JP2012007964A - フーリエ変換赤外分光光度計 - Google Patents

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Abstract

【課題】赤外光源を点灯してからの時間経過等に拘わらず、ダイナミックアライメント方式による固定鏡姿勢制御やフィードバック制御による移動鏡の速度一定制御の精度を高めて高精度で再現性の高いスペクトルを取得する。
【解決手段】記憶部28には、固定鏡姿勢制御部21における制御に用いられる信号の位相差や移動鏡速度制御部24における制御に用いられる伝達関数等の制御パラメータを、干渉計室内の温度範囲毎に用意したテーブルを格納しておく。測定実行時にパラメータ設定部26は温度センサ27により検知される干渉室内の温度情報を読み込み、その温度に応じた制御パラメータ値を記憶部28から読み出して各制御部21、24に送り、測定を実行する。これにより、干渉計室内の温度に拘わらず適切な干渉計制御が実施される。
【選択図】図2

Description

本発明はフーリエ変換赤外分光光度計(以下「FTIR」と略す)に関する。
FTIRでは、ビームスプリッタ、固定鏡、移動鏡などを含むマイケルソン型干渉計を代表とする干渉計により時間的に振幅が変動する赤外干渉波を生成し、該赤外干渉波を試料に照射してその透過光又は反射光をインターフェログラム(以下「IFG}と称す)として検出する。そして、このIFGをフーリエ変換処理することによって、横軸に波数、縦軸に強度(吸光度又は透過率など)をとったスペクトルを得る。
また、通常、FTIRにおける干渉計には、IFGを得るための主干渉計のほかに、IFGのデータをサンプリングする信号を生成するためのコントロール干渉計が備えられている。コントロール干渉計は、レーザ光源、主干渉計と共通のビームスプリッタ、固定鏡、移動鏡などを含み、干渉縞信号を得るためのレーザ干渉光を発生させる。このレーザ干渉光は、赤外干渉光の光路中に挿入されたミラーにより該光路から取り出されて光検出器に導入される。この光検出器による検出信号、つまりレーザ光干渉縞信号に基づいてデータサンプリング用のパルス信号が生成される。コントロール干渉計の光検出器で得られる信号は、データサンプリング以外に、固定鏡の位置や姿勢(傾き)を調整するためや、移動鏡の速度制御にも利用される。
まず、ダイナミックアライメント方式と呼ばれる、コントロール干渉計におけるレーザ光の干渉状態を用いた固定鏡の傾き調整方法について簡単に説明する(特許文献1など参照)。即ち、レーザ干渉光を検出する光検出器としては一般に、互いに直交する2軸(水平軸及び垂直軸)により受光面が4分割されたフォトダイオードが用いられる。ここで、4個の受光部のうち、或る1個の受光部を参照部R、参照部Rに水平方向に隣接する受光部を水平部H、参照部Rに垂直方向に隣接する受光部を垂直部Vとし、参照部Rから得られる信号を参照信号Sr、水平部Rから得られる信号を水平信号Sh、垂直部Vから得られる信号を垂直信号Svとする。
レーザ干渉光の光束断面内で光路長に差がある場合、参照信号Sr、水平信号Sh及び垂直信号Svには位相差が生じる。そこで、移動鏡を駆動する際に、制御部は、参照信号Srと水平信号Shとの位相差(ΔRH)及び参照信号Srと垂直信号Svとの位相差(ΔRV)がそれぞれ一定となるように、固定鏡に搭載された圧電素子に駆動電圧を印加し、固定鏡の傾きを補償する。この補償を行うことにより、良好なスペクトルを得ることができる。このダイナミックアライメント方式による固定鏡の姿勢制御においては、2つの位相差ΔRH、ΔRVが制御の目標値、つまり制御パラメータである。
次に、コントロール干渉計におけるレーザ干渉光を利用した、移動鏡のフィードバック制御による速度一定制御ついて簡単に説明する(特許文献2など参照)。即ち、移動鏡を一定速度で移動させる際に、制御部はコントロール干渉計の光検出器で得られる信号の周波数から実際の移動鏡速度Vcを計算する。そして、この移動鏡速度Vcと目標速度V0との差を速度誤差(Vc−V0)として求め、この速度誤差を移動鏡を駆動するモータへの印加電圧にフィードバックする。これにより、移動鏡を高い精度で駆動することができる。このような移動鏡駆動制御においては、速度誤差をフィードバックする際の伝達関数(具体的には1次式によるフィードバック制御の場合には、1次式:Y=a・X+bにおける乗数aとオフセット値b)が制御パラメータである。
