JP2012014877A - フッ化黒鉛リチウム電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】低温環境下における放電初期および高温保存後の大電流放電特性に優れたフッ化黒鉛リチウム電池を提供する。
【解決手段】本発明のフッ化黒鉛リチウム電池10は、正極活物質を含む正極11と、正極11と対向する面に形成されたカーボン層14を含む負極12と、正極11および負極12の間を隔離するセパレータ15と、非水電解液と、を備える。正極活物質は、式:(CFxn (0.95≦x≦1.15、nは1以上の整数)で表される第1フッ化黒鉛と、式:(CFym (0.25≦y≦0.9、mは1以上の整数)で表される第2フッ化黒鉛と、を含む。非水電解液の非水溶媒は、プロピレンカーボネートを非水溶媒の全体積に対して15〜60体積%含む。
【選択図】図1

Description

本発明は、フッ化黒鉛リチウム電池に関する。
リチウム一次電池は起電力およびエネルギー密度が高い。このため、携帯機器、車載用電子機器などの電子機器の主電源やメモリーバックアップ用電源として、使用環境温度が人の生活域をベースとした−20℃〜60℃程度である機器に、従来から広く用いられている。しかし、近年、電池を用いた機器の応用範囲は拡大しており、機器の使用温度範囲も拡大する傾向にある。例えば、車載用機器においては、使用環境温度を最大125℃と想定した場合であっても一定期間は機能を保つことができ、かつ、−40℃程度の低温環境下であっても動作する一次電池が要望されている。
リチウム一次電池は、二酸化マンガン、フッ化黒鉛などの正極活物質を含む正極と、リチウムまたはリチウム合金を含む負極と、正極および負極の間を隔離するセパレータと、非水電解液とを含む。また、リチウム一次電池は、放電初期に電圧が降下した後、緩やかに電圧が上昇するという放電特性を示す。リチウム一次電池の性能は、放電初期の電圧降下の度合が大きいほど低く、このような放電特性は、低温環境下および大電流放電時において顕著になる。
正極活物質として二酸化マンガンを用いた二酸化マンガンリチウム電池は、放電初期の電圧降下が比較的小さく、大電流放電特性に優れている。しかし、二酸化マンガンは反応性が高く、特に85℃以上の環境下では、電池内の微量の水分と反応する。その結果、電池が膨れて、電池内部の緊迫が不十分となることから、放電特性が低下する。従って、二酸化マンガンリチウム電池は、60℃程度までの従来の温度範囲での使用が推奨される。
一方、正極活物質としてフッ化黒鉛を用いたフッ化黒鉛リチウム電池は、フッ化黒鉛と非水電解液との反応性が低い。さらに、正極活物質由来のフッ素原子により、負極表面において絶縁性のフッ化リチウムが生成することから、負極と非水電解液との反応性も低くなる。そのため、二酸化マンガンリチウム電池に比べて放電初期の電圧降下が大きく、このような傾向は、特に低温環境下や大電流放電時において顕著になる。
一方、フッ化黒鉛リチウム電池は、100℃以上の高温環境下においても電池性能が安定している。そこで、このような特徴を維持しながら、低温環境下や大電流放電時の放電特性を改善する取り組みがなされている。
特許文献1は、表面のフッ素原子と炭素原子との濃度比([F]/[C])が1.0以上1.8未満であるフッ化黒鉛を用いたフッ化黒鉛リチウム電池を開示している。このようなフッ化黒鉛は、粒子表面において撥油性の高いフッ素原子の存在割合が低いことから、−40℃のような低温環境下においても非水電解液に対する濡れ性が向上しており、また、表面の導電性も向上している。このため、低温環境下においても優れた大電流放電特性を得ることができる。また、高温保存特性や放電容量を低下させることなく、放電初期における電圧降下を抑制することができる。
特許文献2は、式:(CFxn (0.95≦x≦1.05)で表される高フッ素化フッ化黒鉛と、式:(CFyn (0.45≦y≦0.90)で表される低フッ素化フッ化黒鉛の混合物を正極活物質として用いたフッ化黒鉛リチウム電池を開示している。同文献において、低フッ素化フッ化黒鉛は、フッ素化炭素と未フッ素化炭素とからなり、その状態は、未フッ素化炭素がフッ素化された炭素に覆われた状態であって、表面はフッ素化されており、中心部は未反応の炭素が残っている。また、低フッ素化フッ化黒鉛のフッ素化されている部分と未反応部分との間には、フッ素と炭素の結合状態の弱いものが含まれている。そのため、このようなフッ化黒鉛の電位は、完全にフッ素化されたフッ化黒鉛と比べて高くなり、放電電圧も向上する。これにより、同文献に開示のフッ化黒鉛リチウム電池は、安定した耐高温特性を有しており、低温環境下での放電特性に優れている。
特許文献3に開示のリチウム一次電池において、負極活物質は、リチウム金属およびリチウム合金の少なくとも1種からなり、負極の正極との対向面において、被覆率が10〜50%となるようにカーボンブラックが埋め込まれている。これにより、同文献に開示のリチウム一次電池は、低温環境下における負極の分極が大幅に低減しており、大電流放電特性が向上する。また、高温保存による電池内部抵抗の増大が抑制され、保存後の放電開始直後の放電特性が改善される。
特開2009−152174号公報 特開2006−236888号公報 特開2006−339046号公報
特許文献1に開示のフッ化黒鉛は、表面のC−F結合エネルギーが、従来のフッ化黒鉛における表面のC−F結合エネルギーよりも低く、表面のC−F結合が解離しやすい。このため、同文献に開示のフッ化黒鉛リチウム電池は、放電初期において、炭素とフッ素とリチウムとの反応による中間生成物が形成されやすく、放電初期の正極の過電圧が低下する。その反面、フッ化黒鉛表面のC−F結合が解離されやすいことに起因して、負極表面でフッ化リチウムの生成が促進されて、負極の抵抗が増大するおそれがある。すなわち、同文献に開示のフッ化黒鉛リチウム電池は、正極の過電圧を低下させる効果が高く、電池としての初期の大電流放電特性が改善されているが、電池全体の性能について、なお改善の余地がある。
