JP2012031903A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】内輪1を、〔C〕:0.90〜1.10質量%、〔Si〕:0.45〜1.0質量%、〔Mn〕:0.30〜1.2質量%、〔Cr〕:1.8〜2.4質量%、〔Mo〕:0.40質量%以下、〔Ni〕と〔Cu〕:0.20質量%以下、〔S〕:0.02質量%以下、〔P〕:0.02質量%以下、〔O〕:12ppm以下の合金鋼である素材を用い、焼入れ焼戻しを行って、軌道面の3%D表層部(表面からボール3の直径の0.03倍に相当する深さまでの範囲)で、直径10μm以上の酸化物系介在物:10個/320mm2 、Hv:697〜800、残留オーステナイト量:20〜40体積%、表面粗さ:粗さ曲線の最大山高さ(Rp)で1.0μm以下とする。
【選択図】図1
Description
転がり軸受の軌道輪と転動体は、両者の接触部に高い面圧が発生し、内部に高い剪断応力が発生するため、これに耐え得る硬さとなっている必要がある。特に、大型の軸受では、剪断応力が内部の深くまで作用するため、深い位置まで硬くなっていることが要求される。また、ころ軸受は、軌道輪と転動体の接触面積が大きいため、剪断応力が作用する領域が大きい。玉軸受の場合でも、玉(転動体)の直径が30mm以上である大形の転がり軸受では、剪断応力が作用する領域が大きい。
潤滑油から発生した水素は、軌道輪および転動体をなす鋼に侵入して、転がり軸受の組織変化型剥離を加速させる要因となると考えられている。組織変化型剥離とは、鋼の金属組織がマルテンサイトから超微細なフェライトに変化し、フェライトになった部分が起点となって疲労亀裂が生じ、剥離に至る現象である。
建設機械は、前進と後進を繰り返しながら使用されるため、転がり軸受の回転方向もその度毎に変化する。回転方向が頻繁に変化すると、転動体と軌道輪との間の油膜が切れ易くなり、切れた部分で金属接触が生じるため、前述のように、潤滑油が分解して水素が発生し易くなり、発生した水素が軌道輪および転動体をなす鋼に侵入し易くなる。
従来より、転がり軸受の組織変化型剥離を抑制するための提案がなされている(特許文献1〜3等を参照)。特許文献1および2は、エンジン補機用の転がり軸受に関するものであり、使用する鋼のクロム含有率が2.5〜17%、3〜9%と高いことで、コストが高くなるとともに、熱処理特性と加工性の低下に伴って生産性が低くなる。
(a) 炭素含有率〔C〕が0.90質量%以上1.2質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.20質量%以上0.70質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.30質量%以上1.2質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が0.90質量%以上1.6質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が0.30質量%以下、残部が鉄(Fe)および不可避不純物であり、下記の(1)式で表されるDI値が5.0以上9.0以下を満たす。
DI=(0.18〔C〕+0.16)(0.7〔Si〕+1.0)(3.4〔Mn〕+1.0)(2.2〔Cr〕+1.0)(3.0〔Mo〕+1.0)‥‥(1)
(b) 転走部(内輪および外輪の軌道面部、ころの転動面部)の最大厚さをt(mm)とした時に下記の(2)式を満たす。DI/t≧0.20‥‥(2)
この発明の課題は、風車用軸受や建設機械用軸受のように、組織変化型剥離が生じ易い条件で使用する転がり軸受の転動疲労寿命を、より一層長くすることである。
(1) 炭素含有率〔C〕が0.90質量%以上1.10質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.45質量%以上1.0質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.30質量%以上1.2質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が1.8質量%以上2.4質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が0.40質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が0.20質量%以下、銅含有率〔Cu〕が0.20質量%以下、硫黄含有率〔S〕が0.02質量%以下、リン含有率〔P〕が0.02質量%以下、酸素含有率〔O〕が12質量ppm以下、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、焼入れ焼戻しを行って得られる。
