JP2011168819A - オーステナイト系ステンレス鋼、その製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高温水に接触する環境、または中性子照射の環境で、高温強度を維持しながら、耐粒界腐食性および耐粒界応力腐食割れ発生性を同時に向上させたオーステナイト系ステンレス鋼、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】75%以上の低ΣCSL粒界頻度、40〜80μmの平均粒径を有するオーステナイト系ステンレス鋼である。この材料は、元材である材料を圧延率2〜5%の圧延率で冷間圧延した後、1200〜1500Kの温度で、1〜60分の熱処理を施すことによって製造することができる。
【選択図】 なし
【解決手段】75%以上の低ΣCSL粒界頻度、40〜80μmの平均粒径を有するオーステナイト系ステンレス鋼である。この材料は、元材である材料を圧延率2〜5%の圧延率で冷間圧延した後、1200〜1500Kの温度で、1〜60分の熱処理を施すことによって製造することができる。
【選択図】 なし
Description
本発明は、原子力発電所および化学プラント等に適用される耐食性に優れ、特に、250℃以上の高温水中または中性子照射の環境下で使用されるオーステナイト系ステンレス鋼、およびその製造方法に関する。
オーステナイト系ステンレス鋼は、機械的性質および耐食性に優れた材料であり、一般構造用から原子力機器用まで幅広く使用されている。しかし、過酷な腐食環境下では応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking、以下、SCCと称する)を生じることが知られている。特に、結晶粒界に沿って進展するSCCを粒界型応力腐食割れ(IGSCC)と呼び、溶接熱影響部等で発生する。熔接熱影響部は、通常600〜700℃の温度に加熱される。この温度範囲で、材料の中のCが、固溶解限を超えてしまうため、Crと結合し、Cr23C6として粒界において析出する。このようなCr炭化物付近のCr濃度の低下、いわゆる粒界付近のCr欠乏は、粒界の耐食性低下さらに粒界腐食割れの発生の原因とされている。
粒界工学の発展とともに、結晶方位および粒界性格分布を制御し、より高性能化・高機能化した材料の開発が可能になっている。特に、対応粒界(Coincidence Site Lattice粒界、以下CSL粒界と称する)の低エネルギーの粒界構造を利用した粒界性格制御に関する研究が注目されている。CSL粒界とは、結晶粒界を挟んだ隣接した結晶同士の片方を結晶軸の周りに回転したときに、格子点の一部が隣の結晶粒の格子点に位置して、両結晶に共通する副格子を構成するような粒界をいう。この際、回転軸と回転角度によって原点以外にも周期的に重なる格子点が形成される。これを対応格子点とよぶ。もとの結晶格子の単位胞体積とここで形成される対応格子の単位胞体積との比をΣ(シグマ)値とよぶ。従来の研究データにより、CSL粒界以外の粒界(以下ランダム粒界と称す)と比べ、粒界エネルギーが低いかつ格子構造が比較的に安定である低ΣCSL粒界(シグマ値が29以下の対応粒界)は、Crが欠乏しくいと認識されており、応力腐食割れが生じにくいとされている。
以上の理論に基づき、材料の耐粒界腐食性を改善するために、加工熱処理過程で発生する焼鈍双晶を利用して、低ΣCSL粒界頻度を向上させる技術の研究開発が最近盛んである。その中で、低ΣCSL粒界頻度を向上させることによって材料の耐粒界腐食性を改善するという材料プロセスがいくつか提案されている(特許文献1,2,3)。
特許文献1では、304系,316系および347系のステンレス鋼において、2〜30%の圧延率(圧延率とは、パーセンテージ又はフラクションで表される、元の断面積に対する試料断面積の減少量の比である)を導入した後、1113Kから1173K未満の温度で熱処理を行うことにより、結晶方位差角15°以上でかつΣ値29以下である低ΣCSL粒界頻度を65%以上にすることができると主張しているが、70%以上の高頻度を達成するために、数十時間という長時間の熱処理を要し、多大なコストがかかる。また、特許文献1では、結晶平均粒径を200μm以内抑えることができたと述べられている。加工熱処理による結晶粗大化が生じるため、原子力材料として使われる場合は、高温強度の低下に懸念がある。特に、平均粒径が母材十倍近くまで成長すると、たとえ平均粒径を200μm以内に抑えても、Hall−Petch法則により、強度の低減は無視できない。したがって、加工熱処理により、低ΣCSL粒界頻度を高めることの一方で、結晶粗大化の抑制は課題となっている。