特許文献2に開示のフッ化黒鉛リチウム電池は、放電電位が高フッ素化炭素よりも高い低フッ素化炭素を含んでいることから、正極全体の放電特性が改善される。しかしながら、低フッ素化炭素が結合状態の弱いフッ素と炭素を含んでいることから、特許文献1の場合と同様に、負極表面でフッ化リチウムの生成が促進されて、負極の抵抗が増大するおそれがある。
特許文献3に開示のリチウム一次電池では、負極の表面に存在するカーボンブラックにより、リチウムイオンの挿入反応と、非水電解液の分解反応とが進行して、短時間で負極表面に分解生成物による被膜が形成される。また、同文献は、非水電解液の非水溶媒の好適例としてγ−ブチロラクトンを挙げており、γ−ブチロラクトンは、リチウムイオンの通過を阻害しないなど、放電特性に対する影響が極めて良好な被膜を負極表面に形成する。さらに、γ−ブチロラクトンにより形成される被膜は、正極がフッ化黒鉛を含む場合において、負極表面にフッ化リチウムが生成するのを抑制する。従って、負極の放電特性が著しく向上する。その一方で、負極表面の反応性が高いことから、高温での保存時には、γ−ブチロラクトンの反応が促進される。γ−ブチロラクトンの反応生成物は、負極の劣化要因とはならないが、正極側で反応して、正極の抵抗を著しく増大させる。すなわち、同文献に開示のリチウム一次電池において、負極表面のカーボンブラックは、非水電解液の選択によって電池特性に大きな影響を及ぼす。特に、非水溶媒としてγ−ブチロラクトンを用いた場合は、初期の放電特性は向上するが、高温保存後の放電特性は著しく低下する。なお、初期の放電特性を向上させ、高温保存後の放電特性の低下を抑制するには、カーボンブラックの被覆率を限定することが有効であるが、その効果は十分ではない。
以上のように、フッ化黒鉛リチウム一次電池は、正極、負極および非水電解液が相互に作用していることから、低温環境下や大電流放電時の放電特性を向上させることは困難であった。
本発明は、上記課題を解決して、低温環境下における放電初期および高温保存後の大電流放電特性に優れたフッ化黒鉛リチウム電池を提供することを目的とする。
本発明の一局面のフッ化黒鉛リチウム電池は、正極活物質を含む正極と、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも1種を含む負極と、正極および負極の間を隔離するセパレータと、非水電解液と、を備え、正極活物質は、式:(CFxn (0.95≦x≦1.15、nは1以上の整数)で表される第1フッ化黒鉛と、式:(CFym (0.25≦y≦0.9、mは1以上の整数)で表される第2フッ化黒鉛と、を含み、負極は、正極と対向する面にカーボン層を備え、非水電解液は、非水溶媒と、溶質とを含み、非水溶媒は、プロピレンカーボネートを非水溶媒の全体積に対して15〜60体積%含むことを特徴とする。
本発明によれば、低温環境下における放電初期および高温保存後の大電流放電特性に優れたフッ化黒鉛リチウム電池を提供することができる。
コイン型のフッ化黒鉛リチウム電池の一実施形態を示す断面図である。
以下、本実施形態のフッ化黒鉛リチウム電池を、図1に示すコイン型のフッ化黒鉛リチウム電池を例に挙げて説明する。
フッ化黒鉛リチウム電池10は、正極活物質を含む正極11と、負極活物質13および負極活物質13の正極11と対向する面に形成されたカーボン層14を含む負極12と、正極11およびカーボン層14の間を隔離するセパレータ15と、正極11、カーボン層14およびセパレータ15の内部に染み込んだ非水電解液と、を備えている。
正極11は、正極活物質として、式:(CFxn (0.95≦x≦1.15、nは1以上の整数)で表される、フッ素原子の炭素原子に対する比率(フッ素化度)が相対的に高い第1フッ化黒鉛と、式:(CFym (0.25≦y≦0.9、mは1以上の整数)で表される、フッ素化度が相対的に低い第2フッ化黒鉛と、を含む。このように、正極活物質として、第1フッ化黒鉛と第2フッ化黒鉛とを含むことから、正極11は放電電位および導電性が高く、さらに、大電流放電時の放電特性が良好である。
フッ化黒鉛のフッ素化度、すなわち上記式中のxおよびyの値は、イオンクロマトグラフ法により求めることができる。具体的には、例えば、秤量されたフッ化黒鉛の試料を燃焼させて、生成した燃焼ガスを吸収液に吸収させる。吸収液としては、例えば炭酸ナトリウムと過酸化水素水溶液との混合液を用いることができる。次いで、燃焼ガスを吸収した吸収液中のフッ化物イオン濃度を、イオンクロマトグラフィにより測定して、試料中のフッ素濃度を測定する。こうして得られた測定結果と、秤取された試料の量とに基づいて、フッ化黒鉛におけるフッ素原子の炭素原子に対する比率を求めることができる。
フッ化黒鉛は、石油コークス、人造黒鉛などの炭素材料を、フッ素ガスなどのフッ素材料を含む環境下で加熱することにより得ることができる。また、炭素材料とフッ素材料とを、炭素原子(C)とフッ素原子(F)とのモル比が1:zとなるように反応させることにより、CとFとが1:zの割合で結合したフッ化炭素(CFz)の集合体を得ることができる。
フッ化黒鉛は、フッ素化度により特性が異なる。フッ素化度が相対的に低いほど、正極活物質としての容量が小さくなるが、導電性や放電電位が高くなり、C−F結合が安定する。逆に、フッ素化度が相対的に高いほど、正極活物質としての容量が大きくなるが、導電性や放電電位が低くなり、エネルギーの低いC−F結合が増加する。また、フッ化黒鉛は、上記式におけるxまたはyの値が0.9以下である場合に、フッ素化度が低い場合の特性を示し、xまたはyの値が0.95以上である場合に、フッ素化度が高い場合の特性を示す。
式:(CFxn (0.95≦x≦1.15、nは1以上の整数)で表される第1フッ化黒鉛は、フッ素化度が高いことから、正極の容量を向上させる。一方、高温保存時において、負極表面でのフッ化リチウムの生成を促進させる。
