以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、この発明に係る楽音信号制御装置を適用した電子楽器の全体構成の一実施例を示すハード構成ブロック図である。本実施例に示す電子楽器は、マイクロプロセッサユニット(CPU)1、リードオンリメモリ(ROM)2、ランダムアクセスメモリ(RAM)3からなるマイクロコンピュータによって制御される。CPU1は、この電子楽器全体の動作を制御するものである。このCPU1に対して、データ及びアドレスバス1Dを介してROM2、RAM3、記憶部4、ピアノエレメント操作子部5、表示部6、設定操作検出部7、演奏操作検出部8、音源/効果部9、MIDIインタフェース(I/F)10、通信インタフェース(I/F)11がそれぞれ接続されている。更に、CPU1には、タイマ割込み処理(インタラプト処理)における割込み時間や各種時間を計時するタイマ1Aが接続されている。例えば、タイマ1Aはクロックパルスを発生し、発生したクロックパルスをCPU1に対して処理タイミング命令として与える、あるいはCPU1に対してインタラプト命令として与える。CPU1は、これらの命令に従って各種処理を実行する。
ROM2は、CPU1により実行あるいは参照される各種制御プログラムや、例えばメーカにより予め提供/セットされたバンクデータ(図示せず)などの各種データを格納する。RAM3は、CPU1が所定のプログラムを実行する際に発生する各種データなどを一時的に記憶するワーキングメモリとして、あるいは現在実行中のプログラムやそれに関連するデータを一時的に記憶するメモリ等として使用される。RAM3の所定のアドレス領域がそれぞれの機能に割り当てられ、レジスタやフラグ、テーブル、テンポラリメモリなどとして利用される。
記憶部4は、例えばユーザが作成したバンクデータ(図示せず)などの各種データの他、CPU1が実行する各種制御プログラム等を記憶する。なお、上述したROM2に制御プログラムが記憶されていない場合、この記憶部4に制御プログラムを記憶させておき、それをRAM3に読み込むことにより、ROM2に制御プログラムを記憶している場合と同様の動作をCPU1にさせることができる。このようにすると、制御プログラムの追加やバージョンアップ等が容易に行える。なお、記憶部4はハードディスク記憶装置(HD)に限られず、様々な形態の記憶媒体を利用する記憶装置であってよい。あるいは、フラッシュメモリなどの半導体メモリであってもよい。
ここで、上記バンクデータは、多数の楽音信号作成用のパラメータの異なる組み合わせを定義した個別データセットを複数含んでなる(一例として3個)。個別データセットは異なる楽音信号作成用のパラメータの組み合わせとして、複数のパフォーマンスデータを有する(一例として16個)。このパフォーマンスデータの1つ1つが楽音信号作成の際に1つのパラメータセットとして与えられ、該パフォーマンスデータに含まれる多数のパラメータに基づき楽音信号は特徴付けられる。すなわち、パフォーマンスデータは、楽音信号生成特性や楽音信号の信号増幅特性さらには楽音信号への効果付与特性といった複数の信号制御部を組み合わせて楽音信号を信号制御する複数の処理段階(信号制御プロセス)からなる一連の処理系列毎に(この実施例では2系列、勿論2系列のみに限られない)、各特性それぞれに対応する信号制御を実行する信号制御部を制御するためのピアノエレメントパラメータ情報,プリアンプパラメータ情報,モジュレーション効果パラメータ情報,パワーアンプ/コンプエレメントパラメータ情報、さらには各処理系列に共通の信号制御を実行する信号制御部を制御するためのリバーブパラメータ情報、マルチイコライザ(MEQ)パラメータ情報などの各種のパラメータ情報を含んでなる。
ピアノエレメント操作子部5は、予め本体パネル上に配置された複数の信号制御部指示操作子5B(ピアノエレメントスイッチなどとも呼ばれる)それぞれに対する操作を検出し、その操作状態に応じたスイッチ情報等をデータ及びアドレスバス1Dを介してCPU1に出力する。また、各信号制御部指示操作子5Bの近傍にはLED等の発光素子からなる信号制御表示部5Aが配置されており、これら信号制御表示部5Aの点灯/消灯/点滅制御を行うことができるようにもなっている。こうした信号制御表示部5A及び信号制御部指示操作子5Bを含むピアノエレメント操作子部5の詳細な説明については後述する(図2参照)。
