪のうちの少なくとも一方の鋼材組織が均一かつ緻密で加工性に優れ、転動溝を低コストで高精度に加工できて、静粛性で優れ、低コストで量産に適した転がり軸受とすることが可能である。
なお、内輪および外輪のうちの一方のみを上記特定のマルテンサイト系ステンレス鋼で構成する場合は、内輪および外輪のうちの他方は例えばSUS440C級のマルテンサイト系ステンレス鋼で構成する。
この転がり軸受は、転動体の材料が高炭素クロム軸受鋼であるので、冷間加工により転動体を製造するのに、ステンレス鋼が材料である場合よりも容易に高精度の加工を行うことができ、転がり軸受の静粛性を改善できる。本発明において、「静粛性」とは、「ある金属材料を転動体または外輪もしくは内輪に加工して転がり軸受に組み立て、その軸受を精密機器に組み込んで運転したとき、その精密機器が発する騒音のうち、金属材料に起因する騒音の少なさ」をいう。その騒音は、転がり軸受が回転作動中に発生する振動によるものであり、この振動発生は上記したように転動体や外輪、内輪の形状精度に大きく依存する。精密機器分野で用いられる比較的小型の転がり軸受では、他の用途では問題とならないような騒音が問題となるのであり、静粛性の改善が重要である。
また、この転がり軸受は、内輪および外輪の少なくとも一方をマルテンサイト系ステンレス鋼としているので、耐食性、耐磨耗性に優れている。そして、そのステンレス鋼から内輪および外輪の少なくとも一方を切削加工等で加工すると共に転動溝を切削加工するときの硬度をHRC9〜HRC29とし、その後、切削加工された転動溝を研削(研磨)加工するときの硬度をHRC58〜62としたことにより、切削バイトで切り込んで転動溝を加工するときの材料は少し軟らかくて、切削加工を容易とし、最終仕上げで転動溝表面を少しだけ研削(研磨)して仕上げ精度を出すときは硬度を高くし最終的に必要な表面硬度で仕上げ精度を出すようにして、生産性と仕上げ精度を大幅に向上させることができる。切削加工するときの硬度をHRC9より低くすると切削表面が荒れ、HRC29より硬くなると高速切削するとバイトの寿命が短くなるという問題が発生する。また、研削(研磨)加工するときにHRC58〜62とした理由は、転がり軸受として最終的にはHRC58以上の硬度がないと耐摩耗性、耐寿命性を満たすことができず、HRC62を超えると、硬すぎて、衝撃が加わったときに割れが発生することがあるためである。そのため、HRC58〜62となるよう焼き入れ熱処理した後、転動溝を最終仕上げのため研削(研磨)加工する。
また、この転がり軸受は、ステンレス鋼の含有する共晶炭化物の径を20μm以下としたことにより、被削性(加工性)、耐磨耗性を向上させ、転がり軸受として精密機器に組み込んで運転したときの振動により発生する騒音の減少(静粛性の改善)が達成が可能となる。
また、この転がり軸受において、ステンレス鋼の組成の各成分の限定理由は以下のとおりである。
C:0.6〜0.75%としたのは、Cは耐磨耗性と高温強度を付与するために必須の元素であり、0.6%以上は必要であるが、0.75%より多いと大きな共晶炭化物が発生し、静粛性を低下させ、被削性、耐食性も悪くなるためである。
Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下としたのは、これらの元素が上記数値より多いと加工硬化を助長し被削性が低下するためであり、被削性を低下させず、また、非金属介在物の生成を抑制するためにそれらの元素を上記数値以下に抑えるのである。また、それらの元素が多すぎると、焼き入れ性を低下させ、マルテンサイト化率が低下するという不都合もある。
Crは、Cと結合して炭化物を形成し、耐磨耗性を高めるとともに、基地に固溶したCrは耐食性を増すので、11.5%以上必要である。しかし、多すぎると、焼き入れ硬さが低下するので、C含有量との関係でCrは13.5%以下にするのが好ましい。
そして、この転がり軸受において、転動溝が切削加工される前のステンレス鋼は、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内のマルテンサイト系ステンレス棒鋼であるのがよい。
このように、転動溝が切削加工される前のステンレス鋼が棒鋼であって、その横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内であることにより、転動溝の切削加工が安定し、面粗度が向上し、真円度の精度が上がり、切削加工における加工変質層の生成が少なくなり、後工程である焼入れ熱処理後の歪(変形)が小さくなり、転動溝の研磨加工の取りしろを、従来の20〜25μmから、その1/2以下である7〜10μmに減少させることが可能になる。その結果、大幅な加工時間の短縮、作業性の大幅な向上が可能となって、生産性が向上し、転動溝の加工精度が向上し、転動溝表面の硬度を低下させることなく均一に保持することが可能になり、それらの相乗効果により、静粛性、加工性、耐磨耗性、コストに大きな効果が現れる。
