JP2011252197A - 軟窒化機械構造部品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】疲労強度と曲げ矯正性に優れる軟窒化機械構造部品の製造方法の提供。
【解決手段】C:0.20〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.60〜1.60%、P≦0.05%、S≦0.10%、Cr:0.03〜0.40%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.001〜0.050%及びN:0.003〜0.030%を含有するとともに、〔1.30<0.5Si+Mn+4Cr+8Al+10Tieff<2.40〕を満たし、残部はFeと不純物からなる鋼を、仕上げ温度が850〜1250℃で、仕上げ温度〜300℃の平均冷却速度が5℃/秒以下である熱間鍛造を施し、その後部品形状に加工し、該加工材に620〜700℃の温度域で軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行う。
【選択図】なし

Description

本発明は、軟窒化を施された機械構造部品(以下、「軟窒化機械構造部品」という。)の製造方法に関する。詳しくは、自動車、産業機械および建設機械などに用いられるクランクシャフトやコネクティングロッドなど、所定の形状に熱間鍛造され、その後、軟窒化を施されて使用される疲労強度と曲げ矯正性に優れる軟窒化機械構造部品の製造方法に関する。
自動車、産業機械および建設機械などに用いられるクランクシャフトやコネクティングロッドなどの機械構造部品にとって、疲労強度は具備すべき重要な機械的特性である。
上記した部品の疲労強度を向上させるために、機械構造用炭素鋼鋼材や機械構造用合金鋼鋼材などを所望の形状に熱間鍛造し、鍛造ままの状態あるいは鍛造後さらに焼ならし処理を施した状態で、軟窒化が施されることがある。
鋼材を軟窒化すると、鋼材の表面には鉄窒化物の層が生成する。この層は通常、数μm〜20μm程度の厚さの層であり、「化合物層」と呼ばれている。化合物層は耐摩耗性や耐焼付き性を向上させる。上記化合物層の下には、窒素が拡散して特性が変化する領域がある。この領域は通常、数100μm〜1mm程度の厚さの層であり、「拡散層」と呼ばれている。拡散層は生地(以下、「芯部」ともいう。)と比べて硬さが高いため、軟窒化処理によって拡散層が生成することで、疲労強度が向上する。
なお、クランクシャフトなどの機械構造部品の場合には、軟窒化を施すと「反り」が生じるので、反りの矯正が必要となる。機械構造部品に生じた反りの矯正のし易さは、「曲げ矯正性」あるいは「曲がり取り性」などの用語で呼ばれることが多く、軟窒化機械構造部品にとっては疲労強度とともに具備すべき重要な特性の一つである。
しかしながら、反りの矯正のし易さ(以下、「曲げ矯正性」という。)は拡散層の特性の影響を強く受け、疲労強度とは一般にトレードオフの関係にあることから、軟窒化後の機械構造部品に高い疲労強度と優れた曲げ矯正性を兼備させたいという要望が極めて大きくなっている。
疲労特性と曲げ矯正性は、拡散層の硬さ分布の影響を大きく受ける。すなわち、疲労強度は拡散層のうちの化合物層直下の領域の硬さと、より芯部に近い領域の硬さの両方の影響を受け、一方、曲げ矯正性は化合物層直下の領域の硬さにほぼ支配される。そのため、化合物層直下の領域のみが硬化したような機械構造部品は、疲労強度は幾分か高くなるものの、曲げ矯正性が大きく低下してしまう。したがって、曲げ矯正が必要な機械構造部品にとって化合物層直下の領域だけが硬化することは好ましくない。両特性を両立させるためには拡散層における化合物層直下の領域のみを過度に硬化させることなく、硬化深さが深いような硬さ分布を持つようにすることが好ましい。
そこで、前記した要望に応えるべく、合金成分および金属組織の最適化、軟窒化条件の最適化等を行う種々の技術が開示されている。
例えば、特許文献1には、合金元素の含有率が質量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜1.50%、Cr:0.05〜0.50%を含み、必要に応じてさらに、〈1〉Ni:0.50%以下、Mo:0.50%以下のうちの1種または2種、〈2〉N:0.005〜0.030%、V:0.3%以下、Nb:0.3%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.1%以下、Ta:0.2%以下のうちの1種または2種以上、〈3〉S:0.01〜0.30%、〈4〉Pb:0.3%以下、Ca:0.05%以下、Bi:0.2%以下、Te:0.05%以下のうちの1種または2種以上、の4元素群のうちの少なくとも1つの元素群から選ばれる元素を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、熱間加工後の組織が実質上フェライト・パーライト組織であり、フェライトの面積率が30%以上かつフェライト粒度番号が5番以上の粒度であり、しかも、パーライトの平均寸法が50μm以下であることを特徴とする「窒化鋼」が開示されている。
また、特許文献2〜4には、軟窒化処理条件を規定することによって、軟窒化特性向上を図る技術が開示されている。
具体的には、特許文献2に、「鋼部材に550〜600℃の温度で5〜150時間の間イオン窒化又はイオン軟窒化による第1窒化処理を施し、次に上記鋼部材に、450〜530℃の温度で0.5〜3時間の間イオン窒化又はイオン軟窒化による第2窒化処理を施すことを特徴とする「窒化鋼部材の製造方法」が開示されている。
特許文献3には、炉体内を予熱ゾーンに連なる高温ゾーンと焼入れゾーンとに区画し、該高温ゾーンでは前記焼入れゾーンにおける被処理材の焼入れ温度より高温に加熱して窒化処理を行うことを特徴とする「高温軟窒化炉」が開示されている。