特許文献2では、75%以上の低ΣCSL粒界頻度を有するオーステナイト系ステンレス鋼の権利化を請求している一方で、実施例ではSUS304の一鋼種のみの結果しかない。JIS規格で決められたオーステナイト系ステンレス鋼は、その化学成分、特にNiとCrが広い範囲に規定されている。従来の研究により、化学成分の違いによる材料の積層欠陥エネルギーの差異が、粒界遷移、即ち低ΣCSL粒界の成長に影響するため、SUS304だけに成功した加工熱処理条件が、すべてのオーステナイト系ステンレス鋼に適用できると断言するのは、妥当ではないと考えられる。さらに、特許文献2では、2〜15%の圧延率を導入した後、75%以上の高い低ΣCSL粒界頻度に達成するために、1173Kから1273K未満の温度で5時間以上の熱処理を実施し、長い工程時間が要される。
特許文献3では、Crを含む鉄基又はニッケル基面心立方合金において、圧延率5%〜30%を導入した後、1173K〜1325Kの温度で2分〜10分の熱処理を施すことにより、30μm以下の平均粒径、かつ60%以上の低ΣCSL粒界頻度が達成される旨述べられている。その実施例によると、低ΣCSL粒界頻度は最大77.1%に達しているが、必要な圧延率が達成されるまで冷間圧延と熱処理のプロセスを数回繰り返さなければならないために、実際の所要合計時間およびコストは低くはない。
また、粒界工学を用いて、低ΣCSL粒界以外の観点から耐SCC性を改善させる手法もいくつか提案された(特許文献4,5)。例えば、特許文献4では、熱間鍛造または熱間圧延において、30%以上の圧延率を材料に導入にした後、熱処理を実施することにより、低ΣCSL粒界の中で、粒界エネルギーが最も低い双晶粒界(Σ3粒界)を30%以上に高め、耐SCC性に優れるステンレス鋼の権利化を主張している。しかし、特許文献4の実施例によると、30%以上の高圧延率を材料に導入するために、複数回に熱間鍛造または熱間圧延の工程が必要であり、コストやエネルギーの消耗は低くない。また、特許文献4の明細書の図1,図2を見ると、双晶粒界を30%以上高めることだけで、せいぜい腐食減量を15%程度低減させることができた。30%という閾値は、耐SCC効果上の意味が不十分だと考えられる。さらに、特許文献4の実施例の結果を示す表3を見ると、30%以上の双晶頻度を請求しているが、実際に実現できたのは、どれも50%未満である。
特許文献5では、従来CSL粒界に比べて耐SCC性が低いとされていたランダム粒界のうち、結晶粒界における方位差が大きいランダム粒界は逆に耐SCC性に優れることを主張し、方位差50°以上のランダム粒界が20%以上となるようなステンレス鋼の加工熱処理方法を提供している。しかし、特許文献5には、耐SCC性に関して、CSL粒界と方位差50°以上のランダム粒界との比較が記載されていない。また、60%以上の高圧延率あるいは加工度が必要となり、機械加工段階で高いエネルギーが必要とされる。
特許文献1で提案された加工熱処理方法では、高頻度の低ΣCSL粒界頻度を達成するために、数十時間という長時間の熱処理を要し、多大なコストがかかる。さらに、粒界粗大化による強度の低減に懸念がある。
特許文献2で提案された加工熱処理方法は、SUS304に適用できるが、高Ni高Crのオーステナイト系ステンレス鋼への適用性には、疑問がある。さらに、1173Kから1273K未満の温度で5時間以上の長い熱処理時間が要される。
特許文献3で提案された加工熱処理方法では、30μm以下の平均粒径、かつ高低ΣCSL粒界頻度を達成するために、冷間圧延および熱処理のプロセスを数回繰り返さなければならないために、実際の所要合計時間およびコストは低くはない。
特許文献4で提案された加工熱処理方法では、双晶粒界頻度がせいぜい50%程度までしか上昇できない。実際の腐食減量は、わずか15%程度改善できて、耐SCC性効果が薄い。
特許文献5で提案された加工熱処理方法では、60%以上の高圧延率あるいは加工度が必要となり、機械加工段階で高いエネルギーが必要とされる。
