請求項1に記載の発明は、永久磁石を有する回転子と三相巻線を有する固定子からなるブラシレスDCモータと、前記三相巻線に電力を供給するインバータを有し、前記ブラシレスDCモータ巻線に流れる電流を検出し、ブラシレスDCモータの巻線に流れる電流の位相と、電圧位相とが所定の位相関係を保持するように、前記ブラシレスDCモータに通電する巻線を切換えることで、前記ブラシレスDCモータを駆動し、前記ブラシレスDCモータに流れる電流を検出することが不可能になった場合に、前記ブラシレスDCモータの出力を制限するとしたことにより、ブラシレスDCモータの回転子位置を検出しない駆動でも、常にモータ電流位相と電圧位相との関係が安定するため、ブラシレスDCモータの駆動領域を拡張することが出来る。
また、電流位相検出が不可能なときに負荷の軽い状態で運転することとなるため、フェイルセーフ手段を備えた信頼性の高いシステムを構築することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明に、電流位相の検出は2相分または1相分としたものである。通常、モータ電流から回転子位置の推定をおこなうフィードバック制御では3相の各電流を分離するため最低2相の電流を検出する必要があるが、特定の相の基準位相を検出するための1相分しか必要なく、モータ駆動装置の小型化と低コスト化が図れる。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明に、ブラシレスDCモータの巻線に流れる電流の位相は、電流のゼロクロスポイントを検出するようにしたものである。これにより電流位相を非常に簡単な方法で確実に検出できるため、モータ駆動装置の簡素化と、簡素化にともなう低コスト化と信頼性の向上を図ることが出来る。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明に、永久磁石を有する回転子と三相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータと、直流電圧を交流電圧に変換し前記ブラシレスDCモータに電力を供給するインバータと、前記ブラシレスDCモータの固定子に対する回転子の相対位置を検出する位置検出部を備える位置検出手段と、前記位置検出手段の信号をもとに前記ブラシレスDCモータに通電する巻線を切換える信号を生成する第1転流手段と、前記ブラシレスDCモータの巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段により検出した電流の位相を検出する電流位相検出手段と、前記電流位相検出手段で検出した電流位相を基に、前記ブラシレスDCモータに通電する巻線を切換える信号を生成する第2転流手段と、前記ブラシレスDCモータの負荷の状態を判定する負荷判定手段と、前記負荷判定手段により前記インバータのドライブ信号源を前記第1転流手段もしくは前記第2転流手段のいずれかに切り換える切換手段と、前記電流検出手段の故障かどうかを判定する故障判定手段と、前記故障判定手段が前記電流検出手段が故障であると判断した場合に前記ブラシレスDCモータの出力を制限する保護手段を有したことにより、ブラシレスDCモータの負荷状態に応じて転流手段を切換えることとなり、負荷が大きく高負荷・高速回転での駆動が必要な場合は高トルク運転、負荷が小さい場合は高効率運転による省エネ駆動が可能となる。さらにブラシレスDCモータの固定子巻線に流れる電流の位相を基準としてブラシレスDCモータに印加する電圧の位相を決めるので、ブラシレスDCモータの電流位相と電圧位相との関係が安定し、第2転流手段による駆動安定性が向上することで、ブラシレスDCモータの駆動可能な負荷領域および速度領域を大幅に拡張することができる。また、前記電流検出手段が故障した場合に前記ブラシレスDCモータの出力が軽く安定するように駆動させることとなり、前記電流検出手段が故障しても動作することが可能な信頼性の高い駆動システムとなる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明の前記故障判定手段は電流検出手段の
出力が第1電流閾値以上もしくは第2電流閾値以下が所定時間以上継続した場合に故障と判断するとしたことにより、単純な構成と手段で保護動作を行うことができることとなり、安価な信頼性の高いモータ駆動装置を提供できる。
請求項6に記載の発明は、請求項4または請求項5に記載の発明に、前記電流検出手段は前記ブラシレスDCモータの少なくとも1相の電流を検出するカレントトランスと、前記カレントトランスの出力値を補正し正電圧を出力する電流値補正部で構成することにより、回路損失の少ないカレントトランスで安定制御が可能であるため、電流検出手段による回路損失を極力低減できる高効率なモータ駆動装置を提供できる。
請求項7に記載の発明は、請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の発明の、前記保護手段の前記ブラシレスDCモータの出力を制限するとは、前記電流位相検出手段の出力を固定し、前記ブラシレスDCモータの駆動速度を低下させることとしたことにより、電流位相が検出できない場合に第2転流手段を信号源とした駆動で不安定となる状態に陥らない状態で駆動することとなり、フェイルセーフの機能を持った信頼性の高いブラシレスDCモータの駆動装置を提供することができる。
請求項8に記載の発明は、請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の発明の、前記保護手段の前記ブラシレスDCモータの出力を制限を、前記第1転流手段のみを信号源として駆動するとしたことにより、不安定駆動の可能性がある第2転流手段を信号源とした駆動を行わないこととなり、最低限のシステム機能を維持することが可能となる。
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の発明で前記ブラシレスDCモータは、回転子の鉄心に永久磁石を埋め込んでなる回転子であり、かつ突極性を有する回転子を有したものである。これによりブラシレスDCモータの駆動において、永久磁石によるマグネットトルクとともに、突極性によるリラクタンストルクも有効に利用できるようになるため、低速時の高効率駆動とともに、高効率の高速駆動性能も更に伸張することが可能となる。