表示部6はパネル上に配置された例えば液晶表示パネル(LCD)やCRT等から構成されるディスプレイであって、複数のパラメータを提示したりあるいはCPU1の制御状態などを表示したりする。表示部6は例えば上下2段にわけて各段にそれぞれ数十文字程度しか情報を一度に表示することしかできないような、相対的に解像度/表示能力が乏しい類の表示機器であってよい。こうした表示部6における表示内容の詳細な説明については後述する(図3参照)。
設定操作検出部7は、上記した信号制御部指示操作子5B以外の操作子、例えば後述するパラメータ操作子部(図3参照)を構成する上記表示部6の近傍に設けられた回動操作かつ押下操作可能な複数のノブそれぞれに対する操作などを検出し、その操作状態に応じたスイッチ情報等をデータ及びアドレスバス1Dを介してCPU1に出力する。勿論、上記した以外にも音高、音色、効果等を選択・設定・制御するための数値データ入力用のテンキーや文字データ入力用のキーボード等の各種操作子を含んでいてもよい。
演奏操作検出部8は、生成する楽音信号の音高を選択するための複数の鍵を備えた例えば鍵盤等のような演奏操作子(図示せず)の押圧及び離鍵を検出して検出出力を生じるものである。ユーザにより前記演奏操作子が操作されることに応じて、音源/効果部9に対して楽音信号の生成指示がなされる。勿論、ユーザ自身による演奏操作子の操作に応じて楽音信号を生成することに限らず、例えばMIDIインタフェース10を介してシーケンサ等の外部のMIDI機器11Aから取得したMIDIデータ等に基づき楽音信号を生成できるようになっていてもよい。なお、電子楽器は鍵盤楽器の形態に限らず、弦楽器や管楽器等どのようなタイプの形態であってもよい。
音源/効果部9は複数の楽音信号の同時発生が可能であり、演奏操作子の押鍵操作等に応じてデータ及びアドレスバス1Dを経由して与えられた演奏情報を入力し、この演奏情報に基づいて楽音信号生成特性に従い楽音信号を生成する。音源/効果部9で生成された楽音信号は、信号増幅特性や効果付与特性に従う段階的な信号制御処理(詳しくは後述する)が行われた後にアンプやスピーカなどを含むサウンドシステム9Aから発音される。こうした音源/効果部9とサウンドシステム9Aの構成には、従来のいかなる構成を用いてもよい。例えば、音源/効果部9はFM、PCM、物理モデル、フォルマント合成等の各種楽音合成方式のいずれを採用してもよく、波形メモリを含む専用のハードウェアで構成してもよいし、DSPによるソフトウェア処理(シミュレーションプログラムなど)で構成してもよい。
MIDIインタフェース(I/F)10は、外部のMIDI機器10A等からMIDI形式の演奏情報(所謂MIDIデータ)を当該電子楽器へ入力したり、あるいは当該電子楽器からMIDI形式の演奏情報をMIDI機器10A等へ出力したりするためのインタフェースである。MIDI機器10Aは、MIDI形式の演奏情報を発生する機器であればどのような機器であってもよい。
通信インタフェース(I/F)11は、当該電子楽器と外部のサーバ装置11Aとの間で制御プログラムや各種データなどを通信ネットワークXを介して送受信するためのインタフェースである。この通信インタフェース11は、例えばLAN,インターネット,電話回線等であってよく、また有線あるいは無線のものいずれかでなく双方を具えていてよい。
次に、当該電子楽器の本体パネル上に構成される、ピアノエレメント操作子部、パラメータ操作子部の具体的構成例及びその操作態様について、図2,図3をそれぞれ用いて説明する。図2は、ピアノエレメント操作子部の具体的な構成例を示す概念図である。この図2に示すように、ピアノエレメント操作子部5は、複数の信号制御部指示操作子5B(スイッチ)と、その近傍に配置された例えばLED等の発光素子からなる信号制御表示部5Aとにより構成される。ただし、ここでは上下段の2系列に分けて信号制御し、それぞれの系列で処理された2つの楽音信号をミキシングして発音させることができるものを例に示した。
