JPH1192869A - 転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受

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JPH1192869A
JPH1192869A JP20697298A JP20697298A JPH1192869A JP H1192869 A JPH1192869 A JP H1192869A JP 20697298 A JP20697298 A JP 20697298A JP 20697298 A JP20697298 A JP 20697298A JP H1192869 A JPH1192869 A JP H1192869A
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JP
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graphite
rolling bearing
less
amount
heat treatment
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JP20697298A
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English (en)
Inventor
Kenji Yamamura
賢二 山村
Susumu Tanaka
進 田中
Manabu Ohori
學 大堀
Shigeru Okita
滋 沖田
Akihiro Kiuchi
昭広 木内
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NSK Ltd
Original Assignee
NSK Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 製造コストの増大を招くことなく、優れた耐
フレッチング性を得ることができる転がり軸受を提供す
る。 【解決手段】 ラジアル転がり軸受は内輪および外輪を
有し、内輪と外輪との間には鋼球が保持されている。内
輪および外輪の少なくとも一方は、Cが0.45〜1.
0、Siが0.5〜1.5、Mnが0.1〜1.5、C
rが1.5以下、Moが1.0以下である重量%の含有
率を有し、かつ組織が平均粒径8μm以上の黒鉛とフェ
ライトおよびセメンタイトとを主とする素材(表1およ
び表2の材料記号A〜L)から製造されている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、転がり軸受に関
し、特に磁気ディスク装置のスイングアームのように高
速で微小変位する部材を支持するための軸受として好適
な転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、転がり軸受は、高面圧下で繰り
返し剪断力を受けるという使用環境で使用されるため、
高炭素クロム軸受鋼(JIS鋼種SUJ2)を用いてそ
れに焼入れ、焼戻しを施して硬さをHRC58〜64に
することが、剪断力に耐えかつ必要な転がり疲労寿命を
確保する目的で行われている。
【0003】近年、コンピュータなどの情報処理装置に
よる情報処理量の増大化に伴いそれの記憶装置として使
用される磁気ディスク装置(以下、HDDという)の高
密度化が進められ、それにより、HDDに組み込まれて
いる、高速で微小変位するスイングアームを支持する転
がり軸受に対して、回転に要するトルクが小さく、トル
ク変動が生じないものが求められている。そこで、転が
り軸受に付着させるグリースなどの潤滑剤を極力少なく
して、低トルク化およびトルク変動の低減を図ることが
考えられている。
【0004】しかし、上述の方法では、単に転がり軸受
に付着させるグリースなどの潤滑剤の量を極端に少なく
すると、この転がり軸受およびこの転がり軸受を組み込
んだHDDの耐久性が低下する。すなわち、内輪および
外輪と転動体との接触部に十分な潤滑剤を介在させない
ままHDDを長期間に亘って使用すると、上記接触部に
存在する潤滑剤が枯渇して該接触部において磨耗が生じ
るフレッチング現象が発生し、該接触部に損傷が発生し
易くなる。そして、この接触部に損傷が発生すると、転
がり軸受に発生する揺動変位によりスイングアークに振
動が発生し、HDDの書込み、読出し機能が損なわれる
ことになる。
【0005】そこで、内輪および外輪と転動体との接触
部すなわち転動面および軌道面部分に十分な潤滑剤を確
保する方法として、微小ピットを転動面または軌道面に
規則的に配列して設ける方法(特開平5−240254
号公報参照)が提案されている。しかし、この方法にお
いて、微小ピットを転動面または軌道面に規則的に配列
するためには、数値制御した電解加工などの方法により
1つ1つ微小ピットを加工する以外に加工方法がなく、
この加工方法では、加工に時間を要し、大幅なコストア
ップを避けることができない。
【0006】また一方で、HDDに対するコストダウン
の要求から、HDDに使用する極小の転がり軸受に対す
るコストダウンの要求が非常に高まっている。
【0007】この極小の転がり軸受を製造する場合、製
造コストの中で材料費が占める割合は小さく、コストダ
ウンを図るためには、加工費を抑えることが最も有効で
ある。特に、内輪および外輪を製造する場合、素材から
熱処理前の素形状に加工する工程において、極小である
がゆえに形状を鍛造で得ることは難しく、旋削加工を用
いる必要がある。よって、材料の被削性を向上させるこ
とによるコストダウン効果は大きい。
【0008】転がり軸受の材料の被削性を飛躍的に向上
させる方法としては、素材に含まれるCの一部を黒鉛化
する方法があり、この方法は特開平2−274837号
公報および特開平8−20841号公報に記載されてい
る。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特開平2−2
74837号公報に記載の方法では、高周波焼入により
