以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の車両用前照灯装置210の内部構造を説明する概略断面図である。車両用前照灯装置210は車両の車幅方向の左右に1灯ずつ配置されるハイビーム用の前照灯であり、その構造は実質的に左右同等なので代表して車両右側に配置される車両用前照灯装置210Rの構造を説明する。なお、ハイビーム用の車両用前照灯装置210は、別途配置されているロービーム用の車両用前照灯装置が形成するロービームに配光パターンを重ね合わせることにより全体としてハイビーム用の配光パターンを形成する。
車両用前照灯装置210Rは、ランプボディ212と透明カバー214を含む。ランプボディ212は、車両前方方向に開口部を有し、後方側にはメンテナンス時に取り外す着脱カバー212aを有する。そして、ランプボディ212の前方の開口部には、透明カバー214が接続されて灯室216が形成される。灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218はランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。したがって、灯具ユニット10はエイミング調整ネジ220の調整状態で定められた傾動可能な状態で灯室216内の所定位置に支持されることになる。
また、灯具ユニット10の下面には、スイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定され灯具ユニット10が水平方向に回動可能とされている。
スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されて灯具ユニット10が鉛直方向に傾動可能とされている。
灯室216の内壁面、例えば、灯具ユニット10の下方位置には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する照射制御部228が配置されている。この照射制御部228は、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226等の制御も実行する。なお、照射制御部228は、車両用前照灯装置210R以外に設けられてもよい。また、車両側からの点消灯制御を中継する機能だけとしてもよい。
灯具ユニット10は、可動シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20で構成される。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16はバルブ14から放射される光を反射する。そして、リフレクタ16で反射した光は、その一部がシェード機構18を構成する可動シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。なお、図2で示すが、本実施形態の灯具ユニット10は、車幅方向に2個のバルブ14a、14bを有し、それぞれが照射制御部228によって点消灯制御される。
可動シェード12はバルブ14の光の一部を遮光する位置(以下、進出位置という)と遮光しない位置(以下、退避位置という)に移動可能に回動軸12aを中心に回動するように構成されている。なお、図1は、可動シェード12が進出位置に移動している状態を示している。シェード機構18は、可動シェード12を回動させるアクチュエータを含む。また、可動シェード12はアクチュエータによる例えば進出位置への移動に逆らい所定の姿勢、例えば退避位置に復帰させる付勢部材が備えられている。図1の場合、付勢部材としてスプリングが例示されている。なお、可動シェード12は、例えば鉛直方向に移動して退避位置と進出位置との間を移動するものでもよい。
図1の例では、ハイビーム用の車両用前照灯装置210にエイミング機構やレベリング機構が備えられている例を示しているが、エイミング機構やレベリング機構は省略してもよい。例えば、ハイビーム用の車両用前照灯装置210はロービーム用の車両用前照灯装置と一体とすることができる。この場合、エイミング機構やレベリング機構は、ハイビーム用の車両用前照灯装置かロービーム用の車両用前照灯装置のいずれか一方、または両方の車両用前照灯装置を載置するベース部材に備えることができる。そして、エイミング調整やレベリング調整を両方の車両用前照灯装置で同時に行えるようにしてもよい。
