JP2011246458A - 抗アカントアメーバ用組成物、アカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤並びにコンタクトレンズケア溶液 - Google Patents

抗アカントアメーバ用組成物、アカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤並びにコンタクトレンズケア溶液 Download PDF

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Abstract

【課題】アカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を有する、抗アカントアメーバ用組成物に関する技術を提供することを目的とし、特に、特効薬が存在しないといわれているアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤を提供する。
【解決手段】ラクトフェリン又はラクトフェリシンを有効成分として含有する抗アカントアメーバ用組成物を含有する、アカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤(点眼剤、コンタクトレンズケア溶液など)により解決する。
【選択図】図1

Description

本発明は、アカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を有する抗アカントアメーバ用組成物、該抗アカントアメーバ用組成物を含有するアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤並びにコンタクトレンズケア溶液に関する。
アカントアメーバ(Acanthamoeba)による角膜炎は、近年、症例数が増えてきたことで注目されている眼疾病であり、重篤な場合は失明するおそれもある。この疾病はソフトコンタクトレンズ装着者に多く、手入れの簡便化が原因の1つだと考えられている。これまで、ソフトコンタクトレンズの手入れは煮沸が主流であったが、この10年ほどでMPS(Multi Purpose Solution)による手入れ方法が普及した。MPSは1液でレンズの洗浄、すすぎ、消毒、保存が可能な溶液であるが、アカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞には無効である。
2009年にはテレビや新聞などでアカントアメーバ角膜炎の危険性が報道されたこともあり、コンタクトレンズメーカーから自社製品の「安全性・効果」、「アカントアメーバ角膜炎について」、「MPSの正しい使い方」などを表記したプレスリリースが出されるなど深刻な問題になっている。
これまでに、抗アカントアメーバ効果を有する組成物としては、例えば、ε−ポリリジンを有効成分とするコンタクトレンズ用抗アカントアメーバ消毒・保存剤(特許文献1)、蛋白質分解酵素、陰イオン界面活性剤、非還元性多価アルコール、ホウ酸系緩衝剤、水溶性高分子化合物の組み合わせからなるコンタクトレンズ用液剤組成物(特許文献2)及び4−ヘキシルレゾルシノールを有効成分とするアカントアメーバ不活性化剤(特許文献3)などが知られている。
特開2002−143277号公報 特開2003−057610号公報 特開平8−225444号公報
アカントアメーバ角膜炎の治療は、角膜掻爬を中心に3者併用療法(角膜掻爬+抗真菌剤全身投与+局所投与)が実施されることが多い。しかし、炎症を再燃し治癒期間が延びることや角膜掻爬を行う上での患者の負担など改善が必要な部分もある。また、現在のところアカントアメーバ角膜炎の特効薬は存在しない。
アカントアメーバには栄養型とシスト型の二形態が存在する。栄養型は、環境に存在する細菌を常食し二分裂で増殖する特徴を持ち、薬剤に対する感受性も高く、消毒は比較的容易である。しかし、環境悪化及び食料源の枯渇などの自分が住みにくい環境となると、水、酸素、炭酸ガスなどごく低分子の物質以外はほとんど透過侵入せず、内壁が薬物耐性に富む頑強な二重壁を形成したシスト型に変化する。このシスト期のアカントアメーバを消毒することは非常に困難と言われている。
そこで本発明は、アカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を有する、抗アカントアメーバ用組成物、アカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤並びにコンタクトレンズケア溶液に関する技術を提供することを目的とする。
本発明者はアカントアメーバ角膜炎やコンタクトレンズケア溶液に適用可能な抗アカントアメーバ用組成物の有効成分について種々の検討を行ったところ、ラクトフェリン及びラクトフェリシンが抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を有しているとの知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づきなされたものであり、ラクトフェリン又はラクトフェリシンを有効成分として含有する、抗アカントアメーバ用組成物を提供するものである。
本発明はまた、前記抗アカントアメーバ用組成物を含有するアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤を提供するものである。
本発明はまた、ラクトフェリンとMPS(マルチパーパスソリューション)を含有する、コンタクトレンズケア溶液を提供するものである。