特許文献4には、「鉄系部品からなる被処理品を熱処理炉内でキャリヤガスとアンモニアガスとの混合雰囲気ガスで軟窒化処理するガス軟窒化法において、上記被処理品を700℃〜630℃の温度範囲における一次処理によって表面部にγ'相を形成し、次いで630℃〜590℃の温度範囲における二次処理によって上記γ'相をε+γ'相に変換し、さらに590℃〜550℃の温度範囲における三次処理によって上記ε+γ'相をε相に変換せしめるようにしたことを特徴とする「ガス軟窒化法」が開示されている。
特開平9−291339号公報 特開平2−294463号公報 特開平3−281771号公報 特開昭55−11181号公報
前述の特許文献1で開示された技術は、主に組織を微細化することで、疲労強度と曲げ矯正性の両立を狙ったものである。しかしながら、曲げ矯正性に悪影響を及ぼすCrを疲労強度確保のために含有させており、Cr含有量の多いものについてはCの含有量を減らすことで曲げ矯正性を確保している。そのため、疲労強度は切り欠き付きの小野式回転曲げ疲労試験で最大でも403MPaであり、高疲労強度が必要な部材には使えない可能性がある。
特許文献2で開示された技術は、窒化処理を二段階の温度で連続して行うことで、有効硬化深さと表面硬さを向上させたものである。しかし、この技術の主目的は、拡散層における化合物層直下の領域の硬さを高めることであって、窒素の芯部への拡散が十分に促進されているとはいい難い。そのため、疲労特性と曲げ矯正性が両方必要であるような部材に使用すると、疲労強度は改善されるものの、曲げ矯正性が大きく低下するため好ましくない。
特許文献3で開示された技術は、窒化処理を二段階の温度で連続して行い、オーステナイト相を一度生成させた後にこれをγ’に分解させる工程を経ることで疲労強度の向上を狙ったものである。この処理を行うことで、確かに疲労強度は向上するが、被処理材として具体的に示されているのはS53Cであって、鋼材の成分について何ら工夫されているものではなく、高い疲労強度と高い曲げ矯正性がともに必要な軟窒化機械構造部品に対しては用いることができない。
特許文献4で開示された技術は、軟窒化処理を三段階の温度で連続して行うことで、表面の化合物層を構成する相の大部分をε相とし、耐摩耗性を高めたものである。この技術において軟窒化処理を三段階で行う理由は、主に耐摩耗性と疲労強度を向上させるためである。軟窒化機械構造部品で重要となる曲げ疲労強度に関しては、化合物層の特性よりも化合物層の下に形成される拡散層の特性が重要となるが、この技術において特性の向上が確かめられているのは化合物相のみであり、拡散層の特性を向上させるための工夫が十分になされているとはいい難い。また、特許文献4にて特性向上が確認されている鋼は合金元素を少量しか含まない炭素鋼であるが、このような鋼では、どのような軟窒化条件で窒化を施しても、疲労強度が大きくは向上せず、高い疲労強度が必要な部品には適用できない。また、曲げ矯正性を高める工夫もなされていないため、曲げ矯正性と疲労強度を高いレベルで両立させることができない。
そこで、本発明は、軟窒化後の疲労強度と曲げ矯正性に優れる軟窒化機械構造部品の製造方法を提供することを目的とする。
軟窒化によって鋼を強化するためには、軟窒化中に導入される窒素量を増大させるか、窒素とともに微細な析出物やクラスターを形成するような親窒素元素を含有させる必要がある。
強度のみが必要な部品に使われる窒化鋼材としては、親窒素元素であるCr、V、Ti、Al等の元素を多量に含有させたものがある。親窒素元素は、軟窒化中に導入される窒素量を増大させ、窒化物やクラスターを形成することで、単位窒素量当たりの強化量を向上させる。一方、親窒素元素は導入された窒素の拡散を阻害するため、それらの元素を多量に含む場合、表面から100μm程度までの領域の窒素濃度は高くなるが、窒素の侵入深さ自体は浅くなる傾向にある。したがって、上記の材料は疲労強度は確かに高くなるものの、曲げ矯正性が大きく低下してしまうため、曲げ矯正性が必要な部材に対して用いることはできない。
また、成分設計以外の強化指針として、軟窒化処理条件を調整する方法がある。軟窒化処理条件を調整すれば、親窒素元素の含有量を多量にしなくとも、高い窒素濃度分布を持つ部材を作成できる。
軟窒化温度を変更すると、窒素濃度分布以外に鋼の状態が変化しうる。Fe−Nの二元系の状態図においては、軟窒化温度が低い領域での安定相は窒素濃度が高いほうからε(Fe2〜3N)、γ’(Fe4N)、α(フェライト)である。しかし、軟窒化温度が高くなると、安定相は窒素濃度が高い方から、ε、γ’、γ(オーステナイト)、αとなる。高温で軟窒化処理を行うと、鋼材の表面にはεまたはγ’の化合物層が生成し、化合物層直下には低温の軟窒化処理では表れないγ相が生成することになる。軟窒化処理において、軟窒化温度から常温までの冷却方法は水冷、または油冷で行われることが多いため、軟窒化処理中に生成したγは、室温ではα’(マルテンサイト)になる。α’相が生成すると曲げ矯正性が低下するため好ましくない。
このため、本発明者らは、親窒素元素を含む種々の鋼材を用いて軟窒化温度を様々に調整し、軟窒化処理を行って、軟窒化後の硬さ分布と窒素濃度分布と疲労強度と曲げ矯正性を測定した。その結果、下記(a)〜(d)の知見を得た。
(a)親窒素元素の含有量が多いほうが疲労強度は向上するが、含有量が多くなるにつれて単位質量あたりの親窒素元素による疲労強度向上の効果は小さくなる。これは、親窒素元素により窒素の拡散が阻害されるため、部材の表面近傍のみが局所的に強化されるためである。曲げ矯正性は、部材の最表層のみの特性に支配されるため、上記のように、表層近傍のみが極度に強化されたような部材の場合は、疲労強度は向上するが、曲げ矯正性は極度に低下する。親窒素元素の含有量が「しきい値」を超えなければ、窒素の拡散を極度に阻害することなく、鋼を効果的に強化できる。よって、親窒素元素の含有量を窒素の拡散を阻害しない「しきい値」まで多くすることで、疲労強度と曲げ矯正性を高いレベルで両立できる。
(b)軟窒化温度が高温になればなるほど、親窒素元素が窒素の拡散を阻害しにくくなる。そのため、軟窒化温度が高くなれば、窒素の拡散を抑制することなく、親窒素元素の含有量の「しきい値」を高くすることができる。