表面硬化層を得る必要があるため、この方法を極小の転
がり軸受に適用することは困難である。また、特開平8
−20841号公報に記載の方法では、被削性の向上お
よび長寿命化を目的としているため、軸受の製造におけ
るトータルの製造コストの削減に対する考慮がなされて
いない。
【0010】このように、上述の各方法により、素材に
含まれるCの一部を黒鉛化することによって被削性を著
しく改善することは可能であるが、軸受け製造時におけ
るトータルコストの削減という点においては、後工程、
特に熱処理コストの増大があってはならず、従来から用
いられている高炭素クロム軸受鋼(JIS鋼種SUJ
2)と同様の熱処理で必要とされる硬さなどの特性を得
る必要がある。また、上述したように、HDDのスイン
グアームなどの微小揺動する転がり軸受における内輪お
よび外輪と転動体との接触部すなわち転動面および軌道
面部分に十分な潤滑剤を確保するには、大幅なコストア
ップを避けることができない。すなわち、大幅なコスト
アップを招くことなく、優れた耐フレッチング性を得る
ことができない。
【0011】本発明の目的は、製造コストの増大を招く
ことなく、優れた耐フレッチング性を得ることができる
転がり軸受を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、
内輪、外輪および転動体を有する転がり軸受において、
Cが0.45〜1.0、Siが0.5〜1.5、Mnが
0.1〜1.5、Crが1.5以下、Moが1.0以下
である重量%の含有率を有し、かつ組織が平均粒径8μ
m以上の黒鉛とフェライトおよびセメンタイトとを主と
する素材から前記内輪および外輪の内の少なくとも一方
を製造したことを特徴とする。
【0013】素材に含まれるCの一部を黒鉛化すること
によって被削性が著しく改善され、製造コストの削減が
可能になる。また、素材の黒鉛の粒径を適正に制御する
ことにより、熱処理後の黒鉛の粒径を適正に制御するこ
とが可能になる。さらに、上記素材から製造された内輪
または外輪の軌道面に残存した黒鉛は、それ自体が潤滑
効果を有するばかりか、使用中に脱落して微小ピットと
なり、この微小ピットに潤滑剤が保持されてフレッチン
グ現象の発生が防止され、ひいてはフレッチング現象に
よる損傷の発生が未然に防止される。
【0014】しかし、熱処理後に黒鉛が残存した場合、
材料に不均質性が生じるので、該材料を転動体に用いる
と、回転精度に悪影響を及ぼす。このことは、転がり軸
受には複数の転動体が使用されているので、転動体の不
均質性による回転精度低下が、各転動体の寸法精度のば
らつきによる回転精度の低下を増幅するためと考えられ
ている。これに対し、内輪または外輪においては、その
素材の不均質性により、転動体の場合のような増幅効果
が生じないので、熱処理後に僅かな量の黒鉛が残存した
場合でも該黒鉛が回転精度に影響を与えることはない。
よって、転動体に対しては、熱処理後の黒鉛残存量を適
正に制御することが必要不可欠であり、転動体には、従
来から用いられている均質な高炭素クロム軸受鋼を用い
ることが好ましい。また、回転精度を維持するために
は、使用中に寸法精度に変化が生じてはならず、熱処理
後の残留オーステナイト量は、従来から用いられている
高炭素クロム軸受鋼と同等の10%以下に抑える必要が
ある。
【0015】そこで、従来から用いられている高炭素ク
ロム軸受鋼と同様の焼入れ、焼戻し処理で必要とされる
HRC58以上の硬さや上記特性を得るための合金元素
の適正化および黒鉛量の適正化により、製造コストの増
大を招くことなく、優れた耐フレッチング性を得ること
ができる本発明の上記構成を導き出した。
【0016】ここで、本発明における素材の成分につい
て説明する。
【0017】[C:0.45〜1.0wt%]Cは、黒
鉛相を形成する上で必要不可欠なだけでなく、焼入れ、
焼戻し処理により素地をマルテンサイト化し転がり軸受
として必要なHRC58以上の硬さを得るために必要な
元素であり、0.45重量%(wt%)以上添加され
る。しかし、1.0wt%を超えて添加してもその効果
が飽和するばかりか、回転精度の維持に有害な残留オー
ステナイトが生成し易くなるため、上限を1.0wt%
としている。なお、残留オーステーナイトを極力抑える
ためには、その上限を0.8wt%にすることが好まし
い。
【0018】[Si:0.5〜1.5wt%]Siは、
製鋼時の脱酸のために必要な元素であり、また、鋼中の
セメンタイトを不安定にして黒鉛化を促進させる元素と
しても有用であり、さらに焼戻し軟化抵抗を高め、強度
および転動疲労寿命を向上させる。その添加量が0.5
wt%未満ではその添加効果に乏しく、1.5wt%を
超えて添加しても黒鉛化促進の効果は飽和に達し、添加
効果が上がらないため、その添加量を0.5〜1.5w
t%の範囲としている。
【0019】[Mn:0.1〜1.5wt%]Mnは、
Siと同様に、製鋼時の脱酸のために必要な元素であ
り、0.1wt%以上添加される。また、Mnは、焼入
れ性を高め、熱処理後の強度および転動疲労寿命の向上
にも寄与する。よって、0.25wt%以上添加するこ
とが好ましい。しかし、1.5wt%を超えて添加して
もその効果は飽和に達し、添加効果が上がらないだけで
なく、回転精度の維持に有害な残留オーステナイトが生
成し易くなるため、その上限を1.5wt%としてい
る。
【0020】[Cr:1.5wt%以下]Crは、焼入
れ性を高めるとともに熱処理後の強度および転動疲労寿
命の向上に寄与するため、選択的に添加される。また、
Crは、強力な炭化物形成元素であるともにセンメンタ
イトを球状化する作用を有するため、0.2wt%以上
添加することが好ましい。しかし、1.5wt%を超え
て添加してもその効果は飽和に達し、添加効果が上がら
ないだけでなく、多量に添加すると、黒鉛化を阻害する
ため、その上限を1.5wt%としている。
【0021】[Mo:1.0wt%以下]Moは、焼入
れ性を高め、熱処理後の強度および転動疲労寿命の向上
にも寄与するため、選択的に添加される。しかし、1.