第1フッ化黒鉛のxが0.95を下回ると、正極の容量を高くする効果が低くなる。一方、高温保存時において、負極表面でのフッ化リチウムの生成は抑制される。逆に、第1フッ化黒鉛のxが1.15を上回ると、結合の弱いフッ素と炭素の比率が増加するため、負極表面でのフッ化リチウムの生成が促進される。このため、放電初期において負極の抵抗の増大が促進されるおそれがある。また、xが1.15を上回るような高フッ素化度のフッ化黒鉛は、その製造に長時間を要することから、製造コストが増大する。
式:(CFym (0.25≦y≦0.9、mは1以上の整数)で表される第2フッ化黒鉛は、フッ素化度が小さいことから、第2フッ化黒鉛は、導電性および放電電位を向上させ、大電流放電特性を向上させる。また、導電性が高いことから、正極中に添加される導電剤の量を低減させることができる。さらに、フッ化黒鉛の製造が短時間化できるため、コストが低減する。
第2フッ化黒鉛のyが0.25を下回ると、正極活物質としての容量が著しく低下する。逆に、第2フッ化黒鉛のyが0.9を上回ると、導電性や放電電位が低くなって、大電流放電特性を向上させる効果が得られなくなる。
第1フッ化黒鉛と第2フッ化黒鉛の混合割合は、フッ化黒鉛リチウム電池の高い容量を維持しながら、大電流放電特性を向上させるという観点より、質量比で90:10〜60:40が好ましい。上記範囲よりも第1フッ化黒鉛の割合が増加し、第2フッ化黒鉛の割合が減少すると、大電流放電特性を向上させる効果が小さくなる。逆に、上記範囲よりも第1フッ化黒鉛の割合が減少し、第2フッ化黒鉛の割合が増加すると、電池容量の低下を招く。
第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛の粒子径は、体積基準の累積粒度分布における体積分率50%のときの粒子径、すなわち体積中位径(体積メディアン径)D50で比較したときに、第1フッ化黒鉛のD50(1)が、第2フッ化黒鉛のD50(2)と同じであるか、またはD50(2)より大きいことが好ましい。すなわち、[D50(1)]≧[D50(2)]が好ましい。
第2フッ化黒鉛は、フッ素化度が相対的に低いことから、フッ素と炭素の結合が比較的安定している。このため、第2フッ化黒鉛は、その粒子径が小さい場合であっても、負極の抵抗の増大を促進させることがない。また、第2フッ化黒鉛は、フッ素化度が相対的に低いことにより、導電性が高い。このため、第2フッ化黒鉛の粒子径を小さく設定して、その表面積を増大させることにより、導電性が低い第1フッ化黒鉛に対する導電剤としても作用させることができる。
一方、第1フッ化黒鉛は、フッ素化度が相対的に高いことから、結合の弱いフッ素と炭素の比率が比較的高くなる。また、フッ化黒鉛は、上述のようにフッ素化度が相対的に高いほど、エネルギーの低いC−F結合が増加するが、さらに、フッ素化度が同等である場合において、粒子径が小さくなるほど、一定体積あたりにおけるエネルギーの低いC−F結合の比率が増加する傾向がある。このため、第1フッ化黒鉛の粒子径がさらに小さくなると、結合の弱いフッ素と炭素の比率がさらに高くなって、負極表面でフッ化リチウムが生成しやすくなる。特に、第1フッ化黒鉛のD50(1)が、第2フッ化黒鉛のD50(2)より小さいとき、すなわち、[D50(1)]<[D50(2)]であるときは、負極表面でのフッ化リチウムの生成が顕著になり、負極の抵抗が増大する傾向がある。
第1フッ化黒鉛の体積中位径D50(1)は、10〜30μmが好ましく、20〜30μmがより好ましい。D50(1)が上記範囲にあるときは、第1フッ化黒鉛が均一に分散された正極を作製することができる。また、結合の弱いフッ素と炭素の影響により負極の抵抗が増大するおそれを抑制することもできる。一方、D50(1)が10μmを下回ると、負極の抵抗の増大が促進される。D50(1)が30μmを上回ると、正極中で第1フッ化黒鉛を均一に分散させにくくなるおそれがある。
第2フッ化黒鉛体積中位径D50(2)は、0.1〜15μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。D50(2)が上記範囲にあるときは、第2フッ化黒鉛を第1フッ化黒鉛の周囲に均一に分散させることができ、第2フッ化黒鉛を第1フッ化黒鉛の導電剤として作用させることができるため、好ましい。一方、D50(2)が0.1μmを下回ると、第2フッ化黒鉛の表面積が大きくなりすぎるため、正極の作製に必要な結着剤の量が増加するおそれがある。D50(2)が15μmを上回ると、第2フッ化黒鉛の表面積が小さくなり、導電剤としての作用が小さくなるおそれがある。
正極には、第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛に加えて、さらに、導電剤を加えることができる。導電剤としては、放電時における正極活物質の電位範囲において化学変化を起こさないものが挙げられる。具体的には、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属繊維、有機導電性材料などが挙げられる。これらは単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。正極中での導電剤の含有割合は、正極活物質としての第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛の総量100質量部に対し、30質量部以下が好ましく、5〜30質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。
また、正極には、さらに結着剤を加えることができる。結着剤としては、放電時における正極活物質の電位範囲において化学変化を起こさないものが挙げられる。具体的には、フッ素樹脂、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらは単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。正極中での結着剤の含有割合は、正極活物質としての第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛の総量100質量部に対し、3〜15質量部が好ましい。
