本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る定着部材は、カーボンナノチューブのネットワーク状の構造体を含んで構成される弾性層を有するものであり、例えば、基材の外周面上に弾性層を有するものである。定着部材を構成する弾性層として、比較的長いカーボンナノチューブ(CNT)が縦横に絡み合ったネットワーク状の構造体から構成される弾性体(例えば、耐熱性:600℃程度、硬度:シリコーンゴム程度、比熱容量:0.04g/K・cm3程度)を用いることにより、低熱容量の定着部材が得られる。飛躍的に定着部材の熱容量を低減することができ、画質、耐熱性、高速適性、用紙汎用性、用紙搬送安定性等を損なうことなく、飛躍的にウォームアップ時間の短い定着装置が提供される。
本実施形態に係る定着部材の弾性層を構成するカーボンナノチューブのネットワーク状の構造体は、比較的長いカーボンナノチューブが圧縮され高密度化されて縦横に絡み合ったものである。長いカーボンナノチューブが圧縮され高密度化されることによって、弾性体としての性能を発揮する。カーボンナノチューブは、主に炭素6員環が連なったグラファイトの層を円筒状にした非常に細長い繊維状物質である。カーボンナノチューブとしては、単層である単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWCNT)、二層であるダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)などの複層であるマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)があるが、本実施形態に係る定着部材の弾性層を構成するカーボンナノチューブは、SWCNTであってもMWCNTであってもよい。また、SWCNTとDWCNT、MWCNTの混合であってもよい。また、カーボンナノチューブの形態は、直鎖状であっても、分岐状であってもよいが、絡み合い易いという観点から、分岐状であるほうが好ましい。
カーボンナノチューブのアスペクト比は、例えば、10万以上が好ましく、100万以上がより好ましい。カーボンナノチューブのアスペクト比が10万未満では、圧縮されてもネットワーク状の構造体が形成されにくい場合がある。
弾性層の密度は、例えば、0.01g/cm3以上0.2g/cm3以下の範囲が好ましく、0.02g/cm3以上0.1g/cm3の範囲がより好ましい。弾性層の密度が0.01g/cm3未満であると、弾性が十分ではなく、0.2g/cm3を超えると、柔軟性が十分でない場合がある。
定着部材の表面硬度(タイプCマイクロ硬度)は、例えば、40度以上95度以下の範囲が好ましく、60度以上90度の範囲がより好ましい。定着部材の表面硬度が40度未満であると、トナーの定着性が不足する場合があり、95度を超えると、トナーや用紙の凹凸等の影響による画像欠陥が発生する場合がある。
定着部材の弾性層の厚みは、例えば、0.05mm以上1mm以下の範囲が好ましく、0.1mm以上0.5mmの範囲がより好ましい。定着部材の弾性層の厚みが0.05mm未満であると、定着部材の表面の柔軟性が不十分になる場合があり、1mmを超えると、トナーへの熱伝達の効率が悪くなる場合がある。
本実施形態に係る定着部材の弾性層を構成するカーボンナノチューブのネットワーク状の構造体は、基材上にスーパーグロース法によって合成されたカーボンナノチューブの構造体が圧縮されて密度が圧縮前に比べて例えば2倍以上10倍程度にされたものであることが好ましい。スーパーグロース法とは、具体的には、いわゆる化学気相合成法の一種であり、気相合成雰囲気中に極微量の水を添加し、触媒の活性化と長寿命化により、長いカーボンナノチューブを生成する方法である。圧縮の方法としては、特に制限はないが、例えば、ロールプレス、金型プレス、真空圧縮等が挙げられる。
本実施形態に係る定着部材は、定着ベルトであっても、定着ロールであってもよいが、定着部材の熱容量に対して弾性層の熱容量がより支配的であるという観点から定着ベルトの方が本構成による効果がより発揮される。
本実施形態に係る定着部材における基材としては、定着ロールの場合は、鉄、アルミニウム、SUS、銅等の熱伝導率の高い金属または合金、セラミックス、FRMで形成された円筒体等で構成されている。定着ベルトの場合は、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等から選択される1つまたは複数の混合体等が挙げられ、耐熱性、機械特性等の観点から
ポリイミド樹脂が好ましい。
本実施形態に係る定着部材は、未定着トナー像を溶融状態として記録媒体に固着させる際に、溶融状態のトナーが定着部材に固着することを抑制するために、弾性層の外周面上にさらに表面層を有していてもよい。表面層を構成する材料としては、トナー像に対して適度な離型性を有するものであればよく、特に制限はない。表面層は、フッ素系化合物を主成分として形成することが好ましい。フッ素系化合物としては、例えば、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂等が挙げられる。
