JP2011200953A - 硬質被覆層がすぐれた耐剥離性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】工具基体の逃げ面及びすくい面の表面に、(a)Ti化合物層、(b)α型Al2O3層、(c)平板多角形状かつたて長形状の結晶粒組織構造を有するZr含有α型Al2O3層をそれぞれ順次に蒸着形成し、一方、切刃部には、上記(a)のTi化合物層及び上記(b)のα型Al2O3層を順次蒸着形成した表面被覆切削工具において、上記(b)は、(0001)面配向率の高いα型Al2O3層からなり、また、逃げ面およびすくい面の上記(c)は、(0001)面配向率が高く、かつ、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上のΣ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面により分断されている。
【選択図】図3
Description
(a)下部層は、Ti化合物層、
(b)上部層は、化学蒸着形成した状態でα型の結晶構造を有し、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すα型Al2O3層、
で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具(従来被覆工具1という)が知られており、この従来被覆工具1は、上部層の高温強度が優れることから、合金鋼、炭素鋼、鋳鉄等の高速断続切削ですぐれた耐チッピング性を示すことが知られている。
また、特許文献2に示すように、工具基体の表面に、
(a)下部層は、Ti化合物層、
(b)上部層は、平板多角形(平坦六角形状を含む)状かつたて長形状の結晶粒組織構造を有し、かつ、上部層の結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上のΣ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面により分断されているZr含有α型Al2O3層(以下、従来AlZrO層という)、
で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具(従来被覆工具2という)が知られており、この従来被覆工具2は、硬質被覆層の上部層が、すぐれた高温硬さ、高温強度、表面性状を備えることから、合金鋼、炭素鋼、鋳鉄等の高速重切削加工において、すぐれたチッピング性を発揮することが知られている。
例えば、特許文献3に示すように、硬質被覆層の下部層を構成するTiCN層について、すくい面におけるTiCN層の(422)面配向係数を、逃げ面におけるそれより大きくすることによって、すくい面における耐衝撃性を高めると同時に、逃げ面における耐摩耗性を高めた被覆工具(以下、従来被覆工具3という)も知られている。
このように、切刃部表面のみに前記中間層を露出形成した場合には、高硬度鋼の高速重断続切削において、切刃部に対して作用する断続的・衝撃的な負荷を低減し得るとともに、切刃部におけるチッピング、剥離の発生を抑制することができ、よって、長期の使用にわたり、切削性能の低下を招くことなく工具寿命の延命化を図り得ることを見出したのである。
なお、この発明でいうところのすくい面、逃げ面および切刃部とは、図5に示される概略模式図のとおりであるが、被覆工具のすくい面と逃げ面に接し、曲率を持った曲線で囲われる部分が切刃部である。ただ、すくい面と逃げ面とが直線的に交差し、曲線で囲われる部分が形成されない場合には、直線の交点から膜深さ方向で囲まれる部分(図5中の斜線領域)が切刃部となる。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の逃げ面およびすくい面には、
下部層として、
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、2〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
中間層として、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
上部層として、
(c)2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するZr含有酸化アルミニウム層、
上記(a)〜(c)からなる硬質被覆層が蒸着形成され、
一方、上記工具基体の切刃部には、上記(a)のTi化合物層および上記(b)の酸化アルミニウム層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
(d)上記逃げ面、すくい面および切刃部の上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、2〜8度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜8度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(e)また、上記逃げ面、すくい面に形成された上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(f)さらに、上記逃げ面、すくい面に形成された上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平板多角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒からなる組織構造を有するZr含有酸化アルミニウム層であり、
(g)さらに、上記逃げ面、すくい面に形成された上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、六方晶結晶格子からなる結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、逃げ面およびすくい面における上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層を構成する結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上のΣ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面により分断されているZr含有酸化アルミニウム層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 逃げ面およびすくい面における上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層を電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平坦六角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒が、層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める
