JP2011150230A - 無端ベルト、定着装置及び画像形成装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】無端ベルトである定着ベルト61は、円筒状であって、内周側から、基材となる金属層61aと、金属層61aの外側に積層された離型層61cとを備えている。基材となる金属層61aは、非晶質のニッケル合金の層を少なくとも1層有している。
【選択図】図5
Description
特許文献2には、少なくとも、離形層と、ニッケルを有する金属層とを有する略円筒形の定着ベルトであって、該金属層の離型層側の硬度が離型層の反対側より低くするため、前記金属層の離型層側の結晶配向比I(200)/I(100)を前記金属層の離型層と反対側の結晶配向比I(200)/I(100)にくらべ大きくした定着ベルトが記載されている。
特許文献3には、転写材上のトナー像を定着するための定着ベルトであって、ニッケル電鋳製無端状ベルト基体を備え、前記ベルト基体を構成する結晶子のうち、300℃で2時間の加熱後に最も粗大化した結晶成長面を有する結晶子が400Å以下の平均粒径を有する定着ベルトが記載されている。
特許文献4には、リンを0.05質量%以上、0.4質量%未満の含有率で、硫黄を0.005質量%以上の含有率で含有するニッケル電鋳ベルト基体を備えるトナー定着ベルトが記載されている。
本発明の目的は、使用時の繰り返しの曲げ変形(以下、「繰り返し曲げ変形」と表現する。)による亀裂の発生が低減された無端ベルトを提供することにある。
請求項2に記載の発明は、前記ニッケル(Ni)合金は、X線回折におけるNi(111)面からの回折線の半値幅が3°以上であることを特徴とする請求項1に記載の無端ベルトである。
請求項3に記載の発明は、前記ニッケル(Ni)合金は、硫黄(S)を0.005質量%以上且つ0.03質量%以下の含有率で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の無端ベルトである。
請求項4に記載の発明は、前記ニッケル(Ni)合金は、リン(P)を0.5質量%以上且つ3.0質量%以下の含有率で含有することを特徴とする請求項3に記載の無端ベルトである。
請求項5に記載の発明は、前記ニッケル(Ni)合金の層の厚さは、10μm以上且つ250μm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無端ベルトである。
請求項6に記載の発明は、非晶質のニッケル(Ni)合金の層を少なくとも1層有する円筒状の金属層と、当該金属層の外側に積層された離型層とを備える定着ベルトと、前記定着ベルトの外側に圧接される加圧部材と、前記定着ベルトを加熱する加熱部材とを備えることを特徴とする定着装置である。
請求項7に記載の発明は、トナー像を形成する像形成部と、前記像形成部で形成されたトナー像を記録材に転写する転写部と、非晶質のニッケル(Ni)合金の層を少なくとも1層有する円筒状の金属層と、当該金属層の外側に積層された離型層とを備える定着ベルトと、当該定着ベルトとの間に押圧部を形成し回転駆動される加圧部材と、当該定着ベルトを加熱する加熱部材とを有し、前記記録材に転写されたトナー像を当該記録材に定着する定着部とを備えることを特徴とする画像形成装置である。
請求項3の発明によれば、ニッケル(Ni)合金が硫黄(S)を0.005質量%未満または0.03質量%を超えた含有率で含有する場合に比べて、繰り返し曲げ変形による亀裂の発生がより低減される。
請求項4の発明によれば、ニッケル(Ni)合金がリン(P)を0.5質量%未満または3.0質量%を超えた含有率で含有する場合に比べ、繰り返し曲げ変形による亀裂の発生がより低減される。
請求項5の発明によれば、ニッケル(Ni)合金の層の厚さが10μm未満または250μmを超える場合に比べて、繰り返し曲げ変形による亀裂の発生がより低減される。
請求項6の発明によれば、金属層に非晶質のニッケル(Ni)合金の層を少なくとも1層有さない定着ベルトに比べて、安定した定着ができる。
請求項7の発明によれば、本構成を有しない場合に比べて、画質の劣化を抑制した画像形成ができる。
