本発明による封止具(封止体)は、密閉式電池の開口部を封止するために用いることができる。封止する開口部の用途は限定しないが、非水電解液二次電池に用いる場合には、電解液の注液口に用いるのが最もよい。以下の実施例では、本発明による封止具を、電解液の注液口に用いる場合について説明する。
図4は、本実施例による封止具を用いた密閉式電池の構造を示す分解斜視図である。図4に示した密閉式電池10は、本実施例での封止具の電池全体における位置づけを説明するために例示するものであって、この電池構造によって本発明による封止具がなんら限定を受けるものではないことは言うまでもない。
密閉式電池10では、発電要素である捲回群9が、電池容器5の中に収められている。電池容器5は蓋8を有し、蓋8には、外部端子6とガス放出弁7が設けられている。捲回群9は、電解液に浸漬された状態で電池容器5内に保持され、外部端子6を通じて電気エネルギーの出入力を行う。ガス放出弁7は、電池内部に異常が生じてガスが発生した場合などに、内圧を開放して電池容器5の破裂を防ぐ。
密閉式電池10の内部と外気の密閉は、図4のイ部に示される封止具11によって保たれている。本実施例による封止具11は、金属芯1と、金属製封止体である金属製筒状部材2と、有底の樹脂製スリーブ3を有する。封止具11の構造は、以降に詳述する。封止具11は、蓋8に設けられた穴(開口部)に嵌合する。この穴は、本実施例では電解液の注液口を兼ねている。電解液を電池容器5の内部に注入後、封止具11によって蓋8の穴を密栓して、密閉式電池を製作する。
図1と図2を用いて、本実施例による封止具を説明する。図1は、密閉式電池を封止する前の封止具の状態の一例を示す断面図である。図2は、密閉式電池を封止するときの封止具の状態の一例を示す断面図である。図1と図2において、同一の符号は同一の要素を示す。
図1に示すように、本実施例による封止具は、軸部12と大径部13を有する金属芯1と、有底の金属製筒状部材2と、有底の樹脂製スリーブ3とで構成され、電池容器5に設けられた穴(電池容器5の蓋8に設けられた穴)を封止する。
金属芯1の大径部13は、軸部12よりも直径が大きく、金属芯1の一端にある。軸部12の一部と大径部13は、金属製筒状部材2に袋状に包み込まれるように配置される。軸部12は、金属芯1を金属製筒状部材2から引き抜くときのために、一部が金属製筒状部材2から突出している。また、軸部12には、大径部13に近い部分に、径を細くする等して脆弱部分16が設けられている。
金属製筒状部材2は、金属芯1の大径部13より硬度が小さい(軟らかい)金属でできた封止体であり、一端が有底となって閉じられており、もう一端は開口部となっている。この開口部にはつばが設けられており、金属製筒状部材2のその他の部分よりも外径が大きくなっている。金属製筒状部材2のつばが付いていない部分の外径は、有底の樹脂製スリーブ3の内径とほぼ同一である。また、金属製筒状部材2の内径は、金属芯1の軸部12の直径とほぼ同一である。ただし、大径部13を包み込む部分の内径は、大径部13の直径とほぼ同一であり、軸部12を包み込む部分の内径よりも大きくなっている。
有底の樹脂製スリーブ3は、底面部4と側面部14を有する筒状で、一端が底面部4で閉じられており、別の一端が開口部となっている。この開口部から、金属製筒状部材2が挿入される。なお、金属製筒状部材2は、つばにより有底の樹脂製スリーブ3に支持されるので、つばが設けられていない部分が有底の樹脂製スリーブ3の内部に挿入される。
有底の樹脂製スリーブ3は、電池容器5に設けられた穴(電池容器5の蓋8に設けられた穴)を封止するために、この穴に挿入される。有底の樹脂製スリーブ3の外径は、電池容器5に設けられた穴の径とほぼ同一である。ただし、有底の樹脂製スリーブ3の開口部にはつばが設けられており、この部分の外径は、穴の径よりも大きくなっている。また、有底の樹脂製スリーブ3の底面部4の形状は、半球面になっており、底面部4と側面部14は滑らかに接続されている。
