JP7162163B2 - ポーラス金属とその通気率制御方法 - Google Patents
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Description
ポーラス超硬そのもののユーザ又はポーラス超硬を利用した各種の製品のユーザは、これらのポーラス超硬が利用される工具や部品に求められる耐摩耗性や通気率などの種々の特性を勘案して、その用途に相応しいポーラス超硬を選択する。
具体的には、上述のように、使用中のポーラス超硬である炭化タングステン(WC)の粒子そのものや粒子の表面に形成された酸化被膜を除去するとか、更には、摩耗によって目詰まりを起こした炭化タングステンの削りくずを除去することによって、低下した通気率を改善する必要がある。
本発明者が公知文献を調査した限りにおいて、本発明が解決しようとする後述の課題に対応した公知文献は見当たらなかった。
(1)工具や部品に使用されるポーラス超硬は、未使用のポーラス超硬であっても、用途によっては、粒子間の空孔率が小さ過ぎて、その結果、通気率が小さすぎる場合がある。
この課題に対しは、ポーラス超硬の製造メーカや購入したユーザが通気率を大きくするための何らかの処理や加工が必要になる。
(2)また、所望の用途に適した通気率のポーラス超硬を使用していた場合に、長期間の使用によって、ポーラス超硬の粒子が空気と触れることになる。ポーラス超硬の炭化タングステン粒子の表面に酸化被膜が形成されて、その酸化被膜が膨張した容積だけ、粒子間の空孔率が小さくなる。その結果として、ポーラス超硬の空孔率及び通気率が低下することになる。
この課題に対しては、ポ-ラス超硬を交換しようとすれば費用がかかるので、交換することなく、使用中のポーラス超硬の通気率を向上させることが望まれる。
(3)更には、ユーザが長期間使用しても、通気率が低下しにくい構造のポーラス超硬であれば望ましい。
この課題に対しては、製造された未使用のポーラス超硬や、使用によって低下した通気率を再び向上させたポーラス超硬が、通気率が低下しにくい構造であるための工程が存在することが必要である。
(4)更には、所望の用途に相応しい処理で通気率を改善することが必要である。即ち、通気率を改善するだけではなく、所望の用途にも相応しい処理であることが望まれる場合がある。例えば、ポーラス超硬が摺動部材に使用される場合には、通気率の改善も重要だが、ポーラス超硬の表面が摺動しやすく、しかも、摩耗による削りかすがポーラス超硬の粒子内に侵入しにくいことも重要である。
この課題に対しては、例えば、ワックスを粒子間に含浸させてワックスが粒子間に残っていれば、ポーラス超硬が摺動部に利用される場合には好適であろう。
本発明者は、上記の目的を実現するために、炭化タングステンを材料とするポーラス超硬の粒子間の空孔率を大きくする。そのために、ポーラス超硬の粒子及び粒子の表面に形成される酸化被膜を開孔処理剤で溶かして粒子間を開孔する開孔処理工程を施すことによって空孔率を大きくすることを見出した。
即ち、開孔処理剤によって粒子及び表面の酸化被膜を溶解することが、「本発明の第1の根幹」である。
このように、加熱工程と開孔処理工程の組合せが、「本発明の第2の根幹」である。
この加熱工程は、対象となるポーラス超硬を、開孔処理工程の前に、所定の温度で、所定の時間だけ、加熱することによって実現できる。加熱工程によって、ポーラス超硬の各粒子が加熱され、その後の開孔処理工程において、各粒子やその酸化被膜が溶解する速度を高めることができる効果がある。
このように、封孔処理工程と開孔処理工程を組み合わせることが、「本発明の第3の根幹」である。
なお、前述の加熱工程を加える場合には、封孔処理工程は、加熱工程の後で開孔処理工程の前に行う方が望ましい。つまり、加熱工程、封孔処理工程、開孔処理工程の順番に行うのが良い。
更に、封孔処理剤を残したままにすれば、削りくずなどの侵入を防ぐとともに、封孔処理剤が摺動性を高める効果もある。
以上のように、封孔処理によって、ポーラス超硬の所望の用途にとって好適なものを得ることができる効果がある。
このように、加熱工程と封孔処理工程と開孔処理工程の組合せが、「本発明の第4の根幹」である。
このように、所定の効果を得るために、更なる工程を追加することが「本発明の第5の根幹」である。
