しかしながら、内燃機関の運転状態などの冷却処理を実行するときの条件によっては、排気冷却処理と酸欠冷却処理のいずれによっても効果的にDPFを冷却することができない場合がある。例えば、内燃機関の運転状態によっては、スロットル弁の開度やEGRバルブの開度などの排気量調整パラメーターを制御しても、新気量が効果的に増量しないために、排気量が効果的に増量しない場合がある。このような場合に、排気冷却処理を実行しても、効果的に排気量を増量することができないので、DPFの過昇温を防止できない。
また、例えば、燃料の着火性が低い場合など筒内での燃焼が効果的になされない場合がある。このような場合に、ポスト噴射をしても、筒内で酸素を効果的に消費することができないうえに、さらにポスト噴射量の増減により酸素濃度を調整することもできなくなる。したがって、酸欠冷却処理を実行しても、効果的に酸素濃度を減少させることができないので、DPFの過昇温を防止できない。また、筒内での燃焼が効果的になされないと、燃焼されない未燃燃料の量が多くなる。その未燃燃料は、DPFの昇温させるために設けられた排気を昇温させる酸化触媒と反応して、その酸化触媒が過昇温するおそれもある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、DPFの過昇温を防止する冷却処理として、排気冷却処理と酸欠冷却処理を実行するDPFの過昇温防止装置において、DPFの過昇温をより確実に防止することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられた排気中の粒子性物質を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)の過昇温を防止するための所定の冷却処理を実行するDPFの過昇温防止装置であり、
前記冷却処理として、前記DPFでの熱を持ち去るために、予め定められた排気量調整パラメーターを制御することによって前記DPFへ流入する排気量を増量させる排気冷却処理を実行する排気冷却手段と、
前記冷却処理として、前記DPFでの発熱を抑えるために、前記DPF周辺の酸素濃度を減少させる酸欠冷却処理を実行する酸欠冷却手段と、を備えるDPFの過昇温防止装置において、
排気量を効果的に増量できるか否かを判断することによって、前記排気冷却処理で前記DPFの過昇温が防止できるか否かを判断する第一の可否判断手段と、
酸素濃度を効果的に減少できるか否かを判断することによって、前記酸欠冷却処理で前記DPFの過昇温が防止できるか否かを判断する第二の可否判断手段と、
前記第一、第二の可否判断手段によって、前記排気冷却処理及び前記酸欠冷却処理では前記DPFの過昇温が防止できないと判断された場合に、それら排気冷却処理、酸欠冷却処理に代えて、前記DPFでの熱を持ち去るために、前記排気量調整パラメーター以外の所定の増量強化パラ−メーターを制御することによって、前記DPFへ流入する排気量を前記排気冷却処理における排気量よりもさらに増量させた増量強化冷却処理を実行する増量強化冷却手段と、を備えることを特徴とする。
これによれば、第一、第二の可否判断手段が、排気冷却処理、酸欠冷却処理でDPFの過昇温が防止できるか否かを判断する。そして、防止できないと判断した場合には、増量強化冷却手段が、DPFへ流入する排気量を排気冷却処理における排気量よりもさらに増量させた増量強化冷却処理を実行する。その増量強化冷却手段は、排気量調整パラメーター以外の所定の増量強化パラ−メーターを制御するので、排気量調整パラメーターを制御しても新気量が効果的に増量しない場合であっても、効果的に排気量を増量させることができる。したがって、排気量不足によるDPFの過昇温が防止できない可能性を低減できる。また、効果的に酸素濃度を減少させることができず酸欠冷却処理を実行できない場合であっても、増量強化冷却処理による排気量でDPFでの熱を持ち去ることができるので、酸素濃度過多によるDPFの過昇温が防止できない可能性を低減できる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記排気冷却手段は、内燃機関の吸気系に取り込まれる新気量を調整するスロットル弁の開度及び内燃機関の排気通路から吸気通路へ再循環されるEGR量を調整するEGRバルブの開度の少なくとも一つを前記排気量調整パラメーターとして制御して、新気量を増量させEGR量を減量させることによって、排気量を増量させるものである。
このように、新気量を増量させることによって、排気量も増量させることができる。また、EGR量を減量させることによって、排気のうち吸気に再循環される量が減少するので、結果として排気量を増量させることができる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記増量強化冷却手段は、内燃機関の回転数及び吸気圧の少なくとも一つを前記増量強化パラメーターとして増加制御することによって、排気量を増量させるものである。
このように、内燃機関の回転数や吸気圧を増加させることによって、排気量を増加させることができる。そして、内燃機関の回転数や吸気圧は、内燃機関の運転状態等にかかわらず、燃料噴射量や燃料噴射時期等を調整することによって増加させやすい。したがって、内燃機関の回転数や吸気圧を増加制御することによって、DPFへ流入する排気量を排気冷却処理における排気量よりもさらに増量させることができる。
また、排気冷却処理と酸欠冷却処理のいずれによっても効果的にDPFを冷却することができない場合は、上記増量強化冷却処理のほか、以下のようにしてもよい。すなわち、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられた排気中の粒子性物質を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)の過昇温を防止するための所定の冷却処理を実行するDPFの過昇温防止装置であり、
前記冷却処理として、前記DPFでの熱を持ち去るために、前記DPFへ流入する排気量を増量させる排気冷却処理を実行する排気冷却手段と、
前記冷却処理として、前記DPFでの発熱を抑えるために、予め定められた酸素調整パラメーターを制御して、前記DPF周辺の酸素濃度を減少させる酸欠冷却処理を実行する酸欠冷却手段と、を備えるDPFの過昇温防止装置において、
排気量を効果的に増量できるか否かを判断することによって、前記排気冷却処理で前記DPFの過昇温が防止できるか否かを判断する第一の可否判断手段と、
酸素濃度を効果的に減少できるか否かを判断することによって、前記酸欠冷却処理で前記DPFの過昇温が防止できるか否かを判断する第二の可否判断手段と、
前記第一、第二の可否判断手段によって、前記排気冷却処理及び前記酸欠冷却処理では前記DPFの過昇温が防止できないと判断された場合に、それら排気冷却処理、酸欠冷却処理に代えて、前記酸素調整パラメーターの制御量を、酸素濃度を効果的に減少できるように補正して前記DPF周辺の酸素濃度を減少させる補正酸欠冷却処理を実行する補正酸欠冷却手段と、を備えることを特徴とする。
これによれば、排気冷却処理、酸欠冷却処理でDPFの過昇温を防止できないと判断した場合には、補正酸欠冷却手段が、酸素調整パラメーターの制御量を、酸素濃度を効果的に減少できるように補正してDPF周辺の酸素濃度を減少させる補正酸欠冷却処理を実行する。したがって、筒内での燃焼が効果的になされない場合等、酸欠冷却処理では効果的に酸素濃度を減少させることができない場合であっても、補正酸欠冷却処理が実行されて、その酸素調整パラメーターの制御量が補正されるので、酸素濃度を効果的に減少させることができる。その結果、酸素濃度過多によるDPFの過昇温が防止できない可能性を低減できる。また、排気量を効果的に増量できないことによって排気冷却処理ではDPFの過昇温を防止できない場合であっても、酸素濃度を減少させた補正酸欠冷却処理が実行されるので、DPFでの発熱を抑えることができる。その結果、排気量不足によるDPFの過昇温が防止できない可能性を低減できる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記酸欠冷却手段は、内燃機関の吸気系に取り込まれる新気量を調整するスロットル弁の開度及び内燃機関の排気通路から吸気通路へ再循環されるEGR量を調整するEGRバルブの開度、燃料噴射量及び燃料噴射時期の少なくとも一つを前記酸素調整パラメーターとして制御することによって、前記酸欠冷却処理を実行するものである。
