しかしながら、上記従来の特許文献1に開示される気相成長装置では、中間反応による影響は低減させることができるものの、結晶品質の均一性を大幅に向上させることは見込めないという問題点を有している。
なぜなら、TMAとNH3とは、その混合された時点から中間反応が始まり、時系列で基板101上の空間のガス上流側から下流側へ行くにしたがい反応が進行していく。このため、結晶成長に寄与する原料ガス濃度は上流から下流へいくにしたがい減少し、基板101上で形成されるAlGaN層の混晶比の、上流側から下流側にかけての混晶比分布が生じることは避けられないからである。
すなわち、混合する場所を基板101の直前に設置することは、反応室内の壁面における結晶形成を回避し、かつ生成物が排気されてしまう分を減ぜられるという、原材料の使用効率向上という観点からは有効な方法ではあるが、組成の均一性に関しては不十分である。
また、特許文献1及び特許文献2に開示される技術は、いずれも横型MOCVD装置に関するものであるが、横型MOCVD装置の場合、搭載できる基板の枚数が制限される。これは、上述したように、ガスの流れ方向に生じる原料の濃度分布が避けられないため、複数枚の基板をガス流れ方向に設置すると、単枚設置以上に原料の濃度差が現れ、それらの基板への結晶成長に対して混晶比の均一化が望めないからである。
また、基板の加熱領域が増大することから、さらにガスの流れの不均一を誘引し、上流側と下流側とで大きな組成ばらつきや層厚ばらつきを起こす恐れがある。仮に、ガス流れ方向に対して単枚設置になるように、流れの垂直方向に一列に複数枚設置する場合は、ガスを流す反応室(フローチャネル)が大型化し、かつ大流量の原料ガスが必要なことから、ガス消費量も多くなり、材料使用効率の観点からも不経済な効率が悪い装置となる。
したがって、量産を考慮した多数枚結晶成長用のMOCVD装置としては、横型MOCVD装置は不向きと言わざるを得ない。
一方、縦型MOCVD装置の場合、レイアウトの上では基板保持台上で、例えば円形円周方向に多数枚の基板設置が可能であり、ガス流れに対して単枚設置の関係を構築でき、かつ加熱領域面積を限定することが可能となる。しかし、上記〔背景技術〕の欄にて述べた原料ガス種による反応速度の違いから生じる混晶比のばらつき発生の課題を克服しているわけではない。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置、及び半導体素子の製造方法を提供することにある。
本発明の気相成長装置は、上記課題を解決するために、扁平中空円柱状に形成された反応室に設けられた円形の基板保持台における円周部に戴置された複数の基板に向けて、該反応室の中央部から複数のガスを導入して外周方向に上記基板表面に平行に供給することにより、加熱された該基板に膜を成長させる縦型の気相成長装置において、上記複数のガスとして少なくとも4種類以上のガスを上記反応室の中央部にそれぞれ個別に導入するように同心に重ねて形成された複数の縦導入管と、上記複数の縦導入管の各下流側末端に連結し上記ガスを放射状に供給する各流路を形成するように基板に対して互いに平行に設けられた仕切板とを備え、上記各流路を形成する各仕切板におけるガス下流側先端位置は、基板の手前に配置されており、かつ高さ方向において基板に近い側の仕切板から遠い側の仕切板に伴って順次基板に近づく位置に配されていると共に、上記高さ方向において基板に最も近くの第1の仕切板と最も遠くの仕切板との間に設けられている少なくとも1つの仕切板には、その下流側先端部の一定の範囲に複数の開口が設けられていることを特徴としている。
上記の発明によれば、縦型の気相成長装置は、複数のガスとして少なくとも4種類以上のガスを上記反応室の中央部にそれぞれ個別に導入するように同心に重ねて形成された複数の縦導入管と、上記複数の縦導入管の各下流側末端に連結し上記ガスを放射状に供給する各流路を形成するように基板に対して互いに平行に設けられた仕切板とを備えている。
また、各流路を形成する各仕切板におけるガス下流側先端位置は、基板の手前に配置されており、かつ高さ方向において基板に近い側の仕切板から遠い側の仕切板に伴って順次基板に近づく位置に配されている。さらに、上記高さ方向において基板に最も近くの第1の仕切板と最も遠くの仕切板との間に設けられている少なくとも1つの仕切板には、その下流側先端部の一定の範囲に複数の開口が設けられている。
したがって、下流側先端部の一定の範囲に複数の開口が設けられた少なくとも1つの仕切板のガス経路を流れるガスは、仕切板の開口を通して高さ方向において基板に近い方のガス経路へ混入する。この結果、ガスの流れ方向に対して時間差を有して他のガスと混合する。
この結果、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記複数の開口が設けられているのは、前記高さ方向において基板に第2番目に近い第2の仕切板であると共に、上記第2の仕切板とその次に近い第3の仕切板とによって仕切られた流路に供給されるガスは、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスであり、上記第2の仕切板における高さ方向基板側のガス経路に供給されるガスは、V族原料を含有する原料ガスであることが好ましい。なお、III族とは周期律表のIII族を示し、V族とは周期律表のV族を示す。
従来、中央放射方式の縦型の気相成長装置においては、使用ガス流量が多く、ガス流速も非常に大きくなり、特に、III族原料ガスとV族原料ガスとの混合が十分に行われることなく基板面上に到達し、不均一なガスの組成比状態で成膜が行われ、基板面内の組成及び膜厚の均一性が悪く、これにより、例えば半導体の特性が均一にならず、歩留まりが悪いという問題点を有していた。
しかし、本発明においては、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを使用する例えば半導体の成膜において、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを基板の手前で、ガスの流れ方向に対して時間差を有して積極的に混合させる。これによって、III族の材料ガスとV族の材料ガスとの均一拡散を行った後に、基板表面に供給する。
したがって、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを均一分散させ、基板に成膜される組成比・膜厚が均一となり、例えば半導体の特性が均一となり、再現性及び歩留まりが悪いという問題点を解消することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記複数の仕切板に仕切られて放射状に供給される複数のガスは、高さ方向において前記基板に近い方から順に、V族原料を含有するガス、前記所定のIII族原料を含有する第1の原料ガス以外のIII族原料を含有するガス、上記第1の原料ガス、及び窒素ガス又は水素ガスであることが好ましい。