図1は、本実施の形態が適用される画像形成装置100の概略構成図である。ここでは、一般にタンデム型と呼ぶ中間転写方式の画像形成装置を例に挙げ説明する。図1に示す画像形成装置100は、像形成部の一例として、電子写真方式により各色成分のトナー像を形成する複数の画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kを備える。次に、転写部の一例として、各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kにより形成する各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)する一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写した重畳トナー画像を記録材の一例としての用紙Pに一括転写(二次転写)する二次転写部20を有する。さらに、定着部の一例として、二次転写された画像を用紙P上に定着する定着装置60を備える。また、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を有する。
図1に示すような画像形成装置100では、画像読取装置(図示せず)等から出力される画像データに画像処理を施した後、画像データをY、M、C、Kの4色の色材階調データに変換し、レーザ露光器13に出力する。レーザ露光器13は、入力される色材階調データに応じ、例えば、半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの矢印A方向に回転する各感光体ドラム11に照射する。各感光体ドラム11の表面を帯電器12によって帯電した後、レーザ露光器13によって表面を走査露光し、静電潜像を形成する。形成した静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kによって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像する。
二次転写部20では、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像を、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれた用紙P上に静電転写する。その後、トナー像を静電転写した用紙Pを搬送ベルト55により定着装置60まで搬送し、定着装置60は、用紙P上の未定着トナー像を熱及び圧力で処理し用紙P上に定着する。定着画像を形成した用紙Pは、画像形成装置100から排出される。
次に、本実施の形態における定着装置60について説明する。
図2は、定着装置60の構成を示す図である。この定着装置60は、電磁誘導加熱方式を採用する。
図2に示すように、定着装置60は、無端ベルトである定着ベルト61、交流電流により生じる磁界によって定着ベルト61を発熱させる磁場発生ユニット85、定着ベルト61に対向するように配置する加圧ロール62、定着ベルト61を介して加圧部材の一例としての加圧ロール62から押圧される圧力パッド64を有する。
ホルダ65に、定着装置60の長手方向に亘って潤滑剤塗布部材67を配設する。潤滑剤塗布部材67は、定着ベルト61内周面に接触し、定着ベルト61と低摩擦シート68との摺動部に潤滑剤を供給する。尚、潤滑剤としては、例えば、シリコーンオイル、フッ素オイル等の液体状オイル;固形物質と液体とを混合させたグリース等、さらにこれらを組み合わせたものが挙げられる。
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置し、矢印D方向に、例えば140mm/sのプロセススピードで回転し、定着ベルト61を矢印C方向に従動させる。また、加圧ロール62と圧力パッド64とにより定着ベルト61を挟持した状態で保持してニップ部Nを形成し、このニップ部Nに未定着トナー像を保持した用紙Pを通過させ、熱及び圧力を加えて未定着トナー像を用紙Pに定着する。
図3に示すように、定着装置60は、図2に示した定着装置60における磁場発生ユニット85の代わりに、加熱部材の一例としての輻射ランプ発熱体86を設けている。よって、図2に示した定着装置60と同様のものについては、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
輻射ランプ発熱体86としては、例えば、ハロゲンランプ等が挙げられる。
