JP2011149731A - プラスチックシンチレータ部材の製造方法及び放射線検出器 - Google Patents

プラスチックシンチレータ部材の製造方法及び放射線検出器 Download PDF

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Abstract

【課題】遮光薄膜の強度や密着性を向上できるとともに、β線の吸収抑制が可能なプラスチックシンチレータ部材の製造方法及びその部材を用いた放射線検出器を提供する。
【解決手段】放射線検出器10は、表面が平坦化処理されたプラスチックシンチレータ1と、蛍光を電気信号に変換する光電子増倍管4と、反射層9、遮光層12及び保護層13の順で積層される積層薄膜11と、プラスチックシンチレータ1及び光電子増倍管4の遮光を行う遮光ケース3とを備え、反射層9がプラスチックシンチレータ1の表面に直接形成されている。
【選択図】図8

Description

本発明は、プラスチックシンチレータ部材の製造方法及びその部材を用いた放射線検出器に関する。
プラスチックシンチレータは、スチレンやトルエンなどの有機溶剤に蛍光体(アントラセン、スチルベンゼンなど)を溶解して高分子化(ポリスチレン、ポリビニルトルエンなど)した固体シンチレータである。
このプラスチックシンチレータは、薄膜の大面積化、長尺形状などへの成形加工が容易であり、軽量かつ柔軟性があるため耐衝撃性にも優れ、かつ低コストで入手性が良いことから、様々な放射線検出器に適用されている。また、材料の比重が小さくγ線感度が低いことから、β線を計測対象とした高感度な放射線検出器に適用されている。
プラスチックシンチレータにおいては、発する蛍光は微弱であるため、検出には光電子増倍管が必要となる。このため、上記放射線検出器のケースは外光を遮断した構造となっており、その内部にプラスチックシンチレータと光電子増倍管が格納され、プラスチックシンチレータが発した蛍光を集光して光電子増倍管で検出できるように配置されている。
また、ケースには放射線入射窓が設けられており、放射線入射窓の面にプラスチックシンチレータの表面が密着するように配置される。β線を透過させつつ外光を遮断する目的から、通常ポリエステルなどの樹脂フィルムの片面又は両面に遮光材料としてのアルミニウムを蒸着した薄膜の窓材が放射線入射窓に数枚重ねた状態で形成される。
更に、計測対象が窓材に接触する可能性がある場合に窓材を保護するため、開口率の高い格子状の保護部材が放射線入射窓の面上部に設けられる。
図11(a)、(b)は、従来の放射線検出器の構成を示すものである。
この放射線検出器50では、光電子増倍管4を収容した遮光ケース3の上部に、透明補強部材52で補強されたプラスチックシンチレータ51が配置され、さらにその上部に窓材53が設けられている。遮光ケース3の内面は酸化チタン材料等からなる図示しない乱反射材が塗布されており、遮光ケース3内に光電子増倍管4の光電面が露出した状態で配置されている。
この構成によれば、プラスチックシンチレータ51の発する蛍光は遮光ケース3内全体に広がり、光電子増倍管4の光電面に入射する。
窓材53は、図11(b)に示すように、補強材となる透明樹脂フィルム55の両面にアルミニウム蒸着層56が形成されてなり、プラスチックシンチレータ51の放射線入射面との間に空気層54を介在させて密着配置されている。
しかしながら、この窓材53の遮光機能はアルミニウム蒸着層56のみで成立させており、樹脂フィルム55はβ線透過の阻害要因となる。
例えば、透明樹脂フィルム55を厚さ約6μmのポリエステルフィルムとして、その両面にアルミニウム蒸着層56が約300Åの厚さで形成された窓材53を3枚重ねた場合を考える。厚さ(mg・cm−2:単位面積当たり質量)は以下の式で表される。
厚さ(mg・cm−2)=膜厚(cm)×密度(mg・cm−3)・・・(1)式
この(1)式を用いて窓材3枚の厚さ(mg・cm−2)を計算すると、以下のようになる。
ポリエステルフィルムの厚さ(mg・cm−2):6μm×3枚×1.14(mg・cm−3)=2.052