これにより、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを均一分散させ、基板に成膜される組成比・膜厚が均一となり、例えば半導体の特性が均一となり、再現性及び歩留まりが悪いという問題点を解消することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスは、III族のアルミニウム系原料ガスであり、前記V族原料を含有するガスは、V族の窒素含有材料ガスであることが好ましい。
これにより、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスがIII族のアルミニウム系原料ガスであり、V族原料を含有するガスがV族の窒素含有材料ガスである場合において、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスは、トリメチルアルミニウム若しくはトリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、又はトリイソブチルアルミニウムを含有するガスであることが好ましい。
これにより、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスが、トリメチルアルミニウム若しくはトリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、又はトリイソブチルアルミニウムを含有するガスである場合において、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスは、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムであり、前記V族原料を含有するガスは、アンモニア、ジヒドラジン又はジメチルヒドラジンであることが好ましい。
これにより、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスがトリメチルガリウム又はトリエチルガリウムであり、V族原料を含有するガスがアンモニア、ジヒドラジン又はジメチルヒドラジンである場合において、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記開口を有する仕切板における複数の開口の設置範囲におけるガス流れ方向の長さは、前記基板の直径の半分以上、かつ直径以下であることが好ましい。
これにより、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記複数の開口を有する仕切板における少なくとも上記複数の開口が設置されている範囲は、その材質が石英でできていることが好ましい。
これにより、石英は、耐熱性に優れている。また、不純物等の汚染物質を排出しないので、清浄性が高い。
また、本発明の気相成長装置では、前記複数の開口が設けられている仕切板と、該複数の開口が設けられている仕切板よりも高さ方向において基板に遠ざかる方向に隣接する仕切板との間には、高さ方向を互いに平行に仕切る複数のサブ仕切板が設けられていると共に、上記各サブ仕切板におけるガス下流側先端位置は、上記高さ方向において基板に近い側のサブ仕切板から遠い側のサブ仕切板に伴って、上記両側の仕切板のガス下流側先端位置との間で、順次基板に近づく位置に配されていることが好ましい。
これにより、複数の開口が設けられている仕切板と、該複数の開口が設けられている仕切板よりも高さ方向において基板に遠ざかる方向に隣接する仕切板との間を流れるガスを、きめ細かく、時間差を有して他のガスと混合する。
したがって、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記各流路を形成する仕切板を上下方向に移動させる仕切板移動手段が設けられていることが好ましい。
これにより、各仕切板と基板との距離を変えることができる。したがって、原料ガスの種類等に応じて、最適な成長条件を設定することが可能となる。
また、本発明の気相成長装置では、前記複数の基板をそれぞれ独立して回転させると共に、前記円形の基板保持台をその中心軸にて回転させる回転駆動手段が設けられていることが好ましい。
これにより、回転駆動手段により基板を自公転させることによって、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置を提供することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記反応室内における前記基板の成長面の対向面を形成する壁面は、基板平面に対して傾斜していることが好ましい。
すなわち、縦型の気相成長装置においてガスを中央から放射状に供給する場合、外周に近づくにつれて、ガスの流速が低下する。
しかし、反応室内における前記基板の成長面の対向面を形成する壁面を、基板平面に対して傾斜させることによって、ガスの流速が低下するのを抑制することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記壁面の傾斜角は、放射状に広がるガスの流れ方向の断面積が一定になるように設定されていることが好ましい。
これにより、縦型の気相成長装置においてガスを中央から放射状に供給する場合に、外周に向かっても、ガスの流速を一定に保つことができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記基板のガス上流側末端位置よりもガス上流側に、基板加熱用とは別個に加熱手段が設けられていることが好ましい。
これにより、加熱手段にてガスを予備加熱することができる。
また、本発明の気相成長装置では、前記ガスを排出する排気口が複数設けられていることが好ましい。
これにより、排出ガスを複数の排気口から同時かつ均一に排出することができる。
本発明の半導体素子の製造方法は、上記課題を解決するために、上記記載の気相成長装置を用いて、アルミニウム−ガリウム−窒素を含有する化合物半導体結晶を結晶成長させて、半導体素子を製造することを特徴としている。
上記の発明によれば、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る半導体素子の製造方法を提供することができる。