正極11は、正極活物質としての第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛と、必要に応じて、導電剤および結着剤とを混合することにより作製することができる。また、正極11は、従来のリチウム一次電池用の正極と同様に、最終的に得られるリチウム一次電池の形状、寸法、規格性能などに応じて、任意の形状および厚さに成形される。例えば、リチウム一次電池がコイン型電池である場合は、正極11は、直径が5〜25mm程度、厚さが0.2〜2.0mm程度の円盤状に成形される。また、正極11の直径は、後述する負極12の直径よりも若干小さく成形することが好ましい。
負極12は、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも1種からなる負極活物質13と、負極活物質13の正極11と対向する面に形成されたカーボン層14と、を備えている。
負極活物質13としてのリチウムおよびリチウム合金は、それぞれを単独で用いることができ、両者を組み合わせて用いることもできる。リチウム合金の好適例としては、リチウム−アルミニウム合金などが挙げられる。リチウム合金は特に限定されないが、放電容量を確保することと、内部抵抗を安定化させることの観点から、リチウム以外の金属元素の含有量を0.2〜15質量%とすることが好ましい。
リチウムまたはリチウム合金は、従来のリチウム一次電池用の負極と同様に、最終的に得られるリチウム一次電池の形状、寸法、規格性能などに応じて、任意の形状および厚さに成形される。例えば、リチウム一次電池がコイン型電池である場合は、金属リチウムまたはリチウム合金は、直径が5〜25mm程度、厚さが0.2〜2.0mm程度の円盤状に成形される。
負極12の正極11との対向面に形成されているカーボン層14は、負極12の導電性を向上させる。さらに、カーボン層14は、カーボン層14内へのリチウムイオンの挿入反応と、カーボン層14における非水電解液の分解反応とにより、放電開始後の短時間で表面に被膜が形成される。こうして得られる、カーボンを含んだ非水溶媒由来の被膜は、負極12のリチウムと非水電解液との反応を抑制し、さらに、正極における放電初期の抵抗の増大を抑制することから、大電流放電特性が向上する。
また、高温環境下においては、さらに、主としてフッ素化度が相対的に高い第1フッ化黒鉛のフッ素が、リチウムと反応して、カーボン層14の表面においてフッ化リチウムを生成させる。こうして生成したフッ化リチウムは、上記被膜とともに、負極のリチウムと非水電解液との反応を抑制する。このため、負極および正極の抵抗の増大が抑制されて、高温保存後においても良好な大電流特性を発揮することができる。
カーボン層14の形成材料としては、黒鉛、ケッチェンブラック、およびアセチレンブラックが挙げられる。これらは単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。黒鉛、ケッチェンブラック、およびアセチレンブラックは、いずれも負極12の表面に導電性が高く、放電反応に対して良好な被膜を形成させるという観点より、カーボン層14の形成材料として好適である。黒鉛は、天然黒鉛および人造黒鉛のいずれであってもよい。
カーボン層14の厚みは、0.5〜10.0μmが好ましく、1.0〜5.0μmがさらに好ましい。また、カーボン層14は、その厚みとしてではなく、負極活物質13の表面に付着されているカーボンの量として限定することもできる。この場合において、負極活物質13の表面1cm2あたりのカーボンの付着量は、0.1〜1.0mgが好ましく、0.3〜1.0mgがさらに好ましい。
非水電解液は、非水溶媒と、溶質とを含む。非水溶媒は、非水溶媒の全体積に対して、15〜60体積%の割合でプロピレンカーボネート(PC)を含む。このように非水溶媒としてPCを所定の割合で含む非水電解液を用いることにより、負極12の表面のカーボン層14に、PCの分解生成物を含む被膜が形成されて、負極活物質13と非水電解液との反応、および常温および低温環境下におけるカーボン層14表面でのフッ化リチウムの生成が抑制される。さらに、PCは、使用温度範囲が広いことから、低温環境下や高温環境下において使用される電池への使用に好適である。
非水溶媒中のPCの体積割合が、非水溶媒の全体積の15体積%を下回ると、カーボン層14の表面に形成される被膜が、高温保存時において、負極活物質13と非水電解液との反応を抑制することが不十分となり、高温保存後の大電流特性が低下する。一方、非水溶媒中のPCの体積割合が、非水溶媒の全体積の60体積%を上回ると、非水溶媒の粘度が過剰に高くなり、低温時の大電流特性が低下する。
非水溶媒は、PCと同体積以下の1,2−ジメトキシエタン(DME)を含むことが好ましい。PCは粘度が高いため、低粘度溶媒であるDMEを含むと大電流特性が向上するため、好ましい。また、DMEは負極で還元されにくいため好ましい。一方、DMEは沸点が低いことから、PCと同体積以下の割合で含まれることが好ましい。DMEの含有割合がPCの体積を上回ると、高温保存時の電池の膨れが増大するおそれがある。
また、非水溶媒は、非水溶媒の全体積に対して、85体積%以下の割合でγ−ブチロラクトン(γ−BL)を含むことが好ましい。この場合、カーボン層14の表面に形成される被膜が、PCとγ−BLの両者に由来の被膜となる。γ−BL由来の成分を含む被膜は、負極表面の抵抗を増大することがなく、放電時にはリチウムイオンの溶解を抑制しないため、初期大電流特性を向上する。また、γ−BLは使用温度範囲が広く、低温環境下においてもPCよりも粘度が低い。さらに、カーボン層14の表面に形成される被膜にはPC由来の成分も含むことから、高温保存時の負極とγ−BLとの反応も抑制される。従って、高温保存後においても良好な大電流放電特性を示す。