図2(a)、図2(b)は、本実施形態の車両用前照灯装置210の第1光源、第2光源、可動シェードの位置関係とそれにより形成される配光パターンを説明する説明図である。前述したように、図2(a)に示す本実施形態のハイビーム用の車両用前照灯装置210は光源を2個備えている。1つは投影レンズ20を介して車両前方へ光を照射して、図2(b)に示すように車幅方向に延びる細長い第1照射領域100aを形成可能な第1光源として機能するバルブ14aである。また、他の1つも同様に投影レンズ20を介して車両前方へ光を照射して車幅方向に延びる細長い第2照射領域100bを形成可能な第2光源として機能するバルブ14bである。バルブ14aは光源形状自体が図2(b)の細長い配光パターンに対応するような形状に形成されるか、リフレクタ16aによる反射調整により細長い配光パターンに対応する形状が形成されて投影レンズ20方向に導かれる。バルブ14bについても同様である。各リフレクタ16a,16bは、例えば回転放物面等を基準に形成されたリフレクタである。
本実施形態の場合、第2照射領域100bは光軸に対して第1照射領域100aの横方向に連なるように連結されている。図2(b)は第1照射領域100aの端部領域と第2照射領域100bの端部領域とが互いに重なってオーバーラップ部100cを形成する例を示している。このオーバーラップ部100cの調整は例えば各バルブ14a,14bの配置調整やリフレクタ16a,16bの形状調整によって可能である。このように第1照射領域100aと第2照射領域100bとを連結部分でオーバーラップさせることにより、ハイバームを形成した場合、中央部近傍で光が重畳して光度を高めることが可能となり、ハイビーム使用時の視認性向上に寄与できる。
なお、第1照射領域100aの端部領域と第2照射領域100bの端部領域とは、必ずしもオーバラックさせる必要はなく、第1照射領域100aの端部領域と第2照射領域100bの端部領域とをぴったりと連結させるようにしてもよい。すなわち、本実施形態において、連結部分とは、端部領域がオーバーラップして連結させる場合と、端部領域のエッジをぴったりと接触させて連結させる場合とを含む。なお、図2(b)は、第1照射領域100aの端部領域と第2照射領域100bの端部領域とがオーバーラップしていることを説明するために、第1照射領域100aと第2照射領域100bとを上下方向にずらして図示しているが、実際は上下方向のずれはないように配置されている。
可動シェード12は、シェード機構18により少なくとも第1照射領域100aと第2照射領域100bとが連結される連結部分を含む端部領域への光を遮光する位置と、端部領域への照射を許容する位置に移動可能である。図2(b)は、可動シェード12による遮光領域102を破線で示している。本実施形態においては、遮光領域102は、オーバーラップ部100cを完全に覆うようにオーバーラップ部100cの広さよりやや広めになるように可動シェード12の大きさおよび移動位置が定められている。なお、遮光領域102の広さは、オーバーラップ部100cの広さと一致してもよいが、オーバーラップ部100cの広さより遮光領域102が狭い場合は、可動シェード12により遮光したときに遮光領域102に隣接して光が重なり合った明るい部分が残ってしまうので、好ましくない。
このように、本実施形態では、2個の光源の点消灯と可動シェード12による遮光/非遮光の切替により3個の光源を点消灯制御して3領域の点消灯を実現する場合とほぼ同様の配光パターンを形成できる。図3に、車両用前照灯装置210の制御状態と形成される配光パターンのイメージ例を示す。なお、図3に示す配光パターンは、ハイビーム用の車両用前照灯装置210で形成される配光パターンのみを示している。実際は、別途、ロービーム用の車両用前照灯装置で形成されているロービーム用配光パターンと合成されて全体としてハイビームを形成している。また、実際のハイビームの形状は、中央から遠い側の端部に垂れを有する山型形状であるが、図3においては簡略化のため矩形として示している。
照射制御部228の制御により、バルブ14a,14bを点灯させると共に、可動シェード12を非遮光状態にする制御1とすることにより、オーバーラップ部100cを含む第1照射領域100aおよび第2照射領域100bが点灯した状態となる。この状態は、完全なハイビーム照射状態であり、光源3個を用いて3領域を点灯させた場合と同様の配光パターンを2個の光源の点灯により実現できる。さらに、オーバーラップ部100cの形成により中央付近の光度が向上できる。