本発明によれば、ラクトフェリン又はラクトフェリシンが優れたアカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を有するため、アカントアメーバの汚染によって引き起こされる種々の感染を防止する薬剤、例えばアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤、コンタクトレンズケア溶液として有用である。
アカントアメーバAA-O4 細胞のapo-bLF処理における生存率の経時的変化を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞の形態におけるapo-bLFの影響を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞のLFcin処理における生存率の経時的変化を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞の形態におけるLFcinの影響を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞のEDTA処理における生存率の経時的変化を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞の形態におけるEDTAの影響を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞のMPS処理における生存率の経時的変化を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞の形態におけるMPSの影響を示す図である。 アカントアメーバAA-O4細胞のapo-bLF添加MPS処理による生存率の経時的変化を示す図である。 アカントアメーバAA-O4 細胞の形態におけるapo-bLF添加MPSの影響を示す図である。
本発明の抗アカントアメーバ用組成物は、ラクトフェリン又はラクトフェリシンを有効成分として含有する。
ラクトフェリンは、可溶性の鉄結合性の糖タンパク質であり、母乳や涙液等に含まれている。本実施形態に使用するラクトフェリンは、その由来は特に限定されないが、ウシ、ヒト等の哺乳動物の乳、又はこれらの乳を加工して得られる脱脂乳、ホエー等からイオン交換クロマトグラフィー等により分離して得られるものを使用することができる。また、試薬として市販されているものを使用してもよい。
ラクトフェリシンは、ラクトフェリンの加水分解物である。従って、本実施形態に使用するラクトフェリシンは、前記ラクトフェリンを酵素分解したものを使用することができる。
本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物において、ラクトフェリンの濃度は、アカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)が濃度依存的に向上することから、少なくとも10μmolであることが好ましく、少なくとも50μmolであることがより好ましく、少なくとも100μmolであることがさらに好ましい。但し、必要以上に高濃度にしても抗アメーバ作用に差異はなく、製造コストを考慮する必要もあるため、上限は200μmolとする。
また、ラクトフェリシンの濃度は、短時間でアカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を発揮させる観点からは、少なくとも100μmolであることがさらに好ましい。但し、必要以上に高濃度にしても抗アメーバ作用に差異はなく、製造コストを考慮する必要もあるため、上限は500μmolとする。
一般に、シストを死滅させるために有効成分の濃度を高くしなければならないが、点眼剤やコンタクトレンズケア溶液など、眼に及ぼす影響に鑑みれば、有効成分の濃度を高くするには自ずと制限がある。しかしながら、本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物はアカントアメーバがシストを形成する前に、短時間で即効的に死滅させることができるため、必要以上に有効成分の濃度を高くする必要がない。そのため、有効成分の濃度設定においても非常に有利といえる。
本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物は、ラクトフェリン又はラクトフェリシンの最終濃度が上述した濃度となるように滅菌水等の溶媒に添加し混合することで調製することができる。
本実施形態のアカントアメーバ用組成物をアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤として用いる場合、ラクトフェリン又はラクトフェリシンをそれ自体公知の薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、希釈剤などと混合し、公知の方法に従って、例えば、点眼剤、コンタクトレンズケア溶液(コンタクトレンズ用の洗浄液、すすぎ液、保存液、殺菌液、マルチパーパスソリューションなど)、眼軟膏剤、軟膏剤などの形態で非経口的に投与することができる。
本実施形態のアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤を点眼剤として用いる場合は、本発明の目的及び効果を損なわない限り、点眼剤に通常配合される緩衝剤、等張化剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、キレート剤などの添加剤を適宜に添加してもよい。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩緩衝剤,ホウ酸塩緩衝剤,クエン酸塩緩衝剤,酒石酸緩衝剤,酢酸塩緩衝剤、アミノ酸などを挙げることができる。これらの緩衝剤は、単独で又は併用して用いることができる。