尚、図3では、輻射ランプ発熱体86を、定着ベルト61の内部に配置したが、定着ベルト61の外部に配置してもよい。
図4に示すように、定着装置60は、図2に示した定着装置60における磁場発生ユニット85の代わりに、圧力パッド64と低摩擦シート68との間に、加熱部材の一例としての抵抗発熱体69を設けている。よって、図2に示した定着装置60と同様のものについては、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
抵抗発熱体69の抵抗としては、例えば、鉄−クロム−アルミ合金、ニッケル−クロム合金、白金、モリブデン、タンタル、タングステン、炭化珪素、モリブデン−シリサイト、カーボン等が挙げられる。
次に、本実施の形態が適用される定着ベルト61について説明する。
図5は、本実施の形態が適用される定着ベルト(無端ベルト)61の構成の一例を示す模式断面図である。図5に示すように、定着ベルト61は、円筒状であって、内周側から順に、基材となる金属層61a、弾性層61b、離型層61cを設けた3層構成からなっている。
以下では、金属層61aは、回折線の半値幅が3°以上である1層の層から構成されているとし、金属層61aが回折線の半値幅が3°以上である金属層であるとして説明する。
X線回折における回折線の半値幅が大きいと、金属層61aの非晶質度が増大し、使用時の繰り返し曲げ変形による亀裂の発生が減る傾向がある。
尚、半値幅は、CuKα1(波長0.154056nm)を用いたX線回折装置(ディフラクトメーター)により求めた回折波形から求めた。
ここでは、非晶質度が高いことを非晶質と呼ぶ。
無端ベルトを定着ベルト61として用いた定着装置60では、ニップ部N(図2参照)において、定着ベルト61を大きな曲率で曲げ回すことになる。すると、定着ベルト61の金属層61aに曲げ変形による歪みが生じる。さらに、定着ベルト61を従動回転させることにより、金属層61aには繰り返し曲げ変形による歪みが生じる。金属層61aに繰り返し曲げ変形による歪みが生じると、金属層61aが疲労し、亀裂が生じる。
このような電鋳法により形成した金属層61aは、疲労すると、金属の結晶方向と直交する強度が劣る方向において亀裂が生じやすい。すなわち、電鋳法により形成した金属層61aは、繰り返し曲げ変形による歪みにより亀裂が発生しやすい。そして、金属層61aに亀裂が生じると、定着ベルト61としての機能が失われてしまう。
すなわち、本実施の形態が適用される定着ベルト61の金属層61aは、液体急冷法により形成された円筒状の無端ベルトであり、X線回折におけるNi(111)面からの回折線の回折線の半値幅が3°以上であるニッケル合金であることが好ましい。
弾性層61bの形成方法としては、リング塗布法、浸漬塗布法、注入成型法等が挙げられる。
離型層61cの形成方法としては、静電粉体塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、遠心製膜法、チューブ被覆法等が挙げられる。
ここで、液体急冷法による金属層61a(図5参照)の製造方法について説明する。
図6は、液体急冷法による金属層61aの製造方法を説明する図である。直径が定着ベルト61の金属層61aの内径である金属棒94上に、金属層61aの原料を溶解した溶融金属96を保持するるつぼ91が設けられている。
さらに、るつぼ91の側面をらせん状に取り囲むように、加熱コイル93が設けられている。加熱コイル93に高周波の交流電流を流すことにより、るつぼ91およびるつぼ91中の金属層61aの原料を誘導加熱し、るつぼ91中に投入された金属層61aの原料を溶解する。
尚、金属棒94とるつぼ91とは、るつぼ91の下端に設けられたノズル92から流れ出た溶融金属96が、金属棒94に当たるように、配置されている。
一方、金属棒94としては、ステンレススティール鋼(SUS)などを用いうる。また、金属棒94は、室温にて用いても、室温以下に冷却して用いてもよい。
るつぼ91に金属層61aの原料を投入し、この原料を加熱コイル93に交流電流を流して溶融し、溶融金属96を作る。一方、金属棒94を中心軸95の回りに矢印E方向に高速回転させておく。