このように、従来の粒界性格制御技術は、いずれも高圧延率、または長時間の熱処理時間が必要であり、省エネルギー面においては、好ましくない。また、耐SCC性を得るための低ΣCSL粒界頻度の向上とともに、結晶の粗大化が必ず発生する。前述の通りに、Hall−Petch則により、平均粒径が数μm以上の場合、平均粒径の粗大化とともに強度が低下する。特に、原子力プラントや化学プラントのような過酷な環境条件で、材料強度の低減は、非常に不利な面になるため、設計上の許容範囲が狭くなり、実機への適用性がかえって低下してしまう。したがって、耐粒界腐食性および強度の両立はかねてから課題になっている。
そこで、本発明の目的は、高温水中または中性子照射の使用環境へ適用可能で、耐粒界腐食性の向上と高温強度を両立させたオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、75%以上の低シグマ対応粒界頻度を有し、平均粒径が40〜80μmであることを特徴とする。
本発明によれば、高温水中または中性子照射の使用環境へ適用可能で、耐粒界腐食性の向上と高温強度を両立させたオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供することができる。
本発明者らは、低ΣCSL粒界頻度、および結晶平均粒径等を制御することにより、小粒径の材料で、耐粒界腐食性の向上および高温強度の改善を実現することによって上記課題を解決できることを見出し、発明を完成した。また、設備の軽量化と省エネルギーのニーズも考慮しつつ、材料の製造プロセスの条件を検討した結果、低圧延率かつ、短時間の熱処理を施すことにより、75%以上の低ΣCSL対応粒界頻度かつ40〜80μmの結晶平均粒径を有するオーステナイト系ステンレス鋼が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明の材料は、実験で確認された本発明材の諸特性から、高温水中あるいは中性子照射環境下での適用が見込まれる。
本発明によれば、粒界性格制御に伴う平均粒径粗大化を抑えながら、低ΣCSL粒界頻度を高めることによって、粒界腐食割れの密度を従来材の4分の1以下に低下させ、耐SCC発生性および耐SCC進展性を同時に改善する効果が見込まれる。同時に、平均粒径が母材のおよそ2倍以内に抑えることにより、結晶粒粗大化を抑制でき、高温強度の低下を防ぐことができる。
また、元材である鋼材を2〜5%という低い圧延率で冷間圧延し、所定の高温度で従来技術より比較的に短時間の熱処理を施すことにより、耐粒界腐食性の向上と高温強度の両立を達成することができる。このようなステンレス鋼は、原子力発電所、又は化学プラントなどの高温水中または中性子照射の環境で使用される構造材料,原子炉部材,原子力プラント用配管,原子炉炉心機器に好適に用いることができる。
以下、本発明を、化学成分,微視的構造,機械特性,製造方法および実用性に区分して詳細に説明する。
1.化学成分
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、Feを主体とする面心立方晶からなる多結晶金属材料から構成されるものである。材料の組成は、質量%として、C:0.001〜0.030%,Ni:8〜30%,Cr:15〜30%を含むことが好ましい。その他、必要に応じて、Mn,Mo,Si等の元素を含んでも良く、それらの合計量は材料中7質量%以下とすることが好ましい。
C:0.001〜0.030%
Cは、強度を得るために有効な元素である。一方、含有量が0.030%を超えると、溶接熱影響部の粒界に炭化物が生成しやすく、耐SCC性が低下する恐れがある。したがって、Cの含有量は0.001%以上,0.030%以下とする。
Ni:12〜30%
Niは、鋼の耐食性を維持するために必要な元素である。また、オーステナイトの安定化元素として、12%以上の含有量が必要である。一方、その含有量が30%を超えると、熱間加工性が著しく悪化する。したがって、Niの含有量は12%〜30%とする。
Cr:15〜30%