マイケルソン型干渉計における制御は主として上述のダイナミックアライメント方式による固定鏡の傾き制御と移動鏡の駆動制御であり、本明細書では、それら制御のために用いられる各種制御パラメータを干渉計制御パラメータと呼ぶこととする。
従来のFTIRでは、或る決まった干渉計制御パラメータが予め、つまり装置が製造メーカからユーザに提供される段階で該装置に与えられ、その干渉計制御パラメータを用いた動作制御が実行されるようになっている。しかしながら、そうした構成では次のような問題がある。
FTIRで使用される赤外光源は約1000℃もの高温になるため、この光源からの放射熱により、密閉された干渉計室内の温度はかなり変化する。例えば、本願出願人が市販している装置では、光源の点灯開始直後から干渉計室内の温度は上昇し、温度が十分に安定するまでに数十℃の温度上昇を伴う。干渉計室内には、ミラー等の様々な光学部品やそれを保持するための板金製の部材などが配置されているため、干渉計室内の温度が変化すると光路の長さや傾きなどが微妙に変化し、赤外光やレーザ光の干渉状態に影響を及ぼす。その結果、予め与えられている干渉計制御パラメータでは固定鏡の姿勢制御や移動鏡の駆動制御が必ずしも最適に行われなくなり、これが測定自体の精度を低下させる一因となる。
特開平2−253103号公報 特開2009−139352号公報
通常、赤外光源を点灯してから数時間程度で干渉計室内の温度は安定する。したがって、測定を実行していないときにも常に赤外光源を点灯しておくようにすれば、干渉計室内の温度を一定に維持することができ、上述したような温度変化に伴う制御の不安定性の影響を軽減できる。しかしながら、非測定時にも長時間に亘り光源を点灯し続けるのは、省電力、省エネルギーに反することになり、また光源の寿命が短くなりランニングコストが上がるといった点からも好ましくない。
本発明は上記問題を解決するために成されたものであり、その主たる目的とするところは、マイケルソン型干渉計等を内装する干渉計室内の温度に拘わらず、固定鏡の姿勢制御や移動鏡の駆動制御を常に良好に行うことにより、高精度で再現性の良好なスペクトルを取得することができるフーリエ変換赤外分光光度計を提供することにある。
上記課題を解決するために成された第1発明は、赤外光源、ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、赤外干渉光を生成する主干渉計と、レーザ光源のほか、前記ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、レーザ干渉光を生成するコントロール干渉計と、からなる干渉計を具備するフーリエ変換赤外分光光度計において、
a)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記固定鏡の姿勢を制御する固定鏡姿勢制御手段と、
b)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記移動鏡の移動速度を制御するための移動鏡速度制御手段と、
c)前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御による制御に用いられる制御パラメータについて、前記干渉計が内装された干渉計室内の異なる温度範囲に対応してそれぞれ異なるパラメータ値を記憶しておくパラメータ記憶手段と、
d)前記干渉計が内装された室内の温度を検出又は推定する温度取得手段と、
e)測定実行時に、前記温度取得手段により得られた温度に対応したパラメータ値を前記パラメータ記憶手段から読み出して前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えるパラメータ設定手段と、
を備えることを特徴としている。
また上記課題を解決するために成された第2発明は、赤外光源、ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、赤外干渉光を生成する主干渉計と、レーザ光源のほか、前記ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、レーザ干渉光を生成するコントロール干渉計と、からなる干渉計を具備するフーリエ変換赤外分光光度計において、
a)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記固定鏡の姿勢を制御する固定鏡姿勢制御手段と、
b)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記移動鏡の移動速度を制御するための移動鏡速度制御手段と、
