JP2011075540A - 渦電流探傷法およびこれに用いる対比試験片 - Google Patents

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Abstract

【課題】マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検を容易にする新たな渦電流探傷法およびこれに用いる対比試験片を提供する。
【解決手段】渦電流探傷法に用いるマルチコイル式プローブの探傷条件の設定等に、複数個のスリットを人工きずとして単一円筒管の全周方向及び軸方向にずらして配置した対比試験片、または螺旋溝を有する対比試験片および軸方向と直交する単一スリットを有する対比試験片を組み合わせて用い、マルチコイル式プルーブの各コイルを容易且つ正確に校正する。
【選択図】図1

Description

本発明は、マルチコイル式プローブを用いる渦電流探傷法、および探傷条件の設定、探傷装置の性能の確認及び点検に用いる対比試験片に関するものである。
渦電流探傷法では、探傷条件の設定、探傷装置の性能の確認及び点検に対比試験片を利用する。JIS Z2300によれば、対比試験片とは、「試験装置の性能の確認及び試験条件の調整・確認のために用いる人工きずなどをもつ試験片。人工きずには、角溝、やすり溝およびドリル穴などが規定されている。」と定義されている。対比試験片に使用する人工きずの形状としては、非特許文献1ではドリル穴、円周溝、ヤスリきずやスリットの例が示され、試験対象物に発生しやすいきずの形状に近いものが望ましいとされている。
しかしながら、試験対象物に発生しやすいきずの形状の対比試験片だけでは、探傷条件の設定、探傷装置の性能の確認及び点検に不都合な場合もある。例えば、伝熱管などの管検査でマルチコイル式渦電流探傷法を利用する場合、単一の人工きずを持つ対比試験片に対してプローブを走査する作業がコイル数分だけ必要になり、作業工数が増えて現場での対比試験には不適当である。
軽水型原子力発電所用蒸気発生器伝熱管の供用期間中検査における渦電流探傷試験指針(JEAG4208)では、マルチコイル式プローブに対して人工きずとして全周方向のスリットや段差形状(拡管境界)の利用が示されているが、例えば特許文献1のようなマルチコイル式プローブでは、このような対比試験片は、軸方向に各検出コイル出力が同時に出力されてしまうため使用することができない。
特開2007−263946号公報
(社)日本非破壊検査協会 渦電流探傷試験I p.p.69−83.
伝熱管などの管検査でマルチコイル式渦電流探傷法を利用する場合、従来の対比試験片では探傷条件の設定、探傷装置の性能の確認及び点検に不都合な場合がある。そこで、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検を容易にする、渦電流探傷法における試験方法及び対比試験片を提案する。
本発明は、マルチコイル式プローブを用いた円筒管の渦電流探傷法において、単一の円筒管に複数個の同一形状の人工きずを全周方向及び軸方向にずらして配置した対比試験片を用いてマルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検をすることを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、前記複数の人工きずは、前記対比試験片の全周を覆う様に配置したことを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、前記複数の人工きずは、前記対比試験片外周を螺旋状に覆って配置されたことを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、探傷前の校正では、前記対比試験片の全周を覆う人工きずを有する対比試験片を用いて探傷し、各コイルで検出した信号を用いて、全コイルの探傷器感度、探傷器位相角を算出することを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、前記人工きずを全周方向及び軸方向に等間隔にずらして配置した対比試験片を用いることを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工した対比試験片を用いて、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検をすることを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、さらに、外周に軸方向と直交する単一のスリットを設けた対比試験片を併用して、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認、及び点検をすることを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、前記螺旋溝を有する対比試験片を用いてマルチコイル式プローブの探傷器感度及び探傷器位相角を設定し、