アルミニウム蒸着層の厚さ(mg・cm−2):300Å×6層×2.7(mg・cm−3)=0.049
但し、ポリエステル密度:1.14mg・cm−3、アルミニウム密度:2.70mg・cm−3
従って、両者の厚さ(mg・cm−2)の比は42:1となっており、アルミニウム蒸着層56よりも透明樹脂フィルム層55が支配的であることが分かる。透明樹脂フィルム層56をより薄くすることも考えられるが、当然ながら強度は更に低下してしまう。
そこで、物理的に強い遮光層を実現すべく、プラスチックシンチレータ面との間に接着層を介在させて、遮光層、保護層などを積層した遮光膜シートを熱転写等で貼り付ける方法が考えられる(特許文献1参照)。
この方法により、プラスチックシンチレータと遮光膜シートが接着によって一体化して物理的に強い遮光層が実現できる。
特開2007−147581号公報
プラスチックシンチレータ内で発光した蛍光は、等方的角度に一様に広がるが、例えば平板形状のプラスチックシンチレータの場合、空気層との屈折率差によって生じる臨界角でプラスチックシンチレータ内を全反射伝播する蛍光成分と、プラスチックシンチレータの外に放出される蛍光成分がある。
後者の蛍光成分は、遮光膜のアルミニウム蒸着層で反射され、多くはプラスチックシンチレータを透過して反対側に放出される。
しかしながら、特許文献1のように、接着剤を介在させてプラスチックシンチレータ表面に遮光膜シートを貼ると、接着層が蛍光を吸収するため集光量が減少する要因となる。特に、接着層は数μm程度の厚みが必要と考えられ、これはβ線透過を阻害する上で無視できないと考えられる。
しかも、この接着層には反射率を高めるために酸化チタンの粉末が添加されているが、この酸化チタン粉末により、接着性能は低下してしまう。
そこで、本発明は、遮光薄膜の強度や密着性を向上できるとともに、β線の吸収抑制が可能なプラスチックシンチレータ部材の製造方法及びその部材を用いた放射線検出器を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明のプラスチックシンチレータ部材の製造方法は、放射線の入射により蛍光を発光するプラスチックシンチレータの放射線入射面を平坦化処理する工程と、前記平坦化処理されたプラスチックシンチレータの前記放射線入射面に、遮光性を有する反射層を直接形成する工程と、を備えることを特徴とする。
また、上述の目的を達成するため、本発明の放射線検出器は、表面が平坦化処理された、放射線の入射により蛍光を発光するプラスチックシンチレータと、前記蛍光を電気信号に変換するセンサと、遮光性を有する反射層を少なくとも有し、前記反射層が前記プラスチックシンチレータの表面に直接形成された積層薄膜と、前記プラスチックシンチレータと前記センサの遮光を行うケースと、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、遮光薄膜の強度や密着性を向上できるとともに、β線の吸収抑制が可能なプラスチックシンチレータ部材及びその部材を用いた放射線検出器を提供することができる。
本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第1の実施の形態を説明する断面図であり、(a)は溶剤塗布前、(b)は溶剤塗布後、(c)は溶剤除去後の状態を示す図。 本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第2の実施の形態を説明する断面図であり、(a)は研磨前、(b)は研磨中、(c)は研磨後の状態を示す図。 本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第3の実施の形態を説明する断面図であり、(a)は研削前、(b)は研削中、(c)は研削後の状態を示す図。 本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第4の実施の形態を説明する断面図。 本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第5の実施の形態を説明する断面図。 