本発明の気相成長装置は、以上のように、複数のガスとして少なくとも4種類以上のガスを上記反応室の中央部にそれぞれ個別に導入するように同心に重ねて形成された複数の縦導入管と、上記複数の縦導入管の各下流側末端に連結し上記ガスを放射状に供給する各流路を形成するように基板に対して互いに平行に設けられた仕切板とを備え、上記各流路を形成する各仕切板におけるガス下流側先端位置は、基板の手前に配置されており、かつ高さ方向において基板に近い側の仕切板から遠い側の仕切板に伴って順次基板に近づく位置に配されていると共に、上記高さ方向において基板に最も近くの第1の仕切板と最も遠くの仕切板との間に設けられている少なくとも1つの仕切板には、その下流側先端部の一定の範囲に複数の開口が設けられているものである。
本発明の半導体素子の製造方法は、以上のように、上記記載の気相成長装置を用いて、アルミニウム−ガリウム−窒素を含有する化合物半導体結晶を結晶成長させて、半導体素子を製造する方法である。
それゆえ、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る縦型の気相成長装置、及び半導体素子の製造方法を提供するという効果を奏する。
本発明の一実施形態について図1ないし図14に基づいて説明すれば、以下の通りである。
本実施の形態の気相成長装置は、MOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)にて例えば半導体に結晶成長させるために用いられるものであり、その基本構成について、図1に基づいて説明する。図1は上記気相成長装置の構成を示す概略断面図である。
図1に示すように、気相成長装置10は、縦型の気相成長装置であり、円盤状(円形)の基板保持台としてのサセプタ20と円盤状の隔壁11とを互いに水平方向に所定間隔で対向配置することにより、サセプタ20と円盤状の隔壁11との間に偏平中空円柱状の反応室2を形成したものである。
上記隔壁11の中央部には、原料ガス及びサブフローガスが導入されるガス導入部3が設けられ、反応室2の外周には排気口としての複数の排気ポート4が設けられている。また、隔壁11の外周はサセプタ20の周囲を囲むように屈曲しており、サセプタ20と隔壁外周壁11aとの間に下方に向かう排気通路が形成されている。
上記円盤状のサセプタ20には、図2(a)に示すように、基板1を保持する基板保持部である基板ホルダ21がサセプタ20の円周部における同一円周上に複数個、等間隔で配置されている。上記基板1は、この基板1上に形成される半導体薄膜の成長面を上に向けた形態で、基板ホルダ21上に1枚載置されている。本実施の形態の場合、図2(a)に示すように、例えば、基板直径2インチの基板1を12枚設置している。なお、図2(a)では、基板ホルダ21の上に、1個の基板1が載置されているが、必ずしもこれに限らず、例えば、図2(b)に示すように、基板ホルダ21の上に、複数個の基板1が載置されていてもよい。
上記サセプタ20における基板ホルダ21の下部には、図1に示すように、基板1を成長温度に加熱する基板加熱用ヒータ22が設けられていると共に、基板1の上流側である、サセプタ20の中央部分にも、導入ガスを予備加熱するために加熱手段としての予備加熱ヒータ23が設置されている。したがって、供給されるガスが基板1に到達される前に加熱されるようになっている。
上記基板1は、設置場所で基板中心軸にて回転し、かつサセプタ20もその中心軸にて回転するようになっている。この結果、基板1は反応室2内で自転及び公転することになる。すなわち、気相成長装置10は、例えば図3に示すように、回転駆動手段としての自公転駆動装置30を有している。この自公転駆動装置30では、サセプタ20と一体になった逆転用大歯車34が逆転用大歯車回転軸34aを中心として回転駆動されることにより、サセプタ20が回転する。このとき、この逆転用大歯車34に歯合する小歯車33が中心シャフト32を中心に回転することにより、基板1が自転するようになっている。
次に、上記ガス導入部3は、図1に示すように、同心円状に分離された縦導入管としての導入管12a〜12dによって、4つのガス導入ポート3a〜3dに分かれている。そして、上記複数の導入管12a〜12dの各下流側末端は、基板1に対して互いに平行に設けられた仕切板13a〜13dに連結されている。この結果、各ガスの流路は、円筒配管である導入管12a〜12dとドーナツ状円板である仕切板13a〜13dとによって仕切られた流路を形成することとなる。したがって、ガス導入ポート3a〜3dからそれぞれ導入されたガスは、同心円状に分離された導入管12a〜12d内を鉛直下方向に流れ、下方末端にて水平方向に方向転換し、基板1面に平行に放射状に流れ、基板1上に供給されることになる。
ここで、本実施の形態では、各流路を形成する各仕切板13a〜13dにおけるガス下流側先端位置は、高さ方向において基板1に近い側の仕切板13aから遠い側の仕切板13cに伴って、順次、基板1に近づく位置に配されている。この結果、上記ガス導入ポート3a〜3dからそれぞれ導入されたガスは、水平方向に流れを方向転換した後も、ある一定距離は各ガスが混合しないように仕切板13a〜13dによって分離供給される。
また、本実施の形態では、サセプタ20側から2番目に配設された第2の仕切板としての仕切板13bには、複数の開口としての複数個の貫通孔Hが設けられ、ガスを流した際、時間差をもって他ガスと混合することが可能となっている。以降の説明においては、仕切板13a〜13dのうち、上記貫通孔Hを有する仕切板13bを「拡散プレートDP」と称する。なお、上記構成においては、例えば、2番目に配設された第2の仕切板としての仕切板13bに、複数の開口としての複数個の貫通孔Hが設けられているが、本発明においては必ずしもこれに限らない。すなわち、より多くの種類のガスがある場合には、貫通孔Hは、高さ方向において基板1に最も近くの第1の仕切板と最も遠くの仕切板との間に設けられている少なくとも1つの仕切板に設けられていれば足りる。
上記貫通孔Hは、図4に示すように、仕切板13bにおける1つの円周上又は複数の同心円周上に等間隔に配置された複数の円形の孔となっている。ただし、孔の形状及び配置はこの例に限定されるものではない。例えば、孔の形状は、円のみならず、三、四、五…角形等の多角形や楕円でもよい。また、図5に示すように、仕切板13bにおける1つの円周上又は複数の同心円周上に等間隔に設けられた複数のスリットSであってもよい。