(2) 転がり面(内外輪の軌道面、転動体の転動面)の表面から転動体の直径の0.03倍に相当する深さまでの範囲は、任意の断面で面積320mm2 当たりに存在する直径10μm以上の酸化物系介在物が10個以下であり、ビッカース硬さ(Hv)が697以上800以下であり、残留オーステナイト量が5体積%以上20体積%以下である。
(3) 転がり面(内外輪の軌道面、転動体の転動面)の表面粗さが、粗さ曲線の最大山高さ(Rp)で1.0μm以下である。
〔C〕を0.90質量%以上1.10質量%以下とする理由は以下の通りである。
炭素(C)は、焼入れによって基地(マトリックス)に固溶し、組織をマルテンサイト化することで鋼を強化する元素である。また、他の合金元素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成させ、耐摩耗性を向上させる作用も有する。さらに、オーステナイトを安定化する元素であるため、残留オーステナイト量を多くする作用も有する。
これらの作用を得るために、炭素含有率を0.90質量%以上とする。
ただし、炭素含有率が1.10質量%を超えると、鋼中に粗大な炭化物が生成しやすくなり、靱性および加工性が不十分となる。また、品質安定性の観点から、好ましい範囲は0.95質量%以上1.05質量%以下である。
珪素(Si)は、精鋼時に脱酸剤として作用する。また、基地に固溶して焼入れ性を向上させる作用を有する。さらに、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。珪素含有率が0.45質量%未満であると、その作用が実質的に得られない。
ただし、珪素含有率が1.0質量%を超えると、靱性、冷間加工性および被削性が不十分となる。また、性能と生産性の安定的な向上の観点から、好ましくは0.50質量%以上0.70質量%以下とする。
マンガン(Mn)は、基地に固溶して焼入れ性を向上させる作用を有する。また、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。さらに、オーステナイトを安定化する元素でもあるため、鋼の組織変化の原因となる水素の局所集積を抑制する残留オーステナイト量を多くする作用も有する。マンガン含有率が0.30質量%未満であると、その作用が実質的に得られない。好ましくは0.90質量%以上とする。
ただし、マンガン含有率が1.2質量%を超えると、残留オーステナイト量が多くなり過ぎて寸法安定性が低下する。
クロム(Cr)は、基地に固溶して焼入れ性を向上させる作用を有する。また、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる作用を有する。また、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。クロム含有率が1.8質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られない。
ただし、クロムは高価な元素であるため含有率は少ない方が好ましい。また、クロム含有率が2.4質量%を超えると、化学的に安定した炭化物を形成するために焼入れ温度を高くする必要があるため、生産性が低下する。
モリブデン(Mo)は、基地に固溶して焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。また、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる作用を有する。また、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。さらに、オーステナイトを安定化する元素でもあるため、鋼の組織変化の原因となる水素の局所集積を抑制する残留オーステナイト量を多くする作用も有する。
ただし、モリブデン含有率が0.40質量%を超えると、冷間加工性および被削性が不十分となって、生産性が低下する。また、性能と生産性の安定的な向上の観点から、0.12質量%以上0.27質量%以下であることが好ましい。
ニッケル(Ni)は、基地に固溶して焼入れ性および靱性を向上させる作用を有する。また、オーステナイトを安定化する元素であるため、鋼の組織変化の原因となる水素の局所集積を抑制する残留オーステナイト量を多くする作用を有する。
