以下に、本発明の圧電部品の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の圧電部品の実施の形態の一例を示す外観斜視図である。また、図2は、図1に示す圧電部品1の実施の形態の一例のA−A線における断面図である。
図1および図2に示す例の圧電部品1は、本発明の第1の圧電部品であり、圧電基板2、圧電基板2の両主面のそれぞれに圧電基板2を挟んで互いに対向して被着されている第1振動電極3および第2振動電極4を含む圧電素子5と、圧電素子5が周囲に振動のための空間を確保して一方の主面に配置された支持基板6と、圧電素子5を収納するための凹部7を有しており、凹部7の開口の周囲の全面が接着シート8によって支持基板6の一方の主面に接着されているケース9とを具備する圧電部品1であり、接着シート8が、凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着している。
このような構成により、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面が接着シート8によって支持基板6の一方の主面に接着されることとなるので、ケース9と支持基板6との接着力を向上させることができ、圧電素子5の振動部の周囲に形成される空間の封止性を向上させることができる。
また、本発明の圧電部品1によれば、ケース9の凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着しているのは接着シート8であるため、その厚みを薄くすることができる。従って、圧電素子5の振動部付近の凹部7の内部空間を広く確保できるようになるため、ケース9の凹部7の内壁に被着した接着シート8の圧電素子5の振動部への接触を起こりにくくすることができる。
なお、図1における符号10は外部電極を示しており、図2における符号11a,11bは導電性接続樹脂を示しており、符号12a,12bは上面電極を示しており、符号13a,13bは下面電極を示している。
圧電基板2は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT),チタン酸鉛(PT),ニオブ酸ナトリウム・カリウム(Na1−xKxNbO3),ビスマス層状化合物(例:MBi4Ti4O15、M:2価のアルカリ土類金属元素)等を基材とする圧電セラミックス、または水晶,タンタル酸リチウム等の圧電単結晶からなる。
なお、小型化および回路基板への実装性という観点からは、圧電基板2は、長さが0.5〜5mm、幅が0.2〜5mm、厚みが50μm〜1mmの直方体形状とすることが好ましい。
また、圧電基板2は必ずしも全面で一様な厚みを有する必要はなく、厚み振動のエネルギー閉じ込めを良くして共振特性を向上する目的で、例えば、第1振動電極3および第2振動電極4が対向している部分の圧電基板2の厚みを周囲の領域よりも薄く形成したり、または厚く形成したりすることができる。
圧電基板2がセラミック材料から成る場合は、原料粉末にバインダを加えてプレスする方法、あるいは原料粉末を水や分散剤とともにボールミルを用いて混合した後に乾燥させ、バインダ,溶剤,可塑剤等を加えてドクターブレード法により成型する方法等によってシート状とし、次に、1100〜1400℃のピーク温度で0.5〜8時間焼成して基板を形成し、これに80〜200℃の温度にて厚み方向に3〜6kV/mmの電圧をかけて分極処理を施すことによって、所望の圧電特性を有した圧電基板2が得られる。
また、圧電基板2が圧電単結晶材料からなる場合は、圧電基板2となる圧電単結晶材料のインゴット(母材)を所定の結晶方向となるように切断することによって、所望の圧電特性を有した圧電基板2が得られる。
第1振動電極3および第2振動電極4は、圧電基板2の両主面のそれぞれに圧電基板2を挟んで互いに対向して被着されているものである。なお、以下の説明においては、第1振動電極3および第2振動電極4は、それぞれ異なる電位の電極であるものとする。