前記外周に軸方向と直交する単一のスリットを設けた対比試験片を用いてマルチコイル式プローブの任意のコイルの探傷器感度及び探傷器位相角を設定し、前記単一のスリットを設けた対比試験片により設定された前記マルチコイル式プローブの探傷器感度及び探傷器位相角により、前記マルチコイル式プローブの全コイルの探傷器感度及び探傷器位相角を補正することを特徴とする。
また、渦電流探傷法において、螺旋溝を付与した対比試験片を探傷し、全コイルにおける螺旋溝に起因する信号の振幅値、位相角を所定の値に合わせ、そのときの全コイルの探傷器感度、探傷器位相角を記録し、スリットを付与した対比試験片を探傷し、スリットに起因する信号を検出した任意のコイルの振幅値や位相角を所定の値に合わせ、同時にそのときの任意のコイルにおける探傷器感度、探傷器位相角を記録し、上記スリットを付与した対比試験片を探傷して記録した任意のコイルの探傷器感度、探傷器位相角と、前記螺旋溝を付与した対比試験片を探傷して記録した前記任意のコイルと同じコイルの探傷器感度、探傷器位相角の差を補正値とし、その補正値を、前記螺旋溝を付与した対比試験片を探傷して記録した全コイルの探傷器感度、探傷器位相角に加算または減算して、探傷時に使用する探傷器感度、探傷器位相角とすることを特徴とする。(探傷器感度はdB表示とする。)
また、渦電流探傷法において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工し、右回り螺旋及び左回り螺旋の2つを形成した対比試験片を用いたことを特徴とする。
さらに、渦電流探傷法のマルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検に用いる対比試験片において、単一の円筒管に複数個の同一形状の人工きずを全周方向及び軸方向にずらして配置したことを特徴とする。
さらに、渦電流探傷法に用いる対比試験片において、前記人工きずを周方向及び軸方向に等間隔にずらして配置したことを特徴とする。
さらに、渦電流探傷法のマルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検に用いる対比試験片において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工したことを特徴とする。
さらに、渦電流探傷法に用いる対比試験片において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工し、少なくとも左回り螺旋溝及び右回り螺旋溝の2つを形成したことを特徴とする。
本発明は、マルチコイル式プローブを用いた円筒管の渦電流探傷法において、単一の円筒管に複数個の同一形状の人工きずを全周方向及び軸方向にずらして配置した対比試験片を用いて、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検をするという構成により、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検を容易にする事が出来る。
本発明の渦電流探傷システムの構成を表すブロック図 マルチコイル式プローブの模式図 本発明の実施例1に係る対比試験片の模式図 マルチコイル式プローブの探傷条件の設定フロー図 各コイルでのスリットによる検出信号を示す模式図 特定コイルの取得検出信号のリサージュ波形図 各コイルでのスリットによる検出信号の測定グラフ 本発明の実施例2に係る対比試験片の模式図 本発明の実施例3に係る対比試験片の模式図 本発明の実施例4のマルチコイル渦電流探傷方法を示すフローチャート 本発明の実施例4の装置構成を示すブロック図 実施例4の表示画面の一例を示す説明図 実施例4のマルチコイル式プローブを示す模式図 実施例4の螺旋溝を付与した対比試験片の検出方法を示す模式図 実施例4の螺旋溝を検出したときの信号出力結果を示すグラフ 実施例4の所定値の信号出力結果を示すグラフ 実施例4のスリットを付与した対比試験片の検出方法を示す模式図 実施例4のスリットを検出したときの信号出力結果を示すグラフ 実施例4の所定値の信号出力結果を示すグラフ 本発明の実施例4の複数スリットを有した対比試験片を示す模式図 実施例5のマルチコイル渦電流探傷方法を示すフローチャート 従来例のマルチコイル渦電流探傷法を示すフローチャート
