ところでInAlGaNのように構成される元素数の多い(4元の)材質からなる薄膜を、たとえばエピタキシャル成長により形成する場合には、たとえばトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)などの複数種類の原料ガスを、窒素ガスなどのキャリアガスに乗せて(窒素ガスなどのキャリアガスと一緒に)流通させる。このようにして、これら複数の原料ガスを同時に所望の処理対象物であるたとえば基板上に供給する必要がある。このとき当該所望の場所へ複数種類の原料ガスを流通すれば、成膜のための加熱により、原料ガス同士が本来予定していた基板上での成膜につながらない気相反応を起こすことがある。気相反応を起こすことにより、本来存在すべきTMG、TMAなどの原料ガスは、その絶対量が減少する。つまり当該気相反応は、本来起こらないことがより好ましい副反応(寄生反応)である。
したがって複数の原料ガスは、特に薄膜が形成されるために加熱される領域においては、その上流側に比べて下流側において存在する絶対量が減少する。このためたとえば基板の主表面に沿った方向に上記原料ガスが流通して基板の主表面上に到達する場合、基板の主表面上においても、原料ガスの流通方向における上流側と下流側とでは原料ガスの供給量が異なることになる。なおここで主表面とは、表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。
つまり同一基板の主表面上においても、原料ガスの上流側においては副反応が起こっていない原料ガスの割合が多い。このため原料ガスの上流側においては成膜速度が速くなる。これに対して同一基板の主表面上においても、原料ガスの下流側へ行くにつれて、未反応の原料ガスの割合が少なくなるために成膜速度が遅くなる。したがって同一基板の主表面上において、成膜速度に差が発生し、その結果、当該基板の主表面上に形成される薄膜の膜厚が不均一となる可能性がある。この傾向は特に、原料ガスの流路が長い、あるいは基板を載置するサセプタの主表面の面積が大きい、大型の成膜装置を用いた場合に顕著になる。
基板の主表面上に形成される薄膜の膜厚が不均一となれば、当該薄膜が積層された積層構造を用いて形成された発光素子は、その発光特性が劣化することがある。具体的には、たとえば発光素子を構成する積層構造のうち、光を発生させる活性層において発生した光を、当該活性層の内部に閉じ込める機能が不均一なものとなる可能性がある。このようになれば、当該発光素子が発光する光の出力が不安定になることがある。したがって、形成する発光素子の光の出力特性を良好なものにするためには、基板の主表面上に形成される薄膜の膜厚をほぼ均一にする必要がある。
特許文献1には、波長が360nm以下の紫外線を高効率に発光する発光素子を提供するために、当該発光素子を構成するInAlGaNなどの薄膜中に含まれるInやAl、Gaの組成比を制御することにより形成された紫外発光素子が開示されている。特許文献1には、上述した組成比を制御するために必要な、各原料ガスの流量について開示されているが、当該原料ガス同士が反応する副反応の影響については考慮されていない。
また特許文献2には、成膜に用いる元素間での反応により、形成される薄膜の結晶性が劣化する可能性については示唆されている。しかし特許文献2においても、当該成膜に用いる元素間での反応が、薄膜の成膜速度や、形成される薄膜の膜厚分布の均一性に与える影響については開示も示唆もされていない。つまり特許文献2には、形成される薄膜の成膜速度や膜厚分布を制御する方法については開示も示唆もされていない。
本発明は、以上の問題点に鑑みなされたものである。その目的は、成膜に用いる原料ガス同士の気相反応を抑制し、基板の主表面上において均一な成膜速度で均一な膜厚の薄膜(エピタキシャル膜)を形成するためのエピタキシャル基板の製造方法を提供することである。また当該エピタキシャル基板の製造方法を用いて形成したエピタキシャル基板を提供することである。
本発明の一の局面に係るエピタキシャル基板の製造方法は、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する、エピタキシャル基板の製造方法である。当該製造方法には、基板を準備する工程と、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程とを備えている。上記InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程においては、基板に近いほうから順に配置された、窒素ガスとV族元素ガスとが混合された第1の混合ガスを流す第1ガスラインと、窒素ガスとIII族元素ガスとが混合された第2の混合ガスを流す第2ガスラインと、サブフロー窒素ガスを流す第3ガスラインから、基板の主表面に対向する領域へガスを流す。InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程における、基板が投入される反応室内の圧力は15kPa以上25kPa以下である。上記第2の混合ガス中に含まれる窒素ガスが上記第2ガスラインを流通して基板の主表面に対向する領域を単位時間当たりに流れる流量を、上記(基板の主表面に対向する)領域における流路の断面積で除して求めた流速が3.25m/s以上3.35m/s以下である。
流路の途中で互いに気相反応を起こす複数の原料ガス(TMG、TMA、TMI)とは、この場合第2のガスラインを流れるIII族元素ガスである。これらが第2のガスラインを通って下流側へ向かい、同時に第2のガスラインとは別のラインである第1のガスラインおよび第3のガスラインを通ったガスと合流し、すべてが同一のラインを流通するようになった状態で、成膜しようとする基板の主表面に対向する領域において、基板の主表面に沿った方向に延在する流路(そのうち一部の領域がリアクタとなっている)の内部を流通する。
このとき基板の主表面上において、成膜するための原料ガスと一緒に流れる窒素ガスの流れる速度(流速)を速くする。すると、窒素ガスと一緒に流れる原料ガスの流速も速くなる。すると基板の主表面上を当該ガスが通過するのに要する時間が短くなる。したがってガスの流速を上げると、複数のIII族元素ガスのうち、副反応を起こすガスの濃度(割合)が高くなる領域が、より下流側にシフトする。したがって流速を上げることにより、副反応を起こすガスの濃度のピークをたとえば基板の主表面上よりも下流側の領域にシフトさせれば、基板の主表面には副反応を起こす前の原料ガスをより多く供給することができる。また流速が速く、基板の主表面上を当該ガスが通過する時間が短くなるため、基板の主表面上における最も上流側と最も下流側とを当該ガスが通過する際における各原料ガスの濃度の差が小さくなる。したがって、基板の主表面上における各領域の薄膜の成膜速度の差を小さくすることができる。その結果、基板の主表面上において当該薄膜の膜厚の分布をほぼ均一にすることができる。
ここで、第2のガスラインを流れるTMG、TMAなどが互いに副反応を起こすことを抑制するためには、第2のガスラインを流れる窒素ガスの流速を高めることが最も効果的である。このため上述したように、第2ガスラインを流れる窒素ガスの流速を制御することがもっとも好ましい。