その加工工程としては、ポーラス超硬の表面に施す機械的加工と電気的加工を、単独又は併用することができる。機械的加工としては、研削加工がある。電気的加工としては、電解加工または放電加工が有り、単独又は併用しても良い。
これらの加工工程については、後述する発明の実施態様の欄において説明する。
なお、加工工程は、封孔処理工程の前に施しても良いし、封孔処理工程と開孔処理工程の間に施しても良い。加工工程の目的は、ポーラス超硬の表面の滑らかさの確保だからである。
つまり、本発明の制御方法によって通気率が制御されたポーラス超硬が、「本発明の第6の根幹」である。
まず、封孔処理工程について詳述する。
封孔処理工程で使用される封孔材は、室温で固体であり、溶解時にはポーラス超硬への含浸性を有する粘度となる化合物である。しかも、溶剤で溶解して除去されうることが望ましい。このような封孔材としては、「熱可塑性樹脂」が良い。
そして、封孔材としての熱可塑性樹脂の融点の範囲は、一般的なポーラス超硬の加熱処理の上限である500℃以下であることが望ましい。但し、処理を行いやすいためには、封孔材の融点ができるだけ低い方が望ましい。従って、封孔材として望ましいのは、「融点が、500℃以下のできるだけ低く、かつ、加熱処理温度よりも高温である熱可塑性樹脂」と言える。
望ましい封孔材としては、例えば、アミド系ワックスまたはエステル系ワックスなどの「ワックス」が良い。
アミド系ワックスの例としては、オレイン酸アミド(融点:約76℃)、ステアリン酸アミド(融点:約120℃)、エルカ酸アミド(融点:約100℃)がある。
エステル系ワックスとしては、脂肪酸エステル(融点:約65℃)がある。
なお、これらのワックスを溶解させうる溶剤としては、炭素数10以上の混合アルコールが望ましく、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、i-ブタノールなどのアルコール類でも良い。
開孔処理工程で使用される開孔処理剤は、ポーラス金属材料の金属相及びその金属酸化物相を溶解することが可能な水溶液でなければならない。
例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物(LiOH,NaOH,KOH,Ca(OH)2)などの水溶液は、アルカリ(塩基)性を示し、ポーラス超硬に使用される炭化タングステン(WC)などの金属酸化物を溶解する。
また、含窒素化合物であるアミン類(メチルアミン、エチルアミン、アニリンなどのモノ置換アミン類、同様のジ置換アミン類、トリ置換アミン類、ピリジンなどの共役アミン類、ポリエチレンポリアミン類)の水溶液もアルカリ(塩基)性を示し、炭化タングステンの酸化物を溶解する。代表的な水溶液の例としては、アンモニア水がある。
これらの物質は、水溶液塩基であり、金属錯体を形成して平衡状態を保つことができるゆえに、ポーラス超硬を溶解することができる。
それらの水溶液塩基の中で、処理後に揮発して残存成分が残りにくい点から、アンモニア水が望ましい。本発明の実施態様においては、アンモニア水を開孔処理剤として使用した。
その場合に、ポーラス超硬の表面部の粒子間に封孔材としてのワックスなどを含浸させていなければ、アンモニア水はポーラス超硬の全ての表面からすぐに浸透していく。一方、ポーラス超硬の表面部の粒子間にワックスなどを含浸させていれば、その表面部からはアンモニア水が含浸しにくいが、側面などのワックスなどが存在しない面から浸透していく。
機械的加工方法としては、研削加工がある。機械的加工によって、表面部の粒子と封孔材としてのワックスなどを機械的に削り取れば、ポーラス超硬の表面をある程度、滑らかにすることができる。研削加工は、砥石を利用して、μ単位の研削を行う。なお、機械的加工ゆえに、表面が極めて滑らかとは言い切れないが、用途によっては、それで十分と言える程度まで滑らかにすることは可能である。
電気的加工方法の一つは放電加工である。電極材質は、銅-タングステン(CuW)や銀-タングステン(AgW)が望ましい。この放電加工によって、前述の機械的加工によっても滑らかにならなかった表面を更に滑らかにすることができる。
脱封孔材処理工程における脱封孔材としては、封孔材である熱可塑性樹脂(ワックス類等)を溶解して除去することができる溶液であることが必要である。更に望ましくは、安価で、低粘度、低沸点、単一物質、環境的に廃棄しやすい物質の溶液であることが望ましい。例えば、高級不飽和アルコールや低級アルコールなどのアルコールが望ましい。
