JP2014080664A - 高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】オーステナイト系ステンレス鋼は、Cが0.03〜0.04重量%、Mnが1.0〜2.0重量%、Niが9.0〜13.0重量%、Crが17.0〜20.0重量%、TaがCの13倍以上でかつ0.50〜0.65重量%で、残部がFe及び不可避不純物からなり、結晶粒度番号が4.0以上、添加したTaのうち30%以上がTaCとして析出している。0.1MeV以上のエネルギーをもつ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射される原子炉炉内構造物に、上記のオーステナイト系ステンレス鋼を適用する。
【選択図】図12
Description
特許文献2と同様に炭素を安定化して耐食性を向上させる規格材料として、Type 321、Type 347、Type 348がある。Type 321はTiを、Type 347、348はNb+Taを添加している。
本発明は、Cが0.03〜0.04重量%、Mnが1.0〜2.0重量%、Niが9.0〜13.0重量%、Crが17.0〜20.0重量%、TaがCの13倍以上でかつ0.50〜0.65重量%で、残部がFe及び不可避の不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼であり、添加したTaのうち30%以上がTaCとして析出していることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼である。
材料構成元素の平均原子半径に比べ、Taの原子半径が大きいことから、Taが材料中に固溶している場合、照射によって生成された原子空孔を捕獲し、格子間原子との再結合確率を上昇させ、照射損傷を抑制することができる。また、原子空孔が拡散により結晶粒界へ流入する場合、粒界近傍のCr原子が粒界から離れる方向に拡散し、粒界近傍でのCr濃度がマトリックスのCr濃度より低下する、いわゆるCr欠乏を生じるが、Taが原子空孔を捕獲する場合は、原子空孔の粒界への拡散が抑制され、粒界Cr欠乏が抑制されることになる。一方、TaがTaCとして存在する場合も、TaCとマトリックスの界面が原子空孔の消滅サイトとなるため、Taが固溶した場合と同様に、粒界Cr欠乏を抑制することができる。
このようにTaの存在は、単独で固溶している場合も、TaCとして存在する場合でも、照射誘起による粒界Cr欠乏を抑制することができ、照射誘起応力腐食割れの抑制に効果があると考えられる。ただし、Cが必要以上にマトリックス中に存在する場合、溶接熱を受けた場所では、粒界上にCr炭化物を形成してCr欠乏を生じる、いわゆる熱鋭敏化を生じ、応力腐食割れ感受性が高まる。そのため、固溶しているC濃度を低減するために、TaCを形成する必要がある。
そこで、材料中に存在するC濃度に対して所定量以上のTaCを析出させ、Cを安定化することにより、照射誘起による粒界Cr偏析と熱による粒界Cr偏析のいずれも抑制でき、応力腐食割れ感受性を低減することができる。炉内を構成する材料として、100℃での引張強度が470MPa以上であることが好ましいため、それを達成するためには、0.03重量%のCが必要であるがC量が多すぎると熱鋭敏化するため、上限を0.04重量%とした。
また、TaはC量の13倍かつ0.5重量%以上が必要で、溶接性などの特性劣化を鑑み、上限を0.65重量%とした。また、TaがCを安定化した場合、全Ta量のうち30%以上がTaCとして析出していると、耐応力腐食割れ性、強度ともに良好な特性となる。なお、TaCとして析出しているTa量の評価は、定電流電解法により採取した電解抽出残渣を定量分析することにより測定できる。
このような材料組織は、材料の板厚により条件の調整が必要ではあるが、1,050〜1,150℃で1〜60分の溶体化熱処理および850〜950℃で0.5〜6時間の時効処理を施したことにより得ることができる。上述の化学成分の材料に、上述の所定の熱処理を施し、上述の材料組織を得ることにより、材料として必要な100℃で470MPa以上の引張強度を得ることができ、さらに、電気化学的再活性化率を30%以下として、熱鋭敏化を抑制することができる。
上述の材料は、0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射される環境で使用される場合、照射損傷を抑制し、照射誘起応力腐食割れを抑制することができる。特に、沸騰水型原子炉炉心で使用される制御棒を構成するタイロッド、シース、ハンドルに適用することにより、照射誘起応力腐食割れを発生する可能性を低減し、制御棒の交換サイクルを長期化できるとともに、健全性、信頼性を向上することができる。
