JP2011117066A - 多孔質金属及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属粉末とこれより高い融点を有する支持粉末とを含む加圧成形体の焼結体から前記支持粉末が除去されて内部に空隙Pを有する多孔質金属において、前記空隙Pの周囲を形成する結合金属粉末壁Wの断面が、40%以上80%未満の結合金属粉末の面積占有率を有する多孔質金属及び当該多孔質金属の結合金属粉末壁Wの表面に酸化皮膜を有する多孔質金属、ならびに、これらの製造方法。
【選択図】図1
Description
本発明の第1の実施態様に係る多孔質金属は、金属粉末と支持粉末の混合物を加圧成形した後に、その成形体を焼結し、最終的に支持粉末を除去することで得られる空隙とその空隙を形成する結合金属粉末壁とによって構成される。結合金属粉末壁には、さらに微細な孔が形成され、支持粉末を除去した後に得られる空隙同士をこれら微細孔が連通する多孔質構造となっている。結合金属粉末壁の断面においては、断面積の40%以上80%以下が結合金属粉末で占有される。この面積占有率が40%未満の場合には、金属粉末同士の結合力が弱く、多孔質金属としての強度が不十分となる。また、面積占有率が80%を超える場合には、結合金属粉末壁の微細孔が連通した構造ではなくなるために多孔度の低下及び表面積の減少を招く。
図1に、本発明の方法により製造される多孔質アルミニウムの断面SEM写真を示す。図中のPは、支持粉末を除去したことによって形成された空隙を示し、Wは結合アルミニウム粉末壁を示す。更に、図2に、本発明の方法により製造される多孔質アルミニウムの結合アルミニウム壁の断面SEM写真を示す。図中のMは、結合アルミニウム粉末壁の断面部分を示し、Rは多孔質アルミニウム粉末間に入り込んだ断面研磨樹脂を示す。
多孔質金属の表面積を大きくするためには、より小さい粒径の金属粉末を用いるのが望ましい。取り扱い易さなどの点から、本発明に用いる金属粉末の粒径は1〜50μmが好ましい。金属の材質としては、特に限定されるものではないが、純アルミニウム又はアルミニウム合金が好適に用いられる。アルミニウム合金としては、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金が用いられる。また、多孔質金属の機能を高めるために、適宜微量元素を添加したアルミニウム合金を使用しても良い。
本発明に用いる支持粉末としては、金属粉末より高い融点を有するものが用いられる。支持粉末としては、焼結体から除去する際に水を用いて溶出可能な水溶性塩が好適に用いられる。水溶性塩としては、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物や炭酸塩などが挙げられる。塩化ナトリウムや塩化カリウムが、入手の容易性から好ましい。また、支持粉末を除去してこれが存在していたスペースを空隙として残すことから、支持粉末の粒径は多孔質金属の孔径に影響を与える。本発明では、100〜1000μmの粒径を有するものが好ましい。
金属粉末と支持粉末の混合比は体積比で、金属粉末:支持粉末=1:1〜1:9である。すなわち、混合物中における金属粉末の体積含有率は10〜50%であり、支持粉末の体積含有率は90〜50%である。支持粉末の体積含有率が90%を超える場合には、金属粉末の含有率が少な過ぎるために金属粉末同士の結合力が弱くなる。その結果、支持粉末を除去して得られる多孔質金属の強度が低くなる。一方、支持粉末の混合比が50%未満の場合には、支持粉末の含有率が少な過ぎるために支持粉末同士が接触することなく独立して存在することになり、支持粉末を除去する際に多孔質金属内に残留する可能性が大きく、残留支持粉末の除去に長時間を要することになる。例えば、金属粉末として純アルミニウム粉末を、支持粉末として塩化ナトリウム粉末を用いて、体積比で純アルミニウム粉末:塩化ナトリウム粉末=55:45の混合物の加圧成形体を用いた焼結体を水道水の流水に24時間に浸漬させても、塩化ナトリウムの除去率は80%程度であった。従って、溶出除去に長時間を要し生産効率が著しく低下するので採用できない。そのため、金属粉末と支持粉末の体積混合比は、金属粉末:支持粉末=1:1〜1:9、好ましくは、1:1.5〜1:4である。また、混合手段としては、タンブラーミキサー、ドラムミキサー等の各種ミキサー、V型混合機、W型混合機、振動攪拌機等が用いられるが、十分な混合物が得られるのであれば特に限定されるものではない。
