しかし、上記特許文献1に開示されるようなハロゲンランプ内蔵型のヒートロールは、ローラを内部から加熱する構成であるため、加熱を開始してからローラ表面が必要な温度に上昇するまでの時間が長くなってしまい、ウォームアップタイムの短縮という観点で改善の余地があった。また、熱源が円筒状のローラの内周側に配置されているためにローラ表面の効率的な加熱ができず、省エネルギーの観点からも改善の余地が残されていた。
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、省電力化が可能で、ウォームアップタイムを短縮できるヒートロール及び画像形成装置を提供することにある。
課題を解決するための手段及び効果
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のヒートロールが提供される。即ち、このヒートロールは、耐熱絶縁層と、抵抗発熱体層と、を備える。前記耐熱絶縁層は、電気絶縁性を有する。前記抵抗発熱体層は、前記耐熱絶縁層の外周側に配置され、電圧の印加によって発熱する。
この構成のヒートロールは、電圧の印加によって表面近傍だけが発熱する。従って、対象物を加熱するのに必要な電力を低減できるとともに、ウォームアップタイムを低減することができる。また、耐熱絶縁層が電気絶縁性を有しているので、抵抗発熱体層に電圧を印加しても、回路が耐熱絶縁層を介してショートすることがない。これにより、ヒートロールの構成を簡素化できる。
前記のヒートロールにおいては、前記抵抗発熱体層は、耐酸化性、密着性及び硬度を有することが好ましい。
これにより、高温時の抵抗劣化を抑制できるとともに、抵抗発熱体層の剥離を防止できる。従って、ヒートロールの長寿命化を実現できる。
前記のヒートロールにおいては、前記抵抗発熱体層がモリブデン珪化物又はその合金であるように構成することができる。
あるいは、前記のヒートロールにおいては、前記抵抗発熱体層がタングステン珪化物又はその合金であるように構成することもできる。
これにより、耐久性の高いヒートロールを提供することができる。
前記のヒートロールにおいては、前記抵抗発熱体層が負の温度特性を有することが好ましい。
この構成のヒートロールでは、抵抗発熱体層において局所的な温度低下が発生すると、その部分の電気抵抗が上昇して加熱が促進されるので、結果として温度ムラが是正される。この結果、ヒートロールの表面を均一に加熱することができる。
前記のヒートロールにおいては、前記抵抗発熱体層はモリブデン原子と珪素原子を含んで構成されており、モリブデンに対する珪素の原子数比が2.2より大きく3.0以下であることが好ましい。
これにより、負の温度特性を有する抵抗発熱体層を容易に実現することができる。また、モリブデンに対する珪素の原子数比を変更することで、目的や用途等に応じて様々な温度特性を有する抵抗発熱体層を提供することができる。
前記のヒートロールにおいては、前記耐熱絶縁層は、ポリイミド系耐熱樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、又はポリテトラフルオロエチレンで構成されることが好ましい。
これにより、良好な機械的強度と耐熱性を実現することができる。
前記のヒートロールにおいては、前記抵抗発熱体層が離型層によって被覆されていることが好ましい。
これにより、ヒートロールを例えば電子写真式の画像形成装置に用いた場合に、いわゆるトナーオフセットを防止することができる。
前記のヒートロールにおいては、前記離型層はテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル又はポリテトラフルオロエチレンで構成されていることが好ましい。
これにより、ヒートロールを例えば電子写真式の画像形成装置に用いた場合に、良好な画質を実現することができる。
前記のヒートロールにおいては、前記耐熱絶縁層の内周側に配置された断熱層を備えることが好ましい。
これにより、ヒートロールの機械的強度を更に向上させることができる。また、断熱層の断熱作用により、抵抗発熱体層からの熱がヒートロールの内部に逃げることを防止できる。
前記のヒートロールにおいては、前記断熱層は、発泡シリコン、ウレタンフォームにシリコンを含浸させた含浸体、アラミド系フェルト、アラミド系ブラシ、又は高強度中空セラミックスを含むことが好ましい。
これにより、簡素な構成で、ヒートロールの良好な機械的強度を実現できる。
前記のヒートロールにおいては、前記断熱層と前記耐熱絶縁層との間に、温度によって電気抵抗値が変化する測温抵抗部が配置されていることが好ましい。