本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第6の実施の形態を説明する断面図。 本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第7の実施の形態を説明する断面図。 本発明に係る放射線検出器の一実施の形態を示す断面図であり、(a)は全体断面図、(b)は(a)の積層薄膜部分B部の拡大断面図。 本発明に係る放射線検出器の他の実施の形態を示す平面図。 本発明に係る放射線検出器の他の実施の形態を示す平面図であり、(a)はシンチレータを並べて配置した状態、(b)は表面に保護格子を設けた状態を示す図。 従来の放射線検出器を示す断面図であり、(a)は全体断面図、(b)は(a)の窓材部分B部の拡大断面図。
以下、本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第1の実施の形態を示す断面図である。
本実施の形態では、まず、図1(a)に示すように、プラスチックシンチレータ1と補強部材2とを貼り合わせたプラスチックシンチレータ部材を用意する。
(プラスチックシンチレータ1)
例えば、β線検出を目的としたプラスチックシンチレータ1は、バックグラウンド線種であるγ線の反応確率を抑制するために薄く加工されており、その厚さはおよそ0.1mm〜0.4mmであり、望ましくは0.2mmである。このような薄く加工されたプラスチックシンチレータ1は外力に対して脆くなっているので、プラスチックシンチレータ1と補強部材2とを接合し、一体化させることによって強度が確保される。
(補強部材2)
補強部材2は、プラスチックシンチレータの発する蛍光を透過できるように例えば無色透明アクリル系樹脂で形成され、その面サイズはプラスチックシンチレータ1と同じか、或いは多少大きめとすることが望ましい。プラスチックシンチレータ1の面サイズが600mm×300mmとした場合、補強材の厚みは3mm〜5mm程度で必要十分な強度が得られる。あまり厚くすると、蛍光の吸収が大きくなり感度低下を招く可能性がある。
(両者の接合)
プラスチックシンチレータ1と補強部材2との接合に用いる接合剤は、例えばBC600(サンゴバン株式会社)、アロンアルファ(R)201(東亞合成株式会社)などが適用できる。この接合剤を介して補強部材2にプラスチックシンチレータ1を全面接着する。このとき、接着層に接着剤の余剰分や気泡、異物が混入しないように留意する。接着剤の余剰分や気泡を排除するには、プラスチックシンチレータ1にポリエチレンなどの保護フィルムを敷いてその上からローラなどで押し出すと比較的容易である。
(異物5a及びキズ・空孔5b)
ここで、プラスチックシンチレータ1には、図1(a)に示すように、製造過程でその表面に付着したと考えられる数μm程度から10μmを超えるような複数の異物5aが、プラスチックシンチレータ1の表面に存在(一部は埋め込まれた状態となって存在)している場合がある。
このような異物5aが存在したままの状態で、プラスチックシンチレータ1の表面に後述する積層薄膜を直接形成しても積層薄膜から異物5aが突き出してしまい、これがピンホールとなって遮光が成立できないことがある。
このような異物5aは、その表面を純水や中性洗剤などで洗い流す、エアーを吹き付けるなどの単なる洗浄処理では除去することができない。
しかも、プラスチックシンチレータ1には、異物5aと合わせて表面に長さが数μm程度から数10μmのキズや深さが数μm程度の空孔が複数存在している場合もあり、このような表面キズ・空孔5bが存在したままの状態で、後に説明するプラスチックシンチレータ1の表面に積層薄膜を直接形成しても積層薄膜の欠陥が生じてしまい、これがピンホールとなって遮光が維持できないことがある。
そこで、例えば、クラス1000程度のクリーンルームなどの室内や空気吸入口にHEPAフィルタなどを設けて連続換気しているフード内において、図1(b)に示すように、例えば溶剤6をプラスチックシンチレータ1の表面に塗布するなどして、表面を化学的に研磨する。
(溶剤6の塗布による平坦化処理)