ピアノエレメント操作子部5に含まれるそれぞれの操作子5Bには、楽音信号の生成や該発生した楽音信号に対して単一種類のエフェクトを付与するなどの機能を有する複数の信号制御部(例えば、ピアノエレメント、プリアンプ、モジュレーション系エフェクタ、パワーアンプ/コンプレッサー、さらにはリバーブ系エフェクタ、マルチイコライザ、コモンエフェクタなど)のいずれかが予め対応付けられている。そのため、それぞれの操作子5Bの近傍には、ユーザがパネル上において各操作子5Bに対して割り当てられている信号制御部の種類をすぐに確認することができるよう、割り当てられている信号制御部の種類を示すプリント表示が予め印刷されている。なお、本発明に係る楽音信号制御装置においては予め楽音信号を通す信号制御部の順番つまりは効果をかける順序として標準的なものに決められており、処理順を示す(つまりは楽音信号の流れにも相当する)矢印P1とともに前記プリント表示はその一連の処理順に印刷されている。
例えば図2に示す実施例では、左から順に「PIANO」とプリント表示された操作子5Bに「ピアノエレメント」が、「PRE-AMPLIFIER」とプリント表示された操作子5Bに「プリアンプ」が、「MODULATION EFFECT」とプリント表示された操作子5Bに「モジュレーション系エフェクタ」が、「POWER-AMPLIFIER COMPRESSOR」とプリント表示された操作子5Bに「パワーアンプ/コンプレッサー」が対応付けられている。そして、上記以外の「REVERB」とプリント表示された操作子5B,「MEQ」とプリント表示された操作子5Bには、「リバーブ系エフェクタ」,「マルチイコライザ」が対応付けられている。また、「COMMON」とプリント表示された操作子5Bには、特定の信号制御部に制御を施すためではなくチューニングなど全体的な制御を施すためのコモンパラメータが対応付けられている。こうした操作子5Bと各エフェクタ等の対応付け関係は固定的であって、ユーザは任意に変更することができない。つまり、視覚上においては、処理順に関するユーザ認識は常に印刷されている順番でなされる。
各信号制御部が対応付けられているピアノエレメント操作子部5の任意の操作子5Bが所定の操作態様で操作されると、該操作子5Bに対応付けられた信号制御部の有効/無効が切り替えられる。例えば、ユーザが上段左端の「PIANO」とプリント表示された操作子5Bを短く押した場合には、楽音信号を生成するための信号制御部(ピアノエレメント)が有効に切り替えられて楽音信号が生成される一方で、有効状態にある操作子5Bが再度短く押された場合には楽音信号を生成するための信号制御部(ピアノエレメント)が無効に切り替えられて楽音信号が生成されない。そして、その他の操作子5B、例えばユーザが「PRE‐AMPLIFIER」,「MODULATION EFFECT」,「POWER-AMPLIFIER COMPRESSOR」とプリント表示された各操作子5Bを短く押した場合には、それぞれに対応する信号制御部が有効に切り替えられて楽音信号に対して変調等の信号制御処理が行われる一方で、有効状態にある前記操作子5Bが再度短く押された場合にはそれぞれの信号制御部が無効に切り替えられて楽音信号に対して信号制御処理が行われずに次の処理段階へと楽音信号がスルーされる。なお、操作された操作子5Bの近傍に配置された信号制御表示部5A(LED等)は、当該信号制御部が有効とされると点灯されて、当該信号制御部が無効とされると消灯される。
また、各信号制御部が対応付けられているピアノエレメント操作子部5の任意の操作子5Bを、前記操作態様(短く押す)と異なって所定時間以上長く押した場合には、予め選択済みのパフォーマンスデータに基づいて該操作された操作子5Bに対応付けられている信号制御部に関するパラメータ情報の詳細な内容が図3に示すパラメータ操作子部に表示される。例えば、ユーザが上段左端の「MODULATION EFFECT」とプリント表示された操作子5Bを長押しした場合には、モジュレーション系エフェクタに関する処理タイプ及び複数のパラメータ(この例では最大で5個まで)がパラメータ操作子部に表示される。