油回転ポンプ(排気速度50L/min)からのSUS製内径1/4inchの減圧ラインに流量調整バルブ、流量計、圧力計を設け、アクリル製平板の試料台に接続して試料を設置しない状態で1000ml/min流量となるように流量調整バルブで調整した。試料台には10mmの穴をあけた厚さ3mmのクロロプレン製ゴム板を設置した。測定試料をゴム板に密着させた状態で、減圧ラインの圧力計及び流量計の値を読み、JIS R 2115「耐火物の通気率の試験方法」の次の式に従って通気率を算定した。
μ:物質の通気率(m2)
V:物質を通過した圧力p1におけるガス量(m3)
t:ガス量(V)が物質を通過するのに要した時間(s)
η:試験温度におけるガスの粘度(Pa・s)
A:ガスが通過する物質の断面積(m2)
δ:ガスが通過する物質の厚み(m)
P:ガス容量測定時のガスの絶対圧(Pa)
p1:物質へのガス侵入絶対圧(Pa)
p2:物質からのガス離脱絶対圧(Pa)
本発明の第1の特徴は、
ポーラス金属の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子 及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて、
ポーラス金属の通気率を向上することを特徴とするポーラス金属の通気率制御方法である。
ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子 及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を酸性液に浸漬する酸処理工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を酸性液に浸漬する酸処理工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程と、
前記ポーラス超硬の表面に近い粒子間に含浸している封孔材を取り除く脱封孔材 処理工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程と、
前記ポーラス超硬の表面部の粒子間に含浸している封孔材を取り除く脱封孔材処 理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
前記ポーラス超硬の表面部の粒子間に含浸している封孔材を取り除く脱封孔材処 理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の 酸化被膜を溶解させて通気率を向上させた
ことを特徴とするポーラス金属
である。
粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の 酸化被膜を溶解させて通気率を向上させた
ことを特徴とするポーラス超硬
である。
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間には封孔材が存在し、
表面部より内部の粒子間には封孔材が存在しない
ことを特徴とするポーラス金属
である。
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間には封孔材が存在し、
表面部より内部の粒子間には封孔材が存在しない
ことを特徴とするポーラス超硬
である。
本発明は、ポーラス超硬における粒子間の空孔率を向上させて、結果として、ポーラス超硬としての通気率を改善するように制御することが目的である。従って、そのために、本発明において、最も重要で新規な処理工程は、開孔処理工程である。
開孔処理工程によって得られる効果をより高いものとするために、開孔処理工程の前後で別の様々な処理工程が施される。そこで、以下、図1に説明する第一の実施形態においては、開孔処理工程に各種の処理工程が加えられた望ましい工程のフローの例を示している。
具体的には、(a)ポーラス超硬を準備する工程、(b)加熱処理工程、(c)封孔処理工程、(d)開孔処理工程、(e)研削加工工程、(f)脱封孔材処理工程の各工程が順番に施されたときのポーラス超硬の粒子やバインダの状態が模式図的に示されている。