0wt%を超えて添加してもその効果は飽和に達し、添
加効果が上がらないだけでなく、多量に添加すると、黒
鉛化を阻害することおよび高価であるため、その上限を
1.0wt%としている。
【0022】[黒鉛の平均粒径:8μm以上]本発明に
おいては、被削性および潤滑性能を向上させるために、
材料に含有されているCの一部を黒鉛化させて用いる。
被削性を向上させるために添加C量の全てを黒鉛化する
必要はなく、本発明の成分範囲においては、潤滑性能を
向上させるために必要な黒鉛化を行えば、優れた被削性
が得られる。ただし、潤滑性能を向上させるためには、
焼入れ焼戻し後に平均粒径が少なくとも3μm以上、好
ましくは4〜6μmの黒鉛が必要であり、素材の段階で
は黒鉛の平均粒径を8μm以上とする必要があり、好ま
しくは、10μm以上とする。しかし、余りに粗大な黒
鉛が存在すると、黒鉛が脱落して生じたピットの縁に応
力集中による剥離が生じる恐れがあるので、焼入れ焼戻
し後の黒鉛の平均粒径は10μm以下とすることが好ま
しい。
【0023】なお、本発明においては、黒鉛化を促進す
る目的で、0.005wt%以下のBおよび0.03w
t%以下のAlのいずれか一方または両方の微量元素を
添加してもよい。
【0024】このように請求項1記載の転がり軸受で
は、Cが0.45〜1.0、Siが0.5〜1.5、M
nが0.1〜1.5、Crが1.5以下、Moが1.0
以下である重量%の含有率を有し、かつ組織が平均粒径
8μm以上の黒鉛とフェライトおよびセメンタイトとを
主とする素材から内輪および外輪の内の少なくとも一方
を製造したので、被削性および潤滑性能を向上可能なよ
うに熱処理後の黒鉛の平均粒径が適正に制御され、製造
コストの増大を招くことなく、優れた耐フレッチング性
を得ることができる。
【0025】また、薄肉の転がり軸受においては、その
工程が、通常、棒状素材、チューブ状素材または鍛造素
材から旋削加工によって、内、外輪を作製し、熱処理に
より軸受として必要な硬さを出し、内、外輪の端面、外
輪外径、内輪内径および内、外輪の軌道面を研削加工で
精密に仕上げる工程からなり、その熱処理後の変形が通
常の肉厚比の軸受に対して極端に大きくなり、内、外輪
に対する研削加工にさらにコストが掛かることになる。
この研削に掛かるコストを下げるために、研削加工前に
内、外輪の変形を矯正する方法も考えられるが、この方
法では、内、外輪それぞれを1つづ矯正する必要がある
ので、結局、薄肉の転がり軸受の全体の製造コストを低
減させることは難しい。
【0026】内、外輪のような比較的単純な環状体の場
合、加工による変形量が熱応力、変態応力等による変形
に影響を与え、加工により変形が小さいほど熱応力、変
態応力等による変形が相乗効果で小さくなり、薄肉の転
がり軸受では、さらにこの現象が顕著に現れる傾向があ
ることを本出願人は見出した。また、旋削加工における
チャック爪による変形(内輪または外輪をチャックし、
その内径を削るときにはチャック爪により内、外輪が変
形した状態で真円に削るため、変形や偏肉が生じる現
象)等を含めて、軸受の熱処理後の変形は、旋削加工速
度(力)が高いほど、また肉厚比が低いほど多くなる傾
向にあることを確認した。ここで、加工による残留応力
を極力低減したものに対してソルト焼入れを施した場合
には、より良い結果すなわち熱処理後の変形量を小さく
することができることが確認された。ここで、焼入れに
よる変形量は加工による変形量に大きく影響を受けるた
め、加工による変形量の低減を図ることが望ましく、こ
の加工による変形量を小さく抑制するための方法として
は、加工速度、切込み量を小さくして旋削抵抗を減らす
ことが考えられるが、この方法では、確かに変形量を小
さくすることができるが、生産性が低下する。特に肉厚
比が6%以下の薄肉の転がり軸受においては、加工や熱
処理による変形率が高くなり、この変形率が高い分研削
加工時間が長くなる。これは、薄肉になればなるほど、
加工による変形が大きくなり、また熱処理によりその変
形が拡大され易いからである。なお、肉厚比をR(%)
とすると、Rは次の(1)式で表される。
【0027】 R=(a/D)×100(%) …(1) 上記式中のaは外輪の肉厚(mm)であり、Dは外輪の
外径(mm)である。
【0028】そこで、旋削性が良好で工具の負担が少な
い素材である黒鉛鋼を使用すれば、特に肉厚比が6%以
下である薄肉の転がり軸受においては、生産性を低下さ
せることなく、熱処理後の変形を小さくすることが可能
になると本出願人は考え、この黒鉛鋼を薄肉の転がり軸
受に適用し、この黒鉛鋼から内輪および外輪の内の少な
くとも一方を製造することを検討した。
【0029】この黒鉛鋼においては、工具寿命が長く、
変形が小さい傾向を示すとともに、黒鉛化条件や熱処理
方法によって、軸受として必要な硬さを十分に得ること
が可能であり、この黒鉛鋼と同様に工具寿命が長く変形
が小さいS−Ca系の快削鋼に多く含まれる、転がり寿
命に有害な非金属介在物を旋削性とは無関係に削減する
ことができる。また、黒鉛鋼においては、焼入れ性を高
めるMnやCrの元素を多量に添加すると、黒鉛化に長
い時間が掛かり、また高い焼入れ性が得られないが、旋
削性の影響が大きい薄肉の転がり軸受では、高い焼入れ
性を必要としないので、この黒鉛鋼の適用は最適である
といえる。このように、黒鉛鋼を肉厚比Rが6%以下の
薄肉の転がり軸受に適用することにより、旋削加工性が
向上して工具寿命が良好となると同時に加工により残留
応力や歪が減少し、熱処理後の変形が大幅に改善され、
本来軸受として必要な機能を維持しながら、研削加工に
掛かる負荷を削減することができる。
【0030】また、薄肉の転がり軸受においては、シー
ル溝の研削を行わないので、熱処理後の変形がそのまま
残り、その変形に逆らってシールが取り付けられてシー
ル性が低下する、真円に研削した軌道面がシール装着に
より真円がずれて軸受機能が低下するなどの現象いわゆ
る板後楕円が生じることがある。上記黒鉛鋼を素材とし
て製造した薄肉の転がり軸受では、熱処理後の変形を小
さく抑制することができ、この板後楕円の発生に対する
抑制効果を期待することができる。
【0031】そして、本出願人は、肉厚比が6%以下で
ある薄肉の転がり軸受に適用する素材として、上述の請
求項1記載に示した素材とほぼ同じ成分を有するものを
導き出した。具体的には、この素材は、Cが0.45〜
1.0、Siが0.5〜1.5、Mnが0.2〜1.