これにより、測温抵抗部を抵抗発熱体層に近接させて配置できるので、精度の良い温度測定が可能になる。
前記のヒートロールにおいては、前記測温抵抗部は、電気絶縁性を有するシート上に材料をパターニングすることで構成されていることが好ましい。
これにより、測温抵抗部の簡素な構成を実現できる。
前記のヒートロールにおいては、前記測温抵抗部は面状に形成されるか、又は複数箇所に配置されることが好ましい。
これにより、抵抗発熱体層の温度を広範囲にわたって測定することができる。
本発明の第2の観点によれば、前記のヒートロールによって記録媒体にトナーを定着させる画像形成装置が提供される。
これにより、省エネルギー性に優れ、ウォームアップタイムも短縮できる画像形成装置を実現することができる。
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るコピーファクシミリ複合機501の外観斜視図である。図2は、複合機501の本体の内部を示す正面断面図である。図3は、複合機501の定着部91の構成を示す断面図である。図4は、第1実施形態のヒートロール92を示す模式断面図である。
図1の外観斜視図に示すように、画像形成装置としてのコピーファクシミリ複合機501は、フラットベッドスキャナ及びオートドキュメントフィードスキャナとして機能する画像読取部511と、コピー部数やファクシミリ送信先等を指示するための操作パネル512と、記録媒体としての用紙(シート)に画像を形成する画像形成部等を内蔵した本体513と、前記用紙を順次供給する給紙カセット514と、を備えている。
コピーファクシミリ複合機501は、本体513の正面側(前記操作パネル512が設けられている側)にフロントカバー521を備えるとともに、一側の側面にジャムアクセスカバー522を備えている。これらフロントカバー521及びジャムアクセスカバー522は開閉可能に設けられており、例えばメンテナンス作業等を行う場合にはこれらのカバー521,522を開放することで、本体513の内部にアクセスすることができる。
図2には、コピーファクシミリ複合機501が備える本体513の内部の様子が示されている。この図2に示すように、複合機501は、用紙100を供給する給紙カセット514を本体513の下部に備えている。この給紙カセット514は装置正面側(図2の紙面手前側)に引出し可能に構成されている。給紙カセット514の上方には画像形成部11が配置され、更にその上には定着部(定着装置、加熱装置)91及び排紙トレイ515が備えられている。
本体513の内部には、給紙カセット514から排紙トレイ515へ用紙100を搬送するための搬送路531が形成されている。この搬送路531は、給紙カセット514の一端側から上方に向かって延びて画像形成部11に至り、更に上方へ延びて定着部91を通過した後、水平方向へ湾曲して排紙トレイ515上に至るように構成されている。なお、図2では示していないが、前記排紙トレイ515の上方に前記画像読取部511及び操作パネル512が配置されている。
給紙カセット514は上方開放状に形成されており、その底部には板状のフラッパ532が回動可能に設けられている。用紙100は、このフラッパ532の上に複数枚重ねて積層される。フラッパ532には、当該フラッパ532を上方へ押し上げるための図示しない付勢バネが取り付けられている。更に、フラッパ532の上方には給紙ローラ21が配置されている。以上の構成で、フラッパ532が上方へ付勢された状態で前記給紙ローラ21が駆動されることで、給紙カセット514内の最上層の用紙100が分離されてピックアップされ、前記搬送路531に向けて送り出される。
搬送路531において前記給紙ローラ21のすぐ下流側には、分離ローラ22が配置されている。この分離ローラ22は、それに対向配置されるローラとの間に用紙100をニップしつつ駆動されることで、用紙100を1枚ずつ分離する。分離ローラ22の下流側にはレジストローラ23が配置されている。このレジストローラ23は、それに対向配置されるローラとの間に用紙100をニップしつつ駆動されることで、用紙100の斜行を矯正しつつ下流側の画像形成部11へ搬送する。
画像形成部11は、図2に示すように、感光ドラム12の周囲に、帯電器13と、LEDヘッド14と、現像器15と、転写ローラ16と、クリーナ17と、を配置した構成になっている。
感光ドラム12は、その表面に有機感光体による光導電膜が形成されるとともに、図示しない電動モータによって回転駆動されるように構成されている。帯電器13は、いわゆるスコロトロン帯電器と呼ばれる非接触のコロナ帯電方式のものに構成され、この帯電器13によって感光ドラム12の表面が均一に、例えば負に帯電されるようになっている。