非水溶媒は、PCと、γ−BLと、DMEと、を含む混合溶媒であってもよい。この場合においても、PCの体積割合は、非水溶媒の全体積に対して15〜60体積%であることが好ましく、DMEの体積割合は、PCと同体積以下であることが好ましい。
非水溶媒は、さらに、リチウム一次電池の分野で公知の各種溶媒を含んでいてもよい。このような溶媒としては、γ−バレロラクトン、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,3−ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体などが挙げられる。これらは、単独で組み合わせてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶質としては、非水溶媒に溶解する支持塩が特に限定なく挙げられる。具体的には、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビスペンタフルオロエチルスルホン酸イミド[LiN(SO2252]、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド[LiN(CF3SO22]、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド[LiN(C25SO22]、リチウム(トリフルオロメチルスルホニル)(ノナフルオロブチルスルホニル)イミド[LiN(CF3SO2)(C49SO2)]、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド[LiC(CF3SO23]などが挙げられる。上記溶質は、1種を単独で使用することができ、2種以上を組み合わせて使用することもできる。なかでも、LiBF4およびLiClO4のいずれかを含むことが好ましい。LiBF4およびLiClO4は、PCに溶解し易く、大電流特性を向上するため、好ましい。
非水電解液の溶質濃度は、特に制限されないが、0.5〜1.5mol/Lが好ましい。溶質濃度が上記範囲を下回ると、室温における放電特性や、長期保存特性などが低下するおそれがある。逆に、溶質濃度が上記範囲を上回ると、−40℃程度の低温環境下での非水電解液の粘度上昇、イオン伝導度の低下などが顕著になるおそれがある。
セパレータ15としては、リチウム一次電池の内部環境に対して耐性を有する材料からなる多孔質膜を使用できる。具体的には、例えば、合成樹脂製の不織布や、合成樹脂製の多孔質フィルム(微多孔フィルム)などが挙げられる。不織布に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらの中でも、ポリフェニレンサルフィドやポリブチレンテレフタレートは、耐高温性、耐溶剤性、および保液性に優れていることから、特に好適である。多孔質フィルムに用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
図1に、本実施例で作製したコイン型リチウム一次電池の縦断面図を示す。図1のコイン型リチウム一次電池は以下の要領で組み立てた。まず、正極11を電池ケース16の中央に載置し、その上にポリブチレンテレフタレート製の不織布からなるセパレータ15を被せた。一方、負極12は、カーボン層14が形成されている面とは反対側の表面が封口板17の内表面と接するようにして、封口板17の内表面に圧接した。次に、電池ケース16内の正極11およびセパレータ15に非水電解液を染み込ませた。また、封口板17に圧接されている負極12のカーボン層14にも、非水電解液を染み込ませた。その後、電池ケース16に封口板17を重ね合わせて、正極11と、負極12のカーボン層14とが、セパレータ15を挟んで向かい合うように圧接させた。封口板17の周囲には、あらかじめガスケット18を配置しておき、電池ケース16の開口端でガスケット18をかしめることにより、リチウム一次電池10を密封した。
電池ケース16は、正極11やセパレータ15を収容する部材であって、さらに、正極集電体と正極端子とを兼ねている。電池ケース16の形成材料には、リチウム一次電池の分野で公知の各種材料が挙げられる。具体的には、例えば、ステンレス鋼が挙げられる。
封口板17は、コイン型リチウムイオン電池10を封口する部材であって、さらに、負極集電体と負極端子とを兼ねている。封口板17の形成材料には、リチウム一次電池の分野で公知の各種材料が挙げられる。具体的には、例えば、ステンレス鋼が挙げられる。
ガスケット18は、主として、電池ケース16と封口板17との間を絶縁する。ガスケット18の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの合成樹脂が挙げられる。中でも、ポリフェニレンサルファイドは、耐高温性および耐溶剤性に優れ、成形性も良好であることから、特に好適である。
以上の説明においては、コイン型のフッ化黒鉛リチウム電池を例に挙げて本実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の各種形態のフッ化黒鉛リチウム電池に適用可能である。
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
(1)正極の作製
第1フッ化黒鉛として、式:(CF0.95n(nは1以上の整数、以下同じ。)で表されるフッ化黒鉛を用いた。第2フッ化黒鉛として、式:(CF0.9m(mは1以上の整数、以下同じ。)で表されるフッ化黒鉛を用いた。第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛の粒径は、いずれも体積中位径D50で15μmとなるように調整した。
