車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト)を付与する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助トルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、電流指令値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティ比の調整で行っている。
このような電動パワーステアリング装置の一般的な構成を、図1を参照して説明する。ハンドル1のコラム軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4A及び4B、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクをトーションバーの捩れに応じて検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が、減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット100にはバッテリ14から電力が供給されると共に、イグニッションキー11を経てイグニッションキー信号が入力される。コントロールユニット100は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Velとに基づいてアシスト指令の電流指令値Iの演算を行い、演算された電流指令値Iに基づいてモータ20に供給する電流を制御する。
コントロールユニット100は主としてCPU(又はMPUやMCU)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、図2のようになっている。
図2を参照してコントロールユニット100の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出されて入力される操舵トルクT及び車速センサ12からの車速Velは制御演算部101に入力され、アシストマップを用いて操舵補助指令値が演算され、電流検出回路102から入力されたモータ電流iとの偏差を求め、偏差を0に近づけるためにフィードバック等の電流制御が行われて電圧制御値Eが算出され、算出された電圧制御値EはFETゲート駆動回路103に入力される。FETゲート駆動回路103は、入力された電圧制御値Eに基づいてモータ20を駆動する。
このような電動パワーステアリング装置において、トルクセンサ系の異常(故障を含む)は操舵アシストに大きな影響を与えるため、メイン及びサブの2重系(冗長構成)とすることが多い。また、トルクセンサ10は使用頻度が高いため、耐久性の点から非接触式トルクセンサを使用することが多く、その構成例を図3に示して説明する。
トルクセンサ系は、2個の検出コイルから成る検出コイル部と、トルクセンサ回路とから構成されている。コントロールユニット100は、電源電圧V及び基準電圧Vrefをコネクタ41及びノイズフィルタ40を経てトルクセンサ系の各回路要素に供給している。
検出コイル部は検出コイル34及び検出コイル35で構成されており、それぞれの出力信号を兼用する励磁信号Exsa及びExmaが供給される。励磁信号Exsa及びExmaは、所定周波数で発振する発振部31からの発振信号を電流増幅部32で増幅し、電流増幅部32で増幅された励磁信号Esから、抵抗R1を経て生成される励磁信号Exsは抵抗R3及び差動増幅部36aに入力され、電流増幅部32で増幅された励磁信号Esから、抵抗R2を経て生成される励磁信号Exmは抵抗R4及び差動増幅部36aに入力される。抵抗R3からの励磁信号Exsaは検出コイル34及び差動増幅部36bに入力され、抵抗R4からの励磁信号Exmaは検出コイル35及び差動増幅部36bに入力されている。
差動増幅部36aの差動出力Dsは全波整流部37aに入力され、差動増幅部36bの差動出力Dmは全波整流部37bに入力されて整流される。電流増幅部32で増幅された励磁信号Esは全波整流部37a及び全波整流部37bに入力される。全波整流部37a及び37bで、励磁信号Esに同期して全波整流された信号がそれぞれ中立調整用の平滑・中立調整部38a及び38bに入力され、平滑・中立調整部38a及び38bで平滑化された信号がメイン操舵トルクTM及びサブ操舵トルクTSとして、更にノイズを除去するためのノイズフィルタ40及びコネクタ41を介して、コントロールユニット100に入力される。