露光器としてのLEDヘッド14は、前記帯電器13より下流側(感光ドラム12の回転方向の下流側をいう。以下、現像器15、転写ローラ16及びクリーナ17の説明において同じ。)に配置されており、発光ダイオード(LED)を用紙幅方向に多数並べて備えた構成となっている。このLEDヘッド14の表面には、屈折率分布型レンズを多数並べたレンズアレイが配置される。そしてLEDヘッド14は、電話回線を介して受信したファクシミリ原稿の画像データ、又は、画像読取部511で読み取った画像データ等に対応して選択的に発光する。この結果、感光ドラム12の表面が選択的に露光され、露光部分の電荷エネルギーが消失することで静電潜像が形成される。
現像器15は前記LEDヘッド14の下流側に配置されている。この現像器15は、トナーとキャリアとを現像剤として用いる2成分現像方式に構成されている。具体的には、現像器15は、合成樹脂製の現像剤容器35と、この現像剤容器35の内部に配置されたスクリュー形状の2つの撹拌部材31,32と、前記感光ドラム12に対し僅かな隙間を形成しつつ近接配置されるとともに前記現像剤容器35に支持される現像剤担持体33と、この現像剤担持体33の表面に近接して配置される規制ブレード34と、を備えている。
撹拌部材31,32は回転駆動され、これによってトナーとキャリアとを均等に混合させつつ、2成分現像剤を現像剤容器35内で循環させるように構成されている。また、現像剤担持体33は非磁性体の材料で筒状に形成され、円柱状の磁気体36の外側に回転可能に嵌合される。そして、内部の磁気体36は、その磁気によって2成分現像剤を現像剤担持体33の表面に吸着し、この状態で現像剤担持体33を回転させることで、2成分現像剤は現像剤担持体33の表面に保持されつつ感光ドラム12側へ送られる。なお、現像剤担持体33の表面の2成分現像剤の厚みは、前記規制ブレード34によって均一となるよう規制される。
その後、感光ドラム12と現像剤担持体33との近接部分において、現像剤担持体33の表面の2成分現像剤のうちトナーが、前記LEDヘッド14による露光部に相当する部分においてのみ、感光ドラム12の表面へ選択的に移動する。この結果、感光ドラム12の表面上に、前記静電潜像に対応したトナー像が形成される。なお、2成分現像剤のうちキャリア、及び、感光ドラム12側へ移動しなかった残りのトナーは、現像剤容器35内に回収される。
転写ローラ16は、前記現像器15の下流側に配置されるとともに、感光ドラム12から搬送路531を挟んで反対側に配置されている。また、この転写ローラ16には電源からの所定の電圧が印加されている。従って、感光ドラム12の表面に形成されたトナー像は、感光ドラム12の回転によって転写ローラ16側へ近づくように移動し、その電界吸引力によって用紙100に転写される。
クリーナ17は、前記転写ローラ16の下流側に配置されており、転写ローラ16の部分で用紙100に転写されなかった残留トナーを除電するとともに、感光ドラム12の表面から掻きとって貯留するように構成されている。
上記の画像形成部11の構成のうち、少なくとも感光ドラム12と、帯電器13と、現像器15と、クリーナ17は、合成樹脂製のカートリッジに収容され、プロセスカートリッジ(プロセスユニット)5として構成される。この画像形成部11においてトナー像が転写された用紙100は、感光ドラム12の回転によって、搬送路531の下流側の定着部91へ送られる。
図2に示すように、定着部91は、回転駆動されるヒートロール92と、このヒートロール92に対向して配置されるプレスローラ93と、を備えている。プレスローラ93は図略の付勢バネによってヒートロール92に対して押し付けられている。この構成で、用紙100がヒートロール92とプレスローラ93との間を通過すると、高温のヒートロール92の熱及びプレスローラ93による圧力によって、トナー像のトナーが融解して用紙100に定着する。なお、定着部91には、用紙100がヒートロール92に貼り付いたまま周囲に巻き付くことを防止するための分離爪94が設けられている。
図2に示すように、定着部91より下流側には搬送ローラ95が設けられ、更に下流側には排紙ローラ96が設けられる。この構成で、定着部91から送られてきた用紙100は、搬送ローラ95とそれに対向配置される従動ローラとの間でニップされ、下流側に送られる。更に用紙100は、排紙ローラ96とそれに対向配置される従動ローラとの間でニップされて、前記排紙トレイ515上に排出される。