以下に本発明の実施例を図面について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る渦電流探傷システムのブロック図である。図1において、渦電流探傷システムはマルチコイル式プローブ14の位置制御系と探傷制御系に大別できる。マルチコイル式プローブ14の位置制御系は、マルチコイル式プローブ14を保持した巻き取り機12と位置制御回路11とコンピュータ10で構成される。また、探傷制御系は、マルチコイル式プローブ14と渦電流探傷器13で構成される。位置制御系と探傷制御系はコンピュータ10により制御され、その状態はモニタ15で観測される。
次に、図1の電気的及び機械的な接続関係について述べる。マルチコイル式プローブ14は巻き取り機12に機械的に固定され、巻き取り機12は位置制御回路11と電気的に接続されている。位置制御回路11はコンピュータ10と接続され、コンピュータ10はさらにモニタ15と接続されている。探傷制御系では、マルチコイル式プローブ14の外部入出力端子は渦電流探傷器13と接続されている。渦電流探傷器13はコンピュータ10と接続され、探傷条件等をモニタ15で確認できる。
図1の渦電流探傷システムの動作について説明する。全てのシステム制御は、モニタ15で状態を監視しながらコンピュータ10で設定条件を変更する。位置制御回路11において、コンピュータ10での設定情報(移動距離と移動速度等)が位置制御回路11に送信され、その情報をもとに巻き取り機12が作動し、マルチコイル式プローブ14が目的の位置に移動する。次いで、探傷制御系において、コンピュータ10から設定情報(送信周波数や電圧等)が渦電流探傷器13に送信される。
渦電流探傷器13からマルチコイル式プローブ14の励磁コイル21の外部入力端子に交流電圧が印加される。一方、マルチコイル式プローブ14の検出コイル22の外部出力端子からの検出信号電圧は渦電流探傷器13に送られる。渦電流探傷器13内の出力検出信号はデジタル検出信号としてコンピュータ10に送信され、モニタ15で観測される。上記の位置制御系及び探傷制御系の制御は時間的に同時に進行し、各移動位置での検出信号がモニタされる。
図2はマルチコイル式プローブ14の模式図である。マルチコイル式プローブ14の全周には、励磁コイル21と検出コイル22が樹脂製のコイル台座26の上に配置され、コイル押さえ23で各コイルの配置が固定されている。マルチコイル式プローブ14には、中心軸調整機構25が設置されて、管内の中心に渦電流探傷センサ14が位置するように調整される。励磁コイル21および検出コイル22の末端は、ケーブル24Aのリード線と直接結線され、渦電流探傷器13と電気的に接続されている。ケーブル24Bには、マルチコイル式プローブ14と同一構成の、図示しないもう一つのマルチコイル式プローブが接続され、このマルチコイル式プローブもケーブル24Bの内部のリード線と結線され、内部のリード線を介して、渦電流探傷器13と電気的に接続されている。
本実施例の対比試験片を図3に示す。対比試験片31には、円筒管表面の周方向に長さを持つ短い複数のスリット32を周方向及び軸方向に等間隔にずらして全周にわたって螺旋状に配置している。本発明の対比試験片では、周方向及び軸方向に等間隔ずらしてスリット32を配置したが、周方向及び軸方向の間隔は任意であり、いずれかのスリットが各検出コイルに対応していれば良い。またスリットの個数も変更可能である。
図4はマルチコイル式プローブの探傷条件の設定フロー図を表している。各ステップについて以下に説明する。まず、対比試験片31にマルチコイル式プローブ14を挿入する(S41)。次に、マルチコイル式プローブ14により対比試験片31内部を走査してスリット32による検出信号を取得する(S42)。
図5は各コイルでのスリット32による検出信号52の例を模式的に表しており、カーソル51等でスリットによる検出信号のうち試験に用いる範囲を選択する(S43)。
図6は図5の特定コイルにおける取得検出信号のX振幅とY振幅のリサージュ波形図である。実線61は現在の探傷条件でのスリットによる検出信号のリサージュ波形を表し、丸印62は自動調整に用いるスリット検出信号の振幅及び位相の目標設定値を表している(S44)。最後に、スリットによる検出信号が点線63のように振幅と位相の目標設置値となる様にプローブの各検出コイルのゲインと位相を自動調整または手動調整して更新する(S45)。
本発明の効果を確認するために、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定を実施した。図7はコイルでのスリットによる検出信号の測定例である。図7の上部はコイル1〜8でスリットに対応した検出信号強度が濃淡のグラフで観測される。例えばコイル3における、目標設定値を振幅1Vで位相90度とした場合の、取得検出信号のX振幅とY振幅の波形は下側のチャート図のようになる。このようなゲインと位相の調整は全コイルで実施され、マルチコイル式プローブのゲインと位相を容易に設定できる。