なお、フッ化黒鉛としては、石油コークスをフッ素ガス雰囲気中で加熱することによりフッ素化して、粉砕および分級により所定の粒径に調整したものを使用した。また、フッ化黒鉛のフッ素化度(フッ素原子の炭素原子に対する比率)は、以下の手順で測定した。まず、秤量されたフッ化黒鉛の試料を自動燃焼装置(三菱化学製、AQF−100)で燃焼させて、生成した燃焼ガスを吸収液(炭酸ナトリウムと過酸化水素水溶液との混合液)に吸収させた。次いで、燃焼ガスを吸収した吸収液中のフッ化物イオン濃度をイオンクロマトグラフ(Dionex社製、ICS−1500)により測定して、こうして得られた測定結果と、秤取された試料の量とに基づいて、フッ素化度を求めた。
正極活物質としての第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とを、固形分の質量比として、72:8:12:8で混合した。第1フッ化黒鉛と、第2フッ化黒鉛との質量比は、90:10であった。こうして得られた混合物を80℃で乾燥して、金型内に充填した。その後、油圧プレス機を用いて金型内の混合物を加圧成形することにより、直径16mm、厚み3mmのペレットを得た。さらに、得られたペレットを100℃で12時間乾燥することにより、ディスク状の正極を得た。
(2)負極の作製
超音波振動接合装置のアンビル上に、厚み1.3mmのリチウム金属板を設置した。このリチウム金属板の表面に対して、アセチレンブラックの粉体を、リチウム金属板の表面1cm2あたり0.7mgの割合で載せた。次に、アセチレンブラックの粉体の層に超音波振動接合装置のホーンを接触させて、リチウム金属板とアセチレンブラックの粉体の層とを加圧しながら、超音波振動を加えた。こうして得られた、一方の表面にカーボン層を備えたリチウム金属板を直径18.0mmの円形に打ち抜いて、負極とした。得られた負極のカーボン層とは反対側の表面を、ステンレス鋼製の封口板の内底面に接触させて、両者を圧着した。封口板の周縁には、ガスケットを嵌め合わせた。以上の操作は、露点が−50℃以下のドライエア中で行った。
(3)非水電解液の調製
プロピレンカーボネート(PC)と、1,2−ジメトキシエタン(DME)とを、体積比60:40で含む混合溶媒に対して、溶質としての過塩素酸リチウムを0.5mol/Lの濃度で溶解させることにより、非水電解液を得た。
(4)リチウム一次電池の作製
正極を電池ケースの中央に載置して、その上にポリブチレンテレフタレート製の不織布からなるセパレータを被せた。次に、上記非水電解液を、正極およびセパレータに染み込ませた。その後、封口板で電池ケースの開口を塞ぎ、電池ケースの開口端で封口板の周縁をかしめることにより、コイン型のリチウム一次電池を得た。得られたリチウム一次電池(2450サイズ)は、直径が24.5mm、厚みが5.0mmであった。
実施例2
第1フッ化黒鉛として式:(CF1.15nで表されるフッ化黒鉛を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例3
第2フッ化黒鉛として式:(CF0.25mで表されるフッ化黒鉛を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例4
第2フッ化黒鉛として式:(CF0.25mで表されるフッ化黒鉛を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例5
非水電解液の溶媒として、PCとDMEとを体積比50:50で含む混合溶媒を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例6
非水電解液として、PCとγ−BLとを体積比30:70で含む混合溶媒に対して、溶質としてのテトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例7
非水電解液として、PCとγ−BLとを体積比15:85で含む混合溶媒に対して、テトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例8
非水電解液として、PCと、γ−BLと、DMEとを体積比15:70:15で含む混合溶媒に対して、テトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例9
第1フッ化黒鉛((CF1.15n)と、第2フッ化黒鉛(CF0.9m)と、アセチレンブラックと、SBRとを、固形分の質量比48:32:12:8の比率で混合したこと以外は実施例2と同様にして、リチウム一次電池を得た。第1フッ化黒鉛と、第2フッ化黒鉛との質量比は、60:40であった。
実施例10
アセチレンブラックの粉体に代えて、ケッチェンブラックの粉体を用いることにより、負極表面のカーボン層を形成したこと以外は、実施例9と同様にして、リチウム一次電池を得た。
実施例11
アセチレンブラックの粉体に代えて、黒鉛の粉体を用いることにより、負極表面のカーボン層を形成したこと以外は、実施例9と同様にして、リチウム一次電池を得た。
実施例12
第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛の粒径は、いずれも体積中位径D50で10μmとなるように調整したこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例13
第1フッ化黒鉛の粒径を、体積中位径D50で30μmに調整したこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
実施例14
第2フッ化黒鉛の粒径を、体積中位径D50で0.1μmに調整したこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例1