第1振動電極3および第2振動電極4は、導電性の観点からは金,銀,銅またはアルミニウム等の金属膜からなることが好ましい。電極3の厚みは0.1〜5μmの範囲とすることが好ましい。第1振動電極3および第2振動電極4となる金属膜を0.1μmよりも厚くすることにより、例えば、大気中において高温にさらされた場合に、酸化によって導電性が低下することを抑制することができる。また、金属膜を5μmよりも薄くすることにより、金属膜が応力で剥離するのを防ぐことができる。
また、圧電基板2との密着性を高めるために、圧電基板2の主面(表面)に、例えば、クロムのようにセラミック基板との密着性が高い金属からなる下地電極層を予め形成し、その上に所望の金属膜を形成して、第1振動電極3および第2振動電極4としてもよい。
このような第1振動電極3および第2振動電極4となる金属膜の被着には、真空蒸着法,CVD法またはスパッタリング法等が利用できる。
また、第1振動電極3および第2振動電極4は、例えば、銀または銅等の金属フィラーを含有し、低温ガラスをバインダとする導電性ペーストを、所定の温度で焼き付けて形成することもできる。この場合の第1振動電極3および第2振動電極4の厚みは5〜30μmの範囲とすることが好ましい。第1振動電極3および第2振動電極4となる電極膜を5μmよりも厚くすることにより、金属フィラー間の接触不良による導通抵抗の増大を抑制することができる。また、30μmよりも薄くすることにより、第1振動電極3および第2振動電極4の質量効果による圧電基板2の振動特性の劣化を防ぐことができる。
第1振動電極3および第2振動電極4の寸法は、例えば、圧電基板2の寸法が、長さが2mm、幅が0.5mm、厚みが0.2mmの直方体形状である場合は、圧電基板2の長さ方向の寸法が1.5mmであり、圧電基板2の幅方向の寸法が0.5mmであり、厚みが1μmであるものとする。
圧電素子5は、圧電基板2、圧電基板2の表面に圧電基板2を挟んで互いに対向して被着されている第1振動電極3および第2振動電極4を含むものである。また、圧電素子5の振動部とは、圧電基板2を挟んで第1振動電極3および第2振動電極4が対向している領域のことを示すものである。
なお、図2に示す例においては、圧電基板2の両主面のうち上側の主面である上面に第1振動電極3が、下側の主面である下面に第2振動電極4がそれぞれ被着されている構成となっている。
ここで、図3は、図1に示す圧電部品1における圧電素子5の実施の形態の他の例のA−A線における断面図である。
図3に示す例のように、圧電素子5は、圧電基板2の両主面のそれぞれに第1振動電極3および第2振動電極4が圧電基板2を挟んで互いに対向して被着されていれば、圧電基板2の内部に、さらに別の第1振動電極3および第2振動電極4が互いに対向するように、また両主面の第1振動電極3および第2振動電極4にそれぞれ対向するようにして、埋設されていてもよいものである。なお、図3に示す例に限られず、圧電基板2の内部に埋設されている第1振動電極3および第2振動電極4は、2つずつ以上であってもよいものである。
また、図4は、図1に示す圧電部品1における圧電素子5の実施の形態のさらに他の例のA−A線における断面図である。
図4に示す例のように、圧電素子5は、圧電基板2、圧電基板2の両主面に圧電基板2を挟んでそれぞれ被着されている第1振動電極3、および圧電基板2の内部に第1振動電極3に対向して形成されている第2振動電極4を含むものでもよい。この図4に示す例の圧電部品1は、本発明の第2の圧電部品である。
圧電素子5をこのような構成とすることによって、圧電素子5は少なくとも3つの振動電極(2つの第1振動電極3および1つの第2振動電極4)を含むこととなるので、圧電基板2の両主面のそれぞれに第1振動電極3および第2振動電極4がそれぞれ1つずつ被着されている場合と比較して、振動電極同士が対向する面積を大きくすることができる。従って、圧電素子5の幅方向の寸法を小さくしつつ、同じ厚みの圧電基板2で同じ値の容量を得ることができる。従って、容量値と反比例の関係にある圧電素子5の共振抵抗を一定に保ったまま、圧電素子5の幅方向の寸法を小さくすることができる。その結果、圧電素子5の振動部付近の凹部7の内部空間を広く確保できるようになるため、ケース9の凹部7の内壁に被着した接着シート8の、圧電素子5の振動部への接触を起こりにくくすることができる。
また、図5は、図1に示す圧電部品1における圧電素子5の実施の形態のさらに他の例のA−A線における断面図である。