本実施の形態では、上記仕切板13a〜13dは、材質が石英からなっている。その理由は、加熱された基板1からの熱輻射により仕切板13a〜13dの温度が上昇し、反応生成物が付着した場合に洗浄が容易であるためである。また、金属製にした場合、導入する水素ガスによる水素脆性や過昇温となった場合の金属組織変化や金属疲労が懸念されるためである。すなわち、気相成長装置10において、温度が上昇する可能性がある部位に関しては、耐熱性に優れ、かつ不純物等の汚染物質を排出しない、例えば石英等を使用するのが好ましい。なお、本実施の形態では、全ての仕切板13a〜13dの材質を石英としているが、本発明においては、少なくとも複数の貫通孔Hが設置されている範囲が石英でできていれば足りる。貫通孔Hの設置範囲は昇温する可能性があり、清浄性も考慮する必要があるためである。
一方、本実施の形態では、上記導入管12a及び第1の仕切板としての仕切板13a、導入管12b及び第2の仕切板としての仕切板13b、導入管12c及び最も遠くの仕切板及び第3の仕切板としての仕切板13c、並びに導入管12d及び壁面としての仕切板13dは、それぞれ一体化されていると共に、各導入管12a〜12dも図示しない支持部材によって一体化されている。したがって、導入管12a〜12d及び仕切板13a〜13dは、一体化された一つのノズル14として構成されている。
そして、上記ノズル14は、仕切板移動手段としてのベローズ15により上下方向に動かすことが可能であり、これにより、基板1の上方のスペースを調整することができるようになっている。
すなわち、ノズル14は一体に手動で上下移動することができ、所望の位置になれば、ノズル14を固定するフランジ16を、このフランジ16の側方に設けられた図示しない支持固定部にて支持固定することができるようになっている。
なお、ベローズ15を用いているのは、ノズル14を360度均等に高さ調整できること、摺動部分がないので、摺動部分による屑がでないこと、及びボルト等では潤滑油が必要となるがベローズ15では不要であり、クリーンであること等による。
上記ベローズ15にて、ノズル14を動かすことができる目的について説明する。
すなわち、本実施の形態の気相成長装置10では、例えば、窒化物系発光デバイスの気相成長に使用される。このような窒化物系発光デバイスは、通常、異種材料をヘテロエピタキシャルさせた多層膜構造をしており、後述する図10に示すように、基板1と仕切板13dとの間の距離に特性の依存性を有している。図10は、成長条件での一例であり、特性を変化させるために流量条件を変更したり基板1の温度を変えたりした場合、この依存性が変わる可能性が十分にある。また、デバイスの種類が変わり、素子構造が変われば、やはりこの距離の最適値は変わる。したがって、成長条件や製造デバイスを変更した場合等においては、基板1と仕切板13dとの間の距離等を変更するのが好ましい。
従来の気相成長装置は、この距離を概ねの範囲を定めて固定しているものが殆どである。基板1と仕切板13dとの間の距離を固定していることは、製造デバイスも成長条件も殆ど変更しない場合等では良いが、上述のように、様々な状況に対応するためには不適である。
また、本実施の形態では、ガスが水平方向に流れ方向を変え、放射状に供給されるとき、ガス流断面積増大によるガス流速の低下を回避するために、一番上側の仕切板13dにおいては、基板1の上方部分の一定区間(図中のAB間)には傾斜を持たせている。すなわち、仕切板13dは、その下側に設けられている仕切板13cの上方に屈曲点Aを有し、この屈曲点Aから仕切板13dの自由端Bまで一定の傾斜角θを維持して、基板1の上方部分で立ち下がるように傾斜している。
このときの傾斜角θは、屈曲点Aの位置のサセプタ半径をrA、仕切板13dの屈曲点Aと基板1の表面との距離をhA、仕切板13dの自由端Bの位置のサセプタ半径をrB、仕切板13dの自由端Bと基板1の表面との距離をhBとすると、ガスの流れ方向に対する断面積(円筒状面積)が一定になるように、
(2π・rA)・hA=(2π・rB)・hB
∴ rA・hA=rB・hB
の関係を満たしている。これにより、放射状に広がるガスの流速が、断面積に応じて低下することを抑制することが可能となる。
次に、上記構成の気相成長装置10における気相成長方法について、図1に基づいて説明する。
先ず、サセプタ20の基板ホルダ21に基板1を載置する。この基板1は、その下部に設置された基板加熱用ヒータ22により成長温度に加熱される。また、ノズル14の導入ガスは、基板1の上流側に設けた予備加熱ヒータ23にて、基板1に到達される前に加熱される。
基板1上を通過したガスは、基板1の下流側に設置された排気ポート4から排出される。この排気ポート4は、下流側に、サセプタ20の最外周から見て下方向に例えば6個設置されており(図1においては6個中2個を図示する)、上方から見て対称となる角度60度毎の位置関係に設置されている。この理由は、排気ポート4の位置によりガスの流れが依存性を持ち、均一性を乱すことを回避するためである。すなわち、複数個の排気ポート4をガスの流れ方向に対して対称関係を満足するよう配置することにより極力排気位置の依存性を低減している。したがって、該位置関係に限定されるものではなく、ガスの流れに対して偏重した排気にならなければ良い。
なお、図1においては、図の煩雑を避けるため、測定機器類、水冷機構、機構部品、及びラジエーションシールド等その他構成要素部品は図には示していない。また、本実施の形態では、基板1の成長面が上向きとなるフェイスアップの方式をとったが、必ずしもこれに限らず、成長面が下向きとなるフェイスダウン方式でも構わない。さらに、ガスは、反応室2の上方から導入管12a〜12dを通して下向きに導入したが、フェイスダウン方式時等には、逆に反応室2の下方から上向きに導入することも可能である。
次に、気相成長装置10を用いて、基板1にAlGaN層を形成する際の成長条件を以下に示す。
本実施の形態では、ガス導入ポート3a〜3dには、それぞれNH3、TMG+水素ガス、TMA+水素ガス、及び窒素ガスが導入される。これより、中間反応が顕著なTMAは貫通孔Hを有する仕切板13bである拡散プレートDPを介して基板1上へ供給されることになる。また、予備加熱用の予備加熱ヒータ23により各ガスが反応前に加熱されることになるが、特に反応性が低いNH3に対して有効で熱分解が進行することになる。
本実施の形態では、導入ガスの流量について、例えば、ガス導入ポート3aから150SLM(2.535×102 Pa m3/s)のNH3を導入し、ガス導入ポート3bから15SCCM(2.535×10−2 Pa m3/s)のTMGと50SLM(8.45×101 Pa m3/s)の水素ガスとを導入し、ガス導入ポート3cから1SCCM(1.69×10−3 Pa m3/s)のTMAと50SLM(8.45×101 Pa m3/s)の水素ガスとを導入し、ガス導入ポート3dから150SLM(2.535×102 Pa m3/s)の窒素ガスを導入する。