前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
(3) 上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、12〜18度の範囲内の傾斜角区分にピークが存在し、その範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15%以上40%未満の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)Ti化合物層(下部層)
Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、化学蒸着によって形成することができ、基本的には中間層である改質α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた靭性及び耐摩耗性によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体と改質α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上にも寄与する作用を有するが、その合計平均層厚が2μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が15μmを越えると、特に断続的・衝撃的な高負荷が繰り返し作用する高速重断続切削条件では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を2〜15μmと定めた。
α型Al2O3層からなる中間層は、Ti化合物層からなる下部層上に、例えば、前記特許文献1に記載される化学蒸着条件、すなわち、
通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:0.5〜3%、C2H4:0.01〜0.3%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:3〜13kPa、
の条件で、下部層であるTi化合物層の表面にAl2O3核を形成し、この場合Al2O3核は20〜200nmの平均層厚を有するAl2O3核薄膜であるのが望ましく、核形成後、引き続いて、反応雰囲気を圧力:3〜13kPaの水素雰囲気に変え、反応雰囲気温度を1100〜1200℃に昇温した条件でAl2O3核薄膜に加熱処理を施した状態で、α型Al2O3層を蒸着することによって形成することができる。
そして、下部層の上に化学蒸着されたα型Al2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1a), (bに示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25
度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、図2aに例示される通り、傾斜角区分2〜8度の範囲内にシャープな最高ピークが現れる。
そして、α型Al2O3の傾斜角度度数分布グラフにおける測定傾斜角の最高ピーク位置は、所定層厚のAl2O3核(薄膜)形成後に加熱処理を施すことによって変化させることができ、それと同時に、傾斜角区分2〜8度の範囲内に存在する度数の合計が45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す((0001)面配向率)が高い)ようになるものであり、したがって、上記Al2O3核(薄膜)の層厚が小さい方に外れても、また大きい方に外れても、測定傾斜角の最高ピークは2〜8度の範囲から外れてしまうと共に、これに対応して傾斜角度数分布グラフにおける前記2〜8度の範囲内に存在する度数も度数全体の割合の45%未満となってしまい、すぐれた高温強度を確保することができない。
α型Al2O3層は、すぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度を有するが、α型Al2O3層を、(0001)面配向率の高い中間層として構成しておくことにより、逃げ面およびすくい面において、この上に蒸着形成されるZr含有酸化アルミニウム(以下、Zr含有Al2O3という)層の(0001)面配向率を高めることができ、その結果として、逃げ面およびすくい面におけるZr含有Al2O3層からなる上部層の表面性状の改善を図るとともに高温強度の向上を図ることができる。
ただ、α型Al2O3層からなる中間層の平均層厚が1μm未満ではα型Al2O3層の有する前記の特性を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方、その平均層厚が5μmを越えると、切削時に発生する高熱と切刃に作用する断続的かつ衝撃的高負荷によって、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚は1〜5μmと定めた。
この際、走査速度はレーザーの繰り返し周波数と走査方向(短軸長さ)の1/4〜1/3に対し、次の関係が成り立つ速度にて走査する。
走査速度[mm/sec]
=(1/3>走査方向径>1/4[μm])/(1/繰り返し周波数[Hz])
例えば、本発明被覆工具14では、レーザービームの断面強度は、ガウシアン分布して波長355nmとし、走査するレーザービームのピークパワー密度は、1.0MW/cm2とし、走査速度は1.25mm/secという条件でレーザー処理を行った。
中間層の上に化学蒸着されたZr含有Al2O3層からなる上部層は、その構成成分であるAl成分が、層の高温硬さおよび耐熱性を向上させ、また、層中に微量(Alとの合量に占める割合で、Zr/(Al+Zr)が0.002〜0.01(但し、原子比))含有されたZr成分が、改質AlZrO層の結晶粒界面強度を向上させ、高温強度の向上に寄与するが、Zr成分の含有割合が0.002未満では、上記作用を期待することはできず、一方、Zr成分の含有割合が0.01を超えた場合には、層中にZrO2粒子が析出することによって粒界面強度が低下するため、Al成分との合量に占めるZr成分の含有割合(Zr/(Al+Zr)の比の値)は0.002〜0.01(但し、原子比)であることが望ましい。
即ち、まず、
(イ)反応ガス組成(容量%):
AlCl3: 1〜5 %、
ZrCl4: 0.05〜0.1 %、
CO2: 2〜6 %、
HCl: 1〜5 %、
H2S: 0.25〜0.75 %、
H2:残り、
(ロ)反応雰囲気温度; 1020〜1050 ℃、
(ハ)反応雰囲気圧力; 3〜5 kPa、
の条件で第1段階の蒸着を約1時間行った後、
次に、
(イ)反応ガス組成(容量%):
AlCl3: 6〜10 %、
ZrCl4: 0.6〜1.2 %、
CO2: 4〜8 %、
HCl: 3〜5 %、
H2S: 0.25〜0.6 %、
H2:残り、
(ロ)反応雰囲気温度; 920〜1000 ℃、
(ハ)反応雰囲気圧力; 6〜10 kPa、
の条件で第2段階の蒸着を行うことによって、1〜15μmの平均層厚の蒸着層を成膜すると、Zr/(Al+Zr)の比の値が原子比で0.002〜0.01である改質AlZrO層を形成することができる。