請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の発明に、ブラシレスDCモータの駆動負荷として圧縮機を用いたものである。圧縮機の駆動制御では工業用サーボモータ制御等の様に、高精度な回転数制御や加速制御、位置制御などは必要無い。さらに圧縮機はイナーシャが比較的大きい負荷であり、特に往復運動を行うレシプロタイプは、構造上回転子には、金属性で重量の大きいクランクシャフトやピストンが接続されているため、イナーシャが非常に大きく、短い時間での速度の変動は非常に少ない負荷といえる。従って、電流位相の検出を1相のみとしても速度変動等の制御精度が悪化することは無いため、本発明のモータ駆動装置の非常に有効な用途のひとつと言える。
また従来のモータ駆動装置よりブラシレスDCモータの駆動領域の拡張により、従来のモータ駆動装置と同じ圧縮機を用いた場合でも、冷凍能力を高めることが出来るので、高能力の冷凍サイクルの小型化と低価格化を実現できる。さらに、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルに、本発明のモータ駆動装置を置き換えれば、より高効率なモータを用いた圧縮機を使用することが出来る様になり、冷凍サイクルのさらなる高効率化が実現できる。
請求項11に記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のモータ駆動装置で駆動されるモータを備えた圧縮機である。これにより圧縮機の駆動可能な負荷範囲と速度範囲を拡張でき、負荷が低い場合は低速駆動では高効率運転、負荷が大きい場合は高速駆動による高冷凍能力運転が可能な圧縮機が提供できる。
請求項12に記載の発明は請求項11に記載の圧縮機を備えた冷蔵庫である。圧縮機の駆動可能な負荷範囲と速度範囲の拡張にともない、例えば低負荷領域での効率アップをターゲットとして固定子巻線の巻数を増やした高効率低トルク設計のモータを用いた圧縮機でも、転流手段を第2転流手段に切換えることで高速高負荷での駆動も可能となる。
従って冷蔵庫の様に、1日の大半を占める安定した冷却状態では高効率な運転が求められる一方で、朝夕の家事時間帯や夏場等で扉開閉が多い場合、さらには霜取り後など庫内温度が上昇した時など速やかに冷却する為に一時的な高速高負荷駆動が求められる機器に対して、相反する要求を両立出する事ができる非常に合理的且つ有効な手段であり最適な用途である。
また、駆動し続けることにより、最低限の冷凍能力は得られることとなり、冷蔵庫内に保存された食品などを停止時よりも長く品質を維持することが可能となる。
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の冷蔵庫で、前記故障判定手段が前記電流検出手段での電流検出が不可能になった事を使用者に知らせる報知手段を備えたことにより、前記冷蔵庫の冷凍能力の低下を知ることとなるため、冷凍能力が低下したまま使用し続ける決定を使用者が判断することが可能となる。
以下本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図である。図1において従来の技術と同一構成要素については同一の符号を用い、説明を省略する。
図1において位置検出手段5は、ブラシレスDCモータ4の回転子の相対位置を検出するもので、インバータ3の出力端子電圧を検出する電圧検出部5aと、前記電圧検出部5aの出力波形から、ブラシレスDCモータの誘起電圧のゼロクロスポイントを検出する位置検出部5bとにより構成されている。位置検出手段5は、インバータ3の任意の相の上下両スイッチング素子(たとえばU相スイッチング素子3aおよび3b)がオフしている期間に、インバータ出力端子に現れる誘起電圧から、そのゼロクロスポイントを検出するようにしている。具体的には、コンパレータ回路等で構成した比較回路等によって、インバータ3の出力端子電圧とブラシレスDCモータ4の固定子3相巻線の中点電位あるいはインバータ3の入力直流電圧の2分の1とを比較して、その大小関係が反転するタイミングを検出している。
第1転流手段6はブラシレスDCモータ4をフィードバック制御によって転流タイミングを計るものであり、速度指令手段7はブラシレスDCモータの駆動速度をシステム状態に基づいた指示するものである。第1転流手段6では、前記位置検出手段5によって得た位置信号の発生周期からブラシレスDCモータの現在の駆動速度を検出し、検出した駆動速度と速度指令手段7によって指示される指令速度との偏差から、インバータ3に印加する電圧と印加するタイミングを計る。具体的には120度矩形波駆動の場合は、誘起電圧のゼロクロスポイント検出時点(即ち位置検出時点)から電気角30度経過したタイミングから電圧を印加すると、誘起電圧と端子電圧とが同相となり、モータの種類や特性あるいは負荷状態などから位置検出タイミングから任意に電圧の印加タイミングを調整することで最適なタイミングを得ることができる。また電圧値の調整は、PWM制御により容易に行える。指令速度に対して駆動速度が遅い場合は印加電圧を増加するようにPWMデューティを増加し、指令速度より早い場合はデューティを減少することで、ブラシレスDCモータに印加する電圧を調整する。これは結果的にブラシレスDCモータの速度制御となり、誘起電圧検出によるフィードバック制御を行っている。
電流検出手段8はブラシレスDCモータの相電流を検出するものであり、カレントトランス8aと電流値補正部8bとから構成し、本実施の形態ではインバータ3の出力とブラシレスDCモータ4の固定子巻線の間に設置している。モータ相電流の検出方法としては、インバータ3の下側スイッチング素子(3b、3d、3f)とインバータ入力N側(即ち整流平滑回路2のダイオード2c、2dのアノード側)との間に電流検出用シャント抵抗を取り付け、その抵抗に発生する電圧から検出する方法等でも構わないが、抵抗による損失が増加してしまため、本発明の実施の形態ではカレントトランス8aを用い、損失増加は殆ど無く、高効率なモータ駆動装置を実現できている。カレントトランス8aの出力の一端を基準としたとき、出力される電圧が負電圧となるため正電圧のみで処理できるよう電流値補正部8bによって、カレントトランス8aの出力の基準電位となる一端の電位にオフセットを持たせている。
電流位相検出手段9は電流検出手段8の出力をもとに、ブラシレスDCモータ4に流れる相電流の任意の位相を検出する。なお、本実施の形態では電流波形のゼロクロスポイントを検出するようにしている。
具体的なゼロクロスポイントの検出方法として本実地の形態では、ブラシレスDCモータ4が停止している際に、電流検出手段8から検出される電圧を電流のゼロクロスポイントの基準電位として記録し、ブラシレスDCモータ4の駆動時に電流検出手段8より入力される電圧が記録しておいた電圧より高い状態から低い状態に変化したとき、もしくは低い状態から高い状態に変化したときにゼロクロスポイントと判定を行う。また、対象とするシステムが要求する精度が低い場合は、ゼロクロスポイントの基準電位は電流値補正部8bで設定する値を予め設定することでも可能で、設計はより簡単になる。
