JP2011214124A - 合金超伝導体生成方法、及び合金超伝導体 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡単な作業工程のみで機械的に加工が容易な超伝導体を生成すると共に、特別な処理を必要とせずにピンニングサイトを導入することができる合金超伝導体生成方法等を提供する。
【解決手段】体心立方格子構造を有する高融点金属のNb固溶体とB2型金属間化合物TiNiとを任意の割合で配合し、当該配合された配合物を溶解、鋳造し、超伝導相となるNb相と常伝導相となるTiNi相とが、層状で交互に配列する複相組織を形成する。また、配合物を融点以下の温度における時効析出反応により鋳造し、前記Nb相内に前記TiNi相がピンニングサイトとして析出される。
【選択図】図1
【解決手段】体心立方格子構造を有する高融点金属のNb固溶体とB2型金属間化合物TiNiとを任意の割合で配合し、当該配合された配合物を溶解、鋳造し、超伝導相となるNb相と常伝導相となるTiNi相とが、層状で交互に配列する複相組織を形成する。また、配合物を融点以下の温度における時効析出反応により鋳造し、前記Nb相内に前記TiNi相がピンニングサイトとして析出される。
【選択図】図1
Description
本発明は、合金超伝導体に関し、特に体心立方格子構造を有する高融点金属の固溶体とB2型金属間化合物とによる合金超伝導体に関する。
ニオブ(Nb)−チタン(Ti)合金は、合金系超伝導体として知られており、比較的展性及び延性に優れ、超伝導線や超伝導磁石等に広く使用されている。しかしながら、Nb−Ti合金の最良のものでも、超伝導への転移温度が9.6Kと非常に低く、改善が望まれている。また、磁束線の侵入により超伝導状態が損なわれることを防止するために、ピン止め点としてリボン状の六方最密充填構造(hexagonal close-packed structure:hcp構造)のTiを分散させる必要があり、複雑な加工と熱処理を繰り返して行わなければならず、この点においても改善が望まれている。
さらに、温度が上昇するとピン止め力が減少し、超伝導線の一部が偶発的に常伝導状態になる現象があり、この現象が生じると、大電流のジュール熱による超伝導電線の焼損や冷媒の爆発的蒸発等の事故を招く可能性がある。この現象は、超伝導線の径を数十μm以下にすると抑制できるが、電流容量が非常に小さくなってしまう。したがって、実用性のある超伝導線材では、電流容量を大きくするために、この細い超伝導フィラメントが銅(Cu)や銀(Ag)等の常伝導金属中に多数分散して埋め込まれた極細多芯構造が多く採用されている。
さらにまた、超伝導体は一般の金属等に比べて機械的に脆弱であるため、加工が難しく、また作業に時間と手間を要する。
さらにまた、超伝導体は一般の金属等に比べて機械的に脆弱であるため、加工が難しく、また作業に時間と手間を要する。
上記超伝導体に関連する技術として、特許文献1に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、NbTi合金と該NbTi合金よりも超伝導特性が劣るか、或いは超伝導性を示さない金属又は合金とを交互に積層し、これらを伸線して複合材を形成し、前記複合材を複数本束ねて一体化するNbTi合金系超伝導線の製造方法である。
また、特許文献2には、超伝導に関する技術ではないが、Ni−Ti−Nb系の合金を利用した水素分離・精製用の金属膜が開示されている。
また、特許文献2には、超伝導に関する技術ではないが、Ni−Ti−Nb系の合金を利用した水素分離・精製用の金属膜が開示されている。
しかしながら、特許文献1に示す技術は、NbTi合金と金属又は合金とを交互に積層し、これらを伸線して複合材を形成し、複合材を複数本束ねて一体化するため、超伝導線の構造や、その製造工程が複雑になり手間が掛かってしまうという課題を有する。また、構造が複雑であるため加工が困難であり、適用範囲が限定されてしまうという課題を有する。
また、特許文献2に示す技術は、Ni−Ti−Nb系の合金を用いた技術であるが、超伝導には無関係の技術である。
そこで、本発明は体心立方格子構造を有する金属固溶体とB2型金属間化合物とを配合することで、簡単な作業工程のみで機械的に加工が容易な合金超伝導体を生成すると共に、特別な処理を必要とせずにピンニングサイトを導入することができる合金超伝導体生成方法等を提供する。
そこで、本発明は体心立方格子構造を有する金属固溶体とB2型金属間化合物とを配合することで、簡単な作業工程のみで機械的に加工が容易な合金超伝導体を生成すると共に、特別な処理を必要とせずにピンニングサイトを導入することができる合金超伝導体生成方法等を提供する。