ニッケルは高価な元素であるため、含有率を0.20質量%以下とする。また、ニッケルは必須成分ではないが、その含有率が0.01質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られないため、ニッケルを含有させる場合にはその含有率を0.01質量%以上とする。
銅(Cu)は、基地に固溶して焼入れ性および粒界強度を向上させる作用を有する。銅は必須成分ではないが、その含有率が0.02質量%未満であるとこれらの作用が実質的に得られないため、銅を含有させる場合にはその含有率を0.02質量%以上とする。
ただし、銅の含有率が0.20質量%を超えると、熱間鍛造性が不十分となって、生産性が低下する。
〔S〕を0.02質量%以下とする理由は以下の通りである。
硫黄(S)は、マンガン(Mn)と結合してMnSを形成し、介在物となるため、その含有率を0.02質量%以下にする。
リン(P)は、結晶粒界に偏析して、粒界強度や破壊靱性を低下させるため、その含有率を0.02質量%以下にする。
〔O〕を12質量ppm以下とする理由は以下の通りである。
酸素(O)は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等と結合してAl2 O3 、MgO、CaO等の酸化物を形成する。これらの酸化物は介在物となり、剥離の起点となるため、その含有率を12質量ppm以下にする。
この発明の転がり軸受は、軸受部品(内輪、外輪、転動体のいずれか)の表層部の性状を構成(2) のように特定している。
先ず、性状を特定する表層部を、転がり面の表面から転動体の直径(ころの場合は、最大直径)の0.03倍に相当する深さ(3%D)までの範囲(以下、この範囲を「3%D表層部」と称する。)に設定している。
鋼に大きな非金属介在物が存在すると、介在物の周りに応力が集中して、介在物を起点とした疲労亀裂が生じ、剥離の原因となる。また、鋼に侵入した水素は応力集中部に集積し易いため、大きな非金属介在物の周りには鋼の組織変化も生じ易い。
これらの観点から、介在物を起点とした疲労亀裂が生じることを抑制するために、3%D表層部での任意の断面で面積320mm2 当たりに存在する直径10μm以上の酸化物系介在物を10個以下としている。
3%D表層部でのビッカース硬さ(Hv)を697以上とすることで、鋼に水素が侵入した場合でも局所的な塑性変形が生じ難くなるため、水素による組織変化を抑制できる。これは、水素による組織変化が鋼に局所的な塑性変形が生じることで引き起こされるという知見に基づく。3%D表層部でのビッカース硬さが800を超えると、転がり面に必要な破壊靱性値が得られない。
3%D表層部での残留オーステナイト量を5体積%以上とすることで、残留オーステナイトによる鋼の組織変化を抑制する作用を得る。3%D表層部での残留オーステナイト量が20体積%を超えると、寸法安定性が不良となる。なお、鋼の組織変化を抑制する作用と寸法安定性を安定的に向上させる観点から、好ましい範囲は10体積%以上15体積%以下である。
転がり面の表面粗さが粗いと、油膜が切れ易くなり、油膜が切れた部分で軌道輪と転動体が金属接触し、組織変化の原因となる潤滑油の分解や水素の侵入が生じ易くなる。通常、転がり軸受の転がり面の表面粗さは算術平均粗さ(Ra)で管理されているが、粗さ曲線の最大山高さ(Rp)の方が油膜の切れ易さの指標としては適している。そして、転がり面の表面粗さが粗さ曲線の最大山高さ(Rp)で1.0μmを超えると、油膜が切れて部分的な金属接触が生じ易くなるため、1.0μm以下とした。
転動体の直径が30mm以上の転がり軸受は、軌道輪と転動体の接触面積が大きいため油膜が安定して形成されにくくなり、局所的に金属接触が生じやすいことに起因して、潤滑油が分解して水素が発生し易くなり、発生した水素が軌道輪および転動体をなす鋼に侵入し易くなる。
転がり軸受の回転方向が頻繁に変化する用途では、転動体と軌道輪との間の油膜が切れ易くなり、切れた部分で金属接触が生じるため、潤滑油が分解して水素が発生し易くなり、発生した水素が軌道輪および転動体をなす鋼に侵入し易くなる。
また、風力発電用風車の変速機の入出力軸(増速機の回転軸)を支持する用途は、歯車で動力を伝達する変速機の軸を支持し、軸に作用するトルクの方向が一時的に変化する用途に含まれ、建設機械の車軸を支持する用途は、転がり軸受の回転方向が頻繁に変化する用途に含まれる。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の玉軸受を示す断面図である。この玉軸受は、内輪1、外輪2、ボール(転動体)3、および保持器4で構成されている。
図1の形状の玉軸受として、呼び番号「6317」の玉軸受(内径:85mm、外径:180mm、幅:41mm、ボール直径:30.2mm)を作製する。