また、ハードウェアによる特定位相の検出として、電流検出手段の出力をフォトカプラに入力してフォトカプラ出力信号の立ち上がりおよび立下りエッジをゼロクロスとして検出する方法や、フォトカプラ出力信号の立下りと立ち上がりの中間ポイントを電流が最大または最小ポイントとなる位相として検出することも容易に実現できる。
また、カレントトランス8aの選定においては、商用電源(50または60Hz)用の一般的なタイプを使用することで、さらに低コスト化が図れる。ただし、周波数特性については、相電流の最低周波数から最大周波数まで安定して特定位相が取得可能なタイプを選定する必要があることは当然である。
第2転流手段10は前記電流位相検出手段9により検出し、保護手段11を経て出力されたブラシレスDCモータ相電流の任意の位相としてゼロクロスポイントを基準に、速度指令に基づいた転流周期で所定のデューティで、インバータ3のスイッチング素子の転流タイミングを計るものである。
第2転流手段10の速度指令は、速度指令手段7により指示され、電流検出手段8の故障の有無を判定する故障判定手段12の出力の結果によって保護手段11が最終的に決定する。
また第2転流手段による駆動では、ハードウェアの定数バラツキや、ゼロクロス検出におけるノイズ除去フィルタ設置などで検出タイミングに一定のズレが発生する場合でも、本発明のモータ駆動装置はモータ電流の任意の基準位相が定まればよいため、回路バラツキ等に対する影響が非常に少ないモータ駆動装置を実現できている。
故障判定手段12は電流検出手段8の出力を用いて、電流検出手段8が故障していない
かどうかの判定を行い、判定結果は保護手段11へと出力される。本実施の形態における判定方法は、ブラシレスDCモータ4が停止している際の電流検出手段8の出力を基準とし、基準の出力に閾値として設定した値を足した第1電流閾値より高い状態もしくは、基準の出力に閾値として設定した値を引いた第2電流閾値より低い状態が一定時間継続することで故障であると判定を行う。これにより、電流検出手段8を構成するカレントトランス8aの断線やショートなどの故障を検出することができる。
保護手段11は、故障判定手段12の出力と速度指令手段7の出力を入力とし、故障判定手段12からの出力が正常であれば、速度指令手段7からの速度指令および電流位相検出手段9の検出値をそのまま第2転流手段10へと出力する。故障判定手段12からの入力が故障であれば、保護手段11は速度指令手段7の指令を、減少させた指令値を第2転流手段10への出力し、第2転流手段10での電流位相を基準とした転流タイミングの決定を禁止するために、電流位相検出手段9からの電流位相の情報を一定のタイミングとなるよう変更し、第2転流手段へと出力する。
また、第1転流手段6での駆動中には故障時には第2転流手段10に移行しないよう切換手段13へと信号を送り、故障未発生時には切換可能である信号を送る。
負荷判定手段14はブラシレスDCモータの負荷状態を判定するものであり、PWMデューティの状態を判定するデューティ判定部15と位置検出タイミングと第2転流手段によって生成した転流信号との位相関係を判定する位相差判定部16より構成している。
切換手段13は前記負荷判定手段14による負荷状態の判定結果および保護手段11の出力から、インバータ3の出力を、第1転流手段6により行うか第2転流手段10により行うかを切り替える。
ドライブ部17はインバータ3のスイッチング素子をオン・オフするものであり、スイッチング素子のオン・オフ状態の切換タイミングは、前記切換手段において選択した、第1転流手段6または第2転流手段10により生成した転流タイミングに基づく。
以上の様に構成されたモータ駆動装置について、その動作を説明する。
図2は本実施の形態における動作を示すフローチャートである。
図2においてまずstep1では位置検出手段5により検出したブラシレスDCモータの回転子相対位置に基づいて速度指令手段7で指示され、保護手段11によって最終的に決定された速度を目標としてPWMフィードバック制御で速度制御を行う。本制御は一般的な駆動方法であるため、詳細な説明は省略するが、位置検出フィードバック制御を行うためもっとも効率の良い駆動状態となるように転流タイミングを制御している。次にstep2で駆動速度が目標速度に到達したか否かを確認し、目標速度に到達している場合はstep1に戻る。目標速度に到達していない場合はstep3に進み、負荷判定手段14内のデューティ判定部15はPWMデューティが最大デューティ(一般的には100%)に到達したか否かを確認する。PWMデューティが100%未満である場合は、PWMデューティ制御による速度制御が可能であるためstep1に戻る。ここでPWMデューティ幅が最大に達している場合、これ以上ブラシレスDCモータへの供給電圧を上げることができない。即ち、第1転流手段6による駆動での限界負荷状態にある。
従ってこのとき切換手段13は第1転流手段を第2転流手段10に切換えるために、まず第2転流手段10を最大限に機能させるために必要な電流検出手段8が正常かどうかをstep4において判定し、正常であれば、step5でドライブ部17の信号源を第1
転流手段6から第2転流手段10に切換え、ブラシレスDCモータを駆動する。電流検出手段8が以上であればstep4からstep1へと再びもどり、第1転流手段6を継続して駆動を行う。
ここで第2転流手段10による駆動について説明する。
図3は従来のモータ駆動装置でブラシレスDCモータを同期駆動回路でオープンループ駆動した場合の、相電流と端子電圧の位相関係を示したものである。
図3において、横軸は時間、縦軸は誘起電圧位相を基準とした位相(即ち誘起電圧との位相差)を示し、(イ)は相電流を、(ロ)は端子電圧、(ハ)は相電流と端子電圧との位相差である。また図3(a)は比較的低負荷で安定した運転状態を示し、(b)は従来のモータ駆動装置における駆動限界での状態を示している。また、(a)(b)共に端子電圧位相より電流位相が進んでいることから、ブラシレスDCモータが非常に高速で駆動しており誘起電圧が高い状態にあることが分かる。
図3(a)に示すように、同期駆動で安定した駆動状態にあるときは、転流に対して負荷の状態に見合った角度分回転子が遅れ、即ち回転子(誘起電圧)から見ると転流(即ち電圧および電流位相)が進み位相となり所定の関係が保たれる。これは弱め磁束制御と同様の状態であるため高速での駆動が可能となる。
