JP2011184915A - 既設護岸の耐震補強工法 - Google Patents

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Abstract

【課題】既設護岸を好適に耐震補強することができて、施工に際して海、河川、湖沼等の環境を汚染することがないような耐震補強工法の提供を目的としている。
【解決手段】既設護岸(10)の岸壁法線(VH)近傍の領域(D)に薬液を注入する工程を行い、当該薬液は注入直後から粘度が増加してゲル化する性状を有しており、薬液注入の後、薬液が注入された領域(D)よりも陸地側(G)の領域を地盤改良する工程を行なう。
【選択図】図1

Description

本発明は耐震補強工法(或は耐震補強工事)に関し、特に、既に運用している既設護岸の耐震補強工事に好適に適用される工法に関する。
図8を参照して、護岸について説明する。
既設護岸10は、図8において、先ず、基礎部分に相当する領域に基礎捨石層16を配置し、その上部にケーソン18を設置している。
ケーソン18の内部には、例えば中詰め砂が充填されている。そして、ケーソン18の陸地側(矢印G側)の領域には裏込栗石22が設置されている。
図8において、符号14は、護岸に設けられた繋船用の柱である。
基礎捨石層12において、ケーソン18よりも海、河川、湖沼等S側の領域は、被覆石層24によって被覆する。なお、海、河川、湖沼等Sについては、包括的に「海S」と記載する場合がある。
ここで、基礎捨石は、50〜200kg/個のものが用いられており、被覆石層24を構成する栗石は、500〜1000kg/個のものが用いられている。
近年、地震の際の液浄化対策が重要視されるようになり、図8で示す既設護岸についても、耐震補強を施して、液状化を防止することが要請されている。
しかし、既設護岸において、陸地G側の埋立地BGを地盤改良して、液状化防止を図ったとしても、地盤改良に用いられる固化材(地盤改良材)は、通常、固化するまでに比較的長い時間(例えば、6時間程度)が必要である。
そして、埋立地BGに投入された固化材は固化する以前には流動性に飛んでいるので、裏込栗石22間の隙間、基礎捨石層16における基礎捨石間の隙間、被覆石24間の隙間を介して、海S中に流出してしまう恐れがある。
係る事態が生じると、海Sを汚染してしまう。
また、地盤改良用の固化材が海Sに流出するため、埋立地BGの地盤改良が不十分となり、地震の際に液状化を生じてしまう恐れがある。
さらに、固化材が海Sに流出する分だけ浪費されることとなり、不要なコストが増加してしまう。
その他の従来技術として、ケーソン下部の基礎石層にアスファルト混合物を打設して、硬化することにより、ケーソン下部の堆積層を不透水性にする技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、ケーソン下部が水没している状態において、アスファルト混合物を打設することは困難であり、また、アスファルト混合物の組成分が水中に溶出して、周囲の水を汚染してしまう恐れがある。
特開2009−85005号公報
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、既設護岸を好適に耐震補強することができて、施工に際して海、河川、湖沼等の環境を汚染することがないような耐震補強工法の提供を目的としている。
本発明の耐震補強工法は、既設護岸(10)の岸壁法線(VH)近傍の領域(D:ケーソン20近傍であって、陸地G側の領域)に薬液を注入する工程を行い、当該薬液は注入直後から粘度が増加してゲル化する性状を有しており、前記薬液は、別途供給された2種類の液体(例えば、セメントと水から成るセメント液と、当該セメント液を硬化するための硬化液)が薬液を注入するべき領域(D)に注入される際に混合すると粘度が増加してゲル化する性状を有しており(いわゆる「2液2ショット」タイプの注入薬液であり)、水セメント比(W/C:水の量をセメント量で除した数値)が81〜167%であり、減水剤(高分離抵抗性、早強性を有する混和剤:例えば、花王ケミカル株式会社製の商品名「マイティ21HP」)を4.04kg/m以下、軟凝集剤(炭酸水素ナトリウム或いは重炭酸ソーダ)を5〜30kg/m、第1の増粘剤(増粘剤−1:商品名「ビスコトップ200L」:花王株式会社製造)を0.8〜0.9重量%、第2の増粘剤(増粘剤−2:商品名「ビスコトップ100A」:花王株式会社製造)を第1の増粘剤の125〜100重量%、消泡剤(例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「DOW CORNING TORAY DK Q1−1183」)を第1の増粘剤の0.5重量%以下包含しており、第1の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩、アルキルアンモニウム塩で組成され、pH2〜3で、密度1.03〜1.09(g/m:20℃)であり、第2の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩で組成され、pH8〜10、密度1.078〜1.098(g/m:20℃)であり、薬液注入の後、薬液が注入された領域(D)よりも陸地側(矢印G側)の領域を地盤改良する工程を行なうことを特徴としている。