5、Crが0.7以下である重量%の含有率を有すると
ともに、残部Feおよび不可避不純物元素を含有し、か
つ黒鉛面積率が10%以下の微細黒鉛とフェライトおよ
びセメンタイトとを主とする。
【0032】次に、上記薄肉の転がり軸受に適用される
素材の成分について説明する。
【0033】[C:0.45〜1.0wt%]Cは、黒
鉛相を形成する上で必要不可欠なだけでなく、焼入れ、
焼戻し処理により素地をマルテンサイト化し転がり軸受
として必要な硬さ(例えばHRC58以上の硬さ)を得
るために必要な元素である。浸炭や浸炭窒化を行うこと
により、完成品表面層に適量のCやNを得ることができ
るが、浸炭や浸炭窒化時間が増加すると、製造コストが
高くなるので短時間の浸炭や浸炭窒化で寿命に対して十
分な硬さと硬化層深さが得られるように素材のCの下限
値を0.45%としている。しかし、Cを1.0wt%
を超えて添加すると、加工性が低下したり、他の合金成
分の添加量にもよるが、場合によっては製鋼時に巨大炭
化物や偏析をなくすソーキングが必要となり、Cの上限
を1.0wt%としている。
【0034】なお、Cを0.7%以上とすることが好ま
しく、このように含有量を選択することにより、浸炭ま
たは浸炭窒化等の熱処理により、炭素や窒素を付加せず
とも、焼入れ焼戻しにより軸受として十分な硬さが得ら
れる。
【0035】[Si:0.5〜1.5wt%]Siは、
製鋼時の脱酸に必要な元素であるとともに、焼入れ性の
向上、基地マルテンサイトの強化、焼戻し軟化抵抗の向
上、軸受寿命の延長に有効な元素であり、また、鋼中の
セメンタイトを不安定にして黒鉛化を促進させる元素と
しても有用である。その添加量が0.5wt%未満では
その添加効果に乏しく、Siの下限値を0.5wt%と
している。しかし、Siを1.5wt%を超えて添加し
てもその効果は飽和に達し、添加効果が上がらないの
で、その添加量を0.5〜1.5wt%の範囲としてい
る。
【0036】ただし、通常Siが1wt%を超えると、
素材のフェライトを強化して冷間加工性を低下させる
が、黒鉛化によって冷間加工性を向上させる効果があ
り、旋削加工性と同時に冷間加工性を要求される場合、
Siの添加量が高いと加工性を補うために黒鉛処理が十
分に行われる。この場合には、熱処理後に粗大黒鉛粒が
残留し、部分的に硬さが低下することがあり、冷間加工
性も要求される場合には、Si量を低めにする必要があ
る。よって、Siの含有量を1wt%以下にすることが
好ましい。
【0037】[Mn:0.2〜1.5wt%]一般に焼
入れ性を向上させるためには、MnまたはCrを添加す
るが、Crは炭化物生成元素であるので、添加したCr
の全てが基地の焼入れ性向上に機能せず、コストもMn
の方が安い。Mnに関しては、熱処理後に黒鉛が残留す
るため、焼入れ性が低下する場合があり、また、異物混
入潤滑下での転がり寿命に有効な残留オーステナイト生
成元素でもあることから、Mnを添加し、その下限値を
0.2wt%としている。しかし、Mnを1.5wt%
を超えて添加してもその効果は飽和に達し、添加効果が
上がらない。また、Mnはセメンタイトを安定させるた
めの元素であることから、黒鉛化処理時間が極端に長く
なり、微量の黒鉛の析出にも長時間の黒鉛化処理が必要
になる。よって、Mnの上限値を1.5%としている。
【0038】ただし、素材の黒鉛化をより短時間に行う
ためには、Mnを1.0wt%以下とすることが好まし
い。
【0039】[Cr:0.7wt%以下]Crは、焼入
れ性の向上など基地の強化に寄与する不可欠な元素であ
り、また、特にセメンタイトを安定させる元素であり、
その添加量によっては極端に黒鉛が析出しにくくなる。
また、その罪の炭素量が高い場合に、Crの添加量が
0.7wt%を超えると、製鋼過程で巨大炭化物や偏析
の生成を改良するためにソーキングが必要となり、Cr
の添加コストとともに、素材のコストが上昇する。従っ
て、素材のCr添加量を0.7wt%以下とする。ただ
し、素材の製鋼過程で使用するスクラップやフェロアロ
イに含まれる微量、微細な黒鉛を析出させるためには、
Cr添加量を0.4wt%以下にすることが好ましい。
【0040】[残部Feおよび不可避不純物元素]黒鉛
の析出においては、黒鉛発生核の数によって、処理時間
や微細化が決定される。この黒鉛発生核の数が多いほ
ど、黒鉛が微細化し、処理時間も短くなる。黒鉛発生核
としては、BNやAlNなどがあり、BやAlの微量添
加が有効である。また、LaやCeの添加も有効であ
る。通常の軸受用鋼に対しては、熱処理後の結晶粒微細
化のために、Alの微量添加が必然的に行われているの
で、黒鉛鋼を軸受として使用する場合には、結晶粒調整
のために0.05wt%以下のAlを当然添加する。こ
こで、さらなる黒鉛粒の微細化や黒鉛処理時間の短縮を
考えると、不純物元素として0.002%以下、0.0
5%以下のLa、0.05%以下のCeの内の少なくと
も1つを添加することが望ましい。
【0041】[黒鉛面積率:10%以下]肉厚比6%以
下の転がり軸受の素材には、被削性を向上させて加工に
よる残留応力を低減させるために、素材に含有されてい
るCの一部を黒鉛化させている。しかし、被削性を向上
させるために添加C量の全てを黒鉛化する必要はなく、
面積率にして0.5%以上の黒鉛化を行えば、優れた被
削性が得られる。すなわち、Sを添加して素材に非金属
介在物としてMnSを生成し、旋削性を改良する場合で
も、僅かなMnS量で旋削性が向上するように、黒鉛を
僅かに析出させれば、旋削性が著しく改善されることに