また、基板1の温度は例えば1100℃で成長を行っている。本実施の形態では、いずれも上記成長条件を使用したが、これは一例であって限定されるものではない。
図6に、拡散プレートDPの効果を確認するために、拡散プレートDPを用いて成長した場合と、拡散プレートDPの代わりに孔を設けていない仕切板を用いてAlGaN膜を成長した場合とに関し、AlGaN膜中のAl混晶比xを比較した結果を示す。横軸は直径2インチの基板1上の位置において、ガス流れ方向に対して0mmがガス上流側であり、50mmがガス下流側となっている。縦軸はAlXGa1−XNで表記するAl混晶比xである。なお、本実施の形態では、Alの反応状態をより顕著に把握するために、基板1及びサセプタ20の回転を停止した状態で成長を行った。
図6に示すように、拡散プレートDPではなく、孔のない仕切板を用いて成長した場合、すなわち、従来方法で成長した場合には、上流から下流にかけてAl混晶比xが急激に単調減少しており、上記で述べた中間反応の影響が出ていることがわかる。一方、拡散プレートDPを用いた場合には、時間差混合による分散効果により中間反応の影響が低減し、単調減少の傾きが拡散プレートDPでない場合に比べて明らかに小さく、組成分布が改善されていることがわかる。
以上の結果から、拡散プレートDPの効果は明白であり、Al混晶比xのばらつきを低減することができた。
また、図7に、同じく拡散プレートDPの使用有無による成長レートの比較を示す。横軸は図6と同様の基板位置を示し、縦軸はその位置における膜厚測定結果及び成長時間からの成長レートの算出値を示す。基板1の自公転は行っていない。
図7に示すように、拡散プレートDPを用いた場合の方が上流域を除き、成長レートが大きいことがわかる。
このことは、拡散プレートDPを用いない従来法では、上流側で激しく起こる反応により、上流側の成長レートが極端に大きくなることに対して、拡散プレートDPを用いた場合には拡散プレートDP上に設けられた貫通孔Hにより原料が時間差を持って分散供給されることから効率よく基板1上に原料が供給され、同一成長条件においても成長効率が良いことを意味する。
すなわち、投入される原料の量が同じであっても成長レートが大きいということは、それだけ原料の使用効率が良いことになる。また、成長レートが大きいということは、同じ膜厚の構造を持つ素子を成長させる場合にはそれだけ成長時間が短くなり、装置の稼働率も向上することになる。
次に、図8に、拡散プレートDPと基板1との位置関係におけるAl混晶比分布に対する依存性を示す。図8の横軸の値は、拡散プレートDPの下流側先端位置(他ガスとの混合位置)を0とした場合の水平方向における基板1の上流側端の位置を示している。すなわち、拡散プレートDPと基板1との相対位置を表しており、例えば0は拡散プレートDPの下流側先端と基板1の上流側端とが上方から見て一致している位置である。また、負値の場合は、基板1の上方に拡散プレートDPが存在する位置であり、正値の場合には基板1と拡散プレートDPとが上方から見て重なりがない位置関係にある場合となる。縦軸はAl混晶比xの分布を示しており、成長させた12枚の基板1について、各基板1上にて格子状に5mm間隔で測定したAl混晶比xの最大値と最小値との差分を膜の設計組成値で割った値、すなわち膜の設計組成値に対するばらつき(100分率)の12枚平均値になる(グラフ中の白丸)。グラフ中のエラーバーは12枚の基板1における膜の設計組成値に対するばらつき(100分率)の最大値・最小値を示している。
例えば、12枚の基板上にAlGaN膜を成膜したときの、各基板1(A〜L)の膜組成が、表1のようになっていたとする。膜の設計組成値は例えば5.5%である。この場合、各基板1の最大/最小値の差分Δを求め、膜の設計組成値Sに対して、どの程度ばらついていたかを示すために、差分Δを膜の設計組成値S=5.5%で割り、分布を出すR。そして、各基板1の分布の最大値(max)/最小値(min)をエラーバーにし、12枚の分布の平均値を○にてプロットしている。なお、この表1は、Al混晶比xの平均値及びエラーバーを説明するためのものであり、図8等に示すデータとは一致していない。
図8に示すように、横軸が概ね0mm〜100mmのときばらつきが小さく4%以下になっていることがわかる。負値になると急激に分布が劣化するのは、おそらく基板1からの熱輻射により拡散プレートDPが過熱され、拡散プレートDPの貫通孔Hで反応が進行し、反応物生成により目詰まりが生じ、基板1上に安定して原料ガスが供給されなくなるためであると考えられる。また、正値50mm以上で徐々に分布が劣化していくのは、基板1と拡散プレートDPとの距離が大きくなり、拡散プレートDPによる時間差供給の効果が薄れてしまうためであると考えられる。したがって、基板1と拡散プレートDPとの位置関係に適正値が存在することがわかった。
次に、図9に、拡散プレートDP上に設けた貫通孔Hの設置範囲とAl混晶比xの分布との関係を示す。横軸は貫通孔Hの設置範囲をガス流れ方向に対する長さで表した値である。縦軸はAl混晶比xの分布を示しており、成長させた12枚の基板1について、各基板1上にて格子状に5mm間隔で測定したAl混晶比xの最大値と最小値との差分を膜の設計組成値で割った値、すなわち膜の設計組成値に対するばらつき(100分率)の12枚平均値になる(グラフ中の白丸)。グラフ中のエラーバーは12枚の基板1における膜の設計組成値に対するばらつき(100分率)の最大値・最小値を示している。
図9に示すように、貫通孔Hの設置範囲が25mm〜50mmの範囲で4%以下の概ね良好な分布が得られていることがわかる。これは、貫通孔Hの設置範囲が25mm以下の場合、拡散プレートDPからの時間差拡散の度合が不足し十分均一な反応が起こらないことが考えられる。また、50mm以上の場合には、基板1から遠すぎる範囲で拡散混合が開始され中間反応が起こるため、基板1上に新鮮な原料ガスが十分に供給されず反応が不均一になることが考えられる。
本結果により、拡散プレートDPに設置する貫通孔Hの設置範囲は概ね基板1の直径の1/2以上であり、かつ基板1の直径以下であることが望ましいといえる。
次に、図10に、基板1と仕切板13dとの間の距離を変えた場合のAl混晶比xの分布を示す。横軸は基板1と仕切板13dとの間の距離(高さ方向)を示している。縦軸はAl混晶比xの分布を示しており、成長させた12枚の基板1について、各基板1上にて格子状に5mm間隔で測定したAl混晶比xの最大値と最小値との差分を膜の設計組成値で割った値、すなわち膜の設計組成値に対するばらつき(100分率)の12枚平均値になる(グラフ中の白丸)。グラフ中のエラーバーは12枚の基板1における膜の設計組成値に対するばらつき(100分率)の最大値・最小値を示している。
