JP2011144121A - 歯科用充填修復キット - Google Patents

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Abstract

【課題】1回のみの光照射により前処理材および充填修復材を硬化でき、硬化時に歯牙と充填修復材との間に剥離を抑制できる歯科用充填修復キットを提供すること。
【解決手段】(a)ラジカル重合性単量体、(b)光重合開始剤および(c)フィラーを含んでなり、硬化体の曲げ弾性率が2〜6GPaの範囲にある(A)充填修復材と、(d)酸性基含有ラジカル重合性単量体および(e)水を含む(B)前処理材と、を含んでなり、(A)充填修復材が、(B)前処理材が塗布され、且つ塗布された当該前処理材が未硬化である窩洞に直接充填される歯科用充填修復キットとしている。
【選択図】なし

Description

本発明は、歯科用充填修復キットに関する。
従来、歯牙の齲蝕などにより生じた小さい欠損(窩洞)は、アマルガムなどの金属材料にて充填されている。しかし、近年、天然歯牙色と同などの色調を付与できることおよび操作が容易なことから、アクリル系の重合性単量体、無機フィラー、および重合開始剤とを含んでなる、コンポジットレジンとよばれる充填修復材が好んで用いられている。充填修復材は、歯牙の形状を付する際には容易に変形できるが、充填を終了するとすぐに硬化することが好ましい。このため、最近の充填修復材は光重合開始剤を含み、生体に対して無害である可視光を用いて硬化するものが、好適に利用されている。
しかし、上記レジン系の充填修復材自体には歯牙に対する接着性がないために、レジン系の充填修復材料のみで歯牙の窩洞を充填すると、充填修復材と歯牙との間に隙間が生じることがある。その結果、その隙間から細菌が進入し、あるいは歯牙から充填修復材が脱落してしまう可能性が高くなる。
そこで、レジン系の充填修復材と歯牙との間に、酸性基を含有する単量体などを主成分の前処理材の層を設ける案が実用化されている。前処理材は、歯牙のエナメル質および象牙質の表面処理剤として作用し、充填修復材と歯牙との接着力を高める作用をする。このような前処理材を歯牙とレジン系の充填修復材との間に介在させることにより、充填修復材と歯牙とを隙間なく接着することができる。通常、これら前処理材は重合開始剤を含み、充填修復材を充填する前に重合硬化される。最近では、充填修復材と同様に光重合開始剤を含み、前処理材も可視光を用いて好適に硬化される。
歯牙の修復を行う作業は、以下の手順で行われる。まず、齲歯部分を削り、窩洞を形成する。次に、その窩洞に前処理材を塗布する。続いて、前処理材を硬化させるために、前処理材を塗布した部分に可視光を照射する。そして、前処理材の層の上に充填修復材を充填する。最後に、充填修復材を硬化させるために、充填修復材に可視光を照射する。
上述の修復方法の場合、可視光を2回照射する必要があるが、患者の負担を軽減し、修復作業の簡略化を図る観点から、可視光の照射回数を減らすことが望ましい。しかし、1回の可視光照射により、前処理材と充填修復材とを同時に硬化させると、充填修復材の重合収縮に伴い、収縮応力が生じる。この収縮応力は、接着面を引き剥がそうとするかたちで接着界面に集中する。この結果、前処理材と充填修復材との間に剥離が生じるので、接着強度が非常に小さくなり、あるいは長期間の接着耐久性に劣るという問題が生じやすい。
上述の問題を解決するために、種々の歯科用充填修復キットが開発されてきており、その一例として、充填修復材および前処理材の両方に、酸性基を有する重合性単量体、酸性基を有しない重合性単量体および重合開始剤を含む歯科用充填キットが提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。かかる歯科用充填修復キットにおいて、充填修復材は前処理材に似た組成から成ることから、前処理材と充填修復材との界面の親和性が高くなる。このため、前処理材と充填修復材との界面で剥離はかなり生じにくくなる。したがって、前処理材と充填修復材とを1回のみの光照射で同時に重合させた場合にも、比較的高い接着強度を有する。
同様に、充填修復材と前処理材に含まれる重合禁止剤あるいは光重合開始剤の量を調節することで、前処理材の光重合開始を早くした歯科用充填修復キットが知られている(たとえば、特許文献2参照)。かかる歯科用充填修復キットにおいて、歯面に塗布した前処理材と、該前処理材層上に充填した充填修復材を同時に光照射し硬化させた場合、前処理材層の光重合開始が早くなるため、同様に前処理材と充填修復材との界面で剥離はかなり生じにくくなる。したがって、同様に前処理材と充填修復材とを1回のみの光照射で同時に重合させた場合にも、比較的高い接着強度を有する。
特開2006−131621号公報(特許請求の範囲) 特開2007−210944号公報(特許請求の範囲)
このように、上述の特許文献1および2に開示される歯科用充填修復キットを用いれば、前処理材と充填修復材とを1回のみの光照射で同時に硬化させる場合でも、前処理材と充填修復材との界面で剥離はかなりに生じにくくなり、いわゆる窩洞適合性が向上する。しかし、実臨床での要求からすればまだ十分ではなく、可視光を2回照射する場合に比べれば、剥離の発生により歯質に対する充填修復材の保持力が低下し、充填修復材が脱落しやすいという問題および剥離により生じた隙間から細菌が侵入し、再び齲蝕が生じる問題は生じ易い。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、1回のみの光照射により前処理材および充填修復材を硬化できる歯科用充填修復キットであって、硬化時に歯牙と充填修復材との間に剥離を抑制できる歯科用充填修復キットを提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明者は、鋭意研究した結果、酸性基を含むラジカル重合性単量体および水を含む前処理材を用いて前処理をした後に、硬化体の曲げ弾性率を比較的低い一定の範囲内に制限した充填修復材を窩洞に充填し、可視光を照射して硬化させたところ、前処理材および充填修復材を1回のみの光照射で重合しても、可視光にて2回照射を行なった場合と同様に高い窩洞適合性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
特に、本発明は、(a)ラジカル重合性単量体100質量部、(b)光重合開始剤および(c)フィラーを含んでなり、硬化体の曲げ弾性率が2〜6GPaの範囲にある(A)充填修復材と、(d)酸性基含有ラジカル重合性単量体および(e)水を含む(B)前処理材と、を含んでなり、(A)充填修復材が、(B)前処理材が塗布され、且つ塗布された当該前処理材が未硬化である窩洞に直接充填される歯科用充填修復キットとするようにしている。
本発明によれば、歯牙に塗布した前処理材上に、硬化体の曲げ弾性率を2〜6GPaとした充填修復材を充填し、光硬化させることで、硬化途中の充填修復材の粘度が適切に低下し、重合収縮に伴って生じる重合収縮応力が緩和されながら、硬化反応が進行する。このため、充填修復材が完全に光硬化され後の接着界面への重合収縮応力が大幅に低減され、窩洞適合性が大幅に改善される。したがって、従来の2回の光照射を行なった場合と同じような窩洞適合性を得ることができる。
また、別の本発明は、(A)充填修復材が、(a)ラジカル重合性単量体100質量部に対してさらに1〜30質量部の(f)可塑剤を含む歯科用充填修復キットとしている。
このような組成の歯科用充填修復キットを採用すると、充填修復材の硬化体の曲げ弾性率を2〜6GPaに制限することが容易となり、高い窩洞適合性が得られる。
また、別の本発明は、(f)可塑剤が、高分子可塑剤である歯科用充填修復キットとしている。
このような組成の歯科用充填修復キットを採用すると、可塑剤として高分子量のものを用いているため、充填修復材として必要な低溶出性を確保でき、また、重合収縮を小さくすることができる。その結果、高い窩洞適合性を得ることができるとともに、治療後も長期間にわたしても剥離しなく、良い耐久性が得られる。
また、別の本発明は、(a)ラジカル重合性単量体100質量部中、(g)重量平均分子量が1000〜50000の範囲にある不飽和ウレタン系オリゴマーは5〜50質量部が含まれる歯科用充填修復キットとしている。
このような組成の歯科用充填修復キットを採用すると、不飽和ウレタン系オリゴマーを用いているため、前処理材と充填修復材との接触界面において、二重結合により重合促進効果を十分に発揮できる。また、分子量が1000〜50000の範囲にあるものが含まれるため、充填修復材として必要な低溶出性を大きく損なうことなく、曲げ弾性率を2〜6GPaの範囲に制限することができる。その結果、歯牙と充填修復材との間に高い接着強度を実現でき、かつ高い窩洞適合性を得ることができるとともに、治療後も長期間にわたしても剥離しなく、良い耐久性が得られる。
また、別の本発明は、(A)充填修復材が、さらに(h)塩基性無機材料および(i)第3級アミン化合物を含み、(a)ラジカル重合性単量体が(a1)酸性基非含有ラジカル重合性単量体である歯科用充填修復キットとしている。
このような組成の歯科用充填修復キットを採用すると、第3級アミン化合物および塩基性無機材料を含む充填修復材を充填することで、前処理材と充填修復材との接触界面では、塩基性が比較的高い塩基性無機材料と前処理材中の酸性基含有ラジカル重合性単量体の酸性基との間で中和反応が生じ、酸性基の酸が弱められ、第3級アミン化合物の重合促進効果の低減を回避できる。その結果、第3級アミン化合物は、前処理材と充填修復材との接触界面において重合促進効果を十分に発揮できる。さらに、充填修復材に含まれるラジカル重合性単量体は酸性基を含有せず、かつ前処理材に含まれるラジカル重合性単量体は酸性基を含有している。したがって、前者の単量体のpHは、後者の単量体のpHよりも高いため、充填修復材と前処理材との間にはpH勾配が生じる。その結果、充填修復材と前処理材が融和することで混合層が生じ、さらに、塩基性無機材料と前記酸性基との間で中和反応が生じる。そのため、この混合層中でも上記第3級アミン化合物の含有による光重合促進効果は、混合層中でも失われ難い。したがって、たとえ充填修復材の厚みが大きく、硬化時の光照射において前処理材側に達する光が弱い場合であっても、該前処理材側の重合を十分に進行させることができ、その結果、歯牙と充填修復材との間に高い接着強度を実現できる。また、充填修復材が酸性基含有ラジカル重合性単量体を含まないので、充填修復材は着色されにくい。このため、審美性に優れた充填物を実現できる歯科用充填修復キットとなる。
本発明によれば、1回のみの光照射により前処理材および充填修復材を硬化でき、硬化時に歯牙と充填修復材との間に剥離を抑制できる歯科用充填修復キットを提供することができる。
以下、本発明に係る歯科用充填修復キットの好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
本実施形態に係る歯科用充填修復キットは、大別すると、(A)充填修復材(以後、コンポジットレジンという)と(B)前処理材(以後、プライマーという)とを含む。コンポジットレジンは、プライマーが塗布され、且つ塗布されたプライマーが未硬化である窩洞に直接充填され、その後に光照射により硬化し、歯牙に接着される。コンポジットレジンには、主に(a)ラジカル重合性単量体、(b)光重合開始剤、および(c)フィラーが含まれ、プライマーには、主に(d)酸性基含有ラジカル重合性単量体および(e)水が含まれる。