c)前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御による制御に用いられる制御パラメータについて、前記干渉計が内装された干渉計室内の異なる温度範囲に対応してそれぞれ異なるパラメータ値を記憶しておくパラメータ記憶手段と、
d)前記パラメータ記憶手段から読み出したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行したときに得られるデータを評価し、その評価に基づいて複数のパラメータ値の中から最適なものを抽出して前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えるパラメータ設定手段と、
を備えることを特徴としている。
第1及び第2発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計において、固定鏡姿勢制御手段はいわゆるダイナミックアライメント方式により固定鏡の傾き(姿勢)を調整するものであって、この場合の制御パラメータ(干渉計制御パラメータ)は、例えば複数に分割された光検出器の受光面で得られた信号の位相差の目標値である。また、移動鏡速度制御手段はモニタリングした現在の移動鏡速度に基づくフィードバック制御で速度一定制御を行うものであって、この場合の制御パラメータは、例えばフィードバック制御の伝達関数を決めるための係数や定数などである。
第1発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計では、測定開始の直前に温度取得手段は干渉計室内の実際の温度を検出又は推定する。そして、パラメータ設定手段は、温度取得手段により得られた温度に対応したパラメータ値をパラメータ記憶手段から読み出し、固定鏡姿勢制御手段及び移動鏡速度制御手段に与えて測定を実行する。一般的に、赤外光源が点灯された直後であれば干渉計室内の温度は低く、長時間に亘り赤外光源が点灯された状態であれば干渉計室内の温度は高い。しかしながら、第1発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計によれば、測定実行時の干渉計室内の温度に拘わらず、その温度に適したパラメータ値が設定されて固定鏡の姿勢制御や移動鏡の速度制御が実行されるため、主干渉計による赤外干渉光、コントロール干渉計によるレーザ干渉光ともに理想的な状態に近い状態となる。それにより、干渉計室内の温度が安定な状態になるまで待つことなく、赤外光源の点灯後に時間をおかずに測定を実施しても、高精度で再現性の良好なスペクトルを取得することができる。
一方、第2発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計では、干渉計室内の実際の温度を検出したり推定したりすることなく、或るパラメータ値を各制御手段に仮に与えて予備的な測定を実施し、これにより得られたデータに基づいて適切なパラメータ値を選択する。評価に利用できるデータとしては、IFG信号の中で通常、強度が最大となるセンターバーストと呼ばれるピークの強度、或いは移動鏡の速度誤差(実際の移動鏡速度と目標値との差)信号を用いることができる。前者の場合、ピーク強度が大きいほど好適なパラメータ値であり、後者の場合、速度誤差の絶対値が小さいほど好適なパラメータ値である。
ただし、予備的な測定の回数が多いとパラメータ値を決めるために時間が掛かることになるから、分析のスループットの向上させるためには予備的な測定の回数は少ないほうが好ましい。そこで、第2発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計の一態様として、前記パラメータ設定手段は、過去の直近で使用された或る温度範囲に対応するパラメータ値と、該パラメータ値に対応する温度範囲よりも1段階上の温度範囲及び1段階下の温度範囲にそれぞれ対応したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行したときに得られる3つのデータを評価し、或る温度範囲に対応するパラメータ値よりも1段階上の温度範囲に対応したパラメータ値が適切である場合に、さらに高い温度範囲に対応したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行し、或る温度範囲に対応するパラメータ値よりも1段階下の温度範囲に対応したパラメータ値が適切である場合に、さらに低い温度範囲に対応したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行することにより、最適なパラメータ値を探索する構成とするとよい。