Crは、鋼の耐食性を維持するために必要な元素である。粒界上のCr偏析を緩和させ、耐食性を確保するために、その含有量を15%以上とする必要がある。一方、その含有量が30%を超えると、材料が脆化しやすくなり、熱間加工性が著しく悪化する。したがって、Crの含有量は15%〜30%とする。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、Feを主体とする面心立方晶からなる多結晶金属材料から構成されるものである。材料の組成は、質量%として、C:0.001〜0.030%,Ni:8〜30%,Cr:15〜30%を含むことが好ましい。その他、必要に応じて、Mn,Mo,Si等の元素を含んでも良く、それらの合計量は材料中7質量%以下とすることが好ましい。
C:0.001〜0.030%
Cは、強度を得るために有効な元素である。一方、含有量が0.030%を超えると、溶接熱影響部の粒界に炭化物が生成しやすく、耐SCC性が低下する恐れがある。したがって、Cの含有量は0.001%以上,0.030%以下とする。
Ni:12〜30%
Niは、鋼の耐食性を維持するために必要な元素である。また、オーステナイトの安定化元素として、12%以上の含有量が必要である。一方、その含有量が30%を超えると、熱間加工性が著しく悪化する。したがって、Niの含有量は12%〜30%とする。
Cr:15〜30%
Crは、鋼の耐食性を維持するために必要な元素である。粒界上のCr偏析を緩和させ、耐食性を確保するために、その含有量を15%以上とする必要がある。一方、その含有量が30%を超えると、材料が脆化しやすくなり、熱間加工性が著しく悪化する。したがって、Crの含有量は15%〜30%とする。
2.微視的構造
2.1 低ΣCSL粒界頻度
2.1.1 耐粒界腐食割れ性の向上
粒界性格制御を行われていない一般なオーステナイト系ステンレス鋼の低ΣCSL粒界頻度は約60%以下である。パーコレーション理論により、ランダム粒界が完全に分断されるときの低ΣCSL粒界頻度の閾値が計算されている。拘束モデルによって、その閾値は50〜75%の範囲に変動するが、低ΣCSL粒界頻度が75%以上になるとランダム粒界が完全に分断されると検討されている。つまり、低ΣCSL粒界頻度が75%を越えると、たとえあるランダム粒界で粒界割れが発生しても、き裂が他所のランダム粒界まで伝達しなくなる。したがって、低ΣCSL粒界頻度が75%以上になると、ランダム粒界で起きやすい粒界腐食を抑制する効果が期待できる。
2.1 低ΣCSL粒界頻度
2.1.1 耐粒界腐食割れ性の向上
粒界性格制御を行われていない一般なオーステナイト系ステンレス鋼の低ΣCSL粒界頻度は約60%以下である。パーコレーション理論により、ランダム粒界が完全に分断されるときの低ΣCSL粒界頻度の閾値が計算されている。拘束モデルによって、その閾値は50〜75%の範囲に変動するが、低ΣCSL粒界頻度が75%以上になるとランダム粒界が完全に分断されると検討されている。つまり、低ΣCSL粒界頻度が75%を越えると、たとえあるランダム粒界で粒界割れが発生しても、き裂が他所のランダム粒界まで伝達しなくなる。したがって、低ΣCSL粒界頻度が75%以上になると、ランダム粒界で起きやすい粒界腐食を抑制する効果が期待できる。
本発明者らは、低ΣCSL粒界頻度を向上させることによるランダム粒界の分断効果および耐粒界腐食性を検証するために、75%以上の低ΣCSL粒界頻度を達成したオーステナイト系ステンレス鋼の粒界性格制御材(以下:制御材)と同材の粒界性格制御を行われていない非制御材(以下:非制御材)を用いて、Coriou試験を実施し、耐粒界腐食性の相違を比較した。低ΣCSL粒界頻度は75.5%、非制御材の低ΣCSL粒界頻度は60.6%である。Coriou試験条件は、沸騰した5NHNO3−8g/L Cr6+溶液の中に3時間浸漬した。Coriou試験前後、制御材および非制御材の試験片の質量を計測した。試験後、試験片断面において、単位長さ当りの粒界腐食本数を計測した。
その結果、腐食速度を表すパラメータ単位面積での減質量少量は、制御材(1.2mg/cm2)が非制御材(1.6mg/cm2)の75%まで低減した。また、き裂数密度は、制御材(11/cm2)が非制御材(42/cm2)の25%まで低減した。
図1には、Coriou試験後の表面光学顕微鏡写真を示す。非制御材において全面にネットワーク状の粒界腐食が現れており、脱粒も観察された。それに対して、ランダム粒界が低ΣCSL粒界に分断されるため、制御材の粒界腐食は比較的少なく、粒界腐食が途中で止まった箇所が多数観察され、脱粒が生じなかった。