溶剤6は、例えばプラスチックシンチレータ1に対して良溶媒となる成分を含むケトン系の溶剤であり、シクロヘキサノンなどが適用できる。
溶剤6の塗布方法としては、吹き付けやスピン塗布による方法がプラスチックシンチレータ1の全面に溶剤を短時間で一様に塗布できる。
溶剤6の塗布により、プラスチックシンチレータ1の表面が溶解されて、溶解層6aが形成される。
塗布後は、60秒〜300秒間放置し、直ちに溶剤6を除去する。除去方法としては、例えばプラスチックシンチレータ1の表面に対して窒素ガスなどを高速に吹き付けて溶剤をとばす方法がある。この方法によれば、簡易でプラスチックシンチレータ1に対する影響が少ない。スピン塗布の場合では、再度スピンさせることで溶剤を除去できるが、スピンさせながら、窒素ガスなどを高速に吹き付けることでより溶剤6が除去し易くなる。
最後に、プラスチックシンチレータ1の軟化温度未満で乾燥する。例えば、ポリビニルトルエン母材のプラスチックシンチレータ1では、乾燥温度を約67℃未満とし、望ましくは40℃以下とする。また、乾燥時間を短縮させ、乾燥中のプラスチックシンチレータ1の表面に埃などの異物が付着しないようにするため、乾燥は真空容器中で行うことが望ましい。真空度は中真空度程度あれば十分な効果が得られる。
以上により、図1(c)に示すように、プラスチックシンチレータ1の表面に異物5aや表面キズ・空孔5bが無い平坦なプラスチックシンチレータ部材を得ることができる。
[第2の実施の形態]
(研磨材7を用いた研磨による平坦化処理)
図2は、本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第2の実施の形態を示す断面図である。
本実施の形態では、まず、図2(a)に示すように第1の実施の形態と同様のプラスチックシンチレータ部材を用意した後、図2(b)に示すように、研磨材7を用いてプラスチックシンチレータ1の表面を研磨することにより、プラスチックシンチレータ1の平坦化処理を行う。
研磨材7は、例えば、フィルム表面に凹凸のある立体構造のパターンを設けた研磨フィルム(住友スリーエム製のディスク状研磨フィルム「トライザクト(R)」)などを好適に使用できる。
この研磨フィルム(例えば、トライザクト(R)466LA)を回転器8に装着して、例えばコンパウンドとして全面に純水を塗布したプラスチックシンチレータ1の表面に当てて研磨を行い、プラスチックシンチレータ1の表面に存在する異物5aや表面キズ・空孔5bを除去する。
研磨後は、純水などで洗い流して研磨カスを除去し、更により細かい研磨フィルム(例えば、トライザクト(R)266LA)を回転器8に装着する。その後、例えば、全面に純水を塗布したプラスチックシンチレータ1の表面に当てて研磨を行い、プラスチックシンチレータ1の表面のキズなどを軽減化させる。研磨後は、純水などで洗い流して研磨カスを除去する。
以上により、図2(c)に示すように、プラスチックシンチレータ1の表面に異物5aや表面キズ・空孔5bが少ない平坦なプラスチックシンチレータ部材を得ることができる。
[第3の実施の形態]
(研磨材7を用いた研削による平坦化処理)
図3は、本発明に係るプラスチックシンチレータ部材の製造方法の第3の実施の形態を示す断面図である。
本実施の形態では、まず、図3(a)に示すように第1の実施の形態と同様のプラスチックシンチレータ部材を用意した後、図3(b)に示すように、研磨材7を用いてプラスチックシンチレータ1の表面を研削することにより、プラスチックシンチレータ1の平坦化処理を行う。
研磨材7は、例えばフィルム表面に凹凸のある立体構造のパターンを設けた研磨フィルム(住友スリーエム製のディスク状研磨フィルム「トライザクト」(R)など)などを好適に使用できる。
この研磨フィルムを表面が平坦な回転器8の面に固定して回転させた状態で、研磨フィルム(例えば、トライザクト(R)466LA)の部位をプラスチックシンチレータ1の表面対して均一の押し付け力で表面全体を数nm〜数μmの深さまで研削し、プラスチックシンチレータ1の表面に存在する異物5aや表面キズ・空孔5bを除去する。