この転がり軸受は、上記のように、焼入れ熱処理後の転動溝の研磨加工の取りしろを7〜10μmとすることができる、このように焼入れ熱処理後の転動溝の研磨加工の取りしろを7〜10μmとすることで、転動溝の研磨加工の取りしろが20〜25μmである従来のものに比べて、加工時間が大幅に短くなり、作業性が大幅に向上し、また、転動溝表面の硬度を均一に保つことが容易となる。
また、この転がり軸受は、転動体の表面硬度が、上記特定のマルテンサイト系ステンレス鋼で構成された、内輪および前記の内の少なくとも一方の表面硬度の1.08〜1.10倍であるのがよい。
このように、転動体の表面硬度が、上記特定マルテンサイト系ステンレス鋼で構成された、内輪および前記の内の少なくとも一方の表面硬度の1.08〜1.10倍であることにより、硬度差によって一方のみが磨耗し、初期磨耗が安定して、耐磨耗性が向上し、噛み込み疵が減少し、また、ブラックス(金属粉)の発生が少なくなる。
また、この転がり軸受は、転動体の線膨張係数が、上記特定のマルテンサイト系ステンレス鋼で構成された、内輪および外輪の内の少なくとも一方の線膨張係数の1.28〜1.30倍であるのがよい。
このように、転動体の線膨張係数が、上記特定のマルテンサイト系ステンレス鋼で構成された、内輪および外輪の内の少なくとも一方の線膨張係数の1.28〜1.30倍であることにより、高温時に内輪と外輪との間で転動体が相対的に大きく膨張して間隙が小さくなり、高温品質が向上し、高温寿命が向上する
本発明の転がり軸受は、特に、ハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受として好適である。
ハードディスクドライブの基本構造は、音楽レコードプレーヤーに類似していて、レコード盤に当たる円板(ディスク)と、針に当たる磁気ヘッド、および磁気ヘッドを搭載するアームから成り立っている。アームは、回転軸(ピボット)を支点として円板上を1秒間に最高100回程度の速度で往復移動でき、円板上のどの位置にも瞬時にヘッドを移動してデータの読み取り、書き込みを可能にする必要がある。このようなアームの働きを可能にするために、アーム支点の回転軸(ピボット)を支持する転がり軸受(ピボット用ミニチュア転がり軸受)に、特に優れた静粛性、耐久性、耐高温性ならびに即動性(初期トルクが小さくなくてはならない)が要求される。本発明の転がり軸受は、こうした要求を満たすものである。
また、本発明の軸受材料は、ハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受の軸受材料であって、組成が重量比で、C:0.6〜0.75%、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11.5〜13.5%、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下、残部がFeおよび不可避的に混入する不純物で、硬度がHRC9〜HRC29で、かつ共晶炭化物の径が20μm以下で、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内のマルテンサイト系ステンレス棒鋼よりなることを特徴とする。
この軸受材料は、マルテンサイト系ステンレス棒鋼であるので、耐食性、耐磨耗性に優れている。そして、硬度がHRC9〜HRC29であるため、切削加工が容易である。硬度がHRC9より低いと切削表面が荒れ、HRC29より硬くなると高速切削するとバイトの寿命が短くなるという問題が発生する。
また、この軸受材料は、ステンレス鋼の含有する共晶炭化物の径が20μm以下であることが、被削性(加工性)および耐磨耗性の向上に寄与し、転がり軸受として精密機器に組み込んで運転したときの振動により発生する騒音の減少(静粛性の改善)の達成に寄与する。
この軸受材料において、ステンレス鋼の組成の各成分の限定理由は、転がり軸受に関する上記説明と同じである。
この軸受材料を、ハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受の軸受材料として用いることにより、前述した磁気ヘッドを搭載するアームの支点に位置する軸受として、特に優れた静粛性、耐久性、耐高温性ならびに即動性(初期トルクが小さくなくてはならない)を実現でき、円板上のどの位置にも瞬時にヘッドを移動して精度の良いデータの読み取り、書き込みを可能にすることができる。