また、本発明者らは、制御材と非制御材においてHuey試験を実施した。Huey試験条件は、沸騰した65%硝酸溶液の中に48時間浸漬することと、溶液を新しいものと取り換えて、5回繰り返し、各回の腐食量、つまり単位面積あたり重量減少を求めた。
図2には、Huey試験で腐食量の変化を示す。図中、前2回の合計96時間後は、非制御材と制御材の質量の低下量は同じであるが、3回目以降は、毎回の腐食量は、非制御材より制御材が小さかった。5回目の264時間後、制御材の単位面積あたり腐食量は、約非制御材の57%であり、より優れた耐粒界腐食性を持つことが確認された。
以上のように、低ΣCSL粒界頻度を75%以上に向上させることによって、粒界腐食の起点であるランダム粒界のネットワークを有効に分断させ、顕著な耐粒界腐食性が確認された。つまり、結晶粒界性格を制御することにより、粒界腐食に対する抵抗性を向上させることができる。
2.1.2 耐IGSCC性の向上
IGSCC発生のメカニズムは、まだ完全に解明されていないが、照射偏析による粒界におけるCr欠乏に起因する粒界耐食性の劣化が、IGSCCに至る主な原因と認識されている。
IGSCC発生のメカニズムは、まだ完全に解明されていないが、照射偏析による粒界におけるCr欠乏に起因する粒界耐食性の劣化が、IGSCCに至る主な原因と認識されている。
本発明者らは、低ΣCSL粒界頻度を向上させることによる粒界上のCr欠乏の抑制効果を検証するために、沸騰型軽水炉の炉内温度に近い300℃の照射温度でCrの粒界中性子照射を模擬するFe3+イオン照射試験を実施した。照射量は5dpaであった。
図3には、Fe3+イオン照射試験後、Σ3粒界およびランダム粒界近傍のCr濃度変化を示す。両者を比較すると、材料の全体のCr含有量16.43%に対して、ランダム粒界ではCr濃度が11.68%まで低下したが、Σ3粒界ではCr濃度が若干ばらついているが、約16.50%であり、顕著なCr偏析が見られていない。Σ3粒界がランダム粒界に比べより優れる照射誘起Cr偏析抑制効果を有することが確認できた。本発明材の低ΣCSL粒界頻度の約90%がΣ3粒界であることが確認されている。
図4には、本発明材および(特許文献3)に開示されている材料のΣ3粒界頻度を比較した。同等な低ΣCSL粒界頻度で、本発明材のΣ3粒界は、(特許文献3)材料の約1.5倍であり、材料全体の照射誘起Cr粒界偏析抑制効果の向上が期待される。したがって、本発明材が原子炉などの中性子照射下でも良い耐IGSCC性を保つと示唆される。
このような粒界性格制御材料を、原子力発電プラント,化学プラント等の、粒界に起因する腐食が問題となるプラント部位に適用することにより、健全性劣化を抑制し、従来材を用いた場合に比べてプラントを長寿命化することができる。上記実験で検証した試験片についての低ΣCSL粒界頻度およびパーコレーション理論を考慮して、耐粒界腐食性効果を果たすために、本発明材の低ΣCSL粒界頻度の閾値を75%とする。
2.2 結晶平均粒径
一般的に、熱処理より結晶粒の粗大化が生じるとされている。平均粒径の粗大化に伴う粒界体積の低下は、粒界にて発生する粒界腐食割れに対して軽減効果をもたらし得る。また、不純物や熱処理に伴う析出物は、主に粒界に蓄積し、粒界の強度を低減させる。化学成分の濃度が一定の場合には、粒界体積の低下により、それらの不純物や析出物の蓄積量を抑制でき、粒界の強度の低下を防ぐことができる。したがって、平均粒径の粗大化は粒界腐食割れおよび析出物による粒界の強度の低減に抑制効果があると考えられる。40μm以上の結晶平均粒径は、元材料の20μmに比べて約2倍の値であり、これによって元材料よりも優れた粒界腐食割れの抑制効果が得られると考えられる。ただし、元の平均粒径の4倍以上になると、粒界よりやわらかいマトリクスの体積が急に増えるため、逆に材料の強度を低下させる場合がある。したがって、本発明のステンレス鋼における加工熱処理後の結晶平均粒径は40〜80μmとすることが好ましい。
一般的に、熱処理より結晶粒の粗大化が生じるとされている。平均粒径の粗大化に伴う粒界体積の低下は、粒界にて発生する粒界腐食割れに対して軽減効果をもたらし得る。また、不純物や熱処理に伴う析出物は、主に粒界に蓄積し、粒界の強度を低減させる。化学成分の濃度が一定の場合には、粒界体積の低下により、それらの不純物や析出物の蓄積量を抑制でき、粒界の強度の低下を防ぐことができる。したがって、平均粒径の粗大化は粒界腐食割れおよび析出物による粒界の強度の低減に抑制効果があると考えられる。40μm以上の結晶平均粒径は、元材料の20μmに比べて約2倍の値であり、これによって元材料よりも優れた粒界腐食割れの抑制効果が得られると考えられる。ただし、元の平均粒径の4倍以上になると、粒界よりやわらかいマトリクスの体積が急に増えるため、逆に材料の強度を低下させる場合がある。したがって、本発明のステンレス鋼における加工熱処理後の結晶平均粒径は40〜80μmとすることが好ましい。