研削後は、純水などで洗い流して研削カスを除去し、続けてより細かい研磨フィルム(例えば、トライザクト(R)266LA)を回転器8に装着する。その後、例えば全面に純水を塗布したプラスチックシンチレータ1の表面に当てて研磨を行い、プラスチックシンチレータ1の表面のキズなどを軽減化させる。研磨後は、純水などで洗い流して研磨カスを除去する。
以上により、図3(c)に示すように、プラスチックシンチレータ1の表面に異物5aや表面キズ・空孔5bが無い平坦なプラスチックシンチレータ部材を得ることができる。
[第4の実施の形態]
(平坦化されたプラスチックシンチレータ1の表面に反射層の直接形成)
本実施の形態では、第1〜第3の実施の形態のいずれかの平坦化処理方法で平坦化されたプラスチックシンチレータ1の表面に、図4に示すように、反射層9を直接形成する。
反射層9は、プラスチックシンチレータ1として例えばサンゴバン社のBC400やELJEN社のEJ212を用いた場合、蛍光波長は約420nmであるので、この蛍光を効率良く反射できる特性を備える材料を用いる。例えば、アルミニウムや酸化チタンなどの材料を用いることにより、表面反射率80%以上が得られる。
このような材料を反射材としてプラスチックシンチレータ1の表面に直接形成するため、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法による成膜装置が適用できる。
反射材としてアルミニウムを使用した場合、アルミニウムの屈折率nは1.48であるので、上記蛍光(約420nm)を反射するために必要な最低膜厚は、以下のようになる。
λ/4=n・d (λ:波長、n:屈折率、d:厚み)・・・・(2)式
(2)式より、
420nm÷4=1.48×d
d=0.07μm
例えば、スパッタリング装置を用い、上記最低膜厚の3倍程度の0.2μm膜厚のアルミニウムをプラスチックシンチレータ1の表面に成膜する場合、15分以内で成膜することができる。このとき、プラスチックシンチレータ1に生じる温度は40℃未満であり、熱による変形、劣化は生じない。
また、プラスチックシンチレータ1の表面にアルミニウムを成膜する他の方法として、真空蒸着装置やCVD(化学的蒸着)装置を使用しても良い。
真空蒸着装置を使用する場合は、短時間での成膜が可能であるが、成膜中のプラスチックシンチレータ1に加える温度はプラスチックシンチレータ1の軟化温度未満とし、望ましくは、40℃未満とする。
アルミニウムCVD装置を使用する場合は、有機金属気体堆積法としてアルミニウムを含有したガスの化学反応を利用してプラスチックシンチレータ1の表面にアルミニウムを堆積させることで、加熱を伴うことなく成膜することができる。
成膜されたアルミニウムは比較的表面の凹凸が小さい薄膜であるが、構造的に残留ガスなどの影響を受けやすく、薄膜が形成される過程で不純物原子が入り込んでくるため、膜内に格子欠陥や空孔、歪などが多くなることが知られている。このため、所定厚さに成膜する場合、成膜プロセスを2〜3回繰り返すことで、欠陥上に新しい膜が形成されるため、成膜後の欠陥数を抑制することができる。
以上説明したように、第1〜第3の実施の形態のいずれかの平坦化処理方法により、プラスチックシンチレータ1の表面に付着している異物や表面のキズや空孔を除去して平坦化した後、本実施の形態により反射層9を直接形成して遮光膜として成立させることができる。
[第5の実施の形態]
(平坦化されたプラスチックシンチレータ1表面に積層薄膜11の直接形成)
本実施の形態では、図5に示すように、第1〜第3の実施の形態のいずれかの平坦化処理方法で平坦化されたプラスチックシンチレータ1の表面に、積層薄膜11を直接形成する。この積層薄膜11は、反射層9、遮光層12及び保護層13から構成される。
(遮光層12)
反射層9がアルミニウム蒸着層の場合、成膜欠陥に起因するピンホールが確率的に存在する。また、アルミニウム蒸着層は脆く、気中に長期間晒すと劣化しやすい。また、反射層9が酸化チタンの場合は、全体的に光が透過して十分な遮光が得られない。このため、反射層9の全表面上に遮光層12が積層される。