この軸受材料であるステンレス棒鋼は、冷間引抜き加工されたもので、最終冷間加工度が25〜30%、表面キズの深さが0.1mm以下、長手方向の曲がりが0.5mm/m以下であるのがよい。
このステンレス棒鋼は、最終冷間加工度が25〜30%であることにより、HRCが9〜29となり、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内になる。そして、そのように横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内になることにより、転動溝の切削加工を安定させ、面粗度を向上させ、真円度の精度を上げ、切削加工における加工変質層の生成を少なくし、後工程である焼入れ熱処理後の歪(変形)を小さくし、転動溝の研磨加工の取りしろを減少させることが可能になる。その結果、大幅な加工時間の短縮、作業性の大幅な向上が可能となって、生産性を向上させ、転動溝の加工精度を向上させ、転動溝表面の硬度を低下させることなく均一に保持することが可能になり、それらの相乗効果により、静粛性、加工性、耐磨耗性、コストに大きな効果を得ることが可能となる。
冷間加工材は、横断面において硬度が均一でなく、中心から外周にかけて、冷間加工度によって値は異なるが、硬度にバラツキが生ずる。軸受材料として冷間引き抜き加工した従来のステンレス棒鋼の場合、最終冷間加工度は30〜40%程度で、横断面の中心から外周にかけて、10〜15%の硬度のバラツキがあり、外周から直径値の9〜12%の辺りに最大歪が生る。そして、従来の軸受材料であるステンレス棒鋼の場合、外周から直径値の9〜12%の辺りに生じる最大歪が大きく、その近辺で硬度が高くなるため、転動溝を切削加工する時に切削抵抗が局部的に高くなって、切削工具の寿命、切削加工時間、面粗度、真円度等に悪影響が出る。本発明によれば、最終冷間加工度を25〜30%としたことにより、HRCが9〜29になるとともに、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内になり、引張応力と圧縮応力のバランスが良好となって、最大歪値が低くなり、切削工具の寿命、切削加工時間、面粗度、真円度等への悪影響が生じなくなる。
また、このステンレス棒鋼は、表面キズの深さが0.1mm以下であることにより、転がり軸受のアンデロン値を極めて良いものとすることができる。
また、このステンレス棒鋼は、長手方向の曲がりが0.5mm/m以下であることにより、転がり軸受の加工において、焼入れ後の歪を小さくし、作業性を向上させることができる。
以上述べたように、本発明によれば、低コストで、耐食性並びに耐摩耗性に優れ、しかも鋼材組織が均一かつ緻密で、転動溝の加工性が極めて良好で、高精度に加工できて静粛性に優れ、生産性が高く、量産に適した転がり軸受を得ることができる。
本発明の実施形態の一例の転がり軸受の縦断面図である。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の外輪に用いるステンレス棒鋼の斜視図である。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の内輪に用いるステンレス棒鋼の斜視図である。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の転動溝の切削加工を施した外輪と内輪の写真である。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の組み立てられた状態の写真である。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の外輪および内輪の材料であるステンレス棒鋼の横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキを従来例と比較して示すもので、(a)は硬度測定位置を示すステンレス棒鋼拡大横断面図、(b)は測定結果を示すグラフである。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の転動溝の研磨加工を従来例と比較して示す模式説明図である。 本発明の実施形態の一例の転がり軸受の製造工程を従来と比較して示すもので、(a)は本発明の実施形態の製造工程の説明図、(b)は従来の製造工程の説明図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態の一例であるハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受を示すもので、図中、符号1は外輪、2は内輪、3は転動体を示している。外輪1の内周と、内輪2の外周には転動溝1a,2aが設けられている。そして、それら外輪1内周の転動溝1aと内輪2外周の転動溝2aとの間には、複数個の転動体3が保持されている。