尚、金属層61aが融点1453℃のニッケル合金の場合、るつぼ91内は融点以上の温度、例えば1500℃に加熱される。このとき、ニッケル合金の酸化を抑制するため、窒素等の不活性雰囲気とすることが好ましい。
すると、液体状の溶融金属96は、金属棒94の表面に当たって、急速に冷やされて固化し、金属リボン97となって金属棒94に巻きつく。このとき、巻きついた金属リボン97の端の一部が互いに重なるように、るつぼ91を矢印F方向に移動して、金属リボン97が円筒状になるように構成する。尚、金属リボン97の重なる部分では、下側の金属リボン97上に、溶解した溶融金属96が当たって上側の金属リボン97が形成されるので、下側の金属リボン97と上側の金属リボン97とが融着し、一体化している。
その後、上述したように、金属層61a上に弾性層61bと、離形層61cとを順に形成することで、無端ベルトである定着ベルト61が製造される。
表1は、実施例1〜24及び比較例1〜12に用いた定着ベルト61の金属層61aの組成(質量%)、調整方法、金属層厚さ(μm)及びX線回折におけるNi(111)面からの回折線の半値幅(°)を示す。さらに、表1は、実施例1〜24及び比較例1〜12の定着ベルト61の評価(後述する加熱空回転耐久評価)に用いた加熱方式、設定温度(℃)、及び評価結果としての定着ベルト61の金属層61aに亀裂が発生するまでの時間(金属層の亀裂発生までの時間)を示す。これらの項目については後述する。
尚、実施例及び比較例の説明では、製造を調整と表現する。
定着ベルト61の金属層61aは、実施例1〜24及び比較例1〜12のいずれにおいても、ニッケル(Ni)合金であって、目的とする組成になるように、ニッケル(Ni)原料にリン(P)原料および硫黄(S)原料を加えて調整されている。表1に示す組成(質量%)は、調整後の金属層61aを発光分光分析法によって分析して求めたリン(P)および硫黄(S)の組成である。尚、表1に示すニッケル(Ni)の組成(質量%)は、残余(Bal.)としている。
表1の実施例1〜実施例24、比較例1〜6の定着ベルト61に用いた金属層61aは、液体急冷法(図6参照)にて調整した。具体的には、実施例1〜実施例24、比較例1〜6のそれぞれについて、目的とする組成を設定し、ニッケル(Ni)原料にリン(P)原料と硫黄(S)原料をるつぼ91に投入し、窒素雰囲気下で1500℃にて溶解して、ニッケル(Ni)合金からなる溶融金属96を得た。そして、るつぼ91の下端に設けられたノズル92から、溶融金属96を、中心軸95を中心に高速回転する直径30mmの金属棒94に当てることにより急冷し、金属棒94の側面に巻きついた金属リボン97により円筒容器状に成型した。その後、金属棒94から金属リボン97を抜き出し、整形して、内径30mm、長さ370mmのニッケル(Ni)合金からなる無端ベルトである金属層61aを得た。尚、実施例1〜実施例24、比較例1〜6の金属層61aの厚さは、表1に示すように、10μm〜360μmの範囲に設定されている。
続いて、弾性層61bの表面に、PFAディスパージョン(500CL、三井・デュポンフロロケミカル社製)を、膜厚30μmとなるように塗布し、310℃で焼成することで、PFAからなる離型層61cを形成し、定着ベルト61を得た。
比較例7〜12の定着ベルト61に用いた金属層61aは、電鋳法にて調整した。具体的には、これらの金属層61aは、外径30mmの円筒形ステンレススティール(SUS)金型を、硫酸ニッケル(NiSO4)を主成分とし、リン(P)および硫黄(S)を添加物として加えた電解めっき浴(pH3.0、浴温50℃)中に浸漬し、陰極電流密度7A/dm2にて60分電析を行うことで得た。これにより、内径30mm、長さ370mmのニッケル(Ni)合金の金属層61aを得た。尚、比較例7〜12の金属層61aの厚さは、表1に示すように、15μm〜270μmの範囲に設定されている。
その後、前述した実施例1〜実施例24、比較例1〜6の定着ベルト61の調製と同様に、弾性層61bと離型層61cとを形成し、定着ベルト61を得た。
内面に接着用プライマーを塗布した外径50mm、長さ340mm、厚さ30μmのフッ素樹脂チューブと金属製の中空芯金コアとを成形金型内にセットし、フッ素樹脂チューブとコア間に液状発泡シリコーンゴム(層厚:2mm)を注入後、加熱処理(150℃、2時間)によりシリコーンゴムを加硫し、発泡させたゴム弾性を有した加圧ロール62を作製した。