本願に開示する合金超伝導体生成方法は、体心立方格子構造を有する高融点金属の固溶体とB2型金属間化合物とを任意の割合で配合し、当該配合された配合物を溶解、鋳造し、超伝導相となる金属相と常伝導相となるB2相とが、層状で交互に配列する複相組織を形成することを特徴とするものである。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、体心立方格子構造を有する高融点金属の固溶体と、この固溶体に対して共晶反応を起こすB2型金属間化合物とを任意の割合で配合し、溶解、鋳造するのみで銅酸化物超伝導体の積層構造に類似する合金超伝導体を生成するため、複雑な作業や熱処理等を繰り返す必要がなく、合金超伝導体を容易に生成することができるという効果を奏する。
また、体心立方格子構造を有する高融点金属の固溶体とB2型金属間化合物との複相組織を形成するため、機械的に強く且つ良好な延性を有し、加工しやすい合金超伝導体を容易に生成することができるという効果を奏する。
本願に開示する合金超伝導体生成方法は、前記高融点金属が第5属元素であり、好ましくはニオブ(Nb)であることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、高融点金属が第5属元素であり、好ましくはニオブ(Nb)であるため、高性能の合金超伝導体を容易に生成することができるという効果を奏する。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、高融点金属が第5属元素であり、好ましくはニオブ(Nb)であるため、高性能の合金超伝導体を容易に生成することができるという効果を奏する。
本願に開示する合金超伝導体生成方法は、前記配合物を融点以下の温度における時効析出反応により鋳造し、前記金属相内に前記B2相がピンニングサイトとして析出されることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、融点以下の温度における時効析出反応を行うことで、複雑な加工や熱処理を行うことなく、超伝導相内にピンニングサイトを容易に形成することができるという効果を奏する。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、融点以下の温度における時効析出反応を行うことで、複雑な加工や熱処理を行うことなく、超伝導相内にピンニングサイトを容易に形成することができるという効果を奏する。
本願に開示する合金超伝導体生成方法は、前記B2型金属化合物が、チタン(Ti)とニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)、又はジルコニウム(Zr)とコバルト(Co)からなるものであることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、B2型金属化合物が、チタン(Ti)とニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)、又はジルコニウム(Zr)とコバルト(Co)からなるものであるため、様々な合金で合金超伝導体を生成することができる。また、複数種類の合金超伝導体を生成することで様々な環境ごとに適応した合金超伝導体を生成することができるという効果を奏する。
このように、本願に開示する合金超伝導体生成方法においては、B2型金属化合物が、チタン(Ti)とニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)、又はジルコニウム(Zr)とコバルト(Co)からなるものであるため、様々な合金で合金超伝導体を生成することができる。また、複数種類の合金超伝導体を生成することで様々な環境ごとに適応した合金超伝導体を生成することができるという効果を奏する。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
超伝導とは、ある温度以下でゼロ抵抗を示す現象である。超伝導体には臨界温度TC、臨界磁場HC、及び臨界電流密度JCの3つの臨界値が存在し、これら3つの臨界値を超えない範囲で超伝導状態が得られる。一般的に3つのパラメータが大きく、加工性が良い物質ほど実用化に適しており、優れた超伝導材料といえる。
超伝導材料の中で最も世界的に普及しているNb−Ti合金は臨界温度が9.5K程度と低いが、線材加工が比較的容易である。一方、高温超伝導体である銅酸化物超伝導体は、延性に難があるが、液体窒素の温度以上で超伝導転移を示す。この銅酸化物超伝導体は、超伝導層とブロック層とが交互に積層し、横方向に銅−酸素の平面が広がっている。