遮光層12の材料は、例えば、カーボンブラックやチタンブラックを含有した樹脂を用いることが望ましい。
(保護層13)
保護層13は、遮光層12の全表面上に積層される。ここで、窓材の損傷は、製造時や運用時の偶発事故とは別に、人が興味本位に爪先や鉛筆、シャープペンシルの芯先で突いたり、引っ掻いたりなどしたこと、も要因の一つであると言われている。
例えばJIS K5600−5−4(ISO/DIN 15184) 引っ掻き硬度(鉛筆法)準拠で表すと、人の爪先硬度は一般に2H前後と言われており、鉛筆などの芯は通常B〜Hの間が良く利用されている。
本実施の形態では、積層薄膜11がプラスチックシンチレータ1の表面に直接形成され、かつ、プラスチックシンチレータ1は透明補強部材2に接合されていることから、積層薄膜11の表面に印加される局所応力は全体に分散され、積層薄膜11は容易に破壊されない。
更に、保護層13の表面硬度を鉛筆硬度で2H以上にすることで、上記の要因による破壊をより一層減少させることができる。
また、保護層13の材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ガラスなどが適用できる。
また、積層薄膜11が静電気放電(ESD)破壊を受ける可能性や、帯電によって埃等が窓材表面に吸着して埃に含まれるラドン系放射性物質の影響でバックグラウンドが増加する可能性が懸念されるため、保護層13の表面は導電性を有し、かつ接地することが好ましい。
一般的に帯電防止に効果のある表面抵抗値を考慮して、保護層13の表面の表面抵抗値は1010Ω/sq.以下とすることが好ましい。
[第6の実施の形態]
(平坦化されたプラスチックシンチレータ1表面に積層薄膜11’の直接形成)
本実施の形態では、図6に示すように、第1〜第3の実施の形態のいずれかの平坦化処理方法で平坦化されたプラスチックシンチレータ1の表面に、積層薄膜11’を直接形成する。この積層薄膜11’は、反射層9及び遮光層12’から構成される。
積層薄膜は、層数に応じて成膜コストが増加するため、1つの層に多くの機能を持たせて、層数を削減できれば、成膜コストを削減することができる。
このため、本実施の形態では、図6に示す遮光層12’の表面抵抗値を1010Ω/sq.以下として導電性を付与するとともに、鉛筆硬度で2H以上の表面硬度を備える材料を使用することにより、導電性及び保護機能を有する遮光層12’とすることができる。
[第7の実施の形態]
(プラスチックシンチレータ1の表面に立体構造パターンの形成)
第1の実施の形態で使用した溶剤6による平坦化処理を施したプラスチックシンチレータ1の表面は、溶剤6の塗布によって表面層が膨張し、プラスチックシンチレータ1が変形することがある。
このため、本実施の形態では、プラスチックシンチレータ1の表面から溶剤6を除去した後、図7に示すような規則的な立体構造パターン15をプラスチックシンチレータ1の表面全体に形成する。
即ち、溶剤6を除去した後のプラスチックシンチレータ1の表面層は軟化しているため、例えば、高さ数nm〜数10nmの規則的な立体構造パターン15を形成したシリコン板などを、軟化したプラスチックシンチレータ1の表面にプレスする。これより、シリコン板表面の立体構造パターン15がプラスチックシンチレータ1の表面に形成される。
この立体構造パターン15は、プラスチックシンチレータ1の表面層の膨張で生じる応力を分散させるため、プラスチックシンチレータ1に変形が生じにくくなる。
また、この立体構造パターン15が形成されたプラスチックシンチレータ1の上に反射層8を形成するため、プラスチックシンチレータ1で発光した蛍光は立体構造パターン15で強制的に散乱させられて、遮光ケース1の内部に蛍光を充満させやすくなる。
なお、上記例では立体構造パターンを規則的なパターンとしたが、不規則なパターンを用いても同様の効果を奏することができる。
更に、プラスチックシンチレータ1を補強するための透明補強部材2において、プラスチックシンチレータ1を接合する面の反対側の全表面に、高さ数nm以上の立体構造パターンを形成することもできる。