図5に示す例のように、圧電素子5は、圧電基板2の両主面に圧電基板2を挟んでそれぞれ第1振動電極3が被着され、圧電基板2の内部に第1振動電極3に対向して第2振動電極4が形成されていれば、圧電基板2の内部にさらに別の第1振動電極3および第2振動電極4が圧電基板2の両主面の第1振動電極3および内部の第2振動電極4と互いに対向するように埋設されていてもよいものである。
このような構成とすることによって、圧電素子5は、振動電極同士の対向面積をさらに大きく確保することができ、圧電素子5の容量値を大きくすることができるので、圧電素子5の幅方向の寸法をさらに小さくすることができる。その結果、圧電素子5の振動部付近の凹部7の内部空間を広く確保できるようになるため、ケース9の凹部7の内壁に被着した接着シート8の圧電素子5の振動部への接触を起こりにくくすることができる。
なお、図5に示す例に限られず、圧電基板2の内部に埋設されている第1振動電極3は2つ以上であってもよく、第2振動電極4は3つ以上であってもよいものである。
なお、図2に示す例においては、圧電素子5は、両端がそれぞれ導電性接続樹脂11a,11bによって支持されることによって、支持基板6の一方の主面に配置されているものである。なお、それぞれの導電性接続樹脂11a,11bは、上面電極12a,12bを介して支持基板6の上面に配置されているものである。また、上面電極12a,12bおよび下面電極13a,13bにおける圧電素子5の幅方向の両端部は、支持基板6の周縁部まで延びている。そして、各電極12a,12b,13a,13bの両端部が、図1に示された例における外部電極10に電気的に接続されている。以上のような電極の構成によって、本発明の圧電部品1は、外部電極10を介して外部の電子機器等と電気的に接続される。
支持基板6は、圧電素子5が周囲に振動のための空間を確保して一方の主面(上面)に配置されるものである。
なお、支持基板6の材料には、例えば、アルミナ,チタン酸バリウム,チタン酸ジルコン酸鉛(PZT),チタン酸鉛(PT)またはニオブ酸ナトリウム・カリウム(Na1−xKxNbO3))等のセラミック材料が使用される。また、他にも、フェノール系樹脂,ポリイミド系樹脂またはエポキシ系樹脂等の樹脂材料も使用される。さらに、他にも、ガラス繊維またはアラミド繊維等からなる布にポリイミド系樹脂またはエポキシ系樹脂等の樹脂材料を含浸させた樹脂シート材も用いられる。
なお、支持基板6として前述した樹脂材料を使用することによって、その厚みをセラミック材料では比較的割れが発生しやすい20〜100μmの範囲へと薄くすることが容易となる。
また、支持基板6の寸法は、長さ方向が1.5〜7mmであり、幅方向が1〜7mmであり、厚みが50μm〜1mmであるものとする。
また、圧電素子5を支持基板6に配置した結果、圧電素子5の周囲に振動のための空間を確保できるためには、圧電素子5の両端がそれぞれ支持されており、圧電素子5の振動部付近の凹部の内部空間が十分に広く確保されていることが必要である。例えば、図2に示す例においては、圧電素子5の両端はそれぞれ導電性接続樹脂11a,11bによって支持されている。
ケース9は、圧電素子5を収納するための凹部7を有しており、凹部7の開口の周囲の全面が接着シート8によって支持基板6の一方の主面に接着されているものである。
ケース9は、例えば、フェノール系樹脂,ポリイミド系樹脂もしくはエポキシ系樹脂等の樹脂材料、またはガラス繊維,アラミド繊維等からなる布にポリイミド系樹脂またはエポキシ系樹脂等を含浸させた樹脂シート材が用いられる。
特に、これらの樹脂シート材を使用した場合には、ケース9を薄く形成することができることに加えて、機械的強度にも優れたものとすることができる。
また、ケース9には、アルミナ等のセラミック材料またはSUS等の金属材料を用いることもできる。金属材料を用いる場合には、薄板を折り曲げて凹部7を形成し、接着面を有する形状へと加工することによって、ケース9を作製することもできる。