本実施形態に係る合金超伝導体合金は、超伝導性を示すbcc(body center cubic:体心立方格子構造)−高融点金属(例えば、Nb(Ti))固溶体相と超伝導性を示さないB2型金属間化合物(例えば、TiNi)相からなるラメラ組織であり、銅酸化物超伝導体の積層構造と類似している。しかし、例えばNb−TiNi合金(Nb−金属間化合物共晶型超伝導体)は、構造の観点において合金系超伝導体、金属間化合物系超伝導体とは異なる構造を有しているため新規の超伝導体である。
なお、ここでは、主にNb−TiNi合金について説明するが、Nbの替わりに、他の体心立方格子構造を有する高融点金属(例えば、第5族元素であるバナジウム(V)、タンタル(Ta)、第6族元素であるモリブデン(Mo)等)とすることができ、TiNiの替わりに他のB2型金属間化合物(例えば、ジルコニウムとニッケル(ZrNi)、ジルコニウムとコバルト(ZrCo)等)とすることができる。
Nb−金属間化合物共晶型超伝導体を実用的に利用するために、より高い臨界電流密度と臨界磁場を実現する必要がある。超伝導体に輸送電流が流れている場合、磁界と電流が垂直にあることで磁束線にローレンツ力が働く。超伝導体内に侵入した磁束が通電により発生するローレンツ力により容易に動かされ、誘導起電力を発生させて抵抗ゼロの状態を壊してしまう。
しかし、超伝導体に磁束線のピン止め点を微細組織に導入することによりある程度の電流が流れてもゼロ抵抗の状態が壊れなくなる。一般的に、ピン止め点として結晶粒界や格子欠陥、ナノサイズの不純物が効果的である。Nb−Ti合金では熱処理、加工処理等によりピン止め点α−Ti相を導入することで臨界電流密度、臨界磁場を向上させている。本発明に係るNb−金属間化合物共晶型超伝導体においては、組織中に不純物や欠陥等の磁束ピン止め点を導入させるための適切な熱処理や加工等の処理条件を導出して適用する。
本実施形態に係る合金超伝導体は、Nb固溶体とTiNi金属間化合物を任意の割合で配合し、図1に示すNb−TiNi合金の状態を示す相図に基づいて、配合された配合物を溶解、鋳造し、超伝導相となるNb相と常伝導相となるTiNi相とが、層状で交互に配列する複相組織(図2を参照)を形成する。
このとき、融点(1150.7度)以下の温度における時効析出反応により鋳造することでNb相内にTiNi相が析出され、このTiNi相を合金超伝導体のピンニングサイトとして形成することができる。
(実験方法)
アルゴン雰囲気下でアーク溶解により共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、Nb25Ti35Co40(at.%)、及びNb-TiNi系としてNb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2(at.%)を生成する。その際、組成を均一化するために5〜6回反転させて溶解を繰り返す。全ての試料に関して1173K−3.6ksの条件で溶体化処理を施した後に、電気抵抗測定、磁化測定に供する。また、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、STEM−EDX分析により微細構造解析を行う。TEM試料についてはイオンミリングを用いて生成する。
アルゴン雰囲気下でアーク溶解により共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、Nb25Ti35Co40(at.%)、及びNb-TiNi系としてNb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2(at.%)を生成する。その際、組成を均一化するために5〜6回反転させて溶解を繰り返す。全ての試料に関して1173K−3.6ksの条件で溶体化処理を施した後に、電気抵抗測定、磁化測定に供する。また、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、STEM−EDX分析により微細構造解析を行う。TEM試料についてはイオンミリングを用いて生成する。
(電気抵抗測定)
図3に、共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、Nb25Zr35Co40合金、図4に、Nb-TiNi系のNb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金の電気抵抗測定より得られたR−T曲線を示す。R−T曲線で急激に減少し始める直前の抵抗値をR0として1/2R0における温度を試料の臨界温度とした。