(a)ラジカル重合性単量体
本実施の形態において、コンポジットレジンは、ラジカル重合性単量体を含む。ラジカル重合性単量体は、特に限定されず公知のラジカル重合性単量体が使用できる。また、ラジカル重合性単量体に含まれるラジカル重合性不飽和基も特に限定されず公知の如何なる基であっても良い。具体的には、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、または(メタ)アクリロイルチオ基などの(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、あるいはスチリル基などが挙げられる。なかでも重合性の観点から(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、または(メタ)アクリロイルアミノ基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。
このような(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体の具体例を例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、または2−メタクリロキシエチルアセトアセテートなどの重合性不飽和基を1つ有する非水溶性の(メタ)アクリレート系単量体類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、またはエトキシ化ウンデセノール(メタ)アクリレートなどの水溶性の(メタ)アクリレート系単量体類、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、またはペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなどの水溶性のジ(メタ)アクリレート系単量体類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートまたはUDMAなどの重合性不飽和基を複数有する脂肪族系(メタ)アクリレート系単量体類、あるいは、2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、または2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパンなどの重合性不飽和基を複数有する芳香族系(メタ)アクリレート系単量体類が挙げられる。
これら、(メタ)アクリレート系単量体類のなかでも、ラジカル重合性不飽和基を二つ以上持つものが好適に用いられる。
本発明においては、上述のようなラジカル重合性単量体を単独で用いても良いし、あるいは、2種類以上のラジカル重合性単量体を併用しても良い。さらに、ラジカル重合性不飽和基数が異なる複数種のラジカル重合性単量体を組み合わせても良い。
(a1)酸性基非含有ラジカル重合性単量体
本実施の形態において、特に、耐着色性などの審美性の観点、および後述する第3級アミン化合物と塩基性無機材料と組み合わせて用いる場合には、その効果を損なわないために酸性基非含有ラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。酸性基非含有ラジカル重合性単量体としては、上述したラジカル重合性単量体の分子中に酸性基を有しない化合物であれば、制限なく使用することができる。このような酸性基非含有ラジカル重合性単量体としては、重合性の良さなどから(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が主に用いられている。コンポジットレジン中に酸性基が含有されていない場合には、歯牙の窩洞にコンポジットレジンを充填する前に、酸性基と後述の第3級アミン化合物および塩基性無機材料との中和反応を起こさない。さらに、本実施形態の歯科用充填修復キットに用いられるコンポジットレジンが塩基性無機材料および第3級アミン化合物を含む場合には、コンポジットレジンを充填した後、プライマーとコンポジットレジンとの混合層において、塩基性無機材料が該第3級アミン化合物と競合して中和され、中和反応を受けなかった残部の第3級アミン化合物が両者の混合層における光重合開始剤の重合促進効果を高めることができる。特に、この効果は、使用する塩基性無機材料が比較的塩基性の高いものである場合に顕著になり、より好ましい。また、酸性基含有ラジカル重合性単量体をコンポジットレジンに含まず塩基性の物質を吸着しないため、より着色しにくく、審美性に優れる。
一方、酸性基非含有ラジカル重合性単量体の一部に、水溶牲のラジカル重合性単量体を含むことが好ましい。コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体の一部を、水溶性にした場合、この水溶性ラジカル重合性単量体が、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体の酸性基に対する親和性が高いため、コンポジットレジンとプライマーとの親和性が高い。さらに、コンポジットレジンが、酸性基非含有のラジカル重合性単量体のみを含む場合、プライマーは、酸性基含有ラジカル重合性単量体を含むので、コンポジットレジンのpHはプライマーのpHよりも高い。したがって、コンポジットレジンとプライマーとの間にpH勾配が生じる。その結果、コンポジットレジンとプライマーとの界面において、双方へのラジカル重合性単量体の移動が生じ、両層の融和が生じる。また、コンポジットレジンに含まれる酸性基非含有ラジカル重合性単量体が、プライマー側へ進出する際に、光重合開始剤も帯同してコンポジットレジン側からプライマー側へ移行するため、より効率よくプライマーの重合を行うことができるようになる。
本明細書において、「水溶性」とは、23℃の水に対する溶解度が1g/l以上であることを意味する。さらに好ましくは、100g/l以上の溶解度である。そのような酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体としては、酸性基非含有の(メタ)アクリレート系単量体のうち、水溶性の(メタ)アクリレート系単量体類を何ら制限なく使用することができる。具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートあるいは3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート系単量体、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートなどの分子内にエチレングリコール鎖を有するメタアクリレートなどが挙げられる。これらは単独にまたは2以上を混合して用いることができる。
上述の酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体のなかでも、多官能ラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートあるいは3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能ラジカル重合性単量体よりも、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能ラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。多官能ラジカル重合性単量体を用いることにより、プライマーを介してコンポジットレジンと歯牙との間、特に象牙質に対する接着強度を向上させることができる。
好ましい水溶性の多官能ラジカル重合性単量体を例示すると、重合度が9〜30のポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール部位の重合度が合計20〜50のポリエトキシ化ビスフェノール類のジメタクリレート、モノあるいはポリエチレングリコールジグリシジルエーテルのメタクリル酸付加物などが挙げられ、なかでもポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートがより好ましい。なかでもポリエチレングリコールジメタクリレートが最も好適に利用できる。
また、コンポジットレジンが含有するラジカル重合性単量体100質量部のうち、酸性基非含有且つ水溶性のラジカル重合性単量体を3〜30質量部含むコンポジットレジンとすることが好ましい。特に好ましい酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体の量は、ラジカル重合性単量体100質量部のうち、5〜20質量部である。コンポジットレジン中の全ラジカル重合性単量体100質量部のうち、酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体を3質量部以上含有すると、コンポジットレジンとプライマーとの間で重合開始剤の移動がより生じやすくなる。さらに、同ラジカル重合性単量体を30質量部以下含有すると、吸水性を低くすることができる。したがって、光重合開始剤の移動も容易とした上で、吸水性を抑え、かつ歯牙とコンポジットレジンとの接着強度を向上することができる。
(b)光重合開始剤
本実施の形態において、コンポジットレジンに含まれる(b)光重合開始剤は、光照射に伴って、重合開始可能なラジカルを生成するものであれば特に制限はされない。特に、歯科用照射器の照射波長として用いられることの多い380〜500nmの光照射に活性な光重合開始剤が好ましい。そのような光重含開始剤として、たとえば、α−ケトカルボニル化合物、あるいはアシルフオスフィンオキシド化合物などが挙げられる。
α−ケトカルボニル化合物としては、たとえば、α−ジケトン、α−ケトアルデヒド、あるいはα−ケトカルボン酸エステルなどが挙げられる。具体的には、ジアセチル、2,3−ペンタジオン、2,3−ヘキサジオン、ベンジル、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−ジエトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、4,4’−ジクロルベンジル、4,4’−ニトロベンジル、α−ナフチル、β−ナフチル、カンファーキノン、カンファーキノンスルホン酸エステル、カンファーキノンカルボン酸エステルあるいは2,2’−シクロヘキサンジオンなどのα−ジケトン、メチルグリオキザールあるいはフェニルグリオキザールなどのα−ケトアルデヒド、ピルビン酸メチル、ベンゾイルギ酸エチル、フェニルピルビン酸メチルあるいはフェニルピルビン酸ブチルなどのα−ケトカルボン酸エステルなどが挙げられる。
これらα−ケトカルボニル化合物のなかでは、安定性などの面からα−ジケトンを使用することが好ましく、α−ジケトンのなかではジアセチル、ベンジルあるいはカンファーキノンがより好ましく、カンファーキノンが特に好ましい。
アシルフォスフィンオキシド化合物としては、たとえば、ベンゾイルジメトキシホスフィンオキシド、ベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシあるいは2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,