(c)軟窒化温度が高温になると、拡散層における化合物層直下の領域が、軟窒化中にγ化し、冷却によってα’組織が生成する。α’相は非常に硬く、曲げ矯正性を大きく低下させるため、高温で軟窒化処理を行うと、窒素の拡散が阻害されていなくとも曲げ矯正性が低下することがある。
(d)軟窒化処理中に、いったん620℃以上の温度で軟窒化を行い、連続的に600℃以下まで温度を下げたのち、油冷または水冷処理で常温まで降温すれば、γがγ’に分解することでα’相が生成せず、曲げ矯正性が低下しない。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(3)に示す軟窒化機械構造部品の製造方法にある。
(1)質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.60〜1.60%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.03〜0.40%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.001〜0.050%およびN:0.003〜0.030%を含有するとともに、下記の式(1-1)で表されるEq1が式(1-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を、仕上げ温度が850〜1250℃で、仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度が5℃/秒以下である熱間鍛造を施し、その後部品形状に加工し、その加工材に、620〜700℃の温度域で軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行うことを特徴とする軟窒化機械構造部品の製造方法。
Eq1=0.5Si+Mn+4Cr+8Al+10Tieff・・・・・(1-1)
1.30<Eq1<2.40・・・・・(1-2)
上記のTieffは、Ti−(14/48)N、または0(ゼロ)の大きい方の値を意味し、上記の式におけるSi、Mn、Cr、Al、TiおよびNは、その元素の質量%での含有量を意味する。
(2)質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.60〜1.60%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.03〜0.40%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.001〜0.050%およびN:0.003〜0.030%に加えて、Mo:0.60%以下およびV:0.60%以下のうちの1種以上を含有するとともに、下記の式(2-1)で表されるEq2が式(2-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を、仕上げ温度が850〜1250℃で、仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度が5℃/秒以下である熱間鍛造を施し、その後部品形状に加工し、その加工材に、620〜700℃の温度域で軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行うことを特徴とする軟窒化機械構造部品の製造方法。
Eq2=0.5Si+Mn+4Cr+8Al+0.5Mo+4V+10Tieff・・・・・(2-1)
1.30<Eq2<2.40・・・(2-2)
上記のTieffは、Ti−(14/48)N、または0(ゼロ)の大きい方の値を意味し、上記の式におけるSi、Mn、Cr、Al、Mo、V、TiおよびNは、その元素の質量%での含有量を意味する。
(3)鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.60%以下およびNi:0.60%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の軟窒化機械構造部品の製造方法。
(4)鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.005%以下を含有するものであることを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれかに記載の軟窒化機械構造部品の製造方法。
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップあるいは環境などから混入するものを指す。
以下、上記(1)〜(4)の軟窒化機械構造部品の製造方法に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(4)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の製造方法によれば、疲労強度と曲げ矯正性に優れる軟窒化機械構造部品が得られる。
実施例で用いた疲労強度測定用の小野式回転曲げ疲労試験片の形状を示す図である。図中の数値の単位はmmである。 実施例で用いた曲げ矯正性測定用の三点曲げ試験片の形状を示す図である。図中の数値の単位はmmである。 実施例で実施した三点曲げ試験の方法について説明する図である。図中の数値の単位はmmである。 実施例の試験番号1〜28について、曲げ矯正性の指標である矯正可能歪量と疲労強度との関係を整理して示す図である。 実施例の試験番号1〜28のうちで、矯正可能歪量が±1000μ程度の範囲で一致している本発明例と比較例の疲労強度を比較して示す図である。図中のNo.は試験番号を表す。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成:
C:0.20〜0.50%
Cは、軟窒化機械構造部品の強度、靱性を担うための必須元素であることに加え、製品(軟窒化機械構造部品)の耐摩耗性を確保するためにも0.20%以上の含有量が必要である。しかしながら、Cの含有量が0.50%を超えると、被削性が低下する。したがって、Cの含有量を0.20〜0.50%とした。なお、Cの作用をより十分に発揮させるためには、Cの含有量は0.25%以上、0.45%以下とすることが好ましい。