また、本発明の耐震補強工法は、本発明の耐震補強工法は、既設護岸(10)の岸壁法線(VH)近傍の領域(D:ケーソン20近傍であって、陸地G側の領域)に薬液を注入する工程を行い、当該薬液は注入直後から粘度が増加してゲル化する性状を有しており、前記薬液は、別途供給された2種類の液体(例えば、セメントと水から成るセメント液と、当該セメント液を硬化するための硬化液)が薬液を注入するべき領域(D)に注入される際に混合すると粘度が増加してゲル化する性状を有しており(いわゆる「2液2ショット」タイプの注入薬液であり)、水セメント比(W/C:水の量をセメント量で除した数値)が81〜167%であり、軟凝集剤(炭酸水素ナトリウム或いは重炭酸ソーダ)を5〜30kg/m、第1の増粘剤(増粘剤−1:商品名「ビスコトップ200L」:花王株式会社製造)を0.8〜0.9重量%、第2の増粘剤(増粘剤−2:商品名「ビスコトップ100A」:花王株式会社製造)を第1の増粘剤の125〜100重量%、消泡剤(例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「DOW CORNING TORAY DK Q1−1183」)を第1の増粘剤の0.5重量%以下包含しており、第1の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩、アルキルアンモニウム塩で組成され、pH2〜3で、密度1.03〜1.09(g/m:20℃)であり、第2の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩で組成され、pH8〜10、密度1.078〜1.098(g/m:20℃)であり、薬液注入の後、薬液が注入された領域(D)よりも陸地側(矢印G側)の領域を地盤改良する工程を行なうことを特徴としている。
上述する構成を具備する本発明によれば、ケーソン(18)直近の陸地側(矢印G)の領域(D)に薬液が注入されると、薬液注入工法が施工された領域の土壌が固化されて遮水性を発揮する。それと共に、注入された薬液が裏込栗石(22)と基礎捨石層(16)に浸入すると、当該注入薬液は、早期に増粘性を発揮してゲル化する。そのため、薬液を注入した際に、当該注入薬液が裏込栗石(22)間の隙間や、基礎捨石層(16)における基礎捨石(16)間の隙間から、被覆石層(24)の栗石間の隙間を介して、海、河川、湖沼等(S)側に流出してしまうことはない。
その後、薬液を注入された領域よりも陸地側(矢印G側)の領域(BG:埋立地)を地盤改良した際に、薬液が注入された領域(D)や裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16における基礎捨石16間の隙間は固化しているので、噴射された地盤改良材(固化材)が海(S)側に移動しようとしても、薬液注入領域(D)、裏込栗石22間の隙間、基礎捨石層16における基礎捨石16間の隙間により遮られる。そのため、被覆石層24の栗石間の隙間を介して、地盤改良用の固化材が海、河川、湖沼等(S)側に流出してしまうことが防止される。
その結果、海、河川、湖沼等(S)における水が、注入薬液や地盤改良材の漏出により汚染されてしまうことが防止される。
そのため、注入薬液は薬液を注入するべき領域(D)に留まり、当該領域(D)の強度及び遮水性が確保される。同様に、地盤改良材も改良するべき領域(GI)から移動しないので、造成される地中固結体の品質も保証される。
それと共に、注入薬液の浪費を防止して、注入工法におけるコストを低下することが出来る。同様に、領域(BG)における地盤改良におけるコストを節約することも出来る。
そして、薬液を注入された領域よりも陸地側(矢印G側)の領域(BG:埋立地)を地盤改良して、地中固結体を造成することにより、地震の際に当該領域(BG)が液状化することが防止され、以って、既設護岸の耐震補強が達成される。