6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
上述の光重合開始剤のなかでも、硬化深度の点からα−ケトカルボニル化合物がより好ましい。
本発明においては、上述のような光重合開始剤を単独で用いても良いし、2種類以上の光重合開始剤を組み合わせても良い。
これら光重合開始剤の配合量は何ら制限されないが、好ましくはコンポジットレジンに含まれる全重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を配合するのが好ましく、0.01〜5重量部の範囲とするのがより好ましい。
(c)フィラー
本実施の形態において、コンポジットレジンに含まれるフィラーは、コンポジットレジンの強度を向上させ、かつ重合時の収縮を抑えるために添加される。また、フィラーの添加量により、コンポジットレジンが硬化する前の粘度(操作性)を調節することができる。フィラーは、コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、80〜2000質量部の範囲で含まれるのが好ましい。特に好ましいフィラーの量は、コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して100〜500質量部であり、120〜230質量部が最も好ましい。また、フィラーの量が80質量部以上の場合には、コンポジットレジンとしての十分な強度が得られ、2000質量部以下の場合には、粘度が高くなりすぎず、コンポジットレジンを充填する作業の操作性が向上する。また、プライマーにもフィラーを添加すると、接着強度がより強固なものとなるため、より好ましい。
本実施の形態において、フィラーとしては、無機フィラー、有機フィラーおよび無機―有機複合フィラーから選択される少なくとも1種類を選択することができる。
本発明に使用される有機フィラーについて具体的に例示すると、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体あるいはメチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体などの非架橋性ポリマーもしくは、メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体あるいは(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系単量体との共重合体などの(メタ)アクリレート重合体などが使用できる。また、これらの2種以上の混合物を用いることもできる。
本発明に使用される無機フィラーの種類としては、公知のものを適宜選択して使用できる。たとえば、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属もしくはそれらの酸化物あるいはハロゲン化物、硫酸塩もしくはこれらの混合物もしくは複合塩などから選択することができる。
代表的な無機フィラーを具体的に例示すると、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラスあるいはストロンチウムガラスなどが挙げられる。さらに、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムなどの水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラスあるいはフルオロアルミノシリケートガラスなどの酸化物のようなカチオン溶出性フィラーも好適に用いることができる。
上述の無機フィラーのなかでも、シリカ、アルミナもしくはジルコニアのような金属酸化物粒子、または、シリカ−チタニアもしくはシリカ−ジルコニアのような複合金属酸化物粒子からなる無機フィラーを好適に用いることができる。また、これらを2種以上組み合わせて使用することもできる。
また、無機フィラーとしては、その表面に強酸点を有さないものを用いることが好適である。表面に強酸点を有する無機フィラーは、第3級アミン化合物を吸着してしまう可能性があるためである。
それゆえ、この場合に用いられる無機フィラーとしては、無水トルエン中において、酸塩基指示薬である4−フェニルアゾジフェニルアミンによる青紫呈色を示さない無機フィラーを用いることが好適である。
ここで、4−フェニルアゾジフェニルアミンを用いた上記酸点の測定は、常法に従えば良いが、通常は、次の方法により実施する。すなわち、まず、フィラーを100℃で3時間以上乾燥後、五酸化二燐を収容したデシケーター中にて保管し、その1gをサンプル管ビンに入れ、次いで、無水トルエン3gを入れて激しく振盪し、凝集物の無いように分散させる。分散後、当該サンプル管ビンに、遮光下で保存した0.004mol/lの4−フェニルアゾジフェニルアミンの無水トルエン溶液を一滴(約0.016g)加え、同様に振盪した後に目視にて青紫呈色の判断をすれば良い。
また、無機−有機複合フィラーも好適に使用できる。たとえば、無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕することにより、粒状の有機−無機複合フィラーを得ることができる。有機無機複合フィラーとしては、たとえば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを使用できる。
上述の無機フィラーあるいは無機―有機複合フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することにより、重合性単量体との親和性、重合性単量体への分散性、硬化体の機械的強度および耐水性を向上できる。かかる表面処理剤および表面処理方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用できる。無機フィラーの表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランあるいはヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。また、シランカップリング剤以外にも、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコ−アルミネート系カップリング剤を用いる方法、あるいは、フィラー粒子表面に前記重合性単量体をグラフト重合させる方法により、無機フィラーもしくは無機―有機複合フィラーの表面処理を行うことができる。
上述したフィラーの屈折率は、特に限定されない。したがって、一般的な歯科用途には、屈折率が1.4〜2.2の範囲のものが好適に用いられる。また、形状あるいは粒子径についても、特に制限はない。形状あるいは粒子径を適宜選択して使用されるが、平均粒径は通常0.001〜100μmであり、特に0.001〜10μmであることが好ましい。また、上述したフィラーのなかでも、特に、球状の無機フィラーを用いると、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた修復材料となり得るので好ましい。
本実施の形態において、コンポジットレジンは、硬化体の曲げ弾性率が2〜6GPaである。より好ましくは、2.5〜5.5GPaの範囲、最も好ましくは、3〜5GPaである。コンポジットレジンは、硬化体の曲げ弾性率が2GPa以上6GPa以下とすると、歯牙に塗布した後述するプライマー上に、コンポジットレジンを充填し、光硬化させることで、硬化途中のコンポジットレジンの粘度が適切に低下し、重合収縮に伴って生じる重合収縮応力が緩和されながら硬化反応を行うことができる。そのため、コンポジットレジンが完全に光硬化され後の接着界面への重合収縮応力が大幅に低減され、窩洞適合性を大幅に改善することができる。
また、コンポジットレジンは、硬化体の吸水量が40μg/mm以下、曲げ強度が80MPa以上とするのが好ましい。コンポジットレジンの硬化体の曲げ弾性率は、フィラー含有率に大きく依存する。すなわち、フィラーの含有率を下げることによってコンポジットレジンの硬化体の曲げ弾性率が低くできる。このため、コンポジットレジンに用いられるラジカル重合性単量体と無機フィラーを主成分とするコンポジットレジン中の無機フィラー量を、ラジカル重合性単量体100質量部に対して含有率を80質量%未満とすれば、一般に、硬化体の曲げ弾性率は2GP以上になることが多い。しかし、この場合、JISによって規定させるクラス2の歯科充填用コンポジットレジン(JIS T 6514)の硬化体の曲げ強度(80MPa以上)と吸水量(40μg/mm以下)を満たすことが困難になり易い。したがって、フィラーの含有率は前記ラジカル重合性単量体100質量部に対して80〜2000質量部の範囲として、これら物性を保持しつつ、後述する(f)可塑剤や(g)重量平均分子量が1000〜50000の範囲にある不飽和ウレタン系オリゴマーの配合により、上記コンポジットレジンの硬化体の曲げ弾性率を2〜6GPaにするのが好ましい。
(d)酸性基含有ラジカル重合性単量体
本実施の形態において、歯科用充填修復キットのプライマーに含まれる酸性基含有ラジカル重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と1つのラジカル重合性不飽和基とを有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。このような酸性基含有ラジカル重合性単量体は、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部中に10質量部以上含まれることが好ましく、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部中に30質量部以上の酸性基含有ラジカル重合性単量体が含まれるのがより好ましい。また、該酸性基としては、カルボキシル基、スルホ基、ホスホン基、リン酸モノエステル基あるいはリン酸ジエステル基などを挙げることができる。そのなかでも、歯質に対する接着性が高い酸性基として、カルボキシル基、リン酸モノエステル基あるいはリン酸ジエステル基がより好ましい。さらに、コンポジットレジンとプライマーとの間の物質の移動を活発化させる目的で、コンポジットレジンとプライマーとの間のpH勾配をより急勾配にするため、プライマーに含まれる酸性基含有ラジカル重合性単量体の酸性基は、強酸性であることが最も好ましい。そのような強酸性の酸性基としては、リン酸モノエステル基あるいはリン酸ジエステル基が最も好ましい。