なる。しかし、黒鉛面積率を10%以上にしても、その
効果が飽和して大きな黒鉛粒が析出し、場合によっては
焼入れ焼戻し後の硬さや軸受機能を低下させる恐れがあ
るため、安定した工具寿命が得られることを考慮して、
黒鉛化面積は2%〜8%の範囲内とすることが好まし
い。
【0042】このようにCが0.45〜1.0、Siが
0.5〜1.5、Mnが0.2〜1.5、Crが0.7
以下である重量%の含有率を有するとともに、残部Fe
および不可避不純物元素を含有し、かつ黒鉛面積率が1
0%以下の微細黒鉛とフェライトおよびセメンタイトと
を主とする素材から内輪または外輪の内の少なくとも一
方を製造したので、生産性を低下させることなく、高品
質の薄肉転がり軸受が得られる。
【0043】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態につい
て図を参照しながら説明する。
【0044】(実施の第1形態)図1は本発明に係る転
がり軸受のフレッチング試験に用いた試験機の構成を示
す図である。本実施の形態では、HDDのスイングアー
ムを支持するためのラジアル転がり軸受について説明す
る。
【0045】ラジアル転がり軸受は、内輪および外輪を
有し、内輪と外輪との間には鋼球が保持されている。内
輪および外輪の内の少なくとも一方は、Cが0.45〜
1.0、Siが0.5〜1.5、Mnが0.1〜1.
5、Crが1.5以下、Moが1.0以下である重量%
の含有率を有し、かつ組織が平均粒径8μm以上の黒鉛
とフェライトおよびセメンタイトとを主とする素材から
製造されている。
【0046】次に、この内輪または外輪の製造に用いる
素材について説明する。
【0047】本実施の形態では、表1の材料記号A〜O
に示す化学成分の鋼材を溶製し、熱間鍛造により直径3
5mmの棒鋼とし、該棒鋼を850℃で焼きならした
後、700℃で15〜30時間黒鉛化処理を施して素材
の供試片としている。なお、表1中の材料記号A〜Lに
示す鋼材は本発明における素材を得るためのものであ
り、材料記号M〜Oに示す鋼材は比較例としての素材を
得るためのものであり、材料記号Pに示す鋼材は従来か
ら用いられている高炭素クロム軸受鋼(JIS鋼種SU
J2)である。
【0048】これらの素材の供試片を用いてその素材中
の黒鉛の平均粒径を測定し、また被削性の試験を行い、
その測定結果および試験結果を表1に示す。この黒鉛の
平均粒径の測定では、各素材の供試片毎にその断面につ
いて40視野を1000倍の金属顕微鏡で観察し、各視
野における最大の黒鉛の平均粒径を求め、各視野の平均
粒径の平均値をその素材の黒鉛の平均粒径としている。
また、被削性の試験は、下記に示す条件で行い、切削不
能となるまでの時間を工具寿命とし、該工具寿命により
被削性を評価している。
【0049】[切削条件] 切削工具:SKH4 切込み :2mm 送り速度:0.25mm/rev 切削速度:70m/min
【0050】
【表1】 次いで、複数のフレッチング試験用ラジアル転がり軸受
(SR1810)を作製し、作製した各ラジアル転がり
軸受のフレッチング試験を実施した。ここで、ラジアル
転がり軸受の作製では、表1の材料記号A〜Pで示す素
材から内輪および外輪を作製し、この内輪および外輪の
作製の際の熱処理条件としては、840〜860℃で焼
入れを行った後に、160〜180℃で焼戻しを行っ
た。この熱処理後に、硬さ、黒鉛の平均粒径および残留
オーステナイト量の測定を行い、その結果を表2に示
す。なお、黒鉛の平均粒径の測定は、上述した素材の黒
鉛の平均粒径の測定と同じ方法で行っている。また、各
ラジアル転がり軸受に組み込まれる鋼球(転動体)は、
高炭素クロム軸受鋼(JIS鋼種SUJ2)から作製し
た。
【0051】フレッチング試験には、図1に示す試験機
20が用いられる。この試験機20は、フレーム21に
取り付けられ、ACサーボモータなどの駆動源を含む駆
動機構22と、フレーム21に固定された固定軸23
と、下端部24aが駆動機構22の駆動軸22aに連結
され、該駆動機構22の駆動力により軸線の周りに回転
駆動される外筒24とを備える。固定軸23は外筒24
に挿入され、その下端部はサポート軸受25を介して外
筒24に支持されている。固定軸23の上端部は予圧ば
ね機構26により支持され、その上端部と下端部との間
の途中部位には、被試験軸受固定部23aが設けられて
いる。この被試験軸受固定部23aには、複数の被試験
ラジアル転がり軸受10の内輪が固定され、各被試験ラ
ジアル転がり軸受10の外輪は外筒24に固定される。
予圧ばね機構26は、固定軸23をその上端部から所定
の圧力で押し付けることによって、被試験ラジアル転が
り軸受10に予圧を掛けるように構成されている。
【0052】フレッチング試験時には、予圧ばね機構2
6により被試験ラジアル転がり軸受10に予圧を掛け、
駆動機構22により外筒24をその軸線の周りに所定の
周期でかつ所定の角度で所定回数揺動させる。外筒24
の揺動により被試験ラジアル転がり軸受10には揺動運
動が与えらえる。このように、所定の予圧を掛けながら
所定の周期でかつ所定の角度で所定回数揺動させる使用
条件下において被試験ラジアル転がり軸受10のフレッ
チング試験を行い、被試験ラジアル転がり軸受10の耐
フレッチング性を評価する。ここで、被試験ラジアル転
がり軸受10の耐フレッチング性を評価する指標とし
て、フレッチング試験前後の平均トルクおよびトルク変
動幅を測定し、その測定値の比較を行った。その結果は