本発明者らは、平均粒径粗大化が高温引張強度におよぼす影響を検討するために、沸騰型軽水炉(BWR:Boiling Water Reactor)の炉内温度に近い302℃で制御材において静的引張試験を実施した。
図5には、それらの制御材試験片の平均粒径と0.2%耐力の関係を示す。平均粒径が40〜80μmの範囲で、0.2%耐力がほぼ一定であるが、平均粒径が80μm以上になると0.2%耐力が明らかに低下している。したがって、高温強度を保つために、本発明材料の平均粒径を40〜80μmにした。
3.製造方法
3.1 圧延率
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の材料において、75%以上の低ΣCSL粒界頻度、および40〜80μmの結晶平均粒径を得るための手法として、固溶化熱処理後、元材である板材を2〜5%の圧延率で室温にて冷間圧延し、再結晶温度以上、例えば1200〜1500Kでの熱処理温度でアニーリングすることを特徴とする。
3.1 圧延率
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の材料において、75%以上の低ΣCSL粒界頻度、および40〜80μmの結晶平均粒径を得るための手法として、固溶化熱処理後、元材である板材を2〜5%の圧延率で室温にて冷間圧延し、再結晶温度以上、例えば1200〜1500Kでの熱処理温度でアニーリングすることを特徴とする。
本発明者らは、表1に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼において、圧延率1%,2%,3%,4%,5%,6%で、冷間圧延を行った後、熱処理温度1300〜1500Kで熱処理を行った。
図6には、それらの試験片の低ΣCSL粒界頻度を示す。圧延率2〜5%の試験片では、75%以上の低ΣCSL粒界頻度が得られたが、圧延率が2%未満では、熱処理時の粒界移動が活性化されず、低ΣCSL粒界頻度の顕著な増加が見られない。また、圧延率が5%以上になると、熱処理により再結晶化が促進され、大幅な低ΣCSL粒界頻度の増加は抑制されることが推測される。以上の理由により、本発明の製造方法においては2%〜5%の圧延率が最適な圧延率範囲となる。
3.2 熱処理温度と時間
本発明者らは、表1に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼について4%の圧延率で冷間圧延を行い、熱処理時間60分として、熱処理温度1150K,1260K,1450K,1550Kでそれぞれ熱処理を行った。
本発明者らは、表1に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼について4%の圧延率で冷間圧延を行い、熱処理時間60分として、熱処理温度1150K,1260K,1450K,1550Kでそれぞれ熱処理を行った。
それらの低ΣCSL粒界頻度および平均粒径を図7に示す。熱処理温度1200K以上の場合は、75%以上の低ΣCSL粒界頻度達成できたが、1200K未満になると、更なる熱処理時間を要し、短時間で低ΣCSL粒界頻度を向上させるのは困難であった。また、1500K以上の場合は、高い温度で結晶粒成長しやすくなり、平均粒径を80μm以下に抑えるのは困難である。したがって、熱処理温度は1200〜1500Kが最適である。
また、熱処理温度は1分以下であると、結晶粒成長が不十分のため、低ΣCSL粒界頻度の顕著な向上が得られない。熱処理温度は60分以上であると、低ΣCSL粒界頻度がほぼ飽和になるが、持続加熱のため結晶粒がさらに粗大化になっていくため、材料強度が低下してしまう。そのために、75%以上の低ΣCSL粒界頻度かつ40〜80μmの平均粒径を達成するための最も効率よい熱処理時間は、1〜60分以内である。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