また、設定した前記設定ゲインと位相により、再度対比試験片を走査して検出信号を確認することで探傷装置の性能の確認及び点検を行う。
図8は本発明の実施例2に係る対比試験片の模式図である。対比試験片81は単一の円筒管の全周に一定の幅と深さを持つ連続的な螺旋溝82が等間隔の軸方向ピッチで加工されている。螺旋溝82は、実施例1におけるスリットの間隔を無限に短縮したものととらえることもでき、実質的に同一と見なせる。
螺旋溝82は等ピッチで加工されているため、各検出コイルに対する人工きず密度等の条件を揃える事ができる。螺旋溝82の幅や深さは任意であり、複数回の巻き数で加工することができる。実施例1の図4のマルチコイル式プローブの探傷条件の設定フローを利用して、本実施例の対比試験片も実施例1と同様に用いることができる。
図9は本発明の実施例3に係る対比試験片の模式図である。対比試験片91は単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工し、左回り螺旋溝92及び右回り螺旋溝93の2つを形成している。螺旋溝の幅や深さは任意であり、複数回の巻き数を与えることができる。このように設定することで、各コイルの検出コイル出力は正負に分布した出力としてチェック可能となる。実施例1の図4のマルチコイル式プローブの探傷条件の設定フローを利用して、本発明の対比試験片で実施形態1と同様に用いることができる。
次に、連続的な螺旋溝を有する対比試験片および周方向の単一スリットを有する対比試験片を併用した、より検出精度の高い渦電流探傷法について説明する。
〔基本的手順〕
まず、図10を使って実施例4の円筒管のマルチコイル渦電流探傷法のフローチャートを説明する。探傷準備S101では、検査機器対象の確認、管列番のマーキング、探傷器の準備、試験条件の設定等を実施する。探傷準備S101を終えた後、探傷前の校正S102を実施する。ここで、全コイルが所定の探傷器感度、探傷器位相角を有していることを確認できれば、実際の探傷S103を開始する。予定の探傷S103が終了次第、探傷後の校正S104でスリット210(図16)に起因する信号の振幅値や位相角が、所定の値であることを確認する。最後にS105でマルチコイル201(図13)が検出した信号波形を確認して、信号検出箇所の有無を確認し、評価S106、記録作成S107という手順となる。
〔従来の手順〕
図20に示すボビンコイル式プローブ等を用いる従来の校正方法では、探傷前の校正S102と探傷後の校正S104の内容が図10と異なる。探傷前の校正S102において、従来は人工きずとして貫通孔を有する対比試験片を用い、貫通穴を使った探傷器感度、探傷器位相角の設定S114、貫通穴を検出したときの振幅値、位相角の記録S115を行っていた。また、探傷後の校正S104において、貫通穴を検出したときの振幅値、位相角の記録S116、探傷前後における貫通穴の振幅値、位相角差の確認S117を行っていた。背景技術の欄で述べたように、マルチコイル201の各コイル出力は、このような対比試験片に対して原理的に発生しないため、そのまま適用することができない。
〔本発明の手順〕
図10において、マルチコイル式プローブ301(図13)を使った探傷前の校正S102では、全コイルの探傷器感度、探傷器位相角を設定するために、人工きずとして螺旋溝207(図14)を使った探傷器感度、探傷器位相角の設定S108、人工きずとしてスリット210(図16)を使った探傷器感度、探傷器位相角の設定S109、探傷器感度、探傷器位相角の補正S110および螺旋溝207を検出したときの振幅値、位相角の記録S111を実施する。
また、探傷後の校正S104において、対象となる螺旋溝207を検出したときの振幅値、位相角の記録S112および探傷前後における螺旋溝207の振幅値、位相角差の確認S113を実施する。
〔装置構成〕
実施例4の装置構成について、図11を用いて説明する。装置はマルチコイル式プローブ301、渦電流探傷器302、各コイルで検出した信号の振幅値、位相角の計算を行う演算部303と演算した信号情報や位置情報を保存するメモリ304を含むコンピュータ305、コンピュータ305の入力部306およびモニタ307で構成される。
次に、装置の表示画面の一例について、螺旋溝207の信号311を検出したときの表示を図12にて説明する。探傷結果の表示は、平面表示(Cスコープ表示)308、Y振幅チャート309、X振幅チャート310から構成される。平面表示308は、コイル1〜8まで並べて表示され、平面表示308上で指定したカーソル312の波形が、随時Y振幅チャート309、X振幅チャート310に表示される。また、表示画面上において、校正値の設定ボタン313、探傷器感度、探傷器位相角の表示ボタン314、振幅値、位相角の表示ボタン315等を使って、探傷前後の校正を実施することができる。