このように、スロットル弁の開度やEGRバルブの開度を制御することによって、新気量を調整することができる。その新気量が少ないほど、DPF周辺の酸素濃度も少なくなると考えられる。つまり、スロットル弁の開度やEGRバルブの開度を制御することによって、DPF周辺の酸素濃度を減少させることができる。また、燃料噴射量や燃料噴射時期を制御することによって、筒内での燃焼を制御することができる。筒内での燃焼によって、筒内に取り込まれた新気に含まれている酸素が消費されるので、その燃焼を制御することによってDPF周辺の酸素濃度を制御することができる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記酸欠冷却手段は、燃料噴射量及び燃料噴射時期を前記酸素調整パラメーターとして、主噴射に後続するポスト噴射を実行して、前記ポスト噴射を筒内で燃焼させることで、筒内の酸素を消費させることによって、酸素濃度を減少させるものであり、
前記補正酸欠冷却手段は、前記補正酸欠冷却処理として、燃料噴射時期を、前記酸欠冷却処理時の前記ポスト噴射における燃料噴射時期よりも早い筒内圧が高い時期に補正した補正ポスト噴射を実行するものである。
このように、ポスト噴射を実行することによって、主噴射で消費できなかった酸素を消費することができ、DPF周辺の酸素濃度を減少させることができる。その際、燃料の着火性が低い等の理由によって燃焼が効果的になされない場合がある。この場合、DPFの酸素濃度を効果的に減少させることができないので、酸欠冷却処理ではDPFの過昇温を防止できないことになる。そこで、補正酸欠冷却手段が、燃料噴射時期を早い筒内圧が高い時期に補正してポスト噴射を実行するので、筒内圧が低いときよりも酸素を消費しやすくできる。その結果、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができる。また、筒内でポスト噴射が効果的に燃焼するために未燃燃料の量が過度に多くならずに、DPFを昇温させるために設けられた排気を昇温させる酸化触媒の過昇温も抑制できる。
また補正酸欠冷却手段は、前記補正ポスト噴射として、さらに、燃料噴射量を、前記酸欠冷却処理時の前記ポスト噴射における燃料噴射量よりも多い量に補正する。
これにより、筒内での燃料の量が多くなって、その量が少ないときよりも酸素を消費しやすくできる。その結果、DPF周辺の酸素濃度をより一層効果的に減少させることができる。
また補正酸欠冷却手段は、前記酸素調整パラメーターとしてのスロットル弁の開度を前記酸欠冷却処理時よりも大きな開度に補正して、前記補正酸欠冷却処理を実行するとしてもよい。
上述したように、酸欠冷却処理は、新気量を減少させることによって、DPF周辺の酸素濃度を減少させることを狙ったものである。しかし、燃料の着火性が低い場合等、効果的に燃焼がなされない場合には、新気量を減少させたとしても、その新気に含まれる酸素が効果的に消費されないので、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができない。そこで、この場合には、補正酸欠冷却手段が、スロットル弁の開度を大きくして新気量を酸欠冷却処理時のときよりも増量させるので、筒内での燃焼を促進することができる。その結果、新気に含まれている酸素の消費も促進でき、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができる。
また補正酸欠冷却手段は、前記酸素調整パラメーターとしてのEGRバルブの開度が前記酸欠冷却処理時よりも小さな開度に補正して、前記補正酸欠冷却処理を実行するとしてもよい。
上述したように、酸欠冷却処理では、新気量を減少させているが、EGR量を多くすることによって新気量を減少させることができる。しかし、上述したように、効果的に燃焼がなされない場合には、新気量を減少させたとしても、その新気に含まれる酸素が効果的に消費されないので、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができない。そこで、この場合には、補正酸欠冷却手段が、EGRバルブの開度を小さくしてEGR量を酸欠冷却処理時のときよりも減量させて新気量を増量させているので、筒内での燃焼を促進することができる。その結果、新気に含まれている酸素の消費も促進でき、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記第二の可否判断手段は、酸素濃度を効果的に減少できるか否かの判断として、筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断する。
このように、筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断することによって、燃焼で消費される酸素量の指標とすることができる。つまり、筒内での燃焼が効果的になされていない場合には、その燃焼で効果的に酸素を消費することができず、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができないと判断することができる。
そして、筒内での燃焼が効果的になされているか否かは、以下のようにして判断することができる。すなわち、吸気温を取得する吸気温取得手段を備え、前記第二の可否判断手段は、前記吸気温取得手段によって取得された吸気温に基づいて筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断する。
これによれば、吸気温が高いほど筒内での燃焼が促進されると考えられるので、その吸気温に基づいて、筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断することができる。
また、筒内での燃焼が効果的になされているか否かの判断に関して、燃料の着火のし易さの指標として、筒内で燃焼させる燃料のセタン価を取得するセタン価取得手段を備え、
前記第二の可否判断手段は、前記セタン価取得手段によって取得されたセタン価に基づいて筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断するとしてもよい。
これによれば、セタン価が高い燃料ほど筒内での燃焼が促進されると考えられるので、そのセタン価に基づいて、筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断することができる。
また、筒内での燃焼が効果的になされているか否かの判断に関して、排気温を取得する排気温取得手段を備え、
前記第二の可否判断手段は、前記排気温取得手段によって取得された排気温に基づいて筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断するとしてもよい。
これによれば、筒内での燃焼が効果的になされている場合には排気温が高くなると考えられるので、その排気温に基づいて、筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断することができる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記第一の可否判断手段による判断が可の場合には、前記排気冷却処理と前記酸欠冷却処理のうちの前記排気冷却処理を実行する。
これによれば、酸欠冷却処理が実行されると酸欠状態になってドライバビリティに影響を与えるおそれがあるので、排気冷却処理でDPFの過昇温が防止できる場合には排気冷却処理を優先的に実行するようにしたものである。
また、前記第一の可否判断手段による判断が否で、前記第二の可否判断手段による判断が可の場合には、前記排気冷却処理と前記酸欠冷却処理のうちの前記酸欠冷却処理を実行する。
このように、排気冷却処理でDPFの過昇温が防止できない場合には、酸欠冷却処理が実行されるので、DPFの過昇温が防止することができる。
また、前記第一の可否判断手段は、
前記DPFの過昇温が防止できる必要排気量を算出する必要排気量算出手段と、
前記排気冷却処理を実行した場合における増量後排気量を内燃機関の運転条件に基づいて推定する増量後排気量推定手段と、
前記増量後排気量が前記必要排気量より小さいか否かを比較判断して、前記DPFの過昇温が防止できるか否かを決定する可否決定手段と、を備える。