一方、(b)に示すように駆動速度に対して負荷が大きい状態では、(a)と同様に「転流に対して回転子が遅れることで弱め磁束状態になり、転流周期に同期するようになり回転子は加速するが、回転子の加速により電流位相の進み角が減少し回転子が減速する、回転子の減速により転流に対して回転子が遅れることで弱め磁束状態になり、回転子が加速する・・・」を繰り返し、結局駆動状態(駆動速度)が安定しない。即ち(b)に示す様に、一定周期で行われる転流に対して、ブラシレスDCモータの回転が変動するため、誘起電圧位相を基準としたとき、端子電圧位相が変動することになり、駆動状態が不安定となる。これはオープンループ駆動ゆえに、モータ回転子が同期を外れたとき、その位置を把握できず、誘起電圧に対して端子電圧の位相(即ち転流タイミング)を固定出来ない為である。従って、同期駆動状態において、常に誘起電圧と端子電圧の位相関係を固定することで安定した駆動性能が得ることが出来る。
図4はブラシレスDCモータを同期駆動した時の負荷に対する位相状態を示したグラフである。図4において横軸はモータトルク、縦軸は誘起電圧位相を基準とした位相差を示し、位相が正の場合、誘起電圧位相に対して進みであることを示す。また図4の(イ)はモータ電流、(ロ)はモータ端子電圧の位相であり同期運転での安定状態を示している。電流位相が端子電圧位相より進んでいることから、誘起電圧が高い高速での駆動であることが判る。図4に示す相電流位相と相電圧位相との関係から明確なように、負荷トルクに対して電流位相の変化は非常に少ない。一方で端子電圧位相は直線的に変化することから、負荷トルクに応じて電流と電圧との位相差はほぼ線形に変化する。ここで先述したように、同期駆動で安定駆動している状態では図3(a)のように誘起電圧、モータ電流、端子電圧の位相が一定の関係を保ち安定している。即ちモータ電流位相と端子電圧位相とが負荷に応じて適切な位相関係でバランスしている。従って、モータ電流位相と電圧位相を負荷に応じて適切な位相関係を常に保持し固定することで従来のモータ駆動装置で発生する、高速高負荷駆動での不安定現象を回避でき、さらなる駆動領域の拡張が出来るといえる。
ここで負荷状態に応じたモータ電流位相と端子電圧位相の位相差安定方法について説明する。図5は本実施の形態における第2転流手段による転流タイミングを示したタイミン
グチャートである。図5において(イ)はU相電流の基準位相(本実施の形態ではU相電流が負から正極性に変化するゼロクロスポイントとしている)タイミングを示し、(ロ)(ハ)(ニ)はそれぞれU相、V相、W相の上側スイッチング素子状態を示している。なお本タイミングチャートでは120度の矩形波通電としている。図5中のTfrqは転流周期であり、第2転流手段による同期駆動では速度指令手段7により指示され、保護手段11によって最終的に決定される指令速度に基づき、一定の周期で転流を繰り返している。
T0からTn+1はモータ相電流の基準位相(本実施の形態ではU相ゼロクロスポイント)から任意の相が転流(本実施の形態ではU相上側スイッチング素子がオン)するまでの経過時間であり、第2転流手段10は常にこの時間を計測している。
TW0からTWn+1はモータ相電流基準位相検出後から任意の相を転流(本実施の形態ではW相下側スイッチング素子3fをオンする)するタイミングである。
ここでこの転流タイミングの決定方法を図6を用いて説明する。図6は本実施の形態におけるモータ駆動装置の第2転流手段10の転流タイミングの決定方法を示したフローチャートである。
まずstep11で電流基準位相から任意の相の転流(本実施の形態では、U相上がオン)までの時間Tnを取得する。step12では取得した時間Tnと過去n個のデータ(T0からTn−1まで)の平均時間Tavとを比較して差分を算出する。step13では演算した差分に基づいて転流タイミングの補正量を算出する。補正量の算出は例えば差分の2分の1とするなど、モータ特性や負荷特性等により最適な補正式等を用いて決定する。step14ではstep13で算出した補正量を基に、同期駆動における転流周期に補正量を付加して任意の相の転流周期(本実施の形態ではW相上側スイッチング素子3fの通電時間TWn+1)を決定し、step15では今回取得したデータTnを加味して相電流基準位相から任意相の転流周期までの平均時間Tavを更新する。
以上の様に転流タイミングの補正量を決めるため、負荷等が安定しブラシレスDCモータの駆動も安定状態にあるときは、取得データTnと過去n回の平均時間Tavとの差分が非常に小さく、転流タイミングの補正量も非常に小さい値となり殆ど補正されず位相関係は安定することになる。
一方で安定駆動の状態で負荷が増加した場合、前述のように転流周期に対し回転子の回転が遅れ、相電流位相と端子電圧位相との位相差が縮まり、図5における時間Tnが短くなる。従ってTavに対しTnが小さくなりTavとTnとの差分が増える。このとき転流周期を回転子の回転を近づける(即ち、相電流位相と端子電圧位相を常に一定に保つように)、本実施の形態ではW相の転流周期を遅らせる方向にTavとTnとの差分に基づく補正量を付加する。尚、このとき他の相の転流は補正を行わず、指令速度に基づく転流を繰り返す。これは相電流基準位相から特定相の転流までの時間(以降代表の時間としてTmとして説明する)を平均時間Tavに近づけるように動作することになる。
従って負荷が増大して、回転子が転流に対し遅れ始めることで相電流位相と端子電圧との位相差が少なくなり、Tmが短くなる。これにより転流タイミングの補正量の基準となるTavも徐々に短くなることで、TmとTavがバランスし負荷状態に応じた相電流位相と端子電圧位相の関係を保ち、適切な電流および電圧進角を得ることで駆動状態が安定する。
なお負荷が軽減された場合は、TavとTnとの差分が負荷増加時と逆符号で増えるこ
とになり、転流タイミングの補正も逆符号の方向で行うことになるが、負荷増加時の動作と同様である。
このように負荷状態に応じて、モータ相電流と端子電圧の位相関係を保持するように転流タイミングを補正することで、モータ誘起電圧(即ちモータ回転)位相と相電流位相、端子電圧位相を適切な関係で保つことができ、結果としてブラシレスDCモータの高速高負荷駆動の安定性を向上でき、高負荷高速駆動性能を拡張することが可能となった。
以上の様にPWMデューティが100%以下となるような比較的低速低負荷状態でブラシレスDCモータを駆動する際は、第1転流手段6で、回転子相対位置に基づく速度制御をPWMフィードバック制御で行うことで高効率駆動を実現し、比較的高速・高負荷によりPWMデューティが100%となり第1転流手段では目標速度で駆動出来ない負荷状態では、第2転流手段による相電流・端子電圧位相を負荷状態に合わせた位相関係を保持する駆動制御で高トルク駆動を実現し、従来のモータ駆動装置よりさらに駆動領域の拡張し、外乱等に影響を受けにくい安定した高速高負荷駆動性能を実現している。