Si:0.10〜0.50%
Siは、軟窒化中に侵入してきた窒素と窒化物やクラスターを形成し、疲労強度を向上させる。また、固溶強化により芯部を強化する作用も有する。これらの効果を得るためにはSiの含有量を0.10%以上とする必要がある。一方、Siの含有量が0.50%を超えると、鋼の熱間変形抵抗を高めたり、靱性や被削性を低下させたりしてしまう。したがって、Siの含有量を0.10〜0.50%とした。なお、Siの強化の作用をより十分に発揮させるためには、Siの含有量は0.14%以上とすることが好ましい。また、熱間加工性、靱性の確保のためには、Siの含有量は0.40%以下とすることが好ましい。
Mn:0.60〜1.60%
Mnは、Siと同様に軟窒化中に侵入してきた窒素と窒化物やクラスターを形成し、疲労強度を向上させる。さらに、Mnは鋼中のSと結合してMnSを形成し、被削性改善にも効果がある。これらの効果を得るためにはMnの含有量を0.60%以上とする必要がある。一方、Mnの含有量が1.60%を超えると、軟窒化中に導入される窒素とMnが窒化物を形成し、拡散層における化合物層直下の領域を過度に硬化させ曲げ矯正性を低下させる。したがって、Mnの含有量を0.60〜1.60%とした。なお、Mnの作用をより十分に発揮させるためには、Mnの含有量は0.65%以上とすることが好ましい。また、拡散層における化合物層直下の領域の過度の硬化を抑制するためには、Mnの含有量は1.50%以下とすることが好ましい。
P:0.05%以下
Pは、鋼に含有される不純物であり、粒界に偏析して粒界脆化割れを助長し、特に、その含有量が0.05%を超えると粒界脆化割れの発生が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.05%以下とした。なお、Pの含有量は0.03%以下とすることが好ましい。
S:0.10%以下
Sは、鋼に含有される不純物である。また、鋼材の被削性を高める作用を有するので、被削性を高める場合には意図的に含有させる。しかしながら、Sを過剰に含有すると鋼片内での偏析欠陥が発生したり、熱間加工性の低下を招き、特に、Sの含有量が0.10%を超えると、鋼片内での偏析欠陥の発生や熱間加工性の低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.10%以下とした。なお、鋼片内での偏析欠陥の発生や熱間加工性の低下を抑止するためには、Sの含有量は0.09%以下とすることが好ましい。一方、Sの被削性向上効果を確実に得るためには、Sの含有量は0.01%以上とすることが好ましい。
Cr:0.03〜0.40%
Crは、軟窒化中に導入される窒素量を増大させることにより、疲労強度を向上させる。この効果を得るためにはCrの含有量を0.03%とする必要がある。一方、Crの含有量が0.40%以上になると、疲労強度向上の効果が飽和するだけでなく、軟窒化後の曲げ矯正性が低下する。したがって、Crの含有量を0.03〜0.40%とした。なお、Crによる疲労強度向上効果を確実に得るためには、Crの含有量は0.05%以上とすることが好ましい。軟窒化後の曲げ矯正性の低下を抑止するためには、Crの含有量は0.35%以下とすることが好ましい。
Ti:0.003〜0.050%
Tiは、熱間鍛造時の結晶粒粗大化を抑えるためのピンニング粒子を形成させるために必須の元素である。十分な分布密度のピンニング粒子を生成させるためには、Tiの含有量を0.003%以上とする必要がある。一方、Tiの含有量が0.050%を超えても前記の効果が飽和するうえに、ピンニング粒子として析出しきれなかった過剰のTiがTi(S、C)を形成するため、硬さのばらつきが大きくなる。したがって、Tiの含有量を0.003〜0.050%とした。なお、Tiによるピンニング効果を確実に得るためには、Tiの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。過剰のTiによる弊害を抑止するためには、Tiの含有量を0.035%以下とすることが好ましい。
Al:0.001〜0.050%
Alは、脱酸剤として、通常、溶製時に添加される。脱酸材としての効果を得るためにはAlの含有量を0.001%以上とする必要がある。しかし、Alの含有量が0.050%を超えると靱性が低下する。したがって、Alの含有量を0.001〜0.050%とした。なお、Alによる靱性低下を確実に抑制するためには、Alの含有量は0.040%以下とすることが好ましい。
N:0.003〜0.030%
Nは、結晶粒粗大化を抑えるためのピンニング粒子を構成したり、固溶窒素として固溶強化に寄与して生地の強度を増大させたりする作用を有する。上記の効果を得るためには、Nの含有量を0.003%以上とする必要がある。一方、Nの含有量が0.030%を超えると、インゴット中で気泡欠陥が生成して材質を損なうことがある。したがって、Nの含有量を0.003〜0.030%とした。なお、Nの作用をより十分に発揮させるためには、Nの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。また、インゴット中での気泡欠陥の発生を抑止するためには、Nの含有量を0.025%以下とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明(1)は、その化学組成が上述した範囲のCからNまでの元素を含有するとともに、前記の式(1-1)式で表されるEq1が式(1-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を部品形状に加工し、その加工材に、軟窒化を行うこととした。なお、式(1-1)で表されるEq1および式(1-2)については、式(2-1)で表されるEq2および式(2-2)とともに後述する。
本発明の軟窒化機械構造部品の製造方法においては、上記のCからNまでの元素に加えて、MoおよびVのうちの1種以上を含有するとともに、前記の式(2-1)で表されるEq2が式(2-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を用いることができる。