この第2発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計によれば、第1発明と同様に、測定実行時の干渉計室内の温度に拘わらず、その温度に適したパラメータ値が設定されて固定鏡の姿勢制御や移動鏡の速度制御が実行されるため、主干渉計による赤外干渉光、コントロール干渉計によるレーザ干渉光ともに理想的な状態に近い状態となる。それにより、干渉計室内の温度が安定な状態になるまで待つことなく、赤外光源の点灯後に時間をおかずに測定を実施しても、高精度で再現性の良好なスペクトルを取得することができる。また、この第2発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計によれば、温度以外の、例えば湿度などの要因により光路長などが変動して干渉状態が変わった場合でも、そのときの光路状態に合わせて最も理想に近いような干渉状態が得られ、高精度で再現性の良好なスペクトルを取得することができる。
本発明の第1実施例によるFTIRの光学系の概略構成図。 第1実施例によるFTIRの制御・処理系の要部の構成図。 第2実施例によるFTIRの制御・処理系の要部の構成図。 第2実施例によるFTIRの制御・処理動作のフローチャート。 第2実施例によるFTIRにおいて取得されるIFG信号の一例を示す図。 第2実施例によるFTIRにおいて取得される速度誤差信号の一例を示す図。
以下、本発明の一実施例によるFTIRについて、添付図面を参照して説明する。図1は第1実施例によるFTIRの光学系の概略構成図、図2は第1実施例によるFTIRの制御・処理系の要部の構成図である。
図1において、気密性を有する干渉計室1内には、赤外光源2、集光鏡3、コリメータ鏡4、ビームスプリッタ5、固定鏡6、移動鏡7から構成される主干渉計と、レーザ光源8、レーザ用ミラー9、ビームスプリッタ5、固定鏡6、移動鏡7から構成されるコントロール干渉計と、が配設されている。主干渉計は干渉計室1外部に設置された試料14のスペクトル測定を行うための赤外干渉光を発生させる。即ち、赤外光源2から出射された赤外光は、集光鏡3、コリメータ鏡4を介してビームスプリッタ5に照射され、ビームスプリッタ5により固定鏡6及び移動鏡7の二方向に分割される。固定鏡6及び移動鏡7にてそれぞれ反射した光はビームスプリッタ5によって再び合一され、放物面鏡12へ向かう光路に送られる。測定時において、移動鏡7は前後(図1中の矢印Mの方向)に往復動しているため、合一された光は時間的に振幅が変動する干渉光、つまりIFGとなる。放物面鏡12にて集光された光は試料室13内に照射され、試料室13に配置された試料14を通過した光は楕円面鏡15により赤外光検出器16へ集光される。
一方、コントロール干渉計は干渉縞信号を得るためのレーザ干渉光を発生させる。即ち、レーザ光源8から出射された光はレーザ用ミラー9を介してビームスプリッタ5に照射され、赤外光と同様に干渉光となって放物面鏡12の方向へ送られる。このレーザ干渉光は非常に小さな径の光束となって進行するため、光路中に挿入されているレーザ用ミラー10により反射されてレーザ検出器11に導入される。レーザ検出器11は受光面が互いに直交する二軸により4つに分割された4分割フォトダイオードであり、4つの受光部で得られた信号が並列に出力される。図示しない信号生成回路では、レーザ検出器11の受光信号、つまりレーザ干渉光信号G2から、赤外干渉光に対する受光信号G1をサンプリングするためのパルス信号が生成される。
レーザ干渉光信号G2は、データサンプリング以外に、ダイナミックアライメント方式による固定鏡6の姿勢制御、及びモニタリングした移動速度に基づくフィードバック制御による移動鏡7の速度制御、に利用される。
即ち、レーザ検出器11において4つの受光部でそれぞれ得られた信号は演算処理部20に入力され、演算処理部20は上述したように、4つの受光部のうちの或る1つの受光部から得られる参照信号Sr、該受光部に対し水平方向及び垂直方向にそれぞれ隣接する受光部から得られる水平信号Sh及び垂直信号Svについて、参照信号Srと水平信号Shとの位相差(ΔRH)と参照信号Srと垂直信号Svとの位相差(ΔRV)とに相当する信号を求める。固定鏡姿勢制御部21は2つの位相差ΔRH、ΔRVがそれぞれパラメータ設定部26から与えられる干渉計制御パラメータの値、つまり位相差の目標値に一致するような制御信号を生成する。そして、駆動部22を介して、固定鏡6に付設されている姿勢調整用の圧電素子6aを駆動することにより、固定鏡6の姿勢を微妙に調整する。