等張化剤としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトールなどの糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、塩化ナトリウムなどの塩類などを挙げることができる。これらの等張化剤は、単独で又は併用して用いることができる。
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸エチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸又はその塩、チメロサール、クロロブタノールなどを挙げることができる。これらの防腐剤は、単独で又は併用して用いることができる。
pH調整剤としては、例えば、塩酸、酢酸、リン酸などを挙げることができる。これらのpH調整剤は、単独で又は併用して用いることができる。
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその塩などを挙げることができる。これらの増粘剤は、単独で又は併用して用いることができる。
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸ナトリウムなどを挙げることができる。これらのキレート剤は、単独で又は併用して用いることができる。
本実施形態のアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤を点眼剤として用いる場合には、本発明の目的及び効果を損なわない限り、さらに、他の疾患治療剤、例えば、抗菌剤、抗真菌剤等の1種又は2種以上を適宜加えてもよい。
本実施形態のアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤をコンタクトレンズケア溶液として用いる場合は、本発明の目的及び効果を損なわない限り、コンタクトレンズケア溶液に通常配合される緩衝剤、等張化剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、キレート剤、洗浄剤などの添加剤を適宜に添加してもよい。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩緩衝剤,ホウ酸塩緩衝剤,クエン酸塩緩衝剤,酒石酸緩衝剤,酢酸塩緩衝剤、アミノ酸などが挙げられる。これらの緩衝剤は、単独で又は併用して用いることができる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マンニトール、ソルビトール、デキストリン及びデキストランなどを挙げることができる。これらの等張化剤は、単独で又は併用して用いることができる。
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸エチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸又はその塩、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、チメロサール、クロロブタノールなどを挙げることができる。これらの防腐剤は、単独で又は併用して用いることができる。
pH調整剤としては、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。これらのpH調整剤は、単独で又は併用して用いることができる。
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその塩などが挙げられる。これらの増粘剤は、単独で又は併用して用いることができる。
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのキレート剤は、単独で又は併用して用いることができる。
洗浄剤としては、例えば、ザウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドなどの陰イオン界面活性剤、ラウリルジメチルカルボキシメチルベタインなどの両性界面活性剤、ポリソルベート80などの非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの洗浄剤は、単独で又は併用して用いることができる。
本実施形態のコンタクトレンズケア溶液の使用方法としては、例えば対象となるコンタクトレンズを、ラクトフェリン又はラクトフェリシンを含有するコンタクトレンズケア溶液の溶液に10分以上、好ましくは20分以上浸漬することで消毒を行う。充分に消毒を行った後に、そのまま眼に装着するか、前記コンタクトレンズケア溶液、生理食塩水又はすすぎ液にてコンタクトレンズをすすいだ後に眼に装着してもよい。蛋白質や脂肪汚れがある場合には、消毒開始前にラクトフェリン又はラクトフェリシンを含有するコンタクトレンズケア溶液にて、レンズを予め擦り洗いしてもよい。
なお、本発明において対象となるコンタクトレンズとしては特に制限はなく、含水性ソフトコンタクトレンズ、非含水性ソフトコンタクトレンズ又はハードコンタクトレンズなどに対して本発明を適用することができる。
また、本発明はラクトフェリンとMPS(マルチパーパスソリューション)を含有する、コンタクトレンズケア溶液を提供するものである。
従来公知のコンタクトレンズケア溶液としてMPS(マルチパーパスソリューション:Multipurpose solution。以下同じ。)が使用されている。MPSは、上述した緩衝剤、等張化剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、キレート剤、洗浄剤などの添加剤を含み、コンタクトレンズの洗浄、すすぎ、消毒、保存のうち少なくとも2つ以上を1液で行なうことができるコンタクトレンズケア溶液である。