本実施例による封止具によって電池容器5の穴(蓋8の穴)を密栓するには、まず、封止具を図1に示した状態に設定する。すなわち、金属製筒状部材2の内部に金属芯1を挿入し、外部より圧力をかけて、金属製筒状部材2の軸部12を包み込む部分の内径が金属芯1の軸部12の直径とほぼ同一であり、大径部13を包み込む部分の内径が金属芯1の大径部13の直径とほぼ同一となるように、塑性変形させる。このようにして、金属製筒状部材2が金属芯1の軸部12の一部と大径部13を袋状に包み込むようにする。この状態の金属製筒状部材2を有底の樹脂製スリーブ3の内部に挿入し、この有底の樹脂製スリーブ3を電池容器5に設けられた穴に挿入する。金属製筒状部材2の、金属芯1の大径部13を包み込む部分の内径は、軸部12を包み込む部分の内径よりも、大きくなっている。軸部12の一部(大径部13を有していない方の一端を含む部分)は、金属製筒状部材2の開口部から外に突出しているものとする。有底の樹脂製スリーブ3は、つばにより電池容器5に支持されており、電池容器5の内部に落ち込まないようになっている。有底の樹脂製スリーブ3のつばと、金属製筒状部材2のつばは、接触している。
図1に示した状態から、専用の工具を用いて、金属製筒状部材2と有底の樹脂製スリーブ3をそれぞれのつばにより電池容器5の上面(蓋8)に押し付けた状態で、金属芯1の軸部12をチャックして電池容器5の外部方向(図1の上方向)に引き抜く。
金属製筒状部材2は、金属芯1の大径部13よりも硬度が小さい。すなわち、金属芯1の大径部13は、金属製筒状部材2よりも硬い。従って、図2に示すように、金属芯1の大径部13は、金属製筒状部材2の内径を押し広げながら電池容器5の外部方向(図2の上方向)に移動する。これに伴い、金属製筒状部材2の外径もまた、塑性変形によって増大する。
金属製筒状部材2が径方向に押し広げられて変形することにより、有底の樹脂製スリーブ3は、金属製筒状部材2から圧縮を受けて径方向に押し広げられ、電池容器5と密着する。このように、有底の樹脂製スリーブ3は、金属製筒状部材2及び電池容器5と密着し、電池を封止して密閉する。
このとき、有底の樹脂製スリーブ3も塑性変形により径(内径と外径)が増大し、底面部4も径が広がるので、底面部4と側面部14との境界は応力を受ける。有底の樹脂製スリーブ3の底面部4は半球面状であり、底面部4と側面部14は滑らかに接続されているので、底面部4の全体に均等に応力が分布し、有底の樹脂製スリーブ3の破断等の不具合を防ぐことができる。
図5と図6を用いて、有底の樹脂製スリーブの底面部が平面である場合について説明する。図5と図6において、図1と同一の符号は、図1と同一または共通する要素を示す。
図5は、有底の樹脂製スリーブ3の底面部4が平面である場合の封止具の一例を示す断面図である。底面部4と側面部14は、滑らかに接続されておらず、直角に交わっている。図6は、図5に示した封止具を用いて密閉式電池を封止するときの、封止具の状態の一例を示す断面図である。
図5に示すように、有底の樹脂製スリーブ3の底面部4が平面である場合には、金属芯1の軸部12を引き抜いていくと、図6に示すように、変形による応力が、直角をなす側面部14と底面部4の境界部分15に集中する。このため、有底の樹脂製スリーブ3は、境界部分15で破断しやすくなる。従って、有底の樹脂製スリーブ3の底面部4の形状は、半球面とするのが好ましい。