そのような酸性基含有ラジカル重合性単量体をより具体的に例示すると、2−(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、2−(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、11−(メタ)アクロイルオキシエチル−1,1−ウンデカンジカルボン酸、2−(メタ)アクロイルオキシエチル−3‘−メタクロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、4−(2−(メタ)アクロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、N−(メタ)アクロイルグリシン、N−(メタ)アクロイルアスパラギン酸などのカルボン酸酸性ラジカル重合性単量体類;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、ビス((メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェートなどのリン酸酸性基含有ラジカル重合性単量体類;ビニルホスホン酸などのホスホン酸酸性基含有ラジカル重合性単量体類;スチレンスルホン酸、3−スルホプロパン(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸酸性基含有ラジカル重合性単量体類などが挙げられる。また、これら酸性基含有ラジカル重合性単量体は、必要に応じて2種以上のものを併用しても良い。
プライマーには、その他に、酸性基非含有のラジカル重合性単量体を含んでも良い。酸性基非含有の重合性単量体としては、前述の酸性基非含有かつ水溶性ラジカル重合性単量体、もしくは酸性基非含有かつ非水溶性のラジカル重合性単量体を用いることができる。特に、酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体がプライマーに含まれている場合には、歯質に対するプライマーの浸透性および、酸性基非含有かつ非水溶性のラジカル重合性単量体の水に対する相溶性を向上させるため、好ましい。一方、酸性基非含有かつ非水溶性ラジカル重合性単量体がプライマー中に含まれている場合には、硬化したプライマー層の強度が向上し、好ましいが、該重合性単量体と水との相分離を引き起こし、コンポジットレジンからの重合開始剤の進入を妨げる恐れがある。そのため、ラジカル重合性単量体100質量部中に5質量部以下が好ましく、5質量部より多く配合する場合は、酸性基非含有かつ水溶性ラジカル重合性単量体と合わせて用いることが好ましい。
(e)水
本実施の形態に係る歯科用充填修復キットのプライマーに含まれる水は、酸性基含有ラジカル重合性単量体による歯質の脱灰を助ける働きを有する。水は、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、5〜300質量部含まれることが好ましく、特に、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して15〜110質量部の水が含まれるのがより好ましい。
また、プライマーの操作性をより向上させるために、プライマーは、流動性を有する親水性の有機溶媒を含んでいても良い。たとえば、アセトン、エタノールあるいはイソプロピルアルコールなどの溶媒が含まれていても良い。特に、エタノールあるいはイソプロピルアルコールのように、揮発性が高く、かつ毒性の低い溶剤は、後述の乾燥が容易になるため、好適に用いられる。親水性の有機溶媒の含有量は、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、20〜400質量部が好ましく、より好ましい親水性の有機溶媒の含有量は、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、50〜300質量部である。
また、プライマーは、硬化したプライマー層の強度を上げるためにフィラーを含んでいても良い。たとえば、前述の無機フィラー、有機フィラーあるいは無機―有機複合フィラーなどを含んでいても良い。そのなかでも、フルオロアルミノシリケートガラスをフィラーとして用いることが好ましい。フィラーの配合量は、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.5〜30質量部が好ましく、より好ましいフィラーの配合量は、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、1〜30質量部である。
また、本発明の歯科用充填修復キットは、プライマーに光重合開始剤を配合せずとも高い窩洞適合性が得られ、十分な接着強度も得られるが、光重合開始剤を配合しても何ら問題ない。具体的には、上述のコンポジットレジンに配合されるものと同様の光重合開始剤が利用できる。その配合量は、プライマー中の全重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を配合するのが好ましく、0.01〜5重量部の範囲とするのがより好ましい。
(f)可塑剤
本実施の形態において、コンポジットレジンは、さらに可塑剤を含むことが好ましい。コンポジットレジンに可塑剤を添加することによって、フィラー含有率を下げることなく、硬化体の曲げ弾性率を2〜6GPaに調整可能であり、さらに、必要な曲げ強度と吸水量を満たすことが容易に可能となる。コンポジットレジンに含まれる可塑剤は、上述したラジカル重合性単量体に溶解可能であれば、公知のものが何ら制限無く利用できる。
そのような可塑剤を例示すると、たとえば、エチルフタレート、ブチルフタレート、またはオクチルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、エチルセバケート、ブチルセバケート、またはオクチルセバケートなどのセバシン酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチルなどのエステル系可塑剤、アジピン酸1,4−ブタンジオール、またはアジピン酸1,8−オクタンジオールなどのポリエステル系可塑剤、あるいはポリブチル(メタ)アクリレート、またはポリヘキシル(メタ)アクリレートなどのポリアクリレート系可塑剤などが挙げられる。また、これら可塑剤は、必要に応じて2種以上のものを併用しても良い。
上述した可塑剤の中でも、重量平均分子量が1000〜10000の範囲にある非水溶性液状ポリマーが好ましく、分子量500以下の非重合性オリゴマーの割合が10質量%以下の、重量平均分子量が1000〜10000の範囲にある非水溶性液状ポリマーがより好ましい。可塑剤を液状ポリマーとすることにより、コンポジットレジンに要求される低溶出性を損なうことがない。なお、本実施の形態において、非水溶性とは、コンポジットレジンの硬化体の使用温度、すなわち、口腔内の平均的な温度である37℃での、水に対する溶解度が5質量%以下であることを意味する。好ましくは水に対する溶解度が3質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。また、液状とは、通常使用の温度、すなわち、室温〜口腔内温度、具体的には18〜40℃の範囲の温度下で液状であることを意味する。当該温度範囲内で液状である場合には、コンポジットレジンの粘度が低くなるので、扱いやすいものとなる。このため、良好な窩洞適合性が得られる。
重量平均分子量が1000未満の化合物または水溶性の化合物では、当該化合物は口腔内のような環境では溶出しやすい傾向がある。また、重量平均分子量が10000を超える場合には、液状のポリマーを入手することが困難となると共に、ラジカル重合性単量体に対して溶解度が低下となる。なお、液状ポリマーの重合体は1000〜10000である重量平均分子量の範囲を満たすものであればその分子量分布は特に制限されないが、分子量が500以下の重合体は溶出しやすい傾向があるため、このような重合体は10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。一方、分子量が大きくなるほど他の成分との相溶性が低下する傾向にあるため、分子量分布で10000を越える部分が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。したがって、重量平均分子量が1200〜7000の範囲にある液状ポリマーが好ましく、重量平均分子量が1500〜7000の範囲にある液状ポリマーがより好ましい。
当該液状ポリマーの材質は、特に限定されるものではないが、コンポジットレジンに配合される前記(メタ)アクリレート系重合性単量体とのなじみが良い点で、(メタ)アクリル系の液状ポリマーであることが好ましく、なかでも上記分子量の範囲で液状のポリマーが得やすい点で、(メタ)アクリル酸エステル系のポリマーがより好ましい。
このような液状ポリマーの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製造されたものを特に制限されることなく使用できるが、代表的には、(メタ)アクリル系モノマー、または(メタ)アクリル系モノマーと、当該(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーを、重量平均分子量1000〜10000の範囲となるように重合させれば良い。
上述の液状ポリマーを得るために用いるモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。また、(メタ)アクリレート系のモノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。この場合、1種または2種以上の(メタ)アクリレート系モノマーと、1種またはそれ以上のその他の共重合可能なモノマーを重合させて得られるコポリマーを用いることが可能である。しかし、溶解性および膨潤性の面から、(メタ)アクリレート系モノマーに基づく単量体単位を50モル%以上、好ましくは80モル%以上含んでなるものが好適である。
なかでも、前記(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であることから、液状重合体としてはエチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、またはグリシジル(メタ)アクリレートより1種選んで重合させたホモポリマー、もしくはこれらのうちの2種あるいはそれ以上の種類のモノマーを重合させたコポリマーが特に好適に使用される。
このような(メタ)アクリレート系ポリマーをより具体的に例示すると、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリイソプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリ{2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート}、ポリ{エチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート}、ポリ{エチル(メタ)アクリレート−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート}、ポリ{エチル(メタ)アクリレート−メトキシエチル(メタ)アクリレート}、ポリ{エチル(メタ)アクリレート−グリシジル(メタ)アクリレート}、ポリ{ブチル(メタ)アクリレート−メトキシエチル(メタ)アクリレート}、またはポリ{ブチル(メタ)アクリレート−グリシジル(メタ)アクリレート}などが挙げられる。