MoおよびVは、いずれも、疲労強度を向上させる作用を有する。このため、より大きな疲労強度を得たい場合には以下の範囲で含有させてもよい。
Mo:0.60%以下
Moは、鋼の焼入れ性を高めて高強度化に寄与し疲労強度を向上させるので、この効果を得るためにMoを含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が0.60%を超えると、熱間鍛造時の焼入れ性が高くなりすぎて、マルテンサイトの生成が促進されるので、被削性が低下する。したがって、含有させる場合のMoの量を0.60%以下とした。なお、被削性の低下を抑制するためには、含有させる場合のMoの量は0.40%以下とすることが好ましい。一方、Moの疲労強度向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のMoの量は0.03%以上とすることが好ましい。
V:0.60%以下
Vは、炭化物として微細に析出し生地を強化したり、軟窒化中に導入される窒素量を増大させることで疲労強度を向上させる。これらの効果を得るためにVを含有させてもよい。しかしながら、Vの含有量が0.60%を超えると、熱間鍛造時の焼入れ性が高くなりすぎて、マルテンサイトの生成が促進されるとともに、V炭化物の析出量が多くなり、生地の硬さが上昇し被削性が低下する。したがって、含有させる場合のVの量を0.60%以下とした。なお、被削性の低下を抑制するためには、含有させる場合のVの量は0.40%以下とすることが好ましい。一方、Vの疲労強度向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のVの量は0.03%以上とすることが好ましい。
上記のMoおよびVは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有させることができる。なお、含有させる場合のこれらの元素の合計量は、1.0%以下とすることが好ましく、0.8%以下とすることがいっそう好ましい。
上記の理由から、本発明(2)は、その化学組成が前述した範囲のCからNまでの元素に加えて、上述した範囲のMoおよびVのうちの1種以上を含有するとともに、前記の式(2-1)で表されるEq2が式(2-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を部品形状に加工し、その加工材に、軟窒化を行うこととした。
本発明の軟窒化機械構造部品の製造方法においては、さらに、必要に応じて、本発明(1)または本発明(2)のいずれかの鋼のFeの一部に代えて、CuおよびNiのうちの1種以上を含有した鋼を用いることができる。
CuおよびNiは、いずれも、さらに疲労強度を向上させる作用を有する。このため、より大きな疲労強度を得たい場合には以下の範囲で含有させてもよい。
Cu:0.60%以下
Cuは、フェライトを強化し、疲労強度を向上させるので、この効果を得るためにCuを含有させてもよい。しかしながら、Cuは、融点が1083℃と低いので、製鋼工程における凝固の過程で液相として残存する時間が長くなり、鋼の粒界に偏析して熱間割れを誘起することとなり、特に、その含有量が0.60%を超えると、上記の傾向が著しくなる。したがって、含有させる場合のCuの量を0.60%以下とした。なお、熱間での割れの誘起を抑止するためには、含有させる場合のCuの量は0.50%以下とすることが好ましい。一方、Cuの疲労強度向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のCuの量は0.05%以上とすることが好ましい。
Ni:0.60%以下
Niは、フェライトを強化し、疲労強度を向上させる作用を有する。また、Niは、鋼がCuを含む場合に、Cuに起因する熱間での割れを防止するのに有効な元素である。しかしながら、こうした効果はNiの含有量が多くなると飽和するので、製鋼コストを高めないために、含有させる場合のNiの量を0.60%以下とした。Niの効果を確実に得るためには、含有させる場合のNiの量は0.05%以上とすることが好ましい。
上記のCuおよびNiは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有させることができる。なお、含有させる場合のこれらの元素の合計量は、1.2%以下とすることが好ましく、1.0%以下とすることがいっそう好ましい。
上記の理由から、本発明(3)は、本発明(1)または本発明(2)の鋼のFeの一部に代えて、Cu:0.60%以下およびNi:0.60%以下のうちの1種以上を含有する鋼を用いて軟窒化機械構造部品を製造することと規定した。
本発明の軟窒化機械構造部品の製造方法においては、さらに、必要に応じて、本発明(1)から本発明(3)までのいずれかの鋼のFeの一部に代えて、Caを含有した鋼を用いることができる。
Ca:0.005%以下
Caは、鋼材の被削性を高める作用を有するので、この効果を得るためにCaを含有させてもよい。しかしながら、Caを過剰に含有させると鋼片内での偏析欠陥が発生したり、熱間加工性の低下を招き、特に、Caの含有量が0.005%を超えると、鋼片内での偏析欠陥の発生や熱間加工性の低下が著しくなる。したがって、Caの含有量を0.005%以下とした。なお、鋼片内での偏析欠陥の発生や熱間加工性の低下を抑止するためには、含有させる場合のCaの量は0.003%以下とすることが好ましい。一方、Caの被削性向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のCaの量は0.0001%以上とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明(4)は、本発明(1)から本発明(3)までのいずれかの鋼のFeの一部に代えて、Ca:0.005%以下を含有する鋼を用いて軟窒化機械構造部品を製造することと規定した。
Eq1またはEq2:
本発明の軟窒化機械構造部品の製造方法に用いる鋼は、前記MoおよびVのうちの1種以上を含有しない場合には、
Eq1=0.5Si+Mn+4Cr+8Al+10Tieff・・・・・(1-1)
の式(1-1)で表されるEq1が、式(1-2)、つまり、
1.30<Eq1<2.40・・・・・(1-2)
を満たす必要があり、また、前記MoおよびVのうちの1種以上を含有する場合には、
Eq2=0.5Si+Mn+4Cr+8Al+0.5Mo+4V+10Tieff・・・・・(2-1)
の式(2-1)で表されるEq2が、式(2-2)、つまり、
1.30<Eq2<2.40・・・・・(2-2)
を満たす必要がある。ただし、「Tieff」は、〔Ti−(14/48)N〕、または0(ゼロ)の大きい方の値を意味し、上記の各式におけるSi、Mn、Cr、Al、Mo、V、TiおよびNは、その元素の質量%での含有量を意味する。
以下、このことについて説明する。
Si、Mn、Cr、Ti、Al、MoおよびVはいずれも親窒素元素であり、軟窒化中に導入する窒素量を増大させるとともに、窒素との相互作用により鋼材を強化する。この効果の大小は元素によって異なるが、窒素との親和力が大きい元素ほど大きな効果をもたらす。窒素とこれらの合金元素の親和力は、例えば相互作用パラメーターの形などで一般的に知られている。しかし、例えば、VはTiと並んで最も窒素との相互作用パラメーターが大きい元素として知られているが、本発明におけるような低〜中炭素鋼の場合、熱間鍛造仕上げ後に室温まで大気中での放冷または強制的な風冷と同程度の冷却速度で冷却した場合に得られる組織はフェライト・パーライトを主相とする組織になり、そうした組織を呈する鋼においては、Vの一部は熱間鍛造後の冷却中にVCとして析出するため、窒素との相互作用が小さくなる。よって、一般的に知られている合金元素と窒素との相互作用パラメーターの大小と、本発明の軟窒化機械構造部品の製造方法に用いる鋼の中での合金元素と窒素との親和力は必ずしも一致しない。
本発明の軟窒化機械構造部品の製造方法に用いる鋼の中での合金元素と窒素との親和力は、「Si、Mo<Mn<Cr、V<Al<Ti」の順になり、Mnと窒素との親和力を「1」とした場合の各元素と窒素との親和力は、Si、Moが「0.5」、CrとVが「4」、Alが「8」、Tiが「10」と見なすことができる。
ただし、Tiは窒素との相互作用が大きいため、成分元素として窒素を含む鋼中では溶鋼中でも窒化物として析出してしまう。Tiはいったん窒化物として析出すると、続く軟窒化中において窒素の侵入量を増大させたり、窒素と相互作用して、鋼材を強化する効果が小さくなる。そのため、Tiを上記の効果を目的として含有させる場合、鋼成分として含有している窒素と結合する分を除いた余剰Tiのみ、すなわちTieff=Ti−(14/48)Nが有効となる。
よって、複数の親窒素元素の効果を統一的に表す式として、式(1-1)で表されるEq1または式(2-1)で表されるEq2を用いることとした。
上記の軟窒化中に導入する窒素量を増大させるとともに、窒素との相互作用により鋼材を強化する効果を十分に得るためには、Eq1またはEq2が1.30を超える必要がある。一方、親窒素元素の含有量が多すぎると、窒素の拡散が抑制され、拡散層における化合物層直下の領域のみが極度に硬化し、疲労強度は向上するものの曲げ矯正性が大きく低下する。曲げ矯正性の低下を抑制するためには、Eq1またはEq2が2.40未満でなければならない。
(B)熱間鍛造とその後の部品形状への加工:
本発明においては、(A)項に記載した化学組成の鋼を、仕上げ温度が850〜1250℃で、仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度が5℃/秒以下である熱間鍛造を施し、その後部品形状に加工する。
(B−1)熱間鍛造:
熱間鍛造の仕上げ温度が高くなりすぎると、高い温度で再結晶が生じることになるため、オーステナイト粒が粗大化し、窒化後の曲げ矯正性が低下する。オーステナイト粒の粗大化を抑制するためには熱間鍛造の仕上げ温度を1250℃以下とする必要がある。一方、熱間鍛造の仕上げ温度が低くなると、鍛造に使用する金型への負荷が大きくなる。このため、熱間鍛造の仕上げ温度は850℃以上とする必要がある。したがって、仕上げ温度が850〜1250℃の熱間鍛造を行うこととした。金型の負担を低減するために、仕上げ温度は900℃以上とするのが好ましい。
(B−2)熱間鍛造仕上げ温度から300℃までの冷却:
熱間鍛造仕上げ温度から300℃までの冷却速度が速くなりすぎると、組織の主相がベイナイトになったり、マルテンサイトが混在したりすることにより、熱間鍛造ままの硬さが高くなりすぎ、曲げ矯正性が低下する。熱間鍛造ままの硬さが高くなりすぎないために、熱間鍛造仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度を5℃/秒以下とする必要がある。上記の熱間鍛造仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度に下限はないが、生産性を考慮すると、0.01℃/秒以上とするのが好ましい。
(B−3)部品形状への加工:
熱間鍛造後に、所望の機械構造部品形状に仕上げるための加工は、例えば、切削加工など適宜の方法で行えばよく、部品形状に合わせて適宜選択すればよい。
(C)軟窒化条件と熱処理条件:
本発明においては、(A)項に記載した化学組成の鋼を(B)項に記載の条件で熱間鍛造し、部品形状への加工を行った後、前記の加工材に、620〜700℃の温度域で軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行う。
(C−1)軟窒化:
前記(A)項に記載の化学組成を有する鋼を(B)項に記載の条件で熱間鍛造し、その後部品形状に加工した加工材に、軟窒化を行う際には、先ず、保持温度の下限を620℃として軟窒化を行う必要がある。この時の保持温度が620℃未満であれば、侵入窒素量が多くならず、窒素の侵入深さも浅くなり、疲労強度が向上しない。また、この時の保持温度が700℃を超えると、化合物層直下に生成するγが厚くなりすぎ、後述する熱処理によってもγをαとγ’に変態させることが困難になる。そこで、軟窒化における保持温度を620〜700℃とした。なお、軟窒化の保持温度は、軟窒化の際に一定である必要はなく、620〜700℃の温度範囲内で変化してもよい。例えば、620℃で軟窒化を開始し、30分かけて連続的に700℃まで昇温させてもよい。