金属粉末と支持粉末の混合割合で決まる混合粉末の比重に関して、理論比重に対する嵩比重の比(嵩比重/理論比重)が75〜95%となるように混合粉末を加圧成形する。ここで、理論比重とは、加圧成形体に空隙がないものとして、金属粉末と支持粉末の真比重から算出される。一方、嵩比重とは、実測定した加圧成形体の質量と体積から求められる。加圧成形体の嵩比重が嵩比重/理論比重で75%を下回る場合には金属粉末の粒子間の接触が不十分で、その結果、焼結において十分に結合した金属粉末が得られず多孔質金属の強度が不十分となる。一方、嵩比重/理論比重が95%を超える場合には、金属粉末同士の密着性は高まるが、焼結後の結合金属粉末の面積占有率が大きくなり、得られる多孔質金属の表面積が減少する。また、金属粉末の金型への凝着が著しく、例えば一軸加圧成型器では凝着のために圧子が入らなくなり、連続して成形できないといったような生産性に問題が生じる。嵩比重/理論比重は85〜93%が好ましい。
加圧成形体の焼結は、当該金属粉末の金属素材のセルシウス温度で表した融点の90%以上の温度で、かつ、この融点未満の温度で1時間以上加熱して行う。焼結温度が当該金属のセルシウス温度で表した融点の90%未満の温度である場合や焼結時間が1時間未満の場合には、金属粉末同士の焼結が十分に進行しないので多孔質金属の強度が不十分となる。一方、焼結温度が当該金属の融点以上の場合には金属粉末が溶融して金属粉末同士の密着性が高まるが、焼結後の結合金属粉末の面積占有率が大きくなり、得られる多孔質金属の表面積が減少する。また、融解した金属の流出や、急激な酸化のために多孔質金属の強度が不十分となる。なお、焼結時間については、生産効率の観点から24時間以下とするのが好ましい。
焼結体中の支持粉末の除去には、溶出等の方法が用いられる。支持粉末として水溶性塩を用いる場合には、焼結体を十分な量の水浴又は流水浴に浸漬する等の方法で容易に溶出除去することができる。この場合、溶出に用いる水は温水のように温度が高い方が溶出し易く、30℃以上の水を用いるのが好ましい。水溶性塩を溶出させる水は適用先によってイオン交換水や蒸留水等、不純物の少ない方が好ましいが、水道水でも特に問題は無い。
次に本発明の第2の実施態様に係る多孔質金属は、第1の実施態様に係る多孔質金属において、結合金属粉末壁の表面に酸化皮膜が形成されたものである。この第2の実施態様に係る多孔質金属(以下、「表面処理多孔質金属」と記す)では、用いる金属粉末及び支持粉末、ならびに、これらの混合方法、加圧成形方法、焼結方法、支持粉末の除去方法については、第1の実施態様に係る多孔質金属と同じである。以下においては、第1の実施態様に係る多孔質金属と異なる点についてのみ説明する。
結合金属粉末壁の表面に形成される酸化皮膜としては、金属粉末の無水酸化皮膜と水和酸化皮膜の少なくとも一方が含まれる。以下において、「酸化皮膜」という場合には、特に断らない限り、無水酸化皮膜と水和酸化皮膜の両方を指すものとする。無水酸化皮膜としては、Al2O3などが挙げられる。水和酸化皮膜は、一般にAl2O3(nH2O)で表わされるが、具体的にはAlOOHなどが挙げられる。これら酸化皮膜には、クロム、ニッケル、コバルト、燐、フッ素等の元素を含む化合物が含有されていてもよい。
多孔質体の表面処理は、水、アルカリ溶液、酸溶液及びこれらの蒸気を用いた少なくともいずれか一の処理あるいは複数の処理を組み合わせて施すものである。溶液系処理では、水、酸溶液又はアルカリ溶液に多孔質体を浸漬する。蒸気系処理では、蒸気中に多孔質体を曝すことによって行なわれる。溶液系処理では、水による処理、酸溶液による処理、アルカリ溶液による処理を単独で、或いは、複数組み合わせてもよい。更に、これら溶液系処理と蒸気系処理を組み合わせて行なってもよい。