上記例のような単量体単位からなる重量平均分子量が1000〜10000の範囲にある液状ポリマーを得る方法は、一般的な重合反応を用いた方法で得ることができる。すなわち、モノマーと重合開始剤の配合比を制御することで、所望の平均分子量を有する液状ポリマーを得ることができる。平均分子量の制御が容易なイオン重合またはリビングラジカル重合が好適に用いられる。特にアニオン重合では分子量分布が非常にシャープで、重量平均分子量/数平均分子量がほとんどの場合2以下の単分散に近い重合体(ポリマー)を得ることができ、分子量500以下の重合体を含まないという条件を満たすことも容易である。
また、本発明のコンポジットレジンに可塑剤として配合する好ましい液状ポリマーとしては、上記分子量に関する条件を満たす限り、広い分子量分布を有するものを用いても良いし、また、分子量分布の異なる2種以上のポリマーを併用しても良い。さらに、ポリマーを構成する単量体単位の種類または割合の異なる2種以上の液状ポリマーを併用しても良い。
これら可塑剤は、コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、1〜30質量部含まれていれば良いが、好ましくは3〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部配合すれば良い。
(g)不飽和ウレタン系オリゴマー
本実施の形態において、コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体100質量部中、重量平均分子量が1000〜50000の範囲にある不飽和ウレタン系オリゴマーは5〜50質量部が含まれることが好ましい。コンポジットレジンに不飽和ウレタン系オリゴマーを添加することによって、プライマーとコンポジットレジンとの接触界面において、二重結合により重合促進効果を十分に発揮できる。また、分子量が1000〜50000の範囲にあるものを用いているため、コンポジットレジンとして必要な低溶出性を大きく損なうことなく、曲げ弾性率を2〜6GPaの範囲に制限することができる。その結果、歯牙とコンポジットレジンとの間に高い接着強度を実現でき、かつ高い窩洞適合性を得るができるとともに、治療後も長期間にわたしても剥離しなく、良い耐久性が得られる。
本実施の形態において、不飽和ウレタン系オリゴマーは、分子中に重合可能な不飽基、ならびにウレタン結合を有し、重量平均分子量が1000〜50000であれば好適に利用できる。なお、不飽基としては、(メタ)アクリル基を好適に利用できる。代表的な不飽和ウレタン系オリゴマーを一般式で表示すれば下記式(1)または(2)で表されるものが挙げられる。
Figure 2011144121
式(1)中、Rは水素またはメチル基、Rは2価の炭化水素基、Rは価数nの有機基を表し、nは1〜6の整数を示す。
ここで、Rの2価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状の炭素鎖数2〜10のものが好ましく、具体的には直鎖状のものとしてエチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デカメチレン等が挙げられ、分岐のものとしてプロパン−1,2−ジイル、ブタン−1,2−ジイル、ヘキサン−3,4−ジイル等が挙げられ、環状のものとしてはシクロペンタン−1,3−ジイル、シクロヘキサン−1,4−ジイル、シクロヘキサン−1,2−ジイル、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン、1,4−フェニレンが挙げられる。中でも直鎖アルキレン基が特に好ましい。また、Rの有機基とは、炭素数2〜1000の炭化水素基であり、これらの基はその炭素原子郡の一部以上が酸素、カルボニル、窒素、硫黄、スルホニル、および(または)スルホンで置き換えられていてもよく、水素原子がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン置き換えられていてもよい。特に炭素原子郡の一部以上が酸素、カルボニルおよび(または)窒素で置き換えられたものが好ましく、エステル、アミド、および(または)ウレタン結合を形成しているものがより好ましい。
Figure 2011144121
式(2)中、Rは水素またはメチル基、Rは2価の炭化水素基、Rは価数nの有機基を表し、nは1〜6の整数を示す。
従来から歯科治療の分野ではUDMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとを化学量論的になど量で反応させて得られる生成物)などの不飽和ウレタン系モノマーを用いた材料が多く利用されてきた。しかし、これらのモノマーは一般に重量平均分子量が1000未満であり、耐摩耗性,強度に優れた硬化体を与えると同時に、高い弾性率を与えるものであった。したがって、窩洞適合性に乏しいものとなった。
本実施の形態において、不飽和ウレタン系オリゴマーは、1000以上の重量平均分子量を有し、硬化架橋して適度な弾性をもつ硬化体を与える。このため、これを一定量コンポジットレジンに含有させ使用した場合、比較的低い弾性率を与える。重量平均分子量が1000未満では硬化体の弾性率が高くなるため、窩洞適合性が低下しまう傾向がある。また、重量平均分子量が50000を超える不飽和ウレタン系オリゴマーは、常温で固体であったり、非常に高粘度であったりするため扱いにくいことが多い。したがって、本実施の形態において、コンポジットレジンには重量平均分子量が1000〜50000のものが好適である。特に好ましくは重量平均分子量が1000〜20000である。
また、不飽和ウレタン系オリゴマーが一分子中に有する不飽和基は1〜4個が好ましく、2個がより好ましい。
本発明を実施する上で好ましい不飽和ウレタン系オリゴマーを一般式で表示すれば下記式(3)で表されるものが挙げられる。
Figure 2011144121
式(3)中、R1 は水素またはメチル基を示し、分子中、2つのRは同一であっても異なっていてもよく、Rは2価の炭化水素基、同様にRおよびRは炭素数2〜20炭化水素基、mは1以上の整数を示す。
ここで、RおよびRの2価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状のものいずれでも良く、具体的には直鎖状のものとしてエチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デカメチレン、ドデカメチレン、ペンタデカメチレン、オクタデカメチレン等が挙げられ、分岐のものとしてプロパン−1,2−ジイル、ブタン−1,2−ジイル、ヘキサン−3,4−ジイル等が挙げられ、環状のものとしてはシクロペンタン−1,3−ジイル、シクロヘキサン−1,4−ジイル、シクロヘキサン−1,2−ジイル、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン、1,4−フェニレン、ベンゼン−1,4−ジメチレン、ベンゼン−1,3−ビス(ジメチルメチレン)、ベンゼン−1,4−ジプロピレン等が挙げられる。これらのRおよびRの2価の炭化水素基は、炭素鎖数2〜10のものが特に好ましい。また、Rは環状のものが好ましく、特に芳香族環が好ましく、他方、Rは直鎖状のものが好ましく、特に直鎖アルキレン基が好ましい。
上記一般式(3)で示される不飽和ウレタン系オリゴマーを具体的に例示すると、たとえば、Rは水素,Rはエチレン基,Rはアジピン酸と1,6−ヘキサンジオールからなるポリエステルの残基、Rは1,1,3−トリメチルシクロヘキサン−3,5−ジイル基、m=1の不飽和ウレタン系オリゴマー(重量平均分子量5500)、またはRはメチル基、Rはエチレン基、Rはアジピン酸とジエチレングリコールからなるポリエステルの残基、Rはベンゼン−1,3−ビス(ジメチルメチレン)基、m=1の不飽和ウレタン系オリゴマー(重量平均分子量2750)などが挙げられる。
これら不飽和ウレタン系オリゴマーは、コンポジットレジン中のラジカル重合性単量体100質量部中、5〜50質量部が置換させていれば良いが、好ましくは10〜40質量部である。
(h)塩基性無機材料
本実施の形態において、コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体は、酸性基非含有ラジカル重合性単量体である場合に、さらに塩基性無機化合物を含む。酸性基非含有ラジカル重合性単量体のみを含有するコンポジットレジンに塩基性無機化合物を添加することによって、後述するコンポジットレジンに第3級アミン化合物を添加するとき、プライマーとコンポジットレジンの接触界面でのコンポジットレジン中の第3級アミン化合物とプライマー中の酸性基含有ラジカル重合性単量体の酸性基との中和反応防ぐことができ、接触界面における第3級アミン化合物の重合促進効果が損なわれることがないので、歯牙とコンポジットレジンとの間の接着力をさらに一層強力にすることができる。塩基性無機材料は、コンポジットレジンに含まれる酸性基非含有ラジカル重合性単量体100質量部に対して、通常は3質量部以上含まれる。特に好ましい塩基性無機材料の量は、コンポジットレジンに含まれる酸性基非含有ラジカル重合性単量体100質量部に対して5〜80質量部であり、8〜30質量部が最も好ましい。塩基性無機材料の量が3質量部以上の場合には、重合時の十分な第3級アミン化合物の重合促進効果が得られる。
本実施の形態において、塩基性無機材料とは、蒸留水とエタノールを体積比1:1で混合したものを、リン酸によりpH2.50±0.03に調整した液20gに対して、塩基性無機化合物1.0gを分散させ、2分間撹枠した後の分散液の23℃におけるpH値が、塩基性無機化合物を含まないものと比べて、0.05以上高いpH差値を示すものである。上記pHの測定法は、塩化カリウム液を用いたガラス電極を用いて、pHメーターで測定すれば良い。
塩基性無機材料は、前述のようにフィラーとしての機能も有しているため、塩基性無機材料を含有する場合のフィラー成分の配合方法は以下の2種類に大別されることになる。第一のフィラー成分は、塩基性無機材料である一方、フィラーとしての機能も兼ねる。第二のフィラー成分は、塩基性無機材料を除く無機フィラー、有機フィラーおよび無機―有機複合フィラーから選択される少なくとも1種のフィラーと塩基性無機材料とからなる混合フィラー成分を含む。なお、第二のフィラー成分において、混合フィラー成分中に占める塩基性無機材料の割合は0.5質量%以上70質量%以下が好ましく、1.0質量%以上50質量%以下がより好ましい。混合フィラー成分中に占める塩基性無機材料の割合を0.5質量%以上とすることにより、重合時の第三級アミン化合物の重合促進効果を確実に確保することができる。
塩基性無機材料として利用できる無機化合物としては、上述の条件を満たす限り特に制限されないが、好適には、I、II、III族の酸化物あるいは水酸化物、フッ化物、炭酸塩、珪酸塩もしくはこれらの混合物もしくは複合塩などから選択することができる。より好ましい当該pH差値は保存安定性の点から0.10〜4.50であり、特に好ましくは0.15〜1.00である。また、接着強度の点から、2価以上の多価金属イオン溶出可能な無機塩基材料がより好ましく、3価以上の多価金属イオンを溶出可能な塩基性無機材料が最も好ましい。