外輪2とボール3は、SUJ2製の素材を用い、通常の方法で作製した。内輪1は以下の方法で作製した。内輪1用の素材として、表1の鋼種A〜Lからなる円柱状の素材をそれぞれ用意した。なお、鋼種HはSUJ2である。
得られた内輪1、外輪2、ボール3と、一般的な鋼板の打ち抜き形の保持器4を用いて、図1の玉軸受を各3体組み立てて、以下の条件で回転試験を行い、内輪1、外輪2、ボール3のいずれかに剥離等の破壊が生じるまでの時間(寿命)を調べた。また、剥離が生じている面に組織変化が有るかどうかを光学顕微鏡で観察した。
ラジアル荷重:79.8kN
回転速度:2000min-1
潤滑剤:高トラクション油(分解して水素が生じ易い潤滑油)
各サンプルの3体の軸受寿命の平均値(平均寿命)を算出し、各サンプルの平均寿命から、サンプルNo. 1−13の平均寿命を「1」とした相対値を算出した。その結果も表2に併せて示す。
また、得られた内輪1の軌道面を含む一部を切り出し、切断面を鏡面に研磨してビッカース硬さ測定用の試験片を作製した。この試験片を用い、マイクロビッカース硬さ測定機により、軌道面の3%D表層部のビッカース硬さを10カ所で測定し、10カ所の測定値の平均値を算出した。
また、得られた内輪1の軌道面の表面粗さを、軸方向の8カ所で、軸方向に各4mmの長さで測定し、算術平均粗さ(Ra)と粗さ曲線の最大山高さ(Rp)を調べた。
これらの結果を表2に併せて示す。
なお、表2の「寿命(相対値):4.0以上」は、サンプルNo. 1−13の寿命の4.0倍以上の時間が経過しても剥離が生じなかったため、試験を打ち切ったことを示す。また、剥離は全て内輪に生じ、剥離が生じていた軌道面には組織変化が生じていた。
No. 1−1〜1−10は前記構成(1) および(2) を満たすものであるが、このうち鋼種A〜Cからなる素材を用いたNo. 1−1〜1−6は、鋼種A〜Cが〔C〕、〔Si〕、〔Mn〕、〔Mo〕の全てが好ましい範囲(0.95≦〔C〕≦1.05、0.50≦〔Si〕≦0.70、0.90≦〔Mn〕≦1.2、0.12≦〔Mo〕≦0.27)を満たすため、No. 1−13の4.0倍以上の寿命が得られた。
なお、この実施形態では玉軸受について説明しているが、この発明の転がり軸受はころ軸受も含むことは言うまでもない。また、この実施形態の玉軸受やこれと同程度の寸法の玉軸受やころ軸受は、風車の増速機(変速機)の回転軸を支持する用途や、建設機械の車軸および変速機の回転軸を支持する用途で使用される。
2 外輪
3 ボール(転動体)
4 保持器
Claims (5)
- 内輪、外輪、および転動体の少なくとも何れかは、
炭素含有率〔C〕が0.90質量%以上1.10質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.45質量%以上1.0質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.30質量%以上1.2質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が1.8質量%以上2.4質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が0.40質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が0.20質量%以下、銅含有率〔Cu〕が0.20質量%以下、硫黄含有率〔S〕が0.02質量%以下、リン含有率〔P〕が0.02質量%以下、酸素含有率〔O〕が12質量ppm以下、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、焼入れ焼戻しを行って得られ、
転がり面の表面から転動体の直径の0.03倍に相当する深さまでの範囲は、任意の断面で面積320mm2 当たりに存在する直径10μm以上の酸化物系介在物が10個以下であり、ビッカース硬さ(Hv)が697以上800以下であり、残留オーステナイト量が5体積%以上20体積%以下であることを特徴とする転がり軸受。 - 転がり面の表面粗さが粗さ曲線の最大山高さ(Rp)で1.0μm以下である請求項1記載の転がり軸受。
- 転動体の直径が30mm以上である請求項1または2記載の転がり軸受。
- 風力発電用風車の回転軸を支持する用途で使用される請求項1または2記載の転がり軸受。
- 建設機械の回転軸を支持する用途で使用される請求項1または2記載の転がり軸受。
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