次に、定着部91の詳細な構成を、拡大断面図である図3を参照して説明する。定着部91は図3に示すように、前記ヒートロール92及びプレスローラ93を収容するハウジング55を備える。このハウジング55には、図示しないベアリングを介してヒートロール92が回転可能に支持されるとともに、プレスローラ93が軸受体57を介して回転可能に支持される。
軸受体57はハウジング55に対してスライド可能に取り付けられており、軸受体57とハウジング55との間には付勢バネ58が介在される。この付勢バネ58のバネ力によって、プレスローラ93がヒートロール92に対して押し付けられる構成になっている。
次に、ヒートロール92及びプレスローラ93の詳細な構成について、図4を参照して説明する。図4は、第1実施形態のヒートロール92を示す模式断面図である。図4に示すように、ヒートロール92は、絶縁パイプ(耐熱絶縁層)81と、抵抗発熱体層82と、離型層83と、を主要な構成として備えている。
絶縁パイプ81は、電気絶縁性を有する合成樹脂(具体的にはポリイミド系の耐熱樹脂であって、例えば商品名「カプトン(登録商標)」と呼ばれるもの)によって、厚みが例えば0.05ミリメートル程度である中空の円筒状に成形されている。ただし、絶縁パイプ81の素材としては上記に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、又はポリテトラフルオロエチレン等を用いても良い。また、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ガラス等強化PPS、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ガラス等強化PEEK、トルロン(商品名、ポリアミド系)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)等を用いても良い。
抵抗発熱体層82は、絶縁パイプ81の外周面に一様な厚みで形成されている。この抵抗発熱体層82は、厚みが例えば0.003ミリメートル程度となるように薄膜状に形成されるものであり、その方法としては公知のスパッタリングを使用することが考えられる。この抵抗発熱体層82の薄膜は、絶縁パイプ81の外周面の全面に形成させる場合と、所定のパターンを形成するように一部のみに形成させる場合と、が考えられる。ただし、パターン化された抵抗発熱体層82を形成する場合、薄膜を絶縁パイプ81の外周面の全面にいったん形成させた後に、エッチングやリフトオフ法等の適宜の方法を用いて不要な部分を除去する方法で実現しても良い。
抵抗発熱体層82の厚みは、薄膜堆積時間や、スパッタ源に投入する放電電力により調整することができる。また、スパッタリング処理時においては絶縁パイプ81を一定の速度で回転させることで、均一な厚さの抵抗発熱体層82を外周面に形成することができる。
なお、上述のように絶縁パイプは樹脂で構成されているので、熱による絶縁パイプの変形を防止するために、スパッタリングは低電力で行うことが好ましい。あるいは、絶縁パイプ自体を水冷等の方法で冷却しながらスパッタリングを行っても良い。また、前記PBIを絶縁パイプ81の材料として用いる場合、当該PBIに抵抗発熱体層82を良好に密着させるために、プラズマによる絶縁パイプ81の温度上昇を200℃以下に抑えることが好ましい。
更には、絶縁パイプ81の厚みが薄い場合、スパッタリングによる薄膜堆積時に絶縁パイプ81が変形することを防止すべく、当該絶縁パイプ81の内部に金属、セラミックス等からなる芯材を挿入しておくことが好ましい。これにより、絶縁パイプ81の形状を良好に保持することができる。
ヒートロール92の軸方向の端部には図示しないロール電極がそれぞれ配置されており、当該ロール電極に抵抗発熱体層82が電気的に接続されている。このロール電極は、例えば銀のスパッタ膜や銀ペーストで形成することが考えられる。この構成で、ヒートロール92の一対のロール電極に電源からの電圧を印加することで、抵抗発熱体層82を発熱させ、ヒートロール92の表面を昇温させることができる。なお、絶縁パイプ81は電気絶縁性を有しているので、当該絶縁パイプ81の外周に抵抗発熱体層82を直接形成して電圧を印加しても、回路がショートすることはない。
ここで、抵抗発熱体層82とロール電極間の接触抵抗による接触部近傍の異常発熱の影響を軽減する観点から、前記ロール電極に対しては、直流ではなく交流電源を用いて通電するのが好ましい。