また、モータ相電流の位相検出は1相のみで行っているが、2相あるいは3相全ての位相情報を取得して転流タイミング補正を行えば、より感度の良い補正制御も可能である。しかし、本実施の形態では1相のみで行うことで、モータ駆動装置のコストパフォーマンスを向上している。 次に負荷判定手段14の位相差判定部16の動作について説明する。
第2転流手段での駆動は、ブラシレスDCモータの負荷状態によらず、PWMデューティ一定の同期駆動を行う。従って高負荷状態下で第2波形発生部により駆動している状態から負荷状態が低下し、第1転流部での駆動が可能な負荷状態となったとき、過剰な電圧の印加によってブラシレスDCモータの回転子が目標回転数より高速で駆動しようとする。この状態でも同期駆動は、常に目標速度に基づく一定速度で転流を行うため、速度を押さえ込みながらの、いわばブレーキをかけながらの駆動となる。この時、ブラシレスDCモータの電流は大きくなる一方で、モータトルクは極端に低下してしまう。
この様な状態を回避するために、本発明の実施の形態では第2転流部による駆動時において、負荷状態を確認することで第1転流手段での駆動が可能な負荷状態となったとき、速やかに第1転流部での駆動に移行するようにしている。
図7はブラシレスDCモータ駆動時の位置検出手段5の電圧検出部5aの出力信号タイミング図である。図7の(イ)はU相端子電圧波形、(ロ)は位置検出手段5の電圧検出部5aの出力信号、(ハ)はU相上ドライブ信号である。なお図7はU相の各信号を示しているが、V相、W相であっても±120度の位相ズレはあるものの同様の波形であることは言うまでもない。
先述したように、第2転流手段による同期駆動では駆動状態に応じた電流および電圧進角で安定する。従って図7(イ)に示す端子電圧に現れる誘起電圧のゼロクロスポイントの位置が進角状態(即ち駆動状態)により、ドライブ信号の位相に対し変化する。またこれにより位置検出部の出力信号(ロ)の位相も変化することになる。
具体的には図7(ロ)に示すように電圧進角が大きくなれば、電圧検出部5aの出力信号は右方向にシフトしドライブ信号との位相差が大きくなり、120度通電の場合進角30度以上となったとき最大位相差30度一定となる。また進角が小さくなれば、電圧検出部は左方向にシフトしドライブ信号との位相差が小さくなり、位相差がゼロとなった後もさらに負荷が低下したとき、誘起電圧に対して遅れ位相となり、最終的に30度の遅れ位
相となる。
つまり誘起電圧に対してドライブ信号の位相差が−30℃から+30℃までの範囲では誘起電圧のゼロクロスを検出が可能(ただしスパイク電圧が発生している場合は、スパイク電圧を差し引いた区間内となる)であり、また位相差が+30度以下であれば第1転流手段での駆動が可能な負荷状態である。従って、位置検出手段の電圧検出部の信号とドライブ信号との位相差負荷状態を判断することで、第1転流手段による駆動が可能か動かを判断でき、的確に第1転流手段による駆動に移行することが可能となる。
本実施の形態では、上記電圧検出部の信号とドライブ信号との位相差の検出は、電圧検出部の信号およびドライブ信号が変化するタイミング(図7においては電圧検出部の出力がLからHに変化するタイミングとU相上側ドライブ信号がH(オン)となるタイミング)差を用いている。
図7のφはドライブ信号のオンタイミングと電圧検出部5aの出力信号の立ち上がりエッジとの時間差を示しており、これは両信号の位相差情報が含まれている。例えば120度通電の場合、電圧検出部5a出力の立ち上がりエッジから転流までが20度であれば位相差は10度となる。
負荷が大きく、第1波形発生部での駆動が出来ない場合は、ドライブ信号(即ち転流タイミング)に対して、ブラシレスDCモータの回転が遅れ(誘起電圧位相を基準とすると、端子電圧が誘起電圧に対し進み位相となり、弱め磁束状態となる)、電圧検出部5a立ち上がりと、ドライブ信号の立ち上がりエッジが近づく(即ちφが0に近づき、で電圧検出部の出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差が大きくなる)。
さらに負荷が増大し、120度通電の場合では、誘起電圧に対し30度以上の進角を有すると、誘起電圧のゼロクロスが端子電圧に埋もれてしまい、ドライブ信号の立上がりエッジと電圧検出部5aの立ち上がりエッジは同時(即ちφ=0となり、電圧検出部の出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差は30度で一定)となる。この様な負荷状態では誘起電圧のゼロクロスを検出しながらの第1転流手段による駆動は当然出来ないため、第1転流手段での駆動限界を超えた負荷状態であり、第2転流手段による駆動を行う。
次に負荷が大きく第2転流手段による駆動を行っているとき、負荷が低下してきた場合について説明する。
先述のように第1転流手段6で駆動できない高負荷状態での第2転流手段10による駆動では、120度通電では30度以上の進角状態となっている。ここで負荷が軽減したとき、進角も減少し、進角状態が30度未満になったときブラシレスDCモータの誘起電圧ゼロクロスポイントが端子電圧に現れ、第1転流手段6での駆動が可能な負荷状態となる。図7で説明すると、位置検出手段5の電圧検出部5a出力は誘起電圧ゼロクロスを境に出力が反転する。その反転タイミングは、U相上ドライブ信号のオンタイミングとタイミング差が発生(φ≠0)し、軽負荷ほど進角が小さくなるのでφは大きくなる(即ち電圧検出部出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差が0に近づく)。
つまり電圧検出部5a出力の変化タイミングと転流タイミングとのタイミング差から、電圧検出部出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差を監視でき、第1転流手段で駆動可能な負荷状態か否かを検出することが容易に出来る。本実施の形態では、電圧検出部5aの出力変化タイミングと転流タイミングとの差φが所定の差φmaxより大きくなったとき、第2転流手段10による駆動から第1転流手段6での駆動に移行するように
している。尚、φmaxの値は第1転流手段6での駆動において設定している進角値等、任意に設定した値で構わない。
以上に説明した第2転流手段による駆動から第1転流手段に移行する方法について図2および図7を用いて説明する。
step5において第2転流手段による駆動を行っている際、step6で位置検出手段5の電圧検出部5aの出力変化タイミング(図7ではU相についての位置検出手段の電圧検出部出力が立ち上がるタイミング)と転流タイミング(図7ではU相上のオンタイミング)との差φがφmaxより大きいか小さいかを監視している。このときφがφmaxより小さい場合は、負荷が大きいとして第2転流手段による駆動を続けるためにstep5に戻る。