このような構成において、検出コイルに短絡又は天絡等の異常(故障を含む)が発生すると、ハンドルにかかる操舵トルクを正確に検出できなくなるため、アシスト制御に影響を与える。そこで、トルクセンサ系の異常(故障を含む)を確実に検出する必要がある。
トルクセンサ系の異常(故障を含む)を検出する手法として、特許文献1には、一対の検出コイル端子部に表れる交流電圧の差分電圧の波形との位相差を検出し、位相差が所定の値を超えたとき検出コイル抵抗が異常であると判定する監視回路を設けているトルクセンサが開示されている。また、特許文献2には、トルク検出のためのコイルの駆動タイミング及びサンプルホールドのタイミングを可変する制御演算部と、センサ各部の初期値を記憶する記憶部とを具備し、コイルの過渡電圧のサンプリングに基づいてトルクを検出すると共に、トルク検出を行っていないサンプルホールドの合間に、記憶部の初期値と比較することによってセンサ各部の故障を検知するトルクセンサが記載されている。
メイン及びサブの2重系検出コイルを有するトルクセンサを搭載した電動パワーステアリング装置では、検出コイル部の一対の検出コイルの電源側間の短絡が発生した場合、トルクセンサ10により検出されたメイン操舵トルクTM及びサブ操舵トルクTSは常に中立位置相当である。しかし、車両が旋回状態であるときには実際の操舵トルクは中立位置相当の値ではない。そこで、検出されたメイン操舵トルクTMが中立位置相当であり、かつ車両が旋回状態であるとき、2つの検出コイルの電源側端子に短絡が発生したと判定することができる。車両の旋回状態の判定に用いる旋回信号としては、舵角を検出する舵角センサの検出信号、モータのロータの回転位置を検出するレゾルバの検出信号、車輪速センサの検出信号により推定された舵角推定値等が挙げられる。
更に、トルクセンサ10の異常(故障を含む)が発生しても、アシスト制御を継続する必要がある場合もあり、特に大型車両ではアシスト制御を急に停止すると、ドライバに大きな違和感を与える可能性がある。このため、本発明では、上述した旋回信号を利用してトルクセンサ検出代替値を算出し、算出されたトルクセンサ検出代替値に基づいてできるだけアシスト制御を継続するようにしている。
以下、本発明に係る電動パワーステアリング装置について図面を参照しながら具体的に説明する。
(実施形態1)
図4は実施形態1の電動パワーステアリング装置の概要を図1に対応させて示しており、車両の旋回状態を示す旋回信号として、コラム軸2に設けられた舵角センサ13により検出された舵角θが用いられている。
図5は実施形態1に係る電動パワーステアリング装置の制御系の一例を示すブロック図であり、制御演算部101は、操舵補助指令値演算部101−1と、減算部101−2と、電流制御部101−3と、異常検出部101−4と、電源端子間短絡検出部101−5Aと、アシスト継続判断部101−6と、トルクセンサ検出代替値算出部101−7Aと、操舵トルク切換部101−8とを備えている。
操舵補助指令値演算部101−1は、操舵トルク切換部101−8から入力された操舵トルクT0及び車速センサ12により検出された車速Velに基づいて、アシストマップを用いて操舵補助指令値Iを算出し、減算部101−2へ入力している。
減算部101−2は、電流指令値Iと電流検出回路102により検出されたモータ20の電流iとの偏差ΔI(=I−i)を求め、偏差ΔIは電流制御部101−3で制御され、制御された電流制御値EはFETゲート駆動回路103に入力されてモータ20をPWM駆動している。