従来のMPSは消毒を行うことはできるものの、単独で使用した場合は殺アメーバ作用やシスト形成阻害作用などの抗アメーバ作用は示さない。しかしながら、ラクトフェリン、該ラクトフェリンを有効成分として含有するアカントアメーバ用組成物又は該アカントアメーバ用組成物を含有するアカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤をMPSに添加することで、抗アメーバ作用が付加されたコンタクトレンズケア溶液とすることができる。しかも、ラクトフェリンを単独で使用した場合よりも高い抗アメーバ作用をもたらす。すなわち、ラクトフェリンとMPSとを併用することにより、抗アメーバ作用に対して相乗効果を付与することができる。
本実施形態の抗アメーバ作用が付加されたコンタクトレンズケア溶液におけるラクトフェリンの濃度は、MPSとの併用による相乗効果が得られることから、少なくとも1μmolであればよい。
本実施形態の抗アメーバ作用が付加されたコンタクトレンズケア溶液の使用方法は、上述したコンタクトレンズケア溶液の使用方法と同様である。
1.アカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞の培養
(1)アメーバ用培地の調製
アメーバの栄養源となる大腸菌(E.coli)はNAプレート上で培養、回収後、懸濁液(A600=5)とした。これをオートクレーブ処理(121℃、30分)して、遠心分離(22,500×g、10分間、4℃)によって上澄を回収し、大腸菌(E.coli)抽出液とした。
大腸菌(E.coli)抽出液プレートは、agarプレートに大腸菌(E.coli)抽出液0.5mLを滴下し、コンラージ棒で塗布後、風乾して4℃保存した。
なお、NAプレートはNutrient Broth 1.6g及び寒天3.0gを蒸留水200mLに溶解し、オートクレーブ処理(121℃、15分)後、シャーレに分注した。また、agarプレートは寒天3.0gを蒸留水200mLに溶解し、オートクレーブ処理(115℃、15分間)後、シャーレに分注した。
(2)継代培養
実験に用いたアメーバ細胞として、ヒト角膜から単離したアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞を使用した。アメーバ細胞は、大腸菌(E.coli)抽出液プレートで培養した。アカントアメーバ(Acanthamoeba) 長期保存細胞の寒天切片(5×8 mm)を大腸菌(E.coli)抽出液プレート上に置き、27℃、7日間培養した。培養後のプレートを顕微鏡で観察し、多数のアメーバ細胞が存在するところに印をつけ、エーゼで切片を作成した。この切片を新たな大腸菌(E.coli)抽出液プレート上に置き、継代培養(27℃、7日間)した。
(3)前培養及び本培養
前項で切片を切り出した後のアメーバ継代細胞のプレートに滅菌水1.5mLを添加し、細胞を懸濁した。この懸濁液を新しい大腸菌(E.coli)抽出液プレート2枚にそれぞれ0.5mLずつ滴下後、全体に塗布し、培養(27℃、2日間)した。これを前培養細胞とした。
前培養細胞のプレート1枚に滅菌水2.5mLを添加懸濁し、そこから2.0mLを採り、もう1枚のプレートに滴下した。最初のプレートに再び滅菌水2.5mLを添加懸濁し、この全てをもう一方のプレートに移すことで細胞密度を高めた。この懸濁液0.5mLを新たな大腸菌(E.coli)抽出液プレート9枚にそれぞれ塗布し、培養(27℃、2日間)した。これを本培養細胞とした。
(4)試験用細胞懸濁液の調製
本培養細胞のプレート3枚にそれぞれ滅菌水3.0mLを添加し、懸濁した。プレート上の懸濁液約9mLを回収し、遠心分離(1,300×g、10分間)で上澄を除去し、ノイバウエル血球盤を用いて2.0×106cells/mLになるように滅菌水で希釈した。
2.トリパンブルー法
細胞はトリパンブルー(TB)法で観察した。細胞懸濁液1μLを高撥水性印刷スライドガラス(TF1006、ノンコート、Matsunami社製、76×26 mm、高撥水性、10穴、φ6mm)の1穴に滴下し、0.25%TB溶液1μLを滴下混合した。ここにカバーガラスを載せて顕微鏡(BX-51、オリンパス社製、200倍、位相差、ブルーフィルター)で細胞のTB染色性と形態について観察した。なお、スライドガラスとカバーガラスの間は、穴の両端に四重に重ねた両面テープ(高さ約5mm)をスペーサーとして装着した。
細胞の染色性は、TB染色陰性の細胞を生細胞とし、染色陽性の場合を死細胞とした。形態は不定形細胞と球形細胞に区別した。また、染色性と形態からシスト体を判別した。アカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞の生存率は、細胞100個をランダムに観察し、TB染色性の割合で示した。
3.アカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞のLF及びLFcin処理
森永乳業社製脱鉄ウシラクトフェリン(以下「apo-bLF」という。)、ラクトフェリン(LF)のペプシン消化で得られた塩基性ペプチドである森永乳業社製ラクトフェリシン(以下「LFcin」という。AA17-41)を用いて、アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞に対する抗アメーバ作用を検討した。また、比較対照として、EDTA及びMPS処理の影響も検討した。
アカントアメーバ(Acanthamoeba)試験用細胞懸濁液100μLを1.5mL容エッペンチューブに採り、そこに2、20及び200μM apo-bLF溶液あるいはLFcin溶液を添加した。このときの最終濃度は、1、10及び100μMであり、細胞数は1.0×106cells/mLであった。これを30℃、60分間インキュベートし、10分間隔で1μL採取して細胞をTB法で観察した。なお、0μL(Control)にはLFの代わりに滅菌水100μLを添加した。