これによれば、排気冷却処理を実行した場合に、排気量がどの程度増量するかは、内燃機関の運転状態によって変わってくると考えられる。そこで、増量後排気量推定手段が、内燃機関の運転条件に基づいて、排気冷却処理を実行した場合における増量後排気量を推定する。そして、可否決定手段が、その増量後排気量とDPFの過昇温が防止できる必要排気量とを比較判断するので、各内燃機関の運転状態に応じて、排気冷却処理でDPFの過昇温が防止できるか否かを判断することができる。
その必要排気量算出手段は、前記DPFで捕集された粒子性物質の量であるPM捕集量に基づいて前記必要排気量を算出するものである。これにより、PM捕集量に応じた必要排気量を算出することができる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記DPFで捕集された粒子性物質の量であるPM捕集量及び前記DPFの温度に基づいて、前記冷却処理の実行が必要か否かを判断する実行要否判断手段を備え、
その実行要否判断手段によって前記冷却処理の実行が必要と判断されたときのみ、前記冷却処理を実行する。
これによれば、PM捕集量やDPFの温度が大きいほどDPFが過昇温する可能性が高くなると考えられる。そして、DPFが過昇温する可能性が低いにもかかわらず冷却処理を実行すると、排気量が増量したり、酸欠状態になったりするので、ドライバビリティ等に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、実行要否判断手段が、PM捕集量及びDPFの温度に基づいて冷却処理の実行が必要か否かを判断して、その実行が必要と判断されたときのみ冷却処理が実行されるので、不必要な冷却処理の実行を防止できる。
また、前記実行要否判断手段は、前記PM捕集量、前記DPFの温度に加えて、内燃機関が、前記DPFの過昇温が起こりやすい所定の運転状態であるか否かに基づいて、前記冷却処理の実行が必要か否かを判断する。
これによれば、DPFが過昇温するか否かは、内燃機関の運転状態によっても変わってくると考えられるので、実行要否判断手段が、内燃機関の運転状態に基づいて、冷却処理の実行が必要か否かを判断しているので、より正確に、その判断をすることができる。
そのDPFの過昇温が起こりやすい所定の運転状態所定の運転状態は、減速状態とすることができる。このように、内燃機関が減速状態では、内燃機関の回転数の低下等によりDPFへ流入する排気量が減少し、DPFが過昇温しやすい状態であると言える。したがって、より一層、適切な時期に冷却処理を実行することができる。
また、本発明のDPFの過昇温防止装置において、前記前記冷却処理の実行中に、前記DPFの温度に基づいて実行中の冷却処理の継続が必要か否かを判断する継続要否判断手段と、
前記継続要否判断手段によって継続が不要と判断された場合には、実行中の冷却処理を終了する冷却処理終了手段と、を備える。
これによれば、冷却処理が実行されてDPFの温度が低下したにもかかわらず、不必要に冷却処理が継続されるのを防止できる。
(第一実施形態)
以下、本発明のDPFの過昇温防止装置の第一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態は、請求項に係る発明のうち、排気冷却処理、酸欠冷却処理で過昇温が防止できない場合には増量強化冷却処理を実行する発明に係る実施形態である。
図1は、本実施形態のDPFの過昇温防止装置が適用されるエンジンシステム1の概略構成を示した図である。このシステム1の制御対象とするエンジン10としては、4輪自動車(例えばAT車)に搭載される多気筒(例えば直列4気筒)のディーゼルエンジン(内燃機関)を想定している。そのディーゼルエンジン10(以下エンジンという)は、インジェクタ(図示外)から燃焼室(図示外)に噴射された燃料は、その燃焼室で自己着火することによって動力を生み出すものである。
またエンジン10には、シリンダ(図示外)内の圧力(筒内圧)を検出する筒内圧センサ66が、例えば着火補助装置としてのグロープラグと一体にして設けられている。そしてこれにより、シリンダ内における燃焼状態の把握、すなわち着火時期や燃焼温度の推定、さらにはノッキング検出、燃焼圧のピーク位置検出、失火検出等が可能とされている。なお、筒内圧センサ66で検出された筒内圧は、ECU70に入力される。
また、エンジン10の排気通路51にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)30が設置され、その上流には酸化触媒(DOC)20が設置されている。DPF30は公知の構造のセラミック製フィルタであり、例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスをハニカム構造に成形して、ガス流路となる多数のセルを入口側または出口側が互い違いとなるように目封じしてなる。エンジン10から排出された排気は、DPF30の多孔性の隔壁を通過しながら下流へ流れ、その間にパティキュレート(粒子性物質、PM)が捕集されて次第に堆積する。
そして、DPF30で捕集されたPMの捕集量が多くなると、DPF30のPMの捕集能力が落ちてくる。そこで、定期的に(又は不定期にPM捕集量に応じて)昇温処理が実行されて、捕集されたPMが燃焼し、酸化され、無害化した炭酸ガスとして排出されるようになっている。すなわち、DPF30が再生する。この昇温処理は、例えばエンジン10の動力を得る(出力トルクを生成する)ためになされるメインの燃料噴射(主噴射)から所定時間遅れた時期に1回又は多段噴射のポスト噴射を実行することによって行われる。詳しくは、このポスト噴射により、排気温度を上昇させるとともに、後述するDOC20に対して未燃燃料(炭化水素、HC)を添加してその反応熱で捕集PMの燃焼、ひいてはDPF30の再生を行うようにしている。
DOC20は公知の構造で、コーディエライトハニカム構造体等よりなるセラミック製担体の表面に酸化触媒を担持してなる。DOC20は、排気通路51に供給される炭化水素(HC)を触媒反応により燃焼させて排気温度を上昇させ、DPF30を昇温する。なお、DPF30には酸化触媒が担持されていても、担持されていなくてもよい。本実施形態では、DPF30に酸化触媒が担持されていないものとして説明する。あるいは、酸化触媒が担持されたDPF30を用い、その上流にDOC20を設置しないシステム構成とすることもできる。
排気通路51のDOC20の上流側には、温度センサとしての排気温センサ61が設置される。排気温センサ61はECU70に接続されており、DOC20の入ガス温度を検出して、ECU70に出力する。ECU70は排気温センサ61の出力に基づいて例えばDPF30の温度(中心温度)を推定する。なお、DPF30の下流側にDPF30の出ガス温度を検出する排気温センサを設けて、その出ガス温度と排気温センサ61が検出する入ガス温度とに基づいて、DPF30の温度を推定してもよい。
また、排気通路51には、DPF30にて捕集されたPM捕集量を知るために、DPF30の前後差圧を検出する差圧センサ67が接続される。差圧センサ67の一端側はDPF30上流の排気通路51に、他端側はDPF30下流の排気通路51にそれぞれ接続されており、DPF30の前後差圧に応じた信号をECU70に出力する。
また、排気通路51にはA/Fセンサ62(空燃比センサ)が配置され、同センサ62により計測されたA/F値の数値がECU70へと送られる。このA/Fセンサ62は、例えば、吸蔵還元型NOx触媒(図示外)で吸蔵されたNOxを還元するために、排気のA/F値を制御するために用いられたり、後述するEGR制御に用いられたりする。
さらに排気還流系として、排気通路51から吸気通路52へ、排気を再循環するためのEGR通路41が設けられている。EGR通路41上には、EGRバルブ42が配置され、ECU70からの指令でその開度が制御されることにより、排気の還流量であるEGR量が調節される。また必要に応じて、EGRガスを冷却するEGRクーラ等も、EGR通路41に対して設けられる。こうした構成に基づき、EGR通路41を通じて排気ガスの一部を吸気系に再循環することにより燃焼温度を下げてNOxの発生を低減している。
エンジン10の吸気通路52には、吸気温を検出する吸気温センサ63と新気量を検出するエアフロメータ64が設置されて、吸気温、新気量をECU70に出力するようになっている。また、エアフロメータ64下流の吸気通路52には、エンジン10に取り込まれる新気量の増減を調整するスロットル弁65(吸気絞り弁)が設置されており、ECU70の指令で新気量を増減する。