なお、本発明の発明者は鋭意研究の結果、上述したラインおよび上述した各ガスを用いて(MOVPE法により)InAlGaNの成膜を行なう場合、基板が投入される反応室内の圧力が15kPa以上25kPa以下であり、かつ第2の混合ガス中の窒素ガスの流量が上記の流速範囲内(3.25m/s以上3.35m/s以下)であれば、基板の主表面上における各領域の薄膜の成膜速度の差を小さくし、基板の主表面上に形成される当該薄膜の膜厚の分布をほぼ均一にすることができることを見出した。
本発明の他の局面に係るエピタキシャル基板の製造方法は、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する、エピタキシャル基板の製造方法である。当該製造方法には、基板を準備する工程と、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程とを備えている。上記InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程においては、基板に近いほうから順に配置された、窒素ガスとV族元素ガスとが混合された第1の混合ガスを流す第1ガスラインと、窒素ガスとIII族元素ガスとが混合された第2の混合ガスを流す第2ガスラインと、サブフロー窒素ガスを流す第3ガスラインから、基板の主表面に対向する領域へガスを流す。InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程における、基板が投入される反応室内の圧力は35kPa以上45kPa以下である。上記第2の混合ガス中に含まれる窒素ガスが上記第2ガスラインを流通して基板の主表面に対向する領域を単位時間当たりに流れる流量を、上記(基板の主表面に対向する)領域における流路の断面積で除して求めた流速が0.75m/s以上1.2m/s以下である。
上述した本発明の一の局面に係るエピタキシャル基板の製造方法における、反応室内の圧力と、第2ガスラインを流れる窒素ガスの流速との条件の組み合わせのほかに、反応室内の圧力が35kPa以上45kPa以下、第2ガスラインを流れる窒素ガスの流速が0.75m/s以上1.2m/s以下である場合についても、基板の主表面上における各領域の薄膜の成膜速度の差を小さくし、基板の主表面上に形成される当該薄膜の膜厚の分布をほぼ均一にすることができることを見出した。
また本発明の発明者は、上記の場合に窒素ガスの流速が非常に上がりたとえば上述した定義(流量を、ガスラインの断面積で除する)に基づく流速が1.6m/s以上となれば却って成膜速度が遅くなることも見出した。これは上記定義に基づく流速を上げることは第2ガスラインを流通する窒素ガスの流量が増加することにより、その分だけ供給されるガス中に含まれる有機金属化合物蒸気の割合が減少するため、反応速度が低下することによるものである。成膜速度が遅くなれば実用性に乏しくなるため、成膜速度を確保する観点から、反応室内の圧力が35kPa以上45kPa以下である場合、上記流速は0.75m/s以上1.2m/s以下とすることが好ましい。
本発明のさらに他の局面に係るエピタキシャル基板の製造方法は、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する、エピタキシャル基板の製造方法である。当該製造方法には、基板を準備する工程と、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程とを備えている。上記InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程においては、基板に近いほうから順に配置された、窒素ガスとV族元素ガスとが混合された第1の混合ガスを流す第1ガスラインと、窒素ガスとIII族元素ガスとが混合された第2の混合ガスを流す第2ガスラインと、サブフロー窒素ガスを流す第3ガスラインから、基板の主表面に対向する領域へガスを流す。InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程における、基板が投入される反応室内の圧力は15kPa以上25kPa以下である。上記第2の混合ガス中に含まれる窒素ガスが前記第2ガスラインを単位時間当たりに流れる流量が72slm以上80slm以下である。
上述した本発明の他の局面に係る薄膜の製造方法においては、原料ガスとともに流れる窒素ガスの流量の適正値を規定する。たとえば第2ガスラインを流れるすべてのガスの流量の和が一定であれば、原料ガスとともに流れる窒素ガスの流量が増加することにより、当該ガスラインを流れるガス全体に対する原料ガスの濃度が減少する。したがって成膜しようとする基板の主表面に対向する領域において、複数の原料ガス同士が副反応を起こす確率が低下する。このため基板の主表面上に、副反応が起こっていない原料ガスを高効率に供給することにより、副反応を抑制して高効率に成膜することが可能となる。
なお窒素ガスの流量が過剰に多くなれば、上述した流速規定の場合と同様に、窒素ガスの流量が増加することにより、その分だけガス中に含まれる有機金属化合物蒸気(たとえばTMGなど)の割合が減少するため、反応速度が低下する。反応速度の低下により成膜速度が遅くなれば実用性に乏しくなるため、成膜速度を確保する観点から、上記流量は72slm以上80slm以下とすることが好ましいことを本発明の発明者は見出した。ただし上記の好ましい流量の範囲は、基板が投入される反応室内の圧力が15kPa以上25kPa以下である場合に成り立つ。
本発明の他の局面に係るエピタキシャル基板の製造方法は、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する、エピタキシャル基板の製造方法である。当該製造方法には、基板を準備する工程と、基板の一方の主表面上にInAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程とを備えている。上記InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程においては、基板に近いほうから順に配置された、窒素ガスとV族元素ガスとが混合された第1の混合ガスを流す第1ガスラインと、窒素ガスとIII族元素ガスとが混合された第2の混合ガスを流す第2ガスラインと、サブフロー窒素ガスを流す第3ガスラインから、基板の主表面に対向する領域へガスを流す。InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程における、基板が投入される反応室内の圧力は35kPa以上45kPa以下である。上記第2の混合ガス中に含まれる窒素ガスが前記第2ガスラインを単位時間当たりに流れる流量が34slm以上52slm以下である。