上述のようにして調製した定着ベルト61と加圧ロール62とを、加熱方式(輻射ランプ加熱方式、抵抗加熱方式、電磁誘導加熱方式)の異なる定着装置60に装着した。
そして、これらの定着装置60を順次画像形成装置100(富士ゼロックス製、Docu Print C620)に取りつけて加熱空回転耐久評価を行った。尚、定着ベルト61と加熱方式とは表1に示すように組み合わせた。
すなわち、実施例1〜5、実施例16〜18および比較例1〜4は、ハロゲンランプを用いた輻射ランプ方式(表1では「ハロゲンランプ」と表現する。)を、実施例6〜10、実施例19〜21および比較例5〜8は、抵抗加熱方式(表1では「抵抗」と表現する。)を、実施例11〜15、実施例22〜24および比較例9〜12は、電磁誘導加熱方式(表1では「電磁誘導」と表現する。)を用いた。
図7は実施例1及び比較例5の金属層61aのX線回折において得られた回折図形を示す図である。図7(a)は実施例1の液体急冷法により調整された金属層61aの回折図形、図7(b)は比較例5の液体急冷法により調製された金属層61aの回折図形である。図7(a)及び(b)の横軸は回折線の位置2θ(°)である。縦軸はX線の強度である計数管のカウント数を任意スケール(a.u.)で示している。これらは、金属層61aから切り出した小片を用いて、CuKα1(波長0.154056nm)を用いたX線回折装置(ディフラクトメーター)により求めた。
ここで回折線の半値幅とは、図7(a)に示すように、回折図形における回折線の最大の強度に対して1/2の強度となる二つの位置2θの間の距離(°)をいう。
なお、実施例1及び比較例5のそれぞれの金属層61aは、共に液体急冷法によって調整されている。しかし、上述したように、Ni(111)面からの回折線の半値幅が大きく異なる。この理由については後述する。
そして、表1から分かるように、実施例1〜24においては、Ni(111)面からの回折線の半値幅が3°以上である。一方、比較例1〜12においては、Ni(111)面からの回折線の半値幅が3°未満である。
前述したように、実施例1〜24及び比較例1〜12の定着ベルト61により加熱空回転耐久評価を行った。
加熱空回転耐久評価においては、定着装置60(図2〜4参照)を通過した用紙Pを目視で観察し、段差(しわ)の発生が見られるようになるまでの時間を計測した。
定着により用紙Pに段差(しわ)が発生することは、定着が不良(定着不良)になったことを示している。もはや定着ベルト61は継続して使用されることができない。よって、定着装置60を通過した用紙Pにおいて、段差(しわ)が発生するまでの時間が長いほど好ましい。
そこで、表1では、評価結果として、定着により用紙Pに段差(しわ)が発生するまでの時間を、定着ベルト61の金属層61aに亀裂が発生するまでの時間(金属層の亀裂発生までの時間)として示した。尚、空回転の開始から200時間経過しても、定着不良にいたらない場合は「200時間以上」と表現した。
逆に、200時間までに定着により用紙Pに段差(しわ)が発生した時は、その時点(定着不良になった時点)において連続空回転を停止した。
尚、連続空回転を停止した後、実施例1〜24および比較例1〜12において、金属層61aの表面を観察して亀裂の発生の有無を目視にて調べ、定着不良と金属層61aの亀裂の発生の有無とに上述した相関関係があることを確認した。
これに対し、表1の実施例16〜24の定着ベルト61では、空回転開始から103時間から182時間の間に定着不良を生じるとともに、金属層61aに亀裂の発生が見られた。
さらに、表1の比較例1〜12の定着ベルト61では、空回転開始から21時間から40時間の間において定着不良が生じるとともに、金属層61aに亀裂の発生が見られた。
これに対し、液体急冷法にて調整された金属層61aを用いた比較例1〜6の定着ベルト61は、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が25時間〜40時間で、電鋳法で調整された金属層61aを用いた定着ベルト61と同様に、短い時間で亀裂が生じ、耐久性が低い。一方、液体急冷法にて調整された金属層61aを用いた実施例16〜24の定着ベルト61は、金属層61aに亀裂の発生が見られるまでの時間が103時間から182時間と、比較例1〜6に比べて長く、耐久性が向上している。さらに、液体急冷法にて調整された実施例1〜15の金属層61aを用いた定着ベルト61は、金属層61aに亀裂の発生が見られるまでの時間が200時間以上と、実施例16〜24に比べて長く、耐久性がより向上している。