ここで、上記パラメータ操作子部について図4を用いて説明する。図4は、パラメータ操作子部の具体的な構成例を示す概念図である。パラメータ操作子部は、LCD等の表示機器からなる表示部6と、複数のノブ(設定操作子)7Aとにより構成される。表示部6には、所定時間以上長く押下操作されたピアノエレメント操作子部の任意の操作子5Bに対応付けられている信号制御部に関するパラメータ情報の詳細な内容が、ノブ7Aに対応付けられて表示される。ここでは、「MODULATION EFFECT」表示の操作子5Bが操作された場合における詳細なパラメータ表示を例に示している。
具体的には、左から順にモジュレーション系エフェクタに関する処理タイプ及び複数のパラメータに関して、それぞれのパラメータ名称を表示部6の上段に、パラメータ値などを下段に表示する。図示の例では、モジュレーション系エフェクタに関する処理タイプ「Md Effect」が「Flanger(フランジャー)」であって、「Speed」パラメータのパラメータ値「0.683Hz」、「Manual」パラメータのパラメータ値「7」、「Depth」パラメータのパラメータ値「60」、「Feedback」パラメータのパラメータ値「58」、「Mix」パラメータのパラメータ値「64」であることが理解できる。この表示状態にある場合に、ユーザは表示部6下方にそれぞれのパラメータ表示に対応して配置されている複数のノブ7Aを操作することによって、それぞれの詳細パラメータを任意に設定することができる。
以上のように、ピアノエレメント操作子部5の任意の操作子5Bをワンプッシュすると各信号制御部の有効/無効の反転設定ができ、長押し(例えば1秒以上)するとその信号制御部に関する詳細パラメータを編集するエディットモードに移行することができるようになっている。すなわち、各信号制御部の有効/無効の設定と、各信号制御部の詳細パラメータ編集への移行とを同一の操作子5Bの操作態様に応じて分けて行うことができるようにしている。このエディットモードへ移行された際に、信号制御部が有効状態(通常LED点灯状態)にあるか無効状態にあるか(通常LED消灯状態)がユーザにわかるようにLEDの点滅態様を変える。具体的には点滅間隔を変える。例えば長い時間間隔での点滅は信号制御部が有効状態でエディットモードに移行された場合を示し、短い時間間隔での点滅は信号制御部が無効状態でエディットモードに移行された場合を示すように制御するとよい。すなわち、信号制御部が有効状態にあり編集対象に選択されていない場合にLEDは常時点灯し、信号制御部が無効状態にあり編集対象に選択されていない場合にLEDは消灯しているが、信号制御部が有効状態にあり編集対象に選択されている場合にLEDは長い時間間隔で点滅し、信号制御部が無効状態にあり編集対象に選択されている場合にLEDは短い時間間隔で点滅する。
なお、信号制御部の種類(処理タイプ)によっては、パラメータ情報を構成するパラメータ数が5個未満の場合がある。その場合、表示部6内の一部のノブ7Aに対応する表示箇所が空欄となる(表示なし)。
なお、信号制御部の種類によっては、処理タイプを変更できない場合がある。例えば、プリアンプの処理タイプはピアノエレメントの処理タイプによってユニークに決まることから、そのような場合には処理タイプを変更できない(表示部6内の表示において処理タイプが割り当てられるノブ7Aに対応する表示が空欄となる)。
本発明に係る楽音信号制御装置は、上述のように、信号制御処理を行う一連の処理過程にあわせて前記処理過程を受け持つ信号制御部が複数段に組み合わされており、それぞれの信号制御部毎で実行される信号制御処理によって元の楽音信号に対して多様な効果を段階的に付与するものである。ユーザは、各信号制御部において各特性に応じた信号制御処理を実現するための複数の異なる処理タイプの中からいずれかを選択することができ、また選択した処理タイプでの制御内容を調整する(信号制御部の特性を決める)ために詳細パラメータを適宜に変更することによって、所望の楽音信号を作成することができるようになっている。