円筒管渦電流探傷用のマルチコイル式プローブ301の概要を図13に示す。マルチコイル式プローブ301は、マルチコイル201、ケーブル203、各コイルのリード線とケーブル203を直接繋ぐ結線部202から構成され、渦電流探傷器302と電気的に接続される。また、マルチコイル201は、前段、後段の2つのブロック201A、201Bから構成されており、両ブロック201A、201Bは円筒管の内面に沿って各ブロックの不感帯を補完するように、周方向取付け位置がずれた複数の励磁コイル204と検出コイル205が交互に配置されている。
〔探傷前の校正(S102)〕
実施例4における探傷前の校正S102とその手順について述べる。探傷前の校正S102は、以下の4つの手順により進める。
(1)ステップ1
まず、ステップ1として螺旋溝207を使った探傷器感度、探傷器位相角の設定S108を実施する。この手順は、複数のコイル間における探傷器感度、探傷器位相角のばらつきを押さえることを目的とする。螺旋溝207を有した対比試験片206の内部へマルチコイル式プローブ301を通過させ、各コイルで螺旋溝207に起因する信号を取得する。
図14は、そのときの対比試験片206内部における複数の検出コイル205のうちの任意のコイル208の動きを示している。対象となる人工きずは螺旋溝207であり、コイルの進む方向と螺旋溝207の進展方向が成す角度は何処でも同じであり、どのコイルも同じ試験条件を有する。全コイルにおいて螺旋溝207に起因する信号が検出されるが、各コイル特性の違いにより、振幅値、位相角に多少の違いが出る。したがって、同じ試験条件で検出した信号情報出力が、所定の同一振幅値、同一位相角になるように演算部303で補正計算されて、各コイル間における探傷器感度、探傷器位相角のばらつきを押さえることができる。
図15Aは、螺旋溝207に起因する信号を検出したときの任意のコイル208におけるX振幅、Y振幅の一例を示している。上記信号を、例えば図15Bのように振幅値:1.0V、位相角:90deg等のように所定の振幅値、位相角に設定したときの、各コイルの探傷器感度、探傷器位相角が演算部303によって算出され、補正された各コイルの探傷器感度、探傷器位相角が、表1に示す螺旋溝探傷時の各コイルの探傷器感度、探傷器位相角のイメージでモニタ307に表示され、各値がメモリ304へ保存される。
Figure 2011075540
(2)ステップ2
次にステップ2として、外周に軸方向と直交するスリットを設けた円筒状の対比試験片を使った探傷器感度、探傷器位相角の設定S109を実施する。この手順は、任意のコイルでスリットに起因する信号を取得し、上記手順S108で記録した探傷器感度、探傷器位相角との差を算出する。所定の深さを有するスリット210を有した対比試験片209の内部へマルチコイル式プローブ301を通過させ、スリット210に起因する信号を取得する。
図16は、そのときの対比試験片209内部における任意のコイル208の動きを示している。その際、複数あるコイルのうち、どのコイルがスリット210端部付近を通過して、スリット210に起因する信号を取得するのかは予測できない。したがって、探傷結果(探傷波形や平面表示)に基づいて信号を取得した任意のコイル208を特定し、その信号を使って、先程と同様に所定の振幅値、位相角に設定する。ここでは、スリット210の信号を検出した任意のコイルをコイル3と仮定する。
図17Aは、スリット210に起因する信号をコイル3で検出したときのX振幅、Y振幅の一例を示している。上記信号を、例えば図17Bのように、振幅値:1.0V、位相角:90deg等の所定の振幅値、位相角に設定したときの探傷器感度、探傷器位相角が演算部303によって算出され、補正されたコイル3の探傷器感度、探傷器位相角が、表2に示すスリット探傷時の各コイルの探傷器感度、探傷器位相角のイメージでモニタ307に表示され、各値がメモリ304へ保存される。ここで、スリットを有する対比試験片を用いる理由は、対比試験片の周方向に軸方向と直交して設けたスリットを用いると、試験対象物に発生しやすいきずの形状に近く、正確な補正が可能になることによる。なお、スリット210の信号を検出した任意のコイルを特定する方法として、スリット210に起因する信号の振幅値を所定の値に設定したときの探傷器感度が最小のコイルを、スリット210を検出した当該コイルと特定する方法もある。
Figure 2011075540
(3)ステップ3
ステップ3として、探傷器感度、探傷器位相角の補正S110を実施する。この手順は、全コイルにおける探傷S103での探傷器感度、探傷器位相角を決定することを目的としている。例えば、手順S108でメモリ304に保存したコイル3の探傷器感度(A3)、探傷器位相角(B3)と、手順S109でメモリ304に保存したコイル3の探傷器感度(C3)、探傷器位相角(D3)から、コイル3における螺旋溝207とスリット210を検出したときの探傷器感度の補正値(Δ=C3−A3)、探傷器位相角の補正値(δ=D3−B3)を算出することができる。