異常検出部101−4は、トルクセンサ10の検出信号であるメイン操舵トルクTM及びサブ操舵トルクTSを入力し、2つの検出コイルの電源端子間の短絡以外のトルクセンサ系の異常(故障を含む)を検出し、検出結果を異常フラグFL2としてアシスト継続判断部101−6に入力している。異常検出部101−4は、例えば特許文献1で示されるように、印加した交流電圧の波形と、1対の検出コイル端子部に表れる交流電圧の差分電圧の波形との位相差を検出し、位相差が所定値を超えたときに検出コイル抵抗が異常であると判定する。また、特許文献2に示されるように、トルク検出のためのコイルの駆動タイミング及びサンプルホールドのタイミングを可変する制御演算部と、センサ各部の初期値を記憶する記憶部とを具備し、コイルの過渡電圧のサンプリングに基づいてトルクを検出すると共に、トルク検出を行っていないサンプルホールドの合間に、記憶部の初期値と比較することによってセンサ各部の故障を検知するようにしても良い。このようにして、異常が検出されたときに異常フラグFL2を「1」にセットし、異常が発生していないときに異常フラグFLを「0」にセットする。
電源端子間短絡検出部101−5Aはメイン操舵トルクTMを入力すると共に、舵角センサ13により検出された舵角θを入力している。メイン操舵トルクTMが中立位置相当であり、かつ舵角θが「0」でないときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生したと判定し、短絡確定フラグFL1を「1」にセットする。メイン操舵トルクTMが中立位置相当でないとき、又は舵角θが「0」であるときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生していないと判定し、短絡確定フラグFL1を「0」にセットする。短絡確定フラグFL1はアシスト継続判断部101−6に入力されている。
アシスト継続判断部101−6は、異常検出部101−4からの異常フラグFL2及び電源端子間短絡検出部101−5Aからの短絡確定フラグFL1を用いて、アシスト継続判断基準に基づいてアシスト制御を継続するか否かを判断する。「正常にメイン操舵トルクTMに基づいてアシスト制御を継続する」、「アシスト制御を停止する」、「トルクセンサ検出代替値を利用してアシスト制御を継続する」の判断結果は、それぞれ切換信号SW=0、SW=1、SW=2として操舵トルク切換部101−8に入力されている。
トルクセンサ系の異常が検出された場合に、アシスト制御を継続すると判断したときには、メイン操舵トルクTMを信用できないことになるので、アシストを継続するために操舵トルクとして代用するトルクセンサ検出代替値TMaを算出することが必要である。トルクセンサ検出代替値算出部101−7Aは、舵角センサ13により検出された舵角θの2階微分である角加速度d(dθ)によりトルクセンサ検出代替値TMaを算出するようにしている。
トルクセンサ10の正常時の出力特性は図6に示すようになっている。横軸はハンドルにかかる操舵トルクTであり、縦軸は出力電圧Vである。メイン操舵トルクTMとサブ操舵トルクTSの特性を数式で表すと下記数1となる。
なお、第1象限(メイン操舵トルクTM)及び第4象限(サブ操舵トルクTS)の領域は右操舵時の特性であり、第3象限(メイン操舵トルクTM)及び第2象限(サブ操舵トルクTS)の領域は左操舵時の特性である。
これに対し、運動の第2法則により操舵トルクT(メイン操舵トルクTM、サブ操舵トルクTS)は、舵角θの2階微分である角加速度d(dθ)と下記数2に示す関係がある。
数1及び数2より、トルクセンサ検出代替値TMaである代替出力電圧V’と角加速度d(dθ)の関係は下記数3であり、横軸を角加速度d(dθ)、縦軸を代替出力電圧V’とした図7で示される線形特性である。
従って、上記数3に示される線形特性に基づいて、代替出力電圧V’が算出されてトルクセンサ検出代替値TMaとして操舵トルク切換部101−8に入力されている。
また、操舵トルク切換部101−8では、入力された切換信号SWに基づいて入力を切り換え、出力される操舵トルクT0を操舵補助指令値演算部101−1に入力している。すなわち、操舵トルク切換部101−8は、切換信号SW=0であるときに、トルクセンサ10により検出されたメイン操舵トルクTMを操舵トルクT0として出力し、切換信号SW=1であるときに、「0」を操舵トルクT0として出力し、切換信号SW=2であるときに、トルクセンサ検出代替値算出部101−7Aにより算出されたトルクセンサ検出代替値TMaを操舵トルクT0として出力している。
このような構成において、その動作例を図8に示すフローチャートに基づいて説明する。