図10に示すように、基板1と仕切板13dとの間の距離が6mm以上で分布が良好であり、4%以下を達成していることがわかる。基板1と仕切板13dとの間の距離が6mm未満で分布が劣化しているのは、おそらくガスの流れが乱れ、この乱流により反応が不均一になるためであると考えられる。したがって、基板1と仕切板13dとの間の距離が6mm以上であれば本実施の形態の効果は有効ということになるが、あまりこの距離を大きくすることは材料費の高騰になる懸念がある。すなわち、成長時圧力が一定という条件で、基板1と仕切板13dとの間の距離を大きくすることは、ガス流量を増加させることを意味し、原材料費用の増大を招くことになる。
この結果、成長時に発生するコストを考慮した場合、基板1と仕切板13dとの間の距離はできるだけ小さく、かつ乱流が発生しない領域で該距離を設定する必要がある。本実施の形態では、6〜10mmのときが最適な基板1と仕切板13dとの間の距離と言える。
ただし、基板1と仕切板13dとの間の距離は、成長炉の形態やガス流量、成長温度等の成長条件に依存するものであり、一概に規定するものではない。その系に適切な空間高さが存在し、その値になるよう距離設定ができる、すなわち、ノズル14の高さ調整機構を有することが重要となる。
次に、図11に、仕切板13dに傾斜がある場合と傾斜がない場合とについて、Al混晶比xの分布の比較を行った結果を示す。仕切板13dの傾斜角θは上述の通り放射状に広がるガス流の流れ方向断面の断面積が一定になるように設定されている。横軸は直径2インチの基板1上の位置を示している。ガス流れ方向に対して、0mmがガス上流側であり、50mmがガス下流側となっている。縦軸はAl混晶比xを示す。なお、本実施の形態でも、Alの反応状態をより顕著に見るために、基板1及びサセプタ20の回転を停止した状態で成長を行った。
図11に示すように、両条件とも上流から下流側にかけてAl混晶比xの単調減少を示すが、わずかながら傾斜有りの方が傾き(減少度合)は小さい。したがって、傾斜角θを持たせた方がAl混晶比の分布は良くなることが示唆されることがわかった。なお、仕切板13dに上記傾斜角θを持たせた場合、上述のとおり、ガス流方向の断面積が一定にされているため、一般的にはガス流速が一定に近づく。ただし、基板1が加熱されているため、実際には基板1上では流速は上がる傾向となる。
次に、図12に、ガス上流側に予備加熱ヒータ23を設置した場合と、該予備加熱ヒータ23を設置しなかった場合とについて、成長レートの比較を行った結果を示す。
予備加熱ヒータ23近傍に設置した熱電対温度は例えば300℃に設定したが、この温度は一例であって、これに限定されるものではない。横軸は直径2インチの基板1上の位置を示している。ガス流れ方向に対して、0mmがガス上流側であり、50mmがガス下流側となっている。縦軸はその位置における膜厚測定結果及び成長時間からの成長レートの算出値を示す。なお、本実施の形態でも、Alの反応状態をより顕著に反映させるために、基板1及びサセプタ20の回転を停止した状態で成長を行った。
図12に示すように、予備加熱を行った場合は、行わなかった場合に比較して基板1の全体に渡り成長レートが高いことがわかる。この理由は、予備加熱によりノズル14の最底を流れるNH3ガスの分解が促進され反応性が活性になったため、膜形成する原子が増加したためと考えられる。したがって、同一成長条件において成長効率が良いことを意味する。すなわち、投入される原料の量が同じであっても成長レートが大きいということは、それだけ原料の使用効率が良いことになる。また、成長レートが大きいということは、同じ膜厚の構造を持つ素子を成長させる場合にはそれだけ成長時間が短くなり、気相成長装置10の稼働率も向上することになる。
以上の説明は、貫通孔Hが円形の場合についての場合を説明しているが、前述した貫通孔Hが楕円、多角形又はスリットSであっても、同様の効果を得ることができる。
なお、本実施の形態の気相成長装置10においては仕切板13a〜13dの間には、さらなる仕切板は存在しないが、必ずしもこれに限定されず、例えば、図13に示すように、仕切板13bと仕切板13cとの間に、多段プレートMを設けた気相成長装置40とすることが可能である。この形態においても、気相成長装置10と同様の効果が得られる。
すなわち、図13は別形態のノズルのみの断面を模式的に示した図であり、TMAを流す流路である、貫通孔Hを設けた仕切板13bと仕切板13cとの間において、先端部にサブ仕切板としての多段プレートMを設ける形態をとる。
具体的には、仕切板13bと仕切板13cとの間に、ある一定の長さをもった3枚のドーナツ状板を設ける。この3枚のドーナツ状板の各先端は、断面で考えた場合、仕切板13bの先端と仕切板13cの先端とを結ぶライン上に位置するのが好ましい。なお、設置するドーナツ板の数量はこれに限ったものでなく、反応炉の大きさ、形状等に依存するものである。
これにより、流れてきたガスは、多段プレートMにて流れが分割され、それぞれ異なる流路長をもって基板上へ供給されるため、結果として分散供給の効果を有することになる。
最後に、上述した気相成長装置10を用いた具体的な半導体素子としての例えば半導体レーザ素子の製造方法について、図14に基づいて説明する。図14は、GaN系の半導体レーザ素子50を複式的に図解した断面図である。なお、半導体素子は、必ずしも半導体レーザ素子に限らず、LED素子等の半導体素子でもよい。
上記半導体レーザ素子50の作製に際しては、図14に示すように、まず、厚さ400μmのn型GaN基板51を、MOCVD(有機金属気相堆積)装置である上記気相成長装置10内に搬入する。次に、キャリアガス(H2)を流しながらTMG(トリメチルガリウム)、NH3、及びSiH4を導入し、n型GaN基板51に約1125℃の基板温度の下でSiドープn型GaN下部コンタクト層52を厚さ4μmに成長させる。続いて、TMA(トリメチルアルミニウム)を所定流量で導入し、同じ基板温度の下で厚さ0.95μmのn型Al0.1Ga0.9N下部クラッド層53を形成する。この後、TMAの供給を停止し、同じ基板温度の下でSiドーブn型GaN下部ガイド層54を厚さ0.1μmに成長させる。
その後、TMG及びSiH4の供給を停止し、キャリアガスをH2からN2に代えて基板温度を約725℃まで下げた後に、TMI(トリメチルインジウム)及びTMGを導入し、InVGa1−VN(0≦V≦1)障壁層を成長させる。続いて、TMIの供給を所定量にまで増加させ、InWGa1−WN(0≦W≦1)井戸層を成長させる。InGaN障壁層とInGaN井戸層との形成を繰り返して交互積層構造(障壁層/井戸層/・・・井戸層/障壁層)からなる多重量子井戸を含む活性層55を形成する。InGaNの混晶からなる障壁層と井戸層との組成比及び厚さは、発光波長が370〜430nmの範囲内になるように設計され、井戸層の数は例えば3層とすることができる。