一方、レーザ検出器11において4つの受光部でそれぞれ得られた信号は演算処理部23にも入力され、演算処理部23は4つの受光部から得られる信号を全て加算して、干渉縞信号を求める。移動鏡速度制御部24は干渉縞信号の周波数(周期)から移動鏡7の移動速度を計算する。そして、この実測の移動速度と予め決められている速度の目標値との差、つまり速度誤差を求め、この速度誤差に対しパラメータ設定部26から与えられる干渉計制御パラメータの値で決まる伝達関数を適用してフィードバック制御量を計算する。そして、駆動部25を介して、移動鏡7を往復動させるモータ(リニアモータ)7aを駆動することにより、移動鏡7の移動速度を一定に維持する。
したがって、固定鏡6の姿勢を適切に保つため、及び、移動鏡7の移動速度を正確に一定に維持するためには、パラメータ設定部26から与えられる干渉計制御パラメータの値が重要である。本実施例のFTIRでは、干渉計室1内の最低温度と最高温度との間で複数段階に温度範囲が区分されており、温度範囲毎に、ダイナミックアライメント方式による固定鏡6の姿勢制御、及びフィードバック制御による移動鏡7の速度制御のための最適なパラメータ値が予め求められ、温度範囲と制御パラメータ値とが対応付けてパラメータテーブルとして記憶部28に格納されている。また、本実施例のFTIRでは、干渉計室1内の適宜の位置に温度センサ27が設置されており、この温度センサ27により検知された温度情報はパラメータ設定部26に入力されている。なお、温度センサ27の設置位置は、干渉計室1内の雰囲気温度を適切に検知できる位置が好ましく、赤外光源2からの直接的な熱輻射の影響を受けないような位置に定められる。
本実施例のFTIRでは、図示しない制御用のパーソナルコンピュータから送られてくる測定開始コマンドをパラメータ設定部26が受け取ると、パラメータ設定部26は温度センサ27から温度情報を読み込み、その時点での最新の干渉計室1内の雰囲気温度を把握する。そして、記憶部28に格納してあるパラメータテーブルからその時点での雰囲気温度に対応したパラメータ値(位相差情報及び伝達関数情報)を読み出し、固定鏡姿勢制御部21に位相情報を、移動鏡速度制御部24に伝達関数情報を送出する。送られて来たそれぞれのパラメータ値は固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24の内部メモリに記憶され、少なくともその測定開始コマンドに応じて実施される測定中には、そのパラメータ値に従った制御が実行される。
例えば或る測定が終了して制御用のパーソナルコンピュータから次の測定開始コマンドが送られて来ると、その時点で再び最新の干渉計室1内の雰囲気温度が検知され、該当する温度範囲に変化があれば、変更後のパラメータ値が固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に送出される。したがって、本実施例のFTIRでは、測定実行毎にそのときの干渉計室1内の雰囲気温度に応じた最適なパラメータ値に基づいて、固定鏡6の姿勢制御と移動鏡7の速度一定制御とが行われ、正確で再現性のよいスペクトルデータを取得することができる。
次に、本発明に係る他の実施例(第2実施例)のFTIRについて説明する。図3は第2実施例によるFTIRの制御・処理系の要部の構成図、図4は第2実施例によるFTIRの制御・処理動作のフローチャート、図5は第2実施例によるFTIRにおいて取得されるIFG信号の一例を示す図、図6は第2実施例によるFTIRにおいて取得される速度誤差信号の一例を示す図である。なお、光学系の構成は上記第1実施例と同じであるので、以下の説明でも図1を用いる。
この実施例のFTIRでは、実際に検知した温度に基づいて干渉計制御パラメータの値を決めるのではなく、或るパラメータ値を設定した条件の下で予備測定を実行した結果に基づいてパラメータ値を決める。ただし、比較的高い頻度で測定を実行する一般的な測定現場では、測定を実行する際にその直前の測定実行時から干渉計室1内の雰囲気温度はそれほど大きく変動しないとの前提の下に、該直前の測定実行時に使用されたパラメータ値から予備測定を開始することにより、予備測定の実行回数をできるだけ抑えるようにしている。