本発明の実施形態により補強された護岸の概要を説明する説明断面図である。 実施形態における薬液注入の概要を説明する説明断面図である。 薬液を注入するために、ケーシングを用いて掘削孔を切削する工程を示す断面図である。 掘削孔内にスリーブ管を挿入する工程を示す断面図である。 スリーブ管挿入後、ケーシングを引き抜く工程を示す断面図である。 スリーブ管内に挿入された注入装置から薬液を注入する工程を示す断面図である。 垂直方向全域に注入装置から薬液を注入した状態を示す断面図である。 既設護岸の概要を説明するための断面図である。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1、図2を参照して、図示の実施形態に係る既設護岸の耐震補強工事について説明する。
図1は、図示の実施形態に係る耐震補強工事を適用した護岸を示している。
図1において、符号Sは海、河川、湖沼等を示している。ただし、包括的に「海S」と標記する場合がある。海Sにおいて、符号HWLは高水位を示しており、符号LWLは低水位を示している。
符号Gは護岸構造10よりも陸地側であって、強化された地盤を示している。
全体を符号10で示す既設護岸は、符号12で示す基礎部分が基礎捨石で充填されて、基礎捨石層16を構成している。ここで、基礎捨石層16における基礎捨石は、例えば、50〜200kg/個のものが用いられる。
基礎捨石層16の上部にはケーソン18が設置されている。ケーソン18の陸地G側(図1では右側)の領域には、裏込栗石22が配置されている。なお、ケーソン18内部には、例えば中詰め砂が充填されている。
図1において、符号14は繋船用柱を示している。また、符号VHは岸壁法線を示している。
基礎捨石層12のケーソン18よりも海S側の領域には、被覆石層24が被覆している。被覆石層24を構成する栗石は、例えば、500〜1000kg/個のものが用いられる。
この様な係る既設護岸10を耐震補強するために、図示の実施形態では、岸壁法線VH近傍の領域、より詳細には、ケーソン20近傍であって、陸地側(矢印G側)の領域Dにおいて、薬液注入工法を施工している。
図1においては、簡略化のために、薬液注入工法を施工した領域を符号Dで示す長方形で表現しており、薬液を注入するに当たって切削された掘削孔34を2本のみ示している。
領域Dで表現される薬液注入を実行するに際して、掘削孔34の間隔は、図1における左右方向(間隔δ)については、例えば1.0〜3.0mである。また、図1の紙面と垂直な方向における掘削孔34間の間隔(図1では図示せず)は、例えば1.0〜3.0mである。
領域Dに薬液を注入した後であって、陸地側の領域BGを地盤改良(後述)する前の状態は、図2で表現されている。
後述するように、図示の実施形態で用いられる注入薬液としては、いわゆる「2液2ショット」の注入薬液(別途供給された2種類の液体が、薬液を注入するべき領域で注入される際に混合されて、増粘するタイプの薬液)が好適である。
そして、図示の実施形態で用いられる注入薬液は、2種類の液体が混合されると、直ちに粘性を増加して、ゲル化する。
係る薬液注入工法を施工することにより、領域Dに2種類の薬液が注入されると、注入された土壌が固化して、遮水性を発揮する。
また、領域Dに薬液が注入されると、裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16を構成する基礎捨石間の隙間へ直ちに浸入する。
後述するように、図示の実施形態で用いられる注入薬液は、注入により2液が混合すると、直ちに増粘して、ゲル化するので、裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16を構成する基礎捨石間の隙間は、ゲル化した薬液で充填される。
その結果、裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16における基礎捨石16間の隙間から、被覆石層24の栗石間の隙間を介して、注入薬液が海S側に流出してしまうことが防止される。そして、海Sにおける水が、注入薬液の漏出により汚染されてしまうことが防止される。
さらに、注入薬液の浪費を防止して、注入工法におけるコストを低下することが出来る。
次に、領域Dに薬液が注入された後(図2の状態)、領域Dよりも陸地側(矢印G側)の領域BG(埋立地)を地盤改良して、地震の際に埋立地BGが液状化しない様に強化する。
図1において、地盤改良された領域(地中固結体)は、符号GIで示す長方形の領域として、簡略化して表現されている。
そして、薬液を注入された領域Dよりも陸地側(矢印G側)の領域BG(埋立地)を地盤改良して、地中固結体GIを造成することにより、地震の際に当該領域(BG)が液状化することが防止され、以って、既設護岸の耐震補強が達成される。