代表的な塩基性無機材料を具体的に例示すると、酸化物としてアルミナ、カルシア、マグネシアなどが挙げられる。また、水酸化物としては水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウムなどの水酸化物などが挙げられ、フッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウムなどが挙げられ、炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウムなどが挙げられる。また、珪酸塩としては、カルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、フルオロアルミノシリケートガラス、その他ケイ酸塩ガラスなどが挙げられる。なかでもカルシウムイオン、アルミニウムイオンなどの金属イオン溶出性塩基性無機材料も好適に用いることができる。特に、3価以上金属イオン溶出性塩基性無機材料が好ましく、なかでもフルオロアルミノシリケートガラスを用いることが最も好ましい。これは、フルオロアルミノシリケートガラスから溶出する多価金属イオンは、酸性基を有するラジカル重合性単量体の重合物とイオン架橋することにより、歯質との接着性や硬化体の物性を向上させることができるためである。
好適に使用できる上記のフルオロアルミノシリケートガラスは、歯科用セメント、たとえば、グラスアイオノマーセメント用として使用される公知のものが使用できる。一般に知られているフルオロアルミノシリケートガラスの組成は、イオン質量パーセントで、珪素10〜33;アルミニウム4〜30;アルカリ土類金属5〜36;アルカリ金属0〜10;リン0.2〜16;フッ素2〜40および残量酸素のものが好適に使用される。より好ましい組成範囲を例示すると、珪素15〜25;アルミニウム7〜20;アルカリ土類金属8〜28;アルカリ金属0〜10;リン0.5〜8;フッ素4〜40および残量酸素である。上記カルシウムの一部または全部をマグネシウム、ストロンチウム、バリウムで置き換えたものも好ましい。また上記アルカリ金属はナトリウムが最も一般的であるが、その一部または全部をリチウム、カリウムなどで置き換えたものも好適である。さらに必要に応じて、上記アルミニウムの一部をイットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタンなどセ置き換えることも可能である。
本実施の形態において、塩基性無機化合物の形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよく、必要に応じて板状、繊維状などの粒子を混ぜることもできる。
また、塩基性無機化合物は、プライマー中の酸性基含有ラジカル重合性単量体との中和反応をより速やかにし且つ操作性を悪化させない観点から、平均粒子径が0.01μm〜20μmのものが好ましく、より好ましくは0.05μm〜15μm、さらに0.1μm〜5μmの範囲のものが最も好ましい。
また、上述の塩基性無機材料は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することにより、重合性単量体との親和性、重合性単量体への分散性、硬化体の機械的強度および耐水性を向上できる。かかる表面処理剤および表面処理方法は、前述の無機フィラーにおける処理方法と同様である。
(i)アミン化合物
本実施の形態において、さらに、前述した光重合開始剤の重合開始効果を向上、および重合反応を促進させるため、アミン化合物を添加しても良い。特に、α−ケトカルボニル化合物を用いる場合には、アミン化合物のような還元性化合物により重合開始効果を向上することが好ましい。
アミン化合物としては、第3級アミン化合物を使用するのが特に好ましい。このような第3級アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルペン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートあるいは2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノールなどが挙げられる。
これらのなかでも、プライマーに含まれる酸性基含有ラジカル重合性単量体の酸性基との中和反応が生じにくく、塩基性が比較的低い観点から、対応するアンモニウムイオンの25℃水中でのpKa値が9以下のアミン化合物が好適に用いられ、特に好ましくはpKa値7.0以下のアミン化合物が用いられる。このような塩基性の低いアミンは、一般には、芳香族第三級アミン化合物であり、上記例示したものを少なくとも1種以上使用することにより、プライマーとコンポジットレジンとの接触界面および接触界面近傍の両者の内部における光重合開始剤の開始効果、および重合促進効果をより高めることができる。
また、後述する光酸発生剤と組み合わせて用いる場合には、脂肪族第3級アミン化合物と芳香族第3級アミン化合物の2種類を組み合わせて用いると、より短時間の光照射でコンポジットレジンを硬化することができる。このため、脂肪族第3級アミン化合物と芳香族第3級アミン化合物の2種類を組み合わせて用いるのは好ましい。
これらアミン化合物は、使用する光重合開始剤の0.1〜10倍、より好ましくは0.3〜5倍の範囲内の量を添加するのが一般的である。
さらに、本実施の形態に係る歯科用充填修復キットのコンポジットレジンには、光重合開始剤と共に、光酸発生剤を組合せて配合させれば、重合活性をより高めることができる。光酸発生剤としては、光照射によってブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成するものが好適に用いられる。
そのような光酸発生剤を例示すれば、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジアリールヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、あるいはピリジニウム塩化合物などを挙げることができる。これら光酸発生剤のなかでもハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、あるいはジアリールヨードニウム塩化合物が好適に利用できる。
ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体としては、たとえば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(o−メトキシスチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4,5−トリメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどを挙げることができる。
また、ジアリールヨードニウム塩化合物としては、たとえば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、メトキシフェニルフェニルヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、4−イソプロピルフェニル−4−メチルフェニルヨードニウム、などのクロリド、ブロミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフロロメタンスルホネートなどが挙げられ、特に化合物の溶解性の点からテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフロロメタンスルホネート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート塩が好適に使用される。
上記した光酸発生剤は1種または2種以上を混合して用いても良い。これら光酸発生剤の配合量は、その効果を発現する範囲であれば特に制限されるものではないが、コンポジットレジンに含まれるラジカル重合性単量体100重量部に対し0.001〜12重量部が好ましく、0.005〜6重量部の配合がより好ましい。
また、本実施の形態において、歯科用充填修復キットは、プライマー中に光重合開始剤を含有させなくとも、1回の光照射で高い接着強度が得られるが、コンポジットレジンおよび後述するプライマーの両方に、光重合開始剤を含有させることによって、より高い重合促進効果が得られる。コンポジットレジンおよびプライマーの両方に光重合開始剤を含有させる場合にも、光重合開始剤としては前述と同様の化合物を用いることができる。また、その好適な配合量は、プライマー中の酸性基含有ラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.01〜5重量部である。
また、プライマー中にバナジウム化合物が配合されると共に、コンポジットレジン中に有機過酸化物であるハイドロパーオキサイドが配合されても良い。
本発明のプライマーに使用可能なバナジウム化合物は、+IV価および/または+V価のバナジウム化合物である。+IV価および/または+V価のバナジウム化合物をプライマー中に配合することにより、接着界面および両者の内部でプライマー中の酸性基含有ラジカル重合性単量体と後述するコンポジットレジン中の有機過酸化物であるハイドロパーオキサイドとラジカル重合反応を起こし、コンポジットレジンとプライマーの接着性を極めて良好なものとすることができる。
バナジウム化合物は酸化数が−I価から+V価までとるが、本発明に使用されるバナジウム化合物は、安定性および活性が高い理由から、+IV価または+V価バナジウム化合物を使用することが特に好ましい。当該+IV価または+V価バナジウム化合物としては公知の化合物が制限なく使用できる。具体的に例示すると、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、オキソバナジウム(IV)ビスマルトラート、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシドなどのバナジウム化合物が挙げられる。なかでも、プライマーに対する溶解性の観点から、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、オキソバナジウム(IV)ビスマルトラート、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシドが好ましく、オキソバナジウム(IV)ビスマルトラートが最も好ましい。
これら+IV価または+V価バナジウム化合物は複数の種類のものを併用しても良い。なお、以下では、簡便のために、バナジウム化合物と称す場合は、+IV価または+V価のバナジウム化合物を示すものとする。
本実施の形態のプライマーにおけるバナジウム化合物の配合量は、特に制限されるものではないが、高い接着性を得るためには配合量が多い方が好ましい一方で、配合量が少ない方が保存安定性に優れるため、プライマー中の全重合性単量体100質量部に対して0.001〜10質量部であるのが好ましく、0.05〜3質量部であるのがより好ましい。
本発明のコンポジットレジンに使用可能なハイドロパーオキサイドは、特に制限されるものではなく、公知のものが何など制限無く使用できる。代表的なハイドロパーオキサイドとしては、パラメタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