共晶組成の臨界温度Tc、及びNb-TiNi系の臨界温度Tcを以下の表1に示す。
図3に、共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、Nb25Zr35Co40合金、図4に、Nb-TiNi系のNb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金の電気抵抗測定より得られたR−T曲線を示す。R−T曲線で急激に減少し始める直前の抵抗値をR0として1/2R0における温度を試料の臨界温度とした。
共晶組成の臨界温度Tc、及びNb-TiNi系の臨界温度Tcを以下の表1に示す。
表1からわかる通り、電気抵抗測定の結果、上記に示した各共晶合金の臨界温度は、全てNb-Ti合金の臨界温度より高いことを確認することができる。
図5に、共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、Nb25Zr35Co40合金、図6に、Nb-TiNi系のNb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金の電気抵抗測定より得られたI−R曲線の結果を示す。なお、測定時の温度は冷凍機による冷却が止まった温度で行った。この場合の臨界電流密度は、ゼロ抵抗が壊れた時の電流値を試料の断面積で割って求めた。
I−R値より得られた共晶組成の臨界電流密度Jc、及びNb-TiNi系の臨界電流密度Jcを以下の表2に示す。括弧内の数値は臨界温度を示す。
図5に、共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、Nb25Zr35Co40合金、図6に、Nb-TiNi系のNb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金の電気抵抗測定より得られたI−R曲線の結果を示す。なお、測定時の温度は冷凍機による冷却が止まった温度で行った。この場合の臨界電流密度は、ゼロ抵抗が壊れた時の電流値を試料の断面積で割って求めた。
I−R値より得られた共晶組成の臨界電流密度Jc、及びNb-TiNi系の臨界電流密度Jcを以下の表2に示す。括弧内の数値は臨界温度を示す。
表2からわかる通り、共晶組成合金の中ではNb13Zr43Ni44合金が最も臨界電流密度が高く、Nb20Ti40Ni40合金、Nb25Zr35Co40合金は共にほぼ0.7A/cm2程度である。一方、Nb-TiNi系合金は共晶組成を除いて4A/cm2程度と他の組成より高い。ここでの臨界電流密度は、実用化の条件と比べて低い値となっている。しかし、一般的に臨界電流密度はI−R測定ではなく液体窒素温度(4.2K)下で超伝導量子干渉磁力計(SQUID)より求めるものであるため、今回のI−R測定では8〜9K程度までしか冷却できず、試料に流れた電流増加によるジュール熱によって超伝導状態が壊れた可能性がある。したがって、臨界電流密度の温度依存性が高いことから、本来の方法により測定を行えば、上記の値よりも高い臨界電流密度の値となる可能性が非常に高い。また、ここでの測定値は、超伝導になりかけのとき(一部分のみが超伝導状態になっているとき)の値であるため、超伝導領域の面積が小さく、臨界電流密度も低くなったと考えられる。すなわち、合金全体が超伝導状態となれば、より高い臨界電流密度を示す可能性が非常に高い。
なお、上記共晶組成とは別に、Nb30Ti35Co35、Nb15Ti42.5Pd42.5についても電気抵抗測定を行ったが、測定時の冷却が不十分であったためゼロ抵抗を確認することができなかった。
なお、上記共晶組成とは別に、Nb30Ti35Co35、Nb15Ti42.5Pd42.5についても電気抵抗測定を行ったが、測定時の冷却が不十分であったためゼロ抵抗を確認することができなかった。
(磁化測定)
SQUIDを用いて10Oeの磁場で磁化測定を行い、体積磁化率M/Hの温度依存性を得た。図7に、共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb30Ti35Co35、Nb13Zr43Ni44、Nb25Zr35Co40合金、図8にNb-TiNi系のNb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金のM−T曲線を示す。M−T曲線で磁化率M/Hが0から減少し始めた時の温度を試料の臨界温度とした。