異常検出ルーチンに入ると、先ずアシスト継続判断部101−6は、1サンプリング前の電源端子間短絡検出部101−5Aからの短絡確定フラグFL1又は異常検出部101−4からの異常フラグFL2が「1」であるか否かを判定する(ステップS1)。ここでは、短絡確定フラグFL1=1又は異常フラグFL2=1であるときにトルクセンサ10の異常が確定され、ステップS7に移行する。上記ステップS1において、短絡確定フラグFL1=0かつ異常フラグFL2=0であると判定されたときには、電源端子間短絡検出部101−5Aはトルクセンサ10の検出信号であるメイン操舵トルクTM及び舵角センサ13の検出信号である舵角θを読み込み(ステップS2)、メイン操舵トルクTMが中立位置相当の範囲内であるか否かを判定する(ステップS3)。メイン操舵トルクTMが中立位置相当である場合は、舵角θが「0」であるか否か、つまり車両が旋回状態であるか否かを判定する(ステップS4)。舵角θが「0」でないとき、つまりハンドルが中立位置ではないにも拘らず、メイン操舵トルクTMが中立位置相当であるときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生したと判定し、短絡確定フラグFL1を「1」にセットしてアシスト制御継続部101―6に入力する(ステップS5)。
一方、上記ステップS3及びステップS4の条件のいずれか一方又は両方を満たさないとき、すなわちメイン操舵トルクTMが中立位置相当ではないとき、又は舵角θが「0」であるときには、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生していないと判定し、短絡確定フラグFL1を「0」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する(ステップS6)。アシスト継続判断部101−6は、切換信号SW=0を操舵トルク切換部101−8に入力し、操舵トルク切換部101−8は、トルクセンサ10により検出されたメイン操舵トルクTMを操舵トルクT0として操舵補助指令値101−1に入力し、操舵トルクT0(メイン操舵トルクTM)に基づいてアシスト制御を継続する(ステップS13)。
トルクセンサ10の異常が発生したと判定した場合に、アシスト継続判断部101−6は、アシスト制御を継続するか否かを判断し(ステップS7)、アシスト制御を継続しないと判断したときに切換信号SW=1を操舵トルク切換部101−8に入力し、操舵トルク切換部101−8は、操舵トルクT0を「0」に切り換えて操舵補助指令値演算部31に入力し、アシスト制御を停止する(ステップS12)。
一方、トルクセンサ10の異常が発生したと判定しても、アシスト制御を継続すると判断したときに、アシスト継続判断部101−6は切換信号SW=2を操舵トルク切換部101−8に入力し、トルクセンサ検出代替値算出部101−7Aは、舵角θの2階微分である角加速度d(dθ)を算出し(ステップS8)、算出された角加速度d(dθ)に基づいて上記数3によりトルクセンサ検出代替値TMaを算出して操舵トルク切換部101−8に入力する(ステップS9)。操舵トルク切換部101−8は、切換信号SW=2に応じて操舵トルクT0をトルクセンサ検出代替値TMaに切り換えて操舵補助指令値演算部101−1へ入力し、操舵トルクT0(トルクセンサ検出代替値TMa)に基づいて、モータ20を駆動するための電圧制御値Eが算出されてFETゲート駆動部103へ入力され(ステップS10)、FETゲート駆動部103は電圧制御値Eに基づいてアシスト制御を継続する(ステップS11)。
このように本実施形態1によれば、2つの検出コイルの電源側端子間の短絡等のトルクセンサ系の異常が検出され、アシスト制御を継続する場合に、トルクセンサ検出代替値TMaがコントロールユニット100に入力されるので、正常時にトルクセンサ10から出力されるメイン操舵トルクTMと同じ形態であり、現行のコントロールユニット100の制御ロジックからの変更を最小限にすることができる。
(実施形態2)
実施形態1では、車両の旋回状態を示す旋回信号として、舵角センサ13により検出された舵角θを用いているが、モータ20のロータの回転位置を検出するレゾルバの検出信号を用いることも可能である。