上述した本発明の一の局面に係るエピタキシャル基板の製造方法における、反応室内の圧力と、第2ガスラインを流れる窒素ガスの流量との条件の組み合わせのほかに、反応室内の圧力が35kPa以上45kPa以下、第2ガスラインを流れる窒素ガスの流量が34slm以上52slm以下である場合についても、基板の主表面上における各領域の薄膜の成膜速度の差を小さくし、基板の主表面上に形成される当該薄膜の膜厚の分布をほぼ均一にすることができることを見出した。
また本発明の発明者は、鋭意研究の結果、上述した各エピタキシャル基板の製造方法における成膜速度や形成される薄膜中の各元素の組成、形成される薄膜の内部における組成の分布などそれぞれについて、以下の範囲内であることが好ましいことを見出した。つまり、InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程における、基板の一方の主表面上への成膜速度の最大値は0.6μm/h以上0.8μm/h以下であることが好ましい。
InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程において、基板を載置するサセプタを固定する場合、InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程において形成されるInAlGaNエピタキシャル膜の成膜速度の最大値と最小値との分布は20%以下であることが好ましい。ただし基板を載置するサセプタを基板の主表面に交差する方向を軸として回転させる場合は、上記成膜速度の最大値と最小値との分布は10%以下であることが好ましい。
InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程において形成されるInAlGaNエピタキシャル膜中のAlの組成が0.11以上0.3以下であることが好ましい。上記Alの組成の最大値と最小値との分布は20%以下であることが好ましい。
InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程において形成される前記InAlGaNエピタキシャル膜中のInの組成が0.024以上0.1以下であることが好ましい。上記Inの組成の最大値と最小値との分布は20%以下であることが好ましい。
以上に述べたエピタキシャル基板の製造方法を用いて基板の主表面上に形成される薄膜(エピタキシャル膜)は、基板の主表面上における領域間の膜厚のばらつきが小さくなる。つまりほぼ均一な膜厚とすることができる。また当該薄膜の組成についても、基板の主表面上における領域間の分布をより均一にすることができる。
本発明の製造方法によれば、基板の主表面上において均一な成膜速度で均一な膜厚のエピタキシャル膜を有するエピタキシャル基板を形成することができる。また、形成される薄膜の組成を均一にすることができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素に異なる参照符号を付す場合において、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
(実施の形態1)
図1のフローチャートに示すように、本実施の形態に係るエピタキシャル基板の製造方法は、基板を準備する工程(S10)と、InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程(S20)とを備えている。
基板を準備する工程(S10)において具体的には、たとえば主表面が直径2インチでGaN(窒化ガリウム)からなる基板が準備されることが好ましい。ここで既存のGaNからなる基板を用いてもよい。このGaNからなる基板は任意の方法で製造することができる。たとえば、GaNとは異なる材質(たとえばSiC(炭化珪素)やSi(珪素)、サファイアなど)からなる下地基板の主表面上にGaNの単結晶を成長させ、成長させた当該GaNの単結晶を下地基板から分離させることにより、GaNの基板を形成してもよい。
GaNの単結晶を形成する方法としては、たとえば昇華法やPLD(Pulsed Laser Deposition)(パルス・レーザー堆積)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)(ハイドライド気相成長)法などの一般公知の方法を用いることが好ましい。またGaNの単結晶を下地基板から分離させる方法としては、スクライバ装置やレーザ光を用いて形成した損傷を起点とした分離(剥離)を行なうといった、一般公知の方法を用いることが好ましい。次工程に進む前に、当該基板の一方の主表面、および一方の主表面に対向する他方の主表面を、所望の表面粗さとなるように研磨することが好ましい。
あるいはたとえばSiCからなる既存の基板をそのまま、次工程においてInAlGaNの薄膜を形成するための下地基板として準備してもよい。その他、InAlGaNの薄膜を形成することが可能な任意の材質からなる基板を、一般公知の任意の方法により準備することができる。
上記手順により、薄膜を形成するための基板が準備できたところで、図1のフローチャートに示すように、InAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程(S20)が実施される。これは上記のGaN基板の一方の主表面上に、窒化物半導体デバイスを形成するためのInAlGaNの薄膜を、エピタキシャル成長により形成する工程である。
なお窒化物半導体デバイスを形成するためには、たとえば上述したGaN基板の一方の主表面上に、InAlGaNの薄膜に限らず、たとえばGaNの薄膜やAlGaNの薄膜なども適宜組み合わせ、薄膜の積層構造となるように形成する。しかし以下においては特にInAlGaNの薄膜をエピタキシャル成長により形成する手順について説明する。
ここで本実施の形態において用いる気相成長装置について説明する。図2に示すように、本発明の実施の形態に係る気相処理装置は、薄膜を形成する処理対象物である基板15の表面近傍に供給する原料ガス(反応ガス)の流路であり、かつ基板15の一方の主表面上に薄膜を形成する反応室50と、基板15の主表面上に原料ガスを供給するガスラインとを備えている。ガスラインは、ガスの流通する上流側(図2の右側)に配置されており、3つのルートに分かれている。これらのガスラインが流路の途中(図2における線分III−IIIの存在する地点)にて合流する。3つのルートが合流する地点よりも下流側(図2の左側)においては3つのルートを流通した各種のガスがすべて、反応ガス中継路7の内部を流通する。反応ガス中継路7の内部のうち、基板15を載置したサセプタ51と対向する領域が反応室50である。なおここでは、反応室50と、サセプタ51やサセプタ51を回転可能に支持するための回転軸53や、サセプタ51を加熱するヒータ55を内部に保持する空間とを含めてリアクタと定義することにする。