4.結果及び考察
(1)apo-bLF処理の影響
イ.細胞生存率
apo-bLF存在下でのアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞の生存率についてTB法を用いて検討した。その結果を表1及び図1に示した。
Figure 2011246458
apo-bLF 未添加(Control)の場合、60分後の生存率は99.7±0.5%であり、ほとんどの細胞が生細胞を維持していた。したがって、設定した条件ではアメーバ細胞の生存率に影響を及ぼすことはなかった。
apo-bLF 1μMの場合、添加10分後の生存率は98.7±1.9%、添加60分後は85.3±2.1%であり、Controlに近い数値を示した。時間の経過にともなって死細胞が増加したが、この濃度では細胞の生存率にほとんど影響を与えないことが認められた。
apo-bLF 10μMの場合、添加10分後の生存率は41.0±9.4%であったが、時間の経過とともに低下し、添加60分後の生存率は3.0±2.4%となった。また、apo-bLF 100μMの場合、添加10分後の生存率は13.7±9.0%と急激に低下し、添加60分後には0.0±0.0%となり、全ての細胞が死滅した。
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞に対するapo-bLFの作用は濃度依存的であり、抗アメーバ作用が認められた。この結果は、土壌から分離したアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-T1細胞におけるapo-bLF存在下での生存率と同様であったが、apo-bLF 10及び100μM添加において急激な生存率の低下が認められた。
ヒト常乳あるいはウシ初乳に含まれるLF濃度は、0.8mg/mLに相当し、今回の実験条件におけるapo-bLF 10μMに換算される。このことからapo-bLFが抗アメーバ作用を示し、アカントアメーバが引き起こす疾病の治療への応用にも期待できる。
ロ.細胞の形態
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はapo-bLFによって濃度依存的に死滅することが示された。このときの形態別の割合を図2に示す。
apo-bLF 未添加(Control)の場合、前項で示したように60分後でもすべての細胞が生存していた。その形態は90%が不定形であり、ほとんどの細胞が形態変化しなかった(図2-A)。
apo-bLF 1μMの場合、添加60分後でもほとんどが生細胞であり、不定形生細胞は69.3±4.7%、球形生細胞は16.0±2.9%となった。Controlと同様にほとんどの細胞が不定形を維持していた(図2-B)。
apo-bLF 10μMの場合、時間経過にともなって細胞が死滅した。添加10分後の形態別の割合は、不定形死細胞60.0±15.1%、球形死細胞8.3±1.7%となった。添加60分後では、不定形死細胞82.7±2.4%、球形死細胞14.3±3.4%となり、不定形を維持した死細胞が多く観察された(図2-C)。
apo-bLF 100μMの場合も、時間経過にともなって細胞が死滅した。添加10分後の形態別の割合は、不定形死細胞73.7±7.6%、球形死細胞12.7±4.5%となった。添加60分後では、不定形死細胞83.0±2.4%、球形死細胞17.0±2.4%となり、不定形を維持した死細胞が非常に多く観察された。また、添加50分後には球形生細胞も含め全てが死細胞となった。これは強い抗アメーバ作用が起こっていることを示しているものと推察された(図2-D)。
apo-bLF存在下の土壌由来のアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-T1細胞と比較するとapo-bLF 10及び100μM添加において比較的短い時間で不定形死細胞が多く観察された。前項で示したように細胞表面にapo-bLFが結合し、影響を与えることで抗アメーバ作用が起こっていると示唆される。また、apo-bLF存在下のアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はシスト体に変化することなく死滅した。apo-bLFのようにシスト体へと誘導することなく即効的に死滅させることは非常に有効である。
(2)LFcin処理の影響
イ.細胞生存率
LFcin存在下でのアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞の生存率についてTB法を用いて検討した。その結果を表2及び図3に示した。
Figure 2011246458
LFcin 未添加(Control)の場合、60分後の生存率は100±0.0%であり、すべての細胞が生細胞を維持した。
LFcin 1μMの場合、添加60分後の生存率は96.3±1.2%であり、Controlに近い値を示した。処理時間の経過にともなってわずかに死細胞が増加したが、この濃度では細胞の生存率にほとんど影響を与えないことが明らかとなった。
LFcin 10μMの場合、添加10分後の生存率は86.3±9.1%であったが、処理時間の経過とともに低下する傾向が認められ、添加60分後の生存率は61.7±10.9%となった。
LFcin 100μMの場合、添加10分後の生存率は6.7±0.9%と急激に低下し、添加30分後には0.7±0.9%、50分後には0.0±0.0%となり、全ての細胞が死滅した。