また、前記ロール電極に接触して電力を供給するための給電電極は、例えばバイメタルを用いることが好ましい。これにより、ヒートロール92の温度が異常に上昇した場合でも、温度変化に伴ってバイメタルが変形することで給電電極がロール電極から離れるので、電力供給を自動的に遮断することができる。
この抵抗発熱体層82の材料は、耐酸化性、絶縁パイプ81に対する密着性、及び硬度を有することが好ましく、具体例としては、モリブデン珪化物、タングステン珪化物、タンタル珪化物、又はこれらを配合した金属珪化物とすることが好ましい。これにより、抵抗発熱体層82を発熱させた場合における抵抗の劣化を抑制でき、また、絶縁パイプ81からの抵抗発熱体層82の剥離を防止することができる。ただし、抵抗発熱体層82の材料としては、上記のほかにも、モリブデン、タングステン、タンタル、それらの合金、或いはそれぞれのゲルマニウム化合物を用いることもできる。また、ニクロム、カンタル(登録商標)、酸化スズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛等によって抵抗発熱体層82を形成する構成とすることもできる。
更には、抵抗発熱体層82には、炭素、珪素、及びゲルマニウムのうち少なくとも1以上が添加されていることが好ましい。これにより、抵抗発熱体層82の耐酸化性を更に向上させることができる。
また、抵抗発熱体層82は、負の温度特性(即ち、高温になるに従って電気抵抗が減少する特性)を有することが好ましい。具体例としては、モリブデンと珪素で構成されたスパッタリングで得られた膜で、モリブデンに対する珪素の原子数比が2.2よりも大きく3.0以下であるものを用いると、負の温度特性を有する抵抗発熱体層を実現することができる。なお、発明者らの実験によれば、モリブデンに対する珪素の原子数比が2.2のときに温度係数が0となり、原子数比が2.2から3.0の範囲では温度係数が負の領域でほぼ直線的に変化し、3.0を上回ると温度係数が変化しなくなることが確認されている。従って、ヒートロール92に要求される温度特性に応じて、珪素の原子数比を適宜選定すれば良い。
以下、本実施形態のように抵抗発熱体層82が負の温度特性を有することによる効果について、詳細に説明する。抵抗発熱体層82が負の温度特性を有している場合、抵抗発熱体層82の温度が上がると電気抵抗値が低下するので供給電力が低下する一方、温度が下がると電気抵抗値が上昇するので供給電力が上昇することになる。従って、例えばヒートロール92の表面温度が仮に局所的に低下したとしても、その部分における抵抗発熱体層82の電気抵抗が上昇して強く発熱するようになるので、ヒートロール92の表面温度ムラを抑制できる。この結果、ヒートロール92で用紙100を均一に加熱することができる。このように、抵抗発熱体層82自体が温度調整機能を有しているので、温度調節のための制御回路を省略することができる。
図5(a)にはヒートロール92の模式的な断面図が、図5(b)には図5(a)の抵抗発熱体層82のモデル回路が、それぞれ示されている。本実施形態のヒートロール92では絶縁パイプ81の外周面において抵抗発熱体層82が一面に形成されており、その軸方向両端にロール電極が配置されている。従って、図5(a)の抵抗発熱体層82をヒートロール92の軸方向で3つに仮想的に分割することで、図5(b)のように、3つの抵抗体R1,R2,R3が電気的に直列接続された回路モデルを考えることができる。そして、ヒートロール92の表面温度が所定の温度まで均一に上昇していた状態では、電気回路モデルにおいて、抵抗体R1,R2,R3の電気抵抗値がそれぞれ4Ωであったとする。この場合、抵抗体R1,R2,R3は直列接続されているので、全体の抵抗値は12Ωとなる。100Vの電源を用いた場合、各抵抗体R1,R2,R3には約8.3Aの電流が流れるから、それぞれの抵抗体R1,R2,R3は約278Wずつの電力を消費することになる。
次に、図5(a)の鎖線に示すように、幅の小さい用紙100がヒートロール92の軸方向中央部分だけに接触することで、中央部分の抵抗体R2の部分だけ、抵抗発熱体層82の温度が局所的に低下したとする。そして、この結果、抵抗体R2の電気抵抗値が4.4Ωに上昇したとする(抵抗体R1,R3の電気抵抗値は4Ωのままとする)。全体の抵抗値は12.4Ωとなるので、100Vの電源を用いると各抵抗体R1,R2,R3には約8.1Aの電流が流れるから、抵抗体R2は約286Wの電力を消費し、抵抗体R1,R3は約260Wの電力を消費することになる。
このように、抵抗発熱体層82が用紙100と接触する部分(抵抗体R2に相当する部分)では供給電力が3%程度増大する一方、それ以外の部分(抵抗体R1,R3に相当する部分)では供給電力が逆に6.3%程度減少する。従って、全体として省電力化を図ることができる。