原料ガス(反応ガス)の流路のうち上流側は、3つのガスラインすなわちV族ライン10とIII族ライン20とサブフローライン30とから構成される。具体的にはV族ライン10は、図2の最も下側すなわち基板15の主表面に近い側を流通する第1ガスラインである。V族ライン10は、キャリアガスとしての窒素ガスとV族元素の水素化合物であるV族元素ガスとが混合された第1の混合ガスを流す。III族ライン20は、図2の上下方向に関する中央を流通する第2ガスラインである。つまり第2ガスラインは、第1ガスラインに次いで基板15の主表面に近い位置に配置されている。III族ライン20は、キャリアガスとしての窒素ガスとIII族元素の有機金属化合物であるIII族元素ガスとが混合された第2の混合ガスを流す。
サブフローライン30は、図2の最も上側すなわち基板15の主表面から離れた側を流通する第3ガスラインである。つまり第3ガスラインは、第1ガスラインや第2ガスラインよりも、基板15の主表面から遠い位置に配置されている。サブフローライン30は、サブフローとしての窒素ガスを流す。V族ライン10は上流側から順に導入V族ライン11と接近V族ライン12と、接触V族ライン13とからなる。同様にIII族ライン20は上流側から順に導入III族ライン21と接近III族ライン22と、接触III族ライン23とからなる。またサブフローライン30は上流側から順に導入サブフローライン31と接近サブフローライン32と、接触サブフローライン33とからなる。
図2においては導入V族ライン11などの最も上流側は描写を割愛してあるが、当該上流側はたとえば当該気相処理装置を設置する設備の壁面3の背後(図2における右側)に埋れている。また、上述したV族ライン10などの3つのルートが合流する領域より下流側に延在する反応ガス中継路7のさらに下流側(図2の左側)には、反応室50の内部に存在する余剰のガスを排気するための排気ガス流路9が配置されている。V族ライン10、III族ライン20およびサブフローライン30は、たとえば石英あるいはクロム、鉄、ニッケル、ステンレス、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウムなどの金属により形成されたものであることが好ましい。このようにすれば、たとえば流通させようとするガスにより各ガス導入部が反応するなどのダメージを受けることなく、当該ガスをスムーズに流通させることができる。ただし、当該ガス導入部を流すガスとして腐食性ガスを用いる場合には、上述した各材質のうちアルミニウム以外の材質を用いることが好ましい。
図2においては、V族ライン10などの各ガスラインの一部の領域が、ガス導入部ケース1により覆われている。ガス導入部ケース1はたとえばボルトなどの固定用部材2により壁面3と固定されている。このようにして各ガス導入部が固定されている。しかし各ガスラインを壁面3に固定する方法は上述した方法に限られず、一般周知の任意の方法を用いることができる。また図2においては、接近V族ライン12などの各接近ガスラインが接近ガスラインケース4により覆われており、接触V族ライン13などの各接触ガスラインが接触ガスラインケース5により覆われている。これらについても上述した構成に限られず、一般公知の任意の方法により各部材を収納することができる。さらに図2においては、接触ガスラインケース5の一部の領域を覆いながら接続するように反応ガス中継路7が構成され、反応ガス中継路7と排気ガス流路9とが一部の領域において一体であるように描かれている。しかし両者は不連続であってもよい。
図2においてV族ライン10およびサブフローライン30は、接近V族ライン12および接近サブフローライン32が図2の上下方向、すなわち反応室50内の基板15の主表面に交差する方向に屈曲している。これは3台のガスラインが
図2の上下方向に並列するように配置されているためである。したがってたとえば3台のガスラインが図1の基板15の主表面に沿った方向に並列するように配置されれば、接近V族ライン12、接近サブフローライン32を図2の上下方向に屈曲しない構成とすることができる。この場合は接近V族ライン12、接近サブフローライン32を、図2の紙面に垂直な奥行き方向に、並列するように配置することが好ましい。
図3の断面図に示すように、3ルートのガスラインが接触した接触ガスライン(接触V族ライン13、接触III族ライン23、接触サブフローライン33)はライン内部の幅(流通する方向に交差する、図2の奥行き方向)がWであり、ラインの外壁(接触ガスラインケース5および反応ガス中継路7)を含む幅がW1であるとする。また各接触ガスライン内部の厚み(図2の上下方向)の和がH1であり、接触III族ライン23の(ラインの外壁を含む)厚みをHとする。
このとき図4の断面図に示すように、各接触ガスラインの下流側に位置する反応ガス中継路7において、たとえばライン内部の幅がW2、ラインの外壁を含む幅は各接触ガスラインと同じW1であることが好ましい。反応ガス中継路7の厚みH2は図2〜図4においてはH1よりも薄くなっている。しかしH2とH1とがほぼ同じとなるようにしてもよい。またW2とWとの大小関係についても特に限定されず、任意に指定することができる。
また図5の断面図に示すように、一般にはIII族ライン20のうち、導入III族ライン21はサセプタ51の主表面に比べて幅が非常に狭く、反応ガス中継路7においてサセプタ51の主表面の直径と同程度にまで幅が広がる。図5のように、接近III族ライン22および接触III族ライン23においても反応ガス中継路7と同等の幅を有していてもよいし、図6の断面図に示すように、接近III族ライン22および接触III族ライン23において幅が徐々に広がる態様となっていてもよい。図5および図6には代表例としてIII族ライン20を示しているが、V族ライン10およびサブフローライン30についてもIII族ライン20と同様である。
以上に示す気相成長装置を用いて基板15の表面近傍に原料ガスを供給する。具体的にはV族ライン10からは、キャリアガスとしての窒素ガスとV族元素の水素化合物であるNH3(アンモニア)ガスとが混合された第1の混合ガスが供給される。III族ライン20からは、キャリアガスとしての窒素ガスとIII族元素の有機金属化合物であるTMG、TMAおよびTMIとが混合された第2の混合ガスが供給される。そしてサブフローライン30からは、キャリアガスとしての窒素ガスが供給される。
これらのガスを各ガスラインから同時に供給すれば、図2の線分III−IIIの存在する地点よりも上流側においては第1の混合ガス、第2の混合ガスおよびサブフローライン30の窒素ガスとの3種類のガスが独立に流通する。しかし上記図2の線分III−IIIの存在する地点以降はこれら3種類のガスが同一のラインを流通する。つまり上記の3種類のガスが同様に反応ガス中継路7を流通して基板15の表面近傍に到達する。
ただし各ガスラインを流通したガスが一部混合されるとはいえ、たとえば図2の下側に配置されたV族ライン10を流通したガスは反応ガス中継路7においても比較的下側(基板15に近い側)を流通する傾向にある。同様に図2の上側に配置されたIII族ライン20を流通したガスは反応ガス中継路7においても比較的上側(基板15から離れた側)を流通する傾向にある。ここで基板15の主表面上への成膜に直接関与する原料ガスはNH3ガスおよびTMGなどの有機金属化合物ガスである。このため上述したように、当該成膜に直接関与するガスが基板に近い側のガスラインから供給され、サブフローラインは基板15から離れた、たとえば図2の上側に配置されることが好ましい。このようにすれば、成膜に直接関与するガスが比較的高い確率で基板15の主表面上に供給される。