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞に対するLFcinの作用は濃度依存的であり、抗アメーバ作用が認められた。特にLFcin 100μMでは非常に高い効果を発揮し、同濃度のapo-bLFと同等であった。しかし、LFcin 10μMでの効果は、同濃度のapo-bLFよりも低かった。
LFcinはLFのペプシン消化によって生成する塩基性ペプチドであり、分子量は3,124 kDaである。このペプチドの抗微生物活性はLFの数十倍以上強いことが報告されている。しかし、アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞においては、LFcinよりもLFの方が、より抗アメーバ作用が高いことが判明した。
ロ.細胞の形態
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はLFcinによって濃度依存的に死滅することが示された。このときの形態別の割合を図4に示す。
LFcin未添加(Control)の場合、前項で示したように60分後でもすべての細胞が生存していた。その生細胞の形態は不定形が92.3±1.2%、球形が7.7±1.2%であり、ほとんどの細胞で形態の変化が認められなかった(図4-A)。
LFcin 1μMの場合、添加60分後でもほとんどが生細胞であり、不定形生細胞は88.7±2.1%、球形生細胞は7.7±1.9%となった(図4-B)。Controlと同様にほとんどの細胞が不定形を維持しており、この濃度でのLFcinの影響は認められなかった。
LFcin 10μMの場合、処理時間の経過にともなってわずかだが細胞が死滅した。添加10分後の形態別の割合は、不定形死細胞13.0±8.6%、球形死細胞0.7±0.5%となった。添加60分後では、不定形死細胞32.3±10.9%、球形死細胞6.0±0.0%となり、不定形を維持した死細胞が多く観察された(図4-C)。
LFcin 100μMの場合、処理時間の経過にともなってほとんどの細胞が死滅した。添加10分後の形態別の割合は、不定形死細胞83.7±0.5%、球形死細胞9.7±0.5%となった。添加60分後では、不定形死細胞86.7±1.2%、球形死細胞13.3±1.5%となり、不定形を維持した死細胞が非常に多く観察された。また、添加30分後には球形細胞も含め全てが死細胞となった。LFcinの抗アメーバ作用は非常に強く、多くの細胞は不定形のまま死滅することが明らかになった(図4-D)。
LFcin存在下のアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞は、apo-bLF存在下の場合と同様に比較的短い時間で不定形死細胞が多くなった。
LFcinはグラム陰性菌の外膜に存在するリポポリサッカライド(LPS)に結合することでLPSを遊離させ、膜透過性を変化させることで殺菌作用を示す。さらに、LFよりもサイズが小さいために容易に外膜とペプチドグリカン層を通り抜け、細胞膜にダメージを与えて細菌を崩壊に導く。
福間らの研究報告によると、ネグレリア フォーレリ(Naegleria fowleri)に対してLFのペプシン消化物(LFcinを含む)を投与し、抗アメーバ作用を検討した。しかし、ペプシン消化物の生理的濃度では抗アメーバ作用を示さなかった。LFcinは鉄キレート能を有さないことから、アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞に対するLFcinの抗アメーバ作用もLFと同様に細胞表面への結合が関与していると考えられる。また、LFcin存在下のアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はシスト体に形態変化することなく死滅した。LFcinのようにシスト体を誘導することなく即効的に死滅させることは非常に有効である。
(3)エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)処理の影響
前項までの実験結果から、LFの鉄キレート能が抗アメーバ作用に関与することが明らかとなった。そこで、鉄キレート剤であるEDTAを用いてアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞の生存率ならびに形態変化について検討した。
イ.細胞の生存率
EDTA存在下でのアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞の生存率についてTB法を用いて検討した。EDTA濃度は、LFの鉄結合許容量を考慮してLF濃度の2倍とした。その結果を表3及び図5に示した。
Figure 2011246458
EDTA未添加(Control)の場合、添加60分後の生存率は100.0±0.0%であり、この条件下では生細胞を維持した。
EDTA 2μM及び20μMの場合、添加60分後の生存率は97.7±0.5%、95.3±1.2%であり、Controlとほとんど変わらない値であった。これらの濃度では細胞の生存率に影響を与えないことが明らかとなった。
EDTA 200μMの場合、添加30分後の生存率は98.7±1.9%であったが、処理時間の経過にともなってわずかに低下して、添加60分後には89.7±0.5%となった。
このように、アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞に対するEDTAの抗アメーバ作用は認められなかった。
山崎は、ハルトマネラ属(Hartmannella sp.)HT-1細胞に対するEDTAの抗アメーバ作用はapo-LFと比較して非常に弱かったと報告している。