M−T曲線より得られた共晶組成の臨界温度Tc、及びNb-TiNi系の臨界温度Tcを以下の表3に示す。
SQUIDを用いて10Oeの磁場で磁化測定を行い、体積磁化率M/Hの温度依存性を得た。図7に、共晶組成Nb20Ti40Ni40、Nb30Ti35Co35、Nb13Zr43Ni44、Nb25Zr35Co40合金、図8にNb-TiNi系のNb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金のM−T曲線を示す。M−T曲線で磁化率M/Hが0から減少し始めた時の温度を試料の臨界温度とした。
M−T曲線より得られた共晶組成の臨界温度Tc、及びNb-TiNi系の臨界温度Tcを以下の表3に示す。
Nb30Ti35Co35合金は、上述したように電気抵抗測定では超伝導転移を示さなかったが、磁化測定では7.4Kで超伝導状態に転移した。これは、電気抵抗測定では冷却が不十分で8.2K程度までしか冷却できなかったためであると考えられる。また、磁化測定での臨界温度は、全ての組成において電気抵抗測定での臨界温度より低く、Nb-Ti合金の臨界温度9.5Kより高い値を示すものがなかった。この原因としては以下の2つのことが考えられる。
第一に、電気抵抗測定では試料の一部が超伝導状態に転移すればゼロ抵抗を示すが、磁化測定では試料全体の磁化を測定しており、試料の一部と全体とで超伝導転移する温度が違うことが考えられる。特に、試料の一部と全体との臨界温度のずれは、熱処理して析出物を析出させて結晶構造、組成が不均一になっている場合などに多く生じる。測定した全ての試料は溶体化処理を行っている上、Nb85Ti13Ni2合金以外はNb(Ti)固溶体相と他の相との複相組織であり組成が不均一である。
第二に、試料中にNiもしくはCoという強磁性元素が添加されており、磁性元素は電子スピン間の強い相互作用でクーパー対の形成を阻害すると考えられているので、外部磁場下で行う磁化測定では超伝導転移が通常より低い温度で起きたことが考えられる。さらに、Niより強い磁性を持つCoを含む合金においてはM−T曲線がNiを含む合金と比較してTcが低く、超伝導転移後に磁化率が急に低下していないことからも強磁性元素の影響が推測される。超伝導材料は主に磁場中で使用するため、Nb−金属間化合物共晶合金の磁性に対する特性は重要である。強磁性元素の影響を減らすためには、複相組織を崩さずに磁性が弱い元素でNi、Co等の磁性が強い元素を置換することで、実現することが可能である。
(各種組成での超伝導特性の比較)
図9に共晶組成のSEM観察結果を示す。これら4つの合金は非常に微細な共晶組織を形成していることが確認される。このうち、Nb20Ti40Ni40合金とNb30Ti35Co35合金はどちらも微細なラメラ状の共晶組織を形成している。共晶組織のラメラ幅は数十〜数百nmであり、これらが20〜50μm程度のセル状構造を形成しているという点においても、Nb20Ti40Ni40合金とNb30Ti35Co35合金は非常に類似していると言える。それに対し、Nb13Zr43Ni44合金はラメラ状ではなくNb(Ti)固溶体相がロッド状に観察される領域が確認された。また、Nb25Zr35Co40合金における共晶組織は非常に微細なラメラ状であり、一部領域においてラメラ状組織とロッド状組織が混在している複雑な組織を呈している。本合金においても、10〜50μm程度のセル状組織を形成していることが確認された。
以下の表4に共晶組成での超伝導特性と組織の比較を示す。
図9に共晶組成のSEM観察結果を示す。これら4つの合金は非常に微細な共晶組織を形成していることが確認される。このうち、Nb20Ti40Ni40合金とNb30Ti35Co35合金はどちらも微細なラメラ状の共晶組織を形成している。共晶組織のラメラ幅は数十〜数百nmであり、これらが20〜50μm程度のセル状構造を形成しているという点においても、Nb20Ti40Ni40合金とNb30Ti35Co35合金は非常に類似していると言える。それに対し、Nb13Zr43Ni44合金はラメラ状ではなくNb(Ti)固溶体相がロッド状に観察される領域が確認された。また、Nb25Zr35Co40合金における共晶組織は非常に微細なラメラ状であり、一部領域においてラメラ状組織とロッド状組織が混在している複雑な組織を呈している。本合金においても、10〜50μm程度のセル状組織を形成していることが確認された。
以下の表4に共晶組成での超伝導特性と組織の比較を示す。