転動体3の材料は高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)である。また、固定体である外輪1および内輪2の材料は、組成が重量比で、C:0.6〜0.75%、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11.5〜13.5%、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下、残部がFeおよび不可避的に混入する不純物で、硬度がHRC9〜HRC29で、かつ共晶炭化物の径が20μm以下とされたマルテンサイト系ステンレス鋼の棒鋼である。
外輪1および内輪2の材料(軸受材料)であるマルテンサイト系ステンレス棒鋼は、最終冷間加工度25〜30%で冷間引抜き加工されたもので、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内、表面硬度がHRC9〜29、共晶炭化物の径が20μm以下、表面キズの深さが0.1mm以下、長手方向の曲がりが0.5mm/m以下である。
表面硬度がHRC9〜29、硬度のバラツキが10%以内というは、最終冷間加工度を25〜30%とし、引抜きダイスの形状、潤滑剤、引抜き速度の管理などの最適条件を組み合わせることにより達成できる。
共晶炭化物の径が20μm以下というのは、溶解、精錬、造塊、分解圧延、棒鋼圧延の各工程における湿度、加工速度、圧下率の管理などの最適条件を組み合わせることにより達成できる。
表面キズの深さが0.1mm以下というのは、引抜きダイスの穴の形状、引抜きダイスの取替え頻度、引抜き速度、逆張力の管理などの最適条件を組み合わせることにより達成できる。
長手方向の曲がりが0.5mm/m以下というのは、棒鋼を引抜く機械の芯だし精度、引抜きダイスの穴のエントランス部、ベアリング部、バックリリーフ部の形状、加工度、引抜き速度、逆張力の管理などの最適条件を組み合わせることにより達成できる。
外輪1の材料であるステンレス棒鋼は、図2に示すとおりで、外径が外輪1の外径とほぼ同じである。また、内輪2の材料であるステンレス棒鋼は図3に示すとおりで、外径が内輪1の外径とほぼ同じである。
これら図2および図3に示すステンレス棒鋼から、切削加工などにより、図1に断面で示し図4に写真で示す外輪1および内輪2が製作される。これら外輪1の内周と内輪2の外周の転動溝1a,2aは、それぞれ切削加工により形成されたものである。外輪1と内輪2は、転動溝1a,2aが加工された後、バレル加工が行われ、焼入れ熱処理が施されて硬度がHRC58〜62とされる。そして、さらに転動溝1a,2aが研磨加工される。こうして外輪1と内輪2が作製され、最後に複数個の転動体3とともに組み立てられ、図1に断面で示し図5に写真で示す転がり軸受となる。
焼入れ熱処理後の転動溝1a,2aの研磨加工の取りしろは、7〜10μmであって、研磨取りしろが20〜25μである従来のものに比べて、研磨加工の取りしろが少ない。
また、外輪1と内輪2は、表面キズの深さが0.1mm未満であって、表面キズの深さが0.1〜0,2mmのものもある従来のものに比べて、表面キズの深さが小さい。
そして、この転がり軸受は、外輪1および内輪2の表面硬度がHRC58〜62、転動体3の表面硬度がHRC63〜67で、転動体3の表面硬度が、外輪1および内輪2の表面硬度の1.08〜1.10倍であって、外輪1および内輪2の焼入れ後の表面硬度がHRC58〜62、転動体の表面硬度がHRC61〜65で、転動動体3の表面硬度が外輪1および内2輪の表面硬度の1.03〜1.06倍である従来のものより硬度比が大きい。
また、外輪1および内輪2の線膨張係数は例えば9.7(10-6/℃)、転動体3の線膨張係数は例えば12.5(10-6/℃)で、転動体3の線膨張係数が、外輪1および内輪2の線膨張係数の1.28〜1.30倍であって、外輪1および内輪2の線膨張係数が9.8(10-6/℃)、転動体3の線膨張係数が12.3(10-6/℃)で、転動体3体3の線膨張係数が外輪1および内2輪の線膨張係数の1.23〜1.26倍である従来のものに比べて、線膨張係数比が大きい。
この転がり軸受は、転動体3の材料が高炭素クロム軸受鋼であって、容易に高精度の冷間加工を行うことができ、転がり軸受の静粛性を改善できる。