以上のことから、液体急冷法により調整した金属層61aを用いても、定着ベルト61の耐久性が、電鋳法により金属層61aが調整された定着ベルト61に比べ、向上するとは限らないことが分かる。
次に、回折線の半値幅と金属層61aの亀裂の発生との関係を説明する。
金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が200時間以上である実施例1〜15および金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が103時間〜182時間である実施例16〜24では、金属層61aのX線回折におけるNi(111)面からの回折線の半値幅が3°以上である。一方、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が21時間〜40時間の比較例1〜12では、金属層61aのNi(111)面からの回折線の半値幅が3°未満である。
以上のことから、金属層61aの亀裂の発生までの時間と回折線の半値幅とが関連性を有していることが分かる。すなわち、Ni(111)面からの回折線の半値幅が3°以上の、非晶質度が高い金属層61aを用いた定着ベルト61は、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が100時間以上となり、耐久性が高い。一方、Ni(111)面からの回折線の半値幅が3°未満の、結晶性が高く、粒径の大きい結晶が集まって構成された多結晶である金属層61aを用いた定着ベルト61は、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が100時間未満で、耐久性が低い。
これに対し、液体急冷法では、溶融金属96を急冷することにより金属層61aを形成するため、原子配列が不規則になりやすく、金属層61aが非晶質になりやすい。上述した実施例1〜24のように、金属層61aのX線回折におけるNi(111)面からの回折線の半値幅が3°以上であると、金属層61aに亀裂の発生するのが抑制されて、定着ベルト61の耐久性が向上すると考えられる。
なお、表1に示したように、上記の結果は、定着ベルト61の加熱方式(輻射ランプ加熱方式、抵抗加熱方式、電磁誘導加熱方式)に依存しない。
次に、液体急冷法で調整された実施例1〜24及び同じく液体急冷法で調整された比較例1〜6の定着ベルト61の金属層61aについて、金属層61aの組成とX線回折におけるNi(111)面からの回折線の半値幅との関係について説明する。
図8は、実施例1〜24及び比較例1〜6の定着ベルト61の金属層61aの硫黄(S)組成(質量%)と回折線の半値幅(°)との関係を示す図である。横軸は硫黄(S)組成(質量%)、縦軸は回折線の半値幅(°)である。図8中では、実施例1〜24は○に実施例の番号を付して、比較例1〜6は△に比較例の番号を付して表示している。
これに対し、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が103時間〜182時間である実施例16、17、20、22、23の金属層61aは、硫黄(S)組成が0.005質量%未満または0.03質量%を超える領域にある。
また、硫黄(S)組成が0.005質量%未満または0.03質量%を超える領域では、回折線の半値幅(°)が3°未満の金属層61a(比較例1〜6)が出現する。回折線の半値幅(°)が3°未満の金属層61aを用いた定着ベルト61は金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が短い。
よって、定着ベルト61において亀裂が発生するまでの時間が長い、すなわち亀裂の発生を抑制した金属層61aとするには、金属層61aにおける硫黄(S)組成が、0.005質量%以上且つ0.03質量%以下に設定されることが好ましい。
そして、回折線の半値幅(°)が3°未満の金属層61aである比較例1、2、3、4は、リン(P)組成が0.5質量%未満または3.0質量%を超える領域にあって、リン(P)組成が0.5質量%以上且つ3.0質量%以下の範囲には含まれない。