図3に示すように、この第2実施例のFTIRでは、赤外光検出器16による検出信号はサンプルホールド回路を含むアナログ−デジタル変換器(ADC)によりデジタルデータに変換され、データ処理部31において横軸が移動鏡位置、縦軸が信号強度であるIFGが作成される。予備測定制御部32の下で動作する評価部33は上記IFGや移動鏡速度制御部24から得られる速度誤差信号の評価を行い、パラメータ設定部34は予備測定制御部32からの指示に基づいて予備測定時にパラメータ値を固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に順次設定するとともに、最終的に評価部33による評価に基づいて決められた唯一のパラメータ値を固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に順次設定する。
図4に従って第2実施例のFTIRにおける特徴的な処理・制御動作を説明する。
図示しない制御用のパーソナルコンピュータから送られてくる測定開始コマンドを予備測定制御部32が受け取ると(ステップS1)、予備測定制御部32はパラメータ設定部34に対し、前回測定を実行した際に使用したパラメータ値Pcを記憶部28から読み出して固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に送り、そのパラメータ値Pcの下で予備測定を実行するように指示を与える。そして、この予備測定の実行の過程で得られたIFGデータをデータ処理部31から評価部33に読み込むとともに、速度誤差信号を移動鏡速度制御部24から評価部33に読み込む(ステップS2)。
次に、予備測定制御部32はパラメータ設定部34に対し、パラメータ値Pcに対応した温度範囲よりも1段階高温側の温度範囲に対応したパラメータ値Pc+1を記憶部28から読み出して固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に送り、そのパラメータ値Pc+1の下で予備測定を実行するように指示を与える。そして、この予備測定の実行の過程で得られたIFGデータをデータ処理部31から評価部33に読み込むとともに、速度誤差信号を移動鏡速度制御部24から評価部33に読み込む(ステップS3)。続いて、予備測定制御部32はパラメータ設定部34に対し、パラメータ値Pcに対応した温度範囲よりも1段階低温側の温度範囲に対応したパラメータ値Pc-1を記憶部28から読み出して固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に送り、そのパラメータ値Pc-1の下で予備測定を実行するように指示を与える。そして、この予備測定の実行の過程で得られたIFGデータをデータ処理部31から評価部33に読み込むとともに、速度誤差信号を移動鏡速度制御部24から評価部33に読み込む(ステップS4)。
即ち、前回測定を実行した際に使用したパラメータ値Pcを中心に、それよりも1段階高温側の温度範囲に対応したパラメータ値Pc+1、それよりも1段階低温側の温度範囲に対応したパラメータ値Pc-1、の3回の予備測定が実行されて、それぞれIFGデータと速度誤差信号とが取得される。次に、評価部33は3回の予備測定におけるIFGデータと速度誤差信号とをそれぞれ評価することにより、その3つのパラメータ値の中で最も適切なものを見つける(ステップS5)。具体的には次のようにする。
移動鏡7の位置を横軸に、IFGデータ(強度信号)を縦軸にとると、図5に示すような形状となり、通常、横軸の中心付近に、センターバースト(CB)と呼ばれる強度の大きなピークが現れる。赤外光の干渉状態が良好であるほどセンターバーストの強度は大きいから、このセンターバーストの強度が大きいほど干渉計制御パラメータの値が適していると評価できる。他方、移動鏡7の位置を横軸に、移動鏡7の速度誤差を縦軸にとると、図6に示すようになる。なお、速度誤差は、上述したようにモニタリングした移動鏡の速度Vcと目標速度V0との差(Vc−V0)を目標速度V0で除した値に100を乗じて%表示したもの、つまり{(Vc−V0)/V0}×100、である。レーザ光の干渉状態が良好であるほど移動鏡7の速度一定制御の精度は向上するから、速度誤差の絶対値が小さいほど干渉計制御パラメータの値が適していると評価できる。そこで、ここでは、移動鏡位置についての所定の範囲内で速度誤差の+側最大値と−側最大値の絶対値との平均値を比較し、それが小さいほどパラメータ値が適していると評価する。