地盤改良の手法としては、図示の実施形態では、掘削孔Hを所定の間隔Δ(例えば、4.5m)で領域GIに切削し、掘削孔H内に噴射装置(モニタ)を有するロッド(図示せず)を挿入し、噴射装置から固化材(地盤改良材)の噴流を噴射して、領域GIの原位置土を切削しつつ、固化材と原位置土とを攪拌、混合し、以って、地中固結体を造成する工法が用いられている。
ただし、領域GIの地盤改良は、係る工法に限定されるものではない。
ここで、図8で示す既設護岸の矢印G側の埋立地BGに、上述した様な地盤改良を施した場合には、噴射された固化材は固化するまで6時間程度が必要となる性状なので、裏込栗石22間の隙間、基礎捨石層16を構成する基礎捨石間の隙間、被覆石24の隙間を経由して、海S中に流出する恐れがある。
しかし、図示の実施形態に係る耐震補強工法を施工した図1で示す護岸であれば、上述した様に、領域Dには既に薬液注入工法が施工されており、注入薬液は直ちに増粘して、ゲル化して、領域Dを固化すると共に、裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16を構成する基礎捨石間の隙間を充填している。
そのため、陸地(或いは埋立地)Gを地盤改良した際に、噴射された固化材は、領域Dにより海S側に移動することが遮られる。また、裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16における基礎捨石16間の隙間から、被覆石層24の栗石間の隙間を介して、海S側に流出してしまうことが防止され、固化材の流出により海Sが汚染されてしまうことは防止される。
そして、地盤改良材は改良するべき領域GIに留まり、そこから海S側に移動することはないので、領域GIで造成される地中固結体の品質も保証される。
さらに、地盤改良材の浪費を防止して、領域Gにおける地盤改良におけるコストを節約することも出来る。
図3〜図7を参照して、図2で示す被覆石層への薬液注入について、工程毎に詳細に示す。
図示の実施形態では、係る注入については、スリーブ管(スリーブパイプ)を用いて行なわれる。係るスリーブ管は、薬液を注入するために、中空管の外周に複数の注入口を形成し、該注入口を弾性体製のスリーブで被覆した部材である。
なお、図3〜図7において、裏込栗石22や基礎捨石層16を構成する基礎捨石の表示は省略する。
注入に際しては、先ず、図3で示すように、陸地側(矢印G側)の領域に設置した掘削機30(例えば、クローラー式のロータリーパーカッション)を用いて、ケーシング32により掘削孔34を切削する。
ここで、掘削機30は、公知、市販のものが使用される。その意味で、図3においては、掘削機30の詳細な図示は省略し、簡略化して表現している。
図4において矢印Iで示すように、ケーシング32の内部にスリーブ管40を挿入する。
スリーブ管40としては、公知の市販品が使用可能である。上述した様に、スリーブ管40は中空管で構成されており、その外周を中心軸方向(図4では垂直方向)に等間隔で、弾性体製のスリーブ42が設けられている。そして、弾性体製のスリーブ42は、図示しない注入口を被覆している。
スリーブ管40をケーシング32或いは掘削孔34内に挿入したならば、図5において矢印Oで示すように、ケーシング32から掘削孔34を引き抜く。
ケーシング32の引き抜きに際しては、掘削孔34内が閉塞していないことを確認しつつ、ケーシング32を上方(図5では、矢印O方向)に引っ張ることが好ましい。
ケーシング30を掘削孔34から引き抜いたならば、図6で示すように、スリーブ管40内に、注入ホース50を挿入する。
注入ホース50の先端(図6では下端)には、垂直方向に間隔を空けて配置された2個のパッカ52、52を有する注入装置(ダブルパッカタイプのモニタ)54が設けられている。
図6では明示されていないが、注入ホース50には、薬液注入用の流路と、パッカ52、52を膨張・収縮する流体が流れる流路が設けられている。
また、図示の実施形態では、いわゆる「2液2ショット」の注入薬液を試用するため、注入ホース50における注入薬液用の流路は、2ラインのホースによって構成されているのが好ましい。
図6で示すように、パッカ52、52を膨張して、多重管50先端のモニタ54から薬液Cを噴射すると、パッカ52、52間の領域から、スリーブ42で被覆された注入口より、薬液が流出する。
流出した薬液は、周辺土壌や、裏込栗石22、基礎捨石層16内(図1参照)に浸入する。
ここで、パッカ52が膨張しているので、薬液Cがパッカ52を越えて、(パッカ52、52間の領域以外の)スリーブ管40の内部空間に浸入してしまうことはない。
周辺土壌、裏込栗石22、基礎捨石層16内に十分な量の薬液Cを注入したならば、パッカ52を収縮する。そして、注入装置54を所定距離だけ上昇して、再びパッカ52を膨張して、薬液Cを注入する(いわゆる「ステップ・アップ」)。そして、上方の領域内に、順次、薬液Cを注入する。