また、照射制御部228の制御により、バルブ14a,14bを点灯させると共に、可動シェード12を遮光状態にする制御2とすることにより、オーバーラップ部100cが遮光領域102により遮光され、第1照射領域100aの一部および第2照射領域100bの一部が点灯した状態となる。この状態は、中央遮光のハイビーム照射状態であり、光源3個を用いて3領域を制御する構成の左右2個のみを点灯させた場合と同様の配光パターンを実現している。この中央遮光のハイビーム照射状態は、例えば、自車の近前方には先行車や対向車、歩行者などが存在しないが遠前方に対向車や先行車が存在するときにそれらにグレアを与えないようにする場合に有効な配光パターンである。
照射制御部228の制御により、バルブ14aのみを点灯させると共に、可動シェード12を遮光状態にする制御3とすることにより、オーバーラップ部100cに相当するハイビームの中央領域が遮光領域102によって遮光されると共に、第1照射領域100aの一部が点灯した状態となる。この状態は、中央遮光かつ対向車線側のみのハイビーム照射状態であり、光源3個を用いて3領域を制御する構成の右のみを点灯させた場合と同様の配光パターンを実現している。この右片側ハイビーム照射状態は、例えば、自車の近前方に存在する先行車や遠方に存在する先行車や対向車にグレアを与えないようにしつつ、対向車線の比較的近い近前方に対向車や歩行者などが存在しない場合にその領域の視界を向上させるのに有効な配光パターンである。
照射制御部228の制御により、バルブ14aのみを点灯させると共に、可動シェード12を非遮光状態にする制御4とすることにより、オーバーラップ部100cに相当するハイビームの中央領域を含む第1照射領域100aが点灯した状態となる。この状態は、中央領域および対向車線側がハイビーム照射状態であり、光源3個を用いて3領域を制御する構成の中央と右を点灯させた場合と同様の配光パターンを実現している。この右片側ハイビーム照射状態は、例えば、自車の近前方に存在する先行車にグレアを与えないようにしつつ、自車遠前方の先行車や対向車、自車近前方の対向車や歩行者などが存在しない場合にその領域の視界を向上させるのに有効な配光パターンである。
バルブ14aを消灯し、バルブ14bのみを点灯させて可動シェード12の移動状態を制御する制御5および制御6は、制御3と制御4に対し照射領域が対向車線と自車線とで逆になる。制御5は、対向車線の比較的近い位置に存在する対向車や歩行者、および遠前方に存在する先行車や対向車にグレアを与えないようにしつつ、自車の近前方に先行車等が存在しない場合に有効な配光パターンである。また、制御6は、対向車線の比較的近い近前方に存在する対向車や歩行者にグレアを与えないようにしつつ、自車の近前方や遠前方に先行車や対向車が存在しない場合に有効な配光パターンである。
このように本実施形態では、バルブ14aおよびバルブ14bの点消灯状態と可動シェード12の移動状態の組合せにより複数種類の配光パターンを形成している。すなわち、2個の光源により、光源を3個備える場合とほぼ同様の配光パターンの形成が可能となる。このような光源数の低減により車両用前照灯装置210の小型化が容易になるとともに、部品コストの軽減、点消灯制御の簡略化ができる。また、光源数の削減により必要電力の軽減にも寄与できる。なお、光源を3個用いる場合、中央のみの点灯が可能であるが、本実施形態の構成では、中央のみ点灯はできない。しかし、中央部のみを点灯させるハイビームの利用頻度は低く、それが点灯できない場合でも実用上の問題は殆どない。
ところで、本実施形態のハイビーム用の車両用前照灯装置210のように可動シェード12を有する場合、可動シェード12の遮光面とは異なる側面を有効利用できる。すなわち、可動シェード12の側面を反射面として、そこで反射した反射光を可動シェード12で遮光されずに照射された光の照射領域で重畳して配光パターンの一部の光度を増加させることができる。
図4(a)〜図4(c)は、可動シェードが反射部を有する場合の反射の状態と反射光の重畳の状態を説明する説明図である。図4(a)に示すように、可動シェード12は、バルブ14側に臨む遮光部104とその側面の反射部106とを備える。反射部106は、例えば反射部材を接合したりコーティングして形成できる。また、可動シェード12自体を反射部材で構成し、遮光部104を形成するために非反射部材を接合したりコーティングしてもよい。バルブ14a側の反射部106aに入射した光は第1照射領域100aの所定の位置に導かれるように、反射部106aの表面状態が形成されている。同様に、バルブ14b側の反射部106bに入射した光は第2照射領域100bの所定の位置に導かれるように、反射部106bの表面状態が形成されている。