なお、ケース9に金属材料を用いた場合には、圧電部品1を小型化することによって、導電性接続樹脂11a,11bと金属材料からなるケース9との距離が近接してしまうことがある。しかし、図2に示す例のように、本発明の圧電部品1は、接着シート8が凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着されているため、接着シート8をエポキシ樹脂等の絶縁材料からなるものとしておけば、導電性接続樹脂11a,11bと金属材料からなるケース9とが近接していても、両者が接触して電気的にショートすることを抑制しつつ、圧電部品1の小型化の要求を満たすことができる。
また、ケース9の寸法は、長さが1.5〜7mmであり、幅が1〜7mmであり、厚みが0.2〜2mmである。また、ケース9の凹部7の寸法は、長さが1.3〜5mmであり、幅が0.8〜5mmであり、深さが80μm〜1.5mmである。
ここで、図6(a)は、図1に示す圧電部品1のケース9を下方から見た外観斜視図であり、図6(b)は、図1に示す圧電部品1のケース9を取り除いた状態の外観斜視図である。
図2および図6(a)に示す例のように、接着シート8はケース9の凹部7の開口の周囲の全面と支持基板6の一方の主面とを接着するものであり、接着シート8は凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着されている。
このような構成により、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面が接着シート8によって支持基板6の一方の主面に接着されることとなるので、ケース9と支持基板6との接着力を向上させることができ、圧電素子5の振動部の周囲に形成される空間の封止性を向上させることができる。
また、本発明の圧電部品1によれば、ケース9の凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着しているのは接着シート8であるため、その厚みを薄くすることができる。従って、圧電素子5の振動部付近の凹部7の内部空間を広く確保できるようになるため、ケース9の凹部7の内壁に被着した接着シート8の圧電素子5の振動部への接触を起こりにくくすることができる。
接着シート8には、フェノール系樹脂,ポリイミド系樹脂もしくはエポキシ系樹脂等の樹脂材料が用いられる。特に、接着シート8が繊維製の布に樹脂を含浸させた樹脂シート材であるときには、繊維製の布によって接着シート8の強度が向上するので、圧電部品1が急激な温度変化に晒される場合等にケース9と支持基板6との接着面において生じるせん断応力によって接着シート8が破断することを防ぐことができる。
また、本発明の圧電部品1によれば、ケース9と支持基板6とを加熱によって接着する際に、加熱して溶融した接着シート8の樹脂を繊維製の布が保持することによって、樹脂の流動性を抑制することができる。従って、接着シート8の樹脂が流動して圧電素子5の振動部に接触して圧電部品1の特性が劣化することを防止することができる。
また、本発明の圧電部品1によれば、一定の厚みを有する繊維製の布がスペーサーの役割をするので、ケース9と支持基板6との接着面において、硬化した接着シート8の厚みが不均一になることを抑制することができる。
接着シート8の厚みは、圧電素子5の振動部付近の凹部7の内部空間を広く確保するという観点からは、10〜80μmが好適である。
次に、本発明の圧電部品1の製造方法について、図7を参照して説明する。図7(a)〜(d)は、それぞれ本発明の圧電部品1の製造方法の実施の形態の一例を模式的に示す工程毎の断面図である。
まず、図7(a)に示すように、圧電基板2、圧電基板2の両主面のそれぞれに圧電基板2を挟んで互いに対向して被着されている第1振動電極3および第2振動電極4を含む圧電素子5を、周囲に振動のための空間を確保して支持基板6の一方の主面に配置する。
この工程においては、例えば、支持基板6上に、導電性接続樹脂11a,11bを用いて圧電素子5を搭載する。導電性接続樹脂11a,11bは、金属粉末を樹脂中に分散させてなるものであり、この導電性接続樹脂11a,11bをディスペンサ等を用いて2つの上面電極12a,12b上にそれぞれ塗布しておいて、上面電極12a上の導電性接続樹脂11aに第1振動電極3を、上面電極12b上の導電性接続樹脂11bに第2振動電極4をそれぞれ接続するように圧電素子5を載せ、加熱または紫外線照射により導電性接続樹脂11a,11b中の樹脂を硬化させる。このとき、導電性接続樹脂11a,11bが硬化する前の状態で導電性接続樹脂11a,11bが圧電素子5の両端のそれぞれにおいて圧電基板2の下面側から上面側へと回り込むようにしておくことにより、導電性接続樹脂11aが第1振動電極3に確実に電気的に接続され、導電性接続樹脂11bが第2振動電極4に確実に電気的に接続されるようにすることができる。