本実験では、LFは1分子あたり2個のFe3+を可逆的に結合するが、EDTAの場合は1分子あたり1個のFe3+を可逆的に結合するため、EDTAの最終濃度をLFの2倍に設定して、両物質の鉄結合許容量を一定にした。しかし、アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4
細胞に対する抗アメーバ作用はEDTAには認められなかった。LFの抗アメーバ作用はLF分子が鉄で飽和されることで消失した。したがって、鉄キレートによって鉄が不活化することで起こる。EDTAが抗アメーバ作用を示さなかった原因として、EDTAが低分子であるため鉄を完全に不活化できずにアメーバが栄養源として利用したことが考えられる。また、LF分子がアカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞に直接的に何らかの働きかけをしている可能性も考えられる。
ロ.細胞の形態
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はEDTAによって影響を受けないことが示された。このときの形態別の割合を図6に示す。
EDTA未添加(Control)の場合、前項で示したように60分後でもすべての細胞が生存していた。その形態は不定形が96.3±0.9%、球形は4.0±0.8%であり、ほとんどの細胞の形態は変化していなかった(図6-A)。
EDTA 2μM及び20μMの場合、添加60分後でもほとんどが生細胞であった。形態の割合は不定形生細胞でそれぞれ91.7±1.7%、91.3±2.1%となり、球形生細胞で6.0±1.4%、4.0±1.4%となった(図6-B,C)。Controlと同様にほとんどの細胞が不定形を維持しており、この濃度でのEDTAの影響は認められなかった。
EDTA
200μMの場合、処理時間の経過にともなって細胞がわずかながら死滅した。添加30分後の形態別の割合は、不定形死細胞1.0±1.4%、球形死細胞0.3±0.5%となった。添加60分後では、不定形死細胞7.7±0.9%、球形死細胞2.7±0.5%となり、不定形を維持した死細胞が多く観察された。また、添加60分後の生細胞の割合は、不定形生細胞84.0±0.8%、球形生細胞5.7±1.2%であり、不定形を維持した細胞が多く観察された(図6-D)。
200μM EDTA処理60分後においても、ほとんどの細胞が不定形での生細胞を維持した。これは、EDTAがLFと比較して低分子であるため、この濃度でも環境悪化にならなかったためだと示唆される。
Leon-Sicairosらによると、FITC標識したapo-LFを用いて、apo-LFが赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)細胞表層に結合し、細胞膜を破壊することを示した。また、高野によると、土壌由来のアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-T1細胞は、LFが鉄飽和度に関係なく細胞表面に結合すると示している。このことから、抗アメーバ作用は、鉄キレートだけではなく、アカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞表層への結合が必要であることが示唆される。
(4)MPS処理の影響
アカントアメーバ角膜炎患者の増加は、ソフトコンタクトレンズの普及とそのケアの誤った認識にある。ケアには、MPS(Multi Purpose Solution)という洗浄、消毒、保存を兼ねる溶液が用いられることが多く、レンズがアカントアメーバに汚染された場合、それを制御することは不可能といわれている。そこで、市販のMPS(オフテクス社製バイオクレン(登録商標)ワンULTRAMOIST)を用いてアカントアメーバ(Acanthamoeba) AA-O4細胞の生存率ならびに形態変化について検討した。
イ.細胞の生存率
MPS処理でのアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞の生存率についてTB法を用いて検討した。その結果を表4及び図7に示した。
Figure 2011246458
MPS未処理(Control)の場合、添加60分後の生存率は100.0±0.0%であり、この条件下では生細胞を維持した。
MPSの4倍希釈及び2倍希釈の場合、添加60分後の生存率は96.0±1.4%、94.7±1.2%であり、Controlとほとんど変わらない値であった。これらの濃度では細胞の生存率に影響を与えないことが明らかとなった。
MPS原液の場合、添加60分後の生存率は81.0±3.3%であり、アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞に対するMPSの抗アメーバ作用は認められなかった。
ロ.細胞の形態
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はMPSによってほとんど影響を受けないことが示された。このときの形態別の割合を図8にまとめた。
MPS未処理(Control)の場合、60分後でもすべての細胞が生存していた。その形態は不定形が92.7±1.2%、球形は7.3±1.2%であり、ほとんどの細胞の形態は変化していなかった(図8-A)。
MPSの4倍希釈及び2倍希釈の場合、添加60分後でもその多くは生細胞であった。形態の割合は不定形生細胞でそれぞれ76.3±6.0%、69.7±10.1%となり、球形生細胞で20.0±5.7%、24.0±8.0%となった(図8-B,C)。この濃度でのMPSは細胞を死滅することはないが、約20%の細胞が球形に変化した。
MPS原液の場合、処理時間の経過にともなって細胞がわずかながら死滅した。添加60分後の形態別の割合は、不定形生細胞26.0±7.9%、球形生細胞55.0±8.0%となり、細胞の死滅はわずかであるが球形に変化した生細胞が多く観察された(図8-D)。