図4(b)は、バルブ14aのみを点灯して可動シェード12を非遮光状態にした場合に形成される第1照射領域100aである。図4(c)は、バルブ14aのみを点灯して可動シェード12を遮光状態にした場合に形成される第1照射領域100aおよび遮光領域102である。この場合、反射部106aによって反射された反射光が第1照射領域100aの遮光領域102側の位置に重畳され重畳部100dを形成している。例えば、図3で示す制御2,3,5のように、遮光領域102によりハイビーム用配光パターンの一部を遮光する場合でも運転者の運転中の主たる視線方向は前方中央となる。したがって、照射領域の中央部側の重畳部100dにより光度を高くすることにより、運転者に安心感を与えやすくななる。同様に、バルブ14bを点灯させた場合も第2照射領域100bの所定位置に反射光を重畳可能となり、同様な効果を得ることができる。なお、別の実施例では、反射部106の角度や位置を調整可能としてもよい。この場合、反射光による重畳部の位置を変化させることが可能となり、運転者の好みに応じた領域の光度の向上が可能となり、反射光の利用価値を向上できる。
ところで、バルブ14aやバルブ14bから照射される光を投影レンズ20を介してそのまま前方に照射する場合、形成される配光パターンは中央分が最も明るく側方に向かうに連れて暗くなると共に、配光パターンの形状も側方に向かうに連れて垂れて山型となりその輪郭も不鮮明となる。可動シェード12で遮光することなくバルブ14a,14bを点灯させた場合には、オーバーラップ部100cを形成するので特に不都合は生じない。また、オーバーラップ部100cではない端部側の形状は厳密さを要求されないので不都合を生じない。しかし、図3における制御4や制御6のように、可動シェード12で遮光することなくバルブ14aまたはバルブ14bのいずれかを単独で点灯させる片側ハイビームの場合、消灯している側の領域に点灯している側の光が入り込む。その結果、実際は遮光したい部分の一部が明るくなり、グレアの排除性能が低下すると共に、端部の輪郭が不安定になる。
そこで、図5(a)に示すように、バルブ14aとバルブ14bの間で光軸方向に沿って配置され、第1照射領域100aの連結部分側の端部と第2照射領域100bの連結部分側の端部における縦方向のカットラインを定める領域カット部材108を備える。領域カット部材108は薄板形状の部材であり、単純に第1照射領域100aの連結部分側の端部および第2照射領域100bの連結部分側の端部にカットラインを形成するものでもよい。また、領域カット部材108の側面に反射部を設けて、そこで反射した光を第1照射領域100aや第2照射領域100bに導き重畳して光度を増大させるようにしてもよい。図5(b)には、バルブ14aのみを点灯させた場合の等照度曲線の例を示す。この例の場合、第1照射領域100aの連結部分側の端部は、照射領域の中央である「0°」を越えた2.3°で領域カット部材108によりカットラインを形成した位置となる。なお、領域カット部材108を設けない場合は、第1照射領域100aの連結部分側の端部は、0°を越え、例えば8°付近まで延びると共に、端部では光度が低下し形状に垂れを含んでいる。このように、領域カット部材108を設けることにより第1照射領域100aの連結部分側の端部の輪郭を明確にできると共に照射範囲を明確に決めることができる。バルブ14bを点灯させる場合、バルブ14a,14bの両方を点灯させる場合も同様の効果を得ることができる。
図6(a)は、図5の構成に可動シェード12を加え、第1照射領域100aに遮光領域102を形成可能にした例である。この場合、図6(b)に示すように、図3の制御に対応する配光パターンを形成できる。この例の場合、第1照射領域100aは照射領域の中央である「0°」の手前2.3°で可動シェード12によりカットラインを形成すると共に、中央の「0°」を越えて光が照射されないように領域カット部材108で遮光している。
図7(a)は、図4で説明した反射部106を可動シェード12が備える場合の説明図である。図7(a)の例では、水平断面が矩形のC型形状になるように、可動シェード12の両側面に反射部106が形成されている。この場合は、図7(b)に示すように、可動シェード12で遮光された遮光領域102近傍に反射部106で反射した反射光が重畳され光度が増大する。