図7で示すように、最上方の領域における注入を完了したならば、陸地Gにおける所定の間隔を隔てた領域で、図3〜図7で示す工程を繰り返す。
ここで、図3〜図7で示す何れかの工程を、陸地Gの複数箇所で同時に施工することも可能である。
また、図6、図7における上方の領域から薬液注入を開始して、周辺土壌、裏込栗石22、基礎捨石層16内に所定量の薬液Cを注入したならば、注入装置54を下方に移動して下方の領域に薬液Cを注入する(いわゆる「ステップ・ダウン」を行なう)ことも可能である。
次に、図1〜図7で示す注入工法で使用される注入薬液、換言すれば、注入後、直ちに増粘してゲル化する注入薬液について、説明する。
係る注入薬液としては、流動性が強くはなく、注入された領域から無制限に移動してしまうことが内容に、換言すれば、薬液を注入するべき領域に限定して留まることが出来るような性質が必要である。
換言すれば、図示の実施形態で用いられる注入薬液は、上述した通り、注入後、増粘して、ゲル化した状態で、注入された領域に限定して留まる性状であることが必要とされる。
ただし、ゲル化した状態の注入薬液は、遮水性を発揮できれば足り、注入された領域に留まるための強度(剥離強度その他の各種強度)については、さほど大きな数値は要求されない。
また、注入するべき領域へ2種類の薬液が別途供給され、当該2種類の薬液が注入するべき領域で混合された後に、増粘するタイプ(いわゆる「2液2ショット」の薬液)であり、増粘した後には、水中不分離性があり、水中に溶出して水質汚濁してしまうことがない薬液を選択するべきである。
図示の実施形態で使用される注入薬液は、別途供給された2種類の薬液が、事前に混合されること無く、注入装置から薬液を注入するべき領域に注入されるまでは別個に搬送され、注入される時点で混合されて、増粘するタイプの薬液(いわゆる「2液2ショット」の薬液)である。
当該2種類の薬液は、例えば、普通セメントと水とから成るセメント液と、係るセメント液を硬化するための硬化液により構成される。
図示の実施形態で使用される注入薬液について、発明者等が行なった実験結果を参照しつつ、説明する。
[実験例1]
発明者の実験によれば、セメント液及び硬化液について、下表1〜3で示す注入薬液であれば、実施形態に関して上述した条件を充足した。
表1
Figure 2011184915
表2
Figure 2011184915
表3
Figure 2011184915
上述した通り、普通セメントと水とから成るセメント液と、係るセメント液を硬化するための硬化液の2種類の液体から成っている。
表1は、係る2種類の液体を混合した場合の組成(1mにおける量:量については、表1の下段のパラメータ参照)を示している。
表1において、「W/P」なるパラメータは、2液に分配した際の水/セメント比であり、表1〜表3で示す薬液では、通常の水/セメント比(W/C)と同じ数値である。
ここで、表1〜表3で示す薬液では、軟凝集材としては、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ソーダ)を用いた。
増粘剤としては2種類を同時使用している。表1、表2では、「増粘剤−1」、「増粘剤−2」と表記して、2種類の増粘剤を用いたことを示している。
増粘剤−1(第1の増粘剤)としては、アルキルアリルスルフォン酸塩、アルキルアンモニウム塩で組成され、pH2〜3、密度1.03〜1.09(g/m:20℃)の増粘剤(商品名「ビスコトップ200L」:花王株式会社製造)を用いている。
そして、増粘剤−2(第2の増粘剤)としては、アルキルアリルスルフォン酸塩で組成され、pH8〜10、密度1.078〜1.098(g/m:20℃)の増粘剤(商品名「ビスコトップ100A」:花王株式会社製造)を用いている。
消泡剤としては、製造元「東レ・ダウコーニング株式会社」の商品名「DOW CORNING TORAY DK Q1−1183」を用いた。
表2は、表1で示す組成の薬液、すなわちセメント液と硬化液を混合した薬液の、1mにおける組成分を、重量(kg)と容積(リットル)で示している。
表2で示すように、普通セメントと軟凝集材は粉末であり、増粘剤−1、増粘剤−2、消泡剤は水溶液である。
表3は、セメント液と硬化液の各々における組成を、容積(リットル)、容積量比率、水/セメント比(W/P)で示している。
ここで、増粘剤−1、増粘剤−2、消泡剤は水溶液であるため、硬化液の水に包含されている。
表3から明らかな様に、セメント液における水の量(508リットル)は、混合した薬液における合計水量(831リットル)の61.1%(セメント液の水比率)である。