次に、手順S108でメモリ304に保存した全コイルの探傷器感度、探傷器位相角に、上記で求めた補正値を各々のコイルで加算または減算すれば、表3に示す探傷時の探傷器感度、探傷器位相角のイメージのように、探傷時に使用する各コイルの探傷器感度、探傷器位相角を決定することができる。
Figure 2011075540
なぜなら、螺旋溝207は対比試験片206に一様に付与されているため、試験条件は各コイルで同じであり、手順109にて代表してコイル3で探傷器感度、探傷器位相角の補正値を求めておけば、他のコイルへの適用が可能だからである。
(4)ステップ4
最後にステップ4として、螺旋溝207を検出したときの振幅値、位相角の記録S111を実施する。この手順は、探傷作業の前後で同一探傷条件で探傷を行って、螺旋溝207に起因する信号を検出したときの探傷前後における各コイルの信号振幅値、位相角の違いが所定の範囲内に収まっていることを確認するために行う。
先程算出した探傷器感度、探傷器位相で手順S108と同様の探傷を実施し、表4Aに示す螺旋溝に起因する信号の振幅値、位相角のイメージをモニタ307に表示し、螺旋溝207に起因する信号の振幅値、位相角をメモリ304へ保存する。
Figure 2011075540
〔探傷後の補正(S104)〕
最後に、実施例4における、探傷後の校正S104の手順について述べる。まず、螺旋溝207を検出したときの振幅値、位相角の記録S112を実施する。探傷S103で使用した探傷器感度、探傷器位相のままで手順S108と同様の探傷を実施し、表4Bのようにモニタ307に表示された螺旋溝207に起因する信号の振幅値、位相角の記録をメモリ304へ保存する。
Figure 2011075540
次に、探傷前後における螺旋溝207の振幅値、位相角差の確認S113として、手順S111とS112で記録した螺旋溝207に起因する信号の振幅値、位相角の記録を使って、表5に示すように、探傷前後の校正での各コイルの振幅値の差、位相角の差を算出し、それらが所定の違い以内に収まっていることを確認する。
Figure 2011075540
探傷前の校正S102における実施例10の探傷器感度、探傷器位相角の設定において、螺旋溝207を使った設定と、スリット210を使った設定の順序を入れ替えて実施することも可能であり、同等の結果を得ることができる。
実施例4は、上記のようにマルチコイルの各コイル間の探傷器感度、探傷器位相角のばらつきが少ない校正が実現可能となり、信頼性の高い円筒管マルチコイル渦電流探傷が可能となる。
図18は、実施例5で用いる対比試験片316を示している。対比試験片316は、軸方向へ位置をずらして複数の短いスリット317が付与されている。また、短いスリット317は、すべてを足し合わせると、軸方向から見て円筒管の全周を覆うように設けられている。なお、短いスリット317は、円周方向に足し合わせて円筒管の全周を覆っていれば良く、軸方向、円周方向の配置位置は任意である。また、特に螺旋状配置でなくてもよい。
図19は、実施例5における円筒管マルチコイル渦電流探傷のフローチャートを示している。対比試験片316に付与した短いスリット317は短く、各コイルで短いスリット317に起因する信号を検出できるため、実施例4で必要な螺旋溝207を付与した対比試験片206が不要になり、1本の対比試験片316のみで校正が可能となる。その結果、探傷器感度、探傷器位相角の補正が不要になり、各手順における探傷器感度、探傷器位相角の一時記録がなくなるので、作業効率が向上するという利点がある。
本発明は、原子力発電プラント等の円筒管を有するシステムにおける、マルチコイル渦電流探傷検査に広く適用することができる。
10、305 コンピュータ
11 位置制御回路
12 巻き取り機
13 渦電流探傷器
14 渦電流探傷プローブ
15、307 モニタ
21、204 励磁コイル
22。205 検出コイル
31、81、91 対比試験片
32 スリット
52 スリットによる検出信号
82、207 螺旋溝
92 左回り螺旋溝
93 右回り螺旋溝
S102 探傷前の校正
S108 螺旋溝を使った探傷器感度、探傷器位相の設定
S109 スリットを使った探傷器感度、探傷器位相角の設定
S110 探傷器感度、探傷器位相角の補正
206 螺旋溝を付与した対比試験片
208 任意のコイル
209 スリットを付与した対比試験片
210 スリット
301 マルチコイル式プローブ
302 渦電流探傷器
303 演算部
304 メモリ
311 螺旋溝の信号
316 対比試験片(複数の短いスリット)

Claims (14)