表面層の厚みは、例えば、10μm以上100μm以下の範囲である。表面層の厚みが10μm以上であれば、記録媒体として用いる用紙の縁との繰り返し擦擦等により表面層が摩滅することが抑制されやすくなる。一方、表面層の厚みが100μm以下であればベルトの表面の柔軟性が確保されやすくなる。その結果、トナーを押しつぶす力が抑制され、定着画像の粒状性が維持され、ウォームアップ時間の短縮化が図られる。
本実施形態に係る定着部材は、さらに誘導加熱発熱層を有する電磁誘導加熱定着方式の定着部材であってもよい。電磁誘導加熱定着方式の定着部材にカーボンナノチューブのネットワーク状の構造体を含んで構成される弾性層を組み合わせることによって、ウォームアップ時間短縮の効果がより発揮される。電磁誘導加熱定着方式の定着部材は、例えば、基材の外周面上に、誘導加熱発熱層と弾性層とを有し、さらに表面層を有していてもよい。弾性層は、上記の通り、カーボンナノチューブのネットワーク状の構造体から構成される。この電磁誘導加熱方式に適用される定着部材としては、例えば、エンジニアリングプラスチック等の耐熱性樹脂から構成される基材の外周面上に、誘導加熱発熱層を設けた構成の無端状の定着ベルトが挙げられる。この構成の定着ベルトは、耐熱性樹脂から構成される基材により強度が確保されているため、誘導加熱発熱層は発熱性能が十分に確保できるのであれば、その膜厚を薄くすることができ、ウォームアップ時間が短縮される。また、基材が耐熱性樹脂から構成されるため、定着ベルトの内面に設けられる押圧部材との摺動性も良好である。
誘導加熱発熱層は、例えば、3層の金属層(下地金属層、金属発熱層、および金属保護層)を有するものであるが、これに限定されず、金属層は単層であってもよいし、2層であってもよいし、4層以上であってもよい。例えば、下地金属層を設けず、基材の外周面上にスパッタリング法等によって金属発熱層を直接設けてもよい。
[下地金属層]
下地金属層は、例えば、耐熱性樹脂等で構成される基材の外周面に金属発熱層を形成するために設ける層であり、必要に応じて形成される。金属発熱層の形成方法としては、コスト等の観点から電解めっき法等が挙げられるが、耐熱性樹脂等で構成される基材に直接電解めっきを行うことは困難である。そこで、金属発熱層を形成するために、下地金属層を設ける。このような下地金属層を形成する方法としては、化学めっき法が好ましく、特に、一般的な化学ニッケルめっきが好ましい。下地金属層の厚みは、定着ベルトの柔軟性を損なわない厚みとし、例えば0.1μm以上10μm以下の範囲である。
[金属発熱層]
金属発熱層は、電磁誘導加熱定着装置において、コイルから発生する磁界により渦電流を発生させることで発熱する機能を有する層であり、電磁誘導作用を生ずる金属で構成される。電磁誘導作用を生ずる金属としては、例えば、ニッケル、鉄、銅、金、銀、アルミニウム、クロム、錫、亜鉛等の単一金属、もしくは2種類以上の元素からなる合金(スチール等)から選択される。コスト、発熱性能、および加工性等を考慮すると、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、クロムが適しており、特に、銅あるいは銅を主成分とする合金が好ましい。
金属発熱層の厚みは、その材質によって適切な厚みは異なるが、例えば銅を金属発熱層に用いる場合には、3μm以上50μmの範囲の厚みとすればよい。金属発熱層の厚みが3μm未満になると、金属発熱層の抵抗値が高くなることにより、十分な渦電流が発生し難くなり発熱が不足し、ウォームアップ時間が長くなるか、あるいは定着可能温度まで十分に加熱されない場合がある。また、金属発熱層の厚みが50μmを超えると、十分な発熱は得られるものの、層自体の熱容量が大きくなってしまうことからウォームアップ時間が長くなってしまう場合がある。
[金属保護層]
金属保護層は、発熱層の繰り返しの変形による割れや、長時間の繰り返し加熱による酸化劣化等を抑制し、発熱特性を維持するために、必要に応じて金属発熱層上に設ける層である。特に、銅を主成分とする金属発熱層を用いる場合には、強度が小さく、繰り返しの変形に弱いため、割れを発生させたり、長時間の繰り返し加熱での酸化劣化等から、発熱特性が低下する場合がある。そこで、発熱層の上に保護層を設けることにより、割れの発生および酸化が抑制される。
金属保護層は、薄膜であって、耐久性および耐酸化性が高い耐酸化金属で構成すればよい。金属保護層を形成する方法としては、薄膜での加工性等を考慮し、電解めっき法が挙げられ、中でも、強度が高い金属膜が得られる電解ニッケルめっきが好ましい。
金属保護層の厚みは、その材質によって適切な厚みは異なるが、例えば金属保護層としてニッケルを用いる場合には、その厚みは例えば2μm以上20μm以下の範囲とすればよい。金属保護層の厚みが2μm以上であれば、破断強度が不足して割れが発生することが抑制される。一方、金属保護層の厚みが20μm以下であれば、定着ベルトの柔軟性が保たれ、金属保護層自体の熱容量が大きくなることが抑制されるため、ウォームアップ時間の短縮化が図られる。
<定着装置>
次に、本実施形態に係る定着装置の構成について説明する。本実施形態に係る定着装置は、上記定着部材を備えるものである。なお、本実施形態に係る定着装置として、電磁誘導加熱方式を採用する定着装置を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。電磁誘導加熱方式を用いれば、加熱したい定着部材の表面が効果的かつ高熱効率で加熱されるため、ウォームアップ時間が短縮される。