IR測定での臨界電流密度の高いNb13Zr43Ni44合金は唯一ロッド状の組織であった。実用超伝導線材には,電流容量を大きくするために,この細い超伝導フィラメントがCuやAg等の常伝導金属中に多数分散して埋め込まれた極細多芯構造が多く採用されている。Nb13Zr43Ni44合金はNb(Ti)相がZrNi相中をロッド状に形成しており、極細多芯構造と類似の構造をしているために他の組成より高い臨界電流密度を示したと考えられる。また、Nb30Ti35Co35合金、Nb25Zr35Co40合金はともに超伝導転移しており、第二相がマルテンサイト変態するかどうかは超伝導特性に影響を及ぼさないことを確認することができる。
以下の表5にNb−TiNi系合金の超伝導特性と組織の比較を示す。また、図10にNb10Ti45Ni45、Nb20Ti40Ni40、及びNb40Ti30Ni30の二次電子像を示す。
以下の表5にNb−TiNi系合金の超伝導特性と組織の比較を示す。また、図10にNb10Ti45Ni45、Nb20Ti40Ni40、及びNb40Ti30Ni30の二次電子像を示す。
図10において、Nb10Ti45Ni45の場合は、TiNi相の領域と共晶の領域が観察される。Nb20Ti40Ni40の場合は、共晶の領域のみが観察される。Nb40Ti30Ni30の場合は、Nb(Ti)相と共晶の領域が観察される。
表5に示すように、Nb−TiNi系合金の中で共晶組成の臨界温度は11.2Kと最も低く、他の組成はほぼ13K程度であった。これよりNb−TiNi合金の臨界温度は共晶組成を除いてNb量に依存しないことが明らかとなった。共晶組成のみが臨界温度が低かった原因として粒界の存在が考えられる。Nb20Ti40Ni40合金は全域がラメラ状であるが冷却過程で形成された粒界が存在する。この粒界により超伝導転移したNb(Ti)相同士が分断されたためにゼロ抵抗を示した温度が低くなったと考えられる。また、臨界電流密度は共晶組成以外で4A/cm2程度と高い値であった。この原因として共晶組織の形態が考えられる。共晶組成では組織はラメラ状であるが、亜共晶、過共晶では初晶以外のNb(Ti)相はロッド状である。先にも示したようにロッド状形態が極細多芯構造と類似の構造をしているために他の組成より高い臨界電流密度を示した可能性がある。
表5に示すように、Nb−TiNi系合金の中で共晶組成の臨界温度は11.2Kと最も低く、他の組成はほぼ13K程度であった。これよりNb−TiNi合金の臨界温度は共晶組成を除いてNb量に依存しないことが明らかとなった。共晶組成のみが臨界温度が低かった原因として粒界の存在が考えられる。Nb20Ti40Ni40合金は全域がラメラ状であるが冷却過程で形成された粒界が存在する。この粒界により超伝導転移したNb(Ti)相同士が分断されたためにゼロ抵抗を示した温度が低くなったと考えられる。また、臨界電流密度は共晶組成以外で4A/cm2程度と高い値であった。この原因として共晶組織の形態が考えられる。共晶組成では組織はラメラ状であるが、亜共晶、過共晶では初晶以外のNb(Ti)相はロッド状である。先にも示したようにロッド状形態が極細多芯構造と類似の構造をしているために他の組成より高い臨界電流密度を示した可能性がある。
(時効処理による超伝導特性向上の可能性)
図11に溶体化処理を施したNb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金の773K−36ks時効処理をした場合としない場合とのそれぞれのI−R曲線を示す。以後、時効処理をしない場合の試料を溶体化材、時効処理をした場合の試料を時効材とする。それぞれの合金における時効処理をした場合としない場合との臨界電流密度を以下の表6に示す。
図11に溶体化処理を施したNb40Ti30Ni30、Nb85Ti13Ni2合金の773K−36ks時効処理をした場合としない場合とのそれぞれのI−R曲線を示す。以後、時効処理をしない場合の試料を溶体化材、時効処理をした場合の試料を時効材とする。それぞれの合金における時効処理をした場合としない場合との臨界電流密度を以下の表6に示す。
表6に示すように、Nb40Ti30Ni30合金の臨界電流密度は、時効処理をした場合に増加しているのに対し、Nb85Ti13Ni2合金の臨界電流密度は、時効処理をした場合に減少している。また、I−R曲線から、時効処理をした場合はゼロ抵抗からの抵抗増加の傾きが小さくなっている。つまり、Nb85Ti13Ni2合金の組織は、時効処理をした場合に不均一になったと示唆される。