図3は、底面部4の形状を半球面とした、有底の樹脂製スリーブ3の外観図である。図3に示した有底の樹脂製スリーブ3は、金属製筒状部材2を挿入して金属芯1を引き抜くといった工程に必要十分な内部空間を有し、かつ、底面部4の形状が変形による応力を緩和するのに適切な半球面であり、本発明による封止具に好ましい形状となっている。
なお、有底の樹脂製スリーブ3の底面部4の形状は、厳密に半球面でなくてもよく、略半球面であってもよい。また。半球面や略半球面でなくても、曲面であればよく、さらには、多面体で構成されていてもよい。すなわち、底面部4と側面部14が滑らかに接続され、底面部4の全体に応力が分布して破断等の不具合を防ぐことができる形状であれば、底面部4は、どのような形状であってもよい。
金属芯1には、図1と図2に示したように、脆弱部分16が設けられている。金属芯1を電池容器5から引き抜いていくと、工具により脆弱部分16が破断する。この結果、金属芯1の大径部13は、金属製筒状部材2の内部に残る。
図7は、密閉式電池を封止した封止具の状態の一例を示す断面図である。図7において、図1と同一の符号は、図1と同一または共通する要素を示す。
上述したように、金属芯1の脆弱部分が破断し、大径部13と軸部12の一部が金属製筒状部材2の開口部に係止されている。金属製筒状部材2は、大径部13が係止されている部分とこの部分より密閉式電池の内部側の部分では、大径部13により径方向に押し広げられたため、内径が大径部13の径と実質的に等しくなっている。有底の樹脂製スリーブ3は、金属製筒状部材2の径方向への変形により、電池容器5に設けられた穴に接して電池容器5を封止している部分よりも、密閉式電池の内部側の方が、内径と外径が大きくなっている。有底の樹脂製スリーブ3は、電池容器5と金属製筒状部材2に密着しているため、密閉式電池は密閉される。本実施例による封止具は、このようにして密閉式電池を封止する。
本発明のように樹脂製スリーブ3が有底であると、無底である場合に比べて、樹脂製スリーブ3の内面と金属製筒状部材2の外面との密着が損なわれても、樹脂製スリーブ3と電池容器5との密着が保たれていれば、電池の密閉を保持できるという効果がある。
図8は、樹脂製スリーブが無底である封止具の、密閉式電池を封止した状態を示す断面図である。図8において、図7と同一の符号は、図7と同一または共通する要素を示す。樹脂製スリーブ3’は、無底であり、図7に示した底面部4を有していない。図8に示したような封止具では、樹脂製スリーブ3’と金属製筒状部材2との間の密着が失われた場合には、外気が樹脂製スリーブ3’と金属製筒状部材2との間を通って電池内部に侵入し、電池は密閉を損なってしまう。
本発明による封止具の効果を確認するために、次のようなリークテストを行った。樹脂製スリーブとして、有底のものと無底のものを用意し、それぞれを金属製筒状部材と組み合わせて、封止具を2種類作製した。それぞれの封止具を用いて、リークテスト用の容器を封止した。なお、金属製筒状部材の外周面には、樹脂製スリーブの側面部に圧接する部分に、取付鉛直方向(図1の上下方向)に沿って、ケガキ針であらかじめ傷をつけておいた。この傷により、金属製筒状部材と樹脂製スリーブの間の密着が失われる。また、リークテスト用の容器には、封止具で封止した穴とは別の穴を設け、この別途設けた穴にヘリウムリークテスタのヘッドを取り付けた。
このようにして実施したリークテストの結果、無底の樹脂製スリーブを組み合わせた封止具を用いて容器を封止した場合には、10−6Paレベルの明らかなリークが認められた。一方、有底の樹脂製スリーブを組み合わせた封止具を用いて容器を封止した場合には、10−9Pa以上の密閉性が得られた。
以上の結果から、本発明による封止具を用いると、金属製筒状部材と樹脂製スリーブの間の密着が失われても、電池内部の気密を保つことができ、密閉式電池の信頼性を向上させることが可能であることがわかった。