実施例1〜23及び比較例1〜6
金属粉末として、粒径の異なる下記純アルミニウム粉末(A1〜A3)を用いた。支持粉末として、粒径の異なる塩化ナトリウム粉末(B1〜B3)、ならびに、粒径500〜600μmの塩化カリウム(C1)を用いた。表1及び2に示すように、純アルミニウム粉末と支持粉末を所定の混合体積比で混合した混合物を調製した。調製した混合物を表に示す圧力で加圧成形し、この加圧成形体を表に示す温度と時間で焼結することによって焼結体を作製した。次いで、得られた焼結体を20℃の流水(水道水)中に浸漬して支持粉末を溶出させ、多孔質アルミニウム試料を作製した。
なお、表1、2の成形圧力は使用した純アルミニウム粉末の耐力(30MPa)に対する倍率で表示している。また、純アルミニウム粉末の金属素材である純アルミニウムの融点は、セルシウス温度で660℃である。
A1:平均粒径3μm
A2:平均粒径20μm
A3:粒径45μm以下
B1:粒径106〜212μm
B2:粒径500〜600μm
B3:粒径710〜850μm
<塩化カリウム粉末>
C1:粒径500〜600μm
(a)強度
作製した多孔質アルミニウム試料の強度の指標として、切断の可否を調べた。試料を切断した際に、形状の崩れが発生せず切断できたか、或いは、形状の崩れが発生して切断できなかったかを調べた。崩れが発生せず切断できた場合には強度が十分であるとして合格(○)とし、崩れが発生して切断できなかった場合には強度が不十分であるとして不合格(×)とした。
切断した結合アルミニウム粉末壁の構造をSEMで観察し、その切断面における結合アルミニウム粉末の面積占有率を二次電子を利用した画像解析法により求めた。結果を下記基準で評価した。
◎:70%≧結合アルミニウム粉末の面積占有率≧50%
○:80%≧結合アルミニウム粉末の面積占有率>70%、及び
50%>結合アルミニウム粉末の面積占有率≧40%
×:結合アルミニウムの面積占有率>80%、及び
40%>結合アルミニウム粉末の面積占有率
◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
比較例2では、加圧成形の圧力が小さ過ぎたため嵩比重/理論比重の比が小さ過ぎた。その結果、結合アルミニウム粉末の占有面積率が低過ぎ、形状の崩れが発生して切断できなかった。
比較例3では、加圧成形の圧力が大き過ぎたため嵩比重/理論比重の比が大き過ぎた。その結果、結合アルミニウム粉末の占有面積率が高過ぎた。
比較例4では、焼結温度が低過ぎたため形状の崩れが発生して切断できなかった。
比較例5では、焼結温度が高過ぎたため融解したアルミニウムの加圧成形体からの流出や急速な酸化が生じた。その結果、形状の崩れが発生して切断できなかった。更に、焼結温度が高過ぎたために、結合アルミニウム粉末の占有面積率が高過ぎた。
比較例6では、焼結時間が短過ぎたため形状の崩れが発生して切断できなかった。
実施例24〜38及び比較例7〜9
表面処理を施す前の多孔質アルミニウム試料として、実施例7において作製した試料を用いた。すなわち、上記A1のアルミニウム粉末と、上記B2の塩化ナトリウム粉末を用い、アルミニウム粉末:塩化ナトリウム粉末=1:9の体積比で混合して多孔質アルミニウムを作製した。成形荷重はアルミニウム粉末の耐力の4.7倍で10分間、焼結は650℃で3時間、塩化ナトリウムの溶出は20℃の流水(水道水)浸漬で行った。
表面処理を施した多孔質アルミニウム試料に20%塩酸100mlを流通させ、多孔質アルミニウムを通過した塩酸中のAl濃度を測定し下記基準で評価した。
◎:3mg/L>Al濃度
○:10mg/L>Al濃度≧3mg/L
△:18mg/L>Al濃度≧10mg/L
×:Al濃度≧18mg/L
◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