図12にNb40Ti30Ni30合金の時効処理をした場合としない場合とのそれぞれのM−T曲線、及びM−H曲線を示す。M−T曲線よりNb40Ti30Ni30合金の時効処理をしない場合の臨界温度は8.8Kであったが、時効処理をした場合の臨界温度は9.5Kに上昇している。磁化測定での臨界温度は時効処理をした場合にNb−Ti合金と同程度になった。また、M−H曲線よりNb40Ti30Ni30合金の時効処理をしない場合の下部臨界磁場はHC1=350Oe(BC1=0.035T)であり、上部臨界磁場はHC2=15000Oe(BC2=1.5T)であった。一方、時効処理をした場合の下部臨界磁場はHC1=650Oe(BC1=0.065T)であり、上部臨界磁場はHC2=19000Oe(BC2=1.9T)であった。つまり、時効処理によりNb40Ti30Ni30合金の下部臨界磁場、及び上部臨界磁場が上昇していることが明らかとなった。このことは時効処理により組織中に磁束ピン止め点となる析出物や欠陥が形成されていることを示唆している。
次に、時効処理をしない場合のNb40Ti30Ni30合金の明視野像、及び電子回折パターンの解析したところ、溶体化材には塊状の初晶とその周囲に共晶組織が形成されていた。この溶体化材の初晶はNb(Ti)相であり、共晶組織はTiNi相および粒状のNb(Ti)相で構成されていた。また、初晶Nb(Ti)粒には多くの析出物が存在し、高密度に転位が分布していた。暗視野像から算出したところ、析出物のサイズは10〜25nm程度であり、形状は不完全な球状であった。磁束ピン止め点として有効な不純物、欠陥のサイズは数ナノ〜十数ナノであり、ほぼそれに近いサイズである。線材を作製する際には伸線加工するので、形成された析出物は加工後に数ナノ程度になると考えられる。以上のように、溶体化処理のみでNb40Ti30Ni30合金の初晶Nb(Ti)粒には磁束ピン止め点として有効なサイズの析出物、及び高密度の転位が形成された。
また、時効処理をした場合のNb40Ti30Ni30合金の明視野像、及び電子回折パターンの解析したところ、時効材には、溶体化材と同様に塊状の初晶とその周囲に共晶組織が形成されていた。この時効材の初晶は、Nb(Ti)相であり、共晶組織はTiNi相および粒状のNb(Ti)相で構成されていた。また、初晶Nb(Ti)粒には多くの析出物および転位が存在していた。暗視野像から算出したところ析出物のサイズは10〜25nm程度であり、時効処理をしない場合と比較してサイズに大きな変化はなかった。さらに、初晶Nb(Ti)粒の析出物はNi3Ti相と同定された。
これらの解析結果より、時効処理をした場合にNb40Ti30Ni30合金の下部臨界磁場、及び上部臨界磁場が上昇した要因として以下のことが考えられる。時効処理をした場合としない場合とで初晶Nb(Ti)粒の観察結果より、析出物サイズ、及び形状に大きな変化がなかったが、初晶Nb(Ti)粒中の析出物の密度は増加している。つまり、析出物密度が増加したことにより臨界磁場が上がったと考えられる。一方、時効処理により臨界磁場が上昇したが、上部臨界磁場はHC2=19000Oe(BC2=1.9T)であり、Nb−Ti合金の上部臨界磁場と比較すると低い水準である。この原因として析出物が強磁性のNi過剰のNi3Ti相であることが考えられる。析出物が磁性のある化合物である場合、磁束ピン止め点としてはNb−Ti合金のα−Ti粒よりもクーパー対の形成を阻害するので、超伝導状態を崩れる割合が増加し試料全体を低い磁場で常伝導状態にする可能性がある。したがって、より高い臨界磁場を得るためには、Ni量の少ない析出物を形成させるような熱処理条件を設定すればよい。
なお、Nb85Ti13Ni2合金の臨界電流密度が、時効処理をした場合に減少している要因として、溶体化材ですでに磁束ピン止め点として有効な不純物が析出されており、時効処理を行うことで、その不純物が増え過ぎたことが考えられる。つまり、冷却条件を厳密に制御することで、適切な量のピン止め点を析出させることが可能となり、時効処理は有効であると言える。
これらの実験結果から、共晶合金Nb20Ti40Ni40、Nb13Zr43Ni44、及びNb25Zr35Co40は、電気抵抗測定により超伝導特性を示し、その臨界温度はNb−Ti合金よりも高い。また、Nb−TiNi系合金Nb10Ti45Ni45、Nb30Ti35Ni35、Nb40Ti30Ni30、及びNb85Ti13Ni2も、電気抵抗測定により超伝導特性を示し、その臨界温度はNb−Ti合金よりも高い。Nb−TiNi系合金の中で共晶組成の臨界温度は11.2Kと最も低く、他の組成はほぼ13K程度であったことから、Nb−TiNi合金の臨界温度は共晶組成を除いてNb量に依存しない。