また、外輪1および内輪2は、材料がマルテンサイト系ステンレス棒鋼であるので、耐食性、耐磨耗性に優れている。そして、そのステンレス鋼から外輪1および内輪2を切削加工等で加工すると共に転動溝3を切削加工するときの硬度は、HRC9〜HRC29で、その後、切削加工された転動溝3を研削(研磨)加工するときの硬度はHRC58〜62であるので、切削加工が容易であり、最終仕上げで転動溝3の表面を少しだけ研削(研磨)して仕上げ精度を出すことができ、硬度を高く維持して最終的に必要な表面硬度で仕上げ精度を出すことができ、生産性および仕上げ精度を大幅に向上させることができる。
そして、その外輪1および内輪2の材料であるマルテンサイト系ステンレス棒鋼は、最終冷間加工度を25〜30%にしたことにより、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内で、その状態で切削加工されることのより、転動溝3の切削加工が安定し、面粗度が向上し、真円度の精度を上がり、切削加工における加工変質層の生成が少なくなり、後工程である焼入れ熱処理後の歪(変形)が小さくなる。そのため、転動溝3の研磨加工の取りしろを7〜10μmまで減少させることが可能になり、その結果、大幅な加工時間の短縮、作業性の大幅な向上が可能となって、生産性を向上させ、転動溝3の加工精度を向上させ、転動溝表面の硬度を低下させることなく均一に保持することが可能になり、それらの相乗効果により、静粛性、加工性、耐磨耗性、コストに大きな効果を得ることが可能となる。
そして、焼入れ熱処理後の転動溝の研磨加工の取りしろが7〜10μmであることにより、転動溝の研磨加工の取りしろが20〜25μmである従来のものに比べて、加工時間が大幅に短くなり、作業性が大幅に向上し、また、転動溝表面の硬度を均一に保つことが容易である。
また、このステンレス棒鋼は、長手方向の曲がりが0.5mm/m以下であることにより、転がり軸受の加工において、焼入れ後の歪を小さくし、作業性を向上させることができる。
また、このステンレス棒鋼は、含有する共晶炭化物の径を20μm以下としたことにより、被削性(加工性)、耐磨耗性を向上させ、騒音を減少させることができる。
そして、この転がり軸受は、外輪1および内輪の表面キズの深さが0.1mm未満であることにより、アンデロン値(後述する)が極めて良いものとすることができる。
また、この転がり軸受は、焼入れ熱処理後の転動溝の研磨加工の取りしろが7〜10μmであることにより、転動溝の研磨加工の取りしろが20〜25μmである従来のものに比べて、加工時間が大幅に短くなり、作業性が大幅に向上し、また、転動溝表面の硬度を均一に保つことが容易である。
また、この転がり軸受は、転動体3の表面硬度が、外輪1および内輪2の表面硬度が転動体3の硬度より低くて、転動体3の表面硬度が外輪1および内輪の表面硬度の1.08〜1.10倍であり、1.03〜1.06倍である従来のものに比べて硬度差が大きいことにより、初期磨耗が安定して、耐磨耗性が向上し、噛み込み疵が減少し、また、ブラックス(金属粉)の発生が少なくなる。
また、この転がり軸受は、転動体の線膨張係数が、外輪1および内輪2の線膨張係数の1.28〜1.30倍であって、1.23〜1.26倍である従来のものに比べて線膨張係数比が大きいことにより、高温時に内輪と外輪との間で転動体が相対的に大きく膨張して間隙が小さくなり、高温品質が向上し、高温寿命が向上する
図6は、外輪1および内輪2の材料であるステンレス棒鋼の横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキを従来例と比較して示すもので、(a)は硬度測定位置を示し、(b)は測定値(Hv)を示している。
また、図7は、転動溝3の研磨加工を従来例と比較して模式的に示している。
また、図8は、本発明の転がり軸受の製造工程を従来と比較して示すもので、(a)は本発明の製造工程を示し、(b)は従来の製造工程を示している。
表1は、上記実施形態の転がり軸受(実施例)、転動溝の切削加工前の硬度がHRC58以上である硬度が非常に高いステンレス鋼を外輪内輪ともに用いた転がり軸受の先行技術引用例の転がり軸受(比較例)、従来のSUS440Cのマルテンサイト系ステンレス鋼を外輪内輪ともに用いた転がり軸受(従来例)、以上の3つの例について、振動および騒音の評価試験をAFBMA(The Anti-Friction Bearing Manufacturers Association, Inc.)の規格に準拠して行った成績(アンデロン値)およびそれらの転がり軸受を製造する際の加工性、転がり軸受としての耐寿命性に関係する磨耗性さらにそれらのコストを比較して示したものである。なお、転動体については、いずれも高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)を用いた。