一方、φがφmaxより大きくなったとき、第1転流手段による駆動が可能な負荷状態であると判断し、step1に戻り、位置検出(誘起電圧ゼロクロス検出)フィードバック制御に基づく第1転流手段での駆動を行う。
これにより第2転流手段での駆動時に負荷が減少したとき、第1転流手段での駆動が可能な負荷状態になった場合は、このタイミングを的確に検出して、第1転流手段で駆動を行い、ブラシレスDCモータの回転子相対位置を検出しながらのPWMフィードバック制御で高効率な駆動に切換える。
なお第1転流手段と第2転流手段との双方向への切替において、ハンチングを防止するために、移行タイミングの設定にはヒステリシス等を設けることが望ましい。
次に、電流検出手段8の故障に対する処理の説明を行う。
まず、故障判定手段12について図8を用いて説明を行う。図8は本発明の第1の実施の形態における故障判定手段12の動作の流れを示すフロー図である。
ここで、第1電流閾値はブラシレスDCモータ4が停止中に電流検出手段8が出力すると回路上想定される値より大きく最大値より小さい値を設定し、第2電流閾値はブラシレスDCモータ4が停止中に電流検出手段8が出力すると回路上想定される値より小さく最小値より大きい値を設定する。
また、第1タイマ、第2タイマは常時動作しており、タイマの値をクリアしても動作は停止しない。第1タイマ、第2タイマの時間と比較する所定時間は予め設定を行い、システムの最低速度のモータ1回転の周期よりも長い時間を設定する。これにより、動作中であれば少なくとも一回は交流であるモータ電流が第1閾値を下回り、第2電流閾値を上回ることとなるため、継続時間の超過によって故障と判断することができる。
また、電源投入後一度だけ故障状態の初期化を行い、故障なしに設定を行う。
まず、STEP201において、電流検出手段8が取得した電流値を故障判定手段12が取得し、STEP202に移行する。
STEP202では、STEP201で取得した電流検出値が第1電流閾値よりも高い場合に、STEP203に移行し、STEP201で取得した電流検出値が第1電流閾値いかの場合はSTEP206に移行する。ここでは電流検出値が第1電流閾値を超えたとしてSTEP203に移行するものとする。
STEP203では、電流検出値が第1電流閾値を超えているため、第1電流閾値よりも低い値で設定された第2電流閾値以下となっている継続時間を示す第2タイマの値をクリアし、STEP204に移行する。
STEP204では、第1電流閾値より電流検出値が大きい状態が継続した時間を示す第1タイマが予め故障と判断するとして設定した継続時間を越えていないか判定を行い、判定結果が超えていた場合はSTEP205へ移行し、超えていない場合は処理を終了する。ここでは、第1タイマが予め設定した継続時間を越えているとしてSTEP205へ移行する。
次に、STEP205では電流検出手段8が取得した電流検出値が第1電流閾値を超える状態が所定時間だけ継続したため故障と判断し、出力状態を故障に変更し、処理を終了する。
一方、STEP202において電流検出手段8の電流検出値が第1電流閾値以下であるとすると、前記の通り、処理はSTEP206へと移行する。
STEP206では、電流検出値が第1電流閾値以下であるため、第1電流閾値以上の検出値が継続した時間を示す第1タイマをクリアし、STEP207へと処理が移行する。
STEP207では、電流検出値が第2電流閾値よりも低いか判定を行い、低い場合にSTEP208に移行し、高い場合にはSTEP209に移行する。ここでは、電流検出値が第2電流閾値よりも低いとして、STEP208に移行する。
STEP208では、第2電流閾値より電流検出値が小さい状態が継続した時間を示す第2タイマが予め故障と判断するとして設定した継続時間を越えていないか判定を行い、判定結果が超えていた場合はSTEP210へ移行し、超えていない場合は処理を終了する。
次に、STEP210では電流検出手段8が取得した電流検出値が第2電流閾値を下回る状態が所定時間だけ継続したため故障と判断し、出力状態を故障に変更し、処理を終了する。
一方、STEP207において、電流検出手段8の電流検出値が第2電流閾値よりも大きいとすると、STEP209に移行する。
STEP209では、第2閾値以上であるため、第2電流閾値より小さい値が継続した時間を表す第2タイマの値をクリアし、処理を終了する。
以上の処理を速度の半分以下の周期で定期的に実行することで電流検出手段8が正常であれば、第1タイマ、第2タイマともにクリアされ続け、所定の継続時間に到達することは無く、故障時のみ継続時間を超過することとなり、電流検出手段8の故障状態を故障判断手段Aにおいて検出することが可能となる。
次に、保護手段11の動作について図9を用いて説明を行う。図9は本発明の第1の実施の形態における保護手段11の動作の流れを示すフロー図である。
まず、STEP301において、故障判定手段12からの出力を取得し、取得内容が故
障であればSTEP302へ移行し、正常であればSTEP306へと移行する。ここでは、故障判定手段12の出力が故障であったとして、STEP302へ移行する。
次に、STEP302では、切換手段16へと出力する信号を第2転流手段10での運転を禁止に設定し、続くSTEP303では第2転流手段10へと出力するための速度指令を前回速度より減少させた値を出力し、続くSTEP304において電流位相検出手段9から出力された位相情報を無視し、前回の位相情報を出力する。
そして、STEP305において、次回参照用に今回出力した各種状態を保存する。
一方、STEP301において、故障判定手段12からの出力状態が異常であったとするとSTEP306に移行する。
STEP306では、速度指令手段7から出力される速度指令をそのまま第2転流手段10へと出力し、STEP307では、電流位相検出手段9から出力される位相情報をそのまま第2転流手段へと出力する。
そして、STEP305へと移行し、今回の出力情報を次回参照用に保存する。
以上のように、電流検出手段8が故障時には第2転流手段10の速度を継続的に下げることで第1転流手段6で駆動を行い、図2のstep4に示すように第1転流手段6からは第2転流手段10へと駆動方法が切換わらないため、センサーの故障時であってもシステムとして最低限の機能を得ることができる。また、第2転流手段10での駆動時も負荷を軽減し、不安定状態に陥らないような速度で第1転流手段6へと移行できる。