上述したように、指定されたピアノエレメントの処理タイプに応じてプリアンプの処理タイプは一意に決まる。例えば、いくつかあるピアノエレメントの処理タイプのうち電気ピアノを模したものが選択された場合には、プリアンプも元の電気ピアノを模したものが選ばれる。電気ピアノを模したプリアンプでは電気ピアノ機種固有のアンプ回路の特性を模すだけでなく、楽音信号に対して左右の音量を周期的に変化させる効果を付与するための回路も模してある(所謂トレモロ効果)。ここで一般的なプリアンプは、モノラル入力される楽音信号に対して信号制御を施しステレオ出力するようになっている。他方、モジュレーション系エフェクタは、ステレオ入力された楽音信号に対して所定の効果を加えてステレオ出力するものと、モノラル入力された楽音信号に対して所定の効果を加えてモノラル出力するものとがある。具体的には、楽音信号に対し左右それぞれで遅延時間を変調した遅延(ディレイ)音を逆位相で混ぜて出力する効果(所謂「Flanger」)を加える場合には、ステレオ入力/ステレオ出力する。楽音信号に対し原音と位相を変化させた音を混合させて音色を連続的に変化させる効果(所謂「Small Phaser」)を加える場合には、モノラル入力/モノラル出力する(なお、別タイプとしてフェーザー(Phaser)であるがステレオ入力/ステレオ出力するものもある)。
ところで、上記したような例えばプリアンプとモジュレーション系エフェクタとを組み合わせて使用する場合に、モジュレーション系エフェクタで付加しようとする効果の種類(処理タイプ)によっては、前記プリアンプとモジュレーション系エフェクタの処理順を変えたほうがよい。例えば、前記プリアンプに、効果種類として「Small Phaser」(モノラル入力/モノラル出力)を付加するように設定されたモジュレーション系エフェクタを組み合わせる場合と、効果種類として「Flanger」(ステレオ入力/ステレオ出力)を付加するように設定されたモジュレーション系エフェクタを組み合わせる場合とでは、前者の場合には楽音信号に対し「Small Phaser」を先にかけておいてからプリアンプを後にかけたほうが効果的であり(つまり、モジュレーション系エフェクタ‐プリアンプの順に信号制御処理させる)、後者の場合には楽音信号に対しプリアンプを先にかけておいてから「Flanger」を後にかけたほうが効果的である(つまり、プリアンプ‐モジュレーション系エフェクタの順に信号制御処理させる)。そこで、本願発明においてはこの点に鑑み、各信号制御部における処理タイプの設定変更にあわせて楽音信号を通す信号制御部の順番(処理順)を自動的に変更することによって、楽音信号に対し効果をかける順序を入れ替えるようにしている。
次に、上述した楽音信号を通す複数の信号制御部の順番変更について、図4及び図5を用いて説明する。ただし、ここでは説明を理解しやすくするために、プリアンプとモジュレーション系エフェクタとの順番を変更する場合を例に説明する。図4は、信号制御部の詳細パラメータを編集する「編集処理」の一実施例を示すフローチャートである。当該処理は、ピアノエレメント操作子部5の信号制御部指示操作子5Bのいずれかが長押し操作されエディットモードに移行することに応じて開始される。
ステップS1は、「モジュレーション系エフェクタ」に対応付けられている操作子5Bが操作されたか否かを判定する。「モジュレーション系エフェクタ」に対応付けられている操作子5Bが操作されずに他の操作子5Bが操作されたと判定した場合には(ステップS1のNO)、操作された操作子5Bに対応付けられている信号制御部(モジュレーション系エフェクタ以外)に関し、その処理タイプやパラメータの表示/変更処理を実行する(ステップS10)。一方、「モジュレーション系エフェクタ」に対応付けられている操作子5Bが操作されたと判定した場合には(ステップS1のYES)、モジュレーション系エフェクタを詳細編集対象として図3に示したように詳細パラメータを表示部6に表示する(ステップS2)。ステップS3は、パラメータ設定用のノブ7Aの操作に応じてパラメータの変更を音源/効果部9に指示すると共に表示に反映させる。
ステップS4は、ノブ7Aの操作でモジュレーション系エフェクタの処理タイプが変更されたか否かを判定する。前記処理タイプが変更されていないと判定した場合には(ステップS4のNO)、ステップS9の処理へジャンプする。前記処理タイプが変更されたと判定した場合には(ステップS4のYES)、変更された処理タイプに応じたアルゴリズムを音源/効果部9に適用する(ステップS5)。ステップS6は、変更された処理タイプに応じたアルゴリズムを音源/効果部9に適用することに応じて、当該モジュレーション系エフェクタの前段及び後段の他の信号制御部(モジュレーション系エフェクタ以外)との入出力特性に変更を伴うものであるか否かを判定する。