比較例8では、有機溶剤であるヘキサンで処理を行っても皮膜形成はされず、耐食性が不合格であった。
比較例9では、大気雰囲気で熱処理しただけなので、表面に耐食性の皮膜が形成されず耐食性が不合格であった。
W:結合アルミニウム粉末壁
M:結合アルミニウム粉末壁の断面部分
R:多孔質アルミニウム粉末間に入り込んだ断面研磨樹脂
Claims (11)
- 金属粉末とこれより高い融点を有する支持粉末とを含む加圧成形体の焼結体から前記支持粉末が除去されて内部に空隙を有する多孔質金属において、前記空隙の周囲を形成する結合金属粉末壁の断面が、40%以上80%以下の結合金属粉末の面積占有率を有することを特徴とする多孔質金属。
- 前記金属粉末が純アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方から成り、前記支持粉末が水溶性塩である、請求項1記載の多孔質金属。
- 金属粉末とこれより高い融点を有する支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=1:1〜1:9の体積比で混合した混合物を嵩比重/理論比重で75〜95%の加圧成形体とし、当該加圧成形体を前記金属粉末の金属素材のセルシウス温度で表した融点の90%以上の温度で、かつ、当該融点未満の温度で1時間以上加熱して前記金属粉末を焼結し、次いで前記支持粉末を除去して空隙を形成することを特徴とする多孔質金属の製造方法。
- 前記金属粉末が純アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方から成り、前記支持粉末が水溶性塩である、請求項3記載の多孔質金属の製造方法。
- 金属粉末とこれより高い融点を有する支持粉末とを含む加圧成形体の焼結体から前記支持粉末が除去されて内部に空隙を有する多孔質金属において、前記空隙の周囲を形成する結合金属粉末壁の断面が、40%以上80%以下の結合金属粉末の面積占有率を有し、且つ、当該結合金属粉末壁の表面に酸化皮膜が形成されていることを特徴とする多孔質金属。
- 前記金属粉末が純アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方から成り、前記支持粉末が水溶性塩である、請求項5に記載の多孔質金属。
- 金属粉末とこれより高い融点を有する支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=1:1〜1:9の体積比で混合した混合物を嵩比重/理論比重で75〜95%の加圧成形体とし、当該加圧成形体を前記金属粉末の金属素材のセルシウス温度で表した融点の90%以上の温度で、かつ、当該融点未満の温度で1時間以上加熱して前記金属粉末を焼結体とし、次いで、この焼結体に、水、アルカリ溶液、酸溶液及びこれらの蒸気を用いた少なくともいずれか一の表面処理を施すことを特徴とする多孔質金属の製造方法。
- 前記金属粉末が純アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方から成り、前記支持粉末が水溶性塩である、請求項7に記載の多孔質金属の製造方法。
- 前記金属粉末の焼結後であって表面処理前に前記支持粉末を除去して空隙を形成する、請求項7又は8に記載の多孔質金属の製造方法。
- 前記表面処理が、前記焼結体を50℃以上100℃以下の水、アルカリ溶液及び酸溶液のいずれかに1分以上60分以下浸漬させる、請求項7〜9のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。
- 前記表面処理が、前記焼結体を100℃以上300℃以下の水、アルカリ溶液及び酸溶液の蒸気のいずれかに10分以上180分以下曝す、請求項7〜9のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。
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