実施形態2に係る電動パワーステアリング装置の構成を、図5に対応させて図9に示して説明する。同一部材には同一符号を付して説明を省略する。本実施形態2では、舵角センサ13の代わりに、モータ20にレゾルバ47が連結されていると共に、レゾルバ信号をディジタルのロータ回転位置RSに変換するレゾルバディジタル変換回路(RDC)48が設けられており、ロータ回転位置RSは電源端子間短絡検出部101−5Bに入力されている。
電源端子間短絡検出部101−5Bは、メイン操舵トルクTMを入力すると共に、ロータ回転位置RSを旋回信号として入力している。メイン操舵トルクTMが中立位置相当であり、かつ回転位置RSが「0」でないときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生したと判定し、短絡確定フラグFL1を「1」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する。メイン操舵トルクTMが中立位置相当でないとき、又は回転位置RSが「0」であるときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生していないと判定し、短絡確定フラグFL1を「0」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する。
トルクセンサ検出代替値算出部101−7Bは、レゾルバの検出信号であるロータ回転位置RSを用いてトルクセンサ検出代替値TMaを算出して操舵トルク切換部101−8に入力している。
トルクセンサ検出代替値TMaの算出方法としては、任意の時間内におけるロータ回転位置RSの変化量を角加速度として算出し、上記数式3によりトルクセンサ検出代替値TMaを算出する方法を採用することが可能である。
このような構成の電動パワーステアリング装置の動作例を図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
異常検出ルーチンに入ると、先ずアシスト継続判断部101−6は、1サンプリング前の電源端子間短絡検出部101−5Bからの短絡確定フラグFL1又は異常検出部101−4からの異常フラグFL2が「1」であるか否かを判定する(ステップS20)。ここでは、短絡確定フラグFL1=1又は異常フラグFL2=1であるときにトルクセンサ10の異常が確定され、ステップS25に移行する。上記ステップS20において、短絡確定フラグFL1=0かつ異常フラグFL2=0であると判定されたときには、電源端子間短絡検出部101−5Bは、トルクセンサ10の検出信号であるメイン操舵トルクTM及びレゾルバ47の検出信号であるロータ回転位置RSを読み込み(ステップS21)、メイン操舵トルクTMが中立位置相当の範囲内であるか否かを判定する(ステップS22)。メイン操舵トルクTMが中立位置相当である場合は、ロータ回転位置RSが「0」であるか否か、つまり車両が旋回状態であるか否かを判定する(ステップS23)。ロータ回転位置RSが「0」でないとき、つまりハンドルが中立位置ではないにも拘らず、メイン操舵トルクTMが中立位置相当であるときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生したと判定し、短絡確定フラグFL1を「1」にセットしてアシスト制御継続部101−6に入力する(ステップS24)。
一方、上記ステップS22及びステップS23の条件のいずれか一方又は両方を満たさないとき、すなわちメイン操舵トルクTMが中立位置相当ではないとき、又はロータ回転位置RSが「0」であるときには短絡が発生していないと判定し、短絡確定フラグFL1を「0」にセットし(ステップS30)、アシスト継続判断部101−6は切換信号SW=0を操舵トルク切換部101−8に入力し、操舵トルク切換部101−8は、トルクセンサ10により検出されたメイン操舵トルクTMを操舵トルクT0として操舵補助指令値101−1に入力し、操舵トルクT0(メイン操舵トルクTM)に基づいてアシスト制御を継続する(ステップS32)。
トルクセンサ10の異常が発生したと判定した場合に、アシスト継続判断部101−6は、アシスト制御を継続するか否かを判断し(ステップS25)、アシスト制御を継続しないと判断したときに切換信号SW=1を操舵トルク切換部101−8に入力し、操舵トルク切換部101−8は、「0」である操舵トルクT0を操舵補助指令値演算部31に入力し、アシスト制御を停止する(ステップS31)。