IFGデータに基づく評価と速度誤差に基づく評価とが同じ場合には、両方ともに最適と判断されたパラメータ値Pc、Pc+1又はPc-1に応じてステップS5からS6、S7又はS9へ進む。IFGデータに基づく評価と速度誤差に基づく評価とが異なる場合には、予めいずれか重視すると定められていた方の評価結果を採用すればよい。また、始めからいずれか一方の評価しか行わないようにしても構わない。もし、パラメータ値Pcが最適であると判断された場合には、パラメータ設定部34はそのパラメータ値Pcを採用し、これを固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24へと送り、干渉計制御パラメータの値を確定させる。
これに対し、パラメータ値Pc+1が最適であると判断された場合には、現時点での干渉計室1内の温度が前回測定時よりも高くなっている可能性が高い。そこで、予備測定制御部32はパラメータ設定部34に対し、Pc+1をPcとした上で(ステップS7)、パラメータ値Pcに対応した温度範囲よりも1段階高温側の温度範囲に対応したパラメータ値Pc+1を記憶部28から読み出して固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に送り、そのパラメータ値Pc+1の下で予備測定を実行するように指示を与える。つまり、始めのパラメータ値Pcに対して2段階高温側のパラメータ値を選んで予備測定を実行し(ステップS8)、ステップS5に戻る。逆に、パラメータ値Pc-1が最適であると判断された場合には、現時点での干渉計室1内の温度が前回測定時よりも低くなっている可能性が高い。そこで、予備測定制御部32はパラメータ設定部34に対し、Pc-1をPcとした上で(ステップS9)、パラメータ値Pcに対応した温度範囲よりも1段階低温側の温度範囲に対応したパラメータ値Pc-1を記憶部28から読み出して固定鏡姿勢制御部21及び移動鏡速度制御部24に送り、そのパラメータ値Pc-1の下で予備測定を実行するように指示を与える。つまり、始めのパラメータ値Pcに対して2段階低温側のパラメータ値を選んで予備測定を実行し(ステップS10)、ステップS5に戻る。
高温側、低温側のいずれにおいても、パラメータ値Pcが最適であるとの結果が得られるまでステップS5→S7→S8又はステップS5→S9→S10の処理を繰り返す。ただし、温度範囲の上限又は下限に達したならば、そこで処理を停止する。これにより、予備測定により実際に得られたデータに基づいて、最適な干渉計制御パラメータの値が設定されることになる。この実施例では、必ずしも温度の影響のみならず、例えば本来は十分に除湿された状態である筈の干渉計室1内の湿度が変化した、等の別の要因により干渉計制御パラメータの最適値が変わった場合にも、対応できるという利点がある。
上記第2実施例では測定開始コマンドが送られて来た後に予備測定を実行していたが、非測定時に常時或いは定期的に予備測定を実行して干渉計制御パラメータの最適値を把握するようにし、測定開始コマンドが送られて来たならば、最新の干渉計制御パラメータの最適値を用いて即座に実際の測定を開始するようにしてもよい。この場合、非測定時にも光源を点灯させ、移動鏡を駆動する必要があるものの、測定開始指示後に予備測定を行う必要がないので、測定結果を迅速に得ることができるという利点がある。
なお、非測定時には、ユーザが試料室13を開けて試料14を交換する可能性があるため、IFGデータを用いたパラメータ値の評価は適切でない。一方、レーザ干渉光信号は干渉計室1の内部のみで得られるため、速度誤差に基づく評価は試料14交換等の影響を受けることがない。したがって、非測定時に干渉計制御パラメータの最適値を探索する際には、速度誤差に基づく評価のみを利用するのが好ましい。
また、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜に修正や変更を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
1…干渉計室
2…赤外光源
3…集光鏡
4…コリメータ鏡
5…ビームスプリッタ
6…固定鏡
6a…圧電素子
7…移動鏡
7a…モータ
8…レーザ光源
9、10…レーザ用ミラー
11…レーザ検出器
12…放物面鏡
13…試料室
14…試料
15…楕円面鏡
16…赤外光検出器
20、23…演算処理部
21…固定鏡姿勢制御部
22、25…駆動部
24…移動鏡速度制御部
26、34…パラメータ設定部
27…温度センサ
28…記憶部
31…データ処理部
32…予備測定制御部
33…評価部

Claims (3)