反応ガス中継路7の内部を流れる、各ガスラインを流通した各種ガスが基板15の表面近傍に達する。つまり、III族ライン20を流通したTMG、TMA、TMIなどの成膜に直接関与するガスも基板15の表面近傍に達する。このときIII族ライン20を流通したTMGなどのガスと、V族ライン10を流通したNH3ガスとがサセプタ51の下部のヒータ55により加熱され、基板15の主表面上で熱分解反応を起こし、メタンガスなどを遊離しながらInAlGaNの結晶からなる薄膜を形成する。これはエピタキシャル成長の一種であるMOVPE法(有機金属気相成長法)によるものである。
しかしここで当該ガスの流速が遅いと、サセプタ51の主表面上(反応室50)にてサセプタ51の下部のヒータ55により、上述した原料ガスが加熱される際に、これらの原料ガスが互いに激しく気相反応を起こすことがある。
このような激しい気相反応(副反応)が起こると、本来成膜に用いるTMGなどの原料ガスが当該副反応により消費されることになる。このため、反応室50の上流側では副反応の起こっていないTMGなどの原料ガスの割合が多いために成膜速度が速く所望の厚みの薄膜が形成されるが、反応室50の下流側では副反応の起こっていない原料ガスの割合が少なくなるために成膜速度が遅くなる。したがって、基板15の主表面上の間にて成膜速度や膜厚の不均一が発生する。つまり、所望のInAlGaNの薄膜を所望の厚みとなるよう均一に形成することが困難となる。これを抑制するために、反応室50の内部を流通する第2の混合ガスの流速を速くすることが好ましい。
このことについて図7と図8とを比較しながら説明する。図7および図8はともに、反応ガス中継路7のうち反応室50近傍に第2の混合ガスが流通する態様を示している。図7よりも図8の方が当該混合ガスの流速が速い。ここで反応ガス中継路7内部の基準点(たとえばサセプタ51の最上流の地点に対向する領域)におけるTMG41、TMA42およびTMI43の各気体分子間の距離が、図7と図8とにおいてほぼ同じであった場合を仮定する。図7および図8は、上記基準点を各気体分子が通過してから、所定の時間が経過した後の状態を模式的に示している。このとき、反応室50の内部を流通するTMG41、TMA42およびTMI43の気体分子は、図7においては反応室50の比較的上流側にて互いに接近しているが、図8においては反応室50の比較的下流に達するまで互いに接近していない。つまり図8の方が図7よりも流速が速いため、反応室50の最上流側から最下流側までを当該ガスが流通するのに要する時間が短い。
このため図7に示すように流速が遅ければ、反応室50の比較的上流側にてTMG41、TMA42、TMI43が互いにかなり接近する。この場合反応室50における加熱により、これらの気体分子は反応室50の最下流側に到達する前に副反応を起こす可能性が高い。しかし図8に示すように流速が速ければ、単位時間内に気体分子がガスの流通する方向に移動する距離が長い。このため反応室50の比較的下流側にてTMG41、TMG42、TMI43が互いにかなり接近する。この場合反応室50の最下流側に到達するまでこれらの気体分子が副反応を起こさない可能性が高くなる。
したがって、第2の混合ガスを構成するキャリアガスとしての窒素ガスの流速を速くすることにより、第2の混合ガス中の副反応を起こす各原料ガスの濃度が最も高くなる領域を、反応室50よりも下流側の領域へとシフトさせることができる。このため第2の混合ガス中の各原料ガスが反応室50の領域内にて副反応を起こすことを抑制することができる。したがって所望の量の原料ガスを基板15の主表面上に均一に供給することができる。つまり基板15の主表面上における各領域の薄膜の成膜速度の差を小さくし、基板の主表面上に形成される当該薄膜の膜厚の分布をほぼ均一にすることができる。
ここでは副反応が起こるTMG、TMAなどの原料ガスと同じIII族ライン20を流通する窒素ガスの流速を制御することにより、上述した反応室50内における副反応を抑制することができる。ここでは、たとえばIII族ライン20を流通した窒素ガスが、当該反応室50の内部のある地点(図2の左右方向に関する1点としての地点)を示す平面(ガスの流通方向に交差する断面)を単位時間当たりに流れる(通過する)流量を、当該地点におけるガスの流通方向に交差する断面の面積(流路の断面積)で除することにより、上記III族ライン20を流通する窒素ガスの「流速」を定義している。つまりここでの「流速」は窒素ガスが単位時間当たりに移動する距離を基に規定した速度とは異なる仮想的なものである。しかし当該「流速」を速くするためには単位時間当たりにIII族ライン20から供給する窒素ガスの流量を多くすればよい。またたとえば反応室50の内部のある地点を単位時間当たりにガスが流れる流量を多くすれば、必然的に当該ガスが単位時間当たりに移動する距離である速度が速くなる。このため上述した仮想的な定義に基づく流速を上げることにより、通常の規定に基づく速度を速くすることと同等の効果を奏する。
具体的には、工程(S20)の成膜時における反応室50内の圧力が15kPa以上25kPa以下であり、かつ上記III族ライン20を流通した窒素ガスの、反応室50内の任意の断面における流速が3.25m/s以上3.35m/s以下であることが好ましい。なお、ここでの圧力は、特に反応室50内のガスが基板15の主表面上に及ぼす圧力を意味するが、反応室50の下部に存在するサセプタ51やヒータ55を内部に保持するリアクタ全体の圧力を含めてもよい。
このようにすれば、上述したTMG41などが反応室50の内部で副反応を起こすことを抑制し、基板15の主表面上における成膜速度の均一性を高めることができる。つまり基板15の主表面上の各領域間における成膜速度の分布を所望の範囲内に収めることができる。その結果、均一性に優れた薄膜を形成することができる。あるいは、反応室50内の圧力が35kPa以上45kPa以下であり、かつ上記III族ライン20を流通した窒素ガスの、反応室50内の任意の断面における流速が0.75m/s以上1.2m/s以下であってもよい。ここで3.35m/s以下または1.2m/s以下と流速に上限が設けられているのは、窒素の流量を過度に増加させると、各原料ガスとキャリアガスとの混合ガス中での原料ガスの濃度が相対的に減少し、成膜速度が低下することがあるためである。
たとえばサセプタ51の主表面の直径が100mm以上である大型のリアクタを用いた気相成長装置の場合、III族ライン20から流れる窒素ガスの流量を増加させることにより上述した流速を3.25m/s以上(0.75m/s以上)となるよう増加させることが好ましい。このようにすれば、サセプタ51の主表面の直径150mmの範囲内に存在する基板15の主表面上に、膜厚分布の均一性や成膜速度の均一性に優れた薄膜を形成することができる。ただし大型のリアクタとは、サセプタ51の主表面上に直径が2インチの基板を複数枚(たとえば2枚以上7枚以下)設置しうる大型炉を意味する。この場合、サセプタ51の主表面の直径は100mm以上150mm以下となる。