正極活物質として式:(CF1.15nで表されるフッ化黒鉛のみを用いた。フッ化黒鉛の粒径は、体積中位径D50で15μmに調整した。上記フッ化黒鉛と、アセチレンブラックと、SBRとを、固形分の質量比として、80:12:8で混合した。こうして得られた混合物を正極形成材料として用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例2
負極のリチウム金属板の表面にカーボン層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例3
非水電解液としてγ−BLにテトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例4
正極活物質として式:(CF1.15nで表されるフッ化黒鉛のみを用い、さらに、負極としてリチウム金属板の表面にカーボン層を形成しなかったものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例5
正極活物質として式:(CF1.15nで表されるフッ化黒鉛のみを用い、さらに、非水電解液として、γ−BLにテトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例6
負極としてリチウム金属板の表面にカーボン層を形成しなかったものを用い、さらに、非水電解液として、γ−BLにテトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例7
正極活物質として式:(CF1.15nで表されるフッ化黒鉛のみを用いた。負極としてリチウム金属板の表面にカーボン層を形成しなかったものを用いた。さらに、非水電解液として、γ−BLにテトラフルオロホウ酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。その他については実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例8
正極活物質として式:(CF0.25mで表されるフッ化黒鉛のみを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
比較例9
正極活物質として式:(CF0.9mで表されるフッ化黒鉛のみを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、リチウム一次電池を作製した。
電池の物性評価
上記実施例および比較例で得られたリチウム一次電池について、それぞれ4mAの定電流で30分間予備放電した。さらに、60℃で1日間エージングすることにより、開回路電圧(OCV)を安定させた後、室温でのOCVと、1kHzの交流電圧を印加した時の電池の内部抵抗を測定して、リチウム一次電池に異常がないことを確認した。その後、以下の手順に従って、初期放電容量と、低温環境下での大電流放電特性と、高温保存後の大電流放電特性の評価を行った。
(i)初期放電容量の測定
15kΩの保護抵抗を用いて、リチウム一次電池を20℃の環境下で放電させることにより、電池電圧が1.0Vに至るまでの容量を測定した。測定された容量を初期放電容量[mAh]として、表1および表2の「放電容量[mAh]」欄に示す。
(ii)低温環境下での大電流放電特性の評価
リチウム一次電池を−40℃の環境下においてパルス放電させることにより、低温環境下における大電流放電特性を評価した。具体的には、10mAで20m秒間定電流放電した後、60秒間休止するパターンを30時間繰り返して、パルス放電時の電圧の経時変化を測定することにより、最小のパルス電圧[V]を求めた。なお、各実施例および比較例において、3個ずつの試料の平均値を測定結果とした。測定結果を、表1および表2の「低温環境下[V]」欄に示す。
(iii)高温保存後における大電流放電特性の評価
リチウム一次電池を125℃の高温環境下で7日間保存した後、室温で5時間放置した。その後、リチウム一次電池を−40℃の環境下でパルス放電させることにより、高温保存後における低温環境下での大電流放電特性を評価した。具体的には、10mAで20m秒間定電流放電した後、60秒間休止するパターンを30時間繰り返して、パルス放電時の電圧の経時変化を測定することにより、最小のパルス電圧[V]を求めた。なお、各実施例および比較例において、3個ずつの試料の平均値を測定結果とした。測定結果を、表1および表2の「高温保存後[V]」欄に示す。
Figure 2012014877
Figure 2012014877
表1および表2の記載についての注釈を以下に示す。
*1:正極活物質が「第1フッ化黒鉛」と「第2フッ化黒鉛」とを含む場合には、混合割合(質量比)を「比率」欄に示した。実施例12〜14は、第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛の体積中位径D50[μm]も示した。実施例12〜14以外のフッ化黒鉛は、いずれも体積中位径D50が15μmであった。
*2:非水溶媒が混合溶媒である場合には、「非水溶媒」欄に、非水溶媒の種類と、その混合割合(体積比)を示した。
*3:非水溶媒として、PCと、γ−BLと、DMEとを15:70:15の体積比で含む混合溶媒を用いた。
*4:ケッチェンブラックからなるカーボン層を形成した。
*5:黒鉛からなるカーボン層を形成した。
表1の結果から、実施例1〜14は、初期の大電流特性が1.67V以上であり、高温保存後の大電流特性が1.01Vを超えていることがわかった。
本発明の正極は、正極活物質として第1フッ化黒鉛および第2フッ化黒鉛を含むことにより、正極の放電電位と導電性を向上し、大電流特性を向上している。負極表面には、PCを含む非水電解液由来の被膜を含むカーボン層により抵抗を低減すると共に、初期の正極由来の抵抗増大を抑制のため、大電流特性を向上した。負極表面には、カーボンを含み、PCを含む非水電解液由来の成分を含む被膜と、さらに、主として第1フッ化黒鉛由来のFによるLiFが、リチウムと非水電解液の反応を抑制するため、負極および正極の抵抗増大を抑制し、高温保存後も良好な大電流特性を示したと考えられる。