このように、バルブ14a、バルブ14bを含む光学系に領域カット部材108、反射部106を備える可動シェード12を設けることにより、光源を3個備える場合とほぼ同様な種類の配光パターンを2個の光源で形成できる。その結果、車両用前照灯装置210の小型化が容易になるとともに、部品コストの軽減、点消灯制御の簡略化ができる。また、光源数の削減により必要電力の軽減にも寄与できる。さらに、その配光パターンの形状の明確化が可能で配光パターンの特性の向上ができる。
上述した例は、ハイビーム用の車両用前照灯装置210について説明した。つまり、これとは別にロービーム用の車両用前照灯装置を備えて、ロービームとの合成によりハイビームを形成している。本実施形態のハイビームの制御はハイビームおよびロービームを1つの車両用前照灯装置で形成可能な配光可変式前照灯にも適用できる。この場合、上述した可動シェード12の他に、ロービーム等の他の配光パターンを形成するときに必要となるシェードが必要になる。そこで、本実施形態では、図8(a)、図8(b)に示すように車幅方向に延びる回転軸を中心に回動可能な回転シェード110を用いる。
図8(a)と図8(b)は、同一の回転シェード110を別方向から見た斜視図である。回転シェード110は、回転軸110aがシェード機構18の固定部分で支持され、例えばモータ駆動により所定の回転角度で正確に停止するように構成されている。図8(a)に示す回転シェード110は四角柱を母材として、長手方向の各面(4面)にロービーム用シェード112、中央遮光用シェード114、ハイビーム用切欠面116、ドーバーロービーム用シェード118をそれぞれ有する。なお、基本的な光学系は、例えば図7に示すものを用いる。つまり、バルブ14aとリフレクタ16aで構成される第1光源系と、バルブ14bとリフレクタ16bで構成される第2光源系とが領域カット部材108によって分離され、その光軸方向前方に可動シェード12に相当するシェードを含む回転シェード110を挟んで、投影レンズ20が配置される。
ロービーム用シェード112およびドーバーロービーム用シェード118は、バルブ14a,14bから照射される光を最も多く遮光するシェードである。そして、ロービーム用シェード112およびドーバーロービーム用シェード118は所定の遮光領域を確保するために回転軸110aの中心から距離h隔てた位置に、それぞれのシェードエッジを形成している。そして、ロービーム用シェード112のシェードエッジ112aは、カットオフラインの輪郭を明瞭化するために、回転シェード110がロービームの回転位置に回転したときに投影レンズ20の後方焦点面と重なる位置で光を遮光するように形成されている。回転シェード110は、他のシェードも搭載すると共に、剛性の確保や加工のし易さが要求されるので四角柱を母材としている。そのため、図8(a)の場合、矢印A方向から光源の光が照射される状態において、シェードエッジ112aはロービーム用シェード112の形成面のうち光源から最も遠い位置に配置されている。この場合、シェードエッジ112aの光源側の手前部分に反射面112bを形成しておき、この部分での反射光もロービーム形成に有効に使うようにしてもよい。
上述したように本実施形態では、バルブ14aまたはバルブ14bのいずれかのみを点灯した場合の配光パターンの連結部分側の端部における縦方向のカットラインを定める領域カット部材108を備えている。この領域カット部材108は回転シェード110上のシェードエッジにできるだけ接近させることが望ましいが、ロービーム用シェード112等は回転軸110aからの高さがあるため回転シェード110と領域カット部材108とが回転時に接触してしまう場合がある。そこで、回転シェード110のロービーム用シェード112の形成面には、回転シェード110が回転するときに領域カット部材108との干渉を回避するための切欠溝120が形成されている。
中央遮光用シェード114は、前述したようにバルブ14a,14bを点灯してハイビームとした場合に、中央部分を図7等で示す可動シェード12と同様な遮光を行うシェードとして機能する。回転シェード110の中央遮光用シェード114を形成する部分は大きく切り欠かれハイビームと同様な照射領域を形成すると共に、中央部に形成した中央遮光用シェード114によって、図3の制御2で示すような中央遮光や制御3や制御5のような片側ハイビームを形成する。