また、上記保護動作に加えて、位置検出手段5が故障時には第2転流手段の信号源へと切換え、第1運転手段6では動作しない最低限の速度で駆動を行い、位置検出手段5が故障かつ電流検出手段8が故障時には、同期駆動で安定動作する速度で駆動させることで、位置検出手段5および電流検出手段8それぞれの故障に対して最低限の機能を維持することができることとなり、更に信頼性を高めることができる。
次に、ブラシレスDCモータ4の構造について説明を行う。
図10は、本発明の実施の形態1によるブラシレスDCモータの回転子の構造図である。
回転子コア4aは、0.35mmから0.5mm程度の薄い珪素鋼板を打ち抜いたものを、積み重ねたものである。4枚のマグネット4b〜4eは、逆円弧状に回転子コア4aに埋め込まれている。このマグネットは通常フェライト系がよく用いられるが、ネオジムなどの希土類の磁石が使われる場合は平板構造のものが使われることもある。
このような構造の回転子において、回転子中央からマグネットの中央に向かう軸をd軸、回転子中央からマグネットの間に向かう軸をq軸とすると、それぞれの軸方向のインダクタンスLd、Lqは逆突極性を有し、異なるものとなる。つまりこれは、モータとしては、マグネットの磁束によるトルク(マグネットトルク)以外に、逆突極性を利用したトルク(リラクタンストルク)を有効に使えることとなる。したがってモータとして、よりトルクが有効的に利用できるになる。この結果、モータとしては高効率なモータとなる。
また、本実施の形態の制御を使用すると、第2転流手段10による駆動を行っているとき、電流は進み位相で運転するので、このリラクタンストルクが大きく利用されるようになるので、逆突極性がないモータに比べてより高回転数まで運転することができる。
ブラシレスDCモータ4が、回転子4aの鉄心に永久磁石4b〜4eを埋め込んでなる回転子であり、かつ逆突極性を有するものであり、永久磁石のマグネットトルクの他にリラクタンストルクを使うことにより、低速時の効率アップは当然のこと、高速駆動性能をさらに上げることになる。
また永久磁石にネオジムなどの希土類磁石を採用してマグネットトルクの割合を多くしたり、インダクタンスLd、Lqの差を大きくしてリラクタンストルクの割合を多くしたりすると、最適な通電角を変えることにより効率を上げることができる。
またブラシレスDCモータを低速での低負荷から高速での高負荷まで非常に広い範囲で使用することを要求される用途においては、例えば駆動における大半を占める負荷が低負荷から中負荷であれば、最も使用頻度の高い速度および負荷近辺でデューティ100%で第1転流手段による駆動が出来るトルク設計のブラシレスDCモータを用いれば、さらなる高効率化が可能となる。
以上のように、本実施の形態においては永久磁石を有する回転子4aと三相巻線を有する固定子からなるブラシレスDCモータ4と、三相巻線に電力を供給するインバータ3を有し、ブラシレスDCモータ4の巻線に流れる電流を検出し、ブラシレスDCモータ4の巻線に流れる電流の位相と、電圧位相とが所定の位相関係を保持するように、ブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換えることで、ブラシレスDCモータ4を駆動し、ブラシレスDCモータ4に流れる電流を検出することが不可能になった場合に、ブラシレスDCモータ4の出力を制限するとしたことにより、ブラシレスDCモータの回転子4aの位置を検出しない駆動でも、常にモータ電流位相と電圧位相との関係が安定するため、ブラシレスDCモータ4の駆動領域を拡張することが出来る。
また、電流位相検出が不可能なときに負荷の軽い状態で運転することとなるため、フェイルセーフ手段を備えた信頼性の高いシステムを構築することができる。
また、電流位相の検出は2相分または1相分としたことにより、通常、モータ電流から回転子位置の推定をおこなうフィードバック制御では3相の各電流を分離するため最低2相の電流を検出する必要があるが、特定の相の基準位相を検出するための1相分のみで制御が可能であり、モータ駆動装置の小型化と低コスト化が図れる。
また、ブラシレスDCモータ4の巻線に流れる電流の位相は、電流のゼロクロスポイントを検出するようにしたことにより、電流位相を非常に簡単な方法で確実に検出できることとなり、モータ駆動装置の簡素化と、簡素化にともなう低コスト化と信頼性の向上を図ることが出来る。
また、永久磁石を有する回転子4aと3相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータ4と、直流電圧を交流電圧に変換しブラシレスDCモータ4に電力を供給するインバータ3と、ブラシレスDCモータ4の固定子に対する回転子4aの相対位置を検出する位置検出部5bを備える位置検出手段5と、位置検出手段5の信号をもとにブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換える信号を生成する第1転流手段6と、ブラシレスDCモータ4の巻線に流れる電流を検出する電流検出手段8と、電流検出手段8により検出した電流の位相を検出する電流位相検出手段9と、電流位相検出手段9で検出した電流位相を基に、ブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換える信号を生成する第2転流手段10と、ブラシレスDCモータ4の負荷の状態を判定する負荷判定手段14と、前記負荷判定手段14によりインバータ3のドライブ信号源を第1転流手段6もしくは第2転流手段10のいずれかに切り換える切換手段13と、電流検出手段8の故障かどうかを判定
する故障判定手段12と、故障判定手段12が電流検出手段12が故障であると判断した場合にブラシレスDCモータ4の出力を制限する保護手段11を有したことにより、ブラシレスDCモータ4の負荷状態に応じて転流手段を切換えることとなり、負荷が大きく高負荷・高速回転での駆動が必要な場合は高トルク運転、負荷が小さい場合は高効率運転による省エネ駆動が可能となる。さらにブラシレスDCモータ4の固定子巻線に流れる電流の位相を基準としてブラシレスDCモータ4に印加する電圧の位相を決めるので、ブラシレスDCモータ4の電流位相と電圧位相との関係が安定し、第2転流手段10による駆動安定性が向上することで、ブラシレスDCモータ4の駆動可能な負荷領域および速度領域を大幅に拡張することができる。また、電流検出手段8が故障した場合にブラシレスDCモータ4の出力が軽く安定するように駆動させることとなり、電流検出手段8が故障しても動作することが可能な信頼性の高い駆動システムとなる。
また、故障判定手段12は電流検出手段8の出力が第1電流閾値以上もしくは第2電流閾値以下が所定時間以上継続した場合に故障と判断するとしたことにより、単純な構成と手段で保護動作を行うことができることとなり、安価な信頼性の高いモータ駆動装置をを提供できる。