一方、比較例1、4および7は、正極活物質としてフッ素化度の高い(CF1.15nのみを用いているため、正極の大電流特性が低い。初期の大電流放電特性が低くなった。比較例4および7は、さらに、負極の表面にカーボン層が形成されていないことから、正極の大電流特性が低く、負極の抵抗が増大した。
比較例2および6は、負極の表面にカーボン層が形成されていないため、負極の抵抗が増大し、初期のパルス特性が低くなった。比較例6は、さらに、負極の表面にカーボン層が形成されていないことから、負極の抵抗が増大した。
比較例3は、非水電解液の溶媒がγ−BLのみであるため、負極表面に、カーボンを含み、γ−BL由来の成分を含む被膜を形成している。γ−BL由来の成分を含む被膜は、負極表面の抵抗を増大することなく、放電時にはリチウムイオンの溶解を抑制しないため、初期大電流特性が向上したと考えられる。しかしながら、高温保存時には、負極表面でのγ−BLの反応が促進される。反応物は正極の分極を著しく増大する。従って、比較例3は高温保存後の大電流特性が、著しく低下したと考えられる。
比較例5は、正極活物質がフッ素化度の高い(CF1.15nのみであるため、正極の大電流特性は低かった。また、非水電解液の溶媒がγ−BLのみであるため、負極表面に、カーボンを含みγ−BL由来の成分を含む被膜を形成している。γ−BL由来の成分を含む被膜は、負極表面の抵抗を増大することなく、放電時にはリチウムイオンの溶解を抑制しないため、初期大電流特性が向上したと考えられる。しかしながら、高温保存時には、負極表面でのγ−BLの反応が促進される。反応物は正極の分極を著しく増大する。従って、電池B5は高温保存後の大電流特性が、著しく低下したと考えられる。
比較例8は、正極活物質としてフッ素化度の低い(CF0.25mのみを用いているため、初期の大電流特性は高いが、高温保存時に正極のフッ化黒鉛由来のFによるLiFの生成が不十分となり、高温保存後の大電流特性が低いと考えられる。比較例9も、正極活物質としてフッ素化度が比較的低い(CF0.9mのみを用いているため、比較例8と同様の結果が得られた。
比較例7と比較して、比較例6のように、正極を改善すると、初期および高温保存後の大電流特性を向上することが出来るが、初期の大電流特性は不十分である。また、比較例5のように、負極を改善すると、初期の大電流特性を向上することは出来るが、高温保存後の大電流特性は著しく低下する。非水電解液は変更しても、負極の改善がなければ、大電流特性へ効果は殆どない。
本願では、実施例に示したように、正極、負極、非水電解液の相互作用により、比較例7と比較して、初期および高温保存後に良好な大電流特性を示すことがわかった。
本発明のフッ化黒鉛リチウム電池は、高温環境下や低温環境下での動作が想定される用途において有用である。例えば、タイヤ空気圧監視システム(TPMS)における電源として特に好適である。
10 フッ化黒鉛リチウム電池、 11 正極、 12 負極、 13 負極活物質、 14 カーボン層、 15 セパレータ、 16 電池ケース、 17 封口板、 18 ガスケット

Claims (9)

  1. 正極活物質を含む正極と、
    金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも1種を含む負極と、
    前記正極および前記負極の間を隔離するセパレータと、
    非水電解液と、を備え、
    前記正極活物質は、式:(CFxn (0.95≦x≦1.15、nは1以上の整数)で表される第1フッ化黒鉛と、式:(CFym (0.25≦y≦0.9、mは1以上の整数)で表される第2フッ化黒鉛と、を含み、
    前記負極は、前記正極と対向する面にカーボン層を備え、
    前記非水電解液は、非水溶媒と、溶質とを含み、
    前記非水溶媒は、プロピレンカーボネートを前記非水溶媒の全体積に対して15〜60体積%含むことを特徴とするフッ化黒鉛リチウム電池。
  2. 前記非水溶媒が、さらに1,2−ジメトキシエタンを含み、前記1,2−ジメトキシエタンの含有量が、前記プロピレンカーボネートと同体積量以下である請求項1に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  3. 前記非水溶媒が、さらにγ−ブチロラクトンを含む請求項1または2に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  4. 前記溶質がLiBF4およびLiClO4の少なくとも1つを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  5. 前記第1フッ化黒鉛と前記第2フッ化黒鉛との含有割合が、質量比で90:10〜60:40である請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  6. 前記カーボン層が、黒鉛、ケッチェンブラック、およびアセチレンブラックからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  7. 前記第1フッ化黒鉛の体積中位径D50(1)が、前記第2フッ化黒鉛の体積中位径D50(2)と同じか、またはD50(2)より大きい請求項1〜6のいずれか1項に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  8. 前記第1フッ化黒鉛の体積中位径D50(1)が10〜30μmである請求項1〜7のいずれか1項に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
  9. 前記第2フッ化黒鉛の体積中位径D50(2)が0.1〜15μmである請求項1〜8のいずれか1項に記載のフッ化黒鉛リチウム電池。
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