上記においてはTMGなどのIII族ライン20を流通する窒素ガスの流速を速くした場合の効果について記載している。これはIII族ライン20を流通する窒素ガスの流速を速くすれば、上述したTMG41などが反応室50の内部で副反応を起こすことを抑制する効果が最も大きくなるためである。V族ライン10、III族ライン20、サブフローライン30を流通したガスが反応ガス中継路7の内部を流通するが、反応ガス中継路7の下流側に進むにつれて、V族ライン10、III族ライン20、サブフローライン30間の異なるラインから反応ガス中継路7に流入したガス同士が拡散により混合される。つまり反応ガス中継路7の下流側に進むにつれて、異なるラインから反応ガス中継路7に流入して一体となったガスが等速で反応ガス中継路7の内部を流通するようになる。
したがってたとえばV族ライン10を流通する窒素ガスや、サブフローライン30を流通する窒素ガスの流速を速くしてもよい。言い換えればV族ライン10やサブフローライン30を流通した窒素ガスが反応室50の内部のある地点を単位時間当たりに流れる流量を、当該地点の断面積で除した値である「流速」を上げてもよい。このようにすれば、特に反応室50(反応ガス中継路7)の下流側において、III族ライン20を流通する窒素ガスの流速を速くする場合と同様の効果を奏する。
したがって、当該反応室50の内部のある地点を単位時間当たりに流れるすべてのガスの流量を、当該地点におけるガスの流通方向に交差する断面の面積で除した値である流速が上がれば、上述した原料ガスの副反応の起こる位置を下流側にシフトさせ、成膜速度や膜厚をより均一にすることができる。
以上に述べた手順により、図9に示すように基板15の一方(図9における上側)の主表面上にInAlGaNの結晶からなる薄膜16が形成される。薄膜16の膜厚分布や、内部の各領域における結晶の組成分布は、所望の優れた均一性を有するものとなっている。
以上に述べたInAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程(S20)における、基板15の一方の主表面上への成膜速度の最大値は0.6μm/h以上0.8μm/h以下であることが好ましい。これは基板15の主表面に交差する(図2の上下方向である)厚み方向に関する成膜速度である。
上記成膜速度が0.6μm/hを下回ると、成膜速度が遅いために成膜条件としての実用性に乏しくなる。また上記成膜速度が0.8μm/hを超えると、成膜速度が速いために形成される薄膜16の結晶性が劣化する要因となる。具体的にはたとえば当該結晶を構成する格子の配列が不均一となるなどの不具合が発生する可能性がある。このため上述した成膜速度の範囲であることが好ましく、このなかでも0.6μm/s以上0.75μm/s以下であることがより好ましい。
また上記工程(S20)において基板15を載置するために用いるサセプタ51は、回転軸53を中心として回転させることができる。サセプタ51を回転させると、基板15の主表面上に形成される薄膜16の成膜速度や、形成される薄膜16の膜厚分布をより均一にすることができる。この場合、上記エピタキシャル基板の製造方法を用いて形成されるInAlGaNエピタキシャル膜の成膜速度の最大値と最小値との分布は10%以下であることが好ましい。
ここで成膜速度の最大値と最小値との分布とは、基板15の主表面上において選出した任意の複数の異なる地点における薄膜16の成膜速度のうち最大である最大値と最小である最小値との差の、当該最大値と最小値との和に対する割合である。つまり当該値が小さいほど均一な成膜速度で成膜がなされているといえる。当該気相成長装置を用いて薄膜16が形成された基板を量産するためには、上述したように薄膜16の成膜速度の分布は10%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。
ただしサセプタ51を回転させずに成膜を行なってもよい。この場合は、形成されるInAlGaNエピタキシャル膜の成膜速度の最大値と最小値との分布は20%以下であることが好ましい。当該分布が20%を超えると、形成される薄膜16の結晶性が劣化する可能性がある。なお当該分布は17%以下であることがより好ましく、10%以下であることがより好ましい。
また特にサセプタ51を回転させる場合において、工程(S20)において形成される薄膜16中のAlの組成は、0.11以上0.3以下であることが好ましい。また当該薄膜16中のInの組成は0.024以上0.1以下であることが好ましい。具体的には、InAlGaNからなる薄膜をInxAlyGazNwと表記し、x+y+z+w=1とする場合、xの値が0.024以上0.1以下、yの値が0.11以上0.3以下であることが好ましい。
薄膜16であるInAlGaN膜からなる基板を用いて形成される発光素子の、活性層において発生した光を、当該活性層の内部に閉じ込める機能を確保するためには、上述したyの値が0.11以上0.3以下であることが好ましい。また、たとえばInAlGaN膜をGaNの薄膜(エピタキシャル膜)やGaN基板の主表面上に形成する場合には、GaNの結晶との格子整合を良好にするために、xの値を0.024以上0.1以下とすることが好ましい。特に上述したようにyの値が0.11以上である場合には、xの値を0.024以上とすることが好ましい。ただしyの値は上述した範囲の中でも0.11以上0.2以下であることが特に好ましく、xの値は上述した範囲の中でも0.024以上0.05以下であることが特に好ましい。
また薄膜16であるInAlGaN膜中のAlおよびInの組成の最大値と最小値との分布は20%以下であることが好ましい。組成の分布についても上述した成膜速度の最大値と最小値との分布と同様に定義される。これは当該気相成長装置を用いて薄膜16が形成された基板を量産するために好ましい組成分布である。
(実施の形態2)
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、図1のフローチャートに示す製造工程に従いMOVPE法を用いて、図2に示す気相成長装置を用いて基板15の主表面上にInAlGaNの薄膜が形成される。ただし実施の形態2においては、第2ガスラインであるIII族ライン20を流通する窒素ガスの単位時間当たりの流量を制御する。このようにして、基板15の主表面上の反応室50内にてIII族ライン20を流通した原料ガス同士が加熱により気相反応を起こすことを抑制する。
この点において、基板15の主表面上の反応室50を流通するキャリアガスの流速を制御することにより、III族ライン20を流通した原料ガス同士が気相反応することを抑制する実施の形態1と異なる。
つまり実施の形態2においては、工程(S20)の成膜時に、III族ライン20を流通する窒素ガスの流量を増加させる。このようにすれば、III族ラインを流通する原料ガスであるTMG、TMAおよびTMIの気体分子の、当該III族ライン20を流通するガス全体に対する割合(濃度)が低くなる。