さらに、本実施形態では、スロットル弁65の上流の吸気通路52に、圧縮した新気をエンジン10に送り込む圧縮機66が設けられている。この圧縮機66は、排気のエネルギーを利用して高速回転されたタービン(図示外)のその回転力で駆動され、新気を圧縮して、すなわち吸気圧を増加して新気をエンジン10に送り込むものである。これによって、見かけ上の排気量を超える出力を得ることができる。なお、これらタービンや圧縮機66からなる構成は、いわゆるターボチャージャーと称されるものであって、タービンや圧縮機66は、ECU70に接続され、ECU70の指令に基づいて新気を圧縮する。
またECU70には、エンジン回転数NEを検出する回転数センサ81が接続されている。その回転数センサ81は、例えばエンジン10から連結されたクランク(図示外)の回転角度を計測するクランク角センサとすればよい。そしてクランク角センサの検出値がECU70へ送られてECU70がエンジン10の回転数NEを算出している。
さらにECU70には、運転者の要求トルクを車両側に知らせるための運転操作部に相当するアクセルペダルの状態(変位量)を検出するアクセルセンサ82が接続されている。これら、回転数センサ81やアクセルセンサ82は、例えば、エンジン10の運転状態(加速状態、減速状態等)を検出するために用いられる。
ECU70は、通常のコンピュータの構造を有するとし、各種演算をおこなうCPU(図示外)や各種情報の記憶を行うメモリ(図示外)を備えている。そのECU70は、上記各種センサからの検出信号を基に運転状態を検出し、運転状態に応じた最適な燃料噴射量、噴射時期、噴射圧等を算出して、エンジン10への燃料噴射を制御する。また、スロットル弁65の開度を制御して新気量を調整したり、EGRバルブ42の開度を制御してEGR量を調整したりする。さらに、ECU70は、上記DPF30の昇温処理を実行して、DPF30を再生させる。
また、ECU70は、本発明の「DPFの過昇温防止装置」として機能し、上記昇温処理などが原因でDPF30が過昇温となるのを防止するための所定の冷却処理を実行する。具体的には、冷却処理として、DPF30での熱を持ち去るために、スロットル弁65の開度、EGRバルブ42の開度(排気量調整パラメーター)を制御することによってDPF30へ流入する排気量を増量させる排気冷却処理を実行する。また、別の冷却処理として、DPF30での発熱を抑えるために、スロットル弁65の開度、EGRバルブ42の開度、燃料噴射量及び燃料噴射時期(酸素調整パラメーター)を制御して、DPF30周辺の酸素濃度を減少させる酸欠冷却処理を実行する。そして、これら排気冷却処理と酸欠冷却処理は、エンジン10の運転状態等によって使い分けている。なお、排気冷却処理と酸欠冷却処理の詳細や実行時期等は、フローチャートを参照して後述する。
さらに本実施形態では、ECU70は、冷却処理として、上記排気冷却処理と酸欠冷却処理とは別の、DPF30へ流入する排気量を排気冷却処理における排気量よりもさらに増量させて、DPF30での熱を持ち去る増量強化冷却処理を実行する。この増量強化冷却処理は、排気冷却処理と酸欠冷却処理のいずれによってもDPF30の過昇温が防止できないと判断される場合に実行される。そして、これら冷却処理は、具体的には、図2のフローチャートにしたがって実行される。
ここで、図2は、ECU70が実行するDPF30の過昇温を防止する過昇温防止処理の手順を示したフローチャートである。この過昇温防止処理は、例えば、一定間隔で繰り返し実行される。以下、図2を参照しながら、この過昇温防止処理について説明する。
先ず、ステップS10では、DPF30の温度、DPF30に捕集されたPM捕集量及びエンジン10の運転状態(加速減速状態)をそれぞれ取得する。具体的には、DPF30の温度は、排気温センサ61が検出する排気温を取得する。また、排気温とDPF30の温度(中心温度)との関係を予め実験等で求めて、その関係を定めたマップをECU70内のメモリ等に記憶しておく。そして、取得した排気温と記憶されたマップとに基づいて、DPF30の温度を推定する。
また、PM捕集量は、差圧センサ67が検出するDPF30の前後差圧を取得する。ここで、DPF30で捕集されたPM捕集量が多くなってDPF30が詰まってくるほど、DPF30の前後差圧が大きくなってくると考えられる。そこで、DPF30の前後差圧とPM捕集量との関係を予め実験等で求めて、その関係を定めたマップをECU70内のメモリ等に記憶しておく。そして、取得したDPF30の前後差圧と記憶されたマップとに基づいて、PM捕集量を推定する。
また、エンジン10の運転状態(加速減速状態)は、回転数センサ81が検出するエンジン回転数NEと、アクセルセンサ82が検出するアクセルペダルの操作量とをそれぞれ取得する。これらエンジン回転数NEとアクセルペダルの操作量は、エンジン10の運転状態(加速減速状態)に相当する情報となる。すなわち、例えば、エンジン回転数NEが大きいほどエンジン10は加速状態にあると言え、アクセルペダルの操作量が大きいほどエンジン10は加速状態であると言える。
続くステップS20では、ステップS10で取得したDPF30の温度、PM捕集量及びエンジン10の運転状態に基づいて、DPF30の過昇温を防止するための冷却処理の実行が必要か否かを判断する。具体的には、例えば上記特許文献1(特開2008−38821号公報)に記載の方法と同様にして判断する。すなわち、(1)PM捕集量が所定閾値(例えば「10g」、必要に応じて可変値)よりも多い(PM捕集量>閾値)、(2)DPF30の温度が所定閾値T0(例えば「600℃」、必要に応じて可変値)よりも高い(DPF温度>閾値T0)、(3)エンジン10が減速状態にある、の3つの条件を同時に満たすか否かを判断する。そして、全ての条件を同時に満たす場合には、DPF30の冷却処理の実行が必要であると判断し、3つの条件のうち一つでも満たさない場合には、冷却処理の実行は必要でないと判断する。
このように、PM捕集量を考慮して冷却処理の実行の必要性を判断しているのは、PM捕集量が少なければ昇温処理の際にDPF30で燃焼するPMが少ないことになり、DPF30が過昇温となる可能性は低いからである。また、DPF30の温度を考慮して冷却処理の実行の必要性を判断しているのは、DPF30の温度がもともと低ければ、昇温処理が実行されても、DPF30が過昇温となる可能性は低いからである。また、エンジン10の運転状態を考慮して冷却処理の実行の必要性を判断しているのは、エンジン10が加速状態になる場合には、排気量が多いために、昇温処理が実行されても熱がいつまでもDPF30に留まることがなく、DPF30が過昇温となる可能性は低いからである。このように、3つの条件によって、冷却処理の実行が必要か否かを判断することにより、適切な時期に冷却処理を実行することができる。なお、ステップS20を実行するECU70が本発明の「実行要否判断手段」に相当する。
ここで、ステップS20において、上記(1)〜(3)の条件を一つでも満たさない場合には、処理をステップS100に進める。そして、ステップS100において、冷却処理の実行は必要ないとして、現在冷却処理を実行している場合にはその冷却処理の実行を終了し、現在冷却処理を実行していない場合にはその状態を維持する。その後、図2の過昇温防止処理を終了する。このように、必要でないときには冷却処理を実行しないことにより、後述するように強制的に排気量を増量させたり、酸欠状態にしたりすることがないので、ドライバビリティが変わること等を防ぐことができる。
一方、ステップS20において、上記(1)〜(3)の条件の全てを満たす場合には、冷却処理が必要であるとして、処理をステップS30以下に進める。この場合、冷却処理として、排気冷却処理、酸欠冷却処理又は増量強化冷却処理を実行することになる。そこで、先ずステップS30では、排気冷却処理を実行した場合にDPF30の過昇温の防止を図れるか否かを判断する排気冷却可否判定を実行する。図3は、この排気冷却可否判定の手順の詳細を示したフローチャートである。なお、この排気冷却可否判定は、基本的には上記特許文献1(特開2008−38821号公報)に記載の方法と同じである。
すなわち、先ずステップS31では、排気冷却処理の実行時に、排気によってDPF30の熱を持ち去って過昇温を防止するために、DPF30の過昇温が防止できる必要排気量Q0を算出する。ここで、この必要排気量Q0を、DPF30の温度をDPF30が過昇温しない安全な所定温度T1まで減少させるのに必要な排気量としたときに、PM捕集量が多いほど、昇温処理で燃焼するPMが多くなりDPF30の温度が上昇しやすくなる。つまり、PM捕集量が多いほど、DPF30の温度が減少しにくくなるので、多くの必要排気量Q0が必要であると考えられる。また、DPF30の温度が高いほど、上記所定温度T1まで減少させるときの温度の下げ幅が大きくなるので、多くの必要排気量Q0が必要であると考えられる。つまり、必要排気量Q0は、PM捕集量とDPF30の温度とに基づいて定めることができる。