上記620〜700℃の温度域で保持する軟窒化の保持時間は、窒素の侵入量を多くするためには20分以上が好ましい。一方、時間があまりに長くなると表面に生成する化合物層が厚くなりすぎて、曲げ矯正性が低下するため、軟窒化の保持時間の上限は8時間程度が好ましい。
軟窒化を行う雰囲気は、十分に窒素の化学ポテンシャルが高くなるような雰囲気であれば特別な調整は不要である。
ガス軟窒化を例に挙げると、雰囲気ガスの組成が変化してもよい。なお、ガス組成については、例えば、吸熱型変成ガス(RXガス)とアンモニアガスが1:1の雰囲気でもよいし、窒素と水素とアンモニアガスが1:1:1の雰囲気でもよい。
なお、上記の軟窒化を行うだけでは、その後の室温までの冷却過程で化合物層の直下に高硬度のα’(マルテンサイト)相が生成してしまうため、曲げ矯正性が劣化する。したがって、本発明においては、上記軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行うことによって、上記の問題点を解決する。
(C−2)軟窒化後の冷却:
軟窒化の保持温度から熱処理を行う450〜600℃の温度域へ連続的に冷却する方法は、特に限定するものではない。
しかしながら、上記の連続的な冷却中も窒化反応は進行するので、冷却に要する時間があまりに長い場合には表面の化合物層が厚くなりすぎて靱性が低下する。そのため、上記の連続的な冷却に要する時間は10時間以下が好ましい。また生産性を考慮すると4時間以下がいっそう好ましい。
(C−3)熱処理:
軟窒化を行ったままの状態から水冷または油冷によって室温まで冷却すると、化合物層直下にα’が生成するので、曲げ矯正性が低下する。α’の生成を抑制するためには、γをαとγ’に変態させる必要がある。上記の変態を速やかに進行させるためには、軟窒化の保持温度から連続的に600℃以下の温度域まで冷却する必要がある。ただし、上記軟窒化の保持温度から連続的に450℃未満の温度域まで冷却すると、γがα’やベイナイトに変態するため曲げ矯正性が低下する。したがって、軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行うこととした。なお、熱処理の保持温度についても、熱処理の際に一定である必要はなく、450〜600℃の温度範囲内で変化してもよい。
上記450〜600℃の温度域で保持する熱処理の保持時間は、γをαとγ’に変態させるため5分以上であることが好ましい。一方、時間があまりに長くなると生産性が低下する。そのため、熱処理の保持時間は、20時間以下が好ましく、10時間以下がいっそう好ましい。
熱処理の雰囲気は特に限定されるものではない。安定した拡散層を得るためには、上記軟窒化の雰囲気のまま450〜600℃に冷却して熱処理することが最も好ましいが、上記軟窒化の雰囲気をArや窒素等の不活性ガスで置換して熱処理しても構わない。
(C−4)熱処理後の冷却:
熱処理の保持温度から冷却する方法は、特に限定するものではない。
しかしながら、上記熱処理の保持温度からの冷却速度が遅すぎると、軟窒化中に形成された窒素と親窒素元素とのクラスターや窒化物が粗大化してしまう。このため、熱処理後の冷却は風冷以上の冷却速度で行うことが望ましい。上記の「風冷」とは送風機等で強制的に風を送って被処理材を冷却する方法である。一方、熱処理後の冷却の際、冷却速度が速くても特に問題は生じない。このため、例えば、熱処理を行った後の冷却は水冷であってもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Lを180kg真空溶解炉によって溶製した後、インゴットを1250℃に加熱し、仕上げ温度が1000℃となるように熱間鍛造した後、大気中で放冷して、直径が50mmの丸棒とした。放冷時の丸棒の表面温度を放射温度計で測定したところ、1000℃から300℃までの平均冷却速度は0.5℃/秒であった。
表1における鋼A〜Iは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼J〜Lは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
なお、表1には、式(1-1)で表されるEq1または式(2-1)で表されるEq2を「EQ」として併記した。
Figure 2011252197
上記のようにして得た直径50mmの各丸棒のD/4部(「D」は丸棒の直径を表す。)から、鍛造方向(鍛錬軸)に平行に、疲労強度測定用の小野式回転曲げ疲労試験片と曲げ矯正性測定用の三点曲げ試験片を採取した。
小野式回転曲げ疲労試験片は、深さが1mmでRが3mmの切欠きをつけた丸棒試験片であり、図1にその形状を示す。なお、図1における寸法の単位は「mm」である。
上記小野式回転曲げ疲労試験片に後述する軟窒化を行い、疲労試験に供した。
なお、疲労試験は室温、大気中、回転数3400rpmの条件で行い、応力付加繰返し回数107回において破断しない最大の応力を疲労強度とした。
三点曲げ試験片は、深さが5mmで底部曲率半径が10mmの切欠きをつけた長さ100mmの角状試験片であり、図2にその形状を示す。なお、図2における寸法の単位も「mm」である。
上記三点曲げ試験片に後述する軟窒化を行い、三点曲げ試験に供した。
なお、三点曲げ試験は図3の要領で行った。すなわち、切欠きを含む面の長手方向に切欠きを中心として支点間距離70mmとなるように二つの支点を設け、押し込み速度を0.5mm/分として室温、大気中で実施した。なお、切欠き底の歪量を測定するために、切欠きの一番底の両エッジ部二ヶ所に、試験片長手方向と平行な向きに歪ゲージを貼付し、押し込みストロークを一方のゲージが断線するまで増加させた際の、もう一方のゲージが示す歪値を矯正可能歪量として曲げ矯正性を評価した。