また、上述の材料は、制御棒だけでなく、炉内を構成し、かつ0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射される機器あるいは構造物に適用することにより、原子炉ひいては原子力プラントの信頼性を向上させ、長寿命化することができる。
まず、表1に示す化学組成をもつ材料を真空溶解で作製した。
・・・・(1)
各材料で測定した再活性化率の平均値を図1に示す。JIS G 0580では、再活性化率が31%未満を非鋭敏化、31%以上156%未満を軽微な鋭敏化、156%以上を鋭敏化の状態と定義している。材料No.6は、溶体化熱処理+鋭敏化熱処理で鋭敏化、溶体化熱処理+安定化熱処理+鋭敏化熱処理で軽微な鋭敏化の状態にあり、熱鋭敏化する材料と考えられ、高温高圧水中で応力腐食割れを発生する可能性が高い。材料No.1〜3は、溶体化熱処理+鋭敏化熱処理では軽微な鋭敏化の領域にあるが、安定化熱処理を施した場合は非鋭敏化状態にすることができた。また、材料No.4、5、7は、溶体化熱処理+鋭敏化熱処理、溶体化熱処理+安定化熱処理+鋭敏化熱処理ともに非鋭敏化状態であった。この結果から、材料No.1〜5および7は熱鋭敏化に対して良好な特性を持ち、その中でもNo.3、4、7が優れた特性を有した。
次に、再活性化率とTa/C比の相関を確認するために、図1に示した再活性化率の平均値とTa/C比の関係を図2に示す。この図から、Ta/C比が高い方が再活性化率を低減できる傾向にあり、Ta/C比が13以上であれば、熱鋭敏化に対して良好な特性を持ち、特に安定化熱処理を施した場合はさらに優れた特性を示した。
本発明は、原子炉炉内で使用される構造物を対象としている。一部の材料では高い強度が必要なものもあることから、少なくとも100℃の引張強度として470MPaが必要である。そこで、それぞれの材料の溶体化熱処理材および溶体化熱処理+安定化熱処理材を、JIS G 0567に従い100℃で引張試験を実施したときの、引張強度データを図3に示す。
なお、引張試験の繰り返し数は2とし、図3にはその平均値を示した。要求される100℃での引張強度は470MPa以上である。この結果、溶体化熱処理材では、材料No.4、6、7は要求強度を満たすことができた。また、No.1および3は要求強度を満たした。一方、No.2および5は要求強度を満足することができなかった。また、安定化熱処理まで施した場合、溶体化熱処理材に比べ強度が向上する傾向を示した。このことから、安定加熱処理によりTaCを分散析出させることにより、さらに高強度化が可能である。
図3に示した100℃の引張強度とC含有量の相関を図4に示す。溶体化熱処理材、溶体化熱処理+安定化熱処理材ともにC量増加に伴い強度が向上している。ここで、溶体化熱処理材では、0.03重量%以上のCを含有すると470MPaを満たすことができた。一方、溶体化熱処理+安定化熱処理材では、0.02重量%以上のC量で470MPaを満たすことができた。
なお、強度を満たすためには、加工により高強度化を図ることも可能であるが、強加工を受けた場合、応力腐食割れ感受性が上昇するため好ましくない。そこで、結晶粒微細化による高強度化について検討した。材料No.1に40%の冷間圧延を加えた後、1050℃で10分あるいは1時間の熱処理を施した後、水冷した材料と、1100℃で1時間の熱処理後、水冷した材料の計3種について結晶粒度と100℃での引張特性を測定した。
その結果を図5に示す。その結果、結晶粒度が大きくなるに従い強度が高くなることが確認された。ここで、結晶粒度が4.0以上であれば要求される470MPaを超えることがわかる。このことから、本開発の材料は、結晶粒度が4.0以上であることが好ましい。
次に、高温高圧水中でのすき間腐食特性を評価した。材料No.1、2、4、7、10の材料からそれぞれ10×50×1.5tの試験片を4枚採取し、表面を耐水研磨紙で600番まで仕上げた。
同材の試験片同士1を図6に示すように向かい合わせ、スポット溶接2で接合した。これにより、2枚の試験片間にすき間を形成した。それぞれの材料において、スポット溶接試験片を2個ずつ作製した。それらを288℃、溶存酸素濃度8ppm、導電率1.0〜1.2μS/cm2、γ線線量率20kGy/hの環境で1000時間の浸漬試験を実施した。浸漬試験後、試験片長手方向に平行に試験片中央で切断し、その断面の腐食状態を観察した。