例えば、透明補強部材2をアクリル材とした場合、微細配線などパターン形成装置で表面に規則的又は不規則な立体構造パターンを形成したシリコン基板をアクリルの軟化温度以上に加熱して透明補強部材2の表面にプレスすることにより、シリコン基板表面の立体構造パターンが透明補強部材2の表面に形成される。
この立体構造パターンによって蛍光を強制的に散乱させる機能が付加されることより、遮光ケース1の内部に蛍光を充満させ易くすることができる。
[第8の実施の形態]
(平坦化されたプラスチックシンチレータ1表面に積層薄膜11を直接形成した放射線検出器10)
図8(a)、(b)は、本発明に係る放射線検出器の一実施の形態を示す断面図である。
この放射線検出器10では、図8(a)に示すように、光電子増倍管4を収容した遮光ケース3の上部に、透明補強部材2で補強されたプラスチックシンチレータ1が配置され、さらにそのプラスチックシンチレータ1上に積層薄膜11が設けられている。
積層薄膜11は、図8(b)に示すように、第5の実施の形態で示した反射層9、遮光層12及び保護層13が順に形成されてなる。また、反射層9は、プラスチックシンチレータ1の放射線入射面の表面に直接形成される。
積層薄膜11の反射層9をプラスチックシンチレータ1の表面に直接形成することで、強度や密着性を確保するとともに、プラスチックシンチレータ1の蛍光を効率良く反射させることができる。
また、反射層9の全表面に遮光層12を積層することで、反射層9に生じるピンホールを遮光できる。
更に、遮光層12の全表面に保護層13を積層することで、遮光層12を外力から保護することができる。
以上のことより、積層薄膜11の強度や密着性を向上できるとともに、β線の吸収抑制が可能な放射線検出器10を提供することができる。
なお、本実施の形態では積層薄膜11を3層構造としたが、保護層13として、遮光性と導電性と表面硬度を備える材料を使用することで、反射層9と保護層13の2層で積層薄膜11を構成しても良い。2層に層数を削減することにより成膜コストを抑制することができる。
[第9の実施の形態]
(放射線入射窓面の上部に保護部材を形成した放射線検出器20)
本発明に係る放射線検出器の他の実施の形態について、図9及び図10を参照して説明する。
図9は、本発明に係る放射線検出器の他の実施の形態を示す平面図である。
本実施の形態の放射線検出器20は、第8の実施形態の放射線検出器に、更に積層薄膜11を測定対象から保護するために、複数の開口部が形成された保護格子17を積層薄膜11の上部に設けている。
また、図10(a)に示すように、積層薄膜11を表面に形成した複数の平板形状のプラスチックシンチレータ1を並べて配置し、大面積の検出面を構成した場合、図10(b)に示すように、保護格子17をつなぎ目と重なるように設けることで、プラスチックシンチレータ1のつなぎ目19から外光が入り込むことを防止するとともに、見栄えを良くすることができる。
更に、積層薄膜11の導電性の表面と導電性の保護格子17を電気的に接続し、かつ接地することで、静電気破壊や帯電を防止することが可能になる。
1… プラスチックシンチレータ
2… 透明補強部材
3… 遮光ケース
4… 光電子増倍管
5a…異物
5b…表面キズ・空孔
6… 溶剤
6a…溶解層
7… 研磨材
8… 回転器
9… 反射層
10…放射線検出器
11…積層薄膜
12…遮光層
13…保護層
15…立体構造パターン
17…保護格子
19…つなぎ目
20…放射線検出器

Claims (17)

  1. 放射線の入射により蛍光を発光するプラスチックシンチレータの放射線入射面を平坦化処理する工程と、
    前記平坦化処理されたプラスチックシンチレータの前記放射線入射面に、遮光性を有する反射層を直接形成する工程と、
    を備えることを特徴とするプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  2. 前記平坦化処理する工程は、
    前記プラスチックシンチレータの材質を溶解させる溶剤を用いて、前記プラスチックシンチレータの表面を溶解させる工程と、
    前記プラスチックシンチレータの表面から前記溶剤を除去する工程と、