図1に示すように、本実施形態に係る定着装置60は、回転可能な回転部材である加圧ロール62と、回転部材である加圧ロール62に接触して配置され、加圧ロール62との間に形成される加圧部N(以下「ニップ部N」ともいう)に未定着トナー像を保持した記録媒体Pを狭持することで未定着トナー像を記録媒体Pに定着させる、回転可能な定着ベルト61と、定着ベルト61と押圧部材である押圧パッド64との間に介在する摺動シート68とを有する。定着ベルト61は、上記カーボンナノチューブのネットワーク状の構造体を含んで構成される弾性層を有するものであり、図1の例では、基材の外周面上に、誘導加熱発熱層と上記カーボンナノチューブのネットワーク状の構造体を含んで構成される弾性層とを有するものである。なお、摺動シート68については後述する。
定着装置60は、定着ベルト61、交流電流により生じる磁界によって定着ベルト61を発熱させる加熱部材の一例としての磁場発生ユニット85、定着ベルト61に対向するように配置する、加圧部材の一例としての加圧ロール62、定着ベルト61を介して、回転部材である加圧ロール62から押圧される押圧パッド64を有する。
定着ベルト61は、押圧パッド64とベルトガイド部材63、定着ベルト61の両端部に配置するエッジガイド部材(図示せず)によって回転駆動自在に支持される。そして、加圧部(ニップ部)Nにおいて加圧ロール62に圧接され、加圧ロール62に従動して矢印方向に回転駆動する。
ベルトガイド部材63は、定着ベルト61の内部に配置するホルダ65に取り付けられる。そして、ベルトガイド部材63は、定着ベルト61の回転駆動方向に向けた複数のリブ(図示せず)で形成され、定着ベルト61内周面との接触面積を小さくする。さらに、ベルトガイド部材63は、摩擦係数が低く、かつ熱伝導率が低いPFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂で形成される。これにより、ベルトガイド部材63と定着ベルト61内周面との摺動抵抗を低減し、熱の発散を低くするように構成する。
押圧パッド64は、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧されて加圧部Nを形成する。押圧パッド64は、バネ等の弾性体等によって加圧ロール62を、例えば35kgfの荷重で押圧するようにホルダ65により支持される。押圧パッド64は、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体から構成される。押圧パッド64は、加圧ロール62側に凹部と凸部が形成されている。これにより、定着ベルト61が、押圧パッド64の加圧ロール62側の面から離れる際に急激な曲率の変化を生じ、定着後の記録媒体Pが定着ベルト61から剥離しやすくしている。
加圧部Nの下流側近傍に配設する剥離補助部材70は、剥離バッフル71が定着ベルト61の回転方向と対向する方向(カウンタ方向)に向けられ、バッフルホルダ72により保持される。また、押圧パッド64と定着ベルト61との間に摺動シート68が配設され、定着ベルト61の内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を低減する。本実施形態では、摺動シート68は押圧パッド64と別体に構成され、両端をホルダ65に固定される。
ホルダ65に、定着装置60の長手方向にわたって潤滑剤塗布部材67が配設される。潤滑剤塗布部材67は、定着ベルト61の内周面に接触し、定着ベルト61と摺動シート68との摺動部に潤滑剤を供給する。なお、潤滑剤としては、例えば、シリコーンオイル、フッ素オイル等の液体状オイル;固形物質と液体とを混合させたグリース等、さらにこれらを組み合わせたものが挙げられる。
加圧ロール62は、例えば、直径16mmの中実の鉄製等のコア(円柱状芯金)621と、コア621の外周面を被覆する、例えば厚み12mmのシリコーンスポンジ等のゴム層622と、例えば、厚み30μmのPFA等の耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による表面層623とを有する。なお、加圧ロール62の製造方法としては、例えば、PFAチューブ(表面層623になる)の内周面に、接着用プライマを塗布したフッ素樹脂チューブと中実シャフト(コア621になる)とを成形金型内に装填し、フッ素樹脂チューブと中実シャフトとの間に液状発泡シリコーンゴムを注入後、加熱処理(150℃、2時間)によりシリコーンゴムを加硫、発泡させてゴム層622を形成する方法等が挙げられる。
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置され、矢印D方向に、例えば140mm/secのプロセススピードで回転され、定着ベルト61を従動させる。また、加圧ロール62と押圧パッド64とにより定着ベルト61を挟持した状態で保持して加圧部Nを形成し、この加圧部Nに未定着トナー像を保持した記録媒体Pを通過させ、熱および圧力を加えて未定着トナー像を記録媒体Pに定着する。