また、電流検出手段8はブラシレスDCモータ4の少なくとも1相の電流を検出するカレントトランス8aと、カレントトランス8aの出力値を補正し正電圧を出力する電流値補正部8bで構成することにより、回路損失の少ないカレントトランス8aで安定制御が可能であるため、電流検出手段8による回路損失を極力低減できる高効率なモータ駆動装置を提供できる。
また、保護手段11のブラシレスDCモータ4の出力を制限するとは、電流位相検出手段8の出力を固定し、ブラシレスDCモータ4の駆動速度を低下させるとしたことにより、電流位相が検出できない場合に第2転流手段10を信号源とした駆動で不安定となる状態に陥らない状態で駆動することとなり、フェイルセーフの機能を持った信頼性の高いブラシレスDCモータの駆動装置を提供することができる。
また、保護手段11のブラシレスDCモータ4の出力を制限を、第1転流手段6のみを信号源として駆動するとしたことにより、不安定駆動の可能性がある第2転流手段10を信号源とした駆動を行わないこととなり、最低限のシステム機能を維持することが可能となる。
また、ブラシレスDCモータ4は、回転子4aの鉄心に永久磁石を埋め込んでなる回転子であり、かつ突極性を有する回転子を有したものである。これによりブラシレスDCモータの駆動において、永久磁石によるマグネットトルクとともに、突極性によるリラクタンストルクも有効に利用できるようになるため、低速時の高効率駆動とともに、高効率の高速駆動性能も更に伸張することが可能となる。
(実施の形態2)
図11は本発明の実施の形態2のモータ駆動装置を用いた冷蔵庫を示すブロック図である。図11において図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
ブラシレスDCモータ4は圧縮要素17に接続され圧縮機18を形成している。本実施の形態では圧縮機は冷凍サイクルに用い、圧縮機18から吐出する高温高圧の冷媒を凝縮器19に送り液化し、毛細管20で低圧化し、蒸発器21で蒸発させ、再度圧縮機18に戻すようにしている。さらに本実施の形態では、モータ駆動装置22を用いた冷凍サイクルを冷蔵庫23に用いており、蒸発器21は冷蔵庫23の庫内24を冷却するようにしている。そして、冷蔵庫23は報知手段25を備えている。
報知手段25は、電流検出手段8の故障状態を保護手段11からの出力により把握し、保護手段11の出力が異常であれば、使用者が異常であること認識できるよう報知する。
本実施の形態2では、報知手段25が表示部25aを備え、表示部に異常発生を表示することにより使用者に報知する。また、このほかにも音を鳴らすことで報知するなどしても良く、表示と音とを組み合わせると更に認識性が向上する。
このように本実施の形態2ではブラシレスDCモータ4は冷凍空調サイクルの圧縮機18の圧縮機構部を駆動するものとしている。たとえば特に往復運動式(レシプロタイプ)の圧縮機はその構成上、ブラシレスDCモータに質量の大きな金属製のクランクシャフトおよびピストンが接続されており、非常にイナーシャの大きい負荷である。このため短時間における速度の変動は、高速駆動ほど圧縮機の工程(吸入工程、圧縮工程など)によらず非常に少ない。従って、任意の1相のみの電流位相を元にして転流タイミングを決定しても速度変動が大きくなることもなく安定した駆動性能を得ることが出来る。さらに圧縮機の制御では高精度な回転数制御や加減速制御などは要求されないことから、本発明のモータ駆動装置は、圧縮機の駆動に対し非常に有効な用途のひとつと言える。
また、従来のモータ駆動装置で圧縮機を駆動する時よりも、駆動領域を拡張することが出来るため、より高速駆動することで冷凍サイクルの冷凍能力を上げることが出来る。これにより従来と同一の冷却システムであっても、より高い冷凍能力が必要なシステムに適用することが可能となる。即ち、高い冷凍能力が必要な冷凍サイクルを小型化でき、低コストで提供することができる。
また、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルから、冷凍能力が1ランク小さい(たとえば圧縮機気筒容積が小さい)圧縮機を用いても、本発明の実施の形態のモータ駆動装置を用いる圧縮機を高速回転することで、必要な冷凍能力を確保することが可能となり、さらに冷却サイクルの小型化・低コスト化が実現出来る。
本実施の形態では圧縮機18は冷蔵庫23の庫内を冷却するために用いているために、冷蔵庫23はその製品の特徴上、朝夕の限られた時間帯のみ扉開閉頻度が高く、その他の時間帯は庫内が冷却安定状態で、非常に低負荷状態でブラシレスDCモータ4は駆動している。従って冷蔵庫の消費電力の削減はブラシレスDCモータ4の低速低出力時の駆動での効率向上が有効である。本発明ではブラシレスDCモータ4の高速高負荷効率を大きく拡張できるため、固定子の巻線数を増やして高効率化のためモータトルク(高速回転性能)を犠牲にしたブラシレスDCモータ4を使用した圧縮機18の高負荷・高速駆動性能を向上して冷蔵庫に必要な最大冷凍能力を確保している。これにより1日の大半を占める低負荷領域での高効率化による消費電力を更に削減できる。
なお、具体的なモータ巻線の設計として、冷蔵庫23として一番使用頻度の高い回転数および負荷状態(たとえば40Hzの回転数で圧縮機入力電力が80W程度)での駆動を行う時、第1転流手段6によって、120度から150度の通電角でデューティ100%となるような仕様とすれば、ブラシレスDCモータ4の鉄損の低減とインバータ3のスイッチング損失の低減できるので、回路効率も最高効率を引き出すことができる。従って、冷蔵庫23としての消費電力を最小限にすることが可能である。
また本発明のモータ駆動装置で圧縮機の高速高負荷駆動領域を拡張できるので、冷凍サイクルの冷凍能力を上げることとなり、冷蔵庫23の扉開閉が頻繁に行われた場合や霜取り後、或いは設置直後といった庫内温度が高い高負荷の状態、さらには熱い食品を庫内に投入し、その食品を急速に冷却(凍結)させたい場合などに行う『急速冷凍』などにおい
て、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルの冷蔵庫より、庫内や食品を短時間で冷却することも出来る。
さらに冷凍サイクルの冷凍能力向上は、コンパクトな冷凍サイクルでも冷蔵庫23の大容量化に対応できることとなり、冷蔵庫23の低コスト化の実現と、コンパクトな冷凍サイクル採用に伴い庫内容積効率(冷蔵庫体積に対する食品収納部容積の占める割合)も向上することができる。
また、冷蔵庫23に報知手段25を設けたことにより、システムの異常を使用者が認識することが可能となり、システムが最低限の機能で運転していることに対して使用者任意の対策を講じることが可能となる。