離型層83は、抵抗発熱体層82の表面を被覆するようにして、抵抗発熱体層82の外周に配置されている。この離型層83は、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂で、厚みが例えば0.03ミリメートル程度となるように構成されることが好ましい。このようにトナーに対して離型性の高い材料(表面エネルギーが低く分子間凝集力の小さい材料)を離型層83として用いることで、トナーのヒートロール92表面への付着を効果的に防止し、形成される画像の画質を向上させることができる。
以上に示すように、本実施形態のコピーファクシミリ複合機501が備える定着部91は、ヒートロール92を備える。そして、ヒートロール92は、絶縁パイプ81と、抵抗発熱体層82と、を備える。絶縁パイプ81は、電気絶縁性を有する。抵抗発熱体層82は、絶縁パイプ81の外周側に配置され、電圧の印加によって発熱する。
この構成のヒートロール92は、電圧の印加によって表面近傍だけが発熱することになる。従って、用紙100を加熱するのに必要な電力を低減できるとともに、ウォームアップタイムを低減することができる。これにより、複合機501の省エネルギー性、及びファーストプリントタイムの短縮に貢献できる。また、絶縁パイプ81が電気絶縁性を有しているので、抵抗発熱体層82に電圧を印加しても、回路が絶縁パイプ81を介してショートすることがない。これにより、ヒートロール92の構成を簡素化できる。
また、本実施形態のヒートロール92においては、抵抗発熱体層82は、耐酸化性、密着性及び硬度を有しており、具体的には、モリブデン珪化物、タングステン珪化物、又はその合金で構成されている。
これにより、高温時の抵抗劣化を抑制できるとともに、抵抗発熱体層82の剥離を防止できる。従って、耐久性に優れたヒートロール92を提供することができる。
また、本実施形態のヒートロール92においては、抵抗発熱体層82が負の温度特性を有するように構成されている。
この構成により、抵抗発熱体層82において局所的な温度低下が発生しても、その部分の電気抵抗が上昇して加熱が促進されるので、結果として温度ムラが是正される。この結果、ヒートロール92の表面を均一に加熱することができる。
また、本実施形態のヒートロール92においては、抵抗発熱体層82はモリブデン原子と珪素原子を含んで構成されており、モリブデンに対する珪素の原子数比が2.2より大きく3.0以下となっている。
これにより、負の温度特性を有する抵抗発熱体層82を容易に実現することができる。また、モリブデンに対する珪素の原子数比を変更することで、使用する用紙100の厚み等に応じて様々な温度特性を有する抵抗発熱体層82を提供することができる。
また、本実施形態のヒートロール92において、絶縁パイプ81は、ポリイミド系耐熱樹脂で構成されている。
これにより、良好な機械的強度と耐熱性を実現することができる。
また、本実施形態のヒートロール92において、抵抗発熱体層82は離型層83によって被覆されている。
これにより、定着部91において、いわゆるトナーオフセットを防止することができる。
また、本実施形態のヒートロール92において、離型層83は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル又はポリテトラフルオロエチレンで構成されている。
これにより、良好なトナー定着が実現されるので、複合機501で形成される画像の画質を向上させることができる。
次に、第2実施形態のヒートロールについて説明する。図6は、第2実施形態のヒートロール92xを示す模式断面図である。なお、第2実施形態(及び後述の第3実施形態)の説明においては、前述の第1実施形態と同一又は類似の構成には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
本実施形態のヒートロール92xにおいては、前述の第1実施形態のヒートロール92と異なり、絶縁パイプ81の内周側に適宜の厚みの断熱層84が設けられている(図6を参照)。この断熱層84の厚みは、例えば2ミリメートルとすることが考えられる。
この断熱層84は一定の弾性を有しており、例えば、発泡シリコン、ウレタンフォームにシリコンを含浸させた含浸体、アラミドイミドのフェルト、又はアラミドイミドのブラシ等で構成されている。この断熱層84は単独で設置されても良いが、例えば金属製の筒の外周面に固定された状態で設置することもできる。