磁場発生ユニット85は、断面が定着ベルト61の形状に沿った曲線形状を有し、定着ベルト61の外周表面と例えば0.5mm以上2mm以下程度の間隙で設置される。磁場発生ユニット85は、磁界を発生させる励磁コイル851と、励磁コイル851を保持するコイル支持部材852と、励磁コイル851に電流を供給する励磁回路853とを有する。
励磁コイル851は、例えば、相互に絶縁された直径φ0.5mm程度の銅線材を16本から20本程度束ねたリッツ線を、長円形状や楕円形状、長方形状等の閉環状に巻いて形成したものを用いる。励磁コイル851に励磁回路853によって予め定められた周波数の交流電流を印加することにより、励磁コイル851の周囲に交流磁界Hが発生する。交流磁界Hが、定着ベルト61の金属層を横切る際に、電磁誘導作用によってその交流磁界Hの変化を妨げる磁界を発生するように渦電流Iが生じる。励磁コイル851に印加する交流電流の周波数は、例えば、10kHzから50kHzに設定すればよい。渦電流Iが定着ベルト61の金属層を流れることによって、金属層の抵抗値Rに比例した電力W(W=I2R)によるジュール熱が発生し、定着ベルト61が加熱される。
コイル支持部材852は、例えば耐熱性を有する非磁性材料で構成される。このような非磁性材料としては、例えば、耐熱ガラス、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS等の耐熱性樹脂、またはこれらにガラス繊維を混合した耐熱性樹脂等が挙げられる。
なお、本実施形態では、定着ベルト61を加熱する加熱部材の一例として磁場発生ユニット85を備える電磁誘導加熱方式の定着装置60について説明したが、加熱部材としては、輻射ランプ発熱体、抵抗発熱体を採用することもできる。
輻射ランプ発熱体としては、例えば、ハロゲンランプ等が挙げられる。抵抗発熱体としては、例えば、鉄−クロム−アルミ系、ニッケル−クロム系、白金、モリブデン、タンタル、タングステン、炭化珪素、モリブデン−シリサイド、カーボン等が挙げられる。
定着装置60では、加圧ロール62の矢印D方向への回転に伴い、定着ベルト61が従動回転され、励磁コイル851により発生した磁界に曝される。この際、定着ベルト61中の金属発熱層には渦電流が発生し、定着ベルト61の外周面が定着可能な温度まで加熱される。このようにして加熱された定着ベルト61は、加圧ロール62との加圧部Nまで移動する。搬送手段により、未定着トナー像がその表面に設けられた記録媒体Pが定着入口ガイド56を介して定着装置60に搬入される。記録媒体Pが定着ベルト61と加圧ロール62との加圧部Nを通過した際に、未定着トナー像は定着ベルト61により加熱され記録媒体Pの表面に定着される。その後、画像が表面に形成された記録媒体Pは、搬送手段により搬送され、定着装置60から排出される。また、加圧部Nにおいて定着処理を終え、外周面の表面温度が低下した定着ベルト61は、励磁コイル851方向へと回転し、次の定着処理に備えて再度加熱される。
<画像形成装置>
次に、本実施形態に係る定着装置を備えた画像形成装置の構成について説明する。本実施形態に係る画像形成装置は、少なくとも、記録媒体に未定着トナー像を保持させるトナー像形成手段と、上記定着装置とを備えるものである。
以下、図面を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置の構成を説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
図2は、本実施形態に係る定着装置が適用される画像形成装置を示した概略構成図である。図2に示す画像形成装置3は、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置であって、電子写真方式にて各色成分のトナー像が形成されるトナー像形成手段の一例としての複数の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにて形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)させる一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー画像を記録紙等の記録媒体Pに一括転写(二次転写)させる二次転写部20と、二次転写された画像を記録媒体P上に定着させる定着手段の一例としての定着装置60とを備える。また、画像形成装置3は、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を備える。
本実施形態において、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、矢印A方向に回転する像保持体としての感光体ドラム11の周囲に、これらの感光体ドラム11を帯電する帯電手段としての帯電器12、感光体ドラム11上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段としてのレーザ露光器13(図2において露光ビームを符号Bmで示す)、各色成分トナーが収容されて感光体ドラム11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像手段としての現像器14、感光体ドラム11上に形成された各色成分トナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写手段としての一次転写ロール16、感光体ドラム11上の残留トナーを除去するクリーニング手段としてのドラムクリーナ17等の電子写真用デバイスが順次配設されている。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に、略直線状に配置されている。