  1. 赤外光源、ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、赤外干渉光を生成する主干渉計と、レーザ光源のほか、前記ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、レーザ干渉光を生成するコントロール干渉計と、からなる干渉計を具備するフーリエ変換赤外分光光度計において、
    a)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記固定鏡の姿勢を制御する固定鏡姿勢制御手段と、
    b)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記移動鏡の移動速度を制御するための移動鏡速度制御手段と、
    c)前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御による制御に用いられる制御パラメータについて、前記干渉計が内装された干渉計室内の異なる温度範囲に対応してそれぞれ異なるパラメータ値を記憶しておくパラメータ記憶手段と、
    d)前記干渉計が内装された室内の温度を検出又は推定する温度取得手段と、
    e)測定実行時に、前記温度取得手段により得られた温度に対応したパラメータ値を前記パラメータ記憶手段から読み出して前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えるパラメータ設定手段と、
    を備えることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
  2. 赤外光源、ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、赤外干渉光を生成する主干渉計と、レーザ光源のほか、前記ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、レーザ干渉光を生成するコントロール干渉計と、からなる干渉計を具備するフーリエ変換赤外分光光度計において、
    a)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記固定鏡の姿勢を制御する固定鏡姿勢制御手段と、
    b)前記レーザ干渉光の検出信号に基づいて、前記移動鏡の移動速度を制御するための移動鏡速度制御手段と、
    c)前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御による制御に用いられる制御パラメータについて、前記干渉計が内装された干渉計室内の異なる温度範囲に対応してそれぞれ異なるパラメータ値を記憶しておくパラメータ記憶手段と、
    d)前記パラメータ記憶手段から読み出したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行したときに得られるデータを評価し、その評価に基づいて複数のパラメータ値の中から最適なものを抽出して前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えるパラメータ設定手段と、
    を備えることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
  3. 請求項2に記載のフーリエ変換赤外分光光度計であって、
    前記パラメータ設定手段は、過去の直近で使用された或る温度範囲に対応するパラメータ値と、該パラメータ値に対応する温度範囲よりも1段階上の温度範囲及び1段階下の温度範囲にそれぞれ対応したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行したときに得られる3つのデータを評価し、或る温度範囲に対応するパラメータ値よりも1段階上の温度範囲に対応したパラメータ値が適切である場合に、さらに高い温度範囲に対応したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行し、或る温度範囲に対応するパラメータ値よりも1段階下の温度範囲に対応したパラメータ値が適切である場合に、さらに低い温度範囲に対応したパラメータ値を前記固定鏡姿勢制御手段及び前記移動鏡速度制御手段に与えて予備的な測定を実行することにより、最適なパラメータ値を探索することを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
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