この結果のように、MPSはアカントアメーバ細胞に対する抗アメーバ作用はないが、不定形細胞を球形に変化させることが明らかになった。アメーバ細胞を加熱すると、不定形から球形へと変化する細胞の割合が増加する。これは比較的緩やかな環境の悪化状態のときに観察される現象で、シスト体への変化を誘導することもある。MPSの有効成分であるポリヘキサニド塩酸塩は消毒剤であり、現行よりも濃度を上げることは眼への悪影響を十分注意しなくてはならない。
5.apo-bLF添加MPS処理の影響
(1)実験方法
単独使用の場合は抗アメーバ作用がほとんど認められなかった低濃度のapo-bLF(1μM)および原液MPSについて、両者を併用した場合の相乗効果を、以下の要領で検討した。apo-bLF 2μMとなるように市販のMPS(オフテクス社製バイオクレン(登録商標)ワンULTRAMOIST)で溶解した。このMPSとapo-bLFの混合液(MPS+apo-bLF)100μLに前記1(4)で調製した細胞懸濁液100μLを添加した。このときのapo-bLFの最終濃度は、1μMであり、細胞数は1.0×106cells/mLであった。これを30℃、60分間インキュベートし、10分間隔で1μL採取して細胞をTB法で観察した。なお、対照としてMPSとapo-bLFの混合液(MPS+apo-bLF)の代わりに滅菌水100μL(control)を添加した場合や、参考例としてapo-bLF1μM溶液(apo-bLF)およびMPS原液(MPS)を添加した場合についても実施した。
(2)結果および考察
イ.細胞生存率
apo-bLF添加MPS処理によるアカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞の生存率についてTB法を用いて検討した。その結果を表5及び図9に示した。
Figure 2011246458
滅菌水100μL(control)を添加した場合、60分後の生存率は100±0.0%であり、生細胞を維持していた。したがって、設定した条件ではアメーバ細胞の生存率に影響を及ぼすことはなかった。
apo-bLF1μM単独溶液(apo-bLF)又はMPS単独溶液(MPS)ではアカントアメーバAA-O4細胞の生存率にほとんど影響を与えなかったが、両者を混合した条件(MPS+apo-bLF)では、添加10分後の生存率は54.3±7.1%、60分後には0.4±0.3%にまで低下した。
抗アメーバ作用をほとんど発揮しなかった既存のMPSに、非常に低濃度でありながらapo-bLFを添加することで強い抗アメーバ作用が認められた。これは、アカントアメーバが関与する眼疾病の治療や予防において期待が持てる。
ロ.細胞の形態
アカントアメーバ(Acanthamoeba)AA-O4細胞はapo-bLF添加MPS処理によって死滅することが示された。このときの形態別の割合を図10に示した。
apo-bLF未添加(control)の場合、前項で示したように60分後でもすべての細胞が生存していた。その形態は91%が不定形であり、ほとんどの細胞が形態変化しなかった(図10-A)。
apo-bLF 1μMの場合、添加60分後でもほとんどが生細胞であり、不定形生細胞は69.3±4.7%、球形生細胞は16.0±2.9%となった。Controlと同様にほとんどの細胞が不定形を維持していた(図10-B)。
MPS原液(MPS)の場合、処理時間の経過にともなって細胞がわずかながら死滅した。添加60分後の形態別の割合は、不定形生細胞26.0±7.9%、球形生細胞55.0±8.0%となり、細胞の死滅はわずかであるが球形に変化した生細胞が多く観察された(図10-C)。
両者を混合した場合、添加60分後にはほとんどの細胞は死滅した。このとき不定形死細胞が87.2±8.9%を占めた(図10-D)。
これらの結果から、MPSはアカントアメーバ細胞に対する抗アメーバ作用は認められないが、不定形細胞は球形に変化した。アメーバ細胞を加熱すると、不定形から球形へと変化する細胞の割合が増加する。これは比較的緩やかな環境の悪化状態のときに観察される現象で、シスト体への変化を誘導することもある。しかし、MPSにapo-bLFを添加することで、速やかに細胞が死滅し、その形態も不定形を維持する割合が高かった。このように不定形のまま死滅することは、シスト体へ誘導される可能性が極めて低いことを意味している。

Claims (8)

  1. ラクトフェリン又はラクトフェリシンを有効成分として含有する、抗アカントアメーバ用組成物。
  2. 前記ラクトフェリンの濃度が少なくとも10μmolである、請求項1に記載の抗アカントアメーバ用組成物。
  3. 前記ラクトフェリン又は前記ラクトフェリシンの濃度が少なくとも100μmolである、請求項1に記載の抗アカントアメーバ用組成物。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗アカントアメーバ用組成物を含有する、アカントアメーバ角膜炎の予防及び治療剤。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗アカントアメーバ用組成物を含有する、点眼剤。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗アカントアメーバ用組成物を含有する、コンタクトレンズケア溶液。
  7. ラクトフェリンとMPS(マルチパーパスソリューション)を含有する、コンタクトレンズケア溶液。
  8. 前記ラクトフェリンの濃度が少なくとも1μmolである、請求項7に記載のコンタクトレンズケア溶液。
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