Figure 2012031992
表1中、アンデロン値のM,Hの欄はそれぞれ測定周波数帯域の区分で、Mは中周波数帯域(300〜1,800Hz)、Hは高周波数帯域(1,800〜10,000Hz)を示している。加工性、磨耗性、コストについてはテストの結果を指数表示したもので、比較例を基準(100)として表した。値が小さいほうが優れていることを表している。
この結果から、転動溝の加工性および加工精度が、静粛性、加工性、磨耗性およびコストに非常に大きな影響を及ぼしていることが明らかである。
なお、上記実施形態のものは、外輪と内輪を両方とも本発明による特定のマルテンサイト系ステンレス鋼で構成しているが、使用条件によっては、耐食性、耐摩耗性が特に必要な一方だけを上記特定のマルテンサイト系ステンレス鋼とし、他方は従来の例えばSUS440C級のマルテンサイト系ステンレス鋼としてもよい。
本発明は、上記実施形態に示すハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受以外にも、VTR、コンピュータ周辺機器その他の精密機器の回転部に用いられる転がり軸受に広く適用することができる。
1 外輪
2 内輪
3 転動体
1a、2a 転動溝

Claims (8)

  1. 外周に転動溝を有する内輪と内周に転動溝を有する外輪を備え、内輪外周の転動溝と外輪内周の転動溝との間に複数個の転動体が保持されてなる転がり軸受であって、
    前記転動体が高炭素クロム軸受鋼で構成され、
    前記内輪および前記外輪の内の少なくとも一方が、組成が重量比で、C:0.6〜0.75%、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11.5〜13.5%、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下、残部がFeおよび不可避的に混入する不純物で、硬度がHRC9〜HRC29で、かつ共晶炭化物の径を20μm以下としたマルテンサイト系ステンレス鋼で構成され、該ステンレス鋼から加工されると共に前記転動溝が切削加工され、次に焼入れ熱処理が行われて表面硬度がHRC58〜62とされ、その後に、前記切削加工された転動溝の研磨加工が行われてなることを特徴とする転がり軸受。
  2. 請求項1記載の転がり軸受であって、前記転動溝が切削加工される前のステンレス鋼は、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内のマルテンサイト系ステンレス棒鋼であることを特徴とする転がり軸受。
  3. 前記転動溝の研磨加工の取りしろが7〜10μmであることを特徴とする請求項2記載の転がり軸受。
  4. 前記転動体の表面硬度が、前記マルテンサイト系ステンレス鋼で構成された、前記内輪および前記外輪の内の少なくとも一方の表面硬度の1.08〜1.10倍であることを特徴とする請求項1、2または3記載の転がり軸受。
  5. 前記転動体の線膨張係数が、前記マルテンサイト系ステンレス鋼で構成された、前記内輪および前記外輪の内の少なくとも一方の線膨張係数の1.28〜1.30倍であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の転がり軸受。
  6. 当該転がり軸受は、ハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受である請求項1、2、3、4または5記載の転がり軸受け。
  7. ハードディスクドライブのピボット用ミニチュア転がり軸受の軸受材料であって、組成が重量比で、C:0.6〜0.75%、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11.5〜13.5%、Mo:0.3%以下、V:0.15%以下、Ti:15PPM以下、O:15PPM以下、残部がFeおよび不可避的に混入する不純物で、硬度がHRC9〜HRC29で、かつ共晶炭化物の径が20μm以下で、横断面の中心から外周に至る硬度のバラツキが10%以内のマルテンサイト系ステンレス棒鋼よりなることを特徴とする軸受材料。
  8. 前記ステンレス棒鋼は、冷間引抜き加工されたもので、最終冷間加工度が25〜30%、表面キズの深さが0.1mm以下、長手方向の曲がりが0.5mm/m以下であることを特徴とする請求項7記載の軸受材料。
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