それぞれの試験片での最大粒界腐食深さを図7に示す。いずれの材料とも試験片4個について腐食状態を観察した。その結果、No.10のSUS316Lは、試験片すべてで腐食が発生し、最大粒界腐食深さは100μmを超えた。No.1、2、4は4個の試験片のうち2個に粒界腐食が発生したが、その最大深さは、それぞれ27μm、35μm、15μmであった。No.7はいずれの試験片も粒界腐食が認められず、良好な耐すき間腐食性を有すると考えられる。
さらに、高温高圧水中での応力腐食割れ感受性を評価した。試験法として、Creviced Bent Beam(CBB)試験を採用した。材料No.1、2、4、7、10の材料からそれぞれ10×50×2tの試験片を7枚採取し、表面を耐水研磨紙で600番まで仕上げた。これらを半径100mmの円弧状の局面をもつ治具にグラファイトウールとともにセットし、1%の定ひずみを付与したすき間付試験片とした。治具にセットした試験片を、288℃、溶存酸素濃度8ppm、導電率1.0μS/cm2、で500時間の浸漬試験を実施した。浸漬試験後、試験片を治具から取り外して、試験片長手方向に平行に試験片中央で切断し、その断面上で割れ発生状態を観察し、割れた試験片の数と最大割れ深さを評価した。その結果を表2に示す。
次に、TaCの析出状態について調査を行った。ここでは、材料No.1を使用した。この材料に40%の冷間圧延を施した後、1050℃、1100℃、1150℃でそれぞれ30分の熱処理と水冷により、溶体化熱処理を施した。溶体化後、安定化熱処理、鋭敏化熱処理、安定化熱処理+鋭敏化熱処理のそれぞれを施した。また、溶体化ままの材料も準備した。ここで、安定化熱処理条件は、900℃、2時間、空冷とした。また、鋭敏化熱処理は、650℃、2時間、空冷とした。まず、これらの材料の析出物中に含まれるTa量を調査した。それぞれの熱処理を施した材料から、10×50×10mmtの試験片を採取した。それを定電流電解法で電解した後、0.2μmのフィルターで残渣を採取し、発光分光分析(ICP)法でTa濃度を分析した。
析出物中のTa量と各種熱処理条件の関係を図8に示す。この図から、1050℃の溶体化ではTaが一部TaCとして析出しているが、1100℃、1150℃の溶体化ではほとんどのTaが材料中に固溶していると考えられる。安定化熱処理を施すと材料中のTaがTaCを形成して析出するため、析出物中のTa濃度が上昇する。鋭敏化熱処理では析出物中のTa濃度にほとんど変化せず、鋭敏化熱処理はCr炭化物を形成させるのみで、TaCの形成はないと考えられる。
図9に材料中に含まれるTaのうち析出物を形成したTaの割合を示す。溶体化ままおよび溶体化+鋭敏化では、1050℃溶体化で10〜20%がTaCを析出していたが、1100℃、1150℃溶体化ではほとんど析出していなかった。一方、溶体化熱処理後、安定化熱処理を施すと、溶体化温度により違いがあるものの、30%以上がTaCとして析出していた。ただし、最大でも60%弱が析出していた。このような熱処理を施した材料の鋭敏化状態を評価するために、JIS G 0580に従い再活性化率を測定した。
その結果を図10に示す。この結果から、溶体化後、鋭敏化熱処理を施すといずれの試験片とも軽微な鋭敏化状態となることがわかる。一方、溶体化後、安定化熱処理を施すと、溶体化温度の上昇に伴い再活性化率が増加するが、いずれの溶体化温度でも非鋭敏化状態であった。この再活性化率の試験結果は、析出したTaの割合と相関関係が認められ、安定化熱処理によりTaCを析出させることにより、熱鋭敏化を抑制できることがわかる。安定化熱処理を施してTaCを析出させると、熱鋭敏化を抑制できるとともに、図3、図4で示したように析出強化による強度の向上を図ることができる。そこで、安定化熱処理を施した材料のTaCの析出物数密度を溶体化熱処理材と比較した。析出物の観察は、以下の要領で行った。まず、鏡面研磨した試験片表面を軽くエッチングした後、カーボン蒸着して析出物をカーボン膜に固定化する。その後、母材を溶出させ、析出物が固定化されたカーボン膜を剥離させる。析出物が固定化されたカーボン膜を十分に洗浄、乾燥させ、析出物観察用の試験片とする。この試験片を電解放出型(FE)のSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察する。このようにして、析出物の状態を、特に寸法と数密度に着目して調査を行った。ここで、カーボン膜上の析出物は、試験片のある面上に存在する析出物を観察していることになる。析出物数密度の計測は、偏りがないようにFE-STEMで倍率5万倍で50視野観察し、10nm以上の析出物について評価した。