なお、前述したように、圧電素子5は、図4および図5に示す例のように、圧電基板2、圧電基板2の両主面に圧電基板2を挟んでそれぞれ被着されている第1振動電極3、および圧電基板2の内部に第1振動電極3に対向して形成されている第2振動電極4を含むものでもよい。
一方で、図7(b)に示すように、圧電素子5を収納するための凹部7を有しているケース9に、少なくとも凹部7の開口の周囲の全面を覆うように接着シート8を配置する。
この工程においては、例えば、ケース9に配置した接着シート8を、80〜150℃の温度で加熱した平板で0.05〜1MPaの応力でプレスすることによって軟化させると同時に、接着シート8をケース9の凹部7の開口の周囲の全面と密着させた後、加熱した平板を接着シート8から離して接着シート8を常温まで冷却して固化させて、接着シート8とケース9の凹部7の開口の周囲の全面とを仮接着させる。
なお、このように接着シート8を加熱によって軟化した状態とした際には、接着シート8を構成する樹脂材料は流動性を有しているため、接着シート8が過度に変形しやすくなってしまう。従って、接着シート8の樹脂材料にシリカ等の無機材料またはプラスチック等からなる針形状または球形状のフィラーを2〜50質量%程度含ませて、接着シート8の流動性を調整することが好ましい。これによって、接着シート8の形状を過度に変形しにくくして、接着シート8とケース9とを確実に接着させることができる。
なお、接着シート8を加熱・加圧する方法としては、加熱した平板でプレスする方法以外に、加熱したローラーで押圧する方法を採用してもよい。
なお、図2,図6(a)および図7(b)〜(d)に示す例においては、接着シート8は開口がないものを用いているが、開口がある接着シート8を用いてもよい。
また、開口がある接着シート8を用いる際には、接着シート8の開口の寸法をケース9の凹部7の開口の寸法より小さくしておくことが好ましい。このような構成とすることによって、接着シート8をケース9に配置する際に、接着シート8のケース9に対する配置位置が多少ずれた場合であっても、接着シート8の開口はケース9の凹部7の開口の範囲内に収まりやすくなるので、接着シート8と凹部7の開口の周囲の全面とを接着させやすくなる。
なお、開口がない接着シート8を用いる場合には、予め接着シート8に開口を設ける必要がないため、製造工程を簡略化することが可能となる。
次に、図7(c)に示すように、接着シート8を凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着させる。
なお、図7(c)における符号14は、シリコーンゴムからなるピンを示している。また、図7(c)における一点鎖線は、凹部7の底面に押圧されることによって凹部7の底面と平行な方向に弾性変形した状態のピン14の形状を示している。
この工程においては、シリコーンゴムからなるピン14によって、ケース9とは接着されていない部分の接着シート8を押圧しつつ、このピン14をケース9の凹部7の内部空間に挿入する方法を採用するとよい。
なお、この作業を行なう前に、接着シート8が配置されたケース9を、予め接着シート8が載っていない方の面を下面として、80〜150℃の温度で加熱した平板の上に載せておくとよい。これによって、加熱した平板からケース9を介して接着シート8に熱が加わり、接着シート8が軟化して変形しやすくなる。
また、シリコーンゴムからなるピン14の形状は、ケース9の凹部7の内部空間に沿った形状とし、その寸法は、ピン14をケース9の凹部7の内部空間に挿入した際に、凹部7の内壁との間に50μm〜0.2mm程度のクリアランスがあることが好ましい。このような寸法とすることによって、ピン14を凹部7の内部空間に挿入する際にピン14の位置が多少ずれたとしても、ピン14は凹部7の開口の範囲に収まるため、ピン14の先端がケース9の凹部7の開口の周囲の面に接触することを防ぐことができ、ケース9およびピン14が破損することを防ぐことができる。