図1の(a)が「ポーラス超硬の準備工程」を示す。効果の確認に使用したポーラス超硬1は、「シルバーロイ社製PO30」である。炭化タングステン(WC)の粒子2にニッケル系バインダ3を使用して焼結させて作成された、未使用のポーラス超硬1を準備する。本実施形態では、ポーラス超硬1から30x30x4mmの小片試料を作成した。図示したのは小片試料の一部である。
この状態では、粒子2間は比較的空孔率が高く、粒子2はバインダ3によって、しっかりと結合し合っている。
なお、一旦、所望の用途に使用したポーラス超硬を本発明による通気率の制御を行う場合には、使用されたポーラス超硬を準備することが「ポーラス超硬の準備工程」に該当することは言うまでもない。
上述の小片試料を小型電気炉(アズワン製mini-BSI)中に配置し、500℃で1時間加熱を行った。その後、大気中で放冷を行って常温にした。
図1の(b)は、加熱処理を行った直後の状態を模式的に示している。この状態では、各粒子2の表面に酸化被膜4が形成され、酸化被膜4の形成の際に容積が膨張するので、粒子2間の空孔率が高くなっている。また、熱によってバインダ3が一部溶解して粒子2間の結合は緩やかになり、粒子2同士の間隔が狭くなっている。
封孔処理は、ポーラス超硬1の小片試料を封孔材5に浸漬するにあたり、試料の片面のみを浸漬し、図1(c)に示すように、その片面の表面部(A)の粒子2間のみに卦孔材5が含浸された状態を形成する。図中の表面部(A)の粒子2間に施された破線部が封孔材5の存在を模式的に示している。試料の内部(B)には封孔材5が含浸されていない。このように、片面のみに処理を施すか、両面に施すかは、ポーラス超硬の用途によるものである。
具体的な片面封孔処理工程の内容は次の通りである。封孔材5としては、95℃で融解したオレイン酸アミド(花王製、脂肪酸アマイドO-N)に、上記の試料の30x30mmの面を約1mmの深さで浸漬して30分間保持する。その後、大気中で放冷を行って常温にした。その結果、資料の片面の表面部(A)に約1.5mmの厚さで封孔材5が含浸し、封孔処理された試料を得た。つまり、1mmの深さの封孔材5に、4mmの厚さの試料を浸漬すると、資料の表面部(A)の1.5mmの厚さまで封孔材5が含浸したことになる。
本実施形態では、アンモニア水を開孔処理剤として使用する。片面の封孔処理を行った試料を、室温で、磁気攪拌機を備えた5%アンモニア水100mlの容器に8時間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄してから、ダストレスワイプで水分を拭き取り、減圧デシケータ中に入れて12時間以上乾燥した。
試料をアンモニア水に浸漬すると、試料の表面部(A)には封孔材としてのオレイン酸アミドが含浸しているのでアンモニア水が含浸せず、試料の内部(B)にのみアンモニア水が含浸する。
そして、アンモニア水が試料の内部(B)の炭化タングステン粒子2とその粒子2の表面の酸化被膜4を溶解して試料の外部に流れ出す。その結果、粒子2間の空孔率は高くなる。図1(d)は、開孔処理を行ったあとに、粒子2間の空間6が大きくなり、空孔率が高くなった状態を示している。
使用した高精密成型研削盤は、「(株)アマダマシンツール社製、MEISTER-G3」であり、その使用条件は、粘度#230のレジンボンドダイヤモンド砥石で、切込み深さ5μm、砥石回転数(砥石速度)2500/min(1608m/min)、テーブル送り30m/min、クロス送り500mm/min、スパークアウト回数3~4回、総切り込み0.5mmの条件で研削を行った。研削液は、水溶性ソリュ-ションを用いた。
図1(e)に示すように、研削盤の回転する工具7の周囲に取り付けられた砥石8が、ポーラス超硬1の試料の表面を削り、削りくず9が飛ばされ、試料の表面は滑らかになる。
開孔処理を行ったポーラス超硬1の試料を、40℃で磁気攪拌機を備えたイソプロピルアルコールの容器に1時間浸漬する操作を3回繰り返した。
即ち、試料の表面部(A)の粒子2間に含浸していた封孔材5であるオレイン酸アミドを溶解して取り除くための脱封孔材として、それらの封孔材5を溶解することができるイソプロピルアルコールを使用した。その結果、表面部(A)の封孔材5が除去された。