即ち、Zr含有Al2O3層は、中間層であるα型Al2O3層の(0001)面配向率が45%以上のものとして形成されていることから、Zr含有Al2O3層も(0001)面配向率の高い層((0001)面配向率は60%以上)として形成される。
そして、上記上部層を層厚方向に平行な面内で見た場合、層表面はほぼ平坦な平板状に形成され、すぐれた表面性状を呈し、その結果として、すぐれた耐チッピング性を示す。
この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表すと、
図4に示すように、電界放出型走査電子顕微鏡で観察されるZr含有Al2O3層を構成する平板多角形たて長形状の結晶粒の内、上記平板多角形(平坦六角形を含む)たて長形状結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上の、Σ3対応界面で分断されていることがわかる。
そして、Zr含有Al2O3層の平板多角形(平坦六角形を含む)たて長形状結晶粒の内部に、上記のΣ3対応界面が存在することによって、結晶粒内強度の向上が図られ、その結果として、高負荷が作用する高硬度鋼の高速重断続切削加工時に、逃げ面及びすくい面のZr含有Al2O3層中にクラックが発生することが抑えられ、また、仮にクラックが発生したとしても、クラックの成長・伝播が妨げられ、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性の向上が図られる。
ただ、Zr含有Al2O3層からなる上部層の層厚が2μm未満では、上記上部層のすぐれた特性を十分に発揮することができず、一方、上部層の層厚が15μmを超えると偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生しやすくなり、また、チッピングも発生しやすくなることから、上部層の平均層厚を2〜15μmと定めた。
尚、集束イオンビーム加工は、走査イオン顕微鏡を用いて、集束イオンビームを切刃部に対して照射し、切刃の上部層をエッチング加工である。その際、イオンビーム種にはGaイオンを用い、加速電圧2kV〜40kV、ビーム電流5nA〜50nA、ビーム径750nm〜2.6μmの条件にて行った。
例えば、本発明被覆工具2では、加速電圧30kV、ビーム電流7nA、ビーム径750nmの条件にて集束イオンビーム加工を行った。
(a)まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表6に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(b)ついで、表4に示される条件でTi化合物層(下部層)上にAl2O3核薄膜を形成し、その後成膜を一時中断し、レーザー処理を施した後、加熱処理を施した状態で、表3に示される条件にて、表7、表8に示される目標層厚のα型Al2O3層からなる中間層を、切刃部、すくい面、逃げ面に蒸着形成し、
(c)次に、表5に示される蒸着条件により、同じく表7、表8に示される目標層厚のZr含有α型Al2O3層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成し、集束イオンビーム加工によって、切刃部の上部層をエッチングすることにより、切刃部最表面には逃げ面、すくい面において中間層として形成したα型Al2O3層を露出形成することにより本発明被覆工具1〜15をそれぞれ製造した。
なお、比較被覆工具1〜15の工具基体種別、下部層種別、下部層厚、中間層厚および上部層厚は、それぞれ、本発明被覆工具1〜15のそれと同じである。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15の各層について、それぞれの表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、傾斜角度数分布グラフ作成した。
傾斜角度数分布グラフの一例として、図2(a)に、本発明被覆工具3の切刃部の中間層を構成するα型Al2O3層の傾斜角度数分布グラフ、図2(b)に、本発明被覆工具15の切刃部の中間層を構成するα型Al2O3層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフを示す。
なお、この発明でいう“表面”とは、基体表面に平行な面ばかりでなく、基体表面に対して傾斜する面、例えば、層の切断面、をも含む。
表7、表8から明らかなように、本発明被覆工具1〜15のすくい面および逃げ面においては、傾斜角度数分布グラフにおける0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は、α型Al2O3層では45%以上、また、Zr含有α型Al2O3層では60%以上であるのに対して、本発明被覆工具1〜15の切刃部においては、傾斜角度数分布グラフにおける2〜8度と12〜18度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は、α型Al2O3層では、それぞれ45%以上、15%以上〜40%未満であった。
なお、表9に示すように、比較被覆工具1〜15では、切刃部、すくい面および逃げ面のいずれの面についても、傾斜角度数分布グラフにおける2〜8度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は、α型Al2O3層では45%以上、また、Zr含有α型Al2O3層では60%以上であった。
すなわち、まず、上記の本発明被覆工具1〜15および比較被覆工具1〜15の逃げ面のZr含有α型Al2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、本発明被覆工具1〜15では、図3(a)、(b)で代表的に示される平板多角形(平坦六角形を含む)状かつたて長形状の大きな粒径の結晶粒組織構造が観察された(なお、図3(a)は、層厚方向に垂直な面内で見た本発明被覆工具2の組織構造模式図、また、図3(c)は、層厚方向に垂直な面内で見た本発明被覆工具11の、平坦六角形状かつたて長形状の大きな粒径の結晶粒からなる組織構造模式図)。
また、比較被覆工具1〜15の切刃部についても、本発明の場合と同様な結晶粒組織構造が観察された。
まず、本発明被覆工具1〜15のすくい面、逃げ面の各面のZr含有α型Al2O3層について、その表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の各結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、Zr含有α型Al2O3層の測定範囲内に存在する全結晶粒のうちで、結晶粒の内部に、少なくとも一つ以上のΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積比率を求め、その値を、Σ3対応界面割合(%)として表7、表8に示した。
また、比較被覆工具1〜15についても、本発明被覆工具の場合と同様な方法により、Zr含有α型Al2O3層の測定範囲内に存在する全結晶粒のうちで、結晶粒の内部に、少なくとも一つ以上のΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積比率を求め、その値を、Σ3対応界面割合(%)として表9に示した。