このことについて図10と図11とを比較しながら説明する。図10および図11はともに、同一の大きさの気体分子であるTMG41とTMA42とTMI43とが1個ずつ存在する。ただし図10の方が図11よりも、これらの気体分子を取り囲む空間(キャリアガス)の容積が小さい。この場合図10と図11とのいずれも、内部に存在する原料ガス(TMG41など)の量や大きさは同じであるが、図10の方がキャリアガスの容量が小さいため、空間内部における原料ガスの濃度が高くなっている。これら図10と図11の各状態に対し、空間の内部を加熱すれば、図10の方が図11よりも先にTMG41などの気体分子同士が気相反応を起こす確率が高い。逆に言えば図11の方が図10よりもキャリアガスの容量が大きいため気体分子の濃度が低く、気体分子同士の気相反応は起こりにくい。つまりIII族ライン20を流通するキャリアガス(窒素ガス)の流量を増加させることにより、下流側の反応ガス中継路7や反応室50を流通する窒素ガスの流量を増加させる。このようにすれば、反応室50の内部において窒素ガスの流量が多くなるために、当該領域においてガスが加熱されるために原料ガス同士が激しい副反応を起こすことを抑制することができる。したがって実施の形態1と同様に、形成されるInAlGaNの薄膜16(図9参照)の成膜速度や膜厚分布を所望の範囲で均一にすることができる。
上述したように反応室50における窒素ガスの流量を多くすることにより副反応を抑制するためには、工程(S20)の成膜時における反応室50内の圧力が15kPa以上25kPa以下であり、かつIII族ライン20を単位時間当たりに流れる窒素ガスの流量が72slm以上80slm以下であることが好ましい。あるいは、反応室50内の圧力が35kPa以上45kPa以下であり、かつIII族ライン20を単位時間当たりに流れる窒素ガスの流量が34slm以上52slm以下であってもよい。
なお流量が80slm(52slm)を超えると、窒素ガスの量に対するTMG41などの原料ガスの濃度が低下するため、基板15の主表面上への成膜速度が低下する。このため窒素ガスの流量は上述した範囲内とすることが好ましい。このようにすれば、上流側のIII族ライン20を流通する、TMG41などの原料ガスを含有する窒素ガス中における原料ガスの濃度を低下させることもできる。
なお実施の形態2においても実施の形態1と同様に、反応室50内において原料ガスの濃度を低下させるために流量を増加させる窒素ガスは、第2ガスラインであるIII族ライン20であることがより好ましい。しかしこれに限らず、たとえば第1ガスラインであるV族ライン10を流通する窒素ガスや、第3ガスラインであるサブフローライン30を流通する窒素ガスであってもよい。
本発明の実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
上述した図2の気相成長装置を用いて複数の基板15の主表面上に薄膜16(図9参照)を形成した場合の成膜速度や組成の分布をシミュレーションした。ここで反応室50の内部の圧力や、各ガスラインから供給されるガスの流量、流速、サセプタ51の回転の有無などの条件を様々に変化させた。
上の表1に示すように、図1のInAlGaNエピタキシャル膜を形成する工程(S20)において反応室50の内部の圧力を20kPaとして成膜を行なった基板と、当該圧力を40kPa、60kPaとして成膜を行なった基板とを想定した。なお基板はすべてGaN基板とした。
反応室50の内部の圧力の条件を同じとした基板を4枚ずつ想定し、それぞれに対する成膜時の、反応室50の内部の圧力以外の条件を変化させた。圧力20kPaで処理する基板には20A〜20Dとサンプル名(基板No.)を付している。同様に40kPaで処理する基板には40A〜40D、60kPaで処理する基板には60A〜60Dのサンプル名を付している。
表1に示すように、すべての基板の成膜時に、V族ライン10を流通するガスのトータルの流量は15.2slmとし、NH3ガスのモル分率が0.967(96.7%)、N2ガスのモル分率が0.033(3.3%)となるようにした。またIII族ライン20を流通するガスは、基板ごとにトータルの流量を変化させ(14.7slm〜72slm)、当該ガス中に含まれる各種ガスのモル分率を変化させた。ただしいずれの基板を処理する際にも、III族ライン20にはN2ガスとTMGとTMAとTMIとを流通させている。またIII族ライン20を流通する窒素ガスの流速(反応室50の内部のある地点を単位時間当たりに流れる当該窒素ガスの流量を、当該地点における当該窒素ガスの流通方向に交差する断面の面積で除することにより求めた流速)は、表1の「(III族ライン20)流速(m/s)」の欄に示すとおりである。サブフローライン30を流通するガスは、すべての基板の成膜時において、サブフローとしてのN2ガスのみを34.3slmの流量となるように流している。
これらの3つのラインを流れるすべてのガスが合流して、反応室50の内部のある地点を単位時間当たりに流れる流量を、当該地点におけるガスの流通方向に交差する断面の面積で除することにより求めた流速が、表1中の「トータルの流速(m/s)」である。上述したように、基板15の主表面に対向する反応室50を流れるトータルの流量や流速により、反応室50における原料ガスの副反応を制御することができる。このため表1中には、「トータルの流速」を記載している。
なお表1中には記載がないが、すべての基板において、成膜時のサセプタ51の加熱温度は890℃と設定した。
上の表2には、上記各条件で形成した薄膜(InAlGaN膜)の成膜速度のシミュレーション結果を示している。表2中の左側の「計算値(回転止)」の欄には、サセプタ51を回転させずに固定した場合を想定した計算値を示している。また表2中の右側の「計算値(回転)」の欄には、サセプタ51を20rpmの回転速度で回転軸53を中心として回転させた場合を想定した計算値を示している。各条件下で基板15の主表面上に形成されるInAlGaN膜の、基板15の主表面に交差する厚み方向に関する成膜速度を算出している。当該成膜速度は、形成される薄膜の主表面上に関して異なる5点に関して算出し、これらのうち最大値と最小値とを表2中に記載している。また、成膜速度を算出した5点の位置は、基板15の主表面の中心(0mm点)および、当該中心を通りガスが当該基板15の主表面上を流通する方向に沿った方向に延びる直線上の、上記0mm点からの距離が±10mmである−10mm点および+10mm点、そして上記0mm点からの距離が±20mmである−20mm点および+20mm点の、合計5点である。ただしサセプタ51を回転させない場合は、サセプタ51の中心を通り、ガスの流通する方向に沿った方向に延びる直線上に存在する基板15のそれぞれ(2枚)に対して、上述した5点ずつに対して成膜速度を算出するため、合計10点の成膜速度を算出し、これらの最大値および最小値を表2中に記載している。また、上記最大値と最小値との差の、最大値と最小値との和に対する割合を、成膜速度の分布(%)として表2中に記載している。