一方、共晶合金Nb20Ti40Ni40、Nb30Ti35Co35、Nb13Zr43Ni44、及びNb25Zr35Co40は、磁化測定により超伝導特性を示したが、その臨界温度はNb−Ti合金よりも低い。また、Nb−TiNi系合金Nb40Ti30Ni30、及びNb85Ti13Ni2も、磁化測定により超伝導特性を示したが、その臨界温度はNb−Ti合金よりも低い。Nb30Ti35Co35合金は、電気抵抗測定では超伝導転移を示さなかったが、磁化測定では7.4Kで超伝導転移した。
電気抵抗測定と磁化測定とで臨界温度が異なる原因としては、2つのことが考えられる。第一に、電気抵抗測定では試料の一部が超伝導状態に転移すればゼロ抵抗を示すが、磁化測定では試料全体の磁化を測定しており、試料の一部と全体とで超伝導転移する温度が違うことが考えられる。第二に、試料中にNi、Coという強磁性元素が添加されており、磁性元素は電子スピン間の強い相互作用によりクーパー対の形成を阻害したと考えられる。
SQUIDを用いて得られたNb40Ti30Ni30合金のM−T曲線より、Nb40Ti30Ni30合金について時効処理をしない場合に比べて、時効処理をした場合の臨界温度が高い。また、M−H曲線より、Nb40Ti30Ni30合金について時効処理をしない場合に比べて、時効処理をし
た場合の下部臨界磁場、及び上部臨界磁場が大きい。
た場合の下部臨界磁場、及び上部臨界磁場が大きい。
組織を観察した結果Nb40Ti30Ni30合金の時効材、溶体化材ともに初晶Nb(Ti)粒には多くの析出物が存在し、高密度に転位が分布している。析出物は、Ni3Ti相と同定され、サイズは時効処理前後で大きな変化がなく10〜25nm程度である。時効処理により臨界磁場が向上したのは初晶Nb(Ti)粒の析出物密度が増加したことが考えられる。析出物が磁性のある化合物である場合、磁束ピン止め点としてはNb−Ti合金のα−Ti粒よりもクーパー対の形成を阻害するため、Ni量の少ない析出物を形成させるような熱処理条件にするか合金中の強磁性元素の量を他元素の置換等により減少させることで、より高い臨界磁場を得ることができる。
また、本発明に係る合金超伝導体は、良好な延性を有し、複相組織であるため強度が高い。そのため線材加工が容易であり、応用範囲が広く様々な使用環境に適応させて利用することができる。
Claims (10)
- 体心立方格子構造を有する高融点金属の固溶体とB2型金属間化合物とを任意の割合で配合し、当該配合された配合物を溶解、鋳造し、超伝導相となる金属相と常伝導相となるB2相とが、層状で交互に配列する複相組織を形成することを特徴とする合金超伝導体生成方法。
- 請求項1に記載の合金超伝導体生成方法において、
前記高融点金属が第5属元素であることを特徴とする合金超伝導生成方法。 - 請求項2に記載の合金超伝導体生成方法において、
前記高融点金属がニオブ(Nb)であることを特徴とする合金超伝導生成方法。 - 請求項1ないし3のいずれかに記載の合金超伝導体生成方法において、
前記配合物を融点以下の温度における時効析出反応により鋳造し、前記金属相内に前記B2相がピンニングサイトとして析出されることを特徴とする合金超伝導体生成方法。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載の合金超伝導体生成方法において、
前記B2型金属化合物が、チタン(Ti)とニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)、又はジルコニウム(Zr)とコバルト(Co)からなるものであることを特徴とする合金超伝導体生成方法。 - 体心立方格子構造を有する高融点金属の固溶体とB2型金属間化合物との複相組織からなることを特徴とする合金超伝導体。
- 請求項6に記載の合金超伝導体において、
前記高融点金属が第5属元素であることを特徴とする合金超伝導体。 - 請求項7に記載の合金超伝導体において、
前記高融点金属がニオブ(Nb)であることを特徴とする合金超伝導体。 - 請求項6ないし8のいずれかに記載の合金超伝導体において、
融点以下の温度における時効析出反応により、前記金属相内に前記B2相がピンニングサイトとして析出されることを特徴とする合金超伝導体。 - 請求項6ないし9のいずれかに記載の合金超伝導体において、
前記B2型金属化合物が、チタン(Ti)とニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)、又はジルコニウム(Zr)とコバルト(Co)からなるものであることを特徴とする合金超伝導体。
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