表2に示す。
【0053】[フレッチング試験条件] 被試験ラジアル転がり軸受:SR1810 潤滑 :鉱油系グリース 周波数 :30Hz 予圧 :9.8N 揺動角 :8度 サイクル数 :2億回
【0054】
【表2】 上記表1より、本発明の成分範囲を満足する材料記号A
〜Lで示す素材は、材料記号Pで示す従来例の素材に比
して、素材段階での被削性に優れていることが分かる。
また、上記表2により、材料記号A〜Lで示す素材を用
いて内輪および外輪が作製されたラジアル転がり軸受に
おいては、フレッチング試験前後での平均トルクおよび
トルク変動幅の変化が非常に小さい。すなわち、素材の
段階での黒鉛の平均粒径を8μm以上としていることに
より、被削性および潤滑性能を向上可能なように、熱処
理後の黒鉛の平均粒径を適正に制御していることが分か
る。また、回転精度の維持に有害な熱処理後の残留オー
ステナイト量が、従来から用いられている高炭素クロム
軸受鋼と同等の10%以下に抑えられている。
【0055】また、材料記号Mの素材は、Cの含有量が
本発明の下限よりも低い場合の比較例であり、素材段階
での被削性は優れているものの、熱処理後の硬さが低く
なってしまうので、トルク変化およびトルクスパイク
(突然のトルク増加)に対する低減効果が不十分であ
り、フレッチング試験前後の平均トルクおよびトルク変
動幅の変動が本発明の構成例に比して大きくなってい
る。すなわち材料記号Mの素材では、優れた耐フレッチ
ング性を得ることができない。材料記号Nの素材は、S
iの含有量が本発明の下限よりも低い場合の比較例であ
り、素材段階での被削性は優れているものの、熱処理後
の残存する黒鉛の平均粒径が3μmに満たないので、フ
レッチング試験前後のトルク変化およびトルクスパイク
に対する低減効果が低いすなわち耐フレッチング性が低
い。材料記号Oの素材は、Cの含有量が本発明の上限よ
りも高い場合の比較例であり、素材段階での被削性は優
れているものの、熱処理後の残留オーステナイト量が1
0%を超えてしまうので、フレッチング試験前後のトル
ク変化およびトルクスパイクに対する低減効果が低いす
なわち耐フレッチング性が低い。
【0056】以上より、内輪および外輪の内の少なくと
も一方を、Cが0.45〜1.0、Siが0.5〜1.
5、Mnが0.1〜1.5、Crが1.5以下、Moが
1.0以下である重量%の含有率を有し、かつ組織が平
均粒径10μm以下の黒鉛とフェライトおよびセメンタ
イトとを主とする素材から製造することによって、製造
コストの増大を招くことなく、優れた耐フレッチング性
を得ることができる。
【0057】(実施の第2形態)次に、本発明の実施の
第2形態について図2ないし図4を参照しながら説明す
る。図2は本発明に係る転がり軸受の実施の第2形態に
適用される素材における工具寿命と変形率との関係を示
す図、図3は本発明に係る転がり軸受の実施の第2形態
に適用される素材における工具寿命と黒鉛面積率との関
係を示す図、図4は本発明に係る転がり軸受の実施の第
2形態における肉厚比と変形率との関係を示す図であ
る。なお、本実施の形態では、肉厚比が6%以下である
薄肉の転がり軸受について説明する。
【0058】肉厚比が6%以下である薄肉の転がり軸受
においては、内輪および外輪の内の少なくとも一方が、
Cが0.45〜1.0、Siが0.5〜1.5、Mnが
0.2〜1.5、Crが0.7以下である重量%の含有
率を有するとともに、残部Feおよび不可避不純物元素
を含有し、かつ黒鉛面積率が10%以下の微細黒鉛とフ
ェライトおよびセメンタイトとを主とする素材から、内
輪または外輪の内の少なくとも一方が製造されている。
【0059】次に、この内輪または外輪の製造に用いる
素材について説明する。
【0060】本実施の形態では、表3に示す材料記号K
1〜K28およびSUJ2の鋼材を素材としている。
【0061】
【表3】 ここで、表3中の材料記号K1〜K21の鋼材は本発明
における素材を得るためのものであり、材料記号K22
〜K28の鋼材は比較例としての素材を得るためのもの
であり、材料記号SUJ2に示す鋼材は高炭素クロム軸
受鋼(JIS鋼種SUJ2)である。
【0062】本例の各素材は素材段階で黒鉛化処理が行
われており、その黒鉛化処理は、素材をA1変態点以下
の温度で長時間保持するという条件下で行われている。
K1〜K22の各素材(本発明)は、680〜710℃
の温度範囲で、処理時間を変えることにより黒鉛面積率
や黒鉛粒の調整を行っている。K1〜K22の各素材の
内、K14の素材に関しては、Mnが1.0wt%を超
えているため、他の素材に対して黒鉛化に若干長い時間
が掛かり、このことから、Mnを1.0wt%以下にす
ることが好ましいことが分かる。
【0063】また、K22〜K28およびSUJ2の素
材(比較例)には、K1〜K22の各素材(本発明)と
同様の黒鉛化処理が施されている。K27に関しては、
炭化物生成元素であるMnの添加量が1.5wt%を超
えているため、K24の素材(比較例)に関しては黒鉛
化促進元素であるSiが0.5wt%未満であるため、
黒鉛化に必要以上に時間を要し、コスト的に不利である
ことは明らかである。よって、K24,K27の各素材
については黒鉛化処理以降の試験を実施しない。
【0064】本例においては、これらの素材の供試片を
用いてその素材中の黒鉛面積率を測定し、またソーキン
グ処理の要不要を確認するための調査、冷間加工性を調
べるための試験を行い、さらに焼入れ焼戻し後の硬さ
(Hv)を測定した。