表2に、各試験番号について軟窒化および熱処理の詳細条件を示す。なお、軟窒化および熱処理は、いずれについても、RXガスとアンモニアガスを1:1に混合した雰囲気中で実施した。また、軟窒化を行った後、熱処理を行うために冷却した雰囲気も上記のRXガスとアンモニアガスを1:1に混合した雰囲気中で行った。
試験番号1〜17および試験番号25〜27は、軟窒化の保持温度を630℃として軟窒化を開始し、上記630℃で、軟窒化の保持時間欄に記載の時間処理した後、連続的に冷却時間欄に記載の時間で熱処理の保持温度である530℃まで冷却し、その温度で熱処理の保持時間欄に記載の時間で熱処理を行い、その後100℃の油中へ冷却した。
試験番号18〜24は、軟窒化の保持温度を580℃として保持時間2.0時間で軟窒化を行った。次いで、熱処理を行うことなく、そのまま100℃の油中へ冷却した。このため、上記試験番号18〜24については、冷却時間の欄および熱処理の欄を「−」で表記した。
試験番号28は、軟窒化の保持温度を600℃として軟窒化を開始し、上記600℃で、0.5時間処理した後、連続的に1.0時間で熱処理の保持温度である570℃まで冷却し、その温度で2.0時間熱処理を行い、その後100℃の油中へ冷却した。
Figure 2011252197
表2に、上記のようにして求めた疲労強度と矯正可能歪量を併せて示した。また、この表2における(曲げ矯正性の指標である)矯正可能歪量と疲労強度との関係を整理して、図4に示す。さらに、図4の試験番号1〜28のうちで、矯正可能歪量が±1000μ程度の範囲で一致している本発明例と比較例の疲労強度を比較して図5に示す。なお、図5中のNo.は試験番号を表す。
表2ならびに図4および図5から明らかなように、同じレベルの矯正可能歪量で比較すると、本発明例の方が疲労強度が6〜22%程度高いことがわかる。
具体的には、例えば、比較例の試験番号19の場合、矯正可能歪量が15198μで疲労強度が460MPaであるのに対し、本発明例の試験番号5の場合、矯正可能歪量が15197μで疲労強度は500MPaであり、疲労強度は9%向上している。したがって、本発明で規定する条件で製造した軟窒化機械構造部品は、疲労強度と曲げ矯正性に優れることが明らかである。
本発明の製造方法によれば、疲労強度と曲げ矯正性に優れる軟窒化機械構造部品が得られる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.60〜1.60%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.03〜0.40%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.001〜0.050%およびN:0.003〜0.030%を含有するとともに、下記の式(1-1)で表されるEq1が式(1-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を、仕上げ温度が850〜1250℃で、仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度が5℃/秒以下である熱間鍛造を施し、その後部品形状に加工し、その加工材に、620〜700℃の温度域で軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行うことを特徴とする軟窒化機械構造部品の製造方法。
    Eq1=0.5Si+Mn+4Cr+8Al+10Tieff・・・・・(1-1)
    1.30<Eq1<2.40・・・・・(1-2)
    上記のTieffは、Ti−(14/48)N、または0(ゼロ)の大きい方の値を意味し、上記の式におけるSi、Mn、Cr、Al、TiおよびNは、その元素の質量%での含有量を意味する。
  2. 質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.60〜1.60%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.03〜0.40%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.001〜0.050%およびN:0.003〜0.030%に加えて、Mo:0.60%以下およびV:0.60%以下のうちの1種以上を含有するとともに、下記の式(2-1)で表されるEq2が式(2-2)を満たし、残部はFeおよび不純物からなる鋼を、仕上げ温度が850〜1250℃で、仕上げ温度から300℃までの平均冷却速度が5℃/秒以下である熱間鍛造を施し、その後部品形状に加工し、その加工材に、620〜700℃の温度域で軟窒化を施した後、連続的に450〜600℃の温度域に冷却して、その温度域で熱処理を行うことを特徴とする軟窒化機械構造部品の製造方法。
    Eq2=0.5Si+Mn+4Cr+8Al+0.5Mo+4V+10Tieff・・・・・(2-1)
    1.30<Eq2<2.40・・・(2-2)
    上記のTieffは、Ti−(14/48)N、または0(ゼロ)の大きい方の値を意味し、上記の式におけるSi、Mn、Cr、Al、Mo、V、TiおよびNは、その元素の質量%での含有量を意味する。
  3. 鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.60%以下およびNi:0.60%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の軟窒化機械構造部品の製造方法。
  4. 鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.005%以下を含有するものであることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の軟窒化機械構造部品の製造方法。
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