ここで図4は、PM捕集量、DPF30の温度に対する必要排気量Q0としての適合値のマップの一例を示した図である。図4中、曲線L1〜L4は、各異なるPM捕集量の場合(PM捕集量は「L1>L2>L3>L4」)について、それぞれ必要排気量Q0とDPF30の温度との関係を示している。すなわち、このマップによれば、DPF30の温度が高いほど、またPM捕集量が多いほど、必要排気量Q0として大きな値が対応付けられている。そして、ステップS31では、PM捕集量、DPF30の温度と、このマップとに基づいて、必要排気量Q0を算出する。なお、図4のマップは、実験等によって予め求めて、ECU70内のメモリ等に記憶しておけばよい。なお、ステップS31を実行するECU70が本発明の「必要排気量算出手段」に相当する。
続くステップS32では、排気冷却処理を実行した場合における増量後排気量Quをエンジン10の運転条件に基づいて推定する。具体的には、本実施形態では、排気冷却処理における排気量UP操作の一例として、スロットル弁65を全開にするとともに、EGRバルブ42を全閉にして、エンジン10の吸気系に取り込まれる新気量を増量するとともに、エンジン10の排気通路51から吸気通路52へ再循環されるEGR量を減量することとする。したがって、このステップS32では、スロットル弁65を全開、かつ、EGRバルブ42を全閉にした時に得られる排気量(=増量後排気量Qu)を、エンジン10の運転状態に基づいて算出することになる。なおこの際、増量後排気量Quは、例えばエアフロメータ64が検出する現在の新気量に基づいて算出することができる。なお、ステップS32を実行するECU70が本発明の「増量後排気量推定手段」に相当する。
続くステップS33では、必要排気量Q0と増量後排気量Quとを比較して、増量後排気量Quが必要排気量Q0よりも大きいか否かを判断する。そして、大きい場合には(S33:YES)、排気冷却処理でDPF30の過昇温を防止できるとして、ステップS34で、排気冷却処理の実行可能を示す冷却可否判定フラグF1をオンにし(F1=1)、この冷却可否判定フラグF1をECU70内のメモリ等に記憶しておく。その後、図3の処理を抜けて、図2の処理に戻る。一方、ステップ33において、増量後排気量Quが必要排気量Q0よりも小さい場合には(S33:NO)、ステップS35で、冷却可否判定フラグF1をオフ(F1=0)にし、この冷却可否判定フラグF1をECU70内のメモリ等に記憶しておく。その後、図3の処理を抜けて、図2の処理に戻る。なお、ステップS33〜S35を実行するECU70が本発明の「可否決定手段」に相当する。また図2のステップS30(=図3のS31〜S35)を実行するECU70が本発明の「第一の可否判断手段」に相当する。
図2の説明に戻り、ステップS30の判定が終わると、処理をステップS40に進める。そして、ステップS40では、ステップS30の判定結果が、排気冷却実行可能、不能のどちらであるかを先の冷却可否判定フラグF1に基づいて判断する。ここで、冷却可否判定フラグF1がオンされており、排気冷却処理が実行可能である場合には、処理をステップS50に進める。
ステップS50では、排気冷却処理として、スロットル弁65を全開、かつ、EGRバルブ42を全閉にして、排気量を増量させる。これによって、必要排気量Q0より大きな排気量(=増量後排気量Qu)に増量されて、DPF30の熱を持ち去ることができる。よって、DPF30の過昇温を防止できる。なお、スロットル弁65の開度及びEGRバルブ42の開度が本発明の「排気量調整パラメーター」に相当する。また、ステップS50を実行するECU70が本発明の「排気冷却手段」に相当する。その後、ステップS10の処理に戻る。
このように、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるのであれば、後述する酸欠冷却処理よりも優先して排気冷却処理を実行することになる。これは、酸欠冷却処理は強制的に酸欠状態にするため、ドライバビリティが悪化する恐れがあるので、排気冷却処理を優先したものである。
一方、ステップS40において、排気冷却処理が実行不能である場合には、処理をステップS60に進める。そして、ステップS60では、酸素濃度を効果的に減少できるか否かを判断することによって、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止を図れるか否かを判断する酸欠冷却可否判定を実行する。図5は、この酸欠冷却可否判定の手順の詳細を示したフローチャートである。
先ず、ステップS61では、吸気温センサ63から吸気温Taを、排気温センサ61から排気温Teを取得するとともに、燃料の着火のし易さの指標として、筒内で燃焼させる燃料(軽油)のセタン価Cを取得する。このセタン価Cは、例えば、エンジン10の筒内での筒内圧を筒内圧センサ66で計測して、その筒内圧から求める。そのために筒内圧とセタン価Cとの間の関係を予め実験等により求めておいてECU70内のメモリ等に記憶しておけばよい。エンジン10の筒内圧は、例えば上死点近傍での主噴射による圧力変化値とすれば熱発生率が高いので精度よくセタン価Cが推定できる。なお、燃料の着火性は、燃料燃焼時の筒内圧の圧力上昇の速度、燃焼時の筒内圧の最高値、燃料が噴射されてから着火するまでの期間、のいずれかに相当するものとしてもよい。なお、ステップS61を実行するECU70が本発明の「吸気温取得手段」、「排気温取得手段」及び「セタン価取得手段」に相当する。
続くステップS62では、(4)吸気温Taが所定の基準吸気温Ta0よりも大きい(Ta>Ta0)、(5)排気温Teが所定の基準排気温Te0より大きい(Te>Te0)、(6)セタン価Cが所定の基準セタン価C0よりも大きい、の3つの条件を同時に満たすか否かを判断することによって、酸欠冷却処理を実行した場合に酸素濃度を効果的に減少させることができるか否かを判断する。すなわち、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温を防止できるか否かを判断する。そして、全ての条件を同時に満たす場合には、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温を防止できると判断し、3つの条件のうち一つでも満たさない場合には、酸欠冷却処理ではDPF30の過昇温を防止できないと判断する。
このように、吸気温Taを考慮して判断しているのは、吸気温Taが大きいほど筒内での燃焼が促進され、筒内で消費される酸素量が多くなるためである。つまり、吸気温Taが所定値以上であればDPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることと考えることができるためである。
また、排気温Teを考慮して酸素濃度を効果的に減少させるか否かを判断しているのは、排気温Teが大きければ、筒内での燃焼が効果的になされたと考えられ、筒内で消費される酸素量が多くなるためである。つまり、排気温Teが所定値以上であればDPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができると考えることができるためである。
また、セタン価Cを考慮して酸素濃度を効果的に減少させるか否かを判断しているのは、セタン価Cが大きければ、燃料が着火しやすいので、筒内での燃焼が効果的になされると考えられ、筒内で消費される酸素量が多くなるためである。つまり、セタン価Cが所定値以上であればDPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができると考えることができるためである。
このように、筒内での燃焼で効果的に酸素を消費できるか否かを判断することによって、DPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができるか否か、つまり酸欠冷却処理でDPF30の過昇温を防止できるか否かを判断している。したがって、上記基準吸気温Ta0、基準排気温Te0及び基準セタン価C0は、筒内での燃焼が効果的になされるか否かの閾値として定められる。なお、セタン価Cは酸欠冷却処理の実行前に検出可能な検出値であり、吸気温Ta、排気温Teは酸欠冷却処理の実行中に適宜検出する検出値である。