実験によれば、表1〜表3で示す注入薬液(セメント液と硬化液)を混合した直後に水中に投入しても、溶解することなく、ゲル状となって水底に堆積した。その後、ゲル状の注入薬液は水中に溶出することはなく、水質を汚濁することもなかった。
このことから、仮に薬液注入領域D(図1、図2参照)が大量の湧水が発生する個所であっても、表1〜表3で示す注入薬液(セメント液と硬化液)は直ちにゲル化して、裏込栗石22間の隙間や、基礎捨石層16を構成する基礎捨石間の隙間を充填することが明らかになった。
そして、表1〜表3で示す注入薬液は、増粘してゲル化した後には、水中不分離性があり、水中に溶出して水質汚濁してしまうことがないことも明らかとなった。
[実験例2]
また、発明者は、セメント液及び硬化液について、下表4〜6で示す注入薬液であれば、実施形態に関して上述した条件を充足することを、実験により確認した。
表4
Figure 2011184915
表5
Figure 2011184915
表6
Figure 2011184915
ここで、表4、表5、表6における「W/P」、軟凝集材、「増粘剤−1」、「増粘剤−2」、消泡剤については、[実験例1]で説明したのと同様である。
減水剤としては、高分離抵抗性、早強性を有する混和剤(例えば、商品名「マイティ21HP」、花王株式会社製造)を用いている。
表4〜表6で示す注入薬液(セメント液と硬化液)についても、混合した直後に水中に投入しても、溶解することなく、ゲル状となって水底に堆積した。その後、ゲル状の注入薬液は水中に溶出することはなく、水質を汚濁することもなかった。
[実験例3]
表1で示す組成の注入薬液において、「W/C」を167%よりも大きい数値にして、その他の組成は表1と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
係る薬液は、水中に投入後、直ちに溶解して、ゲル状とならなかった。その結果、溶解した注入薬液により、水質が汚濁してしまった。
[実験例4]
表4で示す組成の注入薬液において、「W/C」を81%未満にして、その他の組成は表4と同一にとなる注入薬液を製造した。
発明者の実験では、係る注入薬液は流動性が低くなり過ぎて高粘性となるため、薬液注入工には不適切であることが判明した。
実験例3、実験例4から、注入薬液の「W/C」は81〜167%の範囲内とするべきことが分かった。
[実験例5]
表1で示す組成の注入薬液において、1m当たりの軟凝集剤を5kgよりも少なくして、その他の組成は表1と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
係る薬液は、水中に投入した後、ゲル化するまでの時間(いわゆる「ゲル化時間」)が長くなり過ぎてしまうことが判明した。
[実験例6]
1m当たりの軟凝集剤を30kgよりも多くして、その他の組成は表1と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
係る薬液は、軟凝集剤投入の効果が発現しなかった。軟凝集剤の効果が発現するのは普通セメント量の5%以内とされており、注入薬液1m当たりの軟凝集剤が30kgよりも多いと、係る範囲を超えてしまうことに起因すると思われる。
実験例5、実験例6から、軟凝集材の添加量は、5〜30kg/mの範囲とするべきことが判明した。
[実験例7]
表1で示す組成の注入薬液において、増粘剤−2の量(増粘剤−1に対する混入率)を100重量%よりも少なくして、その他の組成は表1と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
係る薬液は、水中に投入した際に、ゲル状となるのが遅く、その結果、ゲル化しなかった注入薬液が水中に溶解して、水質が汚濁してしまった。
[実験例8]
表4で示す組成の注入薬液において、増粘剤−2の量(増粘剤−1に対する混入率)を125重量%よりも多くして、その他の組成は表4と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
投入した後、短時間でゲル化したが、その後、水中で分離し、溶出して水質汚濁してしまった。
実験例7、実験例8から、増粘剤−2の量(増粘剤−1に対する混入率)は、100重量%〜125重量%にするべきことが判明した。
[実験例9]
表1で示す組成の注入薬液において、増粘剤−1の量(水に対する混入率)を0.90重量%よりも多くして、その他の組成は表1と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
投入した後、短時間でゲル化したが、その後、水中で分離し、溶出して水質汚濁してしまった。
[実験例10]