ハイドロパーオキサイドは、コンポジットレジン中の酸性基非含有ラジカル重合性単量体、プライマー中の酸性基含有ラジカル重合性単量体あるいはバナジウム化合物の構造および配合量によって適宜選択して使用すれば良いが、プライマーに対する浸透性の観点からパラメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドが好ましく、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。また、比較的揮発性が低いことから、なかでも1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが最も好ましい。
なお、これらのハイドロパーオキサイドは、必要に応じて単独または2種以上を組み合わせて用いても良い。
ハイドロパーオキサイドの配合量は、特に制限されるものではなく、コンポジットレジン中の酸性基非含有ラジカル重合性単量体の種類、配合量および他成分の配合割合によって適宜決定すれば良いが、好ましくは、コンポジットレジンを構成する酸性基非含有ラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部、最も好ましくは0.5〜5質量部の範囲で配合される。
さらに、本実施の形態に係る歯科用充填修復キットには、歯牙や歯肉の色調に合わせるため、顔料あるいは蛍光顔料などの着色材料を配合できる。また、紫外線に対する変色防止のため紫外線吸収剤を添加しても良い。さらに、保存安定性を向上させるために、重合禁止剤を配合することも好ましい。また、安定剤あるいは殺菌剤などを添加しても良い。
本実施の形態に係る歯科用充填修復キットのプライマーの使用方法は、特に制限されない。一般には、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラーなどで窩洞に塗布、または窩洞に噴霧する方法を採用することができる。また、プライマーは複数回塗っても良い。また、エッチング剤を別途用いる必要がある場合には、プライマーを塗布する前に用いても良い。
プライマーを窩洞に塗布または噴霧した後には、好ましくは、余剰な水分および溶剤を蒸発させるために乾燥させる。乾燥の方法としては、たとえば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、それらを組み合わせる乾燥方法があるが、口腔内で乾燥させることを考慮すると、乾燥空気を出す気銃を用いて送風乾燥することが好ましい。
次に、乾燥したプライマーの上に、コンポジットレジンを盛り付けて窩洞を充填する。この際、コンポジットレジンの使用法は特に制限されない。一般には、ヘラなどで盛り付けられ、実際の歯牙と同様の形状に整えられる。最後に、歯科用光照射機にて可視光を充填修復部に照射することにより、充填修復部にあるプライマーおよびコンポジットレジンを硬化させることができる。
また、本実施の形態に係る歯科用充填修復キットの包装形態は特に制限されるものではないが、操作がより簡便であることから、それぞれが同一容器内に包装され、1ペーストのコンポジットレジンおよび1液のプライマーとして包装されることがより好ましい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
まず、実施例および比較例で使用した化合物とその略称、窩洞適合性評価試験方法、歯牙とコンポジットレジンとの接着試験の測定方法、曲げ強度、吸水量、溶解量および曲げ弾性率の測定方法、無機化合物の塩基性の測定方法、溶出イオンの測定方法、コンポジットレジンの調製方法、およびプライマーの調製方法について説明する。
(1)使用した化合物とその略称
[酸性基非含有ラジカル重合性単量体]
「BisGMA」:2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
「3G」:トリエチレングリコールジメタクリレート
[酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体]
「HEMA」:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
「14G」:ポリエチレングリコール(重合度14)ジメタクリレート(化4の構造式)
Figure 2011144121
[酸性基含有ラジカル重合性単量体]
「PM」:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートおよびビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェートを質量比2:1の割合で混合した混合物
「MDP」:10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート
「MAC−10」:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
[光重合開始剤]
「CQ」:カンファーキノン
「BTPO」:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
[第三級アミン化合物]
「DMBE」:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
[光酸発生剤]
「IMDPI」:(化5の化合物)
Figure 2011144121
[フィラー]
「F1」:球状シリカ−ジルコニア(平均粒径0.4μm)をγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものと、球状シリカ−チタニア(平均粒径0.08μm)γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものとを質量比70:30にて混合した混合物
「F2」:ヒュームドシリカ(平均粒径0.02μm)をメチルトリクロロシランにより表面処理したもの
[可塑剤]
「DOP」:ジオクチルフタレート
「PBA1」:ポリ(ブチルアクリレート);重量平均分子量2000、分子量500以下のオリゴマー含有率5%
「PBA2」:ポリ(ブチルアクリレート);重量平均分子量6000、分子量500以下のオリゴマー含有率<1%
[不飽和ウレタン系オリゴマー]
「UDMA」:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルへキサンおよび1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物(重量平均分子量471)
「UMA1」:下記化6の化合物で重量平均分子量が2720のもの
「UMA2」:下記化6の化合物で重量平均分子量が12000のもの
なお、下記化学式において、n、mは1以上の整数である。
Figure 2011144121
[揮発性の水溶性有機溶媒]
アセトン
[重合禁止剤]
「HQME」:ハイドロキノンモノメチルエーテル
「BHT」:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
[塩基性無機化合物]
「AO」:アルミナ粉末(平均粒径0.02μm)
「MF」:フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、株式会社トクヤマ製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山株式会社製)を用いて、平均粒径0.5μmまで粉砕したもの。
[ハイドロパーオキサイド]
「パーオクタH」:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(化10の化合物)
Figure 2011144121
[バナジウム化合物]
「BMOV」:オキソバナジウム(IV)ビスマルトラート
(2)窩洞適合性評価試験
牛を屠殺し、屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去した。抜去した牛前歯を、注水下、ダイヤモンドバーを用い、唇面に直径約4mm、深さ約2mmの窩洞を形成した。次に、窩洞に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させ、プライマーを塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。更にその上にコンポジットレジンを約1mmの深さまで充填し、可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光を30秒間照射してコンポジットレジンを硬化させ、これを2回繰り返し、窩洞に完全に充填した。
上述の接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、ダイヤモンドカッターをもちいて、上記窩洞の中央部分を窩底面にたいして垂直に切断し、切断面を#1500のエメリーペーパーおよび#3000のエメリーペーパーで次いで研磨した。
研磨面をレーザー顕微鏡で観察し、接着界面のギャップの有無を観察した。その際に、窩壁部および窩低部界面の10%未満しかギャップが見られなかったものを◎、10%以上30%未満にギャップが見られたものを○、30%以上50%未満にギャップが観察されたものを△、50%以上にギャップが観測されたものを×とした。
(3)1.5mm厚コンポジットレジンの接着強度測定方法
牛を屠殺し、屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去した。抜去した牛前歯を、注水下、#600のエメリーペーパーで研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、削り出した平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。次に、この平面に直径3mmの穴を有する両面テープを貼り付け、さらに、厚さ1.5mmおよび直径8mmの穴を有するパラフィンワックスを、先に貼り付けられた両面テープの穴の中心に、パラフィンワックスの穴の中心をあわせて固定することで、模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞に、プライマーを塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。更にその上にコンポジットレジンを充填し、可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光を30秒間照射して、コンポジットレジンの厚さが1.5mmである接着試験片を作製した。
上述の接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、万能試験機(オートグラフ、株式会社島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minにて引っ張り、歯牙とコンポジットレジンとの引張り接着強度を測定した。歯牙とコンポジットレジンとの引張接着強度の測定は、各実施例あるいは各比較例につき、各種試験片4本についてそれぞれ測定した。その4回の引張接着強度の平均値を、該当する実施例もしくは比較例の接着強度とした。
(4)曲げ強度、吸水量、および溶解量の測定
JIS T 6514によって規定される、クラス2の歯科充填用コンポジットレジンに対する曲げ強度測定法、吸水量および溶解量測定法に従い、測定した。なお、曲げ強度の測定には万能試験機(オートグラフ、株式会社島津製作所製)を用いた。