また、図7(c)に示す例のように、ピン14の先端の形状は、角をとって丸みを帯びた形状とすることが好ましい。ピン14の先端をこのような形状とすることによって、仮にピン14を凹部7の内部空間に挿入する際のピン14の位置がずれてピン14の先端がケース9の凹部7の開口の周囲の面にわずかに接触した場合であっても、ピン14の先端とケース9の凹部7の開口の周囲の面とが互いに滑りやすくなり、ケース9およびピン14が破損することを防ぐことができる。
なお、ケース9に凹部7を形成する際の寸法誤差とピン14を凹部7の内部空間に挿入する際の工程の位置精度の誤差とを合計すると25μm〜0.1mm程度なので、前述したように、ピン14をケース9の凹部7の内部空間に挿入した際に凹部7の内壁との間に形成されるクリアランスは、50μm〜0.2mm程度で妥当であるといえる。
以上のことを考慮して、ピン14の先端の寸法は、例えば、ケース9の凹部7の内部空間が直方体形状であり、その内部空間が、ケース9の幅方向の寸法が0.9mmであり、ケース9の長さ方向の寸法が2.8mmであった場合に、ピン14の先端の断面の形状は略長方形状であり、ケース9の幅方向の寸法が0.8mmであり、ケース9の長さ方向の寸法が2.7mmであるものとすればよい。
以上で説明したピン14によって、ケース9とは接着されていない部分の接着シート8を押圧しつつピン14を凹部7の内部空間に挿入していくと、接着シート8がケース9の凹部7の深さ方向に伸び、その後、凹部7の底面に接着シート8が被着する。そして、接着シート8を介してピン14を凹部7の底面に押圧すると、シリコーンゴムからなるピン14は凹部7の底面と平行な方向に弾性変形し、前述したクリアランスの寸法分だけ変形する。図7(c)に示す例においては、ピン14は同図中に一点鎖線で示すような形状となる。その結果、ピン14の側面が接着シート8を凹部7の底面と平行な方向に伸ばしていき、接着シート8を凹部7の側壁に接着させることとなる。
以上のようにして、接着シート8が凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着することとなる。
また、接着シート8を介してピン14を凹部7の底面に押圧する際の圧力は、例えば0.05〜1MPa程度である。この程度の圧力を負荷した場合には、ピン14は凹部7の底面と平行な方向に0.2〜0.8mm程度の寸法で弾性変形することから、ピン14をケース9の凹部7の内部空間に挿入した際に凹部7の内壁との間に形成されるクリアランスは、前述した50μm〜0.2mm程度で妥当であるといえる。
なお、以上の説明においては、ピン14にはシリコーンゴムからなるものを用いたが、ポリイミド,ポリエチレンテレフタレートおよびフッ素系等の樹脂材料を用いてもよいものである。また、テフロン(登録商標)からなるピン14を使用した際には、ピン14の弾性変形の割合は小さくなるものの、ピン14に対する接着シート8の濡れ性が悪いため、ピン14で接着シート8を押圧した後にピン14を接着シート8から離す際に、軟化した接着シート8がピン14に溶着することを防ぐことができるので好ましい。
なお、ピン14の耐久性を向上させる目的で、SUS等の金属からなる軸にこれらの樹脂材料をコーティングしたものを用いてピン14としてもよい。
また、ケース9の凹部7の内壁にプライマーを予め塗布しておくと、接着シート8とケース9の凹部7の内壁との接着性が向上するので好ましい。このプライマーとしては、エポキシ系樹脂,ポリアミド系樹脂,合成ゴム,ウレタンまたはシリコーンレジン等から、ケース9の材質によって最適なものを用いればよい。例えば、ケース9がエポキシ系樹脂からなる場合には、エポキシ樹脂系のプライマーを用いることが望ましい。なお、ケース9の凹部7の内壁へのプライマーの塗布方法は、内壁に均一に塗布でき、生産性を高めることができるという点から、スプレー式の塗布を採用することが好ましい。