その結果を図11に示す。この結果、溶体化材については、1050℃溶体化ではある程度の数密度でTaC析出物が認められたが、1100℃、1150℃溶体化材ではほとんど認められず、数密度も極めて小さかった。一方、溶体化+安定化熱処理材は、溶体化温度が高い方が、析出物数密度が上昇する傾向が見られた。溶体化+安定化熱処理材は、熱鋭敏化しないことが図10でも示されていること、および安定化熱処理により強度の向上が見込めることから、TaC析出物の数密度は1×1012m-2以上が好ましいと考えられる。
図12は中性子吸収材にボロン・カーバイドを使用した制御棒を示す。この制御棒は、主にタイロッド10、ハンドル9、コネクター7、シース6、中性子吸収棒5を有し、これらにはいずれもオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。
制御棒はすき間を有すため、すき間腐食の可能性があり、かつ照射誘起応力腐食割れを発生する可能性もある。そこで、耐すき間腐食性、耐応力腐食割れ性に優れ、かつ照射損傷抑制にも効果があると考えられる本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を使用することにより、制御棒のすき間腐食および照射誘起応力腐食割れを抑制し、長寿命かつ信頼性の高い制御棒とすることができる。また、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、棒、薄板、管など様々な形状の部材として製造可能であるので、ボロン・カーバイドを使用する制御棒だけでなく、ハフニウムを中性子吸収材に使用した制御棒にも適用できる。
原子炉炉内で従来から使用されているオーステナイト系ステンレス鋼は、0.1MeV以上のエネルギーを持つ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射されると照射誘起応力腐食割れを発生する可能性がある。そこで、制御棒に限らず、原子炉炉内構造物および機器、たとえば沸騰水型原子炉の炉心シュラウド、上部格子板、炉心支持板など、加圧水型原子炉のバッフル板、フォーマ板、バッフル・フォーマ・ボルトなどに、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を使用することにより、長期信頼性に優れる原子炉および原子力発電プラントとすることができる。
2:スポット溶接
3:ローラー
4:冷却孔
5:中性子吸収棒
6:シース
7:コネクター
8:コネクター・ソケット
9:ハンドル
10:タイロッド
Claims (7)
- Cが0.03〜0.04重量%、Mnが1.0〜2.0重量%、Niが9.0〜13.0重量%、Crが17.0〜20.0重量%、TaがCの13倍以上で0.50〜0.65重量%であり、残部がFe及び不可避不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼において、
Taのうち30%以上がTaCとして析出していることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。 - 請求項1において、ステンレス鋼断面において析出したTaC粒子のうち、平均粒径が10nm以上の粒子の平均数密度が1.0×1012個/m2以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1において、1050〜1150℃で1〜60分の溶体化熱処理と、850〜950℃で0.5〜6時間の時効処理を施して得られることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1において、結晶粒度番号が4.0以上であり、100℃での引張強度が470MPa以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1において、電気化学的再活性化率が30%以下であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼で構成され、0.1MeV以上のエネルギーをもつ中性子が0.5×1021n/cm2以上照射されることを特徴とする原子炉内構造物。
- 請求項6において、原子炉内構造物が制御棒であることを特徴とする原子炉内構造物。
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