ハイビーム用切欠面116は、回転シェード110全体が切り欠かれた状態と同様になるように、回転シェード110の一面が回転軸110aに固着したように形成されている。この場合、ハイビーム用切欠面116は、ロービーム用シェード112の形成面やドーバーロービーム用シェード118の形成面に比べて領域カット部材108に対する距離が遠い。その結果、ハイビーム用切欠面116と領域カット部材108との間に隙間が空き、例えば、図3の制御4や制御6のような中央遮光を伴わない片側ハイビームを形成する場合、領域カット部材108による縦方向のカットラインを形成できないことがある。そのため、ハイビーム用切欠面116には、領域カット部材108との間に形成された隙間を補完するために領域カット部材108と実質的に連続する補完部材116aが設けられている。なお、図8(a)の場合、補完部材116aは中央遮光用シェード114の背面側(非遮光面)に連続するように形成されている。
ドーバーロービーム用シェード118は、ロービーム用シェード112とは左右逆の配光パターンを形成するシェードエッジ118aを有している。
図9、図10は、図8(a)、図8(b)に示す回転シェード110を回転駆動することにより選択可能なシェード形状とそのときに形成される配光パターンの等照度曲線を示す説明図である。なお、本実施形態において、回転シェード110の回転位置の決定およびバルブ14a,14bの点消灯制御は、運転者が操作する前照灯切替スイッチの操作状態に応じて決定することができる。また、自車の周囲の状況、例えば前走車や対向車、歩行者等の存在を車載カメラなどの検出手段を介して検出したり、走行中の道路の形態や形状、地形等の情報をナビゲーションシステムから取得して、現在の周囲状況に対応した最適な照明状態を自動的に決定して切り替えるようにしてもよい。
例えば、現在の自車周囲の状態に基づいてロービームの照射が適当な場合、すなわち、配光モードを「ロービーム」にする場合、照射制御部228は、回転シェード110をロービーム用シェード112がバルブ14の光路に臨むように回転させる。この場合、バルブ14a,14bの両方を点灯させる。このとき、ロービーム用シェード112は、光軸を含むライン(図9中の水平線Y)の下側を遮光する。なお、投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズなので、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として車両用前照灯装置210前方に投影する。「ロービーム」の場合、バルブ14a,14bが点灯しオーバーラップ部100cが形成されるので、その等照度曲線に示すように、中央部分の光度が高い前方認識がし易いロービームを提供できる。
現在の自車周囲の状態に基づいて中央部を遮光したハイビームの照射が適当な場合、すなわち、配光モードを「中央遮光ハイビーム」にする場合、照射制御部228は、回転シェード110を中央遮光用シェード114がバルブ14の光路に臨むように回転させて、光軸を含むラインの下側の一部を遮光する。この場合、バルブ14a,14bの両方を点灯させる。「中央遮光ハイビーム」は中央遮光用シェード114によりハイビームの中央部分が遮光されるので、その等照度曲線に示すように、自車遠前方に存在する対向車や前走車にクレアを与えないように考慮すると共に、その他の領域の視認性を向上させられるハイビームを提供できる。
自車の遠前方や対向車線に車両や歩行者が存在して、自車線の近前方に先行車が存在しないことにより、自車線側のみハイビームで照射することが適当であるとなったとする。すなわち、配光モードを「左片側ハイビーム」にする場合、照射制御部228は、回転シェード110を中央遮光用シェード114がバルブ14の光路に臨むように回転させて、光軸を含むラインの下側の一部を遮光する。この場合、右側のバルブ14bのみを点灯させる。投影レンズ20の後方焦点面上に形成される光源像は反転像となるので、自車前方の左側(自車線側)のみの左片側ハイビームが照射させる。このとき、中央遮光用シェード114によりハイビームの中央部分が遮光される。その結果、「左方側ハイビーム」の等照度曲線に示すように、自車遠前方に存在する対向車や前走車、および近前方の対向車線の対向車や歩行者にクレアを与えないように考慮できると共に、自車線の視認性を向上させられるハイビームを提供できる。