中間転写体である中間転写ベルト15は、ポリイミドあるいはポリアミド等の樹脂にカーボンブラック等の帯電防止剤を適当量含有させたフィルム状の無端ベルトで構成されている。そして、その体積抵抗率は例えば106Ωcm以上1014Ωcm以下の範囲となるように形成されており、その厚みは例えば0.1mm程度に構成されている。中間転写ベルト15は、各種ロールによって図2に示すB方向に予め定めた速度で循環駆動(回転駆動)されている。この各種ロールとして、定速性に優れたモータ(図示せず)等により駆動されて中間転写ベルト15を循環駆動させる駆動ロール31、各感光体ドラム11の配列方向に沿って略直線状に延びる中間転写ベルト15を支持する支持ロール32、中間転写ベルト15に対して予め定めた張力を与えると共に中間転写ベルト15の蛇行等を防止する補正ロールとして機能するテンションロール33、二次転写部20に設けられるバックアップロール25、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられるクリーニングバックアップロール34等を有している。
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11に対向して配置される一次転写ロール16で構成されている。一次転写ロール16は、例えば、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは鉄、SUS等の金属等で構成された円柱状等の棒である。スポンジ層は、例えばカーボンブラック等の導電剤を配合したニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とのブレンドゴム等で形成され、体積抵抗率が例えば107.5Ωcm以上108.5Ωcm以下のスポンジ状等の円筒状等のロールである。そして、一次転写ロール16は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11に圧接して配置され、さらに一次転写ロール16にはトナーの帯電極性(マイナス極性とする。以下同様。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加されるようになっている。これにより、各々の感光体ドラム11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上において重畳されたトナー像が形成されるようになっている。
二次転写部20は、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール22と、バックアップロール25とによって構成される。バックアップロール25は、表面が例えばカーボン等を分散したEPDMとNBRのブレンドゴムのチューブ、内部は例えばEPDMゴムで構成されている。そして、その表面抵抗率が例えば107Ω/□以上1010Ω/□以下の範囲となるように形成され、硬度は例えば70°(アスカーC:高分子計器社製、以下同様。)に設定される。このバックアップロール25は、中間転写ベルト15の裏面側に配置されて二次転写ロール22の対向電極をなし、二次転写バイアスを印加する金属製等の給電ロール26が接触して配置されている。
一方、二次転写ロール22は、例えば、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは例えば鉄、SUS等の金属等で構成された円柱状等の棒である。スポンジ層は、例えばカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴム等で形成され、体積抵抗率が例えば107.5Ωcm以上108.5Ωcm以下のスポンジ状等の円筒状等のロールである。そして、二次転写ロール22は、中間転写ベルト15を挟んでバックアップロール25に圧接して配置され、さらに二次転写ロール22は接地されてバックアップロール25との間に二次転写バイアスが形成され、二次転写部20に搬送される記録媒体P上にトナー像を二次転写する。
また、中間転写ベルト15の二次転写部20の下流側には、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉等を除去し、中間転写ベルト15の表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ35が接離自在に設けられている。一方、イエローの画像形成ユニット1Yの上流側には、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準となる基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配設されている。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配設されている。この基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられた予め定めたマーク等を認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部40からの指示により、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kが画像形成を開始するように構成されている。