Σ3対応界面割合は、測定範囲内(30×50μmに存在する各々の結晶粒を色彩識別することで、各々の結晶粒の面積を算出し、その中で、結晶粒の内部に、少なくとも一つ以上のΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積を全結晶粒の面積各結晶粒の総和で除することで算出し、前記算出法によって求めた5箇所の測定範囲の平均値をΣ3対応界面割合(%)として定義した。
また、比較被覆工具1〜15については、表9に示される通り、切刃部、すくい面および逃げ面のいずれの面についても、結晶粒の内部に少なくとも一つ以上のΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積比率は60%以上であった。
なお、ここで言う「大粒径の平坦六角形状」の結晶粒とは、
「電界放出型走査電子顕微鏡により観察される層厚方向に垂直な面内に存在する粒子の直径を計測し、10粒子の平均値が3〜8μmであり、頂点の角度が100〜140°である頂角を6個有する多角形状である。」
と定義する。
被削材:JIS・SUJ2(HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 3.5 mm、
送り: 0.17 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Aという)での軸受鋼の湿式高速高切り込み断続切削試験(通常の重断続切削における切削速度及び切込みは、それぞれ、150m/min、2.5mm)、
被削材:JIS・SKD11(HRC58)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 300 m/min.、
切り込み: 3.5 mm、
送り: 0.17 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Bという)での合金工具鋼の湿式高速高切り込み断続切削試験(通常の重断続切削における切削速度及び切込みは、それぞれ、200m/min、2.5mm)、
被削材:JIS・SK3(HRC61)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.35 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Cという)での炭素工具鋼の湿式高速高送り断続切削試験(通常の重断続切削における切削速度及び送りは、150m/min.、送りは0.25mm/rev.)、
を行い、いずれの切削試験でも逃げ面の硬質被覆層の摩耗量、剥離の有無を測定・観察した。
この測定結果を表10に示した。
これに対して、切刃部、すくい面および逃げ面のいずれの面も同様な硬質被覆層が形成された比較被覆工具1〜15については、合金工具鋼や軸受鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の高速重断続切削加工では、特に、切刃部の硬質被覆層のチッピング発生、欠損発生により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の逃げ面およびすくい面には、
下部層として、
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、2〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
中間層として、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
上部層として、
(c)2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するZr含有酸化アルミニウム層、
上記(a)〜(c)からなる硬質被覆層が蒸着形成され、
一方、上記工具基体の切刃部には、上記(a)のTi化合物層および上記(b)の酸化アルミニウム層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
(d)上記逃げ面、すくい面および切刃部の上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、2〜8度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜8度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(e)また、上記逃げ面、すくい面に形成された上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(f)さらに、上記逃げ面、すくい面に形成された上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平板多角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒からなる組織構造を有するZr含有酸化アルミニウム層であり、
(g)さらに、上記逃げ面、すくい面に形成された上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、六方晶結晶格子からなる結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、逃げ面およびすくい面における上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層を構成する結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上のΣ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面により分断されているZr含有酸化アルミニウム層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 逃げ面およびすくい面における上記(c)のZr含有酸化アルミニウム層を電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平坦六角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒が、層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 切刃部における上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、12〜18度の範囲内の傾斜角区分にピークが存在し、その範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15%以上40%未満の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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