自車線に先行車が存在せず、対向車線に車両や歩行者が存在することにより、自車線側のみハイビームを照射することが適当であるとなったとする。すなわち、配光モードを「左片側ハイビーム+中央」にする場合、照射制御部228は、回転シェード110をハイビーム用切欠面116がバルブ14の光路に臨むように回転させて、光軸を含むラインの下側を含め光路全体を非遮光とする。この場合、右側のバルブ14bのみを点灯させる。投影レンズ20の後方焦点面上に形成される光源像は反転像となるので、自車前方の左側(自車線側)のみの左片側ハイビームが照射させる。このとき、遮光は行われないので、「左方側ハイビーム+中央」の等照度曲線に示すように、上述した「左方側ハイビーム」に加え中央部も照射領域となるハイビームが形成できる。その結果、近前方の対向車線の対向車や歩行者にクレアを与えないように考慮すると共に、自車線の視認性を向上させられるハイビームを提供できる。
自車線および対向車線に車両や歩行者などグレアを考慮する必要のある対象が存在せず、ハイビームを照射することが適当であるとなったとする。すなわち、図10に示すように配光モードを「ハイビーム」にする場合、照射制御部228は、回転シェード110をハイビーム用切欠面116がバルブ14の光路に臨むように回転させて、光軸を含むラインの下側を含め光路全体を非遮光とする。この場合、バルブ14a,バルブ14bを点灯させる。このとき、遮光は行われないので、バルブ14a,14bによるオーバーラップ部100cも形成されるので、「ハイビーム」の等照度曲線に示すように、中央部分の光度が高い前方認識がし易いハイビームを提供できる。
また、交通法規が右側通行となる地域では、左側通行の場合とは逆形状のロービーム、すなわちドーバーロービームが必要になる。この場合、照射制御部228は、回転シェード110をドーバーロービーム用シェード118がバルブ14の光路に臨むように回転させる。この場合、バルブ14a,14bの両方を点灯させると共に、ドーバーロービーム用シェード118は、光軸を含むラインの下側を遮光する。その結果、上述した「「ロービーム」とは逆の形状のカットオフラインを有するドーバーロービームが形成できて、「ドーバーロービーム」の等照度曲線に示すように、中央部分の光度が高い前方認識がし易いドーバーロービームを提供できる。
ところで、車両用前照灯装置210の投影レンズ20が、例えば昼間、太陽光等の外来光に晒されると、図11に破線で示すように、太陽光がリフレクタ16a,16bで集光され、バルブ14a,14bやその周辺の温度が上昇させて、変形や故障の原因になる場合があった。そのため、バルブ14を耐熱仕様にする必要があったり、その周辺の構成部品を耐熱仕様にする必要があり、コストアップや設計の自由度の低下を招いていた。そこで、本実施形態の車両用前照灯装置210では、投影レンズ20の後方焦点面上に存在する可動シェード12や回転シェード110の投影レンズ20側に当該投影レンズ20を介してバルブ14側に向かう外来光を遮断する遮断面200を形成している。この遮断面200は、バルブ14に向かう外来光を遮断できればよいので、所定の耐熱性能があれば、可動シェード12や回転シェード110の一部の構成面をそのまま利用できる。例えば、図2に示すようなハイビーム用の車両用前照灯装置210の場合、バルブ14の点灯を必要としないときに可動シェード12を図11に示すように遮光位置に移動させておく。つまり、この位置を昼間または非点灯時の標準位置としておけばよい。その結果、図11に実線で示すように、可動シェード12により外来光の一部が遮断可能となりバルブ14側における温度上昇を軽減できる。つまり、外来光の熱影響を考慮した高い耐熱性能をバルブ14側に持たせる必要がなくなり、バルブ14やその周辺の部品を例えば、耐熱性の比較的低い樹脂製とすることが可能となる。その結果、部品コスト低減や部品選択の自由度向上に寄与できる。なお、図8に示すような、回転シェード110を用いる場合、昼間や非点灯時の標準位置を中央遮光用シェード114がバルブ14の光路上に位置すれよい。この場合、回転シェード110の例えば中央遮光用シェード114の形成面で外来光を遮断可能となり、外来光がバルブ14に集光してしまうことを軽減可能となり、同様の効果を得ることができる。なお、遮断面200は非反射面としてもよいし、反射面としてもよい。
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。