例えば、処理タイプが「Flanger,Max100,Touch Wah,Pedal Wah,Chorus,D Chorus,816Chorus,Symphonic」などのグループと「Small Phaser,Max90」などのグループとの間で変更された場合に、入出力特性に変更を伴うものであると判定される。すなわち、処理タイプ毎に入出力特性は決まっていることから、各信号制御部の処理タイプの組み合わせに応じて、当該モジュレーション系エフェクタの入出力特性と前段及び後段の他の信号制御部の入出力特性とがモノクロ又はステレオで一致するか否かを判定するとよい。なお、各信号制御部の有効/無効を考慮して前段及び後段の他の信号制御部を特定することは言うまでもない。
入出力特性に変更を伴うものであると判定した場合には(ステップS6のYES)、前記モジュレーション系エフェクタを含む信号制御部の順番を現状から変更する(ステップS7)。これについての詳細な説明は後述する(図5参照)。他方、入出力特性に変更を伴うものでないと判定した場合には(ステップS6のNO)、前記モジュレーション系エフェクタを含む信号制御部の順番を現状のまま変更しない(ステップS8)。ステップS9は、モジュレーション系エフェクタを詳細編集対象としない操作が行われたか否か、つまりはモジュレーション系エフェクタ以外の信号制御部に対応付けられている操作子5Bが長押し操作されたか否かを判定する。モジュレーション系エフェクタを詳細編集対象としない操作が行われていないと判定した場合には(ステップS9のNO)、ステップS3の処理に戻って上記ステップS3〜S9までの処理を繰り返す。一方、モジュレーション系エフェクタを詳細編集対象としない操作が行われたと判定した場合には(ステップS9のYES)、当該処理を終了する。
ここで、上記した図4の処理の実行に伴い実現される楽音信号を通す信号制御部の順番変更に関し、具体的な変更手順について図5を用いて説明する。図5は、信号制御部の順番を変更する際の具体的な変更手順を示す概念図である。この図5には、予め決められている標準的な処理順として、各系列毎にピアノタイプE1、プリアンプE2、モジュレーション系エフェクタE3、パワーアンプ/コンプレッサーE4の順に、そして各系列での処理後の楽音信号をミキシングしたものをリバーブ系エフェクタE5、マスタイコライザE6の順に制御するものを示している。なお、図中における記号A〜C,a〜cは楽音信号を通す信号の入出力経路を表す。
上述したように、一般的なプリアンプE2は前段の信号制御部(ピアノタイプ)からモノラル入力Aされた楽音信号に対し信号制御を施してからステレオ出力Bすることから、モジュレーション系エフェクタE3はこうしたプリアンプE2の出力特性にあわせてステレオ入力B/ステレオ出力Cするものに初期設定されている。ここで、モジュレーション系エフェクタE3の処理タイプに「Flanger」が設定された場合、「Flanger」はステレオ入力/ステレオ出力が標準であるので、モジュレーション系エフェクタE3はプリアンプE2からステレオ出力Bされる楽音信号をそのままステレオ入力Bして信号制御した後にステレオ出力Cすればよい(図中において実線で示す)。すなわち、モジュレーション系エフェクタE3の処理タイプに「Flanger」が設定された場合には、プリアンプE2とモジュレーション系エフェクタE3との順番を変更しなくてよい(図4のステップS8参照)。
他方、モジュレーション系エフェクタE3の処理タイプとして「Small Phaser」が設定された場合には、「Small Phaser」はモノラル入力/モノラル出力が標準であるが、モジュレーション系エフェクタE3がプリアンプE2からステレオ出力Bされる楽音信号をそのままステレオ入力Bして信号制御してしまうと最適な効果付与が行われず都合が悪い。そこで、信号経路A〜Cを新たに設定しなおして、プリアンプE2とモジュレーション系エフェクタE3とで楽音信号を通す順番(処理順)を変更する必要がある。新たな信号経路a〜cを設定するには、ピアノタイプE1のモノラル出力Aをモジュレーション系エフェクタE3のモノラル入力aに変更する、モジュレーション系エフェクタE3のステレオ出力CをプリアンプE2のステレオ入力cに変更する、プリアンプE2のステレオ出力Bをパワーアンプ/コンプレッサーE4のステレオ入力bにそれぞれ変更する。これにより、モジュレーション系エフェクタE3の処理タイプとして「Small Phaser」が設定された場合には、新たに信号経路a〜cに設定することによってプリアンプE2とモジュレーション系エフェクタE3との順番を変更する(図4のステップS7参照)。