    前記プラスチックシンチレータを軟化温度未満で乾燥する工程と、
    を備えることを特徴とする請求項1記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  3. 前記乾燥する工程は、真空内で乾燥することを特徴とする請求項2記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  4. 前記平坦化処理する工程は、
    前記プラスチックシンチレータの前記放射線入射面を研磨材で研磨する工程と、
    前記研磨されたプラスチックシンチレータの表面を洗浄する工程と、
    を備えることを特徴とする請求項1記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  5. 前記平坦化処理する工程は、
    前記プラスチックシンチレータの放射線入射面を研磨材で研削する工程と、
    前記研削されたプラスチックシンチレータの表面を洗浄する工程と、
    を備えることを特徴とする請求項1記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  6. 前記反射層の表面に、前記反射層とは異なる材質の遮光層を積層する工程を更に備えることを特徴とする請求項1記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  7. 前記遮光層の表面に、前記遮光層を保護するための保護層を積層する工程を更に備えることを特徴とする請求項6記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  8. 前記溶剤を除去する工程の後に、前記プラスチックシンチレータの放射線入射面の表面に、立体構造のパターンを形成する工程を更に備えることを特徴とする請求項2記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  9. 前記プラスチックシンチレータの片面に、前記プラスチックシンチレータの発する蛍光を透過する補強部材が形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  10. 前記溶剤を除去する工程の後に、前記補強部材における前記プラスチックシンチレータを接合する面の反対側の面に、立体構造のパターンを形成する工程を更に備えることを特徴とする請求項9記載のプラスチックシンチレータ部材の製造方法。
  11. 表面が平坦化処理された、放射線の入射により蛍光を発光するプラスチックシンチレータと、
    前記蛍光を電気信号に変換するセンサと、
    遮光性を有する反射層を少なくとも有し、前記反射層が前記プラスチックシンチレータの表面に直接形成された積層薄膜と、
    前記プラスチックシンチレータと前記センサの遮光を行うケースと、
    を備えたことを特徴とする放射線検出器。
  12. 前記積層薄膜は、前記プラスチックシンチレータ側から、反射層、遮光層及び保護層の順で積層されていることを特徴とする請求項11記載の放射線検出器。
  13. 前記保護層は、更に遮光性材料としてカーボンブラック又はチタンブラックを含有した樹脂層であって、前記遮光層を兼ねていることを特徴とする請求項12記載の放射線検出器。
  14. 前記プラスチックシンチレータの裏面側には、透明性を有する補強部材が設けられていることを特徴とする請求項11記載の放射線検出器。
  15. 前記積層薄膜の表面に、複数の開口部を有する金属の保護格子を設けたことを特徴とする請求項11記載の放射線検出器。
  16. 前記保護格子が複数の前記プラスチックシンチレータのつなぎ目と重なるように取り付けられることを特徴とする請求項15記載の放射線検出器。
  17. 前記保護格子は導電性の物質からなり、前記保護格子が前記積層薄膜の表面と電気的に接続され、かつ、接地されていることを特徴とする請求項15記載の放射線検出器。
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