表3には、上記各条件で形成したInAlGaN膜中のAlの組成のシミュレーション結果を示している。つまり形成される薄膜の組成式をInxAlyGazNw(x+y+z+w=1)としたときのyの値を算出したものである。上述した成膜速度と同様に、サセプタ51を固定した場合を想定した計算値を「計算値(回転止)」の欄に、サセプタ51を20rpmの回転速度で回転させた場合を想定した計算値を「計算値(回転)」の欄に示している。また上述した成膜速度と同様に、形成される薄膜の主表面上に関して異なる5点(10点)に関してyの値を算出し、これらのうち最大値と最小値、および最大値と最小値とから求めた分布(%)を表3中に記載している。なお、算出対象とした点の位置は、表2において成膜速度を算出した点の位置と同じである。
表4には、上記各条件で形成したInAlGaN膜中のInの組成のシミュレーション結果を示している。つまり形成される薄膜の組成式をInxAlyGazNw(x+y+z+w=1)としたときのxの値を算出したものである。上述したyの値と同様に、サセプタ51を固定した場合を想定した計算値を「計算値(回転止)」の欄に、サセプタ51を20rpmの回転速度で回転させた場合を想定した計算値を「計算値(回転)」の欄に示している。また、形成される薄膜の主表面上に関して異なる5点(10点)に関してxの値を算出し、これらのうち最大値と最小値、および最大値と最小値とから求めた分布(%)を表4中に記載している。なお、算出対象とした点の位置は、表2において成膜速度を算出した点の位置と同じである。
以下において表1〜表4に示された結果について考察する。基板No.20A〜20D、40A〜40D、60A〜60Dのそれぞれの間では、薄膜の成膜条件として、III族ライン20を流通するガスの流量が大きく異なる。しかし各条件におけるIII族ライン20を流れるガスのモル分率を見ると、当該ガスの大部分が窒素ガス(N2ガス)であることがわかる。したがってIII族ライン20に流れる流量が大きくなれば、III族ライン20を流れるN2ガスの流量が増加していると考えられる。
つまり主に反応室50の内部の圧力と、III族ライン20を流れるN2ガスの流量を変化させて成膜をシミュレーションしたところ、20A、20B、20Cおよび40Aについては、表2に示すように、サセプタ51を回転させずに成膜した場合の成膜速度の最大値が0.8μm/hを超えている。成膜速度が0.8μm/hを超えると、形成される薄膜の結晶性が悪化する可能性があるため、当該成膜速度は0.8μm/h以下であることが好ましい。これは、0.8μm/hを超える成膜速度の最大値にて形成される薄膜には、表面に多数の凹凸が形成され、表面モフォロジーが悪化するということからも示される。
また40A、60Aおよび60Bについては、表2に示すように、サセプタ51を回転させずに成膜した場合の成膜速度の分布が20%を超えている。当該分布が20%を超えると、形成される薄膜16の結晶性が劣化する可能性がある。このためサセプタ51を回転させない場合は、分布は20%以下であることが好ましい。
表2に示すように、反応室50の内部の圧力が60kPaである場合は、サセプタ51を回転させた場合の成膜速度が、最大値においても0.5μm/h程度または0.5μm/h以下となっている。また40Dについても当該成膜速度の最大値が0.530μm/hとやや低くなっている。一例としてn型のInAlGaN膜のクラッド層は厚みが1.2μmであり、p型のInAlGaN膜のクラッド層は厚みが0.4μmである。上述した厚みの薄膜を形成する必要があるための実用性を考慮すれば、成膜速度は0.6μm/h以上であることが好ましい。
60kPaの場合には40kPaや20kPaの場合と比較して成膜速度が遅くなっている。上述したようにIII族ライン20を流通し、反応室50に達するN2ガスの流量や流速を上げると、基本的に反応室50に対向する基板15の主表面上の薄膜の成膜速度や膜厚が均一となる。しかしガスの圧力が高くなれば薄膜の成膜速度や膜厚を均一にするために必要なN2ガスの流量が増加する。表2の結果から明らかなように、III族ライン20を流れるガスの量(N2ガスの量)を増加すると成膜速度が低下する。このため60kPaにおいて特に成膜速度が低下するものと考えられる。
また表3に示すように、60Aと60Bとは、サセプタ51を回転させずに形成されたInAlGaN膜中のAl組成の分布が20%を越えている。40A、60A、60B、60Cについては、サセプタ51を回転させて形成されたInAlGaN膜中のAl組成の最大値が0.11を下回っている。当該薄膜からなる発光素子が発光する光を当該薄膜内に閉じ込めるための屈折率を確保する観点から、上記Al組成の最大値は0.11以上であることが好ましい。
以上に述べなかったサンプル、すなわち20D、40Bおよび40Cについては、上述した問題点を特に有さず、適正な成膜速度、成膜速度分布、AlやInの組成および組成分布を備えた均一で高品質な薄膜となっている。反応室50内部の圧力が20kPaと低い場合は、III族ライン20を流れるガスの流量を増加させる(具体的にはたとえば20Dに示す72slmとする)ことにより成長速度を遅くすれば、成長速度が適正な範囲となる。表1に示すように、20DのIII族ライン20を流通したN2ガスの流速は3.25m/sである。ただし上述したようにIII族ライン20を流れるガスの流量を増加(流速を増加)すれば、成長速度が遅くなることにより、成長速度が適正な範囲となる。このため72slm(3.25m/s)に限らず、適正な流量(流速)の範囲は72slm以上80slm以下(3.25m/s以上3.35m/s以下)とすることが好ましい。また圧力についても、20kPaに限らず、測定誤差等も加味して考慮すれば、15kPa以上25kPa以下とすることが好ましいといえる。
また40kPaの場合は、反応室50の圧力が適正な値であるため、流量を33.7slm以上52.0slmとすることにより、成膜速度の分布や組成の分布などを適正な範囲とすることができる。表1に示すように、40Bおよび40Cにおける窒素ガスの流速はそれぞれ0.75m/sおよび1.17m/sである。このため、測定誤差等も加味して考慮すれば、圧力については35kPa以上45kPa以下であることが好ましいといえ、このときの窒素ガスの流量は34slm以上52slm以下、窒素ガスの流速は0.75m/s以上1.2m/s以下とすることが好ましい。
参考用に、上記シミュレーション結果が良好であった反応室50の内部の圧力が40kPaであり、他の成膜条件をすべて上記のシミュレーションによる40A、40B、40Cと同一としてInAlGaN膜を形成する実験を行なった。なおサセプタ51は回転させなかった。最大値と最小値との分布を測定するために実測を行なった点数についても上述したシミュレーションの場合と同じ10点である。このときの成長速度、および形成される薄膜中のAlとInとの組成と分布との測定結果を表5に示す。表5に示すように、測定値の分布はシミュレーションによる理論値の分布に比べて大きくなっている。
以上のように本発明の各実施の形態および実施例について説明を行なったが、今回開示した各実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。