そして、ステップS62において、上記(4)〜(6)の条件を全て満たす場合には(S62:YES)、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温を防止できるとして、ステップS63で、酸欠冷却処理の実行可能を示す冷却可否判定フラグF2をオンにし(F2=1)、この冷却可否判定フラグF2をECU70内のメモリ等に記憶しておく。その後、図5の処理を抜けて、図2の処理に戻る。一方、ステップS62において、上記(4)〜(6)の条件を一つでも満たさない場合には(S62:NO)、酸欠冷却処理ではDPF30の過昇温を防止できないとして、ステップS64で、冷却可否判定フラグF2をオフ(F2=0)にし、この冷却可否判定フラグF2をECU70内のメモリ等に記憶しておく。その後、図5の処理を抜けて、図2の処理に戻る。なお、図2のステップS60(=図5のS61〜64)を実行するECU70が本発明の「第二の可否判断手段」に相当する。
図2の説明に戻り、ステップS60の判定が終わると、処理をステップS70に進める。そして、ステップS70では、ステップS60の判定結果が、酸欠冷却実行可能、不能のどちらであるかを先の冷却可否判定フラグF2に基づいて判断する。ここで、冷却可否判定フラグF2がオンされており、酸欠冷却処理が実行可能である場合には、処理をステップS80に進める。
そして、ステップS80では、酸欠冷却処理として、DPF周辺の酸素濃度を減少させる酸欠操作を実行する。具体的には、主噴射に後続するポスト噴射を実行して、筒内における余剰酸素を消費させる。なお、ポスト噴射における燃焼噴射時期(以下「ポスト噴射時期」という)、燃料噴射量(以下「ポスト噴射量」という)は、例えば、エンジン10の運転状態等に応じて適宜定めたり、主噴射の燃料噴射時期や燃料噴射量を基準として定めたりすることができる。さらに、ステップS80では、酸欠冷却処理として、EGRバルブ42を開く、スロットル弁65を絞る、という操作の少なくとも一方を実行することで、エンジン10に取り込まれる新気量を減量させて、エンジン10に取り込まれる酸素量自体を減量させる。酸素量自体を減量させれば、排気される酸素量も減量され、DPF30周辺の酸素濃度を減少させることができるからである。なお、EGRバルブ42を全開すると、吸気系に再循環されるEGR量が増えるので、結果として新気量を減量させることができる。
このように、酸欠冷却処理を実行することにより、DPF30周辺の酸素濃度を減少させることができ、DPF30での発熱を抑えることができる。よって、DPF30の過昇温を防止できる。また、排気冷却処理でDPF30の過昇温を防止できなくても、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温を防止できる。なお、酸欠冷却処理時に制御されるポスト噴射時期、ポスト噴射量、EGRバルブ42の開度及びスロットル弁65の開度が本発明の「酸素調整パラメーター」に相当する。また、ステップS80を実行するECU70が本発明の「酸欠冷却手段」に相当する。ステップS80の処理を実行したら、ステップS10の処理に戻る。
一方、ステップS70において、冷却可否判定フラグF2がオフとされており、酸欠冷却処理が実行不能である場合には、処理をステップS90に進める。この場合、ポスト噴射を実行しても燃焼が効果的になされないために、効果的に酸素を消費できないことになる。また、EGRバルブ42やスロットル弁65を制御して新気量を減量させたとしても、筒内での燃焼が効果的になされないために、その新気に含まれている酸素が消費されない割合が多くなる。つまり、排気冷却処理だけでなく酸欠冷却処理によってもDPF30の過昇温を防止できないことになる。
そこで、ステップS90では、DPF30での熱を持ち去るために、DPF30へ流入する排気量を排気冷却処理における排気量よりもさらに増量させた増量強化冷却処理を実行する。具体的には、排気量調整パラメーター(スロットル弁65の開度、EGRバルブ42の開度)を制御して排気冷却処理時と同じように排気量を増量させつつ、さらに増量強化パラ−メーターとしてのエンジン回転数NE及び吸気圧を強制的に増加させることによって排気量をさらに増量させる。ここで、エンジン回転数NEは、例えば、主噴射における燃料噴射時期や燃料噴射量を制御することによって、増加させることができる。また、吸気圧は、圧縮機66を作動させて新気を圧縮させることによって、増加させることができる。そして、これらエンジン回転数NEや吸気圧をどの程度増加させるかは、上述の排気冷却可否判定で算出した必要排気量Q0と増量後排気量Quとの差分(図3のS31、S32)に応じて決定する。つまり、増量後排気量Quを基準として必要排気量Q0を確保できるように、エンジン回転数NEや吸気圧を増加させる。
この際、エンジン回転数NEを増加させることによってどの程度排気量を増量させることができるかを示したマップ及び吸気圧を増加させることによってどの程度排気量を増量させることができるかを示したマップを、予め実験等によって求めてECU70内のメモリ等に記憶しておく。そして、これらマップと必要排気量Q0及び増量後排気量Quとに基づいて、目標エンジン回転数NE及び目標吸気圧を決定し、その目標エンジン回転数NE、目標吸気圧となるように燃料噴射時期、燃料噴射量及び圧縮機66を制御する。
このように増量強化冷却処理を実行することによって、DPF30の過昇温を防止できる必要排気量Q0を確保することができるので、DPF30の過昇温を防止できる。ステップS90の処理を実行したら、ステップS10の処理に戻る。なお、ステップS90を実行するECU70が本発明の「増量強化冷却手段」に相当する。
ここで、図6は、増量強化冷却処理を実行する本発明の効果を説明するための図であり、同図(a)はエンジン回転数NE、アクセルペダルの操作量等に基づいて定まる車両の車速の時間変化を示した図、同図(b)は排気量の時間変化を示した図、同図(c)はDPF30周辺の酸素濃度の時間変化を示した図、同図(d)はDPF30の温度の時間変化を示した図である。そして、これら図6(a)〜(d)の時間軸は共通となっている。また、図6には、本発明と対比するために、従来発明の時間変化(一点鎖線)も示している。
図6(a)に示すように、車速は、時間t1〜t2の区間では一定レベル以上となっているが、時間t2〜t3の区間で減速して、時間t4の時点で冷却処理が必要であると判断されたとする(図2のS20)。そのため、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かが判断されることになるが、図6(b)に示すように、時間t4の時点で、現在の排気量(実線)は必要排気量Q0よりも少なく、かつ、増量後排気量Quも必要排気量Q0より少ないとする。したがって、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できないと判断されることになる(図2のS30、S40)。
この場合、従来では、冷却処理として酸欠冷却処理を実行することになるが、図6(c)に示すように、酸欠冷却処理を実行しても、燃料の着火性等の理由で、筒内で燃焼が効果的に行われず過昇温を防止できる酸素濃度レベルn0まで、酸素濃度を減少できない場合がある。この場合、DPF30の温度を効果的に減少させることができずに、図6(d)に示すように、酸欠冷却処理を実行する時間t4〜t5の区間で、DPF30の温度が、それが破損するおそれのある破損温度Txよりも大きくなってしまい、DPF30が過昇温となる。
これに対し、本発明では、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できないと判断された場合には、次に酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かが判断される(図2のS60)。そして、酸欠冷却処理でもDPF30の過昇温が防止できないと判断された場合(図2のS60、S70)には、排気冷却処理と酸欠冷却処理の代わりに、排気冷却処理における排気量よりもさらに排気量を増量させた増量強化冷却処理が実行される((図2のS90)。これによって、図6(b)に示すように、増量強化冷却処理を実行する時間t4〜t5の区間で、必要排気量Q0よりも多くの排気量を確保することができる。その結果、図6(d)に示すように、DPF30の温度を、破損温度Txより低くすることができ、DPF30の過昇温を防止できる。なお、増量強化冷却処理を実行したとしても、図6(c)に示すように、酸素濃度は、過昇温を防止できる酸素濃度レベルn0より依然として大きくなっているが、必要排気量Q0よりも多くの排気量を確保できているので、DPF30の過昇温を防止できると考えられる。