【0065】黒鉛面積率の測定では、黒鉛粒の面積率を
直接測定するために、各素材の断面および軸気完成品表
面の組織を電子顕微鏡で撮影し、画像解析装置によりそ
の電子顕微鏡画像の素地から黒鉛粒だけを取り出してそ
の形状、面積、個数などを測定し、各黒鉛粒の面積から
その粒を円形に換算した平均粒径や、面積率を算出す
る。ここでは、被検面積は各素材毎に1視野を0.1m
2(電子顕微鏡200倍)とし、50視野の黒鉛面積
率の平均値をその素材の黒鉛面積率としている。
【0066】なお、この測定に用いた電子顕微鏡は、J
SM−T220A(日本電子社製)であり、画像解析装
置は、IBAS2000(カールツァィス社製)であ
る。
【0067】ソーキング処理の要不要に関する調査で
は、各素材のビレット断面におけるマクロおよびミクロ
組織を調査して寿命に有害な巨大炭化物や濃厚な縞状偏
析の有無を確認し、その確認結果に応じてソーキング処
理の要不要を判断し、この結果を表3に示す。
【0068】本例において、K1〜K21の素材(本発
明の素材)については、ソーキング処理が不要である。
また、K22,K24〜K27の素材(比較例)につい
てもソーキング処理は不要である。K23,K28およ
びSUJ2はC量(wt%)Cr量(wt%)が高く、
ソーキング処理が必要と判断して冷間加工性、焼入れ焼
戻し後の硬さの測定を実施していない。
【0069】冷間加工性の試験では、プレス機により下
記に示す条件で各素材の供試片に対して圧縮試験を行
い、圧縮率50%における変形抵抗を測定する。
【0070】[圧縮試験条件] 試験片寸法:φ20mm×t25mm 歪み速度 :40sec/min 潤滑 :無潤滑 各素材に対する測定結果を表3に示す。表3から分かる
ように、K1〜k22(本発明)の素材は良好な加工性
を示している。ただし、Siが1wt%を超えているK
9に関しては、若干加工性が低下していることが分か
る。このことは、冷間加工性を重視する場合には、Si
を1wt%以下にすることが好ましいことを示してい
る。
【0071】一方、Siが1.5wt%を超えているK
25の素材(比較例)や黒鉛のないSUJ2の素材に関
しては変形抵抗が著しく高くなっていることが分かる。
このK25の素材については、以降の試験を実施しな
い。
【0072】旋削性の試験は、JIS B 4011の
バイト切削試験方法に従って下記に示す条件で行い、バ
イトの逃げ面摩耗量が0.2mmに達するまでの時間を
工具寿命とし、該工具寿命により旋削性を評価してい
る。
【0073】[旋削試験条件] 切削機械 :高速旋盤 工具 :P10(JIS B 4053) 切込み速度:250〜300m/min 送り量 :0.2〜0.4mm/rev 切込み深さ:1.2〜1.8mm この旋削性の試験結果を表4および図3に示す。なお、
表4に示す試験結果は、K3の素材(本発明)、SUJ
2の素材および他のA1,B1の素材(比較例)につい
て試験結果である。ここで、K3の素材に関しては、そ
の黒鉛化処理条件を変えることにより、黒鉛面積率を変
化させた複数のものについて試験を実施している。A1
の素材は、SUJ2のC量(wt%)やCr量(wt
%)を低下させて加工性を改善したものあり、B1の素
材は、S−Ca系の快削鋼である。また、図中の〇印は
比較例を示し、●印は本発明を示す。
【0074】
【表4】 表4から、黒鉛の面積率が0を超えていればすなわち黒
鉛が僅かな量でも析出していれば、旋削性が改善されて
いることが分かる。すなわち、K3の素材(本発明)に
関しては、工具寿命が長く、十分な旋削性が得られてい
る。しかし、K3の素材において黒鉛が析出しないよう
に調整されたもの(黒鉛面積率0%のもの)、SUJ2
およびA1の素材では、工具寿命が低く、十分な旋削性
が得られていない。また、B1の素材は、黒鉛が析出し
ているK3の素材と同等の旋削性を示すが、清浄度が低
い。
【0075】また、図3に示すように、黒鉛面積率を1
0%以上にしても、その効果が飽和してことが分かる。
また、本図から黒鉛面積率を2%以上にすれば、安定し
た工具寿命が得られていることが分かる。よって、黒鉛
化面積は2%〜8%の範囲内とすることが好ましい。
【0076】次に、焼入れ焼戻し後の表面硬さについて
説明する。
【0077】本実施の形態における熱処理条件として
は、通常の軸受に使用されているSUJ2に対する焼入
れ焼戻しの条件と同等の条件が用いられている。この熱
処理条件は、具体的には、830〜860℃の温度範囲
で0.5〜1時間保持した後に焼入れを行い、続いて1
60〜200℃の温度範囲で2時間の焼戻しを行うとい
う条件である。
【0078】表3に焼入れ焼戻し後の表面硬さを示す。
K1〜K22の素材(本発明)に関しては、軸受完成品
として必要な表面硬さ(Hv)が得られているが、C量
が0.7wt%以下であるK1,K2,K5,K15,
K19の素材においてはその硬さが他の素材に比して若
干低くなる傾向を示していることから、通常の焼入れ焼
戻し(SUJ2に対する焼入れ焼戻しと同等)を行う場
合には、Cを0.7%以上にすることが好ましいことが
分かる。
【0079】これに対し、Cが0.45%未満であるK
22の素材(比較例)、焼入れ性を高めるMnが0.2
wt%未満であるK26の素材(比較例)に関しては、
軸受として必要な硬さが得られていない。ただし、浸炭
や浸炭窒化により表面層を強化することは可能である
が、その場合でも、K22の素材に関しては、処理時間
が長くなる傾向があり、K26の素材に関しては心部に