しかし、金属層61aのリン(P)組成が0.5質量%以上且つ3.0質量%以下の範囲においても、回折線の半値幅(°)が3°未満の金属層61aである比較例5、6が出現する。
したがって、金属層61aのリン(P)組成が0.5質量%以上且つ3.0質量%以下の範囲としても、回折線の半値幅(°)は3°以上で、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が長い金属層61aを得ることができない。
このことから、金属層61aの硫黄(S)組成を0.005質量%以上且つ0.03質量%以下とするとともに、リン(P)組成を0.5質量%以上且つ3.0質量%以下とすると、金属層61aの亀裂の発生をより低減(抑制)しうる。
以上説明したように、液体急冷法によって金属層61aを調整しても、必ずしも金属層61aの亀裂の発生が必ずしも抑制できることにならないのは、硫黄(S)およびリン(P)の含有率によっては、金属層61aが結晶化しやすくなるためと考えられる。
次に、金属層61aの膜厚について説明する。
硫黄(S)組成を0.005質量%以上且つ0.03質量%以下とし、さらにリン(P)組成を0.5質量%以上且つ3.0質量%以下とした範囲には、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が137時間の実施例18(金属層61aの厚さ360μm)、同じく171時間の実施例21(金属層61aの厚さ290μm)、同じく153時間の実施例24(金属層61aの厚さ330μm)が含まれる。これらの膜厚は、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間が200時間以上である実施例1〜15での金属層61aの厚さ10μm〜250μmに比べて厚い。よって、金属層61aに亀裂が発生するまでの時間は金属層61aの厚さに依存すると考えられる。
すなわち、定着ベルと61の金属層61aの厚さが厚いほど変形しづらく、繰り返し曲げ変形により、亀裂が発生しやすくなると考えられる。
このことから、定着ベルト61の金属層61aの厚さを10μm以上且つ250μm以下の範囲とすると金属層61aの亀裂の発生がさらに低減できる。
さらに、加熱方式によらないため、輻射ランプ、抵抗、電磁誘導などの加熱方式が適用できる。
Claims (7)
- 非晶質のニッケル(Ni)合金の層を少なくとも1層有する円筒状の金属層と、
前記金属層の外側に積層された離型層と
を備えることを特徴とする無端ベルト。 - 前記ニッケル(Ni)合金は、X線回折におけるNi(111)面からの回折線の半値幅が3°以上であることを特徴とする請求項1に記載の無端ベルト。
- 前記ニッケル(Ni)合金は、硫黄(S)を0.005質量%以上且つ0.03質量%以下の含有率で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の無端ベルト。
- 前記ニッケル(Ni)合金は、リン(P)を0.5質量%以上且つ3.0質量%以下の含有率で含有することを特徴とする請求項3に記載の無端ベルト。
- 前記ニッケル(Ni)合金の層の厚さは、10μm以上且つ250μm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無端ベルト。
- 非晶質のニッケル(Ni)合金の層を少なくとも1層有する円筒状の金属層と、当該金属層の外側に積層された離型層とを備える定着ベルトと、
前記定着ベルトの外側に圧接される加圧部材と、
前記定着ベルトを加熱する加熱部材と
を備えることを特徴とする定着装置。 - トナー像を形成する像形成部と、
前記像形成部で形成されたトナー像を記録材に転写する転写部と、
非晶質のニッケル(Ni)合金の層を少なくとも1層有する円筒状の金属層と、当該金属層の外側に積層された離型層とを備える定着ベルトと、当該定着ベルトとの間に押圧部を形成し回転駆動される加圧部材と、当該定着ベルトを加熱する加熱部材とを有し、前記記録材に転写されたトナー像を当該記録材に定着する定着部と
を備えることを特徴とする画像形成装置。
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