図2の説明に戻り、冷却処理として、排気冷却処理(S50)、酸欠冷却処理(S80)、増量強化冷却処理(S90)のいずれかが実行された場合には、その後、ステップS10の処理に戻ることになる。そして、ステップS10において、現在のDPF30の温度等を取得して、ステップS20において、取得した現在のDPF30の温度等に基づいて、冷却処理の実行が必要か否かを判断する。この際、実行中の冷却処理によって、DPF30の温度が低下した場合には、ステップS20において、冷却処理の実行は不要と判断されることになる。この場合、処理をステップS100に進め、ステップS100において、実行中の冷却処理の実行を終了し、図2のフローチャートの処理を終了する。これによって、冷却処理が実行されてDPF30の温度が減少したにもかかわらず、不必要に冷却処理が継続されるのを防止できる。なお、ステップS20を実行するECU70が本発明の「継続要否判断手段」に相当する。また、ステップS100を実行するECU70が本発明の「冷却処理終了手段」に相当する。
一方、ステップS20において、依然としてDPF30の温度が高くで、冷却処理の実行が必要であると判断された場合には、ステップS30以下の処理に進むことになる。この場合、冷却処理の実行が継続される。この際、実行中の冷却処理が排気冷却処理の場合には、再度、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かが判断される(S30)。そして、依然として排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できると判断された場合には(S40)、その排気冷却処理の実行が継続される(S50)。一方、その後のエンジン10の運転状態等の変化によって、排気冷却処理ではDPF30の過昇温が防止できないと判断された場合には(S40)、ステップS60以下の処理に進んで、排気冷却処理から、酸欠冷却処理と増量強化処理のいずれかに切り替わる(S80又はS90)。これによって、その後のエンジン10の運転状態等の変化によっても、DPF30の過昇温を防止できる。
また、実行中の冷却処理が酸欠冷却処理の場合には、再度、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かが判断される(S30)。そして、その後のエンジン10の運転状態等の変化によって、排気冷却処理でDPF30の過昇温が防止できると判断された場合には(S40)、酸欠冷却処理から排気冷却処理に切り替わる(S50)。これによって、酸欠冷却処理は強制的に酸欠状態にするのでドライバビリティに悪影響を及ぼすおそれがあるところ、優先して排気冷却処理が実行されるので、ドライバビリティが悪くなるのを防止できる。一方、依然として排気冷却処理ではDPF30の過昇温が防止できないと判断された場合には(S40)、次に、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かが再度判断される(S60)。そして、依然として過昇温が防止できると判断された場合には(S70)、酸欠冷却処理の実行が継続される(S80)。一方、その後のエンジン10の運転状態等の変化によって、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できないと判断された場合には(S70)、酸欠冷却処理から増量強化冷却処理に切り替わる(S90)。これによって、その後のエンジン10の運転状態等の変化によって、排気冷却処理、酸欠冷却処理のいずれによっても過昇温を防止できなくなったとしても、増量強化冷却処理でDPF30の過昇温を防止できる。
また、実行中の冷却処理が増量強化冷却処理の場合には、再度、排気冷却処理又は酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かが判断される(S30、S60)。そして、その後のエンジン10の運転状態等の変化によって、排気冷却処理又は酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できると判断された場合には、増量強化冷却処理から排気冷却処理又は酸欠冷却処理に切り替わる(S50又はS80)。なお、依然として排気冷却処理と酸欠冷却処理のいずれによってもDPF30の過昇温が防止できないと判断された場合には、増量強化冷却処理の実行が継続される(S90)。
以上説明したように、本実施形態では、排気冷却処理だけでなく、燃料の着火性等によって酸欠冷却処理によってもDPF30の過昇温を防止できない場合であっても、エンジン回転数NE等を強制的に増加させて必要排気量Q0を確保した増量強化冷却処理が実行されるので、DPF30の過昇温を防止できる。
また、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かの判断に関して、燃料のセタン価C等を考慮することによって、筒内での燃焼が効果的になされているか否かを判断することができる。そして、筒内での燃焼が効果的になされていない場合には、その燃焼で効果的に酸素を消費することができず、DPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができないと判断することができる。
(第二実施形態)
次に、本発明のDPFの過昇温防止装置の第二実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心にして説明する。なお、本実施形態は、請求項に係る発明のうち、排気冷却処理、酸欠冷却処理で過昇温が防止できない場合には補正酸欠冷却処理を実行する発明に係る実施形態である。
本実施形態に係る発明の構成は、図1に示す第一実施形態のそれと同じである。また、本実施形態におけるDPF30の過昇温を防止する過昇温防止処理は、図2のフローチャートにおいてステップS90が他の処理ステップに置き換わったものである。ここで、図7は、ステップS90に代えて実行される補正酸欠冷却処理の手順を示したフローチャートである。つまり、図2のステップS70において、酸欠冷却処理ではDPF30の過昇温を防止できないと判断した場合には、図7の補正酸欠冷却処理に移行することになる。以下、この補正酸欠冷却処理について説明するが、その前に、酸欠冷却処理時におけるポスト噴射について説明する。
第一実施形態でも説明したように、酸欠冷却処理では、DPF30周辺の酸素濃度を減少させるために、主噴射に後続するポスト噴射を実行して、筒内における余剰酸素を消費させる。ここで、図8(a)は、そのポスト噴射のポスト噴射時期やポスト噴射量を説明するための図である。なお、図8(a)の横軸は、噴射時期としてのクランク角CAを示しており、各噴射を示した山の大きさは、各噴射における燃料量を示している。図8(a)に示すように、上死点TDC付近で主噴射が実行される。なお、主噴射における燃焼を促進するために、主噴射に先立ってプレ噴射が実行される。そして、酸欠冷却処理時では、主噴射に後続してポスト噴射が実行される。このポスト噴射のポスト噴射時期x1、ポスト噴射量y1は、例えば、エンジン10の運転状態等に応じて適宜定められ、又は主噴射の燃料噴射時期や燃料噴射量を基準として定められる。また、酸欠冷却処理では、EGRバルブ42を開く、スロットル弁65を絞る、という操作の少なくとも一方を実行することで、エンジン10に取り込まれる新気量を減量させている。そのときのEGRバルブ42の開度をZ1、スロットル弁65の開度をW1とする。
このような前提のもと、図7の補正酸欠冷却処理に移行すると、先ずステップS111では、酸欠冷却処理を実行したときにおけるポスト噴射のポスト噴射時期x1を所定角度xだけ進角側に補正した補正ポスト噴射時期x2を算出する。