さらに、本実施形態の画像形成装置3では、用紙搬送系として、例えば、記録媒体Pを収容する用紙トレイ50、この用紙トレイ50に集積された記録媒体Pを所定のタイミングで取り出して搬送するピックアップロール51、ピックアップロール51にて繰り出された記録媒体Pを搬送する搬送ロール52、搬送ロール52により搬送された記録媒体Pを二次転写部20へと送り込む搬送シュート53、二次転写ロール22によって二次転写された後に搬送される記録媒体Pを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55、記録媒体Pを定着装置60に導く定着入口ガイド56等を備えている。
次に、本実施形態に係る画像形成装置の基本的な作像プロセスの一例について説明する。図2に示すような画像形成装置では、図示しない画像読取装置(IIT)や図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置(IPS)にて所定の画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって作像作業が実行される。IPSでは、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の所定の画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、レーザ露光器13に出力される。
レーザ露光器13では、入力された色材階調データに応じて、例えば半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各々の感光体ドラム11に照射する。画像形成ユニット1Y,1M,1C、1Kの各感光体ドラム11では、帯電器12によって表面が帯電された後、このレーザ露光器13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにて、Y,M,C,Kの各色のトナー像として現像される。
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体ドラム11上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム11と中間転写ベルト15とが接触する一次転写部10にて、中間転写ベルト15上に転写される。より具体的には、一次転写部10において、一次転写ロール16にて中間転写ベルト15の基材に対しトナーの帯電極性(マイナス極性)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が付加され、トナー像を中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて一次転写が行われる。
トナー像が中間転写ベルト15の表面に順次一次転写された後、中間転写ベルト15は移動してトナー像が二次転写部20に搬送される。トナー像が二次転写部20に搬送されると、用紙搬送系では、トナー像が二次転写部20に搬送されるタイミングに合わせてピックアップロール51が回転し、用紙トレイ50から予め定めたサイズの用紙である記録媒体Pが供給される。ピックアップロール51により供給された記録媒体Pは、搬送ロール52により搬送され、搬送シュート53を経て二次転写部20に到達する。この二次転写部20に到達する前に、記録媒体Pは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト15の移動タイミングに合わせてレジストロール(図示せず)が回転することで、記録媒体Pの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされる。
二次転写部20では、中間転写ベルト15を介して、二次転写ロール22がバックアップロール25に押圧される。このとき、タイミングを合わせて搬送された記録媒体Pは、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。その際に、給電ロール26からトナーの帯電極性(マイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)が印加されると、二次転写ロール22とバックアップロール25との間に転写電界が形成される。そして、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像は、二次転写ロール22とバックアップロール25とによって押圧される二次転写部20にて、記録媒体P上に一括して静電転写される。