一方、トルクセンサ10の異常が発生したと判定しても、アシスト制御を継続すると判断したときに、アシスト継続判断部101−6は切換信号SW=2を操舵トルク切換部101−8に入力し、トルクセンサ検出代替値算出部101−7Bは、ロータ回転位置RSを利用してトルクセンサ検出代替値TMaを算出して操舵トルク切換部101−8に入力する(ステップS26)。操舵トルク切換部101−8は、切換信号SW=2に応じて操舵トルクT0をトルクセンサ検出代替値TMaに切り換えて操舵補助指令値演算部101−1へ入力し、操舵トルクT0(トルクセンサ検出代替値TMa)に基づいて、モータ20を駆動するための電圧制御値Eが算出されてFETゲート駆動部103へ入力され(ステップS27)、FETゲート駆動部103は電圧制御値Eに基づいてアシスト制御を継続する(ステップS28)。
(実施形態3)
実施形態3では、車両の旋回状態を示す旋回信号として、レゾルバ47の検出信号及び車輪速センサ23の検出信号により推定された舵角推定値θsを用いている。
実施形態3に係る電動パワーステアリング装置の構成を、図5に対応させて図11に示して説明する。同一部材には同一符号を付して説明を省略する。本実施形態3では、モータ20と連結されているレゾルバ47と、レゾルバ信号をディジタルのロータ回転位置RSに変換するレゾルバディジタル変換回路(RDC)48と、車輪速Wを検出する車輪速センサ23と、車輪速Wに基づいて舵角推定値θsを推定する舵角推定部24を備えている。
レゾルバディジタル変換回路(RDC)48は、レゾルバ信号をロータ回転位置RSに変換して電源端子間短絡検出部101−5Cに入力している。
舵角推定部24は、車輪速センサ23により検出された車輪速Wを入力し、車輪速Wに基づいて舵角推定値θsを算出して制御演算部101の電源端子間短絡検出部101−5Cに入力している。舵角推定値θsの推定方法については、例えば特許文献3に記載されている舵角と、各車輪の速度、車両の車軸距離及び車幅との関係に基づいて、舵角推定値θsを推定する方法を利用することができる。この関係は下記数4に示すように、各車輪の速度を検出すれば舵角を推定することができる。
電源端子間短絡検出部101−5Cは、メイン操舵トルクTMを入力すると共に、ロータ回転位置RS及び舵角推定値θsを旋回信号として入力している。メイン操舵トルクTMが中立位置相当であり、かつ回転位置RS及び舵角推定値θsが「0」でないときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生したと判定し、短絡確定フラグFL1を「1」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する。メイン操舵トルクTMが中立位置相当でないとき、又は回転位置RS若しくは舵角推定値θsが「0」であるときに、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生していないと判定し、短絡確定フラグFL1を「0」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する。
トルクセンサ検出代替値算出部101−7Cは、ロータ回転位置RS又は舵角推定値θsが「0」を用いてトルクセンサ検出代替値TMaを算出して操舵トルク切換部101−8に入力している。
トルクセンサ検出代替値TMaの算出方法については、ロータ回転位置RSを利用する場合は、実施形態2と同じで任意の時間内におけるロータ回転位置RSの変化量を角加速度として算出し、上記数式3によりトルクセンサ検出代替値TMaを算出する。舵角推定値θsを利用する場合は、舵角推定値θsを算出した後に、任意の時間内における舵角推定値角加速度d(dθs)を算出し、上記数式3によりトルクセンサ検出代替値TMaを算出する。
このような構成において、その動作例を図12に示すフローチャートに基づいて説明する。