表4で示す組成の注入薬液において、増粘剤−1の量(水に対する混入率)を0.80重量%よりも少なくして、その他の組成は表4と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
係る薬液は、水中に投入した際にゲル状となるのが遅く、その結果、ゲル化しなかった注入薬液が水中に溶解して、水質が汚濁してしまった。
実験例9、実験例10から、増粘剤−1の量(水に対する混入率)は0.80重量%〜0.90重量%にするべきことが判明した。
[実験例11]
表1で示す組成の注入薬液において、消泡剤の量(増粘剤−1に対する混入率)を0.5重量%よりも多くして、その他の組成は表1と同一に調整した注入薬液について、混合した直後に水中に投入した。
係る薬液は、水中に投入した後、ゲル化しなかった。
実験例11から、消泡剤の組成は、増粘剤−1に対して0.5重量%以下とするべきことが分かった。
[実験例12]
減水剤の量を4.04kg/mよりも多くして、その他の組成は表4と同一に調整した注入薬液を調整したが、係る注入薬液は流動性が低く、薬液注入工に用いるのは不適切であることが判明した。
すなわち、実験例12から、減水剤の量を4.04kg/m以下にするべきことが分った。
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
例えば、図示の実施形態では、スリーブ管とダブルパッカー方式の注入装置を用いて被覆石層24に薬液を注入したが、それ以外の注入技術によって、被覆石層24に薬液を注入することが可能である。
また、注入薬液についても、表1〜表3で示すものや、表4〜表6で示すものに限定する必要はない。
S・・・海、河川、湖沼
G・・・陸地
BG・・・埋立地(地盤改良が施工される領域)
D・・・薬液注入領域
GI・・・地盤改良領域(地中固結体)
H・・・地盤改良用の掘削孔
δ・・・薬液注入用の掘削孔の間隔
Δ・・・地盤改良用の掘削孔の間隔
VH・・・岸壁法線
10・・・既設護岸
12・・・基礎部分
14・・・繋船用柱
16・・・基礎捨石層
18・・・ケーソン
22・・・裏込栗石
24・・・被覆石層
30・・・掘削機
32・・・ケーシング
34・・・薬液注入用の掘削孔
36・・・グラウトホース
40・・・スリーブ管
42・・・弾性体製スリーブ
50・・・多重管
52、52・・・パッカ

Claims (2)

  1. 既設護岸の岸壁法線近傍の領域に薬液を注入する工程を行い、当該薬液は注入直後から粘度が増加してゲル化する性状を有しており、前記薬液は、別途供給された2種類の液体が薬液を注入するべき領域に注入される際に混合すると粘度が増加してゲル化する性状を有しており、水セメント比が81〜167%であり、減水剤を4.04kg/m以下、軟凝集剤を5〜30kg/m、第1の増粘剤を0.8〜0.9重量%、第2の増粘剤を第1の増粘剤の125〜100重量%、消泡剤を第1の増粘剤の0.5重量%以下包含しており、第1の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩、アルキルアンモニウム塩で組成され、pH2〜3で、密度1.03〜1.09(g/m:20℃)であり、第2の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩で組成され、pH8〜10、密度1.078〜1.098(g/m:20℃)であり、薬液注入の後、薬液が注入された領域よりも陸地側の領域を地盤改良する工程を行なうことを特徴とする耐震補強工法。
  2. 既設護岸の岸壁法線近傍の領域に薬液を注入する工程を行い、当該薬液は注入直後から粘度が増加してゲル化する性状を有しており、前記薬液は、別途供給された2種類の液体が薬液を注入するべき領域に注入される際に混合すると粘度が増加してゲル化する性状を有しており、水セメント比が81〜167%であり、軟凝集剤を20.2kg/m、第1の増粘剤を0.8〜0.9重量%、第2の増粘剤を第1の増粘剤の125〜100重量%、消泡剤を第1の増粘剤の0.5重量%以下包含しており、第1の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩、アルキルアンモニウム塩で組成され、pH2〜3で、密度1.03〜1.09(g/m:20℃)であり、第2の増粘剤はアルキルアリルスルフォン酸塩で組成され、pH8〜10、密度1.078〜1.098(g/m:20℃)であり、薬液注入の後、薬液が注入された領域よりも陸地側の領域を地盤改良する工程を行なうことを特徴とする耐震補強工法。
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