また、断熱層84が弾性を有しないように構成しても良く、この場合の断熱層84としては、例えば高強度中空セラミックス(中空の微小球体を含むセラミックス)を用いることが考えられる。この断熱層84により、ヒートロール92xの機械的強度を効果的に向上させるとともに、そのロールとしての形状を安定的に保持することができる。
以上に説明したように、本実施形態のヒートロール92xは、絶縁パイプ81の内周側に配置された断熱層84を備えている。
これにより、ヒートロール92xの機械的強度を更に向上させることができる。また、断熱層84の断熱作用により、抵抗発熱体層82からの熱がヒートロール92xの内部に逃げることを防止できるので、省エネルギー性に優れる。
また、本実施形態のヒートロール92xにおいて、断熱層84は、発泡シリコン、ウレタンフォームにシリコンを含浸させた含浸体、アラミド系フェルト、アラミド系ブラシ、又は高強度中空セラミックスを含んで構成されている。
これにより、簡素な構成で、ヒートロール92xの良好な機械的強度を実現できる。
次に、第3実施形態のヒートロールについて説明する。図7は、第3実施形態のヒートロール92yを示す模式断面図である。図8は、測温抵抗体85付きのシート86を絶縁パイプ81に取り付ける作業を示す概念図である。図9は、図7のA−A断面矢視図である。
本実施形態のヒートロール92yにおいては、前述の第2実施形態のヒートロール92xと同様に、絶縁パイプ81の内周側に断熱層84が備えられている。そして、断熱層84と絶縁パイプ81との間に挟まれるようにして、複数の測温抵抗体(測温抵抗部)85が配置されている。
この測温抵抗体85は面状に形成されており、具体的には、金属材料(例えば白金、ニッケル、タングステン、モリブデン等)からなる薄膜を、電気絶縁性及び可撓性を有するシート状の基材の表面に所定のパターンに従って形成することで実現することができる。なお、上記の金属材料としては、耐酸化特性に優れており抵抗温度係数が大きいもの、具体的には白金、ニッケル等を用いることが好ましい。また、測温抵抗体が配置されるシート状の基材は、絶縁パイプ81と同一の材料であっても良いし、異なる材料であっても良いが、例えばポリイミドシートを採用することができる。
また、シート状の基材の表面にパターンを形成する方法としては、スパッタリング法や真空蒸着法を用いることが考えられる。このパターンを形成するときの厚みは、得たい抵抗値に応じて適宜調整すべきであるが、例えば0.1μm〜1μm程度とすることができる。
次に、図8(a)の太線矢印に示すように、上記のようにして得られた測温抵抗体85付きのシート(基材)86を円筒状に丸めて絶縁パイプ81の内部に挿入し、シート86が図8(b)に示すように絶縁パイプ81の内周面に密着するように配置する。これにより、絶縁パイプ81をシート86が内側から支える形となるので、ヒートロールの機械的強度を増大させることができる。また、温度測定のために局部的に熱が奪われることが防止され、少量の熱負荷で温度を測定することができる。なお、図8(a)では測温抵抗体85が内周側となるようにシート86を丸めているが、測温抵抗体85が外周側となるようにシート86を丸めて絶縁パイプ81に挿入しても良い。
また、図8(a)では説明の便宜のため測温抵抗体85を1つしか図示していないが、本実施形態では、図9に示すように、測温抵抗体85がヒートロール92yの軸方向に複数配置されている。これにより、抵抗発熱体層82が配置されている領域の温度を広い範囲で測定できるので、例えば、ヒートロール92yの表面における温度分布の傾向を得ることができる。ただし、測温抵抗体85の数及び配置は任意であって、測温抵抗体を例えば周方向に複数配置するように構成することもできる。また、単一の広い面状の測温抵抗体を配置するように構成することもできる。
なお、本実施形態では、前記断熱層84が弾性を有するように構成されている。これにより、断熱層84の弾性力によって測温抵抗体85が絶縁パイプ81の内周面に押し付けられて良好に密着するので、応答速度及び測定精度を向上させることができる。
以上に説明したように、本実施形態のヒートロール92yにおいては、断熱層84と絶縁パイプ81との間に、温度によって電気抵抗値が変化する測温抵抗体85が配置されている。
これにより、測温抵抗体85を抵抗発熱体層82に近接させて配置できるので、精度の良い温度測定が可能になる。
また、本実施形態のヒートロール92yにおいて、測温抵抗体85は、電気絶縁性を有するシート86上に材料をパターニングすることで構成されている。
これにより、測温抵抗体85の簡素な構成を実現できる。