続くステップS112では、補正酸欠冷却処理として、主噴射に後続して、補正噴射時期x2で補正ポスト噴射を実行して、DPF30周辺の酸素濃度を減少させる。なお、このときの燃料噴射量は、酸欠冷却処理時におけるポスト噴射量y1とする。ここで、図8(b)は、補正ポスト噴射の噴射時期や噴射量を説明するための図である。図8(b)に示すように、補正ポスト噴射は、補正ポスト噴射時期x2で実行されているのがわかる。その補正ポスト噴射時期x2は、図8(a)のポスト噴射時期x1よりも主噴射よりの進角側となっており、それら差が所定角度xとなっている。このように、主噴射よりの補正ポスト噴射時期x2で実行される補正ポスト噴射は、通常のポスト噴射実行時よりも筒内圧が高い状態で燃焼がなされると考えられる。そのため、通常のポスト噴射実行時よりも、筒内で燃料が効果的に燃焼し多くの酸素を消費させることができ、ひいてはDPF30周辺の酸素濃度をより減少させることができる。
一方で、ポスト噴射の噴射時期を一定角度進角側に補正したとしても、燃料の着火性やエンジン10の運転状態によっては、依然として筒内での燃焼が効果的になされず、DPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができない場合もありうる。そこで、続くステップ113では、補正ポスト噴射によって、筒内での酸素の消費が十分なされるか否かを判断する。具体的には、例えば、排気温センサ61が検出する排気温や、筒内圧センサ66が検出する筒内圧に基づいて判断する。つまり、補正ポスト噴射で燃焼が効果的になされた場合には、排気温が高くなるため、その排気温が所定値以上であれば、燃焼が効果的になされたと判断することができる。また、補正ポスト噴射時における筒内圧が高ければ、その補正ポスト噴射における燃焼は効果的になされたと判断することができる。そして、燃焼が効果的になされていれば、酸素消費量が十分であると判断することができる。なお、酸素消費量が十分であるかは、DPF30の過昇温を防止できる酸素濃度まで減少できるか否かの観点で判断する。
そして、ステップS113において、補正ポスト噴射における酸素消費量が十分であると判断した場合には(S113:YES)、図7の補正酸欠冷却処理を抜けて、図2の処理に戻る。この場合、その補正ポスト噴射による補正酸欠冷却処理が実行されることになる。
一方、ステップS113において、補正ポスト噴射における酸素消費量が不十分であると判断した場合には(S113:NO)、ステップS114において、さらに噴射時期を所定角度進角側に補正するとともに、補正ポスト噴射のポスト噴射量y1を、所定量だけ増量させた補正ポスト噴射量y2に補正する。この際、増量させる量は、例えば、元のポスト噴射量y1の所定%としたり、元のポスト噴射量y1にかかわらず所定絶対量としたりする。これによって、図8(c)に示すように、補正ポスト噴射の燃焼規模が増大し、酸素消費量も増量する。
さらに、ステップS114では、スロットル弁65の開度を酸欠冷却処理時の開度W1よりも大きな開度W2に補正する。これによって、新気量が酸欠冷却処理時のときよりも増量させるので、筒内での燃焼を促進することができる。その結果、新気に含まれている酸素の消費も促進でき、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができる。
さらに、ステップS114では、EGRバルブ42の開度を酸欠冷却処理時の開度Z1よりも小さな開度Z2に補正する。これによって、EGR量を酸欠冷却処理時のときよりも減量させて新気量を増量させることができるので、筒内での燃焼を促進することができる。その結果、新気に含まれている酸素の消費も促進でき、DPF周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができる。
なお、このときのスロットル弁65の開度W2、EGRバルブ42の開度Z2は、例えば、予め定められた開度とし、または、元の開度W1、Z1を基準として決定してもよい。
このように、ステップS114では、補正ポスト噴射時期x2だけでなく、補正ポスト噴射量y2、スロットル弁の開度W2、EGRバルブ42の開度Z2に補正して、補正ポスト噴射を実行する。したがって、筒内での燃焼を促進させることができ、DPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができる。
その後、ステップS113の処理に戻り、再度、排気温Teや筒内圧等に基づいて、補正ポスト噴射における酸素消費量が十分であるか否かを判断する(S113)。そして、十分である場合には(S113:YES)、図7の補正酸欠冷却処理を抜けて図2の処理に戻る。
一方、依然として、不十分である場合には(S113:NO)、再度、補正ポスト噴射量y2、スロットル弁の開度W2、EGRバルブ42の開度Z2を補正する。なお、その補正量は、絶対量として予め定めておいたり、元の値y2、W2、Z2の所定%としたりする。このように、ステップS113、S114の処理をループすることにより、最終的に、DPF30の過昇温を防止できる酸素濃度レベルn0まで減少させることができる。その結果、DPF30の過昇温を防止できる。なお、ステップS111〜S114を実行するECU70が本発明の「補正酸欠冷却手段」に相当する。
ここで、図9は、補正酸欠冷却処理を実行する本発明の効果を説明するための図であり、同図(a)はエンジン回転数NE、アクセルペダルの操作量等に基づいて定まる車両の車速の時間変化を示した図、同図(b)は排気量の時間変化を示した図、同図(c)はDPF30周辺の酸素濃度の時間変化を示した図、同図(d)はDPF30の温度の時間変化を示した図である。そして、これら図9(a)〜(d)の時間軸は共通となっている。また、図9には、本発明と対比するために、従来発明の時間変化(一点鎖線)も示している。
先に説明した図6と同じように、図9の時間t4の時点で冷却処理の実行が必要であると判断されて、排気冷却処理、酸欠冷却処理のいずれによってもDPF30の過昇温を防止できないと判断された場合には、補正酸欠冷却処理が実行される(図8)。これにより、図9(c)に示すように、補正酸欠冷却処理が実行される時間t4〜t5の区間で、DPF30周辺の酸素濃度をDPF30の過昇温を防止できる酸素濃度レベルn0より下のレベルまで減少させることができる。その結果、図9(d)に示すように、DPF30の温度を破損温度Txより低くすることができるので、DPF30の過昇温を防止できる。
なお、従来では、排気量は必要排気量Q0より小さく、酸素濃度はDPF30の過昇温を防止できる酸素濃度レベルn0より大きいので、排気冷却処理、酸欠冷却処理のいずれを実行しても、DPF30の温度を効果的に減少させることができない。そのため、図9(d)に示すように、DPF30の温度が破損温度Txより高くなってしまう。
以上説明したように、本実施形態では、排気冷却処理、酸欠冷却処理のいずれによってもDPF30の過昇温を防止できない場合であっても、酸素調整パラメーター(ポスト噴射時期、ポスト噴射量、スロットル弁65の開度、EGRバルブ42の開度)の制御量を、酸欠冷却処理時における制御量から補正した補正酸欠冷却処理が実行される。したがって、燃料の着火性等にかかわらず、DPF30周辺の酸素濃度を効果的に減少させることができ、DPF30の過昇温を防止できる。
なお、本発明のDPFの過昇温防止装置は上記第一、第二実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で種々変形することができる。例えば、上記実施形態では、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かを、燃料のセタン価C等を考慮することによって、筒内での燃焼が効果的になされているか否かの観点で判断していた。しかしこれに限定されず、例えば、酸欠冷却処理を仮実行し、そのときの筒内やDPF30周辺の酸素濃度を直接計測して、その酸素濃度の大きさに基づいて、酸欠冷却処理でDPF30の過昇温が防止できるか否かを判断してもよい。ただしこの場合、上記実施形態のように、筒内での燃焼が効果的になされているか否かは判断していないので、新気量やポスト噴射等をどのように補正すれば、酸素濃度を効果的に減少させることができるかの判断がしにくいという欠点がある。
また、上記第二実施形態では、図7の補正酸欠冷却処理において、補正ポスト噴射として、最初にポスト噴射時期を所定時期xだけ補正し、その後、燃焼状態に応じて、ポスト噴射量やスロットル弁65の開度、EGRバルブ42の開度を適宜調整していた。しかし、DPF30の過昇温を防止できる酸素濃度レベルn0より下のレベルの酸素濃度に減少できるのであれば、これら酸素調整パラメーター(ポスト噴射時期、ポスト噴射量、スロットル弁65の開度、EGRバルブ42の開度)をどのように補正してもよい。