異常検出ルーチンに入ると、先ずアシスト継続判断部101−6は、1サンプリング前の電源端子間短絡検出部101−5Cからの短絡確定フラグFL1又は異常検出部101−4からの異常フラグFL2が「1」であるか否かを判定する(ステップS40)。ここで、短絡確定フラグFL1=1又は異常フラグFL2=1である場合、トルクセンサ系の異常が確定され、ステップS48に移行する。上記ステップS40において、短絡確定フラグFL1=0かつ異常フラグFL2=0である場合は、車速Velが「0」であるか否かを判定し(ステップS41)、車速が「0」であるときに電源端子間短絡検出部101−5Cは、トルクセンサ10の検出信号であるメイン操舵トルクTM及びレゾルバ47の検出信号であるロータ回転位置RSを入力し(ステップS42)、車速Velが「0」でないときには、舵角推定部24は車輪速センサ23により検出された車輪速Wに基づいて舵角推定値θsを推定し(ステップS43)、電源端子間短絡検出部101−5Cは推定された舵角推定値θs及びメイン操舵トルクTMを入力する(ステップ44)。メイン操舵トルクTMが中立位置相当の範囲内であるか否かを判定する(ステップS45)。メイン操舵トルクTMが中立位置相当である場合は、電源端子間短絡検出部101−5Cに入力されたロータ回転位置RS及び舵角推定値θsが「0」であるか否か、つまり車両が旋回状態であるか否かを判定する(ステップS46)。ロータ回転位置RS及び舵角推定値θsが「0」でないとき、2つの検出コイルの電源端子間の短絡が発生したと判定し、短絡確定フラグFL1を「1」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する(ステップS47)。
一方、上記ステップS45及びステップS46の条件のいずれか一方又は両方を満たさないとき、すなわちトルクセンサ10の検出信号が中立位置相当ではないとき、又は回転位置RS若しくは舵角推定値θsが「0」であるときには短絡が発生していないと判定し、短絡確定フラグFL1を「0」にセットしてアシスト継続判断部101−6に入力する(ステップS53)。アシスト継続判断部101−6は切換信号SW=0を操舵トルク切換部101−8に入力し、操舵トルク切換部101−8は、トルクセンサ10により検出されたメイン操舵トルクTMを操舵トルクT0として操舵補助指令値101−1に入力し、操舵トルクT0(メイン操舵トルクTM)に基づいてアシスト制御を継続する(ステップS55)。
トルクセンサ10の異常が発生したと判定した場合に、アシスト継続判断部101−6は、アシスト制御を継続するか否かを判断し(ステップS48)、アシスト制御を継続しないと判断したときに切換信号SW=1を操舵トルク切換部101−8に入力し、操舵トルク切換部101−8は、操舵トルクT0を「0」に切り換えて操舵補助指令値演算部31に入力し、アシスト制御を停止する(ステップS54)。
一方、トルクセンサ10の異常が発生したと判定しても、アシスト制御を継続すると判断したときに、アシスト継続判断部101−6は切換信号SW=2を操舵トルク切換部101−8に入力し、トルクセンサ検出代替値算出部101−7Cは、ロータ回転位置RS又は舵角推定値θsを利用してトルクセンサ検出代替値TMaを算出して操舵トルク切換部101−8に入力する(ステップS50)。操舵トルク切換部101−8は、操舵トルクT0をトルクセンサ検出代替値TMaに切り換えて出力し、操舵トルクT0(トルクセンサ検出代替値TMa)に基づいてモータ20を駆動するための電圧制御値Eを算出してFETゲート駆動部103へ入力し(ステップS51)、算出された電圧制御値Eに基づいてアシスト制御を継続する(ステップS52)。
上述した実施形態1〜3では、車両が旋回状態であるか否かを判定するために、舵角センサ13により検出された舵角θ、又はレゾルバ47により検出されたモータのロータ回転位置RS、又は車輪速センサ23の検出信号により推定された舵角推定値θsを「0」と比較するようにしているが、信号の読み込み誤差等を考慮すると、「0」と等しいであるか否かという判定条件の代わりに、0以上かつ所定値以内であるか否かを判定条件にすることも可能である。
また、上述した実施形態1〜3では、トルクセンサ10の異常が発生してもアシスト制御を継続する場合に、車両の旋回状態を示す旋回信号を利用してトルクセンサ検出代替値TMaを算出し、算出されたトルクセンサ検出代替値TMaに基づいてアシスト制御を継続しているが、算出されたトルクセンサ検出代替値TMaに基づいて演算されたアシスト量を、必要に応じてオフセット、ゲイン等の制限手段により制限してからモータ20を駆動制御しても良い。