なお、モジュレーション系エフェクタE3の処理タイプとして「Small Phaser」が設定された状態から再度「Flanger」が設定された場合には、信号経路a〜cを標準の信号経路A〜Cに戻す必要がある。信号経路A〜Cに戻すには、ピアノタイプE1のモノラル出力aをプリアンプE2のモノラル入力Aに変更する、プリアンプE2のステレオ出力bをモジュレーション系エフェクタE3のステレオ入力Bに変更する、モジュレーション系エフェクタE3のステレオ出力cをパワーアンプ/コンプレッサーE4のステレオ入力Cにそれぞれ変更する。このようにして、モジュレーション系エフェクタの処理タイプとして「Small Phaser」から「Flanger」に変更された場合には、信号経路a〜cを標準の信号経路A〜Cに戻すことによってプリアンプE2とモジュレーション系エフェクタE3との順番を変更する。
以上のようにして、本発明に係る楽音信号制御装置では、予め所定の処理順に従って段階的に組み合わされた複数の信号制御部のうちの少なくともいずれか1つに関して付与すべき効果の種類の変更を指示すると、該変更指示された効果の種類に基づいて、前記予め組み合わされた複数の信号制御部のうち該付与すべき効果の種類の変更を指示された信号制御部を少なくとも含む一部の処理順を変更するようにした。すなわち、変更指示された効果の種類によっては、一連の信号制御処理過程にあわせた所定の処理順と異なる新たな処理順が設定される。これにより、ユーザは特別な知識を有せずとも、単に任意の信号制御部に対して付与したい効果の種類を指示するといった簡単な操作を行うだけで、全ての効果を適切に反映する処理順に信号制御部を組み合わせることができるようになる。
なお、音源/効果部9をDSPで構成した場合、信号制御部の順序を入れ替えるにあたり、前記各信号制御部に対応した信号制御を実行するアルゴリズム(例えばマイクロコードなど)を差し替えることで実現してよい。すなわち、本実施例における楽音信号制御装置では、各信号制御部に対応した信号制御処理を実現するアルゴリズムが前記タイプ毎に一意に規定されており、上記処理タイプを切り替えると前記アルゴリズムを実現するDSPの処理が切り替わり(ピアノタイプについては、波形メモリから読み出すPCM波形の切り替えも含まれる)、それらを制御するためのパラメータ種類もあわせて切り替えられる。前記アルゴリズムとしては、例えば多数の電気素子を組み合わせてなる従来知られたアナログのエフェクタ回路やアンプ回路と同様の信号制御処理をシミュレーションにより実現するシミュレーションプログラムのアルゴリズムなどが挙げられる。
なお、上述した実施例においてはプリアンプとモジュレーション系エフェクタとの順番を変更する場合を例に説明したがこれに限らず、いずれかの信号制御部の処理タイプを変更することに応じて、プリアンプとモジュレーション系エフェクタ以外に楽音信号を通す信号制御部の順番を変更するようにしてよいことは言うまでもない。また、各信号制御部における処理タイプの変更にあわせて楽音信号を通す信号制御部の順番を自動的に変更するようにしたがこれに限らず、各信号制御部の有効/無効の設定に応じて有効な各信号制御部の入出力特性を判定し、該判定に従って楽音信号を通す信号制御部の順番を自動的に変更するようにしてもよい。
なお、信号制御部における入出力特性は上述したものに限らず、例えばステレオ入力/モノラル出力の信号制御部(所謂リングモジュレータ)があって、当該信号制御部の順番を変更するようにしてもよい。
なお、ステレオ入力/ステレオ出力の信号制御部どうしを接続するなど接続可能な場合であっても、その効果の係り具合等を予め考慮して楽音信号を通す信号制御部の順番を変更することのできるようにしてあってもよい。たとえば、音を歪ませるディストーション系の効果は、ディレイやリバーブ系の効果などより先にかけるようにするなどできるようにするとよりよい。