このように、封孔材5を使用して封孔処理を行った場合でも、封孔材5を除去することによって、通気率がより高くなるとともに、ポーラス超硬の所望の用途によっては封孔材5が存在しないことが好まれる場合に好適である。
本発明の第一の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.49倍に改善された。
上述の本発明の第一の実施形態では、封孔処理は試料の片面のみを封孔材に浸漬させて、片面の表面部だけにオレイン酸アミドが含浸している。
この第二の実施形態では、試料の両面の表面部をオレイン酸アミドに浸漬し、試料の内部にはオレイン酸アミドが含浸していない状況にした。具体的な各工程の処理内容は次の通りである。
「ポーラス超硬の準備工程」、「研削加工工程」及び「脱封孔材処理工程」は、本発明の第一の実施形態と同じである。
「両面封孔処理工程」では、試料を完全に浸漬させたことが異なる。両面に約1.5mmの厚さで封孔処理される。
「開孔処理工程」では、封孔処理後の試料の両端面を約3mm程度切除してからアンモニア水に浸漬したことが異なる。両端面を切除するのは、その切除された両端面からアンモニア水が含浸しやすくするためである。アンモニア水は、試料の裏表の両面からでなく、端面から内部に含浸し、粒子やその酸化被膜を溶解して端面から流出するのに時間を要するが、特に、問題は無い。ポーラス超硬の用途によっては、裏表の両面を封孔処理することが望ましい場合にはこの実施形態の処理工程が望ましい。
なお、開孔処理工程と両面封孔処理工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを決定すればよい。
本発明の第二の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.35倍に改善された。
本発明の第三の実施形態は、図1に示す本発明の第一の実施形態のうち、図1(d)の「研削加工」を「放電加工」に置き換えたものである。放電加工の内容としては、一般的な技術で良く、特別の放電加工処理を必要としなくて良い。
放電加工に変更することによって、研削加工に比べて、ポーラス超硬の表面がより滑らかになるという効果が有る。表面が滑らかになることが望ましい用途に好適なポーラス超硬を得ることができる。
なお、開孔処理工程と放電加工工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを決定すればよい。
本発明の第三の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.41倍に改善された。
図1に示す前述の本発明の第一の実施形態においては、「封孔処理」を施し、そして、最終的に、「脱封孔処理」も施している。
これに対して、本発明の第四の実施形態においては、「封孔処理」は施すが、「脱封孔処理」は施さないのである。これによって、ポーラス超硬の表面部(A)に含浸したオレイン酸アミドの封孔材が残った状態で終了することになる。これによって、封孔材がポーラス超硬に摩耗くずなどが侵入することを防止する効果や、ポーラス超硬の表面が滑らかさを保つ効果がある。この状態が用途として望ましいポーラス超硬の場合には、この第四の実施形態の発明を実施することが好適である。
なお、開孔処理工程と封孔処理工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを、適宜、決定すればよい。
本発明の第四の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は 1.12倍に改善された。
本発明の第四の実施形態においては、「封孔処理」を施すが、「脱封孔処理」を施さない。それに対して、本発明の第五の実施形態では、「封孔処理」も「脱封孔処理」も施さない。
即ち、通気率制御方法としての一連の工程において、「封孔処理」と「脱封孔処理」をいずれも施さないのである。これは、オレイン酸アミドなどの封孔材をポーラス超硬の表面部(A)に含浸させることなく、アンモニア水などの開孔処理剤をポーラス超硬の全ての粒子間に含浸させることによって、充分に、開孔処理の効果が発揮されるとか、封孔処理を施さない方が望ましいと考えられる用途に適したポーラス超硬の通気率制御が行われる場合に好適である。