また、本実施形態のヒートロール92yにおいて、測温抵抗体85は面状に形成されており、当該ヒートロール92yの複数箇所に配置されている。
これにより、抵抗発熱体層82の温度を広範囲にわたって測定することができる。
なお、可撓性を有するシート状の基材に測温抵抗体85を形成する代わりに、円筒状の基材に測温抵抗体を形成し、この円筒状の基材を絶縁パイプの内部に挿入するようにしても良い。また、測温抵抗体を、絶縁パイプ81において前記抵抗発熱体層82が形成されている側と反対側の面に直接形成しても良い。
次に、上記の技術思想をより具体化した実施例について説明する。本実施例では、カプトン(登録商標、ポリイミド)を用いて円筒状に成形した絶縁パイプを用意した。この絶縁パイプの外径は24ミリメートル、長さは約60ミリメートルであった。
次に、上記絶縁パイプの外周面に、発熱体をスパッタリングにより成膜した。この成膜工程は以下のように行った。即ち、二珪化タングステン(WSi2)のみ、或いは二珪化モリブデン(MoSi2)粉末と珪素の粉末を、モリブデンと珪素の原子数比が1:X(二珪化モリブデン粉末と珪素粉末の比は1:2−X)となるように計量し、メノウ乳鉢で乾式混合した。次に、この混合物を無酸素銅製の皿状のターゲットホルダに25MPaで加圧し、容量結合型平行平板型マグネトロンスパッタリング装置及び高周波電源を組み合わせたRFマグネトロンスパッタリング装置にセットした。
次に、絶縁パイプを、イオン交換水、メタノール、アセトン、トリクロロエチレン、アセトン、メタノール、イオン交換水、更にイオン交換水の順で各5分間、超音波洗浄器で洗浄した。
続いて、ターゲットから約100ミリメートルの位置に回転可能に配置され、その軸線がターゲット面に対して平行に配置されたステンレス製回転軸に、絶縁パイプを固定した。そして、回転速度約1rpmで絶縁パイプをステンレス製回転軸とともに回転させながら、RFマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリングは、放電周波数が13.56MHz、放電電力が150W、放電時圧力が0.27Pa、アルゴン流量が600ml/分の条件下で、2.5時間行った。これにより、絶縁パイプの表面に厚さ約100μmの発熱体(抵抗発熱層)が成膜された。
その後、ロール電極を銀ペーストを用いて形成した。続いて、厚さ30μmのPFAを300℃でロールの表面にコートし、離型層を作成した。その後、筒状の絶縁パイプの内部に、フェルトを外周面に植え付けた金属パイプ(フェルトコア)を挿入した。
以上の手順で作成されたヒートロールについて、発熱試験を行った。この試験の結果、本実施例のヒートロールは、電力密度5.4W/cm2の条件で通電すると、外周面の温度が1.2秒の間に200℃まで高速に昇温できることが判った。
次に、前記第3実施形態で説明した測温抵抗体を実際に作成し、その温度応答性について調べた。
ヒートロールは、外径24ミリメートル、長さ約65ミリメートルのものを使用した。ヒートロールの外周面に抵抗発熱体層を配置し、当該抵抗発熱体の表面は、厚さ約30μmのフッ素樹脂系の熱収縮円筒フィルムによって被覆した。
測温抵抗体は、可撓性のあるポリイミドシートの表面に、白金を厚さ50μmで所定のパターンに従ってスパッタリングすることで形成した。このポリイミドシートを円筒状に丸めてヒートロールの絶縁パイプの内部に差し込み、更に、断熱層としての弾性フェルトを外周面に巻き付けた金属パイプを差し込むことにより、弾性フェルトの弾性力によって測温抵抗体を絶縁パイプの内周面に密着させた。
こうして得られたヒートロールのロール電極に対して7Aの直流定電流を通電するとともに、その表面温度の変化を、前記測温抵抗体と、赤外線放射温度計によって計測した。すると、測温抵抗体は、応答速度100ミリ秒以下の赤外線放射温度計に対しても遜色ない応答速度を有していることが判った。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
薄膜状の抵抗発熱体層82を形成する方法としては、上記のスパッタリングのほか、真空蒸着、PVD、CVD、溶射法、スプレー法、印刷法、ディップコーティング法等を用いることもできる。
上記で示した絶縁パイプ81、抵抗発熱体層82、離型層83、断熱層84等の厚みは例示であって、実際はヒートロールの寸法、用途等に応じて適宜変更することができる。
上記実施形態では、ヒートロールは電子写真式の画像形成装置における定着部に適用されているが、本発明のヒートロールは画像形成装置に限定されず、他の様々な装置に適用することが可能である。