活性層55の形成後、TMI及びTMGの供給を停止して、活性層55よりも下のGaN系半導体層であるSiドープn型GaN下部コンタクト層52、n型Al0.1Ga0.9N下部クラッド層53、及びSiドーブn型GaN下部ガイド層54の成長温度よりも低い約1050℃まで基板温度を高める。ここで、キャリアガスをN2からH2に代えて、TMG、TMA、及びp型ドーピング剤のビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を導入し、例えば厚さ18nmのMgドープp型Al0.2Ga0.8N蒸発防止層56を形成する。
次に、TMAの供給を停止し、TMGの供給量を調整して、同じ基板温度で例えば厚さ0.1μmのMgドープp型GaN上部ガイド層57を形成する。続いて、TMAを所定流量で導入してTMGの流量を調整し、同じ基板温度で例えば厚さ0.5μmのp型Al0.1Ga0.9N上部クラッド層58を形成する。そして、TMAの供給を停止してTMGの供給量を調整し、同じ基板温度で例えば厚さ0.1μmのMgドープp型GaN上部コンタクト層59を形成し、これによってエビタキシャル結晶成長を終了する。結晶成長終了後、TMG及びCp2Mgの供給を停止して基板温度を下げ、室温にてウェハを気相成長装置10から取り出す。
得られたエビタキシャルウェハは、複数のレーザ素子チップに加工される。まず、p型用電極部分の形成に際して、幅2μmのストライプ状のレジストをMgドープp型GaN上部コンタクト層59上に形成し、反応性イオンエッチング(RIE)によってリッジストライプ部60を形成する。そして、電流狭窄のためのSi02誘電体膜61を蒸着によって形成する。次いで、レジストを剥離してMgドープp型GaN上部コンタクト層59を露出させ、Pd/Mo/Auの順序で蒸着してp型用電極62を形成する。
その後、n型GaN基板51の第二主面を研磨等で削ることにより、ウェハ厚さを140μmにし、ウェハを分割し易いようにする。そして、n型GaN基板51の第二生面上にTi/A1の順序で蒸着してn型用電極63を形成する。n型用電極まで形成されたウェハは、劈開してバー状に分割され、劈開面からなる共振器端面が形成される。このとき、共振器長は、例えば500μmに設定される。その後、各バーをリッジストライプと平行にダイシングして分割し、複数のレーザ素子チップを得る。
以上のプロセスにより、図14に示すGaN系の半導体レーザ素子50が得られる。
このように、本実施の形態の縦型の気相成長装置10・40は、複数のガスとして少なくとも4種類以上のガスを反応室2の中央部にそれぞれ個別に導入するように同心に重ねて形成された複数の導入管12a〜12dと、この複数の導入管12a〜12dの各下流側末端に連結しガスを放射状に供給する各流路を形成するように基板1に対して互いに平行に設けられた仕切板13a〜13dとを備えている。また、各流路を形成する各仕切板13a〜13cにおけるガス下流側先端位置は、基板1の手前に配置されており、かつ高さ方向において基板1に近い側の仕切板13aから遠い側の仕切板13cに伴って順次基板1に近づく位置に配されている。さらに、高さ方向において基板1に最も近くの仕切板13aと最も遠くの仕切板13cとの間に設けられている少なくとも1つの仕切板13bには、その下流側先端部の一定の範囲に複数の貫通孔Hが設けられている。
したがって、下流側先端部の一定の範囲に複数の貫通孔Hが設けられた少なくとも1つの仕切板13bのガス経路を流れるガスは、仕切板13bの貫通孔Hを通して高さ方向において基板1に近い方のガス経路へ混入する。この結果、ガスの流れ方向に対して時間差を有して他のガスと混合する。
この結果、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置10・40を提供することができる。
すなわち、本実施の形態の気相成長装置10・40は、多数枚を成長する場合において、特に空間反応が活性な原料ガスを用いて混晶系材料を成長させる場合に、結晶品質が均質な膜形成を可能とすることができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、複数の貫通孔Hが設けられているのは、高さ方向において基板1に第2番目に近い仕切板13bであると共に、この仕切板13bとその次に近い仕切板13cとによって仕切られた流路に供給されるガスは、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスであり、仕切板13bにおける高さ方向基板側のガス経路に供給されるガスは、V族原料を含有する原料ガスであることが好ましい。
すなわち、従来、中央放射方式の縦型の気相成長装置においては、使用ガス流量が多く、ガス流速も非常に大きくなり、特に、III族原料ガスとV族原料ガスとの混合が十分に行われることなく基板面上に到達し、不均一なガスの組成比状態で成膜が行われ、基板面内の組成及び膜厚の均一性が悪く、これにより、例えば半導体の特性が均一にならず、歩留まりが悪いという問題点を有していた。
しかし、本実施の形態においては、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを使用する例えば半導体の成膜において、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを基板1の手前で、ガスの流れ方向に対して時間差を有して積極的に混合させる。これによって、III族の材料ガスとV族の材料ガスとの均一拡散を行った後に、基板1の基板表面に供給する。
したがって、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを均一分散させ、基板1に成膜される組成比・膜厚が均一となり、例えば半導体の特性が均一となり、再現性及び歩留まりが悪いという問題点を解消することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、複数の仕切板13a〜13dに仕切られて放射状に供給される複数のガスは、高さ方向において基板1に近い方から順に、V族原料を含有するガス、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガス以外のIII族原料を含有するガス、第1の原料ガス、及び窒素ガス又は水素ガスであることが好ましい。