なお、以上の説明においては、凹部7の内壁というのは、凹部7の側壁および凹部7の底面を示すものとして説明した。しかし、凹部7の内壁とは、凹部7の側壁のみを示すものであっても構わない。例えば、ピン14によってケース9とは接着されていない部分の接着シート8を押圧した際に、接着シート8が、延びずに破れることによって凹部7の底面に被着せず、凹部7の側壁のみに被着する場合もあるが、このような場合であっても、本発明の圧電部品1の効果は同様に発揮し得るものである。
また、以上の説明では、ピン14が凹部7の底面に押圧されることにより、接着シート8を凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着する方法を説明したが、ピン14を使用することなく空気圧を利用して接着シート8を被着させる方法を採用してもよい。
例えば、図7(b)に示すケース9に、少なくとも凹部7の開口の周囲の全面を覆うように開口を有しない接着シート8を配置して、真空チャンバー内等による真空状態下で、例えば、ケース9に配置した接着シート8の温度が80〜150℃となるよう加熱しつつ、0.05〜1MPa程度の応力でプレスし、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面と接着シート8とを仮接着させる。
次に、接着シート8が加熱で軟化した状態を保持しつつ、真空チャンバー内の気圧を大気圧に戻すことにより、接着シート8が被着された凹部7の内部空間と凹部7の外部との気圧差によって、接着シート8を凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着することができる。
そして、接着シート8を常温まで冷却して固化させれば、接着シート8とケース9の凹部7の開口の周囲の全面とを仮接着させることができる。
このような工程によって接着シート8を仮接着させ、しかる後、図7(d)に示すように、支持基板6およびケース9の凹部7によって圧電素子5を収納するように、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面と支持基板6の一方の主面とを接着シート8によって接着する。
この工程においては、支持基板6の一方の主面に、接着シート8を介して配置されたケース9を120〜180℃の温度で加熱して0.01〜3MPaの圧力によって加圧することによって、接着シート8を構成する樹脂を硬化させることによって、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面と支持基板6の一方の主面とを接着する。
本発明の圧電部品の実施例を以下に説明する。なお、本実施例においては、図2に示す例の圧電部品1を作製した。
まず、圧電基板2の主面に圧電基板2を挟んで互いに対向する第1振動電極3および第2振動電極4が被着されてなる圧電素子5を、周囲に振動のための空間を確保して支持基板6の一方の主面に配置した。
圧電基板2は、チタン酸ジルコン酸鉛の粉末にバインダを加えてプレスする方法によって作製した基板形状の成形体を、1200℃のピーク温度で2時間焼成し、所望の厚みになるよう加工して、圧電基板2となる焼結体の上下面に分極用の電極を形成した後、100℃の温度にて厚み方向に5kV/mmの電圧をかけて分極処理を施し、しかる後、所望の寸法にカットすることによって作製した。この圧電基板2の寸法は、長さが2.4mm、幅が0.5mm、厚みが0.2mmの直方体形状とした。
次に、圧電基板2の主面に、マスクを用いた真空蒸着法によって、第1振動電極3および第2振動電極4を形成した。なお、これらの第1振動電極3および第2振動電極4は、厚みを1μmとし、材料には銀を用いた。以上の工程によって、圧電素子5を作製した。
また、第1振動電極3および第2振動電極4の寸法は、圧電基板2の長さ方向の寸法が1.5mmであり、圧電基板2の幅方向の寸法が0.5mmであり、厚みが1μmであるものとした。
支持基板6は、アルミナからなるものとし、その寸法は、長さ方向が3.2mmであり、幅方向が1.3mmであり、厚みが0.3mmであるものとした。
また、支持基板6の上面に、圧電素子5の第1振動電極3および第2振動電極4と、それぞれ電気的に接続されるための上面電極12a,12bとを、支持基板6の下面に、半田付け実装に用いられる下面電極13a,13bを、それぞれ2つずつ導電性樹脂材料を用いて設けた。