その後、トナー像が静電転写された記録媒体Pは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離された状態でそのまま搬送され、二次転写ロール22の用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト55へと搬送される。搬送ベルト55では、定着装置60における最適な搬送速度に合わせて、記録媒体Pを定着装置60まで搬送する。定着装置60に搬送された記録媒体P上の未定着トナー像は、定着装置60によって熱および圧力で定着処理を受けることで記録媒体P上に定着される。そして定着画像が形成された記録媒体Pは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙載置部に搬送される。
一方、記録媒体Pへの転写が終了した後、中間転写ベルト15上に残った残留トナー等は、中間転写ベルト15の回転駆動に伴ってクリーニング部まで搬送され、クリーニングバックアップロール34および中間転写ベルトクリーナ35によって中間転写ベルト15上から除去される。
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
ポリイミドベルト(内径φ30、長さ400mm)の外周面上に次のようにして誘導加熱発熱層を設けた。まず、無電解めっき法により、下地金属層として厚み0.5μmの銅層を設けた後、電解めっき法により、金属発熱層として厚み10μmの銅層を設けた。この後、Watt浴で金属保護層として厚み9μmのニッケル層を設けた。
この後、スパッタリング装置を用い、ニッケル層上に鉄触媒膜を膜厚換算で2nmになるように形成した。その後、エッチング装置を用い、アルゴンイオンによる反応性イオンエッチングによって触媒を調製した。続いて、反応炉内で、400℃の環境下で、エチレン(供給速度100sccm)と、水を含有した窒素(水分量7800ppmv;供給速度18sccm)と窒素(供給速度900sccm)との混合ガスを表面に10分間吹きかけてカーボンナノチューブ(CNT)構造体を合成した。出来上がったCNT構造体は厚さ0.8mm、密度0.009g/cm3であった。このCNTをTEMで観察したところ、太さが2〜5nm(アスペクト比で160000〜400000)のSWCNTとMWCNTが混合した分岐状の形態であった。出来上がったCNT構造体をロールプレス法で圧縮して密度を4倍程度にして、厚み0.2mm、密度0.036g/cm3とし、弾性層付きベルトを得た。弾性層付きベルトに、あらかじめ押出し成型によりチューブ状に成型したPFAチューブ(厚さ30μm)を表面層として被覆し、定着ベルト1を得た。
このベルトの熱容量(各層の熱容量を測定して、合算)、表面硬度(マイクロC硬度)、熱老化試験での硬度変化(500℃で100hr加熱前後のマイクロC硬度比較)の評価を行った。また、このベルトを用いて、画質を評価した。結果を表1,2に示す。評価方法は以下の通りである。
[評価]
(熱容量)
各層の熱容量の測定は熱分析装置(島津製作所製、DSC60)を用いて、各層の比熱を測定し、各層の重量と掛け合わせることで行った。
(表面硬度(マイクロC硬度))
表面硬度(マイクロC硬度)の測定は、マイクロC硬度計(高分子計器製、MD−1capa タイプC)を用いて、常温で行った。
(熱老化試験での硬度変化)
350℃に加熱したオーブン内でベルトを100hr加熱し、加熱前後の表面硬度(マイクロC硬度)を上記のようにして測定した。
富士ゼロックス製の画像形成装置 DC−IVC3370を改造して、定着ベルト1を装着した装置を用いて、ウォームアップ時間、連続10枚(富士ゼロックス:P紙)プリント時の画質(光沢度、光沢ムラ)を評価した。評価方法、評価基準は以下の通りである。
(ウォームアップ時間)
ウォームアップ時間(WUT)は、1000Wで加熱開始から定着部材表面が170℃になるまでの時間とした。
(光沢度)
画像の光沢度の測定は、グロス計(Gardner社:micro−TRI−Gloss)を用いて、60°グロスを3回測定し、平均値を求め評価した。
○:30以上
×:30未満
(光沢ムラ)
光沢ムラは、定着画像を目視で観察することより、評価した。
○:光沢度の高い部分に対して、光沢度低い部分が斑点状に見える
×:光沢度の高い部分に対して、光沢度低い部分が斑点状に見えない
<比較例1>
弾性層として、熱伝導フィラーを含有するJIS A硬度13度のシリコーンゴム(信越化学工業製:X34−1053)を用いて、0.2mmの弾性層とした以外は、実施例1と同様に、定着ベルト2を得て、評価を行った。結果を表1,2に示す。
<比較例2>
弾性層の厚みを0.1mmとした以外は、比較例1と同様に定着ベルト3を得て、評価を行った。結果を表1,2に示す。
<比較例3>
熱伝導フィラーを含まないJIS A硬度13度のシリコーンゴムとした以外は、比較例1と同様に、定着ベルト4を得て、評価を行った。結果を表1,2に示す。
<比較例4>
弾性層として、JIS A硬度13度のシリコーンゴム(X34−1053)にカーボンナノチューブ(昭和電工社製:VGCF−H(商品名)、径150nm、長さ6μm、アスペクト比40)を10堆積%添加したものを用いて、0.2mmの弾性層とした以外は、実施例1と同様に、定着ベルト5を得て、評価を行った。結果を表1,2に示す。
このように、カーボンナノチューブのネットワーク状の構造体から構成される弾性層を有する実施例の定着ベルトは、比較例の定着ベルトに比べて低熱容量であった。これにより、ウォームアップ時間が短縮された。