これにより、III族の原料ガスとV族の原料ガスとを均一分散させ、基板1に成膜される組成比・膜厚が均一となり、例えば半導体の特性が均一となり、再現性及び歩留まりが悪いという問題点を解消することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスは、III族のアルミニウム系原料ガスであり、V族原料を含有するガスは、V族の窒素含有材料ガスであることが好ましい。
これにより、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスがIII族のアルミニウム系原料ガスであり、V族原料を含有するガスがV族の窒素含有材料ガスである場合において、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置10・40を提供することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスは、トリメチルアルミニウム若しくはトリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、又はトリイソブチルアルミニウムを含有するガスである場合において、基板1に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置10・40を提供することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、所定のIII族原料を含有する第1の原料ガスがトリメチルガリウム又はトリエチルガリウムであり、V族原料を含有するガスがアンモニア又はジヒドラジン又はジメチルヒドラジンである場合において、基板1に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置10・40を提供することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、貫通孔Hを有する仕切板13bにおける複数の貫通孔Hの設置範囲におけるガス流れ方向の長さは、基板1の直径の半分以上、かつ直径以下であることが好ましい。
これにより、基板1面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置10・40を提供することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、複数の貫通孔Hを有する仕切板13bにおける少なくとも複数の貫通孔Hが設置されている範囲は、その材質が石英でできていることが好ましい。
これにより、石英は、耐熱性に優れている。また、不純物等の汚染物質を排出しないので、清浄性が高い。
また、本実施の形態の気相成長装置40では、複数の貫通孔Hが設けられている仕切板13bと、この複数の貫通孔Hが設けられている仕切板13bよりも高さ方向において基板1に遠ざかる方向に隣接する仕切板13cとの間には、高さ方向を互いに平行に仕切る複数の多段プレートMが設けられていると共に、多段プレートMにおけるガス下流側先端位置は、高さ方向において基板1に近い側の多段プレートMから遠い側の多段プレートMに伴って、両側の仕切板13b・13cのガス下流側先端位置との間で、順次、基板1に近づく位置に配されていることが好ましい。
これにより、複数の貫通孔Hが設けられている仕切板13bと、該複数の貫通孔Hが設けられている仕切板13bよりも高さ方向において基板1に遠ざかる方向に隣接する仕切板13cとの間を流れるガスを、きめ細かく、時間差を有して他のガスと混合する。
したがって、基板1に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置40を提供することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、各流路を形成する仕切板13a〜13dが一体となったノズル14を上下方向に移動させるベローズ15が設けられていることが好ましい。
これにより、各仕切板13a〜13dと基板1との距離を変えることができる。したがって、原料ガスの種類等に応じて、最適な成長条件を設定することが可能となる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、複数の基板1をそれぞれ独立して回転させると共に、円形のサセプタ20をその中心軸にて回転させる自公転駆動装置30が設けられていることが好ましい。
これにより、自公転駆動装置30によって、基板1を自公転させることによって、基板1に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る気相成長装置10・40を提供することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、反応室2内における基板1の成長面の対向面を形成する壁面としての仕切板13dは、基板1の平面に対して傾斜していることが好ましい。
すなわち、縦型の気相成長装置10・40においてガスを中央から放射状に供給する場合、外周に近づくにつれて、ガスの流速が低下する。
しかし、反応室2内における基板1の成長面の対向面を形成する仕切板13dを、基板1の平面に対して傾斜させることによって、ガスの流速が低下するのを抑制することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、仕切板13dの傾斜角θは、放射状に広がるガスの流れ方向の断面積が一定になるように設定されていることが好ましい。
これにより、縦型の気相成長装置においてガスを中央から放射状に供給する場合に、外周に向かっても、ガスの流速を一定に保つことができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、基板1のガス上流側末端位置よりもガス上流側に、基板1の加熱用とは別個に予備加熱ヒータ23が設けられていることが好ましい。
これにより、予備加熱ヒータ23にてガスを予備加熱することができる。
また、本実施の形態の気相成長装置10・40では、ガスを排出する排気ポート4が複数設けられていることが好ましい。
これにより、排出ガスを複数の排気ポート4から同時かつ均一に排出することができる。
また、本実施の形態の半導体素子の製造方法では、気相成長装置10・40を用いて、アルミニウム−ガリウム−窒素を含有する化合物半導体結晶を結晶成長させて、GaN系の半導体レーザ素子50を製造する
したがって、基板1面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現し得る例えばGaN系の半導体レーザ素子50の製造方法を提供することができる。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。