また、支持基板6の上面の上面電極12a,12bの上に、金属粉末を樹脂中に分散させてなる導電性接続樹脂をそれぞれディスペンサによって塗布しておき、この導電性接続樹脂によって両端がそれぞれ支持されるように、圧電素子5を支持基板6に配置した。
次に、圧電素子5を収納するための凹部7を有しているケース9に、少なくとも凹部7の開口の周囲の全面を覆うように接着シート8を配置した。
なお、ケース9に配置した接着シート8は、130℃の温度で加熱した平板で0.5MPaの圧力でプレスすることによって、軟化させると同時にケース9の凹部7の開口の周囲の全面と密着させ、常温まで冷却することにより、固化させてケース9と仮接着した。
ケース9は、エポキシ樹脂を用いて、圧電素子5を収納するための凹部7を有しているものとした。
また、ケース9の寸法は、長さが3.2mmであり、幅が1.3mmであり、厚みが0.6mmであるものとした。また、ケース9の凹部7の寸法は、長さが0.28mmであり、幅が0.9mmであり、深さが0.4mmであるものとした。
接着シート8には、繊維製の布に樹脂を含浸させた、厚みが40μmの樹脂シートを用いた。
次に、接着シート8を凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着させた。
なお、この工程においては、ケース9に配置された接着シート8が軟化する130℃になるよう加熱しながら、シリコーンゴムからなるピン14で、ケース9とは接着されていない部分の接着シート8を押圧しつつ、このピン14をケース9の凹部7の内部空間に0.5MPaで挿入することによって、接着シート8を凹部7の内壁に被着させた。
また、シリコーンゴムからなるピン14の形状は、ケース9の凹部7の内部空間に沿った形状とし、その寸法は、ピン14をケース9の凹部7の内部空間に挿入した際に凹部7の内壁との間に0.1mmのクリアランスがあるものとした。
ピン14は、先端の断面の形状が長方形状であり、ケース9の幅方向の寸法が0.7mmであり、ケース9の長さ方向の寸法が2.6mmであるものとした。
しかる後に、支持基板6およびケース9の凹部7によって圧電素子5を収納するように、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面と支持基板6の一方の主面とを接着シート8によって接着した。
なお、この接着においては、支持基板6の一方の主面に、接着シート8を介して配置されたケース9を150℃の温度で加熱し、2MPaの圧力によって加圧することにより、接着シート8を構成する樹脂を硬化させ、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面と支持基板6の一方の主面とを接着した。
そして、以上のようにして得られた実施例の圧電部品1を用いて、−40℃および+125℃の各温度に制御した恒温槽に15分ずつ保持することを1サイクルとして1000サイクル繰り返す熱サイクル加速試験を行なった。そして、熱サイクル加速試験が終わった圧電部品1の封止性が維持されているか否かを確認した。
封止性が維持されているか否かの確認は、熱サイクル加速試験後に、室温の状態から130℃の温度に保った液槽に浸漬するリーク試験によって行なった。
その結果、実施例の圧電部品1では、リーク試験での気泡の発生は認められなかった。従って、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面と支持基板6の一方の主面との間に隙間は空いておらず、封止性が保たれていることが分かった。
また、熱サイクル加速試験が終わった圧電部品1を切断して、その断面を観察したところ、接着シート8は、凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて一様に被着しており、圧電素子5の振動部に接触していないことが分かった。
これらの結果から、ケース9の凹部7の開口の周囲の全面が接着シート8によって支持基板6の一方の主面に接着されており、接着シート8が凹部7の開口の周囲の全周にわたって開口の周囲の面から凹部7の内壁にかけて被着していることによって、圧電素子5の振動部の周囲に形成される空間の封止性が損なわれることを防止でき、圧電素子5の振動部付近の凹部7の内部空間を広く確保できることが分かった。