本発明の第五の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.57倍に改善された。
本発明の第一の実施態様においては「加熱工程」が含まれるが、本発明の第六の実施態様はこの「加熱工程」を施さない態様である。それ以外の工程は、第一の実施態様と同じである。
加熱工程を施さない場合には、前述のように、開孔処理工程において、その処理速度が若干遅くなる。
なお、開孔処理工程と加熱工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを、適宜、決定すればよい。
本発明の第六の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.09倍に改善された。
本発明の第一の実施形態では、「封孔処理」を行うが、本発明の第七の実施形態においては、「封孔処理」を施さないで、「ポーラス超硬の準備工程」の次に「酸処理工程」を施し、その後に、「加熱処理」と「開孔処理」を施した。以下に、各工程の内容を詳細に説明する。
まず、「ポーラス超硬の準備工程」においては、30x30x4mmのコバルト系バインダを用いたポーラス超硬の試料を準備する。ここでは、「富士ダイス社製PC20」を使用する。
次に、「酸処理工程」を施す。
この酸処理では、試料を、室温(16℃)で磁気攪拌機を備えた3.5%塩酸200mlの容器に1時間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄してから、ダストレスワイプで水分を拭き取り、減圧デシケータ中に入れて12時間以上乾燥させた。
次に、「加熱処理工程」を施す。
加熱処理工程では、試料を小型電気炉(アズワン社製mini-BS1)中に配置して、470℃で1時間加熱し、大気中で放冷して常温に戻した。
最後に、「開孔処理工程」を施す。
開孔処理工程では、試料を、大気温度17℃で磁気攪拌機を備えた2%水酸化ナトリウム水溶液200mlの容器に、30分間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄してから、ダストレイワイプで水分を拭き取り、減圧デシケータ中に入れて12時間以上乾燥させた。
この本発明の第七の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.12倍に改善された。
本発明の第八の実施形態は、ポーラス超硬の試料を40℃で酸処理したこと以外は、本発明の第七の実施形態の内容と同一である。
40℃という高温で酸処理することにより、コバルト系バインダがより容易に溶解することができて、処理速度を上げることができる効果がある。ポーラス超硬の通気率は1.43倍に改善された。
つまり、本発明は、開孔処理工程以外に、加熱処理工程、酸処理工程、封孔処理工程、脱封孔処理工程、加工工程などを適宜追加することも含むのである。
なお、前述のように、本出願ではポーラス超硬を実施形態において説明したが、炭化タングステン(WC)以外の粒子で、ニッケル系やコバルト系以外のバインダを用いるポーラス金属においても、本発明の効果を得ることができる。
2‥‥‥ ポーラス超硬の粒子
3‥‥‥ ポーラス超硬のバインダ
4‥‥‥ 粒子の表面に形成された酸化被膜
5‥‥‥ 封孔材
6‥‥‥ 粒子間空間
7‥‥‥ 工具
8‥‥‥ 砥石
9‥‥‥ 削りくず
Claims (2)
- ポーラス超硬の内部の粒子間の空間にアルカリ水溶液からなる開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて外部へ流し出して、それによって粒子間の前記空間の空孔率を高めて、ポーラス超硬の通気率を向上させることを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法。
- ポーラス超硬の内部の粒子間の空間にアルカリ水溶液からなる開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて外部へ流し出して、それによって粒子間の前記空間の空孔率を高めて、ポーラス超硬の通気率を向上させたことを特徴とするポーラス超硬の製造方法。
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