(5)曲げ弾性率の測定
曲げ強さ測定時に、次式を用いて測定した。
曲げ弾性率=(S/4WB)×(F/Y)
S:支点間距離(m)、W:試験片幅(m)、B:試験片厚さ(m)、F/Y:加重−たわみ曲線の傾き(N/m)
(6)無機化合物の塩基性測定
蒸留水とエタノールを体積比1:1で混合したものにリン酸を添加し、23℃においてpHメーター(本体:イオンメーターIM20E、電極:GST−5721S、いずれも東亜ディーケーケー株式会社製)測定により、pH2.50に調製し、測定用分散媒体とした。同分散液20gに対して、塩基性無機化合物1.0gを加え、23℃において2分間スターラーで攪拌し、攪拌直後同様にpHメーターで測定した。このときの分散液のpH値から、分散媒体単体のpH値を差し引いた値をpH差とした。各種無機塩基化合物における測定値とpH差を表1に示す。
(7)溶出イオンの測定法
上記分散液を、100mlのサンプル管に0.2gを計り取り、IPAを用いて1質量%に希釈した。この液をシリンジフィルターでろ過し、ろ液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、金属イオンの溶出の有無を確認した。
Figure 2011144121
(8)コンポジットレジンの調製
6.0gのBisGMA、4.0gの3G、および0.5gのDOPに対して、0.05gのCQ、0.05gのDMBE、0.01gのHQMEおよび0.003gのBHTを加え、暗所にて均一になるまで撹拌し、マトリックスとした。得られたマトリックスを、16.3gのF1とメノウ乳鉢で混合し、真空下にて脱泡することにより、フィラー充填率61.7%の光硬化型のコンポジットレジンCR1を得た。他のコンポジットレジン(CR2〜CR27)も同様の手順で、表2に示す組成にて調製した。
Figure 2011144121
(9)プライマーの調製
5.0gのPM、5.0gのHEMA、0.03gのBHT、0.02gのCQ、0.05gのDMBE、および10.0gの蒸留水を暗所にて均一になるまで撹拌し、プライマーP1を得た。他のプライマー(P2〜P9)も同様の手順で、表3に示す組成にて調製した。
Figure 2011144121
表4および表5記載のコンポジットレジンおよびプライマーを用いて各実施例の歯科用充填修復キットとし、各実施例および比較例について、接着試験を行った。その結果を表4および表5に示す。
Figure 2011144121
Figure 2011144121
ラジカル重合性単量体、光重合開始剤およびフィラーを含有するコンポジットレジンを用いた実施例1〜37の評価を行った。また、実施例1〜3,11〜15,23〜35では、同じプライマーを使用し、実施例4〜11および実施例16〜23では、それぞれ、同じコンポジットレジンに対してプライマーの種類を変えて評価した。いずれの評価結果も、本発明において必要とされる範囲内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
実施例1〜3,11〜15
同じ組成のプライマーに対して、酸性基非含有ラジカル重合性単量体の種類および配合量が同じのコンポジットレジンに、異なる種類および配合量の可塑剤を添加して評価を行った。コンポジットレジンに可塑剤を添加することによって、フィラー含有率を下げることなく、曲げ弾性率を2〜6GPaに調整できると共に、必要な曲げ強度と吸水量を満たすこともできる。このため、いずれの実施例の評価結果は、本発明において必要とされる範囲内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。ただし、実施例1および実施例3では、用いられた可塑剤の配合量が少なかったため、他の実施例と比べると、窩洞適合性が僅かに低下していた。
実施例4〜11
実施例1と同じ組成のコンポジットレジンに対して、プライマーの種類を変えて評価を行った。いずれの評価結果も、2〜6GPa以内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらに、すべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
実施例16〜23
コンポジットレジンに含まれる酸性基非含有ラジカル重合性単量体100質量部の20質量部を、分子量が2720である不飽和ウレタン系オリゴマーにて置換された。上述の同じ組成のコンポジットレジンに対して、プライマーの種類を変えて評価を行った。コンポジットレジンに不飽和ウレタン系オリゴマーを添加することによって、プライマーとコンポジットレジンとの接触界面において、二重結合により重合促進効果を十分に発揮できる。また、分子量が1000〜50000の範囲にあるものを用いたため、コンポジットレジンとして必要な低溶出性を大きく損なうことなく、曲げ弾性率を2〜6GPaの範囲に制限することができる。いずれの評価結果も、2〜6GPa以内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
実施例24,25
実施例23と同じ組成のプライマーに対して、コンポジットレジンに含まれる不飽和ウレタン系オリゴマーおよびフィラーの含有量を変化させて評価を行った。いずれの評価結果も、2〜6GPa以内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
実施例26
分子量が2720である不飽和ウレタン系オリゴマーをかわって分子量が12000である不飽和ウレタン系オリゴマーを用いたこと以外、実施例23と同じ条件にて評価を行った。その結果、実施例24とほとんど同様な結果を示した。
実施例27,28
実施例11および実施例23のコンポジットレジン中に酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体である14Gをそれぞれ添加した実施例27と実施例28の評価を行った。その結果、実施例11および実施例23とほとんど同様な結果を示した。
実施例29〜32
実施例11と同じ組成のプライマーに対して、実施例11のコンポジットレジンに種類が異なる塩基性無機材料を添加して測定を行った。歯牙に塗布したプライマー層上に、第3級アミン化合物と塩基性無機材料とを含有するコンポジットレジンを充填することで、プライマー層とコンポジットレジンとの接触界面では、塩基性が比較的高い塩基性無機材料とプライマー層中の酸性基含有ラジカル重合性単量体であるPMの酸性基との間で中和反応が生じ、酸性基の酸が弱められ、第3級アミン化合物の重合促進効果を高めることができる。このため、プライマー層のみならず、プライマー層に接触したコンポジットレジンの重合が完了しやすい。また、コンポジットレジンに不飽和ウレタン系オリゴマーを添加することによって、プライマーとコンポジットレジンとの接触界面において、二重結合により重合促進効果を十分に発揮できると共に、高分子量の不飽和ウレタン系オリゴマーを用いたため、コンポジットレジンとして必要な低溶出性を大きく損なうことなく、曲げ弾性率を2〜6GPaの範囲に制限することができる。いずれの評価結果も、2〜6GPa以内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
実施例33〜35
実施例23と同じ組成のプライマーに対して、実施例23のコンポジットレジンに種類が異なる塩基性無機材料を添加して測定を行った。いずれの評価結果も、2〜6GPa以内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
実施例36,37
塩基性無機化合物、フィラーおよびバナジウム化合物を添加したプライマーに対して、実施例27のコンポジットレジンに塩基性無機材料およびハイドロパーオキサイドを添加して測定を行った。いずれの評価結果も、2〜6GPa以内の曲げ弾性率を示し、曲げ強度、吸水量もそれぞれJIS規格の範囲内であった。さらにすべての場合において良好な窩洞適合性を示したと共に、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示した。
比較例1
可塑剤を添加しない以外実施例1と同じ組成のコンポジットレジンとプライマーを用いて評価を行った。結果は、可塑剤を採用しなかったため、実施例1と比べると、必要な曲げ強度と吸水量を満たすことができたが、曲げ弾性率を2〜6GPaに調整できなかった。このため、窩洞適合性が大きく低下していた。
比較例2
不飽和ウレタン系オリゴマーとして、分子量が2720であるUDMAを添加したコンポジットレジンを用いた比較例2について評価した。比較例2は、実施例23と比べると、不飽和ウレタン系オリゴマーの分子量が低いため、必要な曲げ強度と吸水量を満たすことができたが、曲げ弾性率を2〜6GPaに調整できなかった。このため、窩洞適合性が大きく低下していた。
比較例3,4
比較例1のコンポジットレジン中に酸性基非含有かつ水溶性のラジカル重合性単量体である14Gおよび酸性基含有ラジカル重合性単量体であるPMをそれぞれ添加した比較例3と比較例4の評価を行った。可塑剤または高分子の不飽和ウレタン系オリゴマーを採用しなかったため、いずれかの結果、窩洞適合性が大きく低下していた。
比較例5
可塑剤を添加しない以外実施例36と同じ組成のコンポジットレジンとプライマーを用いて評価を行った。バナジウム化合物およびハイドロパーオキサイドを添加したことによって、エナメル質および象牙質の両方に対して、コンポジットレジンの良好な接着強度を示したが、可塑剤を採用しなかったため、窩洞適合性が低下していた。

Claims (5)

  1. (a)ラジカル重合性単量体、(b)光重合開始剤および(c)フィラーを含んでなり、硬化体の曲げ弾性率が2〜6GPaの範囲にある(A)充填修復材と、
    (d)酸性基含有ラジカル重合性単量体および(e)水を含む(B)前処理材と、を含んでなり、
    上記(A)充填修復材が、上記(B)前処理材が塗布され、且つ塗布された当該前処理材が未硬化である窩洞に直接充填されることを特徴とする歯科用充填修復キット。
  2. 請求項1記載の歯科用充填修復キットにおいて、前記(A)充填修復材が、前記(a)ラジカル重合性単量体100質量部に対してさらに1〜30質量部の(f)可塑剤を含むことを特徴とする歯科用充填修復キット。
  3. 請求項2記載の歯科用充填修復キットにおいて、前記(f)可塑剤が、高分子可塑剤であることを特徴とする歯科用充填修復キット。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の歯科用充填修復キットにおいて、前記(a)ラジカル重合性単量体100質量部中、(g)重量平均分子量が1000〜50000の範囲にある不飽和ウレタン系オリゴマーは5〜50質量部が含まれることを特徴とする歯科用充填修復キット。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歯科用充填修復キットにおいて、前記(A)充填修復材が、さらに(h)塩基性無機材料および(i)第3級アミン化合物を含み、(a)ラジカル重合性単量体が(a1)酸性基非含有ラジカル重合性単量体であることを特徴とする歯科用充填修復キット。
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