十分な硬さが得られず、強度が低下する恐れがある。
【0080】次に、変形量の測定について説明する。
【0081】この変形量の測定では、予め所定の寸法仕
様で作製した試験リングに上述の熱処理条件で焼入れ焼
戻しを施し、この焼入れ焼戻し後の試験リング最大径と
最小径とを測定し、その差を真円度とする。そして、こ
の真円度を試験リングの外径で割った値から径の大きさ
に対する変形量の割合を算出する。ここでは、黒鉛面積
率が調整されたK3の各素材、SUJ2,A1,B1の
各素材毎に、60個の薄肉の玉軸受6818の外輪(肉
厚比R=3.3%,外径=115mm)を作製し、60
個の試験リングそれぞれについて変形量の測定を実施し
た。この測定結果を表4および図2に示す。なお、図中
の〇印は比較例を示し、●印は本発明を示す。
【0082】表4および図2から、黒鉛面積率が0.6
%から9.8%の範囲に調整されたK3の各素材に関し
ては、工具寿命が長くなるに従い焼入れ焼戻し後の変形
率が小さくなる傾向を示している。すなわち、黒鉛面積
率が0.5%以上あれば、工具寿命が長くなって旋削性
が良好になり、旋削性が良ければ、熱処理後の変形が小
さく抑えられることになる。
【0083】次に、肉厚比Rと熱処理後の変形率との関
係について説明する。
【0084】黒鉛面積率が調整された素材(例えばK
3)から、肉厚比Rが3%から6%の範囲にある複数の
外輪を試験リングとして作製し、各試験リングについて
変形量の測定を実施した。この測定結果を図4に示す。
なお、図中の●印は本発明を示し、図中の〇印は、黒鉛
化処理を実施せずに作製された通常の試験リングを比較
例として示す。
【0085】図4から、通常の試験リングにおいては、
肉厚比Rが6%から漸次小さくなるに従い変形率が大き
くなることが分かる。これに対し、本発明の試験リング
では、図4に示すように、肉厚比Rが6%以下になって
も変形率がほぼ一定で小さい値(0.1%)に抑えられ
ている。
【0086】このように、Cが0.45〜1.0、Si
が0.5〜1.5、Mnが0.2〜1.5、Crが0.
7以下である重量%の含有率を有するとともに、残部F
eおよび不可避不純物元素を含有し、かつ黒鉛面積率が
10%以下の微細黒鉛とフェライトおよびセメンタイト
とを主とする素材を用いて肉厚比Rが6%以下の薄肉の
転がり軸受を作製することにより、旋削加工性が向上し
て工具寿命が良好となると同時に加工により残留応力や
歪が減少し、熱処理後の変形が大幅に改善され、本来軸
受として必要な機能を維持しながら、研削加工に掛かる
負荷を削減することができる。また、熱処理後の変形を
小さく抑制することにより、板後楕円の発生に対する抑
制効果を得ることができる。その結果、生産性を低下さ
せることなく、高品質の肉厚比6%以下の薄肉転がり軸
受が得られる。
【0087】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の転
がり軸受によれば、Cが0.45〜1.0、Siが0.
5〜1.5、Mnが0.1〜1.5、Crが1.5以
下、Moが1.0以下である重量%の含有率を有し、か
つ組織が平均粒径8μm以上の黒鉛とフェライトおよび
セメンタイトとを主とする素材から内輪および外輪の内
の少なくとも一方を製造したので、被削性および潤滑性
能を向上可能なように熱処理後の黒鉛の平均粒径が適正
に制御され、製造コストの増大を招くことなく、優れた
耐フレッチング性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る転がり軸受のフレッチング試験に
用いた試験機の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る転がり軸受の実施の第2形態に適
用される素材における工具寿命と変形率との関係を示す
図である。
【図3】本発明に係る転がり軸受の実施の第2形態に適
用される素材における工具寿命と黒鉛面積率との関係を
示す図である。
【図4】本発明に係る転がり軸受の実施の第2形態にお
ける肉厚比と変形率との関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 沖田 滋 神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内 (72)発明者 木内 昭広 神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 内輪、外輪および転動体を有する転がり
    軸受において、Cが0.45〜1.0、Siが0.5〜
    1.5、Mnが0.1〜1.5、Crが1.5以下、M
    oが1.0以下である重量%の含有率を有し、かつ組織
    が平均粒径8μm以上の黒鉛とフェライトおよびセメン
    タイトとを主とする素材から前記内輪および外輪の内の
    少なくとも一方を製造したことを特徴とする転がり軸
    受。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2012018239A3 (ko) * 2010-08-06 2012-05-03 주식회사 포스코 고탄소 크롬 베어링강 및 그 제조방법
JP2020003344A (ja) * 2018-06-28 2020-01-09 日本精工株式会社 軸受用3軸フレッチング試験装置

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