表1に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼について、2%,3%,4%および5%の圧延率で室温にて冷間圧延を行った後、それぞれ1200〜1500Kの熱処理温度で1〜60分間のアニーリングを行った。その後、水冷を実施した。
表1に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼について、2%,3%,4%および5%の圧延率で室温にて冷間圧延を行った後、それぞれ1200〜1500Kの熱処理温度で1〜60分間のアニーリングを行った。その後、水冷を実施した。
それらの試験片の粒界性格解析結果を表2に示す。9本の試験片とも低ΣCSL粒界頻度75%以上、かつ平均粒径40〜80μmを達成した。
(実施例2)
表3に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼について、3%および5%の圧延率で室温にて冷間圧延を行った後、それぞれ1350Kの熱処理温度で30分間のアニーリングを行った。その後、水冷を実施した。
表3に示す化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼について、3%および5%の圧延率で室温にて冷間圧延を行った後、それぞれ1350Kの熱処理温度で30分間のアニーリングを行った。その後、水冷を実施した。
それらの試験片の粒界性格解析結果を、表4に示す。2本の試験片とも低ΣCSL粒界頻度75%以上、かつ平均粒径40〜80μmを達成した。
(実施例3)
75%以上の対応粒界頻度かつ40〜80μmの平均粒径が得られる本発明の加工条件で加工を行った、表1に示す化学成分を有する薄板をシース材として用いて、図8に示す沸騰水型原子炉の炉心シュラウドの作製が見込まれる。
75%以上の対応粒界頻度かつ40〜80μmの平均粒径が得られる本発明の加工条件で加工を行った、表1に示す化学成分を有する薄板をシース材として用いて、図8に示す沸騰水型原子炉の炉心シュラウドの作製が見込まれる。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、高温強度を維持しながら耐粒界腐食性および耐IGSCC性を有し、高温水に接触する環境または中性子照射環境である原子力発電所および化学プラントなどの高温腐食環境下で使用される構造部材,原子炉部材,原子力プラント用配管,原子炉炉心機器に好適である。
Claims (9)
- 75%以上の低シグマ対応粒界頻度を有し、平均粒径が40〜80μmであることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1において、質量%で、C:0.001〜0.030%、Ni:8〜30%、Cr:15〜30%を含むことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1または2において、250℃以上の高温水に接触する環境で使用されることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項3において、前記250℃以上の水中で、さらに、中性子照射の環境で使用されることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼を含むことを特徴とする原子炉部材。
- 元材を2〜5%の圧延率で冷間圧延した後、再結晶温度以上で熱処理を施すことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
- 請求項6において、前記熱処理の温度が、1200K〜1500Kであることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
- 請求項6または7において、前記熱処理の時間が、1〜60分であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
- 請求項6〜8のいずれかに記載の方法で製造されたオーステナイト系ステンレス鋼を含むことを特徴とする原子炉部材。
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