  1. マルチコイル式プローブを用いた円筒管の渦電流探傷法において、単一の円筒管に複数個の同一形状の人工きずを全周方向及び軸方向にずらして配置した対比試験片を用いてマルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検をすることを特徴とする渦電流探傷法。
  2. 請求項1に記載された渦電流探傷法において、前記複数の人工きずは、前記対比試験片の全周を覆う様に配置したことを特徴とする渦電流探傷法。
  3. 請求項1または2に記載された渦電流探傷法において、前記複数の人工きずは、前記対比試験片外周を螺旋状に覆って配置されたことを特徴とする渦電流探傷法。
  4. 請求項2または3に記載された渦電流探傷法において、探傷前の校正では、前記対比試験片の全周を覆う人工きずを有する対比試験片を用いて探傷し、各コイルで検出した信号を用いて、全コイルの探傷器感度、探傷器位相角を算出することを特徴とする渦電流探傷法。
  5. 請求項1の渦電流探傷法において、前記人工きずを全周方向及び軸方向に等間隔にずらして配置した対比試験片を用いることを特徴とする渦電流探傷法。
  6. マルチコイル式プローブを用いた円筒管の渦電流探傷法において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工した対比試験片を用いて、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検をすることを特徴とする渦電流探傷法。
  7. 請求項6に記載された渦電流探傷法において、さらに、外周に軸方向と直交する単一のスリットを設けた対比試験片を併用して、マルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認、及び点検をすることを特徴とする渦電流探傷法。
  8. 請求項7に記載された渦電流探傷法において、
    前記螺旋溝を有する対比試験片を用いてマルチコイル式プローブの探傷器感度及び探傷器位相角を設定し、
    前記外周に軸方向と直交する単一のスリットを設けた対比試験片を用いてマルチコイル式プローブの任意のコイルの探傷器感度及び探傷器位相角を設定し、
    前記単一のスリットを設けた対比試験片により設定された前記マルチコイル式プローブの探傷器感度及び探傷器位相角により、前記マルチコイル式プローブの全コイルの探傷器感度及び探傷器位相角を補正することを特徴とする渦電流探傷法。
  9. 請求項7に記載された渦電流探傷法において、
    螺旋溝を付与した対比試験片を探傷し、全コイルにおける螺旋溝に起因する信号の振幅値、位相角を所定の値に合わせ、そのときの全コイルの探傷器感度、探傷器位相角を記録し、
    スリットを付与した対比試験片を探傷し、スリットに起因する信号を検出した任意のコイルの振幅値や位相角を所定の値に合わせ、同時にそのときの任意のコイルにおける探傷器感度、探傷器位相角を記録し、
    上記スリットを付与した対比試験片を探傷して記録した任意のコイルの探傷器感度、探傷器位相角と、前記螺旋溝を付与した対比試験片を探傷して記録した前記任意のコイルと同じコイルの探傷器感度、探傷器位相角の差を補正値とし、その補正値を、前記螺旋溝を付与した対比試験片を探傷して記録した全コイルの探傷器感度、探傷器位相角に加算または減算して、探傷時に使用する探傷器感度、探傷器位相角とすることを特徴とする渦電流探傷法。
  10. 請求項6の渦電流探傷法において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工し、右回り螺旋及び左回り螺旋の2つを形成した対比試験片を用いたことを特徴とする渦電流探傷法。
  11. 渦電流探傷法のマルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検に用いる対比試験片において、単一の円筒管に複数個の同一形状の人工きずを全周方向及び軸方向にずらして配置したことを特徴とする渦電流探傷法に用いる対比試験片。
  12. 請求項11の渦電流探傷法に用いる対比試験片において、前記人工きずを周方向及び軸方向に等間隔にずらして配置したことを特徴とする渦電流探傷法に用いる対比試験片。
  13. 渦電流探傷法のマルチコイル式プローブの探傷条件の設定、探傷装置の性能確認及び点検に用いる対比試験片において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工したことを特徴とする渦電流探傷法に用いる対比試験片。
  14. 請求項13の渦電流探傷法に用いる対比試験片において、単一の円筒管に一定の幅と深さを持つ連続的な溝を、人工きずとして等間隔の軸方向ピッチで螺旋状に加工し、少なくとも左回り螺旋溝及び右回り螺旋溝の2つを形成したことを特徴とする渦電流探傷法に用いる対比試験片。
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